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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073532
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】射出成形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/44 20060101AFI20220510BHJP
【FI】
B29C45/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020183569
(22)【出願日】2020-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000105925
【氏名又は名称】サカエ理研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100174377
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100215038
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 友子
(72)【発明者】
【氏名】山守 勝也
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AA04
4F202AA11
4F202AA13
4F202AA28
4F202AG28
4F202AH17
4F202AM34
4F202AR12
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK32
4F202CK54
4F202CK59
4F202CM03
(57)【要約】
【課題】固定型と可動型との開閉方向に交差する方向に移動するスライドを備えた射出成形装置において、スライドが設けられる反対側の型にスライドを案内するための部材が取り付けられることを要せずに箱状部位を有した成形体を射出成形でき、かつ射出中にスライドが動いてしまうのを抑制できる射出成形装置を提供する。
【解決手段】可動型3には傾斜面5を有した凹部4が形成される。凹部4には固定型2及び可動型3との間で、成形体の箱状部位に対応する射出空間を形成するスライド11が配置される。スライド11は成形後に可動型3から成形体が押し出されるのに伴い、傾斜面5に沿って移動することで箱状部位から退避される。スライド11の側面の、凹部4から突出する方向における端部には凸部17、18が形成される。凸部17、18はスライド11の互いに反対側の両方の側面に形成される。凹部4には凸部17、18を支持する窪み部6、7が形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1型と、
前記第1型に締め付けられた型閉じ状態又は前記第1型から離間した型開き状態になる第2型であり、前記型閉じ状態において前記第1型との間で、側方に開口部が形成された箱状部位を有した成形体を射出成形するための射出空間を形成し、成形後の前記型開き状態では前記成形体が前記第2型に張り付いた状態となり、前記第2型の、前記第1型に対向した対向面には、型開き方向に対して傾斜した側面を有した凹部が形成された、第2型と、
前記張り付いた状態にある前記成形体を前記第2型から押し出す押出部材と、
前記型閉じ状態において前記凹部に配置されて、前記第1型及び前記第2型との間で、前記箱状部位に対応した、前記射出空間の一部を形成するスライドであって、前記射出空間に前記成形体が成形された成形完了状態において前記箱状部位の内側に位置する内側部と、前記箱状部位の外側に位置する外側部とを有し、前記外側部は、前記凹部の前記傾斜した側面である第1傾斜面に対向した第2傾斜面を有し、前記型開き状態において前記押出部材により前記成形体が前記第2型から押し出されるのに伴い、前記第2傾斜面が前記第1傾斜面に沿って摺動することで、前記凹部から突出するとともに前記内側部が前記箱状部位の前記開口部を通って前記箱状部位の外側に退避するスライドと、
前記型開き状態において前記押出部材により前記成形体が前記第2型から押し出されるのに伴い、前記スライドを前記第1傾斜面に沿って移動させるスライド制御部材とを備え、
前記スライドの側面の、前記凹部から突出する方向における端部には、側方に突出する凸部が形成されており、
前記凸部は前記成形完了状態において前記箱状部位の外側に位置しており、
前記凹部は、前記凸部を支持するための窪み部を有する、
射出成形装置。
【請求項2】
前記凸部は複数設けられる請求項1に記載の射出成形装置。
【請求項3】
前記凸部は、前記スライドの互いに反対側に位置する両方の側面に設けられる請求項1又は2に記載の射出成形装置。
【請求項4】
前記凸部は、前記第2傾斜面とその反対側の前記スライドの側面とに設けられる請求項1~3のいずれか1項に記載の射出成形装置。
【請求項5】
前記箱状部位は前記箱状部位の側壁を貫通する貫通部を有し、
前記凸部は、前記成形完了状態において前記内側部から前記貫通部を通って前記箱状部位の外側に突出するように設けられる貫通凸部を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の射出成形装置。
【請求項6】
前記凸部は前記外側部の側面に設けられる外側部凸部を含む請求項1~5のいずれか1項に記載の射出成形装置。
【請求項7】
前記第1型と前記第2型との開閉方向に平行な方向における前記スライドの幅の最大値をスライド最大幅として、
