(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007440
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】精巣機能改善剤および精巣機能改善方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20220105BHJP
A61P 15/08 20060101ALI20220105BHJP
A61K 35/32 20150101ALI20220105BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P15/08
A61K35/32
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020110422
(22)【出願日】2020-06-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】520233113
【氏名又は名称】デクソンファーマシューティカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】古賀 祥嗣
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087BB46
4C087MA41
4C087NA14
4C087ZA81
(57)【要約】
【課題】動物の精巣機能を顕著に改善できる精巣機能改善剤の提供。
【解決手段】歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を含む、精巣機能改善剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を含む、精巣機能改善剤。
【請求項2】
前記微小粒子がエクソソームである、請求項1に記載の精巣機能改善剤。
【請求項3】
前記歯髄由来幹細胞、前記脂肪由来幹細胞および前記不死化幹細胞を含まず、
MCP-1を含まず、かつ、
シグレック9を含まない、請求項1または2に記載の精巣機能改善剤。
【請求項4】
精巣の精子形成能改善剤である、請求項1~3のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤。
【請求項5】
妊孕能改善剤である、請求項1~3のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤。
【請求項6】
奇形児抑制剤である、請求項1~3のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤。
【請求項7】
前記微小粒子が前記培養上清から精製された微小粒子である、請求項1~6のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤。
【請求項8】
前記微小粒子を0.5×108個以上含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤。
【請求項9】
前記歯髄由来幹細胞または前記脂肪由来幹細胞が、ヒト歯髄由来幹細胞またはヒト脂肪由来幹細胞である、請求項1~8のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤。
【請求項10】
前記歯髄由来幹細胞または前記脂肪由来幹細胞が、ヒト以外の動物の歯髄由来幹細胞またはヒト以外の動物の脂肪由来幹細胞である、請求項1~8のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤を動物に投与する工程を含む、精巣機能改善方法。
【請求項12】
前記動物の精巣の精子形成能を改善すること、
前記動物の妊孕能を改善すること、または、
前記動物の奇形児を抑制することを特徴とする、請求項11に記載の精巣機能改善方法。
【請求項13】
前記精巣機能改善剤を前記動物の精巣に注射する、請求項11または12に記載の精巣機能改善方法。
【請求項14】
前記動物の精巣あたりの前記微小粒子の投与量が0.5×108~2×108個・精巣あたりである、請求項11~13のいずれか一項に記載の精巣機能改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精巣機能改善剤および精巣機能改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不妊症の改善または治療方法、家畜の人工授精を安定化させる方法として、間葉系幹細胞を用いて精子活性化をする方法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、脂肪組織由来幹細胞、歯髄由来幹細胞、骨髄由来幹細胞及び臍帯血由来幹細胞からなる群より選択される一以上の細胞の破砕物が有効成分である、精子活性化剤が記載されている。また、特許文献1には、歯髄由来幹細胞などの破砕物のうち、有効成分の主成分が、熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein; HSP)の一種のHSP90αであることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2018/038180号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、精子活性化剤を、動物から体外に取り出した精液に対して添加した場合に、精子の運動性などを維持できることしか記載されていなかった。そのため、特許文献1は、動物に直接投与して精巣機能を改善できる精子活性化剤は示唆していなかった。
なお、特許文献1に記載の精子活性化剤は、間葉系幹細胞の細胞集団を回収してから凍結溶解処理などにより破砕して製造されるため、そもそも不純物が多くて動物に直接投与することは困難と考えられる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、動物の精巣機能を顕著に改善できる精巣機能改善剤を提供することである。
なお、ここでいう「精巣機能」とは、精巣にて精子を作り出す機能を指すもので、またその精子の機能としては、正常な妊娠と胎児の生育、出産を可能にする正常なる生殖機能を意味している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清(またはこれらの不死化幹細胞の培養上清)に由来する微小粒子を用いることにより、動物の精巣機能を顕著に改善できることを見出し、上記課題を解決した。
なお、特許文献1は、動物から体外に取り出した精液に対して添加する精子活性化剤であるため熱ショックタンパク質を有効成分として注目しており、歯髄由来幹細胞由来または脂肪由来幹細胞の培養上清やエクソソームなどの微小粒子には注目していなかった。
上記課題を解決するための具体的な手段である本発明の構成と、本発明の好ましい構成を以下に記載する。
【0008】
[1] 歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を含む、精巣機能改善剤。
[2] 微小粒子がエクソソームである、[1]に記載の精巣機能改善剤。
[3] 歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞および不死化幹細胞を含まず、
MCP-1を含まず、かつ、
シグレック9を含まない、[1]または[2]に記載の精巣機能改善剤。
[4] 精巣の精子形成能改善剤である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤。
[5] 妊孕能改善剤である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤。
[6] 奇形児抑制剤である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤。
[7] 微小粒子が培養上清から精製された微小粒子である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤。
[8] 微小粒子を0.5×108個以上含む、[1]~[7]のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤。
