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特開2022-73197蓄電素子用正極活物質合剤、蓄電素子用正極及び蓄電素子
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  • 特開-蓄電素子用正極活物質合剤、蓄電素子用正極及び蓄電素子 図1
  • 特開-蓄電素子用正極活物質合剤、蓄電素子用正極及び蓄電素子 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073197
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】蓄電素子用正極活物質合剤、蓄電素子用正極及び蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20220510BHJP
   H01M 4/583 20100101ALI20220510BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220510BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20220510BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20220510BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/583
H01M4/36 E
H01G11/06
H01G11/30
C01B25/45 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020183027
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 直樹
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AA09
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA30
5E078BA63
5E078BA67
5H050AA06
5H050AA08
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA16
5H050CA29
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050EA10
5H050EA24
5H050EA27
5H050EA28
5H050FA13
5H050FA15
5H050HA02
5H050HA06
5H050HA07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】蓄電素子の低温環境下での放電容量を大きくすることができる蓄電素子用正極活物質及び蓄電素子用正極、並びに低温環境下での放電容量が大きい蓄電素子を提供する。
【解決手段】蓄電素子用正極活物質合剤は、下記式1で表される化合物を含有し、細孔径30nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積が10m/g以上であり、かつ上記細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積が1m/g以上である。LiFeMn(1-x)PO(0≦x≦1)・・・1
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で表される化合物を含有し、
細孔径30nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積が10m/g以上であり、かつ上記細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積が1m/g以上である蓄電素子用正極活物質合剤。
LiFeMn(1-x)PO(0≦x≦1) ・・・1
【請求項2】
多孔性炭素をさらに含有する請求項1に記載の蓄電素子用正極活物質合剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の蓄電素子用正極活物質合剤を含む蓄電素子用正極。
【請求項4】
請求項3に記載の蓄電素子用正極を備える蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子用正極活物質合剤、蓄電素子用正極及び蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
近年、上記蓄電素子に用いられる正極活物質として、安価かつ安全性の高いオリビン型のリン酸鉄リチウムが注目されている。例えば、正極板における活物質層中の活物質がリン酸鉄リチウムであり、上記活物質層の膜厚が40μm以上200μm以下であるリチウム二次電池が提案されている。(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-56318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1のような正極活物質層を備える蓄電素子は、例えば0℃以下といった低温環境下での放電容量が小さいおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、蓄電素子の低温環境下での放電容量を大きくすることができる蓄電素子用正極活物質及び蓄電素子用正極、並びに低温環境下での放電容量が大きい蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る蓄電素子用正極活物質合剤は、下記式1で表される化合物を含有し、細孔径30nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積が10m/g以上であり、かつ上記細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積が1m/g以上である。
LiFeMn(1-x)PO(0≦x≦1) ・・・1
【0008】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子用正極は、当該蓄電素子用正極活物質合剤を含む。
