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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073211
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】折り畳み式椅子
(51)【国際特許分類】
   A47C 4/04 20060101AFI20220510BHJP
   A47C 3/04 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
A47C4/04 A
A47C3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020183048
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 友希
(72)【発明者】
【氏名】森田 凌伍
【テーマコード(参考)】
3B091
【Fターム(参考)】
3B091BA04
(57)【要約】
【課題】展開状態での安定性及びデザイン性に優れた折り畳み式椅子を提供する。
【手段】椅子は、座1と背もたれ2と前後脚3,4とを備えており、前脚3はサイド枠部5の前端に固定されて、後脚4はサイド枠部5の後部に回動可能に連結されている。座1はフロントステー6に回動自在に連結されて、座1とリアステー7とが連動部材8を介して連結されている。座1の後端を持ち上げると、座1の回動に連動して連動部材8が回動し、これに連動して後脚4が回動する。サイド枠部5は背もたれ2と連続する下向きリブ5aを備えているため、スリムでありながら強度が高い。ボス部37,45は前後長手の下向きリブ5aによって内側から覆われているため、美観も優れている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに分離した座と背もたれ、左右一対ずつの前脚及び後脚、及び、平面視で前記座の左右の外側に配置された前後長手のサイド枠部とを備え、
前記座と前記前脚と前記後脚とは、前記座が前端側または後端側を起こすように跳ね上げ回動されると前記前脚と前記後脚とが接近するように閉じ回動して折り畳み姿勢になるように互いに連動している構成であって、
前記サイド枠部は、本体部と、前記本体部に一体又は別体の部材として設けられた脚取り付け部と、を有しており、
前記前脚と前記後脚とのうち一方又は両方は、側面視で前記前脚と前記後脚の夾角を変化させ得るように前記脚取り付け部に相対回動可能に直接的又は間接的に連結される、
折り畳み式椅子。
【請求項2】
前記サイド枠部には、下向きリブが前後方向に長く形成されており、
前記脚取り付け部は、前記サイド枠部の下面に形成された、前記前脚が取り付く前脚取り付け部と、前記後脚が取り付く後脚取り付け部と、を含み、
前記前脚取り付け部および前記後脚取り付け部の一部又は全部が前記下向きリブで側方から覆われている、
請求項1に記載の折り畳み式椅子。
【請求項3】
前記下向きリブは、前記サイド枠部に一体に形成され、
前記前脚と前記後脚とは、それぞれ金属製であり、
前記後脚は、前記後脚取り付け部に回動自在に連結され、
前記前脚は、前記前脚取り付け部に固定されている、
請求項2に記載した折り畳み式椅子。
【請求項4】
前記下向きリブは、当該下向きリブの内側面が前記サイド枠部の内側面と同一面を成すように左右方向の内側にずれて配置され、
前記サイド枠部及び下向きリブの後端に背もたれが、一体に連続しており、
前記前脚取り付け部および前記後脚取り付け部は、前記下向きリブの外側において、サイド枠部の下面に配置されている、
請求項2又は3に記載した折り畳み式椅子。
【請求項5】
前記前脚と前記後脚とは真っ直ぐな金属パイプで構成され、
左右の前記前脚は、左右横長のフロントステーで連結され、
左右の前記後脚は、左右横長のリアステーで連結されており、
前記前脚の上端部は、前記前脚取り付け部に下方からの嵌合によって固定され、
前記後脚の上端部は、前記後脚取り付け部に前後回動自在に連結されており、
かつ、展開状態において前記座はフロントステー及びリアステーで支持されている、
請求項2~4のうちのいずれかに記載した折り畳み式椅子。
【請求項6】
前記左右のサイド枠部は、平面視で左右間隔が手前に向けて広がる姿勢に配置されており、
