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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074413
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
F04D19/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184422
(22)【出願日】2020-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100173680
【弁理士】
【氏名又は名称】納口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 春樹
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131AA07
3H131BA08
3H131CA02
3H131CA36
(57)【要約】
【課題】排気性能に優れた真空ポンプを提供する。
【解決手段】回転円板220a~220cと固定円板219a、219bの少なくともどちらか一方に、シグバーン渦巻き状溝部262が設けられたシグバーン型排気機構部201と、回転体103における円筒部102dとネジ付スペーサ131の少なくともどちらか一方に、ネジ溝131aが設けられたホルベック型排気機構部301と、を備え、ホルベック型排気機構部301は、シグバーン型排気機構部201の下流側に配置される真空ポンプにおいて、ホルベック型排気機構部301の流路深さは、所定深さH2で連続的に一定となっており、かつ、シグバーン型排気機構部201は、所定の位置から所定深さH2で連続的に一定となる領域を有する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転円板と固定円板の少なくともどちらか一方に、渦巻き状溝が設けられたシグバーン排気機構と、
回転円筒と固定円筒の少なくともどちらか一方に、らせん状溝が設けられたホルベック排気機構と、
を備え、
前記ホルベック排気機構は、前記シグバーン排気機構の下流側に配置される真空ポンプにおいて、
前記ホルベック排気機構の流路深さは、所定深さで連続的に一定となっており、かつ、前記シグバーン排気機構は、所定の位置から前記所定深さで連続的に一定となる領域を有することを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記シグバーン排気機構を複数段備え、
複数の前記シグバーン排気機構のうち、少なくとも前記ホルベック排気機構と接続された最下段の前記シグバーン排気機構の流路深さは、前記所定深さで連続的に一定となっていることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記シグバーン排気機構の上流側に、
翼列を有する回転翼と、前記回転翼と軸方向に所定の間隔を持って配置される固定翼と
を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばターボ分子ポンプ等の真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、真空ポンプの一種としてターボ分子ポンプが知られている。このターボ分子ポンプにおいては、ポンプ本体内のモータへの通電により回転翼を回転させ、ポンプ本体に吸い込んだガス(プロセスガス)の気体分子を弾き飛ばすことによりガスを排気するようになっている。
【0003】
また、このようなターボ分子ポンプには、シグバーン(「シーグバーン」ともいう)型のもの(特許文献1~3)がある。このシグバーン型分子ポンプにおいては、回転円板と固定円板の間の隙間に、山部により仕切られた渦巻き状溝流路が複数形成されている。そして、シグバーン型分子ポンプは、渦巻き状溝流路内に拡散した気体分子に対し、回転円板により接線方向の運動量を与え、渦巻き状溝流路により排気方向へ向けて優位な方向性を与えて排気を行うようになっている。
【0004】
さらに、ターボ分子ポンプには、ねじ溝式のもの(特許文献4)などもある。このねじ溝式のターボ分子ポンプにおいては、ねじ溝スペーサ(70)とロータ円筒部(10)が所定のクリアランスを隔てて対向し、ねじ溝が、ガスを輸送する流路となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6228839号公報
【特許文献2】特許第6353195号公報
【特許文献3】特許第6616560号公報
【特許文献4】特開2013-217226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の各種のターボ分子ポンプのような真空ポンプにおいては、さまざまな工夫により、排気性能の向上が図られている。そして、この排気性能に係る指標としては、主に、「排気速度」、「圧縮性能」、及び、「背圧特性」がある。これらのうち「排気速度」は、純粋な単位時間当たりの排出可能なガス流量を表す指標である。また、「圧縮性能」は、ガスをどれだけ圧縮できるかの指標であり、排気されるガスが圧縮性流体の場合に関係するものである。
【0007】
また、「背圧特性」は、真空排気系においてターボ分子ポンプよりも下流側に配置される補助ポンプ(バックポンプ)の影響度合いを表す指標である。この「背圧特性」により、排気性能を維持できる限界背圧が定まることになる。
【0008】
さらに、発明者の知見では、「背圧特性」に関し、排気性能を維持できる限界背圧は、ガス流路体積(ガス流路容積)にも関係するが、主には、流路長の影響を大きく受ける。このため、発明者は、「背圧特性」を向上させたい場合には、排気されるガスの流路長を長くすることが有用であるとの結論に至った。
【0009】
本発明の目的とするところは、排気性能に優れた真空ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するために本発明は、回転円板と固定円板の少なくともどちらか一方に、渦巻き状溝が設けられたシグバーン排気機構と、
回転円筒と固定円筒の少なくともどちらか一方に、らせん状溝が設けられたホルベック排気機構と、
を備え、
前記ホルベック排気機構は、前記シグバーン排気機構の下流側に配置される真空ポンプにおいて、
前記ホルベック排気機構の流路深さは、所定深さで連続的に一定となっており、かつ、前記シグバーン排気機構は、所定の位置から前記所定深さで連続的に一定となる領域を有することを特徴とする真空ポンプにある。
(2)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記シグバーン排気機構を複数段備え、
複数の前記シグバーン排気機構のうち、少なくとも前記ホルベック排気機構と接続された最下段の前記シグバーン排気機構の流路深さは、前記所定深さで連続的に一定となっていることを特徴とする(1)に記載の真空ポンプにある。
(3)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記シグバーン排気機構の上流側に、
翼列を有する回転翼と、前記回転翼と軸方向に所定の間隔を持って配置される固定翼と
を備えたことを特徴とする(1)又は(2)に記載の真空ポンプにある。
【発明の効果】
【0011】
上記発明によれば、排気性能に優れた真空ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るターボ分子ポンプの構成を模式的に示す説明図である。
図2】アンプ回路の回路図である。
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
図5図1のターボ分子ポンプを、要部の具体構成と概略的なガスの流れとを示す説明図である。
図6】(a)は図5中に二点鎖線の枠Lで囲った部分を拡大して示す縦断面図、(b)は下流側の固定円板における上流側の板面を概略的に示す説明図である。
図7図5中に二点鎖線の枠Lで囲った部分におけるガスの流れを模式的に示す説明図である。
図8】(a)は本発明の一実施形態に係るターボ分子ポンプに在るガス種であるガスAを流した場合の背圧特性を示すグラフ、(b)は他のガス種であるガスBを流した場合の背圧特性を示すグラフである。
図9】ホルベック排気流路の実験モデルに係る入口深さとガスの圧力との関係を示すグラフである。
図10】溝排気機構部をモデル化して示す説明図である。
図11】(a)は図10のモデルにおける流路位置と流路深さとの関係を概略的に示すグラフ、(b)は同じく図10のモデルにおける流路位置と圧力との関係を示すグラフである。
図12】(a)は平行平板間のクエット-ポアズイユの流れに係る一般的なモデルを示す説明図、(b)は逆流域が発生することを示すグラフである。
