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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073075
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】グラスラン
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/24 20060101AFI20220510BHJP
   B60J 10/76 20160101ALI20220510BHJP
   B29C 48/12 20190101ALI20220510BHJP
【FI】
C08J3/24 A
B60J10/76
B29C48/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182845
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000196107
【氏名又は名称】西川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉田 幸直
【テーマコード(参考)】
3D201
4F070
4F207
【Fターム(参考)】
3D201AA37
3D201AA40
3D201CA19
3D201DA05
3D201DA31
3D201EA01C
3D201FA01
3D201FA04
4F070AA13
4F070AA16
4F070AB07
4F070AC13
4F070AC22
4F070AC23
4F070AC27
4F070AE01
4F070GA01
4F070GB03
4F070GC07
4F207AA03
4F207AA04
4F207AA07
4F207AH18
4F207AR01
4F207KA01
4F207KA17
4F207KA20
4F207KM15
4F207KW41
(57)【要約】
【課題】グラスランの軽量化を図るとともに、生産性及び耐久性に優れたグラスランを提供する。
【解決手段】押出成形により形成された押出成形部と、前記押出成形部に接続される接続部とを備えたグラスランであって、前記押出成形部は、シラン架橋を施したエチレン-α-オレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aで形成された部分と、シラン架橋を施さない熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物Bで形成された部分とを含み、前記接続部は、樹脂組成物Cにより形成された部分を含み、80℃雰囲気下での50%の引張伸長において、前記接続部の引張応力と前記押出成形部の引張応力とが同等、又はそれ以下であり、且つ、80℃雰囲気下での200%の引張伸長の引張応力が、前記50%の引張伸長の引張応力の1.3倍以下であるグラスラン。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出成形により形成された押出成形部と、前記押出成形部に接続される接続部とを備えたグラスランであって、
前記押出成形部は、シラン架橋を施したエチレン-α-オレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aで形成された部分と、シラン架橋を施さない熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物Bで形成された部分とを含み、
前記接続部は、樹脂組成物Cにより形成された部分を含み、80℃雰囲気下での50%の引張伸長において、前記接続部の引張応力が、前記押出成形部の引張応力と同等、又はそれ以下であり、且つ、80℃雰囲気下での200%の引張伸長の引張応力が、前記50%の引張伸長の1.3倍以下であるグラスラン。
【請求項2】
前記接続部の切断時の引張応力は、前記50%の引張伸長における引張応力の2倍以下である請求項1に記載のグラスラン。
【請求項3】
前記樹脂組成物Cは、ポリエチレン系樹脂の含有量が25~55質量%の熱可塑性エラストマーを含む請求項1又は2に記載のグラスラン。
【請求項4】
前記ポリエチレン系樹脂が直鎖状低密度ポリエチレンである請求項3に記載のグラスラン。
【請求項5】
車両のドアに設けられた枠体に沿って取付けられ、昇降するドアガラスを溝部に案内する、車外側側壁部と、車内側側壁部と、前記車外側側壁部と前記車内側側壁部を連結する基底壁部からなる本体部と、
前記車外側側壁部側から内方に向けて突設され、前記ドアガラスの車外側面に摺接する車外側リップ部と、
前記車内側側壁部側から内方に向けて突設され、前記ドアガラスの車内側面に摺接する車内側リップ部を備え、
前記押出成形部における、前記車外側リップ部と前記車内側リップ部が、前記樹脂組成物Aで形成した部分であり、
前記押出成形部における、前記本体部が、前記樹脂組成物Bで形成した部分である請求項1~4のいずれか一項に記載のグラスラン。
【請求項6】
前記車外側リップ部及び前記車内側リップ部を形成する前記樹脂組成物Aは、無機フィラーを含有しない請求項5に記載のグラスラン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラスランに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の車体開口部の周縁部におけるシール性、遮音性等の向上を図るために、様々な構造及び材質のグラスランの研究・開発が進められている。
【0003】
グラスランとは、自動車ドアのウインドフレームとウインドガラスとの間をシールするシール材である。
【0004】
また、グラスランの材質として、従来は、柔軟性に優れる加硫ゴムが用いられていたが、軽量化、リサイクル化、加硫不要による工程簡略化などといった理由から、熱可塑性エラストマー(TPE)が検討されている。そして、グラスランは、目的及び用途によっては、直線部分と曲線部分やコーナー部分とを組み合わせた複雑な構造となるため、その形状にあわせて、異なる成形方法を用いて成形された部材を接合した複合体とする場合がある。