左右の前記後脚の左右間隔が左右の前記前脚の左右間隔よりも小さいことにより、折り畳み姿勢で他の折り畳み式椅子を前後にネスティングすることを許容している、
請求項1~5のうちのいずれかに記載した折り畳み式椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、折り畳み式椅子を開示している。
【背景技術】
【0002】
例えば会議場用の椅子のように、不使用時に倉庫や部屋の隅に片づけておく必要がある椅子において、できるだけ狭いスペースに収納できるようにするために、椅子を折り畳み式に構成することが行われており、更に、折り畳んだ状態で自立性を持たせつつ複数脚を前後にネスティングできるものもある。
【0003】
その例として、特許文献1には、座と背もたれとを相対回動可能に連結した椅子において、前脚と後脚とをその中途高さ位置において連結することによってXリンク機構を形成し、前脚の上端は背もたれの側面に連結し、後脚の上端は座の側面に連結することによって折り畳み可能と成し、更に、前脚の下端部と後脚の下端部とを屈曲させることにより、折り畳み姿勢で自立可能及びネスティング可能と成した構成が開示されている。
【0004】
他方、特許文献2には、肘掛けを備えると共に座と背もたれとが屈曲可能に連結されたリクライニング椅子において、a)前脚は肘掛けの前端に一体に設ける、b)後脚は肘掛けの前後中途部に下向き突設したブラケットに回動自在に連結する、c)肘掛けの後端と背もたれとも屈曲自在な2本のリンク部材で連結する、d)前脚と座とを1本のリンク部材で連結する、e)座の前端は前脚に設けたローラで支持する、f)座と前脚とを無段階角度調節装置で連結する、いう構成が開示されており、この特許文献2では、背もたれ2を前倒しすると座はその後端が上になるように回動し、かつ、前後の脚は側面視でX字状に交叉して折り畳み状態になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-210153号公報
【特許文献2】実開昭57-104946号のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように前脚と後脚とを直接に連結した構成は、構造を単純化できる利点があるが、人が着座することによる下向きの荷重は前後脚の連結部に強く作用して、前後脚に曲げ力が作用するため、脚(連結部)の耐久性が低下しやすくなることが懸念される問題や、見た目が必ずしも良くないという問題がある。また、肘掛け機能は備えていないため、ユーザーフレンドリー性に欠けると云える。
【0007】
他方、特許文献2のように肘掛けを設けると安楽性を向上できてユーザーフレンドリーであるが、特許文献2では、座と背もたれとが連結されているため、折り畳み姿勢が決まっていて設計の自由性が低いという問題がある。また、姿勢保持のための無段階角度調節装置が必要であるため、構造が複雑になるという問題もある。
【0008】
本願はこのような現状に鑑み成されたもので、改良された折り畳み椅子を開示せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る椅子は、様々な構成を含んでいる。
【0010】
第1観点に係る椅子は、互いに分離した座と背もたれ、左右一対ずつの前脚及び後脚、及び、平面視で前記座の左右の外側に配置された前後長手のサイド枠部とを備え、前記座と前記前脚と前記後脚とは、前記座が前端側または後端側を起こすように跳ね上げ回動されると前記前脚と前記後脚とが接近するように閉じ回動して折り畳み姿勢になるように互いに連動している。
【0011】
更に、第1観点に係る椅子において、前記サイド枠部は、本体部と、前記本体部に一体又は別体の部材として設けられた脚取り付け部と、を有しており、前記前脚と前記後脚とのうち一方又は両方は、側面視で前記前脚と前記後脚の夾角を変化させ得るように前記脚取り付け部に相対回動可能に直接的又は間接的に連結される。
【0012】
第1観点において、サイド枠部は背もたれと一体に繋がっていてもよいし、背もたれと分離していてもよい。サイド枠部と背もたれとが分離している場合は、背もたれは、前後いずれかの脚に取り付けられる。また、サイド枠部は肘掛け機能を有していてもよいし、肘掛けとして機能しない形態であってもよい。肘掛けとして機能させる場合、パッド材を取り付けることも可能である。
【0013】
