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特開2022-73917再生コラーゲン繊維を使用した生地および肌着
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073917
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】再生コラーゲン繊維を使用した生地および肌着
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/16 20060101AFI20220510BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20220510BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20220510BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20220510BHJP
   A41D 31/04 20190101ALI20220510BHJP
   A41B 9/12 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
D04B1/16
D04B21/16
D03D15/00 A
A41D31/00 503B
A41D31/04 F
A41B9/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089790
(22)【出願日】2021-05-28
(31)【優先権主張番号】P 2020183529
(32)【優先日】2020-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】松本 良友
(72)【発明者】
【氏名】木村 達人
(72)【発明者】
【氏名】井上 真理
【テーマコード(参考)】
4L002
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA05
4L002AB01
4L002AC00
4L002AC07
4L002BA00
4L002CA00
4L002EA00
4L002EA01
4L002FA03
4L048AA13
4L048AA19
4L048AA34
4L048AB01
4L048AB11
4L048AC00
4L048CA00
4L048CA10
4L048CA12
4L048DA01
(57)【要約】
【課題】風合いや肌触りに優れた生地を得ることを課題とする。
【解決手段】圧縮特性RCが40%以上である再生コラーゲン繊維を使用した生地を用いる。再生コラーゲン繊維としては、繊度が1~10dtexであることが好ましく、また、生地を構成する糸の太さが5/1Ne~60/1Neもしくは、5/1Ne~60/1Neに相当する太さの糸であることが好ましい。再生コラーゲン繊維は、特に冬用肌着として好適である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮特性RCが40%以上であることを特徴とする、再生コラーゲン繊維を使用した生地。
【請求項2】
繊度が1~10dtexである再生コラーゲン繊維を使用した、請求項1に記載の生地。
【請求項3】
生地を構成する糸の太さが5/1Ne~60/1Neもしくは、5/1Ne~60/1Neに相当する太さの糸である再生コラーゲン繊維を使用した、請求項1または2に記載の生地。
【請求項4】
肌着用である、請求項1~3のいずれか1項に記載の生地。
【請求項5】
冬用肌着用である、請求項1~4のいずれか1項に記載の生地。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の生地からなる肌着。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生コラーゲン繊維を使用した生地および肌着に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コットンやナイロンなどを適宜組み合わせた編地が、肌着衣料として広く用いられている。
夏季用の肌着として用いられる場合は、特に接触冷感に優れた繊維及び該繊維を用いた繊維製品が研究されている。接触冷感に優れた繊維を得る方法としては、従来は、例えば、繊維の吸水性を向上させたり、繊維の熱伝導性を向上させたりする方法等が行われている(特許文献1)。
