(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074210
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】スカイビングカッタを用いた歯車加工方法
(51)【国際特許分類】
B23F 5/16 20060101AFI20220511BHJP
B23F 21/10 20060101ALI20220511BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20220511BHJP
B23Q 11/02 20060101ALN20220511BHJP
【FI】
B23F5/16
B23F21/10
B23B27/14 A
B23Q11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184064
(22)【出願日】2020-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 嗣紀
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】山崎 格
【テーマコード(参考)】
3C011
3C025
3C046
【Fターム(参考)】
3C011CC00
3C025AA11
3C025EE00
3C046FF09
3C046FF10
3C046FF13
(57)【要約】
【課題】スカイビングカッタを用いた歯車の加工方法において、スカイビングカッタの切削性能を維持できるスカイビングカッタを用いた歯車加工方法を提供する。
【解決手段】表面にAlCrNまたはAlTiCrNのいずれかの硬質皮膜が被覆されたスカイビングカッタを用いて被削材に歯車を加工する方法において、スカイビングカッタを冷却するための液体による冷却手段を用いずに圧縮空気のみを被削材に当てながら歯車を加工する。圧縮空気を被削材に当てる位置については、スカイビングカッタと被削材が互いに接触している位置から離間している位置とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にAlCrNまたはAlTiCrNのいずれかの硬質皮膜が被覆されたスカイビングカッタを用いて被削材に歯車を加工する方法であって、前記スカイビングカッタを冷却するための液体による冷却手段を用いずに圧縮空気のみを前記被削材に当てながら前記歯車を加工することを特徴とするスカイビングカッタを用いた歯車加工方法。
【請求項2】
前記歯車は、内歯車であることを特徴とする請求項1に記載のスカイビングカッタを用いた歯車加工方法。
【請求項3】
前記スカイビングカッタと前記被削材が互いに接触する位置から離間した位置で、前記圧縮空気を前記被削材に当てながら前記歯車を加工することを特徴とする請求項2に記載のスカイビングカッタを用いた歯車加工方法。
【請求項4】
前記AlCrNの硬質皮膜は、Al:Cr=60~75%:25~40%の原子比率で構成されるAlCrNであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のスカイビングカッタを用いた歯車加工方法。
【請求項5】
前記AlTiCrNの硬質皮膜は、Al:Ti:Cr=60~65%:30~35%:5%の原子比率で構成されるAlTiCrNであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のスカイビングカッタを用いた歯車加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却剤を使用しないでスカイビングカッタを用いて歯車を加工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、スカイビングカッタを用いて外歯車を加工する場合には、被削材およびスカイビングカッタに冷却剤(クーラント)を接触させながら加工することで、被削材およびスカイビングカッタの温度上昇を抑制している。また、最近では環境保護の観点からこれまでの非水溶性の冷却剤から水溶性の冷却材へ変更して歯車加工を行う事例が増えている。
【0003】
水溶性の冷却剤(切削油剤)を用いた歯車加工は、非水溶性の冷却剤を用いた場合に比べて、スカイビングカッタの刃先が急冷されるので、歯車加工による加熱と冷却剤による冷却を繰り返すことになる。そのため、スカイビングカッタの表面に被覆されている窒化チタン(TiN)等の硬質皮膜は、繰り返しの熱応力に耐え切れず熱亀裂が発生する場合もあった。
【0004】
そこで、冷却剤を一切しないで歯車加工を行う、いわゆる無潤滑加工(ドライ加工)による歯車加工を行うことで、歯車加工時におけるスカイビングカッタの刃先の急激な温度変化を抑制することができる。同時に、冷却剤を使用しないことで更なる環境保護の役割も果たしている(特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3165658号公報
【特許文献2】特許第6110079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、歯車加工時に液体による冷却剤を使用しないので、切削された切りくずが被削材から離れがたく、被削材の表面に切り屑が付着したまま歯車加工が継続される。そのため、歯車の加工精度に大きな影響を及ぼし、ひいては切り屑がスカイビングカッタの刃先表面に固着(凝着)するという問題があった。
【0007】
また、冷却剤(主に液体)を使用せずに歯車の加工を行うと、スカイビングカッタの刃先の摩耗が進行する。つまり、歯車加工が進むに従って刃先が丸められた状態で摩耗が進行する。そのため、丸められた刃先には切り屑が凝着しやすく、切り屑が刃先に凝着することで切削性能が著しく低下するという問題もあった。
【0008】
