(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073233
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】イソプレン重合活性を有するタンパク質組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/29 20060101AFI20220510BHJP
C07K 14/415 20060101ALI20220510BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220510BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220510BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220510BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C12N15/29 ZNA
C07K14/415
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020183088
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】米山 史紀
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 治
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
4B065AA88X
4B065AA88Y
4B065AA89X
4B065AA89Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA30
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】本発明は、天然ゴムを効率的に生産し、安定的な確保を実現するための手段を提供し、ゴム資源を安定的に確保することを目的とする。
【解決手段】本発明は、(A-1)CPT6と同様の活性を有するタンパク質、又は、(A-2)CPT7と同様の活性を有するタンパク質と、(B)CPTLと同様の活性を有するタンパク質とを含む、イソプレン重合活性を有するタンパク質組成物、前記組成物を含む脂質膜構築体、その製造方法、前記組成物を構成するタンパク質を発現する細胞、その作製方法、及び、これらのいずれかを用いるイソプレン重合化合物の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A-1)配列番号6のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号6のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CPT6と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質、又は、
(A-2)配列番号8のアミノ酸配列を含むタンパク質、配列番号8のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号8のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CPT7と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質と、
(B)配列番号10のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号10のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CPTLと同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質と、
を含む、イソプレン重合活性を有するタンパク質組成物。
【請求項2】
(A-1)が、
配列番号5の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号5の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、CPT6と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(a-1)によりコードされるタンパク質であること、
(A-2)が、
配列番号7の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号7の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、CPT7と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(a-2)によりコードされるタンパク質であること、及び
(B)が、
配列番号9の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号9の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPTLと同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(b)によりコードされるタンパク質であること
の少なくともいずれかである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
CPT6、7及びCPTL以外のCPTファミリータンパク質、REFファミリータンパク質、及びSRPPファミリータンパク質を更に含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
(C)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号2のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CPT1と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質、
(D)配列番号4のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号4のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CPT2と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質、
(E)配列番号12のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号12のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、REF1と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質、
(F)配列番号14のアミノ酸配列を含むタンパク質、並びに、配列番号14のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、REF2と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質、
(G)配列番号16のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号16のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、REF8と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質、及び
(H)配列番号18のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号18のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、SRPP1と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質
から選ばれる少なくとも1つを更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
(C)が、
配列番号1の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号1の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPT1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(c)によりコードされるタンパク質であること、
(D)が、
配列番号3の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号3の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPT2と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(d)によりコードされるタンパク質であること、
(E)が、
配列番号11の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号11の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(e)によりコードされるタンパク質であること、
(F)が、
