(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074112
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】鉛フリーCu-Zn基合金
(51)【国際特許分類】
C22C 9/04 20060101AFI20220510BHJP
【FI】
C22C9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021177365
(22)【出願日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】20204628
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】510055839
【氏名又は名称】オットー フックス カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リーツ, ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】ミュンヒ, ティレマン
(72)【発明者】
【氏名】プレット, トーマス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】CuZn42合金と比較して改善された機械加工特性を有する鉛フリーCu-Zn合金を提供する。
【解決手段】鉛フリーCu-Zn合金であって、(データは重量%)
Cu:57~59.3%、Fe:0.12~0.17%(第1の代替形態)又はFe:最大0.06%及びMn:0.3~0.7%(第2の代替形態)、P:0.03%~0.1%、Sn:最大1.0%、Pb:最大0.1%、
残部が、元素当たり0.05%許容される不可避の不純物とともにZnで構成され、不可避の不純物の合計が0.15%を超えず、
以下の元素が、記載された含有量まで許容され、Ni:最大0.03%、Al:最大0.05%Si:最大0.01%、Cr:最大0.01%、からなる、鉛フリーCu-Zn合金である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuZn42合金と比較して改善された機械加工特性を有する鉛フリーCu-Zn合金であって、
-Cu:57~59.3%
-Fe:0.12~0.17%(第1の代替形態)
又は
Fe:最大0.06%及びMn:0.3~0.7%(第2の代替形態)
-P:0.03%~0.1%
-Sn:最大1.0%、
-Pb:最大0.1%、
-残部が、元素当たり0.05%許容される、不可避の不純物とともにZnで構成され、不可避の不純物の合計が0.15%を超えず、
-以下の元素が、記載された含有量許容され、
Ni:最大0.03%、
Al:最大0.05%
Si:最大0.01%、
Cr:最大0.01%、
からなる(データは重量%で提供される)、鉛フリーCu-Zn合金。
【請求項2】
第1の代替形態による合金におけるFe含有量が、0.13~0.15%であることを特徴とする、請求項1に記載のCu-Zn合金。
【請求項3】
第2の代替形態による合金におけるFe含有量が0.04%以下であり、Mn含有量が0.35~0.55%であることを特徴とする、請求項1に記載のCu-Zn合金。
【請求項4】
P含有量が、0.05~0.08%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のCu-Zn合金。
【請求項5】
合金が、0.8~1.0%のSn含有量を有し、そのP含有量が最大0.04%であることを特徴とする、第1の代替形態による請求項1又は請求項2に記載のCu-Zn合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、CuZn42合金と比較して改善された機械加工特性を有する鉛フリーCu-Zn合金である。
【背景技術】
【0002】
合金の構造に関与する元素の数が少ないため、CuZn42合金は、57.0~59.0重量%のCu含有量を有する非常に単純な構造の黄銅合金である。原則として、この合金に他の元素は関与しない。Pbは最大で0.2重量%、Snは最大0.03重量%、Feは最大0.3重量%、Niは最大0.02重量%及びAlは最大0.05重量%許容され、不可避の不純物を伴う。この合金は、非常に容易に熱間加工することができ、とりわけ半製品としての異形材の製造に使用される鉛フリー合金である。この合金は、従来使用されている合金CuZn39Pb3の鉛フリー変形例である。CuZn39Pb3合金の場合、元素鉛は主に機械加工性を向上させるために使用される。CuZn42合金は鉛フリーであるが、そのα/βミクロ組織のために、旋削部品の製造などの機械加工にも使用される。しかしながら、この合金から製造された加工物の機械加工性には限界がある。これは、合金に起因する機械加工の欠点を、工作機械の適切な加工パラメータによって補償することができないことを意味する。これは、例えば、成形ツールを用いた機械加工工程に適用され、加工パラメータの制限は、それぞれの自由度を許容しない。そのような場合、そのような合金の機械加工性は不十分である。
