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  • 特開-アニサキス種判別方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073404
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】アニサキス種判別方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6888 20180101AFI20220510BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220510BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220510BHJP
【FI】
C12Q1/6888 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020183362
(22)【出願日】2020-10-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行者名:令和2年度公益社団法人日本水産学会春季大会 刊行物名:令和2年度公益社団法人日本水産学会春季大会講演要旨集 発行年月日:令和2年3月26日
(71)【出願人】
【識別番号】507157045
【氏名又は名称】公立大学法人福井県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100158366
【弁理士】
【氏名又は名称】井戸 篤史
(72)【発明者】
【氏名】末武 弘章
(72)【発明者】
【氏名】宮台 俊明
(72)【発明者】
【氏名】細井 公富
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 文雄
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ20
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR40
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS32
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】従来のアニサキス判別方法と比べて、簡便且つ正確にアニサキスの種判別が可能な方法が求められていた。
【解決手段】
本発明は、試料から核酸を抽出する核酸抽出工程と、核酸を鋳型としたPCR工程と、PCR工程における結果を基に、試料がAnisakis simplex、Anisakis pegreffii、Anisakis physeteris、及びPseudoterranova decipiensからなる群に含まれるいずれの種に由来するかを判別する判別工程を含む、アニサキス種判別方法であって、PCR工程に、プライマーの3'末端の塩基が鋳型と相補的ではない場合に増幅効率が低下するDNAポリメラーゼを用いる方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から核酸を抽出する核酸抽出工程と、
前記核酸を鋳型としたPCR工程と、
前記PCR工程における結果を基に、前記試料がAnisakis simplex、Anisakis pegreffii、Anisakis physeteris、及びPseudoterranova decipiensからなる群に含まれるいずれの種に由来するかを判別する判別工程を含む、アニサキス種判別方法であって、
前記PCR工程に、プライマーの3'末端の塩基が鋳型と相補的ではない場合に増幅効率が低下するDNAポリメラーゼと、
(a)、(b)いずれかのプライマーを含むプライマーセットを用いるアニサキス種判別方法
(a) 配列番号1及び/又は配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、前記塩基配列と相補的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマー
(b) 配列番号1及び/又は配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相補的な塩基を3’末端とし、当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、前記塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマー
【請求項2】
前記プライマーセットが、(c)、(d)いずれかのプライマーを含み、
前記判別工程が、前記PCR工程において増幅する核酸が存在する場合に、前記試料はAnisakis simplexに由来すると判別する、
請求項1に記載のアニサキス種判別方法
(c) 配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、前記塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマー
(d) 配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相補的な塩基を3’末端とし、当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、前記塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマー
【請求項3】
前記プライマーの3’末端側の塩基配列が、配列番号3、4、5及び6からなる群から選ばれるいずれか一に記載の塩基配列からなる、請求項2に記載のアニサキス種判別方法
【請求項4】
