(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022072989
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】紫外線殺菌装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20220510BHJP
【FI】
A61L2/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182723
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000208765
【氏名又は名称】株式会社エンプラス
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森岡 心平
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA08
4C058AA30
4C058BB06
4C058CC04
4C058EE02
4C058KK02
4C058KK22
4C058KK32
(57)【要約】
【課題】安全性を確保しつつ、適切に殺菌できる紫外線殺菌装置を提供すること。
【解決手段】紫外線殺菌装置は、紫外線を出射するための複数の光源と、複数の光源の上部に配置され、複数の光源から出射された紫外線を拡散させるための1または2以上の拡散部材とを有する。拡散部材に対して複数の光源と反対側に、複数の光源の発光面から離れて配置された殺菌対象である仮想平面上における紫外線の照度は、1~3mW/cm
2の範囲内である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線を出射するための複数の光源と、
前記複数の光源の上部に配置され、前記複数の光源から出射された紫外線を拡散させるための1または2以上の拡散部材と、
を有し、
前記拡散部材に対して前記複数の光源と反対側に、前記複数の光源の発光面から離れて配置された殺菌対象である仮想平面上における紫外線の照度は、1~3mW/cm2の範囲内であって、
前記拡散部材は、前記光源から出射される光のうち光軸方向を含む光軸近傍の光を最も拡散させる、
紫外線殺菌装置。
【請求項2】
前記拡散部材は、前記複数の光源に対応してそれぞれ配置された、紫外線を入射させる入射面と前記入射面で入射した紫外線を出射させる出射面とをそれぞれ含む複数の拡散レンズである、請求項1に記載の紫外線殺菌装置。
【請求項3】
前記光源から出射され前記拡散部材で拡散された紫外線の半値角は、45~65°の範囲内である、請求項1または請求項2に記載の紫外線殺菌装置。
【請求項4】
前記拡散部材に対して前記光源と反対側に配置され、前記拡散部材で拡散された紫外線を透過させるカバーをさらに有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の紫外線殺菌装置。
【請求項5】
前記複数の光源のうちの1つの光源から出射される紫外線の前記仮想平面上の最大照度を1とした場合における、前記仮想平面上の紫外線の相対照度は、0.75~1.25の範囲内である、請求項1~4のいずれか一項に記載の紫外線殺菌装置。
【請求項6】
前記紫外線の照度は、前記複数の光源の発光面から25mm離れて配置された殺菌対象である仮想平面上における照度である、請求項1~5のいずれか一項に記載の紫外線殺菌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線殺菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病院内における院内感染の原因として、医療従事者などの靴の裏や配膳用台車の車輪に付着した菌やウイルスなど(以下まとめて「菌」ともいう)が拡散されることが知られている。このような院内感染に対しては、薬品を染み込ませたマットを用いて殺菌が行われている。ところが、薬品を染み込ませたマットを用いた殺菌方法では、薬品が床を腐食するおそれがある。また、靴の裏に付着して残留した薬品により、死滅しなかった菌が拡散されるおそれがある。一方、菌の不活化は、一般に紫外線C波(Ultraviolet C;UVC)を照射することにより行われている。しかしながら、UVCは網膜などの人体への悪影響が知られており、UVCを照射されることに対して安全基準が定められている。