(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073001
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】保護装置
(51)【国際特許分類】
G05B 9/02 20060101AFI20220510BHJP
H02P 29/024 20160101ALI20220510BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
G05B9/02 B
H02P29/024
G01L5/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182739
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(72)【発明者】
【氏名】増井 陽二
【テーマコード(参考)】
2F051
5H209
5H501
【Fターム(参考)】
2F051AA24
2F051AC07
5H209AA15
5H209BB07
5H209CC01
5H209DD05
5H209GG20
5H209HH04
5H209JJ03
5H209JJ05
5H209JJ07
5H209JJ09
5H501AA20
5H501BB08
5H501BB09
5H501JJ23
5H501JJ25
5H501JJ26
5H501LL32
5H501LL51
5H501MM04
(57)【要約】
【課題】回転駆動力が伝達される回転軸に生じるトルクを検出するトルク検出部を備える駆動装置を保護するための保護装置において、前記駆動装置に容易に実装できるとともに、トルク検出のノイズ等の影響を受けることなく前記駆動装置を精度良く保護可能な構成を提供する。
【解決手段】保護装置10は、回転駆動力を生じる電動モータ4と、前記回転駆動力によって回転する回転軸6と、回転軸6に生じるトルクを検出するトルク検出器7と、を備える試験装置1を保護するための装置である。保護装置10は、トルク検出器7によって検出された前記トルクに基づいて、前記トルクが所定値を超えた頻度が一定以上であるかどうかを検出するトルク飽和検出部20と、トルク飽和検出部20によって前記トルクが前記所定値を超えた頻度が一定以上であると検出された場合に、電動モータ4による回転軸6の回転を停止する停止信号を生成して出力する制御部70とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動力を生じる駆動源と、
前記回転駆動力によって回転する回転軸と、
前記回転軸に生じるトルクを検出するトルク検出部と、
を備える駆動装置を保護するための保護装置であって、
前記トルク検出部によって検出された前記トルクに基づいて、前記トルクが所定値を超えた頻度が一定以上であるかどうかを検出するトルク飽和検出部と、
前記トルク飽和検出部によって前記トルクが所定値を超えた頻度が一定以上であると検出された場合に、前記駆動源による前記回転軸の回転を停止する停止信号を生成して出力する制御部と、
を備えている、保護装置。
【請求項2】
請求項1に記載の保護装置において、
前記トルク飽和検出部は、前記トルク検出部によって検出されたトルクの移動平均と前記トルク検出部によるトルクの検出値との差分における最大値及び最小値の合計の絶対値が第1閾値以上の場合に、前記トルクが前記所定値を超えたと検出する、保護装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の保護装置において、
前記トルク検出部によって検出された前記トルクに基づいて、前記駆動装置において前記駆動源から前記回転軸に回転駆動力を伝達する結合部で歯打ちが生じているかどうかを検出する歯打ち検出部をさらに備える、保護装置。
【請求項4】
請求項3に記載の保護装置において、
前記歯打ち検出部は、前記トルク検出部によって検出されたトルクの実効値と移動平均との差分の絶対値が歯打ち閾値以上の場合に、前記結合部で歯打ちが生じていると検出する、保護装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載の保護装置において、
前記駆動源を含む制御対象に対する制御が有効であるかどうかを判定する制御有効判定部をさらに備え、
前記駆動装置は、
前記制御対象が有する複数の振動モードに対応して、前記トルク検出部の出力を入力側に負帰還させる複数のフィードバックループを備え、
前記複数のフィードバックループは、それぞれ、前記複数の振動モードから一部の振動モードを抽出するバンドパスフィルタ、位相補償部及び振幅調整部を有し、
前記バンドパスフィルタ及び前記位相補償部は、微分器として機能し、
前記制御有効判定部は、前記制御対象に対する操作量の位相と前記フィードバックループの負帰還の信号の位相との差、及び、前記負帰還の信号の振幅変化に基づいて、前記制御対象に対する制御が有効かどうかを判定する、保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源により生じる回転駆動力によって回転軸が回転する駆動装置を保護するための保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源により生じる回転駆動力によって回転軸に生じるトルクは、トルク検出部によって検出される。前記トルク検出部の出力に基づいて、所定の信号を検出する装置が知られている。このような装置として、例えば特許文献1には、物理量検出素子からの信号が入力され、検出信号を出力する検出回路と、異常診断回路とを備える物理量検出回路が開示されている。
【0003】
前記物理量検出回路では、前記異常診断回路は、前記検出回路の増幅回路よりも後段にある回路に入力される信号の大きさを監視する監視判定回路を有する。前記監視判定回路は、前記信号が飽和状態となった時に、ハイレベルになる信号を出力する。
【0004】
また、異常診断を行う異常診断装置として、例えば特許文献2には、サーボモータにより回転するボールねじを介して移動体を移動させる送り軸を有する機械において、前記送り軸の異常を診断する装置が開示されている。
【0005】
この装置では、前記送り軸の軸動作時に前記サーボモータの制御に係るサーボ情報を周波数解析することにより、前記送り軸の損傷周波数のピークの有無を確認して、該ピークがある場合には前記送り軸の異常と判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-183912号公報
