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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072977
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】二酸化炭素回収システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/32 20060101AFI20220510BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20220510BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20220510BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20220510BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20220510BHJP
【FI】
B01D53/32
B01J20/20 B
B01J20/22 A
B01J20/34 Z
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182708
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】特許業務法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅田 紘章
(72)【発明者】
【氏名】森本 洋平
(72)【発明者】
【氏名】竹崎 大輝
(72)【発明者】
【氏名】堀毛 悟史
【テーマコード(参考)】
4G066
4G146
【Fターム(参考)】
4G066AA04B
4G066AB24B
4G066CA35
4G066GA40
4G146JA02
4G146JB09
4G146JC17
4G146JC28
(57)【要約】
【課題】電気化学セルのCO2吸着サイト密度を高めることが可能な二酸化炭素回収システムを提供する。
【解決手段】電気化学反応によってCO2を含有するCO2含有ガスからCO2を分離する二酸化炭素回収システムにおいて、CO2吸着材102bを含む作用極102と、対極103とを有する電気化学セル101を備える。作用極と対極との間に電圧が印加されることで、対極から作用極に電子が供給され、CO2吸着材は電子が供給されることに伴ってCO2と結合する。CO2吸着材は、結晶性多孔体であり、電子の授受を行ってCO2と結合する官能基が規則的に配置された分子構造を有している。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学反応によってCO2を含有するCO2含有ガスからCO2を分離する二酸化炭素回収システムであって、
CO2吸着材(102b)を含む作用極(102)と、対極(103)とを有する電気化学セル(101)を備え、
前記作用極と前記対極との間に電圧が印加されることで、前記対極から前記作用極に電子が供給され、前記CO2吸着材は電子が供給されることに伴ってCO2と結合し、
前記CO2吸着材は、結晶性多孔体であり、電子の授受を行ってCO2と結合する官能基が規則的に配置された分子構造を有している二酸化炭素回収システム。
【請求項2】
前記CO2吸着材は、前記官能基が結晶格子の架橋部に規則的に配置されている請求項1に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項3】
前記結晶性多孔体は、金属有機構造体、共有結合性有機構造体および炭素質材料の少なくとも1つである請求項1または2に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項4】
前記結晶性多孔体は金属有機構造体であり、前記官能基はケトン基である請求項3に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項5】
前記金属有機構造体は、Alイオンにケトン基を含むベンゾフェノンジカルボン酸塩が配位している請求項4に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項6】
前記対極は、電子の授受を行う補助材(103b)を含んでおり、
前記対極の電位が前記作用極の電位より高くなる第1の電圧が前記対極と前記作用極との間に印加されることで、前記補助材から前記CO2吸着材に電子が供給され、前記CO2吸着材がCO2と結合する請求項1ないし5のいずれか1つに記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項7】
前記第1の電圧よりも低い第2の電圧が前記対極と前記作用極との間に印加されることで、前記CO2吸着材から前記補助材に電子が供給され、前記CO2吸着材が吸着しているCO2を脱離する請求項6に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項8】
前記作用極は導電性物質(102c)を含んでおり、前記導電性物質は前記CO2吸着材と混合した状態となっている請求項1ないし7のいずれか1つに記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項9】