【0009】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子は、当該蓄電素子用正極を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面に係る蓄電素子用正極活物質合剤は、蓄電素子の低温環境下での放電容量を大きくすることができる。
【0011】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子用正極は、蓄電素子の低温環境下での放電容量を大きくすることができる。
【0012】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子は、低温環境下での放電容量が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
図2図2は、非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
初めに、本明細書によって開示される蓄電素子用正極活物質合剤、蓄電素子用正極及び蓄電素子の概要について説明する。
【0015】
本発明の一側面に係る蓄電素子用正極活物質合剤は、下記式1で表される化合物を含有し、細孔径30nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積が10m/g以上であり、かつ上記細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積が1m/g以上である。
LiFeMn(1-x)PO(0≦x≦1) ・・・1
【0016】
この蓄電素子用正極活物質合剤によれば、蓄電素子の低温環境下での放電容量を大きくすることができる。この理由としては、必ずしも明確ではないが、例えば以下のように推察される。すなわち、当該蓄電素子用正極活物質合剤が、遷移金属として鉄、マンガン又はこれらの組み合わせを含有する上記式1の化合物を含有することで、充放電容量を大きくすることができる。加えて、当該蓄電素子用正極活物質合剤における細孔径が30nm以上200nm以下の範囲の細孔は非水電解質が浸透しやすい範囲であり、この細孔径の範囲における細孔比表面積を10m/g以上とし、さらにこの細孔径の範囲のうち比較的大きな細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積を1m/g以上とすることで、非水電解質の浸透を促す細孔構造が得られる。その結果、当該蓄電素子用正極活物質合剤の細孔内でのリチウムイオン拡散性が向上する。このリチウムイオン拡散性の向上によって、当該蓄電素子用正極活物質合剤は、蓄電素子の低温環境下での放電容量を大きくすることができるものと推察される。
【0017】
ここで、当該蓄電素子用正極活物質合剤は、多孔性炭素をさらに含有してもよい。
【0018】
このように当該蓄電素子用正極活物質合剤が多孔性炭素を含有する場合には、特に当該蓄電素子用正極活物質合剤の上記比較的大きな細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積を、1m/g以上に調整し易くすることができ、すなわち、より確実に調整することができる。よって、当該蓄電素子用正極活物質合剤が、蓄電素子の低温環境下での放電容量をより確実に大きくすることができる。
【0019】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子用正極は、当該蓄電素子用正極活物質合剤を含む。
【0020】
このように、当該蓄電素子用正極は、上述した当該蓄電素子用正極活物質合剤を含むため、蓄電素子の低温環境下での放電容量を大きくすることができる。
【0021】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子は、当該蓄電素子用正極を備える。
【0022】
このように、当該蓄電素子は、上述した当該蓄電素子用正極を備えるため、低温環境下での放電容量が大きい。
【0023】
本発明の一実施形態に係る蓄電素子用正極活物質合剤、蓄電素子用正極、蓄電素子の構成、蓄電装置の構成、及び蓄電素子の製造方法、並びにその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0024】
<蓄電素子用正極活物質合剤>
当該蓄電素子用正極活物質合剤(以下、単に正極活物質合剤ともいう)は、下記式1で表される化合物(以下、第1化合物ともいう)を含有する。具体的には、当該正極活物質合剤は、正極活物質を含み、この正極活物質が第1化合物を含む。当該正極活物質合剤は、多孔性炭素をさらに含有してもよい。当該正極活物質合剤は、必要に応じて、多孔性炭素以外の導電剤、バインダ(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
LiFeMn(1-x)PO(0≦x≦1) ・・・1
【0025】
(正極活物質)
正極活物質は、第1化合物を含む。第1化合物は、上記式1で表され、オリビン型結晶構造を有する。オリビン型結晶構造を有する化合物は、空間群Pnmaに帰属可能な結晶構造を有する。空間群Pnmaに帰属可能な結晶構造とは、エックス線回折図において、空間群Pnmaに帰属可能なピークを有することをいう。第1化合物は、結晶格子からの酸素脱離反応が容易に進行しないポリアニオン塩であるため、安全性が高く、また、安価である。
【0026】
第1化合物は、上記式1で表されるように、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸鉄マンガンリチウム(LiFeMn1-xPO、0<x<1)又はこれらの組み合わせで構成される。当該正極活物質が遷移金属として鉄、マンガン又はこれらの組み合わせを含むことで、より充放電容量を大きくすることができる。
【0027】
このように、第1化合物は、鉄、マンガン又はこれらの組み合わせとリチウムとを含むリン酸塩化合物である。第1化合物は、不可避的不純物として鉄及びマンガン以外の遷移金属元素やアルミニウム等の典型元素を含んでいてもよい。但し、第1化合物は、実質的に鉄、マンガン又はこれらの組み合わせとリチウムとリンと酸素とから構成されていることが好ましい。
【0028】
上記式1中、xの上限としては、1であり、0.95が好ましい。また、xの下限としては、0であり、0.25が好ましい。xの値が上記上限以下又は上記下限以上であることで、第1化合物がより優れた寿命特性を有する。なお、xは実質的に1であってもよい。
