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特開2022-73362窒素酸化物吸着材料及び自動車排ガス触媒
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  • 特開-窒素酸化物吸着材料及び自動車排ガス触媒 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073362
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】窒素酸化物吸着材料及び自動車排ガス触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/08 20060101AFI20220510BHJP
   B01J 23/38 20060101ALI20220510BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20220510BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20220510BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20220510BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
B01J20/08 B ZAB
B01J23/38 A
B01D53/94 222
F01N3/08 A
F01N3/10 A
F01N3/28 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020183314
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】391021765
【氏名又は名称】新日本電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】相原 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 千夏
(72)【発明者】
【氏名】山戸 公史
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G066
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AA12
3G091AB09
3G091BA14
3G091BA39
3G091FB02
3G091FB10
3G091GB05W
3G091GB06W
3G091GB07W
3G091GB10Y
4D148AA06
4D148AB02
4D148AB03
4D148AB09
4D148BA30X
4D148BA31X
4D148BA33X
4D148BA34Y
4D148BB02
4D148EA04
4G066AA12B
4G066AA23B
4G066AA53A
4G066BA26
4G066BA32
4G066BA36
4G066CA28
4G066CA37
4G066DA02
4G066FA37
4G066GA01
4G066GA06
4G066GA32
4G169AA03
4G169BC32A
4G169BC33A
4G169BC69A
4G169CA02
4G169CA03
4G169DA06
(57)【要約】
【課題】自動車排ガス中の窒素酸化物を効率的に吸着して捕集し、触媒活性の生じる低温域において、貴金属触媒へ表面拡散させて効率的に供給することで、窒素酸化物の低温浄化を促進できる窒素酸化物吸着材料及びそれを用いた自動車排ガス浄化触媒を提供する。
【解決手段】セリウム酸化物又はジルコニウム酸化物において、Nd3+イオン及びGd3+イオンの一種または二種からなる置換イオンにより前記酸化物のカチオンの一部(好ましくは、総カチオン量の4~34mol%)が置換されており、前記置換イオンが立方晶の酸素多面体位置に存在する構造を有し、前記窒素酸化物吸着材料が吸着した窒素酸化物のうちの少なくとも一酸化窒素が275℃以上325oC以下の温度範囲で脱離する吸着力を有する窒素酸化物吸着材料。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウム酸化物又はジルコニウム酸化物において、Nd3+イオン及びGd3+イオンの一種または二種からなる置換イオンにより前記酸化物のカチオンの一部が置換されている窒素酸化物吸着材料であって、前記置換イオンが立方晶の酸素多面体位置に存在する構造を有し、前記窒素酸化物吸着材料が吸着した窒素酸化物のうちの少なくとも一酸化窒素が275℃以上325oC以下の温度範囲で脱離する吸着力を有することを特徴とする窒素酸化物吸着材料。
