(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074351
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】裏面照射型CMOSセンサの製造方法、電子衝撃型CMOSセンサの製造方法、裏面照射型CMOSセンサ用画素、および電子衝撃型CMOSセンサ
(51)【国際特許分類】
H01L 27/146 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
H01L27/146 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184312
(22)【出願日】2020-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】516327516
【氏名又は名称】Gpixel Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000844
【氏名又は名称】特許業務法人 クレイア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】ティム バーイエンス
【テーマコード(参考)】
4M118
【Fターム(参考)】
4M118AB01
4M118BA14
4M118DD04
4M118DD12
4M118EA05
4M118EA14
4M118FA33
4M118GA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】表面に形成されたアナログ回路の特性のずれおよびばらつきの増加を抑制することのできる裏面照射型CMOSセンサおよび電子衝撃型CMOSセンサの製造方法を提供する。
【解決手段】裏面照射型CMOSセンサの製造方法であって、シリコン基板305の内部にN型の受光部50を形成する形成工程と、シリコン基板305の裏面にP+拡散層270を形成するイオンを注入する注入工程と、注入されたイオンを活性化するために裏面からレーザを照射する照射工程と、を含む。レーザは、裏面照射型CMOSセンサの表面の、画素に接続されるADコンバータなどのアナログ回路が形成された領域を除外して照射される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板の内部にN型の受光部を形成する形成工程と、
前記シリコン基板の裏面にP+拡散層を形成するイオンを注入する注入工程と、
注入されたイオンを活性化するために前記裏面からレーザを照射する照射工程と、を含み、
前記レーザは裏面照射型CMOSセンサの、表面にアナログ回路が形成された領域を除外して照射される、裏面照射型CMOSセンサの製造方法。
【請求項2】
前記レーザは、前記裏面照射型CMOSセンサの画素領域のみに照射される、請求項1に記載の裏面照射型CMOSセンサの製造方法。
【請求項3】
前記レーザは、前記裏面照射型CMOSセンサの前記受光部のみに照射される、請求項1に記載の裏面照射型CMOSセンサの製造方法。
【請求項4】
前記裏面照射型CMOSセンサは、前記レーザの走査方向に垂直な方向において、各画素の前記受光部と読み出し回路とが交互に配置され、前記受光部を前記レーザの走査方向に垂直な方向に沿って延長したチップ周辺部に前記アナログ回路が配置されるとともに、前記受光部を前記レーザの走査方向に沿って延長したチップ周辺部にデジタル回路が配置され、
前記レーザは、前記裏面照射型CMOSセンサの前記受光部と前記表面に前記デジタル回路が形成された領域とに照射される、請求項1に記載の裏面照射型CMOSセンサの製造方法。
【請求項5】
シリコン基板の表面に、内部にN型の受光部を備えた略長方形の画素領域と、前記画素領域の1辺または対向する2辺に隣接するアナログ回路領域と、を形成する形成工程と、
前記シリコン基板の裏面にP+拡散層を形成するイオンを注入する注入工程と、
注入されたイオンを活性化するために前記裏面からレーザを照射する照射工程と、を含み、
前記レーザは前記アナログ回路領域が隣接する前記画素領域の1辺または対向する2辺に平行な方向に照射される、裏面照射型CMOSセンサの製造方法。
【請求項6】
シリコン基板の内部にN型の受光部を形成する形成工程と、
前記N型の受光部が形成された前記シリコン基板を支持基板と貼り合わせる貼合工程と、
前記シリコン基板の裏面にP+拡散層を形成するイオンを注入する注入工程と、
注入されたイオンを活性化するために前記裏面からレーザを照射する照射工程と、を含み、
前記レーザはシリコンウェハの周辺領域を除外して照射される、裏面照射型CMOSセンサの製造方法。
【請求項7】
前記貼合工程で生じたボイドが存在するチップの位置を記録する記録工程をさらに含み、
前記レーザは前記シリコンウェハの前記周辺領域と前記ボイドが存在するチップとを除外して照射される、請求項6に記載の裏面照射型CMOSセンサの製造方法。
【請求項8】
前記シリコン基板の前記裏面に酸化膜を形成する酸化膜形成工程と、
形成された前記酸化膜の膜厚を測定する膜厚測定工程と、をさらに含み、
前記注入工程では前記酸化膜を介してイオンが注入され、前記注入工程におけるイオン注入エネルギーは前記酸化膜の膜厚に応じて決定される、請求項1から7のいずれか1項に記載の裏面照射型CMOSセンサの製造方法。
【請求項9】
前記シリコン基板の前記裏面で前記受光部の周囲にトレンチドライエッチングによりディープトレンチ分離を形成するディープトレンチ分離形成工程をさらに含み、
前記注入工程では、前記シリコン基板の前記裏面に加えて前記ディープトレンチ分離にもP+拡散層を形成するイオンを注入する、請求項1から8のいずれか1項に記載の裏面照射型CMOSセンサの製造方法。
【請求項10】
前記シリコン基板の前記裏面で、前記受光部の周囲にトレンチドライエッチングによりディープトレンチ分離を形成するディープトレンチ分離形成工程と、
前記シリコン基板の前記裏面および前記ディープトレンチ分離の表面に正孔を誘起する膜を形成する正孔誘起膜形成工程と、
前記シリコン基板の前記裏面に形成された前記正孔を誘起する膜をCMPにより研磨して除去する研磨工程と、をさらに含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の裏面照射型CMOSセンサの製造方法。
【請求項11】
シリコン基板の裏面から入射する光または電子の量に応じた電荷を発生するN型の受光部と、
前記シリコン基板の表面に形成され、一端が前記受光部に接続される転送ゲートと、
前記表面に形成され、一端が前記転送ゲートの他端に接続されるフローティングディフュージョンと、
前記裏面から前記表面に向かって所定の深さで形成され、前記受光部の周囲を囲むディープトレンチ分離と、を備え、
さらに、前記裏面と前記ディープトレンチ分離の表面とにP+拡散層が形成された、裏面照射型CMOSセンサ用画素。
【請求項12】
シリコン基板の裏面から入射する光または電子の量に応じた電荷を発生するN型の受光部と、
前記シリコン基板の表面に形成され、一端が前記受光部に接続される転送ゲートと、
前記表面に形成され、一端が前記転送ゲートの他端に接続されるフローティングディフュージョンと、
前記裏面から前記表面に向かって所定の深さで形成され、前記受光部の周囲を囲むディープトレンチ分離と、を備え、
さらに、前記裏面にP+拡散層が形成され、前記ディープトレンチ分離の表面のみに正孔を誘起する膜が形成された、裏面照射型CMOSセンサ用画素。
【請求項13】
請求項1から10のいずれか1項に記載の裏面照射型CMOSセンサの製造方法で製造された裏面照射型CMOSセンサを密封パッケージの底面内側にダイボンドする固着工程と、
前記密封パッケージの上面に、前記裏面照射型CMOSセンサの受光面に対向して光電陰極板を配置する配置工程と、
前記裏面照射型CMOSセンサと前記光電陰極板との間の空間を真空状態で密閉する封入工程と、を含む、電子衝撃型CMOSセンサの製造方法。
【請求項14】
前記裏面照射型CMOSセンサに用いられる前記シリコン基板は(100)面のシリコン基板であって、
前記固着工程は、前記シリコン基板を前記光電陰極板に対して7°または22°傾斜した状態でダイボンドする、請求項13に記載の電子衝撃型CMOSセンサの製造方法。
【請求項15】
(100)面のシリコン基板を用いた裏面照射型CMOSセンサを真空状態で密閉し、
前記裏面照射型CMOSセンサの受光面に対向して光電陰極板を配置して、
前記光電陰極板に負電圧を印加する、電子衝撃型CMOSセンサにおいて、
前記シリコン基板が前記光電陰極板に対して7°または22°傾斜してダイボンドされている、電子衝撃型CMOSセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏面照射型CMOSセンサの製造方法、電子衝撃型CMOSセンサ(Electron Bonbarded CMOS Sensor)の製造方法、裏面照射型CMOSセンサ用画素、および電子衝撃型CMOSセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
裏面照射型CMOSセンサ、裏面照射型CMOSセンサの製造方法に関しては以下の特許文献が開示されている。
例えば、特許文献1(特開2003-031785号公報)には、配線層を通してフォトダイオードに入射光を取り込む画素構造では、マイクロレンズによって集光される光の一部が配線によって跳ねられてしまうとの課題に対する解決手段として、以下のX-Yアドレス型固体撮像素子およびその製造方法が開示されている。