前記凸部の、前記開閉方向に平行な方向における幅は、前記スライド最大幅の5分の1以下且つ20mm以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の射出成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は箱状部位を有した成形体を射出成形するための射出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形用の金型として、固定型と可動型との開閉方向に交差する方向に移動するスライドを備えたものが知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1の金型では、スライドとしてのスライドコアが可動型の側に設けられ、そのスライドコアには、固定型と可動型との開閉方向に対して傾斜した貫通部が形成されており、この貫通部に、一端が固定型に取り付けられたアンギュラーブロックが挿通されている。そして、スライドコアは、可動型が型開き動作するに伴い、アンギュラーブロックに沿って移動することで、可動型に追従して固定型から離れる方向に移動しつつ、固定型と可動型との開閉方向に対して直角な方向に移動する。これにより、スライドコアは、成形体のアンダーカット部(箱状部位)から退避する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スライドを備えた金型においては、スライドを滑らかに移動させるために、スライドとそれを案内する金型部品(特許文献1ではアンギュラーブロック)との間にクリアランス(隙間)を設定する必要がある。しかし、このクリアランスにより、射出空間に溶融材料を射出中にスライドが動いてしまうという問題がある。射出中にスライドが動いてしまうと、成形体にヒケ等の外観不良が発生する場合がある。
【0005】
また特許文献1の金型では、スライドが設けられる反対側の型(固定型)にスライドを案内するための傾斜状の案内部材(アンギュラーブロック)を取り付けて、この案内部材をスライドに貫通させる必要がある。しかし、成形体の形状によっては案内部材を、スライドが設けられる反対側の型に取り付けることができない場合もある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、スライドが設けられる反対側の型にスライドを案内するための部材が取り付けられることを要せずに箱状部位を有した成形体を射出成形でき、かつ、射出中にスライドが動いてしまうのを抑制できる射出成形装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、
第1型と、
前記第1型に締め付けられた型閉じ状態又は前記第1型から離間した型開き状態になる第2型であり、前記型閉じ状態において前記第1型との間で、側方に開口部が形成された箱状部位を有した成形体を射出成形するための射出空間を形成し、成形後の前記型開き状態では前記成形体が前記第2型に張り付いた状態となり、前記第2型の、前記第1型に対向した対向面には、型開き方向に対して傾斜した側面を有した凹部が形成された、第2型と、
前記張り付いた状態にある前記成形体を前記第2型から押し出す押出部材と、
前記型閉じ状態において前記凹部に配置されて、前記第1型及び前記第2型との間で、前記箱状部位に対応した、前記射出空間の一部を形成するスライドであって、前記射出空間に前記成形体が成形された成形完了状態において前記箱状部位の内側に位置する内側部と、前記箱状部位の外側に位置する外側部とを有し、前記外側部は、前記凹部の前記傾斜した側面である第1傾斜面に対向した第2傾斜面を有し、前記型開き状態において前記押出部材により前記成形体が前記第2型から押し出されるのに伴い、前記第2傾斜面が前記第1傾斜面に沿って摺動することで、前記凹部から突出するとともに前記内側部が前記箱状部位の前記開口部を通って前記箱状部位の外側に退避するスライドと、
前記型開き状態において前記押出部材により前記成形体が前記第2型から押し出されるのに伴い、前記スライドを前記第1傾斜面に沿って移動させるスライド制御部材とを備え、
前記スライドの側面の、前記凹部から突出する方向における端部には、側方に突出する凸部が形成されており、
前記凸部は前記成形完了状態において前記箱状部位の外側に位置しており、
前記凹部は、前記凸部を支持するための窪み部を有する、
射出成形装置である。
【0008】
このように本発明では、成形後の型開き状態において、成形体を第2型から押し出すのに伴い、スライドを箱状部位から退避させるので、スライドが設けられる反対側の型である第1型に、スライドを案内するための部材が取り付けられることを要せずに、箱状部位を有した成形体を射出成形できる。さらに、スライドの側面に形成される凸部と、これを支持する窪み部とにより、射出中のスライドの動きを抑制できる。
【0009】
本発明において、前記凸部は複数設けられてよい。これによれば、射出中のスライドの動きをより一層抑制できる。
【0010】
本発明において、前記凸部は、前記スライドの互いに反対側に位置する両方の側面に設けられてよい。これによれば、スライド全体の動きを抑制できる。
【0011】
本発明において、前記凸部は、前記第2傾斜面とその反対側の前記スライドの側面とに設けられてよい。これによれば、凸部の傾斜面(第2傾斜面)と凹部の傾斜面(第1傾斜面)とのクリアランスに起因したスライドの動きを抑制できる。
【0012】
本発明において、前記箱状部位は前記箱状部位の側壁を貫通する貫通部を有し、
前記凸部は、前記成形完了状態において前記内側部から前記貫通部を通って前記箱状部位の外側に突出するように設けられる貫通凸部を含むとしてよい。これによれば、スライドの内側部の動きを抑制できる。
【0013】
本発明において、前記凸部は前記外側部の側面に設けられる外側部凸部を含むとしてよい。これによれば、スライドの外側部の動きを抑制できる。
【0014】
また本発明において、前記第1型と前記第2型との開閉方向に平行な方向における前記スライドの幅の最大値をスライド最大幅として、
前記凸部の、前記開閉方向に平行な方向における幅は、前記スライド最大幅の5分の1以下且つ20mm以下としてよい。これによれば、凸部は、射出中において、射出空間に射出される溶融材料の圧力によって変形するが、凸部の幅をスライド最大幅の5分の1以下且つ20mm以下とすることで、前記開閉方向に平行な方向における凸部の変形量を小さくできる。これにより、凸部の変形が原因で成形体にヒケ等の外観不良が発生するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】成形前の型閉じ状態における射出成形装置(金型)の断面図である。
