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  • 特開-透析液供給システム 図1
  • 特開-透析液供給システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007398
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】透析液供給システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20220105BHJP
【FI】
A61M1/16 161
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020110342
(22)【出願日】2020-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】591083299
【氏名又は名称】東レ・メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 勉
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077CC08
4C077EE03
4C077GG09
4C077HH02
4C077HH15
4C077HH19
4C077JJ02
4C077JJ16
4C077JJ19
4C077KK23
(57)【要約】
【課題】溶解槽を含む透析液供給システムにおいて透析終了時に廃棄される透析用原液の残量を少なく抑え、透析用粉末剤を節約する。
【解決手段】逆浸透膜ろ過により精製水を製造する精製水製造装置と、透析用粉末剤を精製水に溶解して透析用原液を調製する溶解槽と、透析用原液を貯留する原液貯留槽と、透析用原液を精製水で希釈して透析液を作製し貯留する透析液貯留槽と、透析用原液を溶解槽から原液貯留槽に移送する移送ポンプと、透析用原液を原液貯留槽から透析液貯留槽に移送する原液ポンプと、透析液を透析液貯留槽から複数の透析装置に供給する送液ポンプと、複数の機器から出力される情報を管理するサーバとからなる透析液供給システムであって、中央管理サーバが、原液ポンプの稼働履歴の情報と、原液貯留槽の液位の情報とに基づいて前記原液貯留槽内の前記透析用原液の残量を監視する透析液供給システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜ろ過により精製水を製造する精製水製造装置と、
透析用粉末剤を前記精製水に溶解して透析用原液を調製する溶解槽と、
前記透析用原液を貯留する原液貯留槽と、
前記透析用原液を前記精製水で希釈して透析液を作製し貯留する透析液貯留槽と、
前記透析用原液を前記溶解槽から前記原液貯留槽に移送する移送ポンプと、
前記透析用原液を前記原液貯留槽から前記透析液貯留槽に移送する原液ポンプと、
前記透析液を前記透析液貯留槽から複数の透析装置に供給する送液ポンプと、
複数の機器から出力される情報を管理するサーバとからなる透析液供給システムであって、
前記サーバが、前記原液ポンプの稼働履歴の情報と、前記原液貯留槽の液位の情報とに基づいて前記原液貯留槽内の前記透析用原液の残量を監視することを特徴とする透析液供給システム。
【請求項2】
前記透析液貯留槽の液位情報に基づいて前記透析液の消費状況を監視する、請求項1に記載の透析液供給システム。
【請求項3】
前記サーバが、前記溶解槽内の前記透析用原液を補充調製するためのあらかじめ定められたスケジュールを、前記透析液原液の残量と、前記透析液の消費状況とに基づいて変更する、請求項2に記載の透析液供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析施設の機械室に設置され、透析用粉末薬剤を溶解して作製した透析用原液と、清浄水とから透析液を調製し、透析室に設置された複数の透析用監視装置へ透析液を供給するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
血液透析治療は、透析患者の血液を体外循環路に取出して血液浄化器に導き入れ、血液浄化器内で半透膜を介して透析液と接触させ、限外濾過と拡散の原理によって、血液中の老廃物や余剰水分を除去するとともに、透析液中に含まれる薬剤成分によって血液中の電解質の調整等を行った後、浄化された血液を患者の体内に戻す治療である。
【0003】
透析治療で用いられる透析液は、A原液とB原液という異なる2種類の濃縮薬液と、高度に清浄化された清浄水(RO水)とを、製薬メーカの指定した比率で混合させて調製される。一人の患者の治療に毎分500~800mLの透析液を、一回の治療時間である3~4時間のあいだ血液浄化器へ向けて流し続ける必要がある。
