(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073208
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】鉄道車両用シートおよび鉄道車両
(51)【国際特許分類】
B61D 33/00 20060101AFI20220510BHJP
B60N 2/14 20060101ALI20220510BHJP
A47C 1/024 20060101ALI20220510BHJP
A47C 3/18 20060101ALI20220510BHJP
B60N 2/20 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
B61D33/00 D
B60N2/14
A47C1/024
A47C3/18 B
A47C3/18 Z
B60N2/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020183039
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】松村 朋久
【テーマコード(参考)】
3B087
3B091
3B099
【Fターム(参考)】
3B087BA08
3B087BB12
3B087BC21
3B087BD03
3B087BD04
3B091EA03
3B091EA04
3B099BA04
(57)【要約】
【課題】乗車定員の減少を最小限に抑えつつ所要スペース確保のためのシートアレンジの変更を可能にする。
【解決手段】鉄道車両シートは、シートクッション11と、シートクッション11を客室のフロアに対し回転可能に支持する回転支持機構13とを備える。回転支持機構13は、シートクッション11の長手方向の略中央に設定された第1回転軸R1を中心にシートクッション11を180°回転可能に支持する第1回転盤31と、第1回転軸R1からシートクッション11の長手方向の一方側に離れた第2回転軸R2を中心にシートクッション11を90°回転可能に支持する第2回転盤32とを有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の客室内に配置されかつ複数人の乗客が横並びで着座可能なシートであって、
シートクッションと、
前記シートクッションから上方に立ち上がるシートバックと、
前記シートクッションを前記客室のフロアに対し回転可能に支持する回転支持機構とを備え、
前記回転支持機構は、
前記シートクッションの長手方向の略中央に設定された第1回転軸を中心に前記シートクッションを180°回転可能に支持する第1回転盤と、
前記第1回転軸から前記シートクッションの長手方向の一方側に離れた第2回転軸を中心に前記シートクッションを90°回転可能に支持する第2回転盤とを有する、ことを特徴とする鉄道車両用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用シートにおいて、
前記回転支持機構は、初期状態において前記シートクッションの長手方向が車幅方向に沿う姿勢で前記シートクッションを支持し、
前記第2回転軸は、前記第1回転軸よりも前記客室の側壁の近くに配置される、ことを特徴とする鉄道車両用シート。
【請求項3】
請求項2に記載の鉄道車両用シートにおいて、
前記回転支持機構は、
前記フロアにおける前記側壁の近傍に固定されるベース部と、
前記ベース部に前記第2回転盤を介して取り付けられ、前記ベース部に対し前記第2回転軸を中心に90°回転可能な中間回転体と、
前記中間回転体に前記第1回転盤を介して取り付けられ、前記中間回転体に対し前記第1回転軸を中心に180°回転可能な上部回転体とを有し、
前記シートクッションは、前記上部回転体の上面に固定されている、ことを特徴とする鉄道車両用シート。
【請求項4】
請求項3に記載の鉄道車両用シートにおいて、
前記ベース部は、その車幅方向の寸法が前記シートクッションの前後幅以下となるように形成されている、ことを特徴とする鉄道車両用シート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の鉄道車両用シートにおいて、
前記第1回転軸は、前記シートクッションの短手方向の中央に対し前記シートバック側にずれた位置に設定されている、ことを特徴とする鉄道車両用シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の鉄道車両用シートにおいて、
前記シートバックは、
前記シートクッションから上方に立ち上がる下側部分と、
前記下側部分の上側に設けられた上側部分と、
前記上側部分を前記下側部分に対し傾動可能に支持する傾動機構とを有し、
前記上側部分は、前記下側部分の上端から上方に延びる起立状態と、前記下側部分の上端からシート前方に延びる倒伏状態との間で変位可能なように、前記傾動機構を介して前記下側部分に支持されている、ことを特徴とする鉄道車両用シート。
【請求項7】
請求項6に記載の鉄道車両用シートにおいて、
前記上側部分の背面には、前記倒伏状態のときに略水平な載置面を形成するテーブル部が設けられている、ことを特徴とする鉄道車両用シート。
【請求項8】
内部に客室を有する車体と、客室に配置された複数のシートとを備える鉄道車両であって、
前記複数のシートは、
複数人の乗客が横並びで着座可能な第1シートと、
前記第1シートの前側または後側に配置された第2シートとを備え、
前記第1シートは、
車幅方向に延びるシートクッションと、
前記シートクッションから上方に立ち上がるシートバックと、
前記シートクッションを前記客室のフロアに対し回転可能に支持する回転支持機構とを備え、
前記回転支持機構は、
前記シートクッションの長手方向の略中央に設定された第1回転軸を中心に前記シートクッションを180°回転可能に支持する第1回転盤と、
前記第1回転軸よりも前記客室の側壁に近い第2回転軸を中心に前記シートクッションを90°回転可能に支持する第2回転盤とを有する、ことを特徴とする鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の客室内に配置されかつ複数人の乗客が横並びで着座可能な鉄道車両用シートおよびこれを備えた鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両に用いられるシートとして、例えば下記特許文献1のものが知られている。この特許文献1の鉄道車両用シート(以下、単にシートという)は、客室のフロアに対し回転可能に設けられた第1の可動枠と、第1の可動枠に対し平行リンク機構を介して前後方向にスライド可能に設けられた第2の可動枠と、第2の可動枠に取り付けられたシートフレームとを備えている。このような構造を有するシートは、シートバック(背ずり)が客室の側壁と平行になるロングシート状態と、シートバックが客室の側壁と直交するクロスシート状態との間で切り替え可能とされる。例えば、ロングシート状態にあるシートをクロスシート状態に切り替える際には、まず第2の可動枠を第1の可動枠に対し車幅方向内側(通路側)へスライドさせ、その状態で第2の可動枠を第1の可動枠に対し回転させる。このように、スライドと回転という2段階の動作を経てシートの状態切り替えを行うようにした場合には、状態切替時にシートが客室の側壁と干渉するのを回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、例えば車椅子利用者が車椅子に乗ったまま乗車する必要がある場合に、この車椅子利用者の乗車スペース確保のために上記特許文献1と同様のシートを用いることが考えられる。具体的には、上記特許文献1の構造を適用したシート(以下、対象シートという)をクロスシート状態からロングシート状態(シートバックが客室の側壁と平行になる状態)に切り替えることにより、車椅子利用者の乗車スペースを確保することが考えられる。