【0005】
特許文献1には、エチレン・α-オレフィン系共重合ゴム、α-オレフィン系結晶性熱可塑性樹脂、α-オレフィン系非晶質熱可塑性樹脂及び軟化剤を重合体成分として含むゴム組成物を用いることにより、優れた射出融着性を利用し、加硫ゴム等からなる成形部材との接着性がより高められ、複合体としての強度に優れたウェザーストリップが記載されている。
また、特許文献2には加硫ゴム及び動的架橋型熱可塑性エラストマー(TPV)に対して高い接着力を有する熱可塑性エラストマー組成物をウェザーシールのコーナー部に用いる技術が記載されている。
【0006】
さらに、軽量化を目的として、シラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体樹脂(以下シラン系樹脂)を用いたグラスラン(グラスランチャンネル及びベルトモール)が開発されつつある。
例えば、従来、グラスランは図10に示すように、車両のドア100に設けられた枠体200には、グラスラン10が取付けられていて昇降するドアガラス300を案内するようになっている。
【0007】
グラスラン10は、図11に示すように、内側に溝部Mを形成し、車外側側壁部12と車内側側壁部13とそれらを連結する基底壁部14からなる本体部11と、車外側側壁部12の端部側から車内側に向けて突設され、ドアガラス300に摺接するアウタリップ部15と、車内側側壁部13の端部側から車外側に向けて突設され、ドアガラス300に摺接するインナリップ部16を備えている。
【0008】
このようなグラスラン10において、軽量化、リサイクル化、加硫不要による工程簡略化などといった理由から、熱可塑性エラストマー(TPE)で成形される製品がある。
しかし、熱可塑性エラストマー(TPE)は、加硫ゴムと比較して圧縮永久歪が悪いため、経年でアウタリップ部15やインナリップ部16の形状が変化してしまい、初期時より大きく撓んでしまった形状となることがあった。これによれば、ドアガラス300を両リップ部(アウタリップ部15及びインナリップ部16)で十分保持することができず、その結果、ドアガラス300の車内外方向へのガタツキが大きくなり、走行時、ドアガラス300が少し開いた状態において、ドアガラス300が車幅方向に振動し、ラトル音が発生するといった問題がある。
【0009】
そこで、特許文献3には、耐熱性及び耐傷付き性に優れるとともにグラスランを軽量化し得る、車外側リップ部と前記車内側リップ部を、シラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体で形成し、本体部をシラン架橋を施さない熱可塑性樹脂で形成したグラスランが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006-44077号公報
【特許文献2】特開2016-113614号公報
【特許文献3】特開2019-104387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
シラン系樹脂を用いたグラスランは耐熱性及び耐傷付き性が高いため耐久性に優れ、かつ軽量化が図れる。しかし、シラン系樹脂を用いたグラスランは、押出成形部をシラン系樹脂で形成した場合、従来から押出成形部に使用される熱可塑性エラストマー(TPE)よりも高温時の引張応力が高い。そのため、通常使用されるコーナー部(接続部)の材料を射出成型してシラン系樹脂で形成した押出成形部と熱融着させ、一体化させても、高温の状態で接続部に物が衝突したり、引っ掛かったりすると、接続部が剥がれることがあった。これは、従来の熱可塑性エラストマーによる押出成形部が高温時に引っ張られ、伸長して変形しても、引張応力が低いことで接続界面への負担が小さかったところ、押出成形部をシラン系樹脂で形成すると、従来の熱可塑性エラストマーによる押出成形部より高温時の柔軟性が低いため、接続界面への応力が増大していると考えられる。特に押出成形部の端末へ射出成型を施してコーナー部(接続部)を一体化させる工程では、射出成型後に金型から取り出す際、接続界面は高温の状態にあるため、剥がれが発生しやすい。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、グラスランの軽量化を図るとともに、生産性及び耐久性に優れたグラスランを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者らは、接続部を形成する樹脂の高温雰囲気下での引張応力に着目して検討した結果、80℃雰囲気下での50%の引張伸長において、接続部の引張応力が、シラン系樹脂により形成された部分の押出成形部の引張応力と同等、又はそれ以下であり、且つ、80℃雰囲気下での、200%の引張伸長の引張応力が50%の引張伸長の引張応力の1.3倍以下とすることで上記の課題を解決し得ることを見出した。
つまり、シラン系樹脂を押出成形材料とした場合、その高温時の引張応力は従来から使用する熱可塑性エラストマー(TPE)より大きく、また、伸長度が大きくなるにつれて引張応力が大きくなるところ、接続部自体の引張応力を下げるだけでなく、伸長度が大きくなっても引張応力の増加が抑制されることで、接続界面の剥がれが発生しない。従って、押出成形部の端末へ射出成型(金型成形)を施して接続部を一体化成型する工程において、射出成型後に接続部を含む一体化製品を金型から取り出す際、接続界面で剥がれない。
このようにして上記の課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、前記課題を解決するために、以下の構成を有する。
【0014】
〔1〕
押出成形により形成された押出成形部と、前記押出成形部に接続される接続部とを備えたグラスランであって、
前記押出成形部は、シラン架橋を施したエチレン-α-オレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aで形成された部分と、シラン架橋を施さない熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物Bで形成された部分とを含み、
