(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073587
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】対象物の定量方法、対象物量の比較方法、及び採取効率の評価方法、並びに、これらに用いるキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20220510BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220510BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220510BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20220510BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220510BHJP
【FI】
C12Q1/06 ZNA
G01N33/50 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6876 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020183662
(22)【出願日】2020-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】517448489
【氏名又は名称】合同会社H.U.グループ中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 祐馬
(72)【発明者】
【氏名】湯原 悟志
(72)【発明者】
【氏名】小高 健之
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA39
2G045AA40
2G045CB21
2G045CB30
2G045DA13
2G045DA36
2G045FB02
2G045FB03
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ05
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS32
4B063QS34
4B063QX01
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】 採取方法や採取条件等による差を補正し、固体表面上の対象物の量を簡便かつ正確に定量可能な対象物の定量方法を提供すること。
【解決手段】 固体表面上の対象物の量を定量する方法であり、以下の(1)~(3):
(1)固体表面上に、一定量の標準物を付着させた後、前記固体表面上から前記標準物を含む試料を採取する採取工程、
(2)前記試料中の標準物及び対象物の量を測定する測定工程、及び
(3)前記固体表面上に付着させた標準物の量と前記測定工程で測定された標準物の量とから、付着させた標準物の量に対する採取された標準物の量の割合を算出し、前記割合に基づいて、前記測定工程で測定された対象物の量を補正する補正工程、
を含む、対象物の定量方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体表面上の対象物の量を定量する方法であり、以下の(1)~(3):
(1)固体表面上に、一定量の標準物を付着させた後、前記固体表面上から前記標準物を含む試料を採取する採取工程、
(2)前記試料中の標準物及び対象物の量を測定する測定工程、及び
(3)前記固体表面上に付着させた標準物の量と前記測定工程で測定された標準物の量とから、付着させた標準物の量に対する採取された標準物の量の割合を算出し、前記割合に基づいて、前記測定工程で測定された対象物の量を補正する補正工程、
を含む、対象物の定量方法。
【請求項2】
複数の固体表面上の対象物の量を比較する方法であり、以下の(1)~(3):
(1)複数の固体表面上に、互いに同量の一定量の標準物を付着させた後、各固体表面上から前記標準物を含む試料を採取する採取工程、
(2)前記試料中の標準物及び対象物の量を測定する測定工程、及び
(3)前記測定工程で測定された標準物の量から、複数の固体表面上から採取された標準物の量の比を算出し、前記比に基づいて、前記測定工程で測定された対象物の量を補正する補正工程、
を含む、対象物量の比較方法。
【請求項3】
固体表面上からの試料の採取効率を評価する方法であり、以下の(1)~(3):
(1)固体表面上に、一定量の標準物を付着させた後、前記固体表面上から前記標準物を含む試料を採取する採取工程、
(2)前記試料中の標準物の量を測定する測定工程、及び
(3)前記固体表面上に付着させた標準物の量と前記測定工程で測定された標準物の量とから、付着させた標準物の量に対する採取された標準物の量の割合を算出し、前記割合に基づいて、試料の採取効率を評価する評価工程、
を含む、採取効率の評価方法。
【請求項4】
前記採取が、スワブ、綿棒、及びシートからなる群から選択される少なくとも1種の器具による採取である、請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記対象物が、微生物及びウイルスからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の方法に用いるためのキットであり、前記標準物、及び前記標準物を前記固体表面上に一定量付着せしめることが可能な標準物付着手段を備える、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の定量方法、対象物量の比較方法、及び採取効率の評価方法、並びに、これらに用いるキットに関し、より詳細には、固体表面上の対象物の量を定量する方法、複数の固体表面上の対象物の量を比較する方法、及び固体表面上からの試料の採取効率を評価する方法、並びに、これらに用いるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
