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特開2022-73194ホエイたんぱく原料に由来する異味異臭のマスキング方法、マスキング剤及び飲食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073194
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】ホエイたんぱく原料に由来する異味異臭のマスキング方法、マスキング剤及び飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23C 21/08 20060101AFI20220510BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20220510BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20220510BHJP
【FI】
A23C21/08
A23L2/00 B
A23L2/38 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020183023
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 友理
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 裕之
【テーマコード(参考)】
4B001
4B117
【Fターム(参考)】
4B001AC03
4B001AC05
4B001AC15
4B001EC01
4B117LC03
4B117LE05
4B117LK10
4B117LK13
4B117LK15
4B117LL09
(57)【要約】
【課題】ホエイたんぱく原料の不快味および不快臭を感じることなく継続的に摂取することができる飲食品を提供するを提供する。
【解決手段】ホエイたんぱく原料、イヌリン、C12~C16飽和脂肪酸を主成分とする油脂を含む、ホエイたんぱく原料に由来する不快味及び不快臭がマスキングされた飲食品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホエイたんぱく原料、イヌリン、C12~C16飽和脂肪酸を主成分とする油脂を含む、ホエイたんぱく原料に由来する不快味及び不快臭がマスキングされた飲食品。
【請求項2】
飲食品がゼリー飲料である、請求項1に記載の飲食品。
【請求項3】
ホエイたんぱく原料を含む飲食品にイヌリンと少なくとも1種のC12~C16飽和脂肪酸を主成分とする油脂を配合することを特徴とする、ホエイたんぱく原料に由来する異味異臭のマスキング方法。
【請求項4】
12~C16飽和脂肪酸を主成分とする油脂とイヌリンとを含む、ホエイたんぱく原料に由来する異味異臭のマスキング剤。
【請求項5】
12~C16飽和脂肪酸を主成分とする油脂が硬化ヤシ油、硬化パーム油、硬化パーム核油、ヤシ油、パーム油、パーム核油からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の飲食品、請求項3に記載のマスキング方法又は請求項4に記載のマスキング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホエイたんぱく原料に由来する異味異臭のマスキング方法、マスキング剤及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ホエイたんぱくは、チーズ製造に際して副産物として得られるホエイ中に存在するタンパク質である。ホエイたんぱくは、その栄養価が高いにもかかわらず、加熱した際独特の収斂味などの不快味、さらに獣臭などの不快臭を有するため、飲食品の主原料として用いるには適さなかった。
【0003】
特許文献1は分岐デキストリンによる飲食品の味質改善、マスキング効果を開示し、特許文献2は魚類由来コラーゲンペプチドに由来する魚臭を難消化性デキストリンでマスキングする技術を開示しているが、ホエイたんぱくに由来する不快味、不快臭などの異味異臭はこれらの技術では十分にマスキングすることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-80518号公報
【特許文献2】特開2006-180812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ホエイたんぱく原料の不快味および不快臭を感じることなく継続的に摂取することができる飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のホエイたんぱく原料に由来する異味異臭のマスキング方法、マスキング剤及び飲食品を提供するものである。
項1. ホエイたんぱく原料、イヌリン、C12~C16飽和脂肪酸を主成分とする油脂を含む、ホエイたんぱく原料に由来する不快味及び不快臭がマスキングされた飲食品。
項2. 飲食品がゼリー飲料である、項1に記載の飲食品。
