(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073529
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】被加工物の加工方法および被加工物の加工システム
(51)【国際特許分類】
G05B 19/404 20060101AFI20220510BHJP
B23Q 15/12 20060101ALI20220510BHJP
B23Q 17/20 20060101ALI20220510BHJP
B23Q 17/22 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
G05B19/404 K
G05B19/404 F
B23Q15/12
B23Q17/20 Z
B23Q17/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020183565
(22)【出願日】2020-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】土屋 康二
(72)【発明者】
【氏名】室伏 勇
【テーマコード(参考)】
3C001
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA02
3C001KB04
3C001TA03
3C001TB03
3C001TC01
3C029AA01
3C029AA24
3C269AB31
3C269BB03
3C269EF02
3C269EF10
3C269EF39
3C269JJ09
3C269JJ10
3C269JJ18
3C269JJ20
3C269MN07
3C269MN14
3C269MN16
(57)【要約】
【課題】砥石工具を使用した加工機において、被加工物に生じるヘソと呼ばれる研磨特有の食い込みを補正すると共に、工具の輪郭誤差に応じて工具の位置を補正して被加工物の加工を行う。
【解決手段】保持済み被加工物を工具保持手段で保持された保持済み工具で加工するために、保持済み被加工物に対し前記保持済み工具を移動する移動手段を有し、移動手段は、所定のNCプログラムに基づいて、保持済み被加工物に対し保持済み工具を移動し、NCプログラムは、保持済み被加工物による第1の誤差および保持済み工具による第2の誤差の発生を抑えるために、保持済み工具の位置を補正する構成となっている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持する被加工物保持手段と、
前記被加工物保持手段で保持された保持済み被加工物を加工する工具を保持する工具保持手段と、
前記保持済み被加工物を前記工具保持手段で保持された保持済み工具で加工するために、前記保持済み被加工物に対し前記保持済み工具を移動する移動手段と、を有し、
前記移動手段は、所定のNCプログラムに基づいて、前記保持済み被加工物に対し前記保持済み工具を移動し、前記NCプログラムは、前記保持済み被加工物による第1の誤差および前記保持済み工具による第2の誤差の発生を抑えるために、前記保持済み工具の位置を補正することを特徴とする被加工物の加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の被加工物の加工方法において、前記NCプログラムには、前記保持済み工具の位置を算出するための演算式が組み込まれており、前記NCプログラムは、前記保持済み被加工物による第1の誤差および前記保持済み工具による第2の誤差の発生を抑えるために、前記演算式を用いて、前記保持済み工具の位置を補正することを特徴とする被加工物の加工方法。
【請求項3】
請求項2に記載の被加工物の加工方法において、前記保持済み被加工物による前記第1の誤差が、前記保持済み工具として砥石工具を選択して前記保持済み被加工物を加工する場合に生じる、前記保持済み被加工物に生じる食い込みによる誤差であり、前記保持済み工具による前記第2の誤差が、前記保持済み工具の外形と、理想的な形状の保持済み工具の外形との輪郭誤差であることを特徴とする被加工物の加工方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の被加工物の加工方法において、前記第1の誤差が、第1の測定装置により測定された測定値に基づいて求められ、前記第2の誤差が、第2の測定装置により測定された測定値に基づいて求められることを特徴とする被加工物の加工方法。
【請求項5】