【0003】
また、冬季用の肌着として用いられる場合は、保温性を具備する肌着衣料が好まれることから、袋編組織を採用した編地が肌着衣料に適用されている。例えば、特許文献2には、表面層がポリエステルウーリー糸、接結糸にポリエステル中空糸、裏面層に綿糸を使用した三層構造編地が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-235278号公報
【特許文献2】特開2002-235264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1や2に記載の生地は、接触冷感や保温性といった、特定の目的に適合したものではあり、風合いや肌触りといった、肌着などに求められる総合的な特性について、必ずしも満たしているとは言えない。
【0006】
本発明は、肌着に好適に用いられる、風合いや肌触りに優れた、特にしっとり感に優れた生地を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、再生コラーゲン繊維からなる生地は圧縮特性RCが40%以上となり、風合いや肌触り(特にしっとり感)に優れた生地が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明の第1の態様は、圧縮特性RCが40%以上であることを特徴とする、再生コラーゲン繊維を使用した生地である。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る生地からなる肌着である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、風合いや肌触りに優れる生地を得ることができる。本発明にかかる生地は、肌着に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】SD法により行った、各繊維の主観評価の結果を表した図である。
図2】KESによる各物理特性の測定方法を表した図である。
図3】着用時のゆとり量を模擬した条件での熱損失量の測定結果を示す図である。
図4】着用時のゆとり量を模擬した条件での保温率の測定結果を示す図である。
図5】衣服内気候を想定した温湿度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
【0013】
本発明で使用する再生コラーゲン繊維は、特に限定はないが、牛などの床皮を原料として、アルカリ可溶化法や酵素可溶化法にて可溶化処理が施されたコラーゲンを乳酸、塩酸、酢酸などの酸で溶解した水溶液を用いて、紡糸ノズルから該水溶液を硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウムなどの無機塩水溶液中に紡出して繊維を形成させ、さらに単官能エポキシ化合物などの有機架橋剤やアルミニウム塩などの金属塩と反応させて耐水化させた再生コラーゲン繊維が代表的であり、好適に使用できる。例えばその製造方法は、特開2007-177370号公報、特開2002-249982号公報、及び特願2017-524866公報等に詳細に記載されている。
【0014】
再生コラーゲン繊維を使用した生地としては、特に限定されず、例えば、布、織物、編物、編布、不織布等を用いることができる。
【0015】
生地を手触りした時の風合いの主観評価の項目としては、例えば、柔らかい、ふっくら、ボリューム感、なめらか、暖かい、しっとり感が挙げられる。これらのうち、しっとり感と、冬用肌着としての優れた肌触り感と、は相関度合いが高い。再生コラーゲン繊維からなる生地は、風合いおよび冬用肌着としての肌触りに優れる点で、物理特性としての圧縮特性RCが40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましい。
【0016】
生地を構成する糸の太さとしては、5/1Ne~60/1Neもしくは、5/1Ne~60/1Neに相当する太さの糸であることが好ましい。
【実施例0017】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0018】
