(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072917
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】培養食肉複合体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/00 20160101AFI20220510BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20220510BHJP
A23J 3/04 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
A23L13/00 Z
C12N5/077
A23J3/04 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182620
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】池田 大次
(72)【発明者】
【氏名】坂田 祐未
(72)【発明者】
【氏名】綿部 智一
(72)【発明者】
【氏名】内村 誠一
(72)【発明者】
【氏名】中島 賢則
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 嗣夫
【テーマコード(参考)】
4B042
4B065
【Fターム(参考)】
4B042AC10
4B042AD36
4B042AE03
4B042AK04
4B042AK06
4B042AK07
4B042AK10
4B042AP27
4B065AA90X
4B065BC22
4B065BC41
4B065CA41
(57)【要約】
【課題】動物細胞を効率よく培養して、均一な形状の塊肉を製造する方法を提供する。
【解決手段】本開示の培養食肉複合体は、中空糸膜、又はその分解物或いは溶解物と、前記中空糸膜、又はその分解物或いは溶解物に沿って存在する動物の細胞群を含む培養食肉と、を含む。
前記培養食肉複合体は、中空糸膜を備えた膜モジュールの、中空糸内部空間と中空糸外部空間の一方に動物細胞懸濁液を供給し、他の一方に培養液を供給して、前記中空糸膜の表面に沿って前記懸濁液に含まれる動物細胞を増殖させることにより製造することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜又はその分解物或いは溶解物と、
前記中空糸膜又はその分解物或いは溶解物に沿って存在する動物の細胞群を含む培養食肉と、
を含む培養食肉複合体。
【請求項2】
前記中空糸膜が、タンパク質、脂質、炭水化物、ポリエーテル、及びポリエステルから選択される少なくとも1種を主成分とする中空糸膜又はその分解物或いは溶解物である、請求項1に記載の培養食肉複合体。
【請求項3】
前記中空糸膜又はその分解物或いは溶解物が、可食性の、中空糸膜又はその分解物或いは溶解物である、請求項1又は2に記載の培養食肉複合体。
【請求項4】
中空糸膜を備えた膜モジュールの、中空糸内部空間と中空糸外部空間の一方に動物細胞懸濁液を供給し、他の一方に培養液を供給して、前記中空糸膜の表面に沿って前記懸濁液に含まれる動物細胞を増殖させることにより、請求項1~3の何れか1項に記載の培養食肉複合体を製造する、培養食肉複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、培養食肉複合体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、世界的な人口増加が進むとともに、人々の食習慣が肉食化することにより、食肉の需要が増大している。そこで、畜産の効率化や、栽培漁業の拡充など、供給力を向上させるための方法が開発されている。しかし、需要の増加に、供給が追いついていないのが現状である。
【0003】
また、家畜を飼育するには、膨大な時間、広大な土地、飼料、水等が必要であり、効率が悪い。更に、食肉用に飼育されている家畜の糞尿から発生する大量のメタンガスは、地球温暖化に悪影響を与えていることも問題である。さらにまた、人体に危険を及ぼすウィルスが家畜に感染するリスクや、精肉段階で人体に危険を及ぼすバクテリアによって食肉が汚染されるリスクがあり、衛生面で問題がある。
【0004】