細菌をはじめとする多様な微生物によって構成される微生物叢は、ヒトの健康状態や環境状態と密接に関係することから、環境中にどのような微生物がどれくらい存在するのかを解析する研究が古くから行われている。また、近年では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生、感染拡大を受けて、主にヒトが活動する電車内や建物内等の建造環境にウイルスがどれくらい存在するのかを解析する需要が特に高まっている。
【0003】
前記建造環境において、簡易的に壁や机等の固体表面上から試料を採取する場合には、スワブやシート等を用いて拭う方法が一般的である。しかしながら、かかる従来技術では、拭う面積、拭い時間、拭い圧力、採取器具の部位(例えば、スワブの側面と先端等)、採取者の技術力といった多くの採取条件が採取量に影響を与えるが、これらを統一することは困難であった。そのため、採取条件によって採取量にばらつきが生じてしまい、採取した微生物等の対象物の量を標準化することが困難であった。さらに、可能な限り採取条件を揃えたとしても、本当に同じ条件で採取できたか否かを評価することも困難であった。
【0004】
また、上記の微生物叢の定量については、例えば、非特許文献1にあるように、全DNA量及び16S rRNA遺伝子のコピー数がそれぞれ既知の微生物が含まれた外部標準(ZymoBIOMICS Spike-in Control、ザイモリサーチ社)を試料に添加してDNA配列を解析することにより、前記試料中の微生物スペクトルの正確な把握や微生物数の定量を行う方法が知られている。さらに、例えば、特許文献1には、Clostridium difficileの16S rRNA配列と全細菌に共通する16S rRNA配列等とについてqPCRを行い、試料中の全細菌量に対するClostridium difficileの絶対量を定量する方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、従来の定量方法ではいずれも、標準物となる外部標準やqPCRのプライマー等を採取後の試料に添加することで定量を行っており、採取した後の試料における定量のみしかできない。そのため、例えば、スワブ等の採取量の測定が困難な器具を用いて、壁や机等の固体表面上から試料を採取した場合には、スポイト等の採取量が測定可能な器具を用いた場合や、糞便等の全量がわかっている対象から試料を採取した場合とは異なり、採取した環境中にどれくらいの微生物等が存在するかまでの定量は困難であった。このように、従来技術には、環境から微生物等の対象物を採取した際、採取方法や採取条件等による差を補正し、採取前の部位にどれくらいの対象物が存在するかを定量する方法や、その部位からどの程度の効率で対象物が採取されたかを評価する方法が存在していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ZymoBIOMICS Spike-in Control[on line],フナコシ株式会社,[2020年9月30日検索],インターネット<URL:https://www.funakoshi.co.jp/contents/68731>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、採取方法や採取条件等による差を補正し、固体表面上の対象物の量を簡便かつ正確に定量可能な対象物の定量方法、複数の固体表面上の対象物の量を簡便かつ正確に比較可能な対象物量の比較方法、及び固体表面上からの試料の採取効率を評価可能な採取効率の評価方法、並びに、これらに用いるキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、事前に標準物を付着させた固体表面を採取対象として、採取した標準物で補正すること、すなわち、固体表面上に一定量の既知量の標準物を付着させた後、前記固体表面上から前記標準物を含む試料を採取し(採取工程)、前記試料中の標準物及び対象物の量を測定する(測定工程)と共に、前記固体表面上に付着させた標準物の量と前記測定工程で測定された標準物の量とから、付着させた標準物の量に対する採取された標準物の量の割合を算出し、前記割合に基づいて、前記測定工程で測定された対象物の量を補正する(補正工程)ことにより、採取方法や採取条件によらず、採取した試料により前記固体表面上の対象物の量を簡便かつ正確に定量できることを見出した。また、複数の固体表面上に、互いに同量の一定量の標準物を付着させた後、これら固体表面上から採取された標準物の量の比を算出することで、前記比に基づいて、複数の固体表面上の対象物の量を簡便かつ正確に比較できることや、前記割合を指標とすることで、固体表面上からの試料の採取効率を評価できることも見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かかる知見により得られた本発明の態様は次のとおりである。
[1]
固体表面上の対象物の量を定量する方法であり、以下の(1)~(3):
(1)固体表面上に、一定量の標準物を付着させた後、前記固体表面上から前記標準物を含む試料を採取する採取工程、
(2)前記試料中の標準物及び対象物の量を測定する測定工程、及び
(3)前記固体表面上に付着させた標準物の量と前記測定工程で測定された標準物の量とから、付着させた標準物の量に対する採取された標準物の量の割合を算出し、前記割合に基づいて、前記測定工程で測定された対象物の量を補正する補正工程、
を含む、対象物の定量方法。
[2]
複数の固体表面上の対象物の量を比較する方法であり、以下の(1)~(3):
(1)複数の固体表面上に、互いに同量の一定量の標準物を付着させた後、各固体表面上から前記標準物を含む試料を採取する採取工程、
(2)前記試料中の標準物及び対象物の量を測定する測定工程、及び
(3)前記測定工程で測定された標準物の量から、複数の固体表面上から採取された標準物の量の比を算出し、前記比に基づいて、前記測定工程で測定された対象物の量を補正する補正工程、
を含む、対象物量の比較方法。
[3]
固体表面上からの試料の採取効率を評価する方法であり、以下の(1)~(3):
(1)固体表面上に、一定量の標準物を付着させた後、前記固体表面上から前記標準物を含む試料を採取する採取工程、
(2)前記試料中の標準物の量を測定する測定工程、及び
