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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073520
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】水性分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/14 20060101AFI20220510BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20220510BHJP
   C08F 210/00 20060101ALI20220510BHJP
   C08J 3/05 20060101ALI20220510BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C08L23/14
C08K5/09
C08F210/00
C08J3/05 CES
C08J3/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020183552
(22)【出願日】2020-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂下 昌平
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA15
4F070AB03
4F070AB09
4F070AC46
4F070CA03
4F070CB02
4F070CB12
4F070DA42
4F070DA46
4F070DC07
4J002BB081
4J002BB091
4J002EF046
4J002EL146
4J002GH01
4J002GJ01
4J002HA06
4J100AA02P
4J100AA03P
4J100AJ02Q
4J100AK32Q
4J100AK32R
4J100CA04
4J100CA05
4J100DA01
4J100DA24
4J100DA42
4J100EA06
4J100JA01
4J100JA03
(57)【要約】
【課題】有機溶媒の量を低減させても、または不揮発性水性化助剤を実質的に使用せずとも、従来のように安定性に優れ、かつ各種性能に優れる塗膜を形成し得る、水性分散体の製造方法を提供する。
【解決手段】水性分散体を製造する方法であって、酸成分を1~5質量%含有する酸変性ポリオレフィン樹脂を粉砕しながら、水性媒体中で水性分散化する工程を含む、水性分散体の製造方法である。水性分散化する工程の前に、予め酸変性ポリオレフィン樹脂を粉砕する工程を含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性分散体を製造する方法であって、
酸成分を1~5質量%含有する酸変性ポリオレフィン樹脂を粉砕しながら、水性媒体中で水性分散化する工程を含む、水性分散体の製造方法。
【請求項2】
水性分散化する工程の前に、予め酸変性ポリオレフィン樹脂を粉砕する工程を含む、請求項1に記載の水性分散体の製造方法。
【請求項3】
水性分散化する工程において、酸変性ポリオレフィン樹脂の粒子径D90が0.01~3μmとなるように水性分散化する、請求項1または2に記載の水性分散体の製造方法。
但し、D90は小粒径側から累積した体積平均粒度分布における90%径を意味する。
【請求項4】
酸変性ポリオレフィン樹脂のオレフィン成分がプロピレン成分を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の水性分散体の製造方法。
【請求項5】
水性媒体中の有機溶媒の含有量が80質量%以下である、請求項1~4の何れか1項に記載の水性分散体の製造方法。
【請求項6】
水性分散化する工程において不揮発性水性化助剤を実質的に使用しない、請求項1~5の何れか1項に記載の水性分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体は、塗料、接着剤等の分野において好適に用いられる。このような水性分散体の一般的な製法としては、有機溶媒と乳化剤等の不揮発性水性化助剤とを用いて、酸変性ポリオレフィン樹脂を水性分散化する方法が知られている。特許文献1では水性分散化した後に、さらに機械的剪断力、衝撃力または摩擦力を付与して、樹脂をさらに粉砕する製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-241325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、乳化剤を用いていて水性分散体を得ていることから、この水性分散体から得られる塗膜は耐水性または密着性に劣るという問題がある。さらに有機溶剤を用いていることから、環境面または労働者等の健康面において問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであり、有機溶媒の量を低減させても、または不揮発性水性化助剤を実質的に使用せずとも、従来のように安定性に優れ、かつ透明性、密着性に優れる塗膜を得るための水性分散体を、工程を増やすことなく簡便に製造する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定組成の酸変性ポリオレフィン樹脂を用い、粉砕しながら水性分散化することで、有機溶媒の量を低減させても、または不揮発性水性化助剤を実質的に使用せずとも、従来のように安定性に優れ、かつ透明性、密着性に優れる塗膜を形成し得る、水性分散体を製造できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、下記(1)~(6)の通りである。
