(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074403
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ギアの疲労推定装置
(51)【国際特許分類】
G01M 13/02 20190101AFI20220511BHJP
G01M 17/007 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01M13/02
G01M17/007 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184406
(22)【出願日】2020-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】末永 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】高巣 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼塚 祐介
(72)【発明者】
【氏名】藤野 友也
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AB01
2G024BA12
2G024BA22
2G024CA09
2G024CA12
(57)【要約】
【課題】ギア歯面の繰り返し応力を受ける部位がギアトルクにより変化するギアでのギア歯面の疲労損傷の蓄積度の推定を、実態に近い態様で行う。
【解決手段】疲労推定装置は、ギアトルクを示す値として走行用モータの出力トルクTMを取得するとともに(S100)、出力トルクTMの値を含むトルク区間TS[i]に対応した区間別疲労蓄積度FD[i]の値のみを増加させるように、3つのトルク区間のそれぞれに対応する3つの区間別疲労蓄積度FD[1]、FD[2]、FD[3]の値の更新していく(S120,S130)。そして、疲労推定装置は、各区間別疲労蓄積度FD[1]、FD[2]、FD[3]の値を外部に出力する(S140)。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギア歯の疲労損傷の蓄積度を推定するギアの疲労推定装置であって、
複数のトルク区間のそれぞれに対応する複数の区間別疲労蓄積度を、前記ギア歯の疲労損傷の蓄積度を示す変数として有するとともに、
ギアトルクを取得する取得処理と、
前記取得処理による前記ギアトルクの取得に応じて実行される処理であって、前記複数の区間別疲労蓄積度のうち、前記取得処理で取得した前記ギアトルクの値が含まれるトルク区間に対応した区間別疲労蓄積度の値のみを増加させる更新処理と、
前記複数の区間別疲労蓄積度の値を出力する出力処理と、
を実行するギアの疲労推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギアの疲労寿命の予測などに用いるギア歯面の疲労損傷の蓄積度を推定するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ギアの疲労寿命を予測する装置として特許文献1に記載の装置が知られている。同文献の寿命予測装置は、駆動源として車両に搭載された走行用モータの回転を減速する減速機構に設けられたギアの寿命を推定する装置として構成されている。そして、同文献の寿命予測装置は、ギアのトルク及び回転数を逐次記録しており、記録したそれらの値からマイナー則を用いてギアの疲労寿命を推定している。
【0003】