図2図1のA部の拡大図である。
図3】成形体の裏面図である。
図4図3のIV-IV線での断面図である。
図5図3のV-V線での断面図である。
図6】成形完了状態での射出成形装置(金型)の断面図である。
図7】成形後の型開き状態での射出成形装置(金型)の断面図である。
図8】成形体を可動型から押し出す様子を示した図である。
図9】実施例におけるスライドの断面図である。
図10】実施例のスライドの形状を単純化した両端支持の梁構造を示す図である。
図11】比較例のスライドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。先ず、図3図5を参照して、本実施形態の射出成形装置で成形される成形体について説明する。図3の成形体100は、PC(ポリカーボネート)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、ABS樹脂等の樹脂により形成された、例えば車両用外装部品(例えばモール)である。成形体100は、図3の平面視で見て細長形状に形成された板状の本体部101と、その本体部101の裏面に形成された箱状部位としてのドックハウス部位102とを備える。本体部101及びドックハウス部位102が同一の材質で一体化されている。本体部101は図4の断面視(本体部101の長手方向に直角な平面で本体部101を切った断面)で見て、紙面上方に凸の形状に曲がるように形成されている。本体部101の表面(ドックハウス部位102が形成される側と反対側の面)は意匠面となる面である。
【0017】
ドックハウス部位102は、例えば成形体100を所定部材(例えば車体)に接続するための接続部品(例えばクリップ)を設置するための部位である。ドックハウス部位102は、本体部101の長手方向に沿って間隔をあけて複数形成されている(図3参照)。各ドックハウス部位102は、本体部101の短手方向における中間位置に形成されている(図3参照)。図4図5に示すように、各ドックハウス部位102は箱状に形成されており、具体的には、本体部101の一部として構成される表面部103と、空間110を挟んで表面部103に対向する裏面部104と、表面部103と裏面部104とを繋ぐ側面部105、106とを備えている。裏面部104には貫通孔107が形成されている。貫通孔107は例えば上記接続部品をドックハウス部位102内の空間110に導入するための孔、及び空間110に導入された接続部品の一部を外側に突出させるための孔である。
【0018】
側面部105、106は、本体部101の長手方向に平行な方向120(図3図5参照)における裏面部104の端部から屈曲して表面部103に繋がる第1側面部105(図5参照)と、本体部101の短手方向に平行な方向121(図3図4参照)における裏面部104の端部から屈曲して表面部103に繋がる第2側面部106(図4参照)とを備える。ドックハウス部位102は、本体部101の長手方向に平行な方向120における一端が第1側面部105で閉塞される一方で、他端には側面部が設けられておらず、つまり他端には開口部108が形成されている。この開口部108を介して、ドックハウス部位102の内側の空間110と、外側の空間とが導通している。開口部108は、本体部101の長手方向に平行な方向120を向いており、換言すれば、後述するスライド11(図1参照)の、ドックハウス部位102からの退避方向に平行な方向(図1において符号210で示される方向)を向いている。さらに換言すれば、開口部108は、図1の固定型2と可動型3との開閉方向(図1図5の紙面の上下方向)に直角な方向である側方を向いている。開口部108は、成形体100が射出成形された後に、スライド11をドックハウス部位102から退避させるための部位である。
【0019】
また第1側面部105には、内側の空間110と外側の空間とを導通させる貫通孔109が形成されている(図5参照)。貫通孔109の内壁の一部は、表面部103の裏面で構成されている。つまり、貫通孔109は表面部103に隣接する位置に形成されている。また、貫通孔109は、内側の空間110を間に挟んで開口部108と対向する位置に形成されている。また、貫通孔109は、後述するスライド11(図1参照)の、ドックハウス部位102からの退避方向に平行な方向(図1において符号210で示される方向)を向いており、換言すれば、図1の固定型2と可動型3との開閉方向(図1図5の紙面の上下方向)に直角な方向である側方を向いている。
【0020】
次に、図1を参照して、成形体100を成形するための射出成形装置の構成を説明する。図1の射出成形装置1は、金型を備えており、その金型は第1型としての固定型2と第2型としての可動型3とスライド11とを備えている。固定型2はキャビティ型として構成されており、型閉じ状態において可動型3及びスライド11との間で成形体100を射出成形するための射出空間8を形成する。固定型2は、射出成形装置1の型開き動作又は型閉じ動作の際に位置が変化しない型板である。また固定型2は、成形後に射出成形装置1(可動型3)が型開き動作するに伴い、成形体が離れていく側の型板である。
【0021】
射出空間8は成形体100の本体部101を成形するための空間9と、ドックハウス部位102を成形するための空間10とを有する。固定型2は、本体部101の表面(換言すれば空間9の上側の境界)を規定するための壁面2aを有している。
【0022】
可動型3はコア型として構成されており、固定型2に対して開閉可能に設けられる。すなわち、可動型3は、固定型2のパーティングラインに可動型3のパーティングラインが突き合わされた状態で固定型2に締め付けられる型閉じ状態(図1の状態)と、固定型2のパーティングラインから離間した型開き状態との間で移動可能に設けられる。可動型3の型閉じ動作又は型開き動作の方向は、固定型2のパーティングラインに直角な方向(図1の紙面の上下方向200)である。また可動型3は、成形後に射出成形装置1(可動型3)が型開き動作するに伴い、成形体が張り付いた状態となる側の型板である。
