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特開2022-74310アルコール飲料の製造方法及びアルコール飲料
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  • 特開-アルコール飲料の製造方法及びアルコール飲料 図1
  • 特開-アルコール飲料の製造方法及びアルコール飲料 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074310
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】アルコール飲料の製造方法及びアルコール飲料
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/07 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
C12G3/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184249
(22)【出願日】2020-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】520431133
【氏名又は名称】株式会社FERMENT8
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100132702
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 賢
(72)【発明者】
【氏名】長井 隆
(72)【発明者】
【氏名】樺沢 敦
(72)【発明者】
【氏名】覺張 雄介
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115MA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】燻製香を有するアルコール飲料の製造方法を提供。
【解決手段】不完全燃焼させた木片をアルコール飲料に浸漬して、芳香を有するアルコール飲料を製造する方法であって、耐熱性と不通気性を有する材質によって構成された複数のパーツが互いに当接することによって各パーツに囲まれる内部に略閉空間を画定できる容器を用いて、容器内に木片を配置して容器を加熱することで木片を不完全燃焼させる、方法である。容器内に空気又は酸素以外の気体である置換用ガスを注入した後に容器を加熱することで木片を不完全燃焼させることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不完全燃焼させた木片をアルコール含有液体に浸漬することによってアルコール飲料を製造する、アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
耐熱性と不通気性を有する材質によって構成された複数のパーツが互いに当接することによって当該各パーツに囲まれる内部に略閉空間を画定できる容器を用いて、当該容器内に前記木片を配置して当該容器を加熱することで前記木片を不完全燃焼させる、
請求項1に記載のアルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
前記容器内に空気又は酸素以外の気体である置換用ガスを注入した後に前記容器を加熱することで前記木片を不完全燃焼させる、
請求項1又は2に記載のアルコール飲料の製造方法。
【請求項4】
前記置換用ガスが窒素、二酸化炭素のうち1又2以上の気体である、
請求項3に記載のアルコール飲料の製造方法。
【請求項5】
前記容器内に前記木片と液体窒素及び/又はドライアイスを共存させて加熱する、
請求項1に記載のアルコール飲料の製造方法。
【請求項6】
前記木片の径が5mm以上15mm以下である、
請求項1に記載のアルコール飲料の製造方法。
【請求項7】
前記木片を前記アルコール含有液体に10日間以上30日間以下の期間で浸漬させる、
請求項1に記載のアルコール飲料の製造方法。
【請求項8】
前記アルコール含有液体のアルコール濃度が3%~60%である、