【0004】
A原液とB原液とは、過去には専用の密閉ポリ容器に充填した液状の『リキッドタイプ』として流通していたが、透析施設に広い保管スペースが必要となり、重量物である薬液容器の搬送に関する医療スタッフの負担が大きく、さらに経時的に薬液成分が劣化する懸念などを理由として『粉末化』が試みられ、現在は軟質の包袋に充填された透析用粉末剤を清浄水で溶解して透析用原液を得ることが一般的となっている。
【0005】
『粉末化』の当初は、200L程度のタンクに医療スタッフが透析用粉末剤を投入して洗浄水で希釈・混合していたが、大量の透析用原液を溜め置くことは衛生的ではなく、混合・撹拌作業中に大気中の浮遊菌の混入が懸念され、さらに医療スタッフの作業負担も大きいことから、特許文献1のような、紛体の供給から溶解までを自動で行うことができる溶解装置が開発され、今ではこの溶解装置は、血液浄化システムにおける透析液供給システムにとって欠かせないものとなっている。
【0006】
一般的な溶解装置は、医療スタッフにより、20~30袋分の透析用粉末剤が包袋を開封されて粉末剤供給部の上部のホッパーに投入され、上限水位と下限水位を予め設定して固定した溶解槽に、この水位間分の一定量の加温した清浄水を導入して、清浄水を撹拌させながら、ホッパー下部のスクリューフィーダを回転させて透析用粉末剤を自動投入しながら、溶解槽の循環ラインに設置した電導度計で濃度を測定して、所定の濃度になるように調整する。作製された透析用原液は、溶解槽の下流の貯留槽が受入可能な状態であることを条件として貯留槽へ移送され、溶解槽での次回の溶解動作を可能にする。
【0007】
水位検知用の検知手段に汎用で安価な液面計を適用でき、その検知精度も十分に信頼できるレベルであることから、このように毎回溶解槽で一定量の透析用原液を作製するいわゆる『バッチ式』の溶解装置が広く普及している。
【0008】
医療スタッフによるホッパーへの透析用粉末剤の投入作業を一度に完了させるため、多くの粉末剤を投入できるようホッパーはある程度の容積を有することが望ましいが、溶解された時点から経時的な変化や劣化が懸念される透析用原液の作製量や貯留量は少ないことが望ましい。血液浄化システムでの透析液の使用量を賄える溶解を行うとともに、可能な限り小分けした溶解を行うために、溶解装置の溶解槽の容積は10L以下とされることが多いが、透析治療の終了間際になって透析液原液の追加作製が不要と思われる場合でも、治療の中断は避けるべく追加作製せざるを得ず、大量の透析液原液が余って廃棄せざるを得ない事態が生ずる可能性があった。
【0009】
このような問題を解決すべく、中央管理サーバなどにて一括管理されている、各透析装置の透析液の使用量に関するデータを利用して、透析治療終了時までに必要な透析液原液の使用予定量を算出し、透析液原液の過不足を判定する特許文献2の溶解システムが提案されている。しかし、通常、透析施設の機械室に設置されるRO装置・溶解装置・セントラルなどのいわゆる供給装置と、透析室のベッドサイドに設置される透析用監視装置や個人用透析装置などのいわゆる透析装置とが、例えば異なる透析装置メーカの製品であった場合のように、双方のデータのやり取りを可能にするための改造が必要となるケースが考えられる。
【0010】
さらに特許文献3では、透析液原液の残量をリアルタイムで検出して、透析液の消費速度から透析液原液が空になるまでの時間を推定することで、透析液原液の過不足の判定精度をより向上させた溶解システムが提案されている。このシステムを構成する、リアルタイムで透析液原液の残量を検出する手段として、貯槽底面に設置された圧力ゲージが開示されているが、透析液残量の重みによる貯槽の微量な変位量に基づくこの測定方法は、正確で精度の良い残量の計測が困難となる可能性が考えられる。
【0011】
また特許文献3では、他のリアルタイムな検出手段として超音波液面センサや磁歪式リニア変位センサなどが提案されているものの、給水時の揺れる液面が精度の良い測定の障害となることが懸念され、なにより現在これらのセンサは非常に高価であることから、安価で十分な検知精度を有する液面計を用いた現行のバッチ式の溶解装置とは設計思想を異にするものとなり、装置の製造コストを大幅に引き上げる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭57-159529号公報
【特許文献2】特開2007-236532号公報
【特許文献3】特開2008-220784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