配列番号13の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号13の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF2と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(f)によりコードされるタンパク質であること、
(G)が、
配列番号15の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号15の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF8と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(g)によりコードされるタンパク質であること、及び、
(H)が、
配列番号17の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号17の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、SRPP1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(h)によりコードされるタンパク質であること、
の少なくともいずれかである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
(A)~(H)のタンパク質の少なくとも1つは、ゴムノキ由来のタンパク質である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物及びリン脂質を含む脂質膜構築体。
【請求項8】
脂質二重膜構築体である、請求項7に記載の構築体。
【請求項9】
プロテオリポソームである、請求項7又は8に記載の構築体。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物を構成するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、リン脂質を含む原料の存在下、無細胞タンパク質生産系にて発現させることを含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の脂質膜構築体の製造方法。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物を構成するタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、
(a-1)配列番号5の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号5の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、CPT6と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド、又は
(a-2)配列番号7の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号7の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、CPT7と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチドと、
(b)配列番号9の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号9の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPTLと同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチドと
を含む、請求項10に記載の脂質膜構築体の製造方法。
【請求項12】
ポリヌクレオチドは、請求項3又は4に記載の組成物を構成するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであり、
(c)配列番号1の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号1の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPT1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
(d)配列番号3の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号3の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPT2と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
(e)配列番号11の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号11の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
(f)配列番号13の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号13の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF2と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
(g)配列番号15の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号15の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF8と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド、及び
(h)配列番号17の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号17の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、SRPP1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
の少なくともいずれかを更に含む、請求項10又は11に記載の脂質膜構築体の製造方法。
【請求項13】
リン脂質を含む原料はリポソームを含み、脂質膜構築体がプロテオリポソームである、請求項10~12のいずれか1項に記載の脂質膜構築体の製造方法。
【請求項14】
請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物を構成するタンパク質を発現する細胞。
【請求項15】
請求項1~6のいずれか1項に記載のタンパク質組成物に含まれる各タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現単位を含む請求項14に記載の細胞。
【請求項16】
ポリヌクレオチドは、
(a-1)配列番号5の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号5の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、CPT6と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド、又は
(a-2)配列番号7の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号7の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、CPT7と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチドと、
(b)配列番号9の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号9の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPTLと同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチドと
を含む、請求項14又は15に記載の細胞。
【請求項17】
ポリヌクレオチドは、請求項3又は4に記載の組成物を構成するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであり、
(c)配列番号1の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号1の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPT1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
(d)配列番号3の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号3の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPT2と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
(e)配列番号11の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号11の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
(f)配列番号13の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号13の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF2と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
