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特開2022-74122やる気状態判定方法、やる気状態判定装置、人工知能装置及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074122
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】やる気状態判定方法、やる気状態判定装置、人工知能装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/16 20060101AFI20220510BHJP
   A61B 5/374 20210101ALI20220510BHJP
【FI】
A61B5/16 120
A61B5/374
【審査請求】未請求
【請求項の数】32
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177616
(22)【出願日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2020182050
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】513283707
【氏名又は名称】株式会社電通サイエンスジャム
(71)【出願人】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】満倉 靖恵
(72)【発明者】
【氏名】太田 英作
(72)【発明者】
【氏名】関根 崇泰
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 晋
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕一
【テーマコード(参考)】
4C038
4C127
【Fターム(参考)】
4C038PP03
4C038PS03
4C127AA03
4C127CC01
4C127GG11
4C127GG15
(57)【要約】
【課題】アンケートを使用することなく被験者のやる気状態を判定できるやる気状態判定方法、やる気状態判定装置、人工知能装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】パワー取得部6が、被験者の脳波から予め定めた利用周波数f1,f2,f3のパワーP1(f1)~P1(f3),P2(f1)~P2(f3),P3(f1)~P3(f3),P4(f1)~P4(f3)を取得するようにした。そして、人工知能装置4が、利用周波数f1~f3のパワーP1(f1) ~P1(f3)等に対するやる気状態Wa,Wnを出力するように学習済みであり、パワー取得部6で取得された利用周波数f1~f3のパワーP1(f1) ~P1(f3)等が入力されて、被験者のやる気状態Wa,Wnを出力するようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の脳波を取得する第1ステップと、
前記脳波から予め定めた利用周波数のパワーを取得する第2ステップと、
前記利用周波数のパワーに対するやる気状態を出力するように学習済みの人工知能装置に前記利用周波数のパワーを入力して、被験者のやる気状態を判定する第3ステップと、を備えるやる気状態判定方法。
【請求項2】
前記利用周波数は、複数存在し、
前記第2ステップは、前記脳波から複数の前記利用周波数それぞれのパワーを取得し、
前記第3ステップは、複数の前記利用周波数のパワーに対するやる気状態を出力するように学習済みの前記人工知能装置に複数の前記利用周波数のパワーを入力して、被験者のやる気状態を判定する請求項1に記載のやる気状態判定方法。
【請求項3】
前記利用周波数は、やる気状態との相関が高い周波数である請求項1又は2に記載のやる気状態判定方法。
【請求項4】
前記利用周波数は、複数存在し、
複数の前記利用周波数は、デルタ帯域、シータ帯域、アルファ帯域及びベータ帯域の各帯域の周波数を1つ以上含む請求項3に記載のやる気状態判定方法。
【請求項5】
前記第1ステップでは、所定期間の前記脳波を取得し、
前記第2ステップでは、前記所定期間内に設定された複数の区間のそれぞれについて、前記脳波から前記利用周波数のパワーを取得し、
前記第3ステップでは、前記複数の区間のそれぞれについての前記利用周波数のパワーを前記人工知能装置に入力する請求項1乃至4のいずれか1項に記載のやる気状態判定方法。
【請求項6】
前記複数の区間のうちの1つの区間の一部と、隣接する別の区間の一部と、は互いに重複している請求項5に記載のやる気状態判定方法。
【請求項7】
前記やる気状態は、被験者のやる気の度合いを示す数値である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のやる気状態判定方法。
【請求項8】
前記やる気の度合いを示す数値は、被験者のアパシースケールと相関のある指標値である請求項7に記載のやる気状態判定方法。
【請求項9】
前記指標値は、被験者のアパシースケールが大きい可能性が高いほど大きな値となる第1の指標値、及び被験者のアパシースケールが小さい可能性が高いほど大きな値となる第2の指標値の少なくとも一方を含む請求項8に記載のやる気状態判定方法。
【請求項10】
前記第1の指標値及び前記第2の指標値の少なくとも一方に基づいて、被験者にやる気があるかないかを判定する第4ステップを備える請求項9に記載のやる気状態判定方法。
【請求項11】
前記第1ステップでは、1つの電極を用いて得られた脳波データを前記脳波として取得する請求項1乃至10のいずれか1項に記載のやる気状態判定方法。
【請求項12】
前記第1ステップでは、複数の電極を用いてノイズを除去した脳波データを前記脳波として取得する請求項1乃至10のいずれか1項に記載のやる気状態判定方法。
【請求項13】
前記第1ステップでは、1以上の電極から得られた脳波データからノイズを含む区間の脳波データが除去された脳波データそれぞれを前記脳波として取得する請求項1乃至10のいずれか1項に記載のやる気状態判定方法。
【請求項14】
前記第2ステップでは、前記脳波を周波数ごとのパワーに変換し、変換したパワーのうちから前記利用周波数のパワーを取得する請求項1乃至13のいずれか1項に記載のやる気状態判定方法。
【請求項15】
前記脳波は、安静時脳波である請求項1乃至14のいずれか1項に記載のやる気状態判定方法。
【請求項16】
被験者の脳波から予め定めた利用周波数のパワーを取得するパワー取得部と、
前記利用周波数のパワーに対するやる気状態を出力するように学習済みであり、前記パワー取得部で取得された前記利用周波数のパワーが入力されて、被験者のやる気状態を出力する人工知能装置と、を備えるやる気状態判定装置。
【請求項17】
前記利用周波数は、複数存在し、
前記パワー取得部は、前記脳波から複数の前記利用周波数それぞれのパワーを取得し、
前記人工知能装置は、複数の前記利用周波数のパワーに対するやる気状態を出力するように学習済みであり、前記パワー取得部で取得された複数の前記利用周波数のパワーが入力されて、被験者のやる気状態を出力する請求項16に記載のやる気状態判定装置。
【請求項18】
前記利用周波数は、やる気状態との相関が高い周波数である請求項16又は17に記載のやる気状態判定装置。
【請求項19】
前記利用周波数は、複数存在し、
複数の前記利用周波数は、デルタ帯域、シータ帯域、アルファ帯域及びベータ帯域の各帯域の周波数を1つ以上含む請求項18に記載のやる気状態判定装置。
【請求項20】
前記パワー取得部は、所定期間の前記脳波が入力され、前記所定期間内に設定された複数の区間のそれぞれについて、入力された前記脳波から前記利用周波数のパワーを取得し、
前記人工知能装置は、前記複数の区間のそれぞれについての前記利用周波数のパワーが入力される請求項16乃至19のいずれか1項に記載のやる気状態判定装置。
【請求項21】
前記複数の区間のうちの1つの区間の一部と、隣接する別の区間の一部と、は互いに重複している請求項20に記載のやる気状態判定装置。