【特許文献2】国際公開2018/025634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述の特許文献2に開示されている異常診断装置は、サーボ情報を周波数解析して、その解析結果を用いて異常発生の判断を行う。そのため、前記異常診断装置では、事前に、異常の際に生じる周波数情報を取得しておく必要があるとともに、周波数解析のデータ処理技術が必要になる。したがって、前記異常診断装置は、他の装置に容易に実装できないという問題がある。
【0008】
これに対し、上述の特許文献1に開示されている物理量検出回路は、他の装置に容易に実装できるものの、信号が飽和状態となった時点でハイレベルの信号を出力するため、前記信号がノイズ等によって一時的に飽和状態になった場合でも、前記ハイレベル信号を出力する。すなわち、特許文献1に開示されている物理量検出回路では、前記信号のノイズ等に対しても過敏に反応する可能性がある。
【0009】
よって、前記物理量検出回路を、例えばトルク検出部を備える駆動装置の保護装置に用いた場合、前記信号のノイズ等に応じて出力されるハイレベル信号に基づいて装置の駆動が頻繁に停止するなどのように、前記駆動装置を過剰に保護する可能性がある。また、この場合には、前記装置を停止する機会が増えるため、前記装置の稼働率が低下する可能性がある。
【0010】
このように、上述の特許文献1に開示されている物理量検出回路では、ノイズ等の影響を受けやすい。よって、トルク検出部を備える駆動装置を、過剰に保護することなく精度良く保護することが難しい。
【0011】
本発明の目的は、回転駆動力が伝達される回転軸に生じるトルクを検出するトルク検出部を備える駆動装置を保護するための保護装置において、前記駆動装置に容易に実装できるとともに、トルク検出のノイズ等の影響を受けることなく前記駆動装置を精度良く保護可能な構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態に係る保護装置は、回転駆動力を生じる駆動源と、前記回転駆動力によって回転する回転軸と、前記回転軸に生じるトルクを検出するトルク検出部と、を備える駆動装置を保護するための保護装置である。この保護装置は、前記トルク検出部によって検出された前記トルクに基づいて、前記トルクが所定値を超えた頻度が一定以上であるかどうかを検出するトルク飽和検出部と、前記トルク飽和検出部によって前記トルクが前記所定値を超えた頻度が一定以上であると検出された場合に、前記駆動源による前記回転軸の回転を停止する停止信号を生成して出力する制御部と、を備えている(第1の構成)。
【0013】
このようにトルク検出部によって検出されたトルクが所定値を超えた頻度が一定以上の場合に、駆動源による回転軸の回転を停止することにより、前記トルク検出部を含む駆動装置の構成部品に過剰なトルクが継続して作用するのを防止できる。よって、前記駆動装置を保護することができる。一方、前記トルク検出部によって検出されたトルクが一時的に所定値を超えた場合には駆動源による回転軸の回転を停止しないことにより、前記トルク検出部によって検出されるトルクの信号にノイズ等が含まれる場合でも、駆動装置を無駄に停止させることを防止できる。したがって、駆動装置を効率良く運用しつつ、前記トルク検出部を含む駆動装置の構成部品を精度良く保護することができる。
【0014】
しかも、上述の構成を有する保護装置では、オンラインで周波数解析等を用いることなく、駆動装置の異常を検出して駆動源による回転軸の回転を停止するため、前記駆動装置に容易に実装することができる。
【0015】
したがって、以上の構成により、駆動装置に容易に実装できるとともに、トルク検出のノイズ等の影響を受けることなく前記駆動装置を精度良く保護可能な保護装置を実現できる。
【0016】
前記第1の構成において、前記トルク飽和検出部は、前記トルク検出部によって検出されたトルクの移動平均と前記トルク検出部によるトルクの検出値との差分における最大値及び最小値の合計の絶対値が第1閾値以上の場合に、前記トルクが前記所定値を超えたと検出する(第2の構成)。
【0017】
これにより、トルク飽和検出部は、トルク検出部によって検出されたトルクが所定値を瞬間的に超えた場合には、トルクが前記所定値を超えたと検出しない。前記トルク飽和検出部は、前記トルク検出部によって検出されたトルクの移動平均とトルク検出値との差分を用いることにより、前記トルクが前記所定値を超えた頻度が一定以上の場合に、前記トルクが前記所定値を超えたと検出する。よって、前記トルク検出部によって検出されるトルクのノイズの影響を受けることなく、前記トルクが所定値を継続的に超えていることを精度良く検出できる。
【0018】
したがって、トルク検出のノイズ等の影響を受けることなく駆動装置を精度良く保護することができる。
【0019】
前記第1または第2の構成において、前記トルク検出部によって検出された前記トルクに基づいて、前記駆動装置において前記駆動源から前記回転軸に回転駆動力を伝達する結合部で歯打ちが生じているかどうかを検出する歯打ち検出部をさらに備える(第3の構成)。
【0020】
駆動装置が回転軸に回転駆動力を伝達する結合部を有し、該結合部が噛み合い部を有する場合、回転軸の回転方向の変化や回転駆動力の変化等によって、前記噛み合い部を構成する部材同士が接触及び離間を繰り返す歯打ち現象を生じる場合がある。このような歯打ち現象が生じた場合、駆動装置に過大な振動が生じる可能性がある。
【0021】
これに対し、上述の構成のように、駆動源によって生じる回転駆動力を回転軸に伝達する結合部の歯打ちを検出した場合に、前記駆動源による前記回転軸の回転を停止することにより、駆動装置で生じる振動が増大するのを防止できる。これにより、トルク検出部を含む駆動装置の構成部品を保護することができる。
【0022】
前記第3の構成において、前記歯打ち検出部は、前記トルク検出部によって検出されたトルクの実効値と移動平均との差分の絶対値が歯打ち閾値以上の場合に、前記結合部で歯打ちが生じていると検出する(第4の構成)。
【0023】
これにより、制御部は、結合部における歯打ちを精度良く検出できる。したがって、保護装置は、前記制御部によって前記結合部の歯打ちが検出された場合に、駆動源による回転軸の回転を停止することができる。よって、駆動装置を精度良く保護することができる。
【0024】
