(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074022
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】インフルエンザウイルスの核酸アプタマー及び検出
(51)【国際特許分類】
C12N 15/115 20100101AFI20220510BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20220510BHJP
C12Q 1/70 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C12N15/115 Z ZNA
C12Q1/68
C12Q1/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170295
(22)【出願日】2021-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2020182726
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】大賀 美咲
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QS36
4B063QX01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの核酸アプタマーの提供。
【解決手段】特定の塩基配列、又は、当該塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換、若しくは、付加された塩基配列を含む核酸からなる、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する核酸アプタマーを提供する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号4から11のいずれかで示される塩基配列、又は
当該塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列
を含む核酸からなる、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する核酸アプタマー。
【請求項2】
配列番号4から11のいずれかで示される塩基配列、又は
当該塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含む核酸が構成する二次構造においてA/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対する結合能を有する部分の構造を保持するように短鎖化された塩基配列
を含む核酸からなる、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する核酸アプタマー。
【請求項3】
核酸がRNAである、請求項1又は2に記載の核酸アプタマー。
【請求項4】
アプタマーを構成するヌクレオチドのリボース部位の少なくとも一箇所が、化学修飾されている、請求項1から3のいずれかに記載の核酸アプタマー。
【請求項5】
前記化学修飾が、リボース部位の2'位に対するフルオロ基(2'-F)若しくはメトキシ基(2'-OMe)による修飾、又は水素による置換(2'-deoxy)である、請求項4に記載の核酸アプタマー。
【請求項6】
5'末端及び/又は3'末端が修飾されている、請求項1から5のいずれかに記載の核酸アプタマー。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の核酸アプタマーと同一の塩基配列又は当該塩基配列と相補的な塩基配列を含み、かつ請求項1又は2に記載の核酸アプタマーに変換可能な、一本鎖DNA、二本鎖DNA又はRNA。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の核酸アプタマーを有効成分として含有する、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの検出剤。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載の核酸アプタマーを有効成分として含有する、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルス用診断剤。
【請求項10】
被検査試料に請求項1から6のいずれかに記載の核酸アプタマーを有効成分として作用させる工程を含む、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの検出方法。
【請求項11】
被検査試料に請求項1から6のいずれかに記載の核酸アプタマーを有効成分として作用させる工程を含む、インフルエンザウイルスの亜型、株、及びクレードの少なくとも1つを特定又は否定する検査方法。
【請求項12】
A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する核酸アプタマーであって、
前記アプタマーが、配列番号4の5’末端から16番目~43番目で示される塩基配列からなるモチーフを有する、核酸アプタマー。
【請求項13】
前記モチーフは、少なくとも1以上のループ構造を形成し、
前記アプタマーは、前記モチーフを構成する塩基配列の5’末端及び3’末端のそれぞれに付加された塩基によって形成されたステム構造をさらに有する、請求項12記載の核酸アプタマー。
【請求項14】
配列番号4の5’末端から1番目~58番目で示される塩基配列と85%以上の同一性を有する、請求項12又は13に記載の核酸アプタマー。
【請求項15】
A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する核酸アプタマーであって、
前記アプタマーが、配列番号6の5’末端から12番目~24番目で示される塩基配列からなる第1のモチーフと、配列番号6の5’末端から39番目~62番目で示される塩基配列からなる第2のモチーフとを有する、核酸アプタマー。
【請求項16】
前記アプタマーは、前記第2のモチーフを含む塩基配列によって形成されるループ構造を有し、前記ループ構造を構成する塩基配列の5’末端及び3’末端のそれぞれに付加された塩基によって形成されたステム構造をさらに有する、請求項15に記載の核酸アプタマー。
【請求項17】
配列番号6の5’末端から1番目~77番目で示される塩基配列に対して85%以上の同一性を有する、請求項15又は16に記載の核酸アプタマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの核酸アプタマーに関する。本開示は、該核酸アプタマーを用いたA/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの検出に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型及びD型の4つの型があり、季節性インフルエンザとしてヒトに毎年流行を起こすのはA型とB型である。A型インフルエンザウイルスは、ウイルス表面に突出したタンパク質であるヘマグルチニン(H1~H16の16種類)とノイラミニダーゼ(N1~N9の9種類)の組み合わせによって144種類の亜型に分類されており、H1N1、H2N2、H3N2等と表現される。
【0003】
近年、季節性インフルエンザの原因ウイルスとしてヒトに感染し流行しているのは、2009年に世界的に流行したインフルエンザウイルスA/H1N1pdm09型(以下、A/H1N1pdm09ともいう)と、H3N2型(以下、H3N2ともいう)である。これらのインフルエンザウイルスは高い致死率を示す訳ではないが、A/H1N1pdm09は、H3N2に比べて小児、若年者中心にウイルス性肺炎や脳症を起こす症例が目立ち、H3N2は比較的高齢者でインフルエンザ後の細菌性肺炎を起こす症例が目立つといった亜型ごとに異なる臨床経過の報告がある(非特許文献1)。また、複数のA亜型が同時期に流行することもあるため、1シーズン中にインフルエンザウイルスに2回感染する患者もいる(非特許文献2)。
A亜型を判別することは、治療観察の観点からだけではなく、反復感染や重複感染予防の観点からも重要性は高い。
【0004】
これまで、亜型を判別するための抗体やアプタマーの開発がされ、これらを用いた亜型判別検査キットも開発されてきている(特許文献1、非特許文献3)。しかしながら、年や地域によって流行する亜型が異なることや、亜型判別のターゲットとなるHAやNAはウイルス表面上に存在することから変異しやすいため、常に流行株を判別できるとは限らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】インフルエンザ、Vol.19, No.2 (2018-11) P46-47
【非特許文献2】インフルエンザ、Vol.21, No.1 (2020-3) P37
【非特許文献3】Acta Biomaterialia 9 (2013) pp8932-8941
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既存のアプタマーの中には流行しているインフルエンザウイルスA亜型への結合力の低下が見られ、これらのアプタマーを利用して亜型を判別することが困難となっている。
