(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074256
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】溶剤気化装置および溶剤気化方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/00 20060101AFI20220511BHJP
G01N 1/22 20060101ALI20220511BHJP
B01J 7/02 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01N1/00 101R
G01N1/00 E
G01N1/22 Y
B01J7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184146
(22)【出願日】2020-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000250421
【氏名又は名称】理研計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】石黒 智生
【テーマコード(参考)】
2G052
4G068
【Fターム(参考)】
2G052AB11
2G052AD02
2G052AD22
2G052CA04
2G052CA14
2G052EB01
2G052FD01
2G052HC28
4G068DA06
4G068DB03
4G068DB04
4G068DB22
4G068DB26
4G068DC02
4G068DD03
4G068DD08
4G068DD13
4G068DD15
(57)【要約】
【課題】 気化される溶剤の濃度および、対象となるガス検知器に供給するための希釈濃度の制御を可能にすることにより、点検の精度を高めるとともに、多種の溶剤の使用が可能な汎用性の高い溶剤気化装置および溶剤気化方法を提供する。
【解決手段】溶剤気化装置1は、溶剤7を気化可能な気化部10と、気化溶剤7Aの濃度の制御が可能な濃度制御手段20と、気化溶剤7Aの濃度変化を抑制した状態で前記気化部から下流に送り出す導出路と、気化溶剤7Aを希釈する第一のエアの流路2と、導出路3および流路2の下流端部に位置する合流部13において気化溶剤7Aと第一のエアとを混合し、下流に搬送する希釈ガス流路15と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤を気化可能な気化部と、
気化された前記溶剤(以下、「気化溶剤」という。)の濃度の制御が可能な濃度制御手段と、
前記気化溶剤を前記気化部から下流に送り出す導出路と、
前記気化溶剤を希釈する第一のエアの流路と、
前記導出路および前記流路の下流端部に位置する合流部において前記気化溶剤と前記第一のエアとを混合し、下流に搬送する希釈ガス流路と、を有する、
ことを特徴とする溶剤気化装置。
【請求項2】
前記濃度制御手段は、前記気化溶剤の濃度変化の抑制が可能である、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶剤気化装置。
【請求項3】
前記気化部に第二のエアを送り込む導入路を有する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶剤気化装置。
【請求項4】
液体の溶剤を収容し、該溶剤を気化可能な気化部と、
前記気化部の温度変化の抑制が可能な容器と、
気化された前記溶剤(以下、「気化溶剤」という。)を希釈する第一のエアの流路と、
前記気化部に第二のエアを送り込む導入路と、
前記気化溶剤を前記気化部から下流に送り出す導出路と、
前記導出路と前記流路の下流端部であって前記容器内に設けられた合流部と、
前記合流部の下流に設けられ、前記第一のエアと前記気化溶剤の混合気体を下流に搬送する希釈ガス流路と、を有する、
ことを特徴とする溶剤気化装置。
【請求項5】
前記気化溶剤の濃度変化を抑制した状態で前記気化部から前記合流部に導出し、前記第一のエアと混合させる、
ことを特徴とする請求項4に記載の溶剤気化装置。
【請求項6】
前記第一のエアの流量は、前記第二のエアの流量より大きい、
