(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073998
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】茶葉由来のラクチプランチバチルス・プランタラム属の新規株
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20220510BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20220510BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20220510BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220510BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20220510BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
A23L33/135
A61K35/747
A61P37/04
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163324
(22)【出願日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2020194729
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年11月17日~11月20日に、「日浦 月穂」、「鈴木 政彦」、「梅谷 華奈」、「本田 瑞希」、「辻川 勇治」、「坂根 巌」、「薩 秀夫」が、第33回日本動物細胞工学会2020年度国際大会において、「鈴木 政彦」、「辻川 勇治」、「坂根 巌」によってなされた発明の一態様を公開した。 令和2年11月28日~11月29日に、「日浦 月穂」、「鈴木 政彦」、「本田 瑞希」、「辻川 勇治」、「坂根 巌」、「薩 秀夫」が、2020年度日本フードファクター学会・日本農芸化学会西日本支部合同大会において、「鈴木 政彦」、「辻川 勇治」、「坂根 巌」によってなされた発明の一態様を公開した。 令和3年3月18日~3月21日に、「日浦 月穂」、「鈴木 政彦」、「本田 瑞希」、「辻川 勇治」、「坂根 巌」、「薩 秀夫」が、日本農芸化学会 2021年度大会において、「鈴木 政彦」、「辻川 勇治」、「坂根 巌」によってなされた発明の一態様を公開した。 令和3年8月6日に、「辻川 勇治」、「鈴木 政彦」、「坂根 巌」が、Bioscience of Microbiota,Food and Health Vol.40(4),186-195,2021において、「鈴木 政彦」、「辻川 勇治」、「坂根 巌」によってなされた発明の一態様を公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100080953
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 克郎
(74)【代理人】
【識別番号】230103089
【弁護士】
【氏名又は名称】遠山 友寛
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 政彦
(72)【発明者】
【氏名】辻川 勇治
(72)【発明者】
【氏名】坂根 巌
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB06
4B018LB08
4B018MD86
4B018ME08
4B018ME09
4B065AA15X
4B065BA22
4B065CA41
4B065CA42
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087CA09
4C087MA16
4C087MA35
4C087MA37
4C087MA43
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZB09
(57)【要約】
【課題】高い免疫賦活活性を有する、ラクチプランチバチルス・プランタラム属の新規株の提供。
【解決手段】本発明は、茶葉由来のラクチプランチバチルス・プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)LOC1株であって、ラクチプランチバチルス・プランタラムのその他の株よりも高い免疫賦活活性を有する、ラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株、を提供する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶葉由来のラクチプランチバチルス・プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)LOC1株であって、ラクチプランチバチルス・プランタラムのその他の株よりも高い免疫賦活活性を有する、ラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株。
【請求項2】
ラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株が受領番号NITE AP-03527で特定される菌株である、請求項1に記載のラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株を有効成分として含む、免疫賦活剤。
【請求項4】
インターロイキン12(IL-12)の発現を亢進するための、請求項3に記載の免疫賦活剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株、その菌体成分、培養物又は処理物を含む、組成物。
【請求項6】
飲料、食品、サプリメント又は医薬品の形態である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
液体、粉剤、錠剤又はカプセルの形態である、請求項5又は6に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶葉由来のラクチプランチバチルス・プランタラム属の新規株、又はその用途等に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は広く発酵食品等の製造に使用されている安全性の高い微生物である。近年、ある種の乳酸菌はマクロファージや樹状細胞に作用してインターロイキン12(IL-12)の分泌を亢進し、CD4T細胞からのインターフェロンγ産生を介してナチュラルキラー細胞を活性化することで生体防御能を高めることが報告されている。