【請求項2】
前記置換イオンの含有割合の合計量は、前記窒素酸化物吸着材料の総カチオン量に対して4モル%以上34モル%以下であることを特徴とする請求項1記載の窒素酸化物吸着材料。
【請求項3】
比表面積が30m2/g以上70m2/g以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の窒素酸化物吸着材料。
【請求項4】
貴金属が担持されて成ることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の窒素酸化物吸着材料。
【請求項5】
酸素吸放出材料が混合されていることで、酸素吸放出機能と窒素酸化物吸着機能の両方を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の窒素酸化物吸着材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の窒素酸化物吸着材料を含むことを特徴とする自動車排ガス浄化触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素酸化物吸着材料及び窒素酸化物吸着材料を含む自動車排ガス触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排ガス中の有害物質である窒素酸化物(NOx)を浄化する方法として三元触媒が用いられている。三元触媒で一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)の酸化と窒素酸化物(NOx)の還元とを同時に行って排ガスを浄化する。三元触媒としては、高い表面積を有するアルミナ多孔質体などの耐火性酸化物多孔質体に貴金属(例えば、Pt、Rh、Pd、Ir、Ruなど)を担持させ、これを基材、例えば耐火性セラミック製又は金属製のハニカム構造基材に担持させたり、或いは、耐火性粒子に担持させたりしたものが一般的に使用されている。
【0003】
ガソリンエンジンの排ガス浄化に使用される三元触媒において、排ガス中の窒素酸化物を効率的に除去するためには、触媒温度を貴金属の活性化温度(約250℃)以上に保つ必要がある。すなわち、エンジン始動直後の数十秒間は、排ガス中の窒素酸化物は浄化されずに排出される。特に、寒冷地や冬季においては、窒素酸化物の排出量は多くなる。そこで、エンジン始動直後の触媒温度が排ガス中の窒素酸化物浄化のための活性化温度に達しない間、窒素酸化物を一度吸蔵もしくは吸着させておき、活性化温度に達してから浄化させるNOx吸蔵還元触媒が提案されている。NOx吸蔵還元触媒としては、高い表面積を有するアルミナ多孔質体などの耐火性酸化物多孔質体に貴金属(例えば、Pt、Rhなど)およびバリウム等のアルカリ土類金属元素からなるNOx吸蔵材を担持させたものが用いられる。
【0004】
しかしながら、前記NOx吸蔵還元触媒では、NOx吸蔵材が吸蔵できるNOxの量には限界量(飽和量)が存在するため、飽和量以上のNOxが含まれる際には、過剰分の窒素酸化物は排出される。したがって、排ガスの温度が低温領域にあっても高い浄化活性を得られるよう、低温の触媒活性を向上させることが求められる。
【0005】
自動車排ガス中に含まれる窒素酸化物を低温域で機能する吸着材として、特許文献1にはゼオライトが、特許文献2にはホランダイト型の金属酸化物が、特許文献3にはセリア、マグネシアおよびアルミナ等からなる多孔質担体と、それに活性金属元素を担持したものと、セリアを主成分とする多孔質担体の2種類の窒素酸化物吸着材層をもつ吸着材が提案されている。
【0006】
また、リーンバーンエンジンに適した窒素酸化物吸着材料として、特許文献4にはマグネットプランバイト構造を有する材料が、特許文献5にはチタンとセリウムと銅が固溶した複合酸化物が、特許文献6にはセリアおよび希土類酸化物を含む複合酸化物に貴金属および固体酸と、バナジウム、タングステン、モリブデン、銅、鉄、コバルト、ニッケルおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種の金属酸化物を担持させた触媒がそれぞれ提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-36544号公報
