IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リッパーモーターカンパニー株式会社の特許一覧

特開2022-74183電動アシスト・キックスケーター及びトルク制御プログラム
<>
  • 特開-電動アシスト・キックスケーター及びトルク制御プログラム 図1
  • 特開-電動アシスト・キックスケーター及びトルク制御プログラム 図2
  • 特開-電動アシスト・キックスケーター及びトルク制御プログラム 図3
  • 特開-電動アシスト・キックスケーター及びトルク制御プログラム 図4
  • 特開-電動アシスト・キックスケーター及びトルク制御プログラム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074183
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】電動アシスト・キックスケーター及びトルク制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B62K 17/00 20060101AFI20220511BHJP
   B62J 45/41 20200101ALI20220511BHJP
   B62M 6/45 20100101ALI20220511BHJP
   A63C 17/12 20060101ALI20220511BHJP
   A63C 17/01 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B62K17/00
B62J45/41
B62M6/45
A63C17/12
A63C17/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184014
(22)【出願日】2020-11-03
(71)【出願人】
【識別番号】320012691
【氏名又は名称】リッパーモーターカンパニー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126675
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 将彦
(72)【発明者】
【氏名】玉城 俊徳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幹久
(72)【発明者】
【氏名】玉城 俊彦
【テーマコード(参考)】
3D212
【Fターム(参考)】
3D212BB08
3D212BB13
3D212BB24
3D212BB44
3D212BB53
3D212BB63
3D212BB72
3D212BB85
(57)【要約】
【課題】 搭乗者の蹴りの力に応じたアシスト力が得られる電動アシスト型のキックスケーターを提供する。
【解決手段】 本開示による電動アシスト・キックスケーター101は、車輪7を駆動する電動モータ3と、車体1の積載重量wを検知する重量センサと、電動モータ3のトルクを制御するトルク制御装置21と、を備えている。トルク制御装置21は、電動モータ3のトルクτ、電動モータ3の回転角θ、及び検知される積載重量wに基づいて、搭乗者90の蹴りにより車体に付与される前進方向の力Fを算出し、算出された前進方向の力Fに応じた前進方向のアシスト力を車体1に付与するように、電動モータ3のトルクτを制御する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を駆動する電動モータと、
車体の積載重量を検知する重量センサと、
前記電動モータのトルクを制御するトルク制御装置と、を備え、
前記トルク制御装置は、前記電動モータのトルク、前記電動モータの回転角、及び検知される前記積載重量に基づいて、搭乗者の蹴りにより前記車体に付与される前進方向の力を算出し、算出された前記前進方向の力に応じた前進方向のアシスト力を前記車体に付与するように、前記電動モータのトルクを制御する、電動アシスト・キックスケーター。
【請求項2】
前記トルク制御装置は、
前記電動モータの通電電流から、前記電動モータが出力するトルクを算出するモータトルク算出部と、
前記電動モータの回転角から、前記車体の前進方向の加速度を算出する加速度算出部と、
前記電動モータが前記トルクを出力しないときに、前記加速度が所定の第1の基準を満たすと、搭乗者による蹴りがあったものと判断し、蹴りにより前記車体に付与される前記前進方向の力を、前記電動モータのトルクに換算した人力トルクを算出する、人力トルク算出部と、
前記蹴りがあったものと判断された後に、前記加速度が所定の第2の基準を満たすと、搭乗者による蹴りが無くなったものと判断し、算出された前記人力トルクに応じたトルクを、所定時間にわたって出力するように、前記電動モータを駆動するモータ駆動部と、
前記搭乗者による蹴りが無くなったものと判断された後、かつ新たな蹴りがあったものと判断される前に、前記車体に加わる後退方向の力である後退力を算出する、後退力算出部と、を備え、
前記人力トルク算出部は、前記前進方向の力を、検知される前記積載重量、算出される前記加速度、及び算出される前記後退力に基づいて算出し、
前記後退力算出部は、前記後退力を、検知される前記積載重量、算出される前記加速度、及び算出される前記モータトルクに基づいて算出する、請求項1に記載の電動アシスト・キックスケーター。
【請求項3】