【請求項22】
前記やる気状態は、被験者のやる気の度合いを示す数値である請求項16乃至21のいずれか1項に記載のやる気状態判定装置。
【請求項23】
前記やる気の度合いを示す数値は、被験者のアパシースケールと相関のある指標値である請求項21に記載のやる気状態判定装置。
【請求項24】
前記指標値は、被験者のアパシースケールが大きい可能性が高いほど大きな値となる第1の指標値、及び被験者のアパシースケールが小さい可能性が高いほど大きな値となる第2の指標値の少なくとも一方を含む請求項23に記載のやる気状態判定装置。
【請求項25】
前記第1の指標値及び前記第2の指標値の少なくとも一方に基づいて、被験者にやる気があるかないかを判定する判定部を備える請求項24に記載のやる気状態判定装置。
【請求項26】
前記パワー取得部は、1つの電極を用いて得られた脳波データを前記脳波として用いる請求項16乃至25のいずれか1項に記載のやる気状態判定装置。
【請求項27】
前記パワー取得部は、複数の電極を用いてノイズを除去した脳波データを前記脳波として用いる請求項16乃至25のいずれか1項に記載のやる気状態判定装置。
【請求項28】
前記パワー取得部では、1以上の電極から得られた脳波データからノイズを含む区間の脳波データが除去された脳波データそれぞれを前記脳波として用いる請求項16乃至25のいずれか1項に記載のやる気状態判定装置。
【請求項29】
前記パワー取得部は、前記脳波を周波数ごとのパワーに変換し、変換したパワーのうちから前記利用周波数のパワーを取得する請求項16乃至28の何れか1項に記載のやる気状態判定装置。
【請求項30】
前記脳波は、安静時脳波である請求項16乃至29のいずれか1項に記載のやる気状態判定装置。
【請求項31】
予め定めた利用周波数の脳波のパワーと、その脳波が得られたときのやる気状態の正解データと、の組からなる学習データを用いて、前記利用周波数の脳波のパワーに対するやる気状態を出力するように学習済みである人工知能装置。
【請求項32】
予め定めた利用周波数の脳波のパワーと、その脳波が得られたときのやる気状態の正解データと、の組からなる学習データを用いて、前記利用周波数の脳波のパワーに対するやる気状態を出力するように、機械学習アルゴリズムによって人工知能装置の学習を行う人工知能装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、やる気状態判定方法、やる気状態判定装置、人工知能装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者のやる気状態を判定する手法としては、例えば、被験者に所定のアンケート(質問)に回答してもらい、その回答からやる気状態を「やる気スコア(Apathy Scale)」として推測する手法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、非特許文献1に記載のやる気状態を判定する手法では、アンケートへの回答が必要となるため、被験者に負荷がかかるし、被験者によるアンケートへの回答が困難な状況もあり得る。
一方、特許文献1には、脳波等のセンシングデータから学習者のやる気状態を算出する学習支援システムが記載されている。しかし、脳波からやる気状態を算出する具体的な手法は開示されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke1979/20/3/20_3_318/_pdf
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-138944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アンケートを使用することなく被験者のやる気状態を判定できるやる気状態判定方法、やる気状態判定装置、人工知能装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のやる気状態判定方法は、被験者の脳波を取得する第1ステップと、脳波から予め定めた利用周波数のパワーを取得する第2ステップと、利用周波数のパワーに対するやる気状態を出力するように学習済みの人工知能装置に利用周波数のパワーを入力して、被験者のやる気状態を判定する第3ステップと、を備えることを要旨とする。
また、本発明の一態様のやる気状態判定装置は、被験者の脳波から予め定めた利用周波数のパワーを取得するパワー取得部と、利用周波数のパワーに対するやる気状態を出力するように学習済みであり、パワー取得部で取得された利用周波数のパワーが入力されて、被験者のやる気状態を出力する人工知能装置と、を備えることを要旨とする。
【0007】
また、本発明の一態様の人工知能装置は、予め定めた利用周波数の脳波のパワーと、その脳波が得られたときのやる気状態の正解データと、の組からなる学習データを用いて、利用周波数の脳波のパワーに対するやる気状態を出力するように学習済みであることを要旨とする。
また、本発明の一態様の人工知能装置の製造方法は、予め定めた利用周波数の脳波のパワーと、その脳波が得られたときのやる気状態の正解データと、の組からなる学習データを用いて、利用周波数の脳波のパワーに対するやる気状態を出力するように、機械学習アルゴリズムによって人工知能装置の学習を行うことを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、アンケートを使用することなくやる気状態を判定できるやる気状態判定装置、人工知能装置及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るやる気状態判定装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】脳波取得部が取得して出力する脳波を模式的に示す図である。
図3】脳波-周波数パワー変換部による変換によって出力される周波数ごとのパワーを模式的に示す図である。
図4】利用周波数パワー取得部によって取得されて出力される利用周波数のパワーを模式的に示す図である。
図5】人工知能装置の入出力を模式的に示す図である。
図6】やる気状態判定を行った実験結果を示す図である。
図7】人工知能装置の学習に用いる学習データを模式的に示す図である。
図8A】利用周波数を定める手法を説明する図である。
図8B】利用周波数を定める手法を説明する図である。
図9】やる気状態判定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るやる気判定方法、やる気状態判定装置、人工知能装置及びその製造方法の一例を、図1図9を参照しながら説明する。本発明の実施形態は以下の順序で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。
1.やる気状態判定装置の全体の構成
2.人工知能装置の学習方法
3.利用周波数を決める手法
4.ハードウェア構成の一例
5.変形例
【0011】
〈1.やる気状態判定装置の全体の構成〉
本発明の実施形態に係るやる気状態判定装置について説明する。図1は、実施形態に係るやる気状態判定装置の概略構成を示すブロック図である。図1のやる気状態判定装置は、脳波を利用して被験者のやる気状態を判定する装置である。やる気状態としては、例えば、被験者のやる気の度合いを示す数値を採用できる。被験者のやる気度合いを示す数値としては、例えば、被験者のアパシースケールや、その邦訳版であるやる気スコアと相関のある指標値(重みWa,Wb)が挙げられる。アパシースケールややる気スコアは、アパシー状態(無気力、無感情、無感動、意欲低下の状態)の度合いを表す指標値である。
【0012】
例えば、やる気スコアは、以下のアンケートの質問項目1)~14)に回答することで得られる。質問項目1)~14)は、StarksteinらのApathy Scaleの質問項目を日本語訳して得た、やる気スコア(島根医科大学第三内科版)の質問項目である。
1) 新しいことを学びたいと思いますか?