【0023】
可動型3は、固定型2に対向した対向面3aを有する。対向面3aは、本体部101の裏面(換言すれば空間9の下側の境界)を規定するための壁面である。この対向面3aには、スライド11を収容するための凹部4が形成されている。凹部4は、スライド11の形状に対応した形状に形成されている。具体的には、凹部4は、後述のスライド11の内側部12に対応した形状に形成された第1部分4aと、スライド11の外側部13に対応した形状に形成された第2部分4bとを有する。これら第1部分4a、第2部分4bが図1の左右方向210に連続するように形成されている。
【0024】
第1部分4aは、第2部分4bよりも小さい空間を形成している。具体的には、第1部分4aの底面が第2部分4bの底面よりも可動型3の表面3aに近い位置に設けられており、つまり第1部分4aは第2部分4bより表面3aからの深さが小さい形状に形成されている。
【0025】
また、第1部分4aの、図1の紙面の左右方向210における第2部分4bと反対側の側面には第1の窪み部6が形成されている(図2も参照)。第1の窪み部6は、可動型3の、固定型2に対向した表面3aに露出した位置に形成されており、換言すれば射出空間9に露出(導通)した位置に形成されている。第1の窪み部6は、型閉じ状態において、後述するスライド11の第1凸部17を嵌合させて支持するための部位であって、第1凸部17の底面(図1の上下方向200における下側に位置する面)に対向した位置に形成される底面6aと、第1凸部17の側面に対向した位置に形成される側面6bとを有する(図2参照)。底面6aは、図1の上下方向200に直角な水平面に対して略平行に設けられた平面である。底面6aは水平面に対して厳密に平行に設けられてもよいし、水平面に対して若干傾斜して設けられてもよい。底面6aが水平面に対して傾斜して設けられる場合には、底面6aは、側面6bに近づくにつれて次第に凹部4の開口側(換言すれば可動部3の表面3a側)に接近するように設けられる。
【0026】
第1の窪み部6の側面6bは、水平面に対して略直角に設けられた平面である。側面6bは水平面に対して厳密に直角に設けられてもよいし、水平面に対して直角以外の角度に若干傾いて設けられてもよい。また側面6bは、図1図2の右方向211に向いた第1部位と図1図2の紙面に直角な方向に向いた第2部位とを有する。側面6bの上記第1部位が、第1凸部17の、側方への突出方向212(図1図2の右方向)に向いた側面(換言すれば第1凸部17の突出方向212における先端面)に対向している。側面6bの上記第2部位が、第1凸部17の、図1の紙面に直角な方向に向いた側面に対向している。このように、第1の窪み部6は、第1凸部17の上面を除く全表面に対向した面を有している。
【0027】
凹部4の第2部分4bは、第1部分4aよりも大きい空間を形成している。具体的には、第2部分4bは第1部分4aより表面3aからの深さが大きい形状に形成されている。第2部分4bの、左右方向210における第1部分4aと反対側に位置する側面5は、固定型2に対する可動型3の開閉方向200(図1参照)に対して傾斜した平面に設定されている。以下、この側面5を第1傾斜面という。第1傾斜面5は、凹部4の底部から開口部に近づくにつれて次第に第1部分4aから遠ざかるように(図1の右方向211(スライド11の、ドックハウス部位102からの退避方向に平行な方向)に進むように)傾斜している。なお、第1傾斜面5は、図1の左右方向210に対しても傾斜している。第1傾斜面5は、成形後にスライド11を凹部4から突出させつつ、ドックハウス部位102から退避させるために、スライド11を開閉方向200(換言すれば、可動型3からの成形体100の押し出し方向)に対して斜めの方向に案内する案内面として機能する。
【0028】
また、第1傾斜面5には第2の窪み部7が形成されている。第2の窪み部7は、可動型3の表面3aに露出した位置に形成されており、換言すれば射出空間9に露出(導通)した位置に形成されている。第2の窪み部7は、型閉じ状態において、後述するスライド11の第2凸部18を嵌合させて支持するための部位であって、第2凸部18の底面に対向した位置に形成される底面7aと、第2凸部18の側面に対向した位置に形成される側面7bとを有する。側面7bは、図1の紙面の左方向212に向いた第1部位と、左右方向210に直角な方向(図1の紙面に直角な方向)に向いた第2部位とを有する。側面7bの上記第1部位が、第2凸部18の、図1の右方向211に向いた側面に対向している。側面7bの上記第2部位が、第2凸部18の、図1の紙面に直角な方向)に向いた側面に対向している。このように、第2の窪み部7は、第2凸部18の上面を除く全表面に対向した面を有している。
【0029】
第1の窪み部6及び第2の窪み部7は、凹部4の互いに反対側に位置する、かつ、成形後にスライド11がドックハウス部位102から退避する方向に平行な方向210に位置する側面に形成されている。
【0030】
また可動型3には、後述するスライド押出部材19が挿通される孔3bが形成されている。この挿通孔3bは、スライド押出部材19の延設方向に対応した方向(図1の上下方向200に対して斜めの方向220)に形成されている。挿通孔3bの方向は、第1傾斜面5と同じ方向に設定されている。また挿通孔3bは、凹部4の底部に導通するように形成される。
【0031】
なお、固定型2又は可動型3には、射出成形装置(図示外)から導入される溶融樹脂を射出空間8まで導く通路(スプール、ランナー、ゲート)が形成されている。その通路の端部であるゲートが射出空間8に導通している。
【0032】
スライド11は、可動型3側に設けられて、型閉じ状態において可動型3の凹部4に配置される。スライド11は、成形後の型開き状態において、成形体100が可動型3から上方201に押し出されるのに伴い、成形体100の押し出し方向201に対して斜めの方向である、凹部4の第1傾斜面5に沿った方向220に移動(スライド)可能に設けられる。スライド11が、第1傾斜面5を含む凹部4の各側面との間で摺動するために、スライド11の側面と凹部4の側面との間には0.03mm~0.05mm程度の隙間が設定されている。