ことを特徴とする請求項3から請求項5のいずれかに記載の溶剤気化装置。
【請求項7】
前記気化溶剤を常温下で凝縮しない濃度まで希釈する、
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の溶剤気化装置。
【請求項8】
前記気化溶剤は、飽和蒸気圧濃度付近の濃度に維持された状態で前記合流部に導出される、
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の溶剤気化装置。
【請求項9】
前記気化溶剤を凝縮しない状態で前記合流部にて前記第一のエアと混合する、
ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の溶剤気化装置。
【請求項10】
前記第一のエアの流量を制御する流量制御手段を有する、
ことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の溶剤気化装置。
【請求項11】
前記気化部内に前記溶剤の蒸散手段が設けられる、
ことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載の溶剤気化装置。
【請求項12】
気化部において濃度の制御が可能な状態で溶剤を気化するステップと、
気化された前記溶剤(以下、「気化溶剤」という。)を前記気化部から下流に送り出すステップと、
前記気化溶剤の濃度変化を抑制した状態でエアと混合し、所定の濃度に希釈するステップと、を有する、
ことを特徴とする溶剤気化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤気化装置および溶剤気化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス検知装置の点検を行う場合、ガス発生器により試験ガス(具体的に、イソオクタンを気化させたガス)を生成し、対象となるガス検知装置に供給してその動作を確認する方法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の装置では、ガス発生器に対して空気の供給状態と非供給状態とを切り替え可能に構成されるに過ぎず、供給される空気の流量の制御(調整)はなされていない。また、イソオクタンの気化の状態も管理されず、周辺環境(例えば外気温など)に応じた気化に依存する構成となっている。このため、気化した溶剤の濃度、特に供給される空気による希釈濃度(対象となるガス検知装置に供給するための希釈濃度)の制御が不可な構成となっており、点検の精度の向上や、用いる溶剤の種類に限界があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、溶剤を気化可能な気化部と、気化された前記溶剤(以下、「気化溶剤」という。)の濃度の制御が可能な濃度制御手段と、前記気化溶剤を前記気化部から下流に送り出す導出路と、前記気化溶剤を希釈する第一のエアの流路と、前記導出路および前記流路の下流端部に位置する合流部において前記気化溶剤と前記第一のエアとを混合し、下流に搬送する希釈ガス流路と、を有する、ことを特徴とする溶剤気化装置に係るものである。
【0006】
本発明はまた、液体の溶剤を収容し、該溶剤を気化可能な気化部と、前記気化部の温度変化の抑制が可能な容器と、気化された前記溶剤(以下、「気化溶剤」という。)を希釈する第一のエアの流路と、前記気化部に第二のエアを送り込む導入路と、前記気化溶剤を前記気化部から下流に送り出す導出路と、前記導出路と前記流路の下流端部であって前記容器内に設けられた合流部と、前記合流部の下流に設けられ、前記第一のエアと前記気化溶剤の混合気体を下流に搬送する希釈ガス流路と、を有する、ことを特徴とする溶剤気化装置に係るものである。
【0007】