請求項1に記載のアルコール飲料の製造方法。
【請求項9】
430ナノメートル又は480ナノメートルの少なくとも一方における吸光度が0.080以上となるまで、不完全燃焼させた前記木片を前記アルコール含有液体に浸漬させる、
請求項1に記載のアルコール飲料の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9の何れか1項に記載のアルコール飲料の製造方法によって製造されるアルコール飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燻製香を有するアルコール飲料の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
燻製(又は薫製;以下同様)とは、対象の食材(例えば、肉や魚)に対し、木材などを燃やして得られる煙を当てることをいい、食材の保存性を高める方法として知られているとともに、独特の風味をもたらす方法としても用いられている。この燻製を行うことで食材に付与される香りは燻製香と呼ばれる。燻製による保存性は、燻煙中に含まれるフェノール類の有する殺菌効果によるものである。燻煙工程では、燻煙により煙中の殺菌成分が食品に浸透すると同時に、長時間の燻煙によって食品の水分量が減少することで起きる水分活性の低下により保存性がより高くなる。元々燻製は傷み易い食材を長期間保存可能な状態に加工するための技術であるが、保存技術の発達した現代ではその意味合いは相対的に低下し、燻製香を楽しむためのものへと変化しつつある。
【0003】
燻製香と類似した香りが付与された酒類の1つにウイスキーがある。ウイスキーは、内側を焼き付けして炭化させた木樽に高いアルコール分を含む蒸留酒を注ぎ入れて貯蔵することにより製造される。このような製造過程を経ることで、無色透明な蒸留酒が琥珀色になるとともに、燻製香と似た香りが付与される。木樽と蒸留酒の成分が反応することで、元々は無色透明であった蒸留酒に色や香りが付与されるが、この反応は加水分解反応であるため、水分の含有量が低くアルコール分が高い蒸留酒では、ウイスキー様の色と香りとなるには、数年から数十年の貯蔵時間が必要となる。蒸留酒に付与される色と香りは木樽内側の焼き付け方と木樽の材質によって異なる。軽い焼き付け方だと木の香りが強く、かつ薄い黄色のウイスキーとなり、焼き付けを強くした木樽では、焦げた香りが強くなり、かつ非常に濃い琥珀色のウイスキーとなる。また、木樽の材質がオークの場合にはバニラ様、オークの一種であるミズナラでは白檀様の香りが熟成と共に付与される。
【0004】
しかし、蒸留酒をオーク材の樽に注ぎ入れる方法では、長い貯蔵期間が必要であるという点で改良の余地がある。
【0005】
これに対して、例えば、特開2015-202105公報(特許文献1)には、無色透明な蒸留酒に、透水性バッグに入れた焙焼したオーク材の粉末を入れ、ウイスキー様の色と香りを付与することが記載されている。しかし、当該文献に記載された方法では、蒸留酒に与えられる燻製香の香気が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-202105公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明に係る具体的態様は、燻製香を有するアルコール飲料の製造方法の提供を目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために発明者は、木材を意図的に不完全燃焼させたときに好適な燻製香が生じることを見いだし、鋭意検討を加えて一定の条件で意図的に不完全燃焼を生じさせた木片をアルコール飲料に浸漬することで、十分な燻製香を有するアルコール飲料を製造する方法を発明した。
【0009】
本発明に係る一態様は、不完全燃焼させた木片をアルコール飲料に浸漬して、芳香を有するアルコール飲料を製造する方法を提供するものである。
【0010】
この製造方法によれば、燻製香を有するアルコール飲料を製造することできる。また、この製造方法によれば木片の不完全燃焼により生成されたフェノール類による微生物等に対する殺菌効果を得られるので、保存性の良いアルコール飲料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一実施形態の燻製香を有するリキュールおよびジンを得る製造方法を示す工程図である。