【0033】
スライド11は凹部4に配置された状態において可動型3の表面3aと同一平面を形成する表面11aを有する。この表面11aが射出空間8の一部の壁面を形成している。また、スライド11は型閉じ状態で水平方向(図1の上下方向200に直角な方向)においてスライド11の全体が射出空間8に重なる位置に設けられ、換言すれば、成形完了状態では図3の平面視で見てスライド11の全体が成形体100に重なる位置に設けられる。なお、図3では、成形完了状態での成形体100とスライド11との平面視での位置関係を示すために、成形体100に重ねて1つのスライド11を破線で示している。スライド11は、ドックハウス部位102の個数分設けられており、これに応じて、凹部4や後述するスライド押出部材19もスライド11の個数分(ドックハウス部位102の個数分)設けられる。スライド11は、射出空間8に成形体100が成形された成形完了状態においてドックハウス部位102の内側に位置する内側部12と、ドックハウス部位102の外側に位置する外側部13とを有する。
【0034】
内側部12は、型閉じ状態において、固定型2及び可動型3との間で射出空間8の一部である、ドックハウス部位102に対応した空間10を形成する部位である。内側部12は、外側部13よりも小さい形状に形成されている。具体的には、内側部12の、図1の紙面の上下方向200(可動型3の開閉方向)における幅H3(図2参照)は、外側部13の、上下方向200における幅H1よりも小さい。より具体的には、内側部12の上面と外側部13の上面とが同一平面11aを形成するとともに、内側部12の底面が外側部13の底面よりも上面11aに近い位置に形成される。また、内側部12の、図3の紙面の上下方向(図1の紙面に直角な方向)における幅は、外側部13の、図3の紙面の上下方向(図1の紙面に直角な方向)における幅よりも小さい。
【0035】
また、内側部12の、図1の左方向212(スライド11の退避方向211と反対の方向)の端に位置する側面には、左方向212に突出した第1凸部17を有する(図2も参照)。第1凸部17は、内側部12の側面12aの上端(スライド11が凹部4から突出する方向201(図1図2の上方向)における端部)に形成されている。換言すれば、第1凸部17は、スライド11の表面11aと同一平面を形成する位置に形成されている。図2に示すように、第1凸部17の先端側の一部17aは、型閉じ状態において上記第1の窪み部6に嵌合する一方で、第1凸部17の基端側の残余部17b(第1凸部17から先端側の一部17aを除いた部分)は第1の窪み部6の外側に位置する。残余部17bは、ドックハウス部位102の貫通孔109(図5参照)に対応する部位である。第1凸部17の先端側部17aは、成形完了状態においてドックハウス部位102の外側に位置する。第1凸部17の基端側部17bは成形完了状態においてドックハウス部位102の内側(厳密には、ドックハウス部位102の貫通孔109内)に位置する。
【0036】
第1凸部17の先端側部17aは略直方体状に形成されている。先端側部17aの上面(スライド11の表面11aに一致した面)と、底面(第1の窪み部6の底面6aに接触する面)とは互いに同等の面積の略長方形に形成される。スライド11が凹部4に配置された状態では、先端側部17aは上面以外は第1の窪み部6の壁面に接触可能に覆われるように設けられる。またスライド11が凹部4に配置された状態では、第1凸部17(先端側部17a及び基端側部17b)の上面は上方の空間に露出している。
【0037】
成形体100にヒケが発生するのを抑制するという観点では、第1凸部17の、可動型3の開閉方向に平行な方向200における幅H2(図2参照)は小さい方が好ましく、好ましくは例えば20mm以下に設定され、より好ましくは例えば10mm以下に設定される。幅H2が小さければ、射出される溶融樹脂の圧力により第1凸部17に生じる、方向200における変形量を小さくできるためである。この第1凸部17の変形量が大きいと、成形体100の表面に生じる凹み量が大きくなって、ヒケとして表出される場合がある。幅H2は、具体的には、内側部12の、上記平行な方向200における幅の最大値H3(内側部最大幅)(図2参照)よりも小さく、例えば内側部最大幅H3の2分の1以下に設定される。また上記幅H2は、例えば外側部13の上記平行な方向200における幅の最大値H1(外側部最大幅)(図1参照)の5分の1以下に設定され、好ましくは10分の1以下に設定される。なお、外側部最大幅H1は、スライド11全体における、上記平行な方向200における幅の最大値でもある。
【0038】
外側部13は、内側部12を支持するとともに、型閉じ状態において固定型2及び可動型3との間で、成形体100の本体部101に対応した射出空間9の一部を形成する部位である。外側部13の、図1の右方向211(スライド11の、ドックハウス部位102からの退避方向に平行な方向)の端に位置する側面14は、可動型3の開閉方向200に対して傾斜した平面に設定されている。以下、この側面14を第2傾斜面という。第2傾斜面14は、凹部4の第1傾斜面5と同じ傾斜角度に設定されている。第2傾斜面14は、スライド11が凹部4に配置された状態で、凹部4の第1傾斜面5と対向する位置で接触可能に設けられる。
【0039】
第2傾斜面14の上端(スライド11が凹部4から突出する方向201における端部)には側方に突出する第2凸部18が形成されている。第2凸部18は、スライド11の表面11aと同一平面を形成する位置に形成されている。第2凸部18は、スライド11が凹部4に配置された状態で、凹部4の第2の窪み部7に嵌合し、具体的には、第2凸部18の上面以外の壁面が第2の窪み部7の壁面に接触可能に覆われ、第2凸部18の上面は上方の空間に露出している。
【0040】