図13】(a)は従来構造における或るガス種に係る背圧特性を示すグラフ、(b)は同じく従来構造における他のガス種に係る背圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る真空ポンプについて、図面に基づき説明する。図1は、本発明の実施形態に係る真空ポンプとしてのターボ分子ポンプ100を示している。このターボ分子ポンプ100は、例えば、半導体製造装置等のような対象機器の真空チャンバ(図示略)に接続されるようになっている。
【0014】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を図1に示す。なお、図1では、図面が煩雑になるのを防ぐため、ターボ分子ポンプ100の内部構造を模式的に示している。特に、本実施形態のターボ分子ポンプ100は、排気機構部における溝排気機構部に、主だった特徴的な構成が多く備えられている。このため、図1では、溝排気機構部の図示を簡略化し、ターボ分子ポンプ100における吸気から排気までの基本的な構成を示している。そして、溝排気機構部の具体的な構造や働きについては図5以降に示し、溝排気機構部の詳細な説明は、ターボ分子ポンプ100に係る全体説明の後に行っている。
【0015】
図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0016】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104の近接に、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応されて4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0017】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0018】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0019】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0020】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0021】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0022】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0023】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0024】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙(所定の間隔)を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0025】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0026】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0027】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く(より具体的には、後述するシグバーン型排気機構部201の回転円板220a~220cに続く)最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0028】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0029】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0030】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0031】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0032】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0033】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0034】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0035】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0036】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0037】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0038】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を図2に示す。
【0039】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0040】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0041】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0042】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0043】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0044】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0045】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0046】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0047】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0048】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0049】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0050】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0051】
このような基本構成を有するターボ分子ポンプ100は、図1中の上側(吸気口101の側)が対象機器の側に繋がる吸気部となっており、下側(排気口133が図中の左側に突出するようベース部129に設けられた側)側が、図示を省略する補助ポンプ(粗引きするバックポンプ)等に繋がる排気部となっている。そして、ターボ分子ポンプ100は、図1に示すような鉛直方向の垂直姿勢のほか、倒立姿勢や水平姿勢、傾斜姿勢でも用いることが可能となっている。
【0052】
また、ターボ分子ポンプ100においては、前述の外筒127とベース部129とが組み合わさって1つのケース(以下では両方を合わせて「本体ケーシング」などと称する場合がある)を構成している。また、ターボ分子ポンプ100は、箱状の電装ケース(図示略)と電気的(及び構造的)に接続されており、電装ケースには前述の制御装置200が組み込まれている。
【0053】
ターボ分子ポンプ100の本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)の内部の構成は、モータ121によりロータ軸113等を回転させる回転機構部と、回転機構部より回転駆動される排気機構部に分けることができる。また、排気機構部は、回転翼102や固定翼123等により構成されるターボ分子ポンプ機構部と、円筒部102dやネジ付スペーサ131等により構成される溝排気機構部(後述する)に分けて考えることができる。
【0054】
また、前述のパージガス(保護ガス)は、軸受部分や回転翼102等の保護のために使用され、排気ガス(プロセスガス)に因る腐食の防止や、回転翼102の冷却等を行う。このパージガスの供給は、一般的な手法により行うことが可能である。
【0055】
例えば、図示は省略するが、ベース部129の所定の部位(排気口133に対してほぼ180度離れた位置など)に、径方向に直線状に延びるパージガス流路を設ける。そして、このパージガス流路(より具体的にはガスの入り口となるパージポート)に対し、ベース部129の外側からパージガスボンベ(N2ガスボンベなど)や、流量調節器(弁装置)などを介してパージガスを供給する。
【0056】
前述の保護ベアリング120は、「タッチダウン(T/D)軸受」、「バックアップ軸受」などとも呼ばれる。これらの保護ベアリング120により、例えば万が一電気系統のトラブルや大気突入等のトラブルが生じた場合であっても、ロータ軸113の位置や姿勢を大きく変化させず、回転翼102やその周辺部が損傷しないようになっている。