【0029】
第1化合物の一次粒子の平均粒子径としては、例えば0.01μm以上0.2μm以下が好ましく、0.02μm以上0.1μm以下がより好ましい。第1化合物の一次粒子の平均粒径を上記範囲とすることで、当該正極活物質合剤の細孔内でのリチウムイオンの拡散性がより向上する。一次粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡による観察によって測定される値である。
【0030】
第1化合物の二次粒子の平均粒子径としては、例えば3μm以上20μm以下が好ましく、5μm以上15μm以下がより好ましい。第1化合物の二次粒子の平均粒子を上記範囲とすることで、製造及び取り扱いが容易になるとともに、当該正極活物質合剤の細孔内でのリチウムイオンの拡散性が向上する。二次粒子の平均粒子径は、粒度分布測定によって測定される値である。
【0031】
第1化合物を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0032】
第1化合物は、表面の少なくとも一部が炭素により被覆されていてもよい。このように、上記正極活物質が、表面の少なくとも一部が炭素により被覆された第1化合物であってもよい。第1化合物の表面の少なくとも一部が炭素により被覆されていることで電子伝導性が向上される。上記正極活物質における炭素の含有量としては、0.5質量%以上5質量%以下が好ましい。炭素の含有量を上記範囲とすることで、電気伝導性を大きくできるとともに、電極密度ひいては蓄電素子の容量を大きくすることができる。
【0033】
当該正極活物質合剤には、第1化合物以外の正極活物質がさらに含まれていてもよい。このような他の正極活物質としては、公知のリチウムイオン二次電池用の正極活物質の中から適宜選択できる。但し、正極活物質合剤に含まれる全正極活物質に占める第1化合物の合計含有量の下限としては、90質量%が好ましく、99質量%がより好ましい。当該全正極活物質に占める第1化合物の合計含有量の上限としては、100質量%であってもよい。このように実質的に正極活物質としてオリビン型結晶構造を有する当該正極活物質のみを用いることで、蓄電素子の低温環境下での放電容量を大きくする効果を、より高めることができる。
【0034】
上記リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。上記第1化合物以外の正極活物質としては、例えば、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LiNi(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγCo(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiCo(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγMn(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LiNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LiMn、LiNiγMn(2-γ)等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiNiPO、LiCoPO,Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。当該正極活物質合剤においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
当該正極活物質合剤における全正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。全正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、当該正極活物質合剤の高エネルギー密度化と導電性向上を両立できる。当該正極活物質合剤における第1化合物の含有量の下限としては、90質量%が好ましく、99質量%が好ましい。
【0036】
(多孔性炭素)
多孔性炭素としては、例えば、東洋炭素製のCNovelや関西熱化学製のMSC-30等が挙げられる。当該正極活物質合剤が多孔性炭素を含有することで、特に当該正極活物質合剤の比較的大きな細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積を、1m/g以上に調整し易くすることができ、すなわち、より確実に調整することができる。加えて、当該蓄電素子用正極活物質合剤が、蓄電素子の放電容量を低下させることを回避しつつ、上記のように低温環境下での放電容量をより確実に大きくすることができる。
【0037】
また、当該正極活物質合剤が多孔性炭素を含有する場合には、上記のように主として多孔性炭素によって当該正極活物質合剤の上記比較的大きい細孔径の範囲における細孔比表面積を1m/g以上に調整することができる。これに加えて、主として第1化合物によって当該正極活物質合剤の比較的小さい細孔径30nm以上100nm未満の細孔比表面積を調整することができる。これらの調整によって、全体として細孔径30nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積を10m/g以上に調整することができる。このように、上記細孔径における細孔比表面積の調整に対する寄与を、多孔性炭素と第1化合物とで分担することで、より確実かつ詳細に当該正極活物質合剤の上記各細孔径における上記各細孔比表面積を上記各範囲に調整することができる。
【0038】
多孔性炭素の平均粒子径は、0.1μm以上10μm以下が好ましく、0.5μm以上5μm以下がより好ましい。多孔性炭素の平均粒子径が上記範囲であれば、当該正極活物質合剤の上記比較的大きな細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積を、1m/g以上に調整し易くすることができる。多孔性炭素の細孔径は、正極活物質合剤からPVDF等のバインダを除去し、乾燥して粉体を取得し、取得された粉体から風力分級等を用いて多孔性炭素を抽出し、抽出された多孔性炭素を対象として細孔分布測定を行うことによって得られる。
【0039】