前記問題を解決する方法として、家畜等から採取した細胞を工業的に培養して食肉を製造する方法が知られている。非特許文献1には、培養皿のなかで細胞を培養する方法が記載されている。また、特許文献1には、培養液を充填したタンクの中で、撹拌しながら細胞を培養する方法(=タンク撹拌培養法)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】MeatScience, Volume 92, Issue 3, November 2012, Pages,297-301, MarkJPost.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、培養皿で細胞を培養する方法では、培養皿の底面を足場として利用し、前記底面に細胞が接着した状態で増殖するため、大量に細胞を培養するには、広い培養面積が必要であり、培養効率が低いことが問題であった。また、細胞同士が二次元方向に結合しながら増殖することはできるが、三次元方向に結合しながら増殖することは困難である。そのため、前記方法ではミンチ状の食肉を製造することはできるが、塊肉を製造することはできなかった。
一方、タンク撹拌培養法では、タンク内に浮遊した状態で細胞を培養するため、二次元方向のみならず三次元方向にも細胞同士が結合しながら増殖することができる。しかし、増殖した細胞の凝集体サイズを制御することは困難であった。また、撹拌により細胞が損傷し易いことも問題であった。更にまた、大量に培養するためには大型の培養タンクと大量の培養液が必要であり、コストが嵩むことも問題であった。
すなわち、従来の培養法では、細胞を効率よく培養して、均一な形状の塊肉を製造することは困難であった。
【0008】
従って、本開示の目的は、動物細胞を効率よく培養して、均一な形状の塊肉を製造する方法を提供することにある。
本開示の他の目的は、前記方法により製造された、均一な形状の塊肉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記知見を得た。すなわち、
1.中空糸膜の比表面積は非常に大きく、これを足場材として利用すると、小型のモジュールであっても、細胞の培養面積を十分に確保することができること
2.小型のモジュール内で培養することにより、少量の培養液で培養することが可能となり培養液にかかるコストを削減することができること
3.中空糸膜をモジュール内に格納した状態で培養することで、増殖した細胞の凝集体サイズを容易に制御することができる
4.培養される細胞と培養液とは、膜モジュール内において、中空糸膜で隔てられた空間に存在し、中空糸膜の孔径等を調整することで、細胞の増殖・分化に必要な成分を、培養液側から細胞側に供給し、細胞の増殖・分化に不要な成分は、細胞側から培養液側に排除することができるので、増殖・分化に適した環境を維持しつつ、細胞を培養することができる
5.可食性中空糸膜、又は分解物が可食性である中空糸膜、又は溶解物が可食性である中空糸膜を使用すれば、培養後は、モジュール内から培養細胞を中空糸膜又はその分解物或いは溶解物ごと取り出して、そのまま食用とすることができる
本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0010】
すなわち、本開示は、中空糸膜又はその分解物或いは溶解物と、
前記中空糸膜又はその分解物或いは溶解物に沿って存在する動物の細胞群を含む培養食肉と、
を含む培養食肉複合体を提供する。
【0011】
本開示は、また、前記中空糸膜が、タンパク質、脂質、炭水化物、ポリエーテル、及びポリエステルから選択される少なくとも1種を主成分とする中空糸膜又はその分解物或いは溶解物である、前記培養食肉複合体を提供する。
【0012】
本開示は、また、前記中空糸膜又はその分解物或いは溶解物が、可食性の、中空糸膜又はその分解物或いは溶解物である、前記培養食肉複合体を提供する。
【0013】
本開示は、また、中空糸膜を備えた膜モジュールの、中空糸内部空間と中空糸外部空間の一方に動物細胞懸濁液を供給し、他の一方に培養液を供給して、前記中空糸膜の表面に沿って前記懸濁液に含まれる動物細胞を増殖させることにより、前記培養食肉複合体を製造する、培養食肉複合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本開示の培養食肉複合体の製造方法によれば、動物細胞を効率よく培養して、均一な形状の培養食肉複合体を製造することができる。また、前記方法では、小型のモジュールを使用して、効率よく培養食肉複合体を製造することができ、従来の家畜を飼育する場合のような、膨大な時間や広大な土地を必要としない。メタンガスなどの温室効果ガスを発生することもない。そして、前記方法で得られる培養食肉複合体は、衛生的である。更に、前記方法で得られる培養食肉複合体は、ミンチ状ではなく塊肉状であり、肉の質感や食感が良好に再現される。
