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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074404
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】寿命予測装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/04 20190101AFI20220511BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20220511BHJP
   F16C 41/00 20060101ALI20220511BHJP
   F16N 29/00 20060101ALI20220511BHJP
   F16N 31/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01M13/04
G01M99/00 A
F16C41/00
F16N29/00 B
F16N29/00 E
F16N29/00 F
F16N31/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184407
(22)【出願日】2020-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中渡 洸導
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼塚 祐介
(72)【発明者】
【氏名】阪口 和幸
【テーマコード(参考)】
2G024
3J217
【Fターム(参考)】
2G024AC01
2G024BA12
2G024CA13
2G024FA06
2G024FA11
3J217JA22
3J217JB62
3J217JB88
(57)【要約】
【課題】軸受へのオイル供給の状態を加味して軸受の寿命を予測できるようにすること。
【解決手段】制御装置50は、油温を取得する油温取得部51と、車両10の水平路に対する傾斜角及び車両10の加速度のうちの少なくとも一方を油面関連情報として取得する油面関連情報取得部52と、回転軸の回転速度を取得する回転速度取得部53と、油温、油面関連情報及び回転軸の回転速度を基に指標を導出する指標導出部54と、指標から推測される軸受へのオイルの供給量が少ない場合には、指標から推測される軸受へのオイルの供給量が多い場合と比較して寿命の減少量が多くなるように、軸受の寿命の予測値を導出する寿命予測部55とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、オイルを貯留する貯留部と、前記回転軸の回転によって動作するものであって、且つ前記貯留部のオイルを汲み取って潤滑の必要な箇所に当該オイルを供給するオイル供給部と、を備える車両の動力伝達装置に適用され、当該動力伝達装置が備えている軸受の寿命を予測する寿命予測装置であって、
前記オイルの温度である油温を取得する油温取得部と、
前記動力伝達装置を備える車両の水平路に対する傾斜角、及び、前記車両の加速度のうちの少なくとも一方を油面関連情報として取得する油面関連情報取得部と、
前記回転軸の回転速度を取得する回転速度取得部と、
前記油温、前記油面関連情報及び前記回転軸の回転速度を基に、前記オイル供給部の動作によって前記軸受に供給されるオイルの量の指標を導出する指標導出部と、
前記指標から推測される前記軸受へのオイルの供給量が少ない場合には、前記指標から推測される前記軸受へのオイルの供給量が多い場合と比較して寿命の減少量が多くなるように、前記軸受の寿命の予測値を導出する寿命予測部と、を備える