多孔性炭素の比表面積は、10m/g以上4000m/g以下が好ましく、100m/g以上3000m/g以下がより好ましい。多孔性炭素の比表面積が上記範囲であれば、当該正極活物質合剤の上記比較的大きな細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積を、1m/g以上に調整し易くすることができる。多孔性炭素の比表面積は、上記多孔性炭素の細孔径の測定と同様にして粉体を抽出し、抽出された粉体を対象としてガス吸着法による比表面積測定を行うことによって得られる。
【0040】
当該正極活物質合剤中の多孔性炭素の含有量の下限としては、0.1質量%が好ましく、0.3質量%がより好ましい。上記多孔性炭素の含有量が上記下限以上であれば、当該正極活物質合剤の上記比較的大きな細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積を、1m/g以上に調整し易くすることができる。上記多孔性炭素の含有量の上限としては、2質量%が好ましく、1質量%がより好ましい。多孔性炭素の含有量が上記上限以下であれば、相対的に第1化合物の含有量が小さくなり過ぎて蓄電素子の充放電容量が低下することを低減することができる。
【0041】
(導電剤)
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、上記多孔性炭素以外の炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。上記多孔性炭素以外の炭素質材料としては、黒鉛化炭素、非黒鉛化炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛化炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0042】
当該正極活物質合剤における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0043】
(バインダ)
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0044】
当該正極活物質合剤におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0045】
(増粘剤)
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0046】
(フィラー)
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0047】
当該正極活物質合剤は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0048】
当該正極活物質合剤の細孔径30nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積、及び細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積は、窒素ガス吸着法を用いた脱着等温線からBJH法で求められる。具体的には、上記脱着等温線からBJH法によって当該正極活物質合剤の細孔径30nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積、及び細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積がそれぞれ得られる。これら細孔比表面積は、当該正極活物質合剤のうちバインダを除いた残りの成分について測定した値である。
【0049】
当該正極活物質合剤の細孔径30nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積の下限としては、10m/gであり、12m/gが好ましい。当該正極活物質合剤の細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積の下限としては、1m/gであり、2m/gが好ましい。上記各細孔比表面積の下限がそれぞれ上記を満たすことで、当該正極活物質合剤を含む正極を備える蓄電素子は、低温環境下での放電容量が優れる。一方、当該正極活物質合剤の細孔径30nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積の上限としては、40m/gが好ましく、30m/gがより好ましい。当該正極活物質合剤の細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積の上限としては、7m/gが好ましく、5m/gがより好ましい。上記各細孔比表面積の上限がそれぞれ上記を満たすことで、当該正極活物質合剤を含む正極を備える蓄電素子は、より確実に低温環境下での放電容量が優れる。なお、当該正極活物質合剤の細孔径30nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積が上記特定の範囲を満たすことは、上記30nm以上200nmの範囲で測定された各細孔径における細孔比表面積の全てが上記特定の細孔比表面積の範囲を満たすことを意味する。同様に、当該正極活物質合剤の細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積が上記特定の範囲を満たすことは、上記100nm以上200nmの範囲で測定された各細孔径における細孔比表面積の全てが上記特定の細孔比表面積の範囲を満たすことを意味する。
【0050】
当該正極活物質合剤の細孔径30nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積、及び細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積は、以下の手順に基づいて、算出する。
上記細孔比表面積の測定の際には、Quantachrome社製の「autosorb iQ」および制御解析ソフト「ASiQwin」を用いる。測定対象の試料である当該正極活物質合剤(ただし、バインダを除く)1.00gを測定用のサンプル管に入れ、120℃にて12時間減圧乾燥することで、測定試料中の水分を十分に除去する。次に、液体窒素を用いる窒素ガス吸着法により、相対圧力P/P0(P0=約770mmHg)が0から1の範囲内で吸着側および脱離側の等温線を測定する。そして、脱離側の等温線を用いてBJH法により計算することにより各細孔径の範囲における細孔比表面積をそれぞれ算出する。
【0051】