図2図2は、評価結果の表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
本実施形態のアルコール飲料の原料となるアルコール含有液体としては、酒税法の分類および品目の区分に関係なくいずれの分類および品目のアルコール飲料でも使用することができる。しかしながら、製造される燻煙香との相性から、原料となるアルコール含有液体としては、清酒、しょうちゅう(焼酎)、ジン、リキュールが好ましく、特に清酒、単式蒸留又は連続式蒸留しょうちゅうが好ましい。
【0014】
ここで、酒税法の区分を考慮すると、日本国の酒税法上、原料として清酒を使用した場合には、得られるアルコール飲料の酒別がリキュールとなり、原料として単式蒸留又は連続式蒸留のしょうちゅうを使用した場合には、得られるアルコール飲料の種別がジンとなる。
【0015】
なお、単式蒸留のしょうちゅうと連続式蒸留のしょうちゅうについて説明すると、単式蒸留のしょうちゅうとは、ポットスチル等を使用して1回ずつ蒸留する方法で製造されたしょうちゅうで、連続式蒸留のしょうちゅうとは、連続的に蒸留する方法で製造されたしょうちゅうである。
【0016】
図1は、一実施形態の燻製香を有するリキュールおよびジンを得る製造方法を示す工程図である。以下、この工程図に沿って説明する。
【0017】
まず、略密閉された空間を画定できてその空間に木片を配置できる耐熱性の容器内を用いて、その空間内に木片を配置し、容器の蓋を閉じる(工程S1)。このとき、必要に応じて置換用ガスを容器の空間内に注入する。
【0018】
次に、木片を配置して密閉した容器ごと外部から加熱し、容器内の木片に意図的に不完全燃焼を生じさせる(工程S2)。ここでいう「不完全燃焼」とは、酸素の供給が不十分であることにより、炎が発生することなく一酸化炭素や煤が発生しながら燃焼することをいう。このような不完全燃焼を生じさせた木片は、燻製香を強く得られるため好ましい。
【0019】
次に、ガラス瓶などに予め入れておいたアルコール含有液体に対して、上記した工程S2で不完全燃焼を生じさせた木片を浸漬する(工程S3)。ここではアルコール含有液体として、例えば清酒、単式蒸留しょうちゅう又は連続式蒸留しょうちゅうを用いる。
【0020】
工程S3で示した木片の浸漬後、アルコール含有液体を濾過することで木片を除く(工程S4)。以上により、燻製香を有するアルコール飲料が得られる。
【0021】
工程S1~S4を経て製造されるアルコール飲料は、原料のアルコール含有液体として清酒を用いた場合には、燻製香を有する清酒様のものとなり、原料のアルコール含有液体としてしょうちゅうを用いた場合には、燻製香を有するしょうちゅう様のものとなる。なお、ここで得られるアルコール飲料は、上記の通り、酒税法上ではリキュール又はジンに該当する。
【0022】
以下に、上記した各工程における好適な条件について詳述する。
まず、原料となるアルコール含有液体のアルコール濃度は、3%~60%であることが好ましい。更に好ましくは、5%~44%で、もっとも好ましくは、15%~44%である。アルコール濃度を3%~60%にすることで、効率よく加水分解反応が発生し、効率的に燻煙香を有するアルコール飲料を製造することができる。
【0023】
ウイスキーの原材料として用いられる蒸留酒のアルコール度数は一般に40%~60%であるのに対し、清酒のアルコール度数は一般に15%~20%で、単式蒸留、連続式蒸留それぞれのしょうちゅうのアルコール度数は一般に20%~25%であり、本実施形態ではこれらの何れも好適に用いることができる。
【0024】
特に、本実施形態で原料のアルコール含有液体として使用する清酒や単式蒸留、連続式蒸留それぞれのしょうちゅうは、日本国の酒税法のそれぞれの定義に従って製造される酒類であることが更に好ましい。また、清酒の場合のアルコール濃度は、5%~21%が好ましく、15%~21%が更に好ましい。また、単式蒸留、連続式蒸留それぞれのしょうちゅうの場合のアルコール濃度は、5%~44%が好ましく、20%~44%が更に好ましい。これらのアルコール濃度とすることで、ウイスキーの原材料である蒸留酒と比較し、木片との加水分解反応をより早めることができ、効率的に燻製香と琥珀色を付与することができるからである。
