(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072974
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】転造加工装置
(51)【国際特許分類】
B21H 1/00 20060101AFI20220510BHJP
B21H 3/02 20060101ALN20220510BHJP
【FI】
B21H1/00 A
B21H3/02
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182703
(22)【出願日】2020-10-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】516083472
【氏名又は名称】株式会社三秀
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】谷口 正樹
(57)【要約】
【課題】ダイスを長期にわたって使用できる転造加工装置を提供する。
【解決手段】転造加工装置1は、一対のダイス11,21と、一対のダイス11,21を保持する基台10と、を備え、一対のダイス11,21のうち、一方のダイス11には、挟圧方向に交わる裏面が形成されており、この裏面と、別体であるライナー40に形成された受け面41との間に、イソシアネート成分とポリアミン成分とを含む樹脂からなるシート部30が介在している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを少なくとも一対のダイスによって挟圧して塑性変形させる転造加工装置であって、
基台と、
前記一対のダイスと、
を備え、前記基台に前記一対のダイスが取り付けられて、前記基台に前記一対のダイスが保持されており、
前記一対のダイスのうち、少なくとも一方には、前記ワークを挟圧する方向である挟圧方向に交わる第一の面が形成されており、
前記基台には、前記一対のダイスが保持された保持状態で前記第一の面に対向する第二の面が形成されており、
前記保持状態で、第一の面と前記第二の面との間には、イソシアネート成分とポリアミン成分とを含む樹脂からなるシート部が介在してなり、
前記挟圧方向に交わる方向に沿って一対のダイスが互いに相対移動する
ことを特徴とする転造加工装置。
【請求項2】
前記シート部のシート厚が2mm以上4mm以下である
請求項2に記載の転造加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを塑性変形して転造加工する転造加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、高硬度の材料からなるボルトや雄ネジを塑性変形することによって加工する加工装置が開示されている。
【0003】
かかる構成にあっては、ダイスに亀裂や局部破壊が生じにくい構成を採用しており、ダイスの長寿命化を図っている。
【0004】
また、特に近年、自動車等の軽量化が進んでおり、それらに用いられるボルトとしては、硬度が高い熱処理ボルトの需要が増加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、こうした高硬度のボルトを従来のダイスで製造すると、ダイスにチッピング(欠け)が発生してしまったり、加工歯が変形してしまったりする不具合が早期に発生するため、ダイスの寿命が非常に短くなるという問題が生じる。
【0007】
本発明は、高硬度の母材を塑性変形加工してもダイスを長期にわたって使用できる転造加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ワークを少なくとも一対のダイスによって挟圧して塑性変形させる転造加工装置であって、基台と、前記一対のダイスと、を備え、前記基台に前記一対のダイスが取り付けられて、前記基台に前記一対のダイスが保持されており、前記一対のダイスのうち、少なくとも一方には、前記ワークを挟圧する方向である挟圧方向に交わる第一の面が形成されており、前記基台には、前記一対のダイスが保持された保持状態で前記第一の面に対向する第二の面が形成されており、前記保持状態で、第一の面と前記第二の面との間には、イソシアネート成分とポリアミン成分とを含む樹脂からなるシート部が介在してなり、前記挟圧方向に交わる方向に沿って一対のダイスが互いに相対移動することを特徴とする転造加工装置である。
【0009】
かかる構成にあっては、ボルト等のワークを転造加工するにあたってダイスにかかる大きな圧をイソシアネート成分とポリアミン成分とを含む樹脂からなる、いわゆるポリウレア樹脂のシート部が受けることによって加工時に発生する衝撃を吸収する。具体的には、ポリウレア樹脂は耐衝撃性に優れ、ダイスにかかる圧を好適に分散してダイスのチッピング(欠け)を抑制する。
【0010】
ここで、転造加工における一対のダイスにあっては、ワークを挟圧する方向に多大な負荷が付与された状態で固定側ダイスに対して移動側ダイスが所定の移動方向に沿って往復動する。このため、上述のシート部には、ワークを挟圧することで生ずる当該シート部の厚み方向に沿った負荷に対して衝撃吸収効果を発揮すると共に、ダイスの移動に伴って生ずる当該移動方向に沿った負荷に対しても衝撃吸収効果を発揮するものと推定される。したがって、上述した所要の位置にシート部が配置されることで、転造時に発生するダイスに付与される複数種の負荷が総合的に緩和されて、転造ダイスの寿命が向上することとなる。
【0011】
さらに、前記シート部のシート厚が2mm以上4mm以下である構成が提案される。
【0012】
かかる構成とすることにより、前記シート部のシート厚を適切なものとすることができる。例えば、シート部のシート厚が2mmに満たないと、ダイスにかかる負荷を十分に緩和することができず、ダイスの長寿命化を図ることが困難となる。また、シート部のシート厚が4mmを越えると、ワークに対して転造圧を十分に加えることができず、ねじ山が十分に立ち上がらなくなり、加工精度が低下してしまう。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ダイスの寿命を長くすることができる優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】(a)はシート厚とダイス寿命との関係を示す図表であり、(b)はシート部の有無とダイス寿命との関係を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の転造加工装置を具体化した実施例を詳細に説明する。なお、本発明は、下記に示す実施例に限定されることはなく、適宜設計変更が可能である。