(1)水性分散体を製造する方法であって、
酸成分を1~5質量%含有する酸変性ポリオレフィン樹脂を粉砕しながら、水性媒体中で水性分散化する工程を含む、水性分散体の製造方法。
(2)水性分散化する工程の前に、予め酸変性ポリオレフィン樹脂を粉砕する工程を含む、(1)の水性分散体の製造方法。
(3)水性分散化する工程において、酸変性ポリオレフィン樹脂の粒子径D90が0.01~3μmとなるように水性分散化する、(1)または(2)の水性分散体の製造方法。
但し、D90は小粒径側から累積した体積平均粒度分布における90%径を意味する。
(4)酸変性ポリオレフィン樹脂のオレフィン成分がプロピレン成分を含む、(1)~(3)の何れかの水性分散体の製造方法。
(5)水性媒体中の有機溶媒の含有量が80質量%以下である、(1)~(4)の何れかの水性分散体の製造方法。
(6)水性分散化する工程において不揮発性水性化助剤を実質的に使用しない、(1)~(5)の何れかの水性分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、有機溶媒の量を低減させても、または不揮発性水性化助剤を実質的に使用せずとも、安定性に優れ、かつ透明性、密着性に優れる塗膜を得るための水性分散体を簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の水性分散体の製造方法は、酸成分を1~5質量%含有する酸変性ポリオレフィン樹脂を粉砕しながら、水性媒体中で水性分散化する工程を含む。
酸変性ポリオレフィン樹脂を粉砕しながら、水性媒体中で水性分散化することで、有機溶媒の量を低減させても、または不揮発性水性化助剤を実質的に使用せずとも、工程を増やすことなく、簡便に従来のような安定性を有する水性分散体を得ることができる。
【0010】
粉砕方法としては、例えば機械的剪断力、衝撃力または摩擦力を加えて粉砕する方法が挙げられる。粉砕に用いられる装置としては、特に限定されるものでなく、例えば、ポットミル、ボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のビーズタイプ、コロイドミル等の剪断力を用いるタイプ、ジェットミル等の高圧衝突タイプ等を採用することができる。中でも、微粒子の取り扱いの点、水性分散体に採用する点等から、湿式の粉砕方法であることが好ましい。
粉砕装置の具体例としては、例えば、連続インライン乳化分散機等が挙げられる。
【0011】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、主成分としてオレフィン成分を含有する。オレフィン成分としては特に限定されないが、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、2-ブテン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~6のアルケンが挙げられ、これらの混合物でもよい。中でも、密着性を良好とするために、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2~4のアルケンを含むことがより好ましく、エチレン、プロピレンを含むことがさらに好ましく、プロピレンを含むことが最も好ましい。
【0012】
酸変性ポリオレフィン樹脂中、オレフィン成分の含有量は、50~99.5質量%であることが好ましく、60~97質量%であることがより好ましい。50質量%未満であると、得られる塗膜の柔軟性が悪化する場合があり、99.5質量%を超えると、水性分散体の安定性が悪化する場合がある。
【0013】
酸成分としては、酸変性ポリオレフィン樹脂を微細化し易い観点、または樹脂の分散性向上の観点から、不飽和カルボン酸成分であることが好ましい。
【0014】
不飽和カルボン酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、(無水)マレイン酸が好ましい。なお、「(無水)~酸」とは、「~酸または無水~酸」を意味する。すなわち、(無水)マレイン酸とは、マレイン酸または無水マレイン酸を意味する。
【0015】
酸成分はオレフィン成分と共重合されていればよく、その形態は限定されない。共重合の形態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)等が挙げられる。
【0016】
酸成分の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂中、1~5質量%であり、1.5~5質量%が好ましく、2~4質量%がさらに好ましい。酸成分の含有量が1質量%未満であると、酸変性ポリオレフィン樹脂の粒径が増大したり、あるいは糸引きまたは偏平化等が発生し、均一な樹脂粒子を得ることが困難となるために、得られる水性分散体は安定性、透明性に劣るものとなる。一方、酸成分の含有量が5質量%を超えると、塗膜とした場合の各種基材との密着性が低下するうえ、得られる塗膜が着色する場合がある。
【0017】
本発明において酸変性ポリオレフィン樹脂は、得られる水性分散体の物性を調製するために、α、β-不飽和カルボニル化合物モノマーが共重合されていてもよい。これらは、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されない。共重合の形態としては、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)等が挙げられる。