【0003】
植物素材に由来する乳酸菌の一つとしてラクチプランチバチルス・プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)がある。その基準株であるATCC14917は高い免疫賦活活性を有することが知られている(特開2012-213352号公報)。
【0004】
なお、ラクチプランチバチルス・プランタラムは、ラクトバチルス属の再分類以前、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)と称されていた乳酸菌である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高い免疫賦活活性を有する、ラクチプランチバチルス・プランタラム属の新規株を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、マクロファージのIL-12産生を亢進する茶葉に含まれる乳酸菌の探索及び作用機構の解析を行ったところ、IL-12のmRNA発現量を顕著に増加させる、ラクチプランチバチルス・プランタラム属の新規株を同定した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]
茶葉由来のラクチプランチバチルス・プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)LOC1株であって、ラクチプランチバチルス・プランタラムのその他の株よりも高い免疫賦活活性を有する、ラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株。
[2]
ラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株が受領番号NITE AP-03527で特定される菌株である、[1]に記載のラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株。
[3]
[1]又は[2]に記載のラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株を有効成分として含む、免疫賦活剤。
[4]
インターロイキン12(IL-12)の発現を亢進するための、[3]に記載の免疫賦活剤。
[5]
[1]又は[2]に記載のラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株、その菌体成分、培養物又は処理物を含む、組成物。
[6]
飲料、食品、サプリメント又は医薬品の形態である、[5]に記載の組成物。
[7]
液体、粉剤、錠剤又はカプセルの形態である、[5]又は[6]に記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
LOC1株はラクチプランチバチルス・プランタラムの基準株であるATCC14917株等との比較で高い免疫賦活活性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ラクチプランチバチルスの属特異的プライマーで増幅したPCR産物の電気泳動図。M:100bpのDNAラダー;1:LOC1株;2:ラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 14917T;3: ラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 8014;4: ビフィドバクテリウム・ラクティス Bb12;5:ネガティブコントロール(蒸留水)。
【
図2】ラクチプランチバチルス・プランタラムの種特異的プライマーで増幅したPCR産物の電気泳動図。M:100 bp DNAラダー; 1: LOC1株; 2:ラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 14917T; 3:ラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 8014; 4:L. アシドフィルス La5; 5:ネガティブコントロール(蒸留水)。
【
図3】Caco-2/HT29-MTX(100:0比、90:10比、75:25比、0:100比)の経上皮電気抵抗(TEER)に対するラクチプランチバチルス・プランタラムの影響。すべての細胞は、無添加の培地または細菌を添加した培地で24時間培養した。培養後のTEER値を測定した後、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)(1%vol/wt)を含む培地で6時間処理した。そして、初期のTEER値と比較した6時間後のTEERの変化を変化率として表した。値は3回の実験の平均値(±SEM)である(1回の実験で各処理につき3サンプル)。星印は各処理と無処理のコントロールとの間の有意差を示す(*:P<0.05)。コントロール=無処理;LOC1=LOC1株;ATCC14917=ラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 14917T;ATCC8014=ラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 8014。
【
図4】細菌を添加して48時間培養した後のCaco-2/HT29-MTX(90:10比、75:25比)におけるTJP1, TJP2及びOCLNの mRNAの倍率変化。データは、3回の実験の平均値(±SEM)である(1回の実験で各処理につき3サンプル)。星印は、各処理と無処理のコントロールとの間の有意差を示す(**:P<0.01)。コントロール=無処理、LOC1=LOC1株、ATCC14917=ラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 14917T、ATCC8014=ラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 8014。
【
図5】細菌を添加して48時間培養した後のCaco-2/HT29-MTX(90:10比、75:25比)におけるMUC2、MUC5AC及びMUC4 のmRNAの倍率変化。データは、3回の実験の平均値(±SEM)である(1回の実験で各処理につき3サンプル)。星印は、各処理と無処理のコントロールとの間の有意差を示す(*:P<0.05、**:P<0.01)。コントロール=無処理、LOC1=LOC1株、ATCC14917=ラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 14917T、ATCC8014=ラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 8014。
