(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074424
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】光ファイバグレーティング製造装置及び光ファイバグレーティング製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/02 20060101AFI20220511BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G02B6/02 416
G02B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184445
(22)【出願日】2020-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】朱 夢実
(72)【発明者】
【氏名】イラリオノフ ミハイル
(72)【発明者】
【氏名】大森 賢一
【テーマコード(参考)】
2H249
2H250
【Fターム(参考)】
2H249AA02
2H249AA12
2H249AA62
2H250AC64
2H250AC93
2H250AC96
2H250AG02
2H250AG63
(57)【要約】
【課題】品質の高い光ファイバグレーティングを容易に製造することが可能な光ファイバグレーティング製造装置及び光ファイバグレーティング製造方法を提供する。
【解決手段】光ファイバグレーティング製造装置1は、格子パターン11aが設けられた位相マスク11と、位相マスクを介して光ファイバFBにレーザ光LBを照射する照射ユニット13と、位相マスクと光ファイバとの間に配置され、位相マスク側が平面とされ、光ファイバ側に光ファイバを設置する溝12dを有するファイバガイド12とを備え、溝は、平面に対して平行となるように形成されていて、延伸方向における端部が開放端とされており、ファイバガイドは、平面が位相マスクに対して平行になるよう配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子パターンが設けられた位相マスクと、前記位相マスクを介して光ファイバにレーザ光を照射する照射ユニットと、を有する光ファイバグレーティング製造装置であって、
前記位相マスクと前記光ファイバとの間に配置され、前記位相マスク側が平面とされ、前記光ファイバ側に前記光ファイバを設置する溝を有する光学補正部材を備え、
前記溝は、前記平面に対して平行となるように形成されていて、延伸方向における端部が開放端とされており、
前記光学補正部材は、前記平面が前記位相マスクに対して平行になるよう配置される、
光ファイバグレーティング製造装置。
【請求項2】
前記光学補正部材は、前記光ファイバに照射されたレーザ光が前記光ファイバの内部において集光されないように、前記溝の延伸方向と直交する断面内において、前記光ファイバに照射されるレーザ光の少なくとも一部のレーザ光の光路を前記溝によって補正する、請求項1記載の光ファイバグレーティング製造装置。
【請求項3】
前記溝の延伸方向と直交する断面における前記溝の形状は円弧とされている請求項2記載の光ファイバグレーティング製造装置。
【請求項4】
前記光学補正部材の屈折率は、前記溝の延伸方向と直交する断面における前記光ファイバの中心軸を中心とする全てのコアを含む最小半径の円領域の半径を前記光ファイバの素線の半径で除して得られる値が、空気の屈折率を前記光学補正部材の屈折率で除して得られる値以下となるようにされ、
前記円弧の曲率半径は、前記光ファイバの素線の半径以上である、
請求項3記載の光ファイバグレーティング製造装置。
【請求項5】
前記溝の延伸方向と直交する断面における前記溝の形状は、前記光ファイバの中心軸と前記溝の最も深い部分とを結んだ線に対して一方側にて前記光ファイバの周面と接する又は最も近接する第1直線部と、前記光ファイバの中心軸に対して他方側にて前記光ファイバの周面と接する又は最も近接する第2直線部と、前記第1直線部の端部と前記第2直線部との端部を接続する底円弧部とを有する形状とされている請求項2記載の光ファイバグレーティング製造装置。
【請求項6】
前記光学補正部材の屈折率は、前記溝の延伸方向と直交する断面における前記光ファイバの中心軸を中心とする全てのコアを含む最小半径の円領域の半径を前記光ファイバの素線の半径で除して得られる値が、空気の屈折率を前記光学補正部材の屈折率で除して得られる値以下となるようにされ、
前記底円弧部の曲率半径は、前記光ファイバの素線の半径以下である、
請求項5記載の光ファイバグレーティング製造装置。
【請求項7】
前記光ファイバに入射される前のレーザ光のエネルギー密度に対する前記光ファイバに入射された後のレーザ光のエネルギー密度の割合を変化率とし、
前記光ファイバに入射された後のレーザ光のエネルギー密度が、前記光ファイバに入射されるレーザ光に求められるエネルギー密度の許容下限値となる前記変化率を下限変化率とした場合に、
前記底円弧部の曲率半径は、前記光ファイバの素線の半径に前記下限変化率を乗じて得られる値よりも大きい、
請求項6記載の光ファイバグレーティング製造装置。
【請求項8】
前記溝の深さは、前記底円弧部の中心角の半分の角度の正弦値の二乗に対して、前記底円弧部の曲率半径を乗じて得られる値よりも大きい請求項5記載の光ファイバグレーティング製造装置。