前記モータ駆動部は、算出された前記人力トルクの定数倍を最大トルクとして設定し、前記所定時間にわたって、前記最大トルク以内の大きさのトルクを出力するように、前記電動モータを駆動する、請求項2に記載の電動アシスト・キックスケーター。
【請求項4】
前記トルク制御装置は、前記電動モータの回転角から、前記車体の前進方向の速度を算出する速度算出部を、さらに有し、
前記モータ駆動部は、前記定数として、前記速度に依存する値を設定する、請求項3に記載の電動アシスト・キックスケーター。
【請求項5】
前記モータ駆動部は、前記所定時間の当初に前記最大トルクを出力し、その後に、減衰するトルクを出力するように、前記電動モータを駆動する、請求項3又は4に記載の電動アシスト・キックスケーター。
【請求項6】
前記電動モータは、ブラシレスDCモータであり、
前記モータトルク算出部は、
前記電動モータの通電電流をq成分の電流に変換するq変換部と、
変換された前記q成分の電流を前記電動モータのトルクに変換するトルク変換部と、を有する、請求項2から5のいずれかに記載の電動アシスト・キックスケーター。
【請求項7】
前記モータ駆動部は、
前記人力トルクに応じた前記トルクからq成分の電流を算出するq成分算出部と、
変換された前記q成分の電流を前記電動モータの通電電流に変換する通電電流変換部と、を有し、
変換された前記通電電流が前記電動モータに通電されるように、前記電動モータを駆動する、請求項6に記載の電動アシスト・キックスケーター。
【請求項8】
前記第1の基準は、前記加速度が正の基準値を超えることである、請求項2から7のいずれかに記載の電動アシスト・キックスケーター。
【請求項9】
前記第2の基準は、前記加速度が正から負に転じることである、請求項2から8のいずれかに記載の電動アシスト・キックスケーター。
【請求項10】
コンピュータを請求項1から9のいずれかに記載の電動アシスト・キックスケーターが備える前記トルク制御装置として機能させるプログラムであるトルク制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アシスト型のキックスケーター及びその制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
キックスケーターは、踏み板の上に片足を乗せ、別の片足で路面を蹴ることにより前進する、搭乗者自身の人力を動力源とする車両の一種である。通常は操舵用のハンドルが設けられており、両手でハンドルを握ることにより、進行方向を任意に変えることが可能となっている。同じく人力を動力源とする自転車とは、動力源となる踏力を受けるペダルが無い点が、相違点の一つとなっている。
【0003】
自転車に関しては、電動モータにより人力を補助する電動アシスト自転車が、人力と電動力を融合させた新しい移動手段としてその快適さや安全性が認知され、1993年の市販開始以来、市場に広く受け入れられている。電動アシスト自転車では、ペダルに付与される踏力が踏力センサにより検知され、この踏力に応じたアシスト力が電動モータにより生成される(例えば、特許文献1)。
【0004】
キックスケーターにも、電動モータにより推進力を得るタイプの電動キックスケーターが知られている(例えば、特許文献2)。しかし、人力に応じて電動の駆動力がアシスト力として付加される形態ではないため、快適さ安全性の観点で不足があり、このため、電動キックスケーターは普及が進んでいないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-198505号公報
【特許文献2】実登3081197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者は、かかる状況に鑑みて、もしも電動アシスト自転車と同様に、電動モータにより人力を補助する電動アシスト型のキックスケーターが実現すれば、電動アシスト自転車と同様に、ユーザの安全性が各段に向上するであろう、と思うに至った。電動アシスト型のキックスケーターを実現するには、アシスト力を算出する根拠となる、搭乗者の蹴りによる踏力を検知する必要がある。この蹴りの踏力が、反作用として車体に前進方向の力を付与する。しかし、搭乗者による蹴りの踏力は、路面に直接に作用するものであって、自転車のようにペダルに付与されるものではない。従って、キックスケーターでは、ペダルに付与される踏力を踏力センサにより検知する電動アシスト自転車とは異なり、踏力の検知が容易ではない、という問題点が想定された。
【0007】
本願発明者は、この問題点に対して研究を進める中で、電動アシストをする電動モータのトルクから、搭乗者の踏力を間接的に検知できることを見出した。本発明は、かかる本願発明者の発見に基づいてなされたものであり、搭乗者の蹴りの力に応じたアシスト力が得られる電動アシスト型のキックスケーター、及びその制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のうち第1の態様によるものは、電動アシスト・キックスケーターであって、車輪を駆動する電動モータと、車体の積載重量を検知する重量センサと、前記電動モータのトルクを制御するトルク制御装置と、を備えている。前記トルク制御装置は、前記電動モータのトルク、前記電動モータの回転角、及び検知される前記積載重量に基づいて、搭乗者の蹴りにより前記車体に付与される前進方向の力を算出し、算出された前記前進方向の力に応じた前進方向のアシスト力を前記車体に付与するように、前記電動モータのトルクを制御する。