請求項4に記載の被加工物の加工方法において、前記第1の測定装置が、前記保持済み被加工物に生じる食い込みを測定する触針式測定装置であり、前記第2の測定装置が、前記保持済み工具の外形を測定する工具形状測定装置であることを特徴とする被加工物の加工方法。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の被加工物の加工方法において、前記保持済み工具は、前記保持済み被加工物を研磨加工する砥石工具であることを特徴とする被加工物の加工方法。
【請求項7】
NCプログラムを読み込ませた制御部の制御に基づいてNC工作機械の工具により被加工物の加工を行う加工システムのおける加工方法であり、
前記NCプログラムとして前記工具による加工パスの3次元座標を生成する工程と、
前記NCプログラムを前記制御部に読み込ませる工程と、
前記被加工物に生じる食い込みを第1の測定装置により測定して被加工物形状を採取する工程と、
前記被加工物形状における前記食い込みを前記工具の輪郭に重ね合せて第1の工具誤差形状を得る工程と、
前記被加工物を加工する工具の形状を第2の測定装置により測定する工程と、
前記測定した保持済み工具の外形と理想的な形状の保持済み工具の外形との差を求める工程と、
その測定した保持済み工具の外形と理想的な形状の保持済み工具の外形との輪郭誤差を求め第2の工具誤差形状を得る工程と、
前記第1の工具誤差形状および第2の工具誤差形状を合成して合成工具形状を作成する工程と、
前記合成工具形状に基づいて、NCプログラムの補正量を算出し、その補正量に基づいて前記工具の位置補正を行う工程と、を有することを特徴とする被加工物の加工方法。
【請求項8】
請求項7に記載の被加工物の加工方法において、前記第1の測定装置が、前記被加工物の表面の形状を測定する触針式測定装置であり、前記第2の測定装置が、前記工具の外形を測定する工具形状測定装置であることを特徴とする被加工物の加工方法。
【請求項9】
請求項7および請求項8のいずれか1項に記載の被加工物の加工方法において、前記第1の工具誤差形状および第2の工具誤差形状を合成して合成工具形状を作成する工程が、前記第1の工具誤差形状における前記食い込みに対応する凹部から平坦部へ移行する移行点を求め、前記第1の工具誤差形状における前記移行点から先の工具の輪郭を、前記第2の工具誤差形状の輪郭誤差に替えて合成工具形状を得ることを特徴とする被加工物の加工方法。
【請求項10】
請求項7および請求項8のいずれか1項に記載の被加工物の加工方法において、前記NCプログラムには、前記保持済み工具の位置を算出するための演算式が組み込まれており、前記NCプログラムは、前記合成工具形状に基づく誤差の発生を抑えるために、前記演算式を用いて、前記保持済み工具の位置を補正することを特徴とする被加工物の加工方法。
【請求項11】
請求項7に記載の被加工物の加工方法において、前記被加工物形状における前記食い込みを前記工具の輪郭に重ね合せて第1の工具誤差形状を得る工程において、前記食い込みの部分だけ、他の部分より細かくピッチ分割して補正値を規定することを特徴とする被加工物の加工方法。
【請求項12】
請求項1~請求項11のいずれか1項に記載の被加工物の加工方法を実行するための被加工物の加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物の加工方法および被加工物の加工システムに係り、特に、工具の輪郭補正をして被加工物を加工するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、NCプログラム(プログラム)によって、被加工物(ワーク)に対して工具(ツール)を相対移動しつつ、被加工物に加工を施す加工機(NC工作機械)を有する被加工物の加工システム(NC工作システム)が知られている。
【0003】
従来のNC工作システムでは、たとえば、エンドミル等の工具を回転しつつ、NCプログラムに含まれている具体的な数字(小数等の数値)に応じて、工具を相対移動し被加工物の加工を行っている。ここで、従来の技術を示す文献として特許文献1を掲げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、工具には輪郭誤差(理想的な工具の輪郭形状と実際の工具の輪郭形状との差)が存在する。超精密加工をする工作機械では、被加工物の形状誤差要因のうちの多くをエンドミル等の工具の輪郭誤差が占めている。
【0006】
一方、マシニングセンタ等の砥石工具を使用した研磨加工を行うNC工作システムでは、上述した工具の輪郭誤差による被加工物の形状誤差があるのみならず、レンズ金型等の被加工物に、通称ヘソと呼ばれる研磨特有の食い込みによる被加工物の形状誤差が生じてしまい問題となっていた。
【0007】