ギアの歯面には、噛み合わされたギアとのギア歯と接触する都度、接触応力が加わる。そして、そうした接触応力を繰り返し受けることでギアの歯面に疲労損傷が蓄積されていき、疲労破壊に至るまでがギアの疲労寿命となる。ギアの歯面が受ける繰り返し応力の振幅はギアのトルクから、同応力の繰り返し回数はギアの回転数から、それぞれ求まる。上記従来の寿命予測装置は、ギアのトルク及び回転数から把握されるギア歯面の応力振幅、及び応力の繰り返し回数からギア歯の疲労損傷の蓄積度を推定し、その推定結果からギアの疲労寿命を予測する装置となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ギア歯面での接触応力の分布は一様ではなく、歯面の疲労破壊は、ギア歯面の中で接触応力が特に高くなる部分で発生する。一方、噛み合わされるギアの組合せなどによっては、ギア歯面の中で接触応力が特に高くなる部分の位置がギアトルクにより変化することがある。こうした場合、ギアトルクにより、ギア歯面の異なる場所に疲労損傷が蓄積されることになる。なお、以下の説明では、ギア歯面にあって接触応力が特に高くなる部分を、応力集中部と記載する。
【0006】
これに対して上記寿命予測装置では、こうしたギアトルクによる応力集中部の位置の変化を考慮せずに疲労寿命を予測している。すなわち、上記寿命予測装置での疲労寿命の予測のためのギア歯面の疲労損傷の蓄積度の推定は、ギアトルクに拘わらず、ギア歯面の同じ場所に疲労損傷が蓄積されるものとして行われている。そのため、上記従来の寿命予測装置では、ギアトルクによる応力集中部の変化により、ギア歯面の広い範囲に分散して疲労損傷が蓄積された場合には、ギアの疲労寿命を本来よりも短く見積もってしまうことになる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するギアの疲労推定装置は、ギア歯の疲労損傷の蓄積度を推定するギアの装置である。また、同疲労推定装置では、複数のトルク区間のそれぞれに対応する複数の区間別疲労蓄積度を、ギア歯の疲労損傷の蓄積度を示す変数として有している。そして、同疲労推定装置は、ギアトルクを取得する取得処理と、取得処理によるギアトルクの取得に応じて実行される処理であって、複数の区間別疲労蓄積度のうち、取得処理で取得したギアトルクの値が含まれるトルク区間に対応した区間別疲労蓄積度の値のみを増加させる更新処理と、複数の区間別疲労蓄積度の値を出力する出力処理と、を実行する。
【0008】
上記ギアの疲労推定装置では、複数のトルク区間にそれぞれ個別に設定された区間別疲労蓄積度の値が、取得処理、及び更新処理の繰り返しを通じて更新されていく。そして、更新処理では、各トルク区間の区間別疲労蓄積度のうち、取得したギアトルクの値が含まれるトルク区間の区間別疲労度の値のみを増加させている。ギアトルクが含まれるトルク区間により、ギア歯面での応力集中部の位置が変わるのであれば、ギア歯面での疲労損傷が蓄積される部分の位置が、ギアトルクが含まれるトルク区間毎に異なった位置となる。よって、上記疲労装置装置が出力処理により出力する各トルク区間の区間別疲労蓄積度の値は、ギア歯面の部位毎の疲労損傷の蓄積度をそれぞれ示す値となる。このように、上記ギアの疲労推定装置では、ギア歯面の応力集中部の位置がギアトルクにより変化するギアでの、ギア歯面の部位毎の疲労損傷の蓄積度を推定して、その推定結果を外部に出力している。こうした疲労推定装置が推定するギア歯面の部位毎の疲労損傷の蓄積度は、ギアの疲労寿命の予測や、ギアの延命のためのギアトルク制御などでの有用な指標値となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ギアの疲労推定装置及び疲労推定の対象となるの一実施形態の構成を模式的に示す図。
【
図2】ギア歯面の疲労試験の結果を示すS-N線図。
【
図3】同実施形態の疲労推定装置が実行する処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、ギアの疲労推定装置の一実施形態を、
図1~
図3を参照して詳細に説明する。
<疲労推定装置の構成>
まず、