再生コラーゲン繊維は、特願2017-524866公報の実施例に記載されている製造方法と同様の方法にて得られた繊度2dtexのものである。本発明者らは、風合いや肌触りに優れた生地について、物理特性で表すことで、容易に風合いや肌触りに優れた生地を得られるようになるのではないかと考え、再生コラーゲン、及びコットン、ポリエステル、アクリル、レーヨンといった一般的に用いられる繊維の評価を行った。評価にあたっては、再生コラーゲン、コットン、ポリエステル、アクリル、レーヨンの5種類について、番手10/1Ne(もしくは2/36Nm)、20/1Ne(もしくは2/72Nm)、30/1Ne(もしくは1/52Nm)の3種類の太さの糸を準備し、それぞれの糸からなるリブ構造の編布を作成し、計15種類の編布を試料とした。なお、再生コラーゲンについては、他の試料とほぼ同じ番手になるように調整を行い、上記糸の番手において、( )内で表されるものを使用した。
【0019】
評価にあたっては、まず、21~24歳の22名(男性11名、女性11名)を被験者として、手触りによる風合いの主観評価を行った。評価における試料の触り方は、
(1)試料を置いたまま表面を利き手でなでる、
(2)両手で試料を持ち、指先で試料をなでる、
(3)試料を置き、利き手で試料を折り曲げ、なでる
として、触り方については、評価前に被験者に対して説明を行った。
【0020】
色や構造の違いなど視覚的な評価要素を取り除くため、評価はアイマスクをつけて行った。評価項目は、
(i)「柔らかい-硬い」、
(ii)「ふっくら-ごわごわ」、
(iii)「ボリュームがある-薄い」、
(iv)「なめらか-ざらざら」、
(v)「暖かい-冷たい」、
(vi)「しっとりしている-乾いている」、
(vii)「夏用肌着として肌触りが良い-夏用肌着として肌触りが悪い」、
(viii)「冬用肌着として肌触りが良い-冬用肌着として肌触りが悪い」
の8項目であり、それぞれの評価は、-3から+3の7段階のSD法により行った。
主観評価の結果を図1に、主観評価項目間の相関係数を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
更に、物理特性として、KES(カトーテック(株))を用いて、表2および表3に示す特性(引張特性、曲げ特性、せん断特性、表面特性、厚さ、重さ、熱・水分・空気の移動特性として最大熱流束、熱コンダクタンス、熱損失量、通気抵抗)を測定した。測定方法の概要を図2に、物理特性結果を表4、表5に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
【表3】
【0025】
【表4】
【0026】
【表5】
【0027】
また、主観評価と物理特性の相関係数は以下のとおりである(表6)。
【0028】
【表6】
【0029】
上記主観評価と物理特性の相関係数から、しっとり感に着目して、既存の肌着用編布の客観評価式KN403-KTU式から基本風合い値KOSHI、NUMERI、FUKURAMI、SHARIを算出し、KN304式から夏用および冬用の総合風合い値THVs、THVwを算出した。その結果を以下に示す(表7)。
【0030】
【表7】
【0031】
表7からは、「しっとり感」が、既存の肌着用編布客観評価式のKOSHI、SHARI、NUMERIでとらえることができることがわかる。
【0032】
再生コラーゲンとレーヨンは「柔らかい」、「ふっくら」、「なめらか」、「しっとり感」の評価が高く、肌着としての総合評価が高い。特に再生コラーゲンのうち、圧縮特性RCが40%以上であるものが、「しっとり感」、「冬用肌着」としての評価が高いことを見出した。一方、綿やポリエステルは、「ボリューム感」と「ざらざら」の評価値が高く、特に「夏用肌着」としてはあまり好ましくないことが確認された。また、アクリルの試料は「ざらざら」、「乾いている」の評価値が高く、「冬用肌着」の評価が低く、冬用肌着としてはあまり好ましくないことが確認された。
【0033】
総合評価項目の「夏用肌着として肌触りが良い」「冬用肌着として肌触りが良い」と相関が高い項目は「柔らかい」、「ふっくら」、「なめらか」、「しっとり感」で共通しており、これらの項目が肌着用編布の評価に影響し、「冬用肌着」では「しっとり感」が強い試料が、「夏用肌着」では「ボリューム感」がなく薄い試料の評価が高いことが明らかになった。
【0034】
再生コラーゲンは引張特性LT、WT、曲げ特性、せん断特性、表面特性MMD、SMDが小さく、圧縮特性WC、RCが大きいことが特徴である。レーヨンは、引張、曲げ、せん断特性が小さく、コットン、ポリエステル、アクリルはこれらで大きな値を示した。番手の異なる試料では、番手の順に特性値が変化することが予測されたが、番手による傾向がみられたのはアクリルとレーヨンのみであった。ただし、繊維組成の性質の特徴は、どの番手においても類似した結果となった。
【0035】