本発明はまた、気化部において濃度の制御が可能な状態で溶剤を気化するステップと、気化された前記溶剤(以下、「気化溶剤」という。)を前記気化部から下流に送り出すステップと、前記気化溶剤の濃度変化を抑制した状態でエアと混合し、所定の濃度に希釈するステップと、を有する、ことを特徴とする溶剤気化方法に係るものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、気化される溶剤の濃度および、対象となるガス検知器に供給するための希釈濃度の制御を可能にすることにより、点検の精度を高めるとともに、多種の溶剤の使用が可能な汎用性の高い溶剤気化装置および溶剤気化方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る溶剤気化装置を示す概要図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る溶剤気化装置を含む流路の一例を示す流路概要図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る溶剤気化装置の他の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<溶剤気化装置>
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の溶剤気化装置1の全体構成の一例を示す側断面図である。なお、本図及び以降の各図において、一部の構成を適宜省略して、図面を簡略化する。また、本図及び以降の各図において、部材の大きさ、形状、厚み等を適宜誇張して表現する。
【0011】
本実施形態の溶剤気化装置1は、例えば、点検対象装置(例えば、ガス検知器など)30の上流に設けられ、当該点検対象装置30の動作確認(点検)のために所定の試験ガス(試験ガス)を生成し、点検対象装置30に供給する装置であり、気化部10と、第一のエアの流路2と、第二のエアの導入路3と、気化溶剤7Aの導出路4と、濃度制御手段20と、希釈ガス流路15などを有する。
【0012】
気化部10は、例えば、略密封状態の閉空間で溶剤7を気化可能な容器状部材である。ここでは一例として、気化部10は、ガラスなどにより構成され所定量の液体の溶剤7を貯留可能な収容部も兼用する。本実施形態における溶剤7は例えば、トルエン、メタノール、エタノール、イソオクタンなどであり、点検対象装置30に応じて適宜選択される。
【0013】
気化部10は、その内部にエア(第二のエア)を送り込むことで、所定方向に気体の流れが生じるように構成される。気化部10は例えば長手方向と短手方向を有する細長形状(略円筒形状、略直方体形状)の容器であり、その長手方向が、気体の流れる方向(気体の送り(搬送)方向)に沿い、略水平となるように(横長に)設置される。溶剤7の初期の収容量は、例えば気化部10の容量の2分の1以下であり、気化部10の下方空間に貯留される。これにより、気化部10を長手方向が鉛直方向となるように(縦長に)設置した場合と比較して、気化部10内の気体(空気および、気化された溶剤7(以下、気化溶剤7A))の層と液体(溶剤7)の層との界面(接触面積)を増加させることができる。
【0014】
気化部10内には溶剤7の蒸散手段8が設けられる。蒸散手段8は例えば溶剤7を吸液および発散可能な材質(例えばレーヨン)等により構成され、一部が溶剤7に浸漬されるとともに他の一部が溶剤7から露出するように設けられる。これにより蒸散手段8は、毛細管現象により溶剤7を吸い上げて、溶剤7上方の空間内に蒸発(蒸散)させる。蒸散手段8は一例として、これを中空で保持するような特別な保持手段を設けることなく、気化部10の内壁に沿って例えば円筒状に巻きつけられる(貼り付けられる)などして、一部が溶剤7に浸漬し、他の一部が溶剤7からは露出するように気化部10内に設けられる。なお、蒸散手段8の設置方法はこの例に限らない。気化部10において溶剤7の蒸散により発生した気化溶剤7Aは試験ガス(ガス)として導出される。
【0015】
気化部10の外部(ここでは上方の外部)には、気化部10の長手方向(気体の送り方向)に沿って流路2が設けられる。流路2には、上流端部から下流端部(同図(A)では右端)から左端)に向かって流れるように、エア(第一のエア)が供給される。この第一のエアは気化溶剤7Aを所定の濃度に希釈するためのエアであり、以下これを「希釈用エア」という。
【0016】
点検対象装置30の種類に応じて試験ガスの種類及び濃度が適宜選択される。本実施形態の溶剤気化装置1は、点検対象装置30および/または溶剤7の種類に応じて、希釈用エアにより気化溶剤7Aを適宜の濃度に希釈し、点検対象装置30に供給する。