【0009】
この構成によれば、搭乗者の蹴りの力に応じたアシスト力が得られる電動アシスト型のキックスケーターが実現する。
【0010】
本発明のうち第2の態様によるものは、第1の態様による電動アシスト・キックスケーターであって、前記トルク制御装置は、モータトルク算出部と、加速度算出部と、人力トルク算出部と、モータ駆動部と、後退力算出部と、を備えている。モータトルク算出部は、前記電動モータの通電電流から、前記電動モータが出力するトルクを算出する。加速度算出部は、前記電動モータの回転角から、前記車体の前進方向の加速度を算出する。人力トルク算出部は、前記電動モータが前記トルクを出力しないときに、前記加速度が所定の第1の基準を満たすと、搭乗者による蹴りがあったものと判断し、蹴りにより前記車体に付与される前記前進方向の力を、前記電動モータのトルクに換算した人力トルクを算出する。モータ駆動部は、前記蹴りがあったものと判断された後に、前記加速度が所定の第2の基準を満たすと、搭乗者による蹴りが無くなったものと判断し、算出された前記人力トルクに応じたトルクを、所定時間にわたって出力するように、前記電動モータを駆動する。後退力算出部は、前記搭乗者による蹴りが無くなったものと判断された後、かつ新たな蹴りがあったものと判断される前に、前記車体に加わる後退方向の力である後退力を算出する。前記人力トルク算出部は、前記前進方向の力を、検知される前記積載重量、算出される前記加速度、及び算出される前記後退力に基づいて算出する。前記後退力算出部は、前記後退力を、検知される前記積載重量、算出される前記加速度、及び算出される前記モータトルクに基づいて算出する。
【0011】
この構成によれば、搭乗者による蹴りが無いときに後退力を算出することにより、蹴りがあったときに車体に付与される前進方向の力を算出している。それにより、車体に作用する摩擦力等の後退力と、蹴りによる前進方向の力との、運動方程式における2つの未知数を算出することを可能にしている。なお、「後退力」には、車体に加わる路面からの摩擦力、車体及び搭乗者に加わる空気摩擦力の他に、路面が傾斜していることにより車体に加わる後退方向の力が含まれる。
【0012】
本発明のうち第3の態様によるものは、第2の態様による電動アシスト・キックスケーターであって、前記モータ駆動部は、算出された前記人力トルクの定数倍を最大トルクとして設定し、前記所定時間にわたって、前記最大トルク以内の大きさのトルクを出力するように、前記電動モータを駆動する。
【0013】
この構成によれば、安全性等を考慮し、適切なアシスト倍率を超えないように、アシスト力を設定することができる。
【0014】
本発明のうち第4の態様によるものは、第3の態様による電動アシスト・キックスケーターであって、前記トルク制御装置は、前記電動モータの回転角から、前記車体の前進方向の速度を算出する速度算出部を、さらに有し、前記モータ駆動部は、前記定数として、前記速度に依存する値を設定する。
【0015】
この構成によれば、車体速度が大きい場合にも、安全性等を考慮し、適切なアシスト倍率を超えないように、アシスト力を設定することができる。
【0016】
本発明のうち第5の態様によるものは、第3又は第4の態様による電動アシスト・キックスケーターであって、前記モータ駆動部は、前記所定時間の当初に前記最大トルクを出力し、その後に、減衰するトルクを出力するように、前記電動モータを駆動する。
【0017】
この構成によれば、搭乗者に違和感の少ない自然なアシスト力が車体に加えられる。
【0018】
本発明のうち第6の態様によるものは、第2から第5のいずれかの態様による電動アシスト・キックスケーターであって、前記電動モータは、ブラシレスDCモータである。また、前記モータトルク算出部は、前記電動モータの通電電流をq成分の電流に変換するq変換部と、変換された前記q成分の電流を前記電動モータのトルクに変換するトルク変換部と、を有する。
この構成によれば、電動モータのトルクの算出が容易に行われる。
【0019】
本発明のうち第7の態様によるものは、第6の態様による電動アシスト・キックスケーターであって、前記モータ駆動部は、前記人力トルクに応じた前記トルクからq成分の電流を算出するq成分算出部と、変換された前記q成分の電流を前記電動モータの通電電流に変換する通電電流変換部と、を有し、変換された前記通電電流が前記電動モータに通電されるように、前記電動モータを駆動する。
この構成によれば、電動モータが出力するトルクの制御が容易に行われる。
【0020】
本発明のうち第8の態様によるものは、第2から第7のいずれかの態様による電動アシスト・キックスケーターであって、前記第1の基準は、前記加速度が正の基準値を超えることである。
この構成によれば、搭乗者による蹴りがあったか否かの判断が、容易に行われる。
【0021】
本発明のうち第9の態様によるものは、第2から第8のいずれかの態様による電動アシスト・キックスケーターであって、前記第2の基準は、前記加速度が正から負に転じることである。
この構成によれば、搭乗者による蹴りが無くなったか否かの判断が、容易に行われる。
【0022】
本発明のうち第10の態様によるものは、トルク制御プログラムであって、コンピュータを第1から第9のいずれかの態様による電動アシスト・キックスケーターが備える前記トルク制御装置として機能させるプログラムである。
【0023】
