(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073889
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20220510BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20220510BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20220510BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20220510BHJP
G01R 31/378 20190101ALI20220510BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
G01R31/392
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M10/42 P
G01R31/367
G01R31/378
H02J7/00 Y
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053684
(22)【出願日】2021-03-26
(31)【優先権主張番号】109137756
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】502326864
【氏名又は名称】長庚大學
【氏名又は名称原語表記】CHANG GUNG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.259, Wenhua 1st Rd., Guishan Dist., Taoyuan, 333 Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】陳始明
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216AB01
2G216BA22
2G216BA29
2G216CB34
2G216CB51
2G216CD03
5G503AA01
5G503BA02
5G503BB01
5G503CA08
5G503CB11
5G503EA08
5G503GD06
5H030AA01
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF42
(57)【要約】 (修正有)
【課題】異なる環境温度及び異なる放電レートといったさまざまな作動条件下に適用するリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数を正確かつ迅速に予測できる方法を提供する。
【解決手段】リチウムイオン電池の充電電流と放電電流を記録し、各放電サイクルの放電温度及び当該放電電流を記録し、充電/放電サイクルの回数を記録し、少なくとも2つの確認済みの当該リチウムイオン電池の当該充電/放電サイクルを選定した後、当該リチウムイオン電池の健全度の数値に関する電気化学の電気モデルを算出し、取得した当該健全度の数値に関する電気化学の電気モデルを用いて、半経験的容量フェージングモデルのパラメータを計算し、クラウドに当該リチウム電池を接続して、計算により得た数値を確認した後、アプリケーションに送信し、当該結果を画面に表示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池の充電電流と放電電流を記録し、
各放電サイクルの放電温度及び当該放電電流を記録し、充電/放電サイクルの回数を記録し、
少なくとも2つの確認済みの当該リチウムイオン電池の当該充電/放電サイクルを選定した後、当該リチウムイオン電池の健全度の数値に関する電気化学の電気モデルを算出し、
取得した当該健全度の数値に関する電気化学の電気モデルを用いて、半経験的容量フェージングモデルのパラメータを計算し、
クラウドに当該リチウムイオン電池を接続して、計算により得た数値を確認した後、アプリケーションに送信し、当該結果を画面に表示することを特徴とするリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数の測定方法。
【請求項2】
下記の数式1によって得られる当該健全度の数値を含み、
【数1】
当該Qmax(fresh)を第1のサイクルパラメータとし、Qmax(aged)を経年劣化パラメータとすることを特徴とする請求項1に記載する方法。
【請求項3】
下記の数式2によって得られる当該半経験的容量フェージングモデルを含み、
【数2】
そのうち、パラメータk
1はリチウムイオン電池が高温循環という条件下において、急速に増加する容量損失を示し、
パラメータk
2はリチウムイオン電池が正常循環という条件下において考えられる容量損失の1つの要因を示し、
パラメータk
3はリチウムイオン電池の使用率による容量損失を示し、
パラメータNはリチウムイオン電池が健全な状態にある場合に、経年充電/放電サイクル数を示し、
パラメータiは放電中の電流であることを特徴とする請求項1に記載する方法。