【特許文献2】特開2011-115782号公報
【特許文献3】特開2009-82846号公報
【特許文献4】特開2004-122077号公報
【特許文献5】特開2016-43310号公報
【特許文献6】特開2008-62235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように窒素酸化物吸着材料として様々な材料が知られており、これまで自動車排ガス浄化触媒において低温領域での高い窒素酸化物吸着量や熱耐久性が要求され、それらに対応した開発が行われてきた。しかしながら、燃費向上のためエンジンから排出される成分や温度が変化する中で窒素酸化物浄化触媒に求められる要求も変化する。具体的には、低温で窒素酸化物を単に吸着するだけでなく、低温での窒素酸化物の浄化性能(窒素酸化物の低温分解、低温還元分解)の向上である。
【0009】
よって、これまでは窒素酸化物吸着材料開発は、低温域での吸着もしくは吸蔵性能の向上が主なものであった。特許文献1~3では150℃あるいは200℃以下の窒素酸化物吸着もしくは吸蔵性能向上を目的としており、特許文献3~6ではリーンバーンエンジンへ対応できるよう低温域から高温域までの窒素酸化物吸着性能向上を目的としている。したがって、触媒活性温度近傍域において、吸着成分の貴金属触媒への供給性能の向上によって窒素酸化物の低温浄化(低温分解)を促進させることはこれまで殆ど試みられていなかった。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなしたものであり、自動車排ガス中の窒素酸化物を、触媒活性の生じる低温域において効率的に吸着して捕集し、貴金属触媒へ表面拡散させて効率的に供給することで、窒素酸化物の低温浄化を促進できる窒素酸化物吸着材料及びそれを用いた自動車排ガス浄化触媒を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究し、その結果、セリウム酸化物またはジルコニウム酸化物に、Nd3+イオン(ネオジムイオン)及びGd3+イオン(ガドリニウムイオン)の一種または二種からなる置換イオンを置換固溶させて、置換固溶している前記イオンを立方晶の酸素多面体構造中に存在させると、これらが窒素酸化物の有効な吸着点として働くことを見出した。特に、前記吸着機構において吸着した窒素酸化物が275℃~325℃の範囲で脱離する程度の吸着力であると、自動車排ガス中の窒素酸化物を効率的に吸着して捕集し、貴金属触媒へ表面拡散して効率的に供給させることができるので、窒素酸化物の低温浄化を促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0013】
(1)セリウム酸化物又はジルコニウム酸化物において、Nd3+イオン及びGd3+イオンの一種または二種からなる置換イオンにより前記酸化物のカチオンの一部が置換されている窒素酸化物吸着材料であって、前記置換イオンが立方晶の酸素多面体位置に存在する構造を有し、前記窒素酸化物吸着材料が吸着した窒素酸化物のうちの少なくとも一酸化窒素が275℃以上325oC以下の温度範囲で脱離する吸着力を有することを特徴とする窒素酸化物吸着材料。
【0014】
(2)前記置換イオンの含有割合の合計量は、前記窒素酸化物吸着材料の総カチオン量に対して4モル%以上34モル%以下であることを特徴とする(1)記載の窒素酸化物吸着材料。
【0015】
(3)比表面積が30m2/g以上70m2/g以下であることを特徴とする(1)又は(2)記載の窒素酸化物吸着材料。
【0016】
(4)貴金属が担持されて成ることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の窒素酸化物吸着材料。
【0017】
(5)酸素吸放出材料が混合されていることで、酸素吸放出機能と窒素酸化物吸着機能の両方を有することを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の窒素酸化物吸着材料。
【0018】