(g)配列番号15の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号15の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF8と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド、及び
(h)配列番号17の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号17の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、SRPP1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
の少なくともいずれかを更に含む、請求項14~16のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項18】
発現単位が異種発現単位である、請求項14~17のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項19】
請求項9に記載の脂質膜構築体を含む、請求項14に記載の細胞。
【請求項20】
請求項9に記載の脂質膜構築体を細胞と相互作用させることを含む、請求項14に記載の細胞の作製方法。
【請求項21】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物、請求項7~9に記載の構築体、請求項14~19のいずれか1項に記載の細胞から選ばれる少なくとも1つを用いてイソプレン重合反応を行うことを含む、イソプレン重合化合物の製造方法。
【請求項22】
低分子量アリル化合物を基質としてイソプレン重合反応を行う、請求項21に記載の製造方法。
【請求項23】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物、請求項7~9に記載の構築体及び請求項14~19のいずれか1項に記載の細胞から選ばれる少なくとも1つ、及び
低分子量アリル化合物
を含む、イソプレン重合化合物製造用キット。
【請求項24】
請求項21又は22に記載の製造方法により製造されるイソプレン重合化合物を用いてゴムを製造することを含む、ゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソプレン重合活性を有するタンパク質組成物及びその用途に関し、詳しくは、イソプレン重合活性を有するタンパク質組成物、これを含む脂質膜構築物及び細胞、並びに、これを用いるイソプレン重合化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ゴムは、ゴムノキの樹液に含まれるシス-ポリイソプレンを主成分とする物質であり、自動車産業、建設産業等の各種分野で広く用いられ、世界的に需要が拡大している。天然ゴムは、ゴムノキから採取される農作物であるため、供給が不安定であり、品質にばらつきがある等の問題があり、重大な経営リスクとなるおそれもあった。そのため、天然ゴムを人工的に生産する技術の開発が試みられている。
【0003】
特許文献1及び非特許文献1には、生体外で、天然ゴム生合成に関わる所定のタンパク質(HRT1、HRTBP及びREF)の各遺伝子発現産物をゴム粒子に結合させる結合工程を含むポリイソプレノイドの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yamashita S.et al.eLife 2016;5:e19022.DOI:10.7554/eLife.19022
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び非特許文献1記載の技術は、ポリイソプレノイドを十分に生産できず実用化するには不十分であった。また、斯かる技術によれば、ゴム粒子を植物から採取する必要があるところ、ゴム粒子の採取処理が煩雑であること、植物からの抽出物であるためゴム粒子の品質安定化が難しいこと、等の問題もあった。
【0007】
本発明は、天然ゴムを効率的に生産し、安定的な確保を実現するための手段を提供し、ゴム資源を安定的に確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の〔1〕~〔24〕が提供される。
〔1〕(A-1)配列番号6のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号6のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CPT6と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質、又は、
(A-2)配列番号8のアミノ酸配列を含むタンパク質、配列番号8のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号8のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CPT7と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質と、
(B)配列番号10のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号10のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CPTLと同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質と、
を含む、イソプレン重合活性を有するタンパク質組成物。
〔2〕(A-1)が、
配列番号5の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号5の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、CPT6と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(a-1)によりコードされるタンパク質であること、
(A-2)が、
配列番号7の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号7の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、CPT7と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(a-2)によりコードされるタンパク質であること、及び
(B)が、
配列番号9の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号9の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPTLと同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(b)によりコードされるタンパク質であること
の少なくともいずれかである、〔1〕に記載の組成物。
〔3〕CPT6、7及びCPTL以外のCPTファミリータンパク質、REFファミリータンパク質、及びSRPPファミリータンパク質を更に含む、〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕(C)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号2のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CPT1と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質、
(D)配列番号4のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号4のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CPT2と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質、
(E)配列番号12のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号12のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、REF1と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質、
(F)配列番号14のアミノ酸配列を含むタンパク質、並びに、配列番号14のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、REF2と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質、
(G)配列番号16のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号16のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、REF8と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質、及び
(H)配列番号18のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号18のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、SRPP1と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質、