【請求項4】
残存耐用年数が80%であることを含む当該半経験的容量フェージングモデルであることを特徴とする請求項3に記載する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数の測定方法であり、特に正確かつ即時にリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数を予測できる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(electric vehicle, EV)は、現代の自動車業界の発展において、最も注目が集まっており、特に充電可能なリチウムイオン電池(lithium-ion battery, LiB)をエネルギー源とする電気自動車については、常にその充電可能なリチウムイオン電池の効率が高さや耐用年数の長さに期待が寄せられている。しかし、リチウムイオン電池の健全度(State-of-Health, SoH)を見極め、その残存耐用年数(remaining useful life, RUL)を予測することは、関連領域で把握するのに困難を極めているのが現状である。実際、正確かつ迅速に当該リチウムイオン電池の健全度を測定するのは、関連業界において今もなお克服できない課題となっている。
【0003】
さらに各方面でリチウムイオン電池の健全度(State-of-Health、SoH)、充電状態(State of Charge、 SoC)、エネルギー状態(state of energy、SoE) 及び安全状態(state of safety、SoS)等のリチウムイオン電池の重要な健全度指標(Health index)について広く議論されている。その理由として、リチウムイオン電池の健全度を正確に測定できないと、実際のリチウムイオン電池の残存電荷、すなわち一般的にいう電荷量が、予測をはるかに下回り、そのために予期せぬ過放電(over discharge)を引き起こしてしまう恐れがあるからだ。
【0004】
また、残存耐用年数がわからないリチウムイオン電池だと、使用者が交換予定時期を待たずにリチウムイオン電池を交換してしまい、リチウムイオン電池の使用コスト増加をもたらす可能性もある。一方、リチウムイオン電池の健全度が実際は80%以下であるにもかかわらず、無理にその耐用期限を延ばそうとすると、もっと大きな問題を招くことにつながりかねない。
【0005】
このため、リチウムイオン電池の健全度を正確に評価し、残存耐用年数を予測することが、リチウムイオン電池を使用する際の最重要事項となり、特に電気自動車分野では最重要視されている。現在、健全度の評価方法は多数あり、一部の評価方法は正確性が高いと言えないわけではないが、複雑な演算法を使った計算を行うため、即時に電気自動車に使えるというわけでもなく、実用面から見ても、迅速さと正確性に欠けることには大きな疑問の余地が残る。
【0006】
これを受け、現在、電気自動車業界の関連分野では、効果的にリチウムイオン電池の健全度の評価が行え、リチウムイオン電池の残存耐用年数を明確に把握できて予測が可能な最適なプランの策定が急務となっている。そこで、正確かつ迅速にリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数を予測できる方法が提供できれば、それこそ電気自動車関連業界において、これまで期待かつ注目されてきた画期的なこととなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明で開示するリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数の予測方法は、異なる環境温度及び異なる放電レートなどさまざまな作動条件下のリチウムイオン電池に適用できるものであり、正確かつ即時にリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数を予測できる方法である。
【0008】
本発明で開示するリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数の測定方法は、まずリチウムイオン電池の充電電流と放電電流を記録し、次に各放電サイクルの放電温度及び放電電流、さらに充電/放電サイクルの回数を記録する。続いて、少なくとも予め3つの確定済みリチウムイオン電池の充電/放電サイクルを選定し、リチウムイオン電池の健全度の数値を算出する。それから、取得した健全度の数値を用いて「半経験的容量フェージングモデルのパラメータ値」を算出する。最後に、クラウドにリチウムイオン電池を接続し、計算により取得した数値の確認を行った後、アプリケーションに送信し、その結果を画面に表示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明で開示するリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数の測定方法は、「電気化学の電気モデル」及び「半経験的容量フェージングモデル」を相互に組み合わせ、それらをリチウムイオン電池の放電曲線に利用して、すべての作動条件下におけるリチウムイオン電池の最大充電容量、健全度と耐用年数を評価することで推定正確度99%以上とすることを目的とする。
