(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073973
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】表面処理鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20220510BHJP
C23C 2/12 20060101ALI20220510BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20220510BHJP
C22C 21/10 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C23C28/00 C
C23C2/12
C22C18/04
C22C21/10
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021150578
(22)【出願日】2021-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2020183278
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セロテープ
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000200323
【氏名又は名称】JFE鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】平 章一郎
(72)【発明者】
【氏名】大居 利彦
(72)【発明者】
【氏名】岩野 純久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】菅野 史嵩
(72)【発明者】
【氏名】安藤 聡
【テーマコード(参考)】
4K027
4K044
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AA22
4K027AB05
4K027AB15
4K027AB48
4K027AC64
4K027AE02
4K027AE03
4K044AA02
4K044BA10
4K044BA11
4K044BA14
4K044BA17
4K044BB03
4K044BC02
4K044BC09
4K044CA11
4K044CA16
(57)【要約】
【課題】安定的に優れた耐食性及び耐白錆性を有する表面処理鋼板を提供する。
【解決手段】上記目的を達成するべく、本発明は、めっき皮膜と、該めっき皮膜上に形成された化成皮膜と、を備える表面処理鋼板であって、前記めっき皮膜は、Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%及びMg:1.0~10.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、前記めっき皮膜中のSi 及びMg2SiのX線回折による回折強度が、以下の関係(1)を満足し、前記化成皮膜は、特定の樹脂及び特定の金属化合物を含有することを特徴とする。
Si (111)/Mg2Si (111)≦0.8 ・・・(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき皮膜と、該めっき皮膜上に形成された化成皮膜と、を備える表面処理鋼板であって、
前記めっき皮膜は、Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%及びMg:1.0~10.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記めっき皮膜中のSi 及びMg2SiのX線回折による回折強度が、以下の関係(1)を満足し、
Si (111)/Mg2Si (111)≦0.8 ・・・(1)
Si (111):Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度、
Mg2Si (111):Mg2Siの(111)面(面間隔d=0.3668nm)の回折強度
前記化成皮膜は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアルキレン樹脂、アミノ樹脂及びフッ素樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂と、P化合物、Si化合物、Co化合物、Ni化合物、Zn化合物、Al化合物、Mg化合物、V化合物、Mo化合物、Zr化合物、Ti化合物及びCa化合物から選択される少なくとも一種の金属化合物と、を含有することを特徴とする、表面処理鋼板。
【請求項2】
前記めっき皮膜中の前記SiのX線回折による回折強度が、以下の関係(2)を満足することを特徴とする、請求項1に記載の表面処理鋼板板。
Si (111)=0 ・・・(2)
【請求項3】
前記めっき皮膜が、さらにSr:0.01~1.0質量%を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の表面処理鋼板。
【請求項4】
前記めっき皮膜中のAlの含有量が、50~60質量%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理鋼板。
【請求項5】
前記めっき皮膜中のSiの含有量が、1.0~3.0質量%であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の表面処理鋼板。
【請求項6】
前記めっき皮膜中のMgの含有量が、1.0~5.0質量%であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の表面処理鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定的に優れた耐食性及び耐白錆性を有する表面処理鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
55%Al-Zn系に代表される溶融Al-Zn系めっき鋼板は、Znの犠牲防食性とAlの高い耐食性とが両立できているため、溶融亜鉛めっき鋼板の中でも高い耐食性を示すことが知られている。そのため、溶融Al-Znめっき鋼板は、その優れた耐食性から、長期間屋外に曝される屋根や壁等の建材分野、ガードレール、配線配管、防音壁等の土木建築分野を中心に使用されている。特に、大気汚染による酸性雨や、積雪地帯での道路凍結防止用融雪剤の散布、海岸地域開発等の、より厳しい使用環境下での、耐食性に優れる材料や、メンテナンスフリー材料への要求が高まっていることから、近年、溶融Al-Zn系めっき鋼板の需要は増加している。
【0003】
溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき皮膜は、Znを過飽和に含有したAlがデンドライト状に凝固した部分(α-Al相)と、デンドライト間隙(インターデンドライト)に存在するZn-Al共晶組織から構成され、α-Al相がめっき皮膜の膜厚方向に複数積層した構造を有することが特徴である。このような特徴的な皮膜構造により、表面からの腐食進行経路が複雑になるため、腐食が容易に進行しにくくなり、溶融Al-Zn系めっき鋼板はめっき皮膜厚が同一の溶融亜鉛めっき鋼板に比べ優れた耐食性を実現できることも知られている。
【0004】
このような溶融Al-Zn系めっき鋼板に対して、さらに長寿命化を図ろうとする試みがなされており、Mgを添加した溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が実用化されている。
このような溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板としては、例えば特許文献1に、めっき皮膜中にMgを含むAl-Zn-Si合金を含み、該Al-Zn-Si合金が、45~60重量%の元素アルミニウム、37~46重量%の元素亜鉛及び1.2~2.3重量%のSiを含有する合金であり、該Mgの濃度が1~5重量%である、溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
また、特許文献2には、めっき皮膜中に2~10%のMg、0.01~10%のCaの1種以上を含有させることで耐食性の向上を図るとともに、下地鋼板が露出した後の保護作用を高めることを目的とした溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
さらに、特許文献3には、質量%で、Mg:1~15%、Si:2~15%、Zn:11~25%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる被覆層を形成し、めっき皮膜中に存在するMg2Si相やMgZn2相などの金属間化合物の大きさを10μm以下とすることで、平板及び端面の耐食性の改善を図った溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