第2凸部18は、第1凸部17の先端側部17aと同様の形状に形成されている。また第2凸部18の、図1の上下方向200における幅は、第1凸部17の先端側部17aの幅H2と同等に設定されている。
【0041】
このように、第1凸部17(先端側部17a)及び第2凸部18は、スライド11の互いに反対側に位置する側面12a、14に設けられ、かつ、スライド11の退避方向に平行な方向210の端に位置する側面12a、14に設けられる。なお、第1凸部17の、図1の紙面に直角な方向における幅と、第2凸部18の、図1の紙面に直角な方向における幅とは同じ幅であってもよいし、異なる幅であってもよい。また、本実施形態では、スライド11の、図1の紙面の上下方向200及び左右方向210の両方に直角な方向(図1の紙面に直角な方向)に位置する側面には凸部は形成されていない。なお、第1凸部17の先端側部17aが本発明の凸部及び貫通凸部に相当する。第2凸部18が本発明の凸部及び外側部凸部に相当する。
【0042】
スライド11は、スライド押出部材19に取り付けられている。具体的には、スライド押出部材19の先端側の一部がスライド11(外側部13)の底面11bから外側部13の内部に入り込む形態で、スライド押出部材19が外側部13に取り付けられている。
【0043】
さらに、射出成形装置1は、上記金型(固定型2、可動型3及びスライド11)の他に、スライド押出部材19と、押出動作部21と、成形体押出部材23と、駆動部24とを備えている。
【0044】
スライド押出部材19は、成形体100が可動型3から押し出されるのに伴い、スライド11を斜め方向220に移動させるための部材である。スライド押出部材19は棒状に形成されている。スライド押出部材19の先端側はスライド11に取り付けられている。スライド押出部材19の基端部20は、押出動作部21に取り付けられている。具体的には、基端部20は、押出動作部21に形成される案内空間部22において、図1の紙面で右方向211(スライド11の退避方向に平行な方向)には押出動作部21との間の相対的な移動が可能であり、それ以外の方向には押出動作部21との間の相対的な移動が規制された形態で設けられる。またスライド押出部材19は、可動型3の斜めの挿通孔3bに挿通されて、挿通孔3bの方向に移動可能に設けられる。スライド押出部材19の延設方向は、スライド11の第2傾斜面14の傾斜方向と同じ方向に設定されている。また、スライド押出部材19は、後述の成形体押出部材23の動作に同期して動作する。また、スライド押出部材19は、金型の開閉方向200に直角な水平方向において射出空間8に重なる位置に設けられている。
【0045】
押出動作部21は、成形後の型開き状態において、後述の成形体押出部材23を上方向201(可動型3の開閉方向に平行であって固定型2に接近する方向)に移動させ、かつ、成形体押出部材23の移動に同期してスライド押出部材19を斜め方向220に移動させるための部材である。押出動作部21は上方向201に移動可能に設けられる。押出動作部21は上記案内空間部22を有しており、その案内空間部22にスライド押出部材19の基端部20が設けられている。案内空間部22は、基端部20が配置された状態で、右方向211に基端部20が移動可能な空間を有し、それ以外の方向には基端部20の移動を規制する壁面を有するように形成されている。
【0046】
成形体押出部材23は、成形後の型開き状態において、成形体100を可動型3から上方向201に押し出すための部材である。成形体押出部材23は、上下方向200に伸びた棒状に形成されている。成形体押出部材23の一端は射出空間8に露出して射出空間8の壁面の一部を形成し、他端は押出動作部21に取り付けられている。なお、成形体押出部材23が本発明の押出部材に相当する。
【0047】
駆動部24は押出動作部21を上下方向200に駆動するための部材であり、例えばエアシリンダ、油圧シリンダなどである。なお、スライド押出部材19、押出動作部21及び駆動部24が本発明のスライド制御部材に相当する。
【0048】
次に、射出成形装置1の動作を説明する。先ず、固定型2と可動型3とが型閉じ状態(図1の状態)となる。次に、ゲート(図示外)を介して射出空間8に溶融樹脂を射出する。次に、射出空間8に充填された溶融樹脂を冷却して、成形体100にする。図6は、成形完了時の状態であって、射出空間8に成形体100が配置された状態を示している。図6の状態では、スライド11の内側部12はドックハウス部位102の内側に配置されており、外側部13はドックハウス部位102の外側に配置されている。
【0049】
次に、可動型3、スライド11、スライド押出部材19、押出動作部21、及び成形体押出部材23が図6の紙面で下方202に移動することで型開き状態となる。図7は型開き状態を示している。型開き状態では、成形体100は可動型3に張り付いた状態となる。
【0050】
次に、駆動部24によって押出動作部21が上方向201に動作する。押出動作部21の動作に伴い、これに取り付けられた成形体押出部材23は上方向201に移動する。さらに、押出動作部21の動作に伴い、スライド11の第2傾斜面14が凹部4の第1傾斜面5上を摺動しながら、スライド押出部材19及びスライド11は斜め方向220に移動する。このとき、スライド押出部材19の基端部20が、押出動作部21の上昇に伴い上方向201に移動しつつ、案内空間部22内を横方向211に移動することで、スライド押出部材19及びスライド11の斜め方向220への移動が可能となる。
【0051】
これによって、図8に示すように、成形体100は可動型3から上方向201(固定型2と可動型3との開閉方向に平行な方向)に押し出される。また、スライド11は、成形体100の可動型3からの押し出しに伴い、凹部4から突出するとともに、スライド11の内側部12がドックハウス部位102から次第に退避される。なお、図8では、スライド11(内側部12)がドックハウス部位102から退避される途中の状態を示している。その後、成形体100を回収する。
【0052】
