(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073804
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】感染者特定・絞り込みシステム、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 50/80 20180101AFI20220510BHJP
G01N 33/497 20060101ALI20220510BHJP
G06Q 50/26 20120101ALI20220510BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20220510BHJP
G16Y 10/60 20200101ALI20220510BHJP
G16Y 40/10 20200101ALI20220510BHJP
【FI】
G16H50/80
G01N33/497 A
G06Q50/26
G06T7/00 510F
G16Y10/60
G16Y40/10
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184007
(22)【出願日】2020-11-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】598072755
【氏名又は名称】岩田 治幸
(72)【発明者】
【氏名】岩田 治幸
【テーマコード(参考)】
2G045
5B043
5L049
5L099
【Fターム(参考)】
2G045AA39
2G045AA40
2G045CB21
2G045CB22
2G045CB30
5B043AA09
5B043BA02
5B043BA04
5B043BA07
5B043DA05
5B043EA02
5B043EA06
5B043FA07
5B043GA02
5B043GA18
5L049CC35
5L099AA00
(57)【要約】
【課題】複数の部屋等において特定のウイルス等が検出された場合に、感染が疑われる者を迅速に特定し、又は絞り込むことができるシステムを提供する。
【解決手段】複数の部屋等において、其々、人の入退を検出し、前記人の顔画像又は氏名その他個人を特定し得る情報の少なくとも一方を取得する手段3と、前記複数の部屋等において、其々、空気中又は水中の少なくとも一方の前記ウイルス等が検出される等した場合に、前記ウイルス等が捕集された期間を記録する手段6と、前記人の入退に関する情報と前記捕集された期間に関する情報を一元的に管理する手段12と、を備え、前記ウイルス等が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記部屋等に、前記捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人を、感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことができるようにしたことを特徴とする感染者特定・絞り込みシステム、方法及びプログラム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、人の入退を検出し、前記人の顔画像又は氏名その他個人を特定し得る情報の少なくとも一方を取得することができる入退者特定手段と、
前記複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、空気中又は水中の少なくとも一方の特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出されたり、既に検出されていた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が増加したりした場合に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間を記録することができる捕集期間記録手段と、
前記入退者特定手段が取得した前記人の入退に関する情報及び前記捕集期間記録手段が記録した前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に関する情報を一元的に管理することができる情報一元管理手段と、
を備え、
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人を、
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことができるようにしたことを特徴とする感染者特定・絞り込みシステム。
【請求項2】
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人を、
存在していた時間の長さに応じて、
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことができるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の感染者特定・絞り込みシステム。
【請求項3】
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人を、
存在していた回数、又は、存在していた前記施設若しくは部屋又はその両方の数に応じて、
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことができるようにしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の感染者特定・絞り込みシステム。
【請求項4】
前記特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間以降に、
前記特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方を検出できなかったり、既に検出されていた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が増加しなかったりした施設若しくは部屋又はその両方に、
少なくとも1回以上存在していた人を、
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者から除外するようにしたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の感染者特定・絞り込みシステム。
【請求項5】
前記施設若しくは部屋又はその両方において撮影した画像中の人がマスクを着用していたか否かを、画像認識を用いて識別するマスク着用識別手段を新たに備え、
マスクを着用していなかった人を、マスクを着用していた人よりも前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことができるようにしたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の感染者特定・絞り込みシステム。
【請求項6】
前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者と同時に存在していた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者以外の人を、濃厚接触者として特定することができるようにしたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の感染者特定・絞り込みシステム。
【請求項7】
人種、性別、年齢、基礎疾患、血液型、渡航歴、職業、喫煙状況、飲酒状況、予防接種歴又は前記ウイルス若しくは細菌の少なくとも一方の感染者若しくは濃厚接触者の少なくとも一方との接触履歴のうち、少なくとも一つ以上を含むデータを入力、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染の有無を出力とした機械学習の結果を用いて、
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようにしたことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の感染者特定・絞り込みシステム。
【請求項8】
前記入退者特定手段がカメラを備え、
前記複数の施設若しくは部屋又はその両方の間の移動所要時間に基づき、
前記施設若しくは部屋又はその両方を前記カメラで撮影した画像中の人物の同一性を判定できるようにしたことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の感染者特定・絞り込みシステム。
【請求項9】
前記人が携帯する端末の全地球測位システム(Global Positioning System,GPS)によって得られる位置情報に基づき、
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようにしたことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の感染者特定・絞り込みシステム。
【請求項10】
複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、人の入退を検出し、又は前記人の顔画像又は氏名その他個人を特定し得る情報の少なくとも一方を取得する入退者特定ステップと、
前記複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、空気中又は水中の少なくとも一方の特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出されたり、既に検出されていた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が増加したりした場合に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間を記録する捕集期間記録ステップと、
前記入退者特定ステップが特定した前記人の入退に関する情報及び前記捕集期間記録ステップが記録した前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に関する情報を一元的に管理する情報一元管理ステップと、
を含み、
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人を、
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことを特徴とする感染者特定・絞り込み方法。
【請求項11】
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人を、
存在していた時間の長さに応じて、
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことを特徴とする請求項10に記載の感染者特定・絞り込み方法。
【請求項12】
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人を、
存在していた回数、又は、存在していた前記施設若しくは部屋又はその両方の数に応じて、
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の感染者特定・絞り込み方法。
【請求項13】
前記特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間以降に、
前記特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方を検出できなかったり、既に検出されていた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が増加しなかったりした施設若しくは部屋又はその両方に、
少なくとも1回以上存在していた人を、