より詳しく説明すると、ヘソとは、砥石工具を使用したマシニングセンタ等において、加工で生じた切粉や脱落した砥粒が工具の中心部に滞留し、その工具に滞留した砥粒が原因で被加工物に出来る食い込みであり、従来のNC工作機械では、ヘソを抑制する機能は無く、加工精度を悪化させる原因ともなっていた。
【0008】
他の言い方をすると、ヘソと呼ばれる研磨特有の食い込みは、ワーク上で、工具の移動量が小さく、且つ、工具中心が加工を行う部分に出来ると言える。
【0009】
そこで、工具の輪郭誤差と共に、ヘソと呼ばれる研磨特有の食い込みも考慮した被加工物の加工が望まれていた。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、砥石工具を使用した加工機において、被加工物に生じるヘソと呼ばれる研磨特有の食い込みを補正すると共に、工具の輪郭誤差に応じて工具の位置を補正して被加工物の加工をすることができる被加工物の加工方法および被加工物の加工システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、被加工物を保持する被加工物保持手段と、前記被加工物保持手段で保持された保持済み被加工物を加工する工具を保持する工具保持手段と、前記保持済み被加工物を前記工具保持手段で保持された保持済み工具で加工するために、前記保持済み被加工物に対し前記保持済み工具を移動する移動手段とを有し、前記移動手段は、所定のNCプログラムに基づいて、前記保持済み被加工物に対し前記保持済み工具を移動し、前記NCプログラムは、前記保持済み被加工物による第1の誤差および前記保持済み工具による第2の誤差の発生を抑えるために、前記保持済み工具の位置を補正する被加工物の加工方法である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の被加工物の加工方法において、前記NCプログラムには、前記保持済み工具の位置を算出するための演算式が組み込まれており、前記NCプログラムは、前記保持済み被加工物による第1の誤差および前記保持済み工具による第2の誤差の発生を抑えるために、前記演算式を用いて、前記保持済み工具の位置を補正する被加工物の加工方法である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の被加工物の加工方法において、前記保持済み被加工物による前記第1の誤差が、前記保持済み工具として砥石工具を選択して前記保持済み被加工物を加工する場合に生じる、前記保持済み被加工物に生じる食い込みによる誤差であり、前記保持済み工具による前記第2の誤差が、前記保持済み工具の外形と、理想的な形状の保持済み工具の外形との輪郭誤差である被加工物の加工方法である。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の被加工物の加工方法において、前記第1の誤差が、第1の測定装置により測定された測定値に基づいて求められ、前記第2の誤差が、第2の測定装置により測定された測定値に基づいて求められる被加工物の加工方法である。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の被加工物の加工方法において、前記第1の測定装置が、前記保持済み被加工物に生じる食い込みを測定する触針式測定装置であり、前記第2の測定装置が、前記保持済み工具の外形を測定する工具形状測定装置である被加工物の加工方法である。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の被加工物の加工方法において、前記保持済み工具は、前記保持済み被加工物を研磨加工する砥石工具である被加工物の加工方法である。
【0017】
請求項7に記載の発明は、NCプログラムを読み込ませた制御部の制御に基づいてNC工作機械の工具により被加工物の加工を行う加工システムのおける加工方法であり、前記NCプログラムとして前記工具による加工パスの3次元座標を生成する工程と、前記NCプログラムを前記制御部に読み込ませる工程と、前記被加工物に生じる食い込みを第1の測定装置により測定して被加工物形状を採取する工程と、前記被加工物形状における前記食い込みを前記工具の輪郭に重ね合せて第1の工具誤差形状を得る工程と、前記被加工物を加工する工具の形状を第2の測定装置により測定する工程と、この測定した保持済み工具の外形と理想的な形状の保持済み工具の外形との差を求める工程と、その測定した保持済み工具の外形と理想的な形状の保持済み工具の外形との輪郭誤差を求め第2の工具誤差形状を得る工程と、前記第1の工具誤差形状および第2の工具誤差形状を合成して合成工具形状を作成する工程と、前記合成工具形状に基づいて、NCプログラムの補正量を算出し、その補正量に基づいて前記工具の位置補正を行う工程と、を有する被加工物の加工方法である。