この構成によれば、コンピュータを、本発明の各態様による電動アシスト・キックスケーターが備えるトルク制御装置として機能させることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように本発明によれば、搭乗者の蹴りの力に応じたアシスト力が得られる電動アシスト型のキックスケーター、及びその制御プログラムが実現する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施の形態による電動アシスト・キックスケーターの外観を例示する斜視図である。
図2図1の電動アシスト・キックスケーターに作用する力を例示する説明図である。
図3図1の電動アシスト・キックスケーターの構成を例示するブロック図である。
図4図2のトルク制御装置の動作手順を例示するフローチャートである。
図5図2のトルク制御装置の各部において算出される変数の時間変化を例示する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明の一実施の形態による電動アシスト・キックスケーターの外観を例示する斜視図である。また、図2は、図1の電動アシスト・キックスケーターに作用する力を例示する説明図である。この電動アシスト・キックスケーター101(以下、「キックスケーター101」と適宜略記する)は、アシスト力を車体1に付与する電動モータ3を有し、搭乗者90が路面4を蹴るときの踏力の反作用として車体1に付与される前進方向の力Fを、電動モータ3のトルクτを利用して間接的に検知し、検知した力に応じたアシスト力を得るように構成されている。図示例では、車輪は前輪5及び後輪7の2輪であり、電動モータ3の回転子の軸(図示略)は、減速歯車等を介することなく、後輪7の車軸(図示略)に直結されている。従って、電動モータ3のトルクτは、後輪7のトルクに一致する。後輪7の車軸(図示略)は、車体1の一部である踏み板9の後部に軸支されており、同じく踏み板9に固定された電動モータ3によって、この車軸が駆動される。なお、車体1とは、車輪5,7等をも含んだキックスケーター101の全体を指す用語として用いる。従って、車体1の重量とは、キックスケーター101の全体の重量を意味する。
【0027】
踏み板9の上面には、重量センサ11が設けられている。重量センサ11は、踏み板9に加わる積載重量wを検知する。積載重量wには、踏み板9の上に乗る搭乗者90の重量、搭乗者90が携帯する荷物の重量などが含まれ得る。重量センサ11として、例えば歪ゲージを利用したロードセルが使用可能である。踏み板9の下面には、電動モータ3等に電力を供給する電源17、電動モータ3のトルクτを制御するトルク制御装置21、トルク制御装置21の制御を受けて電動モータ3に通電する電流を調整するPWMコントローラ19が収容されている。前輪5の軸受け15は、車体1の前部に軸支される操舵用のハンドル13に連結している。それにより、車体1は、搭乗者90のハンドル13の操作により、進行方向を任意に変えることが可能である。
【0028】
図3は、キックスケーター101の構成を例示するブロック図である。キックスケーター101は、電動モータ3、重量センサ11の他に、電源17、PWMコントローラ19及びトルク制御装置21を有している。電動モータ3は、一例として三相のブラシレスDCモータである。電動モータ3には、回転子の回転角位置を検知するホールセンサ23を有している。電源17は、例えば充電式乾電池(二次電池)であり、電動モータ3、トルク制御装置21等の各装置に電力を供給する。PWMコントローラ19は、電源17から供給される電力を、トルク制御装置21から出力される制御信号に応じて、パルス幅変調により調整し、相電流i、i、iとして電動モータ3に伝えるインバータ回路である。
【0029】
トルク制御装置21は、電動モータ3のトルクτ、電動モータ3の回転角θ、及び重量センサ11により検知される積載重量wに基づいて、搭乗者90の蹴りにより車体1に付与される前進方向の力Fを算出し、算出された力Fに応じた前進方向のアシスト力を車体1に付与するように、PWMコントローラ19に制御信号を送ることにより、電動モータ3のトルクτを制御する。図示例では、制御装置21は、モータ回転角検知部22、速度算出部24、加速度算出部25、人力トルク算出部27、総質量算出部28、モータトルク算出部29、後退力算出部31、及びモータ駆動部33を有している。トルク制御装置21は、コンピュータ(図示略)を有しており、コンピュータが内蔵するメモリ(図示略)に記憶されたプログラムに基づいて動作することにより、これらの装置部22~33が実現する。
【0030】
モータ回転角検知部22は、電動モータ3に備わるホールセンサ23の信号に基づいて、電動モータ3の回転子の回転角、すなわちモータ回転角θを算出する。速度算出部24は、モータ回転角検知部22が算出するモータ回転角θから、車体1の前進方向の速度vを算出する。加速度算出部25は、速度算出部24が算出する速度vから、車体1の前進方向の加速度dv/dtを算出する。すなわち図示例では、加速度算出部25は、電動モータ3の回転角θから、間接的に加速度dv/dtを算出する。
【0031】
モータトルク算出部29は、電動モータ3の相電流i、i、iから、電動モータ3が出力するトルクτを算出する。モータトルク算出部29は、相電流検知部34、q変換部35及びトルク変換部36を有している。相電流検知部34は、相電流i、i、iの経路に設けられる抵抗器(「シャント抵抗」と称される;図示略)の電圧降下を検知することにより、相電流i、i、iを間接的に検知する。q変換部35は、相電流i、i、iを、q成分の電流iに変換する。電流iは、三相のブラシレスDCモータについては、数式(1)により表されるdq変換を行うことにより、算出することができる。数式(1)は、モータ回転角θに依存する。従って、モータトルク算出部29は、モータ回転角検知部22が算出するモータ回転角θをも参照する。