【
図6】J774.1細胞におけるIL-12 mRNAの発現及び分泌に及ぼす乳酸菌の影響を解析した結果。N=無処理。LPS=リポ多糖(ポジティブコントロール)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態又は実施態様について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
(ラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株)
一実施形態において、茶葉由来のラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株であって、ラクチプランチバチルス・プランタラムのその他の株よりも高い免疫賦活活性を有する、ラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株、が提供される。
【0013】
ラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株は、茶葉由来のグラム陽性桿菌であり、室温前後、例えば10℃~40℃で生育し得る。乳酸菌は菌の種類により発酵型式が異なるが(ホモ乳酸発酵又はヘテロ乳酸発酵)、保有する遺伝子や発酵の臭気等からLOC1株の発酵はホモ型と考えられる。LOC1株は嫌気性条件以外でも生育するが、生育は嫌気性条件下で行うことが好ましい。一態様において、培養は初発pHを弱酸性から弱塩基性、例えばpH5.7~9.3の範囲内に調整して行われる。
【0014】
LOC1株は生菌の状態で使用することもできるが、免疫賦活活性等の所望の効果を得るためには加熱殺菌して使用することが好ましい。
【0015】
免疫賦活活性は免疫を活性化する有益な作用であれば特に限定されず、その例として、例えばサイトカインの産生促進活性等が挙げられる。そのようなサイトカインとしては、B細胞、T細胞、マクロファージ・ナチュラルキラー(NK)細胞、樹状細胞等の免疫細胞が産生するインターロイキン12(IL-12)等のインターロイキン、インターフェロンγ(IFN―γ)等のインターフェロン等がある。免疫賦活活性は、IL-12の発現亢進活性であることが好ましい。
【0016】
IL-12は、樹状細胞やマクロファージのような抗原提示細胞から分泌されるサイトカインの一種であり、タイプ1ヘルパーT細胞(Th1)へ分化誘導する作用や、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性化、マクロファージ等の細胞の貪食作用を亢進する作用を持つ。IL-12はウイルスや細菌による感染防御作用や宿主の抗腫瘍効果に関わるとされており、抗腫瘍効果、抗転移効果、日和見感染症等の感染症に対する効果、喘息等のアレルギー疾患に対する予防、治療効果も知られている。
【0017】
ラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株はラクチプランチバチルス・プランタラム属の他の菌株よりも免疫賦活活性が高い。本明細書で使用する場合、免疫賦活活性が「高い」とは、ラクチプランチバチルス・プランタラムのその他の株等の対照との比較で所望とする活性が増大している状態を意味し、対照との比較で少なくとも約1%、5%、25%、50%、75%、100%、125%、150%、175%、200%、250%、300%、350%、400%、450%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%以上活性が高い状態を意味する。
【0018】
ラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株は、2021年8月31日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに寄託され、同年9月1日に受領番号NITE AP-03527が付与されている。
【0019】
LOC1株は、培養後、得られた培養物をそのまま用いてもよく、希釈又は濃縮して用いてもよく、培養物から回収した菌体を用いてもよい。また、LOC1株は、高い免疫賦活活性を有する限り、寄託された親株から作成した変異株を包含し得る。
【0020】
(免疫賦活剤)
一実施形態において、茶葉由来のラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株であって、ラクチプランチバチルス・プランタラムのその他の株よりも高い免疫賦活活性を有する、ラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株を有効成分として含む、免疫賦活剤、が提供される。
【0021】
有効成分として含まれるLOC1株は、高い免疫賦活活性を有する限り、寄託された親株から作成した変異株を包含し得る。また、有効成分は菌体のみならず、菌体に由来する成分、菌体の培養物又は処理物であってもよい。これらはLOC1株の核酸、特にRNAを含有することが好ましい。
【0022】
免疫賦活剤は、医薬品、医薬部外品、飲食品、サプリメント等として提供することができる。剤形は特に限定されず、経口用の散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、シロップ剤、丸剤、懸濁剤、液剤、乳剤や、非経口用の注射剤、座剤等であってもよい。飲食品として提供される場合、免疫賦活剤は飲料、食品のみならず、硬カプセル、軟カプセル、タブレット、顆粒等の状態で提供され得る。
【0023】
免疫賦活剤は、LOC1株の効果を損なわない範囲内で、免疫賦活効果が知られている他の成分や、必要に応じて通常の医薬品、医薬部外品、飲食品に用いられる賦形剤、安定剤、保存剤、結合剤、崩壊剤、pH調整剤、防腐剤、香料等の任意の成分を含んでもよい。
【0024】
LOC1株が有する免疫賦活活性は免疫を活性化する有益な作用であれば限定されない。免疫賦活活性は、サイトカインの産生促進活性、特にIL-12の発現亢進活性であることが好ましい。
【0025】
IL-12の発現亢進活性を抗ウイルス作用として利用することもできる。そのようなウイルスは、IL-12の発現亢進活性により予防又は治療できるものであれば特に制限されないが、一例としてインフルエンザウイルスが挙げられる。
【0026】