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の構造を適用した対象シートは、平面視においてそのシートクッションの中央部を中心に回転しつつロングシート状態に切り替わるので、当該切り替えによって対象シートの車両前後方向に沿った寸法がクロスシート状態のときと比べて前側および後側の双方に拡大する結果、対象シートとその前側または後側にある他のシートとの隙間が狭小化してしまう。このことは、当該他のシートに乗客が着座することを困難にするので、乗車定員を減らさざるを得なくなり、乗車効率の悪化を招いてしまう。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、乗車定員の減少を最小限に抑えつつ所要スペース確保のためにシートアレンジを適切に変更することが可能な鉄道車両用シートおよびこれを備えた鉄道車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためのものとして、本発明の一局面に係る鉄道車両用シートは、鉄道車両の客室内に配置されかつ複数人の乗客が横並びで着座可能なシートであって、シートクッションと、前記シートクッションから上方に立ち上がるシートバックと、前記シートクッションを前記客室のフロアに対し回転可能に支持する回転支持機構とを備え、前記回転支持機構は、前記シートクッションの長手方向の略中央に設定された第1回転軸を中心に前記シートクッションを180°回転可能に支持する第1回転盤と、前記第1回転軸から前記シートクッションの長手方向の一方側に離れた第2回転軸を中心に前記シートクッションを90°回転可能に支持する第2回転盤とを有する、ことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の他の局面に係る鉄道車両は、内部に客室を有する車体と、客室に配置された複数のシートとを備える鉄道車両であって、前記複数のシートは、複数人の乗客が横並びで着座可能な第1シートと、前記第1シートの前側または後側に配置された第2シートとを備え、前記第1シートは、車幅方向に延びるシートクッションと、前記シートクッションから上方に立ち上がるシートバックと、前記シートクッションを前記客室のフロアに対し回転可能に支持する回転支持機構とを備え、前記回転支持機構は、前記シートクッションの長手方向の略中央に設定された第1回転軸を中心に前記シートクッションを180°回転可能に支持する第1回転盤と、前記第1回転軸よりも前記客室の側壁に近い第2回転軸を中心に前記シートクッションを90°回転可能に支持する第2回転盤とを有する、ことを特徴とするものである。
【0009】
本発明において、鉄道車両用シートもしくは第1シート(以下、単にシートという)は、異なる回転軸(第1回転軸および第2回転軸)を中心に180°回転および90°回転が可能なシートクッションを有するので、第1回転軸を中心としたシートクッションの180°回転によりシートの向きを変更できるだけでなく、第2回転軸を中心としたシートクッションの90°回転により、他のシートへの着座に支障をきたすことなく、車両基準における当該シートの寸法(車両前後方向および車幅方向の寸法)を変更することができる。これにより、車両の乗車定員の減少を最小限に抑えながら、当該シートの傍らに所望の用途のスペース(例えば車椅子利用者の乗車スペース)を形成することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明の鉄道車両用シートもしくは鉄道車両によれば、乗車定員の減少を最小限に抑えつつ所要スペース確保のためにシートアレンジを適切に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る鉄道車両の内部構造を示す切欠き斜視図である。
【
図2】上記鉄道車両内に設置されるフレキシブルシートを斜め前方から見た正面斜視図である。
【
図3】上記フレキシブルシートを斜め後方から見た背面斜視図である。
【
図4】上記フレキシブルシートの側面図であり、(a)はシートバックの上側部分が起立状態にあるときを、(b)は当該上側部分が倒伏状態にあるときを、それぞれ示している。
【
図5】上記フレキシブルシートの回転支持機構の構造を示す分解斜視図である。
【
図7】上記回転支持機構の第1回転盤の構造を示す断面図である。
【
図8】上記回転支持機構の第2回転盤の構造を示す断面図である。
【
図9】上記回転支持機構の動作説明図であり、上記第1回転盤の中心(第1回転軸)回りにシートクッションが回転する状況を示す図である。
【
図10】上記回転支持機構の動作説明図であり、上記第2回転盤の中心(第2回転軸)回りにシートクッションが回転する状況を示す図である。
【
図11】上記フレキシブルシートの1つを180°回転させる操作を行った状態を示す
図1相当図である。
【
図12】
図11の状態からさらに90°回転させる操作を行った状態を示す図である。
【
図13】
図12の状態からさらにシートバックの折り曲げ操作を行った状態を示す図である。
【
図14】
図13に示す客室内に車椅子利用者が乗車した状態を示す図である。
【
図16】車椅子利用者の乗車人数を2名に増やした場合のシートアレンジの一例を示す図である。
【
図17】車椅子利用者の乗車人数を4名に増やした場合のシートアレンジの一例を示す図である。
【
図18】180°回転を省略した場合に生じる不具合を説明するための図である。
【
図19】上記実施形態の変形例を説明するための図であり、第1回転軸を後方にずらした(b)のシートを、ずらさない(a)のシートと比較して示す図である。
【
図20】上記実施形態の他の変形例を説明するための図であり、車両の後端側にフレキシブルシートを配置した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の鉄道車両用シートおよび鉄道車両の一実施形態について説明する。
【0013】
[鉄道車両の構造]
図1は、本実施形態に係る鉄道車両の内部構造を示す切欠き斜視図である。本図に示すように、鉄道車両は、内部に客室Cを有する車体100と、客室Cの右側に配置された右シート列110Aと、客室Cの左側に配置された左シート列110Bとを備えている。右シート列110Aと左シート列110Bとは左右方向に離れており、両者の間には乗客が移動するための通路Caが前後方向に延びるように形成されている。なお、本明細書では、鉄道車両に関する方向を指す用語として「前」「後」「左」「右」などの用語を用いるが、これは次のことを前提とする。すなわち、本明細書では、鉄道車両(以下、単に車両ともいう)の進行方向を「前」といい、車両の進行方向の反対側を「後」という。また、車両の進行方向を向いたときの左を「左」、車両の進行方向を向いたときの右を「右」という。
【0014】
車体100は、左右のシート列110A,110Bが固定されるフロア102と、フロア102の右側の側縁から上方に立ち上がる右側壁103Aと、フロア102の左側の側縁から上方に立ち上がる左側壁103Bとを備える(図示の都合上、左側壁103Bのみ像線で示す)。客室Cは、これらフロア102および左右の側壁103A,103Bと、図外の天井壁とで囲まれた閉断面空間である。以下では、右側壁103Aおよび左側壁103Bを特に区別せず指すときは、単に側壁103という。
【0015】
側壁103(右側壁103Aおよび左側壁103Bのそれぞれ)には、複数の窓105が設けられている。複数の窓105は、シート列(右シート列110Aまたは左シート列110B)を構成する各シートに着座した乗客が車外を視認できるように、シート列と同様のピッチで車両前後方向に並ぶように設けられている。
【0016】
右シート列110Aは、前後方向に並ぶ多数の右レギュラーシート111(
図1にはそのうちの2つのみを示す)と、最も前側の右レギュラーシート111のさらに前方に配置された前後一対の右フレキシブルシート1Aとを備える。左シート列110Bは、前後方向に並ぶ多数の左レギュラーシート112(