【0032】
【数1】
【0033】
変換によって得られるd成分の電流iは、トルクτに寄与しない無効電流成分であり、q成分の電流iは、トルクτに寄与する有効電流成分である。q変換部35は、dq変換を行うことにより、q成分の電流iと同時に、d成分の電流iをも算出する。後述するように、電流iはトルクτの算出に用いられ、電流iは、数式(1)を逆に用いて相電流i、i、iを算出するのに用いられる。電流iとトルクτとの間には、数式(2)により表される比例関係が成立する。
【0034】
【数2】
【0035】
ここで、Pnは、電動モータ3の極数であり、φは定数である。トルク変換部36は、q変換部35によって変換された電流iをトルクτに変換する。
【0036】
後退力算出部31は、車体1に加わる後退方向の力である後退力Rbを算出する。キックスケーター101及び搭乗者90には、空気抵抗及び路面摩擦などによる抵抗力Rresが作用する。また、キックスケーター101が走行する路面4が傾斜しているときには、路面4の前方傾斜角γに応じて、mg・sin(γ)の大きさの後ろ向きの力が、車体1に加わる。前方傾斜角γは、上り坂では正、下り坂では負となるように定義される。従って、後退力Rbは、数式3により与えられる。
【0037】
【数3】
【0038】
ここで、mは、車体1の質量と搭乗者90を含む積載物の質量との総和、すなわち総質量であり、gは重力加速度である。車体1の質量は車体の製造者において既知である。積載物の質量は、積載重量wを質量に換算することにより(すなわち、w/gとして)得ることができる。総質量mは、重量センサ11が検知する積載重量wに基づいて、総質量算出部28により算出される。
車体1の運動を記述する運動方程式は、数式(4)によって表される。数式(4)において、rは車輪7の半径である。
【0039】
【数4】
【0040】
数式(4)で表される運動方程式において、総質量m、加速度dv/dt、トルクτは、上述した手段により算出される。また、車輪半径rは、キックスケーター101の製造者において既知である。
数式(4)において未知数は、車体1に作用する摩擦力Rres等の後退力Rbと、蹴りによる前進方向の力Fとの2変数である。このため、トルク制御装置21は、搭乗者90による蹴りが無いとき、すなわち蹴りにより車体1に付与される前進方向の力Fがゼロであるときに、後退力Rbを算出し、蹴りがあったときに車体1に付与される前進方向の力Fを、直前に算出した後退力Rbを使うことにより算出する。それにより、数式(4)の運動方程式における2つの未知数を算出することを可能にしている。従って、後退力算出部31は、後退力Rbを数式(5)によって算出する。
【0041】
【数5】
【0042】
蹴りがあったか否かは、加速度dv/dtに基づいて判定される。一例として、加速度dv/dtが、所定の正の基準値αを超えたときに、蹴りがあったものと判定され、その後に加速度dv/dtが負となったときに、蹴りが無くなったもの判定される。従って、後退力算出部31は、後退力Rbを、総質量算出部28によって算出される総質量m、加速度算出部25によって算出される加速度dv/dt、及びモータトルク算出部29によって算出されるトルクτに基づいて算出する。
【0043】
人力トルク算出部27は、搭乗者90の蹴りにより車体1に付与される前進方向の力Fを電動モータ3のトルクに換算した人力トルクτを算出する。人力トルクτは、数式(6)により与えられる。
【0044】
【数6】
【0045】
従って、人力トルクτは、後退力算出部31が最新に算出した後退力Rbを使って、数式(7)により算出される。数式(7)は、数式(4)及び(6)により導かれる。
【0046】
【数7】
【0047】
人力トルクτは、車体1にアシスト力を付与する電動モータ3のトルクτ、すなわちアシストトルクτの大きさを設定する基準となる。すなわち、人力トルクτの大きさに応じたアシストトルクτによるアシスト力が、車体1に付与される。アシスト力は有限の所定時間に限って付与され、アシスト力の付与が終了したことを前提として、新たな蹴りに基づく人力トルクτが算出される場合には、人力トルクτは、数式(7)に代えて、数式(8)に従って算出される。この場合には、人力トルク算出部27は、人力トルクτを、総質量算出部28によって算出される総質量m、加速度算出部25によって算出される加速度dv/dt、及び後退力算出部31によって算出される後退力Rbに基づいて算出することとなる。
【0048】
【数8】
【0049】