特許文献1に記載の固体撮像素子は、光電変換素子で光電変換された信号電荷を電気信号に変換して出力する能動素子を含む単位画素が行列状に配置されてなるX-Yアドレス型固体撮像素子であって、光電変換素子が形成される素子層に対してその一方の面側に、能動素子に対して配線をなす配線層を有し、入射光を素子層の他方の面側から光電変換素子に取り込む。
【0003】
また、特許文献2(特開2019-176089号公報)には、トランジスタの配置に関する自由度を高めた固体撮像装置が開示されている。
特許文献2に記載の固体撮像装置では、光電変換を行う光電変換部と、半導体基板を深さ方向に貫き、隣接する画素にそれぞれ形成されている光電変換部の間に形成されたトレンチと、トレンチの側壁に、P型領域とN型領域から構成されるPN接合領域とを備え、光電変換部を囲む辺の一部に、P型領域が形成されていない領域、またはP型領域が薄く形成されている領域を含む。光電変換部を囲む4辺のうちの少なくとも1辺に、PN接合領域が形成され、残りの辺には、P型領域は形成されていない。
【0004】
また、特許文献3(特開2015-88568号公報)には、暗電流の発生を抑制することができる固体撮像装置および固体撮像装置の製造方法が開示されている。
特許文献3に記載の固体撮像装置では、光電変換素子と、トレンチと、第1導電型の半導体領域とを備える。光電変換素子は、第1導電型の半導体層と、半導体層に行列状に2次元配列される第2導電型の半導体領域とによって複数形成され、入射光を電荷に光電変換して蓄積する。トレンチは、隣接する光電変換素子間に形成され、第1導電型の半導体層の表面から深さ方向に向けて形成される。第1導電型の半導体領域は、トレンチの外周面を囲むように設けられ、活性化された第1導電型の不純物を含む。
【0005】
また、特許文献4(特開2015-164194号公報)には、非常に短い滞留時間で半導体ウェハをアニールするためのレーザアニールシステムと方法が開示されている。
特許文献4に記載のレーザアニールシステムでは、アニールレーザビームは、滞留時間を約1μsから約100μsまでの範囲に収められる速度で走査する。これらの非常に短い滞留時間は、薄いデバイスウェハから形成されるプロダクトウエハのアニールに際して、デバイスウェハのデバイス側がアニール処理中に熱せられることによる傷を付き難くする。
【0006】
電子衝撃型(Electron Bombarded)CMOSセンサに関しては以下のような発明が開示されている。
特許文献5(特表2012-511711号公報)には、単一光子感度センサのための処理方法およびこれを用いた装置について開示されている。
特許文献5に記載の光子検出装置は、真空チャンバと、真空チャンバ内に配置された、光子を一次電子に変換するように設計された光電陰極と、加速された一次電子のエネルギーの少なくとも一部を複数の検出セルによって収集される二次電荷に変換する変換器と、検出セルによって収集された電荷を、単位時間あたりおよび単一電子程度のセルの単位面積あたりで衝突密度を得ることを可能にする集積時間と共に、読み出すように構成された取得回路と、少なくともそのうちの1つが閾値よりも大きな収集電荷量を持ついわゆるメインセルである近接する検出セルのクラスターを特定する手段と、クラスターの少なくとも1つの特性を決定する手段と、一次電子の変換に起因する参照クラスターの少なくとも1つの特性を記憶する手段と、クラスターが一次電子の変換に起因するかどうかを証明するために、クラスターの決定された特性を参照クラスターの記憶された特性と比較する手段と、を含むセンサを備えている。
【0007】
特許文献6(特表2009-503857号公報)には、電子衝撃型CMOSセンサのパッケージとして使用できる高真空容器の製造方法が開示されている。
特許文献6に記載の半導体ダイがパッケージの内面に接着される高真空容器の製造方法は、ダイの第1表面に複数のボンディングパッドを生成する工程と、ダイの第1表面と異なる材料からなるパッケージの内面に複数の整合ボンディングパッドを生成する工程と、ボンディングパッドの組合せの間に約150℃より低い融点を有するダイボンド材を配置する工程と、表面とボンディングパッドとを相互に合わせる工程と、光電陰極をダイの第2表面と対向する関係に配置する工程と、光電陰極とダイの第2表面との間にスペーサを配置する工程と、光電陰極、スペーサおよびダイを、ろう付けサイクルついで超高真空処理サイクルを通じて、ともに接触関係にして配列することにより、密閉された真空容器とする期間中、支持する工程とからなる。
【0008】
非特許文献1(“Energy- and spatial-resolved detection using a backside-illuminated CMOS sensor in the soft X-ray region” Tetsuo Harada et.al Applied Physics Express 12(8), 082012-082012, 2019-07-30 IOP Publishing)には、電子衝撃型CMOSセンサを用いた軟X線領域でのエネルギーおよび空間分解検出について記載されている。
非特許文献1に記載の電子衝撃型CMOSセンサでは、通常の裏面照射型CMOSセンサを用いて、高い量子効率、低い読み出しノイズ、高フレームレートの軟X線センサを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003-031785号公報
【特許文献2】特開2019-176089号公報
【特許文献3】特開2015-88568号公報
【特許文献4】特開2015-164194号公報
【特許文献5】特表2012-511711号公報
【特許文献6】特表2009-503857号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】“Energy- and spatial-resolved detection using a backside-illuminated CMOS sensor in the soft X-ray region” Tetsuo Harada et.al Applied Physics Express 12(8), 082012-082012, 2019-07-30 IOP Publishing.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
光が裏面から照射される裏面照射型CMOSセンサでは、シリコン基板の裏面付近に存在する欠陥等により発生する電子正孔対の電子が暗電流となるため、シリコン基板裏面の界面付近が正孔リッチになるよう、裏面に酸化ハフニウムなどの負の電荷をもつ膜を形成するか、または裏面の界面付近にボロンなどを拡散して界面付近がP型となるようにしている。
このうち、裏面に酸化ハフニウムなどの負の電荷をもつ膜を形成する方法は、その後の熱処理が必要ないため、素子と配線層等が形成されたシリコン基板の表面に対するダメージは少ない。しかし、酸化ハフニウムなどの膜を裏面に形成した裏面照射型CMOSセンサを電子衝撃型CMOSセンサに用いた場合、電子が酸化ハフニウム膜を通過することにより電荷が蓄積し、電子がフォトダイオードPDに到達する効率が悪化したり、使用時間が長くなると暗電流が増加するとの課題がある。
【0012】
一方、裏面の界面付近にP+拡散層を形成する場合は電荷の蓄積による暗電流の増加はない。この場合、シリコン基板の表面側に画素、画素に接続されるADコンバータなどのアナログ回路、および配線層を形成した後、裏面にP+拡散層を形成することになる。このため、このP+拡散層は、通常、ボロンをイオン注入し、レーザアニールによって注入されたボロンイオンを活性化することによって形成している。レーザアニールは、局所的にシリコン基板の裏面をシリコンが溶融する温度まで加熱してボロンを活性化し、かつ、表面側に形成された画素、アナログ回路、および配線層をあまりダメージを受けない温度範囲に収めることができる。
ただし、表面側の素子をあまりダメージを受けない温度範囲に収めるためには、熱アニール時間によって決まる熱拡散距離がシリコン基板の厚さより短くなる必要があること、また、表面側の素子のうちでもアナログ回路はMOSトランジスタのしきい値電圧のわずかな変動によっても影響を受けることから、特に、シリコン基板の厚さが薄くなった場合、例えば近年の一般的な裏面照射型CMOSセンサのシリコン基板の厚さである3μ前後の厚さの場合には、レーザアニールの照射条件にもよるが、表面側に形成されたアナログ回路の特性のずれ、ばらつきが大きくなるとの課題があった。
【0013】
また、裏面照射型CMOSセンサでは、センサが形成されたシリコン基板を支持基板と貼り合わせることで機械的強度を保つようにしている。ただし、この貼り合わせ工程ではウェハの周辺にボイドが多く発生する。また、ウェハの中央部にも一定の確率でボイドが発生する。貼り合わせたウェハのボイドがある部分にレーザを印加して加熱した場合、ボイドの爆発等により破片が周辺のチップにまき散らされ、周辺のチップも不良チップとなる等の課題がある。
【0014】