(組成物)
一実施形態において、茶葉由来のラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株であって、ラクチプランチバチルス・プランタラムのその他の株よりも高い免疫賦活活性を有する、ラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株、その菌体成分、培養物又は処理物を含む、組成物、が提供される。
【0027】
組成物に含まれるLOC1株は、高い免疫賦活活性を有する限り、寄託された親株から作成した変異株を包含し得る。また、有効成分は菌体のみならず、菌体に由来する成分、菌体の培養物又は処理物であってもよい。これらはLOC1株の核酸、特にRNAを含有することが好ましい。
【0028】
限定することを意図するものではないが、LOC1株の処理物の例として、LOC1株の生菌又は死菌に対して磨砕や破砕等の公知の物理的な処理や、その他の処理、例えば酵素処理を行ったものが挙げられる。具体的には、磨砕物、破砕物、液状物(抽出液等)、濃縮物、ペースト化物、乾燥物(噴霧乾燥物、凍結乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物等)、希釈物、酵素分解物等を挙げることができる。
【0029】
LOC1株の培養物は、菌体を培養した後の菌体の懸濁液、菌体の混合物(発酵物を含む)、培養後の残渣等を含み得る。培養物は菌体培養物を処理して得られる細胞質又は細胞壁画分を含んでもよい。
【0030】
菌体を培養するための培地も特に限定されず、ラクチプランチバチルス・プランタラムの培養に使用されるものであれば好適に使用することができる。例えば、培地は天然培地、合成培地、半合成培地等であってもよい。
【0031】
培養条件(培養温度、培養時のpH、培養期間等)もラクチプランチバチルス・プランタラムを培養するための通常の培養条件を用いることができる。限定することを意図するものではないが、培養温度は、例えば、通常約10~40℃、好ましくは約20~40℃であってもよく、また、培養時間は、例えば約15~50時間、好ましくは約16~24時間であってもよい。
【0032】
LOC1株は、飲食品の表面に振りかけたり、乗せたりすることや、飲食品中に混合することにより飲食品に配合される。
【0033】
本明細書で使用する場合、「飲食品」とは、加工食品、飲料、青果など飲食に供されるものを意味する。飲料の例として、茶飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、豆乳;清涼飲料(ニアウォーターなどのフレーバードウォーターを含む)、栄養飲料、スポーツ飲料、果実飲料、野菜ジュース、乳性飲料、アルコール飲料、ゼリー飲料、炭酸飲料等の嗜好性飲料やドリンク剤があるが、これらに限定されない。
【0034】
飲料を充填する容器の例には、ペットボトル、缶、紙、瓶等の通常用いられる容器があるが、これらに限定されない。充填された後密封できる容器を使用することが好ましい。
【0035】
食品の例として、クッキー、ビスケット、チョコ、ケーキ、プリン、アイスクリーム、シャーベット、ワッフル、ウエハース、ホットケーキ、ドーナッツ、ポップコーン、カステラ、キャラメル、キャンディー、チューイングガム、和菓子等の菓子類;食パン、菓子パン、その他のパン等のパン類;うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ等の麺類;ハンバーグ、ハム、ベーコン、ソーセージ等の食肉加工食品;カレー、ラーメン、スープ等のインスタント食品が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
組成物におけるラクチプランチバチルス・プランタラムLOC1株の含有量は、組成物の剤形、用法、患者の年齢、性別、疾患の種類、疾患の程度、及びその他の条件等により適宜設定されるが、通常5×104~5×108cfu/mlの範囲内であることが好ましく、5×105~5×107cfu/mlの範囲内であることがより好ましい。
【0037】
組成物を医薬組成物として投与する場合、投与形態は製剤形態、患者の年齢、性別、その他の条件、患者の症状の程度等に応じて決定され得る。投与のタイミングも限定されず、いずれの場合も1日1回又は複数回に分けて投与することができ、また、数日又は数週間に1回の投与としてもよい。
【0038】
医薬用途としては、IL-12の発現亢進により治療可能な疾患、例えば感染症、腫瘍、アレルギー等の治療又は予防が挙げられる。
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0040】
ラクチプランチバチルス株の分離と同定
鹿児島県の茶畑から採取した茶葉を10mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に浸し、乳鉢で乳棒を使って室温で粉砕した。この溶液50μlを炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会)を最終濃度1%となるように添加したMRS(De Man, Rogosa and Sharp)寒天培地に播種し、AnaeroPack-Anaero(三菱ガス化学株式会社)を用いて37℃で48時間嫌気培養した。
【0041】
その中からランダムに1株(LOC1株)を選び、10mlのMRSブロスを含むスクリューキャップ付きの試験管に播種した。その後、LOC1株を37℃で1~2日間培養した。ストック培養液は30%のグリセロールを含むMRSブロスに入れて-80℃で保存した。そして、PCRによりLOC1株の属及び種を同定した。LOC1株の全ゲノムDNAは、Marmurらの手順に従って調製した(Marmur J. 1961. A procedure for the isolation of deoxyribonucleic acid from micro-organisms. J Mol Biol 3: 208-218)。本実施例で使用したプライマーを表1に示す。
【表1】
【0042】
PCR反応の混合物は、250 ngのゲノムDNAを鋳型として、各プライマーを100 pmol、ExTaq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)を5 U、MgCl2を12.5 mM、各dNTPを200 mMとなるように脱イオン水に最終容量が50 mLとなるように溶解させた。ポジティブコントロール及びネガティブコントロールとしてのラクチプランチバチルス及びラクチプランチバチルス・プランタラムの標準株をPCR増幅の各セットに含めた。
【0043】