前記導電性物質は、炭素質材料から構成されている請求項8に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項10】
前記作用極は、導電性を有する電極基材(102a)を含んでおり、
前記CO2吸着材は、前記電極基材に保持されている請求項1ないし9のいずれか1つに記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項11】
前記電極基材は、炭素質材料もしくは金属材料からなり、前記CO2含有ガスが通過可能な孔が形成された多孔質構造を備えている請求項10に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項12】
前記作用極は、前記CO2吸着材を前記電極基材に保持させるためのバインダ(102d)を含んでいる請求項10または11に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項13】
前記作用極と前記対極との間にイオン伝導性を有するイオン伝導性物質(106)が設けられており、前記イオン伝導性物質はイオン液体もしくは固体電解質である請求項1ないし12のいずれか1つに記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項14】
前記作用極と前記対極との間に、導電性を有さない絶縁層(104)が設けられている請求項1ないし13のいずれか1つに記載の二酸化炭素回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO2含有ガスからCO2を回収する二酸化炭素回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、電気化学反応によってCO2含有ガスからCO2を分離する装置が提案されている。特許文献1の装置では、作用極にCO2吸着材が設けられた電気化学セルを備えており、電気化学セルの作用極と対極との間に電位差を与え、作用極に電子が供給されると、CO2吸着材に含まれる官能基が電子を求引し、CO2吸着サイトになる。
【0003】
また、特許文献1の装置では、電極基材として多孔質炭素繊維が用いられており、多孔質炭素繊維が集電体の役割を果たすとともに、CO2含有ガスを多孔質炭素繊維の空隙によって拡散させてCO2吸着材に接触させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2018-533470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二酸化炭素回収システムでは、システムを小型化しつつ、所望のCO2回収速度を得るには、CO2吸着サイトの密度を高めることが有効である。しかしながら、CO2吸着材単体でCO2吸着サイトの密度を高めることは困難である。
【0006】
また、CO2吸着材を多孔質の電極基材に接触させることによって、作用極内でCO2吸着材の表面とCO2含有ガスとの接触面積を大きくすることは可能であるものの、電極基材の存在によって作用極中のCO2吸着サイト密度を高めるには限界がある。
【0007】
本発明は上記点に鑑み、電気化学セルのCO2吸着サイト密度を高めることが可能な二酸化炭素回収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、電気化学反応によってCO2を含有するCO2含有ガスからCO2を分離する二酸化炭素回収システムであって、CO2吸着材(102b)を含む作用極(102)と、対極(103)とを有する電気化学セル(101)を備える。作用極と対極との間に電圧が印加されることで、対極から作用極に電子が供給され、CO2吸着材は電子が供給されることに伴ってCO2と結合する。CO2吸着材は、結晶性多孔体であり、電子の授受を行ってCO2と結合する官能基が規則的に配置された分子構造を有している。
【0009】
これにより、CO2吸着材を構成する結晶性多孔体にCO2吸着サイトを規則的に配置することができ、CO2吸着サイト密度を高めることができる。この結果、二酸化炭素回収システムを小型化しつつ、所望のCO2回収速度を得ることができる。
【0010】
なお、上記各構成要素の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態の二酸化炭素回収システムを示す図である。
図2】CO2回収装置を示す図である。
図3】電気化学セルの断面図である。
図4】電気化学セルの作用極を示す断面図である。
図5】結晶性多孔体の格子点および架橋部を説明するための図である。
図6】CAU-8の結晶構造を説明するための図である。
図7】CO2回収装置のCO2回収モードとCO2放出モードでの作動を説明するための図である。
図8】CO2回収モードにおける作用極でのCO2吸着を示す図である。
図9】CO2放出モードにおける作用極でのCO2脱離を示す図である。
図10】CO2回収装置のCO2の吸着時間と脱離時間を示す図である。
図11】実施形態と比較例のCO2吸着サイト密度を示す図である。
図12】実施形態と比較例のCO2最大吸着量を示す図である。
図13】実施形態と比較例のCO2吸着速度を示す図である。
図14】電気化学セルの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1に示すように、本実施形態の二酸化炭素回収システム10は、圧縮機11、CO2回収装置100、流路切替弁12、CO2利用装置13、制御装置14が設けられている。