から選ばれる少なくとも1つを更に含む、〔1〕に記載の組成物。
〔5〕(C)が、
配列番号1の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号1の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPT1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(c)によりコードされるタンパク質であること、
(D)が、
配列番号3の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号3の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPT2と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(d)によりコードされるタンパク質であること、
(E)が、
配列番号11の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号11の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(e)によりコードされるタンパク質であること、
(F)が、
配列番号13の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号13の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF2と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(f)によりコードされるタンパク質であること、
(G)が、
配列番号15の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号15の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF8と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(g)によりコードされるタンパク質であること、及び、
(H)が、
配列番号17の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号17の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、SRPP1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド(h)によりコードされるタンパク質であること、
の少なくともいずれかである、〔4〕に記載の組成物。
〔6〕(A)~(H)のタンパク質の少なくとも1つは、ゴムノキ由来のタンパク質である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の組成物及びリン脂質を含む脂質膜構築体。
〔8〕脂質二重膜構築体である、〔7〕に記載の構築体。
〔9〕プロテオリポソームである、〔7〕又は〔8〕に記載の構築体。
〔10〕〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の組成物を構成するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、リン脂質を含む原料の存在下、無細胞タンパク質生産系にて発現させることを含む、〔7〕~〔9〕のいずれか1項に記載の脂質膜構築体の製造方法。
〔11〕〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の組成物を構成するタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、
(a-1)配列番号5の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号5の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、CPT6と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド、又は
(a-2)配列番号7の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号7の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、CPT7と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチドと、
(b)配列番号9の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号9の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPTLと同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチドと
を含む、〔10〕に記載の脂質膜構築体の製造方法。
〔12〕ポリヌクレオチドは、〔3〕又は〔4〕に記載の組成物を構成するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであり、
(c)配列番号1の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号1の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPT1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
(d)配列番号3の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号3の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPT2と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
(e)配列番号11の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号11の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
(f)配列番号13の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号13の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF2と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
(g)配列番号15の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号15の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF8と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド、及び
(h)配列番号17の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号17の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、SRPP1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
の少なくともいずれかを更に含む、〔10〕又は〔11〕に記載の脂質膜構築体の製造方法。
〔13〕リン脂質を含む原料はリポソームを含み、脂質膜構築体がプロテオリポソームである、〔10〕~〔12〕のいずれか1項に記載の脂質膜構築体の製造方法。
〔14〕〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の組成物を構成するタンパク質を発現する細胞。
〔15〕〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載のタンパク質組成物に含まれる各タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現単位を含む〔14〕に記載の細胞。
〔16〕ポリヌクレオチドは、
(a-1)配列番号5の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号5の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、CPT6と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド、又は
(a-2)配列番号7の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号7の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、CPT7と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチドと、
(b)配列番号9の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号9の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPTLと同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチドと
を含む、〔14〕又は〔15〕に記載の細胞。