【0025】
木片としては、一般的に肉や魚などの燻製を行う際に活用される木材チップを好適に使用することができる。具体的には、例えばブナやナラ、ヒッコリーやサクラなどの木から得られた木材チップである。これらの品種を使用することで、効率よく燻製香を有する木片を製造することができる。また、木片の大きさは、特に限定されるものでは無いが、5mm~15mm程度の径のものが好ましい。この大きさの木片の用いることでハンドリング良くアルコール含有液体に木片を浸漬できる。ここでいう「径」とは、木片を平面視した際において最も長さの長い部分をいい、例えば木片が矩形状ないしそれに近い形状であればその対角線に対応し、木片が円形状からそれに近い形状であればその直径に対応し、木片が楕円形状かそれに近い形状であればその長軸に対応する。また、木片の厚みは、2mm~8mm程度のものが好ましい。ここでいう「厚み」とは、木片を側面視した際において最も長さの長い部分をいう。
【0026】
また、木片の加熱は、直接焙焼することで行うよりも、耐熱性と不通気性を有する材質からなる容器内に木片を配置した状態で行われることが好ましい。加熱方法の一例としては、鉄板などの上に木片を置いて鉄製の蓋などで密閉し、鉄板の下側から火を当てて行う方法が考えられる。
【0027】
また、木片を不完全燃焼させる際には、加熱に用いる容器内が空気で満たされた状態としてもよいが、容器内の大部分が置換用ガス(食品添加物用ガス)で満たされた状態とすることも好ましい。ここでいう「置換用ガス」としては、木片を入れた容器内の空気と置換して容器内の酸素濃度を空気中よりも相対的に低下させることができる気体であればいずれの気体でも用いることができる。その中でも、炭酸ガス(気体の二酸化炭素)は、人が刺激を感じることができることから、容器内に炭酸ガスが十分に充填されたことを外部から判断がしやすいため特に好ましい。なお、置換用ガスとしては、窒素ガス(気体の窒素)を用いてもよい。
【0028】
より具体的には、例えば、金属製の鍋に木片を入れて、5mmから10mmの隙間ができるように鍋の上に蓋を配置することが好適である。その後、鍋と蓋の隙間から置換用ガスボンベに連結させたホースを挿入し、置換用ガスを充填し、隙間から漏れ出るガスの刺激に基づき、もしくは酸素濃度測定器での測定により容器内の酸素濃度が16%以下となったことを確認した後に、ホースを取り出し、隙間をなくするように蓋をし直してから加熱をすることが好ましい。
【0029】
あるいは、金属製の板の上に木片とドライアイスを置き、上部に蒸気抜け穴のある蓋(カバー)を被せ、穴より炭酸ガスの刺激臭を感じた後、耐熱性テープで穴を塞ぎ、金属製の板の下から加熱することも好適である。
【0030】
また、容器としては、耐熱性と不通気性を有する材質からなるものが好適に用いられる。具体的には、少なくとも500℃以上の熱に耐えられる材質であって、外部からの空気の流入がほぼ発生しない材質のことである。一般的に、鉄、アルミニウム、銅、ステンレス、陶器、耐熱ガラスが例示できる。
【0031】
また、容器内の気体は加熱によって膨張するため、膨張した気体を容器外に適宜排気できる必要がある。そのため、例えば、容器を構成するパーツが単に当接している状態が好ましい。ここで「当接」とは、容器を構成するパーツ同士(例えば、鍋と蓋、板とカバーなどの各パーツ)が互いに一部分で当たり接して略閉空間を形成し得るとともに、略閉空間(容器内)の圧力上昇に伴って両者が容易に分離し得る状態でパーツ同士が接していることをいう。これにより、容器内の気体が膨張した際にはその圧力上昇によりパーツ同士に隙間が生じ、膨張した気体を容器外へ逃がすことが容易になる。
【0032】
木片を不完全燃焼させる際の条件は、ほぼ密閉された容器内に木片を配置し、かつ容器内が主に空気、炭酸ガス又は窒素ガスで満たされた状態にして、200℃~600℃の温度範囲にて10分間~60分間の加熱を行うことが好ましく、350℃~450℃の温度範囲にて10分間から20分間の加熱を行うことが更に好ましい。ここでいう温度とは、原理的には木片の周辺の雰囲気温度であるが、実際上は容器内の温度によって代替できる。