[9] 歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞が、ヒト歯髄由来幹細胞またはヒト脂肪由来幹細胞である、[1]~[8]のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤。
[10] 歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞が、ヒト以外の動物の歯髄由来幹細胞またはヒト以外の動物の脂肪由来幹細胞である、[1]~[8]のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤。
[11] [1]~[10]のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤を動物に投与する工程を含む、精巣機能改善方法。
[12] 動物の精巣の精子形成能を改善すること、
動物の妊孕能を改善すること、または、
動物の奇形児を抑制することを特徴とする、[11]に記載の精巣機能改善方法。
[13] 精巣機能改善剤を動物の精巣に注射する、[11]または[12]に記載の精巣機能改善方法。
[14] 動物の精巣あたりの微小粒子の投与量が0.5×108~2×108個・精巣あたりである、[11]~[13]のいずか一項に記載の精巣機能改善方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、動物の精巣機能を顕著に改善できる精巣機能改善剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例1の精巣機能改善剤(SGF Exosome)または実施例2の脂肪組織由来のエクソソーム(AT-MSC Exosome)を投与した老齢雄マウスと、比較例1のエクソソームを投与しない老齢雄マウス(Untreated Control)と、参考例1の若い雄マウスについて、精子数を比較した棒グラフである。
【
図2】
図2(A)は、生理食塩水を老齢雄マウスの精巣に投与する比較例11および12(PBSコントロール)の交配試験および出産試験のスキームを表す。
図2(B)は、実施例1の精巣機能改善剤(SGF Exosome)を老齢雄マウスの精巣に投与する実施例11および12の交配試験および出産試験のスキームを表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[精巣機能改善剤]
本発明の精巣機能改善剤は、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清(以下、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清ともいう)に由来する微小粒子を含む。
この構成により、動物の精巣機能を顕著に改善できる精巣機能改善剤を提供することができる。
なお、以下において不死化幹細胞について記載を省略することがあるが、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の説明には、これらの不死化幹細胞も含まれる。
以下、本発明の好ましい態様を説明する。
【0013】
<微小粒子>
本発明では、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を用いる。微小粒子は、例えば、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞からの分泌、出芽または分散などにより、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞から導き出され、細胞培養培地に浸出、放出または脱落する。そのため、微小粒子は、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清に含まれる。
本発明の精巣機能改善剤は、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を、これらの培養上清に含まれた状態で用いてもよく、または培養上清から精製した状態で用いてもよい。すなわち、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清を本発明の精巣機能改善剤として用いてもよいし、これらの培養上清から精製された微小粒子を含む任意の組成物を本発明の精製機能改善剤として用いてもよい。
本発明では、微小粒子が培養上清から精製された微小粒子であることが好ましい。
【0014】
(微小粒子の特性)
微小粒子は、エクソソーム(exosome)、微小胞、膜粒子、膜小胞、エクトソーム(Ectosome)およびエキソベシクル(exovesicle)、またはマイクロベシクル(microvesicle)からなる群から選択される少なくとも1種類であることが好ましく、エクソソームであることがより好ましい。
微小粒子の直径は、10~1000nmであることが好ましく、30~500nmであることがより好ましく、50~150nmであることが特に好ましい。またその微小粒子の表面には、CD9、CD63、CD81などのテトラスパニンという分子が存在することが望ましく、それはCD9単独、CD63単独、CD81単独でもよく、あるいはそれらの2つないしは3つのどの組み合わせでも良い。
以下、微小粒子として、エクソソームを用いる場合の好ましい態様を説明することがあるが、本発明の微小粒子はエクソソームに限定されない。
【0015】
エクソソームは、原形質膜との多胞体の融合時に細胞から放出される細胞外小胞であることが好ましい。
エクソソームの表面は、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞(あるいはこれらの不死化幹細胞)の細胞膜由来の脂質およびタンパク質を含むことが好ましい。
エクソソームの内部には、核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)およびタンパク質など歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の細胞内の物質を含むことが好ましい。
エクソソームは、ある細胞から別の細胞への遺伝情報の輸送による、細胞と細胞とのコミュニケーションのために使用されることが知られている。エクソソームは、容易に追跡可能であり、特異的な領域に標的化され得る。
【0016】
(微小粒子の含有量)
本発明の精巣機能改善剤は、微小粒子の含有量は特に制限はない。本発明の精巣機能改善剤は、微小粒子を0.5×108個以上含むことが好ましく、1.0×108個以上含むことがより好ましく、2.0×108個以上含むことが特に好ましい。
また、本発明の精巣機能改善剤は、微小粒子の含有濃度は特に制限はない。本発明の精巣機能改善剤は微小粒子を0.01×108個/mL以上含むことが好ましく、0.1×108個/mL以上含むことがより好ましく、1.0×108個/mL以上含むことが特に好ましい。
【0017】
(歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清)
歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清は、特に制限はない。
歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清は、血清を実質的に含まないことが好ましい。例えば、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清は、血清の含有量が1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0018】
-歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞-
歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞は、ヒト由来であっても、ヒト以外の動物由来であってもよい。ヒト以外の動物としては、後述する精巣機能改善剤を投与する対象の動物(生物種)と同様のものを挙げることができ、哺乳動物が好ましい。