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者から除外することを特徴とする請求項10から請求項12のいずれかに記載の感染者特定・絞り込み方法。
【請求項14】
前記施設若しくは部屋又はその両方において撮影した画像中の人がマスクを着用していたか否かを、画像認識を用いて識別するマスク着用識別ステップを新たに含み、
マスクを着用していなかった人を、マスクを着用していた人よりも前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことを特徴とする請求項10から請求項13のいずれかに記載の感染者特定・絞り込み方法。
【請求項15】
前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者と同時に存在していた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者以外の人を、濃厚接触者として特定することを特徴とする請求項10から請求項14のいずれかに記載の感染者特定・絞り込み方法。
【請求項16】
人種、性別、年齢、基礎疾患、血液型、渡航歴、職業、喫煙状況、飲酒状況、予防接種歴又は前記ウイルス若しくは細菌の少なくとも一方の感染者若しくは濃厚接触者の少なくとも一方との接触履歴のうち、少なくとも一つ以上を含むデータを入力、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染の有無を出力とした機械学習の結果を用いて、
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことを特徴とする請求項10から請求項15のいずれかに記載の感染者特定・絞り込み方法。
【請求項17】
前記入退者特定ステップがカメラを用い、
前記複数の施設若しくは部屋又はその両方の間の移動所要時間に基づき、
前記施設若しくは部屋又はその両方を前記カメラで撮影した画像中の人物の同一性を判定することを特徴とする請求項10から請求項16のいずれかに記載の感染者特定・絞り込み方法。
【請求項18】
前記人が携帯する端末の全地球測位システム(Global Positioning System,GPS)によって得られる位置情報に基づき、
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことを特徴とする請求項10から請求項17のいずれかに記載の感染者特定・絞り込み方法。
【請求項19】
コンピュータに請求項10から18のいずれかに記載の感染者特定・絞り込み方法を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の施設若しくは部屋又はその両方において特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された場合に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる人を特定し、又は絞り込むことができるシステム、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウイルスや細菌等の病原体による感染症の脅威が高まっているが、感染拡大を未然に防止するために感染者の早期発見が極めて重要であることは論を俟たない。従来からある感染の有無ないし感染歴を調べる技術として、患者個人単位の検査、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法やLAMP(Loop Mediated Isothermal Amplification)法による遺伝子検査、抗原検査及び抗体検査がある。これらは、いずれも検査に長時間を要する上に、患者の鼻の奥を拭ったり、血液や唾液を採取したりする必要があり、いずれも検体採取にあたり検査を行う医療関係者への接触感染のリスクがある。又、無尽蔵に検査要員、検査機器及び検査キット等を用意しない限り、日常的に実施することは不可能であり、感染拡大を未然に防止するという効果はあまり期待できない。そもそも、通常、感染症には潜伏期間があり、発症前から感染力を有する場合が多いため、発症後に検査するだけでは遅きに失する。又、これらの従来技術は、十分な医療体制が整う前に一定程度市中感染が拡がっているおそれがある場合、医療崩壊が懸念される等の理由から、広く実施することについて消極的な意見が多く、発症後に来院した患者に対して個別に実施されるに留まる場合が多い。
【0003】
又、抗原検査は、偽陽性や偽陰性の確率が高い。抗体は獲得免疫を担うB細胞によって抗原特異的に産生され、感染後しばらく時間が経過しないと産生されない。獲得免疫は自然免疫に比べて強力ではあるが応答時間が長い。そもそも、ウイルスや細菌には、マクロファージ等が担う自然免疫で対処できるものも存在し、この場合、抗体は産生されない。よって、抗体検査は、感染者を早期に特定するためには殆ど役に立たない。
【0004】
最近になって、新型コロナウイルス(2019-nCoV/SARS-CoV-2)の対策として、感染者を追跡するアプリケーションソフトウェアが提供されている。このアプリケーションソフトウェアは、スマートフォンにインストールした後、利用者同士が近付くと互いのデータが記録され、その後、感染が確認された人が保健所から発行された番号を入力すると記録された接触相手に通知がされるというもので、感染が確認された人が、保健所から発行された番号を入力する必要がある。これは、多くの国民が利用することで、濃厚接触者を早期に発見することができ、感染の早期検査・早期発見につながるようにも思える。しかし、実際には、保健所から発行された番号を入力した感染者は0.3%以下であったというデータからも明らかなように、事柄の性質上、感染の事実を感染者が自ら積極的に入力するとは考え難い。
【0005】
感染したという事実は、通常他人に知られたくない事実である。それにも関らず、特に交流範囲の狭い人の場合、接触相手に通知がされることによって、容易に感染の事実を他人に知られてしまう。又、多くの人と交流する学生等であっても、仲間の殆どに通知がされた状況で仲間の一人だけが入院等のために不在となれば、その人物が感染したという事実を仲間たちに容易に知られてしまう。いくらお互いに分からないようにプライバシーを確保しているとは言っても、現実的にはプライバシー保護の実効性を確保することは困難であるといえよう。
【0006】
自治体が逐次発表する個人を特定し得ない感染者情報でさえも、すべての情報については本人の同意が得られない場合が多い現状を踏まえて考えれば、このアプリケーションソフトウェアが機能しないのも当然の結果といえる。そこで、保健所が発行する番号の入力を自動的ないし強制的に行うようにする以外に方法はないが、感染の事実を含め、病歴は機微情報(センシティブ情報)とされ、要配慮個人情報に含まれることから、特に慎重な取り扱いが求められる。この技術は、こうしたジレンマを抱えている。
【0007】
以上から、感染拡大を未然に防止するためには、患者個人単位の特に発症後を対象とした検査体制では全く不十分であり、施設若しくは部屋又はその両方を含む場所やそこに存在する人々の集団単位での検査体制が必要かつ効果的であるといえる。
【0008】
この点、空気中や水中のウイルスや細菌等の病原体を捕集して検出する技術が既に開示されている。空気中の病原体を検出する技術については、例えば、特許文献1には、表面増強ラマン分光測定法による検出の場合に、抗体のサイズを断片化することにより小さくすることで、表面増強ラマン散乱現象を利用した高感度検出が可能となる空気中を浮遊するウイルスを検出する技術が開示されている。
【0009】
又、特許文献2には、対象空間における被検物質の濃度が変化する場合においても、検出部による被検物質の検出可能範囲内で、検出を実施することができる捕集装置、検出装置、清浄装置、捕集方法、検出方法、および、清浄方法が開示されている。又、特許文献3には、微生物、ウイルス等の空気中の浮遊物に含まれる標的核酸をより効率的に抽出し、標的核酸をより増幅することができて、より精度よく液体に捕集した浮遊物を検出することができる捕集装置が記載されている。
【0010】
又、特許文献4には、ガス分析センサと、蛍光/冷光センサと、粒子の粒径及び粒子数を検出するための粒子センサとを備え、空中に浮遊している化学物質、生体物質、及び爆発性物質をリアルタイムで分析するための分析方法ないし分析装置が記載されている。
【0011】
又、特許文献5には、フィルターを取り替える手間なく、空気中に浮遊するウイルスを簡便に捕集できるとともに、捕集したウイルスを抽出液として回収できるので、回収した抽出液を用いることでウイルスの存在を確認することができ、空気中に浮遊するウイルスを、効果的に抽出液を使用して捕集するシステムを実現することができるウイルス捕集システムが開示されている。この捕集システムによれば、洗浄後に残った付着物を送風によって吹き飛ばすことができ、フィルターに残存する付着物やウイルスの除去がより確実に行え、フィルターの再生を逐次行い、繰り返しウイルス捕集を行う際の捕集率の低下と検出感度の低下とを抑えることができると記載されている。
【0012】
又、特許文献6には、病院や老人施設等の室内におけるウイルスの存在状況をリアルタイムで検出できるシステムが望まれているとした上で、空気中に浮遊するウイルスを適切に捕集できるウイルス捕集装置、及び捕集したウイルスをその場で迅速且つ簡便に分析して、ウイルスの存在状況を連続的且つリアルタイムにモニタできるウイルス検査システムが開示されている。
【0013】
又、特許文献7には、居室空間等の空気中に浮遊するインフルエンザウイルスを簡便に検出する技術が開示され、空気中に浮遊するインフルエンザウイルスを簡便に採取して、その場で発色させる操作を行うことができる簡便な検出方法を行うことにより、きわめて容易にインフルエンザウイルスを検知することができるようになったと記載されている。
【0014】
次に、水中の病原体を検出する技術については、特許文献8に、細菌、ウイルスのような水系感染微生物を試料水中から短時間で大量の試料水から高効率で検出対象微生物を分離濃縮でき、濃縮試料中の検出対象微生物と特異的に結合する蛍光標識抗体と反応させ、蛍光強度を測定することで検出感度を高め、作業の自動化・省力化を図ることができるので水質の安全性を高めることができる微生物検出システムが開示されている。
【0015】
又、感染者の排泄物にウイルスや細菌が含まれている場合が多いことから、下水からPCR検査によってウイルスや細菌を検出する試み(Wastewater-Based Epidemiology,WBE)が従来から行われている。例えば、ポリオウイルスやノロウイルスに関する実績があり、最近では、新型コロナウイルスを下水から検出した例が国内外で報告されている。
下水を調査することによって、無症状のため従来の検査は受けることのない感染者を含む、その地域における感染状況を把握することができる。又、検出されるウイルスや細菌の量は、実際の患者発生に比べて早く増加し始めることから、迅速かつ安価に感染拡大の傾向を把握することができる。
【0016】
最後に、本発明における入退者特定手段は、入退室管理技術の感染者特定への応用という側面を有する。従来の入退室管理技術としては、例えば、IDカードを用いた認証をはじめ、指紋認証、血管認証、顔画像認証、虹彩認証、声紋認証、スマートフォンを用いた認証等、各種個人認証手段を用いるものの他、監視カメラ等を用いて撮影した画像中の人物の同一性を判定するもの等、特定の施設若しくは部屋又はその両方に特定の人物が入退した事実を把握できる技術が、既に広く普及している。
尚、本発明では、マスクを着用していなかった人を、マスクを着用していた人よりも感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むようにすることもできる。マスク着用時の顔画像認証については、例えば、特許文献9に、マスクの着用が有である場合には、目元の領域を重点的に利用する部分顔認証の結果を用いて総合的な認証結果を求めることを特徴とする認証システム及び認証方法が開示されている。