いわゆるバッチ式の溶解装置では、はじめからある程度の余剰分の透析用原液を作製することを想定していたものの、経時的な変化や劣化によって次回の透析治療に使用することができずに廃棄せざるを得ないこの余剰分の透析用原液について、コスト面や環境面から、可能な限り少なく抑えることができる溶解装置が求められている。
【0014】
本発明は、バッチ式の溶解槽を含むシステムにおいて、透析終了時に使用されずに廃棄される透析液原液の残量を少なく抑え、透析用粉末剤の節約を可能にすることを目的とする。また、従来の溶解槽の構成を大きく変更することなく、異なる透析装置メーカの透析装置を含むシステムであっても適用可能なシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る透析液供給システムは、逆浸透膜ろ過により精製水を製造する精製水製造装置と、透析用粉末剤を前記精製水に溶解して透析用原液を調製する溶解槽と、前記透析用原液を貯留する原液貯留槽と、前記透析用原液を前記精製水で希釈して透析液を作製し貯留する透析液貯留槽と、前記透析用原液を前記溶解槽から前記原液貯留槽に移送する移送ポンプと、前記透析用原液を前記原液貯留槽から前記透析液貯留槽に移送する原液ポンプと、前記透析液を前記透析液貯留槽から複数の透析装置に供給する送液ポンプと、複数の機器から出力される情報を管理するサーバとからなる透析液供給システムであって、前記サーバが、前記原液ポンプの稼働履歴の情報と、前記原液貯留槽の液位の情報とに基づいて前記原液貯留槽内の前記透析用原液の残量を監視することを特徴とするものからなる。このような透析液供給システムによれば、中央管理サーバが原液ポンプの稼働履歴の情報と原液貯留槽の液位の情報とに基づいて原液貯留槽内の透析用原液の残量を正確に計算して溶解槽内の透析用原液を補充調製するタイミングを決定することにより、透析液原液の貯留槽が空にならないように監視することができる。
【0016】
本発明に係る透析液供給システムは、前記透析液貯留槽の液位情報に基づいて前記透析液の消費状況を監視することが好ましい。透析液の時間当たりの消費量(消費状況)を算出することにより、透析治療が終盤に近付いたと判断できる状況になった場合には、すぐに追加の溶解動作を再開せず、直近に得られた消費状況との兼ね合いで追加の溶解動作が必要か否かを判断することができる。
【0017】
本発明に係る透析液供給システムにおいて、前記サーバが、前記溶解槽内の前記透析用原液を補充調製するためのあらかじめ定められたスケジュールを、前記透析液原液の残量と、前記透析液の消費状況とに基づいて変更することが好ましい。このようなスケジュールの変更により、通常モードでは透析用原液を所定のサイクルで補充調製しつつ、節液モードでは透析用原液の過剰な調製を抑制することができるので、透析液原液の廃棄量および透析用粉末剤の使用量を少なく抑えることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、透析終了時に使用されずに廃棄される透析液原液の残量を少なく抑えるとともに、使用される透析用粉末剤の量を節約することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一般的な血液浄化システムを示す概略構成図である。
図2】本発明の一実施態様に係る透析液供給システムを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、一般的な血液浄化システムの構成を表す。水源1から取り込んだ市水あるいは井水をRO装置2が精製し、得られたRO水を溶解装置3、4およびセントラル5に供給する。溶解装置3、4はそれぞれ透析用A粉末剤と透析用B粉末剤をRO水で溶解して、透析用A原液と透析用B原液を作製し、セントラルに供給する。セントラルは、A原液とB原液とRO水を、1:1.26:32.74の比率で混合調製して透析液を作製し、透析室の複数の透析用監視装置6に供給する。
【0021】
図2は、本発明の透析液供給システムの構成を示す。溶解装置3、4は、それぞれ溶解槽10と貯留槽15を備え、RO水を溶解槽10に取り入れて攪拌しながら、予め医療スタッフによってホッパー8に投入された透析用粉末剤を、スクリューフィーダ9で少量ずつ溶解槽10に切出し、RO水で希釈溶解して透析液原液を作製する。透析液原液の濃度は、溶解槽10の循環ラインに設置した電導度計12で測定され、所定の濃度となるよう調整する。溶解槽10で作製した透析液原液は貯留槽15へ送られ、溶解槽10は次回の溶解動作まで待機する。
【0022】