【0013】
圧縮機11は、CO2含有ガスをCO2回収装置100に圧送する。CO2含有ガスは、CO2とCO2以外のガスを含有する混合ガスであり、例えば大気や内燃機関の排気ガスを用いることができる。
【0014】
CO2回収装置100は、CO2含有ガスからCO2を分離して回収する装置である。CO2回収装置100は、CO2含有ガスからCO2が回収された後のCO2除去ガス、あるいはCO2含有ガスから回収したCO2を排出する。CO2回収装置100の構成については、後で詳細に説明する。
【0015】
流路切替弁12は、CO2回収装置100の排出ガスの流路を切り替える三方弁である。流路切替弁12は、CO2回収装置100からCO2除去ガスが排出される場合は、排出ガスの流路を大気側に切り替え、CO2回収装置100からCO2が排出される場合は、排出ガスの流路をCO2利用装置13側に切り替える。
【0016】
CO2利用装置13は、CO2を利用する装置である。CO2利用装置13としては、例えばCO2を貯蔵する貯蔵タンクやCO2を燃料に変換する変換装置を用いることができる。変換装置は、CO2をメタン等の炭化水素燃料に変換する装置を用いることができる。炭化水素燃料は、常温常圧で気体の燃料であってもよく、常温常圧で液体の燃料であってもよい。
【0017】
制御装置14は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。制御装置14は、ROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、各種制御対象機器の作動を制御する。本実施形態の制御装置14は、圧縮機11の作動制御、CO2回収装置100の作動制御、流路切替弁12の流路切替制御等を行う。
【0018】
次に、CO2回収装置100について図2を用いて説明する。図2に示すように、CO2回収装置100は、電気化学セル101が設けられている。電気化学セル101は、作用極102、対極103、絶縁層104を有している。図2に示す例では、作用極102、対極103、絶縁層104をそれぞれ板状に構成している。なお、図2では、作用極102、対極103、絶縁層104をそれぞれ間隔を設けて図示しているが、実際はこれらの構成要素は接するように配置されている。
【0019】
電気化学セル101は、図示しない容器内に収容されるようにしてもよい。容器には、CO2含有ガスを容器内に流入させるガス流入口と、CO2除去ガスやCO2を容器内から流出させるガス流出口を設けることができる。
【0020】
CO2回収装置100は、電気化学反応によってCO2の吸着および脱離を行い、CO2含有ガスからCO2を分離して回収する。CO2回収装置100は、作用極102と対極103に所定の電圧を印加する電源105が設けられており、作用極102と対極103の電位差を変化させることができる。作用極102は負極であり、対極103は正極である。
【0021】
電気化学セル101は、作用極102と対極103の電位差を変化させることで、作用極102でCO2を回収するCO2回収モードと、作用極102からCO2を放出するCO2放出モードを切り替えて作動することができる。CO2回収モードは電気化学セル101を充電する充電モードであり、CO2放出モードは電気化学セル101を放電する放電モードである。
【0022】
CO2回収モードでは、作用極102と対極103の間に第1の電圧V1が印加され、対極103から作用極102に電子が供給される。第1の電圧V1では、作用極電位<対極電位となっている。第1の電圧V1は、例えば0.5~2.0Vの範囲内とすることができる。
【0023】
CO2放出モードでは、作用極102と対極103の間に低い第2の電圧V2が印加され、作用極102から対極103に電子が供給される。第2の電圧V2は、第1の電圧V1より低い電圧であればよく、作用極電位と対極電位の大小関係は限定されない。つまり、CO2放出モードでは、作用極電位<対極電位でもよく、作用極電位=対極電位でもよく、作用極電位>対極電位でもよい。
【0024】
図3図4に示すように、作用極102には、作用極側基材102a、CO2吸着材102b、作用極側導電性物質102c、作用極側バインダ102dが設けられている。図3では便宜上、CO2吸着材102b、作用極側導電性物質102c、作用極側バインダ102dが作用極側基材102aと異なる位置されているように図示しているが、実際は多孔質の作用極側基材102aの内部にCO2吸着材102b、作用極側導電性物質102c、作用極側バインダ102dが設けられている。なお、作用極側基材102aが本発明の電極基材に相当している。
【0025】
作用極側基材102aは、CO2を含んだガスが通過可能な孔を有する多孔質の導電性材料である。作用極側基材102aとしては、例えば炭素質材料や金属材料を用いることができる。作用極側基材102aを構成する炭素質材料としては、例えばカーボン紙、炭素布、不織炭素マット、多孔質ガス拡散層(GDL)等を用いることができる。作用極側基材102aを構成する金属材料としては、例えば金属(例えばAl、Ni等)をメッシュ状にした金属メッシュを用いることができる。
【0026】
CO2吸着材102bは、レドックス活性を有しており、可逆的に酸化還元反応を起こすことが可能な電気活性種である。CO2吸着材102bは、還元状態でCO2を結合して吸着することができ、酸化状態でCO2を放出することができる。
