(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074298
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】測量方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/00 20060101AFI20220511BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01B11/00 B
G01C15/00 104C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184230
(22)【出願日】2020-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】520431100
【氏名又は名称】基幹構造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100218604
【弁理士】
【氏名又は名称】池本 理絵
(72)【発明者】
【氏名】吉村 憲士
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065AA06
2F065AA53
2F065BB15
2F065BB27
2F065CC14
2F065DD03
2F065FF04
2F065FF11
2F065FF61
2F065GG04
2F065HH04
2F065JJ01
2F065JJ03
2F065LL62
2F065MM06
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2F065PP22
2F065QQ03
2F065QQ21
2F065QQ24
2F065QQ28
2F065QQ31
2F065UU06
2F065UU09
(57)【要約】
【課題】SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナを用いて測量に必要な精度を有した3D点群データを取得することのできる測量方法を提供する。
【解決手段】SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナ11を用いて通路1及びその周辺の3D点群データを取得する測量方法は、通路1に沿って複数の標定ターゲット3を等間隔に設置すること、及び、測量作業者10がモバイル3Dスキャナ11を携帯して通路1を歩行で移動すること、を含む。測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11の向き及び姿勢を一定に保持しながら、各標定ターゲット3の側方の所定範囲を通過するように通路1を直線状に且つ断続的に移動する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナを用いて通路及びその周辺の3D点群データを取得する測量方法であって、
前記通路に沿って複数の標定ターゲットを等間隔に設置すること、及び、
測量作業者が前記モバイル3Dスキャナを携帯して前記通路を歩行で移動すること、
を含み、
前記測量作業者は、前記モバイル3Dスキャナの向き及び姿勢を一定に保持しながら、各標定ターゲットの側方の所定範囲を通過するように前記通路を直線状に且つ断続的に移動する、測量方法。
【請求項2】
前記測量作業者は、前記モバイル3Dスキャナを前記通路の路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向を向いた状態に保持する、請求項1に記載の測量方法。
【請求項3】
前記測量作業者は、1歩進むごとに一定時間止まることによって前記通路を断続的に移動する、請求項1又は2に記載の測量方法。
【請求項4】
SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナを用いて3D点群データを取得する測量方法であって、
複数の標定ターゲットを等間隔に設置すること、
前記モバイル3Dスキャナが各標定ターゲットの側方の所定範囲を通過するように前記モバイル3Dスキャナを直線状に且つ断続的に移動させること、及び、
前記モバイル3Dスキャナを移動させている間、前記モバイル3Dスキャナの向き及び姿勢を一定に保持すること、
を含む、測量方法。
【請求項5】
前記モバイル3Dスキャナの向き及び姿勢を一定に保持することは、前記モバイル3Dスキャナを前面が移動方向を向いた状態に保持すること及び前記モバイル3Dスキャナを地面に対して垂直な姿勢に保持することを含む、請求項4に記載の測量方法。
【請求項6】
前記モバイル3Dスキャナを直線状に且つ断続的に移動させることは、前記モバイル3Dスキャナを1度に1.5m未満の所定距離移動させること及び移動後の位置に前記モバイル3Dスキャナを一定時間停止させることを含む、請求項4又は5に記載の測量方法。