図1にはそのうちの2つのみを示す)と、最も前側の左レギュラーシート112のさらに前方に配置された前後一対の左フレキシブルシート1Bとを備える。言い換えると、本実施形態では、客室Cの最も前側の領域に2つの右フレキシブルシート1Aと2つの左フレキシブルシート1Bとが2列に分かれて(つまり合計4つ)配置されるとともに、これら4つのフレキシブルシート1A,1Bの後側に複数の右レギュラーシート111と複数の左レギュラーシート112とが2列に分かれて配置されている。なお、以下では、右フレキシブルシート1Aおよび左フレキシブルシート1Bを特に区別せずに指すときは、単にフレキシブルシート1という。フレキシブルシート1(右フレキシブルシート1Aおよび左フレキシブルシート1B)は、本発明における「鉄道車両用シート」または「第1シート」の一例に該当する。また、右レギュラーシート111および左レギュラーシート112は、本発明における「第2シート」の一例に該当する。
【0017】
[レギュラーシートの構造]
右レギュラーシート111は、いわゆる2人掛けシートであり、合計2人の乗客が横並びで着座することが可能である。左レギュラーシート112は、いわゆる3人掛けシートであり、合計3人の乗客が横並びで着座することが可能である。右レギュラーシート111および左レギュラーシート112の構造は、2人掛けであるか3人掛けであるかという点を除いて基本的に同一である。
【0018】
すなわち、右レギュラーシート111は、シートクッション121とシートバック122とを備えている。シートクッション121は、着座者の臀部を支持する部材であり、2人の乗客が着座可能なように全体として車幅方向(車体100の左右方向)に長い形状を有している。シートバック122は、着座者の背中を支持する部材であり、シートクッション121の後端から上方に立ち上がるように形成されている。詳細な図示は省略するが、シートクッション121は、右シートクッション部と左シートクッション部とに2分割されており、シートバック122は、右シートクッション部に対応する右シートバック部と左シートクッション部に対応する左シートバック部とに2分割されている。右レギュラーシート111には、左右のシートバック部の傾動角度を個別に調整可能なリクライニング機構と、シートクッション121をフロア102に対し180°回転可能に支持する回転支持機構とが装備されている。回転支持機構は、平面視においてシートクッション121の略中央部に設定された回転軸を中心にシートクッション121を180°回転させることが可能である。
【0019】
左レギュラーシート112は、シートクッション131とシートバック132とを備えている。シートクッション131は、3人の乗客が着座可能なように全体として車幅方向に長い形状を有し、その長さは右レギュラーシート111のシートクッション121の車幅方向長さよりも大きくされている。シートバック132は、シートクッション131に着座した着座者の背中に沿うように、シートクッション131の後端から上方に立ち上がるように形成されている。詳細な図示は省略するが、シートクッション131は、右シートクッション部と中央シートクッション部と左シートクッション部とに3分割されており、シートバック132は、右シートクッション部に対応する右シートバック部と、中央シートクッション部に対応する中央シートバック部と、左シートクッション部に対応する左シートバック部とに3分割されている。左レギュラーシート112には、左右および中央のシートバック部の傾動角度を個別に調整可能なリクライニング機構と、シートクッション131をフロア102に対し180°回転可能に支持する回転支持機構とが装備されている。回転支持機構は、平面視においてシートクッション131の略中央部に設定された回転軸を中心にシートクッション131を180°回転させることが可能である。
【0020】
[フレキシブルシートの構造]
フレキシブルシート1は、右レギュラーシート111と同様の2人掛けシートである。ただし、フレキシブルシート1は、そのシートアレンジの自由度が右レギュラーシート111および左レギュラーシート112よりも高くされた特殊な構造を有している。以下、詳しく説明する。
【0021】
図2~
図4は、フレキシブルシート1を単体で示す図である。具体的に、
図2はフレキシブルシート1を斜め前方から見た正面斜視図であり、
図3はフレキシブルシート1を斜め後方から見た背面斜視図であり、
図4はフレキシブルシート1の側面図である。これら
図2~
図4および先の
図1に示すように、フレキシブルシート1は、シートクッション11と、シートバック12と、回転支持機構13とを備えている。なお、
図2~
図4に単体図として示されるのは右フレキシブルシート1Aであるが、左フレキシブルシート1Bの構造も基本的に同一である。
【0022】
シートクッション11は、2人の乗客が着座可能なように全体として車幅方向に長い形状を有し、その長さは右レギュラーシート111(
図1)のシートクッション121の車幅方向長さと略同一に設定されている。シートクッション11は、右シートクッション部11Aと左シートクッション部11Bとに2分割されている。なお、以下の説明では、シートクッション11の長手方向(右シートクッション部11Aと左シートクッション部11Bとの並び方向)のことをシート幅方向ということがあり、平面視でシート幅方向と直交する方向の一方側であって
図4上で左側に向かう方向(着座者の背から腹に向かう方向)をシート前方ということがあり、平面視でシート幅方向と直交する方向の他方側であって
図4上で右側に向かう方向(着座者の腹から背に向かう方向)をシート後方ということがある。フレキシブルシート1が
図1のように配置されている初期状態では、シート幅方向は車幅方向(車体100の左右方向)に一致し、シート前方は車両前方に一致し、シート後方は車両後方に一致する。
【0023】
シートバック12は、シートクッション11に着座した着座者の背中に沿うように、シートクッション11の後端から上方に立ち上がるように形成されている。シートバック12は、右シートクッション部11Aに対応する右シートバック部12Aと、左シートクッション部11Bに対応する左シートバック部12Bとに2分割されている。図示を省略するが、フレキシブルシート1には、左右のシートバック部12A,12Bの傾動角度を個別に調整可能なリクライニング機構が装備されている。
【0024】
シートクッション11には、3つのアームレスト15が取り付けられている。各アームレスト15は、シートクッション11の後端部から上方に延びるサポート部15aと、サポート部15aの上端からシート前方に延びる肘置き部15bとを有している。3つのアームレスト15は、シートバック12の左右の側縁と、シートバック12の左右中央(右シートバック部12Aと左シートバック部12Bとの間)とからそれぞれ肘置き部15bが突出するように、シートクッション11の左右3箇所に分かれて取り付けられている。
【0025】
図4(a)(b)に示すように、左右のシートバック部12A,12Bは、それぞれ、上下方向の中間部で折れ曲がることが可能な構造を有している。すなわち、右シートバック部12A(左シートバック部12B)は、右シートクッション部11A(左シートクッション部11B)から上方に立ち上がる下側部分21と、下側部分21の上側に設けられた上側部分22と、上側部分22を下側部分21に対し傾動可能に支持する傾動機構23とを備えている。傾動機構23は、シート幅方向(左右のシートバック部12A,12Bの並び方向)に延びる回転軸23aを有し、当該回転軸23aを中心に上側部分22を前後方向に傾動させることが可能である。このような傾動機構23の機能により、上側部分22は、下側部分21の上端から上方に立ち上がる起立状態(
図4(a))と、下側部分21の上端からシート前方に延びる倒伏状態(
図4(b))との間で切り替え可能とされる。図示は省略するが、傾動機構23は、起立状態または倒伏状態において上側部分22をロックするロック機構と、このロック機構を解除して上側部分22の傾動(起立状態と倒伏状態との間の切り替え)を可能にするロック解除機構とをさらに有している。