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の窒素酸化物吸着材料を含むことを特徴とする自動車排ガス浄化触媒。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、自動車排ガス中に含まれる窒素酸化物(例えば、一酸化窒素)を効率的に捕集、吸着させ、表面拡散によって、吸着した窒素酸化物を触媒貴金属上へ効率的に供給させることができるので、窒素酸化物を含む自動車排ガスの低温浄化性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の窒素酸化物吸着材料の一つの態様を示し、(a)は、セリウム酸化物のカチオンであるCe4+イオンの一部が、Nd3+イオン、Gd3+イオンの一種又は二種からなる置換イオン(図中、「Ln3+」で示す。)で置換されている概略模式図であり、(b)は、Ln3+イオンが一酸化窒素(NO)等の窒素酸化物の吸着点として作用し、一酸化窒素(NO)を吸着している状態を示す概略模式図である。
図2】本発明の窒素酸化物吸着材料において、配位安定化エネルギーにより、一酸化窒素(NO)が吸着・安定化する仕組みを説明する概略模式図である。
図3】本発明の窒素酸化物吸着材料において、置換イオンであるNd3+イオン、Gd3+イオンが、立方晶の酸素多面体位置に存在することを示すX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、セリウム酸化物またはジルコニウム酸化物のカチオンの一部がNd3+イオン(ネオジムイオン)、Gd3+イオン(ガドリニウムイオン)、又は、Nd3+イオンとGd3+イオンの両方で置換され、更に前記置換イオンが立方晶の酸素多面体位置に存在する構造を有する窒素酸化物吸着材料であるが、これを、自動車排ガス触媒に使用すれば低温領域の触媒活性を向上させることができる。
【0022】
図1(a)に示すように、Nd3+イオン(ネオジムイオン)やGd3+イオン(ガドリニウムイオン)が立方晶の酸素多面体位置に存在する構造にある(なお、図1では、Nd3+イオン、Gd3+イオンを「Ln3+イオン」で示している。)と、図1(b)に示すように、これが窒素酸化物(一酸化窒素、等)の吸着点として働き、触媒貴金属へ反応物を効率的に供給することができる。その結果、触媒反応が効率的に起こる、即ち、低温浄化能が向上する。
これは、図2に示すように、Nd3+イオン(ネオジムイオン)やGd3+イオン(ガドリニウムイオン)が持つf電子が立方晶の配位多面体に存在して形成されるf軌道分裂に充填されると配位安定化されることに起因している。
前記配位子をみると酸化物結晶格子ではO2-イオン(酸素イオン)が配位子となるが、より強い配位子N(窒素酸化物のN)が近づくとO2-イオン(酸素イオン)に代わって配位子Nが配位してf軌道分裂を更に大きくする、即ち配位安定化エネルギーが大きくなる。
これが、窒素酸化物の吸着点として作用するメカニズムであり、単なる静電引力で吸着する機構とは異なる。このような異なる吸着メカニズムによって、自動車排ガス中に含まれる窒素酸化物を、酸化などの化学的な変化を起こさせることなく効率的に捕集でき、表面拡散も容易に起こるので、吸着した窒素酸化物を触媒貴金属上へ効率的に供給させることができる。また、前記配位吸着した窒素酸化物は触媒貴金属での還元分解も促進できるので、自動車排ガスの低温浄化性能を向上できることになる。
なお、図3のX線回折チャートに示されるように、本発明の窒素酸化物吸着材料において、Nd3+イオン(ネオジムイオン)やGd3+イオン(ガドリニウムイオン)が立方晶の酸素多面体位置に存在することが確認される。
即ち、本発明の窒素酸化物吸着材料における置換イオンであるNd3+イオン(ネオジムイオン)、Gd3+イオン(ガドリニウムイオン)は、その置換量がかなり多くなる場合があるにもかかわらず、置換元素由来の酸化物元素のピークは確認できず、単相となっている。このことから、置換イオンは、CeもしくはZrの位置に置換されている、言い換えれば、置換イオンは、立方晶の酸素多面体位置に存在する構造を有するといえる。
【0023】
更に、本発明の窒素酸化物吸着材料は、上記配位吸着メカニズムにおいて吸着した窒素酸化物のうちの少なくとも一酸化窒素NOを275℃以上325oC以下の温度範囲で脱離する程度の吸着力を有することで、表面拡散によって、吸着した窒素酸化物を触媒貴金属上へ効率的に供給させることで自動車排ガスの低温浄化性能を向上させるという本発明の作用効果を発揮する。
ただ、前記脱離温度が275℃未満では、窒素酸化物の吸着力が弱すぎて本発明の効果が得られない、一方、前記脱離温度が325℃を超えると、窒素酸化物の吸着力が強すぎて本発明の効果が得られない。
【0024】
本発明の窒素酸化物吸着材料では、Nd3+イオンとGd3+イオンの置換イオンの和で総カチオン量に対して4モル%以上34モル%以下含んでいる方がより好ましい。