【請求項7】
前記所定範囲は、各標定ターゲットから1~1.5mの範囲であり、
前記一定時間は、3秒以上5秒以下である、
請求項3又は6に記載の測量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測量方法に関し、特に移動型3次元レーザスキャナ(以下「モバイル3Dスキャナ」という)を用いて測量座標系の3次元点群データ(以下「3D点群データ」という)を取得する測量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から設置型3次元レーザスキャナ(以下「設置型3Dスキャナ」という)を用いて地形や地物の3次元形状を測定(測量)する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。設置型3Dスキャナを用いることにより、比較的短い時間で地形や地物の多数の3D点群データを取得することが可能である。但し、設置型3Dスキャナの場合、測定エリアに障害物などが存在するとオクルージョンによるデータの欠損が発生する。このようなデータ欠損を防ぐためには、スキャナの設置場所を変更し、及び/又は、複数のスキャナを異なる場所に設置する必要があり、現場での作業負担が大きい。
【0003】
他方、近年では、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術を利用したモバイル3Dスキャナの普及が進んでいる。このようなモバイル3Dスキャナは、移動しながら周辺の地形や地物の3次元形状を測定することが可能であり、オクルージョンの発生も抑制される。このため、スキャナの設置場所を変更したり、複数のスキャナを異なる場所に設置したりする必要がなく、設置型3Dスキャナに比べて、現場での作業負担が大幅に軽減され得る。そこで、モバイル3Dスキャナを測量機材として利用することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナは、自己位置を推定しながら周辺の地形や地物の3次元形状を測定すること可能であり、各移動位置におけるモバイル3Dスキャナのスキャンデータを合成し、及び、座標変換を行うことで周辺の地形や地物の3D点群データを取得することができる。しかし、SLAM技術の特性上、自己位置の推定誤差が蓄積するなどして自己位置の推定値が真の位置から大きくずれることがある。このようなずれが発生すると、得られる3D点群データの精度も大きく低下してしまう。このため、モバイル3Dスキャナを測量機材として利用した場合、測量に必要な精度を有した3D点群データを得られないおそれがあるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の条件下でモバイル3Dスキャナを用いて3次元測定を行うことにより、測量に必要な精度を有した3D点群データが得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0007】
本発明の一側面によると、SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナを用いて通路及びその周辺の3D点群データを取得する測量方法が提供される。この測量方法は、前記通路に沿って複数の標定ターゲットを等間隔に設置すること、及び、測量作業者が前記モバイル3Dスキャナを携帯して前記通路を歩行で移動すること、を含む。前記測量作業者は、前記モバイル3Dスキャナの向き及び姿勢を一定に保持しながら、各標定ターゲットの側方の所定範囲を通過するように前記通路を直線状に且つ断続的に移動する。
【0008】
本発明の他の側面によると、SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナを用いて3D点群データを取得する測量方法が提供される。この測量方法は、複数の標定ターゲットを等間隔に設置すること、前記モバイル3Dスキャナが各標定ターゲットの側方の所定範囲を通過するように前記モバイル3Dスキャナを直線状に且つ断続的に移動させること、及び、前記モバイル3Dスキャナを移動させている間、前記モバイル3Dスキャナの向き及び姿勢を一定に保持すること、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナを用いた測量方法であって、測量に必要な精度を有した3D点群データを取得することのできる測量方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明による測量方法の一実施形態を示す図である。
【
図2】実施形態に係る測量方法における測量作業者の一例を示す図である。
【
図3】本発明による測量方法の実施例1を説明するための図である。
【