前記接続部は、樹脂組成物Cにより形成された部分を含み、80℃雰囲気下での50%の引張伸長において、前記接続部の引張応力が、前記押出成形部の引張応力と同等、又はそれ以下であり、且つ、80℃雰囲気下での200%の引張伸長の引張応力が、前記50%の引張伸長の引張応力の1.3倍以下であるグラスラン。
〔2〕
前記接続部の切断時の引張応力は、前記50%の引張伸長における引張応力の2倍以下である〔1〕に記載のグラスラン。
〔3〕
前記樹脂組成物Cは、ポリエチレン系樹脂の含有量が25~55質量%の熱可塑性エラストマーを含む〔1〕又は〔2〕に記載のグラスラン。
〔4〕
前記ポリエチレン系樹脂が直鎖状低密度ポリエチレンである〔3〕に記載のグラスラン。
〔5〕
車両のドアに設けられた枠体に沿って取付けられ、昇降するドアガラスを溝部に案内する、車外側側壁部と、車内側側壁部と、前記車外側側壁部と前記車内側側壁部を連結する基底壁部からなる本体部と、
前記車外側側壁部側から内方に向けて突設され、前記ドアガラスの車外側面に摺接する車外側リップ部と、
前記車内側側壁部側から内方に向けて突設され、前記ドアガラスの車内側面に摺接する車内側リップ部を備え、
前記押出成形部における、前記車外側リップ部と前記車内側リップ部が、前記樹脂組成物Aで形成した部分であり、
前記押出成形部における、前記本体部が、前記樹脂組成物Bで形成した部分である〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載のグラスラン。
〔6〕
前記車外側リップ部及び前記車内側リップ部を形成する前記樹脂組成物Aは、無機フィラーを含有しない〔5〕に記載のグラスラン。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態に係るグラスランは、軽量化を実現するとともに、生産性及び耐久性に優れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るグラスランを示す外観側面図である。
図2】本発明の実施形態に係るグラスランにおける接続部周辺の概略構成を示す斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係るグラスランを示す図10のA-A線拡大断面図である。
図4図3に示すグラスランにおいてドアガラスが閉じられた状態を示す図10のA-A線拡大断面図である。
図5図3に示すグラスランの押出成形部の製造ラインを示すブロック図である。
図6図5に示す樹脂押出機により押出成形されたグラスランの押出成形部を示す断面図である。
図7図5に示す樹脂押出機により押出成形された、本発明の実施形態に係る別のグラスランの押出成形部を示す断面図である。
図8】本発明の実施形態に係るさらに別のグラスランを示す図10のA-A線拡大断面図であり、ドアガラスが閉じられた状態を示す。
図9】本発明の実施形態に係る別のグラスランを示す図10のA-A線拡大断面図で、ドアガラスが閉じられた状態を示す。
図10】車両のドアを示す外観側面図である。
図11】従来例に係るグラスランを示す図10のA-A線拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態に係るグラスランは、押出成形により形成された押出成形部と、前記押出成形部に接続される接続部とを備えたグラスランであって、
前記押出成形部は、シラン架橋を施したエチレン-α-オレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aで形成された部分と、シラン架橋を施さない熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物Bで形成された部分とを含み、
前記接続部は、樹脂組成物Cにより形成された部分を含み、80℃雰囲気下での50%の引張伸長において、前記接続部の引張応力が、前記押出成形部の引張応力と同等、又はそれ以下であり、且つ、80℃雰囲気下での、200%の引張伸長の引張応力が、前記50%の引張伸長の引張応力の1.3倍以下である。
ここで、接続部の引張応力が、押出成形部の引張応力と同等、又はそれ以下であるとは、接続部の引張応力が押出成形部の引張応力の1.2倍以下であって、好ましくは1.1倍以下、さらには1.0倍以下であることをいう。
【0018】
図1を参照して、本発明の実施形態に係るグラスランについて説明する。
本発明の実施形態に係るグラスランは、押出成形により形成された押出成形部と、前記押出成形部に接続される接続部とを備える。グラスランは、一般に、直線部分と曲線部分やコーナー部分を有しており、直線部分又は曲線部分を押出成形部、曲線部分又はコーナー部分を射出成型等により形成した接続部としてもよい。
例えば、図1に示すように、グラスラン1は、第1押出成形部1aに接続される第1接続部2aと、第2押出成形部1b及び第3押出成形部1cに接続される第2接続部2bを含む。そして、第1押出成形部1a、略L字形状の第1接続部2a、第2押出成形部1b、略L字形状の第2接続部2b、第3押出成形部1cが連結して一体化し、グラスラン1を形成している。
【0019】
グラスラン1においては、先ず、第1押出成形部1a、第2押出成形部1b及び第3押出成形部1cを通常の押出機などを用いて押出成形する。次に、第1押出成形部1a及び第2押出成形部1bの端部を金型にセットして、インジェクション成型機等を使用して第1接続部2aを金型成形(射出成型)する。これにより、グラスラン1における第1押出成形部1aと第1接続部2a、及び第1接続部2aと第2押出成形部1bとが一体化して成形される。さらに、第2押出成形部1bにおける第1接続部2aが形成されていない方の端部、及び第3押出成形部1cの端部を金型にセットし、インジェクション成型機等を使用して第2接続部2bを金型成形(射出成型)する。これにより、第1押出成形部1a、第1接続部2a、第2押出成形部1b、第2接続部2b、第3押出成形部1cが一体化してグラスラン1が形成される。なお、第1接続部2aと第2接続部2bは同時に成形されてもよい。
【0020】