インフルエンザウイルスA亜型を判別する診断キットを作成するためには、このウイルスの速いスピードで起こる変異に対応し続けなければならなく、現在の流行株に反応するアプタマーの開発が望まれていた。
【0008】
これまで、インフルエンザA亜型判別するためのアプタマーは複数開発されているが、現在のA/H1N1pdm09型流行株に対して結合するアプタマーは取得されていない。
【0009】
本開示は、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの核酸アプタマーを提供する。
本開示は、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの検出のための、剤及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、一態様において、配列番号4から11のいずれかで示される塩基配列、又は当該塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含む核酸からなる、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する核酸アプタマーに関する。
本開示は、一態様において、配列番号4から11のいずれかで示される塩基配列、又は当該塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含む核酸が構成する二次構造においてA/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対する結合能を有する先端領域部分の構造を保持するように短鎖化された塩基配列を含む核酸からなる、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する核酸アプタマーに関する。
【0011】
本開示は、一態様において、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する核酸アプタマーであって、
前記アプタマーが、配列番号4の5’末端から16番目~43番目で示される塩基配列からなるモチーフを有する、核酸アプタマーに関する。
本開示は、一態様において、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する核酸アプタマーであって、
前記アプタマーが、配列番号6の5’末端から12番目~24番目で示される塩基配列からなる第1のモチーフと、配列番号6の5’末端から39番目~62番目で示される塩基配列からなる第2のモチーフとを有する、核酸アプタマーに関する。
【0012】
本開示は、その他の一態様において、本開示の核酸アプタマーを有効成分として含有する、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの検出剤に関する。
本開示は、その他の一態様において、本開示の核酸アプタマーを有効成分として含有する、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルス用診断剤に関する。
本開示は、その他の一態様において、被検査試料に本開示の核酸アプタマーを有効成分として作用させる工程を含む、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの検出方法に関する。
本開示は、その他の一態様において、被検査試料に本開示の核酸アプタマーを有効成分として作用させる工程を含む、インフルエンザウイルスの亜型、株、及びクレードの少なくとも1つを特定する方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、一態様において、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに結合可能な核酸アプタマーを提供できる。
本開示によれば、一態様において、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの検出のための剤及び方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、目的とするRNAアプタマーの選別及び増幅のサイクル数と、ウイルスに結合するRNA量との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、RNAアプタマーの二次構造(予測)である。
【
図3】
図3は、RNAアプタマーの二次構造(予測)である。
【
図4】
図4は、実験例1~10、比較例1~2のRNAアプタマーの、A/H1N1pdm09株であるArk19007(H1N1pdm09)、及び、H3N2株であるArk1819002(H3N2)に対する結合量を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例で用いた核酸の塩基配列である。
【
図6】
図6は、実施例で用いた核酸の塩基配列である。
【
図7】
図7は、RNAアプタマー(P30-10-h1-1)の二次構造(予測)において、変異型アプタマーの変異部分を示す。
【
図8】
図8は、RNAアプタマー(P30-10-h1-1)及びその変異型アプタマーの、A/H1N1pdm09株であるArk19007(H1N1pdm09)に対する結合量を示すグラフである。
【
図9】
図9は、RNAアプタマー(P30-10-h1-1)の二次構造(予測)において、変異型アプタマーの変異部分を示す。
【
図10】
図10は、RNAアプタマー(P30-10-h1-1)及びその変異型アプタマーの、A/H1N1pdm09株であるArk19007(H1N1pdm09)に対する結合量を示すグラフである。
【
図11】
図11は、RNAアプタマー(P30-10-h1-3)の二次構造(予測)において、変異型アプタマーの変異部分を示す。
【
図12】
図12は、RNAアプタマー(P30-10-h1-3)及びその変異型アプタマーの、A/H1N1pdm09株であるArk19007(H1N1pdm09)に対する結合量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示において、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスは、一又は複数の実施形態において、2019/2020シーズンに流行したインフルエンザの臨床分離株であり、一又は複数の実施形態において、2019/2020シーズンの、HA遺伝子系統樹のクレード6B.1Aに属するA/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの臨床分離株である。
【0016】
[核酸アプタマー]
核酸アプタマーは、一般に、ウイルス、タンパク質、ペプチド、糖類、金属イオン、小分子等に特異的に結合するように人工的に創製された核酸リガンドである。
本開示の核酸アプタマーは、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する。
本開示において、核酸は、一又は複数の実施形態において、DNA、RNA、及びこれらの類似体を含む。
DNA及びRNAは、一又は複数の実施形態において、それぞれ、化学的に修飾をうけたDNA及び化学的に修飾をうけたRNAを含みうる。
本開示の核酸アプタマーの塩基配列がDNA又はRNAで表されていても、例えば、チミンとウラシルが変換されるように、読み替えた塩基配列の核酸として、本開示の核酸アプタマーに含まれうる。
【0017】
本開示の核酸アプタマーは、一又は複数の実施形態において、配列番号4から11のいずれかで示される塩基配列、又は当該塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含む核酸からなる。
本開示の核酸アプタマーの長さは、一又は複数の実施形態において、100塩基以下であることが好ましく、例えば、90塩基以下、80塩基以下、70塩基以下、60塩基以下、50塩基以下又は40塩基以下である。本開示の核酸アプタマーの長さは、一又は複数の実施形態において、20塩基以上、30塩基以上、40塩基以上又は50塩基以上である。本開示の核酸アプタマーの長さは、一又は複数の実施形態において、20塩基~80塩基又は30塩基~90塩基である。
配列番号4から11の塩基配列は、SELEX法と呼ばれるある特定の標的物質に対して強く結合する核酸アプタマーを選抜する方法により得られたものである。SELEX法では、ランダム配列を有する核酸ライブラリーを調製し、標的物質に結合した核酸を選別し、PCR増幅するサイクルを複数回繰り返すことで、標的物質に強く結合する核酸アプタマーを得ることができる。現在では、様々な改良SELEX法が報告されている。
配列番号4から11の塩基配列は、SELEX法によって合計10サイクルの選別を行い、得られた特異的なウイルスに結合するRNAプールについてクローニングを行ったものである。具体的には、配列中央の30塩基をランダム領域とするDNAライブラリーを合成し、PCR増幅した後、転写してRNAプールを作成し、このRNAプールに対し、標的とするインフルエンザウイルスと結合するRNAを選別、増幅した。このサイクルを10回繰り返すことによりA/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して特異性及び結合性(親和性)の高い、配列番号4から11に示される塩基配列のアプタマーが得られた。