【0027】
本実施形態では、CO2吸着材102bとして結晶性多孔体を用いている。結晶性多孔体は、原子や分子が立体的に繰り返しパターンを持って配列された結晶構造を有しており、かつ、CO2含有ガスが通過可能な細孔が多数形成されている。CO2吸着材102bとして用いる結晶性多孔体は、電子の授受によってCO2と結合する官能基が規則的に配置された分子構造を有している。
【0028】
図5は、CO2吸着材102bを構成する結晶性多孔体を概念的に示している。結晶性多孔体は、格子点と架橋部を有する結晶格子を含んでいる。格子点は、結晶中で周囲の原子配列が同一になる点である。格子点は、単位格子の隅に位置する点であり、単位格子の交点である。架橋部は、隣接する格子点の間を連結する部位である。
【0029】
図5では、Xが格子点に存在する原子を示し、Yが架橋部に存在する分子を示している。図5に示すように、電子の授受を行う官能基は結晶格子の架橋部Yに配置されている。なお、図5では、格子点に存在する原子Xが3つの他の原子と結合している例を示しているが、4個以上の他の原子を結合してもよい。
【0030】
CO2吸着材102bは、電子の授受を行ってCO2と結合する官能基を含んでいる。電子を授受する官能基として、F、O、N、Cl、S等の電気陰性度が高い原子を含む官能基を用いることができる。
【0031】
結晶性多孔体を平面的あるいは立体的な構造とするためには、格子点に存在する原子が3つ以上の他の原子と結合している必要があり、電気陰性度が高い原子はこの条件を満たすのが困難である。そこで、本実施形態のCO2吸着材102bでは、電子を授受する官能基を結晶格子の架橋部に配置することで、安定した結晶構造を実現している。
【0032】
CO2と結合する官能基は、電子の授受を行ってCO2吸着サイトとなる。本実施形態では、CO2と結合する官能基として、例えばケトン基(C=O)といったO原子を含む官能基を用いている。
【0033】
CO2吸着材102bを構成する結晶性多孔体としては、例えば金属有機構造体(MOF)、共有結合性有機構造体(COF)、炭素質材料の少なくとも1つを用いることができる。金属有機構造体は、電子の授受を行う官能基を含む有機配位子を金属に配位結合させることで、電子の授受を行う官能基を内部に規則的に配置することができる。共有結合性有機構造体は、電子の授受を行う官能基を含むモノマを格子状に結合させることで、電子の授受を行う官能基を内部に規則的に配置することができる。炭素質材料は、例えばカーボンナノチューブを酸化処理したものやグラフェンに電子の授受を行う官能基をドーピングさせることで、電子の授受を行う官能基を内部に規則的に配置することができる。
【0034】
本実施形態では、CO2吸着材102bとして金属有機構造体を用いている。金属有機構造体は、金属イオンに有機配位子が架橋した多孔質の構造体であり、金属イオンが格子点を構成し、有機配位子が架橋部を構成している。金属有機構造体の有機配位子には、CO2と結合する官能基が含まれている。
【0035】
CO2吸着材102bを構成する金属有機構造体としては、例えばCAU-8あるいは[Cu(2,7-AQDC)(DMF)]∞(Cu-MOF)を用いることができる。これらの金属有機構造体では、電子の授受を行う官能基が結晶性多孔体の架橋部に配置されることによって、電子の授受を行う官能基が多孔質結晶体に規則的に高密度に配置されている。
【0036】
CAU-8は、「H. Reinsch, M. Kruger, J. Marrot, N. Stock, First Keto-Functionalized Microporous Al-Based Metal Organic Framework: [Al(OH)(O2C-C6H4-CO-C6H4-CO2)], Inorg. Chem., 2013, 52, 1854-1859.」で報告されている金属有機構造体である。CAU-8は、金属イオンとしてAlイオンを含んでおり、有機配位子としてベンゾフェノンジカルボン酸塩を含んでいる。CAU-8は、ベンゾフェノンジカルボン酸をAl2(SO43とジメチルホルムアミド(DMF)中で反応させることによって合成することができる。
【0037】
CAU-8は、基本単位として以下に示すAl(OH)(O2C-C64-CO-C64-CO2)を有している。
【0038】
【化1】
図6に示すように、CAU-8では、4つのベンゾフェノンジカルボン酸塩(O2C-C64-CO-C64-CO2)がAl二核錯体間を架橋している。CAU-8のAl3+イオンには、6個のO原子が配位結合してAlO6正八面体を構成している。CAU-8は、頂点のO原子を共有するトランス接続されたAlO6正八面体の直線鎖を有している。CAU-8では、Alイオンが格子点に相当し、ベンゾフェノンジカルボン酸塩(O2C-C64-CO-C64-CO2)が架橋部に相当している。ベンゾフェノンジカルボン酸塩では、O原子を含む官能基が電子の授受を行う官能基となりうる。ベンゾフェノンジカルボン酸塩は、電子の授受を行う官能基としてケトン基(C=O)を含んでいる。この結果、CAU-8では、電子の授受を行うケトン基が規則的に高密度に配置されている。
【0039】