【0015】
前記方法で得られる培養食肉複合体は、中空糸膜が非可食性である場合は、培養食肉複合体から中空糸膜を除去した後のものを食用とすることができる。
一方、中空糸膜、その分解物、及びその溶解物が可食性である場合は、培養食肉複合体をそのまま食用とすることができる。そして、中空糸膜の構成材料を選択すれば、培養食肉に付加価値を付与することができる。例えば、コラーゲンで形成された可食性中空糸膜を使用すれば、コラーゲン含有の培養食肉複合体が得られるが、このような培養食肉複合体には、美肌効果や骨密度向上効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】膜モジュール内に導入された細胞が、足場材となる中空糸膜の表面に接着し、増殖する様子を説明する模式図(断面図)である。
【
図2】膜モジュールを用いて、培養食肉複合体を繰り返し製造する方法の一例を示す模式図である。
【
図3】膜モジュールの一例を示す模式図(断面図)である。
【
図4】膜モジュールの他の一例を示す模式図(断面図)である。
【
図5】膜モジュールの他の一例を示す模式図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[培養食肉複合体]
本開示の培養食肉複合体は、中空糸膜又はその分解物或いは溶解物と、前記中空糸膜、又はその分解物或いは溶解物に沿って(若しくは、前記中空糸膜又はその分解物或いは溶解物の付近に)存在する動物の細胞群を含む培養食肉と、を含む。
【0018】
前記培養食肉複合体において、中空糸膜は、その一部又は全部が分解或いは溶解していてもよい。中空糸膜は、細胞との親和性に優れる材料で形成されていることが好ましく、特に親水性に優れた材料で形成されていることが好ましい。若しくは、親水性に劣った材料で形成されている場合には、その表面が親水化処理されたものであることが好ましい。
【0019】
前記中空糸膜又はその分解物或いは溶解物は、可食性であることが好ましい。従って、前記中空糸膜は、可食性の物質で形成された中空糸膜が好ましい。前記分解物は、中空糸膜の分解物であって、可食性の物質で形成されたものが好ましい。前記溶解物は、中空糸膜の溶解物であって、可食性の物質で形成されたものが好ましい。尚、分解物や溶解物が可食性であれば、分解又は溶解前の中空糸膜は非可食性であってもよいが、分解又は溶解前の中空糸膜も可食性であることが特に好ましい。
【0020】
尚、本明細書において「可食性」とは人の体内に摂取した場合に人に害を及ぼさないことであり、必ずしも消化されることを要しない。「可食性の物質」とは、例えば、医薬品若しくは医薬品添加物として経口投与が認められている物質、及び/又は食品若しくは食品添加物として認められている物質であることが好ましい。
【0021】
前記培養食肉は、動物の細胞群を少なくとも含む。前記細胞群は組織体を形成していてもよい。すなわち、前記培養食肉は、動物の筋組織を含有していてもよく、更に、血管、脂肪組織等を含有していてもよい。
【0022】
前記培養食肉複合体に中空糸膜が分解或いは溶解していない状態で含まれる場合、前記培養食肉は、中空糸膜の表面に接着した状態で存在することが好ましい。
【0023】
前記培養食肉複合体全量において、[中空糸膜又はその分解物或いは溶解物]と[動物の細胞群を含む培養食肉]の合計の占める割合は、例えば50重量%以上、好ましくは60重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、最も好ましくは80重量%以上、とりわけ好ましくは90重量%以上である。
【0024】
前記培養食肉複合体において、[中空糸膜又はその分解物或いは溶解物]と、[動物の細胞群を含む培養食肉]の占める割合(前者/後者;重量比)は、例えば3/97~50/50、好ましくは5/95~40/65、特に好ましくは10/90~30/70である。
【0025】
[培養食肉複合体の製造方法]
前記培養食肉複合体は、例えば、中空糸膜を備えた膜モジュールの、中空糸内部空間(ICS; Intracapillary Space)と中空糸外部空間(ECS; Extracapillary Space)の一方に動物細胞懸濁液を供給し、他の一方に培養液を供給して、前記懸濁液に含まれる動物細胞に前記中空糸膜を足場材として利用させ、前記中空糸膜の表面に沿って動物細胞を増殖させることにより製造することができる。
【0026】