【0018】
α、β-不飽和カルボニル化合物モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル成分、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸ジエステル成分、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル成分、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル成分、ビニルエステル成分を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、(メタ)アクリル酸アミド成分等が挙げられ、これらの混和物であってもよい。中でも、(メタ)アクリル酸エステル成分、ビニルエステル成分が好ましく、(メタ)アクリル酸エステル成分がより好ましい。なお、「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~またはメタクリル酸~」を意味する。
【0019】
α、β-不飽和カルボニル化合物モノマーの含有量は、求める物性に応じて適宜調節することができるが、酸変性ポリオレフィン樹脂中の25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。含有量が25質量%を超えると、粉砕後の酸変性ポリオレフィン樹脂の粒径が大きくなる傾向、または偏平化等を引き起こし均一な微粒子が得られない傾向にある。
【0020】
酸変性ポリオレフィン樹脂の融点は、80℃以上であることが好ましく、100~250℃がより好ましく、110~200℃がさらに好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂の融点が80℃未満では、得られた水性分散体中の樹脂粒子が、均一かつ微細とならない傾向にあり、融点が250℃を超えると、得られた水性分散体を塗膜等とした場合に均一とならない傾向にある。
【0021】
酸変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、1,000~1,000,000が好ましく、5,000~500,000がより好ましく、7,000~250,000がさらに好ましく、10,000~100,000が特に好ましい。重量平均分子量が1,000未満であると、得られる塗膜においては、割れ、クラックが起こり易い傾向にあり、1,000,000を超えると、樹脂の粉砕時の加工性が悪化する傾向にある。また、酸変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が測定できない場合は、分子量の目安となる、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート値(JIS K7210:1999に準ずる)で代用できる。
【0022】
酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート値は、300g/10分以下が好ましく、100g/10分以下がより好ましく、0.001~50g/10分がさらに好ましい。メルトフローレート値が300g/10分を超えると、得られる水性分散体からなる塗膜においては、割れ、クラック等が起こり易い傾向にあり、メルトフローレート値が0.001g/10分未満であると、樹脂の粉砕時の加工性が悪化する傾向にある。
【0023】
本発明に用いられる水性媒体は、水を20質量%以上含有することが好ましく、50質量%以上含有することがより好ましく、80質量%以上含有することがさらに好ましい。水性媒体の水の含有量が20質量%未満であると、酸変性ポリオレフィン樹脂を効率的に粉砕するのが困難になる傾向にある。
【0024】
水性媒体には水溶性の有機溶媒が含まれていてもよいが、本発明の製造方法においては、有機溶媒の含有量を低減させた場合であっても、均一な水性分散体とすることができる。有機溶媒の含有量は目的とする水性分散体の物性に応じて適宜選択することができるが、環境保全等の観点からは、全媒体の80質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0025】
水溶性の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N,N-ジメチルアミノエタノール、モルホリン等のアミン類等が挙げられる。
【0026】
中でも、酸変性ポリオレフィン樹脂の安定性を向上させる観点から、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、トリエチルアミン、N,N-ジメチルアミノエタノールが好ましく、2-プロパノール、トリエチルアミンがより好ましい。
【0027】
本発明の製造方法においては、不揮発性水性化助剤を実質的に使用しないことが好ましい。
「水性化助剤」とは、水性分散体の製造において、水性化促進または水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤または化合物のことである。「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、または常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
【0028】
本発明において「不揮発性水性化助剤を実質的に使用しない」とは、例えば、用いる水性化助剤の量が、酸変性ポリオレフィン樹脂成分に対して5質量%以下であることをいい、好ましくは2質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0質量%である。