本発明の実施形態に係るグラスランにおいて、押出成形部は、シラン架橋を施したエチレン-α-オレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aで形成された部分と、シラン架橋を施さない熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物Bで形成された部分とを含み、接続部は、樹脂組成物Cにより形成された部分を含み、80℃雰囲気下での50%の引張伸長において、前記接続部の引張応力が、前記押出成形部の引張応力と同等、又はそれ以下であり、且つ、80℃雰囲気下での、200%の引張伸長の引張応力が、前記50%の引張伸長の引張応力の1.3倍以下である。200%の引張伸長の引張応力は50%の引張伸長の、好ましくは1.2倍以下である。そして、接続部の引張伸長における破断時の引張応力は、50%の引張伸長の好ましくは2倍以下であり、より好ましくは1.5倍以下である。
また、接続部を樹脂組成物Cにより形成することで、押出成形部を形成する樹脂とのなじみが良くなり、押出成形部と接続部との接着力が向上し、耐久性に優れたグラスランを作製可能となる。
さらに、シラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体(以下、シラン材)は、押出成形により成形して冷却した後も、空気中の水分により架橋が進むため、保管状態によっては予期せぬ癖付けがされてしまう場合があり、製品の形状を安定させるため保管時や運搬時の癖付き発生を抑制する必要がある。しかし、接続部を形成する樹脂組成物Cが柔軟な伸縮性を有し、押出成形部の変形を抑制するため、グラスランの保管時や運搬時の癖付き発生を抑制することができる。
【0021】
以下、押出成形部及び接続部を形成する樹脂組成物について説明する。なお、これらの樹脂組成物を構成する樹脂は、1種を用いてもよいし、2種以上の混合物(ブレンド)を用いてもよい。また発泡させたものであってもよい。
【0022】
(樹脂組成物A)
樹脂組成物Aは、シラン架橋を施したエチレン-α-オレフィン共重合体を含む。
エチレン-α-オレフィン共重合体を構成するα-オレフィンの炭素数が3~10であることが好ましい。エチレンと共重合されるオレフィンとしては、例えば、プロピレンレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン等のα-オレフィン等が挙げられる。
エチレン-α-オレフィン共重合体としては、エチレン-ブテン共重合体,エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。なお、これらの1種を用いてもよいし、これらの2種以上の混合物(ブレンド)を用いてもよい。そして、このシラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aには、スチレン・ブタジエン共重合樹脂(SBC)を含んでもよく、この場合、プロセスオイルが配合されたスチレン・ブタジエン共重合樹脂(SBC)が配合されていてもよい。
【0023】
樹脂組成物Aは、無機フィラーを含有しても、しなくてもよい。
無機フィラーとしては、例えば、窒化ほう素、シリカ(結晶質シリカ、非晶質シリカ等)、カーボンブラック、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボン、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛が挙げられる。
また、無機フィラーとしては、例えば、水和水、水酸基あるいは結晶水を有する化合物のような金属水和物等も挙げられる。
金属水和物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム又は酸化アルミニウム水和物等の金属水酸化物、さらには、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ等のほか、水和水等を有する、水和ケイ酸アルミニウム、水和ケイ酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の無機酸塩又は無機酸化物等が挙げられる。
また、無機フィラーとしては、上記以外にも様々な鉱物や加工物が含まれる。
【0024】
(樹脂組成物B)
樹脂組成物Bは、シラン架橋を施さない熱可塑性樹脂を含む。
シラン架橋を施さない熱可塑性樹脂における熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド系樹脂、PVC(塩化ビニル樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)等のポリエステル系樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられ、熱可塑性エラストマー(TPE)が好ましい。
熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されるものではないが、例えばオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0025】
より具体的には、耐熱性に優れるポリプロピレン(PP)と、非晶性重合体(ゴム)と、充填材の三成分を主成分とする熱可塑性エラストマー(TPE)を用いることが好ましい。
非晶性重合体(ゴム)としては、オレフィン系ゴム,スチレン系ゴム等が挙げられるが、EPM(エチレンプロピレンゴム)が好ましい。
また、充填材としては、タルクやガラス繊維などが挙げられるが、タルクが好ましい。
【0026】
樹脂組成物Bに用いるポリエチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、低密度ポリエチレン系樹脂、中密度ポリエチレン系樹脂、高密度ポリエチレン系樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂、直鎖状中密度ポリエチレン系樹脂、直鎖状高密度ポリエチレン系樹脂などが挙げられ、単独で用いられても併用されてもよい。
【0027】
(樹脂組成物C)
接続部を形成する樹脂組成物Cは、ポリエチレン系樹脂を含むことが好ましく、ポリエチレン系樹脂の含有量が25~55質量%の熱可塑性エラストマーを含むことが好ましい。