前記第1から第4の構成のうちいずれか一つの構成において、保護装置は、前記駆動源を含む制御対象に対する制御が有効であるかどうかを判定する制御有効判定部をさらに備える。前記駆動装置は、前記制御対象が有する複数の振動モードに対応して、前記トルク検出部の出力を入力側に負帰還させる複数のフィードバックループを備える。前記複数のフィードバックループは、それぞれ、前記複数の振動モードから一部の振動モードを抽出するバンドパスフィルタ、位相補償部及び振幅調整部を有する。前記バンドパスフィルタ及び前記位相補償部は、微分器として機能する。前記制御有効判定部は、前記制御対象に対する操作量の位相と前記フィードバックループの負帰還の信号の位相との差、及び、前記負帰還の信号の振幅変化に基づいて、前記制御対象に対する制御が有効かどうかを判定する(第5の構成)。
【0025】
これにより、保護装置は、駆動源を含む制御対象に対する制御が有効であるかどうかを判定することができる。よって、前記保護装置が前記駆動源による回転軸の回転を停止した場合に、前記制御対象に対する制御が有効であるかどうかを判定することにより、前記保護装置による停止の原因が、制御の有効及び無効に関係しているかを把握することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一実施形態に係る保護装置は、トルク検出部によって検出されたトルクに基づいて、前記トルクが所定値を超えた頻度が一定以上であると検出された場合に、前記駆動源による前記回転軸の回転を停止する制御部を備えている。これにより、駆動装置に容易に実装できるとともに、トルク検出のノイズ等の影響を受けることなく前記駆動装置を精度良く保護可能な保護装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る保護装置を備えた試験装置の概略構成を機能ブロックで示す図である。
【
図2】
図2は、制御装置及び保護装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、トルク飽和検出部の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】
図4は、歯打ち検出部の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図5】
図5は、トルク検出器の出力の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、トルク検出器の出力の移動平均、差分の最大値及び最小値の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、結合部の歯打ち現象が生じた際のトルク検出器の出力の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、トルク検出器の出力の移動平均、実効値、歯打ちフラグの一例を示す図である。
【
図9】
図9は、トルク飽和検出部からトルク飽和信号が出力された場合及び歯打ち検出部からトルク飽和信号が出力された場合の制御部の動作を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、制御効果判定部の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図11】
図11は、制御対象のステップ応答の信号波形の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、制御対象に対して1次の共振周波数のsin波を入力した場合の信号波形の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、制御対象の振動特性が非線形特性で変化した場合の信号波形の一例を示す図である。
【
図14】
図14は、トルク飽和検出部からトルク飽和信号が出力された場合及び歯打ち検出部からトルク飽和信号が出力された場合の制御装置の動作の変形例1を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、トルク飽和検出部からトルク飽和信号が出力された場合及び歯打ち検出部からトルク飽和信号が出力された場合の制御装置の動作の変形例2を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、トルク飽和検出部からトルク飽和信号が出力された場合及び歯打ち検出部からトルク飽和信号が出力された場合の制御装置の動作の変形例3を示すフローチャートである。
【
図17】
図17は、トルク飽和検出部からトルク飽和信号が出力された場合及び歯打ち検出部からトルク飽和信号が出力された場合の制御装置の動作の変形例4を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0029】
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係る保護装置10を備えた試験装置1(駆動装置)の概略構成を機能ブロックで示す図である。この試験装置1は、自動車のモータなどの供試体Mの特性を試験するための試験装置である。なお、試験装置1によって試験する供試体Mは、モータ以外の回転体であってもよい。
【0030】
具体的には、試験装置1は、制御装置2と、モータ駆動回路3と、電動モータ4(駆動源)と、結合部5と、回転軸6と、トルク検出器7(トルク検出部)とを備える。
【0031】
制御装置2は、入力指令であるモータトルク指令rと後述のフィードバック値とを用いて、モータ駆動回路3に対する駆動指令を生成する。制御装置2は、トルク検出器7の出力を用いてモータトルク指令rに対して負帰還する複数のフィードバックループ11,12を有する(
図2参照)。なお、制御装置2が前記駆動指令を生成する構成は、従来と同様であるため、制御装置2の詳しい説明は省略する。フィードバックループ11,12の構成については後述する。
【0032】
モータ駆動回路3は、特に図示しないが、複数のスイッチング素子を有する。モータ駆動回路3は、前記駆動指令に基づいて前記複数のスイッチング素子が駆動することにより、電動モータ4の図示しないコイルに電力を供給する。
【0033】
電動モータ4は、図示しない回転子及び固定子を有する。前記固定子のコイルにモータ駆動回路3から電力が供給されることにより、前記回転子が前記固定子に対して回転する。前記回転子は、結合部5及び回転軸6を介して、供試体Mに対し、供試体Mと一体で回転可能に連結されている。これにより、前記回転子の回転によって、電動モータ4から供試体Mにトルクを出力することができる。なお、電動モータ4の構成は、一般的なモータの構成と同様であるため、電動モータ4の詳しい説明は省略する。