【0005】
上述した溶融Al-Zn系めっき鋼板は、白い金属光沢のスパングル模様を有する美麗な外観であることから、塗装を施さない状態で使用されることも多く、その外観に対する要求も強いのが実状である。そのため、溶融Al-Zn系めっき鋼板の外観を改善するような技術も開発されている。
例えば特許文献4には、めっき皮膜中に0.01~10%のSrを含有させることで、しわ状の凹凸欠陥を抑制した溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
さらに、特許文献5にも、めっき皮膜中に500~3000ppmのSrを含有させることで、まだら欠陥を抑制した溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
また、特許文献6には、めっき皮膜中に0.001~1.0%のSrを含有させることで、表面外観性と耐食性を両立させた溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
さらに、特許文献7にも、めっき皮膜中に0.001~1.0%のSrを含有させることで、表面外観性と平板部と加工部の耐食性を両立させた溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
さらにまた、特許文献8にも、めっき皮膜中に0.01~0.2%のSrを含有させることで、表面外観性と耐食性を両立させた溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
また、特許文献9には、めっき皮膜中のSiとMg濃度を特定の比率で制御することで、耐食性を向上させた溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
【0006】
なお、上述した溶融Al-Zn系めっき鋼板については、厳しい腐食環境で使用された場合、めっき皮膜の腐食に伴う白錆が発生するという問題があった。この白錆は、鋼板の外観性低下を招くため、耐白錆性の改善を図っためっき鋼板の開発が行われている。
例えば特許文献10には、加工部の耐白錆性を改善させることを目的として、Si-Mg相中のMgの、めっき層中のMg全量に対する質量比率を適正化した溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板が開示されている。
また、特許文献11には、溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板のめっき皮膜上にウレタン樹脂を含有する化成皮膜を形成することで、耐黒変性や耐白錆性の改善を図った技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5020228号公報
【特許文献2】特許第5000039号公報
【特許文献3】特開2002-12959号公報
【特許文献4】特許第3983932号公報
【特許文献5】特表2011-514934号公報
【特許文献6】国際公開第2020/179147号
【特許文献7】国際公開第2020/179148号
【特許文献8】特開2020-143370号公報
【特許文献9】国際公開第2016/140370号
【特許文献10】特許第5751093号公報
【特許文献11】特開2019-155872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~3に開示されたような、めっき皮膜中へMgを含有させる技術が、一意的に耐食性の向上をもたらすとは限らない。
特許文献1~3に開示された溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板では、めっき成分にMgを含有させることのみで耐食性の向上を図っているが、めっき皮膜を構成する金属相・金属間化合物相の特徴については考慮されておらず、耐食性の優劣について一律に語ることができなかった。そのため、同じめっき浴組成を用いて溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板を製造した場合でも、腐食促進試験を実施するとその耐食性にばらつきが存在し、Mgを添加しないAl-Zn系めっき鋼板に対して必ずしも優位にはならない、という問題があった。
同様に、めっき外観性の改善においても、めっき皮膜中にSrを添加したのみでは、必ずしもシワ状の凹凸欠陥を消滅させることができる訳ではなく、特許文献4~8に開示された溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板についても、耐食性と外観を両立できていない場合があった。加えて、Mgが酸化しやすい元素であるため、めっき浴中に含有されるMgが浴面近傍に酸化物(トップドロス)を発生させたり、溶融めっきの場合、時間の経過とともにめっき浴の浴中又は底部に偏在する鉄を含んだFeAl系化合物(ボトムドロス)が発生することがあり、これらのドロスが、めっき皮膜の表面に付着して凸形状の欠陥を引き起こし、めっき皮膜表面の外観を損ねるおそれもあった。
【0009】
また、溶融Al-Zn-Si浴にMgを添加した浴で鋼板にめっきを施した場合、めっき皮膜中にはα-Al相に加え、Mg2Si相、MgZn2相、Si相が析出することが知られている。しかしながら、各相の析出量や存在比率が耐食性に及ぼす影響については殆ど明らかとされていなかった。
特許文献9に開示された溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板では、SiとMgの濃度を特定の比率で管理し、めっき皮膜中のSi相の析出を無くすことで耐食性の改善を図っているが、必ずしもSi相の抑制ができるとは言えず、めっき皮膜中におけるSi相の形成を抑制できた場合においても優れた耐食性が得られない場合がある等、技術的に不完全なものであった。
【0010】
さらに、耐白錆性については、いずれの技術についても十分に改善を図ることができなかった。特許文献10の溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板については、加工部及び加熱後の平板部における耐白錆性の改善が述べられているものの、未加熱の平板部における耐白錆性については考慮されておらず、安定した耐白錆性の実現は依然として課題であった。また、特許文献11の溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板についても、安定的に優れた耐食性や耐白錆性が得られるとは限られず、さらなる改善が望まれていた。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑み、安定的に優れた耐食性及び耐白錆性を有する表面処理鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を行った結果、溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板のめっき皮膜中に形成するMg2Si相、MgZn2相、及びSi相について、めっき皮膜における各成分のバランスや、めっき皮膜の形成条件によって析出量が増減し、その存在比率が変化し、組成のバランスによってはいずれかの相が析出しない場合もあることがわかった。また、溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板の耐食性が、これらの相の存在比率によって変化し、特にMg2Si相やSi相に比べ、MgZn2相が多い場合に耐食性が安定的に向上することを究明した。
ただし、これらのMg2Si相及びSi相については、一般的な手法、例えば走査型電子顕微鏡を活用し、めっき皮膜を表面または断面から二次電子像あるいは反射電子像などの観察を実施しても相の違いを判別することは非常に困難であることが知られている。より詳細な解析ができる手法として、透過型電子顕微鏡を用いて観察を行うことでミクロな情報を得ることは可能であるが、耐食性や外観といったマクロな情報を左右するMg2Si相及びSi相の存在比率まで把握することはできなかった。
そのため、本発明者らはさらに鋭意研究を重ねた結果、X線回折法に着目し、Mg2Si相及びSi相について特定の回折ピークの強度比を利用することによって、相の存在比率を定量的に規定できること、さらに、めっき皮膜中にMg2Si相とMgZn2相が特定の存在比率を満足すると、安定的に優れた耐食性を実現できることに加え、ドロスの発生を抑えて良好な表面外観性も確保できることを見出した。
また、本発明者らは、上述したMg2Si相、Si相等の存在比率を制御した上で、浴中のSr濃度を制御することで、シワ状の凹凸欠陥の発生を確実に抑え、表面外観性に優れためっき鋼板が得られることも知見した。