【0026】
図3および
図4に示すように、左右のシートバック部12A,12Bのそれぞれの上側部分22には、テーブル部25が取り付けられている。テーブル部25は、背面視で略矩形を呈する平板状の部材であり、上側部分22の背面(シート後側の面)に固定的に取り付けられている。テーブル部25の表面(背面)は、各シートバック部12A,12Bが倒伏状態(
図4(b))になったときに略水平な載置面として機能する。また、テーブル部25には、倒伏状態のときにカップ受けとして機能する円形の凹部25aが形成されている。
【0027】
[回転支持機構の詳細]
回転支持機構13は、シートクッション11をフロア102に対し回転可能に支持する機構である。回転支持機構13は、2つの回転軸(後述する第1回転軸R1および第2回転軸R2)を中心にシートクッション11をフロア102と平行な面(水平面)に沿って回転させることが可能である。各回転軸回りに回転する際のシートクッション11の最大回転角度は異なっており、ここでは180°と90°に設定されている。
【0028】
図5は、回転支持機構13の詳細な構造を示す分解斜視図であり、
図6は回転支持機構13の平面図である。本図に示すように、回転支持機構13は、シートクッション11を180°回転させるための第1回転盤31と、シートクッション11を90°回転させるための第2回転盤32と、ベースフレーム33と、中間可動フレーム34と、上部可動テーブル35とを備えている。なお、ベースフレーム33は、本発明における「ベース部」に相当し、中間可動フレーム34は、本発明における「中間回転体」に相当し、上部可動テーブル35は、本発明における「上部回転体」に相当する。
【0029】
ベースフレーム33は、客室Cの側壁103(
図6)の近傍においてフロア102の上面に固定されている。ベースフレーム33は、フロア102に固定された前後一対の門型の固定フレーム台41と、一対の固定フレーム台41の間に掛け渡された左右一対のクロスメンバ42とを備えている。
図5に示すように、ベースフレーム33の車幅方向の寸法(最大長)をBLとすると、この車幅方向の寸法BLは、シートクッション11のシート前後方向の最大長である前後幅CLよりも小さい値に設定されている。
【0030】
なお、
図5および
図6は右フレキシブルシート1A用の回転支持機構13を示しているため、ベースフレーム33が設置されるのは客室Cの右側壁103Aの近傍である。一方、左フレキシブルシート1B用の回転支持機構13については、客室Cの左側壁103B(
図1)の近傍にベースフレーム33が設置されることになる。このため、左フレキシブルシート1B用の回転支持機構13では、ベースフレーム33のシート幅方向の取付位置が
図5および
図6のものと逆(客室Cの右寄りではなく左寄り)になる。この点を除けば、左フレキシブルシート1B用の回転支持機構13の構造も、右フレキシブルシート1A用の回転支持機構13の構造と同一である。
【0031】
中間可動フレーム34は、ベースフレーム33の上方に配置された取付プレート44と、取付プレート44からシート幅方向の一方側(側壁103から離れる側)に延びる前後一対の延設フレーム45と、一対の延設フレーム45の間に掛け渡された左右一対のクロスメンバ46と、一対の延設フレーム45における取付プレート44とは反対側の端部に取り付けられた脚部材47とを備えている。脚部材47は、一対の延設フレーム45から下方に延びる一対の縦材47aと両縦材47aどうしをつなぐ横材47bとを含むコ字状の部材であり、横材47bの下面には、転動可能な状態でフロア102に接するコマ47cが設けられている。
【0032】
上部可動テーブル35は、中間可動フレーム34の上方に配置された平板状の部材である。上部可動テーブル35の上面にはシートクッション11が固定される。
【0033】
第1回転盤31は、上部可動テーブル35を中間可動フレーム34に対し第1回転軸R1を中心に最大で180°回転させるための回転盤である。第1回転盤31は、その中心軸である第1回転軸R1が平面視でシートクッション11の長手方向(シート幅方向)の略中央に一致するように、中間可動フレーム34のクロスメンバ46上に取り付けられている。なお、本実施形態において、第1回転軸R1は、シートクッション11の長手方向の略中央に一致するだけでなく、シートクッション11の短手方向(シート前後方向)の略中央にも一致する位置に設定されている。言い換えると、第1回転軸R1は、平面視におけるシートクッション11の略中央部に設定されている。
【0034】
図7は、第1回転盤31の構造を示す断面図である。本図に示すように、第1回転盤31は、第1回転軸R1を中心としたリング状を呈しかつ径方向に相対向する外側リング51および内側リング52と、両リング51,52の間に転動可能に保持された複数の転動体53とを備えている。内側リング52は、外側リング51の内側に転動体53を挟んで配置されることにより、外側リング51に対し周方向に摺動自在とされている。内側リング52の上面には上部可動テーブル35が固定され、外側リング51の下面には中間可動フレーム34のクロスメンバ46が固定されている。上部可動テーブル35の回転時には、当該上部可動テーブル35に固定された内側リング52が外側リング51に対し周方向に摺動し、これによって
図9に示すように、上部可動テーブル35が中間可動フレーム34に対し第1回転軸R1を中心に回転する動作が実現される。なお、図示を省略するが、第1回転盤31には、上部可動テーブル35の回転角度を180°に制限するためのストッパが設けられている。
【0035】
第2回転盤32は、中間可動フレーム34をベースフレーム33に対し第2回転軸R2を中心に最大で90°回転させるための回転盤である。第2回転盤32は、第1回転盤31からシートクッション11の長手方向の一方側に離れた位置、つまり第1回転盤31と側壁103(ここでは右側壁103A)との間において、ベースフレーム33のクロスメンバ42上に取り付けられている。これにより、第2回転盤32の中心軸である第2回転軸R2は、第1回転盤31の中心軸である第1回転軸R1よりも客室Cの側壁103の近くに存在することになる。
【0036】
図8は、第2回転盤32の構造を示す断面図である。本図に示すように、第2回転盤32は、第2回転軸R2を中心としたリング状を呈しかつ径方向に相対向する外側リング55および内側リング56と、両リング55,56の間に転動可能に保持された複数の転動体57とを備えている。内側リング56は、外側リング55の内側に転動体57を挟んで配置されることにより、外側リング55に対し周方向に摺動自在とされている。内側リング56の上面には中間可動フレーム34の取付プレート44が固定され、外側リング55の下面にはベースフレーム33のクロスメンバ42が固定されている。中間可動フレーム34の回転時には、当該中間可動フレーム34の取付プレート44に固定された内側リング56が外側リング55に対し周方向に摺動し、これによって
図10に示すように、中間可動フレーム34がベースフレーム33に対し第2回転軸R2を中心に回転する動作が実現される。また、中間可動フレーム34の回転時には、当該中間可動フレーム34と一体に第1回転盤31および上部可動テーブル35も回転する。回転に伴っては、脚部材47のコマ47c(
図5)がフロア102上を転動し、これによって中間可動フレーム34の回転動作が円滑化される。なお、図示を省略するが、第2回転盤32には、中間可動フレーム34の回転角度を90°に制限するためのストッパが設けられている。
【0037】
図5等に示すように、回転支持機構13はさらに、上部可動テーブル35が中間可動フレーム34に対し回転するのを規制する第1ロック機構36と、中間可動フレーム34がベースフレーム33に対し回転するのを規制する第2ロック機構37とを備えている。
【0038】