2) 何か興味を持っていることがありますか?
3) 健康状態に関心がありますか?
4) 物事に打ち込めますか?
5) いつも何かしたいと思っていますか?
6) 将来のことについての計画や目標を持っていますか?
7) 何かをやろうとする意欲はありますか?
8) 毎日張り切って過ごしていますか?
(以上1)~8)の評価:全くない3 少し2 かなり1 おおいに0)
9) 毎日何をしたらいいか誰かに言ってもらわなければなりませんか?
10) 何事にも無関心ですか?
11) 関心を惹かれるものなど何もないですか?
12) 誰かに言われないと何もしませんか?
13) 楽しくもなく、悲しくもなく、その中間位の気持ちですか?
14) 自分自身にやる気がないと思いますか?
(以上9)~14)の評価:全く違う0 少し1 かなり2 まさに3)
このやる気スコアでは、16以上がやる気なし(アパシー状態)と判定され、16未満がやる気あり(非アパシー状態)と判定される。
【0013】
なお、本実施形態が対象とするアパシー状態は、パーキンソン病等に伴って生じる病的なアパシー状態ではなく、例えば、学生、社会人、お年寄り等、健康な人が一時的(例えば、数日~数週間、長くても数か月程度の時間スケール)に陥るアパシー状態である。このようなアパシー状態は、意欲の低下という点でうつ状態と似通っている。しかし、うつ状態である人は、意欲の低下している状態から「助けてほしい」「救ってほしい」と考えるが、アパシー状態である人は、そのように考えることがないという点で異なっている。
【0014】
図1に示すように、やる気状態判定装置は、脳波取得部1と、パワー取得部6と、人工知能装置4(例えば、学習モデル)と、判定部5とを備えている。パワー取得部6は、脳波-周波数パワー変換部2と、利用周波数パワー取得部3とを有している。やる気状態判定装置は、1つの装置でもよいし、複数の装置で構成してもよい。また、これらの構成要素の一部又は全部は、ハードウェアで実装してもよいし、ソフトウェアで実現してもよい。後者の場合、コンピュータのプロセッサが所定のプログラムを実行することによって、各機能が実現される。やる気状態判定装置の具体的なハードウェア構成の例は後述する。
【0015】
脳波取得部1は、被験者の脳波を所定期間(例えば、10秒間)取得する。脳波取得部1としては、例えば、脳波計を採用できる。脳波計を採用する場合、脳波計の電極を被験者の左前頭部(例えば、Fp1の位置)に取り付けることで、所定のサンプリング周波数(例えば、512Hz)で被験者の安静時脳波を取得することができる。安静時脳波としては、例えば、被験者の安静閉眼時における脳波を採用できる。例えば、椅子に腰かける等の安静にした状態で、眼を閉じている状態である。また、電極の数に特に制限はなく、複数(例えば32個)の電極を用いることでノイズを除去したデータ(脳波データ)を脳波として取得するようにしてもよいし、1つの電極を用いて得られた脳波データを脳波として取得するようにしてもよい。1つの電極を用いる構成とした場合、被験者への負担を軽減できる。
【0016】
ここで、「複数の電極を用いることでノイズを除去したデータ」としては、例えば、複数の電極それぞれから脳波データを取得し、取得した脳波データに基づいてノイズを除去した脳波データを得る処理を行い、その処理で得られたノイズを除去した脳波データが挙げられる。また、「ノイズを除去した脳波データを得る処理」としては、例えば、独立成分分析を採用できる。独立成分分析を採用した場合、ノイズ成分(例えば、まばたき、眼球の動き、くいしばり等により発生するアーチファクト)と、そのノイズ成分を除去した脳波データとを得ることができる。「複数の電極を用いることでノイズを除去した脳波データ」を、脳波取得部1が取得した脳波とする構成とした場合、やる気状態の判定精度を向上できる。
【0017】
あるいは、1以上の電極を用いて取得した脳波データにおいて、明らかにノイズが含まれているような場合には、その区間の脳波データを除去した脳波データを脳波として取得してもよい。即ち、1以上の電極それぞれから脳波データを取得し、取得した脳波データからノイズを含む区間の脳波データを除去し、除去後の脳波データそれぞれを、脳波取得部1が取得した脳波としてもよい。ノイズを含む区間の脳波データが除去された脳波データを、判定に用いる脳波とすることで、ノイズの影響を抑制でき、やる気状態の判定精度を向上できる。また、fMRIやMEGを用いると脳活動データの取得にコストがかかるが、本実施形態では脳波計を用いるため、生活シーンでも簡便かつ低コストに脳波を取得できる。
【0018】
なお、ノイズの除去方法としては、他の各種方法を用いてもよい。例えば、大きすぎる脳波データを除去する方法、バンドパスフィルタをかける方法、ハイカットフィルタをかける方法、ローカットフィルタをかける方法が挙げられる。バンドパスフィルタを用いる場合、バンドパスフィルタの通過帯域は、例えば、0.5~49Hz程度を採用できる。
【0019】
図2は、脳波取得部1が取得して出力する脳波を模式的に示す図である。図2の横軸は時刻tであり、縦軸は脳波Sである。同図における時刻t=0の脳波Sは最新の取得値(即ち、最後に取得された脳波)を示しており、時刻t=2の脳波Sはt=0より2秒前の時刻における取得値である。時刻t=4,6,8,10も同様である。このような各時刻tにおける脳波S(t)が脳波取得部1から脳波-周波数パワー変換部2に入力される。
なお、脳波S(t)を取得した所定期間に複数の区間が設定される。例えば、10秒の期間のうち時刻t=0~4を区間T1とし、時刻t=2~6を区間T2とし、時刻t=4~8を区間T3とし、時刻t=6~10を区間T4とする。各区間は、1つの区間の一部と、隣接する別の区間の一部とが互いに重複して設定されるのが好ましい。区間が重複する構成とした場合、フーリエ変換利用時に発生する信号の周期性補正による影響を軽減できる。
【0020】
図1に戻り、脳波-周波数パワー変換部2は、被験者の脳波S(t)をフーリエ変換して周波数ごとのパワー(例えば、パワースペクトル密度)に変換する。より具体的には、区間T1,T2,T3及びT4のそれぞれについて脳波S(t)を周波数ごとのパワーに変換する。
図3は、脳波-周波数パワー変換部2による変換によって出力される周波数ごとのパワーを模式的に示す図である。図3(a)の横軸は周波数fであり、縦軸は区間T1のパワーP1である。同様に、図3(b)~図3(d)はそれぞれ区間T2~T4のパワーP2~P4を表している。また、便宜上、単位周波数f0を単位として周波数fを離散的に描いている。このような区間T1~T4のそれぞれについての、各周波数fにおけるパワーP1(f)~P4(f)が脳波-周波数パワー変換部2から利用周波数パワー取得部3に入力される。