貯留槽15へ送られた透析液原液は、原液ポンプ19によってセントラル5のRO水ライン20に注入され、RO水・A原液・B原液が混合希釈されて透析液となる。透析液原液の注入量を正確に制御するために、原液ポンプ19には高精度の定量ポンプが採用されており、このポンプの駆動時間の累計などに基づいて、溶解装置3,4の貯留槽15の液面計18あるいは液面計17が検知した状態からどれだけの量の透析液原液がセントラル5へ送られたか、さらに、貯留槽15にどれだけの透析液原液が残っているのかを算出することができる。
【0023】
調製された透析液は、一旦透析液タンク21に溜め置かれ、透析液タンク21の液面計23が検知すると透析液タンク21が満杯の状態であると判断して、RO水や透析液原液の取り込みを止め、透析液の調製を中断する。透析用監視装置6によって透析液タンク21内の透析液が消費され、液位が液面計22が検知するまで下がると、間もなく透析液が無くなると判断して透析液の調製を再開する。
【0024】
ここで、透析液タンク21が満杯の状態から間もなく無くなるまで、つまり液面計23が検知してから液面計22が検知するまでの時間を計測し、予め求めた透析液タンクの容量に基づいて、現時点での時間当たりの消費量(消費状況)を算出する。
【0025】
透析液ならびに透析液原液の消費がさらに進み、溶解装置3、4の貯留槽15の液位が液面計17の高さにまで下がった時、通常は追加の溶解動作を再開する。
【0026】
透析治療の終盤になると、複数の透析用監視装置6が治療を順次終え、透析液の時間当たりの消費量が減少し、全ての透析患者の治療が終了すると、透析液は消費されなくなる。このように透析液の消費状況が、透析治療が終盤に近付いたと判断できる状況になった場合、溶解装置3、4の貯留槽15の液位が液面計17の高さにまで下がっても、すぐに追加の溶解動作を再開せず、直近に得られた透析液の現時点での時間当たりの消費量で消費された場合、透析液原液の残りが、追加の溶解動作が完了するまでに枯渇しないかどうかを判断する。
【0027】
一般的に溶解装置3,4の貯留槽15の液面計17の高さは、溶解動作を一回分完了するまでの間を賄える分量の透析液原液を残すという条件で決定される。しかし、一回の溶解動作の完了時間(当社の既存機種では約7分)はそれぞれの溶解装置によって決まるものの、どれだけの透析液原液が残っていればこの間を賄えるかということは、その消費状況によって変わるため、設計開発段階ではシステムの透析液の最大供給能力で消費されるという条件で設定せざるを得なかった。
【0028】
例えば、透析液の供給能力が40床分のシステムの場合、一般的に1床当たり毎分500mL、最大時毎分20Lの透析液を供給できる。前記の溶解装置3,4の貯留槽15の液面計17の高さを決定するのにも、この毎分20Lという数値を用いて、絶対に透析液が枯渇しないようにするため、20Lの7分間分、つまり140Lの透析液を作製できる量の、A原液であれば先の透析液の調製比率から140Lの35分の1である4L、B原液であれば140Lの35分の1.26である5.04Lの透析液原液を残しておく必要があった。
【0029】
しかし、本発明においては、一回の溶解動作の間に透析液原液が枯渇しないために必要な量を、直近の透析液の消費状況から算出するため、貯留槽の透析液原液が不足するぎりぎりまで追加の溶解動作を控えることができる。さらに、透析液タンク23の液位が液面計23の高さから一定の時間下がらない、あるいは透析液タンク23の液面計22がいつまで経っても検知しない場合、透析液の消費が停止または終了したと判断して、追加の溶解動作は行わない。
【0030】
このようにして、透析治療を中断させることなく、必要最小限の溶解回数に留め、透析液や透析液原液や透析用粉末剤の節約が実現する。また、追加溶解の要否判定は、実際の透析液の消費状況に基づくものであり、透析用監視装置の動作スケジュール等に基づくものではないことから、透析用監視装置の仕様に左右されない独立した技術となる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、溶解槽を含む透析液供給システムとして広く利用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 水源
2 RO装置(逆浸透式精製水製造装置)
3 溶解装置(A粉末剤用)
4 溶解装置(B粉末剤用)
5 セントラル(多人数用透析液供給装置)
6 透析用監視装置
7 中央管理サーバ
8 ホッパー
9 スクリューフィーダ
10 溶解槽
11 移送ポンプ
12 電導度計
13 液面計
14 液面計
15 貯留槽
16 液面計(貯留槽下限)
17 液面計(追加溶解再開水位)
18 液面計(貯留槽上限)
19 原液ポンプ
20 RO水ライン
21 透析液タンク
22 液面計(透析液タンク下限)
23 液面計(透析液タンク上限)
24 送液ポンプ
図1
図2