【0018】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の被加工物の加工方法において、前記第1の測定装置が、前記被加工物の表面の形状を測定する触針式測定装置であり、前記第2の測定装置が、前記工具の外形を測定する工具形状測定装置である被加工物の加工方法である。
【0019】
請求項9に記載の発明は、請求項7および請求項8のいずれか1項に記載の被加工物の加工方法において、前記第1の工具誤差形状および第2の工具誤差形状を合成して合成工具形状を作成する工程が、前記第1の工具誤差形状における前記食い込みに対応する凹部から平坦部へ移行する移行点を求め、前記第1の工具誤差形状における前記移行点から先の工具の輪郭を、前記第2の工具誤差形状の輪郭誤差に替えて合成工具形状を得る被加工物の加工方法である。
【0020】
請求項10に記載の発明は、請求項7および請求項8のいずれか1項に記載の被加工物の加工方法において、前記NCプログラムには、前記保持済み工具の位置を算出するための演算式が組み込まれており、前記NCプログラムは、前記合成工具形状に基づく誤差の発生を抑えるために、前記演算式を用いて、前記保持済み工具の位置を補正する被加工物の加工方法である。
【0021】
請求項11に記載の発明は、請求項7に記載の被加工物の加工方法において、前記被加工物形状における前記食い込みを前記工具の輪郭に重ね合せて第1の工具誤差形状を得る工程において、前記食い込みの部分だけ、他の部分より細かくピッチ分割して補正値を規定する被加工物の加工方法である。
【0022】
請求項12に記載の発明は、請求項1~請求項11のいずれか1項に記載の被加工物の加工方法を実行するための被加工物の加工システムである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、砥石工具を使用した加工機において、被加工物に生じるヘソと呼ばれる研磨特有の食い込みを補正すると共に、工具の輪郭誤差に応じて工具の位置を補正して被加工物の加工を行える効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係る被加工物の加工方法を行う加工システム1の概略構成図である。
【
図2】砥石工具を使用した研磨加工で生じた切粉や脱落した砥粒が被加工物に滞留して出来るヘソの概略説明図である。
【
図3】
図1に示した加工システムにおける触針式測定装置の説明図である。
【
図4】
図1に示した加工システムにおける被加工物の加工機の処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】砥石工具で加工した個々の被加工物から成るサンプル試料の表面を触針式測定装置の触針でなぞってヘソと呼ばれる研磨特有の食い込みの形状を求める説明図である。
【
図6】複数の内の1つの被加工物から成るサンプル試料の検出した表面の形状を極座標で示したグラフ図である。
【
図7】1つの被加工物から成るサンプル試料の極座標を縦軸(理想形状からの法線方向誤差)に沿って折り返したグラフ図である。
【
図8】複数の被加工物から成るサンプル試料のヘソ形状の極座標を縦軸(理想形状からの法線方向誤差)に沿って折り返したグラフ図である。
【
図9】
図8に示した複数の被加工物から成るサンプル試料のヘソ形状の極座標から平坦部へ移行する移行点Xを特定する説明図である。
【
図10】
図9に示すグラフの全体をオフセットし、移行点より大きい角度での誤差値は全て0とした場合の被加工物から成るサンプル試料のヘソ形状を示す説明図である。
【
図11】
図10に示す被加工物から成るサンプル試料のヘソ形状を工具としての砥石工具の輪郭に重ね合せて表示した第1の工具誤差形状の説明図である。
【
図12】本発明の実施形態に係る被加工物の加工機における保持済み砥石工具の輪郭誤差の説明図である。
【
図13】保持済み砥石工具の輪郭誤差による第2の工具誤差形状を示す説明図である。
【
図14】保持済み砥石工具の円弧の半径と保持済み被加工物の被加工面の円弧の半径とによって変化する、保持済み被加工物の加工範囲を示す説明図である。
【
図15】第1の工具誤差形状と第2の工具誤差形状とを重ね合わせて合成した合成工具形状を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態に係る被加工物の加工方法を行う加工システム1について説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係る被加工物の加工方法を行う加工システム1の概略構成図である。
【0027】