【0057】
なお、ターボ分子ポンプ100の構造を示す各図(図1図5など)では、部品の断面を示すハッチングの記載は、図面が煩雑になるのを避けるため省略している。
【0058】
次に、前述した溝排気機構部について、図5以降の図面に基づき説明する。なお、図5は、図1に模式的に示すターボ分子ポンプ100と同じものを示しているが、前述したように、溝排気機構部の具体的な構造や働きの説明のため、図1とは異なり、溝排気機構部(シグバーン型排気機構部201及びホルベック型排気機構部301により構成される)や、その周辺部を具体的に示している。
【0059】
本実施形態における溝排気機構部は、図5及び図6(a)に示すように、シグバーン型排気機構部201と、ホルベック型排気機構部301とを備えている。これらのうち、シグバーン型排気機構部201は、前述した回転翼102(102a、102b、102c・・・、各々が翼列を有する)や固定翼123(123a、123b、123c・・・)等により構成されるターボ分子ポンプ機構部の次段(直後の下流側)に、空間的に連続するよう形成されている。一方、ホルベック型排気機構部301は、シグバーン型排気機構部201の次段(直後の下流側)に、空間的に連続するよう形成されている。
【0060】
また、シグバーン型排気機構部201は、ロータ軸113の軸線を基準として径方向にガスが移送されるよう形成されている。これに対し、ホルベック型排気機構部301は、主には、ロータ軸113の軸線方向にガスが移送されるよう形成されている。
【0061】
ここで、本実施形態におけるホルベック型排気機構部301は、ロータ軸113の軸線を基準として径方向へのガスの移送と、ロータ軸113の軸線方向へのガスの移送を行うようになっている。しかし、径方向へのガスの移送を行う部分をシグバーン型排気機構部201に含まれるよう分類し、ロータ軸113の軸線方向へのガスの移送を行う部分のみをホルベック型排気機構部301に分類することも可能である。本実施形態に係るホルベック型排気機構部301の詳細については後述する。
【0062】
前述のシグバーン型排気機構部201は、シグバーン型の排気機構であり、固定円板219a、219bと、回転円板220a~220cとを有している。回転円板220a~220cや固定円板219a、219bは、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0063】
固定円板219a、219bは、本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)に一体的に組付けられている。そして、ロータ軸113の軸方向に並ぶ上下の2段の回転円板(220a~220c)の間に、1段の固定円板(219a、219b)が入り込んでいる。
【0064】
回転円板220a~220cは、筒状の回転体103に一体に形成されており、回転体103の回転に伴い、ロータ軸113及び回転体103と同じ方向に回転する。つまり、回転円板220a~220cは、回転翼102(102a、102b、102c・・・)とも一体的に回転する。
【0065】
本実施形態では、シグバーン型排気機構部201における固定円板219a、219bの数は2枚であり、回転円板220a~220cの数は3枚である。さらに、固定円板219a、219bと回転円板220a~220cは、ロータ軸113の軸方向に沿って吸気部の側(吸気口101の側)から、回転円板220a、固定円板219a、回転円板220b、固定円板219b、回転円板220cの順で交互に配置されている。
【0066】
また、固定円板219a、219bと回転円板220a~220cとの間には、図6(a)に拡大して示すように、断面形状が矩形状な多数の山部261が突出するよう形成されている。さらに、隣り合った山部261の間には、渦巻き状溝流路であるシグバーン渦巻き状溝部262が形成されている。
【0067】
なお、以下では、図5図6(a)等において、図中の上側に示す吸気部の側(吸気口101の側)を「上流側」と称し、図中の下側に示す排気部の側(排気口133の側)を「下流側」と称する場合がある。
【0068】
また、図6(a)は、図5中におけるロータ軸113の右側の部位(二点鎖線の枠L内)における溝排気機構部を拡大して示している。なお、溝排気機構部は、本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)やロータ軸113等の軸心を中心として線対称(図5中では左右対称)の構造を有していることから、ここでは図5中の右側の部位のみを拡大して図示し、左側の部位については図示を省略する。
【0069】
図6(a)に示すように、各々の固定円板219a、219bにおいて、前述の山部261は、両方の板面266、267に、一体に形成されている。以下では、各固定円板219a、219bについて、板面266、267の符号は共通とし、異なる固定円板219a、219bに対して、共通の符号(ここでは符号266、267)を付して説明を行う。
【0070】
また、山部261に関しては、各固定円板219a、219bの違いに関わらず、更には板面266、267の違いにも関わらず、すべての山部に共通の符号261を付して説明を行う。さらに、図6(a)では、図面が煩雑になるのを防ぐため、固定円板219a、219bのうち、主に上流側の固定円板219aについて符号を記載し、下流側の固定円板219bについては同様の符号の記載を省略する。
【0071】
固定円板219a、219bは、中央に貫通穴270(図6(b)にも示す)が形成された円板状の本体部268を有している。図6(a)中の上方に示す上流側の固定円板219aにおいて、上流側の板面266は、本体部268の中央側(貫通穴270の側)から基端側である外周側へ行くほど、下流側の板面267に近づくよう傾斜している。
【0072】
これに対し、下流側の板面267は、図中においてほぼ水平となるよう形成されている。別な言い方をすれば、上流側の固定円板219aにおける下流側の板面267は、ロータ軸113の軸心に対してほぼ垂直となるよう形成されている。そして、上流側の固定円板219aにおける本体部268の厚さは一定ではなく、中央側である内周側から、基端側である外周側に向かって、徐々に薄く変化している。
【0073】
一方、下流側の固定円板219bにおいては、本体部268は、中央側から基端側である外周側にかけて、ほぼ均一の厚みで形成されている。
【0074】
ここで、「外周側」は、固定円板219a、219bにおける本体部268の法線方向(径方向)に係る外側を意味しており、「内周側」は、同じく各本体部268の法線方向(径方向)に係る内側を意味している。
【0075】
固定円板219a、219bにおける本体部268の外周縁部は、ほぼ均一で互いに同等な肉厚で加工されており、複数の段積みされた固定円板スペーサ269の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0076】
また、各固定円板219a、219bの各々の板面266、267には、図5及び図6(a)のほか、図6(b)に模式的に示すように、前述した複数の山部261が設けられている。山部261は、本体部268の板面266、267において、本体部268の中央を中心とした渦状に形成されている。そして、山部261は、貫通穴270の周縁部(内周縁部)から外周縁部(固定円板スペーサ269の手前に位置する部位)に亘って、滑らかな曲線を描きながら延びている。
【0077】
ここで、図6(b)は、一例として、下流側の固定円板219bを、上流側の板面266の側から軸方向に見た状態を概略的に(模式的に)示している。そして、図6(b)においては、上流側の板面266に形成された山部261が実線により示されており、下流側の板面267に形成された山部261が相対的に細い破線により示されている。また、図6(b)においては、固定円板スペーサ269の図示が省略されている。さらに、図6(b)においては、回転体103やロータ軸113が仮想線(二点鎖線)で示されている。
【0078】
各固定円板219a、219bにおいて、山部261は、円板状の本体部268の各板面266、267から、それぞれ定められた所定の角度で突出している。本実施形態では、前述したように、上流側の固定円板219aにおける上流側の板面266は、本体部268の中央側から基端側である外周側へ行くほど、下流側の板面267に近づくよう傾斜している。このため、上流側の固定円板219aにおける上流側の板面266では、山部261は板面266に対して斜めに突出している。
【0079】
また、上流側の固定円板219aにおける上流側の板面266では、山部261の突出量は位置(位相)によって異なっているが、先端(図6(a)中では上端)は、同じ高さに達し、ロータ軸113の軸に対して垂直な同一平面上に位置している。
【0080】