【0021】
図1に戻り、利用周波数パワー取得部3は、脳波-周波数パワー変換部2で変換されたパワーのうちから、予め定めた利用周波数におけるパワーを取得する。即ち、利用周波数のパワーのみを取得し、利用周波数以外の周波数のパワーは取得しない。より具体的には、利用周波数パワー取得部3は、区間T1~T4のそれぞれについて、予め定めた利用周波数のパワーを取得する。利用周波数は、複数存在してもよいし、1つでもよい。また、利用周波数としては、例えば、やる気状態との相関が高い周波数を採用できる。例えば、利用周波数が複数存在する場合には、複数の利用周波数として、デルタ帯域(0.5Hz以上4.0Hz未満)、シータ帯域(4.0Hz以上8.0Hz未満)、アルファ帯域(8.0Hz以上13.0Hz未満)及びベータ帯域(13.0Hz以上30Hz未満)の各帯域の周波数を1つ以上含むのが好ましい。なお以下の説明では、説明を簡略化するため、利用周波数がf1,f2,f3の3つの場合を例示する。利用周波数の具体的な定め方の例は後述する。
【0022】
図4は、利用周波数パワー取得部3によって出力される利用周波数のパワーを模式的に示す図である。図4(a)の横軸は周波数であり(ただし、利用周波数f1,f2,f3の3値)、縦軸は区間T1のパワーP1であり、利用周波数f1~f3のパワーP1をそれぞれP1(f1)~P1(f3)と表記している。同様に、図4(b)~(d)はそれぞれ区間T2~T4における利用周波数f1~f3のパワーP2(f1)~P2(f3),P3(f1)~P3(f3),P4(f1)~P4(f3)を表している。このような区間T1~T4それぞれについての、利用周波数f1~f3のパワーP1(f1)~P1(f3),P2(f1)~P2(f3),P3(f1)~P3(f3),P4(f1)~P4(f3)が利用周波数パワー取得部3から人工知能装置4に入力される。
【0023】
図1に戻り、人工知能装置4は、利用周波数のパワーに対するやる気状態を出力するように学習済みの学習モデルである。即ち、利用周波数の脳波のパワーと、その脳波が得られたときの被験者のやる気状態の正解データと、の組からなる学習データを用いて、機械学習アルゴリズムで学習が行われた学習モデルである。学習モデルとしては、例えば、ニューラルネットワークを採用できる。また、機械学習アルゴリズムとしては、例えば、深層学習アルゴリズムを採用できる。そして、人工知能装置4は、利用周波数パワー取得部3から出力された利用周波数のパワーが入力されて、被験者のやる気状態を出力する。より具体的には、人工知能装置4は、区間T1~T4のそれぞれについての、利用周波数f1~f3のパワーP1(f1)~P1(f3),P2(f1)~P2(f3),P3(f1)~P3(f3),P4(f1)~P4(f3)が入力され、被験者のやる気状態(後述する重みWa,Wn)を出力する。
【0024】
図5は、人工知能装置4の入出力を模式的に示す図である。図5に示すように、人工知能装置4には、利用周波数パワー取得部3から出力された利用周波数f1~f3のパワーP1(f1)~P1(f3),P2(f1)~P2(f3),P3(f1)~P3(f3),P4(f1)~P4(f3)が入力される。そして、人工知能装置4は、やる気状態(つまり、アパシースケールと相関のある指標値)の例として、やる気がない状態の重みWa(広義には「第1の指標値」とも呼ぶ)と、やる気がある状態の重みWn(広義には「第2の指標値」とも呼ぶ)とを出力する。なお、重みWa(第1の指標値)と重みWn(第2の指標値)との両方を出力する構成に限られず、これらのうちの少なくとも一方を出力する構成としてもよい。重みWa(第1の指標値)が大きいほど、被験者がやる気がない状態である可能性が高い。一方、重みWn(第2の指標値)が大きいほど、被験者がやる気がある状態である可能性が高い。即ち、やる気がない状態の重みWa(第1の指標値)は、被験者のアパシースケールが大きい可能性が高いほど大きな値となり、やる気がある状態の重みWn(第2の指標値)は、被験者のアパシースケールが小さい可能性が高いほど大きな値となる。このようなやる気がない状態の重みWa及びやる気がある状態の重みWnが人工知能装置4から判定部5に入力される。人工知能装置4の具体的な学習手法の例は後述する。
【0025】
図1に戻り、判定部5は、やる気がない状態の重みWa及びやる気がある状態の重みWnの少なくとも一方に基づき、被験者にやる気があるか(非アパシー状態)、やる気がないか(アパシー状態)を判定する。一例として、判定部5は、Wa>しきい値であればやる気なし(アパシー状態)と判定し、Wa<しきい値であればやる気あり(非アパシー状態)と判定してもよい。また、Wa>Wnであればやる気なしと判定し、Wa<Wnであればやる気ありと判定してもよい。あるいは、やる気判定率D=100×Wa/(Wa+Wn)>しきい値であればやる気なしと判定し、D<しきい値であればやる気ありと判定してもよい。やる気判定率Dは、その値が大きいほどやる気がない状態である。
【0026】
図6は、以上述べた手法でやる気判定を行った実験結果を示す図である。被験者は合計30人とし、その内訳は20代男性を22人、20代女性を8人とした。利用周波数は、後述する手法によって特定された22個(1.25Hz,1.75Hz,3.5Hz,6.75Hz,9Hz,9.25Hz,9.75Hz,10Hz,11.5Hz,12.25Hz,12.75Hz,13Hz,13.5Hz,14.25Hz,15.75Hz,17.25Hz,19.75Hz,20.75Hz,22.5Hz,23.5Hz,24.5Hz,26.5Hz)とした。また、被験者に上記の質問項目1)~14)からなるアンケートを行い、その回答からやる気スコアを算出した。やる気スコアは、0~42の範囲の値を取り、値が大きいほどやる気がない(アパシー状態が強い)ことを意味する。
【0027】
図6の横軸はアンケートに基づくやる気スコアであり、16以上がやる気なし(アパシー状態)、16未満がやる気あり(非アパシー状態)である。また、縦軸はやる気判定率Dであり、50以上がやる気なし(アパシー状態)、50未満がやる気あり(非アパシー状態)である。やる気スコア及びやる気判定のいずれも「やる気なし(アパシー状態)」と判定された被験者は16名であった。また、やる気スコア及びやる気判定のいずれも「やる気あり(非アパシー状態)」と判定された被験者は10名であった。即ち、アンケートに基づくやる気スコアと、やる気判定の結果とが一致したのは合計26名であり、アンケートに基づくやる気判定を正とすると判定精度は86.7%(=26/30)であった。