【0018】
[短縮化アプタマー]
一般に、核酸アプタマーの二次構造モデルは予測できる。核酸アプタマーの二次構造は、先端ループ構造とステム構造からなるステム・ループ構造となっている。実際に標的物質と結合する部位は、主に先端ループを含むステム領域(以下、「先端領域部分」ともいう。)であると考えられる。
配列番号4から11の塩基配列のRNAで構成される本開示の核酸アプタマーの二次構造モデルを、一又は複数の実施形態において、
図2及び3に示す。
本開示の核酸アプタマーは、一又は複数の実施形態において、配列番号4から11の塩基配列を、二次構造の先端領域部分の構造を壊さない範囲で短縮化した核酸アプタマーを含みうる。
本開示は、一態様において、配列番号4から11のいずれかで示される塩基配列、又は当該塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含む核酸が構成する二次構造においてA/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対する結合能を有する部分の構造を保持するように短鎖化された塩基配列を含む核酸からなる、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する核酸アプタマーに関する。
本開示において、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対する結合能を有する部分とは、一又は複数の実施形態において、上述の二次構造の先端領域部分である。
【0019】
本開示の核酸アプタマーにおいて、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対する結合能を有する部分の構造を構成する塩基配列としては、一又は複数の実施形態において、下記のいずれかの塩基配列が挙げられる。
配列番号4又は7の5’末端から15番目~44番目で示される塩基配列;
配列番号4又は7の5’末端から11番目~48番目で示される塩基配列
配列番号6の5’末端から11番目~25番目で示される塩基配列;
配列番号6の5’末端から6番目~28番目及び38番目~72番目で示される塩基配列;
配列番号6の5’末端から1番目~28番目及び38番目~77番目で示される塩基配列。
本開示の核酸アプタマーにおいて、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対する結合能を有する先端領域の構造を構成する塩基配列としては、一又は複数の実施形態において、下記のいずれかの塩基配列が挙げられる。
配列番号4又は7の5’末端から25番目~40番目で示される塩基配列;
配列番号4又は7の5’末端から16番目~43番目で示される塩基配列;
配列番号4又は7の5’末端から15番目~44番目で示される塩基配列;
配列番号4又は7の5’末端から11番目~48番目で示される塩基配列;
配列番号6の5’末端から11番目~25番目で示される塩基配列。
【0020】
本開示の核酸アプタマーにおける、1若しくは数個の塩基の「欠失、置換若しくは付加」は、一又は複数の実施形態において、二次構造におけるA/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対する結合能を有する部分の構造を保持する範囲で導入され、あるいは、同部分の構造以外の場所に導入される。
本開示において、数個とは、一又は複数の実施形態において、2、3、4、又は5である。
【0021】
配列番号4から11の塩基配列において塩基の欠失又は置換を含む核酸アプタマーは、対応する塩基配列を有する核酸アプタマーと比較して、一又は複数の実施形態において、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上若しくは95%以上、又はほぼ同じ若しくは同じレベルの上記結合能を有していてもよい。配列番号4から11の塩基配列において塩基の欠失又は置換を含む核酸アプタマーは、一又は複数の実施形態において、対応する塩基配列を有する核酸アプタマーよりも高いレベルの上記結合能を有していてもよく、例えば、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上高くなったレベルの上記結合能を有していてもよい。
【0022】
本開示の核酸アプタマーの結合能は、一又は複数の実施形態において、H3N2(Ark1819002)インフルエンザウイルスへの結合量に対するA/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスへの結合量で評価できる。本開示の核酸アプタマーにおけるH3N2(Ark1819002)インフルエンザウイルスへの結合量に対するA/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスへの結合量は、一又は複数の実施形態において、3倍以上、5倍以上、10倍以上、20倍以上、50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上又は90倍以上である。本開示において、核酸アプタマーのインフルエンザウイルスへの結合量は、RT-qPCR法により測定できる。具体的には、実施例に記載の方法により測定できる。
【0023】
[短縮化アプタマーのその他の態様1]
本発明者は、配列番号4で示される塩基配列で形成される核酸アプタマーにおいて、配列番号4の5’末端から16番目~43番目で示される塩基配列が、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対する結合性に関与していることを見出した。よって、本開示の核酸アプタマーは、その他の態様として、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する核酸アプタマーであって、配列番号4の5’末端から16番目~43番目で示される塩基配列からなるモチーフを有する。
【0024】
本態様のモチーフは、特に限定されない一又は複数の実施形態において、1つ以上のループ構造を有していてもよく、好ましくは2つのループ構造と、2つのループ構造間に位置する1つのステム構造とを有していてもよい。本態様の核酸アプタマーは、一又は複数の実施形態において、2つのループ構造と、2つのループ構造間に位置する1つのステム構造とにより形成された構造とを有する。
【0025】
本開示において「ループ構造」とは、一本鎖核酸において、塩基対を形成せず一本鎖のループ状(環状)の構造をいう。ループ構造は、一又は複数の実施形態において、ステム構造を形成する二本鎖間に位置し、塩基対を形成しないループ状の構造ということもできる。ループ構造を形成する塩基数は、一又は複数の実施形態において、5以上50以下(例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、34、35、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49又は50)である。
【0026】
本開示において「ステム構造」とは、一本鎖核酸が1組以上の相補的な塩基同士が塩基対を形成して形成された鎖状の構造をいう。ステム構造は、一又は複数の実施形態において、構成する塩基の一部又は連続する2以上の塩基が互いに完全に又は部分的に塩基対を形成して形成された鎖状の構造であってもよい。ステム構造を形成する塩基数は、一又は複数の実施形態において、2以上20以下(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20)である。
本態様の核酸アプタマーのステム構造は、一又は複数の実施形態において、連続した2つのG-C塩基対を含む。
【0027】
本態様の核酸アプタマーは、一又は複数の実施形態において、前記モチーフを構成する塩基配列の5’末端及び3’末端のそれぞれに、2以上の塩基が付加されていてもよく、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、50、60、70、80、90又は100若しくはそれ以上の塩基が付加されていてもよい。一又は複数の実施形態において、付加された塩基の一部又は全部が、塩基対を形成してステム構造を形成してもよい。
【0028】
本態様の核酸アプタマーは、一又は複数の実施形態において、少なくとも1以上のループ構造を形成する前記モチーフと、該モチーフを構成する塩基配列の5’末端及び3’末端のそれぞれに付加された塩基によって形成されたステム構造とを含む。ループ構造を形成する塩基は、一又は複数の実施形態において、5以上20以下(例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20)である。
該形態の核酸アプタマーの特に限定されない一又は複数の実施形態としては、下記のいずれかの塩基配列を含む核酸等が挙げられる。
配列番号4の5’末端から15番目~44番目で示される塩基配列;
配列番号4の5’末端から14番目~45番目で示される塩基配列;