【0017】
本発明におけるように複数の施設若しくは部屋又はその両方において入退者を特定しようとする技術としては、例えば、特許文献10には、セキュリティ管理のために、ビル内において検出された個人識別情報と登録された個人識別データとを照合し個人認証を行うものの、この個人識別データを、ビルから離れた場所からビル内へ伝送することによって、ビル内に管理者を置くことなくセキュリティを管理できるセキュリティ管理システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2015-178993号公報
【特許文献2】特開2015-206669号公報
【特許文献3】特開2019-146528号公報
【特許文献4】特許第5391429号公報
【特許文献5】特許第5486441号公報
【特許文献6】特許第5552001号公報
【特許文献7】特許第5706088号公報
【特許文献8】特開2007-33353号公報
【特許文献9】特開2020-166597号公報
【特許文献10】特許第3959358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、従来技術には、以下のような問題点がある。
まず、上記のとおり、特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者を直接検査したり、感染が疑われる者が存在したであろう施設又は部屋の特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方の存在の有無を検知したりする技術は、従来から存在した。しかし、本発明のように特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された時間と場所に関する情報を用いて、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むという技術は従来存在しなかった。感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むという技術に関しては、上記のいずれの文献にも、開示も示唆もされていなかった。
【0020】
次に、個別要素技術において、本発明のような構成を採用する動機は乏しかったといえる。特許文献1から8に開示された技術は、いずれも、施設若しくは部屋又はその両方に存在するウイルス又は細菌の少なくとも一方を検出することができるものではあった。しかし、前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間中、たった一人しか存在しなかったような例外的な場合を除いて、感染者を特定する目的に直ちに使用できるようなものではなかった。そのような例外的な場合であれば、患者個人単位の検査で足りるし、簡易である。尚、特許文献1から8には、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むという点に関して、開示も示唆もされていなかった。
【0021】
又、空気中や水中のウイルス又は細菌の少なくとも一方を検知できる従来技術は、特定の施設若しくは部屋又はその両方にウイルス又は細菌の少なくとも一方が存在したことを検知するものであり、ウイルス又は細菌の少なくとも一方が存在しなかったという事実を積極的に利用する構成を採用する動機に欠けていた。これに対して、本発明では、ウイルス又は細菌の少なくとも一方が存在しなかった、すなわち検知できなかった施設若しくは部屋又はその両方に存在していた人を、感染が疑われる者の候補の中から除外することによって、反射的効果として、真に感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むようにすることもできる。
【0022】
尚、下水を調査する技術は、調査区域を絞り込んだ上で、頻繁に調査を実施することによって、より狭い範囲の感染状況を把握できると考えられるが、感染が疑われる者個人を特定するための技術ではなく、あくまでも感染の傾向を把握するための技術である。このため、感染者を特定するためには、従来の患者個人単位の検査が不可欠であるとされてきた。仮にエリア単位で感染者の存在を確認できたとしても、その後、感染者を個人単位で特定し、又は絞り込むことができなければ、感染拡大の防止にはつながらない。これに対して、本発明は、施設若しくは部屋又はその両方において、特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された場合に、そこに存在していた人の中から、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込む技術であり、患者個人単位の検査をすることなく、感染拡大を防止することができる。
【0023】
次に、従来の入退管理システムは、セキュリティ上の目的で、保護対象である主として一つの施設又は部屋に入退した人物を把握しようとするものであった。特許文献 10に開示された技術のように、保護対象である施設又は部屋の外部に監視装置を設置する場合もあったが、それはあくまでもセキュリティ管理コストを低減する目的の範囲内で行われていたに過ぎず、本発明のように、複数の施設又は部屋についての入退情報を相互に照らし合わせるという構成を採用することに関しては、その動機に乏しかったといえる。更に、従来の入退管理システムは、本来、不特定者ないし不審者の侵入防止等、入退情報を網羅的に利用する目的の技術であり、本発明のように、ある施設又は部屋に存在していた人と、別の施設又は部屋に存在していた人との間の同一性を判定するという構成を採用する動機に乏しかったといえる。
【0024】
又、従来の入退管理システムにおいては、保護対象である施設又は部屋に、誰が入退したのかという情報が重要であって、どれくらいの時間入っていたのか、あるいは、何回入ったのかといった情報は、重要ではなかった。従って、入っていた時間や回数を把握するという構成を採用する動機に乏しかったといえる。これに対して、本発明のように、特定の施設若しくは部屋又はその両方においてウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出されたという情報から、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込もうとする場合には、ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、その人がそこに存在していた時間や回数が特別な意味を有することになる。この点においても、従来の入退管理システムと本発明との間には大きな差異がある。
【0025】
又、上記のとおり、感染が疑われる複数の人の中から、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むという技術は従来存在しなかったため、マスク着用の有無を識別するという構成を採用する動機にも欠けていた。これに対して、本発明では、マスク着用の有無を識別し、マスクを着用していなかった人を着用していた人よりも感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むようにすることもできる。なぜなら、マイクロ飛沫ではない大きな飛沫はマスクで止めることができるため、マスクを着用していなかった人の方が着用していた人よりも、ウイルス又は細菌の少なくとも一方を拡散させた可能性が大きいからである。確かにマイクロ飛沫に対するマスクの効果は少ないが、大きな飛沫にはより多くのウイルス又は細菌の少なくとも一方が含まれているから感染リスクはより大きく、マスクで大きな飛沫の拡散を防止することが感染防止に有効であることは周知のとおりである。
【0026】
更に、上記のとおり、感染が疑われる複数の人の中から、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むという技術は従来存在しなかったため、本発明のように、機械学習を用いて、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むという構成を採用する動機についても乏しかったといえる。
【0027】
そこで、本発明は、かかる従来技術の問題点を解決して、重症化のリスクのある感染症を引き起こすようなウイルス又は細菌の少なくとも一方の二次感染、クラスター発生、エピデミックやアウトブレイク、延いてはエピデミックの世界同時発生やアウトブレイクの長期連続発生によるパンデミックを防止するため、複数の施設若しくは部屋又はその両方において前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された場合に、感染が疑われる者を迅速に特定し、又は絞り込むことができるシステム、方法及びプログラムを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記課題を解決するために、請求項1記載の感染者特定・絞り込みシステムは、複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、人の入退を検出し、前記人の顔画像又は氏名その他個人を特定し得る情報の少なくとも一方を取得することができる入退者特定手段と、前記複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、空気中又は水中の少なくとも一方の特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出されたり、既に検出されていた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が増加したりした場合に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間を記録する捕集期間記録手段と、前記入退者特定手段が取得した前記人の入退に関する情報及び前記捕集期間記録手段が記録した前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に関する情報を一元的に管理することができる情報一元管理手段と、を備え、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人を、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことができるようにしたことを特徴とする。
【0029】
本発明における施設及び部屋には、すべての施設及び部屋が含まれる。バイオセンサ等のウイルス又は細菌の少なくとも一方を簡易に検出できる技術が普及するまでの間は、特に、クラスターが発生し易い、密閉・密集・密接になり易い施設若しくは部屋又はその両方が対象となる。例えば、医療・福祉施設、病院、ホテル、学校、保育所、劇場、クルーズ船等の船舶、航空機、新幹線等の特急電車、飲食店舗、オフィス、トイレ、ロビー、会議室、教室、食堂等が挙げられる。すなわち、本発明における施設若しくは部屋又はその両方には、電車や自動車の車内、航空機の機内、船舶の船内等も含まれる。
【0030】
これにより、重症化のリスクのある感染症を引き起こすようなウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者を早期に非接触で特定し、又は絞り込むことができるようになる。尚、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人がいなかった場合には、その時点では前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができなかったことになる。この場合、前記入退者特定手段が取得した前記人の入退に関する情報及び前記捕集期間記録手段が記録した前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に関する情報は、引き続き情報一元管理手段に累積保存され、新たな情報を受信したときに、改めて、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むために使用される。