そこで、本発明ではスカイビングカッタを用いた歯車の加工方法において、表面に被覆される硬質皮膜を保護することでスカイビングカッタの切削性能を維持できるスカイビングカッタを用いた歯車加工方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するために、本願の発明者が鋭意研究した結果、歯車加工時に使用するスカイビングカッタの表面に被覆される硬質皮膜が、その膜の種類によって耐熱性(熱衝撃特性)が大いに異なることを見出した。
【0010】
スカイビングカッタ等の切削工具の表面には、工具の耐熱性を確保するために、TiやAl等の複数の金属元素から構成される皮膜(硬質皮膜)が被覆される。特に、TiAlN等に代表される硬質皮膜は、多種多様な切削工具に被覆されている。
【0011】
ところが、AlCrN等のCrを含有する硬質皮膜は、その熱衝撃特性がTiAlNの硬質皮膜よりも低いので、急激な温度低下に対して十分な耐熱性が発揮できない場合があった。
【0012】
また、一般的には歯車加工を行う際に、加工機内ではスカイビングカッタや被削材に対して切削油剤が大量に吐出された状態で歯車加工が行われる。そのため、切削加工が行われた直後にスカイビングカッタの刃先は冷却能が高い切削油剤と接触して、急激な温度低下によって表面に被覆された硬質皮膜に亀裂が生じるという問題があった。
【0013】
そこで、本発明はスカイビングカッタの表面にCrを含有する硬質皮膜、すなわちAlCrNまたはAlTiCrNのいずれかの硬質皮膜が刃先の表面に被覆されている場合には、液体による冷却手段を用いることなく切削加工を行う方が、従来のように切削油剤を吐出しながら切削加工を行うよりも刃先表面に被覆された硬質皮膜の亀裂を抑制することを見出した。この場合、切削加工時に発生した切り屑をスカイビングカッタから除去するために圧縮空気(エアー)を被削材に当てながら歯車加工する。
【0014】
また、加工する歯車が内歯車である場合には、被削材(歯車)の隙間に切り屑が付着するため、スカイビングカッタと被削材が互いに接触する位置、すなわち加工位置から離間した箇所において圧縮空気を被削材に当てながら歯車を加工することがより望ましい。
【0015】
なお、スカイビングカッタの刃先に被覆する硬質皮膜については、AlCrNの硬質皮膜の場合には、Al:Cr=60~75%:25~40%の原子比率の範囲で構成し、AlTiCrNの硬質皮膜の場合には、Al:Ti:Cr=60~65%:30~35%:5%の原子比率の範囲で構成することが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のスカイビングカッタを用いた歯車の加工方法において、スカイビングカッタの刃先に被覆する硬質皮膜がCrを含有するAlCrNやAlTiCrNである場合には、従来から行われてきた液体による冷却手段を用いることなく、圧縮空気(エアー)のみを利用して切削加工を行うことで、切削油剤等の冷却手段に起因する急激な温度低下がスカイビングカッタには発生しないので、硬質皮膜の熱亀裂を抑制するという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のスカイビングカッタを用いた歯車加工方法(以下、本加工法という)に関する実施形態について説明する。本加工法において使用するスカイビングカッタおよび歯車加工時の諸条件について、本加工法で使用するスカイビングカッタは、高速度工具鋼(粉末ハイス、溶製ハイス)製または超硬合金製とすることができる。
【0018】
このスカイビングカッタの表面、少なくとも切れ刃のすくい面および逃げ面には、AlCrNの硬質皮膜またはAlTiCrNの硬質皮膜のいずれかを被覆する。硬質皮膜がAlCrNである場合には、硬質皮膜を構成するAlとCrの各元素の比率がAl:Cr=60~75%:25~40%の原子比率(atm%)とすることが望ましい。
【0019】
また、硬質皮膜がAlTiCrNである場合には、硬質皮膜を構成するAlとTiとCrの各元素の比率がAl:Ti:Cr=60~65%:30~35%:5%の原子比率(atm%)とすることが望ましい。なお、AlCrNおよびAlTiCrNの各硬質皮膜は、スカイビングカッタの最表面に被覆されていればよい。すなわち、これらの硬質皮膜の下層には、TiN等の異なる組成の硬質皮膜を形成しても構わない。
【0020】
次に、スカイビングカッタを用いて歯車を加工する際の雰囲気について説明する。加工する歯車の形態が外歯車または内歯車に関わらず、使用する専用のスカイビング盤や汎用の工作機に付帯している圧縮空気(エアーまたはエアブロー)のみを被削材に当てた状態で歯車の加工を行う。その目的は、被削材やスカイビングカッタを冷却するためではなく、あくまでスカイビングカッタの切削加工により発生する切り屑を被削材から除去するためである。
【0021】
この際に、一般的な切削加工時に使用されている水溶性か非水溶性かを問わず切削油剤や潤滑剤等の液体による冷却手段は使用しない。これは、前述したようにスカイビングカッタの表面にAlCrNの硬質皮膜またはAlTiCrNの硬質皮膜のいずれかが被覆されている場合、液体による冷却手段とスカイビングカッタが接触することで、硬質皮膜の表面が急激に温度低下し、切削加工時には硬質皮膜が再び温度上昇することで硬質皮膜には繰り返し応力が発生する結果、硬質皮膜に熱亀裂が発生するためである。
【0022】
なお、スカイビングカッタの歯車加工時に圧縮空気を使用する際は、スカイビングカッタと被削材が互いに接触する位置から離間した位置において、圧縮空気を被削材に当たることが望ましい。例えば、内歯車を加工する場合、切削加工により発生した切り屑は下方に落下せずに、切り屑が遠心力を受けているために被削材の隣接する歯と歯の間(歯溝)に挟まれた状態になることがある。そのような場合、切削加工位置から離れた位置において圧縮空気を被削材に当てることで切り屑を確実に被削材から除去することができる。