寿命予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達装置に設けられている軸受の寿命を予測する寿命予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電気機械が備えている軸受の寿命を算出する寿命予測装置の一例が記載されている。この装置では、軸受が支持している回転軸の回転負荷を基に、軸受の寿命を算出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009-501508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の動力伝達装置では、オイルパンに貯留されているオイルを軸受に供給することによって、軸受の劣化を抑制している。言い換えると、軸受に潤滑油を供給できない状態での動力伝達装置の作動が続くと、軸受の構成部品の摩耗が進行し、当該軸受の寿命が一気に少なくなることがある。そのため、軸受にオイルが供給されにくい状態で動力伝達装置が作動している場合、上記のように算出した寿命の予測値と実際の寿命との乖離が大きくなるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための寿命予測装置は、回転軸と、オイルを貯留する貯留部と、前記回転軸の回転によって動作するものであって、且つ前記貯留部のオイルを汲み取って潤滑の必要な箇所に当該オイルを供給するオイル供給部と、を備える車両の動力伝達装置に適用され、当該動力伝達装置が備えている軸受の寿命を予測する装置である。この寿命予測装置は、前記オイルの温度である油温を取得する油温取得部と、前記動力伝達装置を備える車両の水平路に対する傾斜角、及び、前記車両の加速度のうちの少なくとも一方を油面関連情報として取得する油面関連情報取得部と、前記回転軸の回転速度を取得する回転速度取得部と、前記油温、前記油面関連情報及び前記回転軸の回転速度を基に、前記オイル供給部の動作によって前記軸受に供給されるオイルの量の指標を導出する指標導出部と、前記指標から推測される前記軸受へのオイルの供給量が少ない場合には、前記指標から推測される前記軸受へのオイルの供給量が多い場合と比較して寿命の減少量が多くなるように、前記軸受の寿命の予測値を導出する寿命予測部と、を備えている。
【0006】
油温が低いほど、オイルの粘度が高くなる。オイルの粘度が高いと、軸受などの潤滑必要箇所にオイル供給部からオイルが到達しにくくなる。すなわち、軸受へのオイル供給量が少なくなりやすい。
【0007】
坂路などのように走行路面が水平路に対して傾斜している場合では、オイル供給部による貯留部からのオイルの汲み取り量が、走行路面が水平路に対して傾斜していない場合とは異なることがある。また、車両の加速度の大きさが大きい場合では、オイル供給部による貯留部からのオイルの汲み取り量が、車両の加速度の大きさが小さい場合とは異なることがある。そして、オイル供給部による貯留部からのオイルの汲み取り量が少ない場合には、汲み取り量が多い場合と比較し、軸受などの潤滑必要箇所にオイルが供給されにくくなる。
【0008】
オイル供給部が回転軸の回転によって動作する場合、オイル供給部による貯留部からのオイルの汲み取り量は、回転軸の回転速度と相関する。そして、オイルの汲み取り量が少ないほど、軸受などの潤滑必要箇所に供給されるオイル量が少なくなりやすい。
【0009】
すなわち、油温、上記油面関連情報及び回転軸の回転速度は、オイル供給部の動作によって軸受に供給されるオイルの量に影響を与えるパラメータであるといえる。したがって、こうしたパラメータを基に、軸受へのオイルの供給量をある程度推測できる。
【0010】
上記構成では、油温、油面関連情報及び回転軸の回転速度を基に、オイル供給部の動作によって軸受に供給されるオイルの量の指標が導出される。そして、指標から推測される軸受へのオイルの供給量が少ない場合には、指標から推測される軸受へのオイルの供給量が多い場合と比較して寿命の減少量が多くなるように、軸受の寿命の予測値が導出される。すなわち、軸受へのオイル供給の状態を加味して軸受の寿命の予測値が導出される。これにより、軸受へのオイル供給量が少ない状態で動力伝達装置が作動する機会が多いほど小さい値が寿命の予測値として導出される。
【0011】
上記構成によれば、軸受へのオイル供給の状態を加味して軸受の寿命を予測できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】寿命予測装置の一実施形態である制御装置の機能構成と、同制御装置を備える車両の概略構成とを示す図。
図2】同制御装置が適用される動力伝達装置において、オイル供給部の概略を説明する模式図。
図3】軸受に十分な量を供給できる場合の回転速度の下限である到達回転速度と、車両の横加速度との関係の一例を示す図。