前記プライマーの塩基配列が、配列番号7、8、9及び10からなる群から選ばれるいずれか一に記載の塩基配列の3’末端側からなる、請求項2に記載のアニサキス種判別方法
【請求項5】
前記プライマーセットが、(e)、(f)いずれかのプライマーを含み、
前記判別工程が、前記PCR工程において増幅する核酸が存在する場合に、前記試料はAnisakis pegreffiiに由来すると判別する、
請求項1に記載のアニサキス種判別方法
(e) 配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、前記塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマー
(f) 配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相補的な塩基を3’末端とし、当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、前記塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマー
【請求項6】
前記プライマーの3’末端側の塩基配列が、配列番号11、12、13及び14からなる群から選ばれるいずれか一に記載の塩基配列からなる、請求項5に記載のアニサキス種判別方法
【請求項7】
前記プライマーの塩基配列が、配列番号15、16,17及び18からなる群から選ばれるいずれか一に記載の塩基配列の3’末端側からなる、請求項5に記載のアニサキス種判別方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCR法によりアニサキスの生物種を判別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アニサキスを原因とする食中毒の症例が増加している。アニサキスは種によって食中毒を発症するリスクが異なるため、食中毒リスクを把握するためには、アニサキスの種判別技術が必要である。近年、PCR法等の分子生物学的手法により、アニサキスの種を判別する方法が開発された。具体的には、ミトコンドリアcox2遺伝子の塩基配列情報により判別する方法(非特許文献1)、PCR-RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法(非特許文献2)、ミスマッチプライマーを用いたPCR法(非特許文献3)等が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Alice Valentini, Simonetta Mattiucci, Paola Bondanelli Stephen C. Webb, Antonio A. Mignucci-Giannone, Marlene M. Colom-Llavina, Giuseppe Nascetti. Genetic relationships among Anisakis species (Nematoda : Anisakidae) inferred from mitochondrial COX2 sequences, and comparison with allozyme data. Journal of Parasitology, 92(1), 156-66 (2006)
【非特許文献2】Azusa Umehara, Yasushi Kawakami, Toshihiro Matsu, Jun Araki, Akihiko Uchida. Molecular identification of Anisakis simplex sensu stricto and Anisakis pegreffii (Nematoda: Anisakidae) from fish and cetacean in Japanese waters. Parasitology International, 55, 267-271 (2006)
【非特許文献3】Azusa Umehara, Yasushi Kawakami, Jun Araki, Akihiko Uchida. Multiplex PCR for the identification of Anisakis simplex sensu stricto, Anisakis pegreffii and the other anisakid nematodes. Parasitology International, 57, 49-53 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載の方法では、PCR法によりcox2遺伝子領域を増幅し、その増幅産物の塩基配列情報を読み取る必要があること、また、非特許文献2に記載の方法では、PCR増幅産物を制限酵素で切断し、その切断パターンで判別する方法であることから、これらの方法では手順が多く、簡便な方法ではなかった。また、非特許文献3に記載の方法を、発明者が試したところ、必ずしも正確な結果を得られることができなかった。したがって、簡便且つ正確にアニサキスの種判別が可能な方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、簡便且つ正確にアニサキスの種判別が可能な方法を提供する。すなわち、本発明は、試料から核酸を抽出する核酸抽出工程と、核酸を鋳型としたPCR工程と、PCR工程における結果を基に、試料がAnisakis simplex、Anisakis pegreffii、Anisakis physeteris、及びPseudoterranova decipiensからなる群に含まれるいずれの種に由来するかを判別する判別工程を含むアニサキス種判別方法であって、PCR工程に、プライマーの3'末端の塩基が鋳型と相補的ではない場合に増幅効率が低下するDNAポリメラーゼと、(a)、(b)いずれかのプライマーを含むプライマーセットを用いるアニサキス種判別方法である。ここで、(a)は、配列番号1及び/又は配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、配列番号1及び/又は配列番号2に記載の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマーであり、(b)は、配列番号1及び/又は配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相補的な塩基を3’末端とし、当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、配列番号1及び/又は配列番号2に記載の塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーである。