また、靴の裏や配膳用台車の車輪を殺菌する装置として、床に埋め込まれた殺菌装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、床に配置する殺菌装置が記載されている。特許文献1に記載の殺菌装置は、紫外線を出射する複数のLEDと、各LED間を区切るグリッドとを有する。特許文献1に記載の殺菌装置では、LEDから出射された紫外線の透過をグリッドで妨げることで、所定の領域に紫外線を照射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の殺菌装置では、紫外線を出射する光源としてLEDを使用しており、LEDの有する指向性により、人体に悪影響をおよぼすおそれがある。一方、出射される紫外線の光量の少ないLEDを使用すると、殺菌できないおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、安全性を確保しつつ、適切に殺菌できる紫外線殺菌装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施の形態に係る紫外線殺菌装置は、紫外線を出射するための複数の光源と、前記複数の光源の上部に配置され、前記複数の光源から出射された紫外線を拡散させるための1または2以上の拡散部材と、を有し、前記拡散部材に対して前記複数の光源と反対側に、前記複数の光源の発光面から離れて配置された殺菌対象である仮想平面上における紫外線の照度は、1~3mW/cm2の範囲内であって、前記拡散部材は、前記光源から出射される光のうち光軸方向を含む光軸近傍の光を最も拡散させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の紫外線殺菌は、例えば靴の裏や配膳用台車の車輪などを、安全性を確保しつつ適切に殺菌できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1A、Bは、本発明の実施の形態1に係る紫外線殺菌装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2A~Dは、本発明の実施の形態1に係る紫外線殺菌装置における拡散部材の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、仮想平面上における紫外線の照度分布を示すグラフである。
【
図4】
図4は、紫外線の照射時間と、光源の発光面からの距離との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5A~Dは、本発明の実施の形態2に係る紫外線殺菌装置における拡散部材の構成を示す図である。
【
図6】
図6A、Bは、仮想平面上における紫外線の照度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態に係る紫外線殺菌装置について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
[実施の形態1]
(紫外線殺菌装置の構成)
図1A、Bは、本発明の実施の形態1に係る紫外線殺菌装置の構成を示す図である。
図1Aは、紫外線殺菌装置の平面図であり、
図1Bは、
図1Aに示されるA-A線の断面模式図である。
図1Bでは、光源(拡散部材)間の距離を短く示している。
【0012】
図1A、Bに示されるように、紫外線殺菌装置100は、複数の光源110と、拡散部材120とを有する。紫外線殺菌装置100は、複数の光源110および拡散部材120に加えて、基板130およびカバー140を有していてもよい。本実施の形態に係る紫外線殺菌装置100は、基板130と、複数の光源110と、複数の拡散部材120と、カバー140とを有する。
【0013】
本実施の形態の紫外線殺菌装置100は、床や壁に埋め込まれた状態で使用されうる。紫外線殺菌装置100を床や壁に埋め込むことで、足や台車の車輪が当たらないため、安全性が高められるとともに、省スペース化できる。
【0014】
基板130は、光源110を支持する。なお、本実施の形態では、拡散部材120が拡散レンズであるため、基板130は、光源110および拡散部材120を支持する。基板130の材料は、上記の機能を発揮できれば特に限定されない。また、基板130の平面視形状は、円形でもよいし、楕円形でもよいし、矩形でもよい。本実施の形態では、基板130の平面視形状は、長方形(矩形)である。基板130の厚さおよび大きさは、特に限定されない。