【0029】
不揮発性水性化助剤としては、例えば、乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、または水溶性高分子などが挙げられる。
【0030】
乳化剤としては、例えば、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、または両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、またはビニルスルホサクシネート等が挙げられる。ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物、またはポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられる。両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、またはラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0031】
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン-プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸-無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、または一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物等が挙げられる。
【0032】
また、水性分散化する工程に先立って、予め酸変性ポリオレフィン樹脂を粉砕する(つまり、予備粉砕を行う)工程を含んでいてもよい。予備粉砕を行うことで、樹脂粒径を例えば2000~50μmとすることができ、水性分散化する工程における粉砕がより容易となり、水性分散体中の樹脂粒子をより均一かつ微細とすることができる。予備粉砕においても、粉砕方法または装置は特に限定されるものでなく、例えば、ハンマーミル、乾式ジェットミル、高速ミキサー等が挙げられる。さらに粉砕効率を向上させるために、例えば、液体窒素等で酸変性ポリオレフィン樹脂を冷却させた後に、予備粉砕に付してもよい。
【0033】
水性分散化する工程においては、酸変性ポリオレフィン樹脂の粒子径(体積基準)は、D90が0.01~3μmとなるように水性分散化することが好ましく、0.05~2μmとすることがより好ましく、0.1~1μmとすることががさらに好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂の粒子径がD90で0.01μm未満であると、生産効率が悪化する傾向にある。3μmを超えると、酸変性ポリオレフィン樹脂の粒子が、水性媒体中に安定に存在できなくなる傾向にある。本発明におけるD90とは、小粒径側から累積した体積平均粒度分布における90%径を意味する。
【0034】
本発明の製造方法によって得られる水性分散体を、基材上に塗工(コーティング)した後、乾燥することによって、基材上に水性分散体の塗膜(コーティング膜)を形成することができる。塗膜は、例えば、塗料、プライマー、下地材、接着剤等に使用することができる。
【0035】
基材を構成する材料としては、例えば、木材、合板、MDF、パーティクルボード、ファイバーボード等の木質系材料;壁紙、包装紙等の紙質系材料:綿布、麻布、レーヨン等のセルロース系材料;ポリエチレン(エチレンに由来する構造単位を主成分とするポリオレフィン、以下同じ)、ポリプロピレン(プロピレンに由来する構造単位を主成分とするポリオレフィン、以下同じ)、ポリスチレン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、(メタ)アクリル樹脂ポリエステル、ポリエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、発泡ウレタン等のプラスチック材料;ガラス、陶磁器等のセラミック材料;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属材料等が挙げられ、これらのうち複数の材料からなる複合材料であってもよい。また、上記プラスチック材料とタルク、シリカ、活性炭等の無機充填剤、炭素繊維等との混練成形品であってもよい。
【実施例0036】
以下、本発明の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0037】
各物性値の評価方法は以下の通りである。
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂の融点
DSC(Perkin Elmer社製、DSC-7)を用いて、昇温速度10℃/分で測定した。
【0038】
(2)酸変性ポリオレフィン樹脂の組成
オルトジクロロベンゼン(d4)中、120℃にてH-NMR、13C-NMR分析(バリアン社製の分析装置、300MHz)を行い、求めた。13C-NMR分析では、定量性を考慮したゲート付きデカップリング法を用いて測定した。
【0039】
また、酸成分の含有量は、JIS K5407に準じて測定し、その値から、酸成分の含有量(グラフト率)を、下式によって求めた。
酸成分の含有量(質量%)=((グラフトした酸成分の質量)/(原料ポリオレフィン樹脂の質量))×100
【0040】
(3)重量平均分子量