配列番号4の5’末端から13番目~46番目で示される塩基配列;
配列番号4の5’末端から12番目~47番目で示される塩基配列;
配列番号4の5’末端から11番目~48番目で示される塩基配列
該形態の核酸アプタマーの特に限定されない一又は複数の実施形態としては、配列番号4の5’末端から16番目~43番目で示される塩基配列からなるモチーフを有し、かつ、上記5つの配列のいずれかと85%以上の同一性を有する塩基配列を含む核酸が挙げられる。当該アプタマーは、一又は複数の実施形態において、上記のモチーフの塩基配列が保持されている。
【0029】
本態様の核酸アプタマーは、一又は複数の実施形態において、上記のモチーフを有し、かつ配列番号4の5’末端から1番目~58番目で示される塩基配列と85%以上の同一性を有する。該態様の核酸アプタマーは、特に限定されない一又は複数の実施形態において、1つ以上のループ構造と1つ以上のステム構造を有し、好ましくは前記モチーフによって形成される2つのループ構造及び2つのループ構造間に位置する1つのステム構造と、該モチーフの5’末端及び3’末端に位置するステム構造とを有していてもよい。
【0030】
本開示の核酸アプタマーにおける「配列番号で示される塩基配列と85%以上の同一性を有する核酸アプタマー」とは、核酸アプタマーが、当該規定される塩基配列そのものであるか、又は該塩基配列に対して、少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。2つの核酸の「同一性%」は、視覚的検査又は数学的計算により決定することができる。2つの核酸の「同一性%」は、一又は複数の実施形態において、容易に入手可能な配列比較コンピュータープログラムを用いて実施することができる。コンピュータープログラムとしては、一又は複数の実施形態において、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin、U.S.A.; Devereux et al. (1984) Nucleic Acids Res. 12: 387)、BLASTパッケージ(Ausubel et al. (1999) ibid-Ch. 18)、及びFASTA(Atschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 403-410)等が挙げられる。
85%以上の同一性を有する核酸アプタマーは、一又は複数の実施形態において、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対する結合能及び/又は結合能を有する部分の構造を保持しうる。85%以上の同一性を有する核酸アプタマーは、対応する塩基配列を有する核酸アプタマーと比較して、一又は複数の実施形態において、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上若しくは95%以上、又はほぼ同じ若しくは同じレベルの上記結合能を有していてもよい。85%以上の同一性を有する核酸アプタマーは、一又は複数の実施形態において、対応する塩基配列を有する核酸アプタマーよりも高いレベルの上記結合能を有していてもよく、例えば、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上高くなったレベルの上記結合能を有していてもよい。
【0031】
[短縮化アプタマーのその他の態様2]
本発明者は、配列番号6で示される塩基配列で形成される核酸アプタマーにおいて、配列番号6の5’末端から12番目~24番目で示される塩基配列と配列番号6の5’末端から39番目~62番目で示される塩基配列とが、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対する結合性に関与していることを見出した。よって、本開示の核酸アプタマーは、その他の態様として、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する核酸アプタマーであって、配列番号6の5’末端から12番目~24番目で示される塩基配列からなる第1のモチーフと、配列番号6の5’末端から39番目~62番目で示される塩基配列からなる第2のモチーフとを有する。
【0032】
第1のモチーフは、特に限定されない一又は複数の実施形態において、ステム・ループ構造を有する。ループ構造を形成する塩基は、一又は複数の実施形態において、5以上10以下(例えば、5、6、7、8、9又は10)である。
【0033】
本態様の核酸アプタマーは、一又は複数の実施形態において、前記第2のモチーフを含む塩基配列によって形成されるループ構造を有していてもよい。本態様の核酸アプタマーは、一又は複数の実施形態において、該ループ構造を形成する塩基配列の5’末端及び3’末端のそれぞれに、2以上20以下(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20)の塩基が付加されていてもよい。付加された塩基は、一又は複数の実施形態において、一部又は全部が塩基対を形成してステム構造を形成してもよい。
【0034】
本態様の核酸アプタマーは、一又は複数の実施形態において、前記第1のモチーフによって形成されるステム・ループ構造と、前記第2のモチーフを含む塩基配列によって形成されるループ構造と、前記ループ構造を構成する塩基配列の5’末端及び3’末端のそれぞれに付加された塩基によって形成されたステム構造とを含み、第1のモチーフによって形成されるステム・ループ構造は、第2のモチーフを含む塩基配列によって形成されるループ構造とステム構造を介して連結している。
該形態の核酸アプタマーの特に限定されない一又は複数の実施形態としては、下記のいずれかの塩基配列を含む核酸等が挙げられる。
配列番号6の5’末端から6番目~28番目及び38番目~72番目で示される塩基配列;
配列番号6の5’末端から5番目~28番目及び38番目~73番目で示される塩基配列;
配列番号6の5’末端から4番目~28番目及び38番目~74番目で示される塩基配列;
配列番号6の5’末端から3番目~28番目及び38番目~75番目で示される塩基配列;
配列番号6の5’末端から2番目~28番目及び38番目~76番目で示される塩基配列;
配列番号6の5’末端から1番目~28番目及び38番目~77番目で示される塩基配列。
該形態の核酸アプタマーの特に限定されない一又は複数の実施形態としては、上記の第1のモチーフ及び第2のモチーフを有し、かつ、上記6つの配列のいずれかと85%以上の同一性を有する塩基配列を含む核酸が挙げられる。当該アプタマーは、一又は複数の実施形態において、上記の第1及び第2のモチーフの塩基配列が保持されている。
【0035】
本態様の核酸アプタマーは、一又は複数の実施形態において、上記の第1のモチーフ及び第2のモチーフを有し、かつ、配列番号6の5’末端から1番目~77番目で示される塩基配列に対して85%以上の同一性を有する。該態様の核酸アプタマーは、特に限定されない一又は複数の実施形態において、1つ以上のループ構造と1つ以上のステム構造を有し、好ましくは第1のモチーフを含むループ構造と、該ループ構造と連結する第2のモチーフによって形成されるステム・ループ構造と、第1のモチーフを含むループ構造の5’末端及び3’末端に位置するステム構造とを有していてもよい。
【0036】
[化学修飾]
本開示の核酸アプタマーは、上述のとおり、化学修飾を受けた態様を含みうる。
核酸がRNAである場合、リボヌクレアーゼ耐性を付加するために、核酸アプタマーの塩基配列中に化学修飾したリボヌクレオチドを有していてもよい。このような核酸アプタマーは、例えば、核酸アプタマー中のリボヌクレオチドのリボース部位の2'-OH基を、常法によりフルオロ基(2'-F)に又はメトキシ基(2'-OMe)に、あるいは同リボース部位の2'位を水素に置換(2'-deoxy)することにより得られる。
これらの化学修飾は、ピリミジンヌクレオチド部位がリボヌクレアーゼにより分解されやすいので、ピリミジンヌクレオチドに対してより有効である。
これらの化学修飾は、一又は複数の実施形態において、二次構造におけるA/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対する結合能を有する部分の構造以外の場所に導入される。これらの化学修飾は、一又は複数の実施形態において、ループ領域のピリミジンヌクレオチドのリボース基について行なわれる。
【0037】
化学修飾は、その他の一又は複数の実施形態において、核酸アプタマーの5'末端及び/又は3'末端のインバースドデオキシチミジン(idT)又はポリエチレングリコール(PEG)による修飾であってもよい。これらにより、アプタマーRNAのリボヌクレアーゼ耐性が向上する。
化学修飾により、生体中での分解による活性の低下を抑制することができるため、本開示の核酸アプタマーを生体内で抗ウイルス作用を発揮する医薬組成物とすることもできる。
本開示は、その他の態様において、本開示の核酸アプタマーを有効成分とする、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに抗ウイルス作用を発揮する医薬組成物に関する。
本開示において、「本開示の核酸アプタマーを有効成分とする」とは、一又は複数の実施形態において、後述する中間体を含有する形態も含まれうる。
【0038】
[標識体]