【0025】
セリウム酸化物又はジルコニウム酸化物に、Nd3+イオンやGd3+イオンを置換イオンとして前記範囲で固溶させることによって、一酸化窒素をより効果的に吸着でき、貴金属触媒上へより効率的に拡散させることができる。Nd3+イオンやGd3+イオンが置換固溶していれば本発明の作用効果が得られる。例えば、前記固溶量が1モル%以上であるとある程度の作用効果が得られるが、固溶量が4mol%以上であると更に顕著な作用効果が得られる。即ち、前記イオンの置換固溶量が増加するとより有効な作用効果が得られるようになるが、前記固溶量が増加しすぎると置換固溶イオンが均一分散されなくなって(凝集して)得られる作用効果が飽和しほぼ一定となってしまう。例えば、45モル%以上では前記のとおり作用効果が飽和してしまうので、34mol%以下とすることが好ましい。34モル%を超えると、前述の理由や立方晶の酸素多面体構造を維持した固溶が出来なくなったりする場合がある。前記置換固溶量は、10mol%以上が更に好ましく、本作用効果を更により大きく得るためには21mol%以上、更により好ましくは28mol%以上である。
【0026】
本発明の窒素酸化物吸着材料は、より効果的に一酸化窒素を捕集する観点からは、Gd3+イオン(ガドリニウムイオン)を固溶させることが好ましい。Gd3+イオン(ガドリニウムイオン)を固溶させることで、酸素多面体が作るGd3+イオン(ガドリニウムイオン)の4f分裂軌道のうち、下準位に7つの電子が入るため、Nd3+イオン(ネオジムイオン)を用いた場合と比べてより大きい配位安定化エネルギーを得ることができ、一酸化窒素をより効果的に吸着できる。
【0027】
置換イオン(Nd3+イオン、Gd3+イオン)を固溶させる酸化物は、酸化セリウムでも酸化ジルコニウムのどちらでも本発明の作用効果を得ることができるが、好ましくは酸化ジルコニウムである。酸化ジルコニウムを用いることで、格子定数が酸化セリウムと比べて小さいので、Nd3+イオン(ネオジムイオン)やGd3+イオン(ガドリニウムイオン)周りの酸素多面体が小さくなることで、配位安定化エネルギーが大きくなるため、その結果、一酸化窒素をより効果的に吸着できる。
【0028】
本発明の窒素酸化物吸着材料は、比表面積が30m2/g以上70m2/g以下であるのがより好ましい。本発明の作用効果を得るためには、どのような比表面積であってもよいが、より効果的には前記範囲が好ましい。本発明は表面に関わる作用効果であるので比表面積が30m2/g未満では、エンジンやエンジンマネージメント違い等による用途によっては不十分であったり複雑な設計を要したりする場合がある。また、本発明の窒素酸化物吸着材料は、上述のようなメカニズムで作用効果を発揮するので、大きな比表面積であるほど好ましいが、70m2/g程度あれば十分な作用効果が得られる。よって、製造コストや取扱易さの観点から70m2/g以下がより好ましいとしているが、前記問題がなければ更に大きな比表面積であってもよい。
【0029】
本発明の窒素酸化物吸着材料は、貴金属が担持されているのがより好ましい。吸着した窒素酸化物は、別の担体酸化物に担持されている触媒貴金属上で分解されてもよいが、前述のように本発明の作用効果を考えると、本発明の窒素酸化物吸着材料は、貴金属が担持されているのがより好ましい。前記貴金属は、例えば、白金Pt、パラジウムPd、ロジウムRh、銀Ag、等である。窒素酸化物の浄化触媒としては、ロジウムRhや白金Ptが好ましい。炭化水素や一酸化炭素の浄化触媒として用いられるパラジウムPdの窒素酸化物の浄化能を向上させるという意味では、パラジウムPdを担持する方がよい。
【0030】
貴金属の担持量は、本発明の作用効果が得られる量であればよいので特に限定しないが、例えば、通常の三元触媒における担持量である。具体的には、例えば、担体に対する貴金属の質量割合として、0.01質量%以上20質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、更に好ましくは0.4質量%以上6質量%以下である。
【0031】
上述のセリウム酸化物またはジルコニウム酸化物にNd3+イオン(ネオジムイオン)やGd3+イオン(ガドリニウムイオン)を置換固溶した複合酸化物は酸素吸放出能を有さないので、酸素吸放出材料を混合し三元触媒に使用されるとより効果的に排ガス浄化能を示す。本発明に使用する酸素吸放出材料は、酸素を吸放出できる材料であれば何でもよく、例えば、金属、酸化物、硫酸塩、等があげられる。中でも、セリア・ジルコニア複合酸化物と鉄系酸化物が好ましい。前記鉄系酸化物は、例えば、ストロンチウムイオンと鉄イオンを含む複合酸化物である。