【0017】
気化部10は、長手方向の両端(
図1(A)では左方の上流側端部と右方の下流側端部)に、導入路3と導出路4が設けられる。導入路3は気化部10内の気化溶剤7Aを所定方向に流す(送る)ためのエア(第二のエア、以下、このエアを「送り用エア」という。)を導入する流路であり、導出路4は、気化溶剤7Aが導出される流路である。つまりこの例では、気化部10内の気化溶剤7Aは上流の導入路3方向から下流の導出路4方向に向かって(図では右から左に)送られる。
【0018】
導入路3は、上流端部(同図(A)では上端)が気化部10の外部に位置し、下流端部(同図(A)では下端)が気化部10内に位置し、これを流れる送り用エアは略漏れることなく気化部10に導入される。
【0019】
導出路4は、上流端部(同図(A)では下端)が気化部10内に位置し、下流端部(同図(A)では上端)が気化部10の外部に位置する。また、導出路4の下流端部は、気化部10の外部(同図(A)では気化部10の上方の外部)に配置された希釈用エア流路2の下流端部と、合流部13において合流する。導出路4を流れる気化溶剤7Aは略漏れることなく、合流部13に到達し、希釈用エア流路2を流れる希釈用エアによって所定濃度に希釈される。以下、希釈用エアによって所定濃度に希釈された気化溶剤7Aを「希釈ガス」という。希釈ガスは、希釈ガス流路15を介して下流に搬送される。
【0020】
希釈用エア流路2は合流部13において導出路4と合流する一方、気化部10および導入路3とはいずれも合流することなく、独立して設けられる。
【0021】
本実施形態の溶剤気化装置1は、発生した気化溶剤7Aの濃度の制御が可能な濃度制御手段20を有する。より具体的には濃度制御手段20は、所望の濃度の気化溶剤7Aが生成可能なように制御する、あるいは、発生した気化溶剤7Aの濃度変化を抑制するように制御する手段である。ここで、気化溶剤7Aの濃度とは、気化溶剤7Aの飽和蒸気圧に基づく濃度であり、飽和蒸気圧濃度(=飽和蒸気圧/大気圧)、あるいは飽和蒸気圧濃度を基準とした濃度(例えば飽和蒸気圧濃度以下の濃度など)である。
【0022】
一例として、濃度制御手段20は、気化溶剤7Aの圧力(分圧)を、ある飽和蒸気圧に維持するように気化部10の温度制御が可能な手段(容器)であり、より具体的には、気化部10を収容可能な恒温槽20Aである。恒温槽20Aは、熱伝導率の高い部材(例えば、アルミニウムなどの金属)で構成された筐体24と、筐体24の周囲を覆う断熱材21と、筐体24を直接的にまたは間接的に加温する加熱手段(例えば、ヒータ)22と、測温体(測温抵抗体)23を有する。濃度制御手段20(恒温槽20A)により、気化部10内の気化溶剤7Aの分圧はある一定温度における飽和蒸気圧に維持され、ひいては飽和蒸気圧濃度(=飽和蒸気圧/大気圧)が略一定に維持される。なお、当然ながら恒温槽20Aの温度は、溶剤7の沸点以下に維持される。
【0023】
恒温槽20Aには、気化部10のみならず、導出路4および希釈用エア流路2(の一部)が収容される。具体的には、同図(A)に示すように、導出路4の全体と合流部13が恒温槽20A内に収容され、また希釈用エア流路2は、例えば気化部10の長手方向と同等の長さが恒温槽20A内に収容される。これにより上流から例えば常温で供給される希釈用エアは恒温槽20A内で所定温度に調節(加温)される。また、気化溶剤7Aは温度の低下が略なく、すなわち気化溶剤7Aが凝縮しない状態で(濃度の変化を抑制した状態で)導出路4に送り出され、合流部13にて調節(加温)された希釈用エアと混合される。
【0024】
ここで、気化部10における気化溶剤7Aは、導入路3を介して送り込まれる送り用エアによっては濃度の変化は略生じないように設定されている。より具体的には、送り用エアの量(流量)は、気化部10における溶剤7の気化の能力(以下、「気化能力」という。)を超えない量である。気化能力は、溶剤7の種類に応じて異なるが、蒸散手段8および/または気化部10のサイズ、特に溶剤7の表面積(気化部10内の空気との接触面積)を可能な限り大きくするなどして効率のよい気化能力となるように適宜調整される。
【0025】