上記細孔比表面積の測定には、正極作製前の正極活物質合剤(ただし、バインダを除く)の充放電前粉体であれば、そのまま測定に供する。
蓄電素子を解体して取り出した正極から測定試料を採取する場合には、蓄電素子を解体する前に、当該蓄電素子に1時間の定電流通電を行ったときに蓄電素子の公称容量と同じ電気量となる電流値の10分の1となる電流値(0.1C)で、25℃環境下にて指定される電圧の下限となる電圧に至るまで定電流放電する。蓄電素子を解体し、正極を取り出し、金属リチウム電極を対極とした電池を組立て、正極活物質合剤1gあたり10mAの電流値で、25℃環境下にて正極の端子間電圧が2.0V(vs.Li/Li)となるまで定電流放電を行い、完全放電状態に調整する。その後再解体し、正極を取り出す。取り出した正極は、ジメチルカーボネートを用いて正極に付着した非水電解質を十分に洗浄し室温にて一昼夜の乾燥後、正極基材上の正極活物質合剤を採取する。上記の電池の解体までの作業、及び正極洗浄、乾燥作業は、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。得られた正極活物質合剤粉体をN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させ、正極活物質合剤中のバインダ(例えばPVDF)を除去する。さらにジメチルカーボネートを用いて洗浄後乾燥して粉体を得る。上記細孔比表面積の測定においては、このようにして採取した粉体を測定に供する。
【0052】
<蓄電素子用正極活物質合剤の製造方法>
当該正極活物質合剤は、第1化合物を含む正極活物質と、多孔性炭素と、必要に応じて上述した他の成分とを混合することによって製造することができる。当該正極活物質合剤は、分散媒である溶剤と共にペースト状にされ、正極基材に塗布され、乾燥されることで、正極活物質合剤層とされる。第1化合物は、例えば以下の手順に基づいて製造することができる。
【0053】
(第1化合物の製造方法)
初めに反応容器にFeSOおよびMnSOの任意の比率での混合溶液を一定速度で滴下しつつ、その間のpHが一定値を保つようにNaOH水溶液と、NH水溶液と、NHNH水溶液とを滴下し、FeMn1-x(OH)前駆体を作製する。次に、作製されたFeMn(1-x)(OH)前駆体を反応容器から取り出し、LiHPO及びスクロース粉と固相混合する。そして、得られた混合物を窒素雰囲気下において550℃以上750℃以下の焼成温度で焼成することにより、オリビン型結晶構造を有し、下記式1で表される第1化合物を作製する。この第1化合物は、炭素で被覆されている。なお、スクロース粉を添加しないこと以外は上記と同様にして固相混合及び焼成を行うことにより、炭素で被覆されていない第1化合物を作製することができる。
LiFeMn(1-x)PO(0≦x≦1) ・・・1
【0054】
(細孔比表面積の調整方法)
上記したように、当該正極活物質合剤の細孔径が30nm以上200nm以下の範囲は非水電解質が浸透しやすい領域であり、当該正極活物質合剤は、この細孔径の範囲における細孔比表面積を10m/g以上とし、かつ細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積を1m/g以上とすることで非水電解質の浸透を促す細孔構造を得ることができる。上記各範囲の細孔比表面積は、例えば上記した第1化合物の製造方法を制御することによって調整することができる。
【0055】
このような第1化合物の製造方法の制御としては、第1化合物の前駆体を作製する際のpH調整、及び前駆体を焼成する際の温度調整等が挙げられる。
【0056】
当該正極活物質合剤が多孔性炭素を含有する場合、当該正極活物質合剤の上記各細孔径の範囲における細孔比表面積は、上記第1化合物の製造方法の制御に加えて、多孔性炭素の平均粒子径及び比表面積を調整することによって得ることができる。この場合、例えば種々の平均粒子径及び比表面積を有する多孔性炭素から、上記各細孔径の範囲における細孔比表面積が得られるような多孔性炭素を選択すること等が挙げられる。その他、上記各細孔径の範囲における細孔比表面積は、上記多孔性炭素と上記第1化合物との配合比を調整することによっても得ることができる。
【0057】
当該蓄電素子用正極活物質合剤によれば、蓄電素子の低温環境下での放電容量を大きくすることができる。
【0058】
<蓄電素子用正極>
当該蓄電素子用正極(以下、単に正極ともいう。)は、当該正極活物質合剤を含む。上記正極は、正極基材と、この正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質合剤層とを有する。
【0059】
(正極基材)
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cmを閾値として判定する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0060】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。「基材の平均厚さ」とは、所定の面積の基材を打ち抜いた際の打ち抜き質量を、基材の真密度及び打ち抜き面積で除した値をいい、負極基材も同様である。
【0061】
(中間層)
中間層は、正極基材と正極活物質合剤層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極活物質合剤層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0062】
(正極活物質合剤層)
正極活物質合剤層は、上述した当該正極活物質合剤によって形成される層である。
【0063】
<蓄電素子の構成>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、非水電解質と、上記電極体及び非水電解質を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して積層された積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介した積層された状態で巻回された巻回型である。非水電解質は、正極、負極及びセパレータに含まれた状態で存在する。蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0064】
[正極]
当該蓄電素子が備える正極は、上述した当該蓄電素子用正極である。
【0065】
[負極]