樹脂組成物Cが含む熱可塑性エラストマーとしては、樹脂組成物Bと同様のものを挙げることができる。
ポリエチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、低密度ポリエチレン系樹脂、中密度ポリエチレン系樹脂、高密度ポリエチレン系樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂、直鎖状中密度ポリエチレン系樹脂、直鎖状高密度ポリエチレン系樹脂などが挙げられ、単独で用いられても併用されてもよい。なかでも、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を用いることが好ましく、また、これに替えて、又は追加してエチレン-α-オレフィン共重合体を含むことが好ましい。
エチレン-α-オレフィン共重合体を構成するα-オレフィンの炭素数は、3~10であることが好ましい。エチレンと共重合されるオレフィンとしては、例えば、プロピレンレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン等のα-オレフィン等が挙げられる。
エチレン-α-オレフィン共重合体としては、エチレン-ブテン共重合体,エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。なお、これらの1種を用いてもよいし、これらの2種以上の混合物(ブレンド)を用いてもよい。
【0028】
樹脂組成物Cに25~55質量%の、ポリエチレン系樹脂、好ましくは直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を配合することにより、形成された接続部の常温時の硬度を変えずに、高温時の引張応力(モジュラス)を低くすることができ、従来のものに比べ高温時での高い柔軟性が得られる。これにより、高温雰囲気下において、押出成形部の撓みによる接続部周辺に生じる変形に対して、接続部が柔軟に追従することができ、押出成形部と接続部との接続状態が維持されやすく、取り回しがよく、耐久性の高いグラスランを提供することが可能となった。
【0029】
樹脂組成物Cにおけるポリエチレン系樹脂の含有量は、樹脂組成物Cを構成する全構成単位の全量を100質量%とした場合、25~55質量%であり、30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。また、55質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることがさらに好ましい。
樹脂組成物Cにおけるポリエチレン系樹脂の含有量が25質量%未満であると十分な柔軟性が得られない。また、樹脂組成物Cにおけるポリエチレン系樹脂の含有量が55質量%より多いと、グラスランとして必要な硬度が得られなくなる。
【0030】
(グラスラン)
図10に示すように、車両のドア100に設けられた枠体200には、グラスランの一種としてグラスラン20が取付けられていて、昇降するドアガラス300を案内するようになっている。
【0031】
本発明の実施形態に係るグラスランは、車両のドアに設けられた枠体に沿って取付けられ、昇降するドアガラスを溝部に案内する、車外側側壁部と、車内側側壁部と、前記車外側側壁部と前記車内側側壁部を連結する基底壁部からなる本体部と、
前記車外側側壁部側から内方に向けて突設され、前記ドアガラスの車外側面に摺接する車外側リップ部と、
前記車内側側壁部側から内方に向けて突設され、前記ドアガラスの車内側面に摺接する車内側リップ部を備えるグラスランであり、
前記押出成形部における、前記車外側リップ部と前記車内側リップ部が、前記樹脂組成物Aで形成した部分であり、
前記押出成形部における、前記本体部が、前記樹脂組成物Bで形成した部分である。
【0032】
本発明の実施形態に係るグラスランは、押出成形により形成された押出成形部と、押出成形部に接続される接続部とを備える。
図2、及び図3を参照して、本発明の実施形態に係るグラスランについて説明する。
図2は本発明の実施形態に係るグラスランにおける接続部周辺の概略構成を示す斜視図である。図2においては、グラスランにおける直線部分を押出成形部、コーナー部分を接続部とし、第1接続部2aは、第1押出成形部1aと第2押出成形部1bとを接続する。
また、本発明の実施形態に係るグラスランは、図10で示したような、ドア100に設けられた枠体200に沿って取付けられ、昇降するドアガラス300を溝部Mに案内する本体部21と、アウタリップ部(車外側リップ部)25と、インナリップ部(車内側リップ部)26と、サブリップ部29を主に備えている。グラスラン20は、ドアパネルの内部から上方に延び、ベルトラインの位置を跨いで上下に連続するように配置され、ここでは枠体200の車体前方側の縦辺部に適用されたものを示している。
【0033】
押出成形部は、シラン架橋を施したエチレン-α-オレフィン共重合体を含む樹脂組成物A(以下、シラン材と称する場合がある。)で形成された部分を含むことで、加硫ゴムやシラン架橋を施さないTPEで形成した従来のものに比べ、耐熱性及び耐傷付き性に優れるとともにグラスランを軽量化し得る。
【0034】
グラスランは、ドアガラス300とのスムーズな摺接性能から、その硬度が限定されており、TPEをシラン材に置換した部分には同じ硬度が求められる。しかし、押出成形部におけるシラン材は、同じ硬度のシラン架橋を施さないTPEで形成したものに比べ高温時での柔軟性が低い。
【0035】
図3のグラスランの押出成形部においては、各リップ部25,26,29をシラン材で形成すると、全てをシラン架橋を施さないTPEで成形した既存製品における各リップ部25,26,29よりも、高温時(80℃)での引張応力((モジュラス)が高くなることが解った。つまり、シラン材は、常温時で同じ硬度のシラン架橋を施さないTPEよりも高温時におけるモジュラスが高く、高温状態では押出成形部の接続部周辺は柔軟性が劣ることが解った。ここで、引張応力はJIS K6251に準拠して測定される。
【0036】