これに対し、希釈用エアは気化溶剤7Aを、常温に戻しても凝縮しない所望の濃度に希釈する流量である。すなわち、本実施形態では、希釈用エア(第一のエア)の流量は送り用エア(第二のエア)の流量よりも、大きい流量である。
【0026】
気化部10で発生した気化溶剤7Aは、恒温槽20Aにより定温に維持され、且つ送り用エアの影響も略受けることなく、発生時の飽和蒸気圧濃度付近の濃度(好適には飽和蒸気圧濃度)をほぼ維持した状態で、導出路4を介して送り出され、合流部13において希釈用エアと混合される。
【0027】
気化部10の長手方向の両端側はガラス窓12が設けられており、少なくとも一方(ここでは右方)のガラス窓12に対応する部分の断熱材21には開口部21Aが設けられ、その内部(溶剤7の状態)が視認可能となっている。本実施形態の気化部10は略密封状態に構成され(通常の運用、動作時に大きく開口することは想定されず)、溶剤7が減少した場合などには導入路3および/または導出路4に注入するなどして溶剤7の追加が可能である。
【0028】
なお、図示は省略するが、合流部13よりも気化部10側の上流において、気化溶剤7Aの流量の一部を規制する構成を備えてもよい。例えば、低濃度の希釈ガスを生成したい場合、送り用エアの流量を(少量に)制御した場合であっても、導出路4内の拡散により必要以上の気化溶剤7Aが合流部13に到達し、所望の希釈濃度が得られない場合もある。そのような場合に、合流部13に到達する気化溶剤7Aの流量の一部を規制する(気化溶剤7Aの拡散を抑制する)ことで、低濃度の希釈ガスを得ることができる。気化溶剤7Aの流量の一部を規制する構成としては、例えば、導出路4の長さを十分長く確保する(例えば10mm以上など)、導出路4の有効断面積を小さくする(例えば、0.5mmの直径以下の有効断面積など)、導出路4の径を調整可能な例えば絞り手段を設ける、などが挙げられるが、その他、拡散による気化溶剤7Aの合流部13への到達を抑制できる構成であればよい。また、合流部13の位置も、恒温槽20A内であれば
図1に示す位置に限らない。
【0029】
図2は、本実施形態の溶剤気化装置1を含む流路の一例を示す流路概要図である。同図(A)を参照して、流路R1~R6はエアおよび/または気化溶剤7の通路である。例えば、流路R1は、溶剤気化装置1の上流に設けられたエアボンベ(不図示)から供給されるエアの通路である。流路R1は流路R2と流路R3に分岐する。流路R2は、例えば、ニードルバルブ付き流量計51および開閉バルブ52を介して溶剤気化装置1の導入路3に接続する。流路R3は、例えばニードルバルブ付き流量計51および三方電磁弁53Aを介して流路R4と流路R5に分岐する。流路R4は三方電磁弁53Bを介して流路R7に接続し、流路R5は溶剤気化装置1の希釈用エア流路2に接続する。溶剤気化装置1の希釈ガス流路15は、流路R6に接続し、流路R6は三方電磁弁53Bを介して流路R7に接続する。
【0030】
すなわち、エアボンベから供給され流路R1を流れるエアの一部は、流路R2を通過し、導入路3から送り用エアとして気化部10に供給される。また、流路R1を流れるエアの他の一部は流路R3を通過し、三方電磁弁53Aの切り替えによって流路R5が選択されると、希釈用エアとして希釈用エア流路2に導入される。そして合流部13において希釈用エアと、導出路4を介して導出された気化溶剤7Aとが混合される。これにより気化溶剤7Aは所定の濃度に希釈された希釈ガスとなる。この希釈ガスは、希釈ガス流路15から流路R6に流出する。
【0031】
三方電磁弁53Aは流路R4と流路R5を選択的に切り替え、三方電磁弁53Bは流路R4と流路R6を選択的に切り替える。三方電磁弁53A,53Bにより流路R4が選択された場合、エアは気化溶剤7Aと混合されることなく流路R7を介して点検対象装置30にエア(フレッシュエア)が供給され、三方電磁弁53A,53Bにより流路R5、R6が選択された場合、エアは希釈用エアとして気化溶剤7Aと混合される。
【0032】