(3)前記固体表面上に付着させた標準物の量と前記測定工程で測定された標準物の量とから、付着させた標準物の量に対する採取された標準物の量の割合を算出し、前記割合に基づいて、試料の採取効率を評価する評価工程、
を含む、採取効率の評価方法。
[4]
前記採取が、スワブ、綿棒、及びシートからなる群から選択される少なくとも1種の器具による採取である、[1]~[3]のうちのいずれか一項に記載の方法。
[5]
前記対象物が、微生物及びウイルスからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の方法。
[6]
[1]~[5]のうちのいずれか一項に記載の方法に用いるためのキットであり、前記標準物、及び前記標準物を前記固体表面上に一定量付着せしめることが可能な標準物付着手段を備える、キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、採取方法や採取条件等による差を補正し、固体表面上の対象物の量を簡便かつ正確に定量可能な対象物の定量方法、複数の固体表面上の対象物の量を簡便かつ正確に比較可能な対象物量の比較方法、及び固体表面上からの試料の採取効率を評価可能な採取効率の評価方法、並びに、これらに用いるキットを提供することが可能となる。そのため、本発明によれば、採取した試料中における対象物の定量に加え、試料を採取した固体表面上における対象物の総数の定量や比較も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】標準物付着手段の一態様を示す模式図である。
【
図2】標準物付着手段の他の一態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0014】
<対象物の定量方法>
本発明の第一の態様は、
固体表面上の対象物の量を定量する方法であり、以下の(1)~(3):
(1)固体表面上に、一定量の標準物を付着させた後、前記固体表面上から前記標準物を含む試料を採取する採取工程、
(2)前記試料中の標準物及び対象物の量を測定する測定工程、及び
(3)前記固体表面上に付着させた標準物の量と前記測定工程で測定された標準物の量とから、付着させた標準物の量に対する採取された標準物の量の割合を算出し、前記割合に基づいて、前記測定工程で測定された対象物の量を補正する補正工程、
を含む、対象物の定量方法(本明細書中、場合により単に「定量方法」という)である。
【0015】
本発明の定量方法に係る定量又は下記の比較方法に係る比較の対象となる「対象物」としては、特に制限されないが、例えば、原核生物、真核生物等の微生物;ウイルス;ウイロイド;花粉等の植物細胞;タンパク質等のポリペプチド;ビタミン、補酵素、ホルモン、毒素、薬剤等の低分子化合物が挙げられる。これらの中でも、微生物及びウイルスからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
本発明は、試料の採取量の測定が困難な場合であっても、採取方法や採取条件等による採取量の差を補正することが可能な方法である。したがって、前記対象物を採取する部位として、本発明を適用する部位は、試料の採取量の測定が困難である観点から、固体表面である。前記固体としては、採取時に外から加えられる力に抵抗できるものであればよく、ゲル等の半固体も含まれる。前記固体表面としては、平面であっても曲面であってもよく、凹凸を有していてもよく、布帛、多孔質体、又は発泡体のように孔を有していてもよい。また、親水性であっても疎水性であってもよい。
【0017】
このような固体表面としては、特に制限されず、例えば、建造環境を構成する壁、天井、床、建具、家具、装具、機械、乗り物の外装及び内装等の表面;包装体や容器の表面;衣類、寝具、装飾品の表面(これら前述の材質としては、例えば、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン等の合成樹脂;ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属;パルプ;木、綿、絹、麻等の天然素材;天然又は人工の皮革素材;ガラス等の鉱物材が挙げられる);或いは、寒天培地等の固体(ゲル)培地表面;作物、食肉等の食品表面;ヒトや動物の皮膚、毛髪、歯の表面;葉や幹等の植物表面が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
[採取工程]
本発明に係る採取工程では、先ず、前記固体表面上に、一定量の標準物を付着させる。本発明においては、先に前記固体表面上に一定量の標準物を付着させてから、当該標準物と前記対象物(ただし存在する場合)とを同時に同条件で採取するため、採取条件や採取方法による採取量のばらつきをなくすことができる。本発明において、「一定量」とは、所望の範囲内(少なくとも、試料を採取する範囲を含む範囲内)において一定濃度である量のことを示す。
【0019】
本発明に係る「標準物」としては、前記固体表面上に一定量付着させることができ、かつ、測定可能なものであれば特に制限されないが、例えば、微生物、核酸、粒子、低分子化合物が挙げられ、これらのうちの1種であっても2種以上の組み合わせであってもよい。
【0020】
本発明に係る標準物としての微生物としては、例えば、原核生物、真核生物等の微生物及びこれらの抽出物(凍結物、乾燥物、凍結乾燥物、破砕物等を含む)が挙げられ、具体的には、大腸菌、枯草菌、酵母、及びこれらの抽出物が挙げられる。前記微生物としては、対象物が微生物である場合には、測定の容易性の観点から、当該対象物以外の微生物から選択することが好ましい。
【0021】
本発明に係る標準物としての核酸としては、DNA、RNA等からなるポリヌクレオチドが挙げられ、その断片であってもよく、その全部又は一部に修飾核酸を含むものや、非天然型のヌクレオチド、断片中に特定の配列を含むものであってもよい。前記修飾としては、例えば、メチル化、脱アミノ化、が挙げられる。また、後述の標識物質による標識がなされたものであってもよい。非天然型のヌクレオチドとしては、例えば、PNA(polyamide nucleic acid)、LNA(登録商標、locked nucleic acid)、ENA(登録商標、2’-O,4’-C-Ethylene-bridged nucleic acids)が挙げられる。また、これら核酸としては、一本鎖であっても、二本鎖であっても、ヘアピン構造、ハンマーヘッド構造等の3次元構造を有していてもよい。さらには、細胞から抽出されたものであっても、人工的に合成されたものであってもよい。