また、近年、光量が低いシーンでの光子の検出用のイメージセンサ(特許文献5)、あるいは、軟X線検出用のイメージセンサ(非特許文献1)として、裏面照射型CMOSセンサを用いた電子衝撃型CMOSセンサが開発されている。電子衝撃型CMOSセンサは、CMOSセンサと、第1面がCMOSセンサの受光面に対向し、第2面が外部に露出した光電陰極板とを真空チャンバに封入し、光電陰極板に負の高電圧を印加することによって、光電変換された電子を高速でCMOSセンサに衝突させ、電子を増倍することによって、センサの感度を上げている。
一方、CMOSセンサは通常(100)面のシリコン基板を用いる。これは(100)面を用いてMOSトランジスタを形成した場合、シリコン基板とシリコン酸化膜との界面の界面準位が少なく特性の良いMOSトランジスタを形成することができるためである。
しかし、(100)面のシリコン基板のCMOSセンサを電子衝撃型CMOSセンサに用いた場合、(100)面に垂直な方向からシリコンの結晶の特定の位置に電子が入射すると、入射した電子とシリコン原子との相互作用が起きず、電子がシリコンの結晶をすり抜けてしまい、シリコン基板内部での電子の増倍作用が弱くなるとの課題がある。
【0015】
特許文献1に記載の固体撮像素子では、裏面にボロンをドーズしてP型拡散層を形成している。ただし、特許文献1に記載の固体撮像素子はシリコン基板の厚さが10μ程度であり、アナログ回路の特性のずれ、ばらつきの増加はそれほど問題にならないと思われる。
同様に、特許文献2および特許文献3においてもP型拡散層を裏面に設けている。特許文献2および特許文献3にはシリコン基板の厚さは記載されていないが、アナログ回路の特性のずれ、ばらつきの増加等は記載されていないことから、シリコン基板の厚さは特許文献1と同程度と思われる。
また、特許文献4に記載のレーザアニールシステムにおいても、デバイスウェハ10aは、約10μmから100μmの範囲の厚みTHを有すると記載されており、10μ未満のシリコンウェハに対する検討はなされていない。
また、特許文献1-4ではすべて貼り合わせウェハに対してレーザアニールをしているが、レーザアニールによる貼り合わせウェハのボイドの爆発等については何も記載されていない。
【0016】
また特許文献5および6、および非特許文献1に記載の電子衝撃型CMOSセンサにおいても、(100)面のシリコン基板を用いたCMOSセンサを用いていると思われるが、(100)面に垂直な方向から電子を入射した場合の課題についてはなにも記載されていない。
【0017】
本発明の主な目的は、シリコン基板の裏面にボロンをイオン注入し、レーザアニールにより注入したボロンを活性化する裏面照射型CMOSセンサの製造方法において、表面に形成されたアナログ回路の特性のずれおよびばらつきの増加を抑制することのできる製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、センサが形成されたシリコン基板を支持基板と貼り合わせる工程を含む裏面照射型CMOSセンサの製造方法において、ボロンを活性化するためのレーザ加熱によるボイドの爆発を避けることのできる製造方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、(100)面のシリコン基板をもちいた裏面照射型CMOSセンサを組み込んだ電子衝撃型CMOSセンサにおいて、(100)面に垂直な方向から電子を入射することによるシリコン基板内部での電子の増倍作用の劣化を抑制することのできる電子衝撃型CMOSセンサおよびその製造方法を提供することにある。
【0018】
(1)
一局面に従う裏面照射型CMOSセンサの製造方法は、シリコン基板の内部にN型の受光部を形成する形成工程と、シリコン基板の裏面にP+拡散層を形成するイオンを注入する注入工程と、注入されたイオンを活性化するために裏面からレーザを照射する照射工程と、を含み、レーザは裏面照射型CMOSセンサの、表面にアナログ回路が形成された領域を除外して照射される。
なお、P+拡散層を形成するイオンとしてはボロンイオンが望ましい。
【0019】
シリコン基板の裏面の界面付近には欠陥によって電子正孔対が発生する。そして、この電子正孔対の電子が受光部に到達した場合、受光部に到達した場合、暗電流となる。
シリコン基板の裏面にボロンなどを注入してP+拡散層を形成するのは、発生した電子正孔対の電子をP+拡散層の正孔と再結合させることにより、暗電流の発生を抑制するためである。
【0020】
このP+拡散層を形成する方法としては、例えば、シリコン基板の裏面にボロンイオンを注入後、時間の短いパルス状のレーザを照射しアニールすることによって、受光部に接続される読み出しゲートや表面側に形成される多層配線に熱による影響を与えることなく、イオン注入されたボロンを活性化することができることが、特許文献3に記載されている。
しかし、レーザアニールには以下のような課題がある。
例えば多層配線に関しては最大の許容温度は、典型的には、銅の相互接続に対しては約900℃であって、アルミニウムの相互接続に対しては約600℃と言われている。しかし、MOSトランジスタに関しては、500℃前後でしきい値電圧が変動すると言われており、この場合でも読み出しゲートのしきい値電圧の変動は、CDS(correlated double sampling:相関2重サンプリング)回路によって、ある程度補償することができるが、イメージセンサチップに含まれるADコンバータなどの高精度なアナログ回路はしきい値電圧の変動に弱い。
また、裏面照射型CMOSセンサのシリコン基板の厚さは、例えば特許文献1では10μ程度、特許文献4では約10μmから100μmと記載されているように、当初は10μm程度であった。しかし、非特許文献1の電子衝撃型CMOSセンサに用いられている裏面照射型CMOSセンサではシリコン基板の厚さが3.5μmと記載されているように、最近ではシリコン基板の厚さは、画素サイズの縮小に伴って3μm程度まで薄くなっている。シリコン基板の厚さが薄くなると、アナログ回路に対するレーザアニールの影響はさらに大きくなる。
なお、画素サイズの縮小に伴ってシリコン基板の厚さが薄くなっているのは、シリコン基板の厚さが厚いと、隣接画素への斜め入射光の飛び込みなどで画素間クロストークが発生して解像度が低下する恐れがあるためである。
また、特許文献4によれば、レーザアニールに関しては例えば1μといった波長の長いレーザを用いた場合には、レーザアニールビームの光学吸収深さDADが課題になる可能性もあることから、アナログ回路に対する影響がより懸念される。
【0021】
一局面に従う裏面照射型CMOSセンサの製造方法では、注入されたイオンを活性化するために裏面からレーザを照射する照射工程において、レーザを裏面照射型CMOSセンサの、表面にアナログ回路が形成された領域を除外して照射することによって、レーザ照射によるアナログ回路の温度上昇を低減し、アナログ回路の特性のずれおよびばらつきの増加を抑制することができる。これによって、よりSN比が高く、かつ、画素列間のアナログ特性のばらつきによる縦縞などの無い裏面照射型CMOSセンサを製造することができる。
【0022】
(2)
第2の発明にかかる裏面照射型CMOSセンサの製造方法は、一局面に従う裏面照射型CMOSセンサの製造方法において、レーザは、裏面照射型CMOSセンサの画素領域のみに照射されてもよい。
【0023】
この場合、垂直選択回路などのデジタル回路の裏側の領域にもレーザが照射されないため、デジタル回路についても特性のずれおよびばらつきの増加を抑制することができる。
【0024】
(3)
第3の発明にかかる裏面照射型CMOSセンサの製造方法は、一局面に従う裏面照射型CMOSセンサの製造方法において、レーザは裏面照射型CMOSセンサの受光部のみに照射されてもよい。
【0025】
この場合、各画素の受光部の周辺に配置されているソースフォロワトランジスタなどの回路の裏側の領域にもレーザが照射されないため、読み出し回路についても特性のずれおよびばらつきの増加を抑制することができる。
【0026】
(4)
第4の発明にかかる裏面照射型CMOSセンサの製造方法は、一局面に従う裏面照射型CMOSセンサの製造方法において、裏面照射型CMOSセンサは、レーザの走査方向に垂直な方向において、各画素の受光部と読み出し回路とが交互に配置され、受光部をレーザの走査方向に垂直な方向に沿って延長したチップ周辺部にアナログ回路が配置されるとともに、受光部をレーザの走査方向に沿って延長したチップ周辺部にデジタル回路が配置され、レーザは、裏面照射型CMOSセンサの受光部と表面にデジタル回路が形成された領域とに照射されてもよい。
【0027】
本来、レーザは裏面照射型CMOSセンサの各画素内の受光部のみ、または各画素内の受光部とチップ周辺の垂直選択回路などのデジタル回路部とのみに照射するのが望ましい。各画素内の受光部のみにレーザを照射し、各画素内の読み出し回路にレーザを照射しないようにレーザを照射するためには、レーザの走査途中においてレーザを正確にオンオフ制御する必要がある。
【0028】
これに対して、第4の発明にかかる裏面照射型CMOSセンサの製造方法では、裏面照射型CMOSセンサの配置を工夫することで、各画素内の受光部とチップ周辺のV選択回路などのデジタル回路部とのみに照射することを可能にしている。具体的には、レーザの走査方向に垂直な方向において、各画素の受光部と読み出し回路とを交互に配置することで、レーザ走査時、各画素の受光部のみにレーザを照射することを可能にしている。また、受光部をレーザの走査方向に垂直な方向に沿って延長したチップ周辺部にアナログ回路を配置し、受光部をレーザの走査方向に沿って延長したチップ周辺部にデジタル回路を配置することによって、アナログ回路にレーザを照射しないようにしている。