項3. ホエイたんぱく原料を含む飲食品にイヌリンと少なくとも1種のC12~C16飽和脂肪酸を主成分とする油脂を配合することを特徴とする、ホエイたんぱく原料に由来する異味異臭のマスキング方法。
項4. C12~C16飽和脂肪酸を主成分とする油脂とイヌリンとを含む、ホエイたんぱく原料に由来する異味異臭のマスキング剤。
項5. C12~C16飽和脂肪酸を主成分とする油脂が硬化ヤシ油、硬化パーム油、硬化パーム核油、ヤシ油、パーム油、パーム核油からなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1又は2に記載の飲食品、項3に記載のマスキング方法又は項4に記載のマスキング剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ホエイたんぱく原料に由来する収斂味などの不快味、さらに獣臭などの不快臭を含む異味異臭を抑制した飲食品を提供することができる。
【0008】
本発明の好ましい実施形態の飲食品は、糖質を適度な摂取量に抑えつつ、ホエイたんぱく原料の不快味および不快臭を感じることなく継続的に摂取することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ホエイたんぱく原料を含む飲食品にイヌリンとC12~C16飽和脂肪酸を主成分とする油脂を組み合わせたマスキング剤を配合することで、ホエイたんぱくに由来する異味異臭をマスキングすることを特徴としている。
【0010】
飲食品は、好ましくは水分を含む冷菓、或いは液状、ゾル状、ゲル状、又はペースト状の飲食品であり、好ましくはプリン、アイスクリーム、乳飲料、ゼリー飲料が挙げられ、より好ましくはゼリー飲料である。
【0011】
ホエイたんぱく原料としては、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、免疫グロブリン、ラクトフェリン、及びこれらを少なくとも一つ含むタンパク質の混合物が挙げられ、ホエイタンパク質分離物(WPI)、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質加水分解物、脱塩ホエイ、ホエイ粉などを好ましく用いることができ、より好ましくはホエイタンパク質分離物(WPI)、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質加水分解物である。
【0012】
12~C16飽和脂肪酸を主成分とする油脂とはC12~C16の飽和脂肪酸が少なくとも40%以上含まれている油脂をいい、油脂としては、硬化ヤシ油、硬化パーム油、硬化パーム核油、ヤシ油、パーム油、パーム核油が好ましく、硬化ヤシ油、硬化パーム油、ヤシ油、パーム油がより好ましい。
【0013】
イヌリンとは、スクロースのフルクトース側にD-フルクトースがβ-(2→1)結合で順次、脱水重合した多糖類であって、グルコースに2分子以上のフルクトースが重合したものを意味する。イヌリンは通常重合度の異なる集合体として販売されている。
【0014】
本発明のゼリー飲料は、ゲル化剤を含む。ゲル化剤としては、寒天、アルギン酸塩、大豆多糖類、アマシードガム、アラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸、ウェランガム、カシアガム、ガティガム、カードラン、カラギーナン、カラヤガム、カロブビーンガム、キサンタンガム、グァーガム、サイリウムシードガム、ジェランガム、タマリンドシードガム、タラガム、デキストラン、トラガントガム、ファーセレラン、プルラン、ペクチン、グルコマンナン、ローカストビーンガム、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、でんぷん等が挙げられ、グァーガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、寒天、カラギーナン、ゼラチンが好ましい。ゲル化剤は、これらの成分を単独で含んでもよく、または2種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0015】
本発明の飲食品中の各成分の含有量を以下に示す。なお、ゲル化剤は飲食品がゼリー飲料のときの配合量を示す。
・ホエイたんぱく原料:好ましくは2.0~15質量%、より好ましくは5.0~10質量%;
・イヌリン:好ましくは1.0~9.9質量%、より好ましくは2.0~8.5質量%;
・C12~C16飽和脂肪酸を主成分とする油脂:好ましくは0.6~6.4質量%、より好ましくは0.8~5.0質量%;
・ゲル化剤:好ましくは0.05~1.5質量%、より好ましくは0.3~0.6質量%。
【0016】
本発明の好ましい飲食品は、ホエイたんぱく原料10質量部に対し:
イヌリンを好ましくは1.4~14質量部、より好ましくは7.0~10質量部;
12~C16飽和脂肪酸を主成分とする油脂を好ましくは0.8~9質量部、より好ましくは1.1~5.6質量部;
を含む。
【0017】