主観評価値と物理特性値の関係として、引張、曲げ、せん断特性は「柔らかい」、「ふっくら」、「ボリューム感」、「なめらか」、「しっとり感」と0.6~0.9の強い相関を示しており、これらの特性が肌触りの評価に影響を与えていることが明らかになった。主観評価項目「しっとり感」と物理特性の相関係数で0.6以上を示したのは、引張特性LT、WT、曲げ特性、せん断特性、圧縮特性RC、表面特性MMD、qmaxであった。中でも特に、表面特性が「しっとり感」の指標として捉えられると考えられる。
【0036】
以上の評価から、本願発明者らは、再生コラーゲン繊維から得られる生地が圧縮特性RCが40%以上となり、風合いおよび肌触りに優れることを見出した。繊度が1~10dtexである再生コラーゲン繊維を使用した生地を用いるのが、より好ましい。
【0037】
<着用時のゆとり量を模擬した条件での熱損失量および保温率の測定>
着用時に人の皮膚と肌着との間にゆとり量が生じることを想定し、それを模擬した条件での熱損失量および保温率を測定した。
(乾燥状態での熱損失量及び保温率:Dry法)
外気温が20℃の環境下で、30℃の熱板(10cm×10cm角)上に、前述した各試料を、上記熱板から0mm、4.5mm、9.5mmの間隔を開けて被せ(接触試料面積:10cm×10cm)、上記熱板を30℃に保つために必要な熱量Wd(W)を測定した。なお、上記4.5mm及び9.5mmの間隔を開けるために、30℃の上記熱板の四辺上に、それぞれ厚さが4.5mm及び9.5mmのスチロール板を配置した。また、30℃の上記熱板は、乾燥状態の人の皮膚を模擬したものである。
熱板の面積(m)をA、熱板の温度をtbt(K)、外気温をta(K)として、下記式(1)より、Dry法による熱損失量Qd(W/m・K)を求めた。結果を図3に示す。
また、前述した各試料を使用しないこと以外は、上記と同様の方法により、熱板を30℃に保つために必要な熱量を測定し、上記と同様の方法により、乾燥状態での熱損失量Qを求めた。そして、下記式(2)より、乾燥状態での保温率を求めた。結果を図4に示す。
乾燥状態での熱損失量Qd=(Wd/A)・(tbt-ta) ・・・式(1)
乾燥状態での保温率=[(Q-Qd)/Q]・100 ・・・式(2)
【0038】
(湿潤状態での熱損失量及び保温率:Wet法)
30℃の上記熱板の上に含水率200%のろ紙(10cm×10cm角)を置き、更にセロファンを被せたこと以外は、上記Dry法と同様の方法により、上記熱板を30℃に保つために必要な熱量Ww(W)を測定した。なお、含水率200%の上記ろ紙は、発汗時の人の皮膚を模擬したものである。
熱板の面積(m)をA、熱板の温度をtbt(K)、外気温をta(K)として、下記式(3)より、Wet法による熱損失量Qw(W/m・K)を求めた。結果を図3に示す。
また、前述した各試料を使用しないこと以外は、上記と同様の方法により、熱板を30℃に保つために必要な熱量を測定し、上記と同様の方法により、湿潤状態での熱損失量Qを求めた。そして、下記式(4)より、湿潤状態での保温率を求めた。結果を図4に示す。
湿潤状態での熱損失量Qw=(Ww/A)・(tbt-ta) ・・・式(3)
湿潤状態での保温率=[(Q-Qw)/Q]・100 ・・・式(4)
【0039】
図4から、5種の試料のうち再生コラーゲンが、熱板と試料の間隔が4.5mm、9.5mmのいずれにおいても、乾燥状態での保温率が最も高くなることが分かる。
【0040】
<衣服内気候を想定した温湿度の測定>
外気条件が、暑熱条件(28℃、65%RH)、標準条件(20℃、65%RH)、寒冷条件(15℃、65%RH)であること以外は、上記Wet法と同様の方法で、上記熱板上に、前述した各試料を、上記熱板から4.5mmの間隔を開けて被せ(接触試料面積:10cm×10cm)、上記熱板と各試料との間の空間の温湿度の変化を600秒間測定した。また、温湿度の測定終了後(試験開始時から600秒後)、上記3つの条件における熱損失量を測定した。温湿度の結果を図5に示し、熱損失量の結果を表8に示す。
【0041】
【表8】
【0042】
図5から、5種の試料のうち再生コラーゲンが、標準条件と暑熱条件で、湿度が最も下がることが分かる。また、5種の試料のうち再生コラーゲンが、いずれの条件でも、保温性が最も高くなることが分かる。また、表8から、5種の試料のうち再生コラーゲンが、標準条件と寒冷条件での熱損失量が最も低くなることが分かる。
【0043】
これらの試験結果から、総合的にみて、再生コラーゲンは、冬用肌着として、他の繊維よりも適しているといえる。
図1
図2
図3
図4
図5