【0028】
このように、本実施形態によれば、被験者の脳波を取得し、人工知能装置4を利用することで、やる気スコアのアンケートを使用しなくても、アンケートに近い精度で被験者のやる気状態(アパシー状態であるか、非アパシー状態であるか)を判定できる。そのため、被験者の負荷を低減でき、また、アンケートへの回答が困難な状況でも、やる気状態を判定できる。またアンケートで判定する方法に比べて、迅速にやる気状態を判定できる。
また、アンケートへの回答が不要であるため、被験者に身構えさせずにやる気状態を判定でき、 セラピーや施術等の内容を被験者に意識させずに適合できる。また、認知機能が低下した人や低年齢の人等、アンケートへの回答が困難な人のやる気状態を判定できる。
【0029】
また、アパシー状態であると判定された場合に、被験者に対して、睡眠や休憩の取得、嗜好品(コーヒー、おかし等)の摂取、気分転換(運動、会話、ゲーム等)の実施、脳への電気刺激等を提案でき、アパシー状態の改善のための介入を実施させることができる。
また、本実施形態によれば、被験者がアパシー状態であるかを簡単・迅速に判定できるため、アパシー状態の判定を気軽に実施でき、アパシー状態を早期に発見して解消することができる。そのため、多数の従業員を抱える企業、多数の学生を抱える学校、アパシー状態の解消に役立つ商品やサービスを提供する会社等に、特に好ましい装置と言える。
【0030】
ちなみに、アパシー状態であるかを判定する他の方法(アンケート以外の方法)としては、例えば、MRI(Magnetic Resonance Imaging)を用いて被験者の脳の構造や血流を見たり、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)を用いて被験者の脳の血流や代謝を計測したりして、被験者がアパシー状態であるかを判定する方法が考えられる。しかし、このような方法では、大型の計測装置が必要となるため、病院や研究機関でしか実施できず、アパシー状態の判定に費用や手間、時間がかかるという問題がある。
これに対し、本実施形態では、被験者の脳波のみを用いるため、生体情報の計測装置は脳波計があれば済み、アパシー状態の判定にかかる費用や手間、時間を低減できる。
【0031】
〈2.人工知能装置の学習方法〉
次に、人工知能装置4(学習モデル)の学習方法の例を説明する。
図7は、人工知能装置4の学習に用いる学習データを模式的に示す図である。図7に示すように、学習データとして入力データと正解データ(ラベル)との組を多数準備する。
入力データとしては、例えば、利用周波数の脳波のパワーを採用できる。より具体的には、利用周波数f1~f3のパワーP1(f1)~P1(f3),P2(f1)~P2(f3),P3(f1)~P3(f3),P4(f1)~P4(f3)が用いられる。例えば、脳波取得部1によって実際に被験者から脳波を測定し、脳波-周波数パワー変換部2によって周波数パワーに変換し、利用周波数パワー取得部3によって利用周波数の脳波のパワーを取得したものであってよい。
【0032】
正解データとしては、例えば、入力データの脳波が得られたときの被験者のやる気状態を採用できる。より具体的には、利用周波数f1~f3のパワーP1(f1)~P1(f3),P2(f1)~P2(f3),P3(f1)~P3(f3),P4(f1)~P4(f3)に対するやる気状態(即ち、人工知能装置4が出力すべきやる気がない状態の重みWa及びやる気がある状態の重みWnの値)が用いられる。例えば、被験者に上記の質問項目1)~14)からなるアンケートを行い、そのアンケートの回答に基づいて、人工知能装置4(ニューラルネットワーク等の学習モデル)が出力すべき重みWa,Wnの正解値を任意に設定したものであってよい。
【0033】
このような学習データを用いて、利用周波数f1~f3のパワーP1(f1)…P4(f3)が入力された場合にそのパワーP1(f1)…P4(f3)に対するやる気状態(重みWa,Wn)を出力するように、機械学習アルゴリズムによって学習を行う。このような学習を行うことで、人工知能装置4が正しいやる気状態(重みWa,Wn)を出力するようになる。
【0034】
〈3.利用周波数を決める手法〉
次に、利用周波数を定める手法の一例を説明する。
以下では、遺伝的アルゴリズムを用いて、利用周波数の候補f0,2f0,3f0・・・nf0(例えば、f0=0.25Hz、n=120、nf0=30Hz)の中から適切な利用周波数を特定する。
【0035】
図8A及び図8Bは、利用周波数を定める手法を説明する図である。図8Bは、遺伝的アルゴリズムの第1世代の個体1~Nのうちの個体1,2を模式的に示している。図8Aに示すように、各個体は、1つの個体につきランダムに「0」と「1」を合計n個並べて生成される。k番目の値(「0」又は「1」)が利用周波数の候補kf0と対応している。そして、k番目の値が「0」であればkf0を利用周波数とせず、k番目の値が「1」であればkf0を利用周波数とすることを意味する。ここで、「1」の数が少なすぎると(利用周波数の数が少ないと)、正確な判定ができない可能性がある。一方、「1」の数が多すぎると(利用周波数の数が多いと)、過学習に陥って汎用性が低い人工知能装置4となる可能性がある。それゆえ、「1」の数が所定範囲内となるように個体を生成してもよい。
【0036】
図8Aにおいて、個体1は{1,1,0,・・・,0}となっており、複数の周波数f0,2f0,3f0・・・nf0から2つの周波数f0,2f0を選択し、選択した2つの周波数f0,2f0のみを利用周波数とする。この場合、図8B(a)に示すように、人工知能装置4の入力を、各区間T1~T4の利用周波数f0,2f0のパワーP1(f0),P1(2f0),P2(f0),P2(2f0),P3(f0),P3(2f0),P4(f0),P4(2f0)とする。
【0037】
