(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073445
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】減音作用を有するリード
(51)【国際特許分類】
G10D 9/035 20200101AFI20220510BHJP
G10D 7/08 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
G10D9/035
G10D7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020183432
(22)【出願日】2020-11-02
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】514203649
【氏名又は名称】株式会社タツミ楽器
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】巽 朗
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 悠太
(57)【要約】
【課題】
減音効果を得られるリードを提供する。
【解決手段】
バッフル内面に、上端側から下端側に向かってチャンバー内の空間が狭まる方向に傾斜する上り坂面を備え、前記上り坂面の幅方向の両端はサイドレールと一体となっていることを特徴とする、シングルリードの管楽器のマウスピース。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ティップから下方に向けてスリットが延設された木管楽器用リード。
【請求項2】
シングルリードの木管楽器用リードである、請求項1に記載の木管楽器用リード。
【請求項3】
サクソフォンのリードである、請求項2に記載の木管楽器用リード。
【請求項4】
前記スリットの長さは、リードの長さの50%以下である、請求項1~3の何れか一項に記載の木管楽器用リード。
【請求項5】
前記スリットの全長または後端側の一部において、スリット幅が一定である、請求項1~4の何れか一項に記載の木管楽器用リード。
【請求項6】
前記リードの後端側からティップ側に向かってスリット幅が漸次広くなっている、請求項1~5の何れか一項に記載の木管楽器用リード。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の木管楽器用リードを木管楽器に装着することを特徴とする、木管楽器の減音方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木管楽器のリードに関する。
【背景技術】
【0002】
サクソフォン等の管楽器を自宅で吹奏する場合、その音量は相当に大きいものであり、特別に設計された防音室での演奏でない限り、近隣への影響を考慮して音量を低くすることが要請される。
このような管楽器の音量を小さくする消音構造としては、例えば、管楽器のネック内に、その内径を絞る短円筒状の弱音具(制音材)を配置する構造(特許文献1)や、管楽器共鳴管にバイパス管を設けて楽器外部に引き出す構造(特許文献2)、マウスピースやネックにバイパス菅を設ける構造(特許文献3)が提案されている。
またリードに特殊な構造を付与することによって音量を抑制する技術が提案されている。特許文献4には、振動を抑制する振動抑制部材がリード本体に一体形成されている管楽器用リードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3153666号公報
【特許文献2】特開2005-326810号公報
【特許文献3】特開2014-029383号公報
【特許文献4】特開2019-040081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は、減音効果を得られる新規の木管楽器用リードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明は、ティップから下方に向けてスリットが延設された木管楽器用リードである。スリットが設けられていることによってリードの振動が抑制され、減音効果を得ることができる。
【0006】
本発明はシングルリードの木管楽器用リードに応用することが好ましい。
より具体的には、本発明はサクソフォンのリードに応用することが好ましい。
【0007】
本発明の好ましい形態では、前記スリットの長さは、リードの長さの50%以下である。スリットの長さを上記範囲とすることによって、リードの構造的な強度は保ちつつも、良好な減音効果を得ることができる。
【0008】
本発明の好ましい形態では、前記スリットの全長または後端側の一部において、スリット幅が一定である。このような形態とすることにより、簡便な構造ながら良好な減音効果を得ることができる。
【0009】
本発明の好ましい形態では、前記スリットのティップ側において、リードの後端側からティップ側に向かってスリット幅が漸次広くなっている。ティップ側に向かってスリット幅が漸次広くなる構造を採用することで、リード自体の表面積が小さくなる。木管楽器はリードの振動により音を発生させるため、その表面積が小さくなる本構造を採用することは、すなわち、より優れた減音効果の実現につながる。また、本構造を採用することで、息逃がし効果を高め、より減音効果を向上させることができる。
【0010】
本発明は、上述の木管楽器用リードを木管楽器に装着することを特徴とする、木管楽器の減音方法にも関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、木管楽器の減音効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態の木管楽器用リードを表す図面である。
【
図2】別の一実施形態の木管楽器用リードを表す図面である。
【
図3】別の一実施形態の木管楽器用リードを表す図面である。
【
図4】一実施形態の木管楽器用リードの側面を表す図である。
【
図5】実施例のスリットリードを使用したテナーサックスの音を解析したオシロスコープである。
【
図6】実施例のスリットリードを使用したテナーサックスの音を解析したレベルメーターである。横棒は上から順にサンプルピーク L、RMA L、RMS R、サンプルピーク Rを表す。
【
図7】比較例のスリットリードを使用したテナーサックスの音を解析したオシロスコープである。
【
図8】比較例のスリットリードを使用したテナーサックスの音を解析したレベルメーターである。横棒は上から順にサンプルピーク L、RMA L、RMS R、サンプルピーク Rを表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の範囲は以下に示す実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【0014】