これにより、レーザの走査途中に精密なオンオフ制御をすることなく裏面照射型CMOSセンサを製造することができる。
【0029】
(5)
他の局面に従う裏面照射型CMOSセンサの製造方法は、シリコン基板の表面に、内部にN型の受光部を備えた略長方形の画素領域と、画素領域の1辺または対向する2辺に隣接するアナログ回路領域とを形成する形成工程と、シリコン基板の裏面にP+拡散層を形成するイオンを注入する注入工程と、注入されたイオンを活性化するために裏面からレーザを照射する照射工程と、を含み、レーザはアナログ回路領域が隣接する画素領域の1辺または対向する2辺に平行な方向に照射される。
【0030】
CMOSセンサでは、通常、各画素の列方向の画素が共通の垂直信号線に接続され、この垂直信号線にサンプルホールド、CDS,ADコンバータなどのアナログ回路が接続されている。さらに他の局面に従う裏面照射型CMOSセンサの製造方法では、レーザアニールのためのレーザ照射はウェハ全体に行われる。この場合、アナログ回路の特性の変動はある程度発生するが、レーザの走査方向がアナログ回路領域の長手方向に平行である。すなわち、アナログ回路の各画素列方向の垂直信号線に接続された部分を共通に横断してレーザが照射される。したがって、アナログ回路の各垂直信号線に接続された部分の間では、特性変動がある場合でもその特性変動の傾向は類似しており、したがって画素列の間での特性ばらつきが小さくなる。
【0031】
(6)
他の局面に従う裏面照射型CMOSセンサの製造方法は、シリコン基板の内部にN型の受光部を形成する形成工程と、N型の受光部が形成されたシリコン基板を支持基板と貼り合わせる貼合工程と、シリコン基板の裏面にP+拡散層を形成するイオンを注入する注入工程と、注入されたイオンを活性化するために裏面からレーザを照射する照射工程と、を含み、レーザはシリコンウェハの周辺領域を除外して照射される。
【0032】
通常、裏面照射型CMOSセンサでは、センサの物理的強度を強くするために、センサが形成されたシリコン基板と支持基板とを貼り合わせている。しかし、貼り合わせウェハには、貼り合わせ時に貼り合わせ界面にボイド(空隙)が発生する。特に、ウェハ周辺では、パーティクルが付着すること、および小さな気泡がウェハ外周に沿って内封することによってボイドがより多く発生する。
貼り合わせウェハのボイドの部分にレーザを照射すると、ボイドに閉じ込められた気体等が急激に膨張して、ボイド周辺が爆発状態となり、周辺のチップにもシリコンのかけらが飛び散る。
他の局面に従う裏面照射型CMOSセンサの製造方法では、照射工程において、シリコンウェハの周辺領域を除外してレーザを照射することによって、レーザ照射によるボイドの爆発を防止している。
【0033】
(7)
第7の発明にかかる裏面照射型CMOSセンサの製造方法は、他の局面に従う裏面照射型CMOSセンサの製造方法において、貼合工程で生じたボイドが存在するチップの位置を記録する記録工程をさらに含み、レーザはシリコンウェハの周辺領域とボイドが発生しているチップとを除外して照射されてもよい。
【0034】
この場合、シリコンウェハの周辺領域のボイドだけではなく、シリコンウェハの内部のチップに存在するボイドの爆発も防止することができる。
【0035】
(8)
第8の発明にかかる裏面照射型CMOSセンサの製造方法は、一局面から第7の発明にかかる裏面照射型CMOSセンサの製造方法において、シリコン基板の裏面に酸化膜を形成する酸化膜形成工程と、形成された酸化膜の膜厚を測定する膜厚測定工程と、をさらに含み、注入工程では酸化膜を介してイオンが注入され、注入工程におけるイオン注入エネルギーは酸化膜の膜厚に応じて決定されてもよい。
【0036】
裏面照射型CMOSセンサの裏面に形成されるP+拡散層は、シリコン基板の裏面と裏面に形成される酸化膜等との界面に存在する欠陥によって発生する電子正孔対の電子が、P+拡散層に多数存在する正孔と再結合することによって、受光部に到達し暗電流となることのないように設けられている。
しかし、P+拡散層がシリコン基板の裏面に存在すると、P+拡散層で入射光によって光電変換された電子、または電子衝撃型CMOSセンサの場合はP+拡散層でシリコン結晶に衝突して増倍された電子は、P+拡散層の正孔と再結合し、受光部には到達しない。したがって、裏面に形成されるP+拡散層は拡散深さが浅いことが望ましい。
【0037】
しかし、浅くてかつ急峻なプロファイルを備えたP+拡散層を形成することはイオン注入とレーザアニールによっても、容易ではない。浅くて急峻なプロファイルを備えたP+拡散層を形成する方法の一つは、シリコンの表面に酸化膜を形成し、酸化膜を介してイオン注入することである。しかし、この場合、急峻なプロファイルを備えたP+拡散層を形成することはできるが、酸化膜の膜厚がばらつくとP+拡散層の拡散深さがばらつくという課題がある。
第8の発明にかかる裏面照射型CMOSセンサの製造方法では、形成された酸化膜の膜厚を測定し、酸化膜の膜厚に合わせてイオン注入エネルギーを調整することよって、拡散深さのばらつきが少なく、かつ急峻なプロファイルを備えたP+拡散層を形成している。そして、拡散深さのばらつきが少なく、かつ急峻なプロファイルを備えたP+拡散層を形成することによって、暗電流が小さく、かつ幅広いエネルギー範囲の光子に対して感度が高くばらつきの少ない、裏面照射型CMOSセンサの製造を可能としている。さらに、この方法で製造された裏面照射型CMOSセンサをセンサとして用いた電子衝撃型CMOSセンサにおいては、特に高感度な特性が得られる。
また、電子衝撃型CMOSセンサをソフトX線用のセンサとして用いた場合、X線の波長によっては裏面のP+拡散層が厚いと感度が低下することがある。第8の発明にかかる裏面照射型CMOSセンサの製造方法では、浅いP+拡散層を精度よく形成することができるため、X線の波長によらず感度のよい電子衝撃型CMOSセンサを製造することができる。
【0038】
(9)
第9の発明にかかる裏面照射型CMOSセンサの製造方法は、一局面から第8の発明にかかる裏面照射型CMOSセンサの製造方法において、シリコン基板の裏面で受光部の周囲にトレンチドライエッチングによりディープトレンチ分離を形成するディープトレンチ分離形成工程をさらに含み、注入工程では、シリコン基板の裏面に加えてディープトレンチ分離にもP+拡散層を形成するイオンを注入してもよい。
【0039】
裏面照射型CMOSセンサでは受光部の周囲にディープトレンチ分離を形成し、遮光材料を埋め込むか、または、内部にエアギャップなどの光学的な反射機能を奏する構造を形成することにより、受光部からフローティングディフュージョン(FD)または隣接する画素の受光部への迷光を遮断することができる。また、裏面照射型CMOSセンサを用いた電子衝撃型CMOSセンサにおいては、シリコン基板内で増倍した電子の隣接する画素の受光部へのリークを遮断することができる。しかし、ディープトレンチ分離の界面においても、シリコン基板の裏面と同様、欠陥により暗電流が発生する。
第9の発明にかかる裏面照射型CMOSセンサの製造方法では、シリコン基板の裏面に加えてディープトレンチ分離にもP+拡散層を形成するイオンを注入し、レーザ照射により注入されたイオンを活性化することによって、暗電流の増加を防止している。
【0040】
(10)
第10の発明にかかる裏面照射型CMOSセンサの製造方法は、一局面から第8の発明にかかる裏面照射型CMOSセンサの製造方法において、シリコン基板の裏面で、受光部の周囲にトレンチドライエッチングによりディープトレンチ分離を形成するディープトレンチ分離形成工程と、シリコン基板の裏面およびディープトレンチ分離の表面に正孔を誘起する膜を形成する正孔誘起膜形成工程と、シリコン基板の裏面に形成された正孔を誘起する膜をCMPにより研磨して除去する研磨工程と、をさらに含んでもよい。
【0041】
受光部に対向するシリコン基板の裏面に正孔を誘起する膜を形成した場合、特に、裏面照射型CMOSセンサを用いた電子衝撃型CMOSセンサにおいて、膜に強い電荷が発生し、使用時間が長くなると暗電流が増加する。
一方、急峻な形状のディープトレンチ分離の界面にイオン注入によって浅い拡散層を形成することは困難を伴う。
第10の発明にかかる裏面照射型CMOSセンサの製造方法では、裏面にイオン注入によってP+拡散層を形成した後、裏面とディープトレンチ分離の界面とに正孔を誘起する膜を形成し、その後、裏面に形成された正孔を誘起する膜をCMPにより研磨して除去している。そして、このことによって、膜の帯電による耐久性の劣化を避けつつ、かつ、ディープトレンチ分離の界面での暗電流の発生を抑制することができる。
なお、正孔を誘起する膜としては、例えば、酸化ハフニウム(HfO2)膜、酸化アルミニウム(Al2O3)膜、酸化ジルコニウム(ZrO2)膜、酸化タンタル(Ta2O5)膜、もしくは酸化チタン(TiO2)膜を用いることができる。
【0042】
(11)
一局面に従う裏面照射型CMOSセンサ用画素は、シリコン基板の裏面から入射する光または電子の量に応じた電荷を発生するN型の受光部と、シリコン基板の表面に形成され、一端が受光部に接続される転送ゲートと、表面に形成され、一端が転送ゲートの他端に接続されるフローティングディフュージョンと、裏面から表面に向かって所定の深さで形成され、受光部の周囲を囲むディープトレンチ分離と、を備え、さらに、裏面とディープトレンチ分離の表面とにP+拡散層が形成されている。