本開示の核酸アプタマーは、一又は複数の実施形態において、後述するとおり、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの検出に用いることができる。
本開示の核酸アプタマーは、検出のために標識化された態様を含む。
標識は、検出方法によって適宜選択でき、一又は複数の実施形態において、蛍光色素、ジゴキシゲニン、ジゴキシン、ビオチン、放射性物質などが挙げられる。
【0039】
[中間体]
本開示は、一態様において、本開示の核酸アプタマーに、in vivo又はin vitroにおいて変換可能な中間体に関する。
中間体としては、本開示の核酸アプタマーの塩基配列の同一の塩基配列又は当該塩基配列と相補的な塩基配列を含み、in vitroでの遺伝子操作手段又は生体内若しくは細胞内での反応により本開示の核酸アプタマーに変換されうる、一本鎖DNA、二本鎖DNA、及びRNAが挙げられる。これらのDNA及びRNAには、これらの化学修飾体、及びこれらの組み合わせが含まれうる。
本開示は、一態様において、本開示の核酸アプタマーと同一の塩基配列又は当該塩基配列と相補的な塩基配列を含み、かつ本開示の核酸アプタマーに変換可能な、一本鎖DNA、二本鎖DNA又はRNAに関する。
【0040】
[製造方法]
本開示のアプタマーは、一又は複数の実施形態において、塩基配列に基づいて化学合成して製造することができる。DNAアプタマーは、DNA合成機を用いて、dNTPを材料として、末端塩基から化学合成することができる。RNAの合成には、リボース部位の2'水酸基の保護が必要であり、保護基として種々のアミダイトが開発されてきており、2-cyanoethoxymethyl(CEM)基を用いることができる。
本開示のアプタマーは、一又は複数の実施形態において、合成目的のRNAアプタマーに対応する上記DNAを化学合成し、これをPCR増幅し、増幅されたDNAからRNAポリメラーゼによる転写反応によりRNAアプタマーを合成する方法(in vitro転写法)により製造することができる。
本開示のアプタマーは、一又は複数の実施形態において、相補的RNAから、RNA依存RNAポリメラーゼを使用することにより得ることも可能である。
【0041】
[検出方法]
本開示の核酸アプタマーは、一又は複数の実施形態において、後述するとおり、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの検出に用いることができる。
本開示は、一態様において、被検査試料に本開示の核酸アプタマーを有効成分として作用させる工程を含む、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの検出方法(以下、「本開示の検出方法」ともいう)に関する。本開示の検出方法は、一又は複数の実施形態において、本開示の核酸アプタマーを被検査試料に接触させること、及び本開示の核酸アプタマーと前記試料中のA/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスとの結合を測定することを含む。あるいは、本開示の検出方法は、本開示の核酸アプタマーを被検査試料に接触させること、及び本開示の核酸アプタマーが、前記試料中のA/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに結合するかどうかを測定することを含む。
有効成分として作用させるとは、一又は複数の実施形態において、検出の指標として使用すること、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに結合させること、あるいは、検出メカニズムの主要な因子として使用することを含む。
本開示において、ウイルスの検出とは、あるサンプル中に当該ウイルスを検出することを含み、当該ウイルスを含有することが疑われるサンプル中に当該ウイルスが存在すること又は存在しないことを確認することを含む。
サンプル中に当該ウイルスの存在又は不存在が確認できれば、サンプル中に含まれているインフルエンザウイルスの亜型、株、クレード(系統)の少なくとも1つが特定又は否定することができる。
本開示は、一態様において、被検査試料に本開示の核酸アプタマーを有効成分として作用させる工程を含む、インフルエンザウイルスの亜型、株、及びクレードの少なくとも1つを特定又は否定する検査方法に関する。本開示の検査方法は、一又は複数の実施形態において、本開示の核酸アプタマーを被検査試料に接触させること、及び本開示の核酸アプタマーと前記試料中のA/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスとの結合を測定することを含む。あるいは、本開示の検査方法は、本開示の核酸アプタマーを被検査試料に接触させること、及び本開示の核酸アプタマーが、前記試料中のA/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに結合するかどうかを測定することを含む。
【0042】
本開示における被検査試料としては、一又は複数の実施形態において、被験者の鼻腔・咽頭拭い液及び鼻汁等の採取検体等や、それら検体をニワトリ受精卵及び培養細胞等に与えて感染・増殖させることで得られた溶液等が挙げられる。被検査試料としては、一又は複数の実施形態において、A/H1N1pdm09株を含有する試料、又は含有する可能性のある試料が挙げられる。
【0043】
蛍光標識核酸アプタマーを用いる検出方法
本開示の検出方法の一又は複数の実施形態として、蛍光標識化した本開示の核酸アプタマーを用いる方法を説明する。
フルオロセイン、ローダミン、テキサスレッド等の蛍光色素で標識した本開示の核酸アプタマーを、被験試料と接触させて結合反応を行い、結合しなかった核酸アプタマーを除去した後、蛍光あるいはその強度を検出及び/又は測定することにより、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの検出、あるいはその量を測定できる。例えば、標識アプタマーRNAあるいは被験試料のいずれかを固定化した基板を用いて行うことができる。
また、標識アプタマーや被験物質のいずれかを固定化しない方法としては、結合時に蛍光発光する物質を用いて、本開示のアプタマー及び被験試料のいずれかを標識し、結合時の蛍光あるいはその強度を検出、測定することにより行うことも可能である。このような蛍光色素としては、例えば、フルオロセイン、ローダミン、テキサスレッド等が挙げられる。
【0044】
表面プラズモン共鳴法(SPR)を用いる検出方法
本開示の検出方法の一又は複数の実施形態として、蛍光標識をしない本開示の核酸アプタマーを用いる方法を説明する。
SPR法は、センサーチップ上に固定化された分子と、センサーチップ上を通過する分子が結合して生じる微細な質量変化を、反射光の屈折率の変化として検出することができる。本開示のアプタマーRNAあるいは標的物質のいずれかを周知の方法でセンサーチップ上の金薄膜表面に固定化し、これに被験物質あるいはアプタマーRNAを供給することで、これらの分子の結合反応をリアルタイムで測定する。
SPR法を利用した装置として、例えば、GEヘルスケアバイオサイエンス社製BiacoreT100がある。
【0045】
イムノクロマトグラフィー法を用いる検出方法
本開示の検出方法の一又は複数の実施形態として、イムノクロマトグラフィー法を用いる方法を説明する。
一形態として、サンプルを展開する試験片(支持体)の検出部位にウイルスを固定するための捕捉用物質として本開示の核酸アプタマーを使用するイムノクロマトグラフィー法が挙げられる。
一形態として、試験片(支持体)の検出部位に固定されたウイルスに結合して標識するための捕捉用物質として本開示の核酸アプタマーを使用するイムノクロマトグラフィー法が挙げられる。
一形態として、1種類又は2種類の本開示の核酸アプタマーを、サンプルを展開する試験片(支持体)の検出部位にウイルスを固定するための捕捉用物質、及び、試験片(支持体)の検出部位に固定されたウイルスに結合して標識するための捕捉用物質として使用するイムノクロマトグラフィー法が挙げられる。
標識するための捕捉用物質として使用する本開示の核酸アプタマーは、一又は複数の実施形態において、標識化された態様の本開示の核酸アプタマーを使用できる。
【0046】
[診断方法]
本開示の検出方法及び検査方法は、インフルエンザの診断方法に利用できる。
本開示は、その他の態様において、本開示の検出方法又は検査方法により被検査試料中にA/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスが存在するか否かを確認すること、及び、その結果から、前記試料を提供した対象が当該ウイルスに感染しているかどうかを判断することを含む診断方法に関する。
【0047】
[検出剤、診断剤、キット]
本開示は、一態様において、本開示の検出方法、検査方法、又は診断方法に用いるための、本開示の核酸アプタマーを有効成分として含有する、検出剤、診断剤、又はキットに関する。
検出剤は、本開示の検出方法及び検査方法に用いることができる。
診断剤は、本開示の診断方法に用いることができる。診断薬の一又は複数の実施形態として、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対する治療薬のコンパニオン診断薬が挙げられる。