第1観点においては、サイド枠部は肘掛けとして機能させることが可能であるため、使用価値を向上できる。また、肘掛け機能の有無に関係なく、人が着座したり離席したりするに際してサイド枠部を手で掴んで、肘掛けに体重を掛けて中腰になることが可能である。すなわち、サイド枠部5は、着座・離席のための手掛け部材として使用可能である。
【0014】
そして、背もたれと座とは分離しているため、折り畳み姿勢の制約が少なくて設計の自由性が高い。特許文献2で使用している無段階角度調節装置は不要であるため、構造も簡単化できる。前後の脚はサイド枠部とは別部材であるため、サイド枠部と脚とを異種素材で製造可能であり、従って、デザインや強度についての融通性が高い。
【0015】
第2観点に係る椅子は、第1観点に係る椅子において、前記サイド枠部には、下向きリブが前後方向に長く形成されており、前記脚取り付け部は、前記サイド枠部の下面に形成された、前記前脚が取り付く前脚取り付け部と、前記後脚が取り付く後脚取り付け部と、を含み、前記前脚取り付け部および前記後脚取り付け部の一部又は全部が前記下向きリブで側方から覆われている。
【0016】
第2観点の椅子は、サイド枠部は前後長手の下向きリブによって補強されるため、スリム化してデザイン性を高めつつ高い強度を確保できる。従って、人が着座・離席に際して手で掴んで体重を掛けることも問題なく行える。そして、脚取り付け部は下向きリブによって側方から覆われているため、脚取り付け部の露出を抑制して美観を向上できる。また、下向きリブが脚取り付け部に対するカバーの役割を果たすため、折り畳みに際して指を脚とサイド枠部とで挟むことも防止できる。
【0017】
第3観点に係る椅子は、第2観点に係る椅子において、前記下向きリブは、前記サイド枠部に一体に形成され、前記前脚と前記後脚とは、それぞれ金属製であり、前記後脚は、前記後脚取り付け部に回動自在に連結され、前記前脚は、前記前脚取り付け部に固定されている。
【0018】
第3観点に係る椅子においては、下向きリブはサイド枠部と一体になっているため、構造を簡単化してコストダウンに貢献できる。また、見た目もよい。また、第3の観点では、前脚はサイド枠部に固定されているため、強度面でも優れている。
【0019】
第4観点に係る椅子は、第2観点又は第3観点に係る椅子において、前記下向きリブは、当該下向きリブの内側面が前記サイド枠部の内側面と同一面を成すように左右方向の内側にずれて配置され、前記サイド枠部及び下向きリブの後端に背もたれが、一体に連続しており、前記前脚取り付け部および前記後脚取り付け部は、前記下向きリブの外側において、サイド枠部の下面に配置されている。
【0020】
第4観点に係る椅子は、背もたれと下向きリブとが一連に連続するため、美観に優れている。また、脚取り付け部は下向きリブによって内側からカバーされるため、使用者の身体が脚の上部に当たることを防止できる。
【0021】
第5観点に係る椅子は、第2観点~第4観点に係る椅子のいずれかにおいて、前記前脚と前記後脚とは真っ直ぐな金属パイプで構成され、左右の前記前脚は、左右横長のフロントステーで連結され、左右の前記後脚は、左右横長のリアステーで連結されており、前記前脚の上端部は、前記前脚取り付け部に下方からの嵌合によって固定され、前記後脚の上端部は、前記後脚取り付け部に前後回動自在に連結されており、かつ、展開状態において前記座はフロントステー及びリアステーで支持されている。
【0022】
第5観点に係る椅子は、各脚は真っ直ぐであるため、方向性が無くて加工が容易である。その結果、製造コストの低減に貢献できる。また、脚が真っ直ぐであるとシンプルな外観を呈するため、デザイン的にもスッキリする。更に、座は前後のステーで支持されているため、支持強度が高い(この効果は、脚が真っ直ぐでなくても享受できる。)。
【0023】
また、前脚は前脚取り付け部に強制嵌合によって固定されているため、ビス止めのような作業は不要であって、組み立てを迅速に行える。また、ファスナ類が外部に露出することはないため、美観も優れている(これらの効果も、脚が真っ直ぐでなくても享受できる。)。
【0024】
第6観点に係る椅子は、第1観点~第5観点に係る椅子のうちのいずれかにおいて、前記左右のサイド枠部は、平面視で左右間隔が手前に向けて広がる姿勢に配置されており、左右の前記後脚の左右間隔が左右の前記前脚の左右間隔よりも小さいことにより、折り畳まれた複数の椅子を前後にネスティングすることを許容している。