図4】実施例1と比較例1-1~1-5との比較結果を示す図である。
【
図5】本発明による測量方法の実施例2を説明するための図である。
【
図6】実施例2と比較例2-1~2-3との比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明の概要を説明する。本発明は、SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナを用いて周辺の地形や地物などの3D点群データを取得する測量方法を提供する。本発明による測量方法で用いられるモバイル3Dスキャナは、3D-LiDARセンサ、IMU(慣性計測装置)及びカメラなどを備えており、SLAM技術によって自己位置を推定しつつ自己の周辺の3次元形状を測定(スキャン)することが可能に構成されている。また、前記モバイル3Dスキャナは、測量作業者が携帯して(主に手に持って)歩行することが可能に構成されているのが好ましい。
【0012】
本発明による測量方法において、前記モバイル3Dスキャナの測定結果、すなわち、前記モバイル3Dスキャナによるスキャンデータ(点群データ)、より具体的には、前記モバイル3Dスキャナの各移動位置でのスキャンデータ(点群データ)は、前記モバイル3Dスキャナの内部ストレージや前記モバイル3Dスキャナに取り付けられた外部ストレージなどに保存される。また、前記モバイル3Dスキャナによるスキャンデータは、例えば近距離無線通信によって、表示部を備えた処理装置に順次送信される。
【0013】
前記処理装置は、前記モバイル3Dスキャナによるスキャンデータを処理する装置である。特に制限されないが、前記処理装置は、所定のソフトウェアがインストールされたタブレットPCやタブレット端末であり得る。前記処理装置は、前記モバイル3Dスキャナから順次送信されるスキャンデータをこれらの共通部分などを利用して合成すること(1つの三次元空間にまとめること)、合成後のスキャンデータを測定エリアに設置された基準点(標定点)に基づき測量座標系に変換すること、及び、変換結果を前記表示部に表示することが可能に構成されている。このため、前記モバイル3Dスキャナによって地形や地物などの3次元形状を測定(スキャン)することで、これらの3D点群データ(測量座標系の点群データ)を取得することが可能である。なお、前記スキャンデータの合成において、前記基準点(標定点)に設置されるターゲット(以下「標定ターゲット」という)が前記共通部分として利用されることが好ましいが、これに限られるものではない。
【0014】
本発明による測量方法は、一例として、測量作業者が前記モバイル3Dスキャナを携帯して道路などの人が移動可能な通路を歩行で移動することにより、当該通路及びその周辺(の地形や地物)の3D点群データを取得することを可能とする。
【0015】
但し、測量作業者が単に前記モバイル3Dスキャナを携帯して前記通路を歩行で移動するだけでは、既述のように、測量に必要な精度を有した3D点群データを取得できないおそれがある。本発明者らは、鋭意実験を行った結果、前記モバイル3Dスキャナを用いて測量に必要な精度を有した3D点群データを取得することのできる方法を見出した。以下に具体的に説明する。
【0016】
なお、以下では測量作業者が前記モバイル3Dスキャナを携帯して前記通路を歩行で移動する場合について説明する。しかし、これに限られるものではない。測量作業者が前記モバイル3Dスキャナを携帯することに代えて、前記モバイル3Dスキャナが小型移動体や台車などに搭載され、これら小型移動体や台車などが前記通路を移動することにより、当該通路及びその周辺(の地形や地物)の3D点群データを取得するようにしてもよい。
【0017】
図1は、本発明による測量方法の一実施形態を示す図であり、
図2は、実施形態に係る測量方法における測量作業者の一例を示す図である。実施形態に係る測量方法では、測量作業者10がモバイル3Dスキャナ11を携帯して直線状に延びる通路1を歩行で移動することにより、当該通路1及びその周辺の3D点群データを取得する。
【0018】
図1に示されるように、実施形態に係る測量方法において、測量作業者10(及び/又は図示省略の測量補助者)は、まず、通路1に沿って複数(好ましくは3つ以上)の標定ターゲット3を等間隔(厳密に等間隔である必要はなく、概ね等間隔であればよい。以下同じ。)に設置する。具体的には、測量作業者10は、通路1上に又は通路1の側方近傍にあらかじめ設置された3つ以上の基準点(標定点)のそれぞれの上に三脚5を配置し、配置された各三脚5に標定ターゲット3を装着する。各標定ターゲット3は、測量開始位置の方向を向いた状態(測量開始位置の方向に正対させた状態)で対応する三脚5に装着される。また、隣り合う2つの標定ターゲット3の間隔(=隣り合う2つの基準点(標定点)の間隔)Lは、35m以下、好ましくは30m以下である。
【0019】