前記酸素吸放出材料を混合する量は、エンジンマネージメントに合わせて適宜決定すれば良いが、例えば、3質量%以上60質量%以下とすることができる。好ましくは、10質量%以上48質量%以下である。
なお、ここでいう質量%は、セリウム酸化物またはジルコニウム酸化物と酸素吸放出材料の全体に対する酸素吸放出材料の質量割合をいう。
【0032】
また、本発明の窒素酸化物吸着材料を従来の三元触媒に組み込んだ更に高性能の自動車排ガス浄化触媒とすることができる。
【0033】
本発明の窒素酸化物吸着材料の製造方法は、前記本発明の要件を満たすことができれば、どのような製造方法で作製しても構わない。例えば、PVDやCVD等の気相合成法、固相反応法、共沈法やゾルゲル法等の湿式法、等があげられる。一例として、以下に湿式法の合成例を示す。
水系で湿式合成を行う場合、原料としては水に溶解するものであれば限定しないが、例えば、硝酸塩、酢酸塩、塩化物などを用いることができる。セリウム、ジルコニウム、ネオジムおよびガドリニウムの前記原料を水に溶解し、原料液とする。原料液からの沈殿法としては、特に限定しないが、例えば、pHを上昇させることで水酸化物を得る方法、クエン酸等による有機酸塩として沈殿させる方法、錯体重合させて沈殿させる方法、等がある。ここで、pHを上昇させることで水酸化物を得る方法を例として説明する。pHの調整に用いる塩基としては、水酸化ナトリウム、尿素、アンモニアなどが挙げられ、これらの塩基を添加する場合、pHを8.5以上とすることで水酸化物沈殿を得ることができる。ここで、加熱しながら撹拌することで脱水縮合反応を促進させてもよい。このようにして得られた沈殿をろ過した後、洗浄、ろ過を繰り返してケーキを得る。当該ケーキを乾燥させ、解砕する。解砕方法としては特に限定しないが、例えば、乳鉢で解砕する方法がある。解砕後の粉末を焼成(たとえば、700℃にて3時間)することで、窒素酸化物吸着材料を得ることができる。ここで、ネオジムイオンやガドリニウムイオンをより均一に固溶させるには、均一沈殿させる条件すればよい。特に、各位カチオンの沈殿pHが大きく異なる場合には急激なpH変化を起こさせて不均一沈殿を抑制する。また、大きな比表面積を得るためには、沈殿形成において均一核発生を促す条件にすればよい、例えば、大きな過飽和度から沈殿させる。
【0034】
本発明に係る担持形態は、典型的には、貴金属は担体物質上に直接配置されるか、または担体物質に直接担持されてもよく、例えば、貴金属を担体物質上に分散させることができる。貴金属の担持方法としては、特に制限されないが、例えば、含浸担持法により行うことができ、窒素酸化物吸着材を水媒体に入れた後、ボールミルなどの湿式粉砕機を用いることでスラリーとし、前記スラリーへ貴金属塩を加えた後、余剰の液を除くことで触媒を得る方法がある。
【0035】
本発明に係る酸素吸放出材料との混合方法としては、特に制限されないが、例えば、当該窒素酸化物吸着材料粉末と酸素吸放出材料とを水媒体に入れた後、ボールミルなどの湿式粉砕機を用いることでスラリーとすることができる。さらに、自動車排ガス浄化触媒を作製する場合、前記スラリーにハニカムを浸し、余剰のスラリーを除き、乾燥、焼成する方法が挙げられる。
【実施例0036】
以下に実施例(発明例)、比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
本発明で測定される一酸化窒素の吸着量は昇温脱離法を用いて行った。前処理として、He流通下200℃で60min処理した後、He流通下100℃で15min保持し、続いて4%NO/Hebalanceを100℃で30min流通させてNOを吸着させた。昇温脱離はキャリアガスHe流通下で昇温速度10℃/minとし、NOの脱離量は四重極質量分析計を用い、m/z=30で測定した。
また、比表面積の測定は、以下のとおりである。
前処理として、試料約0.3gをフラスコ型サンプルセルに入れ、FloVac脱気装置(アントンパール・ジャパン製)を用いて、窒素ガス流通下で370℃、40分脱気処理した後、表面積測定装置(アントンパール・ジャパン製、NOVAtouch NX-4LX-1)を使用し、窒素ガス吸着によるBE T 法(1点法)により比表面積の測定を行った。
【0038】
(実施例1)