特に、接続部を射出成型して押出成形部と一体化した直後、金型から一体化した製品を取り出す際においては、接続部が高温状態にあり、取り出す際の引張りや捻れによって接続部の接続界面(接続箇所)へ切れ目を生じさせる可能性がある。
【0037】
本発明の実施形態にかかるグラスランは、接続部をポリエチレン系樹脂の含有量が25~55質量%の熱可塑性エラストマーを含む樹脂組成物Cで形成することで、硬度を変えず高温雰囲気での引張応力を低くし易くなり、従来のものに比べ柔軟性が高くし易くなる。これにより、接続部を射出成型して押出成形部と一体化した直後、金型から一体化した製品を取り出す際、引張りや捻れによって接続部の接続界面へ切れ目を発生し難くなる。また、保管や運搬の際の変形や、ドアガラスによる応力や各リップ部25,26,29の撓みによる接続部周辺に生じる変形に、接続部が柔軟に追従することができる。
従って、押出成形部と接続部との接続状態が維持され、取り回しがよく、より耐久性の高いグラスランを提供することができる。
【0038】
実施例及び比較例の接続部及び押出成形部を構成する各材料について、下記物性を評価した。接続部の材料(接続部材)は射出成型機を用いて金型で厚さ2mmのシートを得た後、試験片を採取した。押出成形部の材料(押出成形部材)は押出機を用いて厚さ2mmのシートを得た後、試験片を採取した。
・硬度
JIS K6253に準拠して、タイプAデュロメータで23℃(常温時)の雰囲気下において試験機を試験片に押し当てた直後、及び、押し当てた直後から15秒後の硬度を測定した。試験片は、厚さ2mmのシートを積層し、約6mmの厚さとした。
・引張特性
JIS K6251に準拠してダンベル形状に打抜き23℃の雰囲気下(常温時)、及び80℃(高温時)の雰囲気下における、引張応力を測定した。引張応力は、試験片に付けられた標線間の距離が50%、100%、200%増大(引張伸長)した場合と切断時について測定した。試験片は、3号ダンベルとした。
【0039】
接続部材については、以下の従来材と発明適用材(樹脂組成物C)を用いた。
・従来材:オレフィン系熱可塑性エラストマー
・発明適用材:従来材に直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を35質量部添加
【0040】
押出成形部材については、以下の従来材とシラン材(発明適用材)を用いた。
・従来材:オレフィン系熱可塑性エラストマー
・シラン材:シラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体を含む樹脂組成物A
【0041】
結果を表1に示す。
また、50%引張伸長した場合の引張応力を100とした場合の各引張応力の値を表2に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1、及び表2から理解されるように、23℃の雰囲気下における接続部材の硬度、及び引張特性は、従来材も発明適用材も同等である。しかし、80℃雰囲気下における50%、100%、及び200%の引張伸長において、樹脂組成物Aと比較して引張応力が同等以下で、且つ、50%引張伸長と200%引張伸長における引張応力を比較すると、200%引張伸長の引張応力は50%引張伸長の引張応力の1.3倍以下に抑えられている。そして、従来材は、切断時引張応力が50%引張伸長の引張応力に対して約2.3倍に達するため、発明適用材は変化が少ない。
【0045】
また、表3が示すとおり、本発明における発明例は、押出成形部材としてシラン架橋材を使用し、接続部材に発明適用材を使用する組合せである。表3は表1で示した接続部材と押出成形部材の引張応力の合算値(足し算した数値)を示している。
【0046】
【表3】
【0047】
表3で示す比較例1は、従来から問題無く製品に使用されている熱可塑性エラストマー(どちらもシラン架橋を施さない熱可塑性樹脂)を接続部材及び押出成形部材に用いた組合せ事例である。この比較例1は、接続部材が射出成型されて押出成形部と一体化する工程で、その一体化した直後(金型成形後)に金型から接続部を取り出す際、引張りや捻れがあっても、接続部の接続界面へ切れ目が発生しない。これに対して、比較例2では、金型成形後、金型から接続部を取り出す際、引張りや捻れがあると接続部の接続界面へ切れ目が発生した。これは、表3が示す比較例2のとおり、押出成形部材にシラン材を使用すると、80℃雰囲気下での引張応力の合算値が比較例1より大きいためと考える。
【0048】
発明例では、金型成形後、金型から接続部を取り出す際、引張りや捻れがあっても接続部の接続界面への切れ目が発生しなかった。これは、押出成形部材がシラン材であっても、接続部材を発明適用材としたため、高温80℃の雰囲気下での引張応力が、従来材よりも低く、50%引張伸長では押出成形部材と同等以下(表1では1.1倍)であって、しかも、50%引張伸長と200%引張伸長を比較すると、200%の引張伸長の引張応力は50%引張伸長の引張応力の1.3倍以下(表1では1.1倍)に抑えられ、切断時引張応力も50%引張伸長時の2倍以下(表1では1.3倍)に抑えられているためと推察する。80℃雰囲気下での引張応力の合算も、従来問題のなかった比較例1と同程度である。
【0049】
なお、80℃雰囲気下における引張応力においては、比較例1の従来材同士による接続部材と押出成形部材の組合せでは、押出成形部材の方が接続部材よりも小さかったところ、接続部材を従来材とし、押出成形部材をシラン材とした比較例2では、引張応力が近接しており、100%及び200%の引張伸長では押出成形部材の方が接続部材より大きく、従って、比較例2の組合せは柔軟性に劣ることが理解できる。
また、発明例の組合せでは、80℃雰囲気下における引張応力で、接続部材の発明適用材の方がシラン材と同等、又は小さくなっており、高温時の柔軟性に劣るシラン材を高温時の柔軟性に優れた接続部材が補っている。このことから、射出成型後、金型から接続部を取り出す際、引張りや捻れがあっても接続部の接続界面への切れ目が発生しないと考える。
【0050】
図2、及び図3を参照して、本発明に関わるグラスランの押出成形部について詳しく説明する。本体部21は、車外側側壁部22と、車内側側壁部23と、それら車外側側壁部22と車内側側壁部23を連結する基底壁部24からなり、断面略コ字状で、内側に溝部Mが形成されている。