PCR条件は以下の通りとした。ラクチプランチバチルス属については、SimpliAmp サーマルサイクラー(エッペンドルフ)を用いて、95℃で5分間を1サイクル、95℃で15秒、58℃で20秒、72℃で45秒を30サイクル、最後に72℃で5分間を1サイクル行った。ラクチプランチバチルス・プランタラムについては、95℃で15分間を1サイクル、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で50秒を40サイクル、最後に72℃で5分間を1サイクル行った。PCR産物を1%アガロースゲルで確認した。ゲルは0.5 g L-1 (w/v) エチジウムブロマイドで染色し、FluoroPhoreStar 3000 (Anatech, Tokyo, Japan)を用いて画像撮影した。PCR産物のサイズは、100 bpのDNAラダー(Takara Bio)をコントロールとして用いて同定した。
【0044】
共培養条件
ヒト大腸腺がん細胞株Caco-2及びHT29-MTX細胞は、American Type Culture Collection(ATCC, Manassas, VA, USA)から入手した。Caco-2細胞は28~33継代後、HT29-MTX細胞は18~25継代後に試験に使用した。
【0045】
Caco-2細胞とHT29-MTX細胞は、10%FBS(第一化学株式会社)、1%非必須アミノ酸(NEAA; Gibco BRL, Grand Island, NY, USA)、1%ペニシリン及びストレプトマイシン、2.5%HEPESを添加した高グルコース・L-グルタミンDMEM培地を用いて、75cm2フラスコで0.5×105の密度で5% CO2を含む加湿インキュベーター内で37℃で培養した。試験に必要な継代数に達する前に、トリプシン-EDTA溶液(0.25%)を用いて細胞を継代培養し、1日おきに培地を交換した。
【0046】
菌株と培養条件
今回使用した菌株は、LOC1株、ラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 14917T及びラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 8014である。すべての菌株は、MRS(Man-Rogosa-Sharpe)ブロス(Oxoid, Basingstoke, United Kingdom)に入れて-80℃で保存し、使用する前にMRSブロスで2回継代培養した。すべての菌株は、MRSブロスを用いて37℃で一晩嫌気的に培養した。すべての試験において、細菌株は定常期の状態のものを使用した。
【0047】
菌体の調製
定常期の菌体を8,000×gで遠心分離して回収し、その後リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄した。血球計算盤(Brightline, Hausser Scientific)による菌数測定にて1×109 cells/mLとなるように調整した後、オートクレーブを用いて121℃で15分間熱処理した。すべての試験において、各ウェルに約1×108個の菌体を添加した。
【0048】
統計解析
データは、標準偏差を含む平均値で表した。データの統計解析は、一元配置分散分析(ANOVA)とDunnettの検定を用いて行った。アスタリスク(*, **)は統計的な差異を示しており、それぞれp<0.05及びp<0.01の有意水準である。
【0049】
結果
茶葉を粉砕した溶液を、炭酸ナトリウムを添加したMRS寒天培地で培養したところ、いくつかのコロニーが観察された。その中の1つをランダムに選択してLOC1株とし、PCRを用いて属特異的プライマーによる属の確認と種特異的プライマーによる種の確認を行った。ラクチプランチバチルス属を標的とするプライマーを用いたPCRにより、LOC1株はラクチプランチバチルス属であることが示された(
図1)。その後、ラクチプランチバチルス・プランタラムを標的としたプライマーを用いたPCRにより、LOC1株がラクチプランチバチルス・プランタラムであることが示された(
図2)。
【0050】
LOC1株はデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)によって誘導される経上皮電気抵抗(Transepithelial Electrical Resistance: TEER)の低下を抑制する
経上皮電気抵抗値は、腸管バリア機能を調べるための重要なパラメータの一つである。100:0比, 90:10比, 75:25比, 0:100比 (Caco-2/HT29-MTX) の初期のTEER値(DSS処理前)は、それぞれ470~510 Ω × cm2, 440~480 Ω × cm2, 340~370 Ω × cm2, 100~140Ω × cm2であった。
【0051】
グルコース1分子あたり最大3つの硫酸塩を含み、約17%の硫黄を含むヘパリン類似の多糖類であるデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)は、実験的な大腸炎や大腸がんを誘発し、腸管上皮細胞のTEERを低下させる1つのモデルとして用いられている。DSSで6時間処理した後、すべての共培養細胞のTEER値は低下した(データは示さず)。一方、LOC1株は、Caco-2/HT29-MTX (100:0比、90:10比)においてDSSによるTEER値の低下を有意に抑制したが(p<0.05)、ラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 14917T及びラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 8014ではそのような抑制はみられなかった(
図3a及び3b)。Caco-2/HT29-MTX (75:25比、0:100比)においては、細菌添加によるDSSによるTEER値の低下の有意な抑制は見られなかった(
図3c及び3d)。
【0052】
菌株LOC1によるタイトジャンクション関連遺伝子発現への影響
Caco-2/HT29-MTX(90:10比、75:25比、)において、定量PCRを用いてLOC1株の3つのタイトジャンクション(TJ)関連遺伝子の発現量への影響をラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 14917T及びラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 8014の影響と比較した。Caco-2/HT29-MTX(90:10比)においては、LOC1株の添加後、OCLNの発現がコントロールと比較して有意に増加したが、TJP1及びTJP2の発現には影響は見られなかった(p < 0.01)(