硝酸セリウムおよび硝酸ネオジムをモル比でCe:Nd=67.0:33.0の水溶液を調製し、アンモニア水を加えてpHを8以上として沈殿を生じさせた。前記溶液にラウリン酸9.8gを加えた後、溶液を80℃に加熱し、6時間撹拌した。得られた沈殿を2.5%アンモニア水で1回ろ過‐洗浄を行い、セリウム・ネオジム複合酸化物ケーキを得た。得られた複合酸化物ケーキを120℃で乾燥して粉末とし、これを坩堝につめ電気炉で700℃にて3時間焼成し、表1に示すセリア・ネオジミア系複合酸化物(ネオジウムイオンで置換固溶したセリウム酸化物)粉末を得た。
【0039】
得られた粉末に対してNO吸着量を測定したところ、2.21μmolであった。また、得られた粉末の比表面積(SSA)は45m/gで、単位面積当たりのNO吸着量は、0.49μmol/gであった。ここで、NO脱離ピークの温度は280℃であった。
【0040】
(実施例2)
表1に示すように、配合組成をモル比でCe:Nd=96.0:4.0とした以外は実施例1と同様にしてセリア・ネオジミア系複合酸化物(ネオジムイオンで置換固溶したセリウム酸化物)粉末を得た。
【0041】
得られた粉末を実施例1と同様にしてNO吸着量を測定したところ、1.08μmolであった。また、得られた粉末の比表面積(SSA)は41m/gで、単位面積当たりのNO吸着量は、0.26μmol/gであった。ここで、NO脱離ピークの温度は280℃であった。
【0042】
(実施例3)
表1に示すように、配合組成をモル比でCe:Gd=67.0:33.0とした以外は実施例1と同様にしてセリア・ガドリニア系複合酸化物(ガドリニウムイオンで置換固溶したセリウム酸化物)粉末を得た。
【0043】
得られた粉末を実施例1と同様にしてNO吸着量を測定したところ、1.99μmolであった。また、得られた粉末の比表面積(SSA)は39m/gで、単位面積当たりのNO吸着量は、0.51μmol/gであった。ここで、NO脱離ピークの温度は290℃であった。
【0044】
(実施例4)
表1に示すように、配合組成をモル比でZr:Nd=67.0:33.0とした以外は実施例1と同様にしてジルコニア・ネオジミア系複合酸化物(ネオジムイオンで置換固溶したジルコニア酸化物)粉末を得た。
【0045】
得られた粉末を実施例1と同様にしてNO吸着量を測定したところ、3.07μmolであった。また、得られた粉末の比表面積(SSA)は61m/gで、単位面積当たりのNO吸着量は、0.50μmol/gであった。ここで、NO脱離ピークの温度は310℃であった。
【0046】
(実施例5)
表1に示すように、配合組成をモル比でZr:Gd=67.0:33.0とした以外は実施例1と同様にしてジルコニア・ガドリニア系複合酸化物(ガドリニウムイオンで置換固溶したジルコニウム酸化物)粉末を得た。
【0047】
得られた粉末を実施例1と同様にしてNO吸着量を測定したところ、3.04μmolであった。また、得られた粉末の比表面積(SSA)は57m/gで、単位面積当たりのNO吸着量は、0.53μmol/gであった。ここで、NO脱離ピークの温度は315℃であった。
【0048】
(実施例6)
表1に示すように、配合組成をモル比でCe:Nd=96.0:4.0とした以外は実施例1と同様にしてセリア・ネオジミア系複合酸化物(ネオジムイオンで置換固溶したセリウム酸化物)粉末を得た。
【0049】
得られた粉末を実施例1と同様にしてNO吸着量を測定したところ、1.23μmolであった。また、得られた粉末の比表面積(SSA)は42m/gで、単位面積当たりのNO吸着量は、0.29μmol/gであった。ここで、NO脱離ピークの温度は275℃であった。
【0050】
(実施例7)
表1に示すように、配合組成をモル比でCe:Gd=96.0:4.0とした以外は実施例1と同様にしてセリア・ガドリニア系複合酸化物(ガドリニウムイオンで置換固溶したセリウム酸化物)粉末を得た。
【0051】
得られた粉末を実施例1と同様にしてNO吸着量を測定したところ、1.30μmolであった。また、得られた粉末の比表面積(SSA)は43m/gで、単位面積当たりのNO吸着量は、0.30μmol/gであった。ここで、NO脱離ピークの温度は285℃であった。
【0052】
(実施例8)
表1に示すように、配合組成をモル比Ce:Nd=66.0:34.0とした以外は実施例1と同様にしてセリア・ネオジミア系複合酸化物(ネオジムイオンで置換固溶したセリウム酸化物)粉末を得た。
【0053】
得られた粉末を実施例1と同様にしてNO吸着量を測定したところ、2.59μmolであった。また、得られた粉末の比表面積(SSA)は47m/gで、単位面積当たりのNO吸着量は、0.55μmol/gであった。ここで、NO脱離ピークの温度は280℃であった。