〔17〕ポリヌクレオチドは、〔3〕又は〔4〕に記載の組成物を構成するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであり、
(c)配列番号1の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号1の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPT1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
(d)配列番号3の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号3の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPT2と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
(e)配列番号11の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号11の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
(f)配列番号13の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号13の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF2と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
(g)配列番号15の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号15の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF8と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド、及び
(h)配列番号17の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号17の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、SRPP1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド
の少なくともいずれかを更に含む、〔14〕~〔16〕のいずれか1項に記載の細胞。
〔18〕発現単位が異種発現単位である、〔14〕~〔17〕のいずれか1項に記載の細胞。
〔19〕〔9〕に記載の脂質膜構築体を含む、〔14〕に記載の細胞。
〔20〕〔9〕に記載の脂質膜構築体を細胞と相互作用させることを含む、〔14〕に記載の細胞の作製方法。
〔21〕〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の組成物、〔7〕~〔9〕に記載の構築体、〔14〕~〔19〕のいずれか1項に記載の細胞から選ばれる少なくとも1つを用いてイソプレン重合反応を行うことを含む、イソプレン重合化合物の製造方法。
〔22〕低分子量アリル化合物を基質としてイソプレン重合反応を行う、〔21〕に記載の製造方法。
〔23〕〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の組成物、〔7〕~〔9〕に記載の構築体及び〔14〕~〔19〕のいずれか1項に記載の細胞から選ばれる少なくとも1つ、及び
低分子量アリル化合物
を含む、イソプレン重合化合物製造用キット。
〔24〕〔21〕又は〔22〕に記載の製造方法により製造されるイソプレン重合化合物を用いてゴムを製造することを含む、ゴムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、天然ゴムを効率的に生産し、安定的な確保を実現することができ、世界的に需要が拡大しているゴム資源の安定的な確保の実現が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔タンパク質組成物〕
(イソプレン重合活性)
本発明のタンパク質組成物は、イソプレン重合活性を有する。イソプレン重合活性とは、通常、イソプレンの重合反応を直接または間接的に促進しイソプレン重合化合物を生産する活性を意味する。イソプレンの重合反応とは、通常は、生物におけるイソプレンの重合反応である。基質としては、例えば、イソペンテニル二リン酸(IPP)、ファルネシル二リン酸(FPP)、ジメチルアリル二リン酸(DMAPP)、ゲラニル二リン酸(GPP)、ゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)等の低分子量アリル化合物が挙げられる。
生物としては例えば、Hevea属植物(例えば、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)、Hevea benthamiana、Hevea guianensis)、Ficus属植物(例えば、インドゴムノキ(Ficus elastica)、カシワバゴムノキ(Ficus lyrata)、ベンジャミンゴムノキ(Ficus benjamina))等のゴムノキ(天然ゴム生産能を有する植物)が挙げられるが、これに限定されず、他の植物細胞、動物細胞、微生物も含まれる。
【0011】
(タンパク質組成物を構成するタンパク質)
((A)及び(B)のタンパク質)
タンパク質組成物は、(A-1)及び(A-2)のタンパク質の少なくともいずれかと、(B)のタンパク質とを含む:
(A-1)配列番号6のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号6のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CPT6と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質;
(A-2)配列番号8のアミノ酸配列を含むタンパク質、配列番号8のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号8のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CPT7と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質;及び
(B)配列番号10のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号10のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CPTLと同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質。
【0012】
配列番号6、8、10のアミノ酸配列は、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)由来の、それぞれ、シス-プレニルトランスフェラーゼ(CPT)6、CPT7、CPTLのアミノ酸配列である。
【0013】
(A-1)、(A-2)及び(B)のタンパク質は、それぞれをコードする(a-1)、(a-2)及び(b)のポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質でもよい:
(a-1)配列番号5の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号5の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、CPT6と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド;
(a-2)配列番号7の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号7の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、CPT7と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド;及び
(b)配列番号9の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号9の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPTLと同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド。
【0014】
配列番号5、7、9で表される塩基配列は、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)由来の、それぞれ、CPT6、CPT7及びCPTLの完全長の塩基配列である。
【0015】
(他のタンパク質)
タンパク質組成物は、(A-1)、(A-2)及び(B)のタンパク質以外のタンパク質を含んでいてもよい。他のタンパク質としては、生体内でイソプレンの重合反応そのものを担うタンパク質及び重合反応を補助することが知られているタンパク質が挙げられる。前者としては、例えば、CPT6、CPT7及びCPTL以外のCPTファミリーが挙げられる。後者としては、例えば、rubber elongation factor(REF)ファミリー、small rubber particle protein(SRPP)ファミリーから選ばれる少なくとも1つが挙げられる。中でも、(C)~(H)のタンパク質から選ばれる少なくとも1つが好ましい:
(C)配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号2のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CPT1と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質;