図4a)。 Caco-2/HT29-MTX(75:25比)においては、LOC1株とラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 8014で処理した場合にOCLNのmRNAの発現が有意に上昇した(p < 0.01)(
図4b)。一方で、TJP1及びTJP2の発現に対する細菌の有意な影響をみられなかった。
【0053】
LOC1株がムチンの発現に及ぼす影響
ムチンは腸管バリアの保護能力に重要な役割を果たしている。腸杯細胞から分泌されるムチンは腸管粘液層の主成分を構成しており、水と一緒に粘液層を形成して上皮自由表面を覆って潤滑性を与えるとともに、病原菌の腸管への付着や侵入を防ぐ(Antonissen G, Van Immerseel F, Pasmans F, Ducatelle R, Janssens GP, De Baere S, Mountzouris KC, Su S, Wong EA, De Meulenaer B et al. 2015. Mycotoxins deoxynivalenol and fumonisins alter the extrinsic component of intestinal barrier in broiler chickens. J Agric Food Chem 63: 10846-10855.)。ムチン遺伝子であるMUC2、MUC4、MUC5ACの発現に対する細菌の影響を評価した。Caco-2/HT29-MTX (90:10比)では、コントロールと比較してLOC1株及びラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 8014添加により、MUC2とMUC4の発現が有意に上昇した(
図5a)。また、Caco-2/HT29-MTX (75:25比)では、細菌の添加後にMUC2の発現がコントロールと比較して増加した(
図5b)。一方で、MUC4の発現は、コントロールと比較してLOC1株及びラクチプランチバチルス・プランタラム ATCC 8014添加後に増加した。MUC5ACの発現においては、菌体添加後はコントロールと比較して有意な変化は見られなかった。
【0054】
考察
茶葉から分離されたLOC1株は、PCRによりラクチプランチバチルス・プランタラムと同定された。ラクチプランチバチルス・プランタラムは、植物や動物の消化管に存在しており、乳酸菌のプロバイオティクス種の一つとして知られている(Sadeghi-Aliabadi H, Mohammadi F, Fazeli H, Mirlohi M. 2014. Effects of Lactobacillus plantarum A7 with probiotic potential on colon cancer and normal cells proliferation in comparison with a commercial strain. Iran J Basic Med Sci 17: 815-819;Eom JS, Song J, Choi HS. 2015. Protective Effects of a Novel Probiotic Strain of Lactobacillus plantarum JSA22 from Traditional Fermented Soybean Food Against Infection by Salmonella enterica Serovar Typhimurium. J Microbiol Biotechnol 25: 479-491;Ren D, Li C, Qin Y, Yin R, Du S, Liu H, Zhang Y, Wang C, Rong F, Jin N. 2015. Evaluation of immunomodulatory activity of two potential probiotic Lactobacillus strains by in vivo tests. Anaerobe 35: 22-27.)。例えば、いくつかのラクチプランチバチルス・プランタラム株が不治の病である腸症候群を緩和することが報告されている(Molin G. 2001. Probiotics in foods not containing milk or milk constituents, with special reference to Lactobacillus plantarum 299v. Am J Clin Nutr 73: 380S-385S.;Niedzielin K, Kordecki H, Birkenfeld B. 2001. A controlled, double-blind, randomized study on the efficacy of Lactobacillus plantarum 299V in patients with irritable bowel syndrome. Eur J Gastroenterol Hepatol 13: 1143-1147.)。ラクチプランチバチルス・プランタラム JSA22株は、ネズミチフス菌(Salmonella Typhimurium)による腸管上皮細胞への感染を抑制する(Ren Dら(上掲))。ラクチプランチバチルス・プランタラム CICC 23174は、マクロファージの食細胞活性を増強するなどの免疫賦活作用がある(Ren Dら(上掲))。ラクチプランチバチルス・プランタラムは大豆アレルギーを軽減することができる(Frias J, Song YS, Martinez-Villaluenga C, Gonzalez de Mejia E, Vidal-Valverde C. 2008. Immunoreactivity and amino acid content of fermented soybean products. J Agric Food Chem 56: 99-105.)。さらに、ラクチプランチバチルス・プランタラムの中にはバクテリオシンを産生する菌株がある(Song DF, Zhu MY, Gu Q. 2014. Purification and characterization of Plantaricin ZJ5, a new bacteriocin produced by Lactobacillus plantarum ZJ5. PLoS One 9: e105549;Zhu X, Zhao Y, Sun Y, Gu Q. 2014. Purification and characterisation of plantaricin ZJ008, a novel bacteriocin against Staphylococcus spp. from Lactobacillus plantarum ZJ008. Food Chem 165: 216-223.)