【0034】
結合部5は、電動モータ4の回転子と回転軸6とを一体で回転可能に接続する。結合部5は、例えば、スプライン結合などの噛み合わせが可能な構造を含む。すなわち、結合部5は、噛み合い部を有する。なお、結合部は、回転軸6と供試体Mとの間に設けられていてもよい。また、試験装置1は、結合部を有していなくてもよい。この場合には、後述する保護装置10は、結合部の歯打ち現象を検出する歯打ち検出部を有していなくてもよい。
【0035】
トルク検出器7は、電動モータ4と供試体Mとを接続する回転軸6に設けられている。トルク検出器7は、回転軸6で生じるトルクを検出する。トルク検出器7によって検出されたトルクの出力は、制御装置2にフィードバックループ11,12(
図2参照)の入力値として入力されるとともに、後述する保護装置10に入力される。すなわち、トルク検出器7の出力は、フィードバック制御に用いられるとともに、試験装置1の保護制御に用いられる。なお、トルク検出器7の構成は、従来の構成と同様であるため、トルク検出器7の詳しい説明は省略する。
【0036】
上述のような構成を有する試験装置1は、電動モータ4、結合部5、回転軸6、トルク検出器7及び供試体Mを含む軸系の剛性によって、電動モータ4の回転時に機械共振(単に共振という)が生じる。供試体Mの試験において、前記共振が周波数の測定範囲内で発生した場合、トルク検出器7では、電動モータ4の出力トルクに前記共振の振動成分が加わったトルク(例えば軸トルク)が検出される。そのため、前記共振の振動成分を除去することが望まれる。
【0037】
これに対し、本実施形態において、制御装置2は、
図2に示すように、入力指令であるモータトルク指令rに対してトルク検出器7の出力をフィードバックする複数のフィードバックループ11,12を有する。すなわち、本実施形態の試験装置1は、制御装置2、モータ駆動回路3、電動モータ4、結合部5、回転軸6及びトルク検出器7を含み且つ供試体Mを含まない制御系によって、電動モータ4の駆動を制御する。
【0038】
なお、
図1及び
図2において、rはモータトルク指令としての目標値であり、yはトルク検出器7の出力である。
【0039】
また、
図2における符号Pは制御対象であり、本実施形態では、制御対象Pは、モータ駆動回路3、電動モータ4、結合部5、回転軸6及びトルク検出器7を含む。なお、制御対象Pには、電動モータ4と供試体Mとを接続する回転軸6のうち、電動モータ4からトルク検出器7までの範囲の部分も含む。
【0040】
複数のフィードバックループ11,12は、それぞれ、微分要素を含む微分フィードバック系である。複数のフィードバックループ11,12には、それぞれ、トルク検出器7の出力が入力される。フィードバックループ11は、バンドパスフィルタ51と、位相補償部52と、振幅調整部53とを有する。フィードバックループ12は、バンドパスフィルタ61と、位相補償部62と、振幅調整部63とを有する。
【0041】
なお、フィードバックループ11のバンドパスフィルタ51は、フィードバックループ12のバンドパスフィルタ61と同様の構成を有する。フィードバックループ11の位相補償部52は、フィードバックループ12の位相補償部62と同様の構成を有する。フィードバックループ11の振幅調整部53は、フィードバックループ12の振幅調整部63と同様の構成を有する。
【0042】
後述するように、フィードバックループ11とフィードバックループ12とは、トルク検出器7の出力のうち、通過する信号の帯域が異なる。
【0043】
バンドパスフィルタ51,61は、微分要素の一部を構成する。バンドパスフィルタ51,61は、従来の微分器におけるハイパスフィルタと同様の機能を有し、高周波のノイズをカットするローパスフィルタの機能も有する。
【0044】
位相補償部52,62は、微分要素の一部を構成する。位相補償部52,62は、従来の微分器における位相調整と同様の機能を有する。位相補償部52,62は、共振によって生じる振動を抑制する信号(振動抑制信号)を生成する際に、位相進み補償及び位相遅れ補償の両方の機能を有する。位相補償部52,62は、位相進み補償または位相遅れ補償として、振動抑制信号の位相を任意の位相に調整できる。
【0045】
このように位相補償部52,62によって振動抑制信号の位相を任意の位相に調整できることにより、むだ時間の位相も考慮する場合には、振動抑制信号の位相を容易に設定できる。
【0046】
バンドパスフィルタ51及び位相補償部52は、フィードバックループ11の微分要素を構成する。バンドパスフィルタ61及び位相補償部62は、フィードバックループ12の微分要素を構成する。
【0047】
振幅調整部53,63は、振動抑制信号のゲインを調整する。すなわち、振幅調整部53,63は、振動抑制信号の振幅を調整する。
【0048】
以上の構成により、フィードバックループ11では、フィードバックする信号の位相及び振幅が調整されることにより、共振によって生じる振動を抑制する振動抑制信号が生成される。同様に、フィードバックループ12でも、フィードバックする信号の位相及び振幅が調整されることにより、共振によって生じる振動を抑制する振動抑制信号が生成される。
【0049】
複数のフィードバックループ11,12は、それぞれ、各振動モードの共振周波数における振動を抑制するように構成されている。複数のフィードバックループ11,12におけるバンドパスフィルタ51,61は、それぞれ異なる振動モードを抽出可能なように、異なる帯域の信号を通過可能に構成されている。
【0050】
また、複数のフィードバックループ11,12において、位相補償部52,62は、該位相補償部52,62と同じフィードバックループ11,12のバンドパスフィルタ51,61によって抽出された振動モードの共振周波数における振動を抑制するように、振動抑制信号の位相を調整する。
【0051】
複数のフィードバックループ11,12において、振幅調整部53,63は、該振幅調整部53,63と同じフィードバックループ11,12のバンドパスフィルタ51,61によって抽出された振動モードの共振周波数における振動を抑制するように、振動抑制信号の振幅を調整する。
【0052】
これにより、複数のフィードバックループ11,12によって、各振動モードの共振周波数での振動を抑制することができる。よって、複数の振動モードを有する制御対象Pの各振動モードの共振周波数における振動を抑制することができる。
【0053】