測量作業者10は、測定中(測量中)、すなわち、通路1を移動する間、モバイル3Dスキャナ11の向き及び姿勢を一定に保持する。具体的には、測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11を前面が移動方向(厳密に移動方向である必要はなく、概ね移動方向であればよい。以下同じ。)を向いた状態に保持するとともに、モバイル3Dスキャナ11を通路1の路面(又は地面)に対して垂直(厳密に垂直である必要はなく、概ね垂直であればよい。以下同じ。)な姿勢(以下「垂直姿勢」という)に保持する。また、高さ方向に関して、測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11を通路1の路面(又は地面)から1m以上、好ましくは1.5m以上の高さ位置に保持する。
【0020】
例えば、
図2に示されるように、モバイル3Dスキャナ11がポール(棒)状の支持部材13の上端部に取り付けられている場合、測量作業者10は、支持部材13の下端部側を手で持ち、モバイル3Dスキャナ11の前面を移動方向に向かせた状態で支持部材13を通路1の路面に対して垂直に保持し、モバイル3Dスキャナ11の向き及び姿勢を変えないようにして通路1を歩行で移動する。なお、
図2中の符号15は、モバイル3Dスキャナ11によるスキャンデータの処理などを行う前記処理装置を示している。本実施形態においては、処理装置15が支持部材13に取り付けられているが、これに限られるものではなく、図示省略の測量補助者などが処理装置15を携帯してもよい。
【0021】
モバイル3Dスキャナはいわゆる自動整順機能やこれに準ずる機能を有している場合が多いこと、及び、測定物がないエリアをスキャンすることを抑制した方がよいと考えられることから、測定中(測量中)のモバイル3Dスキャナの姿勢として前記垂直姿勢よりもそこから少し下向きに傾けた姿勢が推奨されることがある。しかし、本発明者らによる実験によれば、道路のように表面が比較的滑らかな通路を移動しながらの測定(スキャン)においては、モバイル3Dスキャナを前記垂直姿勢に保持した場合の方が、モバイル3Dスキャナを前記垂直姿勢から少し下向きに傾けた姿勢に保持した場合に比べて、得られる3D点群データの精度がよいことが確認されている。これは、モバイル3Dスキャナを傾けた姿勢に保持すると、モバイル3Dスキャナの姿勢のずれが生じ易くなったり、SLAM技術におけるマッチングのずれが生じ易くなったりするためであると考えられる。そのため、本実施形態において、測量作業者10は、測定中(測量中)、モバイル3Dスキャナ11を前面が移動方向を向いた状態に保持するとともに、モバイル3Dスキャナ11を前記垂直姿勢に保持するようにしている。
【0022】
測量作業者10は、7分間を超える測定(測量)、好ましくは6分間を超える測定(測量)を行わない。また、測量作業者10は、移動距離が70mを超える測定(測量)、好ましくは移動距離が60mを超える測定(測量)を行わない。このようにするのは、本発明者らによる実験によれば、モバイル3Dスキャナを用いて移動しながら3D点群データを取得する場合、測定(測量)時間が概ね7分間を超えると、及び/又は、測量作業者10(モバイル3Dスキャナ11)の移動距離が概ね70mを超えると、得られる3D点群データの精度が低下してしまい、ほとんどの場合、測量データとして利用できなくなることが確認されているからである。
【0023】
測量作業者10は、通路1を直線状(厳密に直線状である必要はなく、概ね直線状であればよい。以下同じ。)に移動し、途中で曲がるという行動はとらない。このようにするのは、主にSLAM技術における自己位置の推定精度の低下、ひいては3D点群データの精度の低下を抑制するためである。また、測量作業者10は、標定ターゲット3の横(側方)を通過するときには当該標定ターゲット3から1.0~1.5mの範囲を通過する。このようにするのは、本発明者らによる実験によれば、測量作業者10が標定ターゲット3に近い位置(例えば標定ターゲット3から0.5m以下の位置)を通過し及び/又は測量作業者10が標定ターゲット3から比較的離れた位置(例えば標定ターゲット3から2mを超える位置)を通過した場合に、得られる3D点群データの精度が低下することが確認されているからである。つまり、測量作業者10は、各標定ターゲット3の側方の所定範囲、好ましくは各標定ターゲット3の側方1.0~1.5mの範囲を通過するように通路1を直線状に移動する。換言すれば、測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11が各標定ターゲット3の側方の前記所定範囲(すなわち、各標定ターゲット3の側方1.0~1.5mの範囲)を通過するようにモバイル3Dスキャナ11を直線状に移動させる。
【0024】