前記方法では、ICSとECSの一方に動物細胞懸濁液が供給され、他方に培養液が供給される。これにより、細胞が増殖する空間と、培養液が循環する空間を、半透膜機能を有する中空糸膜により隔てることができ、培養液が循環する空間から、細胞が増殖する空間へ、細胞の増殖・分化に必要な成分を供給することができる。そのため、細胞が増殖する空間を、容易に、細胞が分化・増殖し易い環境に整えることができる。
【0027】
前記方法においては、なかでも、ECSに動物細胞懸濁液を供給し、ECSにおいて、細胞を培養することが好ましい。
【0028】
また、培養液はICSを循環させることが好ましい。尚、培養液の循環は、ICSを通過させた培養液を回収して再びICSを通過させてもよいし、ICSを通過させた培養液は回収せず廃棄して、新たな培養液にICSを通過させてもよい。さらに、培養液中に細胞の増殖・分化に不要な成分が含まれる場合は、不要な成分が膜を透過できないように中空糸膜の孔径等を調整することで、予め培養液を精製する手間を省くことができる。
【0029】
図1で示すように、ECS6に動物細胞懸濁液が供給されると、動物細胞懸濁液中の動物細胞13は、中空糸膜2の表面を足場材として利用してこれに接着する。そして、中空糸膜2の表面に接着した動物細胞13は増殖して細胞群(若しくは、凝集体)を形成する。細胞群を構成する細胞は、その後、互いに結合して組織体を形成する。
【0030】
筋細胞を含む動物細胞懸濁液を培養すれば、筋細胞群が形成され、筋組織が形成される。例えば、血管内皮細胞を含む動物細胞懸濁液を培養すれば血管が形成され、脂肪細胞を含む動物細胞懸濁液を培養すれば脂肪組織が形成される。そのため、動物細胞懸濁液中の細胞の種類を選択すれば、所望の性状(霜降り、赤身等)を有する培養食肉を製造することができる。
【0031】
動物細胞の培養温度は、細胞の増殖・分化が活発に行われる点において、10~50℃が好ましく、30~40℃が特に好ましい。
【0032】
動物細胞の培養が終了した後は、熟成工程を設けても良い。より詳細には、0~60℃の温度で、1時間~336時間程度熟成させてもよい。
【0033】
さらに、コラーゲンは加熱処理を施すことによってゼラチン化する性質を有する化合物である。そのため、コラーゲンで構成された中空糸膜を使用して得られた培養食肉複合体を、加熱処理に付してコラーゲンをゼラチン化してもよい。この方法によれば、ゼラチンを含む培養食肉複合体が得られるが、ゼラチンはコラーゲンより粘度が低いので、培養食肉複合体から容易に除去することができ、中空糸膜由来の成分を含まない培養食肉を製造することができる。
【0034】
本開示の培養食肉複合体の製造方法によれば、例えば、
図2で示すように、ハウジング3に中空糸膜2を格納してなる膜モジュール1に、動物細胞懸濁液と培養液を供給して、動物細胞を増殖・分化させ、その後、必要に応じて熟成すれば、ハウジング3内に培養食肉複合体12が形成される。形成された培養食肉複合体12をハウジング3から取り出した後は、ハウジング3内に新たな中空糸膜2を格納し、動物細胞懸濁液、培養液を供給することで、培養食肉複合体2を繰り返し製造することができる。
【0035】
また、前記製造方法によれば、膜モジュール1内において細胞を培養するので、均一な形状の培養食肉複合体12を製造することができる。
【0036】
本開示の培養食肉複合体の製造方法によれば、中空糸膜を構成する材料を選択すれば、中空糸膜の溶解物を含む培養食肉複合体(=中空糸膜が溶解物した状態で含まれる培養食肉複合体)、或いは中空糸膜の分解物を含む培養食肉複合体(=中空糸膜が分解した状態で含まれる培養食肉複合体)を製造することができる。
例えば、細胞培養中は中空糸膜の形状を維持できる程度の水溶性を有する材料で構成された中空糸膜を使用すれば、含有する中空糸膜の一部又は全部が水に溶解してなる培養食肉複合体が得られる。
例えば、特定の刺激を付与することにより不溶性から水溶性に変換可能な材料で構成された中空糸膜を使用すれば、中空糸膜を不溶性に保持しつつ細胞を培養し、細胞培養終了後は、中空糸膜を不溶性から水溶性へ変換することで、含有する中空糸膜の一部又は全部が水に溶解してなる培養食肉複合体が得られる。
例えば、特定の刺激を付与することにより分解する性質を有する材料で構成された中空糸膜を使用すれば、中空糸膜の形状を維持した状態で細胞を培養し、細胞培養終了後は、中空糸膜を分解することで、含有する中空糸膜の一部又は全部が分解してなる培養食肉複合体が得られる。
前記特定の刺激方法としては、例えば、分解酵素処理(例えば、加水分解酵素処理)、超音波処理、加圧処理、加熱処理等が挙げられる。前記分解酵素処理により中空糸膜を分解する方法としては、ICSに分解酵素を供給する方法が挙げられる。
【0037】
(膜モジュール)
前記膜モジュールは、細胞が足場材として利用する中空糸膜を備える。