図1を参照して、本実施形態の疲労推定装置18が疲労推定の対象とするギアが設置されるハイブリッド車両の駆動系の構成を説明する。ハイブリッド車両は、エンジン10に連結された変速ユニット11を備えている。変速ユニット11は、走行用モータ12と、走行用モータ12の出力軸13の回転を減速して出力する減速ギア機構14と、をその内部に有する。減速ギア機構14は、走行用モータ12の出力軸13に固定された第1ギア15と、第1ギア15に噛み合わされた第2ギア16と、を有する。第2ギア16には、第1ギア15よりもギア径の大きいギアが用いられている。このハイブリッド車両の減速ギア機構14では、第1ギア15及び第2ギア16としてヘリカルギアを用いている。
【0011】
また、ハイブリッド車両には、エンジン10及び走行用モータ12のトルク制御を行う電子制御ユニット17が搭載されている。なお、電子制御ユニット17は、エンジン10及び走行用モータ12のトルク制御に際して、ハイブリッド車両の走行状態や電力の余裕度などに基づき、エンジン10及び走行用モータ12のトルク配分を決定している。
【0012】
本実施形態の疲労推定装置18は、こうしたハイブリッド車両の減速ギア機構14における第1ギア15のギア歯の疲労損傷の蓄積度を推定する装置として構成されている。疲労推定装置18は、演算処理回路19と記憶回路20とを有した電子計算ユニットとして構成されている。疲労推定装置18は、車内通信回線21を通じて電子制御ユニット17に接続されている。そして、疲労推定装置18は、電子制御ユニット17から走行用モータ12の回転数NM、及び出力トルクTMを取得している。なお、第1ギア15は走行用モータ12の出力軸13に直結されているため、走行用モータ12の回転数NMと第1ギア15の回転数とが一致する。また、走行用モータ12の出力トルクTMはそのまま、第1ギア15に加わるトルク、すなわち第1ギア15のギアトルクとなる。
【0013】
<疲労蓄積度の推定>
続いて、疲労推定装置18が実施する疲労損傷の蓄積度の推定について説明する。
第1ギア15の各ギア歯には、第2ギア16のギア歯と接触する都度、その歯面に接触応力が加わる。そして、そうした接触応力を繰り返し受けることで、ギア歯に疲労損傷が蓄積されていき、やがては歯面の疲労破壊に至る。ギア歯面での接触応力の分布は一様ではなく、歯面の疲労破壊は、ギア歯面の中で接触応力が特に高くなる部分で発生する。以下の説明では、ギア歯面にあって、接触応力が特に高くなる部分を応力集中部と記載する。
【0014】
減速ギア機構14では、第1ギア15の歯面における応力集中部の位置が、第1ギア15のギアトルクにより変化することが確認されている。また、ギアトルク毎の応力集中部の位置の分布が概ね3つの領域に分かれることが確認されている。そこで、本実施形態では、応力集中部が位置する領域毎にギアトルクの範囲を、3つのトルク区間に区分けしている。
【0015】
隣接する2つのトルク区間の境界となるギアトルクの値を境界値とする。3つのトルク区間を設定する場合には2つの境界値が存在することになる。ここでは、2つの境界値のうち、小さい方の値を第1境界値とし、もう一つの境界値を第2境界値とする。以下の説明では、「0」から第1境界値までのギアトルクの範囲を第1トルク区間TS[1]と、第1境界値から第2境界値までのギアトルクの範囲を第2トルク区間TS[2]と、第2境界値を超えるギアトルクの範囲を第3トルク区間TS[3]と、それぞれ記載する。なお、減速ギア機構14の第1ギア15では、走行用モータ12のトルク制御範囲の最大値がギアトルクの最大値となる。
【0016】
図2に、第1ギア15のギア歯面の疲労試験の結果から得られたS-N線図を示す。
図2に示す「S12」は、ギアトルクの値が第1境界値であるときのギア歯面の応力集中部における接触応力の振幅を示している。また、
図2の「S23」は、ギアトルクの値が第2境界値であるときのギア歯面の応力集中部における接触応力の振幅を示している。さらに、
図2の「SMAX」は、ギアトルクの値が走行用モータ12のトルク制御範囲の最大値であるときのギア歯面の応力集中部における接触応力の振幅を示している。すなわち、ギアトルクの値が第1トルク区間TS[1]内の値であるときの接触応力の振幅が取り得る値の範囲は0からS12までの範囲となる。ギアトルクの値が第2トルク区間TS[2]内の値であるときの接触応力の振幅が取り得る値の範囲はS12からS23までの範囲となる。そして、ギアトルクの値が第3トルク区間TS[3]内の値であるときの接触応力の振幅が取り得る値の範囲はS23からSMAXまでの範囲となる。なお、