【0025】
第6観点に係る椅子は、折り畳んだ複数脚の椅子を前後にネスティングできる。従って、保管スペースを有効利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態の外観を示す図で、(A)は展開状態の前方斜視図、(B)は折り畳み状態の前方斜視図、(C)は展開状態の側面図、(D)は折り畳み状態の側面図である。
図2】実施形態の外観を示す図で、(A)は展開状態の正面図、(B)は展開状態の底面図、(C)は折り畳み状態の後方斜視図、(D)は展開状態の下方斜視図である。
図3】(A)は展開状態の一部分離下方斜視図、(B)は部分的な分離下方斜視図である。
図4】(A)は分離下方斜視図、(B)は座と連動部材とのキャップ付き連結部の下方斜視図、(C)は座と連動部材とのキャップ無し連結部を下方斜視図である。
図5】(A)は図2(B)の VA-VA視中央側断面図、(B)は図2(B)及び図4(C)の VB-VB視側断面図である。
図6】上部の分離下方斜視図である。
図7】(A)は上部の分離上方斜視図、(B)は図1(C)及び図6の VIIB-VIIB視断面図である。
図8】(A)は折り畳み状態での後方斜視図、(B)は(A)のB-B視断面図、(C)は別例図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本願で開示する椅子の実施形態(具体例)を図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、この方向は、椅子に普通に腰掛けた人の向きを基準にしている。正面視方向は、着座した人と対向した方向である。
【0028】
(1).概要
まず、図1,2を参照して椅子の概要を説明する。本実施形態の椅子は、会議室や講堂などで使用することが多いタイプであり、図1に示すように、座1と背もたれ2、及びこれらを支持する棒状(直線状)の前脚3及び後脚4を備えている。前脚3及び後脚4の上端は、座1よりも上に位置している。脚3,4は、スチールパイプのような金属パイプから成っていて真っ直ぐな形状である。
【0029】
座1は、平面視で後ろに向けて左右幅か狭まるような略台形状に形成されている。他方、背もたれ2は、使用者の背にフィットするように平面視では前向きに凹むように緩く湾曲しており、側断面視では緩く後傾している。上下幅は小さくて、シャープなデザインになっている。
【0030】
図1から理解できるように、座1は、樹脂製又は木製で板状になっている。すなわち、1枚の座板の構造になっている。但し、座1は、座板(インナーシェル)にクッション材を張った構造や、上下に開口した枠体にメッシュ材を張ったタイプなども採用できる。背もたれ2は合成樹脂を使用した成型品であるが、木製でもよい。或いは、前面にクッション材を張った構造も採用できる。
【0031】
背もたれ2の左右両端には、前後長手のサイド枠部5が一体に形成されている。サイド枠部5は肘当てとしても機能し得る左右幅を備えている。従って、肘当てと背もたれ2とが一体化していると見ることも可能である。図1(A)や図2のとおり、背もたれ2は、左右両側に向けて高さを低くすることにより、サイド枠部5と滑らかに連続している。従って、すっきりとしたデザインになっている。
【0032】
そして、前脚3の上端はサイド枠部5の前端部に固定されている一方、後脚4は、その上端を支点にして前後回動するようにサイド枠部5に連結されている。従って、前脚3と後脚4とは、側面視で下方に向けて間隔が広がる展開状態から、側面視でX字状に交叉した状態に折り畳むことができる。
【0033】
例えば図2(C)(D)に示すように、左右の前脚3は、座1の下面部の高さ位置において左右長手のフロントステー6によって一体に固定されており、フロントステー6に座1の前部が回動可能に連結されている。一方、左右の後脚4も、座1の下面部の高さ位置において左右長手のリアステー7を介して固定されており、リアステー7と座1とは台形状に曲がった連動部材8を介して相対回動可能に連結されている。
【0034】
座1は、展開状態ではステー6,7によって前後を支持されているが、ステー6,7はスチールパイプのような金属パイプ製であって脚3,4に溶接で固定されているため、高い支持強度を有する。そして、座1の後端を持ち上げると、座1がフロントステー6を支点にして回動し、これに連動して連動部材8はその後端が高くなるように引き上げ回動させられる。これにより、後脚4が前脚3と座1とサイド枠部5とに対して相対回動して、図1(D)の状態に折り畳まれる。