これに対し、上流側の固定円板219aにおける下流側の板面267や、下流側の固定円板219bにおける両方の板面266、267では、山部261は、板面266、267に対してほぼ垂直に突出している。そして、これらの3つの板面267、266、267では、山部261の突出量は、位置(位相)によらずほぼ均一となっている。
【0081】
なお、本実施形態においては、説明が煩雑にならないよう、山部の数は、各板面266、267に9個ずつとなっている。しかし、これに限定されず、山部の数は、8個以下や10個以上であってもよい。また、固定円板219a、219bや板面266、267に関して、共通の個数とすることに限らず、互いに異なる個数とすることも可能である。
【0082】
続いて、前述したシグバーン渦巻き状溝部262について説明する。なお、シグバーン渦巻き状溝部262についても、各固定円板219a、219bや板面266、267の違いに関わらず、すべての溝部に共通の符号262を付して説明を行う。ただし、一部のシグバーン渦巻き状溝部262については、後述するように、状況に応じて異なる符号(262aなど)を付し、他のシグバーン渦巻き状溝部262と区別する場合がある。
【0083】
各板面266、267において隣り合った2つの山部261の間には、シグバーン渦巻き状溝部262が渦巻き状に形成されている。このシグバーン渦巻き状溝部262は、山部261により仕切られ、区画されている。また、シグバーン渦巻き状溝部262は、各固定円板219a、219bの上流側の板面266と下流側の板面267とに、山部261とともに、それぞれの始点(開始部)を起点として、互いに同位相で形成されている。そして、シグバーン渦巻き状溝部262は、外周側が相対的に広幅(広い開口幅)で、内周側が相対的に狭幅(狭い開口幅)の空間となっている。
【0084】
続いて、回転円板220a~220cについて説明する。本実施形態において、各々の回転円板220a~220cの厚みは、回転体103に近い中央側から外周側の範囲に亘り、ほぼ均一となっている。また、回転円板220a~220cの互いの厚みの関係は、ほぼ同一(共通)となっている。さらに、回転円板220a~220cの、回転体103からの突出量も、互いにほぼ同一(共通)となっており、回転円板220a~220cは、外周の端面が全周に亘り軸方向に揃った状態となっている。
【0085】
さらに、回転円板220a~220cは、山部261の先端部(突出端部)に面し、例えば1mm程度のわずかな隙間を介し、シグバーン渦巻き状溝部262の区画も行っている。また、上流側の固定円板219aにおける上流側の板面266は、前述したように、本体部268の中央側から基端側である外周側へ行くほど、下流側の板面267に近づくよう傾斜している。そして、最も上流側(図6(a)中の最上段)の回転円板220aと、上流側の固定円板219aにおける上流側の板面266との間のシグバーン渦巻き状溝部262は、外周側から内周側へ徐々に狭まる空間となっている。
【0086】
ここで、この上流側の固定円板219aにおける上流側の板面266上に形成されたシグバーン渦巻き状溝部262については、前述したように、以下では符号262aを付し、他のシグバーン渦巻き状溝部262と区別する場合がある。
【0087】
また、このシグバーン渦巻き状溝部262aの上流側(外周側)における開口部281の深さをH1とし、下流側(内周側)における開口部282の深さをH2としている。ここでいう「深さ」は、図6(a)中の上下方向である軸方向(ロータ軸113の軸方向に一致する)に係る深さである。また、これらの深さH1、H2は、軸方向に係る、回転円板220aの板面(符号省略)と、固定円板219aの上流側の板面266との間隔である。
【0088】
また、このシグバーン渦巻き状溝部262aは、後述するように、溝排気機構部におけるガスの入口となる部分を構成する。このため以下では、シグバーン渦巻き状溝部262aを、必要に応じ「溝排気機構部入口部」や「シグバーン排気流路入口部」などと称する場合がある。
【0089】
続いて、回転円板220a~220cと、固定円板219a、219bとの間には、折り返し部286、287が形成されている。この折り返し部286、287は、ガスの流路に係る空間的な折り返し構造を持った部位である。
【0090】
つまり、前述したように、山部261やシグバーン渦巻き状溝部262は、固定円板219a、219bの両板面266、267において、それぞれの起点(始点)から、互いに同位相で空間的に連続するよう形成されている。このため、固定円板219a、219bの内周側には、上流側の板面266のシグバーン渦巻き状溝部262と、下流側の板面267のシグバーン渦巻き状溝部262とを空間的に繋ぐ折り返し部286が形成されている。
【0091】
さらに、回転円板220a~220cの外周側にも、上流側の板面(符号省略)のシグバーン渦巻き状溝部262と、下流側の板面(符号省略)のシグバーン渦巻き状溝部262とを空間的に繋ぐ折り返し部287が形成されている。そして、各シグバーン渦巻き状溝部262と、各折り返し部286、287により、空間的に連続したガス流路が形成される。以下では、この一連の流路を「シグバーン排気流路」と称し、図6(a)に示すように符号291を付す。
【0092】
このシグバーン排気流路291について、固定円板219a、219bの内周側端面284と、回転体103の外周面285との間隔寸法を深さH3とする。そして、このH3は、前述のH2(シグバーン渦巻き状溝部262aの下流側(内周側)における開口部282の開口寸法)よりも大きくなっている。
【0093】
また、回転円板220a~220cの外周面285と、固定円板スペーサ269との間隔寸法を深さH4とする。そして、このH4は、前述のH2(シグバーン渦巻き状溝部262aの下流側(内周側)における開口部282の開口寸法)よりも大きくなっている。また、このH4は、本実施形態においては、固定円板219a、219bと回転体103との間隔寸法である深さH3よりも幾分小さく設定されている。なお、これに限らず、このH4を、例えばH3よりも大きく設定してもよい。
【0094】
さらに、上流側の固定円板219aにおける下流側の板面267と、上流から2枚目の回転円板220bの上流側の板面(符号省略)とは互いにほぼ平行に向かい合っている。そして、上流側の固定円板219aにおける下流側の板面267と、2枚目の回転円板220bとの間隔(ガス流路の深さ)は、内周側から外周側に亘り(シグバーン渦巻き状溝部262の入口から出口に亘り)、前述したH2と同じに設定されている。
【0095】
また、同様に、下流側の固定円板219bにおける上流側の板面266と、上流から2枚目の回転円板220bの下流側の板面(符号省略)とは互いにほぼ平行に向かい合っている。そして、下流側の固定円板219bにおける上流側の板面266と、2枚目の回転円板220bとの間隔(ガス流路の深さ)は、外周側から内周側に亘り(シグバーン渦巻き状溝部262の入口から出口に亘り)、前述したH2と同じに設定されている。
【0096】
また、同様に、下流側の固定円板219bにおける下流側の板面267と、上流から3枚目の回転円板220cの上流側の板面(符号省略)とは互いにほぼ平行に向かい合っている。そして、下流側の固定円板219bにおける下流側の板面267と、3枚目の回転円板220cとの間隔(ガス流路の深さ)は、内周側から外周側に亘り(シグバーン渦巻き状溝部262の入口から出口に亘り)、前述したH2と同じに設定されている。
【0097】
つまり、シグバーン排気流路291における流路の深さは、「シグバーン排気流路入口部」となる最上流のシグバーン渦巻き状溝部262aにおいて、H1からH2に徐々に狭まる。そして、シグバーン排気流路291における流路の深さは、折り返し部286、287を除いた各シグバーン渦巻き状溝部262では、一定の寸法であるH2となっている。このように、シグバーン排気流路291において、流路の深さが一定値(H2)となる部分を、例えば「シグバーン排気流路291の流路深さ一定部」などと称することが可能である。
【0098】
なお、本実施形態においては、上述の流路の深さH2の値は、Ha[mm]となっている。このH2をHa[mm]に定めた理由については後述する。また、深さH2について「一定」と称しているのは、寸法の単位をmm(ミリメートル)とした場合に、少なくとも小数点以下1桁のレベルで、四捨五入せずに、同等であることを意味している。このため、深さH2(=Ha)を数[mm]とした場合、例えば、10%(=±0.1[mm])未満の範囲でばらつきがあるような場合であっても、ここでいう「一定」に該当するものとする。
【0099】
さらに、上述した「シグバーン排気流路291の流路深さ一定部」の開始位置(所定深さで連続的に一定となる領域が始まる所定位置)は、上流側の固定円板219aと、2枚目の回転円板220bとの間の内周側の端部(入口)となる。そして、「シグバーン排気流路291の流路深さ一定部」が、所定深さで連続的に一定となる領域となる。
【0100】