【0015】
複数の光源110は、紫外線を出射する。光源110の種類は、紫外線を出射できれば特に限定されない。光源110の例には、発光ダイオード(LED)、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、レーザーダイオード(LD)が含まれる。光源110から出射される紫外線の中心波長またはピーク波長は、殺菌効率の観点から、200nm以上350nm以下が好ましく、250nm以上290nm以下がより好ましい。すなわち、紫外線は、紫外線C波(UVC)であることがより好ましい。本実施の形態の紫外線殺菌装置100では、複数の光源110が基板130上に配置されている。複数の光源110の配置は、特に限定されない。複数の光源110は、三角格子状に配置されていてもよいし、矩形格子状に配置されていてもよいが、三角格子状に配置されていることが好ましい。本実施の形態では、複数の光源110は、三角格子状に配置されている。複数の光源110が三角格子状となるように配置されている場合、隣接する2つの光源110の光軸OA間の距離(正三角形の一辺の長さ)は、特に限定されず、例えば52~73mmの範囲内である。光源110の配置、および隣接する2つの光軸OA間の距離は、特に限定されず、拡散部材120からの出射光によって得られる配光特性により適宜選択される。
【0016】
拡散部材120は、複数の光源110の上部に配置され、複数の光源110から出射された紫外線を拡散させるための部材である。具体的には、拡散部材120は、光源110から出射された紫外線を、光源110の光軸OAに対する角度が大きくなるように制御する部材である。拡散部材120を構成する材料の種類は、紫外線を透過させることができ、かつ紫外線により劣化しにくければ特に限定されないが、紫外線の透過率が高い材料であることが好ましい。拡散部材120の材料の例には、シリコーン、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)やポリカーボネート(PC)、エポキシ樹脂(EP)などの光透過性樹脂、またはガラスが含まれる。拡散部材120の構成は、上記の機能を発揮できれば特に限定されない。拡散部材120の例には、拡散レンズおよび拡散板が含まれる。たとえば、拡散レンズは、1つの光源110(例えば発光ダイオード)の上に配置され、当該光源110から出射された光を拡げつつ透過させる。また、拡散板は、例えば複数の光源110の上に配置された擦りガラスであり、当該複数の光源110から出射された光を散乱させつつ透過させる。本実施の形態では、拡散部材120は、拡散レンズである。拡散部材120が擦りガラスの場合、拡散部材120は、例えば紫外線殺菌装置100の筐体に支持される。一方、拡散部材120が拡散レンズの場合、拡散部材120は、例えば基板130に支持される。以下、拡散部材120としての拡散レンズについて説明する。
【0017】
図2A~Dは、本実施の形態に係る紫外線殺菌装置100における拡散部材(拡散レンズ)120の構成を示す図である。
図2Aは、拡散部材120の平面図であり、
図2Bは、底面図であり、
図2Cは、正面図であり、
図2Dは、
図2Aに示されるA-A線の断面図である。
【0018】
拡散部材(拡散レンズ)120は、入射面210と、出射面220とを有する。拡散部材120は、入射面210および出射面220に加えて、フランジ230や脚部240などを有していてもよい。
図2A~Dに示されるように、本実施の形態の拡散部材120は、入射面210と、出射面220と、フランジ230と、複数の脚部240とを有する。
【0019】
拡散部材120は、光源110の上部に配置されている。拡散部材120は、拡散部材120の中心軸CAが光源110の光軸OAと一致するように配置されることが好ましい(
図1B参照)。拡散部材120の平面視形状は、特に限定されない。拡散部材120の平面視形状は、円形でもよいし、R面取りした略矩形でもよい。本実施の形態では、拡散部材120の平面視形状は、円形である。
【0020】