続いて、上述した手法で人工知能装置4の学習を行う。例えば、予め用意された脳波から、選択された利用周波数f0,2f0の脳波のパワーP1(f0),P1(2f0),P2(f0),P2(2f0),P3(f0),P3(2f0),P4(f0),P4(2f0)を取得し、取得したパワーP1(f0)…P4(2f0)と、その脳波が得られたときの被験者のやる気状態(重みWa,Wn)の正解データと、の組を学習データとして多数生成する。続いて、生成した多数の学習データを用いて、選択された利用周波数f0,2f0のパワーP1(f0)…P4(2f0)に対するやる気状態(重みWa,Wn)を出力するように、機械学習アルゴリズムによって人工知能装置4を学習させる。続いて、学習に用いていない脳波から利用周波数f0,2f0の脳波のパワーP1(f0)’,P1(2f0) ’,P2(f0)’,P2(2f0) ’,P3(f0)’,P3(2f0) ’,P4(f0)’,P4(2f0) ’を取得し、取得したパワーP1(f0)’…P4(2f0) ’と、その脳波が得られたときの被験者のやる気状態(学習に用いていないやる気状態。重みWa’,Wn’)と、の組を生成する。続いて、学習済みの人工知能装置4に学習に用いていないパワーP1(f0)’…P4(2f0) ’を入力してやる気状態(重みWa”,Wn”)を出力させ、学習に用いていないやる気状態(重みWa’,Wn’)に対する、出力されたやる気状態(重みWa”,Wn”)の判定精度を算出する。この判定精度を個体1の適応度E1とする。
【0038】
一方、個体2は{0,1,1,・・・,0}となっており、複数の周波数f0,2f0,3f0・・・nf0から2つの周波数2f0,3f0を選択し、選択した2つの周波数2f0,3f0のみを利用周波数とする。この場合、図8B(b)に示すように、人工知能装置4の入力を、各区間T1~T4の利用周波数2f0,3f0のパワーP1(2f0),P1(3f0),P2(2f0),P2(3f0),P3(2f0),P3(3f0),P4(2f0),P4(3f0)とする。
【0039】
続いて、上述した手法で人工知能装置4の学習を行う。例えば、予め用意された脳波から、選択された利用周波数2f0,3f0の脳波のパワーP1(2f0),P1(3f0),P2(2f0),P2(3f0),P3(2f0),P3(3f0),P4(2f0),P4(3f0)を取得し、取得したパワーP1(2f0)…P4(3f0)と、その脳波が得られたときの被験者のやる気状態(重みWa,Wn)の正解データと、の組を学習データとして多数生成する。続いて、生成した多数の学習データを用いて、選択された利用周波数2f0,3f0のパワーP1(2f0)…P4(3f0)に対するやる気状態(重みWa,Wn)を出力するように、機械学習アルゴリズムによって人工知能装置4を学習させる。続いて、学習に用いていない脳波から利用周波数2f0,3f0の脳波のパワーP1(2f0)’,P1(3f0) ’,P2(2f0)’,P2(3f0) ’,P3(2f0)’,P3(3f0) ’,P4(2f0)’,P4(3f0) ’を取得し、取得したパワーP1(2f0)’…P4(3f0) ’と、その脳波が得られたときの被験者のやる気状態(学習に用いていないやる気状態。重みWa’,Wn’)と、の組を生成する。続いて、学習済みの人工知能装置4に学習に用いていないパワーP1(2f0) ’…P4(3f0) ’を入力してやる気状態(重みWa”,Wn”)を出力させ、学習に用いていないやる気状態(重みWa’,Wn’)に対する、出力されたやる気状態(重みWa”,Wn”)の判定精度を算出する。この判定精度を個体2の適応度E2とする。
【0040】
同様にして、他の個体3~Nの適応度E3~ENを算出する。そして、適応度E1~ENに応じて個体を選択し、交叉及び突然変異の遺伝的操作を行って次世代の個体を生成する。以上の手順を十分に繰り返すことによって、適切な利用周波数を特定できる。例えば、最も判定精度が高い個体(人工知能装置4)の学習に用いた利用周波数を、やる気状態判定方法ややる気状態判定装置の利用周波数として用いるようにする。以上の処理の一部又は全部はプロセッサが所定のプログラムを実行することによって行われてもよい。
【0041】
換言すると、以上の処理は、利用周波数の候補である複数の周波数から2以上の周波数を選択し、その選択された周波数それぞれにおける脳波のパワーと、その脳波が得られたときの被験者のやる気状態の正解データと、の組を学習データとして、その選択された周波数それぞれのパワーに対するやる気状態を出力するように個体(人工知能装置4)を学習させ、学習済みの個体(人工知能装置4)に学習に用いていない脳波のパワーを入力してやる気状態を出力させ、学習に用いていない脳波が得られたときの被験者のやる気状態(学習に用いていないやる気状態)に対する、出力されたやる気状態の判定精度を算出するという手順を繰り返すことで、最も判定精度が高い個体の学習に用いた上記2以上の周波数を、利用周波数として用いるようになっている、と言える。
【0042】
なお、利用周波数は、被験者の年齢、性別、国籍といった参加者の属性に応じて変わり得る。また、利用周波数は、脳波計の電極の位置が変動したり、使用する電極の種類や数が変わったりすることによっても変わり得る。よって、利用周波数は、特定の周波数であってもよいが、参加者や使用する電極に応じて利用周波数を設定してもよい。
【0043】
〈4.実施例〉
次に、上記実施形態に係るやる気状態判定装置の実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1では、利用周波数の候補として、例えば、f0,2f0,3f0・・・nf0(f0=0.25Hz、nf0=30Hz)を用意した。続いて、その候補を基に、上述した遺伝的アルゴリズムを用いた手法により、22個の利用周波数(1.25Hz,1.75Hz,3.5Hz,6.75Hz,9Hz,9.25Hz,9.75Hz,10Hz,11.5Hz,12.25Hz,12.75Hz,13Hz,13.5Hz,14.25Hz,15.75Hz,17.25Hz,19.75Hz,20.75Hz,22.5Hz,23.5Hz,24.5Hz,26.5Hz)が得られた。これら22個の利用周波数には、デルタ帯域(0.5Hz以上4.0Hz未満)、シータ帯域(4.0Hz以上8.0Hz未満)、アルファ帯域(8.0Hz以上13.0Hz未満)及びベータ帯域(13.0Hz以上30Hz未満)の各帯域の周波数が1つ以上含まれる結果となった。また、上述したアンケートに基づくやる気判定を正として判定精度を算出する手法によれば、これら22個の利用周波数を用いた学習済みの人工知能装置4の判定精度は86.7%となった。
【0044】