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質合剤層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記当該蓄電素子用正極で例示した構成から選択することができる。
【0066】
(負極基材)
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0067】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0068】
(負極活物質合剤層)
負極活物質合剤層は、負極活物質を含む。負極活物質合剤層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極で例示した材料から選択できる。
【0069】
負極活物質合剤層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba、等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0070】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;LiTi12、LiTiO2、TiNb等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0071】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、エックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0072】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてエックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0073】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0074】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0075】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0076】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒子径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒子径は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒子径は、1nm以上1μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒子径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒子径を上記上限以下とすることで、活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。負極活物質が金属Li等の金属である場合、負極活物質は、箔状であってもよい。
【0077】
負極活物質合剤層における負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0078】
[セパレータ]
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0079】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0080】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0081】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0082】
[非水電解質]
非水電解質としては、公知の非水電解質の中から適宜選択できる。非水電解質には、非水電解液を用いてもよい。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0083】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0084】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0085】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0086】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0087】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0088】
リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPFがより好ましい。
【0089】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm以上2.5mol/dm以下であると好ましく、0.3mol/dm以上2.0mol/dm以下であるとより好ましく、0.5mol/dm以上1.7mol/dm以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm以上1.5mol/dm以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0090】
非水電解液は、非水溶媒と電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)等のハロゲン化炭酸エステル;リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸塩;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のイミド塩;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、プロパンスルトン、プロペンスルトン、ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0091】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0092】