【請求項9】
前記溝の延伸方向と直交する断面における前記溝の形状は、複数の直線部が互いに屈曲して接続された有角形状とされている請求項2記載の光ファイバグレーティング製造装置。
【請求項10】
前記光ファイバの一端側を送り出す送出スプールと、前記光ファイバの他端側を巻き取る巻取スプールとを備える請求項1から請求項9の何れか一項に記載の光ファイバグレーティング製造装置。
【請求項11】
光ファイバのコアにグレーティングが形成されてなる光ファイバグレーティング製造方法であって、
一方側が平面とされるとともに他方側に溝が設けられた光学補正部材の前記平面側に、前記平面に対して平行となるように位相マスクを配置する位相マスク配置ステップと、
前記溝に光ファイバを設置する光ファイバ設置ステップと、
前記位相マスク及び前記光学補正部材を介して、レーザ光を前記光ファイバに照射して前記グレーティングを形成するグレーティング形成ステップと、
を有し、
前記溝は、前記平面に対して平行となるように形成されていて、延伸方向における端部が開放端とされている、
光ファイバグレーティング製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバグレーティング製造装置及び光ファイバグレーティング製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバグレーティングは、光ファイバのコアに周期的な屈折率変化(グレーティング)を形成したものであり、FBG(Fiber Bragg Grating:ファイバブラッググレーティング)とも呼ばれる。光ファイバグレーティングは、例えば、紫外領域のレーザ光の干渉光を光ファイバのコアに照射することによって製造される。グレーティングを形成するために光ファイバに照射された光が、光ファイバの円筒形状のクラッドによって集光されてコアに対して不均一に照射されると、光ファイバグレーティングの品質が低下する。
【0003】
以下の非特許文献1には、光の照射面が平坦面とされた円筒状のキャピラリを用いることで、品質の高い光ファイバグレーティングを製造する方法が開示されている。この方法では、キャピラリに光ファイバを挿入し、キャピラリを介して光ファイバのクラッドに光を入射させることで、クラッドによって光が集光されるのを緩和している。これにより、光ファイバのコアに照射される光のエネルギー密度が均一化されるため、品質の高い光ファイバグレーティングを製造することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Emma Lindley, Seong-Sik Min, Sergio Leon-Saval, Nick Cvetojevic, Jon Lawrence, Simon Ellis, and Joss Bland-Hawthorn, “Demonstration of uniform multicore fiber Bragg gratings”, 2014, Optics Express Vol. 22, Issue 25, p. 31575-31581
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した非特許文献1に開示された方法では、円筒状のキャピラリを光ファイバの所望の位置(例えば、グレーティングを形成すべき位置)に配置するためには、光ファイバが挿入された状態で、キャピラリを光ファイバに沿って移動させる必要がある。また、キャピラリを所望の位置に移動させる過程において、キャピラリと光ファイバとが擦れあって、光ファイバの表面に傷や汚れが付く場合もある。このように、上述した非特許文献1に開示された方法は、品質の高い光ファイバグレーティングを製造することができるものの、製造が容易ではないという問題があった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、品質の高い光ファイバグレーティングを容易に製造することが可能な光ファイバグレーティング製造装置及び光ファイバグレーティング製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造装置は、格子パターン(11a)が設けられた位相マスク(11)と、前記位相マスクを介して光ファイバ(FB)にレーザ光(LB)を照射する照射ユニット(13)と、を有する光ファイバグレーティング製造装置(1~7)であって、前記位相マスクと前記光ファイバとの間に配置され、前記位相マスク側が平面とされ、前記光ファイバ側に前記光ファイバを設置する溝(12d、12f、12j、12m)を有する光学補正部材(12)を備え、前記溝が、前記平面に対して平行となるように形成されていて、延伸方向における端部が開放端とされており、前記光学補正部材が、前記平面が前記位相マスクに対して平行になるよう配置される。
【0008】