【0031】
本発明は、前記複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、空気中又は水中の少なくとも一方の特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出されたり、既に検出されていた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が増加したりした場合だけでなく、痴漢、万引き等の窃盗、誘拐、通り魔、違法薬物犯罪等の各種事件が連続して発生した場合の被疑者特定ないし絞り込みにも使用できる。例えば、施設や部屋において違法薬物が検出された場合の違法薬物使用者の特定ないし絞り込みに利用することもできる。特に、カメラで撮影した人の中から被疑者を特定する場合に有効である。この場合には、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の検出は、事件発生情報や捜査の端緒に関する情報等に置き換えられる。
【0032】
次に、請求項2記載の感染者特定・絞り込みシステムは、請求項1に記載の感染者特定・絞り込みシステムにおいて、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人を、存在していた時間の長さに応じて、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことができるようにしたことを特徴とする。
【0033】
これにより、効率よく、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようになる。
【0034】
次に、請求項3記載の感染者特定・絞り込みシステムは、請求項1又は請求項2に記載の感染者特定・絞り込みシステムにおいて、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人を、存在していた回数、又は、存在していた前記施設若しくは部屋又はその両方の数に応じて、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことができるようにしたことを特徴とする。
【0035】
これにより、効率よく、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようになる。
【0036】
次に、請求項4記載の感染者特定・絞り込みシステムは、請求項1から請求項3のいずれかに記載の感染者特定・絞り込みシステムにおいて、前記特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間以降に、前記特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方を検出できなかったり、既に検出されていた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が増加しなかったりした施設若しくは部屋又はその両方に、少なくとも1回以上存在していた人を、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者から除外するようにしたことを特徴とする。
【0037】
感染が疑われる者が存在していた前記施設若しくは部屋又はその両方においては、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出される可能性が高い。つまり、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出されなかった前記施設若しくは部屋又はその両方に存在していた人は感染していない可能性が高い。そこで、前記特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方を検出できなかったり、既に検出されていた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が増加しなかったりした施設若しくは部屋又はその両方に、少なくとも1回以上存在していた人を、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者から除外するようにした。
【0038】
これにより、実は感染していない人を、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として誤って特定し、又は絞り込んでしまうことを防止することができるようになる。
【0039】
次に、請求項5記載の感染者特定・絞り込みシステムは、請求項1から請求項4のいずれかに記載の感染者特定・絞り込みシステムにおいて、前記施設若しくは部屋又はその両方において撮影した画像中の人がマスクを着用していたか否かを、画像認識を用いて識別するマスク着用識別手段を新たに備え、マスクを着用していなかった人を、マスクを着用していた人よりも前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことができるようにしたことを特徴とする。
【0040】
マイクロ飛沫に対するマスクの効果は少ないが、大きな飛沫にはより多くのウイルス又は細菌の少なくとも一方が含まれているから感染リスクはより大きく、マスクで大きな飛沫の拡散を防止することが感染防止に有効であることは周知のとおりである。マイクロ飛沫ではない大きな飛沫はマスクで止めることができるため、マスクを着用していなかった人の方が着用していた人よりも、ウイルス又は細菌の少なくとも一方を拡散させた可能性が高い。
【0041】
これにより、効率よく、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようになる。
【0042】
次に、請求項6記載の感染者特定・絞り込みシステムは、請求項1から請求項5のいずれかに記載の感染者特定・絞り込みシステムにおいて、前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者と同時に存在していた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者以外の人を、濃厚接触者として特定することができるようにしたことを特徴とする。
【0043】
これにより、濃厚接触者に対する患者個人単位の検査を可能にし、感染の早期発見早期治療につなげることができる。
【0044】
次に、請求項7記載の感染者特定・絞り込みシステムは、請求項1から請求項6のいずれかに記載の感染者特定・絞り込みシステムにおいて、人種、性別、年齢、基礎疾患、血液型、渡航歴、職業、喫煙状況、飲酒状況、予防接種歴又は前記ウイルス若しくは細菌の少なくとも一方の感染者若しくは濃厚接触者の少なくとも一方との接触履歴のうち、少なくとも一つ以上を含むデータを入力、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染の有無を出力とした機械学習の結果を用いて、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようにしたことを特徴とする。
【0045】
これにより、多くの情報に基づき、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようになる。
【0046】
次に、請求項8記載の感染者特定・絞り込みシステムは、請求項1から請求項7のいずれかに記載の感染者特定・絞り込みシステムにおいて、前記入退者特定手段がカメラを備え、前記複数の施設若しくは部屋又はその両方の間の移動所要時間に基づき、前記施設若しくは部屋又はその両方を前記カメラで撮影した画像中の人物の同一性を判定できるようにしたことを特徴とする。
【0047】
これにより、効率よく、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようになる。
【0048】
次に、請求項9記載の感染者特定・絞り込みシステムは、請求項1から請求項8のいずれかに記載の感染者特定・絞り込みシステムにおいて、前記人が携帯する端末の全地球測位システム(Global Positioning System,GPS)によって得られる位置情報に基づき、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようにしたことを特徴とする。
【0049】
これにより、例えば、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、存在しなかったはずの人を、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として誤って特定し、又は絞り込んでしまうことを防止することができるようになる。又、効率よく、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようになる。
【0050】
次に、請求項10記載の感染者特定・絞り込み方法は、複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、人の入退を検出し、前記人の顔画像又は氏名その他個人を特定し得る情報の少なくとも一方を取得する入退者特定ステップと、前記複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、空気中又は水中の少なくとも一方の特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出されたり、既に検出されていた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が増加したりした場合に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間を記録する捕集期間記録ステップと、前記入退者特定ステップが特定した前記人の入退に関する情報及び前記捕集期間記録ステップが記録した前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に関する情報を一元的に管理する情報一元管理ステップと、を含み、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人を、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことを特徴とする。
【0051】
これにより、重症化のリスクのある感染症を引き起こすようなウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者を早期に非接触で特定し、又は絞り込むことができるようになる。本発明は、前記複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、空気中又は水中の少なくとも一方の特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出されたり、既に検出されていた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が増加したりした場合だけでなく、痴漢、万引き等の窃盗、誘拐、通り魔、違法薬物犯罪等の各種事件が連続して発生した場合の被疑者特定にも使用できる。例えば、施設や部屋において違法薬物が検出された場合の違法薬物使用者の特定ないし絞り込みに利用することもできる。特に、カメラで撮影した人の中から被疑者を特定する場合に有効である。この場合には、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の検出は、事件発生情報や捜査の端緒に関する情報等に置き換えられる。
【0052】