Cu-MOFは、「Zhongyue Zhang, Hirofumi Yoshikawa, and Kunio Awaga, Monitoring the Solid-State Electrochemistry of Cu(2,7-AQDC) (AQDC = Anthraquinone Dicarboxylate) in a Lithium Battery: Coexistence of Metal and Ligand Redox Activities in a Metal Organic Framework, J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 46, 16112-16115」で報告されている金属有機構造体である。Cu-MOFは、金属イオンとしてCuイオンを含んでおり、有機配位子としてアントラキノンジカルボン酸塩を含んでいる。Cu-MOFは、アントラキノン骨格を持つ2,7-H2AQDC(2,7-アントラキノンジカルボン酸塩)をCu(ClO42とジメチルホルムアミド(DMF)中で反応させることによって合成することができる。
【0040】
Cu-MOFは、2,7-H2AQDCの2,7位のカルボキシレートがパドル・ホイール型Cu二核錯体間を架橋して二次元シートを形成して二次元シートを作成し、アントラキノン部位のπ-πスタッキングにより積層した三次元構造を有している。Cu-MOFは、CuC1666で表すことができ、Cuイオンが格子点に相当し、アントラキノンジカルボン酸塩が架橋部に相当している。アントラキノンジカルボン酸塩は、電子の授受を行う官能基としてケトン基(C=O)を含んでいる。
【0041】
本実施形態では、CO2吸着材102bを構成する金属有機構造体としてCAU-8を用いている。CO2吸着材102bは粒子状物質であり、ペレット状等に成形加工して用いることができる。
【0042】
作用極側導電性物質102cは、CO2吸着材102bへの導電路を形成している。作用極側導電性物質102cとしては、例えばカーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン等の炭素質材料を用いることができる。本実施形態では、CO2吸着材102bと作用極側導電性物質102cを混合して用いている。
【0043】
CO2吸着材102bと作用極側導電性物質102cの混合は、例えばNMP(N-メチルピロリドン)等の有機溶媒に作用極側導電性物質102cを溶解させ、有機溶媒中で分散している作用極側導電性物質102cとCO2吸着材102bを接触させればよい。作用極側導電性物質102cとCO2吸着材102bの接触は、作用極側導電性物質102cが分散している溶媒中にCO2吸着材102bを含んだ作用極側基材102aを浸漬し、ディップコートする方法等で行うことができる。これにより、CO2吸着材102bに対して作用極側導電性物質102cを均一に接触させることができる。
【0044】
作用極側バインダ102dは、CO2吸着材102bを作用極側基材102aに保持するために設けられている。作用極側バインダ102dは接着力を有しており、CO2吸着材102bと作用極側基材102aの間に設けられている。
【0045】
本実施形態では、CO2吸着材102b、作用極側導電性物質102cおよび作用極側バインダ102dを混合物の状態で用いている。CO2吸着材102b、作用極側導電性物質102cおよび作用極側バインダ102dの混合物を形成し、この混合物を作用極側基材102aに接着している。
【0046】
作用極側バインダ102dとしては、導電性樹脂を用いることができる。導電性樹脂としては、導電性フィラーとしてAg等を含有するエポキシ樹脂やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂等を用いることができる。
【0047】
作用極側バインダ102dは、作用極側導電性物質102cと同様、有機溶媒を用いてCO2吸着材102bを含む作用極側基材102aと接触させることができる。あるいは、作用極側バインダ102dの原材料とCO2吸着材102bをホモジナイザー等を用いて分散、混合させた上で混合物を成形し、作用極側基材102aに圧着させもよく、作用極側バインダ102dとCO2吸着材102bの混合物を作用極側基材102aにスプレーコーティングしてもよい。
【0048】
図3に戻り、対極103は、作用極102と同様の構成を有しており、対極側基材103a、電気活性補助材103b、対極側導電性物質103c、対極側バインダ103dが設けられている。
【0049】
電気活性補助材103bは、CO2吸着材102bと酸化還元状態が逆になり、CO2吸着材102bとの間で電子の授受を行う補助的な電気活性種である。作用極102のCO2吸着材102bで効率よくCO2を吸着させるために、より多くの電子を対極103から作用極102に供給する必要がある。このため、対極基材103aに、できるだけ多くの電気活性補助材103bを担持させることが望ましい。電気活性補助材103bは、本発明の補助材に相当している。
【0050】
電気活性補助材103bとしては、例えば金属イオンの価数が変化することで、電子の授受を可能とする金属錯体を用いることができる。このような金属錯体としては、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン等のシクロペンタジエニル金属錯体、あるいはポルフィリン金属錯体等を挙げることができる。本実施形態では、電気活性補助材103bとして、以下に示すポリビニルフェロセンを用いている。
【0051】
【化2】
絶縁層104は、作用極102と対極103の間に配置されており、作用極102と対極103を分離している。絶縁層104は、作用極102と対極103の物理的な接触を防ぎ、電気的短絡を抑制する。