第1ロック機構36は、中間可動フレーム34に取り付けられた出没自在なロックピン61と、ロックピン61を受け入れ可能なように上部可動テーブル35に形成された受入孔62とを有している。受入孔62は、上部可動テーブル35の回転角が0°のときにロックピン61と対向する第1受入孔62aと、上部可動テーブル35の回転角が180°のときにロックピン61と対向する第2受入孔62bとを有している。第1ロック機構36は、ロックピン61を受入孔62(第1受入孔62aまたは第2受入孔62b)に挿入することで上部可動テーブル35の回転を規制(ロック)し、ロックピン61を受入孔62から抜出させることで上部可動テーブル35の回転を許容する。第1ロック機構36により上部可動テーブル35がロックされる位置は、ロックピン61が第1受入孔62aに挿入される位置(回転角度が0°の位置)と、ロックピン61が第2受入孔62bに挿入される位置(回転角度が180°の位置)との2箇所である。
【0039】
第2ロック機構37は、ベースフレーム33に取り付けられた出没自在なロックピン63と、ロックピン63を受け入れ可能なように中間可動フレーム34の取付プレート44に形成された受入孔64とを有している。受入孔64は、中間可動フレーム34の回転角が0°のときにロックピン63と対向する第1受入孔64aと、中間可動フレーム34の回転角が90°のときにロックピン63と対向する第2受入孔64bとを有している。第2ロック機構37は、ロックピン63を受入孔64(第1受入孔64aまたは第2受入孔64b)に挿入することで中間可動フレーム34の回転を規制(ロック)し、ロックピン63を受入孔64から抜出させることで中間可動フレーム34の回転を許容する。第2ロック機構37により中間可動フレーム34がロックされる位置は、ロックピン63が第1受入孔64aに挿入される位置(回転角度が0°の位置)と、ロックピン63が第2受入孔64bに挿入される位置(回転角度が90°の位置)との2箇所である。
【0040】
中間可動フレーム34には、第1ロック機構36を操作するペダル38が取り付けられている。ペダル38が踏み込み操作されると、第1ロック機構36による上部可動テーブル35のロックが解除され、上部可動テーブル35が中間可動フレーム34に対し回転できるようになる。また、上部可動テーブル35の回転角度が0°または180°である状態でペダル38の踏み込みが解除されると、第1ロック機構36はロック状態に復帰し、上部可動テーブル35の回転が規制(ロック)される。
【0041】
図示を省略しているが、回転支持機構13における適宜の箇所には、第2ロック機構37を操作するための操作部材が設けられる。この操作部材が操作されると、第2ロック機構37による中間可動フレーム34のロックが解除され、中間可動フレーム34がベースフレーム33に対し回転できるようになる。また、中間可動フレーム34の回転角度が0°または90°である状態で操作部材の操作が解除されると、第2ロック機構37はロック状態に復帰し、中間可動フレーム34の回転が規制(ロック)される。なお、本実施形態において、中間可動フレーム34を90°回転させる操作は、乗客ではなく乗務員が行うことを想定している。このため、第2ロック機構37用の操作部材は、乗客から視認し難い箇所に設けることが望ましい。あるいは、第2ロック機構37のロック解除を不可能にする装置を設け、乗務員が操作するとき以外は当該装置をオンにしてロック解除を禁止するようにしてもよい。
【0042】
[作用]
以上のような構造を有する回転支持機構13により支持されたフレキシブルシート1のシートクッション11は、平面視において、シートクッション11の略中央部に位置する第1回転軸R1を中心にした180°回転と、第1回転軸R1よりも客室Cの側壁103に近い第2回転軸R2を中心にした90°回転とが可能である。
【0043】
すなわち、シートクッション11の180°回転時には、中間可動フレーム34に第1回転盤31を介して支持された上部可動テーブル35が中間可動フレーム34に対し回転することにより(
図9参照)、この上部可動テーブル35と共にシートクッション11が回転する。第1回転盤31の中心である第1回転軸R1はシートクッション11の略中央部に位置するから、このときのシートクッション11の回転中心はシートクッション11の略中央部になる。また、第1回転盤31による回転の許容角度は180°であるから、第1回転軸R1を中心にしたシートクッション11の回転は180°に限定される。
【0044】
一方、シートクッション11の90°回転時には、ベースフレーム33に第2回転盤32を介して支持された中間可動フレーム34がベースフレーム33に対し回転することにより(
図10参照)、この中間可動フレーム34(および上部可動テーブル35)と一体にシートクッション11が回転する。第2回転盤32の中心である第2回転軸R2は上述した第1回転軸R1と客室Cの側壁103との間に位置するから、このときのシートクッション11の回転中心はシートクッション11の中央部よりも側壁103の近くになる。また、第2回転盤32による回転の許容角度は90°であるから、第2回転軸R2を中心にしたシートクッション11の回転は90°に限定される。
【0045】
フレキシブルシート1が上記のような機能を有することにより、本実施形態では、例えば車椅子利用者が車椅子に乗ったまま乗車する必要がある場合に、必要とされるスペース(所要スペース)をシートアレンジの変更によって適切に確保できるとともに、これに伴い生じる乗車定員の減少を最小限に抑制できるという利点がある。
【0046】
図11~
図13は、上記のような所要スペースの確保のためにフレキシブルシート1に対し行われる操作の手順を説明するための図である。ここでは、車椅子利用者の乗車スペースを確保することを目的に、右シート列110Aのうち最も前側(先頭)に位置する右フレキシブルシート1Aを対象としてアレンジ変更の操作を行う例について取り上げる。この場合は、まず
図11に示すように、先頭の右フレキシブルシート1A(以下、単にフレキシブルシート1ともいう)に対しシートクッション11を180°回転させる操作を行う。すなわち、シートバック12の背面(シート後側の面であってテーブル部25が設けられる側の面)が車両後方を向く初期状態にあるフレキシブルシート1(
図1参照)に対し、そのシートクッション11を第1回転軸R1(つまりシートクッション11の略中央部;
図5、
図6参照)を中心に180°回転させる操作を行う。これにより、フレキシブルシート1は、そのシートバック12の背面が車両前方を向く姿勢に変化する(
図11参照)。言い換えると、180°回転が施されたフレキシブルシート1(先頭の右フレキシブルシート1A)は、その後側のフレキシブルシート1(先頭から2番目の右フレキシブルシート1A)と向かい合わせに配置される。
【0047】
シートクッション11の180°回転が完了すると、次に
図12に示すように、シートクッション11を第2回転軸R2(つまりシートクッションの中央部よりも側壁103に近い位置;
図5、
図6参照)を中心に車両前方に90°回転させる。言い換えると、シートバック12の背面が側壁103に近づく方向にシートクッション11を90°回転させる。これにより、フレキシブルシート1は、シートバック12の背面(もしくはテーブル部25)が側壁103と直接対面する姿勢に変化し、右シートクッション部11Aおよび左シートクッション部11B(もしくは右シートバック部12Aおよび左シートバック部12B)が車幅方向ではなく車両前後方向に並ぶ状態で配置される。この90°回転の際に、フレキシブルシート1は通路Ca側に張り出すことがないので、フレキシブルシート1を回転させる操作を行うための作業スペースは十分に確保される。
【0048】
シートクッション11の90°回転が完了すると、次に
図13に示すように、シートバック12をシート前方(ここでは車幅方向内側)に折り曲げる。すなわち、シートバック12の傾動機構23(
図4参照)を操作して上側部分22を下側部分21に対し傾動させることにより、上側部分22がシートクッション11の上方を覆う状態(倒伏状態)に変化させる。
【0049】