【0038】
前記膜モジュールは、中空糸膜がハウジングに格納された構成を有することが好ましい。前記ハウジングの形状は、ECSに液体(例えば、動物細胞懸濁液又は培養液)を供給すれば、ECSを前記液体で満たすことができる形状であれば特に制限がないが、例えば円筒形である。
【0039】
膜モジュール1(実施形態1)は、
図3に示すように、ハウジング3の長さとほぼ同じ長さの中空糸膜2の複数本が束ねられた状態で、ハウジング3に格納された構成を有する。
【0040】
ハウジング3の側面には導入口4と排出口5とを備える。導入口と排出口は、ECS6を介して連続している。
【0041】
ハウジング3の内部に中空糸膜2の束が挿入せられ、ハウジング3の両端には、開口部を備えたキャップ7を備える。開口部の一方を第1開口部8、他方を第2開口部9と称する。
【0042】
中空糸膜2の束は、両端部において、隣接する中空糸膜2の間、及び中空糸膜2の束とハウジング3の側面との間が封止材10により封止されており、第1開口部8と第2開口部9は、ICS11を介して連続している。
【0043】
膜モジュール1’(実施形態2)は、
図4に示すように、ハウジング3’長さより長い中空糸膜2が、折りたたまれた状態でハウジング3’に格納された構成を有する。
【0044】
膜モジュール1”(実施形態3)は、
図5に示すように、ハウジング3”長さより長い中空糸膜2が折りたたまれた状態でハウジング3”に格納された構成を有する。
【0045】
前記中空糸膜は、半透膜機能を有する材料からなるストロー状の分離膜であり、動物細胞懸濁液や培養液に含まれる分散媒や分散質中の一部の成分は透過できるが、動物細胞は透過できない。尚、培養する動物細胞の種類によって通過できる成分を選択することが好ましく、前記中空糸膜を構成する材料や、前記中空糸膜の細孔径を調整することにより、通過できる成分をコントロールすることができる。
【0046】
前記中空糸膜の内径は、例えば100~1000μm、好ましくは150~500μmである。前記中空糸膜の膜厚は、例えば10~150μm、好ましくは20~100μmである。前記中空糸膜の孔径は、例えば0.001~0.5μmである。
【0047】
前記中空糸膜の膜透過性は、例えば10~10000L/(m2・hr・0.1MPa)、好ましくは100~7000L/(m2・hr・0.1MPa)である。尚、前記膜透過性は、室温(25℃)、常圧において、中空糸膜の一端側を閉じた状態で、他端側から純水を0.1MPaで供給し、一定時間に中空糸膜を透過する純水の容量を、採取時間(h)と中空糸膜内表面の膜面積(m2)で除することにより求められる。
【0048】
前記中空糸膜は、生物学的足場材として機能することから、動物細胞との親和性に優れる材料で形成されていることが好ましく、特に親水性に優れた材料で形成されていることが好ましい。前記中空糸膜が親水性に劣った材料で形成されている場合には、その表面が親水化処理されたものであることが好ましい。
【0049】
前記中空糸膜としては、なかでも可食性中空糸膜であること、すなわち、可食性の物質で形成された中空糸膜であることが好ましい。可食性中空糸膜を使用すれば、得られた培養食肉複合体は、中空糸膜を除去することなくそのまま食することができるためである。
【0050】
前記中空糸膜を構成する材料としては、例えば、タンパク質、脂質、炭水化物、ポリエーテル、及びポリエステルから選択される少なくとも1種である。
【0051】
前記脂質としては、例えば、パラフィン、シュラック、ミツロウ、カルナバロウ、ラノリン、キャンデリラロウ等が挙げられる。
【0052】
前記ポリエーテルとしては、例えば、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0053】
前記ポリエステルとしては、例えば、ポリグリコール酸、グリコール酸コポリマー等が挙げられる。
【0054】
前記可食性中空糸膜を構成する材料としては、なかでも、繊維状タンパク質、多糖類、、複合糖質、及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0055】
前記繊維状タンパク質又はその誘導体としては、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ケラチン、ミオシン、エラスチン、ゼラチン、グルテン等が挙げられる。
【0056】