測量作業者10は、通路1を断続的に移動する。換言すれば、測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11を断続的に移動させる。具体的には、測量作業者10は、1歩進むごとに一定時間(ここでは3秒間)止まることによって、通路1を断続的に移動する。ここで、測量作業者10が1歩に要する時間は、通常、約1秒である。また、測量作業者10の1歩の長さは、通常、0.7~0.9mであり、1.5mを超えることはほとんどない。そうすると、測量作業者10が通路1を断続的に移動することは、測量作業者10がモバイル3Dスキャナ11を1度に(又は1秒間に)1.5m以下の所定距離移動させること及び移動後の位置に一定時間(ここでは3秒間)停止させることを繰り返す、ということもできる。
【0025】
なお、測量作業者10が通路1を断続的に移動する(モバイル3Dスキャナ11を断続的に移動させる)ようにしたのは、次のような理由による。すなわち、本発明者らによる実験によれば、測量作業者10が単に歩行で移動した場合、すなわち、測量作業者10が連続的に移動した場合には測量に必要な精度を有する3D点群データが得られないこと、及び、測量作業者10が1歩ごとに止まりながら移動する場合の方が、測量作業者10が連続的に移動する場合に比べて、得られる3D点群データの精度がよいこと、が確認されているからである。
【0026】
また、測量作業者10が歩行を停止する時間(モバイル3Dスキャナ11の移動を停止させる時間)を3秒間としたのは、次のような理由による。第1に、本発明者らによる実験の結果によれば、3D点群データの精度に関し、測量作業者10が歩行を停止する時間を1秒間や2秒間とした場合には測量作業者10が連続的に移動する場合に対して明らかな優位性が認められなかった。第2に、既述のように、得られる3D点群データの精度を確保するためには測定時間を制限する(7分間未満にする)必要があるところ、測量作業者10が歩行を停止する時間を長くすると結果的に測量作業者10が通路1を移動できる距離が短く(すなわち、測量可能な範囲が狭く)なってしまい、好ましくない。そこで、本発明者は、測量作業者10が連続的に移動する場合に対して3D点群データの精度の優位性が認められた最小時間である3秒間を測量作業者10が歩行を停止する時間とした。したがって、測量作業者10が移動する距離が比較的短い場合(測量可能な範囲が比較的狭い場合)には、測量作業者10が歩行を停止する時間を、3秒間を超える時間とすることも可能である。但し、測量作業者10が歩行を停止する時間が5秒間を超えると測量作業者10の移動距離がかなり短くなる(測量可能な範囲がかなり狭くなる)おそれがあるので避けた方が好ましい。
【0027】
測量作業者10は、自分の周囲に自分とほぼ同じ速度で同じ方向に移動する移動体がある場合、換言すれば、モバイル3Dスキャナ11とほぼ同じ速度で同じ方向に移動する移動体がある場合には、測定(測量)を行わない。このようにするのは、主にSLAM技術における自己位置の推定精度の低下、ひいては3D点群データの精度の低下を抑制するためである。
【0028】
以上のような条件を満たすことで、モバイル3Dスキャナを用いて測量に必要な精度を有した3D点群データを取得することが可能である。
【実施例0029】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は下記の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0030】
[実施例1及び比較例1-1~1-5]
測量作業者10がモバイル3Dスキャナ11を持って
図3に示される直線状に延びる通路1A(ここでは一般道路)を歩行で移動することにより、通路1A及びその周辺の3D点群データを取得した。その手順は、以下のとおりである。
【0031】
まず、測量作業者10は、3つの標定ターゲット3A~3Cを通路1Aに沿って等間隔(間隔L)に設置する。各標定ターゲット3A~3Cは、既述のように、測量開始位置SP1の方向を向いた状態で、あらかじめ設置された基準点(標定点)の上に配置された三脚5に装着される(
図1参照)。なお、隣り合う2つの標定ターゲット3の間隔Lは、約30m(28~30m)である。
【0032】
そして、標定ターゲット3A~3Cの設置後、測量作業者10は、上端部にモバイル3Dスキャナ11が取り付けられた支持部材13の下端部側を手で持ち(
図2参照)、測量開始位置SP1から矢印X方向に通路1Aを歩行で移動することにより、通路1A及びその周辺の3D点群データを取得する。
【0033】
ここで、
図3中のVP1~VP14は、取得された3D点群データの精度を確認するための検証点を示している。各検証点VP1~VP14は、特に制限されないが、例えば通路1Aにおける車道と歩道との境界(歩車道境界ブロック上)に設置される。各検証点VP1~VP14の位置(座標値)は、多角測量などによってあらかじめ求められている。
【0034】