【0006】
また、別の本発明は、プライマーセットが、(c)、(d)いずれかのプライマーを含み、判別工程が、PCR工程において増幅する核酸が存在する場合に、試料はAnisakis simplexに由来すると判別する、アニサキス種判別方法である。ここで、(c)は、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、配列番号1に記載の塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマーであり、(d)は、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相補的な塩基を3’末端とし、当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、配列番号1に記載の塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーである。
【0007】
さらに、別の本発明は、プライマーの3’末端側の塩基配列が、配列番号3、4、5及び6からなる群から選ばれるいずれか一に記載の塩基配列からなる、アニサキス種判別方法、並びに、プライマーの塩基配列が、配列番号7、8、9及び10からなる群から選ばれるいずれか一に記載の塩基配列の3’末端側からなる、アニサキス種判別方法である。
【0008】
また、別の本発明は、プライマーセットが、(e)、(f)いずれかのプライマーを含み、判別工程が、PCR工程において増幅する核酸が存在する場合に、試料はAnisakis pegreffiiに由来すると判別する、アニサキス種判別方法である。ここで、(e)は、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、配列番号2に記載の塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマーであり、 (f)は、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相補的な塩基を3’末端とし、当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、配列番号2に記載の塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーである。
【0009】
さらに、別の本発明は、プライマーの3’末端側の塩基配列が、配列番号11、12、13及び14からなる群から選ばれるいずれか一に記載の塩基配列からなる、アニサキス種判別方法、並びに、プライマーの塩基配列が、配列番号15、16,17及び18からなる群から選ばれるいずれか一に記載の塩基配列の3’末端側からなる、アニサキス種判別方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便に且つ正確にアニサキスの種判別が可能である。通常のPCR法により実施可能であり、特別な設備や手順等を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例において種判別を行った電気泳動図である。なお、電気泳動のうち、レーン1~3は、配列番号19に記載の塩基配列からなるプライマー、及び配列番号29に記載の塩基配列からなるプライマーを含むプライマーセット、レーン4~6は、配列番号30に記載の塩基配列からなるプライマー、及び配列番号29に記載の塩基配列からなるプライマーを含むプライマーセットを用いたPCR反応後の溶液をアプライした。1と4はAnisakis simplex由来のDNA、2と5はAnisakis pegreffii由来のDNA、 3と6は日本海で採捕したマサバから採取したアニサキスから抽出したDNAを、それぞれPCR反応の鋳型とした。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、試料から核酸を抽出する核酸抽出工程と、核酸を鋳型としたPCR工程と、PCR工程における結果を基に、試料がAnisakis simplex(以下、「A. simplex」とも称する場合がある)、Anisakis pegreffii(以下、「A. pegreffii」とも称する場合がある)、Anisakis physeteris(以下、「A. physeteris」とも称する場合がある)、及びPseudoterranova decipiens(以下、「P. decipiens」とも称する場合がある)からなる群に含まれるいずれの種に由来するかを判別する判別工程を含む、アニサキス種判別方法である。
【0013】
アニサキスとは、回虫目アニサキス科に属する線虫の総称であり、魚介類に寄生する寄生虫である。アニサキス症の原因となる生物種には、Anisakis simplex、Anisakis pegreffii、及びAnisakis physeteris等のアニサキス属の線虫、並びにシュードテラノバ属の線虫(Pseudoterranova decipiens)が知られている。