。例えば、ラクチプランチバチルス・プランタラム KL-1由来のプランタリシンKL-1Yはバチルス セレウス(Bacillus cereus)に対して殺菌活性を示し、リステリア・イノキュア(Listeria innocua)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、大腸菌(Escherichia coli)に対して増殖抑制活性を示す(Rumjuankiat K, Perez RH, Pilasombut K, Keawsompong S, Zendo T, Sonomoto K, Nitisinprasert S. 2015. Purification and characterization of a novel plantaricin, KL-1Y, from Lactobacillus plantarum KL-1. World J Microbiol Biotechnol 31: 983-994.)。ラクチプランチバチルス・プランタラム BMCM 12株の細胞外タンパク質は、大腸菌及びサルモネラ菌(S. enterica subsp.enterica)がムチンへ接着するのを阻害する(Sanchez B, Urdaci MC. 2012. Extracellular proteins from Lactobacillus plantarum BMCM12 prevent adhesion of enteropathogens to mucin. Curr Microbiol 64: 592-596.)。このように、ラクチプランチバチルス・プランタラムは、プロバイオティクスとして利用できる有益な乳酸菌種の一つである。本実施例では、LOC1株がラクチプランチバチルス・プランタラムの基準株と比較して腸管バリア機能を増強する効果が高かったことから、茶葉をプロバイオティクスの分離源として活用できることが示唆された。
【0055】
加熱処理後、工業的に増殖させたプロバイオティクス菌は、多くの場合は細菌抽出物や上清を含め、重要なプロバイオティクス特性を維持しているため、より最適な医薬品特性(長い保存期間など)を有した安全な製剤開発が可能である(Taverniti V, Guglielmetti S. 2011. The immunomodulatory properties of probiotic microorganisms beyond their viability (ghost probiotics: Proposal of paraprobiotic concept). Genes Nutr 6: 261-274.;Canducci F, Armuzzi A, Cremonini F, Cammarota G, Bartolozzi F, Pola P, Gasbarrini G, Gasbarrini A. 2000. A lyophilized and inactivated culture of Lactobacillus acidophilus increases Helicobacter pylori eradication rates. Aliment Pharmacol Ther 14: 1625-1629.;Lee SH, Yoon JM, Kim YH, Jeong DG, Park S, Kang DJ. 2016. Therapeutic effect of tyndallized Lactobacillus rhamnosus IDCC 3201 on atopic dermatitis mediated by down-regulation of immunoglobulin E in NC/Nga mice. Microbiol Immunol 60: 468-476)。さらに、乳酸菌やビフィズス菌などのさまざまな菌株は、熱で不活性化された形で有益な効果を発揮することができる(Zaki MH, Boyd KL, Vogel P, Kastan MB, Lamkanfi M, Kanneganti TD. 2010. The NLRP3 inflammasome protects against loss of epithelial integrity and mortality during experimental colitis. Immunity 32: 379-391.)。その一つとして、加熱殺菌によりバリア維持効果を発揮することが示されている。例えば、加熱殺菌されたラクチプランチバチルス・ラムノーサス(L. rhamnosus)のOLL2838株は、大腸炎を誘発したマウスの粘膜バリア透過性障害を防ぐ(Miyauchi E, Morita H, Tanabe S. 2009. Lactobacillus rhamnosus alleviates intestinal barrier dysfunction in part by increasing expression of zonula occludens-1 and myosin light-chain kinase in vivo. J. Dairy Sci 92: 2400-2408)。下痢原性の拡散付着性Afa/Dr 大腸菌(E. coli)C1845を感染させたCaco-2/TC7細胞単層では、加熱殺菌したラクチプランチバチルス・アシドフィルス(L. acidophilus)LBとその培養液が大腸菌による副細胞透過性の増加を抑制する(Lievin-Le Moal V, Sarrazin-Davila LE, Servin AL. 2007. An experimental study and a randomized, double-blind, placebo-controlled clinical trial to evaluate the antisecretory activity of Lactobacillus acidophilus strain LB against nonrotavirus diarrhea. Pediatrics 120: e795-e803.)。この実施例では、オートクレーブにより熱処理したLOC1株の腸管バリアへの有益な効果が示され、LOC1株が安全なプロバイオティクスとして使用できることが示唆された。
【0056】