培養上清に用いられる歯髄由来幹細胞としては、特に制限はない。脱落乳歯歯髄幹細胞(stem cells from exfoliated deciduous teeth)や、その他の方法で入手される乳歯歯髄幹細胞や、永久歯歯髄幹細胞(dental pulp stem cells;DPSC)を用いることができる。ヒト乳歯歯髄幹細胞やヒト永久歯歯髄幹細胞の他、ブタ乳歯歯髄幹細胞などのヒト以外の動物由来の歯髄由来幹細胞を用いることができる。
歯髄由来幹細胞(または脂肪由来幹細胞)は、エクソソームに加え、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子-ベータ(TGF-β)-1および-3、TGF-a、KGF、HBEGF、SPARC、その他の成長因子、ケモカイン等の種々のサイトカインを産生し得る。また、その他の多くの生理活性物質を産生し得る。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清に用いられる歯髄由来幹細胞が、多くのたんぱく質が含まれる歯髄由来幹細胞であることが特に好ましく、乳歯歯髄幹細胞を用いることが好ましい。すなわち、本発明では、乳歯歯髄幹細胞の培養上清(SGF)を用いることが好ましい。
【0019】
培養上清に用いられる脂肪由来幹細胞としては、特に制限はない。脂肪由来幹細胞として、任意の脂肪組織に含まれる体性幹細胞を用いることができる。ヒト脂肪由来幹細胞の他、ブタ脂肪幹細胞などのヒト以外の動物由来の脂肪由来幹細胞を用いることができる。脂肪由来幹細胞としては、例えば、国際公開WO2018/038180号の[0023]~[0041]に記載の方法で調製された脂肪由来幹細胞を用いることができ、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0020】
本発明に用いられる歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞は、目的の処置を達成することができれば、天然のものであってもよく、遺伝子改変したものであってもよい。
特に本発明では、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の不死化幹細胞を用いることができる。実質的に無限増殖が可能な不死化幹細胞を用いることで、幹細胞の培養上清中に含まれる生体因子の量と組成を、長期間にわたって安定させることができる。歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の不死化幹細胞としては、特に制限はない。不死化幹細胞は、癌化していない不死化幹細胞であることが好ましい。歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の不死化幹細胞は、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞に、以下の低分子化合物(阻害剤)を単独または組み合わせて添加して培養することにより、調製することができる。
TGFβ受容体阻害薬としては、トランスフォーミング増殖因子(TGF)β受容体の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル-2-tert-ブチル-1H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン、3-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(4-キノリル)-1-フェニルチオカルバモイル-1H-ピラゾール(A-83-01)、2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル)ピリジン-4-イルアミン(SD-208)、3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾール、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン(以上、メルク社)、SB431542(シグマアルドリッチ社)などが挙げられる。好ましくはA-83-01が挙げられる。
ROCK阻害薬としては、Rho結合キナーゼの機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されない。ROCK阻害薬としては、例えば、GSK269962A(Axonmedchem社)、Fasudil hydrochloride(Tocris Bioscience社)、Y-27632、H-1152(以上、富士フイルム和光純薬株式会社)などが挙げられる。好ましくはY-27632が挙げられる。
GSK3阻害薬としては、GSK-3(Glycogen synthase kinase 3,グリコーゲン合成酵素3)を阻害するものであれば特に限定されることはなく、A 1070722、BIO、BIO-acetoxime(以上、TOCRIS社)などが挙げられる。
MEK阻害薬としては、MEK(MAP kinase-ERK kinase)の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、AZD6244、CI-1040(PD184352)、PD0325901、RDEA119(BAY86-9766)、SL327、U0126-EtOH(以上、Selleck社)、PD98059、U0124、U0125(以上、コスモ・バイオ株式会社)などが挙げられる。
【0021】
本発明の精巣機能改善剤を再生医療に用いる場合、再生医療等安全性確保法の要請から、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を含む精巣機能改善剤は、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞以外のその他の体性幹細胞を含有しない態様とする。ただし、本発明の精巣機能改善剤を再生医療以外の技術分野で用いる場合は、精巣機能改善剤は、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞以外の間葉系幹細胞やその他の体性幹細胞を含有していてもよいが、含有しないことが好ましい。
歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞以外の間葉系幹細胞としては、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞、臍帯血由来幹細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。
間葉系幹細胞以外のその他の体性幹細胞の例としては、真皮系、消化系、骨髄系、神経系等に由来する幹細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。真皮系の体性幹細胞の例としては、上皮幹細胞、毛包幹細胞等が含まれる。消化系の体性幹細胞の例としては膵臓(全般の)幹細胞、肝幹細胞等が含まれる。(間葉系幹細胞以外の)骨髄系の体性幹細胞の例としては、造血幹細胞等が含まれる。神経系の体性幹細胞の例としては、神経幹細胞、網膜幹細胞等が含まれる。
本発明の精巣機能改善剤は、体性幹細胞以外の幹細胞を含有していてもよいが、含有しないことが好ましい。体性幹細胞以外の幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性癌腫細胞(EC細胞)が含まれる。
【0022】
-歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清の調製方法-
歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清の調製方法としては特に制限はなく、従来の方法を用いることができる。
歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清は、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞を培養して得られる培養液であり、細胞そのものを含まない。例えば歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養後に細胞成分を分離除去することによって、本発明に使用可能な培養上清を得ることができる。各種処理(例えば、遠心処理、濃縮、溶媒の置換、透析、凍結、乾燥、凍結乾燥、希釈、脱塩、保存等)を適宜施した培養上清を用いることにしてもよい。