【0014】
アニサキス症のうち、最も多い症例は、Anisakis simplexを原因とするものである。また、アニサキス症の原因となる食材であるマサバ等の魚介類には、Anisakis simplex、及びAnisakis pegreffiiが多く寄生している。したがって、魚介類のアニサキス発症リスクを見極めるためには、魚介類に寄生しているアニサキスが、Anisakis simplexか否かを判別することが必要である。
【0015】
本発明の核酸抽出工程は、試料から核酸を抽出する工程である。試料には、魚介類やアニサキス症を発症した患者から摘出されたアニサキスが用いられ、試料からアニサキスのリボソーマルRNA遺伝子を含むDNAやその断片を抽出する。抽出には、既知の核酸抽出方法や、市販の核酸抽出キットを使用することができる。
【0016】
本発明のPCR工程では、プライマーの3'末端の塩基が鋳型と相補的ではない場合に増幅効率が低下するDNAポリメラーゼと、(a)、(b)いずれかのプライマーを含むプライマーセットが用いられる。ここで、(a) は配列番号1及び/又は配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の連続的な塩基配列と相同的な配列を有し、配列番号1及び/又は配列番号2に記載の塩基配列と相補的な配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマーであり、(b)は 配列番号1及び/又は配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相補的な塩基を3’末端とし、当該塩基から3’末端側の連続的な塩基配列と相補的な配列を有し、配列番号1及び/又は配列番号2に記載の塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーである。
【0017】
プライマーの3'末端の塩基が鋳型と相補的ではない場合に増幅効率が低下するDNAポリメラーゼとは、プライマーが鋳型とハイブリダイズする際、プライマーの3’末端の塩基が、鋳型の塩基と相補的に結合しない場合に、プライマーの3’方向への伸長反応が生じないDNAポリメラーゼを言う。このようなDNAポリメラーゼを用いたPCRは、プライマーの3’末端の塩基が鋳型と相補的でない場合に、増幅産物がほとんど得られない、又は得られた増幅産物の量が極めて少ないという結果となる。このようなDNAポリメラーゼとしては、例えばTaqのKlenow fragmentを基に遺伝子改変した改変型ポリメラーゼが挙げられる。
【0018】
本発明のPCR工程で用いられるプライマーセットに含まれるプライマーは、配列番号1及び/又は配列番号2に記載の塩基配列又は当該配列と相補的な配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能である。ここで、配列番号1は、Anisakis simplexのリボソーマルRNAのうち、18S rRNA、ITS1、5.8S rRNA、ITS2及び28S rRNAをコードする塩基配列(GeneBank Accession AB277822)であり、配列番号2は、Anisakis pegreffiiのリボソーマルRNAのうち、18S rRNA、ITS1、5.8S rRNA、ITS2及び28S rRNAをコードする塩基配列(GeneBank Accession AB277823)である。
【0019】
配列番号1及び配列番号2のアライメントの結果、5’末端から726番目の塩基が、配列番号1ではチミンであり、配列番号2ではシトシンであるという違いがあった。また、5’末端から742番目の塩基が、配列番号1ではチミンであり、配列番号2ではシトシンであるという違いがあった。したがって、試料中の核酸からこれらのミスマッチを検出できれば、試料の由来がAnisakis simplexかAnisakis pegreffii否かを判別することが可能である。
【0020】
したがって、本発明に用いられるプライマーセットは、配列番号1及び/又は配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の連続的な塩基配列と相同的な配列を有するフォワードプライマー(a)、配列番号1及び/又は配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相補的な塩基を3’末端とし、当該塩基から3’末端側の連続的な塩基配列と相補的な配列を有するリバースプライマー(b)のどちらかを含む。上記のプライマーにおいて、鋳型の塩基配列と連続的に相同的/相補的な塩基数は、正常なPCR反応が生じる範囲であれば限定されないが、通常は10塩基~30塩基であることが好ましい。
【0021】
本発明の一態様は、プライマーセットが、(c)、(d)いずれかのプライマーを含み、判別工程が、PCR工程において増幅する核酸が存在する場合に、試料はAnisakis simplexに由来すると判別するアニサキス種判別方法である。ここで、 (c)は配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、配列番号1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマーであり、(d)は配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相補的な塩基を3’末端とし、当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、配列番号1に記載の塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーである。
【0022】