以上のような操作(180°回転の後の90°回転)が行われることにより、フレキシブルシート1は、操作前の状態に比べて、車幅方向の寸法が縮小しかつ車両前後方向の寸法が拡大する。すなわち、フレキシブルシート1の車両前後方向の寸法は、90°回転前の寸法であるL1(
図11)から、90°回転後の寸法であるL2(
図13)へと拡大する。一方で、フレキシブルシート1の車幅方向の寸法は、90°回転前の寸法であるW1(
図11)から、90°回転後の寸法であるW2(
図13)へと縮小する。この90°回転に伴う車幅方向の寸法縮小により、回転後のフレキシブルシート1の車幅方向内側(通路Ca側)には、車椅子利用者が乗車するためのスペースS1(
図13)が形成される。
図14および
図15は、当該スペースS1に車椅子利用者が乗り込んだ状態を説明するための斜視図および平面図であり、車椅子を符号Pで表している。本図に示すように、1つのフレキシブルシート1に対する上記の操作(180°回転の後の90°回転)により、当該フレキシブルシート1の傍らに1つの車椅子Pを置けるスペースS1が形成され、このスペースS1を利用して1人の車椅子利用者が車椅子Pに乗ったまま乗車できるようになる。
【0050】
シートクッション11が上記のように90°回転されても、回転支持機構13は依然としてシートクッション11の下方に隠れるような状態に維持される。すなわち、回転支持機構13のベースフレーム33は、シートクッション11の前後幅CLよりも小さい車幅方向寸法BLを有するから(
図5参照)、シートクッション11を90°回転させたとしても、回転後のシートクッション11よりも車幅方向内側(通路Ca側)にベースフレーム33が出っ張ることがない。これにより、ベースフレーム33が車椅子利用者にとって邪魔になることが回避され、車椅子利用者の利便性および安全性を良好に確保することができる。
【0051】
ここで、シートクッション11を90°回転させるときの回転中心は、第1回転軸R1(シートクッション11の略中央部)ではなく、これよりも側壁103に近い第2回転軸R2であるから、90°回転後のフレキシブルシート1の車両前後方向の寸法(L2)は、主に車両前側へと拡大し、車両後側にはほとんど(あるいは全く)拡大しない。このように、90°回転に伴う車両後側への寸法拡大が抑制されるので、回転後のフレキシブルシート1とその後側のシート(ここでは先頭から2番目のフレキシブルシート1)との隙間が狭小化することが抑制される。すなわち、
図15に示すように、回転後のフレキシブルシート1とその後側のシートとの間に、十分な隙間寸法Gが確保される。その結果、乗客は後側のシートに支障なく着座できるので、シートアレンジの変更による乗車定員の減少を最小限に抑えることができる。例えば、上記後側のシートには、車椅子利用者の同行者(介助者など)が着座し得る。この場合、車椅子利用者と同行者とが同じ空間を共有しながら移動することが可能になる。
【0052】
また、上記90°回転によって、フレキシブルシート1はそのシートバック12の背面が側壁103に直接対面する姿勢に変化するので、上記スペースS1に乗り込んだ車椅子利用者は回転後のフレキシブルシート1のシートクッション11に容易にアクセスすることができ、当該シートクッション11の上面にバッグなどの荷物を置くことができる。例えば、180°回転の後に90°回転を行う上記構成とは異なり、180°回転を経ることなくいきなり90°回転を行う構成とした場合、回転後のフレキシブルシート1は、
図18に示すように、シートバック12(その下側部分21)の背面が側壁103と反対側(通路Ca側)を向く姿勢に変化してしまう。このため、車椅子利用者がシートクッション11上に荷物を置こうとしても、シートバック12が邪魔になって、容易に荷物を置くことができなくなる。これに対し、上記のように180°回転と90°回転とを組み合わせた場合には、シートバック12の背面が側壁103側を向くので(
図14参照)、車椅子利用者は、シートバック12に邪魔されることなくシートクッション11に容易にアクセスすることができ、シートクッション11上に荷物を置くなどの動作を支障なく行うことができる。
【0053】
さらに、上述した回転操作(180°回転後の90°回転)に加えて、シートバック12のシート前方(車幅方向内側)への折り曲げ操作が可能であるから、側壁103に設けられた窓105がシートバック12により遮蔽されるのを抑制することができる。すなわち、シートの回転操作を行っただけでは、回転後のフレキシブルシート1のシートバック12によって窓105が遮蔽されてしまう(
図12参照)。これに対し、さらにシートバック12の折り曲げ操作が行われた場合には、窓105の遮蔽が抑制されるので(
図14参照)、上述したスペースS1に乗り込む車椅子利用者に対し窓105を通じた良好な視界を提供することができる。
【0054】
しかも、シートバック12の折り曲げにより、シートバック12の上側部分22に取り付けられたテーブル部25が水平面に沿うように設置されるので、このテーブル部25の上に小物などを置くことが可能になり、車椅子利用者の利便性をさらに向上させることができる。
【0055】
なお、シートバック12の折り曲げをあえて省略することも可能である。この場合は、フレキシブルシート1をいわゆるロングシートとして使用できるので(
図12参照)、乗車定員を増やすことができる。
【0056】
以上、
図11~
図15を用いて、1名の車椅子利用者の乗車スペースを確保するために、右シート列110Aに属する1つの右フレキシブルシート1A(最も前側の右フレキシブルシート1A)を対象としてアレンジ変更の操作(180°回転と90°回転との組合せ操作)を行った例について説明したが、同様のアレンジ変更操作は他のフレキシブルシート1にも同様に施すことが可能であり、その操作対象数は車椅子利用者の乗車人数に応じて適宜変更すればよい。
【0057】
図16は、2名の車椅子利用者が乗車する例を示している。この例では、左シート列110Bに属する2つの左フレキシブルシート1Bにそれぞれアレンジ変更操作が施され、両シート1Bが側壁103(左側壁103B)に寄せられている。その結果、2つの左フレキシブルシート1Bの車幅方向内側(通路Ca側)には、2台の車椅子Pを載置可能なスペースS2が形成される。2名の車椅子利用者は、当該スペースS2に置かれた各車椅子Pに乗ったまま旅行を楽しむことができる。
【0058】
図17は、4名の車椅子利用者が乗車する例を示している。この例では、左シート列110Bに属する2つの左フレキシブルシート1Bと、右シート列110Aに属する2つの右フレキシブルシート1Aとにそれぞれアレンジ変更操作が施され、合計4つのフレキシブルシート1がいずれも側壁103(右側壁103Aおよび左側壁103B)に寄せられている。その結果、2つの左フレキシブルシート1Bの車幅方向内側(通路Ca側)に2台の車椅子Pを載置可能なスペースS2が形成されるとともに、2つの右フレキシブルシート1Aの車幅方向内側(通路Ca側)に2台の車椅子Pを載置可能なスペースS3が形成される。4名の車椅子利用者は、当該スペースS2,S3に置かれた各車椅子Pに乗ったまま旅行を楽しむことができる。
【0059】
[変形例]
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、上記実施形態はあくまで一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0060】
例えば、上記実施形態では、2人掛けシートが前後方向に並ぶ右シート列110Aと3人掛けシートが前後方向に並ぶ左シート列110Bとを備えた鉄道車両に本発明を適用した例について説明したが、本発明を適用可能な鉄道車両は、複数人が横並びで着座可能なシートを含むシート列を備えた鉄道車両であればよい。例えば、左右のシート列を構成するシートがいずれも2人掛けシートとされる鉄道車両にも、本発明を適用可能である。
【0061】
上記実施形態では、
図5および