酸変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)を用い、ポリスチレン(分子量688~400,000)標準物質で校正したうえで、下記条件にて求めた。
機種 Waters製 150-C
カラム shodex packed column A-80M
測定温度 140℃
測定溶媒 オルトジクロロベンゼン
測定濃度 1mg/ml
【0041】
(4)水性分散体中の酸変性ポリオレフィン樹脂粒子の粒子径(D90)
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用い、粒子径を求めた。粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50とした。
小粒径側から累積した体積平均粒度分布において90%径を読み取った。
【0042】
(5)水性分散体の安定性
水性分散体を、無色透明なガラス製の試験管(直径;1.8cm)に高さが10cmになるように注ぎ、室温で1か月静置した。その後、酸変性ポリオレフィン樹脂の粒子が浮上し、試験管底部の透明となった高さを測定した。これを粒子の浮上距離とし、安定性を以下の基準で評価した。
◎:粒子の浮上距離が0.1cm未満
○:粒子の浮上距離が0.1cm以上、0.4cm未満
△:粒子の浮上距離が0.4cm以上、0.7cm未満
×:粒子の浮上距離が0.7cm以上
【0043】
(6)塗膜の透明度(ヘイズ)
水性分散体を、二軸延伸ポリエステルフィルム(ユニチカ社製、エンブレット S-12、厚み12μm、ヘイズ2.8%)のコロナ処理面上に、乾燥後の塗布量が約2g/mになるようにメイヤーバーを用いて塗布し、100℃で1分乾燥させてコートフィルムを得た。JIS K7361-1に基づいて、濁度計(日本電色工業社製、NDH2000)を用いて、コートフィルムのヘイズを測定した。
【0044】
(7)塗膜の密着性
水性分散体を、ポリエチレンフィルム(三井化学東セロ社製、OP U-1、厚み50μm)のコロナ処理面上に、乾燥後の塗布量が約5g/mになるようにメイヤーバーを用いて塗布した後、100℃で3分乾燥させて塗膜を形成し、コートフィルムを得た。
得られた塗膜に縦横11本の切れ込みを入れ、100マスの碁盤目を作製し、粘着テープ(ニチバン社製、CT405-AP18)を貼付した後に剥離し、試験後に保持された塗膜の数で密着性を評価した。
【0045】
(実施例1)
酸変性ポリオレフィン樹脂として、ユーメックス1001(三洋化成社製、酸変性ポリプロピレン樹脂)に、液体窒素を用いた冷却を施した後、ハンマーミルによる凍結粉砕処理を行い(予備粉砕)、D90=100μmの樹脂粉体を得た。
この樹脂粉体を1.0kg、水を8.8kg、トリエチルアミンを0.2kg、供給タンク内に投入し、連続インライン乳化分散機(CAVITRON Gmbh社製、CD1000)にて、周速40m/秒で1時間攪拌し、粉砕しながら水性分散化を行った。得られた水性分散体に含有される樹脂の粒子径D90は1.4μmであった。
【0046】
(実施例2)
酸変性ポリオレフィン樹脂としてボンダインHX8290(アルケマ社製、共重合成分としてアクリル酸エチルを含む酸変性ポリエチレン樹脂)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0047】
(実施例3)
酸変性ポリオレフィン樹脂としてユーメックス1010(三洋化成社製、酸変性ポリプロピレン樹脂)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0048】
(実施例4)
酸変性ポリオレフィン樹脂としてユーメックス5200(三洋化成社製、酸変性ポリプロピレン樹脂)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0049】
(比較例1)
ポリオレフィン樹脂としてノバテックPP MA1B(日本ポリプロ社製、ポリプロピレン樹脂)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0050】
(比較例2)
酸変性ポリオレフィン樹脂としてユーメックスCA620(三洋化成社製、酸変性ポリプロピレン樹脂)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0051】
(比較例3)
酸変性ポリオレフィン樹脂としてユーメックス100TS(三洋化成社製、酸変性ポリプロピレン樹脂)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0052】
実施例、比較例にて用いた酸変性ポリオレフィン樹脂の組成、物性を表1に示す。
【表1】
【0053】
実施例、比較例にて得られた水性分散体の評価結果を表2に示す。
【表2】
【0054】
実施例1~4では、有機溶媒の量を低減させても、また不揮発性水性化助剤等を実質的に使用せずとも、粒子径が微細であり安定性に優れる水性分散体を簡便に得ることができ、この水性分散体から得られる塗膜は、透明度、密着性に優れるものであった。
【0055】
比較例1においては、酸成分を含有していないポリプロピレン樹脂を用いたので、ハンマーミルによる凍結粉砕処理において粉砕できず、樹脂粉体を得ることができなかった。その後も水性分散化することができず、水性分散体を得ることができなかった。
【0056】
比較例2においては、用いた酸変性ポリオレフィン樹脂における酸成分の含有量が過多であったため、塗膜とした場合に密着性に劣る水性分散体しか得られなかった。
【0057】
比較例3においては、用いた酸変性ポリオレフィン樹脂における酸成分の含有量が過少であったので、安定性に劣り、塗膜とした場合の透明度にも劣る水性分散体しか得られなかった。