具体的には、プライマーセットは、配列番号3の記載の塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列を3’末端側に有するフォワードプライマー、若しくは、配列番号5に記載の塩基配列、又は配列番号6に記載の塩基配列を3’末端側に有するリバースプライマーのいずれかを含む。ここで、配列番号3は、配列番号1に記載の塩基配列の717番目から726番目の塩基配列と相同な塩基配列であり、配列番号5は、配列番号1に記載の塩基配列の733番目から742番目の塩基配列と相同な塩基配列である。また、配列番号5は、配列番号1に記載の塩基配列の726番目から735番目の塩基配列と逆相補的な塩基配列であり、配列番号6は、配列番号1に記載の塩基配列の742番目から751番目の塩基配列と逆相補的な塩基配列である。
【0023】
配列番号3の塩基配列の3’末端はチミンであり、当該プライマーはAnisakis simplexに由来する配列番号1に記載のDNAの逆鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。一方で、Anisakis pegreffiiに由来する配列番号2の726番目の塩基はシトシンであり、配列番号3に記載の塩基配列からなるプライマーの3’末端のチミンは、配列番号2に記載のDNAの逆鎖と相補的に結合できないため、PCR工程における増幅効率が低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がAnisakis simplexに由来するか、Anisakis pegreffiiに由来するかを判別することができる。
【0024】
配列番号4の塩基配列の3’末端はチミンであり、当該プライマーはAnisakis simplexに由来する配列番号1に記載のDNAの逆鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。一方で、Anisakis pegreffiiに由来する配列番号2の742番目の塩基はシトシンであり、配列番号3に記載の塩基配列からなるプライマーの3’末端のチミンは、配列番号2に記載のDNAの逆鎖と相補的に結合できないため、PCR工程における増幅効率が低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がAnisakis simplexに由来するか、Anisakis pegreffiiに由来するかを判別することができる。
【0025】
配列番号5の塩基配列の3’末端はアデニンであり、当該プライマーはAnisakis simplexに由来する配列番号1に記載のDNAの順鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。一方で、Anisakis pegreffiiに由来する配列番号2の726番目の塩基はシトシンであり、配列番号3に記載の塩基配列からなるプライマーの3’末端のアデニンは、配列番号2に記載のDNAの順鎖と相補的に結合できないため、PCR工程における増幅効率が低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がAnisakis simplexに由来するか、Anisakis pegreffiiに由来するかを判別することができる。
【0026】
配列番号6の塩基配列の3’末端はアデニンであり、当該プライマーはAnisakis simplexに由来する配列番号1に記載のDNAの順鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。一方で、Anisakis pegreffiiに由来する配列番号2の742番目の塩基はシトシンであり、配列番号3に記載の塩基配列からなるプライマーの3’末端のアデニンは、配列番号2に記載のDNAの順鎖と相補的に結合できないため、PCR工程における増幅効率が低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がAnisakis simplexに由来するか、Anisakis pegreffiiに由来するかを判別することができる。
【0027】
さらに、具体的には、本発明の一態様におけるプライマーセットは、配列番号7の記載の塩基配列、又は配列番号8に記載の塩基配列の3’末端側の塩基配列からなるフォワードプライマー、若しくは、配列番号9に記載の塩基配列、又は配列番号10に記載の塩基配列の3’末端側の塩基配列からなるリバースプライマーのいずれかを含む。ここで、配列番号7は、配列番号1に記載の塩基配列の697番目から726番目の塩基配列と相同な塩基配列であり、配列番号8は、配列番号1に記載の塩基配列の713番目から742番目の塩基配列と相同な塩基配列である。また、配列番号9は、配列番号1に記載の塩基配列の726番目から755番目の塩基配列と逆相補的な塩基配列であり、配列番号10は、配列番号1に記載の塩基配列の742番目から771番目の塩基配列と逆相補的な塩基配列である。
【0028】
配列番号7の3’末端側の塩基配列からなるプライマーの3’末端はチミンであり、当該プライマーは、Anisakis simplexに由来する配列番号1に記載のDNAの逆鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。一方で、Anisakis pegreffiiに由来する配列番号2の726番目の塩基はシトシンであり、配列番号7の3’末端側の塩基配列からなるプライマーの3’末端のチミンは、配列番号2に記載のDNAの逆鎖と相補的に結合できないため、PCR工程における増幅効率が低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がAnisakis simplexに由来するか、Anisakis pegreffiiに由来するかを判別することができる。
【0029】