図6等に示したように、シートクッション11を180°回転させる際の中心である第1回転軸R1を、平面視におけるシートクッション11の略中央部(つまりシートクッション11の長手方向および短手方向の中央に略一致する位置)に設定したが、第1回転軸R1は少なくともシートクッション11の長手方向の略中央にあればよく、シートクッション11の短手方向についてはその中央からずれた位置に第1回転軸R1を設定してもよい。このことを
図19(a)(b)を用いて説明する。
図19(a)は、上記実施形態と同様にシートクッション11の短手方向(シート前後方向)の略中央に第1回転軸R1を設定した例を示し、
図19(b)はシートクッション11の短手方向中央から距離Dだけシート後方(シートバック12側)にずれた位置に第1回転軸R1を設定した例を示している。第1回転軸R1が後方にずらされた
図19(b)のケースでは、ずれのない
図19(a)のケースと比べて、シートクッション11に対する回転支持機構13の相対位置がシート後方に移されることにより、シートクッション11の短手方向中央に対応する中心線Xよりも距離Dだけ後方に第1回転軸R1が設定されている。このように、第1回転軸R1をシートクッション11の短手方向中央(中心線X)に対しシート後方にずらした場合には、この第1回転軸R1を中心に180°回転させたシートクッション11をさらに第2回転軸R2(
図5)を中心に車両前方に90°回転させたときに、シートバック12の背面が客室Cの側壁103により近づくことになる。これにより、回転後のフレキシブルシート1の車幅方向内側(通路Ca側)により大きなスペースを確保することが可能になる。
【0062】
上記実施形態では、客室Cの前端側の4つのシート、つまり右シート列110Aにおける最も前側の2つのシートと左シート列110Bにおける最も前側の2つのシートとを、180°回転に加えて90°回転が可能なフレキシブルシート1(右フレキシブルシート1Aおよび左フレキシブルシート1B)によって構成したが、客室Cの後端側のシートを同様のフレキシブルシート1によって構成してもよい。
図20は、その一例を示す平面図である。この
図20の例では、客室Cの後端側の4つのシート、つまり右シート列110Aにおける最も後側の2つのシートと、左シート列110Bにおける最も後側の2つのシートとが、フレキシブルシート1(右フレキシブルシート1Aおよび左フレキシブルシート1B)によって構成されている。右フレキシブルシート1Aの前側には、複数の右レギュラーシート111が配置され、左フレキシブルシート1Bの前側には、複数の左レギュラーシート112が配置されている。この場合、フレキシブルシート1(右フレキシブルシート1Aおよび左フレキシブルシート1B)は、本発明における「鉄道車両用シート」または「第1シート」に相当する。また、右レギュラーシート111および左レギュラーシート112は、本発明における「第2シート」に相当する。
【0063】
図20には、最後尾のフレキシブルシート1を90°回転させた状態が想像線で示される。すなわち、最後尾の右フレキシブルシート1Aおよび左フレキシブルシート1B(以下、単にフレキシブルシート1という)に対し、シートクッション11を第2回転軸R2を中心に車両後方に90°回転させる操作をそれぞれ施した状態が、
図20に想像線で示される。上記実施形態のときと異なり、90°回転の前にシートクッション11を180°回転させる操作(第1回転軸R1を中心にした回転操作)は必要ない。すなわち、車両後端側にフレキシブルシート1が配置された
図20の例において、車椅子利用者の乗車スペースを確保するには、シートバック12の背面が車両後方を向く正規の姿勢から、いきなりシートクッション11を車両後方に90°回転させればよい。この90°回転により、フレキシブルシート1は、シートバック12の背面が客室Cの側壁103に対面する姿勢で配置されるようになる。また、90°回転の方向が図示のような方向(シートが車両後側に張り出すような方向)であることで、その回転後のフレキシブルシート1とその前側のシート(ここでは最後尾から2番目のフレキシブルシート1)との隙間は特に縮小されない。これにより、前側のシートへの乗客の着座に支障が生じることが回避されるので、乗車定員の減少が最小限に抑えられる。なお、
図20の例では前側のシートが前向きの姿勢で配置されているため、仮にフレキシブルシート1の90°回転の方向が図示と逆であっても、前側のシートへの乗客の着座に支障は生じない。しかしながら、前側のシートが180°回転により後向きの姿勢に変更されていた場合には、この姿勢変更後のシートを着座用のシートとして利用することが不可能になってしまう。フレキシブルシート1の90°回転の方向を上記のような方向に設定することは、このような事態を避けることにつながり、乗車定員の確保に貢献する。
【0064】
上記実施形態では、フレキシブルシート1に対するアレンジ変更操作(180°回転と90°回転との組合せ操作)によって形成されるスペースを車椅子利用者の乗車スペースとして利用する例について説明したが、アレンジ変更操作により形成されるスペースは、車椅子を回転させるためのスペースなど、他の目的で使用されるスペースであってもよい。また、例えば大型の荷物を置く等の他の目的のために上記スペースを利用することも可能である。
【0065】
上記実施形態では、シートクッション11を第1回転軸R1を中心に最大で180°回転可能に支持する第1回転盤31と、シートクッション11を第2回転軸R2を中心に最大で90°回転可能に支持する第2回転盤32とを回転支持機構13に装備したが、第1回転盤31は、実質的な180°回転を少なくとも許容できるものであればよく、第2回転盤32は、実質的な90°回転を少なくとも許容できるものであればよい。例えば、180°を超える角度の回転を許容する回転盤を第1回転盤31として設けてもよいし、90°を超える角度の回転を許容する回転盤を第2回転盤32として設けてもよい。本発明における第1回転盤および第2回転盤は、このような態様の回転盤をも含むものである。
【0066】
[まとめ]
上述した実施形態には主に以下の発明が含まれている。
【0067】
本発明の一局面に係る鉄道車両用シートは、鉄道車両の客室内に配置されかつ複数人の乗客が横並びで着座可能なシートであって、シートクッションと、前記シートクッションから上方に立ち上がるシートバックと、前記シートクッションを前記客室のフロアに対し回転可能に支持する回転支持機構とを備え、前記回転支持機構は、前記シートクッションの長手方向の略中央に設定された第1回転軸を中心に前記シートクッションを180°回転可能に支持する第1回転盤と、前記第1回転軸から前記シートクッションの長手方向の一方側に離れた第2回転軸を中心に前記シートクッションを90°回転可能に支持する第2回転盤とを有する、ことを特徴とするものである。
【0068】
本発明の鉄道車両用シート(以下、単にシートともいう)は、異なる回転軸(第1回転軸および第2回転軸)を中心としたシートクッションの180°回転と90°回転とが可能であるから、乗車定員の減少を最小限に抑えつつ所要スペース確保のためにシートアレンジを適切に変更できるという利点がある。
【0069】
すなわち、本発明によれば、第1回転軸を中心としたシートクッションの180°回転によりシートの向きを変更できるだけでなく、第2回転軸を中心としたシートクッションの90°回転により、他のシートへの着座に支障をきたすことなく、車両基準における当該シートの寸法(車両前後方向および車幅方向の寸法)を変更することができる。これにより、車両の乗車定員の減少を最小限に抑えながら、当該シートの傍らに所望の用途のスペース(例えば車椅子利用者の乗車スペース)を形成することができる。
【0070】
具体的に、前記回転支持機構は、初期状態において前記シートクッションの長手方向が車幅方向に沿う姿勢で前記シートクッションを支持し、前記第2回転軸は、前記第1回転軸よりも前記客室の側壁の近くに配置される。
【0071】