(D)配列番号4のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号4のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、CPT2と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質;
(E)配列番号12のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号12のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、REF1と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質;
(F)配列番号14のアミノ酸配列を含むタンパク質、並びに、配列番号14のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、REF2と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質;
(G)配列番号16のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号16のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、REF8と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質;及び
(H)配列番号18のアミノ酸配列を含むタンパク質、及び、配列番号18のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、SRPP1と同様の活性を有するタンパク質から選ばれる1以上のタンパク質。
配列番号2、4、12、14、16、18のアミノ酸配列は、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)由来の、それぞれ、CPT1、CPT2、REF1、REF2、REF8、SRPP1の成熟タンパク質を含む。
【0016】
(C)~(H)のタンパク質は、それぞれをコードする(c)~(h)のポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質でもよい:
(c)配列番号1の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号1の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPT1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド;
(d)配列番号3の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号3の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、CPT2と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド;
(e)配列番号11の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号11の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド;
(f)配列番号13の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号13の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF2と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド;
(g)配列番号15の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号15の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、REF8と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド;及び
(h)配列番号17の塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、配列番号17の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされ、SRPP1と同様の活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドから選ばれる1以上のポリヌクレオチド。
【0017】
配列番号1、3、11、13、15及び17で表される塩基配列は、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)由来の、それぞれ、CPT1、CPT2、REF1、REF2、REF8、及びSRPP1の完全長の塩基配列である。
タンパク質組成物は、(C)~(H)のタンパク質のうち、2種以上、3種以上、4種以上又は5種以上を含むことが好ましく、(C)及び(D)の少なくともいずれかと(E)~(H)の少なくともいずれかの組み合わせを含むことがより好ましく、すべてを含むことがさらに好ましい。
【0018】
(同一性%)
アミノ酸配列及び塩基配列の同一性は、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上であってもよい。同一性は、例えばNCBIのBLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov参照)を用い、デフォルトの条件で決定できる。
【0019】
(変異タンパク質が有する活性)
各タンパク質と「同様の活性を有する」とは、同一条件で測定された場合、各タンパク質が有する活性の、例えば、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上又は100%以上の活性を有することを意味する。
【0020】
(変異)
上記タンパク質は、同様の活性を保持し得る限り、触媒ドメイン中の部位、及び触媒ドメイン以外の部位に変異が導入されていてもよい。目的活性を保持し得る、タンパク質中の変異が導入されてもよいアミノ酸残基の位置は、当業者であれば特定可能である。例えば、当業者は、1)同種の活性を有する複数のタンパク質のアミノ酸配列(例、配列番号6又は8により表されるアミノ酸配列、及び他のイソプレン重合反応に関係するタンパク質のアミノ酸配列)を比較し、2)相対的に保存され又はされていない領域を明らかにし、次いで、3)相対的に保存されている領域及び保存されていない領域から、機能に重要な役割を果たし得る領域及び果たし得ない領域を予測できるので、構造・機能の相関性を認識し、変異が導入されてもよい部位を特定できる。
【0021】
タンパク質に導入される変異は、アミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換でもよく、類似の側鎖を有するアミノ酸残基への置換が好ましい。類似の側鎖を有するアミノ酸残基によるアミノ酸の分類としては、例えば、以下が挙げられる:リジン、アルギニン、ヒスチジン等の塩基性側鎖を有するアミノ酸;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性側鎖を有するアミノ酸;アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン等の非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸;グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン等の非極性側鎖を有するアミノ酸;スレオニン、バリン、イソロイシン等のβ位分岐側鎖を有するアミノ酸;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン等の芳香族側鎖を有するアミノ酸;セリン、スレオニン、チロシン等のヒドロキシル基含有側鎖(例えば、アルコール、フェノキシ基含有側鎖)を有するアミノ酸;及びシステイン、メチオニン等の硫黄含有側鎖を有するアミノ酸。
【0022】
塩基配列は、コドン最適化を目的として改変されてもよい。本明細書においてコドン最適化とは、塩基配列が、コードされるポリペプチドの配列を変更することなく、ターゲットである特定の細胞における発現が最適化されるように改変されることを意味する。最適化後の塩基配列は、当業者であれば導入される細胞におけるコドン使用頻度を理解し、遺伝コードの縮重を活用することにより容易に決定できる。ターゲットである細胞としては、例えば、大腸菌等の微生物、植物細胞、動物細胞が挙げられる。
【0023】
(タンパク質の修飾)
タンパク質組成物を構成する各タンパク質は、C末端付近に精製用タグを有していてもよい。精製用タグとしては、例えば、ヒスチジンタグ;HA、FLAG、V5およびmycエピトープ、;キチン結合タンパク質(chitin binding protein)(CBP);マルトース結合タンパク質(maltose binding protein)(MBP);グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(glutathione-s-transferase)(GST);及びStrepタグが挙げられる。タンパク質組成物は、上記の他に、イソプレンの重合反応に直接または間接的に関与する因子を含んでもよい。
【0024】