【0023】
歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清を得るための歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞は、常法により選別可能であり、細胞の大きさや形態に基づいて、または接着性細胞として選別可能である。歯髄由来幹細胞の場合には、脱落した乳歯や永久歯から採取した歯髄細胞から、接着性細胞またはその継代細胞として選別することができる。脂肪由来幹細胞の場合には、脂肪組織から採取した脂肪細胞から、接着性細胞またはその継代細胞として選別することができる。歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清には、選別された幹細胞を培養して得られた培養上清を用いることができる。
【0024】
なお、「歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清」は、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞を培養して得られる細胞そのものを含まない培養液であることが好ましい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清は、その一態様では全体としても細胞(細胞の種類は問わない)を含まないことが好ましい。当該態様の細胞増殖剤はこの特徴によって、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞自体は当然のこと、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞を含む各種組成物と明確に区別される。この態様の典型例は、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞を含まず、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清のみで構成された組成物である。
本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞および大人歯髄由来幹細胞の両方の培養上清を含んでいてもよい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞の培養上清を有効成分として含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことが好ましい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞の培養上清のみで構成された組成物であることがより特に好ましい。
【0025】
培養上清を得るための歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養液には基本培地、或いは基本培地に血清等を添加したもの等を使用可能である。なお、基本培地としてはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の他、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(GIBCO社等)、ハムF12培地(HamF12)(SIGMA社、GIBCO社等)、RPMI1640培地等を用いることができる。また、培地に添加可能な成分の例として、血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清等)、血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)、ウシ血清アルブミン(BSA)、抗生物質、各種ビタミン、各種ミネラルを挙げることができる。
但し、血清を含まない「歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清」を調製するためには、全過程を通して或いは最後または最後から数回の継代培養についは無血清培地を使用するとよい。例えば、血清を含まない培地(無血清培地)で歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞を培養することによって、血清を含まない歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清を調製することができる。1回または複数回の継代培養を行うことにし、最後または最後から数回の継代培養を無血清培地で培養することによっても、血清を含まない歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清を得ることができる。一方、回収した培養上清から、透析やカラムによる溶媒置換などを利用して血清を除去することによっても、血清を含まない歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清を得ることができる。
【0026】
培養上清を得るための歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養には、通常用いられる条件をそのまま適用することができる。歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清の調製方法については、幹細胞の種類に応じて幹細胞の単離および選抜工程を適宜調整する以外は、後述する細胞培養方法と同様とすればよい。歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の種類に応じた歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の単離および選抜は、当業者であれば適宜行うことができる。
また、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養には、精巣機能改善に寄与する特定のエクソソームを多量に生産させるために、特別な条件を適用してもよい。特別な条件として、例えば、低温条件、低酸素条件、微重力条件など、何らかの刺激物と共培養する条件などを挙げることができる。
【0027】
-歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清に含まれるその他の成分-
本発明でエクソソームの調製に用いる歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清は、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清の他にその他の成分を含んでいてもよいが、その他の成分を実質的に含まないことが好ましい。
ただし、エクソソームの調製に使用する各種類の添加剤を、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清に添加してから保存しておいてもよい。
【0028】
(微小粒子の精製)
歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清から、微小粒子を精製することができる。
微小粒子の精製は、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清から微小粒子を含む画分の分離であることが好ましく、微小粒子の単離であることがより好ましい。
微小粒子は、微小粒子の特性に基づいて非会合成分から分離されることにより、単離され得る。例えば、微小粒子は、分子量、サイズ、形態、組成または生物学的活性に基づいて単離され得る。
本発明では、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清を遠心処理して得られた、微小粒子を多く含む特定の画分(例えば沈殿物)を分取することにより、微小粒子を精製することができる。所定の画分以外の画分の不要成分(不溶成分)は除去してもよい。精巣機能改善剤からの、溶媒および分散媒、ならびに不要成分の除去は完全な除去でなくてもよい。遠心処理の条件を例示すると、100~20000gで、1~30分間である。