【0033】
また、容器内に木片と液体窒素及び/又はドライアイスを共存させて加熱することも好ましい。液体窒素及びドライアイスを加熱することによって、液体/固体から気体に変化する際にその体積は数百倍になるために、容器内に存在している空気をより効果的に排出させて相対的な酸素濃度を低下させることができる。この場合、容器内の気体の膨張に伴って適宜、容器内から気体が抜け出す状態としておく必要がある。例えば、圧力調整弁を設けてもよいし、より簡便には、上記したような鍋(容器本体)と蓋からなる容器を用いて、蓋が容器内部の圧力上昇に伴って適宜持ち上がることで容器内から気体が抜け出すようにしてもよい。
【0034】
容器内に木片と共に液体窒素やドライアイスを共存させた場合、加熱によって窒素ガスや炭酸ガスが発生し、これらの発生した窒素ガスや炭酸ガスにより容器内の空気の排出が促進されるので不完全燃焼を生じさせ易くなる。この場合であっても容器を構成するパーツ同士が当接している状態であることが好ましい。効率よく膨張した気体を排気することができるからである。
【0035】
また、不完全燃焼させた木材の成分により得られるアルコール飲料の色、すなわち着色度は、430ナノメートル又は480ナノメートルでの吸光度を分光光度計等で測定することで把握することができる。好ましい琥珀色は、430ナノメートル又は/および480ナノメートルの吸光度が0.080以上である。着色度が0.080以下である場合、再度上述の木片を浸漬することが好ましい。この工程を430ナノメートル又は480ナノメートルの吸光度が0.080以上になるまで繰り返すことが好ましい。吸光度で品質を管理するとこで、安定して高品質のアルコール飲料を製造できる。
【0036】
この点について、本実施形態に係るアルコール飲料と一般的なウイスキーとを比較して説明する。通常のウイスキー製造では、木樽の内側をバーナーで直接焼き入れし、完全燃焼させ、炭化させて使用するため、木片を使用したり、さらには不完全燃焼させた木材を使用したりすることはない。木片を不完全燃焼させることで、燻製香の主成分であるフェノール類を多量に生成させ、ウイスキーとは異なる独特の香味を付与することができる。また、不完全燃焼させた木材の成分により、清酒や単式蒸留、連続式蒸留それぞれのしょうちゅうを琥珀色とすることができる。
【0037】
また、不完全燃焼させた木片をアルコール含有液体に浸漬する際の条件は、特に限定されないが、アルコール含有液体の1リットル当たりに木片を50gから200g添加し、常温(15℃から25℃)において10日間以上浸漬することが好ましい。また、10日間以上30日間以下の期間で浸漬することが更に好ましい。一方、浸漬するときの温度を40℃以上としてもよい。温度を上げることで効率よく木片から有効成分を抽出できる。
【0038】
また、アルコール含有液体に浸漬した木片を濾過する際には、木片がアルコール飲料に残留しないように行えればその方法は特に限定されるものでは無いが、一般的な清酒の製造時に用いられるものと同様の濾過方法を用いることができる。具体的には、濾布や濾紙などの濾過剤と、濾過助剤と言われるパルプなどの繊維性物質やセライト・ケイソウ土などの鉱物性物質を使用して濾過することができる。
【0039】
また、木片を浸透性のパックに入れ、アルコール含有液体に浸漬させてもよい。浸透性のパックを用いた場合、濾過の工程を省略することができる。
【0040】
以上のような実施形態によれば、これまで知られていた酒類にはない特徴的な香味(燻製香)を有するアルコール飲料を製造することができる。また、本実施形態によれば、燻製香を有する食品との相性がよいアルコール飲料を製造することができる。燻製された食品と燻製香を有するアルコール飲料は、一緒に食すことでマリアージュを形成し、食品の持つうま味感を何倍にも増加させることができるからである。また、本実施形態による副次的効果として、間伐材の利用促進も期待できる。
【0041】
清酒、単式蒸留又は連続式蒸留のしょうちゅう、その他の蒸留酒を木樽に貯蔵する方法は広く知られているが、本実施形態のように不完全燃焼させた木片を使用した製法により酒類が製造された実例はこれまで知られていないと考えられる。