【0003】
この合金から製造された加工物に対する特定の機械加工作業のための機械加工性が許容可能な場合であっても、所望の機械加工性を達成するために、快削合金に従来使用されているPb及びBi元素を使用する必要なく機械加工性を改善することができれば望ましいのは、これらが健康に有害であると分類されるためである。
【0004】
改善された機械加工特性を有するCu-Zn合金は、欧州特許第3690069号明細書から知られている。この合金は、58~70重量%のCu、0.5~2.0重量%のSn、0.1~2.0重量%のSiを含有し、残部は亜鉛及び不可避の不純物であり、元素Sn及びSiの合計はそれぞれ1.0重量%及び3.0重量%である。元素Pb及びBiを使用することなく改善された機械加工性は、Sn及びSiの含有量によってこの合金にもたらされる。特定の割合では、これらの元素はε相の形成を担い、ε相は合金中にミクロ組織として分布し、したがって切りくず折断を促進する。合金中に含有されるSiはまた、特に、合金中に許容される元素Al及びNi並びに/又はMnとともにケイ化物の形成をもたらし、このことはリサイクル材料の通常の使用のために合金中に規則的に見出される。この既知の合金中のSi含有量は2.0重量%であり得る。マトリックス中に含有されるケイ化物は、いくつかの用途、特に耐摩耗性要件が存在する場合に有益であるが、ケイ化物は、工具摩耗の増加による機械加工性において顕著であり得る。
【0005】
特開平03253527号公報は、電気ヒューズを製造するためのCu-Zn合金を開示している。複数の合金がこの先行技術に開示されている。開示された合金のうちの1つは、25~40重量%のZn、0.01~0.1重量%のP、0.02~0.50重量%のFeを含み、残部は不可避の不純物とともにCuである。代替的実施形態によれば、元素Feは、それぞれ等しい割合で元素Co、Ni、又はMnで置き換えられる。したがって、この既知の合金は、59.4~75重量%のCu含有量を有することができる。この既知の合金のFe変形例について所与の実施形態は、0.03~0.12重量%のFe含有量を有する。不可避の不純物を除いて、他の元素は許容されない。これは、Co、Ni及びMnの変形例にも当てはまる。電気ヒューズを製造するための材料としての上述の適合性に加えて、この材料はまた、良好な強度及びばね特性を示す。
【0006】
特開昭59153856号公報は、熱交換器を製造するための改善された耐食性を有するCu-Zn合金を開示している。この合金は、25~40重量%のZn、0.005~0.070重量%のP、0.05~1.0重量%のSn、合計0.005~1.3重量%から0.005~1.0重量%のFe並びに/又は0.005~0.3重量%のPbの組成を有し、残部は銅及び不可避の不純物である。この既知のCu-Zn合金はまた、広範囲のCu含有量を有し、すなわち57.9~74.9である。この予め知られた合金の粒径は、15μm以下に制御される。P含有量は、所望の特性を得るために提供される。表1の合金12は、63.8重量%のCu、0.1重量%のFe、0.07重量%のP及び1.0重量%のSnの組成を有し、残部はZnである。Mnは、この既知の合金において承認された合金化元素ではない。
【発明の概要】
【0007】
したがって、最初に説明したこの先行技術に基づいて、本発明は、CuZn42合金と比較して改善された機械加工特性を有する鉛フリーCu-Zn合金を提案する目的に基づいており、この提案された合金は単純な構造を有し、所望の良好な機械加工性を達成するために特別なあらゆる製造工程を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】合金CuZn39Pb3(左)及び本発明による合金1(右)の切りくず折断の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明によれば、この目的は、CuZn42合金と比較して改善された機械加工特性を有する鉛フリーCu-Zn合金であって、
-Cu:57~59.3%
-Fe:0.12~0.17%(第1の代替形態)