【0022】
前記粒子は、下記の測定方法等に応じて適宜選択することができるが、例えば、蛍光粒子、非蛍光粒子、磁性粒子、荷電粒子、細胞様粒子が挙げられる。前記細胞様粒子とは、生体由来の細胞外小胞や、人工的に作製された細胞膜類似構造を有する粒子を示し、例えば、リン脂質に構成されるリポソーム、エクソソーム、リソソームが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、前記小胞や粒子内には、下記の測定方法等に応じて、任意の成分(例えば、核酸、ポリペプチド、低分子化合物)を含んでいてもよい。
【0023】
本発明に係る標準物としての低分子化合物としては、ビタミン、補酵素、ホルモン、毒素、薬剤等の化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本発明の定量方法において、前記固体表面上に付着させる前記標準物の量としては、採取の対象となる範囲内における絶対量が既知であることが必要であるが、その量としては、その種類や採取方法及び測定方法等に応じて適宜調整することができ、特に制限されない。例えば、標準物が微生物の場合には、直径10cmの円内あたり、1×102~1×108個の範囲を採用してもよい。
【0025】
前記固体表面上に前記標準物を付着させる手段(本発明において、「標準物付着手段」という)としては、前記標準物を前記固体表面上に一定量付着せしめることが可能なものであれば特に制限されず、適宜公知の手段を採用してもよい。このような標準物付着手段としては、例えば、前記標準物が充填され、充填物を一定範囲内に一定濃度で噴霧可能に制御されたスプレー装置が挙げられ、市販のフィンガーポンプ式スプレーボトル等を適宜採用することができる。
【0026】
また、例えば、
図1に示すように、固体表面(1)に円錐型のカバー(3)を密着させ、前記標準物が充填されたスプレー(2)をカバー(3)内に噴霧する装置を採用することにより、固体表面(1)に対してスプレー(2)を噴霧する範囲、高さ、及び角度を制御することができ、固体表面(1)上に一定量の標準物を付着させることができる。さらに、例えば、
図2に示すように、固体表面(1)上の所望の範囲以外をカバー可能なように穴の開いたマスク(4)と、前記標準物が充填されたスプレー(2)と、前記スプレーを固定可能な三脚(5)等と、を備える装置を採用することにより、マスク(4)でスプレー範囲を規定すると共に、三脚(5)で、固体表面(1)に対してスプレー(2)を噴霧する高さ及び角度を制御することができ、固体表面(1)上に一定量の標準物を付着させることができる。本発明に係る標準物付着手段としては、これらに制限されず、例えば、前記固体表面が平面である場合には、当該表面上に仕切りを設けて、当該仕切り内に濃度を調整した標準物を充填させる方法や、前記標準物を塗布したスタンプを前記固体表面上に押し付ける方法等を採用することもできる。
【0027】
前記固体表面に前記標準物を付着させる際、前記標準物は、適当な気体に分散させたり、溶媒に溶解又は懸濁して用いてもよい。前記気体及び溶媒は、前記固体表面や前記標準物の種類等に応じて適宜選択することができる。また、前記溶媒を用いる場合には、前記固体表面から当該溶媒を乾燥除去する工程をさらに含んでいてもよい。
【0028】
本発明の採取工程では、次いで、前記固体表面上から前記標準物を含む試料を採取する。これにより、前記標準物と、存在する場合には前記対象物と、を同じ条件で採取し、これらを含有する試料を得ることができる。
【0029】
本発明は、前記固体表面からの試料の採取量の測定が困難な場合であっても、採取方法や採取条件等による採取量の差を補正することが可能な方法である。したがって、本発明に係る「採取」としては、試料の採取量の測定が困難である観点から、スワブ、綿棒、及びシートからなる群から選択される少なくとも1種の器具による採取が好ましい。前記「シート」には、紙;織布、編布、不織布等の布帛;フィルム、粘着フィルム;粘着シート、ゲル状シート、シート状多孔質体、シート状発泡体等のシート類;及びこれらの積層体等が含まれる。
【0030】
前記器具の採取部位の材質としては、例えば、パルプ;綿;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル;ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル;ポリアミド;ポリビニルアルコール;アガー;ポリエチレングリコール;及びこれらの複合材が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
採取した試料は、前記器具から溶出させることが好ましい。前記器具がスワブや綿棒、シートである場合には、これを保存液に浸して溶出させることができる。前記保存液としては、前記標準物及び対象物の種類や下記の測定方法等に応じて適宜選択できるが、前記標準物及び/又は対象物が生物学的試料(例えば、微生物、ウイルス、核酸等)である場合には、例えば、水、生理食塩水、核酸保存液が挙げられる。また、前記器具がシートである場合には、当該シートをその材質に応じた溶液に溶解させ、遠心分離又はフィルターでシート残物を分離除去することにより、前記溶液中に試料を溶出させることもできる。前記溶液としては、前記標準物及び対象物の種類や下記の測定方法等に応じて適宜選択できるが、前記標準物及び/又は対象物が生物学的試料(例えば、微生物、ウイルス、核酸等)である場合には、例えば、水、生理食塩水、核酸保存液が挙げられる。
【0032】
[測定工程]