流路R2を流れるエアは、ニードルバルブ付き流量計51につき適宜の流量に調整されて送り用エアとして導入路3から気化部10に供給される。また流路R5を流れるエアはニードルバルブ付き流量計51につき適宜の流量に調整されて希釈用エアとして希釈用エア流路2に供給される。既に述べたように、希釈用エアの流量は送り用エアの流量より大きい流量である。また送り用エアの流量は、気化部10の気化能力を超えない、すなわち気化部10における気化溶剤7Aの濃度を希釈しない程度の流量である。また、三方電磁弁53A,53Bの切り替えにより流路R4が選択された場合には、開閉バルブ52により送り用エアの気化部10への供給も遮断すると望ましい。
【0033】
溶剤気化装置1が動作を開始すると、気化部10内は、溶剤7の気化が進行し所定時間経過後には気化溶剤7Aは飽和蒸気圧濃度に達する。そして飽和蒸気圧濃度の気化溶剤7Aは、送り用エアによって導出路4を介して合流部13に導出される。そして希釈用エア流路2を流れる希釈用エアによって、溶剤7や点検対象装置30の種類に応じた所定の濃度に希釈される。希釈用エアによる希釈の程度は、例えば、常温に戻しても凝縮しない程度の濃度であり、一例として気化溶剤7Aの爆発下限界の最大値(100%LEL:Lower Explosion Limit)以下の濃度である。
【0034】
本実施形態では、導出路4および合流部13のいずれも恒温槽20A内に収容され、気化部10と同等の温度(T℃)に維持されている。また送り用エアは気化能力を超えない程度の流量に設定される。すなわち合流部13では、気化溶剤7Aは、ほぼ一定の濃度、具体的には気化部10内部の温度(T℃)における飽和蒸気圧濃度に維持された状態で希釈用エアと混合される。そして、希釈用エアの流量の調整により、所定濃度に希釈することができる。
【0035】
このように本実施形態の溶剤気化装置1によれば、外気温によらず、所望の濃度の(濃度がほぼ一定に調整された)気化溶剤7Aを試験ガスとして導出し、点検対象装置30に供給することができる。
【0036】
同図(B)は、濃度制御手段20の他の例を示す概要図である。濃度制御手段20は、所望の濃度の気化溶剤7Aが生成可能なように制御する手段であればよく、例えば、気化溶剤7Aの分圧を、ある飽和蒸気圧に維持するように制御可能な手段であればよい。ここでは、一例として、濃度制御手段20が、気化部10の温度に応じて、送り用エアおよび/または希釈用エアの流量を自動で制御可能な流量制御手段20Bである場合を示す。流量制御手段20Bは例えば、気化部10の状態および/または溶剤7の種類などに応じて適宜、流量を調整する。この例の流量制御手段20Bはマスフローコントローラ56、PLC(Programmable Logic Controller)55および測温体23などを有し、測温体23により検知した気化部10の温度に基づき、例えば流路R2を流れる送り用エアの流量を適宜調整する。具体的に、流量制御手段20Bは、測温体23により気化部10の温度を例えば常時検知し、温度が変化した場合(溶剤7の飽和蒸気圧濃度が変化した場合)には、気化溶剤7Aの分圧を当該変化後の温度における飽和蒸気圧に維持するように、PLC55およびマスフローコントローラ56によって送り用エアの流量を制御する。気化部10の温度が変化した場合であっても、濃度制御手段20により常時当該温度に応じた飽和蒸気圧濃度に制御し合流部13に送ることで、所望の濃度の希釈ガスを生成することができる。
【0037】
なお、ここでは一例として気化部10の温度に応じて、送り用エア(第二のエア)の流量を自動で制御する構成を示しているが、流量制御手段20Bによって、気化部10の温度に応じて流路R5を流れる希釈用エア(第一のエア)の流量を自動調整するようにしてもよい。また、第一のエアと第二のエアの流量制御手段20Bをそれぞれ別に設け、個別に流量を調整可能としてもよい。
【0038】
また、同図(A)に示す濃度制御手段20が恒温槽20Aの場合の構成において、第一のエアおよび/または第二のエアの流量を、同図(B)に示す流量制御手段20B(少なくともマスフローコントローラ56)により制御(調整)可能としてもよい。
【0039】
更に上記の実施形態において、気化部10内の気化溶剤7Aの濃度が、飽和蒸気圧濃度付近の濃度となる場合を例示したが、所定の濃度に維持ができれば、飽和蒸気圧濃度以下の濃度に維持するものであってもよい。
【0040】
<溶剤気化装置における希釈の一例>