モータ駆動部33は、人力トルク算出部27が算出した人力トルクτに応じたアシストトルクτを、一例として、所定時間にわたって出力するように、電動モータ3を駆動する。それにより、車体1にアシスト力が付加される。図示例では、モータ駆動部33は、アシストトルク算出部40、q成分算出部37及び通電電流変換部39を有している。アシストトルク算出部40は、人力トルク算出部27が算出した人力トルクτに基づいて、アシストトルクτを算出する。後述するように、アシストトルク算出部40は、人力トルクτに応じたトルクτを算出するのに、速度算出部24が算出する速度vをも参照しても良い。q成分算出部37は、アシストトルク算出部40が算出したアシストトルクτから、q成分の電流iを算出する。この計算は、数式(2)に従って行うことができる。通電電流変換部39は、電流iを、電動モータ3の通電電流、すなわち相電流i、i、iに変換する。この変換には、数式(1)を用いることができる。従って、通電電流変換部39は、モータ回転角検知部22が検知するモータ回転角θをも参照することにより計算を行う。変換に要するd成分の電流iには、q変換部35によって最新に算出された電流iが用いられる。電流I及び電流Iは、相電流i、i、iとは異なり、モータ回転角θへの依存性がなく、比較的安定しているので、電流Iと電流Iとの間で、算出された時点が僅かに異なっていても、相電流i、i、iの計算精度に問題は無い。モータ駆動部33は、変換された相電流i、i、iが電動モータ3に通電されるように、PWMコントローラ19を通じて、電動モータ3を駆動する。
【0050】
図4は、トルク制御装置21の動作手順を例示するフローチャートである。以下において、図4を参照しつつ、トルク制御装置21の動作の流れについて説明する。搭乗者90が車体1に設けられるスタートキー(図示略)を操作する等により、電源17からトルク制御装置21を含む各装置に電力の供給が開始されることにより、トルク制御装置21の動作が開始されると、まずステップS1において初期化が行われる。このステップS1では、トルク制御装置21が使用する全ての変数が初期化される。初期化が終了するとメインループの処理であるステップS3~S17の処理が反復して実行される。同時に、割り込みが繰り返し行われ、その度に、割り込み処理として、ステップS21~S29の処理が実行される。割り込みは、例えば一定周期で行われる。メインループの処理及び割り込み処理は、搭乗者90がスタートキーを操作することにより、電源17からトルク制御装置21への電力の供給を遮断するまで続けられる。
【0051】
割り込み処理では、初めにステップS21において、モータトルク算出部29の相電流検知部34により、電動モータ3の相電流i、i、iが検知され、モータ回転角検知部22により、電動モータ3の回転角θが検知され、かつ総質量算出部28により総質量mが算出される。次に、ステップS23において、検知された相電流i、i、iがq変換部35によりdq変換されることにより、q成分の電流iとd成分の電流iが得られる。次に、ステップS25において、トルク変換部36により、電流iがトルクτに変換される。次にステップS27において、検出された回転角θから速度算出部24により速度vが算出される。速度vは、例えば、前回の割り込み処理で検出された回転角θと、今回の割り込み処理で検出された回転角θとの間の差に基づいて算出される。次に、ステップS29において、算出された速度vから加速度算出部25により加速度dv/dtが算出される。加速度dv/dtは、例えば、前回の割り込み処理で算出された速度vと、今回の割り込み処理で検出された速度vとの間の差に基づいて算出される。
【0052】
算出される値の精度を高めるために、例えば速度v及び加速度dv/dtとして、現在までの所定回数の割り込み処理により得られた値の平均値を算出しても良い。平均値は、現在に近いほど重みを大きくした加重平均であってもよい。また、割り込み処理において実行される各ステップは、処理が可能な限り順序は任意である。例えば、ステップS23,25を、ステップS27、29の後に実行しても良い。
【0053】
メインループでは、先ずステップS3において、加速度dv/dtが所定の正の基準値αを超えているか否かにより、搭乗者90による蹴りが発生したか否かが判定される。この処理は、人力トルク算出部27によって行われる。人力トルク算出部27は、加速度dv/dtが基準値αを超えるまで、ステップS3の処理を反復する。人力トルク算出部27は、加速度dv/dtが基準値αを超えた、と判定すると、ステップS5において、人力トルクτを算出する。このとき、アシストトルクτは付加されていないので、人力トルクτは、数式(8)により算出される。メインループが開始された後の第1回目のステップS5では、後退力Rbは未だ算出されていないので、後退力Rbとして、ステップS1において与えられた初期値、例えば「0」の値が用いられる。次に、人力トルク算出部27は、ステップS7において、加速度dv/dtが負の値に転じたか否かを判定することにより、搭乗者90による蹴りが終了したか否かを判定する。人力トルク算出部27は、加速度dv/dtが負に転じたと判定するまで、ステップS5,S7のループを反復する。
【0054】
人力トルク算出部27は、ステップS5,S7のループを反復する中で、人力トルクτの精度を高めるために、現在までの所定回数(例えば4回など)のループにおいて算出された人力トルクτの平均値、あるいはループを繰り返すことにより算出された全ての人力トルクτの平均値を算出してもよい。平均値は、現在に近いほど重みを大きくした加重平均であってもよい。さらに、ステップS5,S7のループにおいて繰り返し算出された人力トルクτの最大値を、人力トルクτとして算出しても良い。
【0055】