実施例2では、利用周波数の候補として、例えば、4f0,5f0,6f0・・・nf0(4f0=0.25Hz、nf0=30Hz)を用意した。続いて、その候補を基に、上述した遺伝的アルゴリズムを用いた手法により、22個の利用周波数(1.25Hz,3.5Hz,6.75Hz,9Hz,9.25Hz,9.75Hz,10Hz,11.5Hz,12.25Hz,12.75Hz,13.25Hz,13.5Hz,14.25Hz,15.75Hz,17.25Hz,19.75Hz,20Hz,20.75Hz,21.5Hz,22.5Hz,23.5Hz,24.5Hz)が得られた。これら22個の利用周波数には、デルタ帯域(0.5Hz以上4.0Hz未満)、シータ帯域(4.0Hz以上8.0Hz未満)、アルファ帯域(8.0Hz以上13.0Hz未満)及びベータ帯域(13.0Hz以上30Hz未満)の各帯域の周波数が1つ以上含まれる結果となった。また、上述したアンケートに基づくやる気判定を正として判定精度を算出する手法によれば、これら22個の利用周波数を用いた学習済みの人工知能装置4の判定精度は83.3%となった。
【0045】
実施例3では、利用周波数の候補として、例えば、7f0,8f0,9f0・・・nf0(7f0=0.25Hz、nf0=30Hz)を用意した。続いて、その候補を基に、上述した遺伝的アルゴリズムを用いた手法により、27個の利用周波数(1.25Hz,6.25Hz,6.75Hz,9Hz,9.25Hz,9.75Hz,10Hz,11.5Hz,12.25Hz,12.75Hz,13Hz,13.5Hz,14.25Hz,15.75Hz,17.25Hz,18.75Hz,19.75Hz,20Hz,20.75Hz,21.25Hz,22.5Hz,23.5Hz,23.75Hz,24.5Hz,26Hz,26.5Hz,29.5Hz)が得られた。これら27個の利用周波数には、デルタ帯域(0.5Hz以上4.0Hz未満)、シータ帯域(4.0Hz以上8.0Hz未満)、アルファ帯域(8.0Hz以上13.0Hz未満)及びベータ帯域(13.0Hz以上30Hz未満)の各帯域の周波数が1つ以上含まれる結果となった。また、上述したアンケートに基づくやる気判定を正として判定精度を算出する手法によれば、これら27個の利用周波数を用いた学習済みの人工知能装置4の判定精度は83.3%となった。
【0046】
実施例4では、利用周波数の候補として、例えば、10f0,11f0,12f0・・・nf0(10f0=0.25Hz、nf0=30Hz)を用意した。続いて、その候補を基に、上述した遺伝的アルゴリズムを用いた手法により、23個の利用周波数(1.25Hz,6.75Hz,9Hz,9.25Hz,9.75Hz,10Hz,11.5Hz,12.25Hz,12.75Hz,13Hz,13.5Hz,14.25Hz,17.25Hz,19.75Hz,20Hz,20.75Hz,21.5Hz,22.5Hz,23.5Hz,24.5Hz,26.5Hz,26.75Hz,28.5Hz)が得られた。これら23個の利用周波数には、デルタ帯域(0.5Hz以上4.0Hz未満)、シータ帯域(4.0Hz以上8.0Hz未満)、アルファ帯域(8.0Hz以上13.0Hz未満)及びベータ帯域(13.0Hz以上30Hz未満)の各帯域の周波数が1つ以上含まれる結果となった。また、上述したアンケートに基づくやる気判定を正として判定精度を算出する手法によれば、これら23個の利用周波数を用いた学習済みの人工知能装置4の判定精度は80.0%となった。
【0047】
実施例5では、利用周波数の候補として、例えば、13f0,14f0,15f0・・・nf0(13f0=0.25Hz、nf0=30Hz)を用意した。続いて、その候補を基に、上述した遺伝的アルゴリズムを用いた手法により、23個の利用周波数(1.25Hz,3.5Hz,6.75Hz,9Hz,9.25Hz,9.75Hz,10Hz,11.5Hz,12.25Hz,12.75Hz,13Hz,13.5Hz,14.25Hz,15.75Hz,17.25Hz,19.75Hz,20Hz,20.75Hz,21.5Hz,22.5Hz,23.5Hz,24.5Hz,26.5Hz)が得られた。これら23個の利用周波数には、デルタ帯域(0.5Hz以上4.0Hz未満)、シータ帯域(4.0Hz以上8.0Hz未満)、アルファ帯域(8.0Hz以上13.0Hz未満)及びベータ帯域(13.0Hz以上30Hz未満)の各帯域の周波数が1つ以上含まれる結果となった。また、上述したアンケートに基づくやる気判定を正として判定精度を算出する手法によれば、これら23個の利用周波数を用いた学習済みの人工知能装置4の判定精度は80.0%となった。
【0048】
[実施例6]
実施例6では、利用周波数の候補として、例えば、16f0,17f0,18f0・・・nf0(16f0=4.0Hz、nf0=30Hz)を用意した。続いて、その候補を基に、上述した遺伝的アルゴリズムを用いた手法により、22個の利用周波数(6.25Hz,6.75Hz,7Hz,9Hz,9.25Hz,10Hz,11.5Hz,12.75Hz,13Hz,13.25Hz,14.25Hz,15.75Hz,17.25Hz,18.75Hz,19.75Hz,20Hz,20.75Hz,21.5Hz,22.5Hz,23.5Hz,24.5Hz,29.5Hz)が得られた。これら22個の利用周波数には、シータ帯域(4.0Hz以上8.0Hz未満)、アルファ帯域(8.0Hz以上13.0Hz未満)及びベータ帯域(13.0Hz以上30Hz未満)の各帯域の周波数が1つ以上含まれる結果となった。また、上述したアンケートに基づくやる気判定を正として判定精度を算出する手法によれば、これら22個の利用周波数を用いた学習済みの人工知能装置4の判定精度は76.7%となった。
【0049】
[実施例7]
実施例7では、利用周波数の候補として、例えば、2f0,3f0,4f0・・・120f0(2f0=0.5Hz、120f0=13.0Hz)を用意した。続いて、その候補を基に、上述した遺伝的アルゴリズムを用いた手法により、9個の利用周波数(1.25Hz,6.75Hz,9Hz,9.25Hz,9.75Hz,10Hz,11.5Hz,12.25Hz,12.75Hz)が得られた。これら9個の利用周波数には、デルタ帯域(0.5Hz以上4.0Hz未満)、シータ帯域(4.0以上8.0Hz未満)、アルファ帯域(8.0以上13.0Hz未満)の各帯域の周波数が1つ以上含まれる結果となった。また、上述したアンケートに基づくやる気判定を正として判定精度を算出する手法によれば、これら9個の利用周波数を用いた人工知能装置4の判定精度は73.3%となった。
【0050】
[実施例8]
実施例8では、利用周波数の候補として、例えば、16f0,17f0,18f0・・・120f0(16f0=4.0Hz、120f0=13.0Hz)を用意した。続いて、その候補を基に、上述した遺伝的アルゴリズムを用いた手法により、8個の利用周波数(6.25Hz,6.75Hz,7Hz,9Hz,9.25Hz,10Hz,11.5Hz,12.75Hz)が得られた。これら8個の利用周波数には、シータ帯域(4.0以上8.0Hz未満)、アルファ帯域(8.0以上13.0Hz未満)の各帯域の周波数が1つ以上含まれる結果となった。また、上述したアンケートに基づくやる気判定を正として判定精度を算出する手法によれば、これら8個の利用周波数を用いた人工知能装置4の判定精度は66.7%となった。