【0052】
絶縁層104としては、セパレータ、あるいは空気等の気体層を用いることができる。本実施形態では、絶縁層104として多孔質体のセパレータを用いている。セパレータの材料は、セルロース膜やポリマ、ポリマとセラミックの複合材料等からなるセパレータを用いることができる。
【0053】
作用極102と対極103の間には、イオン伝導性を有するイオン伝導性物質106が設けられている。イオン伝導性物質106は、絶縁層104を介して作用極102と対極103との間に設けられている。
【0054】
イオン伝導性物質106は、CO2吸着材102bと接触している。イオン伝導性物質106に含まれるイオンは、CO2吸着材102bがCO2と結合する際にCO2吸着材102bの電子求引を促進する。イオン伝導性物質106に含まれるイオンは、CO2吸着材102bに含まれるCO2と結合する官能基と直接反応しない。
【0055】
イオン伝導性物質106は、イオン液体や固体電解質等を用いることができる。イオン液体は、常温常圧下で不揮発性を有する液体の塩である。イオン伝導性物質106としてイオン液体を用いる場合には、電気化学セル101からの溶出を防ぐために、イオン液体をゲル化してもよい。イオン伝導性物質106として固体電解質を用いる場合には、CO2吸着材102bとの接触面積を増大させるために、高分子電解質等からなるアイオノマを用いることが望ましい。
【0056】
イオン液体としては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([EMIM][Tf2N])、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([BMIM][Tf2N])、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩([BMIM][BF4])等を用いることができる。
【0057】
次に、本実施形態の二酸化炭素回収システム10の作動について説明する。図7に示すように、二酸化炭素回収システム10は、CO2回収モードとCO2放出モードを交互に切り替えて作動する。二酸化炭素回収システム10の作動は、制御装置14によって制御される。
【0058】
まず、CO2回収モードについて説明する。CO2回収モードでは、圧縮機11が作動してCO2回収装置100にCO2含有ガスが供給される。CO2回収装置100では、作用極102と対極103の間に印加される電圧を第1の電圧V1とする。これにより、対極103の電気活性補助材103bの電子供与と、作用極102のCO2吸着材102bの電子求引を同時に実現できる。対極103の電気活性補助材103bは電子を放出して酸化状態となり、対極103から作用極102に電子が供給される。
【0059】
図8に示すように、作用極102のCO2吸着材102bは電子を受け取り、還元状態となる。作用極側導電性物質102cは、CO2吸着材102bに供給される電子が伝導する導電路として機能する。イオン伝導性物質106に含まれるイオンは、図8において「+」で表示されており、CO2吸着材102bの電子の求引を促進させる。
【0060】
還元状態となったCO2吸着材102bはCO2の結合力が高くなり、CO2含有ガスに含まれるCO2を結合して吸着する。これにより、CO2回収装置100は、CO2含有ガスからCO2を回収することができる。
【0061】
CO2含有ガスは、CO2回収装置100でCO2を回収された後、CO2を含まないCO2除去ガスとしてCO2回収装置100から排出される。流路切替弁12は、ガス流路を大気側に切り替えており、CO2回収装置100から排出されたCO2除去ガスは大気に排出される。
【0062】
次に、CO2放出モードについて説明する。CO2放出モードでは、圧縮機11が作動停止し、CO2回収装置100へのCO2含有ガスの供給が停止する。CO2回収装置100では、作用極102と対極103の間に印加される電圧を第2の電圧V2とする。これにより、作用極102のCO2吸着材102bの電子供与と、対極103の電気活性補助材103bの電子求引を同時に実現できる。対極103の電気活性補助材103bは、電子を受け取って還元状態となる。
【0063】
図9に示すように、作用極102のCO2吸着材102bは電子を放出し、酸化状態となる。作用極側導電性物質102cは、CO2吸着材102bから放出された電子が伝導する導電路として機能する。CO2吸着材102bは、CO2の結合力が低下し、CO2を脱離して放出する。
【0064】
CO2吸着材102bから放出されたCO2は、CO2回収装置100から排出される。流路切替弁12は、ガス流路をCO2利用装置13側に切り替えており、CO2回収装置100から排出されたCO2はCO2利用装置13に供給される。
【0065】
次に、CO2回収装置100によるCO2回収速度とCO2吸着サイト密度の関係について説明する。図10に示すように、CO2の吸着時間と脱離時間の関係は、吸着時間<脱離時間となっている。CO2回収速度、CO2吸着速度、CO2脱離速度、サイクル時間は、以下の数式(1)~(4)で得られる。
【0066】
CO2回収速度=CO2回収量/サイクル時間・・・(1)
CO2吸着速度=CO2吸着量/吸着時間・・・(2)
CO2脱離速度=CO2脱離量/脱離時間・・・(3)
サイクル時間=吸着時間+脱離時間・・・(4)