腸管バリア機能を評価するためにTEER値を用いた。その結果、LOC1株は、Caco-2/HT29-MTX (100:0比および75:25比)において、DSSによるTEERの低下を抑制したことから、LOC1株が腸管細胞の透過性の変化に重要な役割を果たしていることが示唆された。腸管透過性の変化は、腸管の炎症性疾患や下痢の素因となる主要な要因であることが広く知られている(Groschwitz KR, Hogan SP. 2009. Intestinal barrier function: Molecular regulation and disease pathogenesis. J Allergy Clin Immunol 124: 3-20.)。
【0057】
また、Caco-2/HT29-MTX(100:0比および75:25比)では、LOC1株の添加後にオクルディンのmRNA発現がコントロールと比較して有意に増加した。オクルディンの発現量の増加は上皮バリアの保護と関連している一方で、オクルディンの発現量の低下は上皮バリアの機能不全や上皮透過性の増加と関連している(Karczewski J, Troost FJ, Konings I, Dekker J, Kleerebezem M, Brummer RJ, Wells JM. 2010. Regulation of human epithelial tight junction proteins by Lactobacillus plantarum in vivo and protective effects on the epithelial barrier. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 298: G851-G859.)。一方で、TJP1及びTJP2のmRNAのレベルは、どの細菌処理によっても変化しなかった。従って、細菌によるTEER値の低下の抑制は本実施例では測定しなかった他のTJ構成要素の変化に起因する可能性が考えられる。例えば、ラクチプランチバチルス・プランタラム MB452で処理した後のCaco-2単層のTEERの増加は、TJP1及び細胞骨格のアクチンフィラメントに直接結合する細胞内プラークタンパク質のシンギュリン(Robinson K, Deng Z, Hou Y, Zhang G. 2015. Regulation of the Intestinal Barrier Function by Host Defense Peptides. Front Vet Sci 2: 57.)によるものであったことが示されている(Anderson RC, Cookson AL, McNabb WC, Park Z, McCann MJ, Kelly WJ, Roy NC. 2010. Lactobacillus plantarum MB452 enhances the function of the intestinal barrier by increasing the expression levels of genes involved in tight junction formation. BMC Microbiol 10: 316.)。膜貫通型のTJタンパク質でTJP1と直接相互作用するクラウディン1は、ラクチプランチバチルス・ロイテリ(L. reuteri)I5007を投与した若い子豚の空腸上皮で増加していた(Yang F, Wang A, Zeng X, Hou C, Liu H, Qiao S. 2015. Lactobacillus reuteri I5007 modulates tight junction protein expression in IPEC-J2 cells with LPS stimulation and in newborn piglets under normal conditions. BMC Microbiol 15: 32.)。
【0058】
一方で、細菌処理後のMUC5AC の発現には有意な変化は見られなかった。これは、ムチンを分泌できるHT29-MTX細胞とは異なり、Caco-2単層は腸内杯細胞の機能を完全には持っていないためと考えられる(Greenbaum D, Colangelo C, Williams K, Gerstein M. 2003. Comparing protein abundance and mrna expression levels on a genomic scale. Genome Biol 4: 117.;Vincent A, Perrais M, Desseyn JL, Aubert JP, Pigny P, Van Seuningen I. 2007. Epigenetic regulation (DNA methylation, histone modifications) of the 11p15 mucin genes (muc2, muc5ac, muc5b, muc6) in epithelial cancer cells. Oncogene 26: 6566-6576.)。そのため、Caco-2/HT29-MTX共培養では、MUC5AC の発現が低く(90/10及び75/25)、細菌処理とコントロールとの間に有意な差はみられなかった。
【0059】
本実施例で得られた結果から、茶葉から分離されたラクチプランチバチルス・プランタラム LOC1は、腸管バリアに有益な貢献をする、より安全なプロバイオティクスとして使用されると結論づけることができる。
【0060】
マクロファージ様細胞におけるプロバイオティクスによるIL-12発現の増強
マクロファージ様細胞としてマウスマクロファージモデルJ774.1細胞を使用した。乳酸菌をPBSに懸濁し、121℃で15分間加熱殺菌した。熱処理した乳酸菌をJ774.1細胞に添加してインキュベートした後、J774.1細胞におけるIL-12のmRNA発現量とタンパク質分泌量をそれぞれリアルタイムPCRとELISAで定量した。さらに、加熱殺菌した乳酸菌をDNaseとRNaseで処理し、IL-12発現への影響を解析した。乳酸菌はLOC1株以外に以下の表2に示す菌株を使用した。
【表2】
【0061】
J774.1細胞におけるIL-12 mRNAの発現及び分泌に及ぼす乳酸菌の影響を解析した結果、ラクチプランチバチルス・プランタラム LOC1はIL-12 mRNAの発現を有意に上昇させるとともに、IL-12の分泌も促進した(
図6)。
【0062】
さらに、LOC1を異なる酵素で処理し、IL-12発現を増強する乳酸菌の活性成分を調べた。その結果、IL-12の誘導はDNaseでは影響を受けないが、RNase処理では有意に抑制されることがわかった。これらの結果から、LOC1のRNAが部分的にIL-12誘導に関与していることが示唆された。