図4】入力軸の回転速度及び出力軸の回転速度を基に指標を導出するためのマップの一例を示す図。
図5】同制御装置が実行する一連の処理の流れを説明するフローチャート。
図6】軸受の寿命の予測値の推移を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、寿命予測装置の一実施形態を図1図6に従って説明する。
図1には、寿命予測装置として機能する制御装置50を備える車両10が図示されている。車両10は、動力源11と、動力伝達装置20とを備えている。動力源としては、例えば、エンジン及び走行モータを挙げることができる。動力源11の出力トルクは、動力伝達装置20を介して駆動輪12に入力される。
【0014】
<動力伝達装置20の構成>
図1に示すように、動力伝達装置20は、入力軸21及び出力軸22を備えている。例えば、入力軸21は、軸受23に回転可能な状態で支持されている。また例えば、出力軸22は、軸受24に回転可能な状態で支持されている。入力軸21には、動力源11の出力トルクが入力される。動力伝達装置20は、出力軸22から駆動輪12に向けてトルクを出力する。
【0015】
動力伝達装置20は、例えば、複数のギアを含むギア機構25を備えている。この場合、入力軸21に入力されたトルクは、ギア機構25を介して出力軸22に伝達される。
動力伝達装置20は、動力伝達装置20内でオイルを循環させるオイル循環部30を備えている。オイル循環部30は、オイルを貯留するオイルパン31を有している。オイルパン31が、オイルを貯留する「貯留部」に対応する。
【0016】
オイル循環部30は、駆動軸33の回転によって動作するオイルポンプ32を備えている。本実施形態では、駆動軸33は、入力軸21及び出力軸22の何れにも機械的に連結されている。そのため、入力軸21及び出力軸22のうちの少なくとも一方の軸が回転している場合、駆動軸33が回転するようになっている。つまり、入力軸21及び出力軸22のうちの少なくとも一方の軸が回転している場合、オイルポンプ32が動作する。本実施形態では、オイルポンプ32が、オイルパン31内のオイルを汲み取って潤滑の必要な箇所にオイルを供給する「オイル供給部」に対応する。
【0017】
オイルポンプ32は、オイルパン31内まで延びる汲み取り部321と、オイルを吐出する吐出部322とを有している。オイルポンプ32が動作している場合、オイルポンプ32は汲み取り部321を介してオイルパン31内のオイルを汲み取る。そして、オイルポンプ32は、動力伝達装置20内の潤滑の必要な箇所に向けて吐出部322からオイルを吐出する。
【0018】
本実施形態では、入力軸21、出力軸22及び駆動軸33が、「回転軸」に対応する。なお、潤滑必要箇所としては、例えば、動力伝達装置20が備えている各回転軸を支持する軸受及び各ギアを挙げることができる。すなわち、入力軸21を支持する軸受23及び出力軸22を支持する軸受24に、オイル循環部30からオイルが供給される。もちろん、入力軸21及び出力軸22以外の他の軸を支持する軸受にもオイルが供給される。
【0019】
<制御装置50について>
制御装置50は、動力伝達装置20が備えている軸受の寿命を予測する。そして、制御装置50は、軸受の寿命の予測値が判定値未満になった場合、警告装置40を通じ、動力伝達装置20のメンテナンスが必要である旨を車両10の乗員に通知する。
【0020】
制御装置50には、各種のセンサの検出信号が入力される。センサとしては、例えば、油温センサ71、入力軸センサ72、出力軸センサ73、前後加速度センサ76、横加速度センサ77及び傾斜角センサ78を挙げることができる。油温センサ71は、動力伝達装置20を循環するオイルの温度である油温Toilを検出し、その検出結果に応じた検出信号を出力する。例えば、油温センサ71は、オイルパン31内に貯留されているオイルの温度を油温Toilとして検出すればよい。入力軸センサ72は、入力軸21の回転速度である入力回転速度Ninに応じた検出信号を出力する。出力軸センサ73は、出力軸22の回転速度である出力回転速度Noutに応じた検出信号を出力する。前後加速度センサ76は、車両10の前後加速度Gxを検出し、その検出結果に応じた検出信号を出力する。横加速度センサ77は、車両10の横加速度Gyを検出し、その検出結果に応じた検出信号を出力する。傾斜角センサ78は、水平路に対する車両10の走行路面の傾斜角θを、水平路面に対する車両10の傾斜角として検出し、その検出結果に応じた検出信号を出力する。すなわち、傾斜角センサ78は、走行路面の勾配を検出しているといえる。