又は
Fe:最大0.06%及びMn:0.3~0.7%(第2の代替形態)
-P:0.03%~0.1%
-Sn:最大1.0%、
-Pb:最大0.1%、
-残部は、元素当たり0.05%許容される不可避の不純物とともにZnで構成され、不可避の不純物の合計は0.15%を超えず、
-以下の元素は、記載された含有量許容され、
Ni:最大0.03%、
Al:最大0.05%
Si:最大0.01%、
Cr:最大0.01%、
からなる(データは重量%で提供される)、鉛フリーCu-Zn合金によって達成される。
【0010】
不可避の不純物は元素当たり0.05重量%で許容され、不可避の不純物の合計は0.15重量%を超えない。
【0011】
特許請求される発明の意味における合金は、そのPb含有量が0.1重量%を超えない場合、鉛フリーであるとみなされる。
【0012】
この合金は、リン化鉄又はリン化マンガンが、第1の代替形態又は第2の代替形態の合金の設計に応じて形成されるように、Pを含有する。上記の割合でリンを添加することは、リンが粒子低減効果を有するため、鋳造に正の効果を有する。これは、所望の改善された機械加工性に正の効果を有する。これに関連して、合金から製造された加工物は、プレス後の水焼入れなどの追加の手段を必要とせずに微細な粒子を有することが重要である。特許請求される合金の組成により、押出半製品は既に十分に微細な粒子を有する。また、マトリックスに含有される微細に分散したリン化物は、切りくず折断効果を有する。この合金から製造した加工物の機械加工中に生成された切りくずは、それらの切りくずの形状(崩れかけた切りくず又は非常に短い螺旋形の切りくず)により、CuZn42合金の機械加工中に生成されたものよりも著しく良好であり、鉛含有機械加工CuZn39Pb3合金の機械加工中に生成されたものに非常に近い。リン化物を形成するためのリンの添加にもかかわらず、この合金から製造された製品の強度特性は比較例のCuZn42合金の強度特性に相当することが不可欠である。改善された切りくず折断に加えて、機械加工によって得られる表面仕上げは、鉛含有先行合金CuZn39Pb3の機械加工によって得られる表面仕上げに匹敵する。これは驚くべきことが観察され、なぜなら、マトリックス中に分布するリン化物のために、したがってCuZn42及びCuZn39Pb3合金と比較してより不均一なマトリックスのために、実際にはより低い表面仕上げが予想されたためである。
【0013】
同様に、リン化物は、特に高温で、ミクロ組織の再結晶阻害剤として作用することは期待できなかった。
【0014】
したがって、P含有量は0.1重量%に制限される。より高いP含有量では、リン化物の粒粗大化が生じる。これは、機械加工と同様に研磨又はコーティングなどの特定の表面処理にとって不利である。より粗いリン化物は、合金から製造された加工物の耐摩耗性を改善するが、これは上記の他の欠点を補うものではない。P含有量が0.03重量%未満である場合、上記の有利な特性は不十分にしか生じないか、又は全く生じない。
【0015】
元素Fe及びMnの含有量は、記載された含有量に限定される。より多くのFe又はMnが使用される場合、これは粒子の粗大化をもたらす。言及した限界未満では、所望のリン化物は、機械加工改善特性を達成するのに十分な程度まで発達しない。
【0016】
Snは合金化に関与し得、機械加工性を支持する。Snはまた、溶融物の形成に関して有利である。Pの関与は溶融物を希釈する。Snはこれに対抗する。また、溶融物中のSnは脱酸効果を有することができる。Snは、混晶における溶解限度未満で合金中に取り込まれる。そうでない場合、Sn含有γ相が形成され、それにより合金製品に脆化作用を及ぼすおそれがある。Snが合金化元素として使用される場合、改善された機械加工性は、一方では上記のリン化物の効果に起因し、他方ではSnの作用機序に起因する。両方の作用機序は互いに補完する。Snの関与はまた、Sn酸化物を形成することによって乾式機械加工に役立ち、酸化物が工具表面に保護的に移動するので工具摩耗を低減する。特に単純な合金構造が望まれる場合、Snに基づく機械加工に有利な作用原理を排除することができる。そのような実施形態では、Snは合金化元素として使用されず、最大0.1重量%の割合でのみ許容される。
【0017】