入射面210は、光源110と対向して配置され、光源110から出射された紫外線を入射させる面である。入射面210の形状は、上記の機能を発揮できれば特に限定されない。入射面210の形状は、凹部の内面でもよいし、平面でもよい。本実施の形態では、入射面210は、裏面202に形成された凹部204の内面である。入射面210は、拡散部材120の中心軸CA(光源110の光軸OA)と交わるように裏面202の中央部分に配置されている。入射面210は、光源110から出射された紫外線のうち、大部分の紫外線を、その紫外線の進行方向を制御するとともに、拡散部材120の内部に入射させる。入射面210は、拡散部材120の中心軸CAと交わり、中心軸CAを回転軸とした円対称である。
【0021】
出射面220は、入射面210で入射し、拡散部材120の内部を進行した紫外線を外部に出射させる面である。本実施の形態では、出射面220は、中心軸CAを中心とする所定範囲に位置する第1出射面221と、第1出射面221の周囲に連続して形成された第2出射面222とを有する。第1出射面221は、裏側に凸の曲面である。第2出射面222は、第1出射面221の周囲に位置する、表側に凸の滑らかな曲面である。出射面220の平面視形状は、特に限定されない。出射面220の平面視形状は、円形でもよいし、R面取りした略矩形でもよい。本実施の形態では、出射面220の平面視形状は、R面取りした略矩形である。光源110から出射され、第1出射面221に到達した光は、第1出射面221で拡げられつつ出射される。光源110から出射され、第2出射面222の内側に到達した光は、第2出射面222で拡げられつつ出射され、第2出射面222の外側に到達した光は、第2出射面222で集光されつつ出射される。
【0022】
フランジ230は、拡散部材120の取り扱いを容易にするための部分である。フランジ230は、裏面202および出射面220よりも中心軸CAから離れた位置(拡散部材120の外縁部)に配置されている。
【0023】
複数の脚部240は、光源110から発せられる熱を外部に逃がすための間隙を形成するとともに、基板130に対して位置決めして固定される。本実施の形態では、複数の脚部240は、等間隔となるように裏面202に配置されている。脚部240の数は、特に限定されない。本実施の形態では、脚部240の数は、3つである。
【0024】
拡散部材(拡散レンズ)120は、殺菌対象である2仮想平面上における紫外線の照度が1~3mW/cm2の範囲内となるように光源110から出射された光の配光を制御する。拡散部材120は、光源から出射される光のうち光軸方向を含む光軸近傍の光を最も拡散させる。複数の光源110から出射され、拡散部材120で拡散された紫外線の半値角が45~65°の範囲内となるように、光源の種類および拡散部材(拡散レンズ)120の構成が選択されることが好ましい。半値角が45°未満の場合、光軸OAに沿った方向への光量が多くなりすぎて人体に対する安全性が低下するおそれがある。一方、半値角が65°超の場合、カバー140の表面に到達する紫外線量が少なくなり、十分に殺菌するための紫外線の照射時間が長くなるおそれがある。
【0025】
カバー140は、拡散部材120および光源110を保護するとともに、光源110から出射された紫外線を透過させる。カバー140は、透過率が高いことが好ましい。また、カバー140は、人に踏まれたり、台車が乗るため、所定の強度を有することが好ましい。カバー140の材料は、上記の機能を発揮できれば特に限定されない。カバー140の材料の例には、合成石英ガラスが含まれる。
【0026】
光源110の発光面と、カバー140の表面との距離は、光源110が出射する紫外線の強度により適宜設定される。光源110の発光面と、カバー140の表面との距離は、10~100mmの範囲内が好ましい。上記距離が10mm未満の場合、カバー140の下面が拡散部材120に接触してしまうおそれがある。一方、上記距離が100mm超の場合、カバー140の表面に到達する紫外線量が少なくなるため、所定の紫外線量となる紫外線の照射時間が長くなるおそれがある。
【0027】
なお、紫外線殺菌装置100は、接触式または非接触式で光源110が点灯および消灯するように構成されていてもよい。例えば、紫外線殺菌装置100が床に配置されており、かつ接触式の場合には、紫外線殺菌装置100に載ったときに、自動的に電源がONとなり光源110が点灯し、紫外線殺菌装置100から外れた時に自動的に電源がOFFとなり光源110が消灯する。また、紫外線殺菌装置100が床に配置されており、かつ非接触式の場合には、紫外線殺菌装置100の上部に手などをかざすことで、自動的に電源のONとOFFとを切り替えることができる。
【0028】
(紫外線殺菌装置の配光特性)