【0010】
本発明で開示するリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数の測定方法は、リチウムイオン電池の加速寿命測定方法として使用することができ、工場で同一ロットにより製造されたリチウムイオン電池の耐用年数を予測し、当該ロットにより製造されたリチウムイオン電池の品質と信頼性の検査に適用できることを目的とする。さらに本発明は閉鎖モデルで、使用する「推定時間」は5秒以内であるため、即時にオンラインに接続する分野に適用する。
【0011】
本発明で開示するリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数の測定方法は、リチウムイオン電池の電池容量及び当該残存耐用年数に対して正確にオンラインに接続して予測を行うという要求が非常に重要であり、本発明では、半経験的容量フェージングモデルを用いて健全度を評価し、リチウムイオン電池が作動している時の異なる放電サイクル後の残存耐用年数を予測することに優位性がある。
【0012】
本発明で開示するリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数の測定方法は、放電電流と環境温度にかかわらず、本発明の正確度が99%以上であることに優位性がある。
【0013】
本発明で開示するリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数の測定方法は、本発明はタイトな閉形式であり、リチウムイオン電池のライフサイクル推定に用いることができるため、本発明は接続して即時にリチウムイオン電池の健全度を評価するのにも適用できることに優位性がある。
【0014】
本発明で開示するリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数の測定方法は、リチウムイオン電池の健全度について、複数回の充電/放電サイクルを経た後のリチウムイオン電池の最大残留蓄電売容量の測定値がリチウムイオン電池の最大蓄電容量の減り具合により、リチウムイオン電池の健全度は、放電サイクル数、放電電流と温度の回数と関係があると合理的に仮設できることに優位性がある。
【0015】
本発明で開示するリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数の測定方法は、異なる温度と放電レートのリチウムイオン電池の健全度評価により予測することができ、容易かつ即時に実現できるほか、リチウムイオン電池の健全度を確定する場合、80%の充電/放電サイクルまで引き下げ、リチウムイオン電池の耐用年数を予測できることに優位性がある。
【0016】
本発明で開示する前述の利点及びその他多数の利点について、次の図面を参照しながら、実施形態について詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明で開示するリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数の測定方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、添付した図面を参照しながら、本発明で開示する実施形態について説明する。図面において同じ部品の符号は同じ部品を示し、より明確に説明を行うために、部品の大きさまたは厚さは誇張表示してある可能性がある。
【0019】
本発明で開示するリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数の測定方法は、パナソニック(panasonic)社のカタログ番号SANYO UR18650Eのリチウムイオン電池、及びBio-Logic社のマルチチャンネル出力充放電測定システム(製品番号BCS-815)を用いて測定を行った。当該マルチチャンネル出力充放電測定システムは、8チャンネルで利用でき、各チャンネル15アンペア(A)対応、当該マルチ室温(約25oC)の下、リチウムイオン電池を通して発生した測定データを収集し、データ収集のサンプル周波数は1Hzである。
【0020】
図1は、本発明で開示するリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数の測定方法のフロー図である。
図1に示すステップ101は、リチウムイオン電池の充電電流と放電電流を記録する。通常出荷直後の電池の充電電流と放電電流を記録するが、電池は異なる測定条件の下で測定を行うため、この場合、電池の充電電流と放電電流を1回以上記録する。また、本発明では電池を充電して使用し、また定電流により電池を放電終止電圧まで充電した後、定電圧により電流が100mAに下がるまで充電する。
【0021】
図1に示すステップ102は、各放電サイクルの放電温度及び放電電流を記録すると同時に、充電/放電サイクルの回数も記録する。ここでいう充電/放電サイクルとは、充電プロセスと放電プロセスを含む各サイクルをいう。