【0054】
(比較例1)
表1に示すように、配合組成をモル比でCe:Zr=50:50とした以外は、実施例1と同様にしてセリア・ジルコニア系複合酸化物粉末を得た。
【0055】
得られた粉末を実施例1と同様にしてNO吸着量を測定したところ、2.08μmolであった。また、得られた粉末の比表面積(SSA)は79m/gで、単位面積当たりのNO吸着量は、0.26μmol/gであった。ここで、NO脱離ピークの温度は270℃であった。
【0056】
(比較例2)
表1に示すように、配合組成をモル比でCeを100.0とした以外は、実施例1と同様にしてセリア粉末を得た。
【0057】
得られた粉末を実施例1と同様にしてNO吸着量を測定したところ、1.81μmolであった。また、得られた粉末の比表面積(SSA)は72m/gで、単位面積当たりのNO吸着量は、0.25μmol/gであった。ここで、NO脱離ピークの温度は260℃であった。
【0058】
【表1】
【0059】
また、実施例1~8について、それぞれX線回折を行うことによって、置換イオンが立方晶の酸素多面体位置に存在する結晶構造を有することを確認した。
図3には、例えば、実施例1、3、4、5について測定したX線回折チャートを示すが、図3によれば、置換イオンの量は何れもモル比で0.33と多いにもかかわらず、置換元素由来の酸化物元素のピークは確認されないことから、単相となっていることが分かる。つまり、置換イオンは、CeもしくはZrの位置に置換されているのであって、置換イオンが立方晶の酸素多面体位置に存在する構造を有するといえる。
なお、X線回折条件は、以下のとおりである。
試料を試料ホルダーに入れ、リガク製デスクトップX線回折装置MiniFlex600を用い、20~70°、ステップ0.02°、10℃/minの条件でX線回折測定を行った。
【0060】
表1より、比較例1および比較例2と実施例1や実施例4を比べると、セリア格子およびジルコニア格子へNdを固溶することによって単位面積当たりのNO吸着量が向上していることがわかる。即ち、セリア格子およびジルコニア格子中にNdが立方晶の酸素多面体で固溶すると、これらが窒素酸化物の吸着点として働き、本発明の作用効果を発揮していることがわかる。
さらに、比較例1、比較例2では、窒素酸化物の脱離温度は270℃、あるいは、265℃であるのに対して、実施例1~8では、窒素酸化物の脱離温度は275℃から325℃の範囲内であることがわかる。
【0061】
表1より、実施例1、実施例2、実施例6および実施例8を比べると、Ndを4mol%~34mol%固溶させることによって単位面積当たりのNO吸着量が向上していることがわかる。即ち、セリア格子中にNdが立方晶の酸素多面体で固溶すると、これらが窒素酸化物の吸着点として働き、本発明の作用効果を効果的に発揮していることがわかる。
【0062】
表1より、比較例1と実施例3、実施例5、実施例7を比べると、セリア格子およびジルコニア格子へGdを固溶することによって単位面積当たりのNO吸着量が向上していることがわかる。即ち、セリア格子およびジルコニア格子中にGdが立方晶の酸素多面体で固溶することで、これらが窒素酸化物の吸着点として働くことで本発明の作用効果を発揮していることがわかる。
【0063】
表1より、実施例1や実施例3を比べると、セリア格子へGdを固溶することによってセリア格子へNdを固溶させた場合と比べてNOの脱離温度が向上していることがわかる。即ち、セリア格子にGdが立方晶の酸素多面体で固溶している場合、Ndが固溶している場合と比べてより効果的に窒素酸化物が吸着することで本発明の作用効果を発揮していることがわかる。
【0064】
以上の通り、本発明によれば、窒素酸化物を効率よく吸着し、275℃から325℃の温度範囲内で脱離することを特徴とするセリア系複合酸化物およびジルコニア系複合酸化物が得られていることが確認できた。
また、本発明の窒素酸化物吸着材料にRh、Pd、Ptの貴金属をそれぞれ担持して、窒素酸化物の還元活性を調べたところ、アルミナ担体へ担持した貴金属触媒に比べて良好な触媒活性を示した。比較例においては、実施例を超える触媒活性は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のHC酸化およびNOx還元活性の高い材料を自動車排ガス浄化触媒の助触媒として使用すれば、エンジン始動時に排出される窒素酸化物の低温領域での浄化を助け、これまで以上に貴金属の窒素酸化物成分浄化性能の向上が図れる。


図1
図2
図3