次に、本実施形態の溶剤気化装置1における希釈の方法について、溶剤7がトルエンである場合を例に説明する。
図3は、トルエンの飽和蒸気圧曲線である(出典:化学便覧.基礎編2、日本化学会編)。
【0041】
溶剤7がトルエンの場合、恒温槽20Aにより気化部10内を例えば、50℃に維持すると、気化溶剤7A(トルエン)は約12kPaの飽和蒸気圧で維持される。この場合、大気圧を例えば約100kPaとすると、トルエンの気化溶剤7Aの飽和蒸気圧濃度は12vol%となる。
【0042】
ここで、空気と混合した可燃性ガスが着火によって爆発を起こす最低のガス濃度[vol%]を爆発下限界といい、トルエンのLELは、1.2vol%である。
【0043】
つまり、気化部10において50℃の温度で気化されたトルエンの気化溶剤7Aの場合、その100%LEL(この場合1.2vol%)以下に濃度を希釈する必要がある。
【0044】
したがって、例えば、気化溶剤(トルエン)7Aの濃度を100%LELに調整して点検対象装置30に供給する場合には、気化部10の濃度(飽和蒸気圧濃度)の1/10になるように気化溶剤7Aを希釈する(そのような流量で希釈用エアを供給する)。これにより、1.2vol%のトルエン(希釈ガス)が溶剤気化装置1から導出され、下流の点検対象装置30に供給される。
【0045】
また、気化溶剤(トルエン)7Aの濃度を80%LELに調整して点検対象装置30に供給する場合には、2/25となるように気化溶剤7Aを希釈する(そのような流量で希釈用エアを供給する)。これにより、0.96vol%のトルエン(希釈ガス)が溶剤気化装置1から導出され、下流の点検対象装置30に供給される。なお、希釈量は、点検対象装置30に応じて適宜選択する。
【0046】
可燃性ガスの場合、常温を超える温度における飽和蒸気圧に達した場合、LELを超える濃度となるものが多い。また飽和蒸気圧濃度は周辺環境(外気温)などに影響を受ける。したがって本実施形態では、恒温槽20Aにより気化部10の温度を一定に維持するとともに、その温度が一定の状態で(温度低下による気化溶剤7Aの凝縮を回避して)所定の濃度(例えば、100%LEL)以下の濃度に希釈して溶剤気化装置1から導出する。
【0047】
このように、本実施形態の溶剤気化装置1によれば、恒温槽20Aにより、気化部10内で発生する気化溶剤7Aの濃度をほぼ一定(飽和蒸気圧濃度)に維持することが可能となる。これにより希釈用エアの流量の調整のみで、飽和蒸気圧濃度を所定の比率で希釈するよう制御が可能となる。
【0048】
すなわち、点検対象装置30および試験ガス(気化溶剤7A)の種類に応じて適切な希釈濃度を選択でき、点検の信頼性を高めることができ、点検対象装置30に対する汎用性も高めることができる。
【0049】
なお、溶剤7と、気体(空気および/または気化溶剤7A)の接触面積が十分に確保されている場合、蒸散手段8は設けなくてもよい。本実施形態の溶剤気化装置1は送り用エアの流れ方向に気化部10の長手方向が揃うように設置され、気体と溶剤7の接触面積が十分に確保されている。気化部10のサイズや溶剤7の種類により、溶剤7の気化(蒸発)の進行が良好な場合、あるいは送り用エアの流量が気化能力に比べて格段に小さいような場合には、蒸散手段8を設けなくてもよい。これにより、よりシンプルで低価格な溶剤気化装置1が実現する。
【0050】
<他の実施形態>
図4は、本発明の他の実施形態を示す概要図である。上記の実施形態では、気化溶剤7Aの濃度変化の抑制が可能な濃度制御手段20として、気化部10の温度を一定に維持する恒温槽20Aを例示したが、濃度制御手段20は、他の方法によって気化溶剤7Aの濃度変化を抑制するものであってもよい。
【0051】
図4は、濃度制御手段20の他の例を示す概要図であり、濃度制御手段20が単位時間当たりに所定量の溶剤7の滴下が可能な溶剤供給手段20Cである溶剤気化装置1´の一例である。
【0052】