本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造装置では、位相マスクと光ファイバとの間に、位相マスク側が平面とされ、光ファイバ側に光ファイバを設置する溝を有する光学補正部材が配置されている。ここで、光学補正部材の溝は、上記平面に対して平行となるように形成されていて、延伸方向における端部が開放端とされており、光学補正部材は、上記平面が位相マスクに対して平行になるよう配置される。この光学補正部材を透過して溝の内壁面から射出したレーザ光が光ファイバに入射することで、光ファイバのコアに照射されるレーザ光のエネルギー密度が均一化されるため、グレーティングの品質が向上する。また、従来のように、光キャピラリに光ファイバを挿入させる必要はなく、光ファイバを光学補正部材に近づけるだけで、光ファイバの任意の箇所を溝の内部に容易に配置することができる。このように、本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造装置では、品質の高い光ファイバグレーティングを容易に製造することが可能である。
【0009】
また、本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造装置は、前記光学補正部材が、前記光ファイバに照射されたレーザ光が前記光ファイバの内部において集光されないように、前記溝の延伸方向(D1~D3)と直交する断面内において、前記光ファイバに照射されるレーザ光の少なくとも一部のレーザ光の光路を前記溝によって補正する。
【0010】
また、本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造装置は、前記溝の延伸方向(D1)と直交する断面における前記溝の形状が円弧とされている。
【0011】
ここで、本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造装置は、前記光学補正部材の屈折率が、前記溝の延伸方向と直交する断面における前記光ファイバの中心軸(L)を中心とする全てのコア(C)を含む最小半径の円領域の半径(a)を前記光ファイバの素線の半径(R)で除して得られる値が、空気の屈折率(n0)を前記光学補正部材の屈折率(n1)で除して得られる値以下となるようにされ、前記円弧の曲率半径(r)が、前記光ファイバの素線の半径(R)以上である。
【0012】
或いは、本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造装置は、前記溝(12f)の延伸方向(D2)と直交する断面における前記溝の形状は、前記光ファイバの中心軸と前記溝の最も深い部分とを結んだ線に対して一方側にて前記光ファイバの周面と接する又は最も近接する第1直線部(12g)と、前記光ファイバの中心軸に対して他方側にて前記光ファイバの周面と接する又は最も近接する第2直線部(12h)と、前記第1直線部の端部と前記第2直線部との端部を接続する底円弧部(12i)とを有する形状とされている。
【0013】
ここで、本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造装置は、前記光学補正部材の屈折率が、前記溝の延伸方向と直交する断面における前記光ファイバの中心軸(L)を中心とする全てのコア(C)を含む最小半径の円領域の半径(a)を前記光ファイバの素線の半径(R)で除して得られる値が、空気の屈折率(n0)を前記光学補正部材の屈折率(n1)で除して得られる値以下となるようにされ、前記底円弧部の曲率半径(ra)が、前記光ファイバの素線の半径(R)以下である。
【0014】
ここで、本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造装置は、前記光ファイバに入射される前のレーザ光のエネルギー密度に対する前記光ファイバに入射された後のレーザ光のエネルギー密度の割合を変化率(β)とし、前記光ファイバに入射された後のレーザ光のエネルギー密度が、前記光ファイバに入射されるレーザ光に求められるエネルギー密度の許容下限値となる前記変化率を下限変化率(βmin)とした場合に、前記底円弧部の曲率半径が、前記光ファイバの素線の半径に前記下限変化率を乗じて得られる値よりも大きい。
【0015】
ここで、本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造装置は、前記溝の深さ(h)が、前記底円弧部の中心角の半分の角度(θ)の正弦値の二乗に対して、前記底円弧部の曲率半径を乗じて得られる値よりも大きい。
【0016】
或いは、本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造装置は、前記溝(12j)の延伸方向(D3)と直交する断面における前記溝の形状が、複数の直線部(12k)が互いに屈曲して接続された有角形状とされている。
【0017】
また、本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造装置は、前記光学補正部材が、前記位相マスク側が平面とされるとともに前記光ファイバ側に前記溝が設けられた基部(12a)と、前記基部の前記レーザ光が透過する領域(R1)の外にて前記基部から突出して設けられた補強部(12b)と、を備える。
【0018】
また、本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造装置は、前記光学補正部材と前記位相マスクとの間に介挿された保護箔(14)を備える。
【0019】