人力トルク算出部27が、ステップS7において、加速度dv/dtが負に転じたと判定すると、モータ駆動部33は、人力トルク算出部27が算出した人力トルクτに応じたアシストトルクτを出力するように、電動モータ3を駆動する。図示例では、まずステップS9において、人力トルクτより、初期アシストトルクτが設定される。この処理は、モータ駆動部33のアシストトルク算出部40により実行される。初期アシストトルクτは、電動モータ3のアシストトルクτの初期値である。ステップS15について後述するように、アシストトルクτは、初期アシストトルクτを超えないように設定される。従って、初期アシストトルクτは、アシストトルクτの最大値でもある。初期アシストトルクτは、例えば人力トルクτの係数倍に設定される。係数は2倍など、定数であっても良い。あるいは、アシストトルク算出部40は、速度算出部24が算出する速度vを参照することにより、係数として、速度vに依存する値を設定しても良い。例えば、速度vが高いときには、係数が低くなるように設定しても良い。それにより、安全性がより高められる。
【0056】
次に、モータ駆動部33は、ステップS11において、アシストを開始する。すなわち、アシストトルク算出部40により、アシストトルクτとして、初期アシストトルクτが設定され、設定されたアシストトルクτに対応するq成分の電流iが、q成分算出部37により算出され、算出された電流iが通電電流変換部39により相電流i、i、iに変換される。この変換には、最新の割り込み処理のステップS23において、算出されたd成分の電流iが、q成分算出部37により算出された電流Iとともに用いられる。割り込み処理は、絶えず反復して実行されるので、電流Iと電流Iとの間で、算出された時間の差は僅かである。このため、相電流i、i、iの計算精度に問題は無い。モータ駆動部33は、変換された相電流i、i、iを電動モータ3に通電するように、PWMコントローラ19に制御信号を送る。これにより、電動モータ3は、設定されたアシストトルクτを出力する。
【0057】
次に、ステップS12において、後退力算出部31により、後退力Rbが算出され、算出された後退力Rbは、トルク制御装置21内のメモリ(図示略)に保存される。搭乗者90による蹴りは終了していることから、ステップS12においては、蹴りにより車体1に付与される前進方向の力Fはゼロであるので、後退力算出部31は、既述の通り、数式(5)によって後退力Rbを算出する。
【0058】
次に、ステップS13において、アシストが開始されてから所定時間が経過したか否かが判定される。この処理は、一例としてモータ駆動部33のアシストトルク算出部40により行われる。アシストトルク算出部40は、所定時間が経過していないと判定すると、ステップS15において、アシストトルクτを減少させるか、又は維持することにより、新たなアシストトルクτを設定する。q成分算出部37及び通電電流変換部39により、新たに設定されたアシストトルクτに対応した相電流i、i、iが算出される。モータ駆動部33は、変換された相電流i、i、iを電動モータ3に通電するように、PWMコントローラ19に制御信号を送る。これにより、電動モータ3は、新たに設定されたアシストトルクτを出力する。
【0059】
その後に、処理はステップS12に戻り、後退力算出部31による後退力Rbの算出が再び行われる。このようにして、所定時間が経過するまで、後退力Rbの算出と、電動モータ3が出力するアシストトルクτの更新とが行われる。アシストトルクτは、例えば、所定時間が経過するより前のある時間まで、初期アシストトルクτから減少を続け、その後は所定時間が経過するまで一定値に維持するように設定しても良い。あるいは、所定時間が経過するまで、初期アシストトルクτから、例えば時間の指数関数に従って減少するように、アシストトルクτを設定しても良い。さらには、ステップS9においては、初期アシストトルクτに代えて、一般に最大のアシストトルクが人力トルクτに応じて設定され、ステップS11及びS15では、設定された最大のアシストトルクを超えないようにアシストトルクτが設定されてもよい。最大のアシストトルクは、初期アシストトルクτと同様に、例えば人力トルクτの係数倍に設定することができ、さらに係数を速度vに依存したものとすることもできる。例えば、速度vが高いときには、係数が低くなるように設定しても良い。それにより、安全性がより高められる。
【0060】
後退力算出部31は、ステップS12,S13、S15のループを反復する中で、後退力Rbの精度を高めるために、現在までの所定回数(例えば4回など)のループにおいて算出された後退力Rbの平均値、あるいはループを繰り返すことにより算出された全ての後退力Rbの平均値を算出してもよい。平均値は、現在に近いほど重みを大きくした加重平均であってもよい。
【0061】
ステップS13において、所定時間が経過したと判定されると、ステップS17において、モータ駆動部33はアシストを終了する。すなわち、アシストトルク算出部40は、アシストトルクτをゼロに設定し、q成分算出部37及び通電電流変換部39により、ゼロに設定されたアシストトルクτに対応した相電流i、i、iが算出される。モータ駆動部33は、変換された相電流i、i、iを電動モータ3に通電するように、PWMコントローラ19に制御信号を送る。これにより、電動モータ3は、アシストトルクτの出力を停止する。
【0062】
ステップS17が終了すると、処理はステップS3に戻り、メインループの処理を繰り返す。第2回目以降のメインループにおいては、ステップS5における人力トルクτの算出は、直前のメインループのステップS12において算出された後退力Rbを用いて、数式(8)に従って行われる。第2回目以降のメインループにおいても、ステップS5においてはアシストトルクτは付与されていないので、数式(8)に従って後退力Rbを算出することができる。図4に例示した以上の処理により、搭乗者90の蹴りの力に応じたアシスト力が得られる電動アシスト型のキックスケーター101が実現する。