【0035】
例えば図1(B)や図2(B)に示すように、正面視や平面視において前脚3の左右間隔は後脚4の左右間隔よりも大きくなっているため、折り畳んだ状態では、複数の椅子を前後に嵌まり合った状態にネスティングできる。サイド枠部5の後端の左右中間部には、折り畳み作業に際して人が手先を掛けやすいように下向きの引手リブ9を設けている。また、リアステー7には、人が引手リブ9に手先を掛けるに際して邪魔にならないように、前向きに突出したクランク状の曲がり部7aを形成している。
【0036】
(2).座とフロントステーとの連結構造
例えば図3に示すように、サイド枠部5の前部は、左右一対のフロント軸受け部11とこれをすっぽり覆うフロントキャップ12とにより、フロントステー6に回動可能に連結されている。フロント軸受け部11は座1の下面に一体に形成しており、半円状の下向き凹所11aが形成されている。他方、フロントキャップ12に、フロントステー6に下方から嵌まる半円状の上向き凹所12aが形成されており、フロントキャップ12がビス(図示せず)でフロント軸受け部11に固定されている。従って、フロントキャップ12にはビス挿通穴13が形成され、フロント軸受け部11にはタップ穴14が形成されている。
【0037】
図3(B)に明示するように、フロント軸受け部11(及びフロントキャップ12)には、フロントステー6との摩擦低減等のために多数のリブ(或いは肉盗み凹所)を形成している(肉盗み凹所にグリスを充填することも可能である。)。フロント軸受け部11と座1の左右端との間にはある程度の間隔が空いているため、座1の左右両端部の下面に、フロントステー6に嵌まる半円状凹所を有する補助軸受け部15が下向きに突設されている。従って、座1の前部は、左右方向の4か所においてフロントステー6で支持されている。
【0038】
実施形態のように補助軸受け部15を設けると、フロントステー6の全長に亙って荷重を分散できるため、フロントステー6の支持強度を向上できる。この場合、補助軸受け部15を左右両端寄りに配置して、フロントキャップ12による連結を左右中間部側に寄せると、こじれを無くして座1の回動をスムース化できる利点がある。フロントキャップ12による連結を左右中間部の1か所のみで行って、その左右両側に一対又は2対の補助軸受け部15を設けることも可能である。
【0039】
なお、フロント軸受け部11と補助軸受け部15とは、座1とは別部材に製造して座1にビス止めすることも可能であるが、本実施形態のように座1に一体成形すると、フロントステー6との芯ずれを防止できる利点がある。フロント軸受け部11とフロントキャップ12との間に、摩擦係数が小さい樹脂素材からなるスリーブを配置することも可能である。
【0040】
(3).座とリアステーとの連結構造
図3(A)及び図4(A)に示すように、連動部材8は、左右長手の基部8aと、その左右両端から後ろ向きに延びる前後長手のサイド部8bとを備えており、全体として略台形状の形態になっている。そして、基部8aの左右中間部は、リア軸受け部16とリアキャップ17とによって座1の下面に回動可能に連結されて、左右サイド部8bの後端は、上下一対のクランプ式軸受け体18によって回動可能に連結されている。なお、図1,2,8では、リアキャップ17は省略している。
【0041】
リア軸受け部16は座1に一体に形成されており、前後中間部には半円状の下向き凹所16aが形成されている。一方、リアキャップ17はリア軸受け部16をすっぽり覆っており、U形の上向き凹所17aが形成されている。両者の間には合成樹脂製スリーブ19が介在しており、スリーブ19によって連動部材8の基部8aが抱持されている。従って、連動部材8の基部8aは、スリーブ19を介してリア軸受け部16及びリアキャップ17に連結されている。
【0042】
リアキャップ17は、図5(A)に示すように、前後一対のビス20によってリア軸受け部16に固定されている。従って、リアキャップ17にはビス挿通穴21が形成されて、リア軸受け部16にはタップ穴22が形成されている。また、リア軸受け部16及びリアキャップ17には多数のリブ(或いは肉盗み部)が形成されている。
【0043】