図1に示すように、加工システム1は、加工機としてマシニングセンタ等のNC工作機械2を有しており、このNC工作機械2では、工具3として砥石工具を選択して用い、レンズ金型等の被加工物(ワーク)5を加工する。なお、本実施形態では、工具3として砥石工具を選択しワークとしてレンズ金型を選択した場合について説明するが、加工において被加工物に食い込み(ヘソ)ができる工具およびワークの組み合わせであれば、どのような工具およびワークにも適用できる。
【0028】
このNC工作機械2は、被加工物保持部7と工具保持部9とを備え、工具保持部9は、移動部11により、所定方向へ移動されるようになっている。
【0029】
NC工作機械2には、制御部13(制御装置)が接続され、制御部13には、制御部13にて使用されるNCプログラムを作成するPC33aもしくはPC33およびCAM39が備えられ、PC33aもしくはPC33およびCAM39で作成されたNCプログラムに基づいて制御部13によりNC工作機械2の動作が制御される。
【0030】
このNC工作機械2では、さらに、工具形状測定装置31および触針式測定装置32を有している。なお、工具形状測定装置31および触針式測定装置32については後で詳しく説明する。
【0031】
そして、本発明の実施形態に係るNC工作機械2では、工具3として砥石工具3aを選択し、レンズ金型等のワーク5を加工する場合に生じる、ワーク5に生じるヘソと呼ばれる研磨特有の食い込みを補正しつつワーク5の加工を行うことを要旨とする。
【0032】
ここで、砥石工具3aで、レンズ金型等のワーク5を加工する時にワーク5に生じるヘソとは、砥石工具を使用したマシニングセンタ等において、加工で生じた切粉や脱落した砥粒が工具の中心部に滞留し、その工具に滞留した砥粒が原因で被加工物に出来る食い込みである。
【0033】
他の言い方をすると、ヘソと呼ばれる研磨特有の食い込みは、ワーク上で、工具の移動量が小さく、且つ、工具中心が加工を行う部分に出来ると言える。
【0034】
この実施形態では、マシニングセンタ等において、砥石工具3aの回転により加工を行う場合、
図2に示すように、ワーク5に食い込み5aが出来る。
【0035】
図2は、砥石工具を使用した研磨加工で生じた切粉や脱落した砥粒が被加工物に滞留して出来るヘソの概略説明図である。
【0036】
砥石工具3aは、円柱状の基端部と半球状の先端部とを備えて構成されている。
【0037】
ここで、砥石工具3aの先端部の円形の端面の中心を、先端部の中心とする。この中心は、砥石工具3aの中心軸上に存在している。
【0038】
そして、工具保持部9で保持されている砥石工具3aは、回転することで、レンズ金型からなる被加工物5を切削研磨加工するようになっている。
【0039】
移動部11は、被加工物5を保持済み砥石工具3aで加工するために、被加工物5に対して工具3を相対的に移動するように構成されている。すなわち、被加工物5に対して砥石工具3aが移動するように構成されていてもよいし、砥石工具3aに対して被加工物5が移動するように構成されていてもよい。
【0040】
制御部13は、NCプログラムに基づいて移動部11を制御し、被加工物5に対し工具3を移動するように構成されている。
【0041】
次に、上述した砥石工具3aを回転してレンズ金型等のワーク5を加工する場合に、ワーク5に生じるヘソと呼ばれる研磨特有の食い込みを、触針式測定装置32等により測定する測定方法について説明する。
【0042】
図3は、
図1に示した加工システムにおける触針式測定装置32の説明図である。
【0043】
図3に示すように、触針式測定装置32は、先端に触針32aが備えられた触針部32bと、触針32aによって検出された被測定物(この場合、砥石工具3aで研磨加工されたレンズ金型からなるワーク5)に表面の変位を検出する検出部32cとを有している。
【0044】
触針式測定装置32は、触針32aの先端が試料の表面に直接触れる方式であり、この触針32aで試料の表面をなぞり、触針32aの上下運動を検出部32cにて電気的に検出し、その電気信号を増幅、ディジタル化などの処理を行い記録する。
【0045】
次に、
図4を参照して、本発明の実施形態に係る被加工物の加工機による加工処理手順について説明する。
【0046】
図4は、本発明の実施形態に係る被加工物の加工機による加工処理手順のフローチャートである。
【0047】
初めに、
図4のステップS11において、市販のCAMに基づいて、被加工物5を加工する際のNCプログラム、即ち、工具3による加工パスの3次元座標を生成する。ここでは、工具3として、砥石工具3aが使用される。
【0048】
次に、ステップS12において、NCプログラムに、補正ベクトル(法線ベクトル)を付加し、ステップS13において、NC工作機械2の制御部13にNCプログラムを読み込ませる。