本発明の定量方法に係る測定工程では、前記試料中の標準物及び対象物の量を測定する。本発明において、「測定」には、目的の標準物及び対象物の検出、及びそれらの量の定量を含む。本発明に係る測定は、前記標準物及び対象物そのものの測定であっても、これらに由来する成分(例えば、核酸、ポリペプチド)を測定し、間接的に前記標準物及び対象物の量としてもよい。前記標準物の測定方法及び対象物の測定方法は、当該標準物及び対象物の種類に応じて、それぞれ、従来公知の方法又はそれに準じた方法を適宜採用することができ、同一試料に対してであれば、互いに同じ方法であっても、別の方法であってもよい。また、前記標準物の測定と対象物の測定とは、同一試料に対してであれば、同時に行っても別時に行ってもよい。
【0033】
例えば、前記対象物が微生物又はウイルスであって、前記標準物として微生物、核酸、又は細胞様粒子を用いる場合には、前記標準物として微生物若しくは核酸、又は核酸を含む細胞様粒子を用い、当該標準物及び前記対象物にそれぞれ由来する核酸(DNA又はRNA)を測定し、標準物及び対象物の量とする方法;前記標準物として微生物、又はポリペプチドを含む細胞様粒子を用い、当該標準物及び前記対象物にそれぞれ由来するポリペプチドを測定し、標準物及び対象物の量とする方法が挙げられる。これらの場合には、前記標準物の測定と対象物の測定とを同じ方法で同時に行うことも可能である。
【0034】
前記核酸としては、前記標準物及び/又は対象物が微生物又はウイルスである場合には、種間で保存された配列を含むことが好ましく、微生物のDNAである場合にはゲノムDNA上にあることが好ましい。このような核酸としては、例えば、微生物では16S rRNAをコードするDNA、ハウスキーピング遺伝子をコードするDNAが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
これらの核酸の塩基配列情報は、当業者であれば、公知の手法(例えば、次世代シーケンサー等)で前記標準物及び/又は対象物のゲノム情報を解析することや、公知のデータベース(例えば、Genbank等)により取得することができる。また、測定の対象とする核酸上の領域(以下、場合により「目的領域」という)の塩基配列は、当業者であれば、前記標準物の核酸と対象物の核酸との間で重複する配列とならないように、また必要であれば種間で保存された配列となるように、公知の手法(例えば、BLAST(NCBI)等)を用いて設定することができる。
【0036】
前記核酸の測定においては、先ず、前記試料からゲノムDNA又はRNAを抽出する。かかる方法としては特に制限なく公知の方法を適宜選択して用いることができ、例えば、SDSフェノール法、市販の核酸抽出・精製キットを用いる方法が挙げられる。次いで、例えば、前記目的領域を単離して測定する。目的領域の単離は、例えば、当該目的領域の配列の全て又は一部を挟み込むように設計された一対のオリゴヌクレオチドプライマーを用い、抽出したゲノムDNA、又はRNA若しくはそれを基に合成したcDNAを鋳型として、PCRを実施することによって行うことができる。次いで、例えば、得られたPCR産物に蛍光色素(例えば、エチジウムブロマイド、Syber Green(登録商標)等)をインターカレートして蛍光強度を測定することにより、前記目的領域を定量し、前記核酸の量とすることができる。また、前記PCRとして、例えば、リアルタイムPCRを行うことにより、前記目的領域の単離及び定量を同時に行うことができる。さらに、前記PCRとして、例えば、前記標準物の核酸に対するプライマーセットと前記対象物の核酸に対するプライマーセットとの2セットのプライマーを同時に用いるマルチプレックスPCRを行うことにより、当該標準物における目的領域の単離と対象物における目的領域の単離とを同時に行うことができる。前記PCRとしては、上記方法を複数組み合わせた方法であってもオリゴヌクレオチドプローブ等を組み合わせた方法であってもよい。
【0037】
このようなPCR又はその応用としては、例えば、インターカレーション法(いわゆるSyber Green法)に代表される、蛍光色素の存在下でPCRを行う方法;ダブルダイプローブ法(いわゆるTaqMan(登録商標)プローブ法)に代表される、蛍光色素を結合させたプローブを用いる方法;LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法;RPA法(Riconbinase-Porimerase-Amplification)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
前記核酸の測定方法としては、他にも例えば、単離した目的領域を該領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブが固定された基板を用いて測定するDNAアレイ法;高速液体クロマトグラフィー同位体希釈質量分析法(LC-IDMS);誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES);誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS);原子吸光分光法(Atomic Absorption Spectrometry、AAS)のうちの1種を単独で、又は他の方法と組み合わせて用いる方法が挙げられるが、これらに限定されず、従来公知の方法又はそれに準じた方法を適宜採用することができる。
【0039】
前記オリゴヌクレオチドプライマーにおいて、「挟み込むように設計された」とは、一対のオリゴヌクレオチドプライマーによる増幅産物が前記目的領域を含むように、当該オリゴヌクレオチドプライマーが設計されていることを意味する。したがって、前記測定方法によっては、当該一対のオリゴヌクレオチドプライマーのうち、いずれか一方のオリゴヌクレオチドプライマーは、前記目的領域に相補的な塩基配列を含んでいてもよい。
【0040】
前記オリゴヌクレオチドプローブとしては、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下において、前記目的領域に特異的にハイブリダイズするものが好ましい。前記オリゴヌクレオチドプローブは、適宜、後述の標識物質等によって標識して用いてもよい。
【0041】
前記オリゴヌクレオチド(プライマー及びプローブ)は、前記目的領域の塩基配列情報、並びに、その周辺の塩基配列情報に基づいて、上記した方法や増幅する領域に即した塩基配列となるように、さらには、前記目的領域以外の増幅産物が極力生じないように、それぞれ設計すればよい。このようなオリゴヌクレオチドは、当業者であれば、従来公知の方法又はそれに準じた方法で設計することができる。