図2の場合、第1境界値に対応する接触応力の振幅の値であるS12は、疲労限度となる接触応力の振幅の値であるS[1]よりも大きい値となっている。
【0017】
本実施形態では、「S[1]」を、ギアトルクの値が第1トルク区間TS[1]内の値であるときのギア歯面の接触応力の振幅の代表値としている。また、S12及びS23の中央値である「S[2]」を、ギアトルクの値が第2トルク区間TS[2]内の値であるときのギア歯面の接触応力の振幅の代表値としている。さらに、S23及びSMAXの中央値である「S[3]」を、ギアトルクの値が第3トルク区間TS[3]内の値であるときのギア歯面の接触応力の振幅の代表値としている。そして、ギア歯面の接触応力の振幅がS[1]、S[2]、S[3]であるときのそれぞれの破断繰り返し数であるNB[1]、NB[2]、NB[3]を疲労試験の結果から求めている。
【0018】
そして本実施形態では、上記3つのトルク区間のそれぞれに対応する3つの区間別疲労蓄積度FD[1]、FD[2]、FD[3]を、第1ギア15のギア歯の疲労損傷の蓄積度を示す変数として求めている。そして、本実施形態の疲労推定装置18は、それら3つの区間別疲労蓄積度FD[1]、FD[2]、FD[3]の値を、疲労推定の結果を示す値として電子制御ユニット17に出力している。
【0019】
図3に、疲労推定装置18が実行する疲労推定ルーチンのフローチャートを示す。疲労推定装置18は、既定の制御周期TA毎に本ルーチンの処理を繰り返し実行している。なお、本ルーチンは、演算処理回路19が記憶回路20に予め記憶されたプログラムを読み込んで実行することで、実行される処理となっている。
【0020】
本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS100において、電子制御ユニット17から走行用モータ12の回転数NM、及び出力トルクTMが読み込まれる。なお、走行用モータ12の回転数NMは、単位時間TU、例えば60秒間における出力軸13の回転数を示している。上述のように、走行用モータ12の回転数は第1ギア15の回転数と一致する値となり、走行用モータ12の出力トルクTMは第1ギア15のギアトルクと一致する値となる。
【0021】
続いてステップS110において、第1トルク区間TS[1]、第2トルク区間TS[2]、第3トルク区間TS[3]のうち、いずれの区間に出力トルクTMの値が含まれるかが確認される。なお、
図3における「i」は、第1トルク区間TS[1]、第2トルク区間TS[2]、第3トルク区間TS[3]の順に3つのトルク区間を並べたときの、出力トルクTMの値が含まれるトルク区間の順番を示す数値を示している。
【0022】
次のステップS120では、出力トルクTMの値が含まれるトルク区間TS[i]における接触応力の振幅の代表値である振幅S[i]の接触応力の繰り返し回数N[i]の値が更新される。このときの繰り返し回数N[i]の値の更新は、走行用モータ12の回転数NMに既定の係数Kを乗じた積「K×NM」を、更新前の値に足した和を更新後の値とするように行われる。係数Kには、単位時間TUを本ルーチンの制御周期TAで割った商(TU/TA)が値として設定されている。第1ギア15の各ギア歯は、第1ギア15が1回転する毎に1回ずつ第2ギア16のギア歯と接触する。よって、走行用モータ12の回転数NMに係数Kを乗じた積「K×NM」は、制御周期TAの間に、第1ギア15のギア歯のそれぞれにおいて、歯面が受ける接触応力の繰り返しの回数を示している。
【0023】