【0051】
(性能評価)
実施例1~8の利用周波数を用いた人工知能装置4に対して以下の性能評価を行った。
人工知能装置4の性能評価では、人工知能4の判定精度が80%以上である場合を合格「◎」とし、80%未満70%以上である場合を合格「〇」とし、70%未満60%以上である場合を合格「△」とし、60%未満である場合を不合格「×」とした。
【0052】
評価結果を、以下の表1に示す。
【表1】
【0053】
表1に示すように、実施例1~8の人工知能装置4は、いずれも合格「◎」「〇」「△」となり、やる気状態を判定できることを確認できた。ただし、実施例1~5、つまり、利用周波数にデルタ帯域、シータ帯域、アルファ帯域及びベータ帯域の各帯域の周波数を1つ以上含む構成とした場合は「◎」の合格となったが、実施例6,7、つまり、利用周波数にデルタ帯域の周波数及びベータ帯域の周波数の何れか一方を含まない構成とした場合は「〇」の合格となった。また、実施例8、つまり利用周波数にデルタ帯域の周波数及びベータ帯域の周波数の何れも含まない構成とした場合は「△」の合格となった。したがって、利用周波数として、デルタ帯域、シータ帯域、アルファ帯域及びベータ帯域の各帯域の周波数を1つ以上含むという条件を満たす人工知能装置4によれば、条件を満たさない人工知能装置4と異なり、判定精度が高い人工知能装置4が得られることが確認できた。
【0054】
〈4.ハードウェア構成〉
次に、やる気状態判定装置のハードウェア構成の一例を説明する。
図9は、やる気状態判定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図9に示すように、やる気状態判定装置は、演算装置101、入力装置191、出力装置192及び脳波計193等のハードウェア資源を備える情報処理装置100であってもよい。
演算装置101は、プロセッサ(Processor)102、主記憶部(main memory)103、補助記憶部(auxiliary storage)104及び外部I/F105を有するものであってもよい。
プロセッサ102は、CPU(Central Processing Unit)等であってもよい。また、主記憶部103は、RAM(Random Access Memory)等であってもよい。また、補助記憶部104は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等であってもよく、プロセッサ102で実行されるデータ生成プログラム104a、学習済みの人工知能装置4(学習モデル)、プロセッサ102で行われる各種処理の結果等を記憶するようにしてもよい。
【0055】
データ生成プログラム104aは、図1に示した脳波-周波数パワー変換部2、利用周波数パワー取得部3、人工知能装置4及び判定部5の機能を実現するための処理を実行させるプログラムであり、このプログラムがプロセッサ102によって実行されることにより、各機能が実現される。なお、データ生成プログラム104aは、脳波-周波数パワー変換部2、利用周波数パワー取得部3、人工知能装置4及び判定部5のうちの一部の機能を実現するための処理を実行させるプログラムであってもよいし、これら以外の機能を実現するための処理を行うためのプログラムを含んでもよい。即ち、情報処理装置100は、脳波-周波数パワー変換部2、利用周波数パワー取得部3、人工知能装置4及び判定部5のいずれか1~3つを実現する演算装置101を複数備える構成としてもよい。また、脳波-周波数パワー変換部2、利用周波数パワー取得部3、人工知能装置4及び判定部5の処理の全てを実現する1つの演算装置101を備える構成としてよい。
【0056】
外部I/F105は、USB(Universal Serial Bus)ポート等であってもよく、入力装置191、出力装置192及び脳波計193等の外部装置が接続されてもよい。入力装置191は、タッチパネル、キーボード、マウス等であってもよい。出力装置192は、液晶表示装置等であってもよく、判定部5による判定結果等を表示するようにしてもよい。また、脳波計193は、被験者の頭部に取り付ける電極を有し、電極を介して脳波(Fp1等の脳波データ)を取得してもよい。脳波計193は、脳波取得部1を構成する。
【0057】
なお、やる気状態判定装置の具体的なハードウェア構成は、実施形態に応じて、適宜、構成要素を省略、置換及び追加されてもよい。例えば、演算装置101は、複数のプロセッサを含んでもよいし、GPU(Graphical Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)を含んでもよい。また、情報処理装置100は、複数台の情報処理装置で構成されてもよい。情報処理装置100は、専用に設計された情報処理装置の他、汎用のデスクトップPC(Personal Computer)、タブレットPC等であってもよい。
【0058】
〈5.変形例〉
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然に成し得ることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。
【0059】
例えば、上述した実施形態では、脳波を周波数fごとのパワーP1(f)~P4(f)に変換し、変換したパワーP1(f)~P4(f)のうちから、利用周波数f1,f2,f3のパワーP1(f1)~P1(f3),P2(f1)~P2(f3),P3(f1)~P3(f3),P4(f1)~P4(f3)を取得する例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、スペクトルアナライザを用いて、脳波から利用周波数f1,f2,f3のパワーP1(f1)~P1(f3),P2(f1)~P2(f3),P3(f1)~P3(f3),P4(f1)~P4(f3)を直接に取得する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…脳波取得部、2…脳波-周波数パワー変換部、3…利用周波数パワー取得部、4…人工知能装置、5…判定部、6…パワー取得部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9