【0042】
前記オリゴヌクレオチド(プライマー及びプローブ)の鎖長は、少なくとも15塩基である。通常は、15~100塩基であり、好ましくは17~30塩基である。当該オリゴヌクレオチドは、例えば、市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。また、前記オリゴヌクレオチドプローブは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。また、前記オリゴヌクレオチドは、天然のヌクレオチド(DNAやRNA)のみから構成されていなくともよく、前記非天然型のヌクレオチドにてその一部又は全部が構成されていてもよい。
【0043】
前記ポリペプチドの測定方法としては、例えば、目的のポリペプチドに特異的に結合するプローブ分子を用いる方法を採用することができる。前記ポリペプチドには、遺伝子にコードされる完全長のポリペプチドの他、その断片や合成したポリペプチドも含まれる。また、前記ポリペプチドには、糖鎖によって修飾された糖ペプチドも含む。これらのポリペプチドとしては、例えば、抗体;抗原ペプチド;プロテインA、プロテインG、プロテインL等の結合タンパク質;アビジンD、ストレプトアビジン等のアビジン類;コンカナバリンA、レンチルレクチン、インゲンマメレクチン等の各種レクチン;レクチン結合性糖鎖を有する糖ペプチド(レクチン結合性糖ペプチド);及びレセプタータンパク質、輸送タンパク質、転写調節因子が挙げられる。前記抗体としては、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。また、「抗体」には、完全抗体の他、抗体断片(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、単鎖抗体、ダイアボディー等)や抗体の可変領域を結合させた低分子化抗体も含まれる。
【0044】
かかるポリペプチドの測定方法においては、前記試料を適宜調整してポリペプチド試料とし、前記プローブ分子を添加して複合体を形成させ、これを検出して測定する。前記プローブ分子としては、例えば、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、低分子化合物、及びこれらのうちの2種以上の分子を含む複合分子が挙げられる。前記プローブ分子としてのポリヌクレオチドには、前記核酸及びその断片、オリゴヌクレオチドが含まれる。また、前記プローブ分子としてのポリペプチドは、測定する目的のポリペプチドの種類に応じて、前記ポリペプチドの中から適宜選択される。前記低分子化合物としては、例えば、ビタミン、補酵素、ホルモン、毒素、薬剤等が挙げられる。
【0045】
前記プローブ分子が標識されている場合には、直接的に目的のポリペプチドを含む複合体を検出することができるが、標識されていない場合には、さらに、当該プローブ分子を認識する標識された分子(例えば、二次抗体やプロテインA)を作用させて、当該分子の標識を利用して、間接的に前記複合体を検出することができる。前記標識に用いる標識物質としては、例えば、FITC、FAM、DEAC、R6G、TexRed、Cy5等の蛍光物質;β-D-グルコシダ―ゼ、ルシフェラーゼ、HRP等の酵素;3H、14C、32P、35S、123I等の放射性同位体;ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質;ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質が挙げられる。
【0046】
このようなポリペプチドの測定方法としては、例えば、免疫組織化学(免疫染色)法、ウェスタンブロッティング法、ELISA法、イメージングサイトメトリー、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降法、抗体アレイを用いた解析法、等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
前記ポリペプチドの測定方法としては、他にも例えば、HPLC、FPLC、NMR、IR、FTIR、UV-VIS吸光光度計測法、フローサイトメトリ、質量分析計が挙げられるが、これらに限定されず、従来公知の方法又はそれに準じた方法を適宜採用することができる。
【0048】
また例えば、前記対象物が微生物又はウイルスであって、前記標準物として前記粒子又は前記低分子化合物を用いる場合には、対象物については上記の核酸やポリペプチドを測定し、標準物については、前記粒子や低分子化合物の種類に応じた測定方法を採用することで、標準物及び対象物をそれぞれ測定することができる。
【0049】
前記粒子の測定方法としては、従来公知の方法又はそれに準じた方法を適宜採用することができ、例えば、前記粒子が蛍光粒子である場合には、試料中の蛍光を検出して測定する方法;前記粒子が非蛍光粒子や磁性粒子である場合には、試料中の粒子を回収してその重量や個数を測定する方法;前記粒子が荷電粒子である場合には、試料中の電荷量や移動速度を測定する方法;前記粒子が細胞様粒子である場合には、試料中の粒子の個数を測定する方法や、粒子の構成成分、粒子に含まれる又は分泌される成分を測定する方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
前記低分子化合物の測定方法としても、従来公知の方法又はそれに準じた方法を適宜採用することができ、例えば、質量分析計を用いて測定する方法;当該低分子化合物に応じて、これを検出可能な試薬により検出して測定する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0051】
[第一の補正工程]