【0049】
このステップS11~S13の処理は、NCプログラムを作成するPC33aもしくはPC33およびCAM39にて行われる。
【0050】
ここで、工具3の位置の補正は、該工具3の加工点における加工面に対する法線ベクトルと、工具3との輪郭誤差とを用いてなされる。これにより、X方向、Y方向、Z方向のうちの少なくともいずれかの方向(法線ベクトルの形態で決まる)で、工具3の三次元的な位置が補正される。
【0051】
なお、空間における所定の一方向をX方向(X軸方向;横方向)とし、空間における所定の他の一方向であってX方向に対して直交する方向をY方向(Y軸方向;前後方向)とし、X方向とY方向とに対して直交する方向をZ方向(Z軸方向;上下方向)する。なお、この定義では、X方向とY方向とが水平方向であってZ方向が上下方向になるがこれに限定されるものではなく、X方向もしくはY方向が上下方向となってもよいし、X方向、Y方向、Z方向が、水平方向や上下方向に対して斜めになっていてもよい。
【0052】
次に、下記ステップS14~ステップS16において、実加工の前に、工具3として砥石工具3aを選択してレンズ金型等のワーク5を加工する場合に生じる、ワーク5に生じるヘソと呼ばれる研磨特有の食い込みによる第1の誤差および保持済み砥石工具3aの外形と、理想的な形状の(形状誤差の無い)保持済み砥石工具3aの外形との輪郭誤差である第2の誤差を補正して、ワーク5の加工を行うための初期校正処理について説明する。
【0053】
まず、ステップS14において、ワーク5に生じるヘソと呼ばれる研磨特有の食い込みを、触針式測定装置32により測定し、被加工物形状を採取して第1の工具誤差形状を求める。
【0054】
すなわち、まず、実際の砥石工具3aによる実加工の前に、
図2に示すように、工具3として砥石工具3aにより、レンズ金型等のワーク5に見立てた複数のサンプル試料5aを加工する。ここで、この研磨加工は、この後に行われる実研磨加工と同様に行われる。
【0055】
そして、そのように砥石工具3aで加工した複数のサンプル試料5aから、以下に記載のように、ヘソと呼ばれる研磨特有の食い込み5a1の形状を求める。
【0056】
図5に示すように、触針32aの先端が試料の表面に直接触れる方式の触針式測定装置32により、砥石工具3aで加工した個々のサンプル試料5aの表面を、この触針32aでなぞり、触針32aの上下運動を検出部32cにて電気的に検出し、その電気信号を増幅、ディジタル化などの処理を行いPC33aにおいて記録して行く。
【0057】
図5は、砥石工具3aで加工した個々のサンプル試料5aの表面を触針式測定装置32の触針32aでなぞってヘソと呼ばれる研磨特有の食い込み5a1の形状を求める説明図である。
【0058】
その複数の内の1つのサンプル試料5aの検出した表面の形状を極座標で示すと
図6に示すようになる。
図6は、複数の内の1つのサンプル試料の検出した表面の形状を極座標で示したグラフ図である。
【0059】
図6に示すように、横軸に測定点角度、縦軸に理想形状からの法線方向誤差を示すと、ワーク5aに測定点角度の落ち込み5a1がヘソ形状として現れる。
【0060】
次に、上述のように取得したサンプル試料の極座標から、1つのヘソ形状を被加工物形状として抽出する。この1つのヘソ形状の抽出処理は、例えば、以下のように行われる。
【0061】
まず、1つのサンプル試料の極座標を半径表示したグラフを用意する。すなわち、ヘソ形状は左右対称の必要があるため、
図6に示すような1のサンプル試料の極座標を縦軸(理想形状からの法線方向誤差)に沿って折り返し、
図7に示すようなグラフを得る。
図7は、1つのサンプル試料の極座標を縦軸(理想形状からの法線方向誤差)に沿って折り返したグラフ図である。
【0062】
なお、
図7では、1つのサンプル試料の極座標を扱っているが、複数のサンプル試料のヘソ形状の極座標を取得し、1つのヘソ形状を抽出する方法の方が、精度が向上するので、ここでは、複数のサンプル試料のヘソ形状の極座標を取得し、1つのヘソ形状を抽出するようにする。
図8は、複数のサンプル試料のヘソ形状の極座標を縦軸(理想形状からの法線方向誤差)に沿って折り返したグラフ図である。
【0063】
次に、
図8に示した複数のサンプル試料のヘソ形状の極座標を縦軸(理想形状からの法線方向誤差)に沿って折り返したグラフ図から、1つのヘソ形状を抽出する方法について詳しく説明する。
【0064】
すなわち、
図8に示した複数のサンプル試料のヘソ形状から、平均的なヘソ形状5a1を取得する。この取得方法は、以下のような種々の取得方法がある。
【0065】
1つは、複数のサンプル試料のヘソ形状の値を平均するように演算して求める取得方法があり、他に、