このように、本実施形態では、スライド11の側面に凸部17、18が設けられ、これら凸部17、18が可動型3に形成された窪み部6、7で支持されるので、溶融樹脂の射出中にスライド11が動いてしまうのを抑制できる。具体的には、凸部17、18は、窪み部6、7の底面6a、7aによって上下方向200への移動が規制され、窪み部6、7の側面6b、7bによって水平方向(上下方向200に直角な方向)への移動が規制されるので、スライド11が射出中に上下方向200及び水平方向に動いてしまうのを抑制できる、例えば、射出中にスライド11が図6の符号230で示される方向に変位しようとした場合であっても、窪み部6、7の底面6a、7aで凸部17、18の上下方向200への動きが規制されることで、スライド11全体として方向230に変位するのを抑制できる。また凸部17、18は、スライド側面12a、14の、スライド11が凹部4から突出する方向201における端部(換言すれば射出空間8に露出した位置)に設けられており、つまり射出空間8により近い位置でスライド11が可動型3で支持されることになるので、スライド11の、射出空間8に露出した部位が射出中に動いてしまうのを抑制できる。これにより、成形体100にヒケ等の外観不良が発生するのを抑制できる。また、凸部17、18がスライド側面12a、14の端部に形成されることで、スライド11が凹部4から突出する動作が可能となる。
【0053】
また、凸部17、18はスライド11の互いに反対側に位置する側面12a、14に設けられるので、スライド11が両端支持梁と同様の構造となり、スライド11全体の動きを抑制でき、具体的には、図6の符号230で示される回転方向のスライド11の動きを抑制できる。また、後述の実施例で示すように、射出中のスライド11の変形量(歪み量)を抑制できる。射出中のスライド11の動き及び変形量の双方を抑制できることで、成形体100にヒケ等の外観不良が発生するのを、より一層抑制できる。
【0054】
また、第1凸部17はスライド11の内側部12の側面12aに設けられるので、射出中の内側部12の動きを抑制でき、ひいてはドックハウス部位102周辺の部位にヒケ等の外観不良が発生するのを抑制できる。また第2凸部18はスライド11の傾斜面14に設けられるので、傾斜面14とそれに対向する凹部4の傾斜面5との間のクリアランスに起因したスライド11の動きを抑制できる。
【0055】
また、凸部17、18の上下方向200における幅H2が、スライド11の上下方向200における幅の最大値H1の5分の1以下(例えば10mm以下)であるので、溶融樹脂の圧力による凸部17、18の上下方向200における変形量を抑制できる。これによって、射出中のスライド11の変形によって成形体100にヒケ等の外観不良が発生するのをより一層抑制できる。
【0056】
また、スライド11が成形体100の裏面側に配置されるので、仮に、スライド11の跡(例えば凸部17、18の跡)が成形体100に形成されたとしても、その跡を目立たなくすることができる。
【0057】
また、スライド押出部材19はスライド11が設けられる同じ側(つまり可動型3側)に取り付けられるので、スライド押出部材19を、水平方向における射出空間8に重なる位置に設けることができる。これにより、金型の開閉方向200に直角な水平方向においてドックハウス部位102が成形体100のどの位置に設けられたとしても、ドックハウス部位102を含んだ成形体100を成形できる。
【実施例0058】
スライド11の水平方向における両端(凸部17、18)が可動型3に支持されることで、射出中にスライド11が動いてしまうのを抑制できることに加えて、溶融樹脂の圧力によるスライド11の変形量も抑制できる。以下、実施例としてスライド11に凸部17、18が設けられた場合のスライド11の変形量と、比較例としてスライドに凸部が設けられない場合のスライドの変形量の具体例を示す。
【0059】
(実施例)
先ず、図9の実施例におけるスライド11の変形量を例示する。なお、図9図1と同じ構造の金型であって、図中にスライド11の各部の幅の値が示されている。なお、図9では固定型及び可動型の図示を省略している。図9において、スライド11の外側部13の上下方向における幅が40mm、スライド11の内側部12の上下方向における幅が10mm、内側部12の上面の左右方向における幅が15mm、外側部13の上面の左右方向における幅が30mmである。なお、図9には示されていないが、スライド11の上面の、図9の紙面に直角な方向における幅は54mmである。また、凸部17、18の上面(射出空間に露出した面)の面積が2mm×20mm=40mm、凸部17、18の底面の面積が上面の面積と同じ40mm、凸部17、18の上下方向における幅H2が3mmである。また、溶融樹脂300の圧力Pが5kgf/mmであるとする。スライド11の材質は鋼材であるとして、鋼材の縦弾性係数は21000kgf/mmである。
【0060】
先ず、第1凸部17の先端側部17a及び第2凸部18の変形量を示す。なお、以下では先端側部17aを単に凸部17という。溶融樹脂300によって凸部17、18の上面かかる荷重は、(樹脂圧)×(上面の面積)=5kgf/mm×40mm=200kgfとなる。この荷重が凸部17、18の底面に加わるとすると、凸部17、18の底面の耐圧は、(底面にかかる荷重)÷(底面の面積)=200kgf÷40mm=5kgf/mmとなる。凸部17、18の上下方向における歪み率は、(底面の耐圧)÷(縦弾性係数)=5kgf/mm÷21000kgf/mm=0.000238となる。凸部17、18の上下方向における変形量は、(歪み率)×(凸部上下方向幅)=0.000238×3mm=0.000714mmとなる。第1凸部17の変形量と第2凸部18の変形量とを合算すると、0.001428mmとなる。
【0061】
次に、スライド11の凸部17、18を除いた部分の変形量を示す。ここで、スライド11の形状を、図10に示すように、両端支持の梁構造25に単純化する。図10の梁構造25は直方体状であり、図10の紙面に平行な断面の上下方向における幅が30mm、左右方向における幅が45mm、紙面に直角な方向における幅が54mmである。
【0062】