本発明の定量方法に係る補正工程(以下、場合により「第一の補正工程」という)では、前記固体表面上に付着させた標準物の量と前記測定工程で測定された標準物の量(すなわち、採取された標準物の量)とから、付着させた標準物の量に対する採取された標準物の量の割合を算出し、前記割合に基づいて、前記測定工程で測定された対象物の量(すなわち、採取された対象物の量)を補正する。前記「割合」の算出方法は特に制限されないが、例えば、パーセントで示す場合の一態様としては、次式:(採取された標準物の量)/(付着させた標準物の量)×100[%]が挙げられる。前記「割合」は、対象の固体表面上から、真の存在量のうち、どれくらいの試料が採取されたかを示す「採取効率」に相当する。これにより、採取工程で採取された試料量によらず、すなわち、採取条件によらず、前記固体表面に存在した対象物の量を定量することができる。
【0052】
例えば、下記の表1に示すように、対象物の単位面積当たりの真の存在量が、対象Aの固体表面上に1,000、対象Bの固体表面上に10,000であった場合、採取条件である採取時間(例えば、器具での拭い取りにかけた時間)が、対象Aを100としたときに対象Bでは10である(ただし、他の採取条件は同じであるとする)と、対象Bでは、対象物の測定値と真の存在量との間には10倍の差が生じることになる。
【0053】
【0054】
これに対して、それぞれの固体表面上に、既知の量(表2では単位面積当たり100)の標準物を付着させ、これを対象物と共に採取すると、下記の表2に示すように、標準物の測定値から、付着させた標準物の量に対する採取された標準物の量の割合として、試料の採取効率(A:100/100×100、B:10/100×100)を得ることができる。そのため、かかる採取効率を用いて、対象物の測定値(すなわち採取量に相当)を補正し、固体表面上の対象物の量として、真の存在量との間の差が十分に少ない値(補正値)を得ることができる。
【0055】
【0056】
<対象物量の比較方法>
本発明の第二の態様は、
複数の固体表面上の対象物の量を比較する方法であり、以下の(1)~(3):
(1)複数の固体表面上に、互いに同量の一定量の標準物を付着させた後、各固体表面上から前記標準物を含む試料を採取する採取工程、
(2)前記試料中の標準物及び対象物の量を測定する測定工程、及び
(3)前記測定工程で測定された標準物の量から、複数の固体表面上から採取された標準物の量の比を算出し、前記比に基づいて、前記測定工程で測定された対象物の量を補正する補正工程、
を含む、対象物量の比較方法(本明細書中、場合により単に「比較方法」という)である。
【0057】
上記本発明の定量方法では、前記標準物の量を既知の量として、これを指標として固体表面上の対象物の量を定量するが、複数の固体表面上における対象物の量を相対的に比較する場合には、前記標準物を既知の量として定量値を算出しなくとも、測定工程で測定された標準物の量の、複数の試料間における比を指標とすることにより、これらが採取された複数の固体表面上における対象物の量を互いに相対的に比較することが可能である。
【0058】
本発明の比較方法において、採取工程及び測定工程は、その好ましい態様も含めて、上記本発明の定量方法において述べたとおりである。ただし、本発明の比較方法においては、前記固体表面上に付着させる標準物の量は、複数の固体表面間において互いに同じ量であればよく、絶対量が既知でなくともよい。
【0059】
[第二の補正工程]
本発明の比較方法に係る補正工程(以下、場合により「第二の補正工程」という)では、前記測定工程で測定された標準物の量から、複数の固体表面上から採取された標準物の量の比を算出し、前記比に基づいて、前記測定工程で測定された対象物の量を補正する。前記「比」は、採取した試料の量の比に相当する。
【0060】
例えば、上記の表2の場合には、対象Aにおける標準物の測定値(すなわち標準物の採取量)と、対象Bにおける標準物の測定値(すなわち標準物の採取量)とから、採取された標準物の量の比として、10:1(A:B=100:10)を得ることができる。かかる比より、対象Aと対象Bとにおける対象物の採取量の比が10:1であったことがわかるので、これを用いて各対象物の測定値を補正し、対象Aにおける対象物の測定値の補正値と対象Bにおける対象物の測定値の補正値との比として、1:10(A:B=1,000:10,000)を得ることができ、複数の固体表面上の対象物の量を、真の存在量の比に十分に近い相対比で比較することができる。
【0061】
<採取効率の評価方法>
本発明の第三の態様は、
固体表面上からの試料の採取効率を評価する方法であり、以下の(1)~(3):
(1)固体表面上に、一定量の標準物を付着させた後、前記固体表面上から前記標準物を含む試料を採取する採取工程、
(2)前記試料中の標準物の量を測定する測定工程、及び
(3)前記固体表面上に付着させた標準物の量と前記測定工程で測定された標準物の量とから、付着させた標準物の量に対する採取された標準物の量の割合を算出し、前記割合に基づいて、試料の採取効率を評価する評価工程、
を含む、採取効率の評価方法(本明細書中、場合により単に「評価方法」という)である。
【0062】
上記のように、本発明によれば、対象の固体表面上から、真の存在量のうち、どれくらいの試料が採取されたか(すなわち採取効率)がわかるため、これを指標として、試料の採取の程度を評価することができる。本発明の評価方法において、採取工程及び測定工程は、その好ましい態様も含めて、上記本発明の定量方法において述べたとおりである。ただし、本発明の評価方法においては、前記測定工程において、前記対象物の量は測定しなくともよい。
【0063】
[評価工程]
本発明の評価方法に係る評価工程においては、前記固体表面上に付着させた標準物の量と前記測定工程で測定された標準物の量とから、付着させた標準物の量に対する採取された標準物の量の割合を算出し、前記割合に基づいて試料の採取効率を評価する。前記割合は、本発明の定量方法に係る第一の補正工程において述べたとおりである。
【0064】
例えば、固体表面上における対象物の真の存在量が少ない場合等には、下記の表3の上段に示すように、本発明に係る標準物を用いない場合であって、対象物が採取した試料において測定できなかった場合(未検出であった場合)には、対象物が固体表面上に真に存在していなかったのか、採取条件(例えば、表3では採取時間)が不十分で試料として採取できなかったのかの判定ができない。他方、本発明に係る標準物を用いた場合には、付着させた標準物の量に対する採取された標準物の量の割合が低ければ(例えば表3の中段では、採取効率:10%)、採取条件が不十分であったと評価することができ、付着させた標準物の量に対する採取された標準物の量の割合が高ければ(例えば表3の下段では、採取効率:100%)、採取効率は十分であると評価することができ、また、対象物の測定値は真の存在量を反映した値であるということも評価することができる。