【0016】
図1~
図3に示すように、転造加工装置1は、基台10上に直方体形状を有した一対のダイス11,21が取り付けられている。
【0017】
さらに詳述すると、前記基台10は、設置面(図示省略)に載置される固定側基台部10aと、固定側基台部10aに対して片持ち状に支持されて往復移動する移動側基台部10bとを備えている。
【0018】
そして、固定側基台部10aに固定ダイス11が取り付けられ、移動側基台部10bに移動ダイス21が取り付けられる。このとき、各ダイス11,21の表面に形成された転造面12,22が対向する。
【0019】
そして、転造加工装置1は、転造面12,22間にワークWを挟持し、ワークWを挟圧しつつダイス21を転造面に沿って移動させることでワークWを転造加工する。
【0020】
ここで、固定ダイス11は、固定側基台部10aに対して別部材であるライナー40を介してネジ固定されている。したがって、固定ダイス11において転造面12と平行な裏面(第一の面)13と、ライナー40の受け面(第二の面)41とが対向しており、前記裏面13と前記受け面41との間にシート形状(薄厚状)のシート部30が介在されている。
【0021】
シート部30は、イソシアネート成分とポリアミン成分とを含む樹脂からなる、いわゆるポリウレア樹脂によって構成されている。ポリウレア樹脂は耐衝撃性に優れ、転造加工におけるダイスにかかる圧を好適に分散することができる。ここで、ダイス11,21にかかる負荷は、ワークWを挟圧する挟圧負荷に限られず、移動ダイス21の移動方向に沿って固定ダイス11が受ける剪断方向の負荷も含むものである。
【0022】
ここで、ワークであるM10のボルトを転造加工する場合にあって、シート部30の厚み(シート厚)を変えてダイス11,21がチッピング等によって使用不可能となるまでの寿命を調査した結果を
図4(a)に示す。なお、シート部30の材料はポリウレア樹脂を用いた。
【0023】
図4(a)における表において、寿命は、ダイス11,21のいずれか、又は両方にチッピングが発生するまでに加工したワークの数を示す。
ワーク形状は、加工されたワークの形状を示し、下記のように表現した。
◎は従来形状と変わらず問題なく使用できる。
×はボルトの山が正確に形成できず、製品として使用できない。
【0024】
図4(a)に記載される表に示すように、シート部30を備えることによってダイスの寿命が格段に向上し、特にシート部30の厚みが2mm以上になるとダイスの寿命が大幅に延びることがわかる。また、シート部30の厚みが4mmを越えると、寿命としては延長されるが、加工されたワークが正しく成形されず、製品としての使用に向かなくなってしまう。これはシート部30の緩衝効果が過剰となり、適正な転造圧が得られないことによるものと思われる。以上のことから、本実施例におけるシート部30の厚みは2mm以上4mm以下が適切であることがわかる。
【0025】
また、以下の試験結果が得られた。試験結果を
図4(b)に示す。
試験条件:
ワーク:M8×P1.0(ネジ長さ20ミリ)
強度区分:16.9(HRC48~49)
機種:平ダイス式転造機THI-12AL(株式会社三明製作所製:固定ダイス長さ370mm、移動ダイス長さ390mm)
シート部の厚み:3mm
【0026】
図4(b)に記載される表に示すように、シート部30を配置することにより、特異な強度区分:16.9(HRC48~49)においても、命数が約45%程度も向上することが確認された。
【0027】
本発明にあって、各部の寸法形状は適宜自由に選択可能である。
また、固定ダイス11だけでなく、移動ダイス21側にもシート部30が設けられていても構わない。また、シート部30は、ライナー40を用いて配置する構成に限られず、ダイス11,21に直接配置する構成としても勿論よい。ただし、ダイス11,21の傷付き防止の観点から、ライナー40を使用した方が望ましい。
【符号の説明】
【0028】
1 転造加工装置
10 基台
11 固定ダイス
12,22 転造面
13 裏面(第一の面)
21 移動ダイス
30 シート部
41 受け面(第二の面)
【手続補正書】
【提出日】2021-03-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを少なくとも一対のダイスによって挟圧して塑性変形させる転造加工装置であって、
基台と、
前記一対のダイスと、
を備え、前記基台に前記一対のダイスが取り付けられて、前記基台に前記一対のダイスが保持されており、
前記一対のダイスのうち、少なくとも一方には、前記ワークを挟圧する方向である挟圧方向に交わる第一の面が形成されており、
前記基台には、前記一対のダイスが保持された保持状態で前記第一の面に対向する第二の面が形成されており、
前記保持状態で、第一の面と前記第二の面との間には、イソシアネート成分とポリアミン成分とを含む樹脂からなるシート部が介在してなり、
前記挟圧方向に交わる方向に沿って一対のダイスが互いに相対移動するものであり、
前記基台は、所定の設置面に載置される固定側基台部と、前記固定側基台部に対して片持ち状に支持されて往復移動する移動側基台部とを備え、
前記一対のダイスは、前記固定側基台部に取り付けられた固定ダイスと、前記移動側基台部に取り付けられた移動ダイスと、からなり、前記固定ダイスの表面および前記移動ダイスの表面には各々転造面が形成され、かつ各転造面が対向しており、前記ワークが前記転造面間に挟持され、前記ワークが挟圧されつつ前記移動ダイスが前記転造面に沿って移動するものであり、
前記固定ダイスは、別部材である板状部材からなるライナーを介して前記固定側基台部に取り付けられており、
さらに前記固定ダイスにおいて前記転造面と平行な裏面が前記第一の面とされ、前記固定ダイスの裏面と対向する前記ライナーの受け面が前記第二の面とされ、前記裏面と前記受け面との間に前記シート部が介在して、当該固定ダイスと当該ライナーと当該シート部とが互いに重なり合うように配置されてなる
ことを特徴とする転造加工装置。
【請求項2】
前記シート部のシート厚が2mm以上4mm以下である
請求項1に記載の転造加工装置。