図8に示した複数のサンプル試料のヘソ形状のグラフを、例えばPC33上に表示し、その複数のサンプル試料のヘソ形状のグラフからオペレーターが平均的なヘソ形状5a1をマウスを使って描いて求める取得方法等がある。
【0066】
そして、ここで得られたヘソ形状5a1に対して、
図9に示すように、凹部(ヘソ形状)から平坦部へ移行する移行点Xを特定する。この移行点Xの特定は、数値演算で行っても良いし、オペレーターが判断しても良い。
図9は、
図8に示した複数のサンプル試料のヘソ形状の極座標から平坦部へ移行する移行点Xを特定する説明図である。
【0067】
そして、移行点での誤差値が0になるように、全体をオフセットし、移行点より大きい角度での誤差値は全て0として、サンプル試料のヘソ形状5a1を示すと
図10に示すようになる。
図10は、全体をオフセットし、移行点より大きい角度での誤差値は全て0とした場合のサンプル試料のヘソ形状を示す説明図である。
【0068】
ここで、
図10に示すサンプル試料のヘソ形状5a1を砥石工具3aの理想の輪郭3a1に重ね合せて表示すると
図11に示すようになり、これを第1の工具誤差形状とする。
図11は、
図10に示すサンプル試料のヘソ形状5a1を工具3としての砥石工具3aの輪郭3a1に重ね合せて表示した第1の工具誤差形状の説明図である。
【0069】
なお、ここでは、砥石工具3aの角度を以下のような可変ピッチ分割にて補正値を規定している。
【0070】
すなわち、ヘソ形状5a1を精度良く再現するために、
図11に示すように、ヘソ形状5a1の部分だけ、他の部分より細かくピッチ分割して補正値を規定するようにしている。
【0071】
このように、ヘソ形状5a1の部分だけ細かくピッチ分割して補正値を規定するようにすれば、全体を細かくピッチ分割する場合に比べて、補正用のデータ量が少なくて済む。
【0072】
次に、ステップS15において、被加工物5を加工する工具3としての保持済みの砥石工具3aの形状をレーザなどを用いた工具形状測定器31で測定し、砥石工具3aの形状を第2の工具誤差形状として抽出する。
【0073】
すなわち、工具形状測定装置31は、
図1に示すように、被加工物の加工機1の所定の位置に設置され、工具形状測定装置31(レーザやカメラなど)で測定可能な位置に保持済み砥石工具3aを位置させて、保持済み砥石工具3aを回転(中心軸C1まわりで自転)させておくことで、保持済み砥石工具3aの外形を機上(被加工物の加工機1の機上)で測定する。
【0074】
この測定した保持済み砥石工具3aの外形と、理想的な形状の(形状誤差の無い)保持済み砥石工具の外形との差(砥石工具3aの部位毎の差)を求め、砥石工具3aの第2の工具誤差形状とする。
図12は、本発明の実施形態に係る被加工物の加工機における保持済み砥石工具の輪郭誤差の説明図である。
【0075】
図12(a)に破線で示すものは、理想的な形状の砥石工具3aの外形形状であり、
図12(a)に実線で示すものは、形状誤差のある実際の砥石工具3aの外形形状である。
図12(a)では、中心軸C1まわりで砥石工具3aの回転をしていない。また、
図12(a)に実線で示す保持済み砥石工具3aは、中心軸C1に対してごく僅かに右側に偏って位置している。
【0076】
図12(b)に破線で示すものは、理想的な形状の砥石工具3aの外形形状であり、
図12(b)に実線で示すものは、形状誤差のある実際の砥石工具3a(
図2(a)に実線で示した砥石工具3a)を中心軸C1のまわりで回転させたときの外形形状である。
【0077】
図12(b)に実線で示す砥石工具3aの形状は、当然のことであるが中心軸C1に対して線対称になっている。被加工物5の加工が、砥石工具3aの先端部17でされるとすれば、砥石工具3aの第2の工具誤差は、先端部17の1/4の円弧(即ち、角度が90°の範囲)で求めればよいことになる。
【0078】
なお、工具形状測定装置31としては、例えば、特開昭63-233403号公報で示されているものを掲げることができる。
【0079】
上述のように、例えば、細かい角度である0.1°毎に保持済み砥石工具3aの輪郭誤差を測定すると、
図13(a)に曲線CV1で示すような細かく波打った輪郭誤差を得る。
【0080】
図13(a)に示す曲線CV1に関して高周波数成分を除くフィルタリングをすると、
図13(b)に曲線CV2で示すようなある程度波打った輪郭誤差を得る。以下に述べるように、
図13(b)に曲線CV2で示す輪郭誤差を第2の工具誤差形状として用いて補正をする。
【0081】
図13は、砥石工具3aの輪郭誤差を示す説明図である。
【0082】
また、