このような構造のシグバーン型排気機構部201においては、前述のモータ121が駆動されると、回転円板220a~20cが回転する。そして、各固定円板219a、219bと、各回転円板220a~220cとの間での相対的な回転変位が行われる。さらに、図5図6(b)、及び、図7に多数の矢印Q(一部のみ符号を付す)で示すように、ターボ分子ポンプ機構部(回転翼102や固定翼123等により構成される)により移送されてきたガスが、溝排気機構部のシグバーン型排気機構部201に到達する。
【0101】
また、シグバーン型排気機構部201に到達したガスは、「シグバーン排気流路入口部」となる最上流のシグバーン渦巻き状溝部262aに流入し、深さ方向(ロータ軸113の軸方向)において徐々に狭まる流路を通る。その後のガスは、折り返し部286、287や、一定の深さのシグバーン渦巻き状溝部262を経て、後述するホルベック型排気機構部301へ流入する。
【0102】
ここで、固定円板219a、219bと回転円板220a~220cの相対的な回転方向は、直線的には「接線方向」、曲線的には「周方向」などとも称することが可能である。
【0103】
また、シグバーン型排気機構部201について、更に細かく分解して説明することも可能である。例えば、最も上流側の1枚目の回転円板220aと、上流側の固定円板219aにおける上流側の板面266との間に形成される排気流路を「第1シグバーン型排気機構の流路」と称することが可能である。
【0104】
さらに、2枚目の回転円板220bと、上流側の固定円板219aにおける下流側の板面267との間に形成される排気流路を「第2シグバーン型排気機構の流路」と称することが可能である。また、2枚目の回転円板220bと、下流側の固定円板219bにおける上流側の板面266との間に形成される排気流路を「第3シグバーン型排気機構の流路」と称することが可能である。
【0105】
さらに、3枚目の回転円板220cと、下流側の固定円板219bにおける下流側の板面267との間に形成される排気流路を「第4シグバーン型排気機構の流路」と称することが可能である。
【0106】
そして、このようにシグバーン型排気機構を複数に分けた場合には、シグバーン型排気機構部201が、シグバーン型排気機構を複数段備えていると考えることが可能である。そして、この場合、「第4シグバーン型排気機構」は最下段のシグバーン排気機構となる。
【0107】
次に、前述したホルベック型排気機構部301について説明する。ホルベック型排気機構部301は、図5図6(a)に示すように、主には、前述したネジ付スペーサ131により構成されている。このネジ付スペーサ131は、円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。
【0108】
また、ネジ付スペーサ131の上面302は、径方向(ロータ軸113の軸方向に対してほぼ直交する方向)に延びている。さらに、ネジ付スペーサ131の上面302は、シグバーン型排気機構部201における最下段の回転円板220cにおける下流側の板面(符号省略)にほぼ平行に向かい合っている。
【0109】
また、ネジ付スペーサ131の上面302には、シグバーン型排気機構部201における固定円板219a、219bと同様に、山部303と渦巻き状溝部304が形成されている。これらのうち、山部303は、ネジ付スペーサ131の上面302に一体に形成されて突出している。
【0110】
さらに、山部303は、ネジ付スペーサ131の上面302において、中央を中心とした渦状に形成されている。そして、山部303は、ネジ付スペーサ131の周縁部(内周縁部)から外周縁部に亘って、滑らかな曲線を描きながら延びている。この山部303は、上面302に対してほぼ垂直に突出しており、山部261の突出量は、位置(位相)によらずほぼ均一となっている。
【0111】
なお、この山部303の数は、シグバーン型排気機構部201と同様に、例えば9個とすることが可能である。ただし、これに限定されず、山部303の数を、8個以下や10個以上とすることが可能である。
【0112】
ネジ付スペーサ131の上面302において、隣り合った2つの山部303の間には、前述のらせん溝部304が渦巻き状に形成されている。以下では、この渦巻き状溝部304については、シグバーン渦巻き状溝部262と区別するため、「ホルベック渦巻き状溝部304」と称する。
【0113】
このホルベック渦巻き状溝部304は、シグバーン渦巻き状溝部262と同様に、山部303により仕切られ、区画されている。また、ホルベック渦巻き状溝部304は、山部303とともに、シグバーン型排気機構部201の下流側の固定円板219bにおける下流側の板面267との間に折り返し部287を形成できるよう配置されている。そして、ホルベック渦巻き状溝部304は、外周側が相対的に広幅(広い開口幅)で、内周側が相対的に狭幅(狭い開口幅)の空間となっている。
【0114】
さらに、ホルベック渦巻き状溝部304は、シグバーン型排気機構部201における上流側から3枚目の回転円板220cによっても区画されている。そして、ネジ付スペーサ131の上面302と、3枚目の回転円板220cとの間隔は、内周側から外周側に亘り(ホルベック渦巻き状溝部304の入口から出口に亘り)、前述したH2と同じに設定されている。
【0115】
また、ホルベック型排気機構部301において、ネジ付スペーサ131の内周面306には、前述した螺旋状のネジ溝131aが形成されている。そして、この内周面306は、回転体103における円筒部102dの外周面307に向か合っている。そして、ネジ付スペーサ131の内周面306と、回転体103における円筒部102dの外周面307との間隔(深さ)は、内周面306の軸方向における全長(図中における内周面306の上端から下端)に亘って一定とされている。そして、その間隔(深さ)の値は、前述したH2に一致している。
【0116】
さらに、螺旋状のネジ溝131aは、ホルベック渦巻き状溝部304と、空間的に連続している。ホルベック渦巻き状溝部304と、ネジ溝131aの接続部分は、「折曲部」などと称することが可能である。また、螺旋状のネジ溝131aは、内周面306の下端部まで到達しており、内周面306の下端部は、上述の円筒部102dにおける外周面307の下端部と、ほぼ同じ程度の位置に達している。
【0117】
つまり、ネジ付スペーサ131と回転体103との間には、ネジ付スペーサ131の上面302と、回転体103における円筒部102dの外周面307との間に形成され、図6(a)のように断面を示した場合にL字状(図6(a)では逆L字状)となるガス流路が存在している。このガス流路を、以下では、この一連の流路を「ホルベック排気流路」と称し、図6(a)に示すように符号321を付す。
【0118】
このホルベック排気流路321は、前述したシグバーン排気流路291と連続しており、シグバーン排気流路291を通ったガスを受け入れる。そして、ホルベック排気流路321は、受け入れたホルベック渦巻き状溝部304により、外周側から内周側に導き、折曲部を経て、ネジ溝131aに導入する。さらに、ネジ溝131aにおいては、導入されたガスが、回転体103の回転に伴い、ネジ溝131aに沿って下流側へ導かれる。
【0119】
ホルベック排気流路321においては、その深さがH2で一定となっている。このホルベック排気流路321の深さH2は、シグバーン型排気機構部201におけるシグバーン排気流路291の流路深さ一定部(シグバーン排気流路入口部(シグバーン渦巻き状溝部262a)や、折り返し部286、287を除いた部分)の深さH2と一致している。
【0120】
別な言い方をすれば、ターボ分子ポンプ100には、ホルベック型排気機構部301の流路であるホルベック排気流路321の深さが、所定深さ(H2)で連続的に一定となっており、かつ、シグバーン型排気機構部201は、途中である所定の位置(シグバーン排気流路入口部(シグバーン渦巻き状溝部262a)の終端部分)から所定深さ(H2)で連続的に一定となる領域が形成されている、ということができる。
【0121】
なお、ここでは、シグバーン排気流路291における折り返し部286、287を除外して、シグバーン型排気機構部201の流路(シグバーン排気流路291)の深さと、ホルベック型排気機構部301の流路(ホルベック排気流路321)の深さとが、一定(H2)と説明している。
【0122】
しかし、折り返し部286、287の深さH3、H4を狭めてH2としてもよい。そして、この場合は、ターボ分子ポンプ100には、溝排気機構部の流路が、途中である所定の位置(シグバーン排気流路入口部(シグバーン渦巻き状溝部262a)の終端部分)から全体に亘り所定深さ(H2)で連続的に一定となる領域が形成されている、ということができる。
【0123】
また、前述したように、シグバーン型排気機構部201を第1シグバーン型排気機構~第4シグバーン型排気機構のように複数段に分けて捉えた場合には、ターボ分子ポンプ100は、複数のシグバーン型排気機構のうち、少なくともホルベック型排気機構部301と接続された最下段のシグバーン型排気機構(ここでは第4シグバーン型排気機構)の流路深さは、所定深さ(H2)で連続的に一定となっている、ということができる。