非水電解質には、固体電解質を用いてもよく、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。
【0093】
固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃~25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、及び酸窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0094】
硫化物固体電解質としては、リチウムイオン二次電池の場合、例えば、LiS-P、LiI-LiS-P、Li10Ge-P12、等が挙げられる。
【0095】
<蓄電素子の具体的構成>
本実施形態の蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
図1に角型電池の一例としての蓄電素子1を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。容器3には、非水電解質が注入されている。
【0096】
<蓄電装置の構成>
本実施形態の蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の蓄電素子1を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電装置に含まれる少なくとも一つの蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
図2に、電気的に接続された二以上の蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0097】
<蓄電素子の製造方法>
本実施形態の蓄電素子の製造方法は、正極として当該蓄電素子用正極を用いること以外は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば、電極体を準備することと、非水電解質を準備することと、電極体及び非水電解質を容器に収容することと、を備える。電極体を準備することは、正極及び負極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を積層又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。
【0098】
非水電解質を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、非水電解質に非水電解液を用いる場合、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。
【0099】
<その他の実施形態>
尚、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0100】
上記実施形態では、蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【0101】
上記実施形態では、正極及び負極がセパレータを介して積層された電極体について説明したが、電極体は、セパレータを備えなくてもよい。例えば、正極又は負極の活物質層上に導電性を有さない層が形成された状態で、正極及び負極が直接接してもよい。
【実施例0102】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0103】
[正極活物質の作製]
(1)LiFePOの作製
初めに、750cmのイオン交換水が入った2dmの反応容器に1mol/dmのFeSO水溶液を一定速度で滴下しつつ、その間のpHが一定値10.0±0.1を保つように4mol/dmのNaOH水溶液と、0.5mol/dmのNH水溶液と、0.5mol/dmのNHNH水溶液を滴下し、Fe(OH)前駆体を作製した。反応容器の温度は50℃(±2℃)に設定した。次に、作製されたFe(OH)前駆体を反応容器から取り出し、LiHPO及びスクロース粉と固相混合した。そして、得られた混合物を窒素雰囲気下において焼成温度650℃で焼成することにより、オリビン型結晶構造を有する正極活物質LiFePOを作製した。
(2)LiFe0.25Mn0.75POの作製
初めに、750cmのイオン交換水が入った2dmの反応容器にFeSO及びMnSOが1:3のモル比となるように調整した1mol/dmの水溶液を一定速度で滴下しつつ、その間のpHが一定値10.0±0.1を保つように4mol/dmのNaOH水溶液と、0.5mol/dmのNH水溶液と、0.5mol/dmのNHNH水溶液を滴下し、Fe0.25Mn0.75(OH)前駆体を作製した。反応容器の温度は50℃(±2℃)に設定した。次に、作製されたFe0.25Mn0.75(OH)前駆体を反応容器から取り出し、LiHPO及びスクロース粉と固相混合した。そして、得られた混合物を窒素雰囲気下において焼成温度650℃で焼成することにより、オリビン型結晶構造を有する正極活物質LiFe0.25Mn0.75POを作製した。
【0104】
表1に、実施例1から実施例15及び比較例1から比較例3の正極活物質の下記式1におけるxの値を示す。
LiFeMn(1-x)PO(0≦x≦1) ・・・1
【0105】
[正極の作製]
(実施例1から実施例12、及び比較例3)
正極活物質としてLiFePOを用いた。表1に示す平均粒子径及び比表面積を有する多孔性炭素を用いた。分散媒としてN-メチルピロリドン(NMP)、導電剤としてアセチレンブラック、及びバインダとしてPVDFを用いた。上記正極活物質、多孔性炭素、導電剤、バインダ及び分散媒を混合した。その際、正極活物質:導電剤:バインダの固形分質量比率を90:5:5に設定し、この合計固形分質量100に対して、表1の含有量(質量%)となるように多孔性炭素をさらに添加した。得られた混合物に分散媒を適量加えて粘度を調整し、正極活物質合剤ペーストを作製した。次に、上記正極活物質合剤ペーストを、正極基材であるアルミニウム箔の両面に、未塗布部(正極活物質合剤層非形成部)を残して塗布し、120℃で乾燥し、ロールプレスすることにより、正極基材上に正極活物質合剤層を形成した。正極活物質合剤ペーストの塗布量は、固形分で10mg/cmとした。このようにして、実施例1から実施例12、及び比較例3の正極を得た。得られた正極における正極活物質合剤の細孔径30nm以上100nm以下の範囲における細孔比表面積、細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積、及び細孔径30nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積を上記の方法に基づいて測定した。結果を表1に示す。