【0021】
制御装置50は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
(a)制御装置50は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
(b)制御装置50は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
(c)制御装置50は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【0022】
制御装置50は、軸受の寿命を予測するための機能部として、油温取得部51、油面関連情報取得部52、回転速度取得部53、指標導出部54及び寿命予測部55を有している。
【0023】
油温取得部51は、油温Toilを取得する。
油面関連情報取得部52は、油面関連情報を取得する。例えば、油面関連情報取得部52は、水平路に対する車両10の傾斜角θ及び車両10の加速度Gx,Gyを、油面関連情報として取得する。
【0024】
ここで、図2には、オイルポンプ32の汲み取り部321と、オイルパン31内におけるオイルの油面との位置関係について説明する。図2に実線で示す油面M1は、基準状態である場合の油面を表している。基準状態とは、以下の条件(A1)、(A2)及び(A3)の何れをも満たしている状態である。この場合、汲み取り部321の先端321aが油没している状態が維持されるため、オイルポンプ32は、汲み取り部321によってオイルを汲み取って吐出部322からオイルを吐出することができる。
(A1)傾斜角θが「0」であること。すなわち、走行路面が水平路であること。
(A2)前後加速度Gxが「0」であること。
(A3)横加速度Gyが「0」であること。
【0025】
一方、図2に二点鎖線で示す油面M2は、条件(A1)、(A2)及び(A3)のうちの少なくとも1つを満たしていない場合の油面の一例を表している。この場合、オイルパン31内にはオイルが存在しているものの、汲み取り部321の先端321aが、油面M2よりも上方に位置しており、オイルポンプ32はオイルをオイルパン31から汲み取ることができない。その結果、オイルポンプ32からオイルを吐出できない。
【0026】
走行路面が水平路に対して傾斜している場合、すなわち車両10が坂路を走行している場合、オイルパン31内におけるオイルの油面が図2に二点鎖線で示すようになることがある。また、車両10が加速したり減速したりする場合、前後加速度Gxの大きさが大きくなる。その結果、オイルパン31内におけるオイルの油面が図2に二点鎖線で示すようになることがある。さらに、車両10が旋回している場合、横加速度Gyの大きさが大きくなる。その結果、オイルパン31内におけるオイルの油面が図2に二点鎖線で示すようになることがある。つまり、傾斜角θが大きかったり、加速度Gx,Gyの大きさが大きかったりする場合、オイルパン31内からオイルポンプ32がオイルを適切に汲み取ることができず、オイルポンプ32のオイル吐出量が少なくなるおそれがある。
【0027】
言い換えると、傾斜角θ及び加速度Gx、Gyを基に、汲み取り部321の先端321aとオイルの油面との位置関係を推測することができる。そのため、油面関連情報取得部52は、傾斜角θ及び加速度Gx,Gyのうちの少なくとも一方を油面関連情報として取得する。
【0028】
なお、図3には、到達回転速度Nrと横加速度Gyとの関係を示すグラフである。到達回転速度Nrは、軸受に十分な量のオイルを供給できる駆動軸33の回転速度の下限値である。横加速度Gyの大きさが小さい場合、到達回転速度Nrは小さい。しかし、横加速度Gyの大きさが大きくなるにつれ、到達回転速度Nrが大きくなる。これは、横加速度Gyの大きさが大きいほど、オイルを軸受に供給しにくくなることを意味する。
【0029】
ちなみに、図3において、実線は、油温Toilが比較的低い場合における到達回転速度Nrと横加速度Gyとの関係を示している。一方、破線は、油温Toilが比較的高い場合における到達回転速度Nrと横加速度Gyとの関係を示している。すなわち、図3からも明らかなように、油温Toilが低いほど、オイルの粘度が高くなる分、オイルポンプ32から吐出されたオイルが軸受に到達しにくくなる。