また、上述のような構成を有する試験装置1は、電動モータ4、結合部5、回転軸6、トルク検出器7及び供試体Mを含む軸系に生じる共振、及び、電動モータ4及び供試体Mに生じるリップルにより、トルク検出器7によって検出されるトルクが変動する。
【0054】
トルク検出器7によって測定されるトルクが定格の測定値を超えている場合には、トルク検出器7を保護するために、試験装置1の電動モータ4の駆動を停止するのが好ましい。しかしながら、トルク検出器7によって検出されるトルクは、ノイズ等の影響によって、定格の測定値を一時的に超える場合がある。このような場合でも試験装置1の電動モータ4の駆動を停止すると、試験装置1の稼働率が低下する。
【0055】
また、上述のような構成を有する試験装置1は、例えば、電動モータ4及び供試体Mに生じるリップル等によって、結合部5の噛み合い部のバックラッシュに起因した歯打ち現象が生じる場合がある。このような歯打ち現象が生じた場合、過大な振動が生じて、トルク検出器7の負荷が増大する可能性がある。
【0056】
これに対し、本実施形態の試験装置1は、保護装置10を有する。この保護装置10は、上述のようにトルク検出器7に負荷がかかった際に、試験装置1の電動モータ4の駆動を停止することにより、トルク検出器7を保護する。
【0057】
具体的には、保護装置10は、トルク飽和検出部20と、歯打ち検出部30と、制御効果判定部40と、制御部70とを有する。
図3は、トルク飽和検出部20の概略構成を示す機能ブロック図である。
図4は、歯打ち検出部30の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0058】
トルク飽和検出部20は、トルク検出器7の出力yを用いて、該出力yが所定値を超えた頻度が一定以上かどうかを検出する。詳しくは、
図3に示すように、トルク飽和検出部20は、移動平均算出部21と、差分算出部22と、差分範囲算出部23と、実効値算出部24と、トルク飽和信号出力部25とを有する。
【0059】
図5は、トルク検出器7の出力の一例を示す図である。この
図5に示す例では、トルク検出器7の出力は、許容値(縦軸の“X”)を超えている。トルク飽和検出部20は、トルク検出器7の出力yが、前記所定値である許容値を超えた頻度が一定以上かどうかを検出する。なお、前記許容値は、トルク検出器7の定格であってもよいし、トルク検出器7の定格よりも低い値であってもよい。
【0060】
移動平均算出部21は、トルク検出器7の出力yを用いて、該出力yの移動平均ymovementを求める。具体的には、移動平均算出部21は、所定時間内におけるトルク検出器7の出力y、または、トルク検出器7の所定数の出力yを用いて、それらの移動平均ymovementを求める。なお、移動平均ymovementの求め方は、従来と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0061】
差分算出部22は、トルク検出器7の出力yと移動平均算出部21によって算出された移動平均y
movementとの差分y
ACを求める。差分範囲算出部23は、差分算出部22によって算出された差分y
ACの最大値y
ACMAX及び最小値y
ACMINを一定周期毎に求め、最大値y
ACMAX及び最小値y
ACMINの和y
ACMAX+y
ACMINの絶対値を求める。なお、
図6は、トルク検出器7の出力yの移動平均y
movement、差分y
ACの最大値y
ACMAX及び最小値y
ACMINの一例を示す図である。
【0062】
実効値算出部24は、差分範囲算出部23によって算出された差分yACの最大値yACMAX及び最小値yACMINの和の絶対値が第1閾値T1以上の場合、差分フラグFLAGDiffを1にする一方、前記絶対値が第1閾値T1よりも小さい場合には、差分フラグFLAGDiffを0にする。実効値算出部24は、(1)式を用いて、差分フラグFLAGDiffの実効値FLAGRMSを求める。
【0063】
【0064】
なお、Nは、実効値を求めるデータ数である。このデータ数は、サンプリング時間及び共振周波数に応じて決定される。
【0065】
図5には、差分フラグFLAG
Diffの一例を太実線で示す。
図5に示す例では、トルク検出器7の出力yが前記所定値を超えた頻度が一定以上であるため、差分フラグFLAG
Diffは、1である。
【0066】
トルク飽和信号出力部25は、実効値算出部24によって算出された差分フラグFLAGDiffの実効値FLAGRMSが第2閾値T2以上の場合に、トルク飽和信号を出力し、差分フラグFLAGDiffの実効値FLAGRMSが第2閾値T2よりも小さい場合には、トルク飽和信号を出力しない。
【0067】
以上の構成により、トルク検出器7によって検出されたトルクが所定値を超えた頻度が一定以上であるかどうかを検出することができる。トルク飽和検出部20によってトルクが所定値を超えた頻度が一定以上であると検出された場合に出力されるトルク飽和信号は、制御部70に入力される。制御部70にトルク飽和信号が入力されると、制御部70において、電動モータ4の駆動を停止する停止信号が生成される。生成された停止信号が制御装置2に入力されると、制御装置2は電動モータ4の駆動を停止する。このように、トルク飽和検出部20の検出結果に応じて、試験装置1の電動モータ4の駆動を制御することができる。
【0068】
しかも、トルク飽和検出部20が上述の構成を有することにより、トルク検出器7の出力yが瞬間的に前記所定値を超えた場合でも、トルク飽和検出部20においてトルク飽和信号は生成されないため、試験装置1の稼働率の低下を抑制できる。
【0069】
歯打ち検出部30は、トルク検出器7の出力yを用いて、結合部5の歯打ち現象を検出する。詳しくは、
図4に示すように、歯打ち検出部30は、移動平均算出部31と、実効値算出部32と、差分算出部33と、歯打ち信号出力部34とを有する。
【0070】
図7は、結合部5の歯打ち現象が生じた際のトルク検出器7の出力yの一例を示す図である。この
図7に示す例では、トルク検出器7の出力yは、大きく振幅している。
【0071】
移動平均算出部31は、トルク飽和検出部20の移動平均算出部21と同様、トルク検出器7の出力yを用いて、該出力yの移動平均ymovementを求める。なお、トルク飽和検出部20及び歯打ち検出部30は、一つの移動平均算出部を用いて、トルク検出器7の出力yの移動平均ymovementを求めてもよい。
【0072】