続くステップS130では、式(1)、式(2)、式(3)の関係をそれぞれ満たす値が、各トルク区間に対応した区間別疲労蓄積度FD[1]、FD[2]、FD[3]の値として演算される。各破断繰り返し数NB[1]、NB[2]、NB[3]は固定値であり、ステップS120で値が更新されるのは繰り返し回数N[1]、N[2]、N[3]のうちの一つだけである。よって、今回の本ルーチンの処理において、値が更新されるのは、3つの区間別疲労蓄積度FD[1]、FD[2]、FD[3]のうちの一つだけとなる。そして、ステップS140において、区間別疲労蓄積度FD[1]、FD[2]、FD[3]の値が電子制御ユニット17に出力された後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0024】
なお、本実施形態では、こうした疲労推定ルーチンにおけるステップS100の処理が取得処理に、ステップS120、S130の処理が更新処理に、ステップS140の処理が出力処理に、それぞれ対応する処理となっている。
【0025】
<実施形態の作用>
以下の説明における「j」は、1、2、3のうちのいずれかの数値を示すものとする。
上述のように減速ギア機構14の第1ギア15では、ギアトルクにより、ギア歯面の応力集中部の位置が変化する。すなわち、ギアトルクの値が、第1トルク区間TS[1]に含まれる値であるときと、第2トルク区間TS[2]に含まれる値であるときと、第3トルク区間TS[2]に含まれる値であるときと、では、ギア歯面において接触応力の繰り返しにより疲労損傷が蓄積される部分の位置が異なっている。
【0026】
本実施形態では、ギア歯面の疲労損傷の蓄積度を示す変数として、上記3つのトルク区間TS[j]にそれぞれ個別の変数、すなわち区間別疲労蓄積度FD[j]を設定している。そして、制御周期TA毎に、走行用モータ12の出力トルクTMを第1ギア15のギアトルクを示す値として取得するとともに、取得したギアトルクの値が含まれるトルク区間TS[i]の区間別疲労蓄積度FD[i]の値のみを増加させている。こうして求められる各区間別疲労蓄積度FD[j]の値は、トルク区間TS[j]において応力集中部となる部位毎の疲労損傷の蓄積度をそれぞれ個別に表す値となる。
【0027】
なお、本実施形態では、各トルク区間TS[j]ではそれぞれ、ギア歯面の応力集中部が振幅S[j]の接触応力の繰り返しを受けるものとしている。そして、走行用モータ12の回転数NMから把握される第1ギア15の回転数から各振幅S[j]の接触応力の繰り返し回数N[j]を求め、その繰り返し回数N[j]を破断繰り返し数NB[j]で割った商を区間別疲労蓄積度FD[j]の値として求めている。こうして求められる区間別疲労蓄積度FD[j]の値は、第1ギア15が新品の状態では「0」となる。そして、「0」から破断繰り返し数NB[j]への繰り返し回数N[j]の増加に応じて、区間別疲労蓄積度FD[j]の値は「0」から「1」へと増加する。
【0028】
<区間別疲労蓄積度の利用>
上記のように疲労推定装置18は、各トルク区間TS[j]の区間別疲労蓄積度FD[j]の値をハイブリッド車両の電子制御ユニット17に出力している。電子制御ユニット17は、疲労推定装置18から受け取った区間別疲労蓄積度FD[j]の値を、第1ギア15の疲労寿命の予測に利用している。上記のように区間別疲労蓄積度FD[j]の値は、対応するトルク区間TS[j]において応力集中部となる部位毎の接触応力の繰り返し回数N[j]が破断繰り返し数NB[j]に達したときに「1」となる。そこで、電子制御ユニット17は、判定閾値として「1」よりも若干小さい値、例えば「0.9」を設定し、各区間別疲労蓄積度FD[j]のいずれかの値が判定閾値を超えたことをもって、第1ギア15が疲労寿命に近づき、交換が必要と判定する。そして、電子制御ユニット17は、第1ギア15の交換が必要であることを、MILの点灯等で通知する。
【0029】