キットは、本開示の検出方法、検査方法、診断方法に用いることができる。
検出剤、診断剤、及びキットの製造に際しては、適宜、周知の薬学的に許容可能な希釈剤、安定化剤、その他の担体などと組み合わせて用いる。これらは、本開示の核酸アプタマーのほか、検出に用いる試薬や試験片が含まれてもよい。
【0048】
本開示は以下の限定されない一又は複数の実施形態に関しうる。
〔1〕 配列番号4から11のいずれかで示される塩基配列、又は当該塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含む核酸からなる、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する核酸アプタマー。
〔2〕 配列番号4から11のいずれかで示される塩基配列、又は当該塩基配列において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含む核酸が構成する二次構造においてA/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対する結合能を有する部分の構造を保持するように短鎖化された塩基配列を含む核酸からなる、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する核酸アプタマー。
〔3〕 核酸がRNAである、〔1〕、〔2〕及び〔12〕から〔16〕のいずれかに記載の核酸アプタマー。
〔4〕 アプタマーを構成するヌクレオチドのリボース部位の少なくとも一箇所が、化学修飾されている、〔1〕から〔3〕及び〔12〕から〔16〕のいずれかに記載の核酸アプタマー。
〔5〕 前記化学修飾が、リボース部位の2'位に対するフルオロ基(2'-F)若しくはメトキシ基(2'-OMe)による修飾、又は水素による置換(2'-deoxy)である、〔4〕に記載の核酸アプタマー。
〔6〕 5'末端及び/又は3'末端が修飾されている、〔1〕から〔5〕及び〔12〕から〔16〕のいずれかに記載の核酸アプタマー。
〔7〕 〔1〕、〔2〕及び〔12〕から〔16〕のいずれかに記載の核酸アプタマーと同一の塩基配列又は当該塩基配列と相補的な塩基配列を含み、かつ〔1〕、〔2〕及び〔12〕から〔16〕のいずれかに記載の核酸アプタマーに変換可能な、一本鎖DNA、二本鎖DNA又はRNA。
〔8〕 〔1〕から〔6〕及び〔12〕から〔16〕のいずれかに記載の核酸アプタマーを有効成分として含有する、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの検出剤。
〔9〕 〔1〕から〔6〕及び〔12〕から〔16〕のいずれかに記載の核酸アプタマーを有効成分として含有する、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルス用診断剤。
〔10〕 被検査試料に〔1〕から〔6〕及び〔12〕から〔16〕のいずれかに記載の核酸アプタマーを有効成分として作用させる工程を含む、A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスの検出方法。
〔11〕 被検査試料に〔1〕から〔6〕及び〔12〕から〔16〕のいずれかに記載の核酸アプタマーを有効成分として作用させる工程を含む、インフルエンザウイルスの亜型、株、及びクレードの少なくとも1つを特定又は否定する検査方法。
〔12〕 A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する核酸アプタマーであって、
前記アプタマーが、配列番号4の5’末端から16番目~43番目で示される塩基配列からなるモチーフを有する、核酸アプタマー。
〔13〕 前記モチーフは、少なくとも1以上のループ構造を形成し、
前記核酸アプタマーは、前記モチーフを構成する塩基配列の5’末端及び3’末端のそれぞれに付加された塩基によって形成されたステム構造をさらに有する、〔12〕記載の核酸アプタマー。
〔14〕 配列番号4の5’末端から1番目~58番目で示される塩基配列と85%以上の同一性を有する、〔12〕又は〔13〕に記載の核酸アプタマー。
〔15〕 A/H1N1pdm09型インフルエンザウイルスに対して結合能を有する核酸アプタマーであって、
前記アプタマーが、配列番号6の5’末端から12番目~24番目で示される塩基配列からなる第1のモチーフと、配列番号6の5’末端から39番目~62番目で示される塩基配列からなる第2のモチーフとを有する、核酸アプタマー。
〔16〕 前記アプタマーは、前記第2のモチーフを含む塩基配列によって形成するループ構造を有し、前記ループ構造を構成する塩基配列の5’末端及び3’末端のそれぞれに付加された塩基によって形成されたステム構造をさらに有する、〔15〕に記載の核酸アプタマー。
〔17〕 配列番号6の5’末端から1番目~77番目で示される塩基配列に対して85%以上の同一性を有する、〔15〕又は〔16〕に記載の核酸アプタマー。
【0049】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例0050】
1.インフルエンザウイルスA(H1N1)pdm09に特異的なアプタマーのin vitroでの選別
(1-1)臨床分離株の取得、樹立
(1-1-1)インフルエンザ感染者からの検体採取
2018/2019シーズン及び2019/2020シーズンにインフルエンザ感染を疑った患者の鼻腔を専用のスワブで拭いとる、若しくは鼻汁を採取し、アークレイ社製インフルエンザ抗原検出キットSPOTCHEM FLORA FluABを用いて感染の有無を判断した。インフルエンザA型陽性であれば患者の鼻汁をキット付属のスワブで採取し、500~1000μlのVTM(Copan社製)もしくは抗生物質-抗真菌薬混合液(ナカライテスク社製、以下抗生剤)を添加したDulbecco's Modified Eagle Medium(Sigma-Aldrich社製)に懸濁した。
(1-1-2)インフルエンザウイルスの分離培養
Madin-Darby Canine Kidney(MDCK)細胞を翌日100%コンフルエントになるように12ウェルプレートに播種し、一晩37℃、5%CO2環境下で培養した。翌日、100%コンフルエントになった細胞の上清を除去し、500μlのPBS(-)で2回洗浄した。インフルエンザ感染者から採取した希釈検体200μlをMDCK細胞に添加し、30分間34℃5%CO2環境下でインキュベーションし、ウイルスを細胞表面に接着させた。抗生剤とアセチルトリプシン2.5μg/ml(Sigma-Aldrich社製)を添加したDMEM培地800μlを添加して34℃5%CO2環境下で5~7日間培養した。
培養日数ごとに培養上清を10~50μl採取し、インフルエンザ抗原検出キットキット(アークレイ社製)で測定し、培養上清中のウイルス量をモニタリング、インフルエンザの型判別を行った。
(1-1-3)臨床分離株の亜型判別、ヘマグルチニン遺伝子の塩基配列解析
ウイルス量が増加した細胞の培養上清を全量回収し、3000rpmで遠心分離し、その上清を回収した(ウイルス溶液)。このうち上清140μlに含まれるインフルエンザウイルスのRNAを、ウイルスRNA抽出キット(Qiagen社製)を用いて抽出した。抽出したRNAに対して、リアルタイムPCR法にて亜型判別を行った。ヘマグルチニン遺伝子の配列解析のため、SuperScript(商品名)III One-Step RT-PCR System with Platinum Taq DNA Polymeraseで抽出したウイルスRNAを逆転写反応し、PCRによるヘマグルチニン遺伝子全長の増幅を行った。アガロース電気泳動により目的サイズの断片が増幅されたことを確認し、この断片の塩基配列解析を行った。リアルタイムPCR、クローニング、シーケンスに用いたプライマー、及びプロトコールは、インフルエンザ診断マニュアル第4版を参考にして実施した。
その結果得られた臨床分離株は、HA遺伝子系統樹のクレード6B.1Aに属するH1N1pdm09型インフルエンザウイルスのウイルス株(以下、[Ark19007(H1N1pdm09)]ともいう)と、クレード3C.2aに属するH3N2型インフルエンザウイルスのウイルス株(以下、[Ark1819002(H3N2)]ともいう)であることが確認された。
【0051】
以下に示す(1-2)から(1-4)のSELEX法による核酸アプタマーの選別は、インフルエンザ診断マニュアル第4版を参考に条件を改変して実施した。
(1-2)RNAランダムプールの作成
以下に示す、中央の30塩基をランダム領域とする一本鎖DNA(ssDNA)のライブラリーを合成してテンプレートとし(配列番号1)、5'末端プライマー(配列番号2)、及び3'末端プライマー(配列番号3)を用いてPCRを行った。
配列番号1:AGTAATACGACTCACTATAGGGAGAATTCCGACCAGAAG-(N)30-CCTTTCCTCTCTCCTTCCTCTTCT
配列番号2:AGTAATACGACTCACTATAGGGAGAATTCCGACCAGAAG
配列番号3:AGAAGAGGAAGGAGAGAGGAAAGG
次いでT7 Ampliscribe kit(Epicentre Technologies社製)を用いて、in vitroでの転写を行い、増幅されたDNAライブラリーをRNAライブラリーに変換した。