【0013】
さらに、本発明者らは、前記めっき皮膜上に形成された化成皮膜についても検討を行い、化成皮膜を、特定の樹脂と、特定の金属化合物とから構成することによって、化成皮膜のめっき皮膜との親和性や、防錆効果等を高め、耐白錆性の安定的な改善が向上になることも見出した。
【0014】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
1.めっき皮膜と、該めっき皮膜上に形成された化成皮膜と、を備える表面処理鋼板であって、
前記めっき皮膜は、Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%及びMg:1.0~10.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有し、
前記めっき皮膜中のSi 及びMg2SiのX線回折による回折強度が、以下の関係(1)を満足し、
Si (111)/Mg2Si (111)≦0.8 ・・・(1)
Si (111):Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度、
Mg2Si (111):Mg2Siの(111)面(面間隔d=0.3668nm)の回折強度
前記化成皮膜は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアルキレン樹脂、アミノ樹脂及びフッ素樹脂から選択される少なくとも一種の樹脂と、P化合物、Si化合物、Co化合物、Ni化合物、Zn化合物、Al化合物、Mg化合物、V化合物、Mo化合物、Zr化合物、Ti化合物及びCa化合物から選択される少なくとも一種の金属化合物と、を含有することを特徴とする、表面処理鋼板。
【0015】
2.前記めっき皮膜中の前記SiのX線回折による回折強度が、以下の関係(2)を満足することを特徴とする、前記1に記載の表面処理鋼板。
Si (111)=0 ・・・(2)
Si (111):Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度
【0016】
3.前記めっき皮膜が、さらにSr:0.01~1.0質量%を含有することを特徴とする、前記1又は2に記載の表面処理鋼板。
【0017】
4.前記めっき皮膜中のAlの含有量が、50~60質量%であることを特徴とする、前記1~3のいずれかに記載の表面処理鋼板。
【0018】
5.前記めっき皮膜中のSiの含有量が、1.0~3.0質量%であることを特徴とする、前記1~4のいずれかに記載の表面処理鋼板。
【0019】
6.前記めっき皮膜中のMgの含有量が、1.0~5.0質量%であることを特徴とする、前記1~5のいずれかに記載の表面処理鋼板。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、安定的に優れた耐食性及び耐白錆性を有する表面処理鋼板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】日本自動車規格の複合サイクル試験(JASO-CCT)の流れを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の表面処理鋼板は、鋼板表面にめっき皮膜と、該めっき皮膜上に形成された化成皮膜と、を備える。
【0023】
(めっき皮膜)
本発明の表面処理鋼板では、前記めっき皮膜が、Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%及びMg:1.0~10.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する。
【0024】
前記めっき皮膜中のAl含有量は、耐食性と操業面のバランスから、45~65質量%であり、好ましくは50~60質量%である。これは、前記めっき皮膜中のAl含有量が少なくとも45質量%あれば、Alのデンドライト凝固が生じ、α-Al相のデンドライト凝固組織を主体にするめっき皮膜構造を得ることができるためである。該デンドライト凝固組織がめっき皮膜の膜厚方向に積層する構造を取ることで、腐食進行経路が複雑になり、めっき皮膜自体の耐食性が向上する。またこのα-Al相のデンドライト部分が、多く積層するほど、腐食進行経路が複雑になり、腐食が容易に下地鋼板に到達しにくくなるので、耐食性が向上するため、Alの含有量を50質量%以上とすることが好ましい。一方、前記めっき皮膜中のAl含有量が65質量%を超えると、Znの殆どがα-Al中に固溶した組織に変化し、α-Al相の溶解反応が抑制できず、Al-Zn-Si-Mg系めっきの耐食性が劣化する。このため、前記めっき皮膜中のAl含有量は65質量%以下であることを要し、好ましくは60質量%以下である。
【0025】
前記めっき皮膜中のSiは主に下地鋼板との界面に生成するFe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の界面合金層の成長を抑制し、めっき皮膜と鋼板の密着性を劣化させない目的で添加される。実際に、Siを含有したAl-Zn系めっき浴に鋼板を浸漬させると、鋼板表面のFeと浴中のAlやSiが合金化反応し、Fe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の金属間化合物層が下地鋼板/めっき皮膜界面に生成するが、このときFe-Al-Si系合金はFe-Al系合金よりも成長速度が遅いので、Fe-Al-Si系合金の比率が高いほど、界面合金層全体の成長が抑制される。そのため、前記めっき皮膜中のSi含有量は1.0質量%以上とすることを要する。一方、前記めっき皮膜中のSi含有量が4.0質量%を超えると、前述した界面合金層の成長抑制効果が飽和するだけでなく、めっき皮膜中に過剰なSi相が存在することで腐食が促進されるため、Si含有量は4.0%以下とする。さらに、前記めっき皮膜中のSiの含有量は、過剰なSi相の存在抑制の観点から、好ましくは3.0%以下とする。なお、後述するMgの含有量との関係で、後述の(1)の関係式を満たしやすい観点からも、前記Siの含有量を1.0~3.0質量%とすることが好ましい。
【0026】
前記めっき皮膜は、Mgを1.0~10.0%含有する。前記めっき皮膜中にMgを含有することで、上述したSiをMg2Si相の金属間化合物の形で存在させることができ、腐食の促進を抑制することができる。
また、前記めっき皮膜中にMgを含有すると、めっき皮膜中に金属間化合物であるMgZn2相も形成され、より耐食性を向上させる効果が得られる。前記めっき皮膜中のMg含有量が1.0質量%未満の場合、前記金属間化合物(Mg2Si、MgZn2)の生成よりも、主要相であるα-Al相への固溶にMgが使用されるため、十分な耐食性が確保できない。一方、前記めっき皮膜中のMg含有量が多くなると、耐食性の向上効果が飽和することに加え、α-Al相の脆弱化に伴い加工性が低下するため、含有量は10.0%以下とする。さらに、前記めっき皮膜中のMg含有量は、めっき形成時のドロス発生を抑制し、めっき浴管理を容易にする観点から、5.0質量%以下とすることが好ましい。なお、前記Siの含有量との関係で、後述の(1)の関係式を満たしやすい観点からは、前記Mgの含有量を3.0質量%とすることが好ましく、ドロス抑制との両立性を考慮すると、前記Mgの含有量を3.0~5.0質量%とすることがより好ましい。
【0027】
そして、本発明の表面処理鋼板では、前記めっき皮膜中のSi 及びMg2SiのX線回折法による回折強度が、以下の関係(1)を満足することを要する。
Si (111)/Mg2Si (111)≦0.8 ・・・(1)
Si (111):Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度、Mg2Si (111):Mg2Siの(111)面(面間隔d=0.3668nm)の回折強度
【0028】
上記のように、本発明ではMgやSiの含有によってめっき皮膜中に生成するMg2Si相及びSi相の存在比率を、特定の割合に制御することが重要である。これらが耐食性に及ぼす影響については現在調査を継続しており不明な点も多いが、以下のようなメカニズムが推定される。
【0029】
表面処理鋼板が腐食環境に曝された場合、上記の金属間化合物は、α-Al相よりも優先的に溶解する結果、形成される腐食生成物の近傍はMgが豊富な環境となる。このようなMgリッチの環境下においては、形成される腐食生成物が分解されにくく、その結果としてめっき皮膜の保護作用効果が高まると推定している。また、このめっき皮膜の保護作用向上効果は、めっき皮膜中のSiがSi相ではなくMg2Si相として存在する場合により確実に発現することから、Mg2Si相に対するSi相の存在比率を下げることが有効であると考えられる。
【0030】