実効値算出部32は、トルク検出器7の出力yの実効値yRMSを求める。実効値算出部32は、トルク飽和検出部20の実効値算出部24とは実効値を求める対象が異なるものの、実効値算出部24と同様の方法によって、トルク検出器7の出力yの実効値yRMSを求める。
【0073】
差分算出部33は、実効値算出部32によって算出された実効値yRMSと、移動平均算出部31によって算出された移動平均ymovementとの差分ymovement-yRMSの絶対値を算出する。
【0074】
歯打ち信号出力部34は、差分算出部33によって算出された差分ymovement-yRMSの絶対値が歯打ち閾値T3以上の場合に、歯打ちフラグを1にする一方、差分ymovement-yRMSの絶対値が歯打ち閾値T3よりも小さい場合に、歯打ちフラグを0にする。歯打ち信号出力部34は、歯打ちフラグが1のときに、歯打ち信号を生成して出力する。
【0075】
なお、
図8は、トルク検出器7の出力yの移動平均y
movement、実効値y
RMS、歯打ちフラグの一例を示す図である。
図8に示す例では、実効値y
RMSと移動平均y
movementとの差分y
movement-y
RMSの絶対値が歯打ち閾値T3を超えているため、歯打ちフラグが1になっている。
【0076】
以上の構成により、結合部5の歯打ち現象が生じたことを、歯打ち検出部30によって検出することができる。歯打ち検出部30によって結合部5の歯打ち現象が検出された場合に出力される歯打ち信号は、制御部70に入力され、制御部70において、電動モータ4の駆動を停止する停止信号が生成される。生成された停止信号が制御装置2に入力されると、制御装置2は電動モータ4の駆動を停止する。このように、歯打ち検出部30の検出結果に応じて、試験装置1の電動モータ4の駆動を制御することができる。
【0077】
トルク飽和検出部20からトルク飽和信号が出力された場合及び歯打ち検出部30から歯打ち信号が出力された場合の制御部70の動作を、
図9を用いて説明する。
【0078】
図9に示すように、フローがスタートすると(START)、ステップSA1において、制御部70は、トルク飽和検出部20からトルク飽和信号が出力されているか、または、歯打ち検出部30から歯打ち信号が出力されているかを判定する。
【0079】
いずれかの信号が出力されていると判定された場合(ステップSA1においてYESの場合)には、制御部70は、電動モータ4の駆動を停止する停止信号を生成して、制御装置2に出力する(ステップSA2)。これにより、制御装置2は、電動モータ4の駆動を停止する。その後、このフローを終了する(END)。
【0080】
一方、いずれの信号も出力されていないと判定された場合(ステップSA1においてNOの場合)には、制御部70は、ステップSA1の判定を再度行う。
【0081】
このようにトルク検出器7によって検出されたトルクが所定値を超えた頻度が一定以上の場合に、電動モータ4に駆動を停止することにより、トルク検出器7を含む試験装置1の構成部品に過剰なトルクが継続して作用するのを防止できる。よって、試験装置1を保護することができる。一方、トルク検出器7によって検出されたトルクが一時的に所定値を超えた場合には電動モータ4の駆動を停止しないことにより、トルク検出器7によって検出されるトルクの信号にノイズ等が含まれる場合でも、試験装置1を無駄に停止させることを防止できる。したがって、試験装置1を効率良く運用しつつ、トルク検出器7を含む試験装置1の構成部品を精度良く保護することができる。
【0082】
また、電動モータ4によって生じる回転駆動力を回転軸6に伝達する結合部5の歯打ちを検出した場合に、電動モータ4による回転軸6の回転を停止することにより、試験装置1に生じる振動が増大するのを防止できる。これにより、トルク検出器7を含む試験装置1の構成部品を保護することができる。
【0083】
しかも、本実施形態の保護装置10では、オンラインで周波数解析等を用いることなく、試験装置1の異常を検出して電動モータ4による回転軸6の回転を停止するため、試験装置1に容易に実装することができる。
【0084】
したがって、以上の構成により、試験装置1に簡単に実装しやすく、トルク検出のノイズ等の影響を受けることなく試験装置1を精度良く保護可能な保護装置10を実現できる。
【0085】
本実施形態の保護装置10は、制御効果判定部40を有する。この制御効果判定部40は、制御対象Pに対する制御が有効であるかどうかを判定する。
図10は、制御効果判定部40の概略構成を示す機能ブロック図である。制御効果判定部40は、
図10に示すように、位相比較部41と、振幅判定部42と、判定信号生成部43とを有する。制御効果判定部40には、制御装置2の操作信号及びフィードバック信号(以下、FB信号という)が入力される。
【0086】
位相比較部41は、制御効果判定部40に入力された操作信号の位相とFB信号の位相とを比較する。特に図示しないが、位相比較部41は、前記操作信号の位相と前記FB信号の位相とを比較する際には、前記操作信号の位相として、前記FB信号を生成するフィードバックループのバンドパスフィルタと同じ特性を有するバンドパスフィルタを用いて操作信号から抽出された信号の位相を用いる。
【0087】
位相比較部41は、前記操作信号の位相と前記FB信号の位相との差が所定範囲内であるかどうかを判定する。前記所定範囲は、例えば、前記操作信号がゼロクロスする時間と前記FB信号がゼロクロスする時間との差が、所望の時間内の場合である。
【0088】
前記所望の時間は、例えば以下のように求められる。共振周波数の周期を1/Fとすると、1周期で2回ゼロクロスを生じるため、1/2Fに一度ゼロクロスを検出する。検出時間のずれの許容を50%とすると、前記所望の時間は0.5/2Fである。
【0089】
なお、以下の説明において、前記操作信号の位相と前記FB信号の位相との差が前記所定範囲内の場合には、前記操作信号の位相と前記FB信号の位相とが同じ位相であるともいう。
【0090】
図2に示すようなフィードバックループを有する制御装置2の構成では、同じ特性を有するバンドパスフィルタを用いて抽出された操作信号の位相とFB信号の位相とは、同じ位相である。そのため、位相比較部41によって、前記操作信号の位相と前記FB信号の位相とを比較し、それらの位相が異なる場合には、制御対象Pに対する制御装置2の制御が有効ではないと判断することができる。
【0091】
振幅判定部42は、FB信号の振幅の減衰を判定する。振幅判定部42は、FB信号の振幅の変化を検出して、該振幅が変化しないまたは減少しているかどうかを判定する。
【0092】