【0043】
裏面照射型CMOSセンサでは受光部の周囲にディープトレンチ分離を形成し、遮光材料を埋め込むか、または、内部にエアギャップなどの光学的な反射機能を奏する構造を形成することにより、受光部からフローティングディフュージョン(FD)または隣接する画素の受光部への迷光を遮断することができる。また、裏面照射型CMOSセンサを用いた電子衝撃型CMOSセンサにおいては、シリコン基板内で増倍した電子の隣接する画素の受光部へのリークを遮断することができる。しかし、ディープトレンチ分離の界面においても、シリコン基板の裏面と同様、欠陥により暗電流が発生する。
一局面に従う裏面照射型CMOSセンサ用画素では、裏面とディープトレンチ分離の表面とにイオン注入とレーザアニールとによって形成されたP+拡散層を備えることによって、暗電流の増加を防止している。
特に、裏面照射型CMOSセンサを電子衝撃型として用いた場合、ディープトレンチ近傍で電子が増倍された場合に、その加速される前の電子がディープトレンチ分離の表面にP+拡散層が形成されていることによって、増倍される電子のうち、加速される前に隣接画素にリークするものを打ち消すことができるため、画素間クロストークが発生せず、より感度が高く、解像度が良いセンサにすることができる。
【0044】
(12)
他の局面に従う裏面照射型CMOSセンサ用画素は、シリコン基板の裏面から入射する光または電子の量に応じた電荷を発生するN型の受光部と、シリコン基板の表面に形成され、一端が受光部に接続される転送ゲートと、表面に形成され、一端が転送ゲートの他端に接続されるフローティングディフュージョンと、裏面から表面に向かって所定の深さで形成され、受光部の周囲を囲むディープトレンチ分離と、を備え、さらに、裏面にP+拡散層が形成され、ディープトレンチ分離の表面のみに正孔を誘起する膜が形成されている。
【0045】
受光部に対向するシリコン基板の裏面に正孔を誘起する膜を形成した場合、特に、裏面照射型CMOSセンサを用いた電子衝撃型CMOSセンサにおいて、膜に強い電荷が発生し、使用時間が長くなると暗電流が増加する。
一方、急峻な形状のディープトレンチ分離の界面にイオン注入によって浅い拡散層を形成することは困難を伴う。
他の局面に従う裏面照射型CMOSセンサ用画素では、裏面には、正孔を誘起する膜ではなく、イオン注入によりP+拡散層を形成することによって、正孔を誘起する膜の帯電による耐久性の劣化を回避し、一方、ディープトレンチ分離の表面には、イオン注入によるP+拡散層ではなく、正孔を誘起する膜を形成することによって、ディープトレンチ分離の表面が確実に正孔リッチな状態になるようにしている。
なお、正孔を誘起する膜としては、例えば、酸化ハフニウム(HfO2)膜、酸化アルミニウム(Al2O3)膜、酸化ジルコニウム(ZrO2)膜、酸化タンタル(Ta2O5)膜、もしくは酸化チタン(TiO2)膜を用いることができる。
特に、裏面照射型CMOSセンサを電子衝撃型として用いた場合、光電変換された電子が直接シリコン基板に入るため、シリコン基板の表面に正孔を誘起する膜が形成されていると、その膜内で衝突した電子はSi内の空乏層から遠く、それらの電子収集効率が悪化する恐れがある。よって、ディープトレンチ内にのみ表面に正孔を誘起する膜を形成して暗電流の発生を抑制し、かつPD表面にはP+拡散層のみを形成することで、感度の向上と隣接画素へのクロストークを抑制することができる電子衝撃型センサを形成することが可能となる。
【0046】
(13)
一局面に従う電子衝撃型CMOSセンサの製造方法は、一局面から第10の発明にかかる裏面照射型CMOSセンサの製造方法で製造された裏面照射型CMOSセンサを密封パッケージの底面内側にダイボンドする固着工程と、密封パッケージの上面に、裏面照射型CMOSセンサの受光面に対向して光電陰極板を配置する配置工程と、裏面照射型CMOSセンサと光電陰極板との間の空間を真空状態で密閉する封入工程と、を含む。
【0047】
この場合、裏面照射型CMOSセンサのアナログ回路はレーザアニールによる特性のばらつきが少ないか、または画素列間での特性のばらつきが少なく、一局面に従う電子衝撃型CMOSセンサの製造方法では、高感度で均一な特性を備えた電子衝撃型CMOSセンサを製造することができる。
【0048】
(14)
第14の発明にかかる電子衝撃型CMOSセンサの製造方法は、一局面に従う電子衝撃型CMOSセンサの製造方法において、裏面照射型CMOSセンサに用いられるシリコン基板は(100)面のシリコン基板であって、固着工程では、シリコン基板が光電陰極板に対して7°または22°傾斜した状態でダイボンドされてもよい。
【0049】
(100)面のシリコン基板のCMOSセンサを電子衝撃型CMOSセンサに用いた場合、(100)面に垂直な方向からシリコンの結晶の特定の位置に電子が入射すると、入射する電子とシリコン原子との相互作用が起きず、電子がシリコンの結晶をすり抜けてしまい、シリコン基板内部での電子の増倍作用が弱くなる。そして、このことにより、電子衝撃型CMOSセンサの感度が劣化する、あるいは局所的に劣化し黒点となる場合がある。
第14の発明にかかる電子衝撃型CMOSセンサの製造方法では、固着工程においてシリコン基板が光電陰極板に対して7°または22°傾斜した状態でダイボンドされる。
この場合、電子は(100)面のシリコン基板に垂直方向から7°または22°傾斜した状態で入射するため、電子がシリコンの結晶をすり抜けることがなく、その結果、電子衝撃型CMOSセンサの感度が劣化する、あるいは局所的に劣化し黒点となることがなくなる。
【0050】
(15)
一局面に従う電子衝撃型CMOSセンサは、(100)面のシリコン基板を用いた裏面照射型CMOSセンサを真空状態で密閉し、裏面照射型CMOSセンサの受光面に対向して光電陰極板を配置して、光電陰極板に負電圧を印加する、電子衝撃型CMOSセンサにおいて、シリコン基板が光電陰極板に対して7°または22°傾斜してダイボンドされている。
【0051】
一局面に従う電子衝撃型CMOSセンサの発明は、第14の発明の製造方法の発明に対応する装置の発明であって、(100)面のシリコン基板を光電陰極板に対して7°または22°傾斜してダイボンドすることによって、電子がシリコンの結晶をすり抜けないようにし、電子衝撃型CMOSセンサの感度が劣化する、あるいは局所的に劣化し黒点となることを防止している。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】第1の実施形態の裏面照射型CMOSセンサを表面側から見た模式的平面図である。
【
図2】第1の実施形態の裏面照射型CMOSセンサの画素領域の、受光部と読み出し回路との配置の一例を示す模式的平面図である。
【
図3】第1の実施形態の裏面照射型CMOSセンサの画素の構成を示す模式的回路図である。
【
図4】第1の実施形態の裏面照射型CMOSセンサの受光部周辺の模式的断面図である。
【
図5】第2の実施形態におけるシリコンウェハ内のボイドの位置とレーザ照射領域との関係を示す模式図である。
【
図6】第3の実施形態における酸化膜の有無によるイオン注入されたボロンのプロファイルの違いを示すグラフである。
【
図7】第4の実施形態の裏面照射型CMOSセンサの受光部周辺の模式的断面図である。
【
図8】第5の実施形態の裏面照射型CMOSセンサの受光部周辺の模式的断面図である。
【
図9】第5の実施形態の裏面照射型CMOSセンサの製造方法を説明する模式的断面図である。
【
図10】第6の実施形態の電子衝撃型CMOSセンサの構造と動作を説明する模式的断面図である。
【
図11】第7の実施形態の電子衝撃型CMOSセンサの構造と動作を説明する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付す。また、同符号の場合には、それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さないものとする。
【0054】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100を表面側から見た模式的平面図であり、
図2は裏面照射型CMOSセンサ100の画素領域20の、受光部50と読み出し回路60との配置の一例を示す模式的平面図、
図3は裏面照射型CMOSセンサ100の画素10の構成を示す模式的回路図、
図4は裏面照射型CMOSセンサ100の受光部50周辺の模式的断面図である。
【0055】
(裏面照射型CMOSセンサ100の配置)
図1に裏面照射型CMOSセンサ100の全体配置の一例を示す。裏面照射型CMOSセンサ100は画素領域20とデジタル回路30(垂直選択回路など)とアナログ回路40(サンプルホールド回路、ADコンバータなど)で構成され、画素領域20には画素10が水平方向(
図1の横方向)および垂直方向にマトリックス状に配置されている。
図1には、後述するレーザアニールにおけるレーザ照射の走査方向70も矢印で示す。
図2には画素領域20の内部における各画素10の受光部50と読み出し回路60との配置の一例を示す。
図2にもレーザ照射の走査方向70を示す。
図2からわかるように、各画素10の受光部50と読み出し回路60はそれぞれレーザ照射の走査方向70と平行に水平方向に配置されている。なお、
図2では各画素10ごとに読み出し回路60が独立して存在するが、2つないし4つの受光部50に対して読み出し回路60が共通に設けられていてもよい。
【0056】