【0030】
図1に戻り、回転速度取得部53は、入力回転速度Nin及び出力回転速度Noutを取得する。すなわち、回転速度取得部53は、オイルポンプ32のオイル供給量と相関する回転速度として、入力回転速度Nin及び出力回転速度Noutを取得する。駆動軸33の回転速度を検出するセンサを動力伝達装置20が備えている場合、回転速度取得部53は、駆動軸33の回転速度を取得してもよい。また、入力回転速度Nin及び出力回転速度Noutに基づいた駆動軸33の回転速度の算出値を、回転速度取得部53が取得してもよい。
【0031】
指標導出部54は、油温Toil、油面関連情報、及び、各回転速度Nin,Noutを基に、オイル循環部30の動作によって軸受に供給されるオイルの量の指標INDを導出する。
【0032】
この場合、油温Toilが低いほど、オイルの粘度高くなるため、軸受にオイルが供給されにくくなると推測される。そのため、油温Toilが低い場合は、油温Toilが高い場合と比較し、軸受へのオイル供給量が少ないことを示す値が指標INDとして導出される。
【0033】
また、各回転速度Nin,Noutから推測される駆動軸33の回転速度が低いほど、オイルポンプ32のオイル吐出量が少なくなると推測される。そのため、各回転速度Nin,Noutから推測される駆動軸33の回転速度が低い場合には、駆動軸33の回転速度が高い場合と比較し、軸受へのオイル供給量が少ないことを示す値が指標INDとして導出される。
【0034】
また、オイルポンプ32のオイルの汲み取り量が少ないほど、オイルポンプ32のオイル吐出量が少なくなると推測される。そのため、油面関連情報、すなわち加速度Gx,Gy及び傾斜角θを基に推測されるオイルポンプ32のオイルの汲み取り量が少ない場合には、汲み取り量が多い場合と比較し、軸受へのオイル供給量が少ないことを示す値が指標INDとして導出される。
【0035】
例えば、指標導出部54は、オイル循環部30の動作によって軸受に供給されるオイルの量が多いと推測できる場合には、軸受に供給されるオイルの量が少ないと推測できる場合よりも大きい値を指標INDとして導出する。なお、複数の軸受の寿命を個別に予測する場合は、上記の指標INDを軸受毎に導出するとよい。
【0036】
本実施形態では、指標導出部54は、複数の危険度マップを記憶する記憶部54aを含んでいる。詳しくは後述するが、油温Toilの相違及び油面関連情報の相違を考慮し、複数の危険度マップが予め作成されている。指標導出部54は、記憶部54aに記憶されている複数の危険度マップの中から、現在の油温Toil及び油面関連情報に応じた危険度マップを選択する。そして、指標導出部54は、選択した危険度マップを用いて指標INDを導出する。
【0037】
図4には、危険度マップの一例が図示されている。この危険度マップは、入力回転速度Nin及び出力回転速度Noutを基に指標INDを導出するためのマップである。危険度マップには、複数の領域F1,F2,F3が設定されている。例えば、第1領域F1は、オイルポンプ32のオイル吐出量がほぼ「0」であり、軸受にオイルをほとんど供給できないことを示す領域である。また例えば、第2領域F2は、オイルポンプ32からオイルは吐出されるものの、軸受には十分な量のオイルを供給できないことを示す領域である。また例えば、第3領域F3は、オイルポンプ32から十分な量のオイルを吐出でき、軸受に十分な量のオイルを供給できることを示す領域である。
【0038】
指標導出部54は、各領域F1~F3の中から、入力回転速度Nin及び出力回転速度Noutで示す点を含む領域を特定する。そして、指標導出部54は、特定した領域に応じた値を指標INDとして導出する。例えば、指標導出部54は、特定した領域が第3領域F3である場合には、特定した領域が他の領域F1,F2である場合よりも大きい値を指標INDとして導出する。また例えば、指標導出部54は、特定した領域が第1領域F1である場合には、特定した領域が他の領域F2,F3である場合よりも小さい値を指標INDとして導出する。これにより、指標導出部54は、油温Toil、油面関連情報、及び、各回転速度Nin,Noutに応じた値を指標INDとして導出できる。