【0065】
【0066】
本発明に係る評価には、採取が十分(成功)であったか不十分(失敗)であったかの判定の他、採取の効率の程度の判定も含む。前記評価の指標とする割合(すなわち採取効率)の値としては、特に制限されず、評価の目的、対象物、採取器具、対象の固体表面等に応じて適宜設定することができ、例えば、30%以上、50%以上、80%以上等にすることができる。
【0067】
また、複数の固体表面上からの試料の採取効率を比較する場合、本発明の評価方法は、 以下の(1)~(3):
(1)複数の固体表面上に、互いに同量の一定量の標準物を付着させた後、各固体表面上から前記標準物を含む試料を採取する採取工程、
(2)前記試料中の標準物の量を測定する測定工程、及び
(3)前記測定工程で測定された標準物の量から、複数の固体表面上から採取された標準物の量の比を算出し、前記比に基づいて、試料の採取効率を評価する評価工程、
を含む、複数の固体表面上からの試料の採取効率を比較する方法
としてもよい。この場合、前記固体表面上に付着させる標準物の量は、複数の固体表面間において互いに同じ量であればよく、絶対量が既知でなくともよい。
【0068】
この場合には、評価工程において、前記測定工程で測定された標準物の量から、複数の固体表面上から採取された標準物の量の比を算出し、前記比を指標として、試料の採取効率を比較して評価する。前記比は、本発明の比較方法に係る第二の補正工程において述べたとおりである。
【0069】
<キット>
本発明の第四の態様は、
上記本発明の定量方法、比較方法、又は評価方法に用いるためのキットであり、前記標準物、及び前記標準物を前記固体表面上に一定量付着せしめることが可能な標準物付着手段を備える、キットである。
【0070】
本発明のキットにおいて、前記標準物及び前記標準物付着手段は、その好ましい態様も含めて、上記本発明の定量方法において述べたとおりである。
【0071】
また、本発明のキットは、これら以外に、上述の保存液、溶液、採取器具;上述の各測定に用いる器具、オリゴヌクレオチド、試薬等をさらに含むものであってもよい。また、本発明のキットには、本発明の方法を実施する際の、前記標準物付着手段等の使用説明書を含めることができる。
【実施例0072】
以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
先ず、大腸菌の培養液の原液における菌数を計測し、100,000個の大腸菌を含むように調整した大腸菌培養液を、直径10cmの2つのプレート(プレートA、B)内の寒天培地上に、それぞれ塗布した。また、枯草菌の培養液の原液をプレートA内の寒天培地(LB培地)上に塗布し、前記原液の100倍希釈液をプレートB内の寒天培地(LB培地)上に塗布した。
【0074】
各培養液を乾燥させた後、スワブで各寒天培地表面を拭って試料を採取し、PureLink Microbiome DNA Purification Kit(サーモフィッシャー社)を用い、採取した試料を溶解させてDNAを抽出した。抽出したDNAを鋳型として、大腸菌のrsxD遺伝子内の領域を、それぞれ5μMの濃度のフォワードプライマー(rsxD-Fprimer、配列番号:1)及びリバースプライマー(rsxD-Rprimer、配列番号:2)の混合液を2μL、KOD SYBR qPCR Mixを10μL、ROXを0.4μL、鋳型DNAを5μL、水を1.6μLの合計20μLの反応溶液を98℃2分で反応後、98℃10秒、60℃10秒、及び68℃30秒の反応を45サイクルの条件で、qPCRにより増幅し、増幅曲線を得た。また、同様に、抽出したDNAを鋳型として、枯草菌のmtrA遺伝子内の領域を、それぞれ5μMの濃度のフォワードプライマー(mtrA-Fprimer、配列番号:3)及びリバースプライマー(mtrA-Rprimer、配列番号:4)の混合液を2μL、KOD SYBR qPCR Mixを10μL、ROXを0.4μL、鋳型DNAを5μL、水を1.6μLの合計20μLの反応溶液を98℃2分で反応後、98℃10秒、60℃10秒、及び68℃30秒の反応を45サイクルの条件で、qPCRにより増幅し、増幅曲線を得た。さらに、スタンダードとして、100,000個の大腸菌からPureLink Microbiome DNA Purification Kit(サーモフィッシャー社)を用いて上記と同様にして抽出したDNAを鋳型として、大腸菌のrsxD遺伝子内の領域をqPCRにより上記と同様に増幅し、検量線を作成した。得られた各増幅曲線と検量線とから、プレートA、Bから採取された菌数(検出菌数)をそれぞれ算出した。また、各プレートについて、最初に塗布した大腸菌数(塗布菌数)に対する、スワブで採取された大腸菌数(検出菌数)の割合(採取効率)を算出し、これに基づいて、スワブで採取された枯草菌数(検出菌数)を補正し、補正値を算出した。結果を下記の表4に示す。また、表4には、採取された枯草菌数(検出菌数)及び補正値について、それぞれ、プレートAを1としたときのプレートAとプレートBとの比を示す。
【0075】
【0076】
表4に示したように、プレートAとプレートBとにおいて、採取した枯草菌(対象物)の検出菌数の比は、当該検出菌数を大腸菌(標準物)の採取効率で補正したことにより、真の枯草菌数の比(最初に塗布した枯草菌数の比、A:B=1:0.01)に近づき、対象物の量を簡便かつ正確に定量できたことが確認された。
以上説明したように、本発明によれば、採取方法や採取条件等による差を補正し、固体表面上の対象物の量を簡便かつ正確に定量可能な対象物の定量方法、複数の固体表面上の対象物の量を簡便かつ正確に比較可能な対象物量の比較方法、及び固体表面上からの試料の採取効率を評価可能な採取効率の評価方法、並びに、これらに用いるキットを提供することが可能となる。そのため、本発明によれば、採取した試料中における対象物の定量に加え、試料を採取した固体表面上における対象物の総数の定量や比較も可能となる。