本発明では、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清またはその遠心処理物を、ろ過処理することにより、微小粒子を精製することができる。ろ過処理によって不要成分を除去することができる。また、適切な孔径のろ過膜を使用すれば、不要成分の除去と滅菌処理を同時に行うことができる。ろ過処理に使用するろ過膜の材質、孔径などは特に限定されない。公知の方法で、適切な分子量またはサイズカットオフのろ過膜でろ過をすることができる。ろ過膜の孔径はエクソソームを分取しやすい観点から、10~1000nmであることが好ましく、30~500nmであることがより好ましく、50~150nmであることが特に好ましい。
本発明では、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清またはその遠心処理物あるいはそれらのろ過処理物を、ラムクロマトグラフィーなど、さらなる分離手段を用いて分離することができる。例えば様々なカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用できる。カラムは、サイズ排除カラムまたは結合カラムを使用できる。
各処理段階におけるそれぞれの画分中で、微小粒子(またはその活性)を追跡するために、微小粒子の1つ以上の特性または生物学的活性を使用できる。例えば、微小粒子を追跡するために、光散乱、屈折率、動的光散乱またはUV-可視光検出器を使用できる。または、それぞれの画分中の活性を追跡するために、精巣機能改善活性などの治療活性を使用できる。
微小粒子の精製方法として、特表2019-524824号公報の[0034]~[0064]に記載の方法を用いてもよく、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0029】
<その他の成分>
本発明の精巣機能改善剤は、微小粒子の他に、投与する対象の動物の種類や目的に応じて、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、栄養成分、抗生物質、サイトカイン、保護剤、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤などを挙げられる。
栄養成分としては、例えば、脂肪酸等、ビタミン等を挙げることができる。
抗生物質としては、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン等が挙げられる。
担体としては、薬学的に許容可能な担体として公知の材料を挙げることができる。
本発明の精巣機能改善剤は、微小粒子それ自体であってもよく、薬学的に許容可能な担体や賦形剤などをさらに含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物の目的は、投与対象の動物への微小粒子の投与を促進することである。
【0030】
薬学的に許容可能な担体は、投与対象の動物に対して顕著な刺激性を引き起こさず、投与される化合物の生物学的活性および特性を抑止しない担体(希釈剤を含む)であることが好ましい。担体の例は、プロピレングリコール;(生理)食塩水;エマルション;緩衝液;培地、例えばDMEMまたはRPMIなど;フリーラジカルを除去する成分を含有する低温保存培地である。
【0031】
一方、本発明の精巣機能改善剤は、所定の物質を含まないことが好ましい。
例えば、本発明の精巣機能改善剤は、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞を含まないことが好ましい。
また、本発明の精巣機能改善剤は、MCP-1を含まないことが好ましい。ただし、MCP-1以外のサイトカインを含んでいてもよい。その他のサイトカインとしては、特開2018-023343号公報の[0014]~[0020]に記載のもの等が挙げられる。
また、本発明の精巣機能改善剤は、シグレック9を含まないことが好ましい。ただし、シグレック9以外のその他のシアル酸結合免疫グロブリン様レクチンを含んでいてもよい。
なお、本発明の精巣機能改善剤は、血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清等)を実質的に含まないことが好ましい。また、本発明の精巣機能改善剤は、Knockout serum replacement(KSR)などの従来の血清代替物を実質的に含まないことが好ましい。
本発明の精巣機能改善剤は、上記したその他の成分の含有量(固形分量)がいずれも1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0032】
<精巣機能改善剤の製造方法>
本発明の精巣機能改善剤の製造方法は、特に制限はない。
上記した方法で調製した歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清、または、商業的に購入して入手した歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清を、精巣機能改善剤として用いてもよい。
また、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清を上記した方法で調製し、続けて歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清から微小粒子を精製して、精巣機能改善剤を調製してもよい。あるいは、商業的に購入して入手した歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清から微小粒子を精製して、精巣機能改善剤を調製してもよい。さらには、廃棄処理されていた歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清を含む組成物を譲り受けて(またはその組成物を適宜精製して)、そこから微小粒子を精製して、精巣機能改善剤を調製してもよい。
【0033】
本発明の精巣機能改善剤の最終的な形態は、特に制限はない。例えば、本発明の精巣機能改善剤は、微小粒子を溶媒または分散媒とともに容器に充填してなる形態;微小粒子をゲルとともにゲル化して容器に充填してなる形態;微小粒子を凍結および/または乾燥して固形化して製剤化または容器に充填してなる形態などが挙げられる。容器としては、例えば凍結保存に適したチューブ、遠沈管、バッグなどが挙げられる。凍結温度は、例えば-20℃~-196℃とすることができる。
【0034】
<精巣機能改善剤の用途>
本発明の精巣機能改善剤は、精巣機能を改善できる。本明細書における精巣機能には、精巣自体が精子を形成する能力(精子数の増加など)や、精巣自体のその他の機能(男性ホルモンの増加など)に加えて、精巣から得られた精子自体の機能(運動性、運動率、生存期間、遺伝子異常がないことの改善など)や、精巣から得られた精子が雌に作用する機能(妊孕能改善や、奇形児抑制能などの不育症改善能など)も含まれる。さらに、老齢により老化した精巣機能を若返らせる効果があり、その若返りは、上記の全ての項目に当てはまる。
本発明の精巣機能改善剤の投与により効果や病気発症リスクの軽減が期待できる疾患としては、男性不妊症、不育症、ED(勃起不全)などを挙げることができる。男性不妊症のなかでも、造精機能障害(精子形成障害)、精路通過障害、性機能障害(生殖機能改善)を好ましく改善できる。
好ましい一態様として、本発明の精巣機能改善剤は、精巣の精子形成能改善剤であることが好ましい。精巣の精子形成能改善剤は、動物(好ましくは動物の精巣)に投与した場合に、精子形成数を増加できることが好ましい。
別の好ましい一態様として、本発明の精巣機能改善剤は、妊孕能改善剤であることが好ましい。妊孕能改善剤は、動物に投与した場合に、雌または女性との交配の回数および/または妊娠させる確率(受胎率、自然妊娠率)を増加できることが好ましい。
別の好ましい一態様として、本発明の精巣機能改善剤は、不育症改善剤であることが好ましく、奇形児抑制剤であることがより好ましい。不育症改善剤は、雄由来(男性由来)の不育症改善剤であることが好ましい。不育症改善剤は、動物に投与した場合に、雌または女性と交配して出産された子供のうち正常発育できる子供の数を増加できること、すなわち異様発育または死亡数が少ないことがより好ましい。不育症改善剤は、動物に投与した場合に、遺伝子異常が無い(または少ない)精子が多く得られることが特に好ましい。また、不育症改善剤は、奇形児抑制剤であること、すなわち動物に投与した場合に、および遺伝子異常が無い(または少ない)子供の数を増加できることが特に好ましい。