前記めっき皮膜中のMg2SiとSiとの存在比率は、X線回折法により得られた回折ピーク強度を用いて、関係(1):Si (111)/Mg2Si (111)≦0.8を満たすことを要するが、前記めっき皮膜中のMg2Si及びSiの存在比率が関係(1)を満たさない、つまり、Si (111)/Mg2Si (111)>0.8の場合には、前記めっき皮膜中に存在するSi相が多くなるため、前述したMgが豊富な環境を、腐食生成物の近傍で得ることができず、前記めっき皮膜の保護作用向上効果が得られにくくなる。同様の観点から、Mg2Siに対するSiの存在比率(Si (111)/Mg2Si (111))は、0.5以下であることが好ましく、0.3以下であることより好ましく、0.2以下であることが特に好ましい。
なお、前記めっき皮膜中のMg2SiとSiとの存在比率については、仮にめっき皮膜の組成が本発明の範囲を満たす(Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%及びMg:1.0~10.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる)場合であっても、Mg2Si及びSiの存在比率が関係(1)を満たさない場合には、本発明によるめっき皮膜の保護作用向上効果を十分に得ることができない。
【0031】
ここで、前記関係(1)において、Si (111)は、Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度であり、Mg2Si (111)は、Mg2Siの(111)面(面間隔d=0.3668nm)の回折強度である。
前記X線回折によりSi (111)及びMg2Si (111)を測定する方法としては、前記めっき皮膜の一部を機械的に削り出し、粉末にした状態でX線回折を行うこと(粉末X線回折測定法)で算出することができる。回折強度の測定については、面間隔d=0.3135nmに相当するSiの回折ピーク強度、面間隔d=0.3668nmに相当するMg2Siの回折ピーク強度を測定し、これらの比率を算出することでSi (111)/Mg2Si (111)を得ることができる。
なお、粉末X線回折測定を実施する際に必要なめっき皮膜の量(めっき皮膜を削り出す量)は、精度良くSi (111)及びMg2Si (111)を測定する観点から、0.1g以上あればよく、0.3g以上あることが好ましい。また、前記めっき皮膜を削り出す際に、めっき皮膜以外の鋼板成分が粉末に含まれる場合もあるが、これらの金属間化合物相はめっき皮膜のみに含まれるものであり、また前述したピーク強度に影響することはない。さらに、前記めっき皮膜を粉末にしてX線回折を行うのは、めっき鋼板に形成されためっき皮膜に対してX線回折を行うと、めっき皮膜凝固組織の面方位の影響を受け正しい相比率の計算を行うことが困難なためである。
【0032】
また、本発明の表面処理鋼板では、より安定的に耐食性を向上させることができる点から、前記めっき皮膜中のSiのX線回折法による回折強度が、以下の関係(2)を満たすことが好ましい。
Si (111)=0 ・・・(2)
Si (111):Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度
一般的に、Al合金の水溶液中への溶解反応においては、Si相がカソードサイトとして存在することで周辺のα-Al相の溶解を促進することが知られていることから、Si相を少なくすることはα-Al相の溶解を抑制する観点でも有効であり、その中でも関係(2)のようにSi相が存在しない皮膜とすること(前記Si(111)の回折ピーク強度をゼロとすること)が耐食性の安定化のために最も優れている。
なお、X線回折によりSiの(111)面の回折ピーク強度の測定方法は、上述した通りである。
【0033】
ここで、上述した関係(1)や関係(2)を満たすための方法については、特に限定はされない。例えば、関係(1)や関係(2)を満たすためには、前記めっき皮膜中のSiの含有量、Mgの含有量及びAlの含有量のバランスを調整することによって、Mg2Si及びSiの存在比率(Mg2Si (111)及びSi (111)の回折強度)を制御できる。なお、前記めっき皮膜中のSiの含有量、Mgの含有量及びAlの含有量のバランスは、必ずしも一定の含有割合に設定すれば関係(1)や関係(2)を満たせるという訳ではなく、例えばSiの含有量(質量%)によってMg及びAlの含有比率を変える必要がある。
また、前記めっき皮膜中のSiの含有量、Mgの含有量及びAlの含有量のバランスを調整する他にも、めっき皮膜形成時の条件(例えば、めっき後の冷却条件)を調整することによって、関係(1)や関係(2)を満たすように、Mg2Si (111)及びSi (111)の回折強度を制御できる。
【0034】
なお、本発明の表面処理鋼板は、Zn及び不可避不純物を含有する。
このうち、前記不可避的不純物はFeを含有する。このFeは、鋼板や浴中機器がめっき浴中に溶出することで不可避的に含まれるものと界面合金層の形成時に下地鋼板からの拡散によって供給される結果、前記めっき皮膜中に不可避的に含まれることとなる。前記めっき皮膜中のFe含有量は、通常0.3~2.0質量%程度である。その他の不可避的不純物としては、Cr、Ni、Cu等が挙げられる。前記不可避的不純物の総含有量については、特に限定はされないが、過剰に含有した場合、めっき鋼板の各種特性に影響を及ぼす可能性があるため、合計で5.0質量%以下であることが好ましい。
【0035】
また、本発明の表面処理鋼板では、前記めっき皮膜が、0.01~1.0質量%のSrを含有することが好ましい。前記めっき皮膜がSrを含有することで、シワ状の凹凸欠陥等の表面欠陥の発生をより確実に抑制することができ、良好な表面外観性を実現できる。
なお、前記シワ状欠陥とは、前記めっき皮膜の表面に形成されたシワ状の凹凸になった欠陥であり、前記めっき皮膜表面において白っぽい筋として観察される。このようなシワ状欠陥は、前記めっき皮膜中にMgを多く添加した場合に、発生しやすくなる。そのため、前記溶融めっき鋼板では、前記めっき皮膜中にSrを含有させることによって、前記めっき皮膜表層においてSrをMgよりも優先的に酸化させ、Mgの酸化反応を抑制することで、前記シワ状欠陥の発生を抑えることが可能となる。
【0036】
そして、本発明の表面処理鋼板では、上述しためっき皮膜中のSi及びMg2Siの存在比率が関係(1)を満足し、且つ、前記めっき皮膜が0.01~1.0質量%のSrを含有することが好ましい。これにより、上述したSrによる表面外観性向上の効果をより享受することができる。この原因については明確ではないが、前記めっき皮膜中のSiが多くなると、めっき表層の酸化がそもそも抑制されにくく、Srを添加したときの外観の改善効果に影響を及ぼすためであると推定される。なお、前記めっき皮膜中のSr含有量が0.01質量%未満である場合には、上述したシワ状欠陥の発生を抑える効果が得られにくく、前記めっき皮膜中のSr含有量が1.0質量%を超えると、Srが界面合金層に過剰に取り込まれ、外観改善効果以上にめっき密着性などに影響を及ぼすおそれがあることから、前記めっき皮膜中のSr含有量は、0.01~1.0質量%であることが好ましい。
【0037】
また、前記めっき皮膜は、上述したMgと同様に腐食生成物の安定性を向上させ、腐食の進行を遅延させる効果を奏することができる点から、合計で0.01~10質量%の、Cr、Mn、V、Mo、Ti、Ca、Ni、Co、Sb及びBのうちから選択される一種又は二種以上を、さらに含有することが好ましい。上述した成分の合計含有量を0.01~10質量%としたのは、十分な腐食遅延効果を得ることができるとともに、効果が飽和することもないためである。
【0038】
なお、前記めっき皮膜の付着量は、各種特性を満足する観点から、片面あたり45~120 g/m2であることが好ましい。前記めっき皮膜の付着量が45g/m2以上の場合には、建材などの長期間耐食性が必要となる用途に対しても十分な耐食性が得られ、また、前記めっき皮膜の付着量が120g/m2以下の場合には、加工時のめっき割れ等の発生を抑えつつ、優れた耐食性を実現できるためである。同様の観点から、前記めっき皮膜の付着量は、45~100g/m2であることがより好ましい。
【0039】
前記めっき皮膜の付着量については、例えば、JIS H 0401:2013年に示される塩酸とヘキサメチレンテトラミンの混合液で特定面積のめっき皮膜を溶解剥離し、剥離前後の鋼板重量差から算出する方法で導出することができる。この方法で片面あたりのめっき付着量を求めるには、非対象面のめっき表面が露出しないようにテープでシーリングしてから前述した溶解を実施することで求めることができる。
【0040】
また、前記めっき皮膜の成分組成は、例えば、めっき皮膜を塩酸等に浸漬して溶解させ、その溶液をICP発光分光分析や原子吸光分析等で確認することができる。この方法はあくまでも一例であり、めっき皮膜の成分組成を正確に定量できる方法であればどのような方法でも良く、特に限定するものではない。
【0041】