【0051】
アウタリップ部25は、車外側側壁部22の端部に一体成形された外側支持部31の車内側面から、車内側かつ基底壁部24側に向けて斜めに延びるように突設されている。
また、インナリップ部26は、アウタリップ部25とは逆に、車内側側壁部23の端部に一体成形された内側支持部32の車外側面から、車外側かつ基底壁部24側に向けて斜めに延びるように突設されている。
サブリップ部29は、図4に示すように、ドアガラス300が閉じられるときにインナリップ部26の内側(車内側)に入り込んでインナリップ部26の先端を支持する。
【0052】
また、外側支持部31の車外側面からは車外側に向けて斜めに延びる意匠リップ部27が突設され、内側支持部32の車内側面からは車内側に向けて斜めに延びる意匠リップ部28が突設されている。
また、車外側側壁部22の基底壁部24側の車外側及び、車内側側壁部23の基底壁部24側の車内側には、枠体200に取付けられたグラスラン20を枠体200から容易に外れないように枠体200の折曲部に係止する係止突出部33,34が形成されている。
そして、車外側側壁部22と基底壁部24は肉厚の薄い車外側連結部38で連結され、
車内側側壁部23と基底壁部24も、肉厚の薄い車内側連結部39で連結されている。これは後述する押出し時の断面形状(図6)から、図3などに見られる組み付け状態へ設計通り屈曲させて組み付けることを可能としている。
【0053】
そして、グラスラン20を構成する、アウタリップ部25とインナリップ部26とサブリップ部29を、シラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aで形成し、本体部21を、シラン架橋を施さない熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物Bで形成している。
より具体的には、アウタリップ部25とそのアウタリップ部25を支持する外側支持部31とそれから突設した意匠リップ部27と、インナリップ部26とそのインナリップ部26を支持する内側支持部32とそれから突設した意匠リップ部28と、サブリップ部29を、シラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aで形成し、グラスラン20のそれ以外の部位を、シラン架橋を施さない熱可塑性樹脂で形成している。
【0054】
また、本実施形態におけるアウタリップ部25とインナリップ部26とサブリップ部29は、シラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aに対して無機フィラーを配合させることなく形成されている。
無機フィラーとしては、上記で述べたものが挙げられる。
【0055】
また、グラスラン20において、シラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aで形成された部位以外の部位、すなわち、係止突出部33,34を含む本体部21は、シラン架橋を施さない熱可塑性樹脂、例えば、熱可塑性エラストマー(TPE),ポリプロピレン(PP),ポリエチレン(PE)などやこれらの混合物を含む樹脂組成物Bから形成される。
本実施形態では、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を使用した。
【0056】
グラスラン20の押出成形部(第1押出成形部1a、第2押出成形部1b及び第3押出成形部1c)は、図5に示すような、ラインで製造される。
つまり、樹脂押出機501によって適正温度にてその口金で所望形状に一体化された状態で押し出される。このときの断面形状は、図6に示すようになっており、サブリップ部29が下向きで、各リップ部25,26,29が互いに接触しない状態で押し出される。
その後、押出されたグラスラン20は、水槽502(冷却槽)に浸水され、冷却される。このとき、グラスラン20は、水槽502より後に配置された引取り機503によって引っ張られて一連に押出成形されるようになっている。
リップ部25,26,29に施されたシラン架橋は水槽502の水や空気中の水分によって進行するため、少なくとも表面の架橋度は進行し、表面の耐傷付き性はよい。従って、外側支持部31と、それから突設した意匠リップ部27、及び、内側支持部32と、それから突設した意匠リップ部28にとって材質的に適している。
【0057】
このようなグラスラン20によれば、車外側リップ部となるアウタリップ部25と、車内側リップ部となるインナリップ部26と、サブリップ部29を、シラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aで形成しているので、高温炉による加硫設備が不要な、一般的な熱可塑性樹脂の押出成形の設備で、圧縮永久歪みが小さく、耐熱性、耐傷付き性の高いリップ部を備えたグラスラン20が形成できる。従って、高温環境下でもドアガラス300の車内外方向へのガタツキが大きくならず、また、ドアガラス300を支持するアウタリップ部25とインナリップ部26の形状の経年変化も大きくならず、ドアガラス300が少し開いた状態で走行したとしても、ドアガラス300が車幅方向に振動し、ラトル音が発生するといった問題が発生し難い。
【0058】
また、グラスラン20の本体部21は、シラン架橋を施さない熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物Bを用いて形成しているため、押出成形及び冷却させた後に次工程まで保管する際や、車両のある組付け現場へ運搬する際、本体部21の直進性を保つことができる。つまり、本体部21までシラン架橋を施した場合には、保管時に意図しない形状の歪んだ癖付けの発生が心配されるが、これが発生しない。これは、シラン架橋は成形後にも空気中の水分により架橋が進行すると考えられるためで、平滑な車体に相応した平滑さを要求するグラスラン20の本体部21にとって、癖付けの発生が心配されるシラン架橋は施さない方が優位と考えられる。また、車体への組付けが考慮された本体部21の形状は車外側連結部38や車内側連結部39のように、設計指示に従った正確且つ複雑な肉厚調整が必要となり、よって押出成形における高い異形性が要求されるところ、シラン架橋を施さない通常の熱可塑性樹脂(例えば、TPE、PP、PE)を含む樹脂組成物Bを用いれば異形性に富み容易に成形できる。