図3は、光源110を3つ点灯させたときの仮想平面上における紫外線の照度分布を示すグラフである。
図3の縦軸は、仮想平面上において、光源110を1つ点灯させたときの最大照度を1とした場合の相対照度を示している。
図3の横軸は、紫外線の仮想平面上の到達位置を示している。
図3の破線、一点鎖線および二点鎖線は、仮想平面上の各点における相対照度を光源ごとに分けて示しており、実線は、仮想平面上の各点における相対照度の合計値を示している。
【0029】
図3に示されるように、光源110から出射された、出射角度が比較的小さな紫外線は、第1出射面221で拡げられつつ、カバー140の表面に形成される被照射領域の中央部分(拡散部材120の中心軸CAの近傍の領域)に向かうように制御される。これにより、光源110から出射された紫外線は、カバー140の表面の中央部分に過度に明るい部分を作ることなくカバー140の表面の中央部分を均一に照射する。一方、光源110から出射された、出射角度の大きな紫外線は、集光されつつ、被照射領域の端部に向かうように制御される。これにより、光源110から出射された出射角度の大きな紫外線は、1灯当りの出射光によって照明されるべき被照射領域の端部に照射され、隣接する光源110の出射光による被照射領域と端部が重なり合ったときに、被照射領域の中央部分と同程度の明るさとなるように制御される。
【0030】
図3に示されるように、複数の光源110のうち1つの光源110から出射される紫外線の仮想平面における最大照度を1とした場合、仮想平面における紫外線の相対照度は、0.75~1.25の範囲内であることが好ましく、0.80~1.20の範囲内がより好ましい。仮想平面における紫外線の相対照度を上記の範囲内とすることで、カバー140の表面に殺菌対象物が接触したときに、適切に殺菌できる。このとき、カバー140の表面(仮想平面)上における紫外線の照度は、1~3mW/cm
2の範囲内である。このように、紫外線の照度を1~3mW/cm
2の範囲内にすることにより、安全性を確保しつつ、適切に殺菌できる。ここで、仮想平面において紫外線の相対照度が上記の条件を満たすか否かの判断と対象となるのは、複数の光源110のうち最も外側に配置された複数の光源により囲まれた領域に対応する仮想平面上の領域である。したがって、例えば最も外側に配置された光源110よりも外側に位置する領域における紫外線の照度は、1mW/cm
2未満でもよい。
【0031】
(仮想平面上における紫外線の照度のシミュレーション)
ここで、仮想平面上における紫外線の照度についてシミュレーションした。光源として、ピーク波長が280nmで、半値角が40°であるLED(NCSU334A;日亜化学工業株式会社)を使用した。拡散部材を使用する場合には、上述した拡散レンズ(透過率90%)を使用した。拡散部材から出射される紫外線の半値角は、50°であった。光源から出射された紫外線は半値角で円錐形に拡がり、かつ仮想平面における紫外線の照度は最大照度で均一であると仮定して計算した。なお、カバーの透過率は、100%とした。
【0032】
拡散部材を有さない場合、光源の発光面から25mm離れた仮想平面上における紫外線の照度は、3.97mW/cm2であった。大腸菌(Escherichia coli NBRC 3972)が99.9%不活化するために必要な紫外線の照射量は、9.8mJ/cm2であることが知られている。よって、上記の条件において、大腸菌を不活化するために必要な紫外線の照射時間は、9.8(mJ/cm2)/3.97(mW/cm2)≒2.5(秒)であることがわかる。
【0033】
拡散部材を有する場合、すなわち本実施の形態に係る紫外線殺菌装置では、光源の発光面から25mm離れた仮想平面上における紫外線の照度は、1.75mW/cm2であった。よって、大腸菌を不活化するために必要な紫外線の照射時間は、9.8(mJ/cm2)/1.75(mW/cm2)≒5.6(秒)であることがわかる。したがって、拡散部材を有さない場合と比較して、大腸菌を不活化するための紫外線の照射時間は長くなるが、紫外線殺菌装置の上に5~6秒間立ち止まるか、紫外線殺菌装置を大きくして、紫外線殺菌装置の上を5~6秒間歩くことで、靴の裏の大腸菌が十分に不活化されることがわかる。
【0034】
ここで、近紫外スペクトル領域(波長200~315nm、本説明では、280nm)において、保護されていない皮膚または目に対する放射線による被爆は、8時間を1期として、3.4mJ/cm2(3.4mWの場合には1秒間)を超えてはならないとされている。