次に、請求項11記載の感染者特定・絞り込み方法は、請求項10に記載の感染者特定・絞り込み方法において、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人を、存在していた時間の長さに応じて、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことを特徴とする。
【0053】
これにより、効率よく、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようになる。
【0054】
次に、請求項12記載の感染者特定・絞り込み方法は、請求項10又は請求項11に記載の感染者特定・絞り込み方法において、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人を、存在していた回数、又は、存在していた前記施設若しくは部屋又はその両方の数に応じて、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことを特徴とする。
【0055】
これにより、効率よく、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようになる。
【0056】
次に、請求項13記載の感染者特定・絞り込み方法は、請求項10から請求項12のいずれかに記載の感染者特定・絞り込み方法において、前記特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間以降に、前記特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方を検出できなかったり、既に検出されていた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が増加しなかったりした施設若しくは部屋又はその両方に、少なくとも1回以上存在していた人を、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者から除外することを特徴とする。
【0057】
これにより、実は感染していない人を、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として誤って特定し、又は絞り込んでしまうことを防止することができるようになる。
【0058】
次に、請求項14記載の感染者特定・絞り込み方法は、請求項10から請求項13のいずれかに記載の感染者特定・絞り込み方法において、前記施設若しくは部屋又はその両方において撮影した画像中の人がマスクを着用していたか否かを、画像認識を用いて識別するマスク着用識別ステップを新たに含み、マスクを着用していなかった人を、マスクを着用していた人よりも前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことを特徴とする。
【0059】
これにより、効率よく、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようになる。
【0060】
次に、請求項15記載の感染者特定・絞り込み方法は、請求項10から請求項14のいずれかに記載の感染者特定・絞り込み方法において、前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者と同時に存在していた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者以外の人を、濃厚接触者として特定することを特徴とする。
【0061】
これにより、濃厚接触者に対する患者個人単位の検査を可能にし、感染の早期発見早期治療につなげることができる。
【0062】
次に、請求項16記載の感染者特定・絞り込み方法は、請求項10から請求項15のいずれかに記載の感染者特定・絞り込み方法において、人種、性別、年齢、基礎疾患、血液型、渡航歴、職業、喫煙状況、飲酒状況、予防接種歴又は前記ウイルス若しくは細菌の少なくとも一方の感染者若しくは濃厚接触者の少なくとも一方との接触履歴のうち、少なくとも一つ以上を含むデータを入力、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染の有無を出力とした機械学習の結果を用いて、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことを特徴とする。
【0063】
これにより、多くの情報に基づき、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようになる。
【0064】
次に、請求項17記載の感染者特定・絞り込み方法は、請求項10から請求項16のいずれかに記載の感染者特定・絞り込み方法において、前記入退者特定ステップがカメラを用い、前記複数の施設若しくは部屋又はその両方の間の移動所要時間に基づき、前記施設若しくは部屋又はその両方を前記カメラで撮影した画像中の人物の同一性を判定することを特徴とする。
【0065】
これにより、効率よく、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようになる。
【0066】
次に、請求項18記載の感染者特定・絞り込み方法は、請求項10から請求項17のいずれかに記載の感染者特定・絞り込み方法において、前記人が携帯する端末のGPSによって得られる位置情報に基づき、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことを特徴とする。
【0067】
これにより、例えば、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、存在しなかったはずの人を、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として誤って特定し、又は絞り込んでしまうことを防止することができるようになる。又、効率よく、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようになる。
【0068】
次に、請求項19記載のプログラムは、コンピュータに請求項10から18のいずれかに記載の感染者特定・絞り込み方法を実行させるためのプログラムである。
【0069】
これにより、請求項10から18のいずれかに記載の感染者特定・絞り込み方法をコンピュータにおいて実行させることができるようになる。
【発明の効果】
【0070】
発症前後は勿論、無症状の場合であっても、PCR検査や抗原・抗体検査等をすることなく、非接触で、安全かつ早期に、感染者を特定し、又は絞り込むことができるようになる。そして、感染爆発や医療崩壊を未然に防止して多くの人命を守ることができるとともに、感染症の経済社会活動への影響を最小限に抑え込むことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【
図1】
図1は、本発明に係る感染者特定・絞り込みシステムのシステム構成の一例を示す説明図である。
【
図2】
図2は、期間P1におけるウイルスの捕集及び入退者の状況を説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、期間P2におけるウイルスの捕集及び入退者の状況を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、期間P3におけるウイルスの捕集及び入退者の状況を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、期間P4におけるウイルスの捕集及び入退者の状況を説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、本発明に係るプログラムのフローチャートの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。可能な限り、同一部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。又、課題を解決するための手段に記載した内容及び公知技術文献における記載と重複する内容はできるだけ省略する。尚、以下に説明する本発明の実施の形態は、いずれも本発明の具体例を示すものである。従って、以下の実施の形態で示される構成要素及びステップ並びにそれらの順序等は一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
【0073】
[第一の実施の形態]
図1は、本発明に係る感染者特定・絞り込みシステムのシステム構成の一例である。尚、空気中又は水中の少なくとも一方の特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方の検出には公知の技術が用いられる。例えば、ウイルス又は細菌の少なくとも一方の捕集装置4、ウイルスの存在状況を連続的且つリアルタイムにモニタできるウイルス検査システム5によって検出する。又、複数のトイレを有する施設等においては、施設建物全体のトイレの排水が集まる場所において、下水からウイルスや細菌を検出できるWBEを行うことによって、当該施設におけるウイルス又は細菌の少なくとも一方を検出するようにしても良い。
【0074】
第一の実施の形態では、複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、人の入退を検出し、前記人の顔画像又は氏名その他個人を特定し得る情報の少なくとも一方を取得することができる入退者特定手段と、前記複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、空気中又は水中の少なくとも一方の特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出されたり、既に検出されていた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が増加したりした場合に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間を記録する捕集期間記録手段と、前記入退者特定手段が取得した前記人の入退に関する情報及び前記捕集期間記録手段が記録した前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に関する情報を一元的に管理することができる情報一元管理手段と、を備え、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人を、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことができるようにする。
【0075】
尚、入退者特定手段3は、複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、人の入退を検出するものであるが、前記人の顔画像又は氏名その他個人を特定し得る情報の少なくとも一方の取得は、必ずしも前記複数の施設若しくは部屋又はその両方で行う必要はない。すなわち、ID番号や画像データ等の検出結果を送信することによって、前記人の顔画像又は氏名その他個人を特定し得る情報の少なくとも一方の取得を後述する情報一元管理手段12と同じ場所等の別の場所で行うようにしても良い。
【0076】
又、空気中又は水中の少なくとも一方の特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方の捕集は、前記複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、行うものであるが、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間の記録は、必ずしも前記複数の施設若しくは部屋又はその両方で行う必要はない。すなわち、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間の記録を後述する情報一元管理手段12と同じ場所等の別の場所で行うようにしても良い。尚、捕集された期間とは、実際にウイルス等を捕集した時点から起算されるものとは限らない。すなわち、実際にウイルス等を捕集できた時点を含む一定の期間であり、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むという本発明の目的からは、この期間はできるだけ短いことが望ましい。