この構成によれば、第2回転軸を中心とした90°回転によってシートの車幅方向寸法を縮小させることができ、回転後のシートの車幅方向内側(通路側)に比較的大きなスペースを形成することができる。すなわち、前記90°回転によって、シートは、車両前後方向の寸法が回転前に比べて拡大するものの、車幅方向の寸法は回転前に比べて縮小する。これにより、回転後のシートの車幅方向内側(通路側)に比較的大きなスペースが形成されるので、このスペースを例えば車椅子利用者の乗車スペースとして利用することが可能になる。
【0072】
また、シートクッションは、その長手方向の略中央に設定された第1回転軸を中心に180°回転可能であるから、この180°回転の操作を、必要に応じて前記90°回転の前に行うことにより、シートバックの背面が客室の側壁と対面するようにシートの姿勢を変化させることができる。例えば、シートクッションを車両前方に90°回転させる場合には、この90°回転の前にシートバックの背面が車両前方を向くようにシートクッションを180°回転させ、その後に前記90°回転の操作を行うことにより、シートバックの背面が客室の側壁と対面するようにシートの姿勢を変化させることができる。一方、シートクッションを車両後方に90°回転させる場合には、この90°回転の操作を、シートバックの背面が車両後方を向く正規の姿勢から(つまり180°回転を経ずに)行うことにより、やはりシートバックの背面が客室の側壁と対面するようにシートの姿勢を変化させることができる。これにより、90°回転後のシートのシートクッションを荷物置きなどとして利用することが容易になるので、利便性を向上させることができる。例えば、上述したスペースを車椅子利用者の乗車スペースとして利用する場合、車椅子利用者は、シートバックに邪魔されることなくシートクッションに容易にアクセスすることができ、シートクッション上に荷物を置くなどの動作を支障なく行うことができる。
【0073】
しかも、シートクッションを90°回転させるときの回転中心は、第1回転軸(シートクッションの長手方向の略中央)よりも客室の側壁に近い第2回転軸であるから、回転後のシートと当該シートの前側または後側にある他のシートとの間の隙間が狭まるのを抑制することができる。例えば、シートクッションを車両前方に90°回転させた場合、この回転後のシートの車両前後方向の寸法は、主に車両前側へと拡大し、車両後側にはほとんど(あるいは全く)拡大しない。このため、90°回転後のシートの後側に他のシートが存在していても、当該他のシートとの隙間が狭小化することが抑制される。逆に、シートクッションを車両後方に90°回転させた場合、この回転後のシートの車両前後方向の寸法は、主に車両後側へと拡大し、車両前側にはほとんど(あるいは全く)拡大しない。このため、90°回転後のシートの前側に他のシートが存在していても、当該他のシートとの隙間が狭小化することが抑制される。このように、回転後のシートとその前側または後側にある他のシートとの間に十分な隙間寸法が確保されるので、乗客は当該他のシートに支障なく着座することができ、シートアレンジの変更による乗車定員の減少を最小限に抑えることができる。
【0074】
好ましくは、前記回転支持機構は、前記フロアにおける前記側壁の近傍に固定されるベース部と、前記ベース部に前記第2回転盤を介して取り付けられ、前記ベース部に対し前記第2回転軸を中心に90°回転可能な中間回転体と、前記中間回転体に前記第1回転盤を介して取り付けられ、前記中間回転体に対し前記第1回転軸を中心に180°回転可能な上部回転体とを有し、前記シートクッションは、前記上部回転体の上面に固定される。
【0075】
この構成によれば、第1回転軸を中心にシートクッションを180°回転させる機能と、第2回転軸を中心にシートクッションを90°回転させる機能とを合理的に達成することができる。
【0076】
好ましくは、前記ベース部は、その車幅方向の寸法が前記シートクッションの前後幅以下となるように形成される。
【0077】
この構成によれば、シートクッションを90°回転させたとしても、回転後のシートクッションよりも車幅方向内側(通路側)にベース部が出っ張ることがない。このため、90°回転により生じる前記スペースを例えば車椅子利用者の乗車スペースとして利用した場合に、この車椅子利用者にとってベース部が邪魔になることが回避され、車椅子利用者の利便性および安全性を良好に確保することができる。
【0078】
好ましくは、前記第1回転軸は、前記シートクッションの短手方向の中央に対し前記シートバック側にずれた位置に設定される。
【0079】
この構成によれば、シートクッションを第1回転軸を中心に180°回転させた後、さらに第2回転軸を中心に車両前方に90°回転させたときに、シートバックの背面を客室の側壁により近づけることができる。これにより、回転後のシートの車幅方向内側(通路側)により大きなスペースを確保することが可能になる。
【0080】
好ましくは、前記シートバックは、前記シートクッションから上方に立ち上がる下側部分と、前記下側部分の上側に設けられた上側部分と、前記上側部分を前記下側部分に対し傾動可能に支持する傾動機構とを有し、前記上側部分は、前記下側部分の上端から上方に延びる起立状態と、前記下側部分の上端からシート前方に延びる倒伏状態との間で変位可能なように、前記傾動機構を介して前記下側部分に支持される。
【0081】
このように、上下方向の途中でシートバックを折り曲げること(上側部分の倒伏)を可能にした場合には、この折り曲げ操作をシートの回転操作と組み合わせることにより、客室の側壁に設けられる窓がシートバックによって遮蔽されるのを抑制することができる。すなわち、上述したスペース確保のための操作(つまりシートクッションを少なくとも90°回転させる操作)が行われると、シートバックが客室の側壁に沿うように配置される結果、当該シートバックによって窓が遮蔽されてしまう。これに対し、シートバックの折り曲げ操作を追加で行えるようにした場合には、前記のような窓の遮蔽を抑制できるので、前記スペースの利用者(例えば車椅子利用者)に対し窓を通じた良好な視界を提供することができる。
【0082】
好ましくは、前記上側部分の背面には、前記倒伏状態のときに略水平な載置面を形成するテーブル部が設けられる。
【0083】
この構成によれば、テーブル部の上に小物などを置くことが可能になり、さらなる利便性の向上を図ることができる。
【0084】
本発明の他の局面に係る鉄道車両は、内部に客室を有する車体と、客室に配置された複数のシートとを備える鉄道車両であって、前記複数のシートは、複数人の乗客が横並びで着座可能な第1シートと、前記第1シートの前側または後側に配置された第2シートとを備え、前記第1シートは、車幅方向に延びるシートクッションと、前記シートクッションから上方に立ち上がるシートバックと、前記シートクッションを前記客室のフロアに対し回転可能に支持する回転支持機構とを備え、前記回転支持機構は、前記シートクッションの長手方向の略中央に設定された第1回転軸を中心に前記シートクッションを180°回転可能に支持する第1回転盤と、前記第1回転軸よりも前記客室の側壁に近い第2回転軸を中心に前記シートクッションを90°回転可能に支持する第2回転盤とを有する、ことを特徴とするものである。
【0085】
本発明の鉄道車両によれば、上述した鉄道車両用シートの発明と同様の理由により、乗車定員の減少を最小限に抑えつつ所要スペース確保のためにシートアレンジを適切に変更することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 フレキシブルシート(鉄道車両用シート;第1シート)
11 シートクッション
12 シートバック
13 回転支持機構
21 下側部分
22 上側部分
23 傾動機構
25 テーブル部
31 第1回転盤
32 第2回転盤
33 ベースフレーム(ベース部)
34 中間可動フレーム(中間回転体)
35 上部可動テーブル(上部回転体)
102 フロア
103 (客室の)側壁
111 右レギュラーシート(第2シート)
112 左レギュラーシート(第2シート)
C 客室
BL (ベース部の)車幅方向の幅寸法
CL (シートクッションの)前後幅
R1 第1回転軸
R2 第2回転軸