【0042】
以下、いくつかの実施例を示す。
【0043】
<実施例1>
10インチサイズのダッチオーブン内に、ナラの木片(径約10mm)100gを配置し、温度センサーを設置した。この状態で、ダッチオーブン本体である鍋に対して5mmから10mm程度ずらして蓋をした。蓋をずらしたことで生じた隙間から、炭酸ガスボンベと連結させたホースを挿入し、ダッチオーブン内に炭酸ガスを充填した。隙間から漏れ出す炭酸ガスにより作業員が刺激を感じるまで充填した後、ホースを速やかに取り出し、上記した隙間をふさぐように蓋をした。ダッチオーブンをコンロで加熱し、温度センサーにより検出される温度が400℃になってから、その温度を15分間保持した。加熱したナラの木片全量を1リットル容量のガラス瓶に入れ、さらにアルコール度数15度の清酒1リットルを加えて、常温で10日間静置した。その後、アドバンテック社の規格の5C濾紙で濾過を行い、分光光度計で430ナノメートルおよび480ナノメートルでの吸光度がそれぞれ0.080以上であることを確認した。以上により燻製香が付与された清酒様のリキュールが得られた。
【0044】
<実施例2>
サクラの木の木片(径約15mm)800gとドライアイスを鉄板の上に置き、蒸気抜け用の穴のある温度計付きのアルミ製の半円形の蓋を被せた後、蒸気抜け用の穴から漏れ出る炭酸ガスにより作業員が刺激を感じるまで静置した。静置後、蒸気抜け用の穴を耐熱テープで塞ぎ、バーナーで鉄板を下側から加熱し、温度計の検出する温度が430℃となってから、その温度を10分間保持した。加熱したサクラの木片全量を5リットル容量のガラス瓶に入れ、さらにアルコール度数20度の清酒を加えて、40℃に設定されたインキュベーターで10日間静置した後、アドバンテック社の5C規格の濾紙で、濾過を行った。分光光度計で430ナノメートルおよび480ナノメートルの吸光度がそれぞれ0.070であったため、上述の通りに加熱したサクラの木片800gを、再度、5リットル容量のガラス瓶に入ったアルコール度数20度の清酒に浸漬した。その後、常温で10日間静置した後、再びアドバンテック社の5C規格の濾紙で濾過を行い、分光光度計で430ナノメートルおよび480ナノメートルでの吸光度がそれぞれ0.080以上であることを確認した。以上により、燻製香が付与された清酒様のリキュールが得られた。
【0045】
<実施例3>
10インチサイズのダッチオーブン内に、リンゴの木片(径約8mm)100gを配置し、温度センサー設置した。この状態で、ダッチオーブン本体である鍋に対して5mmから10mm程度ずらして蓋をした。蓋をずらしたことで生じた隙間から、窒素ガスボンベと連結させたホースを挿入し、ダッチオーブン内に窒素ガスを充填した。窒素ガスの充填は、ダッチオーブンのずらした隙間から漏れ出すガスを酸素濃度測定器で作業員が測定した際、酸素濃度が16%以下になるまで行った。窒素ガスの充填後、ホースを速やかに取り出し、隙間なきように蓋をした。ダッチオーブンをコンロで加熱し、温度センサーにより検出される温度が380℃となってから、その温度を15分間保持した。加熱したリンゴの木片全量を1リットル容量のガラス瓶に入れ、さらにアルコール度数25度の単式蒸留しょうちゅう1リットルを加えて、常温で10日間静置した後、アドバンテック社の5C規格の濾紙で、濾過を行い、分光光度計で430ナノメートルおよび480ナノメートルでの吸光度がそれぞれ0.080以上であることを確認した。以上により、燻製香が付与されたしょうちゅう様のジンが得られた。
【0046】
<実施例4>
10インチサイズのダッチオーブン内に、ナラの木片(径約10mm)100gを配置し、かつ温度センサーを設置し、蓋をした。このダッチオーブン、すなわち内部が空気で満たされたダッチオーブンをコンロで加熱し、温度センサーの検出温度が400℃になってから、その温度を15分間保持した。加熱したナラの木片全量を1リットル容量のガラス瓶に入れ、さらにアルコール度数15度の清酒1リットルを加えて、常温で10日間静置した後、アドバンテック社の5C規格の濾紙で濾過を行い、分光光度計で430ナノメートルおよび480ナノメートルでの吸光度がそれぞれ0.080以上であることを確認した。以上により、燻製香が付与された清酒様のリキュールが得られた。