【0124】
ここで、本実施形態において「シグバーン型排気機構」の用語は、固定円板219a、219bの一方の板面266、267における1つのシグバーン渦巻き状溝部262を単位として用いることや、シグバーン渦巻き状溝部262を単位として用いることができるものとなっている。
【0125】
また、「シグバーン型排気機構」の用語は、1つの固定円板219a、219bにおける上流側及び下流側の両板面266、267に跨った流路により構成される排気機構について用いることも可能である。
【0126】
また、本実施形態では、ホルベック型排気機構部301を、前述のように、ロータ軸113の軸線を基準として径方向へのガスの移送と、ロータ軸113の軸線方向へのガスの移送を行うものとして説明している。そして、ホルベック排気流路321を、図6(a)に示すような断面においてL字状(図6(a)では逆L字状)となるものとして説明を行っている。
【0127】
しかし、ホルベック型排気機構部301を、ロータ軸113の軸線方向へのガスの移送を行う部分のみとし、径方向へのガスの移送を行う部分をシグバーン型排気機構部201に含まれるよう分類することも可能である。そして、この場合には、シグバーン型排気機構部201を、第1シグバーン型排気機構~第4シグバーン型排気機構だけでなく、第5シグバーン型排気機構を有するものとして考えることが可能である。そして、この場合は、この第5シグバーン型排気機構が最下段のシグバーン排気機構となる。
【0128】
これまでに説明した本実施形態のターボ分子ポンプ100においては、シグバーン型排気機構部201の流路深さと、ホルベック型排気機構部301の流路深さを共通な一定の値(H2)とした構造を採用することで、図8(a)、(b)に示すような背圧特性を得ることができた。以下に、本実施形態のターボ分子ポンプ100における背圧特性について説明する。
【0129】
先ず、ターボ分子ポンプ100を含む真空ポンプの性能特性に係る指標の一つとして、前述した「背圧特性」がある。さらに、この「背圧特性」に係る指標の一つとして「背圧依存性」がある。この「背圧依存性」は、真空ポンプの下流側に設置される前述の補助ポンプ(バックポンプ)との関係に基づく指標であり、背圧の影響をどの程度受け易いかを示すもの(背圧特性を別の見方で考えたもの)である。
【0130】
より具体的には、例えば、ターボ分子ポンプ100の下流側にバックポンプ(図示略)が配置されることにより、ターボ分子ポンプ100の排気が、バックポンプによる排気の影響を受けながら行われることになる。また、ターボ分子ポンプ100に組み合わされるバックポンプの性能は一律ではなく、ターボ分子ポンプ100を使用するユーザーの選定によって変化し得る。また、ターボ分子ポンプ100の排気は、ターボ分子ポンプからバックポンプまでの配管の太さやレイアウトなどによっても変化を受ける。ターボ分子ポンプの圧縮性能を示す圧縮比は、排気口圧力/吸気口圧力となるが、ターボ分子ポンプ100の排気口133におけるガスの圧力(排気口圧力)の変化によって、到達できるターボ分子ポンプ100の吸気口101の圧力(吸気口圧力)が変化し得る。
【0131】
しかし、ターボ分子ポンプ100の吸気口101の側に関しては、下流側に組み合わされるバックポンプ等によって吸気口101におけるガスの圧力(吸気口圧力)が変化することは、ターボ分子ポンプ100の排気対象機器に対してもバックポンプ等の影響が及ぶことになり、好ましくない。
【0132】
図8(a)、(b)は、前述したように、本実施形態のターボ分子ポンプ100に係る排気口圧力(Pb)と吸気口圧力(Ps)との関係の一例を示している。図8(a)、(b)中のグラフにおいて、横軸には排気口圧力(Pb)が、縦軸には吸気口圧力(Ps)が、いずれも対数目盛によって表されている。さらに、排気口圧力(Pb)の単位は[Torr](前述の[torr]と同じ)であり、吸気口圧力(Ps)の単位は[mTorr]である。
【0133】
図8(a)、(b)においては、背圧特性として、横軸の排気口圧力(Pb)に対する縦軸の吸気口圧力(Ps)の変化を、「吸気口圧力の背圧依存性」と称している。そして、図8(a)は、排気されるガスを或るガス種(ガスA)とした場合における吸気口圧力の背圧依存性を表しており、図8(b)は、排気されるガスを他のガス種(ガスB)とした場合における吸気口圧力の背圧依存性を表している。以下では、「吸気口圧力の背圧依存性」を単に「背圧依存性」と称する場合がある。
【0134】
図8(a)に符号S1~S7で示すのは、流量を異ならせた場合の背圧依存性を示す曲線である。そして、S1~S7に係る流量は、順に所定流量1sccm、所定流量2sccm、所定流量3sccm、所定流量5sccm、所定流量7sccm、所定流量9sccm、及び、所定流量10sccmである。そして、これらの流量の大小関係は所定流量1~所定流量10の順に大きくなっている。
【0135】
また、図8(b)に符号T1~T3で示すのも、流量を異ならせた場合の背圧特性(背圧依存性)であり、T1~T3に係る流量は、順に所定流量2sccm、所定流量7sccm、及び、所定流量10sccmである。
【0136】
図8(a)において、最下段に示す曲線S1は、排気口圧力(Pb)が、例えばグラフの原点を基準値(ここではPb=Ps=1[Torr])と仮に設定すれば、6[Torr]から200[Torr]を過ぎる辺りまで、吸気口圧力(Ps)は2[Torr]と3[Torr]の線の概ね中間の値でほぼ一定である。他の曲線S2~S7についても同様に、曲線S2~S7における左端の位置から排気口圧力(Pb)が200[Torr]を過ぎる辺りまで、それぞれほぼ一定の値を示している。
【0137】
また、図8(b)において、最下段に示す曲線T1は、排気口圧力(Pb)が、図8(a)と同様に例えばグラフの原点を基準値(ここではPb=Ps=1[Torr])と仮に設定すれば、2[Torr]から200[Torr]となる辺りまで、吸気口圧力(Ps)は2[Torr]を超えた値でほぼ一定である。他の曲線T2、T3についても同様に、曲線T2、T3における左端の位置から排気口圧力(Pb)が200[Torr]に近づく辺り(T2の場合)や、20[Torr]の辺り(T3の場合)まで、それぞれほぼ一定の値を示している。
【0138】
つまり、図8(a)、(b)は、ガスの種類や流量が変化しても、吸気口圧力(Ps)がほとんど変化しない排気口圧力(Pb)が存在することを表している。そして、このように、吸気口圧力(Ps)が一定で、各曲線が水平な線となる排気口圧力(Pb)の範囲が広いほど、吸気口圧力が、排気口圧力(Pb)の変化の影響を受け難いということがいえる。
【0139】
別な言い方をすれば、例えば、図8(a)のガスAに係る各曲線S1~S7の右端部分のように、勾配が表われて吸気口圧力(Ps)が上昇し始めるまでの排気口圧力(Pb)に係る圧力範囲が広いほど、吸気口圧力が、排気口圧力(Pb)の変化の影響を受け難いということもいえる。
【0140】
このような本実施形態に係る構造を採用したターボ分子ポンプ100に対して、図13(a)、(b)は、従来構造のターボ分子ポンプに係る背圧特性の一例を、片対数目盛を用いて模式的に示している。そして、図13(a)、(b)は、背圧特性として、それぞれ異なるガス種を用いた場合における吸気口圧力(Inlet Pressure:Ps)の背圧依存性を表している。
【0141】
これらのうち、図13(a)に示す各曲線U1~U8は、或るガス種(ガス1)について、流量を、図中の下段から順に、所定流量1sccm、所定流量3sccm、所定流量5sccm、所定流量6sccm、所定流量7sccm、所定流量8sccm、所定流量10sccm、及び、所定流量11sccmとした場合の背圧依存性を示している。ここで、所定流量11は、所定流量10よりも大きい流量である。
【0142】
また、図13(b)に示す各曲線U11~U17は、図13(a)に関するガス種とは異なる或るガス種(ガス2)について、流量を、図中の下段から順に、所定流量1sccm、所定流量2sccm、所定流量4sccm、所定流量5sccm、所定流量6sccm、所定流量7sccm、及び、所定流量8sccmとした場合の背圧依存性を示している。
【0143】
図13(a)に示すガス種においては、各曲線U1~U8の左端から始まっているほぼ平坦な部分の範囲が、流量が増えるに従い、短くなっている。そして、各曲線U1~U8について、右側部分に表れているように、吸気口圧力が上昇し始める排気口圧力(Outlet Pressure:Pb)が、流量が増えるに従い低くなっている。
【0144】
また、図13(b)に示すガス種においては、グラフ上、各曲線U11~U17に平坦な部分が表われず、排気口圧力が高まるにしたがって、吸気口圧力が3次曲線的に上昇している。
【0145】
つまり、図13(a)、(b)に示す従来構造においては、吸気口圧力(Ps)の立ち上がりが、本実施形態のターボ分子ポンプ100に採用された構造に比べて、低い排気口圧力(Pb)で現れている。また、ガス種によっては、得られる曲線に平坦な部分が現れないこともある。