なお、本発明により得られた表面処理鋼板のめっき皮膜は、全体としてはめっき浴の組成とほぼ同等となる。そのため、前記めっき皮膜の組成の制御は、めっき浴組成を制御することにより精度良く行うことができる。
【0042】
また、本発明の表面処理鋼板を構成する下地鋼板については、特に限定はされず、要求される性能や規格に応じて、冷延鋼板や熱延鋼板等を適宜使用することができる。
【0043】
さらに、前記下地鋼板を得る方法についても、特に限定はされない。例えば、前記熱延鋼板の場合、熱間圧延工程、酸洗工程を経たものを使用することができ、前記冷延鋼板の場合には、さらに冷間圧延工程を加えて製造できる。さらに、鋼板の特性を得るために溶融めっき工程の前に、再結晶焼鈍工程等を経ることも可能である。
【0044】
なお、本発明の表面処理鋼板を製造する際のめっき皮膜形成条件については、特に限定はされない。例えば、連続式溶融めっき設備で、前記下地鋼板を、洗浄、加熱、めっき浴浸漬することによって製造できる。鋼板の加熱工程においては、前記下地鋼板自身の組織制御のために再結晶焼鈍などを施すとともに、鋼板の酸化を防止し且つ表面に存在する微量な酸化膜を還元するため、窒素-水素雰囲気等の還元雰囲気での加熱が有効である。
【0045】
また、前記めっき皮膜を形成する際に用いるめっき浴については、上述したように、前記めっき皮膜の組成が全体としてはめっき浴の組成とほぼ同等となることから、Al:45~65質量%、Si:1.0~4.0質量%及びMg:1.0~10.0質量%を含有し、残部がZn、Fe及び不可避的不純物からなる組成を有するものを用いることができる。
【0046】
さらに、前記めっき浴の浴温は、特に限定はされないが、(融点+20℃)~650℃の温度範囲とすることが好ましい。
前記浴温の下限を、融点+20℃としたのは、溶融めっき処理を行うためには、前記浴温を凝固点以上にすることが必要であり、融点+20℃とすることで、前記めっき浴の局所的な浴温低下による凝固を防止するためである。一方、前記浴温の上限を650℃としたのは、650℃を超えると、前記めっき皮膜の急速冷却が難しくなり,めっき皮膜と鋼板との間に形成する界面合金層が厚くなるおそれがあるためである。
【0047】
また、めっき浴に浸入する下地鋼板の温度(浸入板温)についても、特に限定はされないが、連前記続式溶融めっき操業におけるめっき特性の確保や浴温度の変化を防ぐ観点から、前記めっき浴の温度に対して±20℃以内に制御することが好ましい。
【0048】
さらに、鋼板の前記めっき浴中の浸漬時間については、0.5秒以上である。これは0.5秒未満の場合、前記下地鋼板の表面に十分なめっき皮膜を形成できないおそれがあるためである。浸漬時間の上限については特に限定はされないが、浸漬時間を長くするとめっき皮膜と鋼板との間に形成する界面合金層が厚くなるおそれもあることから、8秒以内とすることが好ましい。
【0049】
さらにまた、前記めっき後の冷却過程では、板温を520°Cから500°Cになるまで3秒以上かけて冷却することが好ましい。前記めっき皮膜中での単体Si相及びMg2Siの析出開始温度は、単体Si相が500~490°C、Mg2Siが520~500°Cである。そのため、前記Mg2Siのみが析出する520~500°Cの温度域の滞在時間を増加させることで、Mg2Siの析出が促進され、単体Si相の析出が抑制されるため、上記(1)の関係を満たしやすくなるためである。
【0050】
(化成皮膜)
本発明の表面処理鋼板は、上述しためっき皮膜上に化成皮膜が形成されている。
なお、前記化成皮膜は、表面処理鋼板の少なくとも片面に形成されればよく、用途や要求される性能に応じて、表面処理鋼板の両面に形成することもできる。
【0051】
そして、本発明の表面処理鋼板では、前記化成皮膜は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアルキレン樹脂、アミノ樹脂及びフッ素樹脂のうちから選択される少なくとも一種の樹脂と、P化合物、Si化合物、Co化合物、Ni化合物、Zn化合物、Al化合物、Mg化合物、V化合物、Mo化合物、Zr化合物、Ti化合物及びCa化合物のうちから選択される少なくとも一種の金属化合物と、を含有することを特徴とする。
上述した化成皮膜をめっき皮膜上に形成することよって、めっき皮膜との親和性を高め、前記めっき皮膜上に化成皮膜を均一に形成することが可能になることに加え、化成皮膜の防錆効果やバリア効果を高めることができる。その結果、本発明の表面処理鋼板の安定的な耐食性及び耐白錆性の実現が可能となる。
【0052】
ここで、前記化成皮膜を構成する樹脂については、耐食性向上の観点から、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアルキレン樹脂、アミノ樹脂及びフッ素樹脂のうちから選択される少なくとも一種が用いられる。同様の観点から、前記樹脂は、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂のうちの少なくとも一種を含有することが好ましい。なお、前記化成皮膜を構成する樹脂については、上述した樹脂の付加重合物も含まれる。
【0053】
前記エポキシ樹脂については、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型等のエポキシ樹脂をグリシジルエーテル化したもの、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂に、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイド若しくはポリアルキレングリコールを付加し、グリシジルエーテル化したもの、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ポリエーテル系エポキシ樹脂等を用いることができる。
【0054】
前記ウレタン樹脂については、例えば、油変性ポリウレタン樹脂、アルキド系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂等を用いることができる。
【0055】
前記アクリル樹脂については、例えば、ポリアクリル酸及びその共重合体、ポリアクリル酸エステル及びその共重合体、ポリメタクリル酸及びその共重合体、ポリメタクリル酸エステル及びその共重合体、ウレタン-アクリル酸共重合体(またはウレタン変性アクリル樹脂)、スチレン-アクリル酸共重合体等が挙げられ、さらにこれらの樹脂を他のアルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等によって変性させたものを用いることができる。
【0056】
前記アクリルシリコン樹脂としては、例えば、主剤としてのアクリル系共重合体の側鎖又は末端に加水分解性アルコキシシリル基を有する樹脂に、硬化剤を添加したもの等が挙げられる。また、アクリルシリコン樹脂を用いた場合には、耐食性に加えて、優れた耐候性が期待できる。
【0057】
前記アルキド樹脂については、例えば、油変性アルキド樹脂、ロジン変性アルキド樹脂、フェノール変性アルキド樹脂、スチレン化アルキド樹脂、シリコン変性アルキド樹脂、アクリル変性アルキド樹脂、オイルフリーアルキド樹脂、高分子量オイルフリーアルキド樹脂等を挙げることができる。
【0058】
前記ポリエステル樹脂については、多価カルボン酸とポリアルコールとを、脱水縮合してエステル結合を形成させることによって合成された重縮合体であり、多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等が用いられ、ポリアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。具体的には、前記ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。また、これらのポリエステル樹脂をアクリル変性したものを用いることもできる。
【0059】
前記ポリアルキレン樹脂については、例えば、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、カルボキシル変性ポリオレフィン樹脂などのエチレン系共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体、エチレン系アイオノマー等が挙げられ、さらに、これらの樹脂を他のアルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等によって変性させたものを用いることができる。
【0060】
前記アミノ樹脂については、アミンあるいはアミド化合物とアルデヒドの反応によって生成する熱硬化性樹脂であり、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、チオ尿素樹脂等が挙げられるが、耐食性や耐侯性、密着性等の観点から、メラミン樹脂を用いることが好ましい。メラミン樹脂としては、特に限定はされないが、例えば、ブチル化メラミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、水性メラミン樹脂等が挙げられる。