図14で示すように、砥石工具3aの円弧の半径と被加工物5の被加工面の半径との差の値が小さい場合には、被加工物5と保持済み砥石工具3aとの接触長さ(接触面積)CT3の値が大きくなる。
図14は、砥石工具3aの円弧の半径と保持済み被加工物の被加工面の円弧の半径とによって変化する、保持済み被加工物の加工範囲を示す図である。
【0083】
次に、ステップS15において、上記第1の工具誤差形状および第2の工具誤差形状を合成して合成工具形状を作成する。
【0084】
すなわち、
図11に示すサンプル試料のヘソ形状5a1を砥石工具3aの輪郭に重ね合せて表示した第1の工具誤差形状と、
図13(b)に示す輪郭誤差CV2からなる第2の工具誤差形状とを重ね合わせて合成し、
図15に示すような合成工具形状(5a1+CV2)を得る。
【0085】
具体的には、
図11に示すサンプル試料のヘソ形状5a1の移行点Xから先の砥石工具3aの輪郭3a1を、
図13(b)に曲線CV2で示す波打った輪郭誤差に替えて合成工具形状を得る。
【0086】
図15は、第1の工具誤差形状と第2の工具誤差形状とを重ね合わせて合成した合成工具形状を示す説明図である。
【0087】
次に、ステップS16において、
図15に示すような第1の工具誤差形状と第2の工具誤差形状とを重ね合わせて合成した合成工具形状に基づいて、NCプログラムの補正量を算出し、その補正量を制御部13のメモリ等にセットする。
【0088】
ここで、NCプログラムには、砥石工具3aの位置(被加工物5に対する座標)を算出するための演算式(たとえば、四則演算等を用いた数式式)が組み込まれている。すなわち、保持済み砥石工具3aが移動するときの位置座標は、演算式の解によって決定されるようになっている。
【0089】
また、NCプログラムは、ヘソ形状5a1による誤差および砥石工具3aの輪郭誤差による被加工物5の加工誤差の発生を抑えるために、演算式を用いて、砥石工具3aの位置を正補するように構成されている。
【0090】
なお、上記演算式を用いての工具の位置の補正については、本出願人による先願である特許第6574915号に詳しく記載されている。
【0091】
その後、ステップS17において、NC工作機械2において砥石工具3aによる実加工を開始する。
【0092】
こうして、ヘソ形状5a1による誤差および砥石工具3aの輪郭誤差による被加工物5の加工誤差を補正して砥石工具3aを作動させ、被加工物5の加工を実施することができるのである。
【0093】
この実施形態における被加工物の加工機1によれば、ヘソ形状5a1による誤差および砥石工具3aの輪郭誤差による被加工物5の加工誤差の発生を抑えるように、工具3の位置を補正しているので、非常に正確な加工を達成できる。
また、この実施形態における被加工物の加工機1によれば、NCプログラムに、砥石工具3aの位置(座標値)を算出するための演算式が組み込まれているので、工具を交換したり、工具が摩耗したとき等に、その都度、NCプログラムを作り直す必要を無くすことができる。
【0094】
すなわち、具体的な数字を使うと、工具を交換したり工具が摩耗したりしたとき等に、その都度、NCプログラムを作り直さなければいけないが、演算式にすることで、その時々に変化する加工誤差に随時対処することができる。また、演算式を用いることで、測定した工具輪郭値を変数に格納しておき、加工時に計算(演算)が行われるので、NCプログラムを一度作成すればその後ずっと利用することができる。また、NCプログラムの演算式の演算を制御部13で行うので、専用の装置が不要になる。
【0095】
本発明は前述の発明の実施の形態に限定されることなく、適宜な変更を行うことにより、その他の態様で実施し得るものである。
【0096】
例えば、上述したヘソ形状5a1による誤差および砥石工具3aの輪郭誤差の補正に加えて、工具3による被加工物5の加工を開始してから終了するまでの間の工具3の摩耗量を測定し、上述したヘソ形状5a1による誤差および砥石工具3aの輪郭誤差による被加工物5の加工誤差に加え、この摩耗量に起因して変化する工具3の形状を考慮してNCプログラムを補正し、より高精度な被加工物5の加工を行うようにしても良い。
【0097】
なお、摩耗量に起因して変化する工具3の形状を考慮したNCプログラムの補正については、本出願人による先願である特許第6574915号に詳しく記載されている。
【符号の説明】
【0098】
1 加工システム
2 NC工作機械
3 工具(砥石工具)
5 被加工物
5a 食い込み(ヘソ)
7 被加工物保持部
9 工具保持部
11 移動部
13 制御部
31 工具形状測定装置
32 触針式測定装置
33 PC
35 メモリ
39 CAM
41、43 加工パス
C1 中心軸
C2 中心
CV1、CV2 輪郭誤差
T1、T2 加工点