【0106】
(実施例13から実施例15)
正極活物質としてLiFe0.25Mn0.75POを用い、表1に示す平均粒子径及び比表面積を有する多孔性炭素を表1に示す添加量で用いること以外は実施例7から実施例9と同様にして、実施例13から実施例15の正極を得た。得られた正極における正極活物質合剤の細孔径30nm以上100nm以下の範囲における細孔比表面積、細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積、及び細孔径30nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積を上記の方法に基づいて測定した。結果を表1に示す。
【0107】
(比較例1)
多孔性炭素を添加しないこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の正極を得た。得られた正極における正極活物質合剤の細孔径30nm以上100nm以下の範囲における細孔比表面積、細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積、及び細孔径30nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積を上記の方法に基づいて測定した。結果を表1に示す。
【0108】
(比較例2)
多孔性炭素を添加しないこと、及び正極活物質を製造する際の焼成温度を550℃とすること以外は実施例1と同様にして、比較例2の正極を得た。得られた正極における正極活物質合剤の細孔径30nm以上100nm以下の範囲における細孔比表面積、細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積、及び細孔径30nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積を上記の方法に基づいて測定した。結果を表1に示す。
【0109】
[負極の作製]
負極活物質としてグラファイト、バインダとしてSBR、増粘剤としてCMCを用いた。負極活物質、バインダ、増粘剤及び分散剤としての水を混合した。その際、負極活物質:バインダ:増粘剤の固形分質量比率を97:2:1の比に設定した。得られた混合物に水を適量加えて粘度を調整し、負極合剤ペーストを作製した。この負極合剤ペーストを、銅箔の両面に、未塗布部(負極活物質層非形成部)を残して塗布し、乾燥することにより負極活物質層を作製した。その後、ロールプレスを行い、負極を作製した。
【0110】
[非水電解質の調製]
ECとEMCを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPFを1mol/dmの濃度で溶解させ、非水電解質を調製した。
【0111】
[蓄電素子の作製]
次に、ポリエチレン製微多孔膜基材及び上記ポリエチレン製微多孔膜基材上に形成された耐熱層からなるセパレータを介して、上記正極と上記負極とを積層し、電極体を作製した。なお、上記耐熱層は、正極と対向する面に配設されるようにした。この電極体をアルミニウム製の角形容器に収納し、正極端子及び負極端子を取り付けた。この角型容器内部に上記非水電解質を注入した後、封口し、実施例及び比較例の蓄電素子を得た。
【0112】
[容量確認試験]
上記各蓄電素子について、25℃環境下で3.6Vまで0.1Cの充電電流で定電流充電した後、3.6Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、充電電流が0.02Cになるまでとした。充電後に10分間の休止を設けたのちに、25℃環境下で2.0Vまで0.1Cの放電電流で定電流放電した。放電後に10分間の休止を設けた。上記のサイクルを2回繰り返し、2回目の放電容量を0.1C容量とした。
【0113】
[低温環境下での放電容量比]
上記各蓄電素子について、25℃環境下で3.6Vまで0.1Cの充電電流で定電流充電したのちに、3.6Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、充電電流が0.02Cになるまでとした。充電後に10分間の休止を設けたのちに、25℃環境下で2.0Vまで2Cの放電電流で定電流放電を行い、「25℃における2C放電容量」を測定した。次に、25℃環境下で3.6Vまで0.1Cの充電電流で定電流充電したのちに、3.6Vで定電圧充電した。充電の終了条件は、充電電流が0.02Cになるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。その後、-30℃環境下で3時間保管した後、2.0Vまで2Cの放電電流で定電流放電を行い、「-30℃における2C放電容量」を測定した。
上記25℃における2C放電容量と、-30℃における2C放電容量とから、低温ハイレート放電性能を示す指標として、これらの「容量比」、すなわち25℃における2C放電容量に対する-30℃における2C放電容量の百分率を求めた。結果を表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
上記表1に示されるように、正極活物質として上記式1で表されるようなオリビン型結晶構造を有する第1化合物を含有し、正極活物質合剤の細孔径30nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積が10m/g以上であり、かつ細孔径100nm以上200nm以下の範囲における細孔比表面積が1m/g以上である実施例1から実施例15は、比較例1から比較例3と比較して低温環境下での放電容量が大きいことがわかる。
【0116】
以上の結果、当該正極活物質合剤は、蓄電素子の低温環境下での放電容量を大きくできることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等の電源として使用される蓄電素子に適用できる。
【符号の説明】
【0118】
1 蓄電素子
2 電極体
3 容器
4 正極端子
41 正極リード
5 負極端子
51 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2