【0061】
前記フッ素樹脂については、フルオロオレフィン系重合体や、フルオロオレフィンと、アルキルビニルエーテル、シンクロアルキルビニルエーテル、カルボン酸変性ビニルエステル、ヒドロキシアルキルアリルエーテル、テトラフルオロプロピルビニルエーテル等との共重合体が挙げられる。これらのフッ素樹脂を用いた場合には、耐食性だけでなく、優れた耐候性と優れた疎水性も期待できる。
【0062】
さらに、耐食性や加工性の向上を狙いとして、特に硬化剤を用いることが好ましい。硬化剤としては、尿素樹脂(ブチル化尿素樹脂等)、メラミン樹脂(ブチル化メラミン樹脂、ブチルエーテル化メラミン樹脂等)、ブチル化尿素・メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のアミノ樹脂、ブロックイソシアネート、オキサゾリン化合物、フェノール樹脂等を適宜用いることができる。
【0063】
また、前記化成皮膜を構成する金属化合物については、P化合物、Si化合物、Co化合物、Ni化合物、Zn化合物、Al化合物、Mg化合物、V化合物、Mo化合物、Zr化合物、Ti化合物及びCa化合物のうちから選択される少なくとも一種が用いられる。同様の観点から、前記金属化合物は、P化合物、Si化合物及びV化合物のうちの少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0064】
ここで、前記P化合物は、前記化成皮膜中に含まれることで、耐食性や、耐汗性を向上させることができる。前記P化合物とは、Pを含有する化合物であり、例えば、無機リン酸、有機リン酸及びこれらの塩、のうちから選択される1又は2以上を含有することができる。
【0065】
前記無機リン酸、有機リン酸及びこれらの塩としては、特に限定されることなく任意の化合物を用いることができる。例えば、前記無機リン酸としては、リン酸、第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩、ピロリン酸、ピロリン酸塩、トリポリリン酸、トリポリリン酸塩、亜リン酸、亜リン酸塩、次亜リン酸、次亜リン酸塩のうちから選択される1つ以上を用いることが好ましい。また、前記有機リン酸としては、ホスホン酸(ホスホン酸化合物)を用いることが好ましい。さらに、前記ホスホン酸としては、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、ホスフォノブタントリカルボン酸、メチルジホスホン酸、メチレンホスホン酸、およびエチリデンジホスホン酸のうちから選択される1つ以上を用いることが好ましい。
なお、前記P化合物が塩である場合、当該塩は、周期表における第1族~第13族元素の塩であることが好ましく、金属塩であることがより好ましく、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩のうちから選択される1つ以上であることが好ましい。
【0066】
上記P化合物を含む化成処理液を、溶融Al-Zn-Si-Mg系めっき鋼板に塗付すると、該P化合物の作用によりめっき皮膜表面がエッチングされ、めっき皮膜の構成元素であるAl、Zn、Si及びMgが取り込まれた濃化層が化成皮膜の前記めっき皮膜側に形成される。前記濃化層が形成されることにより、化成皮膜とめっき皮膜表面との結合が強固となり、化成皮膜の密着性が向上する。
前記化成処理液中のP化合物の濃度は、特に限定はされないが、0.25質量%~5質量%とすることができる。前記P化合物の濃度が0.25質量%未満では、エッチング効果が不足してめっき界面との密着力が低下し、平面部耐食性が低下するだけでなく、欠陥部、切断端面部、加工などで生じるめっきや皮膜の損傷部の耐食性、耐汗性も低下するおそれがある。同様の観点から、P化合物の濃度は、好ましくは0.35質量%以上、より好ましくは0.50質量%以上である。一方、前記P化合物の濃度が5質量%を超えると化成処理液の寿命が短くなるだけでなく、皮膜を形成した際の外観が不均一になりやすく、また、化成皮膜からのPの溶出量が多くなり、耐黒変性が低下するおそれもある。同様の観点から、P化合物の濃度は、好ましくは3.5質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下である。前記化成皮膜中のP化合物の含有量については、例えば、P化合物の濃度を0.25質量%~5質量%とした化成処理液を、塗布、乾燥することにより、乾燥後の化成皮膜におけるPの付着量を5~100mg/m2とすることができる。
【0067】
前記Si化合物は、前記樹脂とともに化成皮膜を形成する骨格となる成分であり、前記めっき皮膜との親和性を高め、化成皮膜を均一に形成することができる。前記Si化合物は、Siを含有する化合物であり、例えば、シリカ、トリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、及びシランカップリング剤のうちから選択される1つ以上を含有することが好ましい。
【0068】
前記シリカとしては、とくに限定されず任意のものを用いることができる。前記シリカとしては、例えば、湿式シリカ及び乾式シリカのうちの少なくとも1つを用いることができる。前記湿式シリカの一種であるコロイダルシリカとしては、例えば、日産化学(株)製のスノーテックスO、C、N、S、20、OS、OXS、NS等を好適に用いることができる。また、前記乾式シリカとしては、例えば、日本アエロジル(株)製のAEROSIL50、130、200、300、380等を好適に用いることができる。
【0069】
前記トリアルコキシシランとしては、とくに限定されることなく任意のものを用いることができる。例えば、一般式:R1Si(OR2)3(式中、R1は水素又は炭素数1~5のアルキル基であり、R2は同一のまたは異なる炭素数1~5のアルキル基である)で表されるトリアルコキシシランを用いることが好ましい。このようなトリアルコキシシランとしては、例えば、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0070】
前記テトラアルコキシシランとしては、とくに限定されることなく任意のものを用いることができる。例えば、一般式:Si(OR)4(式中、Rは同一のまたは異なる炭素数1~5のアルキル基である)で表されるテトラアルコキシシランを用いることが好ましい。このようなテトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等が挙げられる。
【0071】
前記シランカップリング剤としては、とくに限定されることなく任意のものを用いることができる。例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、およびγ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0072】
なお、前記Si化合物を化成皮膜に含有させることにより、該Si化合物が脱水縮合して、腐食因子を遮蔽するバリア効果の高いシロキサン結合を有する非晶質の化成皮膜が形成される。また、上述した樹脂と結合することで、より高いバリア性を有する化成皮膜が形成される。さらに、腐食環境下において、欠陥部や加工などで生じるめっきや皮膜の損傷部には緻密で安定な腐食生成物が形成され、前記めっき皮膜との複合効果によって下地鋼板の腐食を抑制する効果もある。安定な腐食生成物を形成する効果が高いという観点からは、前記Si化合物として、コロイダルシリカ及び乾式シリカのうちの少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0073】
前記化成皮膜を形成するための化成処理液における前記Si化合物の濃度は、0.2質量%~9.5質量%とする。前記化成処理液におけるSi化合物の濃度が0.2質量%以上であれば、シロキサン結合によるバリア効果を得ることができ、その結果、平面部耐食性に加え、欠陥部、切断部及び加工等に起因した損傷部における耐食性、並びに、耐汗性が向上する。また、前記Si化合物の濃度が9.5質量%以下であれば、化成処理液の寿命を長くすることができる。Si化合物の濃度を0.2質量%~9.5質量%とした化成処理液を、塗布、乾燥することにより、乾燥後の化成皮膜におけるSi付着量を2~95mg/m2とすることができる。
【0074】
前記Co化合物及び前記Ni化合物は、前記化成皮膜中に含まれることで、耐黒変性を向上させることができる。これは、CoやNiが、腐食環境下における水溶性成分の皮膜からの溶出を遅らせる効果を有するためであると考えられる。また、前記Co及び前記Niは、Al、Zn、Si及びMg等に比べて酸化されにくい元素である。そのため、前記Co化合物及び前記Ni化合物のうちの少なくとも一方を、前記化成皮膜と前記めっき皮膜との界面に濃化させる(濃化層を形成する)ことにより、濃化層が腐食に対するバリアとなる結果、耐黒変性を改善することができる。