【0039】
図1に戻り、寿命予測部55は、軸受の寿命の予測値LSを導出する。すなわち、寿命予測部55は、指標INDから推測される軸受へのオイルの供給量が少ない場合には、指標INDから推測される軸受へのオイルの供給量が多い場合と比較して寿命の減少量が多くなるように、軸受の寿命の予測値LSを導出する。寿命の予測値LSの具体的な導出手法については後述する。
【0040】
例えば、制御装置50は、機能部として、通知部56をさらに有している。通知部56は、軸受の寿命の予測値LSを基に、軸受を交換する必要があるか否かを判定する。そして、通知部56は、交換が必要であると判断した場合、動力伝達装置20のメンテナンスが必要である旨を、警告装置40を通じて通知する。なお、軸受を交換する必要があるか否かの判定手法については後述する。
【0041】
<制御装置50が実行する一連の処理の流れ>
図5を参照し、制御装置50が実行する一連の処理の流れについて説明する。この一連の処理は、車両10の運転スイッチがオン状態になっている場合、所定の制御サイクル毎に繰り返し実行される。
【0042】
一連の処理において、はじめのステップS11では、制御装置50は、軸受に入力される負荷Xinを取得する。例えば、制御装置50は、軸受が支持する回転軸の回転速度及び回転速度の変化量を基に、負荷Xinを取得する。続いて、ステップS12において、制御装置50の油温取得部51は、油温Toilの最新値を取得する。次のステップS13において、制御装置50の油面関連情報取得部52は、車両10の加速度Gx,Gyの最新値及び傾斜角θの最新値を油面関連情報として取得する。続いて、ステップS14において、制御装置50の回転速度取得部53は、入力回転速度Ninの最新値及び出力回転速度Noutの最新値を軸の回転速度として取得する。
【0043】
そして、ステップS15において、制御装置50の指標導出部54は、記憶部54aに記憶されている複数の危険度マップの中から、現在の油温Toil及び油面関連情報に応じた危険度マップを選択する。続いて、ステップS16において、指標導出部54は、選択した危険度マップを用い、現在の入力回転速度Nin及び出力回転速度Noutに応じた値を指標INDとして導出する。
【0044】
そして、ステップS17において、制御装置50の寿命予測部55は、軸受に入力される負荷Xinと、指標INDとを基に、寿命の減少量ΔLSを導出する。例えば、寿命予測部55は、負荷Xinが大きいほど大きい値を減少量ΔLSとして導出する。また例えば、寿命予測部55は、指標INDが小さいほど大きい値を減少量ΔLSとして導出する。続いて、ステップS18において、寿命予測部55は、寿命の予測値LSの前回値から減少量ΔLSを引いた値を寿命の予測値LSの最新値として導出する。
【0045】
次のステップS19において、制御装置50の通知部56は、寿命の予測値LSの最新値が寿命判定値LSth未満であるか否かを判定する。寿命判定値LSthは、軸受の交換が必要であるか否かの判断基準として設定された値である。寿命の予測値LSの最新値が寿命判定値LSth未満である場合は、軸受の交換が必要であると見なす。一方、寿命の予測値LSの最新値が寿命判定値LSth以上である場合は、軸受の交換が必要であると見なさない。
【0046】
寿命の予測値LSが寿命判定値LSth未満である場合(S19:YES)、通知部56は、処理を次のステップS20に移行する。ステップS20において、通知部56は、動力伝達装置20のメンテナンスが必要である旨を通知する通知処理を実行する。そして、制御装置50は、一連の処理を一旦終了する。
【0047】
一方、ステップS19において、寿命の予測値LSが寿命判定値LSth以上である場合(NO)、制御装置50は、一連の処理を一旦終了する。
<作用及び効果>
次に、図6を参照し、本実施形態の作用及び効果について説明する。図6において、実線は本実施形態における寿命の予測値LSの推移を示しており、二点鎖線は比較例における寿命の予測値の推移を示している。比較例では、軸受にオイルが供給されているか否かを考慮せずに寿命の予測値を導出している。すなわち、比較例では、軸受に十分な量のオイルが供給されていることを前提に軸受の寿命の予測値が導出される。なお、比較例によって導出される寿命の予測値を、「寿命予測値LSa」という。
【0048】