また、区間別疲労蓄積度FD[j]は、第1ギア15の延命を図るための走行用モータ12のトルク制御にも利用できる。ここでは、第2トルク区間TS[2]の区間別疲労蓄積度FD[2]の値が限界値である「1」に近づき、第1トルク区間TS[1]、及び第3トルク区間TS[3]の区間別疲労蓄積度FD[1]、FD[3]の値は未だ「1」よりも十分に小さい値にある場合を例に説明する。こうした場合、電子制御ユニット17は、走行用モータ12の出力トルクTMとして第2トルク区間TS[2]内の値が設定される頻度を下げるため、エンジン10、走行用モータ12のトルク配分の調整を行う。具体的には、電子制御ユニット17は、本来は、走行用モータ12の出力トルクTMを第2トルク区間TS[2]内の値とすべき状況にあるときに、次の態様でトルク配分を調整する。すなわち、このときの電子制御ユニット17は、走行用モータ12の出力トルクTMを第1トルク区間TS[1]内の値まで下げる一方で、その下げた量に見合う分、エンジン10の出力トルクを高める。あるいは、走行用モータ12の出力トルクTMを第3トルク区間TS[3]内の値まで高める一方で、その高めた量に見合う分、エンジン10の出力トルクを下げる、といった態様でトルク配分を調整する。
【0030】
なお、車両の加減速操作を乗員が手動で行う手動運転時には、乗員の操作による加減速要求を満たす必要のため、エンジン10、走行用モータ12のトルク配分の調整の幅が限定される。これに対して、電子制御ユニット17が加減速量を決定する車両の自動運転時には、手動運転時よりも大幅なトルク配分の調整が可能となる。そこで、手動運転と自動運転とを切替え可能な車両では、上記のような第1ギア15の延命のためのトルク配分の調整を、自動運転時にのみ行うようにしてもよい。
【0031】
<実施形態の効果>
本実施形態のギアの疲労推定装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)ギア歯面の応力集中部の位置がギアトルクにより変化するギアでの、ギア歯面の部位毎の疲労損傷の蓄積度を個別に推定できる。
【0032】
(2)ギア歯面の部位毎の疲労損傷の蓄積度の推定結果を利用することで、ギアの疲労寿命の予測や、ギアの延命のための制御などを、的確に実施できる。
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0033】
・疲労推定装置18を電子制御ユニット17と一体の構成としてもよい。すなわち、電子制御ユニット17が疲労推定装置18としての処理を実行するようにしてもよい。
・上記実施形態では、3つのトルク区間を設定していたが、トルク区間の数を2つ、或いは4つ以上としてもよい。
【0034】
・上記実施形態では、接触応力の繰り返し回数N[j]を破断繰り返し数NB[j]で割った商を区間別疲労蓄積度FD[j]の値として求めていた。下記の条件を満たすのであれば、それ以外の演算態様で区間別疲労蓄積度FD[j]の値を求めるようにしてもよい。すなわち、ギアトルクの取得に応じた各区間別疲労蓄積度FD[j]の値の更新に際しては、取得したギアトルクの値が含まれるトルク区間TS[i]に対応した区間別疲労蓄積度FD[i]の値のみを増加させるように、区間別疲労蓄積度FD[j]の演算が行われることがその条件である。
【0035】
・上記実施形態では、減速ギア機構14の第1ギア15、第2ギア16のうち、走行用モータ12の出力軸13に直結された第1ギア15を疲労推定の対象としていたが、第2ギア16を対象として疲労推定を行うことも可能である。そうした場合にも、第2ギア16の回転数、ギアトルクは、走行用モータ12の回転数NM及び出力トルクTMと、減速ギア機構14の減速比から求められる。
【0036】
・上記実施形態におけるギア歯面の部位毎の疲労損傷の蓄積度の推定ロジックは、遊星ギア式などの、平行軸式以外の形式の減速ギア機構のギアにも適用できる。さらに、ギアトルクやギアの回転数を取得可能であれば、走行用モータ12の減速ギア機構以外の車両のギア機構のギアや、車両以外の場所に設けられるギア機構のギアにも、上記実施形態におけるギア歯面の部位毎の疲労損傷の蓄積度の推定ロジックを適用してもよい。
【符号の説明】
【0037】
10…エンジン
11…変速ユニット
12…走行用モータ
13…出力軸
14…減速ギア機構
15…第1ギア
16…第2ギア
17…電子制御ユニット
18…疲労推定装置
19…演算処理回路
20…記憶回路
21…車内通信回線