【0075】
前記Co化合物を含んだ化成処理液を用いることにより、Coを、前記化成皮膜中に含有させ、前記濃化層中に取り込ませることができる。前記Co化合物としては、コバルト塩を用いることが好ましい。前記コバルト塩としては、硫酸コバルト、炭酸コバルト及び塩化コバルトのうちから選択される1又は2以上を用いることがより好ましい。
また、前記Ni化合物を含む化成処理液を用いることにより、Niを、前記化成皮膜中に含有させ、前記濃化層中に取り込ませることができる。前記Ni化合物としては、ニッケル塩を用いることが好ましい。前記ニッケル塩としては、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル及び塩化ニッケルのうちから選択される1又は2以上を用いることがより好ましい。
【0076】
前記化成処理液中のCo化合物及び/又はNi化合物の濃度は、特に限定はされないが、合計で0.25質量%~5質量%とすることができる。前記Co化合物及び/又はNi化合物の濃度が0.25質量%未満では界面濃化層が不均一になり、平面部の耐食性が低下するだけでなく、欠陥部、切断端面部、加工等に起因しためっきや皮膜損傷部の耐食性も低下するおそれがある。同様の観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.75質量%以上である。一方、前記Co化合物及び/又はNi化合物の濃度が5質量%を超えると皮膜を形成した際の外観が不均一になりやすく、耐食性が低下するおそれがある。同様の観点から、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下である。前記Co化合物及び/又はNi化合物の濃度の合計が0.25質量%~5質量%である化成処理液を塗布、乾燥することにより、乾燥後の化成皮膜におけるCo及びNiの合計付着量を5~100mg/m2とすることができる。
【0077】
前記Al化合物、前記Zn化合物及び前記Mg化合物については、化成処理液に含有させることで、前記化成皮膜のめっき皮膜側に、Al、Zn及びMgのうちの少なくとも一種を含む濃化層を形成できる。形成された濃化層は、耐食性を向上させることができる。
なお、前記Al化合物、前記Zn化合物及び前記Mg化合物は、それぞれ、Al、Zn及びMgを含有する化合物のことであれば、特に限定されないが、無機化合物であることが好ましく、塩、塩化物、酸化物又は水酸化物であることが好ましい。
【0078】
前記Al化合物としては、例えば、硫酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムのうちから選択される1つ以上が挙げられる。
前記Zn化合物としては、例えば、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛のうちから選択される1つ以上が挙げられる。
前記Mg化合物としては、例えば、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム及び水酸化マグネシウムのうちから選択される1つ以上が挙げられる。
【0079】
前記化成皮膜を形成するための化成処理液中のAl化合物、Zn化合物及び/又はMg化合物の濃度は、合計で0.25質量%~5質量%であることが好ましい。前記合計濃度が0.25質量%以上であれば、前記濃化層をより効果的に形成することができ、その結果、耐食性をさらに向上させることができる。一方、前記合計濃度が5質量%以下であれば、化成皮膜の外観がより均一となり、平面部や欠陥部、加工などで生じるめっきや皮膜の損傷部の耐食性がさらに向上する。
【0080】
前記V化合物は、前記化成皮膜中に含まれることで、腐食環境下においてVが適度に溶出し、同じく腐食環境下で溶出するめっき成分の亜鉛イオン等と結合し、緻密な保護皮膜を形成する。形成された保護皮膜によって、鋼板の平面部だけでなく、欠陥部、加工に起因して生じるめっき皮膜の損傷部、切断端面から平面部に進行する腐食、等に対する耐食性をさらに高めることができる。
【0081】
前記V化合物については、Vを含有する化合物であり、例えば、メタバナジン酸ナトリウム、硫酸バナジル及びバナジウムアセチルアセトネートのうちから選択される1つ以上が挙げられる。
【0082】
前記化成皮膜を形成するための化成処理液中のV化合物は、0.05質量%~4質量%であることが好ましい。前記V化合物の濃度が0.05質量%以上であれば、腐食環境下で溶出して保護皮膜を形成しやすくなり、欠陥部、切断端面部、加工に起因して生じるめっき皮膜の損傷部の耐食性が向上する。一方、前記V化合物の濃度が4質量%を超えると化成皮膜を形成した際の外観が不均一になりやすく、耐黒変性も低下する。
【0083】
前記Mo化合物は、前記化成皮膜中に含まれることで、表面処理鋼板の耐黒変性を高めることができる。前記Mo化合物は、Moを含有する化合物であり、化成処理液にモリブデン酸及びモリブデン酸塩の一方または両方を添加することにより得ることができる。
なお、前記モリブデン酸塩としては、例えば、モリブテン酸ナトリウム、モリブテン酸カリウム、モリブテン酸マグネシウム及びモリブテン酸亜鉛のうちから選択される1つ以上が挙げられる。
【0084】
前記化成皮膜を形成するための化成処理液中のMo化合物の濃度は、0.01質量%~3質量%であることが好ましい。前記Mo化合物の濃度が0.01質量%以上であれば、酸素欠乏型酸化亜鉛の生成がさらに抑制され、耐黒変性を一層向上できる。一方、前記Mo化合物の濃度が3質量%以下であれば、化成処理液の寿命がさらに長くなることに加え、耐食性を一層向上できる。
【0085】
前記Zr化合物及び前記Ti化合物は、前記化成皮膜中に含まれることで、化成皮膜がポーラスになるのを防ぎ、皮膜を緻密化させることができる。その結果、腐食因子が前記化成皮膜を透過しにくくなり、耐食性を高めることができる。
【0086】
前記Zr化合物については、Zrを含有する化合物であり、例えば、酢酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニルカリウム、炭酸ジルコニルナトリウム及び炭酸ジルコニルアンモニウムのうちから選択される1つ以上を用いることができる。これらの中でも、有機チタンキレート化合物は、化成処理液を乾燥して皮膜を形成する際、皮膜を緻密化し、より優れた耐食性が得られるため、好適である。
【0087】
前記Ti化合物については、Tiを含有する化合物であり、例えば、硫酸チタン、塩化チタン、水酸化チタン、チタンアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコレート及びチタンエチルアセトアセテートのうちから選択される1つ以上を用いることができる。
【0088】
前記化成皮膜を形成するための化成処理液中のZr化合物及び/又はTi化合物の濃度は、合計で0.2量%~20質量%であることが好ましい。前記Zr化合物及び/又はTi化合物の合計濃度が0.2質量%以上であれば、腐食因子の透過抑制効果が高まり、平面部耐食性だけでなく、欠陥部、切断端面部、加工に起因しためっき皮膜損傷部の耐食性をより向上させることができる。一方、前記Zr化合物及び/又はTi化合物の合計濃度が20質量%以下であれば、前記化成処理液寿命をさらに延ばすことができる。
【0089】
前記Ca化合物は、前記化成皮膜中に含まれることで、腐食速度を低下させる効果を発現させることができる。
【0090】
前記Ca化合物については、Caを含有する化合物であり、例えば、Caの酸化物、Caの硝酸塩、Caの硫酸塩、Caを含有する金属間化合物等が挙げられる。より具体的には、前記Ca化合物として、CaO、CaCO3、Ca(OH)2、Ca(NO3)2・4H2O、CaSO4・2H2O等が挙げられる。前記化成皮膜中の前記Ca化合物の含有量は、特に限定はされない。
【0091】
なお、前記化成皮膜は、必要に応じて、塗料分野で通常使用されている公知の各種成分を含有することができる。例えば、レベリング剤、消泡剤等の各種表面調整剤、分散剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等の各種添加剤、着色顔料、体質顔料、光輝材等の各種顔料、硬化触媒、有機溶剤、潤滑剤などが挙げられる。
【0092】
なお、本発明の表面処理鋼板では、前記化成皮膜が6価クロム、3価クロム、フッ素等の有害な成分を含有しないことが好ましい。前記化成皮膜を形成するための化成処理液中に、これらの有害成分が含有しないため、安全性が高くや環境への小さくなるためである。
【0093】
また、前記化成皮膜の付着量は、特に限定はされない。例えば、より確実に耐食性を確保しつつ、化成皮膜の剥離等を防ぐ観点からは、前記化成皮膜の付着量を0.1~3.0g/m2とすることが好ましく、0.5~2.5g/m2とすることがより好ましい。前記化成皮膜の付着量を0.1 g/m2以上とすることで、より確実に耐食性を確保でき、前記化成皮膜の付着量を3.0g/m2以下とすることで、化成皮膜の割れや剥離を防ぐことができる。