許容される付随元素は、本発明による合金から製造された加工物の改善された機械加工性に悪影響を及ぼさず、少なくとも有意ではない。したがって、リサイクルされた材料を使用して、不利益を受けることなく、この合金を製造することができる。この目的のために、好ましくはクローズドサイクルからのリサイクル材料が使用される、すなわち、単一タイプのリサイクル材料が使用される。例えば、その組成に関して1つ以上の元素が存在しないか、又は適切な割合で存在しないリサイクル材料が使用される場合、これらの元素をリサイクル材料に添加することができる。これは特に、本発明に必須であり、従来のリサイクル材料を使用する場合には一般に存在しない元素Pに適用される。
【0018】
本発明による合金の亜鉛当量は、合金生成物がα/β構造を有するように、約39~42である。亜鉛当量は、典型的には、CuZn42合金と比較してわずかに低く、その結果、比較例の合金と比較してα相の形成が促進される。これは、この合金から製造された製品(加工物)の冷間成形性に正の効果を有する。これは、Fe並びに/又はFe及びMn元素が、冷間成形性が改善される程度にのみ亜鉛当量を減少させたが、CuZn42合金から知られている良好な熱間成形性が依然として保持され、さらに、既に上述したリン化物が形成されるため、興味深い。
【0019】
本発明による合金の特別な特徴は、改善された機械加工性が合金の特別な組成のみに基づいており、特定の製造又は加工工程などの追加の手段が必要とされないことである。したがって、合金から製造される半製品は、通常の製造工程を使用して製造することができる。これはまた、半完成品を加工して最終製品を製造するために、特定の強度及び/又は構造特性を設定するためのそれぞれの処理工程を実施することができるという利点を有し、したがって、これらは半製品を製造するための製造工程ではまだ消費されていない。これに関連して、改善された機械加工特性は追加の加工工程なしで達成されるが、所望する場合、切りくず折断、したがって機械加工性を改善するための冷間成形などの特別な処理工程を介して押出成形後に再び増加させることができることは言うまでもない。
【0020】
試験
以下に示す合金(データは重量%で提供)から、
試験片は、鋳造及びその後の押出によって、それぞれが40mmの直径を有し、押出後に延伸された棒材に調製されている。試験片に対して機械加工試験を行った。合金1~3は、本発明による合金である。
【0021】
機械加工試験は、1mmの切削深さ、0.1mmの送り量により、200m/分の切削速度で外部縦旋削加工により、すべての試験片について均一に行った。
【0022】
試験の結果を0~100の指数の形で評価した。このシステムでは、比較合金CuZn42は、様々な切削指数の指数50を得る。指数が高いほど、結果は良好である。
【0023】
切りくずの形状、切削力、工具摩耗、及び切削から生じる表面品質を調べた。
【0024】
【0025】
本発明による合金を用いて得られる切りくずの形状を説明するために、
図1を参照する。
図1は、所望の切りくず折断形状を示す比較例の合金CuZn39Pb3(左)及び本発明による合金1(右)の切りくず折断の比較を示す。この比較は、本発明による合金が、鉛フリーの比較例の合金CuZn42と比較して大幅に改善された切りくずの形状を達成することを示す。機械加工された合金2及び3の切りくずの形状は、
図1に示す合金1のものに相当する。
【0026】
本発明による合金を切削するためには、幾分高い切削力が必要である。この理由は、合金中に含有されるリン化物であるが、これは、しかしながら、より良好な切りくず折断、したがって全体的な機械加工性の改善にも関与する。機械加工性に関して、切りくずの形状は関連する元素であり、この点に関して、比較合金と比較して幾分高い切削力を受け入れることができる。
【0027】
本発明による合金は、CuZn42合金と比較して改善された工具摩耗指数を有することが重要である。これは予想外であった。
【0028】
本発明による合金の表面仕上げは、2つの比較例の合金で達成される表面仕上げに実質的に一致するので、この点において欠点、少なくとも注目に値する欠点を受け入れる必要はない。
本発明による合金の機械的強度値を以下の表に示す。
【0029】
プレス状態の試験片から得られた、本発明による合金から製造された半製品のこれらの機械的特性は、比較例の合金と比較して著しく改善された引張強度及びより高い硬度を有することを明らかにする。破断伸びは、比較例の合金のものと同様である。降伏強度についても同様であり、しかしながら、比較例の合金について決定された降伏強度よりも合金3について著しく高い。したがって、改善された機械加工性にもかかわらず、本発明による合金の機械的強度値に関していかなる欠点も受け入れる必要はない。その代わりに、これらはさらに改善される。
【0030】
プレス中に既に確立されている正の構造特性のために、合金から製造された半製品は、多種多様な用途に使用することができる。
【外国語明細書】