図5(A)に示すように、スリーブ19は開口を有するC形であって、弾性に抗して広げることによって連動部材8の基部8aに嵌着されている。そして、スリーブ19は開口部を上に向けた姿勢で配置されており、かつ、左右中間部の内面に上向きのストッパー突起23を設けている一方、連動部材8の基部8aには、ストッパー突起23が嵌まるストッパー穴24を空けている。従って、スリーブ19は、連動部材8の基部8aに対してスライド不能で相対回転不能に保持されている。
【0044】
そして、図4(A)及び図5(B)に示すように、スリーブ19の左右両側部に、展開回転方向(図5(B)のX方向)に向けて深さが浅くなる(換言すると、連動部材8の基部8aとの間の厚さが厚くなる)ダンパ溝25を形成している一方、リア軸受け部16の左右両側部は、ダンパ溝25に当接して転動し得る円柱状のダンパピン26と、ダンパピン26をダンパ溝25に付勢する弾性部材27とを配置している。これらダンパピン26と弾性部材27は、それぞれ横向きに開口した円形の保持穴28,29に配置されており、リアキャップ17によって抜け不能に保持されている。
【0045】
椅子が折り畳まれた状態では、ダンパピン26はダンパ溝25の最も深い端部に位置しており、座1が水平姿勢に向けて回動していくと、ダンパピン26の回転抵抗が徐々に増大していき、これにより、座1が急激に倒れ回動することが防止される。すなわち、椅子を緩い速度で展開することができる。
【0046】
ダンパ溝25のうち展開状態でダンパピン26が位置する部位には、ダンパピン26を安定的に保持するロック凹所30を形成している。このため、弾性部材27に加圧力が掛かり続けることを防止できると共に、展開状態も保持できる。椅子の展開に対して抵抗を付与するダンパ手段としては、摩擦板や油圧ダンパ等の様々な機構を採用できる。
【0047】
図4(A)に示すように、上下のクランプ式軸受け体18は、リアステー7を半分だけ挟む半円状の抱持部18aと、連動部材8のサイド部8bに嵌入する半円筒状のアーム部18bとを有しており、上下の抱持部18aの間にスリーブ31(図4(A)の右上部参照)が介在している。スリーブ31は、上下の抱持部18aに対して回転自在に保持されている。図4(A)から理解できるように、上に位置した抱持部18aに、座1の下面に当たる上向きの緩衝突起32を上向きに膨出形成している。スリーブ31には、リアステー7に形成された位置決め穴(図示せず)に空けられた位置決め穴に嵌まる位置決め突起(図示せず)が形成されている。従って、スリーブ31は、リアステー7に対して回転不能に保持されている。なお、スリーブ31は左右の軸受け体18に設けている。
【0048】
上下のアーム部18bは、互いに重ね合わさった状態で連動部材8のサイド部8bに挿入されており、ビス(図示せず)によって連動部材8のサイド部8bに固定されている。そこで、連動部材8のサイド部8bと下方のアーム部18aとにはビス挿通穴33が空けられて、上方のアーム部18bにはタップ穴34が形成されている。タップ穴34は、アーム部18bに直接形成してもよいし、六角ナット等のナットを埋設又は装着して形成してもよい。
【0049】
なお、連動部材8の組み付けの手順としては、上下のクランプ式軸受け体18でリアステー7を抱持してから、重なり合ったアーム部18b,18bに連動部材8のサイド部8bを挿入してビスで固定し、次いで、連動部材の基部8aをリア軸受け部16に連結することになる。
【0050】
既述のとおり、リアステー7にはクランク状の曲がり部7aが形成されているが、図5(A)に示すように、曲がり部7aは前向きに突出しており、この曲がり部7aの先端に、座1が当たるC形の緩衝材35を嵌着している。緩衝材35はスリーブ19,31と同様に合成樹脂製であり、下向きに突設した位置決め突起35aを曲がり部7aの位置決め穴36に嵌入することにより、曲がり部7aにずれ不能に保持されている。
【0051】
本実施形態では、展開状態では、上方のクランプ式軸受け体18の抱持部18aにも座1が当接している。従って、座1の後部は、左右3か所においてリアステー7で支持されている。
【0052】
(4).脚とサイド枠部との連結構造
例えば図7(B)に示すように、サイド枠部5は、基本的には、人の肘を載せ得る左右幅で上面を平坦面と成した板状になっており、内側部に、その全長に亙って延びる下向きリブ5aを形成している。従って、サイド枠部5はおおよそ断面逆L形になっている。そして、下向きリブ5aを有することにより、スリムでありながら上からの荷重に対する剛性が格段に向上している。