配列番号8の3’末端側の塩基配列からなるプライマーの3’末端はチミンであり、当該プライマーは、Anisakis simplexに由来する配列番号1に記載のDNAの逆鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。一方で、Anisakis pegreffiiに由来する配列番号2の742番目の塩基はシトシンであり、配列番号8の3’末端側の塩基配列からなるプライマーの3’末端のチミンは、配列番号2に記載のDNAの逆鎖と相補的に結合できないため、PCR工程における増幅効率が低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がAnisakis simplexに由来するか、Anisakis pegreffiiに由来するかを判別することができる。
【0030】
配列番号9の3’末端側の塩基配列からなるプライマーの3’末端はアデニンであり、当該プライマーは、Anisakis simplexに由来する配列番号1に記載のDNAの順鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。一方で、Anisakis pegreffiiに由来する配列番号2の726番目の塩基はシトシンであり、配列番号9の3’末端側の塩基配列からなるプライマーの3’末端のアデニンは、配列番号2に記載のDNAの順鎖と相補的に結合できないため、PCR工程における増幅効率が低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がAnisakis simplexに由来するか、Anisakis pegreffiiに由来するかを判別することができる。
【0031】
配列番号10の3’末端側の塩基配列からなるプライマーの3’末端はアデニンであり、当該プライマーは、Anisakis simplexに由来する配列番号1に記載のDNAの順鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。一方で、Anisakis pegreffiiに由来する配列番号2の742番目の塩基はシトシンであり、配列番号10の3’末端側の塩基配列からなるプライマーの3’末端のアデニンは、配列番号2に記載のDNAの順鎖と相補的に結合できないため、PCR工程における増幅効率が低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がAnisakis simplexに由来するか、Anisakis pegreffiiに由来するかを判別することができる。
【0032】
本発明の別の一態様は、プライマーセットが、(e)、(f)いずれかのプライマーを含み、判別工程が、PCR工程において増幅する核酸が存在する場合に、試料はAnisakis pegreffiiに由来すると判別するアニサキス種判別方法である。ここで、 (e)は配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、配列番号1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマーであり、(f)は配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から726番目及び/又は742番目と相補的な塩基を3’末端とし、当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、配列番号1に記載の塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーである。
【0033】
具体的には、プライマーセットは、配列番号11の記載の塩基配列、又は配列番号12に記載の塩基配列を3’末端側に有するフォワードプライマー、若しくは、配列番号14に記載の塩基配列、又は配列番号14に記載の塩基配列を3’末端側に有するリバースプライマーのいずれかを含む。ここで、配列番号11は、配列番号2に記載の塩基配列の717番目から726番目の塩基配列と相同な塩基配列であり、配列番号12は、配列番号2に記載の塩基配列の733番目から742番目の塩基配列と相同な塩基配列である。また、配列番号13は、配列番号2に記載の塩基配列の726番目から735番目の塩基配列と逆相補的な塩基配列であり、配列番号14は、配列番号2に記載の塩基配列の742番目から751番目の塩基配列と逆相補的な塩基配列である。
【0034】
配列番号11の塩基配列の3’末端はシトシンであり、当該プライマーはAnisakis pegreffiiに由来する配列番号2に記載のDNAの逆鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。一方で、Anisakis simplexに由来する配列番号1の726番目の塩基はチミンであり、配列番号11に記載の塩基配列からなるプライマーの3’末端のシトシンは、配列番号1に記載のDNAの逆鎖と相補的に結合できないため、PCR工程における増幅効率が低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がAnisakis simplexに由来するか、Anisakis pegreffiiに由来するかを判別することができる。
【0035】
配列番号12の塩基配列の3’末端はシトシンであり、当該プライマーはAnisakis pegreffiiに由来する配列番号2に記載のDNAの逆鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。一方で、Anisakis simplexに由来する配列番号1の742番目の塩基はチミンであり、配列番号12に記載の塩基配列からなるプライマーの3’末端のシトシンは、配列番号1に記載のDNAの逆鎖と相補的に結合できないため、PCR工程における増幅効率が低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がAnisakis simplexに由来するか、Anisakis pegreffiiに由来するかを判別することができる。