以下、実施例1及び比較例1-1~1-5について説明するが、実施例1及び比較例1-1~1-5のそれぞれにおいては、Paracosm社製のPX-80がモバイル3Dスキャナ11として用いられ、6インチ径の白黒ターゲットが標定ターゲット3A~3Cとして用いられている。
【0035】
[実施例1]
測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11を通路1Aの路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向(矢印X方向)を向いた状態に保持する。そして、測量作業者10は、1歩進むごとに3秒間止まりながら、各標定ターゲット3A~3Cの側方約1.3mの位置を通過するように測量開始位置SP1から矢印X方向に直線状に移動し、これによって、通路1A及びその周辺の3D点群データを取得した。測定(測量)時間は、約6分間であり、測量作業者10の移動距離は、約60mである。
【0036】
[比較例1-1]
測量作業者10は、実施例1に対してモバイル3Dスキャナ11を下向きに約10°傾けた状態に保持する。そして、測量作業者10は、1歩ごとに止まることなく、各標定ターゲット3A~3Cの側方約1.3mの位置を通過するように測量開始位置SP1から矢印X方向に直線状に且つ連続的に移動し、これによって、通路1A及びその周辺の3D点群データを取得した。測量作業者10の移動距離は、約60mである。
【0037】
[比較例1-2]
測量作業者10は、実施例1と同様、モバイル3Dスキャナ11を通路1Aの路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向を向いた状態に保持する。そして、測量作業者10は、1歩進むごとに3秒間止まりながら、測量開始位置SP1から矢印X方向にジグザグに移動し、これによって、通路1A及びその周辺の3D点群データを取得した。測定(測量)時間は、実施例1と同様、約6分間である。なお、測量作業者10は、各標定ターゲット3A~3Cの側方1.2~2.5mの範囲を通過した。
【0038】
[比較例1-3]
測量作業者10は、実施例1と同様、モバイル3Dスキャナ11を通路1Aの路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向を向いた状態に保持する。そして、測量作業者10は、1歩進むごとに4秒間止まりながら、各標定ターゲット3A~3Cの側方約1.3mの位置を通過するように測量開始位置SP1から矢印X方向に直線状に移動し、これによって、通路1及びその周辺の3D点群データを取得した。なお、測量作業者10は、実施例1と同じ距離を移動したため、測定(測量)時間は、7分間を超えていた。
【0039】
[比較例1-4]
測量作業者10は、実施例1と同様にして通路1A及びその周辺の3D点群データを取得した。但し、測定中(測量中)、測量作業者10の近くには測量作業者10と同じ速度で同じ方向に移動する移動体(ここでは追尾者)が存在した。
【0040】
[実施例1と比較例1-1~1-4との比較]
取得された3D点群データにおける検証点VP1~VP14の位置と、多角測量などによってあらかじめ求められている検証点VP1~VP14の位置とに基づき、実施例1及び比較例1-1~1-4における検証点VP1~VP14の位置の測量誤差(mm)を算出した。結果を
図4に示す。
図4に示されるように、実施例1では全ての検証点VP1~VP13における測量誤差が30mm未満であり、実施例1で取得された3D点群データが測量データとして利用可能であることが確認された。他方、比較例1-1~1-4では測量誤差が50mmを超える検証点が複数ある。このため、比較例1-1~1-4で取得された3D点群データは測量データとして利用できない。
【0041】
[実施例2及び比較例2-1~2-3]
測量作業者10がモバイル3Dスキャナ11を持って
図5に示される直線状に延びる通路1B(ここでは一般道路である)を歩行で移動することにより、通路1B及びその周辺の3D点群データを取得した。その手順は、次のとおりである。
【0042】
まず、測量作業者10は、実施例1と同様、3つの標定ターゲット3D~3Fを通路1Bに沿って等間隔(間隔L)に設置する。標定ターゲット3D~3Fの設置後、測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11が取り付けられた支持部材13を手で持ち、測量開始位置SP2から矢印Y方向に通路1Bを歩行で移動することにより、通路1B及びその周辺の3D点群データを取得する。なお、
図5中のVP21~VP25は、検証点を示している。
【0043】
以下、実施例2及び比較例2-1~2-3について説明するが、実施例2及び比較例2-1~2-3のそれぞれにおいては、GeoSLAM社製のZEB-HORIZONがモバイル3Dスキャナ11として用いられ、6インチ径の白黒ターゲットが標定ターゲット3として用いられている。