【0035】
そこで、発光装置(拡散部材を有さない場合は光源単体、拡散部材を有する場合は光源および拡散部材の組み合わせ)の半値角と、紫外線の照射量が3.4mJ/cm
2となる紫外線の照射時間との関係について調べた。
図4は、発光装置の半値角と紫外線の必要照射時間との関係を示すグラフである。
図4において、横軸は光源の発光面からの距離であり、縦軸は紫外線の照射量が3.4mJ/cm
2となる紫外線の照射時間を示す。また、実線は発光装置の半値角が40°の場合(拡散部材無し)の結果を示しており、破線は発光装置の半値角が50°の場合の結果を示しており、一点鎖線は発光装置の半値角が60°の場合の結果を示しており、二点鎖線は発光装置の半値角が80°の場合の結果を示している。
【0036】
なお、光源の発光面から100cm離れた位置は、5歳児が立ったときの目の高さの目安である。この位置における紫外線の照度が3.4mJ/cm2となる紫外線の照射時間は、発光装置の半値角が40°の場合は1367秒であるのに対し、発光装置の半値角が50°の場合は3064秒である。また、光源の発光面から50cm離れた位置は、5歳児がしゃがんで床の物を取るときの目の高さの目安である。この位置における紫外線の照度が3.4mJ/cm2となる紫外線の照射時間は、発光装置の半値角が40°の場合は341秒であるのに対し、発光装置の半値角が50°の場合は766秒である。また、光源の発光面から10cm離れた位置は、5歳児が床に寝そべって肘をついたときの目の高さの目安である。この位置における紫外線の照度が3.4mJ/cm2となる紫外線の照射時間は、発光装置の半値角が40°の場合は13秒であるのに対し、発光装置の半値角が50°の場合は30秒である。
【0037】
図4に示されるように、拡散部材を配置し、半値角が50°であれば、靴の裏(光源の発光面から25mm以下)の大腸菌を5.6秒間で殺菌できる。また、人体に対しては、転倒した場合であっても30秒以内に起き上れば安全である。また、5歳児であれば、約50分間は、紫外線殺菌装置の上に立っていても安全である。なお、目の高さが110cmであれば、約1時間は安全である。拡散部材を配置しない状態(半値角は40°)と、拡散部材を配置した状態(半値角は50°)とを比較すると、紫外線の照度が3.4mJ/cm
2となる紫外線の照射時間は、約2倍異なる。一方で、半値角が80°となる拡散部材を配置した場合は、3.4mJ/cm
2となる紫外線の照射時間が非常に長くなるため、殺菌装置として適当ではない。よって、光源の発光面から25mm離れた仮想平面上における紫外線の照度が1~3mW/cm
2の範囲内となるように、所定の半値角を有する拡散部材を選択するとともに、所定の強さの光源を選択し、光源の発光面および仮想平面の間の距離を設定することが好ましい。
【0038】
(効果)
以上のように本発明によれば、仮想平面上における紫外線の照度を1~3mW/cm2の範囲内にしているため、安全性を確保しつつ、適切に殺菌できる。
【0039】
[実施の形態2]
(紫外線殺菌装置の構成)
本実施の形態の紫外線殺菌装置は、拡散部材320の構成が実施の形態1の紫外線殺菌装置100と異なる。そこで、本実施の形態では、主として拡散部材320の構成について説明する。
【0040】
図5A~Dは、本実施の形態に係る紫外線殺菌装置100における拡散部材(拡散レンズ)320の構成を示す図である。
図5Aは、拡散部材320の平面図であり、
図5Bは、底面図であり、
図5Cは、正面図であり、
図5Dは、
図5Aに示されるA-A線の断面図である。
【0041】
図5A~Dに示されるように、拡散部材320は、入射面210と、出射面420とを有する。拡散部材320は、入射面410および出射面420に加えて、フランジ230や脚部240などを有していてもよい。
図5A~Dに示されるように、本実施の形態の拡散部材320は、入射面410と、出射面420と、フランジ230と、複数の脚部240とを有する。
【0042】
入射面410は、光源110と対向して配置され、光源110から出射された紫外線を入射させる面である。入射面410の形状は、上記の機能を発揮できれば特に限定されない。入射面410の形状は、凹部404の内面でもよいし、平面でもよい。本実施の形態では、入射面410は、裏面202に形成された凹部404の内面である。入射面410は、拡散部材320の中心軸CA(光源110の光軸OA)と交わるように裏面402の中央部分に配置されている。入射面410は、拡散部材420の中心軸CAと交わり、中心軸CAを回転軸とした円対称である。