【0063】
図5は、図4の手順に従って動作するトルク制御装置21の各部において算出される変数の時間変化を例示する波形図である。縦軸は、加速度dv/dt、アシストトルクτ、人力トルクτ、及び速度vを表している。図示例では、時刻t1において搭乗者90による蹴りが発生し、時刻t4において蹴りが終了する。蹴りが行われる時刻t1~t4の期間において、蹴りにより車体1に付与される前進方向の力Fにより、加速度dv/dtは、一例として図示の通りの変化をする。図示例では、加速度dv/dtは時刻t3において最高値となる。時刻t4では、蹴りが無くなることにより、加速度dv/dtは負に転じる。数式(4)からも理解されるように、蹴りが無ければ、加速度dv/dtは後退力Rbによって負の値となる。加速度dv/dtが正である時刻t1~t4の期間においては、図示の通り、速度vは加速度dv/dtにより表される増加率に従って増加する。
【0064】
時刻t2において、加速度dv/dtが所定の正の基準値αを超えると、人力トルクτの算出が開始される。人力トルクτの算出は、加速度dv/dtが負に転じる時刻t4まで、繰り返し行われる。人力トルクτは、数式(8)によって算出されるので、加速度dv/dtと同様に増減する。すなわち、人力トルクτの波形は、図5において点線の曲線で描かれるように、加速度dv/dtの波形を縦軸方向正の向きにシフトした波形となる。
【0065】
図示例では、時刻t4よりも僅かに遅れた時刻t5において、アシストが開始される。図示例では、初期アシストトルクτは、人力トルクτの2倍に設定される。また、図示例では、初期アシストトルクτを設定する基準とされる人力トルクτとして、繰り返し算出された人力トルクτの最高値が採用される。アシストトルクτは、時刻t5から所定時間を経過する時刻t7まで、繰り返し設定され、電動モータ3は、設定されたアシストトルクτを発生するように動作する。図示例では、時刻t5から所定時間が経過するより前の時刻t6までは、アシストトルクτは、直線的に減少するように設定され、その後の時刻t6~t7の期間においては、一定の低い値に維持される。数式(4)から理解されるように、蹴りによる前進方向の力Fが無くても、加速度dv/dtは、アシストトルクτにより正の値を取ることができ、しかもアシストトルクτと同様に増減する。従って、アシストが行われる時刻t5~t7の期間においては、加速度dv/dtの波形は、図示の曲線で表される通り、アシストトルクτの波形を縦軸方向負の向きにシフトした波形となる。
【0066】
蹴りが終了することにより前進方向の力Fが無くなってから、アシストが開始されるまでの時刻t4~t5の短期間においては、加速度dv/dtは負である。このため、この期間においては、速度vは減少する。時刻t5においてアシストが開始されると、加速度dv/dtは正に転じ、アシストが終了する時刻t7まで、加速度dv/dtは正であるので、速度は時刻t5~t7の期間においては、加速度dv/dtに比例した増加率に従って増加する。アシストが終了する時刻t7以降は、加速度dv/dtは負であるので、速度vは減少する。
【0067】
アシストが終了する時刻t7より後に、搭乗者90による蹴りが、新たに発生すると、加速度dv/dt、人力トルクτ、アシストトルクτは、図示例と同様の波形を再び描くこととなる。速度vは、蹴りが新たに発生したときの速度vを初期値とするように縦軸方向にシフトしつつ、図示例と同様の波形を再び描くこととなる。
【0068】
(その他の実施の形態)
キックスケーター101として、電動モータ3の回転子の軸は、減速歯車等を介することなく、後輪7の車軸に直結されている例を示した。その結果、電動モータ3のトルクτは、後輪7のトルクに一致した。これに対して、電動モータ3の回転子の軸は、減速歯車、ベルト等を介することにより、後輪7の車軸に連結されていても良い。この場合においても、減速歯車等の減速比がNであれば、後輪7の半径rを、r/Nに置き換えるのみで、数式(4)~(8)は、そのまま成立する。すなわち、減速比Nの減速歯車等を使用したキックスケーター101は、制御装置21の動作に関して、後輪7の半径rをN倍小さくしたキックスケーター101と等価である。従って、図4に例示した動作に変わりはない。
【符号の説明】
【0069】
1 車体、 3 電動モータ、 4 路面、 5 前輪、 7 後輪、 9 踏み板、 11 重量センサ、 13 ハンドル、 15 軸受け、 17 電源、 19 PWMコントローラ、 21 トルク制御装置、 22 モータ回転角検知部、 23 ホールセンサ、 24 速度算出部、 25 加速度算出部、 27 人力トルク算出部、 28 総質量算出部、 29 モータトルク算出部、 31 後退力算出部、 33 モータ駆動部、 34 相電流検知部、 35 q変換部、 36 トルク変換部、 37 q成分算出部、 39 通電電流変換部、 40 アシストトルク算出部、 90 搭乗者、 101 電動アシスト・キックスケーター、 F 前進方向の力、 g 重力加速度、 i、i、i 相電流、 i d成分電流、 i q成分電流、 m 総質量、 r 車輪半径、 Rb 後退力、 Rres 抵抗力、 v 速度、 dv/dt 加速度、 w 積載重量、 α 基準値、 γ 前方傾斜角、 θ モータ回転角、 τ トルク(アシストトルク)、 τ 人力トルク、 τ 初期アシストトルク。
図1
図2
図3
図4
図5