【0044】
[実施例2]
測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11を通路1Bの路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向(矢印Y方向)を向いた状態に保持する。そして、測量作業者10は、1歩進むごとに3秒間止まりながら、各標定ターゲット3D~3Fの側方約1.3mの位置を通過するように測量開始位置SP2から矢印Y方向に直線状に移動し、これによって、通路1B及びその周辺の3D点群データを取得した。測定(測量)時間は、約6分間であり、測量作業者10の移動距離は、約60mである。
【0045】
[比較例2-1]
測量作業者10は、モバイル3Dスキャナ11の姿勢及び各標定ターゲット3D~3Fの側方における通過位置などを意識することなく、また、1歩ごとに停止することなく、単に測量開始位置SP2から矢印Y方向に歩行で移動し、これによって、通路1B及びその周辺の3D点群データを取得した。測量作業者10の移動距離は、実施例2と同様、約60mである。
【0046】
[比較例2-2]
測量作業者10は、実施例2と同様、モバイル3Dスキャナ11を通路1Bの路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向(矢印Y方向)を向いた状態に保持する。そして、測量作業者10は、2歩進むごとに3秒間止まりながら、各標定ターゲット3D~3Fの側方約1.3mの位置を通過するように測量開始位置SP2から矢印Y方向に直線状に移動し、これによって、通路1B及びその周辺の3D点群データを取得した。測量作業者10の移動距離は、実施例2と同様、約60mである。
【0047】
[比較例2-3]
測量作業者10は、実施例2と同様、モバイル3Dスキャナ11を通路1Bの路面に対して垂直な姿勢であり且つ前面が移動方向(矢印Y方向)を向いた状態に保持する。そして、測量作業者10は、3歩進むごとに3秒間止まりながら、各標定ターゲット3D~3Fの側方約1.3mの位置を通過するように測量開始位置SP2から矢印Y方向に直線状に移動し、これによって、通路1B及びその周辺の3D点群データを取得した。測量作業者10の移動距離は、実施例2と同様、約60mである。
【0048】
[実施例2と比較例2-1~2-3との比較]
取得された3D点群データにおける検証点VP21~VP25の位置と、多角測量などによってあらかじめ求められている検証点VP21~VP25の位置とに基づき、実施例2及び比較例2-1~2-3のそれぞれにおける検証点VP21~VP25の位置の測量誤差(mm)を算出した。結果を
図6に示す。
図6に示されるように、実施例2では全ての検証点VP21~VP25における測量誤差が30mm未満であり、実施例2で取得された3D点群データが測量データとして利用可能であることが確認された。他方、比較例2-1~2-3では、全ての検証点VP21~VP25における測量誤差が大きく(ほとんどが50mmを超えている)。このため、比較例2-1~2-3で取得された3D点群データは測量データとして利用できない。
前記モバイル3Dスキャナの向き及び姿勢を一定に保持することは、前記モバイル3Dスキャナを前面が移動方向を向いた状態に保持すること及び前記モバイル3Dスキャナを地面に対して垂直な姿勢に保持することを含む、請求項4に記載の測量方法。
前記モバイル3Dスキャナを直線状に且つ断続的に移動させることは、前記モバイル3Dスキャナを1度に1.5m未満の所定距離移動させること及び移動後の位置に前記モバイル3Dスキャナを一定時間停止させることを含む、請求項4又は5に記載の測量方法。
本発明の一側面によると、SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナを用いて通路及びその周辺の3D点群データを取得する測量方法が提供される。この測量方法は、前記通路に沿って複数の標定ターゲットを等間隔に設置すること、及び、前記モバイル3Dスキャナの向き及び姿勢を一定に保持した測量作業者が各標定ターゲットの側方の所定範囲を通過するように前記通路を歩行で直線状に且つ断続的に移動しながら前記通路及びその周辺の3D点群データを取得すること、を含む。
本発明の他の側面によると、SLAM技術を利用したモバイル3Dスキャナを用いて3D点群データを取得する測量方法が提供される。この測量方法は、複数の標定ターゲットを等間隔に設置すること、前記モバイル3Dスキャナが各標定ターゲットの側方の所定範囲を通過するように前記モバイル3Dスキャナを直線状に且つ断続的に移動させながら3D点群データを取得すること、及び、前記モバイル3Dスキャナを移動させている間、前記モバイル3Dスキャナの向き及び姿勢を一定に保持すること、を含む。