【0036】
配列番号13の塩基配列の3’末端はグアニンであり、当該プライマーはAnisakis pegreffiiに由来する配列番号2に記載のDNAの順鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。一方で、Anisakis simplexに由来する配列番号1の726番目の塩基はチミンであり、配列番号13に記載の塩基配列からなるプライマーの3’末端のグアニンは、配列番号1に記載のDNAの順鎖と相補的に結合できないため、PCR工程における増幅効率が低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がAnisakis simplexに由来するか、Anisakis pegreffiiに由来するかを判別することができる。
【0037】
配列番号14の塩基配列の3’末端はグアニンであり、当該プライマーはAnisakis pegreffiiに由来する配列番号2に記載のDNAの順鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。一方で、Anisakis simplexに由来する配列番号1の742番目の塩基はチミンであり、配列番号14に記載の塩基配列からなるプライマーの3’末端のアデニンは、配列番号1に記載のDNAの順鎖と相補的に結合できないため、PCR工程における増幅効率が低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がAnisakis simplexに由来するか、Anisakis pegreffiiに由来するかを判別することができる。
【0038】
さらに、具体的には、本発明の一態様におけるプライマーセットは、配列番号15の記載の塩基配列、又は配列番号16に記載の塩基配列の3’末端側の塩基配列からなるフォワードプライマー、若しくは、配列番号17に記載の塩基配列、又は配列番号18に記載の塩基配列の3’末端側の塩基配列からなるリバースプライマーのいずれかを含む。ここで、配列番号15は、配列番号2に記載の塩基配列の697番目から726番目の塩基配列と相同な塩基配列であり、配列番号16は、配列番号2に記載の塩基配列の713番目から742番目の塩基配列と相同な塩基配列である。また、配列番号17は、配列番号2に記載の塩基配列の726番目から755番目の塩基配列と逆相補的な塩基配列であり、配列番号18は、配列番号2に記載の塩基配列の742番目から771番目の塩基配列と逆相補的な塩基配列である。
【0039】
配列番号15の3’末端側の塩基配列からなるプライマーの3’末端はシトシンであり、当該プライマーは、Anisakis pegreffiiに由来する配列番号2に記載のDNAの逆鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。一方で、Anisakis simplexに由来する配列番号1の726番目の塩基はチミンであり、配列番号15の3’末端側の塩基配列からなるプライマーの3’末端のシトシンは、配列番号2に記載のDNAの逆鎖と相補的に結合できないため、PCR工程における増幅効率が低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がAnisakis simplexに由来するか、Anisakis pegreffiiに由来するかを判別することができる。
【0040】
配列番号16の3’末端側の塩基配列からなるプライマーの3’末端はシトシンであり、当該プライマーは、Anisakis pegreffiiに由来する配列番号2に記載のDNAの逆鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。一方で、Anisakis simplexに由来する配列番号1の742番目の塩基はチミンであり、配列番号15の3’末端側の塩基配列からなるプライマーの3’末端のシトシンは、配列番号2に記載のDNAの逆鎖と相補的に結合できないため、PCR工程における増幅効率が低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がAnisakis simplexに由来するか、Anisakis pegreffiiに由来するかを判別することができる。
【0041】
配列番号17の3’末端側の塩基配列からなるプライマーの3’末端はグアニンであり、当該プライマーは、Anisakis pegreffiiに由来する配列番号2に記載のDNAの順鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。一方で、Anisakis simplexに由来する配列番号1の726番目の塩基はチミンであり、配列番号17の3’末端側の塩基配列からなるプライマーの3’末端のグアニンは、配列番号1に記載のDNAの順鎖と相補的に結合できないため、PCR工程における増幅効率が低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がAnisakis simplexに由来するか、Anisakis pegreffiiに由来するかを判別することができる。
【0042】