【0052】
(1-3)in vitroにおける選別
上記(1-2)で得られたRNAライブラリー(10μg=430≒1.15×1018通りの異なるRNA配列)をBinding buffer(0.01M HEPES,0.15M NaCl,pH7.4)に溶解した。RNAのコンフォメーションの平衡を促進するために、95℃で2分間処理して変性させた後、室温で10分間冷却した。非特異的にターゲットに結合するRNAを除去するため、コンペティターとしてtRNA(E.coliのトータルtRNA(Roche社製))をRNAライブラリー溶液に加えた後、ターゲットとなるウイルス溶液を加えた。各選別サイクルにおいて、最初に、カウンターウイルスとしてArk1819002(H3N2)を使用し、ネガティブセレクションを行った。このウイルスに結合しなかったRNAを回収し、次いでArk19007(H1N1pdm09)を反応させてポジティブセレクションを行った。各選別サイクルで用いたRNA(RNApool)、ウイルスタンパク質(Counter/target)及びtRNA(Competitor)の分子比は表1に示した通りである。
【0053】
RNA、ウイルスタンパク質及びtRNAの混合液100μLを室温で10分間インキュベートした後、"Pop-top"フィルターホルダー(Cytiva社製)に装着した湿潤済みニトロセルロース・アセテート・フィルター(HA WPフィルター,0.45μm,径13.0mm,Millipore)に通し、タンパク質に結合したRNAをフィルター上に捕捉させた。その後、1mlのBinding bufferでフィルターを洗浄した。フィルター上に捕捉されたウイルスタンパク質に結合したRNAはElution buffer(0.01M HEPES,0.15M NaCl,7M Urea,pH7.4)で溶出し、エタノール沈殿法にてRNAを精製した。精製したRNAに対して、プライマー(配列番号3)、0.4mM dNTPs、25U PrimeScript(登録商標)逆転写酵素(TakaraBio社製)、PrimeScript付属緩衝液を用いて、20μlの反応液中で逆転写反応をし、cDNAを得た。dNTPsと逆転写酵素は、変性及びアニーリングステップ(95℃で2分間処理後、室温で5分間インキュベート)の後、加えた。逆転写は42℃で45分間行った。
【0054】
逆転写反応後の混合液20μlに80μlのPCR用混合液(PrimeSTAR(登録商標) Max Premix(TaKaRaBio社製),1μMプライマー)を加え、PCRによる増幅を行った。PCR反応液は95℃で30秒間加熱後、95℃、20秒;54℃、15秒;72℃、15秒のサイクルを、適正サイズの産物のバンドが得られるまでの回数(10-18サイクル)繰り返した。得られたPCR産物はエタノール沈殿により精製し、転写反応に用いた。In vitro転写反応はT7Ampliscribeキットを用いて、37℃、オーバーナイトで行った。転写合成したRNA溶液をDNase I処理し、反応液を8%変性ポリアクリルアミドゲルで分画した。RNAをゲルから抽出し、エタノール沈殿により精製した後に定量し、次回の選別及び増幅サイクルに用いた。
【0055】
(1-4)選別方法及び増幅サイクル
インフルエンザウイルスに対する特異性と高い親和性を有するRNAアプタマーを得るために、表1に示したようにRNAとウイルスタンパク質量は選別サイクルごとに変更した。非特異的に結合するRNAの濃縮を避けるために、第2、第4、第6、第8、第9及び第10の各選別サイクルでは、フィルターではなく96穴タイタープレート(Thermo Fisher社製)を使用した。プレートでの選別のために、最初にpH8.0のホウ酸緩衝液1mlあたり上記ウイルスタンパク質100μgを各ウェルに固定化し、BSA(1% stock solution)でブロックした。次いで、各ウェルを洗浄し、選別に使用した。
前のサイクルで得たRNAプールを、Binding buffer中で95℃、2分間変性させた。続いて、室温で10分間冷却した後、tRNAを加え、ウイルスタンパク質が固定化されたウェルに添加した。10分間インキュベートした後、Binding buffer300μl(第2及び第3回目の選別サイクルでは4回、第6及び第8回目の選別サイクルでは6回、第9及びび第10回目の選別サイクルでは8回)で洗浄し、結合していないRNAを除いた。その後、ウイルスタンパク質結合RNAを、加熱したElution buffer(0.01M HEPES,0.15M NaCl,7M Urea,pH7.4)で回収し、エタノールで沈殿精製後、逆転写、PCR及びin vitroにおける転写により再生した。
【0056】
【0057】
(1-5)RNAの濃縮評価
高親和性のアプタマーが濃縮されていく進行状況とその特異性を評価するため、第0、第1、第5及び第10回目の選別サイクルにおけるRNAプールの結合活性をフィルター結合定量法(RT-qPCR法)で解析した。各選別サイクルのRNAプールを準備しArk19007(H1N1pdm09)とArk1819002(H3N2)と溶液中で結合させた。結合反応は、モル濃度で10倍過剰の大腸菌tRNAを非特異的競争阻害剤として加え、50nMのRNAと1.58μgのウイルスタンパク質(ヘマグルチニン分子量換算で500nM)を混合して行った。反応液をニトロセルロース・アセテート・フィルターに通し、ウイルスに結合したRNAをフィルター上に捕捉させて、2mlのBinding bufferで洗浄した。フィルター上に捕捉されたウイルスタンパク質結合RNAは200μlのElution bufferに浸して加熱して溶出させ、エタノール沈殿法でRNAを回収した。RNA全量を20μM プライマー(配列番号3),0.4mM dNTPs,25U PrimeScript逆転写酵素(TakaraBio社製)、Primescript付属緩衝液を含む20μlの反応液中で逆転写した。リアルタイムPCR用試薬PowerSYBR Green Master Mix(Thermo fisher社製)を10μl、5μMフォワードプライマー 1μl、5μMリバースプライマー 1μl、cDNA9μlを混ぜて逆転写産物を鋳型にqPCRを実施した。結合活性は、第0回目の選別サイクルにおけるRNAプールのウイルスへの結合量を1とした場合の、各選別サイクルにおけるRNAプールのRNA結合量の比で表した(
図1)。第10回目の選別サイクル後のフィルターに捕捉されたRNAの割合は、Ark19007(H1N1pdm09)に結合するRNAは7.0倍となり、Ark1819002(H3N2)に結合するRNAは2.0倍となった。
【0058】
(1-6)アプタマーの分析
個別のアプタマーを得るために、第10回目の選別サイクルで得たPCR産物をTAクローニング・ベクター(Invitrogen社製)に導入し、大腸菌にトランスフォームした。プラスミド精製キット(Promega社製)で個々のプラスミドDNAを単離し、DNA塩基配列を解読し、そのDNA塩基配列に相当するRNA塩基配列を求めた。配列が解読されたRNAのクローンは全部で10種類の配列に分類された。
【0059】
P30-10-h1-1:GGGAGAAUUCCGACCAGAAGUAGUAGCCCGGGUGUGGGUUUAUGGUCGCCCCUUUCCUCUCUCCUUCCUCUUCU(配列番号4)
P30-10-h1-2:GGGAGAAUUCCGACCAGAAGGCGCGAUUGUGGUUGUGGUGGGUGGGCGCGCCUUUCCUCUCUCCUUCCUCUUCU(配列番号5)
P30-10-h1-3:GGGAGAAUUCCGACCAGAAGUGUCGAUGUGUAUCUUAUUUGUUUGUUUGUUUGUUUGUUUGUCCUUUCCUCUCUCCUUCCUCUUCU(配列番号6)
P30-10-h1-4:GGGAGAAUUCCGACCAGAAGGCUAUGGGUUGAGUUCUGUAUGGGUGGGUGCCUUUCCUCUCUCCUUCCUCUUCU(配列番号7)
P30-10-h1-5:GGGAGAAUUCCGACCAGAAGUCCCCUCCCUCGUAUCGUAUGUGCGUUUGCCCUUUCCUCUCUCCUUCCUCUUCU(配列番号8)
P30-10-h1-6:GGGAGAAUUCCGACCAGAAGUAGUAGCCCGGGUGUGGGUUUAUGGCCGCCCCUUUCCUCUCUCCUUCCUCUUCU(配列番号9)
P30-10-h1-7:GGGAGAAUUCCGACCAGAAGUAGUAGCCCGGGUGUGGGUUUAUGGUCGUCCCUUUCCUCUCUCCUUCCUCUUCU(配列番号10)
P30-10-h1-8:GGGAGAAUUCCGACCAGAAGGCGCGAUUGUGUUGUGGUGGGUGGGCGCGCCUUUCCUCUCUCCUUCCUCUUCU(配列番号11)
P30-10-h1-9:GGGAGAAUUCCGACCAGAAGGAACAUUUGUGGGUGGUGUGGGUGGCUGUUCCUUUCCUCUCUCCUUCCUCUUCU(配列番号12)
P30-10-h1-10:GGGAGAAUUCCGACCAGAAGGGUCGGUGUAUAAUUGUAGUUUUGUUGUUGUUGUUGUUGUUGCCUUUCCUCUCUCCUUCCUCUUCU(配列番号13)
【0060】