(画素10の回路構成)
図3に裏面照射型CMOSセンサ100の画素10の構成を示す模式的回路図を示す。
図3において、画素10は、受光部50(
図3のPD)と読み出し回路60で構成され、読み出し回路60は一端が受光部50に接続された転送ゲートTG、転送ゲートTGの他端に接続されたフローティングディフュージョンFD、ゲートがFDに接続されたソースフォロワトランジスタSF、読み出す画素10を選択するための選択トランジスタSEL、リセットトランジスタRSTで構成されている。
図3では1つの受光部50に対して1つの読み出し回路60が接続されているが、転送ゲートTGのみを4つの受光部50のそれぞれに対して設けて多重サンプリングすることにより、FD以降の回路を4つの受光部50に対して共用することもできる。
【0057】
(受光部50周辺の模式的断面図)
図4に、裏面照射型CMOSセンサ100の受光部50周辺の模式的断面図を示す。
図4において、下方向が表面、上方向が裏面である。受光部50はP型シリコン200中にN型拡散層として形成され、その下にはN+拡散層260、N+拡散層260とシリコン酸化膜240の間にはP+拡散層250が形成されている。転送ゲート220が受光部50およびN+拡散層260に隣接して形成され、転送ゲート220がオンの時に受光部50に蓄積された電荷がフローティングディフュージョン210に転送される。フローティングディフュージョン210に転送された電荷は、金属配線230、ソースフォロワトランジスタSFおよび選択トランジスタSEL(
図3参照)を介して読み出される。
【0058】
裏面照射型CMOSセンサ100では光はシリコン基板305の裏面(
図4の上側)から入射される。シリコン基板305の裏面は通常シリコン酸化膜などのパシベーション膜で覆われている。しかし、このシリコン基板305とパシベーション膜との界面には欠陥により電子正孔対が生成され、生成された電子正孔対のうちの電子が受光部50に到達した場合には暗電流となる。この、生成された電子正孔対の電子が受光部50に到達しないようにするためには、界面における正孔の量を多くし、発生した電子正孔対の電子を確実に正孔と再結合させることが有効である。そして、界面における正孔の量を多くする方法としては、界面にP+拡散層270を形成する方法と、界面に酸化ハフニウムなどの正孔を誘起する膜(以降、正孔誘起膜ともいう)を形成する方法とがある。ただし、界面に正孔誘起膜を形成した場合には、裏面照射型CMOSセンサ100を電子衝撃型CMOSセンサ360のセンサとして用いた場合などには電荷蓄積による信頼性の劣化が起きるため、本発明では界面にP+拡散層270を形成している。なお、280はシリコン酸化膜である。
【0059】
(P+拡散層270の形成方法)
P+拡散層270は暗電流対策としては有効であるが、P+拡散層270内部で、光電変換が行われて電子が発生した場合、または、電子衝撃型センサにおいて電子が衝突により発生した場合、発生した電子が正孔と再結合されてセンサの出力に寄与できないとの課題がある。したがって、P+拡散層270の拡散深さは浅い方が望ましい。
また、裏面へのP+拡散層270の形成は、受光部50と読み出し回路60とをシリコン基板305の表面側に形成し、シリコン基板305の表面側を支持基板310と貼り合わせ、裏面側をCMPなどの方法で研磨してから行うため、P+拡散層形成時表面側の温度が高くなりすぎると表面側の回路や金属配線層に悪影響が出る。
このため、裏面へのP+拡散層270の形成は、表面の温度上昇を少なくできる方法、すなわち、ボロンイオンを注入してからレーザを照射し、ボロンイオンを活性化する方法が採用されている。
【0060】
特許文献4には、デバイスウェハのデバイス側がアニール処理中に熱せられることによる傷を付き難くする方法が開示されている。しかし、特許文献4が目的としているのは、シリコン基板が10μ以上で、かつ、銅配線の場合約900℃、アルミ配線の場合約600℃を最大温度としており、ADコンバータなどのアナログ回路に対する熱の影響に関しては検討されていない(明細書段落[0027]-[0029])。
また、特許文献3には読み出しゲート44や多層配線45に対して熱による悪影響を与えることなく、アニール処理を行うことができると記載されてはいるが(明細書段落[0059])、シリコン基板の厚さは記載されておらず、ADコンバータなどのアナログ回路に対する熱の影響に関しても検討されていない。
【0061】
(レーザ照射のアナログ回路40に対する影響)
アナログ回路40の場合、MOSトランジスタのわずかなしきい値電圧の変動やばらつきによって回路の特性の変動やばらつきが発生する場合がある。また、アナログ回路40では、MOS容量を重要な回路要素として用いる場合があるが、MOS容量に用いられるMOSトランジスタのしきい値電圧がMOS容量の間でばらつくとMOS容量の比率がばらつき、ADコンバータなどのアナログ回路40の特性が変動する場合が多い。
さらに、シリコン基板305の裏面にレーザを照射した場合の表面の温度の上昇はシリコン基板305の厚さに依存する。当初の裏面照射型CMOSセンサ100では特許文献1に記載されているようにシリコン基板の厚さは10μm程度であったが、最近では、画素サイズの縮小に伴って3μm前後が標準となっており、この場合、裏面にレーザを照射することによる表面の温度上昇は特に大きくなる。
裏面照射型CMOSセンサ100のシリコン基板305の厚さが薄くなっているのは、シリコン基板305の厚さが厚いと、隣接画素への斜め入射光の飛び込みなどで画素間クロストークが発生して解像度が低下する恐れがあるためである。今後もこの傾向は続くと思われる。
【0062】
(アナログ回路40に対する影響の少ないレーザの照射方法)
第1の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100の製造方法では、アナログ回路40に対する影響の少ないレーザ照射方法として以下の1)から5)の方法のうちのいずれかを採用する。
【0063】
1)各チップのうちの表面にADコンバータやキャパシタなどが含まれるアナログ回路40(
図1参照)が形成された領域を除外してレーザを照射する。
この場合、レーザを
図1の水平方向(
図1の走査方向70に相当)に走査し、チップ周辺のアナログ回路40が形成された領域に相当する垂直方向の位置の走査を行わないことで、アナログ回路40に対する熱の影響を軽減することができる。また、画素10の中にある受光部50の裏面にはレーザが照査されるため、受光部50の裏面にイオン注入されたボロンイオンは活性化される。
【0064】
2)表面に画素領域20(
図1参照)が形成された領域のみにレーザを照射する。
この方法は、アナログ回路40だけではなくデジタル回路30もレーザ照射による熱の影響を軽減することができる。ただし、この方法では、レーザでシリコンウェハ110を水平方向に走査している途中において、各チップの周辺部のデジタル回路30の領域でレーザをオフする必要があるため、このような走査に対応できるレーザ走査系を選択する必要がある。
【0065】
3)受光部50の裏面のみにレーザを照射する。
この方法は、裏面にP+拡散領域が必要な受光部50のみにレーザが照射されるので、アナログ回路40だけではなく、読み出し回路60、および周辺のデジタル回路30に対するレーザ照射による熱の影響が軽減される。ただし、一般的なイメージセンサでは受光部50の上下左右に読み出し回路60が配置されている。したがって、この方法を実行するためには、幅の狭い領域を走査できて、しかも、短時間で(受光部50の始まりと終わりで)オンオフを繰り返すことのできるレーザ走査系を選択する必要がある。
【0066】
4)裏面照射型CMOSセンサ100の配置を、
図2に示すように、レーザの走査方向70に垂直な方向において、各画素10の受光部50と読み出し回路60とを交互に配置し、
図1に示すように、受光部50をレーザの走査方向70に垂直な方向に沿って延長したチップ周辺部にアナログ回路40を配置する。そして、受光部50をレーザの走査方向70に沿って延長したチップ周辺部にデジタル回路30を配置しておいて、レーザを、裏面照射型CMOSセンサ100の受光部50と表面にデジタル回路30が形成された領域とに照射する。
この場合は、裏面にP+拡散領域が必要な受光部50および周辺のデジタル回路30のみにレーザが照射されるので、アナログ回路40だけではなく、ソースフォロワトランジスタSFなど読み出し回路60に対するレーザ照射による熱の影響が軽減される。
また、この受光部50と読み出し回路60との配置とレーザ走査方法とを組み合わせた方法では、レーザは幅の狭い領域を走査する必要はあるが、シリコンウェハ110を水平方向に走査する間はレーザをオンオフする必要がないため、レーザ走査系の構築が比較的容易である。
なお、上記1)-4)の方法では、シリコン基板305の裏面の一部に選択的にレーザを照射し、残りの部分にはレーザを照射しない。しかし、レーザを照射しない部分において暗電流が発生し、センサの出力に悪影響を与える場合も考えられる。その場合には、画素領域への特性悪化の影響を抑制するために、残りの部分にレーザを照射しないのではなく、残りの部分に低エネルギーのレーザを照射してもよい。あるいは、低エネルギーのレーザを全面に照射してもよい。
【0067】
5)裏面照射型CMOSセンサ100の配置を、