この溶剤気化装置1´は、気化部10と、気化部10内に収容された溶剤7の蒸散手段8と、気化部10の外部において溶剤7を貯留するとともに蒸散手段8に溶剤7を滴下する溶剤供給手段(濃度制御手段)20と、を有する。この場合、気化部10内に溶剤7は貯留されず、気化部10内には蒸散手段8のみが設けられる。濃度制御手段20(溶剤供給手段20C)は、上部が略直方体(または立方体)などの貯留部201と、貯留部201の底部に連通して鉛直方向に延在柱状の供給圧制御部202を有する。供給圧制御部202は貯留部201に比べて径(通路)が小さく(細く)長尺であり、その下方先端は、開閉バルブ52を介するなどしてノズル203が設けられている。ノズル203の下方には蒸散手段8が設けられている。この場合、溶剤7の鉛直方向高さ(液中高さHL)に応じた圧力で溶剤7がノズル203を介して蒸散手段8に滴下される。この構成では、溶剤7の気化する速度(気化速度、蒸発速度、気化能力)に応じて、気化部10内への溶剤7の供給量(滴下量)、ノズル203の構成と液中高さHLによって制御する。すなわち、常時、蒸散手段8からの気化が行われるとともに、所定濃度(例えば、飽和蒸気圧濃度より低い一定濃度)となるように溶剤供給手段20Cからの滴下量を調整する。導入部3から送り用エアが供給され、気化溶剤7Aは導出部4から導出される。所定濃度に生成された気化溶剤7Aは合流部13において希釈用エア流路2を流れる希釈用エアと混合される。希釈用エアは気化溶剤7Aを、所定濃度(例えば、それぞれの種類に応じた100%LEL以下の濃度(下流の点検対象装置30で要求される濃度))の気体となるように、希釈する。この場合も、気化部10、導出路4、希釈用エア流路2の一部、および合流部13は恒温槽20A内に配置され、気化溶剤7Aの温度を所定の温度にほぼ維持した状態で、希釈用エアと混合させることができる。希釈用エアは常温に戻しても凝縮しない程度の所望の濃度に希釈する。
【0053】
なお上記の実施形態において、希釈用エアによって希釈する濃度は、好適には気化溶剤7Aと希釈用エアの混合ガス(希釈ガス)を常温に戻した場合であっても凝縮しない程度の濃度であるが、これに限らず、適宜の濃度が選択可能である。また、100%LEL以下の濃度に限定されるものでもない。
【0054】
<溶剤気化方法>
本実施形態の溶剤気化方法は、気化部10において、気化される溶剤(気化溶剤7A)の濃度の制御が可能な状態で溶剤7を気化するステップと、気化溶剤7Aを気化部10から下流に送り出すステップと、気化溶剤7Aの濃度変化を抑制した状態で第一のエア(希釈用エア)とを混合し、所定の濃度に希釈するステップと、を有する。
【0055】
気化溶剤7Aは、気化部10においてその濃度が制御される。すなわち気化溶剤7Aは気化部10において所望の濃度に生成され、当該濃度を維持して第二のエア(送り用エア)によって気化部10から下流に送り出される。そして、気化溶剤7Aは、例えば、常温下で凝縮しない状態で希釈用エアと混合され、希釈ガスとして下流に搬送される。また、例えば、気化溶剤7Aは、飽和蒸気圧濃度付近の濃度に維持された状態で希釈用エアと混合され、希釈ガスとして下流に搬送される。この場合、希釈用エアの流量は、送り用エアの流量より大きい。
【0056】
気化溶剤7Aの濃度の制御が可能な状態で溶剤7を気化するステップでは、例えば上記の溶剤気化装置1において説明した手法が採用できるが、気化溶剤7Aの濃度の制御が可能な状態で溶剤7を気化する方法であれば、上記の例に限らない。
【0057】
また、気化溶剤7Aの濃度変化を抑制した状態で希釈用エアと混合し、所定の濃度に希釈するステップでは、例えば上記の溶剤気化装置1において説明した手法が採用できるが、気化溶剤7Aの濃度変化を抑制した状態で希釈用エアとを混合する方法であれば、上記の例に限らない。
【0058】
また、本実施形態の溶剤気化方法は、上記の溶剤気化装置1において説明した手法が適宜採用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 溶剤気化装置
2 希釈用エア流路
3 導入路
4 導出路
7 溶剤
7A 気化溶剤
8 蒸散手段
10 気化部
12 ガラス窓
13 合流部
15 希釈ガス流路
20 濃度制御手段
20A 恒温槽
20B 流量制御手段
20C 溶剤供給手段
21 断熱材
22 ヒータ
23 測温体(測温抵抗体)
30 点検対象装置
51 ニードルバルブ付き流量計
52 バルブ
53A 三方電磁弁
53B 三方電磁弁
55 PLC
56 マスフローコントローラ
201 貯留部
202 供給圧制御部
203 ノズル