〔脂質膜構築体〕
本発明の脂質膜構築体は、上記タンパク質組成物を含む、脂質膜を含む構築体である。脂質膜構築体を用いることにより、タンパク質組成物がイソプレンの重合活性を発揮しやすくなり、効率的なイソプレン重合が実現できる。
【0025】
脂質膜は、一重膜でも、二重膜でもよい。一重膜の構築体としては、例えば、ゴム粒子(ゴムノキ由来のラテックスから抽出される粒子)が挙げられる。二重膜の構築体としては、例えば、プロテオリポソーム、人工脂質膜モデルが挙げられる。人工脂質膜モデルは、天然の脂質、合成の脂質またはその両方から構成されていてもよく、特に限定されない。脂質膜構築体は、二重膜の構築体が好ましく、プロテオリポソームがより好ましい。
【0026】
(プロテオリポソーム)
本明細書においてプロテオリポソームとは、リポソームの脂質二重膜の一部にタンパク質が内包または結合された人工小胞を意味する。本明細書においてリポソームとは、脂質二重膜に囲まれて形成された空間に水性成分(通常、水)が捕捉された人工小胞を意味する。脂質二重膜は通常、リン脂質等の脂質により構成される。リン脂質としては、例えば、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、カルジオリピン、またはそれらの組合せが挙げられる。リン脂質以外の脂質としては例えば、トリアシルグリセロール、ワックス、スフィンゴ脂質およびステロールおよびそれらの脂肪酸エステル、またはそれらの組合せも挙げられる。脂質二重膜を構成する脂質は、生体由来のリン脂質を含むことが好ましく、ダイズ由来リン脂質を含むことがより好ましい。
【0027】
リポソームの大きさは、特に限定されないが、その直径は通常50~300nmである。リポソームは、天然起源のものでもよいし合成されたものでもよいが、前者が好ましく、ダイズ等植物由来のものがより好ましい。合成されたリポソームとしては、例えば、ポリアルキレングリコール系のリポソームが挙げられる。
【0028】
膜脂質構築体におけるタンパク質組成物の存在形態は特に限定されないが、リポソームの場合、リポソーム表面のリン脂質の親水基の部分にタンパク質組成物が結合した形態(一部が膜内部に埋設されていてもよい)であると推測される。
【0029】
(製造方法)
膜脂質構築体の製造方法としては、例えば、組成物を構成するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを、リン脂質を含む原料の存在下無細胞タンパク質生産系にて発現させることを含む方法が挙げられる。
【0030】
リン脂質を含む原料は、膜構築体がプロテオリポソームである場合、リポソームを含む。リポソームは、上述したように天然起源のリポソームが好ましく、ダイズ等植物由来のリポソームが好ましい。
【0031】
プロテオリポソームの製造方法は、前記ポリヌクレオチドを含む発現単位を、リポソームの存在下無細胞タンパク質生産系にて発現させることを含むことが好ましい。
【0032】
発現単位は、タンパク質組成物に含まれる各タンパク質をコードするポリヌクレオチドを少なくとも含む。ポリヌクレオチドは、タンパク質組成物を構成するタンパク質をコードするポリヌクレオチドであり、上述の(a-1)又は(a-2)と(b)を含み、必要に応じて(c)~(h)の少なくとも1つを更に含む。発現単位は、通常、プロモーターを含む。これによりポリヌクレオチドによりコードされるポリヌクレオチドの発現産物を効率よく生産され得る。プロモーターとしては、例えば、tacプロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、T7プロモーター、T5プロモーター、T3プロモーター、及びSP6プロモーターが挙げられ、エンハンサーを含み得る。プロモーターは、ポリヌクレオチドに、その発現が可能な形式で連結されていればよく、例えば、コード配列の上流(5´)側に連結される。発現単位はDNAでもRNAでもよいが、好ましくはDNAである。発現単位は、ターミネーター、リボソーム結合部位、薬物耐性遺伝子、RNAプロセシングシグナル、翻訳効率を向上させる配列、タンパク質の安定性を高める配列、タンパク質の分泌を高める配列等の因子を含んでもよい。
【0033】
無細胞タンパク質生産系は、細胞抽出液(例えば、コムギ胚芽抽出液、大腸菌抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、昆虫細胞抽出液)を用いて、透析重層法により実施することが好ましく、市販のタンパク質無細胞発現キットに沿って実施できる。
【0034】
なお、リポソームの代わりに、他のタンパク質構築システム、例えば人工脂質膜モデルを用いてもよい。人工脂質膜モデルにおけるタンパク質組成物の構築は、常法に従って行えばよい。なお、人工脂質膜モデルは、天然の脂質、合成の脂質またはその両方から構成されていてもよく、特に限定されない。
【0035】
(細胞)
本発明の細胞は、タンパク質組成物を構成する各タンパク質((A)、(B)のタンパク質、及び、必要に応じて(C)~(H)の少なくとも1つのタンパク質)を発現する細胞である。細胞としては、例えば大腸菌、酵母等の微生物細胞、植物細胞、動物細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
細胞は、前記ポリヌクレオチドを含む発現単位を含むことが好ましい。発現単位は、プロテオリポソームの説明において説明したのと同様である。細胞が含み得る発現単位は、異種発現単位であることが好ましい。本明細書において異種発現単位とは、発現単位において、各タンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び通常含まれるプロモーターの少なくとも一方が宿主細胞に固有のものではないものを意味する。好ましくは両方が宿主細胞に固有のものではない。
【0037】
細胞を製造する方法としては、例えば、上記タンパク質組成物を構成するタンパク質のそれぞれをコードするポリヌクレオチドを含む発現単位を含む発現ベクターで形質転換する方法が挙げられる。タンパク質組成物は上述のとおり少なくとも2つのタンパク質を含むことから、発現ベクターは1つ(すべてのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現単位を含む)でもよいし、2つ以上(それぞれの又はいくつかごとのポリヌクレオチドを含む発現単位を含む)でもよい。発現ベクターは、組込み型(integrative)ベクターであっても、非組込み型ベクターであってもよい。発現ベクターにおいて、前記ポリヌクレオチドは、構成型プロモーター、又は誘導型プロモーターの制御下に配置され得る。
【0038】
発現ベクターによる宿主の形質転換は、1以上の公知の方法を用いて行うことができる。このような方法としては、例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)等が挙げられる。また、プラスミドベクター以外にもファージベクターを用いて、菌体内に感染させ導入する方法によってもよい。
【0039】
細胞は、上記のプロテオリポソームを含む細胞でもよい。プロテオリポソームは、天然起源のリポソームから作製されたものであることが好ましい。これにより、細胞膜との相互作用を容易に進めることができる。プロテオリポソームを含む細胞は、両者を相互作用させることによって製造できる。相互作用させる方法としては、例えば、リポソームを細胞表面へ吸着又は結合させる方法、リポソームを細胞内へ取り込ませる方法(エンドサイトーシスあるいはファゴサイトーシス)、リポソームの脂質二重膜と細胞膜とを融合させる方法が挙げられる。
【0040】
〔イソプレン重合化合物の製造方法〕
上記タンパク質組成物、プロテオリポソーム、及び細胞は、イソプレン重合化合物の製造に用いることができる。
【0041】
イソプレン重合化合物の製造においては、低分子量アリル性化合物を基質としたイソプレン重合反応を行う。低分子量アリル性化合物としては、例えば、イソプレニル二リン酸、ファルネシル二リン酸が挙げられ、これらの両方であることが好ましい。反応温度、反応時間等の条件は、適宜設定できる。代表的なイソプレン重合化合物としては、シス-ポリイソプレンが挙げられ、ゴムの原材料として有用である。イソプレン重合化合物の他の例としては、ドリコール、ポリプレノール、これらの誘導体が挙げられ、これらは生体において生理活性(例えば、免疫活性、抗ウイルス活性、抗酸化活性)を発揮することから医薬及び健康食品の材料として有用である。また、ゴム製品の添加剤(例えば、可塑剤、相溶化剤)としても利用できる。
【0042】
〔イソプレン重合化合物の製造用キット〕
上記タンパク質組成物、プロテオリポソーム、及び細胞は、イソプレン重合化合物の製造用キットとして用いることができる。キットは、通常、基質としての低分子量アリル化合物を含む。さらに、反応容器、必要な試薬を含んでもよい。
【0043】
〔ゴムの製造方法〕
上記イソプレン重合化合物の製造方法により得られるイソプレン重合化合物は、ゴムの製造に用いることができる。イソプレン重合化合物からゴムを製造する手順及び条件は、常法に従えばよく、例えば、イソプレン重合化合物を混練後、架橋及び成型する方法が挙げられる。必要に応じて用いることができる添加剤としては、例えば、補強剤、シランカップリング剤、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、オイル、硬化レジン、ワックス、老化防止剤、着色剤が挙げられる。これらの添加剤は、それぞれに応じた段階で添加すればよい。得られるゴムは、タイヤ、建材、スポーツ用品、自動車部品等の各種用途に利用できる。
【実施例0044】
実施例1~11
(1)天然ゴム生合成タンパク質遺伝子の取得