梁構造25の上面の面積は54mm×45mm=2430mmとなる。溶融樹脂によって梁構造25の上面にかかる荷重は、(樹脂圧)×(上面の面積)=5kgf/mm×2430mm=12150kgfとなる。
【0063】
ここで、溶融樹脂によって均等分布荷重が梁構造25に加えられたと仮定したときの、梁構造25のたわみを以下の式1に基づいて計算する。式1において、wは、梁構造25にかかる均等分布荷重であり、具体的には、(梁構造25の上面にかかる荷重)÷(梁構造25の長さ)=12150kgf÷45mm=270kgf/mmである。Lは梁構造25の長さであり、具体的には45mmである。Eは梁構造25の縦弾性係数であり、具体的には21000kgf/mmである。Iは梁構造25の断面二次モーメントであり、以下の式2で示される。式2において、bは、梁構造25の奥行方向幅(図10の紙面に直角な方向における幅)であり、具体的には54mmである。hは梁構造25の厚み(図10の紙面の上下方向における幅)であり、具体的には30mmである。したがって、断面二次モーメントIは、1/12×54mm×(30mm)=121500mmとなる。
式1:たわみ=5wL4/384EI
式2:I=bh/12
【0064】
上記各値を式1に代入して梁構造25のたわみを計算すると、たわみは0.00565mmとなる。これが、スライド11の、凸部17、18を除いた部分における変形量とする。
【0065】
そして、スライド11の各部の変形量を合算すると、0.001428mm+0.00565mm=0.007078mmとなる。
【0066】
(比較例)
次に、スライドに凸部が設けられない場合のスライドの変形量の具体例を示す。図11は比較例におけるスライドの構造を示している。図11のスライド30は、可動型に支持される凸部が側面には設けられておらず、それ以外の形状は図9のスライド11と同じ形状である。なお、図11において、スライド30の左側に側面に凸部33が設けられているが、これはドックハウス部位の側壁の貫通部を形成するためのものであり、可動型には支持されていない。なお、図11では固定型及び可動型の図示を省略している。
【0067】
図11において、溶融樹脂300による圧力がスライド30の底面32まで伝わり、底面32でこの圧力に耐えると仮定して、この場合のスライド30の上下方向における変形量を以下のように求める。
【0068】
溶融樹脂300の圧力は5kgf/mmである。スライド30の上面31の面積は54mm×45mm=2430mmである。溶融樹脂300によって上面31にかかる荷重は、(樹脂圧)×(上面31の面積)=5kgf/mm×2430mm=12150kgfである。スライド30の底面32の面積は40mm×25mm=1000mmである。スライド押出部材34の直径は16mmである。スライド押出部材34の断面積は、(半径)×3.14=(8mm)×3.14=200.96mmである。底面32の有効面積は、(底面32の面積)-(スライド押出部材34の断面積)=1000mm-200.96mm=799.04mmである。
【0069】
上面31にかかる荷重(12150kgf)が底面32に伝わるとして、底面32の耐圧は(底面32にかかる荷重)÷(底面32の有効面積)=12150kgf÷799.04=15.20575kgf/mmとなる。溶融樹脂300によるスライド30の上下方向における歪み率は、(底面32の耐圧)÷(縦弾性係数)=15.20575kgf/mm÷21000kgf/mm=0.000724となる。そして、スライド30の上下方向における変形量は、(歪み率)×(スライド30の上下方向における幅)=0.000724×40mm=0.028963mmとなる。
【0070】
(実施例と比較例との比較)
図11の比較例におけるスライド変形量は0.028963mmであるのに対し、図9図10の実施例におけるスライド変形量は、比較例のスライド変形量の約8割減である0.007078mmであった。このように、実施例ではスライド変形量を大幅に改善できる。
【0071】
なお、上記実施例では、凸部17、18の上下方向における幅H2が3mmとした例を示したが、仮に幅H2が10mmであった場合には、凸部17、18の合算変形量は0.00476mmとなり、スライド11全体の変形量は0.00476mm+0.00565mm=0.01041mmとなり、比較例の変形量の半分以下となる。
【0072】
また、図9と同様の金型構造で射出成形を行ったところ、成形体にヒケは発生しなかった。これに対して、図11と同様の金型構造で射出成形を行ったところ、成形体にヒケが発生した。
【0073】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない限度で種々の変更が可能である。例えば上記実施形態では、成形後の型開き状態で可動型に成形体が張り付いた状態となる例を示したが、固定型に成形体が張り付いた状態となる金型であってもよく、この場合には、固定型側にスライド、スライドを収容する凹部及びスライドの移動を制御する部材(スライド押出部材、押出動作部等)が設けられる。
【0074】
また、上記実施形態では、スライドの退避方向に平行な方向(図1の左右方向)に位置するスライド側面に凸部が設けられた例を示したが、スライドの退避方向に平行な方向に位置するスライド側面に加えて、又は代えて、スライドの退避方向と金型の開閉方向の両方に直角な方向(図1の紙面に直角な方向)に位置するスライド側面に凸部が設けられてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 射出成形装置
2 固定型(第1型)
3 可動型(第2型)
4 凹部
5 凹部の傾斜面(第1傾斜面)
6、7 窪み部
8 射出空間
11 スライド
12 スライドの内側部
13 スライドの外側部
14 スライドの傾斜面(第2傾斜面)
17、18 スライドの凸部
19 スライド押出部材
21 押出動作部
23 成形体押出部材
24 駆動部
100 成形体
102 ドックハウス部位(箱状部位)
108 ドックハウス部位の開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11