【0146】
このように、従来構造においては、曲線が平坦となるような背圧特性(ここでは背圧依存性)を得ることが難しかったり、ガスの流量によっては、背圧特性の曲線が平坦となる範囲を広く確保することが難しかったりする事情があった。しかし、本実施形態のターボ分子ポンプ100によれば、図8(a)、(b)に例示するように、ガスの種類や流量によらず、背圧特性の曲線が平坦となる範囲を広く確保することが可能である。
【0147】
また、本実施形態のターボ分子ポンプ100において、前述した流路深さに係る「所定深さ」(=H2(一定値))は以下のような考えに基づき定められている。図9は、ネジ溝排気機構の入口深さと入口圧力(Pin)との関係を示している。
【0148】
本実施形態のターボ分子ポンプ100においては、ホルベック排気流路321の流路深さは、後述する考え方から入口から出口まで一定(H2)としているため、「入口深さ」はホルベック排気流路321の、入口から出口までの連続した区間における流路深さに一致することになる。このため、「入口深さ」=「出口深さ」の関係が成立する。
【0149】
また、ホルベック排気流路321においては、ガスが移送されながら圧縮されるが、「入口深さ」は、このホルベック排気流路321における圧縮効率が高まるよう定めることが望ましい。そして、発明者が行ったシミュレーション実験においては、図9における縦軸の圧力Pin[Torr]の値が低くなる「入口深さ」が、圧縮効率が高い「入口深さ」であるといえる。
【0150】
発明者が行ったシミュレーション実験においては、図9に一般的傾向を示すように、実験モデルの「入口深さ」を増やすにしたがい、当初は徐々に圧力Pinが低下した。しかし、実験モデルの「入口深さ」の値をHa[mm]としたところで圧力Pが最下点を示し、その後は、「入口深さ」の値を増やすにしたがい、圧力Pが上昇した。
【0151】
そして、この実験結果に基づき、一定値であるHaを、圧力Pin[Torr]が最も低下する値に決定した。そして、このHaを、ホルベック排気流路321の全体と、シグバーン排気流路319における入口部以降の部分に共通の深さ(H2)として採用した。
【0152】
なお、流路深さの最適な一定値(H2)は、ターボ分子ポンプ100の運転時における回転数や、関連部品(固定円板219a、219bや回転円板220a~220cなど)の径寸法などの要素によっても異なる。このため、これらの要素を踏まえて、排気性能(圧縮性能も含む)のピークとなる最適な流路深さ(H2)を決定することが望ましい。
流路深さは、通常2mm以上から10mm(より好ましくは3mmから5mm)程度までの範囲で設計されている。
【0153】
また、本実施形態のターボ分子ポンプ100において、図8(a)、(b)のように背圧特性を向上させることができる理由の解明については、未だ不十分な点もあるが、図10に示すようなモデル化を行い、以下のように説明することが可能である。
【0154】
図10は、一般的な溝排気機構部の特性を説明するための図であるが、ここでは本実施形態の説明として、ターボ分子ポンプ100の溝排気機構部(図6(a))をモデル化し説明する。本発明の溝排気機構部は、前述したように、シグバーン型排気機構部201とホルベック型排気機構部301とを備えたものである。また、溝排気機構部の入口部(シグバーン排気流路入口部)は、流路の奥へ行くほど狭まり、流路深さがH2となるシグバーン渦巻き状溝部262aにより構成されている。
【0155】
そして、図10に示すモデルでは、溝排気機構部に該当する部分に符号321を付し、その一端部(図中の上端部)に、便宜上、シグバーン排気流路入口部となるシグバーン渦巻き状溝部と同じ符号である「262a」を付している。
【0156】
また、図10に示すモデル中、符号322は、シグバーン排気流路291を構成する固定円板219a、219bと、ホルベック排気流路321を構成するネジ付スペーサ131とを合体して半分にした固定モデルを示している。また、符号323は、シグバーン排気流路291の回転円板220a~220cを有する回転体103を半分にした回転モデルを示している。
【0157】
さらに、図中の符号Kは回転軸を示しており、矢印Jは、回転軸Kを中心として回転モデル323が回転することを示している。また、符号H1は、前述したように、シグバーン渦巻き状溝部262aの上流側(外周側)における開口部281の深さ(流路深さ)を示している。さらに、符号H2は、前述したシグバーン排気流路291の流路深さ一定部と、ホルベック排気流路321の流路深さである一定値を示している。
【0158】
図11(a)、(b)は、図10に示すモデルの流路深さによる排気性能を説明するためのグラフである。これらのうち、図11(a)のグラフにおける横軸は「流路位置」を示しており、縦軸は「流路深さ」を示している。横軸の「流路位置」は、溝排気機構部311中の位置を表している。そして、溝排気機構部311の入口(図10の上端部)から出口(図10の下端部)へ観測点を移動させることを、ここでは「流路位置が増える」と表現することにする。
【0159】
図11(a)において、実線V1は、図10に示すモデルにおける、流路位置と流路深さとの関係を示している。また、破線W1は、従来構造に係る流路位置と流路深さとの関係を示している。
【0160】
ここでいう従来構造は、破線W1で示すように、流路位置が増えるにしたがって、流路深さが徐々に小さく変化し、流路深さが減少するものである。これに対し、図10に示すモデルにおいては、実線V1で示すように、溝排気機構部311の入口部262a(シグバーン排気流路入口部)で、流路位置が増えるにしたがい、流路深さを従来構造に比べて急激に減少させる。
【0161】
しかし、更に流路位置が増え、観測点が、溝排気機構部311の入口部262aを過ぎてシグバーン排気流路291の流路深さ一定部に入ると、流路深さは一定値(H2)になる。そして、流路位置が増えても(ホルベック排気流路321に入っても)、流路深さは一定値(H2)を維持する。
【0162】
ここで、溝排気機構部311の入口から出口まで徐々に流路深さを小さくする従来構造の場合、「排気速度」や「圧縮性能」などの排気性能を向上させる可能性が潜在的にあり、排気性能を向上させることは比較的容易である。しかし、ガスの逆流が起き易くなる可能もあることから、取り込んだガスを絶えず円滑に排気(移送)する必要がある。
【0163】
これに対して、本実施形態のターボ分子ポンプをモデル化して得られる実線V1のように、流路の深さを一定に保つことにより、簡便な設計で容易に逆流の発生を防止できるようになる。
【0164】
また、図11(b)のグラフにおける横軸は「流路位置」を示しており、縦軸は「圧力」を示している。横軸の「流路位置」は、図11(a)と同様である。また、縦軸の「圧力」は、流路内のガスの圧力を示している。
【0165】
図11(b)において、破線W2は、一種の理想と考える圧力変化を示している。この破線W2により示される圧力変化は、一定の変化率で、流路位置が増えるほど圧力が増える。また、破線W3は、上述したようなガスの逆流などが生じて排気性能の低下が起きた場合の圧力変化を示している。この破線W3により示される圧力変化は、上述のW2と比べて小さい傾きで、流路位置が増えるほど圧力が増える。
【0166】
これらに対して実線V2は、図10のモデルに係る圧力変化を示している。図10のモデルでは、溝排気機構部の入口部(溝排気機構部入口部、シグバーン渦巻き状溝部262a)において、流路位置が増えるにしたがい、圧力が、W2やW3に比べて急激に上昇する。そして、この部分で、ガスの圧縮の度合いが効率よく高められる。
【0167】
また、その後においては、変化率は低下するが、流路位置が増えるにしたがい徐々に圧力が上昇する。そして、観測点が、溝排気機構部311の入口部262aを過ぎてシグバーン排気流路291の流路深さ一定部に入ると、流路深さは一定値(H2)になる。そして、溝排気機構部311の出口における圧力は、上述のW2とW3の間の値となる。
【0168】
つまり、図10のモデルのように、溝排気機構部311の流路の深さを途中(の流路位置)から一定(H2)とした場合には、圧縮性能は限られたものとなり、大きくは向上しない。しかし、ガスの逆流が発生し難くなり、溝排気機構部311における中盤から終盤の圧力を、理想の圧力であるW2に近づけることができる。
この流路深さH2の距離をさらに伸ばすことで、圧縮性能を向上させることが可能となることは明らかである。
【0169】
なお、流路深さを一定値(H2)とする領域(一定領域)は、圧縮性能のピークが得られなかったとしても、その流路内でガスの逆流ができるだけ起きない(起きにくい)ように決定することが望ましい。
【0170】
上述したガスの逆流については、以下のように説明することができる。図12(a)は、平行平板間のクエット-ポアズイユの流れに関するモデルを示している。ここでは、先ず、二枚の平行平板間の定常な流れを考える。板の一方は静止し、他方はuの速度で運動している。するとナビエ・ストークスの式は簡略化され、以下の数式(数1)が得られる。