本発明の一実施形態を
図1に示す。リード10は、サクソフォン用のリードである。リード10には、ティップから下方に向けてスリット11が延設されている。このようにスリット11が設けられていることによって、リード10の振動が抑制され、減音効果を得ることができる。
【0015】
スリット11は、スリット11のティップ側において、リードの後端側からティップ側に向かってスリット11の幅が漸次広くなっている(
図1のL22の部分)。このようにスリット11のティップ側が広がる構成をとることによって、リード自体の表面積が小さくなる。木管楽器はリードの振動により音を発生させるため、その表面積が小さくなる本構造を採用することは、すなわち、より優れた減音効果の実現につながる。また、演奏者が吹き込んだ息が抜けやすくなり、より高い減音効果を得ることができる。本明細書においては、このスリット11のティップの広がり部分を広がり部という。
【0016】
スリット幅は、スリット11の後端側の一部において一定となっている(
図1のL21)。本明細書においては、スリット11におけるスリット幅が一定の部分をスリット幅一定部という。
【0017】
図1には広がり部とスリット幅一定部を備える実施形態を示すが、この形態に限られない。
図2に示すように、スリット11の全長に亘ってスリット幅が一定である形態としてもよい(
図2)。つまり、スリット11の全長をスリット幅一定部により構成してもよい。
【0018】
スリット幅一定部におけるスリット幅は、特に限定されないが、好ましくは0.1~1cm、より好ましくは0.2~0.8cm、さらに好ましくは0.3~0.7cmの範囲とすることができる。
このように一定の幅を設けることによって、演奏者の息を逃すことができ、より高い減音効果を得ることができる。
【0019】
また、スリット11におけるスリット幅が無い実施の形態としてもよい(
図3)。
図3に示す形態においては、リード10のティップから下方に向けて延びる割れ目がスリット11を構成する。
このようにスリット幅がないスリット11を設ける形態であっても、リード10の振動を抑制し、これによって減音効果を得ることができる。
【0020】
再び
図1に示す実施形態の説明に戻る。
図1に示す実施形態における、広がり部分のティップにおける幅は、特に限定されないが、好ましくは0.3~2cm、より好ましくは0.4~1.5cm、さらに好ましくは0.5~1cmの範囲に設計することができる。これにより、より高い減音効果を得ることができる。
【0021】
広がり部分の縦方向の長さL22は、好ましくは0.1~2cm、より好ましくは0.2~1cm、さらに好ましくは0.3~0.8cmとすることができる。これにより、より高い減音効果を得ることができる。
【0022】
広がり部の縦方向の長さL22と、スリット幅一定部の縦方向の長さL21の比率は、特に限定されないが、好ましくは1:10~1:1、より好ましくは1:7~1:2、さらに好ましくは1:5~1:3に設計することができる。このような範囲で設計することにより高い減音効果を得ることができる。
【0023】
スリット11の縦方向の長さL2は、好ましくは0.1~5cm、より好ましくは0.5~3cmの範囲に設計することができる。このような範囲で設計することにより高い減音効果を得ることができる。
【0024】
スリット11の縦方向の長さL2は、リードの長さL1に対して、好ましくは50&以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下とすることができる。このような範囲で設計することにより高い減音効果を得ることができる。
【0025】
リード10はリガチャーを用いてサクソフォンに取り付けて用いる。リガチャーによりリード10に圧が加わるため、リード10をサクソフォンに取り付けた際に、スリット11の下端はリガチャーよりも上部に位置する形態とすることが好ましい。つまり、スリット11はリード10のヒールよりも上部に位置することが好ましい。
【0026】
図4に示すように、スリット11は、リード10のヴァンプの範囲内にあることが好ましい。すなわち、ヴァンプの縦方向の長さL3よりも、スリット11の縦方向の長さL2の方が小さい形態とする。より具体的には、L2はL3の好ましくは80%以下、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは50%以下とする。このような長さにスリット11の縦方向の長さL2を設定することによって、減音効果を得つつもリード10の構造的な強度を担保することができる。
【0027】
スリット11の数は限定されないが、好ましくは1~3本、より好ましくは1~2本、さらに好ましくは1本である。
【0028】
スリット11は、
図1~
図3に示すように、リード10の略中央に設けることが好ましい。これにより、より効率的に減音効果を得ることができる。
【0029】
リード10の材料としては、木質材料、樹脂系材料、及び木質材料と樹脂系材料との複合材料が挙げられる。木質材料としては、葦(あし)、竹等が挙げられる。樹脂系材料としては、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル等が挙げられる。樹脂系材料には、マトリックスとなる樹脂と、補強繊維とが含有されていてもよい。リード10の材料は、木質材料であることが好ましく、より好ましくは葦である。
【0030】
リード10はサクソフォン用であるが、本発明は他の木管楽器に応用することもできる。具体的に、本発明は、クラリネットやサクソフォンなどのシングルリードの木管楽器、ファゴット、オーボエ、バグパイプ、コーラングレ、アウロスなどのダブルリードの木管楽器、笙、ハーモニカ、鍵盤ハーモニカ、アコーディオン、コンサーティーナ、リードオルガンなどのフリーリードの木管楽器に適用することができる。
【実施例0031】
図1に示す本発明の実施例のスリットリードをテナーサックスに装着して演奏し、その音を測定した。また、比較例として、スリットが設けられていないこと以外は
図1の実施例のスリットリードと同形状のリードをテナーサックスに装着して演奏してその音も測定した。
図5及び
図6に実施例、
図7及び
図8に比較例のスペクトロスコープとレベルメーターを示す。
【0032】
図5と
図7のスペクトロスコープを比較すると明らかなように、実施例のスリットリードは、比較例のリードに対して、波長域全体に亘る減音効果があることがわかる。また、
図6と
図8のレベルメーターを比較すると、実施例のスリットリードは比較例のリードに対して11.88dBもの減音効果を発揮していることがわかる。
この結果は、リードにスリットを設けることによって優れた減音効果を得ることができることを示している。