Ark19007(H1N1pdm09)をターゲットとして選別されたRNAの塩基配列のうち、アプタマーP30-10-h1-1(配列番号4)は、全体の63.5%を占め、また、アプタマーP30-10-h1-2(配列番号5)は、全体の17.3%を占めていた。P30-10-h1-3(配列番号6)、P30-10-h1-4(配列番号7)はそれぞれ全体の3.8%、P30-10-h1-5~P30-10-h1-10(配列番号8~13)はそれぞれ全体の1.9%を占めていた。さらに、P30-10-h1-6及びP30-10-h1-7は、P30-10-h1-1と比べて1塩基のみ異なる配列であった。二次構造解析ソフト「The mfold Web Server」(http://unafold.rna.albany.edu/?q=mfold/RNA-Folding-Form上で解析可能)を用いて得られたアプタマーの二次構造予測を行った。二次構造は各アプタマーRNAにつき複数の構造が予測される場合があるが、それぞれのアプタマーRNAにつき最も安定と予測された構造を示した(
図2及び3)。
【0061】
2.フィルター結合定量法(RT-qPCR法)によるアプタマーと各ウイルスタンパク質との親和性解析
上記1.で選別された10個のアプタマーとインフルエンザウイルス臨床分離株Ark19007(H1N1pdm09)との結合効率をフィルター結合定量法(前述1-5)によって求めた(比較例1,2、及び実験例1~10)。その結果を表2及び
図4に示す。
比較例として、A/California/07/2009(H1N1)pdm09インフルエンザウイルスのヘマグルチニンに特異的な公知のアプタマーであるD-12(配列番号14)及びD-26(配列番号15)を用いた(特開2012-100636)。なお、D-26は、ピリミジン塩基の2'位のOHをFに置換したD26(2'-F)として用いた。
アプタマーD12:GGAGCUCAGCCUUCACUGCCAAAGUGCGAGGCAGUGUGGUGCUGUCCUACGAGUUCUAAAGUUCGUUAGGAAGGCAGCUCAACAUGUUUAACAGGCACCACCGUCGGAUCC(配列番号14)
アプタマーD26:GGAGCUCAGCCUUCACUGCCAAAAAGUUAGGCCAGCAAAUUGCGAGCUGAUCCGGUGACUGGCUACAGGAGGCCUUGUCCACGGCCGUAUUGGCACCACCGUCGGAUCC(配列番号15)
【0062】
アプタマーP30-10-h1-1、P30-10-h1-2、P30-10-h1-3、P30-10-h1-4、P30-10-h1-5、P30-10-h1-6、P30-10-h1-7、及びP30-10-h1-8(実験例1~8)は、Ark1819002(H3N2)に比べてArk19007(H1N1pdm09)に対する結合量が多かった。P30-10-h1-1、P30-10-h1-2、P30-10-h1-3、P30-10-h1-4、P30-10-h1-5、P30-10-h1-6、P30-10-h1-7及びP30-10-h1-8は既存のアプタマーD12及びD26(2′-F)と比較して強い結合力を持つアプタマーであることが示された。Ark19007(H1N1pdm09)、Ark1819002(H3N2)に対するアプタマーRNA結合量は表2に示す通りであった。
【0063】
【0064】
<変異型アプタマーの結合評価>
アプタマーの標的物質への結合に必要な配列を同定するため、
図6に示す通り、一部配列を欠損、挿入もしくは変異させた変異型アプタマーを作成し、Ark19007(H1N1pdm09)との結合性を評価した。
具体的には、SELEX法により取得したアプタマー(P30-10-h1-1(配列番号4)及びP30-10-h1-3(配列番号6))に対してビオチン修飾したものを用い、このビオチン修飾アプタマーのウイルスタンパク質へ結合が、未標識の変異型アプタマーを添加することによってどの程度阻害されるかを測定することで、変異型アプタマーのウイルスタンパク質への結合能を評価した。
【0065】
図2に記載したように予測されるRNAアプタマーの二次構造に基づくと、ウイルスタンパク質への結合に必要な領域(モチーフ)はステム・ループ構造の配列であると推定される。
P30-10-h1-1において、まず初めに、
図7に記載の領域を欠損させた4つの変異型アプタマー(配列番号16~19)を作成し、これらのアプタマー結合阻害活性を評価した。
具体的には、P30-10-h1-1_D1(配列番号16)は、P30-10-h1-1(配列番号4)の3’末端から16塩基を欠損させた。P30-10-h1-1_D2(配列番号17)は、P30-10-h1-1(配列番号4)の5’末端から7~10番目の塩基及び49~52番目の塩基を欠損させた。P30-10-h1-1_D3(配列番号18)は、P30-10-h1-1(配列番号4)の5’末端から18~24番目の塩基を欠損させた。P30-10-h1-1_D4(配列番号19)は、P30-10-h1-1(配列番号4)の5’末端から30~35番目の塩基を欠損させた。
その結果、P30-10-h1-1_D3(配列番号18)及びP30-10-h1-1_D4(配列番号19)の変異型アプタマーはビオチン修飾アプタマーの結合阻害活性を示さなかった。このため、これらの変異型アプタマーで欠損させた部位がウイルスタンパク質への結合に必要な領域(モチーフ)であると推定された(
図8)。つまり、配列番号4の5’末端から17番目~24番目及び5’末端から30番目~35番目で示される塩基配列は、ウイルスタンパク質への結合に必要となりうるコア配列(モチーフ)であると予想される。
【0066】
これらは二つのループ構造を指していることから、
図9の通り、二つのループ構造をつなぐ領域の塩基に変異を加えた変異型アプタマーを6種作製した(配列番号20~25)。作製した変異型アプタマーにおいて、del1及びdel2は欠損型(
図9の四角枠内の塩基を欠損)、in1及びin2は挿入型(
図9の矢印箇所に挿入)、mt1及びmt2は点変異型(
図9の四角枠内の塩基を置換)の変異型アプタマーである。具体的には、P30-10-h1-1_del1(配列番号20)は、P30-10-h1-1(配列番号4)の5’末端から27番目の塩基(C)を欠損させ、38番目の塩基(G)を欠損させた。P30-10-h1-1_del2(配列番号21)は、P30-10-h1-1(配列番号4)の5’末端から25及び26番目の塩基(AG)を欠損させ、38及び39番目の塩基(GU)を欠損させた。P30-10-h1-1_in1(配列番号22)は、P30-10-h1-1(配列番号4)の5’末端から27番目の塩基(C)と28番目の塩基(C)との間に1塩基(A)を挿入し、37番目の塩基(G)と38番目の塩基(G)との間に1塩基(A)を挿入した。P30-10-h1-1_in2(配列番号23)は、P30-10-h1-1(配列番号4)の5’末端から27番目の塩基(C)と28番目の塩基(C)との間に2塩基(CC)を挿入し、37番目の塩基(G)と38番目の塩基(G)との間に2塩基(GG)を挿入した。P30-10-h1-1_mt1(配列番号24)は、P30-10-h1-1(配列番号4)の5’末端から39番目の塩基(U)をCに変異させた。P30-10-h1-1_mt2(配列番号25)は、P30-10-h1-1(配列番号4)の5’末端から27番目の塩基(C)をAに変異させた。
これらの変異型アプタマーのH1N1pdm09型ウイルスタンパク質に対する結合阻害活性を評価した結果、いずれの変異型アプタマーにおいても結合阻害活性を示さなかった(
図10)。したがって、二つのループ構造を含むステム・ループ構造(配列番号4の5’末端から16番目~43番目)がウイルスタンパク質への結合に重要な領域(モチーフ)であることが示された。
【0067】
P30-10-h1-3(配列番号6)についても同様に、
図11の通り3種類の変異型アプタマー(配列番号26~28)を作成し、H1N1pdm09型ウイルスタンパク質に対する結合阻害活性を評価した。P30-10-h1-3_compl1(配列番号26)は、P30-10-h1-3(配列番号6)の5’末端から31番目~35番目の塩基を変異させた。具体的には、31番目の塩基(U)をAに、32番目の塩基(A)をGに、33番目の塩基(U)をAに、34番目の塩基(C)をUに、35番目の塩基(U)をAに変異させた。P30-10-h1-3_compl2(配列番号27)は、P30-10-h1-3(配列番号6)の5’末端から15番目~21番目の塩基を変異させた。具体的には、15番目の塩基(C)をAに、16番目の塩基(A)をCに、17番目の塩基(G)をUに、18番目の塩基(A)をUに、19番目の塩基(A)をCに、20番目の塩基(G)をUに、21番目の塩基(U)をGに変異させた。P30-10-h1-3_del1(配列番号28)は、P30-10-h1-3(配列番号6)の5’末端から39~62番目の24塩基を欠失させた。
その結果、P30-10-h1-3_compl2及びP30-10-h1-3_del1の結合阻害活性が低下した(
図12)。したがって、これらの変異させた領域がウイルスタンパク質への結合に重要であることが示唆された。つまり、配列番号6の5’末端から12番目~24番目で示される塩基配列及び配列番号6の5’末端から39番目~62番目で示される塩基配列は、ウイルスタンパク質への結合に必要となりうるコア配列(モチーフ)であるか、一部にコア配列を含むと予想される。