図1に示すように、各画素行に接続される垂直選択回路などのデジタル回路30を、略長方形の画素領域20とレーザの走査方向70において隣接する位置に、各画素行に接続される回路部分の列がレーザの走査方向70と垂直になるように配置する。また、各画素列の出力(
図3のOUT1)を連結した垂直信号線が接続されるサンプルホールド回路、ADコンバータなどのアナログ回路40を、画素領域20とレーザの走査方向70に垂直な方向において隣接する位置に、各垂直信号線に接続される回路部分の列がレーザの走査方向70と平行になるように配置する。そして、上記のように配置した裏面照射型CMOSセンサ100全体を
図1の走査方向70に沿って順次レーザで走査する。
この場合、アナログ回路40の領域もレーザで走査されるため、加熱によりアナログ回路40の特性が変動する可能性はあるが、アナログ回路40の各画素列の垂直信号線に接続される部分はほぼ同じように加熱されるため、アナログ回路40の各画素列の垂直信号線に接続される部分の特性の変動は類似しており、したがって画素列の間での特性ばらつきが小さくなる。
また、この方法では、レーザ走査系に対しては、走査方向70が限定されるだけで、レーザのオンオフ制御等の難しい要求は発生しない。
【0068】
[第2の実施形態]
図5は第2の実施形態におけるシリコンウェハ110内のボイド130の位置とレーザ照射領域120との関係を示す模式図である。
通常、裏面照射型CMOSセンサ100は受光部50や読み出し回路60などが形成されたシリコンウェハ110の表面側を支持基板310となるシリコンウェハと貼り合わせることによって、物理的な強度を向上させている。しかし、シリコンウェハ同士を貼り合わせた場合、貼り合わせ界面にボイド130(空隙)が発生する。特に、ウェハ周辺では、パーティクルが付着すること、および小さな気泡がウェハ外周に沿って内封することによってボイド130がより多く発生する。
そして、貼り合わせウェハのボイド130の部分にレーザを照射すると、ボイド130に閉じ込められた気体等が急激に膨張して、ボイド130周辺が爆発状態となり、周辺のチップにもシリコンのかけらが飛び散る。
【0069】
第2の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100の製造方法では、このボイド130の部分にレーザを照射した場合の爆発を回避するため、以下の2つの方法を採用する。
まず第1に、ボイド130がより多く発生するシリコンウェハ110周辺にはレーザを照射しない。
図5に記載されているように、レーザ照射領域120を裏面照射型CMOSセンサ100が形成されているチップ周辺に限定し、ボイド130がより多く発生するウェハ周辺にはレーザが照射されないようにすることで、ボイド130周辺の爆発のリスクを減らす。
第2に、貼り合わせ後のシリコンウェハ110を検査し、ボイド130が存在するチップの位置を記録して、レーザ照射時、シリコンウェハ110の周辺領域に加えてボイド130が存在するチップもレーザ照射から除外する。
なお、シリコンウェハ110の周辺領域以外ではボイド130がほとんどない場合には、上記周辺領域のみをレーザ照射から除外するだけでもよい。
【0070】
[第3の実施形態]
図6は、酸化膜の有無によるイオン注入されたボロンのプロファイルの違いを示すグラフである。
第3の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100の製造方法は、裏面照射型CMOSセンサ100の裏面へのボロンイオンの注入方法に関する。
図4に示すように受光部50の裏面(光が入射する面)にはP+拡散層270が形成される。これは、裏面の界面に発生する電子正孔対の電子をP+拡散層270の正孔との再結合により消滅させ、暗電流とならないようにするためのものである。
一方、入射する光子がこのP+拡散層270の内部で光電変換を起こした場合には、裏面照射型CMOSセンサ100はこの光子を検出することができない。また、裏面照射型CMOSセンサ100を電子衝撃型CMOSセンサ360のセンサとして用いた場合には、P+拡散層270の内部でシリコン結晶と衝突して増倍した電子は電子衝撃型CMOSセンサ360としてカウントできない。
【0071】
したがって、裏面のP+拡散層270の形成では、比較的高濃度(例えば10
19/cm
3以上)で浅い(例えば拡散深さ0.1μ以下)拡散を形成する必要がある。このような浅いプロファイルをイオン注入で形成するためには、レーザアニールによる拡散が無視できるとしても、例えば数KeV未満の非常に低いエネルギーでイオンを注入する必要がある。しかし、低いエネルギーでイオン注入することには困難な場合がある。また、イオン注入時の金属の汚染による白点の発生も課題として存在する。
これに対する対策としては、シリコン表面に酸化膜を形成し、酸化膜を介してイオンを注入してアニールし、その後に酸化膜を除去するという方法が考えられる。
図6(a)はほとんど酸化膜がない状態のシリコンにボロンを注入した場合のボロンのプロファイル、
図6(b)は酸化膜を介してボロンを注入した場合のボロンのプロファイルを示す。
図6(a)と
図6(b)とを比較することによって、酸化膜を介してボロンを注入することによって、イオン注入されたボロンのプロファイルのシリコン界面からの深さが浅くなっていることがわかる。なお、
図6の横軸はウェハ表面からの距離、縦軸はイオン注入プロファイル(リニアスケール)である。
【0072】
しかし、酸化膜を介してイオンを注入する場合、形成された酸化膜厚のばらつきによって拡散深さがばらつくという新たな課題が発生する。
第3の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100の製造方法では、裏面照射型CMOSセンサ100の裏面に酸化膜を形成した後、その酸化膜の膜厚を測定し、測定した酸化膜の膜厚に応じてイオン注入エネルギーを調整することによって、形成された酸化膜の膜厚によらず、拡散深さのばらつきが少なく、かつ急峻なプロファイルを備えたP+拡散層270を形成している。そして、暗電流が小さく、かつ幅広いエネルギー範囲の光子に対して感度が高くばらつきの少ない、裏面照射型CMOSセンサ100の製造を可能としている。さらに、この方法で製造された裏面照射型CMOSセンサ100をセンサとして用いた電子衝撃型CMOSセンサ360においては、特に高感度な特性が得られる。
また、電子衝撃型CMOSセンサをソフトX線用のセンサとして用いた場合、X線の波長によっては裏面のP+拡散層が厚いと感度が低下することがある。第3の実施形態の裏面照射型CMOSセンサの製造方法では、浅いP+拡散層を精度よく形成することができるため、X線の波長によらず感度のよい電子衝撃型CMOSセンサを製造することができる。
【0073】
[第4の実施形態]
図7は、第4の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100の受光部50周辺の模式的断面図の一例である。第4の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100は、第1の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100に対して、裏面から表面に向かって所定の深さで形成され、受光部50の周囲を囲むディープトレンチ分離290が形成され、さらにディープトレンチ分離290にP+拡散層270が形成されている点が異なる。
第4の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100では、受光部50の周囲にディープトレンチ分離290を形成し、遮光材料を埋め込むか、または、内部にエアギャップなどの光学的な反射機能を奏する構造を形成することにより、受光部50からフローティングディフュージョン210または隣接する画素10の受光部50への迷光を遮断することができる。また、裏面照射型CMOSセンサ100を用いた電子衝撃型CMOSセンサ360においては、シリコン基板305内で増倍した電子の隣接する画素10の受光部50へのリークを遮断することができる。しかし、ディープトレンチ分離290の界面においても、シリコン基板305の裏面と同様、欠陥により暗電流が発生する。このため、第4の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100では、シリコン基板305の裏面に加えてディープトレンチ分離290にもP+拡散層270を形成するためにボロンイオンを注入し、レーザ照射により注入されたイオンを活性化することによって、暗電流の増加を防止している。
なお、
図7の例ではディープトレンチ分離290の内部にシリコン酸化膜280を埋め込んでいるが、エアギャップにしてもよいしアルミニウムなどを埋め込んでもよい。
【0074】
この、シリコン基板305の裏面に加えてディープトレンチ分離290にもP+拡散層270を形成する方法は以下のとおりである。
まず、裏面照射型CMOSセンサ100の裏面で受光部50の周囲にトレンチドライエッチングによりディープトレンチ分離290を形成する。
次に、ディープトレンチ分離290を含む裏面全体にボロンイオンを注入する。
次に、ディープトレンチ分離290を含む裏面全体にレーザを照射し、ボロンを活性化する。
また、第4の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100の製造方法では、第1の実施形態と同様、アナログ回路40に対する影響の少ないレーザの照射方法(第1の実施形態の1)から5)のうちのいずれか)を用いる。