【0077】
入退者特定手段3には、広く普及しているIDカードを用いた認証をはじめ、指紋認証、血管認証、顔画像認証、虹彩認証、声紋認証、スマートフォンを用いた認証等、各種個人認証装置を用いるものの他、監視カメラ等を用いて撮影した画像中の人物の同一性を判定するもの等、特定の施設若しくは部屋又はその両方に特定の人物が入ったり出たりした事実を把握できる手段が広く含まれる。既に広く普及している入退室管理技術を利用することができる。
【0078】
入退者特定手段3は、複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、人の入退を検出し、前記人の顔画像又は氏名その他個人を特定し得る情報の少なくとも一方を取得することができるようにする。このため、個人認証装置2やカメラ1等を用いる公知の入退室管理システムを用いる。普段からセキュリティが求められる部屋の場合には、カードリーダにIDカードをかざすタイプ等の個人認証装置2を用いることが望ましい。これに対して、不特定多数が入退室する施設若しくは部屋又はその両方の場合には、カメラで撮影した画像を用いる方法が適している。其々の施設若しくは部屋又はその両方に、個人認証装置2やカメラ1を設置し、入退室情報や撮影した映像を、ネットワーク7を介して情報一元管理手段12に伝達する。この際、全ての入退室情報や撮影した映像を伝達するようにしても良いし、前記特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された期間における入退室情報や撮影した映像だけを伝達するようにしても良い。
【0079】
但し、第四の実施の形態として後述するように、前記特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が存在しなかったという事実を積極的に利用する構成を採用し、前記特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が存在しなかった、すなわち検知できなかった施設若しくは部屋又はその両方に存在していた人を、感染が疑われる者の候補の中から除外することによって、反射的効果として、真に感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むようにする場合には、全ての入退室情報や撮影した映像を伝達する必要がある。
【0080】
入退者が予め分かっていれば良いが、不特定者が入退する施設若しくは部屋又はその両方の場合には、監視カメラ等を用いて撮影した画像中の人物の同一性を判定する方法が有効である。この場合、感染が疑われる者の顔を特定し、又は絞り込んだ後、施設若しくは部屋又はその両方の管理者等がその氏名等を特定する。
【0081】
本発明における入退者特定手段3には、既に広く普及している入退室管理システムを用いることができる。カメラで撮影した人物の顔を画像認識して、同一人物か否かを判定するものから、IDカード等に記録した氏名、所属又は年齢等の属性をも判定するものまでが含まれる。従って、特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出され、又は増加した、合わせて2以上の施設若しくは部屋又はその両方に、前記特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された当時存在していた人物の顔の判定を行うだけのものから、その人物の氏名、所属又は年齢等の各種属性をも出力判定できるものまでが広く含まれ、その種類や構成を問わない。
【0082】
捕集期間記録手段6は、前記複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、空気中又は水中の少なくとも一方の特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出されたり、既に検出されていた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が増加したりした場合に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間を記録する。このため、複数の施設若しくは部屋又はその両方に、ウイルス又は細菌の少なくとも一方の捕集装置4及び検査システム5を設置し、検出した期間と検出したウイルス又は細菌の少なくとも一方の種類等を、ネットワーク7を介して情報一元管理装置11に伝達する。感染した病原体の種類については、患者個人単位の検査によって最終的に確定することとなる。又、図では捕集装置4及び検査システム5を同じ場所に設置しているが、捕集装置4から検査センター等へデータを送信して、検査センター等においてデータを分析するようにしても良い。
【0083】
尚、空気中又は水中の少なくとも一方の特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方を検出する手段としては、特許文献1から特許文献8に挙げた技術やWBEが用いられ、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間は、手で入力するようにしても良いし、捕集装置4から自動的に記録されるようにしても良い。又、定期的に捕集を繰り返すような場合に予め捕集期間を情報一元管理手段に記録しておけば、どの捕集期間であるのかを特定することで足りる。この場合には、必ずしも捕集開始時刻及び終了時刻を逐一伝達する必要はない。
【0084】
マイクロ飛沫は、部屋の中で広範囲に拡散するため、捕集装置4をできるだけ低い位置に設置することが望ましい。電車等の車内や航空機の機内の場合には、座席の下が好適である。又、空調設備の吸気口又はその近くに設置するようにしても良い。
【0085】
前記入退者特定手段3が特定した前記人の入退に関する情報及び前記捕集期間記録手段6が記録した前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に関する情報を一元的に管理することができる情報一元管理手段12は、特に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方において、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に存在していた人のID情報や顔画像情報等を照合する機能を有するものである。ID情報を照合する場合には、例えば、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された其々の施設又は部屋に入退した人のリストから、その施設又は部屋において前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に存在していた人を抽出し、その結果を他の施設又は部屋における結果と照合する。又、顔画像情報を照合する場合には、例えば、まず、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された其々の施設又は部屋に入退した人を撮影した画像からその人の顔領域を切り出し、顔の特徴点を抽出し、その結果を他の施設又は部屋における結果と照合する。人物の同一性を判定できる手段であれば、その形態を問わない。
【0086】
情報一元管理手段12は、例えば、操作・表示部8、データ照合部9、制御部10、記憶部11を備え、特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された場合に、前記入退者特定手段3が特定した前記人の入退に関する情報及び前記捕集期間記録手段6が記録した前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に関する情報を一元的に管理し、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人を、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことができるようにする。
【0087】
ここで、情報一元管理手段12における、感染が疑われる者の特定と絞り込みについて説明する。例えば、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方において、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に存在していた人が2人存在し同一人物であった場合には、そのいずれかが感染者であるか、あるいは、そのいずれもが感染者である可能性がある。このため、本発明では、後者の場合には、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定できたことになり、前者の場合には、絞り込むことができたことになる。一方、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に存在していた人が一人だけであれば、その人を感染が疑われる者として特定できたものとする。
【0088】
尚、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人がいなかった場合には、その時点では前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができなかったことになる。この場合、前記入退者特定手段3が特定した前記人の入退に関する情報及び前記捕集期間記録手段6が記録した前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に関する情報は、引き続き情報一元管理手段12に累積保存され、新たな情報を受信したときに、改めて、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むために使用される。尚、情報を累積保存する期間は、対象とする前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の潜伏期間や感染可能期間等を考慮して定めることができる。
【0089】
これによって、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人を、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことができるようにする。
【0090】
本発明は、前記複数の施設若しくは部屋又はその両方において、其々、空気中又は水中の少なくとも一方の特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出されたり、既に検出されていた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が増加したりした場合だけでなく、痴漢、万引き等の窃盗、誘拐、通り魔、違法薬物犯罪等の各種事件が連続して発生した場合の被疑者特定にも利用できる。例えば、施設や部屋において違法薬物が検出された場合の違法薬物使用者の特定ないし絞り込みに利用することもできる。特に、カメラで撮影した人の中から被疑者を特定する場合に有効である。この場合には、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の検出は事件発生情報や捜査の端緒に関する情報の収集等に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間は事件発生時刻等に置き換えられる。
【0091】