配列番号18の3’末端側の塩基配列からなるプライマーの3’末端はグアニンであり、当該プライマーは、Anisakis pegreffiiに由来する配列番号2に記載のDNAの順鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。一方で、Anisakis simplexに由来する配列番号1の742番目の塩基はチミンであり、配列番号18の3’末端側の塩基配列からなるプライマーの3’末端のグアニンは、配列番号1に記載のDNAの順鎖と相補的に結合できないため、PCR工程における増幅効率が低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がAnisakis simplexに由来するか、Anisakis pegreffiiに由来するかを判別することができる。
【0043】
本発明におけるストリンジェントな条件の例として、既知のPCRの反応溶液における54℃~72℃の温度条件や、本実施例に記載の条件が挙げられる。当該ストリンジェントな条件の下で、特異的にハイブリダイゼーション可能であれば、プライマーを構成する塩基配列の置換、欠失、付加、修飾は許容され、CG含量やTm値、プライマー配列内の相補性等を考慮した上で適宜設計し得る。
【0044】
本発明の判別工程では、上述の条件で実施したPCR工程により増幅産物が得られたか否かで、試料がどのアニサキスの種に由来するかを判別することができる。増幅産物の有無は、アガロースゲルを用いた電気泳動後の染色や、リアルタイプPCRによる核酸濃度の検出により確認が可能である。本発明の判別工程では、PCR工程における結果を基に、試料がAnisakis simplex、Anisakis pegreffii、Anisakis physeteris、及びPseudoterranova decipiensからなる群に含まれるいずれの種に由来するかを判別するが、本発明の一態様における判別工程は、PCR工程における結果を基に、試料がAnisakis simplex、Anisakis pegreffii、又はどちらの種とも異なる種、いずれに由来するかを判別する工程である。
【実施例0045】
実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【実施例0046】
試料がAnisakis simplex及びAnisakis pegreffiiのいずれの種に由来するかを判定するためのプライマーセットを設計した。設計したプライマーのうち、Anisakis simplex由来の試料で増幅産物が得られるプライマーセットを表1に、Anisakis pegreffii由来の試料で増幅産物が得られるプライマーセットを表2に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【実施例0049】
実施例1で設計されたプライマーセットのうち、Anisakis simplex由来の試料で増幅産物が得られるプライマーセットとして配列番号19に記載の塩基配列からなるプライマー、及び配列番号29に記載の塩基配列からなるプライマー、並びに、Anisakis pegreffii由来の試料で増幅産物が得られるプライマーセットとして配列番号30に記載の塩基配列からなるプライマー、及び配列番号29に記載の塩基配列からなるプライマーを用いて、アニサキスの種判別を試みた。
【0050】
(1)抽出工程
日本海で捕獲されたマサバ(Scomber japonicus)を検体として用いた。検体から、アニサキスを採取し、アルコール固定したアニサキス1個体をバイオマッシャーIIディスポーザブルホモジナイザ(株式会社ニッピ)のチューブに入れ、0.2 mg/mL Proteinase Kを含む0.4 mL PBSを添加し、摩砕した。55℃で1時間インキュベートしたのち、95℃で15分間 Proteinase Kの失活処理を行った。16,000×gで5分間遠心分離して上清を回収することで、アニサキス由来のDNAが抽出された。
【0051】
(2)PCR工程
抽出工程で抽出されたアニサキス由来のDNAの他、東京大学良永知義教授から分与されたA. simplex及びA. pegreffiiのDNA標品を鋳型として用いた。プライマーの3'末端の塩基が鋳型と相補的ではない場合に増幅効率が低下するDNAポリメラーゼには、HiDi DNAポリメラーゼ(myPOLS Biotec)を用いた。PCR法の反応液(10 μL)の組成は、10×HiDi緩衝液1 μL、各2 mM dNTP 1 μL、10 μMフォワードプライマー 0.2 μL、10 μMリバースプライマー 0.2 μL、HiDiポリメラーゼ 0.1 μL、DNA水溶液 0.5 μL、水7 μLとし、反応サイクルは、95℃ 2分間、30サイクル(95℃ 15秒間、56℃ 10秒間、72℃ 30秒間)、72℃ 7分間とした。反応後、GelRed Nucleic Acid Stain(Biotim)を含むアガロースゲルを用いて電気泳動を行い、増幅産物の有無を確認した。
【0052】
電気泳動の結果を図1に示す。配列番号19に記載の塩基配列からなるプライマー、及び配列番号29に記載の塩基配列からなるプライマーを用いたPCR工程では、A. simplex由来のDNAを鋳型とした場合に増幅産物が得られたが、A. pegreffii由来のDNAからは増幅産物が得られなかった。一方、配列番号30に記載の塩基配列からなるプライマー、及び配列番号29に記載の塩基配列からなるプライマーを用いたPCR工程では、A. pegreffii由来のDNAを鋳型とした場合に増幅産物が得られたが、A. simplex由来のDNAからは増幅産物が得られなかった。日本海で採取したマサバから採取したアニサキスから得られた試料では、配列番号19に記載の塩基配列からなるプライマー、及び配列番号29に記載の塩基配列からなるプライマーを用いたPCR工程では増幅産物が得られなかったが、配列番号30に記載の塩基配列からなるプライマー、及び配列番号29に記載の塩基配列からなるプライマーを用いたPCR工程では増幅産物が得られたため、本試料の由来となるアニサキスはA. pegreffiiであると判別された。
図1
【配列表】
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