なお、本発明の精巣機能改善剤は、動物の精巣機能を顕著に改善できることに加えて、動物から体外に取り出した精液に対して添加する精子活性化剤として用いることもできる。例えば、凍結精液に対して本発明の精巣機能改善剤を投与する態様も、本発明の精巣機能改善剤および精巣機能改善方法に含まれる。ただし、本発明の精巣機能改善剤は、動物の精巣に投与した場合に動物の精巣機能を顕著に改善できる態様であることが好ましい。すなわち、本発明の精巣機能改善剤から、動物から体外に取り出した精液に対して添加する精子活性化剤は除かれることが好ましい。
【0035】
本発明の精巣機能改善剤は、従来の精巣機能改善剤や精子活性化剤と比較して、大量生産しやすい、従来は酸魚廃棄物等として廃棄されていた幹細胞の培養液を利活用できる、幹細胞の培養液の廃棄コストを減らせる等の利点がある。特に歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清が、ヒト歯髄由来間葉系幹細胞またはヒト脂肪由来幹細胞の培養上清である場合は、本発明の精巣機能改善剤をヒトに対して適用する場合に、免疫学上などの観点での安全性が高く、倫理性の問題も少ないという利点もある。歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清が、種々の疾患患者(不妊症など)からの歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清である場合は、本発明の精巣機能改善剤をその患者に対して適用する際により安全性が高まり、倫理性の問題も少なくなるであろう。
本発明の精巣機能改善剤は、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清に由来するため、修復医療の用途にも用いられる。特に歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清(特にSGF)を含む液は、修復医療の用途に好ましく用いられる。ここで、幹細胞移植を前提とした再生医療において、幹細胞は再生の主役ではなく、幹細胞の産生する液性成分が自己の幹細胞とともに臓器を修復させる、ということが知られている。従来の幹細胞移植に伴うがん化、規格化、投与方法、保存性、培養方法などの困難な問題が解決され、SGFなどの歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清を用いた精巣機能改善剤により修復医療が可能となる。幹細胞移植と比較すると、本発明の精巣機能改善剤を用いた修復では細胞を移植しないために腫瘍化などが起こりにくく、より安全と言えるだろう。また、SGFや、脂肪由来幹細胞の培養上清や、本発明の精巣機能改善剤は一定に規格化した品質のものを使用できる利点がある。大量生産や効率的な投与方法を選択することができるので、低コストで利用ができる。
【0036】
[精巣機能改善方法]
本発明の精巣機能改善方法は、本発明の精巣機能改善剤を動物に投与する工程を含む。
本発明の精巣機能改善剤を動物に投与する方法は特に制限はない。
投与方法は、点滴、局所投与、点鼻薬などであり、非常に侵襲が少なく、副作用はほとんど確認されない。局所投与の方法としては、注射が好ましい。また、皮膚表面に電圧(電気パルス)をかけることにより細胞膜に一時的に微細な穴をあけ、通常のケアでは届かない真皮層まで有効成分を浸透させられるエレクトロポレーションも好ましい。
本発明の精巣機能改善方法は、本発明の精巣機能改善剤を動物の精巣に注射する工程を含むことが好ましい。
動物に投与された本発明の精巣機能改善剤は少なくとも精巣内を循環し、痛んだ組織(幹細胞も含む)を見つけると、ホーミング効果により、組織(幹細胞)自身が活性化し修復再生する。さらに投与された本発明の精巣機能改善剤は、体内を循環することもあり、脳下垂体を刺激し、ホルモンバランスを健全化して新陳代謝のサイクルが元通りに代謝亢進する。
一方、動物から対外に取り出された精液に投与された本発明の精巣機能改善剤は、精子を活性化する。
【0037】
精巣機能改善剤を投与する対象の動物の歳(年齢、週令など)は、特に制限はない。本発明の精巣機能改善剤は、若い動物に投与しても、老齢の動物に投与してもよい。
本発明の精巣機能改善剤の好ましい一態様によれば、老衰などによって精巣機能が劣ってきた老齢の動物の精巣機能を改善できるため、特に老齢の動物に投与することが好ましい。本発明の精巣機能改善剤が脂肪由来幹細胞の培養上清に由来する(から精製された)微小粒子を含む場合は、老衰などによって精巣機能が劣ってきた老齢の動物の精巣機能を、若い動物の精巣機能と同程度に改善できる。さらに、本発明の精巣機能改善剤が歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する(から精製された)微小粒子を含む場合は、老衰などによって精巣機能が劣ってきた老齢の動物の精巣機能を、若い動物の精巣機能以上に改善できる。
【0038】
精巣機能改善剤を投与する対象の動物(生物種)は、特に制限はない。精巣機能改善剤を投与する対象の動物は、哺乳動物、鳥類(ニワトリ、ウズラ、カモなど)、魚類(サケ、マス、マグロ、カツオなど)であることが好ましい。哺乳動物としては、ヒトであっても、非ヒト哺乳動物であってもよいが、ヒトであることが特に好ましい。非ヒト哺乳動物としては、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスターであることがより好ましく、ウマであることが特に好ましい。
ウマの中でも競走馬として用いられる品種が好ましく、サラブレッドであることがより好ましい。競走馬は、一般的に老齢になってから種馬として用いられることが多いが、本発明の精巣機能改善剤は老齢の雄に対して精巣機能改善(精子形成能、妊孕能および不育症改善能)を若い雄と同程度以上に高めることができるため、本発明の精巣機能改善剤を投与する対象の動物として競走馬は好ましい。また、競走馬が若い内に多くの精液を入手して保存する場合もあり、本発明の精巣機能改善剤は精子形成能を高めて精液中の精子数を増やすこともできるため、本発明の精巣機能改善剤を投与する対象の動物として若い競走馬も好ましい。
【0039】
精巣機能改善剤を投与する場合における、精巣あたりの微小粒子の投与量は特に制限はない。本発明の精巣機能改善方法は、精巣あたりの微小粒子の投与量が0.1×108~1000×108個・精巣あたりであることが好ましく、0.5×108~100×108個・精巣あたりであることがより好ましく、0.5×108~2×108個・精巣あたりであることが特に好ましい。
【実施例0040】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0041】
[実施例1]:SGF Exosome
<歯髄由来幹細胞の培養上清の調製>
DMEM/HamF12混合培地の代わりにDMEM培地を用い、その他は特許第6296622号の実施例6に記載の方法に準じて、乳歯歯髄幹細胞の培養上清を調製した。初代培養ではウシ胎仔血清(FBS)を添加して培養し、継代培養では初代培養液を用いて培養した継代培養液の上清をFBSが含まれないように分取し、乳歯歯髄幹細胞の培養上清を調製として用いた。なお、DMEMはダルベッコ改変イーグル培地であり、F12はハムF12培地である。
得られた乳歯歯髄幹細胞の培養上清を、SGFとした。
【0042】
<歯髄由来幹細胞の培養上清からのエクソソームの調製>
SGFから、歯髄由来幹細胞のエクソソームを以下の方法で精製した。
乳歯歯髄幹細胞の培養上清SGF(100mL)を0.22マイクロメーターのポアサイズのフィルターで濾過したのち、その溶液を、60分間、4℃で100000xgで遠心分離した。上清をデカントし、エクソソーム濃縮ペレットをリン酸緩衝食塩水(PBS)中に再懸濁した。再懸濁サンプルを、60分間100000xgで遠心分離した。再度ペレットを濃縮サンプルとして遠心チューブの底から回収した(およそ100μl)。タンパク濃度は、マイクロBSAタンパク質アッセイキット(Pierce、Rockford、IL)によって決定した。エクソソーム濃縮溶液は、-80℃で保管した。
得られたエクソソーム濃縮溶液を、実施例1の精巣機能改善剤とした。以下、実施例1の精巣機能改善剤をSGFエクソソーム(SGF Exosome)とも言う。