【0053】
サイド枠部5の前端には、前脚取り付け部の一例として下窄まりのフロントボス部37を形成しており、このフロントボス部37に継手軸39を強制嵌合によって抜け不能に嵌着している。継手軸39には、上ブッシュ40と抜け止めワッシャ41と下ブッシュ42とをビス43によって固定し、これら姿勢保持用のブッシュ40,42と抜け止めワッシャ41とを前脚3に強制嵌合している。すなわち、継手軸39と上下の姿勢保持用ブッシュ40,42と抜け止めワッシャ41とビス43とで継手ユニットが構成されており、サイド枠部5は、継手ユニットによって前脚3に固定されている。継手軸39には、接着剤充填用等の環状溝を多段に形成している。ブッシュ40,42には、寸法誤差を吸収するための縦長リブを複数条形成している。
【0054】
抜け止めワッシャ41は上広がりの花びら状に形成されており、上下のブッシュ40,42によって挟み固定されている。そして、抜け止めワッシャ41は、窄まって前脚3の内部を下方に進入しつつ、上向き抜け不能に保持される。すなわち、抜け止めワッシャ41が前脚3の内面に食い込むことにより、抜けが阻止されている。従って、前脚3は、フロントボス部37に対して抜け不能に固定されている。フロントボス部37の下端には、前脚3が嵌合する小径部37aを形成している。前脚3は、他の手段でサイド枠部5の前端部に固定してもよい(例えば、サイド枠部5の前端に設けた下向き軸部を前脚3に嵌着することが可能である。)。
【0055】
後脚4には、前脚3と同様に、上下の姿勢保持用のブッシュ40,42と抜け止めワッシャ41とビス43から成る継手ユニットが上から嵌着されている。そして、上ブッシュ40にジョイント(レバー部)44が一体に形成されており、ジョイント44が、サイド枠部5に形成されたリアボス部45に枢支ピン46で連結されている。リアボス部45は、後脚取り付け部の一例である。
【0056】
リアボス部45は下向きリブ5aと一体に繋がっており、ジョイント44が下方から嵌入する溝47を切り開き形成している。そして、ジョイント44は、左右長手の軸心を有する枢支ピン46でリアボス部45に連結されている。従って、後脚4は、枢支ピン46を支点にして前後に回動する。図7(B)に示すように、枢支ピン46はビス46aによって抜け不能に保持されている。
【0057】
本実施形態では、既述のとおり、サイド枠部5は下向きリブ5aを有する逆L字形に形成されているが、リアボス部45は左右外側にはみ出ておらず、後脚4の連結部はサイド枠部5の下部の空間に隠れている。このため、美観に優れている。また、着座や離席に際して人がサイド枠部5を手で掴んで体重を掛けることがあるが、この場合も、リアボス部45や枢支ピン46が人の手の平に触れることはなくて、人が違和感を抱くことはない。
【0058】
ジョイント44は、上端が前向きに突出した形態で側面視逆L字に近い形態になっており、その前部に連結穴48が空いている。そして、展開状態では、ジョイント44の上面44aのうち連結穴48よりも後ろの部位がリアボス部45の内底面に当たるように設定している。このため、サイド枠部5に下向きの大きな荷重が作用しても、その荷重は枢支ピン46に作用することはなくて、ジョイント44の上面44aに作用する。従って、サイド枠部5に作用した下向きの荷重は、後脚4に対して軸方向の圧縮力として作用する。このため、高い支持強度を有する。
【0059】
既述のとおり、使用者が椅子に腰掛けたり椅子から立ったりするに際して、サイド枠部5を握って体重をサイド枠部5に掛けることがあり、この場合は、使用者の体重のかなりの割合がサイド枠部5に対して下向きの荷重として作用するが、この場合、荷重は前後の脚3,4に対して軸方向の圧縮力として作用するため、荷重をしっかりと支持できる。
【0060】
(5).折り畳み状態の保持手段
本実施形態の椅子は、折り畳み状態を保持しつつ展開は容易に行える手段を講じている。すなわち、例えば図3に示すように、フロントステー6のうち後脚4の真正面の部位に、折り畳み状態保持手段として、後ろ下方に向いたマグネット49をビス止めしている。そして、図8に示すように、折り畳み状態では、マグネット49は後脚4に当たって磁着しており、椅子は折り畳み状態に保持される。ある程度の力が掛かるとマグネット49と後脚4とは離反するため、展開作業の容易性は損なわれない。