判定信号生成部43は、位相比較部41によって前記操作信号の位相と前記FB信号の位相とが同じ位相であると判定され、且つ、振幅判定部42によって前記FB信号の振幅が維持または減衰していると判定された場合には、制御対象Pに対する制御装置2の制御は有効であるという判定信号を生成する。
【0093】
図11は、制御対象Pのステップ応答の信号波形の一例を示す図である。
図11に示す例では、操作信号及びFB信号のゼロクロスのタイミングが近く、且つ、それらの信号の振幅が減衰している。よって、
図11に示す例では、判定信号生成部43は、制御対象Pに対する制御装置2の制御は有効であるという判定信号を生成する。
【0094】
図12は、制御対象Pに対して1次の共振周波数のsin波を入力した場合の信号波形の一例を示す図である。
図12に示す例では、操作信号及びFB信号のゼロクロスのタイミングが近く、且つ、それらの信号の振幅は維持されている。よって、
図12に示す例では、判定信号生成部43は、制御対象Pに対する制御装置2の制御は有効であるという判定信号を生成する。
【0095】
判定信号生成部43は、位相比較部41によって前記操作信号の位相と前記FB信号の位相とが同じ位相であると判定され、且つ、振幅判定部42によって前記FB信号の振幅が増大していると判定された場合には、制御対象Pに対する制御装置2の制御は有効であるが、振動が増大しているという判定信号を生成する。
【0096】
判定信号生成部43は、位相比較部41によって前記操作信号の位相と前記FB信号の位相とが同じ位相でないと判定され、且つ、振幅判定部42によって前記FB信号の振幅が維持または減衰していると判定された場合には、制御対象Pに生じている振動がフィードバックループとは別の周波数の振動であるため、制御装置2による制御の対象外であるという判定信号を生成する。
【0097】
判定信号生成部43は、位相比較部41によって前記操作信号の位相と前記FB信号の位相とが同じ位相でないと判定され、且つ、振幅判定部42によって前記FB信号の振幅が増大していると判定された場合には、振動が増大しており制御対象Pの振動特性が変化している可能性があるという判定信号、すなわち、制御対象Pに対する制御装置2の制御は有効ではないという判定信号を生成する。
【0098】
判定信号生成部43によって生成された判定信号は、制御部70に入力される。制御部70は、入力された判定信号を、図示しない出力装置に対して出力信号として出力する。これにより、制御対象Pに対する制御装置2の制御が有効であるかどうかを出力することができる。なお、前記判定信号は、制御装置2に入力されて制御装置2の制御信号の生成に用いられてもよい。
【0099】
図13は、制御対象Pの振動特性が非線形特性で変化した場合の信号波形の一例を示す図である。
図13に示す例では、操作信号及びFB信号のゼロクロスのタイミングが大きく異なっており、且つ、それらの振幅も増大している。よって、
図13に示す例では、判定信号生成部43は、制御対象Pに対する制御装置2の制御は有効でないという判定信号を生成する。
【0100】
以上の構成により、保護装置10は、電動モータ4を含む制御対象Pに対する制御が有効であるかどうかを判定することができる。よって、保護装置10が電動モータ4の駆動を停止した場合に、制御対象Pに対する制御が有効であるかどうかを判定することにより、保護装置10による電動モータ4の駆動停止の原因が、制御対象Pに対する制御の有効及び無効に関係しているかを把握することができる。
【0101】
しかも、制御効果判定部40の判定結果と制御対象Pに対する制御の他の判定結果とを組み合わせることにより、保護装置10による電動モータ4の駆動停止の原因究明に利用することもできる。
【0102】
(変形例1)
上述の実施形態において、トルク飽和検出部20からトルク飽和信号が出力された場合及び歯打ち検出部30から歯打ち信号が出力された場合の制御部70の動作の変形例1を、
図14を用いて説明する。この変形例では、トルク飽和信号及び歯打ち信号が出力された場合に、制御部70は、電動モータ4の駆動を停止する停止信号を生成する。
【0103】
図14に示すように、フローがスタートすると(START)、ステップSB1において、制御部70は、トルク飽和信号及び歯打ち信号の両方が出力されているかを判定する。
【0104】
トルク飽和信号及び歯打ち信号の両方の信号が出力されていると判定された場合(ステップSB1においてYESの場合)には、制御部70は、電動モータ4の駆動を停止する停止信号を生成して、制御装置2に出力する(ステップSB2)。これにより、制御装置2は、電動モータ4の駆動を停止する。その後、このフローを終了する(END)。
【0105】
一方、トルク飽和信号及び歯打ち信号の両方の信号が出力されていないと判定された場合(ステップSB1においてNOの場合)、すなわち、トルク飽和信号及び歯打ち信号のいずれも出力されていないか、いずれか一方の信号のみが出力されている場合には、制御部70は、ステップSB1の判定を再度行う。
【0106】
これにより、保護装置10は、トルク検出器7により大きな負荷がかかった状態で、電動モータ4の駆動を停止することができる。よって、電動モータ4が頻繁に駆動停止するのをより確実に防止できる。
【0107】
(変形例2)
制御部70の動作の変形例2を、
図15を用いて説明する。この変形例では、トルク飽和信号が出力された場合、歯打ち信号が出力された場合、または、判定信号が出力された場合のいずれかにおいて、制御部70は、電動モータ4の駆動を停止する停止信号を生成する。
【0108】
前記判定信号は、前記トルク飽和信号及び前記歯打ち信号以外の信号であり、且つ、トルク検出器7の負荷を推定可能な信号である。本実施形態では、前記判定信号は、制御効果判定部40が出力する信号である。
【0109】
図15に示すように、フローがスタートすると(START)、ステップSC1において、制御部70は、トルク飽和信号が出力されているか、歯打ち信号が出力されているか、判定信号が出力されているかを判定する。
【0110】
いずれかの信号が出力されていると判定された場合(ステップSC1においてYESの場合)には、制御部70は、電動モータ4の駆動を停止する停止信号を生成して、制御装置2に出力する(ステップSC2)。これにより、制御装置2は、電動モータ4の駆動を停止する。その後、このフローを終了する(END)。
【0111】
一方、いずれの信号も出力されていないと判定された場合(ステップSC1においてNOの場合)には、制御部70は、ステップSC1の判定を再度行う。
【0112】