ホエイたんぱく原料10質量部に対しイヌリンが1.4質量部未満であると異味異臭のマスキング効果が十分ではなく、イヌリンを14質量部を超えて配合すると、イヌリン自体の風味が強くなり好ましくない。また、ホエイたんぱく原料10質量部に対しC12~C16飽和脂肪酸を主成分とする油脂が0.8質量部未満であるとホエイたんぱく原料の異味異臭のマスキング効果が十分ではなく、C12~C16飽和脂肪酸を主成分とする油脂が9質量部を超えて配合すると油っぽい風味になり好ましくない。
【0018】
本発明のマスキング剤において、イヌリンの配合量(I)とC12~C16飽和脂肪酸を主成分とする油脂の配合量(L)の質量比(I/L)は、好ましくは0.16~17.5、より好ましくは0.4~10.9である。
【0019】
本発明の飲食品は、上記成分の他に、ビタミン類、ミネラル分、甘味料、香料、酸味料、機能性成分、乳化剤、保存料、調味料、着色料(色素)、pH調整剤、品質安定剤等を含有してもよい。
【0020】
ビタミン類としては、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンD、ビタミンK及びビタミンB群等が挙げられる。
【0021】
ミネラル分としては、例えば、マグネシウム、カリウム、クロム、フッ素、ヨウ素、鉄、マンガン、リン、セレン、ケイ素、モリブデン等が挙げられる。
【0022】
甘味料としては、例えば、砂糖、グラニュー糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖、果糖ブドウ糖液糖、キシリトール、パラチノース、エリスリトール、還元麦芽糖、ソルビトール、はちみつ等の糖類、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ネオテーム、ステビア抽出物、サッカリン、スクラロース等の高甘味度甘味料などが挙げられる。
【0023】
酸味料としては、例えば、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸等が挙げられる。
【0024】
機能性成分としては、例えば、コラーゲン、コンドロイチン硫酸、グルコサミン、ヒアルロン酸、プラセンタ、牡蠣エキス、キトサン、プロポリス、ローヤルゼリー、ポリフェノール、梅エキス、アロエ等が挙げられる。これらの添加物は、1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0025】
飲食品の全固形分は、好ましくは5.0~20質量%、より好ましくは10~20質量%である。ここでいう全固形分とは、飲食品の総重量から、水分量を差し引いた値を意味する。
【0026】
本発明の飲食品のpHは、好ましくは3.2~8.0、より好ましくは3.7~7.0である。飲食品のpHは、常法に従ってpHメーターにて測定することができる。
【実施例0027】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されることはない。
実施例1~6及び比較例1~2
下記の表1に示す配合量でホエイたんぱく原料を含む飲料を製造し、得られた飲料の収斂味、獣臭、収斂味と獣臭以外の風味、総合評価について、以下の基準で評価した。
【0028】
なお、ホエイたんぱく原料としてホエイタンパク質濃縮物(WPC)を用いた。
・収斂味と獣臭の評価基準
◎:収斂味/獣臭がほとんど或いは全くない
○:収斂味/獣臭が感じられるが気にならない
△:収斂味/獣臭があり、継続摂取が難しい
×:収斂味/獣臭が非常に強い。
・収斂味、獣臭以外の風味の評価基準
◎:非常に良好
○:許容範囲
×:不可
・総合評価
◎:良好
○:許容範囲
×:不可
表1中の数値は、質量部である。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例7~12及び比較例3~5
下記の表2に示す配合量でホエイたんぱく原料を含む飲料を製造し、得られた飲料の収斂味、獣臭、収斂味と獣臭以外の風味、総合評価について、実施例1と同様の基準で評価した。
【0031】
なお、ホエイたんぱく原料としてホエイタンパク質濃縮物(WPC)を用いた。
【0032】
表2中の数値は、質量部である。
【0033】
【表2】
【0034】
実施例13~19及び比較例6~8
下記の表3に示す配合量でホエイたんぱく原料を含む飲料を製造し、得られた飲料の収斂味、獣臭、収斂味と獣臭以外の風味、総合評価について、実施例1と同様の基準で評価した。
【0035】
なお、ホエイたんぱく原料としてホエイタンパク質濃縮物(WPC)を用いた。
【0036】
表3中の数値は、質量部である。
【0037】
【表3】
【0038】
実施例3及び比較例9~10
下記の表4に示す配合量でホエイたんぱく原料を含む飲料を製造し、得られた飲料の収斂味、獣臭、収斂味と獣臭以外の風味、総合評価について、実施例1と同様の基準で評価した。なお、実施例3のデータは表1と同じである。
【0039】
【表4】
【0040】
表4の結果から、C12~C16飽和脂肪酸を実質的に含まない油脂である菜種白絞油は、獣臭と収斂味のマスキングに効果がないことが明らかになった。