前記化成皮膜付着量は、皮膜を蛍光X 線分析して予め皮膜中の含有量が分かっている元素の存在量を測定する方法のような、既存の手法から適切に選択した方法で求めればよい。
【0094】
なお、前記化成皮膜を形成するための方法は、特に限定はされず、要求される性能や、製造設備等に応じて適宜選択することができる。例えば、前記めっき皮膜上に、化成処理液をロールコーター等により連続的に塗布し、その後、熱風や誘導加熱等を用いて、60~200℃程度の到達板温(Peak Metal Temperature:PMT)で乾燥させることで形成することができる。前記化成処理液の塗布には、ロールコーター以外にも、エアレススプレー、静電スプレー、カーテンフローコーター等の公知の手法を適宜採用することができる。さらに、前記化成皮膜は、前記樹脂及び前記金属化合物を含むものであれば、単層膜又は複層膜のいずれであってもよく、特に限定されるものではない。
【0095】
また、本発明の表面処理鋼板は、必要に応じて、前記化成皮膜上に塗膜を形成することもできる。
【実施例0096】
(サンプル1~112)
(1)常法で製造した板厚0.8mmの冷延鋼板を下地鋼板として用い、(株)レスカ製の溶融めっきシミュレーターで、焼鈍処理、めっき処理を行うことで、表2及び3に示すめっき皮膜条件の溶融めっき鋼板のサンプルを作製した。
なお、溶融めっき鋼板製造に用いためっき浴の組成については、表1に示す各サンプルのめっき皮膜の組成となるように、めっき浴の組成をAl:30~75質量%、Si:0.5~4.5質量%、Mg:0~10質量%、Sr:0.00~0.15質量%の範囲で種々変化させた。また、めっき浴の浴温は、Al:30~60質量%の場合は590℃、Al:60質量%超の場合は630℃とし、下地鋼板のめっき浸入板温がめっき浴温と同温度となるように制御した。さらに、板温が520~500℃の温度域に3秒で冷却する条件でめっき処理を実施した。
また、めっき皮膜の付着量は、サンプル1~82、95~112では、片面あたり85±5g/m2、サンプル83~94では、片面あたり51~125g/m2となるように制御した。
(2)その後、作製した溶融めっき鋼板の各サンプルのめっき皮膜上に、バーコーターで化成処理液を塗布し、熱風炉で乾燥(昇温速度:60℃/s、PMT:120℃)させることで化成皮膜を形成し、表2及び3に示す表面処理鋼板の各サンプルを作製した。
なお、化成処理液は、各成分を溶媒としての水に溶解させた表面処理液A~Fを調製した。表面処理液に含有する各成分(樹脂、金属化合物)の種類については、以下のとおりである。
(樹脂)
ウレタン樹脂:スーパーフレックス130、スーパーフレックス126(第一工業製薬株式会社)
アクリル樹脂:ボンコートEC-740EF(DIC株式会社)
(金属化合物)
P化合物:トリポリリン酸二水素アルミニウム
Si化合物:シリカ
V化合物:メタバナジン酸ナトリウム
Mo化合物:モリブデン酸
Zr化合物:炭酸ジルコニルカリウム
調製した化成処理液A~Fの組成及び形成された化成皮膜の付着量を表1に示す。なお、本明細書の表1における各成分の濃度は、固形分の濃度(質量%)である。
【0097】
【0098】
(評価)
上記のように得られた溶融めっき鋼板及び表面処理鋼板の各サンプルについて、以下の評価を行った。評価結果を表2及び3に示す。
【0099】
(1)めっき皮膜の構成(付着量、組成、X線回折強度)
溶融めっき鋼板の各サンプルについて、100mmφを打ち抜き、非測定面をテープでシーリングした後、JIS H 0401:2013に示される塩酸とヘキサメチレンテトラミンの混合液でめっきを溶解剥離し、剥離前後のサンプルの質量差から、めっき皮膜の付着量を算出した。算出の結果、得られためっき皮膜の付着量を表2及び3に示す。
その後、剥離液をろ過し、ろ液と固形分をそれぞれ分析した。具体的に、ろ液をICP発光分光分析することで、不溶Si以外の成分を定量化した。
また、固形分は650℃の加熱炉内で乾燥・灰化した後、炭酸ナトリウムと四ホウ酸ナトリウムを添加することで融解させた。さらに、塩酸で融解物を溶解し、溶解液をICP発光分光分析することで、不溶Siを定量化した。めっき皮膜中のSi濃度は、ろ液分析によって得た可溶Si濃度に、固形分分析によって得た不溶Si濃度を加算したものである。算出の結果、得られためっき皮膜の組成を表2及び3に示す。
さらに、各サンプルについて、100mm×100mmのサイズに剪断後、評価対称面のめっき皮膜を下地鋼板が現れるまで機械的に削り出し、得られた粉末をよく混ぜ合わせた後、0.3gを取出し、X線回折線装置(株式会社リガク製「SmartLab」)を用いて、使用X線:Cu-Kα(波長=1.54178Å)、Kβ線の除去:Niフィルター、管電圧:40kV、管電流:30mA、スキャニング・スピード:4°/min、サンプリング・インターバル:0.020°、発散スリット:2/3°、ソーラースリット:5°、検出器:高速一次元検出器(D/teX Ultra)の条件で、上記粉末の定性分析を行った。各ピーク強度からベース強度を差し引いた強度を各回折強度(cps)とし、Mg2Siの(111)面(面間隔d=0.3668nm)の回折強度、及び、Siの(111)面(面間隔d=0.3135nm)の回折強度を測定した。測定結果を、表2及び表3に示す。
【0100】
(2)耐食性評価
溶融めっき鋼板及び表面処理鋼板の各サンプルについて、120mm×120mmのサイズに剪断後、評価対象面の各エッジから10mmの範囲、及び、サンプルの端面と評価非対象面をテープでシーリングし、評価対象面を100mm×100mmのサイズで露出させた状態のものを、評価用サンプルとして用いた。なお、該評価用サンプルは同じものを3つ作製した。
上記のように作製した3つの評価用サンプルに対して、いずれも
図1に示すサイクルで腐食促進試験を実施した。腐食促進試験を湿潤からスタートし、300サイクル後まで行った後、各サンプルの腐食減量をJIS Z 2383及びISO8407に記載の方法で測定し、下記の基準で評価した。評価結果を表2及び3に示す。
◎:サンプル3個の腐食減量が全て30g/m
2以下
○:サンプル3個の腐食減量が全て50g/m
2以下
×:サンプル1個以上の腐食減量が50g/m
2越え
【0101】
(3)耐白錆性
溶融めっき鋼板及び表面処理鋼板の各サンプルについて、120mm×120mmのサイズに剪断後、評価対象面の各エッジから10mmの範囲、及び、サンプルの端面と評価非対象面をテープでシーリングし、評価対象面を100mm×100mmのサイズで露出させた状態のものを、評価用サンプルとして用いた。
上記評価用サンプルを用いて、JIS Z 2371に記載の塩水噴霧試験を90時間実施し、下記の基準で評価した。評価結果を表2及び3に示す。
◎:平板部に白錆なし
○:平板部の白錆発生面積10%未満
×:平板部の白錆発生面積10%以上
【0102】
(4)表面外観性
溶融めっき鋼板の各サンプルについて、目視によって、めっき皮膜の表面を観察した。
そして、観察結果を、以下の基準に従って評価した。評価結果を表2及び3に示す。
◎:シワ状欠陥が全く観察されなかった
○:エッジから50mmの範囲のみにシワ状欠陥が観察された
×:エッジから50mmの範囲以外でシワ状欠陥が観察された
【0103】
(5)加工性
溶融めっき鋼板の各サンプルについて、70mm×150mmのサイズに剪断後、同板厚の板を内側に8枚挟んで180°曲げの加工(8T曲げ)を施した。折り曲げ後の曲げ部外面にセロテープを強く貼りつけた後、引き剥がした。曲げ部外面のめっき皮膜の表面状態、及び、使用したテープの表面におけるめっき皮膜の付着(剥離)の有無を目視で観察し、下記の基準で加工性を評価した。評価結果を表2及び3に示す。
〇:めっき皮膜にクラックと剥離が共に認められない
△:めっき皮膜にクラックがあるが、剥離が認められない
×:めっき皮膜にクラックと剥離が共に認められる
【0104】
(5)浴安定性
溶融めっき時、めっき浴の浴面の状態を目視で確認し、溶融Al-Zn系めっき鋼板を製造する際に用いるめっき浴の浴面(Mg含有酸化物のない浴面)と比較した。評価は、以下の基準で行い、評価結果を表2及び3に示す。
〇:溶融Al-Zn系めっき浴(55質量%Al-残部Zn-1.6質量%浴)と同程度
△:溶融Al-Zn系めっき浴(55質量%Al-残部Zn-1.6質量%浴)に比べて白色酸化物が多い
×:めっき浴中に黒色酸化物の形成が認められる
【0105】
【0106】
【0107】
表2及び3の結果から、本発明例の各サンプルは、比較例の各サンプルに比べて、耐食性、耐白錆性、表面外観性、加工性及び浴安定性のいずれについてもバランスよく優れていることがわかる。
また、表3の結果から、化成処理A~Dを実施した各サンプルの耐白錆性が優れた結果を示すことがわかる。