【0075】
[第5の実施形態]
図8は、第5の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100の受光部50周辺の模式的断面図の一例であり、
図9は第5の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100の製造方法を説明する模式的断面図である。第5の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100は、第1の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100に対して、裏面から表面に向かって所定の深さで形成され、受光部50の周囲を囲むディープトレンチ分離290が形成され、さらにディープトレンチ分離290に正孔誘起膜300が形成されている点が異なる。
受光部50に対向するシリコン基板305の裏面に正孔誘起膜300を形成した場合、特に、裏面照射型CMOSセンサ100を用いた電子衝撃型CMOSセンサ360において、膜に強い電荷が発生し、使用時間が長くなると暗電流が増加する。
一方、急峻な形状のディープトレンチ分離290の界面にイオン注入によって浅いP+拡散層270を形成することは困難を伴う。
第5の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100では、裏面には、正孔誘起膜300ではなく、イオン注入によりP+拡散層270を形成することによって、正孔誘起膜300の帯電による耐久性の劣化を回避し、一方、ディープトレンチ分離290の表面には、イオン注入によるP+拡散層270ではなく、正孔誘起膜300を形成することによって、ディープトレンチ分離290の表面が確実に正孔リッチな状態になるようにしている。
【0076】
この、裏面にP+拡散層270を形成し、ディープトレンチ分離290の表面に正孔誘起膜300を形成する方法を
図9を用いて説明する。
まず、裏面照射型CMOSセンサ100の裏面にボロンイオンを注入し、レーザアニールにより注入したボロンを活性化する。この場合、ボロンイオンを第5の実施形態よりも深く注入してもよい。
次に、裏面照射型CMOSセンサ100の裏面で受光部50の周囲にトレンチドライエッチングによりディープトレンチ分離290を形成する。
次に、
図9(a)に示すように、裏面照射型CMOSセンサ100の裏面とディープトレンチ分離290の表面に正孔誘起膜300を形成する。
次に、
図9(b)に示すように、CMPなどの方法により裏面に形成された正孔誘起膜300を研磨して除去する。なお、ボロンイオンをより深く注入した場合は、ボロン拡散層の深さが適正になるよう、裏面のシリコンも研磨、除去する。
また、第5の実施形態の裏面照射型CMOSセンサ100の製造方法でも、第1の実施形態と同様、アナログ回路40に対する影響の少ないレーザの照射方法(第1の実施形態の1)から5)のうちのいずれか)を用いる。
【0077】
[第6の実施形態]
図10は、第6の実施形態の電子衝撃型CMOSセンサ360の構造と動作を説明する模式的断面図である。
図10において、P型シリコン200中にN型の受光部50を備え、裏面(
図10の上の面)にP+拡散層270とシリコン酸化膜280とが形成されたシリコン基板305と、支持基板310とが貼り合わせされた裏面照射型CMOSセンサ100が密封パッケージ350の底面内側に封入されている。また、光電陰極板320が裏面照射型CMOSセンサ100の裏面(受光面)に対向して配置され、裏面照射型CMOSセンサ100と光電陰極板320との間は真空状態で密封されている。光電陰極板320は高圧電源340により裏面照射型CMOSセンサ100に対して高い負電圧が印加されている。光電陰極板320に光子(PHOTON)が入射すると電子(ELECTRON)が発生し、発生した電子は裏面照射型CMOSセンサ100と光電陰極板320との間に印加された電界により加速しながら裏面照射型CMOSセンサ100に入射する。裏面照射型CMOSセンサ100のシリコン基板305に到達した電子はシリコン結晶と衝突することにより電子正孔対を生成し、電子正孔対の生成により増倍された電子は受光部50に到達することによりセンサ出力となる。
【0078】
第6の実施形態の電子衝撃型CMOSセンサ360の製造方法では、裏面照射型CMOSセンサ100を密封パッケージ350の底面内側に350にダイボンドする固着工程と、密封パッケージ350の上面に、裏面照射型CMOSセンサ100の受光面に対向して光電陰極板320を配置する配置工程と、裏面照射型CMOSセンサ100と光電陰極板320との間の空間を真空状態で密閉する封入工程とを含む。
また、第6の実施形態の電子衝撃型CMOSセンサ360では、暗電流低減のために、裏面照射型CMOSセンサ100の裏面に浅いボロンのP+拡散層270が形成されている。第6の実施形態の電子衝撃型CMOSセンサ360の製造方法では、このP+拡散層270をイオン注入とレーザアニールとにより形成している。
このレーザアニールでは、第1の実施形態と同様、アナログ回路40に対する影響の少ないレーザの照射方法(第1の実施形態の1)から5)のうちのいずれか)を用いることが望ましい。
また、レーザアニール時のボイド130周辺の爆発を避けるために第2の実施形態のようにレーザ照射領域120の限定を行うことが望ましい。
また、浅いボロンのP+拡散層270を精度よく形成するためには第4の実施形態の、シリコン酸化膜を介してのイオン注入を行うことが望ましい。
また、増倍した電子の隣接する画素10へのリークを避けつつ、暗電流の増加を回避するためには第5または第6の実施形態のディープトレンチ分離290を裏面照射型CMOSセンサ100に追加することが望ましい。
【0079】
[第7の実施形態]
図11は、第7の実施形態の電子衝撃型CMOSセンサ360の構造と動作を説明する模式的断面図である。第7の実施形態の電子衝撃型CMOSセンサ360の構造は、裏面照射型CMOSセンサ100を光電陰極板320に対して7°または22°傾斜してダイボンドするために裏面照射型CMOSセンサ100と密封パッケージ350の底面内側との間に金属などの導電性材料を用いたチップ固定台370が挿入されている点を除いて、第6の実施形態の電子衝撃型CMOSセンサ360の構造と同一である。
第7の実施形態の電子衝撃型CMOSセンサ360に用いられる裏面照射型CMOSセンサ100には(100)面のシリコン基板305が用いられている。この場合、(100)面に垂直な方向からシリコンの結晶の特定の位置に電子が入射すると、入射する電子とシリコン原子との相互作用が起きず、電子がシリコンの結晶をすり抜けてしまい、シリコン基板305内部での電子の増倍作用が弱くなる。そして、このことにより、電子衝撃型CMOSセンサ360の感度が劣化する、あるいは局所的に劣化し黒点となる場合がある。
第7の実施形態の電子衝撃型CMOSセンサ360では、この課題に対する対策として電子が入射する位置によらず確実にシリコン原子と相互作用を起こすことのできる角度である、7°または22°傾斜した方向から入射するよう、裏面照射型CMOSセンサ100を光電陰極板320に対して7°または22°傾斜してダイボンドしている。
【0080】
本発明において、シリコン基板305が『シリコン基板』に相当し、受光部50が『受光部』に相当し、P+拡散層270が『P+拡散層』に相当し、裏面照射型CMOSセンサ100が『裏面照射型CMOSセンサ』に相当し、アナログ回路40が『アナログ回路』に相当し、画素領域20が『画素領域』に相当し、走査方向70が『走査方向』に相当し、画素10が『画素』に相当し、読み出し回路60が『読み出し回路』に相当し、デジタル回路30が『デジタル回路』に相当し、支持基板310が『支持基板』に相当し、シリコンウェハ110が『シリコンウェハ』に相当し、ボイド130が『ボイド』に相当し、ディープトレンチ分離290が『ディープトレンチ分離』に相当し、正孔誘起膜300が『正孔を誘起する膜』に相当し、転送ゲート220が『転送ゲート』に相当し、フローティングディフュージョン210が『フローティングディフュージョン』に相当し、密封パッケージ350が『密封パッケージ』に相当し、光電陰極板320が『光電陰極板』に相当し、電子衝撃型CMOSセンサ360が『電子衝撃型CMOSセンサ』に相当する。
【0081】
本発明の好ましい実施形態は上記の通りであるが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の精神と範囲から逸脱することのない様々な実施形態が他になされることは理解されよう。さらに、本実施形態において、本発明の構成による作用および効果を述べているが、これら作用および効果は、一例であり、本発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0082】
10 画素
20 画素領域
30 デジタル回路
40 アナログ回路
50 受光部
60 読み出し回路
70 走査方向
100 裏面照射型CMOSセンサ
110 シリコンウェハ
130 ボイド
210 フローティングディフュージョン
220 転送ゲート
230 金属配線
270 P+拡散層
290 ディープトレンチ分離
300 正孔誘起膜
305 シリコン基板
310 支持基板
320 光電陰極板
350 密封パッケージ
360 電子衝撃型CMOSセンサ