【0047】
<実施例5>
10インチサイズのダッチオーブン内に、ナラの木片(径約10mm)100gを配置し、かつ温度センサーを設置し、ダッチオーブン本体である鍋に対して5mmから10mm程度ずらして蓋をした。蓋をずらすことで得られた隙間から、炭酸ガスボンベと連結させたホースを挿入し、ダッチオーブン内に炭酸ガスを、ずらした隙間から漏れ出すガスに作業員が刺激を感じるまで充填した後、ホースを速やかに取り出し、蓋をした。ダッチオーブンをコンロで加熱し、温度センサーによる検出温度が200℃から250℃となるように火力を調整してその温度を15分間保持した。加熱したナラの木片全量を1リットル容量のガラス瓶に入れ、さらにアルコール度数15度の清酒1リットルを加えて、常温で10日間静置した後、アドバンテック社の5C規格の濾紙で濾過を行い、分光光度計で吸光度430および480ナノメートルの値が0.080以上であることを確認した。以上から、燻製香が付与された清酒様のリキュールが得られた。
【0048】
<実施例6>
10インチサイズのダッチオーブン内に、ナラの木片(径約10mm)100gを配置し、かつ温度センサーを設置し、ダッチオーブン本体である鍋に対して5mmから10mm程度ずらして蓋をした。蓋をずらすことで得られた隙間から、炭酸ガスボンベと連結させたホースを挿入し、ダッチオーブン内に炭酸ガスを、ずらした隙間から漏れ出すガスに作業員が刺激を感じるまで充填した後、ホースを速やかに取り出し、蓋をする。ダッチオーブンをコンロで加熱し、温度センサーによる検出温度が500℃~600℃となるように火力を調整し、その温度を15分間保持した。加熱したナラの木片全量を1リットル容量のガラス瓶に入れ、さらにアルコール度数15度の清酒1リットルを加えて、常温で10日間静置した後、アドバンテック社の5C規格の濾紙で濾過を行い、分光光度計で吸光度430および480ナノメートルの値が0.080以上であることを確認した。以上により、燻製香が付与された清酒様のリキュールを得た。
【0049】
<香味の評価>
実施例1から6で得たリキュールおよびジンの香味の評価を行った。比較するために、オーク樽貯蔵と表示されている市販の日本酒(福顔酒造株式会社製・商品名「ウイスキー樽で貯蔵した日本酒。FUKUGAO」)およびウイスキー(新潟麦酒株式会社製・商品名「越ノ忍ブレンデッドウイスキー40度」)を比較品として同様に香味の評価を行った。
香味の評価方法は以下のとおりである。
燻製香の特徴的な香りを有しているかにつき、訓練されたパネラー5名によって評価した。なお、評価は1点:燻製香が非常に強い、2点:燻製香が強い、3点:燻製香が感じられる、4点:燻製香が弱いものの感じられる、5点:燻製香が感じられない、の5点法で行い、さらに各試料において香りについてのコメントも記載した。
【0050】
図2の表1に評価結果を示す。実施例1で得たリキュールは、燻製香が非常に強く感じられ、実施例4から実施例6では、燻製香が感じられたものの、実施例1から実施例3のリキュールよりは弱いものであった。そして、実施例1から実施例3のリキュール又はジンは、オーク樽貯蔵と表示されている市販の日本酒やウイスキーと明らかに異なり、特徴的で好ましい燻製香があるとパネラーは指摘していた。また、実施例4から6のリキュール又はジンについても、オーク樽貯蔵と表示されている市販の日本酒等とは異なる燻製香があるとパネラーは指摘していた。すなわち、各実施例によれば、これまでのオーク樽で貯蔵された酒類とは明らかに異なる香りを有するアルコール飲料が得られた。
【0051】
また、上記パネラーに各実施例によるアルコール飲料と燻製食品であるスモークチーズ、いぶり漬け(いぶりがっこ)との相性を試験するために一緒に食してもらったところ、パネラーからは、アルコール飲料と燻製食品のそれぞれの燻製の香りが相乗的に働き、燻製食品であるスモークチーズ、いぶり漬けのうま味感が向上するように感じたとの評価を得た。
【0052】
なお、本発明は上記した実施形態等の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。
図1
図2