【0061】
図8(C)では、折り畳み状態保持手段の別例として、リアステー7を左右両側から抱持するキャッチ部材50を設けている。キャッチ部材50はフロントステー6にビス51で固定されている。キャッチ部材50は、板ばねのような金属板製であってもよいし、合成樹脂製であってもよい。
【0062】
(6).まとめ
既に説明したように、展開状態において座1の後端を持ち上げると、座1は、フロントステー6を支点にして後端が高くなるように跳ね上げ回動させられ、これに連動して、連動部材8の基部8aが上向きに引かれる。すると、後脚4は、上端を支点にして回動する。
【0063】
そして、椅子の全体を床から浮いた状態に持ち上げたり、前脚3の下端のみが床に着いた状態で持ち上げたりして座1が回動しきると、引手リブ9の真下に重心がくるため、前脚3は前傾姿勢に変化して後脚4は後傾姿勢に変化し、その結果、前脚3と後脚4とは、側面視でX字状に交叉した姿勢になる。従って、折り畳み状態の椅子を自立させることがきる。また、椅子の自重が前脚3の下端と後脚4の下端との間隔を広げるように作用するため、折り畳み状態が保持される。
【0064】
座1はその前端寄り部位がフロントステー6に連結されているため、座1は、その後端の引手リブ9に手を掛けて持ち上げることによって回動するが、引手リブ9からフロントステー6までのスパンは大きいため、座1を確実に跳ね上げ回動させることができる。
【0065】
そして、座1の跳ね上げ回動と同時に、連動部材8はその後端を支点にした回動を開始し、これに伴って後脚4も回動を開始するが、連動部材8の基部8aは座1の前後中途部に連結されているため、連動部材8はテコ作用によって軽快に回動する。従って、連動部材8の回動と後脚4の回動とはスムースであり、椅子の全体を持ち上げたり、前脚3の下端を床に付けた状態で後脚4も持ち上げたりすると、重心の移動により、前脚3は前傾姿勢になって後脚4は後傾姿勢になり、自動的に折り畳み状態に移行する。
【0066】
本実施形態では、左右のサイド枠部5は、後ろに向けて間隔が狭まっている。従って、リアボス部45はフロントボス部37よりも内側(座1に近い側)にずれている。更に、フロントボス部37はサイド枠部5の前端の左右中間部に配置されているのに対して、図7(B)に明示するように、ジョイント44は内側に偏って配置されている。このため、前脚3と後脚4との左右間隔を大きく広げることができる。これにより、折り畳みや展開に際して前後脚2,3で指を挟むことを確実に防止できる。
【0067】
以上、本開示に係る思想の実施形態を説明したが、本思想は他にも様々に具体化できる。例えば、サイド枠部は、リブが中央部に形成された断面T形の形状や、左右2枚のリブを有して両リブの間に溝が形成された下向き開口の樋状に形成することも可能である。断面T形に形成した場合は、ジョイントをU形に形成してピンで連結することが可能であり、サイド枠部を下向き開口の樋状に形成した場合は、ジョイントは左右のリブの間の溝に嵌め込んだらよい。
【0068】
このT型や溝形の例から理解できるように、下向きリブを脚取り付け部に兼用することも可能である(例えば断面T形の場合、部分的に厚肉化して脚取り付け部に形成することが可能である。)。更に、サイド枠部は、例えば円形や楕円形のように、上面が平坦面でない断面形状も採用可能である。従って、肘掛けとして使用できなくてもよい。脚の下端にキャスタを設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本開示に係る思想は、折り畳み式椅子に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0070】
1 座
2 背もたれ
3 前脚
4 後脚
5 サイド枠部
5a 下向きリブ
6 フロントステー
7 リアステー
8 連動部材
9 引手リブ
11 フロント軸受け部
12 フロントキャップ
16 リア軸受け部
17 リアキャップ
18 クランプ式軸受け体
26 ダンパピン
27 弾性部材
37 フロントボス部(前脚取り付け部)
39 継手軸
40,42 ブッシュ
41 抜け止めワッシャ
44 ジョイント
45 リアボス部(後脚取り付け部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8