これにより、保護装置10は、トルク検出器7の負荷の増大に応じて、電動モータ4の駆動をより確実に停止することができる。
【0113】
(変形例3)
制御部70の動作の変形例3を、
図16を用いて説明する。この変形例では、制御部70は、トルク飽和信号が出力された場合または歯打ち信号が出力された場合に、電動モータ4の駆動を停止する停止信号を生成し、判定信号が出力された場合にも、前記停止信号を生成する。
【0114】
図16に示すように、フローがスタートすると(START)、ステップSD1において、制御部70は、トルク飽和信号が出力されているか、歯打ち信号が出力されているかを判定する。
【0115】
いずれかの信号が出力されていると判定された場合(ステップSD1においてYESの場合)には、制御部70は、電動モータ4の駆動を停止する停止信号を生成して、制御装置2に出力する(ステップSD3)。これにより、制御装置2は、電動モータ4の駆動を停止する。その後、このフローを終了する(END)。
【0116】
一方、いずれの信号も出力されていないと判定された場合(ステップSD1においてNOの場合)には、ステップSD2に進んで、制御部70は、判定信号が出力されているかを判定する。
【0117】
判定信号が出力されていると判定された場合(ステップSD2においてYESの場合)には、制御部70は、電動モータ4の駆動を停止する停止信号を生成して、制御装置2に出力する(ステップSD3)。これにより、制御装置2は、電動モータ4の駆動を停止する。その後、このフローを終了する(END)。
【0118】
一方、判定信号が出力されていないと判定された場合(ステップSD1においてNOの場合)には、制御部70は、ステップSD1の判定を再度行う。
【0119】
これにより、保護装置10は、トルク検出器7の負荷の増大に応じて、電動モータ4の駆動をより確実に停止することができる。
【0120】
(変形例4)
制御部70の動作の変形例4を、
図17を用いて説明する。この変形例では、制御部70は、トルク飽和信号が出力された場合または歯打ち信号が出力された場合に、電動モータ4の駆動を停止し、上位のコントローラに信号を出力する。
【0121】
図17に示すように、フローがスタートすると(START)、ステップSE1において、制御部70は、トルク飽和信号が出力されているか、歯打ち信号が出力されているかを判定する。
【0122】
いずれかの信号が出力されていると判定された場合(ステップSE1においてYESの場合)には、制御部70は、電動モータ4の駆動を停止する停止信号を生成して、制御装置2に出力する(ステップSE2)。これにより、制御装置2は、電動モータ4の駆動を停止する。続くステップSE3で、制御部70は、上位のコントローラに対して停止を通知する信号を出力する。その後、このフローを終了する(END)。
【0123】
一方、いずれの信号も出力されていないと判定された場合(ステップSE1においてNOの場合)には、制御部70は、ステップSE1の判定を再度行う。
【0124】
これにより、制御部70は、電動モータ4の駆動停止を上位のコントローラに通知することができる。
【0125】
なお、前記実施形態の構成や他の変形例の構成においても、この変形例のように、制御部70は、電動モータ4の駆動を停止した後に、上位のコントローラに対して、電動モータ4の駆動の停止を通知する信号を出力してもよい。
【0126】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0127】
前記実施形態では、制御装置2は、2つのフィードバックループを有する。しかしながら、制御装置は、3つ以上のフィードバックループを有していてもよい。
【0128】
前記実施形態において、制御装置2は、サーボ制御やフィードフォワード制御などの他の制御を行ってもよい。また、制御装置2は、むだ時間制御などを行ってもよい。
【0129】
前記実施形態では、制御対象Pは、モータ駆動回路3、電動モータ4及びトルク検出器7を含む。しかしながら、制御対象は、他の構成を含んでいてもよいし、他の構成を有する軸系を含んでいてもよい。
【0130】
前記実施形態では、制御装置2のフィードバックループ11,12は、バンドパスフィルタ51,61と、位相補償部52,62と、振幅調整部53,63とを有する。しかしながら、制御装置のフィードバックループは、他の構成を含んでいてもよい。また、制御装置は、フィードバックループを有していなくてもよい。
【0131】
前記実施形態では、保護装置10は、トルク飽和検出部20と、歯打ち検出部30と、制御効果判定部40とを有する。しかしながら、保護装置は、歯打ち検出部を有していなくてもよい。この場合には、保護装置は、トルク飽和検出部によってトルク検出器の出力が所定値を超えた頻度が一定以上の場合に、電動モータの駆動を停止する。また、保護装置は、制御効果判定部を有していなくてもよい。この場合には、制御装置は、フィードバックループを有していなくてもよい。
【0132】
前記実施形態では、保護装置10は、試験装置1のトルク検出器7を保護するように、電動モータ4の駆動を制御する。しかしながら、保護装置は、試験装置のトルク検出器以外の構成部品を保護するように、電動モータの駆動を制御してもよい。
【0133】
前記実施形態では、移動平均算出部21,31は、トルク検出器7の出力yを用いて、該出力yの移動平均ymovementを求める。しかしながら、移動平均算出部の代わりに、バイパスフィルタによってトルク検出器の出力のDC成分をカットしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明は、駆動源によって回転軸に生じるトルクを検出するトルク検出部を備えた駆動装置を保護するための保護装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0135】
1 試験装置(駆動装置)
2 制御装置
3 モータ駆動回路
4 電動モータ(駆動源)
5 結合部
6 回転軸
7 トルク検出器(トルク検出部)
10 保護装置
11、12 フィードバックループ
20 トルク飽和検出部
21、31 移動平均算出部
22、33 差分算出部
23 差分範囲算出部
24、32 実効値算出部
25 トルク飽和信号出力部
30 歯打ち検出部
34 歯打ち信号出力部
40 制御効果判定部
41 位相比較部
42 振幅判定部
43 判定信号生成部
51、61 バンドパスフィルタ
52、62 位相補償部
53、63 振幅調整部
70 制御部
M 供試体