図6に二点鎖線で示すように、比較例の場合、軸受に入力される負荷Xinの積算値である負荷積算値SXinが増大する場合、図6では、寿命予測値LSaがほぼ一定勾配で減少している。
【0049】
これに対し、本実施形態では、図6に実線で示すように寿命の予測値LSが減少する。すなわち、第1期間TM1では、軸受に十分な量のオイルが供給されている。この場合、指標INDとして大きい値が導出される。そのため、第1期間TM1では、比較例における寿命予測値LSaと同じ勾配で、寿命の予測値LSが減少する。
【0050】
しかし、次の第2期間TM2では、傾斜角θが大きくなったり、車両10の加速度Gx,Gyの大きさが大きくなったりする。これにより、オイルポンプ32がオイルを十分に汲み取ることができなくなり、軸受にオイルがほとんど供給されなくなる。この場合、オイルが軸受に十分に供給される場合と比較し、軸受の構成部品の摩耗が進行しやすい。よって、指標INDとして最も小さい値が導出されるため、第2期間TM2では、減少量ΔLSが大きくなる。その結果、寿命の予測値LSの減少勾配が、比較例における寿命予測値LSaの減少勾配よりも大きくなる。ここでいう「寿命の予測値LSの減少勾配」とは、負荷Xinの増加に対する寿命の減少量のことである。
【0051】
このように本実施形態では、軸受へのオイル供給の態様が変わった可能性があると、そのときの供給態様の推測結果を基に指標INDが変更される。そして、変更後の指標INDを基に減少量ΔLSが導出される。すなわち、軸受へのオイル供給の状態を加味して寿命の予測値LSを導出できる。これにより、軸受へのオイル供給量が少ない状態で動力伝達装置20が作動する機会が多いほど小さい値を寿命の予測値LSとして導出できる。
【0052】
本実施形態によれば、軸受の寿命の予測値LSの推定精度を高くできる。したがって、軸受の実際の寿命と寿命の予測値LSとの乖離が大きくなることを抑制できる。
そして、軸受の寿命の予測値LSが寿命判定値LSth未満になると、動力伝達装置20のメンテナンスが必要である旨が通知される。
【0053】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0054】
・上記実施形態では、オイル循環部30の駆動軸33は、入力軸21及び出力軸22の何れにも機械的に連結されていた。しかし、これに限らない。例えば、駆動軸33は、入力軸21及び出力軸22のうち、一方の軸には機械的に連結されている一方で、他方の軸には機械的に連結されていなくてもよい。この場合、危険度マップとして、一方の軸の回転速度と、指標INDとの関係を示すマップを用意することが好ましい。
【0055】
・オイル供給部は、動力伝達装置20が備えている軸受にオイルを供給できるのであれば、上記実施形態で説明した構成とは異なるものであってもよい。例えば、貯留部に貯留されているオイルを掻き上げることのできる少なくとも1つのギアを、オイル供給部としてもよい。
【0056】
・油面関連情報取得部52は、傾斜角θを取得するのであれば、車両10の加速度Gx,Gyを取得しなくてもよい。
・油面関連情報取得部52は、車両10の加速度Gx,Gyを取得するのであれば、傾斜角θを取得しなくてもよい。
【0057】
・軸受の寿命の予測値LSが寿命判定値LSth未満になった場合には、その旨を車両10の製造メーカや販売会社に送信するようにしてもよい。
・軸受の寿命の予測値LSを、車両10の製造メーカや販売会社に送信するようにしてもよい。
【0058】
・制御装置50は、通知部56を備えなくてもよい。この場合、寿命予測部55によって導出された軸受の寿命の予測値LSを、制御装置50のメモリに記憶させておくことが好ましい。
【0059】
・動力伝達装置は、動力源11の出力トルクを駆動輪12に向けて出力できるのであれば、上記動力伝達装置20とは異なる構成であってもよい。動力伝達装置としては、例えば、有段式の変速装置、無段式の変速装置、副変速機、デファレンシャル装置を挙げることができる。
【符号の説明】
【0060】
10…車両
20…動力伝達装置
21…入力軸
22…出力軸
23,24…軸受
31…オイルパン
32…オイルポンプ
33…駆動軸
50…制御装置
51…油温取得部
52…油面関連情報取得部
53…回転速度取得部
54…指標導出部
55…寿命予測部
図1
図2
図3
図4
図5
図6