【0043】
<SGFエクソソームの特性>
SGFエクソソームに含まれる微小粒子の平均粒径は50~150nmであった。
SGFエクソソームは、50μLあたり2×108個の微小粒子を含んでいた。すなわち、SGFエクソソームは0.04×108個/μLの高濃度エクソソーム溶液であった。
また、得られたSGFエクソソームの成分を公知の方法で分析した。その結果、SGFエクソソームは、歯髄由来幹細胞を含まず、MCP-1を含まず、シグレック9も含まないことがわかった。そのため、間葉系幹細胞の培養上清の有効成分であるMCP-1およびシグレック9ならびにこれらの類縁体とは異なる有効成分が、SGFエクソソームの有効成分であることがわかった。
【0044】
<マウスでの精子形成試験>
50μLのSGFエクソソームを、老齢雄マウス(60週令)の精巣に注射で投与した。すなわち、老齢雄マウスの精巣あたり、2×10
8個(20μg)のエクソソームを含むSGFエクソソームを直接投与した。
投与後、2週間後に精巣(精巣上体尾部)を摘出し、精巣あたりの精子数をカウントし、2回の平均を求めた。得られた結果を
図1に示した。
【0045】
[実施例2]:AT-MSC Exosome
脂肪由来幹細胞を用いた以外は実施例1と同様にして、脂肪由来幹細胞の培養上清を調製した。得られた脂肪由来幹細胞の培養上清から、エクソソームを実施例1と同様にして調製した。得られたエクソソームをAT-MSCエクソソーム(AT-MSC Exosome)とした。
AT-MSCエクソソームを用いた以外は実施例1と同様にして、マウスでの精子形成試験を行った。得られた結果を
図1に示した。
【0046】
<AT-MSCエクソソームの特性>
AT-MSCエクソソームに含まれる微小粒子の平均粒径は50~150nmであった。
AT-MSCエクソソームは、50μLあたり2×108個の微小粒子を含んでいた。すなわち、AT-MSCエクソソームは0.04×108個/μLの高濃度エクソソーム溶液であった。
また、得られたAT-MSCエクソソームの成分を公知の方法で分析した。その結果、AT-MSCエクソソームは、脂肪由来幹細胞を含まず、MCP-1を含まず、シグレック9も含まないことがわかった。そのため、間葉系幹細胞の培養上清の有効成分であるMCP-1およびシグレック9ならびにこれらの類縁体とは異なる有効成分が、AT-MSCエクソソームの有効成分であることがわかった。
【0047】
[比較例1]:Untreated Control
未処置のコントロールとして、エクソソームを投与しない老齢雄マウス(60週令)について、実施例1と同様にしてマウスでの精子形成試験を行った(N=1)。得られた結果を
図1に示した。
【0048】
[参考例1]:12-week-old Mouse
エクソソームを投与しない若い雄マウス(12週令)について、実施例1と同様にしてマウスでの精子形成試験を行った(N=1)。得られた結果を
図1に示した。
【0049】
図1より、まず、何も処置をしない場合(エクソソームを投与しない場合)は、参考例1の若い雄マウス(12週令)の方が、比較例1の老齢雄マウスよりも、精子数は多かった。
次に、老齢雄マウス(60週令)の例の間で比較すると、比較例1のエクソソームを投与しない場合よりも、実施例1のSGFエクソソームまたは実施例2のAT-MSCエクソソームを投与した場合の方が、いずれも精子数が顕著に増加することがわかった。特に、実施例1のSGFエクソソームを投与した場合は、実施例2のAT-MSCエクソソームを投与した場合よりも、精子数がより増加し、高い精子形成能を認められることがわかった。
一方、老齢雄マウス(60週令)の例と若い雄マウス(12週令)の例との間で比較をすると、実施例2のAT-MSCエクソソームを投与した場合は、参考例1の若い雄マウス(12週令)にエクソソームを投与しない場合と同程度か少し劣る程度まで、精子数が増加(回復)することがわかった。そして、特に老齢雄マウス(60週令)に実施例1のSGFエクソソームを投与した場合は、参考例1の若い雄マウス(12週令)にエクソソームを投与しない場合を超えて、精子数が顕著に増加(強壮)することがわかった。実施例1のSGFエクソソームの投与により、老齢雄マウスの精子数を若い雄マウスの精子数よりも増加できることは、当業者が予測できないほど顕著な効果であると言える。
以上より、本発明の精巣機能改善剤によれば、精子形成能について動物の精巣機能を顕著に改善できることがわかった。
【0050】
[実施例11、12、比較例11、12]
図2のスキームにしたがって、交配試験および出産試験を行った。
老齢雄マウス(58週令)4匹を用意し、2群に分けた。
図2(B)のとおり、実施例1で得られたSGFエクソソームを、2匹それぞれの老齢雄マウスの精巣あたり、2×10
8個を直接投与した。投与量は精巣あたり50μLとした。実施例11の老齢雄マウスを雄1、実施例12の老齢雄マウスを雄2とした。
対照として、
図2(A)のとおり、実施例11および12においてSGFエクソソームの代わりに同量の50μLの生理食塩水(PBSコントロール)を、2匹それぞれの老齢雄マウスの精巣に投与した。比較例11の老齢雄マウスを雄3、比較例12の老齢雄マウスを雄4とした。
実施例11、12、比較例11、12の老齢雄マウスの生育を2週間行った。
【0051】
<雌マウスとの交配試験>
正常雌マウスの外陰部を観察し、外陰部が赤く腫脹している(性周期が発情前期にある)雌マウスを選んで、各実施例および比較例の老齢雄マウスとの交配に用いた。
各実施例および比較例の老齢雄マウス1匹に対して、それぞれ若い12週令の雌マウス2匹(雌1および雌2として区別)を同居させ、夕方から飼育を開始した。
飼育開始から16時間後(翌日)および40時間後(2日目)に、雌マウスの外陰部を観察してプラグ(膣栓)の有無を確認し、交配が成立しているか確認した。プラグが「有り」であれば交配が成立していると判断し、16時間後にプラグが「有り」となった場合は、40時間後のプラグの有無の確認は行わなかった(下記表1および表2中の「-」評価)。
その結果、SGFエクソソームを投与した実施例11の雄1および実施例12の雄2と交配した雌マウス4匹のうち、3匹でプラグが「有り」であることがわかった。一方、PBSコントロールの(エクソソームを投与しなかった)比較例11の雄3および比較例12の雄4と交配した雌マウス4匹はいずれもプラグが「無し」であることがわかった。
得られた結果のうち、雄1~雄4とそれぞれの雌1との交配結果を下記表1に、雄1~雄4とそれぞれの雌2との交配結果を下記表2に示した。
【0052】
【0053】
【0054】
<出産試験>
その後、交配が成立した雌マウスを単独で飼育し、20日以内の出産(分娩)を確認し、仔マウスの数をカウントした(
図1の出産確認を参照)。
その結果、上記表1および表2において、プラグが「有り」であった雌マウスから仔マウスが合計15匹産まれ、プラグが「無し」であった雌マウスからは仔マウスが産まれなかった。
具体的には、SGFエクソソームを投与した実施例11の雄1との交配については、プラグが「有り」の雌1のマウス(上記表1参照)から仔マウスが4匹産まれ、プラグが「無し」の雌2のマウス(上記表2参照)からは仔マウスが産まれなかった。
SGFエクソソームを投与した実施例12の雄2との交配については、プラグが「有り」の雌1のマウス(上記表1参照)から仔マウスが6匹産まれ、プラグが「有り」の雌2のマウス(上記表2参照)からは仔マウスが5匹産まれた。
一方、PBSコントロールの(エクソソームを投与しなかった)比較例11の雄3との交配については、プラグが「無し」の雌1のマウス(上記表1参照)からも、プラグが「無し」の雌2のマウス(上記表2参照)からも仔マウスが産まれなかった。
PBSコントロールの(エクソソームを投与しなかった)比較例12の雄4との交配については、プラグが「無し」の雌1のマウス(上記表1参照)からも、プラグが「無し」の雌2のマウス(上記表2参照)からも仔マウスが産まれなかった。
その後、出産から24時間後に、仔マウスの腹部にミルクスポット(乳汁の貯留)が存在するか確認した。産まれた15匹の仔マウスのうち、14匹について、ミルクスポットが確認された。SGFエクソソームを投与した実施例12の雄2のマウスと2匹目の雌(雌2)のマウスとの交配後に生まれた1匹の仔マウスでは、ミルクスポットが確認されなかった。