感染者に関する情報は、個人のプライバシーに関する極めてセンシティブな情報といえる。このため、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができたとしても、その結果を直ちに公表することはできない。勿論、感染拡大を防ぐために、早急に本人に伝えなければならない。しかし、入退者特定手段3が、IDカード等を用いた入退管理システムの場合には、直ちに本人を特定して、その連絡先を容易に把握することもできるが、画像によって特定したに過ぎない場合もある。そこで、そのような場合には、前記施設若しくは部屋又はその両方の所有者又は管理者に対して通知を発することによって、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことができた画像中の人物の連絡先の把握に努めてもらう必要がある。そこで、本実施の形態では、前記ウイルス若しくは細菌の感染が疑われる者又は前記施設若しくは部屋又はその両方の所有者又は管理者に対して通知を発するための通知手段を新たに備えるようにしても良い。ただし、通知を発する範囲や情報の取り扱い等、秘密保全に万全を期す必要がある。
【0092】
通知には、上記のとおり、特にプライバシーの保護が求められる。そこで、通知は、前記施設若しくは部屋又はその両方の所有者又は管理者が、感染が疑われる者に対して直接、電話、電子メール、SNS等を通じて行うことが望ましい。又、前記施設若しくは部屋又はその両方に入退した人が、専用サイトにアクセスして予め登録したID・パスワードを入力することによって、自ら感染の疑いの有無を確認できるようにしても良い。
【0093】
イメージ的に描いた模式
図2から5を用いて、複数の部屋及びトイレを有する一棟の建物においてウイルス13が検出された場合を想定して説明する。例えば、カメラ1や個人認証装置2を備える入退者特定手段3を、
図2から5に示すように各部屋の出入り口付近に設置する。又、例えば、捕集装置4や検査システム5を備える捕集期間記録手段6を
図2から5に示すように各部屋の床等に設置する。更に、例えば、主にカメラ1からなる入退者特定手段3を
図2から5に示すように各トイレの出入り口付近に設置し、捕集装置4や検査システム5を備える捕集期間記録手段6を
図2から5に示すように各階トイレの排水が流れる排水管の合流部(汚水枡等)に設置する。尚、説明の都合上、カメラ1を室内側に描いたが、現実には廊下側に設置される場合が多い。各種装置の設置要領は、本発明がその作用効果を奏することができる限りにおいて任意であり、
図2から5に例示する要領に限定されるものではない。
【0094】
図2から5に示す人AからMは、6つの部屋と3つのトイレを備える施設において、ウイルス13が捕集された期間に存在していた人々である。実線で表した人は通常そこに存在していた人を表している。点線で表した人は、常時そこに存在していた訳ではないが、トイレを使用する等の目的で一時的に存在していた人を表している。尚、ウイルス13はイメージとして模式的に描いたものであって、現実には顔はないし、単一でもない。ウイルスが捕集されたということを表現したに過ぎない。
【0095】
簡単のため、以下の説明では、前記ウイルス13が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記部屋若しくはトイレ又はその両方に、前記ウイルス13が捕集された期間に、其々、1回以上存在していた人を、前記ウイルス13の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込む場合を想定する。尚、特定ないし絞り込みの精度を上げるために合わせて3以上等に設定することができるが、以下では2以上に設定した場合について説明する。
【0096】
例えば、期間P1に、
図2に示すように、2階の左側の部屋及びトイレ排水管の合流部において、前記ウイルス13が捕集されたとする。この場合、前記ウイルス13が検出された部屋及びトイレの2箇所に、前記ウイルス13が捕集された期間P1に存在していたEを、感染が疑われる者として特定することができる。又、この場合に、後述する第六の実施形態を適用すると、2階の左側の部屋でEと同時に存在していたFを濃厚接触者として特定することができる。
【0097】
次に、期間P2に、
図3に示すように、1階の右側の部屋、2階の左側の部屋及びトイレ排水管の合流部において、前記ウイルス13が捕集されたとする。この場合、Eに加えてAを感染が疑われる者として特定することができる。但し、この場合に、後述する第四の実施形態を適用すると、期間P1及びP2に、Aが存在していた3階の左側の部屋では前記ウイルス13を検出できなかったことから、Aは感染が疑われる者から除外される。その結果、やはりEを感染が疑われる者として特定することができる。
【0098】
又、この場合に、後述する第六の実施形態を適用すると、2階の左側の部屋でEと同時に存在していたA及びFを濃厚接触者として特定することができる。尚、期間P2には、1階の右側の部屋でも前記ウイルス13が捕集されたことから、この部屋に存在していたK、L又はMのいずれかが感染が疑われる者であることは確かである。しかし、これは捕集・検査システム自体によって得られた結果であるから、本実施の形態によって感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができたものとは言えない。
【0099】
次に、期間P3に、
図4に示すように、期間P2と同じく、1階の右側の部屋、2階の左側の部屋及びトイレ排水管の合流部において、前記ウイルス13が捕集されたとする。この場合、A及びEに加えて、新たにLを感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことができる。但し、この場合に、後述する第四の実施形態を適用すると、期間P1、P2及びP3に、Aが存在していた3階の左側の部屋では前記特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方を検出できなかったことから、やはりAは感染が疑われる者から除外される。又、この場合に、後述する第六の実施形態を適用すると、1階の右側の部屋でLと同時に存在していたK及びMを濃厚接触者として新たに特定することができる。
【0100】
次に、期間P4に、
図5に示すように、期間P2及びP3と同じく、1階の右側の部屋、2階の左側の部屋及びトイレ排水管の合流部において、前記ウイルス13が捕集されたとする。この場合、A、E及びLに加えて、新たにMを感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことができる。但し、この場合に、後述する第四の実施形態を適用すると、期間P1、P2、P3及びP4に、Aが存在していた3階の左側の部屋では前記ウイルス13を検出できなかったことから、やはりAは感染が疑われる者から除外される。又、この場合に、後述する第五の実施形態を適用すると、マスクを着用していなかったMを、マスクを着用していたK及びLよりも感染が疑われる者として、特定することができる。この場合、結局、E及びMを感染が疑われる者として、特定することができる。
【0101】
[第二の実施の形態]
感染が疑われる者は、前記施設若しく部屋又はその両方に滞在していた時間が長いほど、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方をより多く排出したと考えられる。そこで、第二の実施の形態では、第一の実施の形態において、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人が複数存在した場合には、存在していた時間が長い人ほど、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染がより強く疑われる者として特定し、又は絞り込むことができるようにする。これにより、検査能力に限界があるような場合に、感染が疑われる者に優先順位をつけることができる。
【0102】
尚、本実施の形態は、第一の実施の形態によって、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定することができた場合には必要ないが、絞り込めたものの特定に至らなかったような場合に有効である。但し、例えば2人に絞り込むことができた場合に、そのいずれもが感染している場合もあり得るため注意が必要である。
【0103】
[第三の実施の形態]
感染が疑われる者は、前記施設若しく部屋又はその両方に存在していた回数、又は、存在していた前記施設若しくは部屋又はその両方の数が多いほど、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方をより多く排出したと考えられる。そこで、第三の実施の形態では、第一の実施の形態又は第二の実施の形態において、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人が複数存在した場合には、存在していた回数、又は、存在していた前記施設若しくは部屋又はその両方の数が多いほど、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染がより強く疑われる者として特定し、又は絞り込むことができるようにする。これにより、検査能力に限界があるような場合に、感染が疑われる者に優先順位をつけることができる。
【0104】
[第四の実施の形態]
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出されなかった前記施設若しくは部屋又はその両方に存在していた人は感染していない可能性が高い。そこで、第四の実施の形態では、第一の実施の形態から第三の実施の形態のいずれかにおいて、前記特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間以降に、前記特定のウイルス又は細菌の少なくとも一方を検出できなかったり、既に検出されていた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が増加しなかったりした施設若しくは部屋又はその両方に、少なくとも1回以上存在していた人を、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者から除外する。これにより、実は感染していない人を、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として誤って特定し、又は絞り込んでしまうことを防止する。
【0105】
[第五の実施の形態]
マイクロ飛沫ではない大きな飛沫はマスクで止めることができるため、マスクを着用していなかった人の方が着用していた人よりも、ウイルス又は細菌の少なくとも一方を拡散させた可能性が高い。そこで、第五の実施の形態では、第一の実施の形態から第四の実施の形態のいずれかにおいて、前記施設若しくは部屋又はその両方において撮影した画像中の人がマスクを着用していたか否かを、画像認識を用いて識別するマスク着用識別手段を新たに備え、マスクを着用していなかった人を、マスクを着用していた人よりも前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者として特定し、又は絞り込むことができるようにする。
【0106】
マスク着用識別手段は、例えば、マスクを着用している人の画像データ及びマスクを着用していない人の画像データを入力、マスク着用の有無を出力とした機械学習の結果を用いて識別を行うようにする。
【0107】
例えば、機械学習に深層学習を用いる場合、入力ユニット数を画像サイズ(カラー画像であれば画像サイズの三倍の数)、出力ユニット数を2つとし、例えば、各画素の値を0から1の間に正規化したものを入力データ、マスクを着用している人の画像であれば[1,0]、マスクを着用していない人の画像であれば[0,1]を教師信号として、学習用データセットを用意する。ネットワーク構造としては、多層パーセプトロンやCNN(Convolutional Neural Network)等が考えられるが、マスク着用の有無を所望の精度でクラス分類できるものであれば、その構成を問わない。尚、ハイパーパラメータの設定は、本発明の本質的部分とは言えないし、現時点では公知の方法で試行錯誤するものであるため、ここでは説明を省略する。