前記多糖類又はその誘導体としては、例えば、セルロース、セルロース誘導体(例えば、酢酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、バクテリアセルロース、でんぷん、グリコーゲン、キチン、キトサン、寒天、グルコマンナン、キシロース、オリゴ糖、フコイダン、プルラン、グアーガム、キサンタンガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩、デキストリン等が挙げられる。
【0057】
前記複合糖質又はその誘導体としては、例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、プロテオグリカン、ペクチン等が挙げられる。
【0058】
また、前記可食性中空糸膜は、細胞培養終了後に、可食性の分解物或いは溶解物となるような材料で構成されており、培養食肉複合体中において、可食性中空糸膜の一部又は全部が可食性の分解物或いは溶解物に変化して、中空糸膜の形状を保持していなくてもよい。
【0059】
培養食肉複合体中において、少なくとも一部が可食性の分解物或いは溶解物となるような可食性中空糸膜の形成材料には、水溶性を示す材料、特定の刺激を付与することにより不溶性-水溶性を変換可能な材料、或いは特定の刺激を付与することにより分解する材料等が含まれる。
【0060】
例えば、酢酸セルロースはアセチル総置換度によって水への溶解性が変化し、アセチル総置換度が0.5~1.5程度である酢酸セルロースは適度な水溶性を有する。このような酢酸セルロースで形成された可食性中空糸膜を使用して細胞を培養した場合、経時で中空糸膜が水に溶解するので、含有する中空糸膜の一部又は全部が溶解した培養食肉複合体が得られる。
【0061】
また、コラーゲンは水溶液のpHによって溶解性が変化する。そして、コラーゲンは、pH7以上の水溶液(中性又はアルカリ性の水溶液)に対しては不溶であり、pH7未満の水溶液(酸性の水溶液)には可溶である。そのため、コラーゲンで構成された中空糸膜を使用して、細胞培養中は膜モジュール内に供給する水溶液のpHを7以上として中空糸膜の形状を保持し、細胞培養終了後は、膜モジュール内に供給する水溶液のpHを7未満に変更すれば、中空糸膜を構成するコラーゲンの一部又は全部が水溶液に溶解してなる培養食肉複合体が得られる。
【0062】
更にまた、多糖類又はその誘導体(例えば、セルロース、セルロース誘導体、キチン、コラーゲン等)で構成された中空糸膜は、分解酵素(例えば、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キチナーゼ、コラゲナーゼ等の加水分解酵素)で処理することにより分解することができる。そのため、前記多糖類又はその誘導体で構成された中空糸膜を使用して細胞培養を行い、細胞培養終了後にICSに分解酵素(例えば、加水分解酵素)を供給して中空糸膜を分解すれば、含有する中空糸膜の一部又は全部が分解してなる培養食肉複合体が得られる。
【0063】
(動物細胞懸濁液)
前記動物細胞懸濁液は、動物細胞が分散媒中に懸濁したものである。前記動物細胞としては、例えば、動物の、筋サテライト細胞や筋芽細胞等の筋細胞、間葉系幹細胞、脂肪細胞、繊維芽細胞、血管内皮細胞等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて含有することができる。前記動物細胞としては、培養食肉複合体に求められる性状(霜降り、赤身等)に応じて、適宜選択することができる。
【0064】
前記動物には、陸生動物と水生動物が含まれる。尚、前記動物にはヒトは含まれない。前記水生動物には海産動物、及び淡水産動物が含まれる。前記陸生動物としては、例えば、ウシ、ブタ、ニワトリ等の家畜(家禽類を含む)が挙げられる。前記水生動物としては、例えば、魚類、甲殻類、軟体類、貝類等が挙げられる。
【0065】
(培養液)
前記培養液は、培養しようとする動物細胞の生育に必要な成分を含有するものであれば、特に限定されない。前記細胞の生育に必要な成分としては、種々の有機物、無機物、及び酸素などの溶存ガスを含む。前記培養液としては、例えば、ダルベッコMEM、RPMI1640、ハムF12等の汎用の液体培地に、血清、各種増殖因子、分化誘導因子などが添加されたものを使用することができる。
【0066】
以上、本開示の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 膜モジュール
1’ 膜モジュール
1” 膜モジュール
2 中空糸膜
3 ハウジング
3’ ハウジング
3” ハウジング
4 ECSの導入口
5 ECSの排出口
6 ECS
7 ハウジングのキャップ
8 第1開口部
9 第2開口部
10 封止材
11 ICS
12 培養食肉複合体
13 培養しようとする動物細胞