【0022】
図1に示すステップ103では、少なくとも予め2つの確認済みのリチウムイオン電池の充電/放電サイクルを選定後、リチウムイオン電池の健全度の数値「電気化学の電気モデル(SoH)」を算出する。つまり、健全度の数値は、第1のサイクル(Qmax(fresh)パラメータのリチウムイオン電池を測定後とリチウムイオン電池の経年劣化(Qmax(aged)パラメータのプロセス後、第1のサイクル(Qmax(fresh)パラメータで(Qmax(aged)パラメータを除して得た健全度の数値が次のリチウムイオン電池の最大電池容量値となる。
【0023】
下記の数式1は、前記の「電気化学の電気モデル」の式である。
【0024】
【0025】
さらに、
図1に示すステップ104は、取得した健全度の数値である「電気化学の電気モデル」を用いて、次のような「半経験的容量フェージングモデル(SECF)」のパラメータ値(the values of the parameters)を計算した。
【0026】
下記の数式2は、前記の「半経験的容量フェージングモデル」の式である。
【0027】
【0028】
前記の
図1に示すステップ104では、次の「半経験的容量フェージングモデル」の各パラメータを表示する。
【0029】
図1に示すステップ104では、パラメータk
1で高温循環という条件下において急速に増加するリチウムイオン電池の容量損失を示す。
【0030】
また
図1に示すステップ104では、パラメータk
2で正常な循環条件下で考えられるリチウムイオン電池の容量損失の一因を示す。
【0031】
さらに
図1に示すステップ104では、パラメータk
3でリチウムイオン電池の使用速度によって引き起こされる容量損失を示す。
【0032】
続いて、
図1に示すステップ104では、パラメータNでリチウムイオン電池が健全な段階にある場合の経年充電/放電サイクル数を示し、パラメータiで放電中の電流を示す。
【0033】
図1に示すステップ104では、前記のパラメータにはパラメータk
1、パラメータk
2、パラメータk
3を含み、3つの異なる充電/放電サイクルを通して取得することで、3つのサイクルから選択した最大サイクルによりリチウムイオン電池の健全度を約80%のサイクルの半分とすることを確実にする。
【0034】
最後に、
図1に示すステップ105では、クラウド(cloud)にリチウムイオン電池を接続して、前記の計算で取得した数値に相違ないことを確認した後、最終的に計算して取得した数値をアプリケーション(App)に送信し、その結果を画面(screen display)に表示する。
【0035】
このほか、前記の
図1に示すステップ104「半経験的容量フェージングモデル」を用いて、電気自動車のリチウムイオン電池に関して、下記に示す実際の推定方法の数式3を取得した。
【0036】
【0037】
前記の80という数字は、残存耐用年数を示す。つまり、これはリチウムイオン電池の使用可能な総蓄電容量(Qm)は80%以上必要であり、これは演算によって取得することができる。
【0038】
本発明で開示するリチウムイオン電池の健全度と残存耐用年数の測定方法は、
図1に示すステップ103の「電気化学の電気モデル」及び
図1に示すステップ104の「半経験的容量フェージングモデル」の組み合わせにからなっており、これらをリチウムイオン電池の放電曲線に利用することで、すべての作動条件下におけるリチウムイオン電池の最大充電容量、健全度と耐用年数を評価し、正確度99%以上と推定する。さらに、本発明はリチウムイオン電池の加速劣化測定方法として使用することができるほか、工場で製造された同一ロットのリチウムイオン電池の耐用年数の測定のほか、当該ロットのリチウムイオン電池の品質と信頼性の検査にも適用することができる。さらに本発明は、閉鎖モデルであり、使用する「推定時間」は5秒以下となるため、即時に接続する応用分野に適用する。
【0039】
本発明は、リチウムイオン電池の電池容量及び当該残存耐用年数に対して、正確にオンラインに接続して予測を行うことの要求が非常に重要であり、本発明では半経験的容量フェージング(SECF)モデルを用いて健全度及びそれがリチウムイオン電池が作動中に、異なる放電サイクル後の残存耐用年数を推定するものである。また放電電流と環境温度にかかわらず、本発明の正確度は99%以上を確保することができる。本発明はタイトな閉形式であり、リチウムイオン電池のライフサイクル予測に用いることができる。そのため、本発明はリチウムイオン電池をオンラインに接続して即時に健全度を推定することにも適用することができる。
【0040】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。また本発明の範囲及び趣旨を逸脱することなく、様々な変更または修飾を行うことができる。
【符号の説明】
【0041】
101 リチウムイオン電池の充電電流と放電電流を記録する
102 放電サイクルの放電温度と放電電流を記録する
103 「電気化学の電気モデル」の計算
104 「半経験的容量フェージングモデル」の計算
105 数値を確認した後、アプリケーションに送信し、画面に表示する