『Rubber Database』(http://Matsui-lab.riken.jp/rubber/home.html)よりラテックス中で高生産される7タンパク質(CPT1、CPT2、CPTL,REF1、REF2、REF8、及びSRPP1)を選抜した。また、系統解析から2タンパク質(CPT6及びCPT7)を選抜した。
【0045】
各タンパク質をコードする遺伝子のcDNA、あるいは各遺伝子を含んだプラスミドを鋳型としたPCRによってCPT1、CPT2、CPT6、CPT7、CPTL,REF1、REF2、REF8、及びSRPP1遺伝子を取得した。PCRはPrimeSTAR Max DNA Polymerase (Takara)またはKOD One PCR Master Mix (TOYOBO)の説明書に従って反応を行い、プライマーには必要に応じて制限酵素消化サイト、Hisタグ配列を付加した。
【0046】
CPT1、CPT2、CPT6、CPT7、CPTL,REF1、REF2、REF8、及びSRPP1遺伝子のそれぞれの取得のためのプライマーセットとして、プライマー1および2、プライマー3および4、プライマー5および6、プライマー7および8、プライマー9および10、プライマー11および12、プライマー13および14、プライマー15および16、プライマー17および18を用いた。
【0047】
(CPT1遺伝子取得用プライマーセット)
プライマー1:5’-atggaattatacaacggtg-3’(配列番号19)
プライマー2:5’-atctcgagttaatgatgatgatgatgatgttttaag-3’(配列番号20)
【0048】
(CPT2遺伝子取得用プライマーセット)
プライマー3:5’-atggaaatatatacgggtcag-3’(配列番号21)
プライマー4:5’-atctcgagttaatgatgatgatgatgatgttttaaatattc-3’(配列番号22)
【0049】
(CPT6遺伝子取得用プライマーセット)
プライマー5:5’-atggaaaaacatagcagtag-3’(配列番号23)
プライマー6:5’-atctcgagttatataactgatgctttttc-3’(配列番号24)
【0050】
(CPT7遺伝子取得用プライマーセット)
プライマー7:5’-atgcaatccttgcacttg-3’(配列番号25)
プライマー8:5’-atctcgagttatgtaagtcgtctaccatag-3’(配列番号26)
【0051】
(CPTL遺伝子取得用プライマーセット)
プライマー9:5’-atggatttgaaacctgg-3’(配列番号27)
プライマー10:5’-atctcgagttaatgatgatgatgatgatgtgtac-3’(配列番号28)
【0052】
(REF1遺伝子取得用プライマーセット)
プライマー11:5’-atggctgaaggtgaagaagaggtgaatatc-3’(配列番号29)
プライマー12:5’-atctcgagtcacccatctccatatagcac-3’(配列番号30)
【0053】
(REF2遺伝子取得用プライマーセット)
プライマー13:5’-atggctgaagacgaagacaaccaacaag-3’(配列番号31)
プライマー14:5’-atctcgagtcaattctctccataaaacac-3’(配列番号32)
【0054】
(REF8遺伝子取得用プライマーセット)
プライマー15:5’-atggctgaagggaaagaaaacgagaatttc-3’(配列番号33)
プライマー16:5’-atctcgagttactctgcactttccttcac-3’(配列番号34)
【0055】
(SRPP1遺伝子取得用プライマーセット)
プライマー17:5’-atggctgaagaggtggaggaagagaggc-3’(配列番号35)
プライマー18:5’-atctcgagttatgatgcctcatctccaaac-3’(配列番号36)
【0056】
上述の方法により得られた各遺伝子について、その配列を同定し、全長の塩基配列及びアミノ酸配列を同定した。CPT1、CPT2、CPT6、CPT7、CPTL,REF1、REF2、REF8、及びSRPP1遺伝子の塩基配列をそれぞれ配列番号1,3,5,7,9,11,13,15,17に示し、アミノ酸配列をそれぞれ配列番号2,4,6,8,10,12,14,16,18に示した。
【0057】
(2)無細胞タンパク質合成用プラスミドの作製
上記(1)で獲得した各遺伝子のPCR反応産物をプライマーに付加した制限酵素XhoIで処理したのち、表1の各組み合わせを選択し、EcoRVとXhoIで制限酵素処理した無細胞発現用ベクターpEU-E01-MCSに挿入することで無細胞タンパク質合成用プラスミドを作製した。
【0058】
(3)大腸菌の形質転換
上記作製したプラスミドを大腸菌JM109に形質転換を行い、形質転換体はアンピシリンを含むLB寒天培地上で培養し、コロニーPCRによって目的プラスミドが導入された形質転換体を選抜した。
【0059】
(4)無細胞タンパク質合成法用プラスミドの作製
目的遺伝子を含むプラスミドで形質転換された大腸菌は、LB液体培地上で37℃で一晩培養したのち、菌体を回収し、プラスミドの回収を行った。プラスミドの回収はFastGeneプラスミドミニキット(日本ジェネティクス)を使用した。回収したプラスミドに挿入された遺伝子の塩基配列に変異がないことをシークエンス解析により確認した。
【0060】
(5)大腸菌の形質転換
上記で作製したプラスミドを用いて大腸菌JM109の形質転換を行い、形質転換体はアンピシリンを含むLB寒天培地上で培養した。
【0061】
(6)無細胞タンパク質合成法用プラスミドの回収
目的遺伝子を含むプラスミドで形質転換された大腸菌は、LB液体培地上で37℃で一晩培養したのち、菌体を回収し、プラスミドの回収を行った。プラスミドの回収はQIAGEN Plasmid Midi Kit(QIAGEN)を用いて行い、1μg/μlになるように調整した。
【0062】
(7)透析重層法によるリポソーム共存下の膜タンパク質(プロテオリポソーム)合成
ダイズ由来リン脂質で脂質二重膜(リポソーム:直径数百nm程度)を作製した。無細胞タンパク質合成は、ProteoLiposome BD Expression Kit(セルフリーサイエンス)に付属のプロトコルに従ってリポソーム添加条件で行った。鋳型となる9種タンパク質の発現用プラスミドは、1μg/μlに調整したものを表1に示す組み合わせで用い、全量で約13μlとなるよう等量比で用いた。例えば、実施例3においては、9種を1.5μLずつ、合計13.5μLとなるように転写反応系に加えた。合成反応終了後、付属のプロトコルに従い、リポソームに9種タンパク質が結合したProteoliposomeの簡易精製を行い、SDS-PAGEにて合成の確認を行った。
【0063】
(8)イソプレン重合活性の測定
無細胞合成したタンパク質のイソプレン重合活性を以下の方法により測定した。
終濃度50mM Tris-HCl(pH7.5)、終濃度10mM MgCl2、終濃度2mM DTT、終濃度10μMファルネシル二リン酸(FPP)、50μM終濃度14C-イソペンテニル二リン酸(14C-IPP)(比放射能:1.48-2.22 GBq/mmol)、5μL Proteoliposomeを混合した反応溶液100μLを調製し、30℃で24時間反応させた。
【0064】
反応後、飽和食塩水を200μL添加し、300μLの水飽和n-ブタノールによって反応産物を抽出した。回収した水飽和n-ブタノール層に400μLの2M NaClを添加、懸濁の後、水飽和n-ブタノール層を回収した。回収した溶液50 μLにクリアゾルII(ナカライテスク) 5mLを加え、よく混合した後に液体シンチレーションカウンター(LSC-8000;Aloka)にて放射線量(dpm)を測定した。Proteoliposomeを添加していない反応系をネガティブコントロールとし、各種タンパク質を含んだProteoliposomeを使用した結果を表1に示す。
【0065】
(9)イソプレン重合反応産物のTLCラジオグラム
上記で回収した水飽和n-ブタノール溶液は遠心エバポレーターによって有機層を揮発させた。終濃度100mM 酢酸ナトリウム(pH5.5)、終濃度1U酸性ホスファターゼ、ジャガイモ由来、1mLのメタノールを混合した反応溶液1.5mLを加え、37℃で17時間反応させた。
【0066】
反応後、ヘキサン500μLで抽出し、得られたヘキサン層は遠心エバポレーターによって濃縮乾燥させた。乾燥物をヘキサン10μLによって再溶解し、全量をTLCプレート(メルク社、TLCガラスプレート RP-18F254S 5×10cm)にスポットした。アセトン:水=19:1にて展開したものをイメージングプレートに露光し、スキャナー(Typhoon FLA9500)を用いて可視化した。
【0067】
比較例1(ネガティブコントロール)
プロテオリポソームを添加しなかったほかは、上記実施例と同様の操作を行った。
【0068】
比較例2~9(ネガティブコントロール以外)
各タンパク質の無細胞合成用プラスミドを1μg/μlに調整した。反応におけるプラスミド総量を13.5μlとし、各プラスミドの添加量が等比となるように添加した。以降は、上記実施例と同様の操作を行った。
【0069】
【0070】
表1から明らかなように、各実施例の放射線量は、比較例の放射線量と比較して高く、産物(分子量1,000~2,000程度と推測される)が合成されていることが分かった。CPT6及びCPTLの組み合わせである実施例1、CPT7及びCPTLの組み合わせである実施例2は、比較例よりも放射線量が高いことから、各組み合わせがイソプレン重合活性を発揮することが明らかとなった。また、更に他のタンパク質を組み合わせた実施例3~11も比較例より放射線量が高く、実施例1及び2よりも放射線量が高いものがあったことから、CPT6,7,CPTL以外のタンパク質も、イソプレン重合活性を促進する可能性があることが明らかとなった。
以上の結果は、本発明により天然ゴムの効率的な生産が可能であることを示している。