ここで、CO2回収量=CO2吸着量=CO2脱離量とすると、次の数式(5)が成り立つ。
【0067】
1/CO2回収速度=(1/CO2吸着速度)+(1/CO2脱離速度)・・・(5)
この数式(5)から、CO2吸着速度が大きいほどCO2回収速度が大きくなることが分かる。
【0068】
CO2吸着反応をCO2+σ←→σCO2(σ:CO2吸着サイト、σCO2:吸着CO2)としたとき、CO2吸着速度は次の数式(6)で得られる。
【0069】
CO2吸着速度=Ka×Pa×(1-θ)-Ka´×θ・・・(6)
(Ka:順反応の速度定数、Pa:CO2の分圧、θ:CO2吸着サイト被覆率、Ka´:逆反応の速度定数)
CO2吸着サイト被覆率θは、次の数式(7)で得ることができる。
【0070】
CO2吸着サイト被覆率θ=CO2吸着量/CO2最大吸着量・・・(7)
CO2最大吸着量は、次の数式(8)で得ることができる。
【0071】
CO2最大吸着量=CO2吸着サイト密度×CO2吸着材の体積・・・(8)
数式(6)~(8)から、CO2吸着サイト密度が高いほどCO2最大吸着量が大きくなり、CO2最大吸着量が大きいほどCO2吸着サイト被覆率θが小さくなり、CO2吸着サイト被覆率θが小さいほどCO2吸着速度が大きくなることが分かる。
【0072】
以上のことから、CO2吸着サイト密度が高いほどCO2回収速度が大きくなることが導き出せる。
【0073】
次に、本実施形態のCO2回収装置100のCO2吸着サイト密度とCO2最大吸着量について説明する。図11図12では、本実施形態のCO2吸着材102bはCAU-8を用い、比較例のCO2吸着材は特表2018-533470号公報に記載されたアントラキノンを用いた。
【0074】
図11では、比較例のCO2吸着サイト密度は特許文献1に記載された数値に基づいて算出し、本実施形態のCO2吸着サイト密度はCAU-8の単結晶構造に基づいて算出している。この結果、比較例のCO2吸着サイト密度は0.0085g/cm3であり、本実施形態のCO2吸着サイト密度は0.1304g/cm3であった。このように、本実施形態のCO2回収装置では、比較例よりも飛躍的にCO2吸着サイト密度を大きくすることができる。
【0075】
図12は、電極1m2当たりのCO2最大吸着量を示している。CO2最大吸着量は、CO2回収装置100に定電圧(1.5V)を充分な時間印加した場合のCO2吸着量である。図12では、比較例のCO2最大吸着量は実験により求めており、本実施形態のCO2最大吸着量は比較例のCO2最大吸着量に図11で示した比較例と本実施形態のCO2吸着サイト密度の比率を乗じて算出している。この結果、比較例のCO2最大吸着量は1g/m2程度であり、本実施形態のCO2最大吸着量は16g/m2程度であった。このように、本実施形態のCO2回収装置100では、比較例よりも飛躍的にCO2最大吸着量を大きくすることができる。
【0076】
次に、本実施形態のCO2回収装置100のCO2回収速度について説明する。図13は、CO2回収装置100を収容した容器の内部に大気を導入した後に容器を密閉し、CO2回収装置100に定電圧(1.5V)を印加した場合の容器内のCO2濃度の経時的変化を示している。図13では、本実施形態のCO2吸着材102bはCAU-8を用い、比較例のCO2吸着材は特表2018-533470号公報に記載されたアントラキノンを用いた。
【0077】
図13に示すように、CO2回収装置100によるCO2吸着前は、容器内のCO2濃度は大気に相当するCO2濃度となっている。そして、CO2回収装置100によるCO2吸着が行われると、容器内のCO2濃度が減少する。容器内のCO2濃度の減少率が大きいほど、CO2回収装置100のCO2吸着速度が大きいことを意味している。
【0078】
比較例では、時間の経過に伴って容器内のCO2濃度の減少率が小さくなっている。これは、CO2吸着材(アントラキノン)のCO2吸着量が増大するのに伴ってCO2吸着サイトの被覆率が大きくなり、CO2吸着速度が低下していることを示している。これに対し、本実施形態では、時間が経過しても容器内のCO2濃度の減少率を高いまま維持できている。これは、CO2吸着材(CAU-8)のCO2吸着サイト密度が大きいため、CO2吸着サイトの被覆率が大きくならず、CO2吸着速度の低下を抑制できることを示している。
【0079】
以上説明した本実施形態のCO2回収装置100では、CO2吸着材102bとして、電子の授受を行ってCO2と結合する官能基が規則的に配置された結晶性多孔体を用いている。これにより、CO2吸着材102bを構成する結晶性多孔体にCO2吸着サイトを規則的に配置することができ、CO2吸着サイト密度を高めることができる。この結果、二酸化炭素回収システムを小型化しつつ、所望のCO2回収速度を得ることができる。
【0080】
また、本実施形態では、CO2吸着材102bを構成する結晶性多孔体は、電子の授受を行う官能基が架橋部に配置されている。このように電気陰性度の高い原子を含む官能基を結晶の架橋部に配置することで、安定した結晶構造とすることができる。
【0081】
また、本実施形態では、CO2吸着材102bとしてAlイオンにケトン基を含むベンゾフェノンジカルボン酸塩が配位したCAU-8を用いている。これにより、電子の授受を行うケトン基を立体的な結晶構造を有する金属有機構造体の架橋部に配置することができ、ケトン基を金属有機構造体に規則的に高密度に配置することができる。
【0082】