【0108】
尚、マスク着用時の顔認証技術は既に多数公開されており、本実施の形態においては、こうした公知技術を用いる。マスクを着用していても90%以上の認識精度を得られ、特徴点があれば認証できるので、鼻をマスクから出した状態で登録することによって認証精度が更に高まる。目の周辺等、マスクで隠れていない部分を用いて顔認証を行うことによって、99.9%の精度が得られる場合もある。
【0109】
[第六の実施の形態]
前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者と同時に存在していた人は、感染が疑われる者から新たに感染したおそれがある。そこで、第六の実施の形態では、第一の実施の形態から第五の実施の形態のいずれかにおいて、前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者と同時に存在していた前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者以外の人を、濃厚接触者として特定することができるようにする。これにより、更なる感染拡大を防ぐことができる。
【0110】
[第七の実施の形態]
ウイルスや細菌の感染リスクについては、人種、性別、年齢、基礎疾患、血液型、渡航歴、職業、喫煙状況、飲酒状況、予防接種歴との関連性が認められる場合がある。又、濃厚接触者は感染する可能性が高いといえる。そこで、第七の実施の形態では、第一の実施の形態から第六の実施の形態のいずれかにおいて、人種、性別、年齢、基礎疾患、血液型、渡航歴、職業、喫煙状況、飲酒状況、予防接種歴又は前記ウイルス若しくは細菌の少なくとも一方の感染者若しくは濃厚接触者の少なくとも一方との接触履歴のうち、少なくとも一つ以上を含むデータを入力、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染の有無を出力とした機械学習の結果を用いて、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようにする。
【0111】
本実施の形態における機械学習には、ランダムフォレスト(random forest)等の決定木を用いる手法、サポートベクターマシン(Support Vector Machine,SVM)、深層学習(Deep learning)等の教師あり学習を用いる。尚、本実施の形態における機械学習は、感染の有無を所望の精度でクラス分類できるものであれば、ここに挙げた手法に限定されない。
【0112】
深層学習を用いる場合には、例えば、入力層を人種、性別、年齢、基礎疾患、血液型、渡航歴、職業、喫煙状況、飲酒状況、予防接種歴及び前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染者又は濃厚接触者の少なくとも一方との接触履歴からなる11次元以上とする。例えば入力ユニットを11個とする場合、人種が黄色人種ならば1それ以外ならば0、性別が女性ならば1男性ならば0、年齢が高齢ならば1それ以外ならば0、基礎疾患が有れば1それ以外ならば0、感染リスクが高いという知見が得られた血液型であれば1それ以外ならば0、渡航歴が有れば1無ければ0、職業が三密になり易い場合ならば1それ以外ならば0、喫煙者ならば1それ以外ならば0、飲酒の習慣が有れば1無ければ0、予防接種を受けていれば1それ以外ならば0、感染者又は濃厚接触者と接触したことがあれば1それ以外ならば0を入力信号とすることができる。
【0113】
入力ユニット数は、例えば、人種、性別、年齢、基礎疾患、血液型、渡航歴、職業、喫煙状況、飲酒状況、予防接種歴及び前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染者又は濃厚接触者の少なくとも一方との接触履歴をより詳細に区分すれば、それに応じて増やすことになる。例えば、血液型であれば、A型、B型、O型、AB型の4つに区分する。尚、この場合は、予め知見が得られている必要はない。又、感染者又は濃厚接触者の少なくとも一方との接触履歴であれば、例えば、家族に感染者又は濃厚接触者がいるか、会食をした友人等の中に感染者又は濃厚接触者がいたか、接触確認アプリケーションソフトウェアで通知を受けたかの3つに区分する。
【0114】
又、例えば、出力層を感染の有無からなる2次元、すなわち、出力ユニットを2個とする場合、感染が有れば[1,0]、無ければ[0,1]を教師信号とすることができる。ネットワーク構造としては、多層パーセプトロンやCNN等が考えられるが、感染の有無を所望の精度でクラス分類できるものであれば、その構成を問わない。尚、ハイパーパラメータの設定は、本発明の本質的部分とは言えないし、現時点では公知の方法で試行錯誤するものであるため、ここでは説明を省略する。
【0115】
第一の実施の形態から第六の実施の形態のいずれかにおいて、本実施の形態を採用することによって、例えば、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者が2人以上に絞り込まれた場合に、本実施の形態によって感染の有無にクラス分類することが可能になる。又、ウイルスや細菌の種類毎に分類できるように出力ユニットを用意することもできる。例えば、インフルエンザウイルスとコロナウイルスが同時に検出されるような場合には、例えば、出力ユニットを4つにする。これによって、感染が疑われる者が例えば2人に絞り込まれた場合に、一方はインフルエンザウイルス、他方はコロナウイルスの疑いがある者として特定することが可能になる。
【0116】
本実施の形態に用いる学習用データは、帰国者・接触者外来等の都道府県等が指定する医療機関や地域外来・検査センター等においてPCR検査等を受けた人々に対して、アンケート調査を実施することによって得ることができる。尚、学習用データが多い程精度向上を期待できるが、検査結果が陽性の人数と陰性の人数を同じくらいにすることが望ましいと考えられる。
【0117】
人種、性別、年齢、基礎疾患、血液型、渡航歴、職業、喫煙状況、飲酒状況、予防接種歴又は前記ウイルス若しくは細菌の少なくとも一方の感染者若しくは濃厚接触者の少なくとも一方との接触履歴のうち、少なくとも一つ以上を含む情報については、入退者の範囲が分かっている場合には予め取得して記憶部11等に保存しておくことができる。又、これらのデータを個人のアプリケーションソフトウェアに自分自身で入力するようにして、感染が疑われるとの通知を受けた後に自分自身で確認できるようにしても良い。仮に、こうした情報を自治体や政府で管理するようになった場合には、自治体や政府が管理するデータベースにアクセスして取得するようにしても良い。このように、情報取得手段については様々な公知の方法が考えられる。
【0118】
[第八の実施の形態]
前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方が捕集された期間に、其々、少なくとも1回以上存在していた人が、前記2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方の間を移動することが時間的に不可能である場合には、入退者特定手段3が入退者の特定に失敗した可能性が大きい。すなわち、人物の同一性判定に誤りがあった可能性が大きい。具体的には、施設R1において期間Pに存在していた人が、部屋R2において同じ期間Pに存在することがあり得ないような場合には、人物の同一性は否定されるべきである。尚、このような誤りは、入退者特定手段3がカメラ1を備え、画像認識によって人物の同一性を判定する場合に生じ易い。そこで、第八の実施の形態では、第一の実施の形態から第七の実施の形態のいずれかにおいて、前記入退者特定手段3がカメラ1を備え、前記複数の施設若しくは部屋又はその両方の間の移動所要時間に基づき、前記施設若しくは部屋又はその両方を前記カメラ1で撮影した画像中の人物の同一性を判定できるようにする。このため、前記入退者特定手段3を設置した前記複数の施設若しくは部屋又はその両方の間の移動所要時間を予め入力しておくか、あるいは、経路検索ツール等を用いて自動的に算出できるようにする。
【0119】
[第九の実施の形態]
前記人が携帯する端末のGPSによって得られる位置情報を利用することによって、入退者特定手段3の入退者特定精度を向上することができるとともに、誤りを防止することができる。そこで、第九の実施の形態では、第一の実施の形態から第八の実施の形態のいずれかにおいて、前記人が携帯する端末のGPSによって得られる位置情報に基づき、前記ウイルス又は細菌の少なくとも一方の感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むことができるようにする。
【0120】
図6は、第一の実施形態の情報一元管理ステップに係るプログラムのフローチャートの一例を示す説明図である。例えば、複数の施設若しくは部屋又はその両方から、其々、入退者に関する情報及び特定のウイルスが捕集された期間に関する情報が、ネットワークを介して情報一元管理手段12に伝達され(D1)、データとして記憶されるようにする(D2、D3)。システムを起動した後に(S1)、前記ウイルスが検出された場合(S2)、前記ウイルスが捕集された期間を取得し(S3)、前記ウイルスが捕集された施設若しくは部屋又はその両方が複数箇所であるか否かを判定する(S4)。尚、2回目以降のウイルス検出の場合には、それ以前に累積されたデータ(D4)を含む前記ウイルスが捕集された期間を含め(S3)、前記ウイルスが捕集された施設若しくは部屋又はその両方が複数箇所であったか否かを判定する(S4)。複数箇所であった場合には、各複数箇所における捕集期間について(S5)、其々の捕集期間における入退者を抽出し(S6)、各複数箇所における捕集期間の入退者を照合して(S7)同一性を判定する。そして、前記ウイルスが検出された、合わせて少なくとも2以上の前記施設若しくは部屋又はその両方に、前記ウイルスが捕集された期間に、其々、1回以上存在していた人がいたか否かを判定し(S8)、いた場合には、感染が疑われる者として、そのIDや顔画像等の個人を特定し得る情報を出力表示する(S9)。いなかった場合には、各複数箇所における捕集期間及びその期間における入退者に関するデータは情報一元管理手段に累積記憶され(D4)、新たにウイルス検出情報を受信したときに、改めて、感染が疑われる者を特定し、又は絞り込むために使用される。尚、ウイルスの場合を例に説明したが、細菌の場合についても同様である。最後に、感染リスクが終息したり、各装置を交換したり、システムを補修したりする場合等、システムを終了する必要が生じた場合には、システムを終了する(S10、S11)。それまでの間は、以上の処理を繰り返す。
【0121】
以上、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明をしたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において構成を変更した場合も本発明の技術的範囲に含まれる。すなわち、当業者であれば当然になし得る各種変更は本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明によれば、感染が疑われる者を早期に特定し、又は絞り込むことができるので、感染症による経済社会活動への影響を最小限に抑えることができる。又、感染者の存在する場所と存在しない場所を峻別することができるようになるので、人々の安心・安全につながる。
【符号の説明】
【0123】
1 カメラ
2 個人認証装置
3 入退者特定手段
4 捕集装置
5 検査システム
6 捕集期間記録手段
7 ネットワーク
8 操作・表示部
9 データ照合部
10 制御部
11 記憶部
12 情報一元管理手段
13 ウイルス