【0059】
また、各リップ部25,26,29を形成するときに、シラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aに対して無機フィラーを配合しないため、リップ部25,26,29の比重を0.9以下とすることができ、グラスラン20の重量を特に重くすることがない。
【0060】
また、無機フィラーを配合しないため、リップ部25,26,29の強度や剛性が劣ってしまうが、エチレン-αオレフィン共重合体を、特にエチレン-ブテン共重合体,エチレン-ヘキセン共重合体,エチレン-オクテン共重合体及びこれらの混合物のうちいずれかにすることで、シラン架橋によって良好な強度を出現させることができる。
本実施形態では、エチレン-αオレフィン共重合体としてエチレン-オクテン共重合体を使用し、これにプロセスオイルを配合したスチレン・ブタジエン共重合樹脂(SBC)を配合したところ、JIS K6253のタイプAデュロメータによる測定で、60以上80以下の範囲の材質を得ることができた。
【0061】
また、シラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aにスチレン・ブタジエン共重合樹脂(SBC)を配合しているので、押出成形の異形性が向上し、所望な形状にリップ部25,26,29を押出成形し易くなる。これは、つまり、エチレン-αオレフィン共重合体へ直接にオイルを添加して異形性を調整するのは困難であるところ、オイル量が多く添加できるスチレン・ブタジエン共重合樹脂(SBC)を利用することで、樹脂組成物全体の異形性を向上させるものである。
【0062】
なお、本実施形態では、アウタリップ部25とそのアウタリップ部25を支持する外側支持部31とそれから突設した意匠リップ部27と、インナリップ部26とそのインナリップ部26を支持する内側支持部32とそれから突設した意匠リップ部28と、サブリップ部29を、シラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aで形成し、それ以外の部位を、シラン架橋を施さない樹脂組成物Bで形成したが、これに限定されることなく様々の態様が考えられる。
例えば、図3においてサブリップ部29を省くこともできる。
【0063】
また、グラスラン20に追加した車外側リップ部や車内側リップ部について、シラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aで形成することもできる。
例えば、図8に示すように、車外側側壁部22においてアウタリップ部25より基底壁部24寄りに設けた車外側サブリップ部35や、車内側側壁部23においてインナリップ部26より基底壁部24寄りに設けた車内側サブリップ部36に対しても、シラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aで形成することもできる。
また、図9に示すように、基底壁部24の内方に車内側からドアガラス300の端部に弾接するシールリップ部37を突設して、このシールリップ部37についてもシラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aで形成することもできる。
【0064】
また、例えば、図3に示すように、アウタリップ部25、インナリップ部26、サブリップ部29を、シラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aで形成し、外側支持部31と、それから突設した意匠リップ部27、及び、内側支持部32と、それから突設した意匠リップ部28等の他の部分は樹脂組成物Bにより形成することもできる。
また、アウタリップ部25、インナリップ部26、サブリップ部29の一部を、シラン架橋を施したエチレン-αオレフィン共重合体を含む樹脂組成物Aで形成し、他の部分は樹脂組成物B、及び従来から使用しているTPEにより形成することもできる。
【0065】
次に、第1押出成形部1a及び第2押出成形部1bの端部を金型にセットして、インジェクション成型機等を使用してコーナー部分として第1接続部2aを金型成形する。これにより、グラスランにおける第1押出成形部1aと第1接続部2aと第2押出成形部1bとが一体化して成形される。さらに、第2押出成形部1bにおける第1接続部2aが形成されていない方の端部、及び第3押出成形部1cを金型にセットし、インジェクション成型機等を使用して第2接続部2bを金型成形する。これにより、第1押出成形部1a、第1接続部2a、第2押出成形部1b、第2接続部2b、第3押出成形部1cが一体化してグラスランが形成される。
【0066】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0067】
1 グラスラン
1a 第1押出成形部
1b 第2押出成形部
1c 第3押出成形部
2a 第1接続部
2b 第2接続部
10 グラスラン
11 本体部
12 車外側側壁部
13 車内側側壁部
14 基底壁部
15 アウタリップ部
15a 外側の層
15b 内側の層
16 インナリップ部
16a 外側の層
16b 内側の層
20 グラスラン
21 本体部
22 車外側側壁部
23 車内側側壁部
24 基底壁部
25 アウタリップ部(車外側リップ部)
26 インナリップ部(車内側リップ部)
27 意匠リップ部
28 意匠リップ部
29 サブリップ部
31 外側支持部
32 内側支持部
33 係止突出部
34 係止突出部
35 車外側サブリップ部
36 車内側サブリップ部
37 シールリップ部
38 車外側連結部
39 車内側連結部
100 ドア
200 枠体
300 ドアガラス
501 樹脂押出機
502 水槽
503 引取り機
M 溝部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11