【0043】
出射面420は、入射面410で入射し、拡散部材320の内部を進行した紫外線を外部に出射させる面である。本実施の形態では、出射面420は、中心軸CAを中心とする所定範囲に位置する第1出射面421と、第1出射面421の周囲に連続して形成された第2出射面422とを有する。第1出射面421は、平面である。第2出射面422は、第1出射面421の周囲に位置する、表側に凸の滑らかな曲面である。出射面420の平面視形状は、特に限定されない。出射面420の平面視形状は、円形でもよいし、R面取りした略矩形でもよい。本実施の形態では、出射面420の平面視形状は、円形である。
【0044】
(紫外線殺菌装置の配光特性)
図6A、Bは、仮想平面上における紫外線の照度分布を示すグラフである。
図6Aは、光源110を3つ点灯させたときの照度分布を示しており、
図6Bは、光源110を5つ点灯させたときの照度分布を示している。
図6A、Bの縦軸は、仮想平面上において、光源110を1つ点灯させたときの最大照度を1とした場合の相対照度を示している。
図6A、Bの横軸は、紫外線の仮想平面上の到達位置を示している。
図6Aの破線、一点鎖線および二点鎖線は、仮想平面上の各点における相対照度を光源ごとに分けて示しており、実線は、仮想平面上の各点における相対照度の合計値を示している。
図6Bの細かい破線、普通の破線、大きな破線、一点鎖線および二点鎖線は、仮想平面上の各点における相対照度を光源ごとに分けて示しており、実線は、仮想平面上の各点における相対照度の合計値を示している。
【0045】
図6A、Bに示されるように、光源110から出射された、出射角度が比較的小さな紫外線は、第1出射面421で拡げられつつ、カバー140の表面に形成される被照射領域の中央部分(拡散部材320の中心軸CAの近傍の領域)に向かうように制御される。これにより、光源110から出射された紫外線は、カバー140の表面の中央部分に過度に明るい部分を作ることなくカバー140の表面の中央部分を均一に照射する。一方、光源110から出射された、出射角度の大きな紫外線は、集光されつつ、被照射領域の端部に向かうように制御される。これにより、光源110から出射された出射角度の大きな紫外線は、1灯当りの出射光によって照明されるべき被照射領域の端部に照射され、隣接する光源110の出射光による被照射領域と端部が重なり合ったときに、被照射領域の中央部分と同程度の明るさとなるように制御される。
【0046】
図6A、Bに示されるように、複数の光源110のうち1つの光源110から出射される紫外線の仮想平面における最大照度を1とした場合、仮想平面における紫外線の相対照度は、0.75~1.25の範囲内であることが好ましく、0.80~1.20の範囲内がより好ましい。仮想平面における紫外線の相対照度を上記の範囲内とすることで、カバー140の表面に殺菌対象物が接触したときに、適切に殺菌できる。このとき、カバー140の表面(仮想平面)上における紫外線の照度は、1~3mW/cm
2の範囲内である。このように、紫外線の照度を1~3mW/cm
2の範囲内にすることにより、安全性を確保しつつ、適切に殺菌できる。ここで、仮想平面において紫外線の相対照度が上記の条件を満たすか否かの判断と対象となるのは、複数の光源110のうち最も外側に配置された複数の光源により囲まれた領域に対応する仮想平面上の領域である。したがって、例えば最も外側に配置された光源110よりも外側に位置する領域における紫外線の照度は、1mW/cm
2未満でもよい。
【0047】
このように、出射面420の平面視形状が円形であっても、仮想平面上における紫外線の照度を1~3mW/cm2にできる。
【0048】
(効果)
以上のように本発明によれば、実施の形態1と同様の効果を有する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の紫外線殺菌装置は、例えば、病院や診療所などの殺菌が必要な場所に適用できる。
【符号の説明】
【0050】
100 紫外線殺菌装置
110 光源
120、320 拡散部材
130 基板
140 カバー
202、402 裏面
204、404 凹部
210、410 入射面
220、420 出射面
221、421 第1出射面
222、422 第2出射面
230 フランジ
240 脚部