得られた結果のうち、上記表1に記載した雄1~雄4とそれぞれの1匹目の雌(雌1)との交配後の出産結果を下記表3に、上記表2に記載した雄1~雄4とそれぞれの2匹目の雌(雌2)との交配後の出産結果を下記表4にまとめた。
【0055】
【0056】
【0057】
上記表1~表4より、通常の老齢雄マウス(58週令)に相当する、PBSコントロールの(エクソソームを投与しなかった)比較例11または12の雄マウスは、いずれも雌マウスを妊娠させることができなかった。これは、老衰によって、雄マウスの精巣機能が劣っていたためと考えられる。
これに対し、SGFエクソソームを投与した実施例11または実施例12の雄マウスの場合はそれぞれ少なくとも1匹の雌マウスを妊娠させることができ、かつそれぞれの雌マウスからの出産を確認できた。そのため、SGFエクソソームを投与した雄マウスは、雌マウスを妊娠させやすくなり、かつ仔マウスを出産させやすくなったことがわかった。
以上より、本発明の精巣機能改善剤によれば、妊孕能(雌を妊娠させる能力)について動物の精巣機能を顕著に改善(回復)できることがわかった。
【0058】
<仔マウスの発育試験>
出産試験で産まれた15匹の仔マウスを飼育し、生後4週令で発育の状態を確認した。
その結果、産まれた15匹の仔マウスのうち、13匹が正常発育し、2匹が死亡(異常発育)した。
得られた結果のうち、雄1~雄4とそれぞれの1匹目の雌(雌1)との交配後の仔マウスの発育結果仔を下記表5に、雄1~雄4とそれぞれの2匹目の雌(雌2)との交配後の仔マウスの発育結果を下記表6に示した。
【0059】
【0060】
【0061】
上記表5および表6より、SGFエクソソームを投与した実施例11または実施例12の雄マウスの場合は、産まれた仔マウスの正常発育する確率が高いことがわかった。そのため、SGFエクソソームを投与した雄マウスは、仔マウスが正常発育する確率が高く、雄由来の不育症を改善(または抑制)できることがわかった。この結果は、SGFエクソソームを投与した実施例11または実施例12の雄マウスでは、遺伝子異常が無い(または少ない)精子が多く得られたこと、および遺伝子異常が無い(または少ない)仔マウスを産まれたことを示唆している。
なお、PBSコントロールの(エクソソームを投与しなかった)比較例11または12の雄マウスは出産試験で仔マウスが産まれなかったため、発育試験を行えなかった。
以上より本発明の精巣機能改善剤は、雄由来の不育症を改善できることがわかった。
以上の各実施例より、本発明の精巣機能改善剤は、動物の精巣機能を顕著に改善できること、特に精子形成能、妊孕能および不育症を改善できることがわかった。特に、本発明の精巣機能改善剤の好ましい態様では、老衰などによって精巣機能(または生殖能力)が劣ってきた老齢の雄の精子形成能、妊孕能および不育症を顕著に改善できることがわかった。
【0062】
[実施例21]:不死化MSCエクソソーム
実施例1と同様の方法で調製したヒト歯髄由来幹細胞に対して、TGFβ受容体阻害薬である3-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(4-キノリル)-1-フェニルチオカルバモイル-1H-ピラゾール(A-83-01)(メルク社)と、ROCK阻害薬であるY-27632(富士フイルム和光純薬株式会社)を組み合わせて添加して公知の方法で培養することにより、不死化MSC(間葉系幹細胞)を得た。
得られた不死化MSCを用いた以外は、実施例1と同様にして、不死化MSCの培養上清を調製した。得られた不死化MSCの培養上清から、エクソソームを実施例1と同様にして調製した。得られたエクソソームを不死化MSCエクソソームとした。
不死化MSCエクソソームを用いた以外は実施例1と同様にして、精子形成試験を行った。具体的には、不死化MSCエクソソームを老齢雄マウス(60週令、N=1)の精巣に注射で投与した。すなわち、老齢雄マウスの精巣あたり、2×108個(20μg)のエクソソームを含む不死化MSCエクソソームを直接投与した。
投与後、2週間後に精巣(精巣上体尾部;caudal epididymis)を摘出し、精巣あたりの精子数をカウントしたところ、11.9×106個/caudal epididymisであった。
【0063】
[比較例21]:Untreated Control
未処置のコントロールとして、エクソソームを投与しない老齢雄マウス(60週令)について、実施例21と同様にしてマウスでの精子形成試験を行った(N=1)。
投与後、2週間後に精巣(精巣上体尾部;caudal epididymis)を摘出し、精巣あたりの精子数をカウントしたところ、6.3×106個/caudal epididymisであった。
【0064】
以上の実施例21および比較例21から、比較例21のエクソソームを投与しない場合よりも、実施例21の不死化MSCエクソソームを投与した場合の方が、精子数が顕著に増加することがわかった。以上より、本発明の精巣機能改善剤によれば、精子形成能について動物の精巣機能を顕著に改善できることがわかった。
本発明の精巣機能改善剤は、従来の精巣機能改善剤や精子活性化剤と比較して、大量生産しやすい、従来は酸魚廃棄物等として廃棄されていた幹細胞の培養液を利活用できる、幹細胞の培養液の廃棄コストを減らせる等の利点がある。特に歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清が、ヒト歯髄由来間葉系幹細胞またはヒト脂肪由来幹細胞の培養上清である場合は、本発明の精巣機能改善剤をヒトに対して適用する場合に、免疫学上などの観点での安全性が高く、倫理性の問題も少ないという利点もある。歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清が、種々の疾患患者(不妊症など)からの歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清である場合は、本発明の精巣機能改善剤をその患者に対して適用する際により安全性が高まり、倫理性の問題も少なくなるであろう。
本発明の精巣機能改善剤は、歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清に由来するため、修復医療の用途にも用いられる。特に歯髄由来幹細胞または脂肪由来幹細胞の培養上清(特に乳歯歯髄幹細胞の培養上清)を含む液は、修復医療の用途に好ましく用いられる。ここで、幹細胞移植を前提とした再生医療において、幹細胞は再生の主役ではなく、幹細胞の産生する液性成分が自己の幹細胞とともに臓器を修復させる、ということが知られている。従来の幹細胞移植に伴うがん化、規格化、投与方法、保存性、培養方法などの困難な問題が解決され、乳歯歯髄幹細胞の培養上清などの歯髄由来幹細胞の培養上清または脂肪由来幹細胞の培養上清を用いた精巣機能改善剤により修復医療が可能となる。幹細胞移植と比較すると、本発明の精巣機能改善剤を用いた修復では細胞を移植しないために腫瘍化などが起こりにくく、より安全と言えるだろう。また、乳歯歯髄幹細胞の培養上清や、脂肪由来幹細胞の培養上清や、本発明の精巣機能改善剤は一定に規格化した品質のものを使用できる利点がある。大量生産や効率的な投与方法を選択することができるので、低コストで利用ができる。
上記表1~表4より、通常の老齢雄マウス(58週令)に相当する、PBSコントロールの(エクソソームを投与しなかった)比較例11または12の雄マウスは、いずれも雌マウスを妊娠させることができなかった。これは、老衰によって、雄マウスの精巣機能が劣っていたためと考えられる。
これに対し、歯髄由来幹細胞エクソソームを投与した実施例11または実施例12の雄マウスの場合はそれぞれ少なくとも1匹の雌マウスを妊娠させることができ、かつそれぞれの雌マウスからの出産を確認できた。そのため、歯髄由来幹細胞エクソソームを投与した雄マウスは、雌マウスを妊娠させやすくなり、かつ仔マウスを出産させやすくなったことがわかった。
以上より、本発明の精巣機能改善剤によれば、妊孕能(雌を妊娠させる能力)について動物の精巣機能を顕著に改善(回復)できることがわかった。
前記歯髄由来幹細胞または前記脂肪由来幹細胞が、ヒト以外の動物の歯髄由来幹細胞またはヒト以外の動物の脂肪由来幹細胞である、請求項1~8のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤。
前記歯髄由来幹細胞または前記脂肪由来幹細胞が、ヒト以外の動物の歯髄由来幹細胞またはヒト以外の動物の脂肪由来幹細胞である、請求項1~8のいずれか一項に記載の精巣機能改善剤。