また、本実施形態では、作用極102に作用極側基材102aが設けられており、CO2吸着材102bが作用極側基材102aに保持されている。作用極側基材102aは、CO2吸着材102bの導電路を形成するとともに、CO2吸着材102bを保持する支持体の役割を果たすことができる。
【0083】
また、本実施形態では、作用極側基材102aとして、CO2を含んだガスが通過可能な多孔質の導電性材料を用いている。これにより、作用極側基材102aの内部に保持されたCO2吸着材102bにCO2含有ガスを接触させることができる。
【0084】
また、本実施形態では、CO2吸着材102bと作用極側導電性物質102cを混合して用いている。このため、多孔性のCO2吸着材102b自体でCO2含有ガスを拡散させることができ、さらに作用極側導電性物質102cによってCO2吸着材102bへの導電路を形成することができる。これにより、作用極側基材102aの原材料の使用量を極力減少させることができる。この結果、作用極102におけるCO2吸着材102bの占める割合を増大させることができ、CO2吸着サイト密度を向上させることができる。
【0085】
また、本実施形態では、作用極側導電性物質102cとして炭素質材料を用いている。これにより、作用極側基材102aとして用いられる多孔質炭素繊維よりも体積の小さい作用極側導電性物質102cによって、CO2吸着材102bへの導電路を形成することができる。
【0086】
また、本実施形態では、対極103に電子の授受を行う電気活性補助材103bを設けており、CO2回収モードにおいて、作用極102と対極103との間に、対極電位>作用極電位となるように第1の電圧V1を印加している。これにより、電気活性補助材103bの電子供与とCO2吸着材102bの電子求引を同時に実現でき、電気活性補助材103bからCO2吸着材102bに電子が供給され、CO2吸着材102bとCO2との結合力を高めることができる。
【0087】
また、本実施形態では、CO2放出モードにおいて、作用極102と対極103との間に第1の電圧V1よりも低い第2の電圧V2を印加している。これにより、電気活性補助材103bの電子求引とCO2吸着材102bの電子供与を同時に実現でき、CO2吸着材102bから電気活性補助材103bに電子が供給され、CO2吸着材102bからCO2を脱離させることができる。この結果、CO2を分離回収できるとともに、CO2吸着材102bを再生してCO2を再び吸着させることが可能となる。
【0088】
また、本実施形態では、作用極側バインダ102dを用いてCO2吸着材102bを作用極側基材102aに保持している。これにより、CO2吸着材102bが作用極側基材102aから剥離しにくくなり、電気化学セル101のCO2吸着量が経時的に低下することを抑制できる。
【0089】
また、本実施形態では、作用極102と対極103の間に絶縁層104を設けている。これにより、作用極102と対極103との間の物理的な接触に伴う電気的短絡の発生を抑制できる。
【0090】
また、本実施形態では、作用極102と対極103の間にイオン伝導性物質106を設けている。これにより、CO2吸着材102bへの導電を促進させることができる。さらに、イオン伝導性物質106として不揮発性のイオン液体や固体電解質を用いることで、イオン伝導性物質106によるCO2吸着材102bへの導電促進を長期間にわたって維持することができる。
【0091】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0092】
例えば、上記実施形態では、電気化学セル101の作用極102、対極103、絶縁層104をそれぞれ板状部材としたが、図14に示すように、作用極102、対極103、絶縁層104をそれぞれ円筒状部材としてもよい。この場合には、作用極102を最も内側に配置し、対極103を最も外側に配置し、作用極102と対極103の間に絶縁層104を配置すればよい。これにより、作用極102の内側に形成される空間をCO2含有ガスが通過するガス流路とすることができる。
【0093】
また、上記実施形態では、作用極102に作用極側基材102aを設けた例について説明したが、必ずしも作用極側基材102aを設けなくてもよい。多孔性のCO2吸着材102b自体でCO2含有ガスを拡散でき、作用極側導電性物質102cによってCO2吸着材102bへの導電路を形成できることから、CO2吸着材102bと導電性物質102cによって作用極102を構成することができる。これにより、この結果、作用極102におけるCO2吸着材102bの占める割合を増大させることができ、CO2吸着サイト密度を向上させることができる。
【0094】
また、上記実施形態では、CO2吸着材102bを作用極側基材102aに保持するための作用極側バインダ102dを設けたが、これに限らず、作用極側バインダ102dを省略することもできる。
【0095】
また、上記実施形態では、作用極102と対極103との間にイオン伝導性物質106を設けたが、これに限らず、イオン伝導性物質106を省略することもできる。
【符号の説明】
【0096】
101 電気化学セル
102 作用極
102a 作用極側基材(電極基材)
102b CO2吸着材
102c 作用極導電性物質(導電性物質)
102d 作用極側バインダ(バインダ)
103 対極
103b 電気活性補助材(補助材)
104 絶縁層
106 イオン伝導性物質
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14