【数1】
【0171】
ここで、数1のうち、uはyのみ、pはxのみの関数であるから、これはそのまま常微分方程式(数2)となる。
【数2】
境界条件は、y=0:u=0、y=h:u=Uである。
【0172】
解は積分により容易に得られ、次式(数3)となる。
【数3】

この解は単純せん断流れ(第一項、クエット流れ)と放物線流速分布(第二項、ポアズイユ流れ)の重ね合わせである。
【0173】
数3の両辺をUで割ると、次式(数4)で表せる。
【数4】
ここで、数4の右辺の第2項の無次元圧力勾配(数5)の正負により形が変わり、図12(b)のグラフに示すように、Pが-1より小さくなるとu/Uが負となる逆流部が生じる。
【数5】
また、この数4、5から分かるように、hが大きくなると、逆流成分が大きくなる。つまり、流路深さが大きくなると、逆流が生じやすくなる傾向があると言える。
【0174】
以上説明したように、本実施形態のターボ分子ポンプ100によれば、溝排気機構部において、シグバーン型排気機構部201の途中の部位からホルベック型排気機構部301の出口に亘る流路深さを連続的に一定(H2)とすることにより、図8(a)、(b)に示すように優れた背圧特性が実現される。したがって、本実施形態によれば、排気性能に優れたターボ分子ポンプ100を提供することが可能である。
【0175】
また、溝排気機構部においては、図5及び図6(a)に示すように、シグバーン型排気機構部201とホルベック型排気機構部301とが連続して形成されており、シグバーン型排気機構部201とホルベック型排気機構部301とによって、溝排気機構部における排気流路が形成されている。このため、シグバーン型排気機構部201及びホルベック型排気機構部301のいずれか一方をのみ備えた場合に比べて、排気流路を容易に長く確保することができる。そして、このことによっても、排気性能に優れたターボ分子ポンプ100を提供することが可能である。
【0176】
さらに、シグバーン型排気機構部201においては、複数の流路(第1シグバーン型排気機構~第4シグバーン型排気機構の流路)が、折り返し部286、287を介して空間的に繋がり、シグバーン排気流路291を形成している。そして、シグバーン型排気機構部201は、図5及び図6(a)に示すように蛇行した流路となっている。このため、シグバーン排気流路291を容易に長く確保することができる。そして、このことによっても、排気性能に優れたターボ分子ポンプ100を提供することが可能である。
【0177】
なお、折り返し部286、287が存在することにより、ガスの逆流や滞留が起きて性能低下し易くなることも考えられないわけではないが、ガスの流路を可能な限り長く確保していることで、逆流や滞留を可能な限り防止していると考えられる。また、折り返し部286、287においても、ガスが流れる際のドラッグ(効力)効果により、圧力低下は発生しないか、或いは、発生しても過大な圧力低下には至らない。
【0178】
また、ホルベック型排気機構部301におけるホルベック排気流路321は、図5及び図6(a)に示すように、断面上、L字型となるよう形成されている。このため、ネジ付スペーサ131の内周面306のみに排気流路を形成した場合に比べて、ホルベック渦巻き状溝部304の分だけ長く確保することができる。そして、このことによっても、排気性能に優れたターボ分子ポンプ100を提供することが可能である。
【0179】
さらに、本実施形態においては、図5及び図6(a)に示すように、溝排気機構部は、回転翼102(102a、102b、102c・・・)や固定翼123(123a、123b、123c・・・)等により構成されるターボ分子ポンプ機構部の次段(下流側)に、空間的に連続するよう形成されている。したがって、溝排気機構部と、ターボ分子ポンプ機構部の排気流路とにより、一層長い排気流路を容易に形成することができる。そして、このことによっても、排気性能に優れたターボ分子ポンプ100を提供することが可能である。
【0180】
また、本実施形態のターボ分子ポンプ100については、以下のように説明することもできる。ターボ分子ポンプ100のようにガスの流路を長く確保することにより、開口幅や深さを共通とすれば、通常は、ガスを流すのに使用される空間(単位時間ごとのガスを収容する空間)の容積が多くなる。そして、このことが、ガスの流路を長く確保することで背圧特性が向上する要因の一つとして考えられる。
【0181】
つまり、図11(a)に破線W1で示すように、溝排気機構部の入口から出口にかけて流路深さを変化させた場合には、前述したように、「排気速度」や「圧縮性能」に係る排気性能は向上させ得る。しかし、「背圧特性」については、流路長を大きく確保できれば、溝排気機構部の入口から出口にかけての流路深さの変化による影響が緩和される。このため、溝排気機構部の流路長を長くすることで、緩やかに排気性能を高め得ることとなり、良好な「背圧特性」が得られると考えられる。
【0182】
また、図8(a)、(b)に示すように優れた背圧特性を実現できる一つの要因としては、溝排気機構部入口部となるシグバーン渦巻き状溝部262a(溝排気機構部入口部)により到達圧が低く抑えられていることが考えられる。
【0183】
つまり、到達圧は、圧縮比が関係する要因であり、一般的には、圧縮比が高い方が到達圧は低くなる。そして、溝排気機構部入口部としてシグバーン渦巻き状溝部262aを設けることにより、入口部の開口を、深さの一定値(H2)よりも大きく確保でき、圧縮比を高めることができ、到達圧を低く抑えることが可能である。
【0184】
また、図8(a)、(b)に示すように優れた背圧特性を実現できる一つの要因としては、流路深さを一定(H2)としたことや、シグバーン渦巻き状溝部262aにより入口部の開口を大きく確保したことに加え、シグバーン排気流路291に折り返し部286、287が形成されていることも考えられる。
【0185】
つまり、このようにすることで、折り返し部286、287での圧力分布に起因して、シグバーン排気流路291内のガスが、滞留や逆流の影響を受け難くなる効果も発揮していると考えられる。
【0186】
ここで、ガスの滞留や逆流は、排気性能の低下の要因となる。さらに、滞留(流路内での局所的な滞留など)の発生要因としては、流路の縮径(狭隘化)やコンダクタンスの低下を挙げることができる。また、逆流の発生要因としては、負の圧力勾配を挙げることができる。
【0187】
また、本実施形態のターボ分子ポンプ100においては、シグバーン排気流路291が、折り返し部286、287を介して、軸方向(ロータ軸113の軸方向)に折り重なるよう複数段形成されている。また、ホルベック型排気機構部301においては、ホルベック排気流路321が、断面上、L字型になるよう形成されている。
【0188】
このため、シグバーン型排気機構部201とホルベック型排気機構部301とを、軸方向に並べて配置しながらも、軸方向に係る、ターボ分子ポンプ100全体の大きさ(高さ寸法)を可能な限り小さく抑えることができる。
【0189】
なお、シグバーン渦巻き状溝部262や、ホルベック渦巻き状溝部304については、流路を拡げ過ぎると逆流が起きやすいことから、適切な流路の幅や面積を決定することが望ましい。
【0190】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々に変形することが可能である。例えば、固定円板の数は2枚に限定されず、回転円板の数も3枚に限られるものではない。
【0191】
また、山部261や溝部262を形成する対象は、固定円板219a、219bに限らず、回転円板220a~220cとすることも可能である。さらに、山部261や溝部262が形成された固定円板と、回転円板とを混在させることも可能である。例えば、回転円板の片方の板面と、固定円板の片方の板面に、それぞれ山部261や溝部262を形成することも可能である。さらに、回転円板を挟んだ上下(上流側及び下流側)の固定円板の、回転円板を向いた片面のみに山部261や溝部262を設けることなども可能である。
【0192】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内であれば、当業者の通常の創作能力によって多くの変形が可能である。
【符号の説明】
【0193】
100 ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
102 回転翼
102d 円筒部(回転円筒)
123 固定翼
131 ネジ付スペーサ(固定円筒)
131a ネジ溝
201 シグバーン型排気機構部(シグバーン排気機構)
301 ホルベック型排気機構部(ホルベック排気機構)
219a、219b 固定円板
220a~220c 回転円板
262 シグバーン渦巻き状溝部(渦巻き状溝部)
H2 一定の流路深さ(所定深さ)
図1
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