また、本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造装置は、前記溝の内壁面と前記光ファイバとの間に充填配置された光学流体(15)を備える。
【0020】
また、本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造装置は、前記光ファイバの一端側を送り出す送出スプール(16)と、前記光ファイバの他端側を巻き取る巻取スプール(17)とを備える。
【0021】
また、本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造方法は、光ファイバ(FB)のコアに(C)グレーティング(G)が形成されてなる光ファイバグレーティング製造方法であって、一方側が平面とされるとともに他方側に溝(12d、12f、12j、12m)が設けられた光学補正部材(12)の前記平面側に、前記平面に対して平行となるように位相マスク(11)を配置する位相マスク配置ステップ(S1)と、前記溝に光ファイバを設置する光ファイバ設置ステップ(S2)と、前記位相マスク及び前記光学補正部材を介して、レーザ光(LB)を前記光ファイバに照射して前記グレーティングを形成するグレーティング形成ステップ(S3)と、を有し、前記溝が、前記平面に対して平行となるように形成されていて、延伸方向における端部が開放端とされている。
【0022】
本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造方法では、位相マスクと光ファイバとの間に、位相マスク側が平面とされ、光ファイバ側に光ファイバを設置する溝を有する光学補正部材が配置されている。ここで、光学補正部材の溝は、上記平面に対して平行となるように形成されていて、延伸方向における端部が開放端とされており、光学補正部材は、上記平面が位相マスクに対して平行になるよう配置される。この光学補正部材を透過して溝の内壁面から射出したレーザ光が光ファイバに入射することで、光ファイバのコアに照射されるレーザ光のエネルギー密度が均一化されるため、グレーティングの品質が向上する。また、従来のように、光キャピラリに光ファイバを挿入させる必要はなく、光ファイバを光学補正部材に近づけるだけで、光ファイバの任意の箇所を溝の内部に容易に配置することができる。このように、本発明の一態様による光ファイバグレーティング製造装置では、品質の高い光ファイバグレーティングを容易に製造することが可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、品質の高い光ファイバグレーティングを容易に製造可能という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施形態による光ファイバグレーティング製造装置の概略構成を示す図である。
【
図3】本発明の第1実施形態で用いられる光ファイバの光軸に沿った断面図である。
【
図4】本発明の第1実施形態による光ファイバグレーティング製造装置が備えるファイバガイドの三面図である。
【
図5】本発明の第1実施形態におけるファイバガイドの溝の形状を説明するための図である。
【
図6】本発明の第1実施形態におけるファイバガイドの溝にマルチコアファイバを設置した様子を示す図である。
【
図7】本発明の第1実施形態による光ファイバグレーティング製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の第2実施形態による光ファイバグレーティング製造装置の概略構成を示す断面図である。
【
図9】本発明の第2実施形態におけるファイバガイドの溝の形状を説明するための図である。
【
図10】本発明の第2実施形態における光ファイバの素線の半径下限値を説明するための図である。
【
図11】本発明の第2実施形態におけるファイバガイドの溝にマルチコアファイバを設置した様子を示す図である。
【
図12】本発明の第2実施形態におけるファイバガイドの溝に設置されたマルチコアファイバにレーザ光を照射した様子を示す図である。
【
図13】本発明の第3実施形態による光ファイバグレーティング製造装置の概略構成を示す断面図である。
【
図14】本発明の第4実施形態による光ファイバグレーティング製造装置の概略構成を示す断面図である。
【
図15】本発明の第5実施形態による光ファイバグレーティング製造装置の概略構成を示す図である。
【
図17】本発明の第6実施形態による光ファイバグレーティング製造装置の概略構成を示す断面図である。
【
図18】本発明の第7実施形態による光ファイバグレーティング製造装置の概略構成を示す図である。
【
図19】ファイバガイドの溝の他の例を示す断面図である。
【
図20】
図19に示す溝に大径の光ファイバを設置した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態による光ファイバグレーティング製造装置及び光ファイバグレーティング製造方法について詳細に説明する。
【0026】
〔第1実施形態〕
〈光ファイバグレーティング製造装置〉
図1は、本発明の第1実施形態による光ファイバグレーティング製造装置の概略構成を示す図である。
図2は、
図1中のA-A線に沿う断面矢視図である。
図1及び
図2に示す通り、光ファイバグレーティング製造装置1は、位相マスク11、ファイバガイド12(光学補正部材)、及び照射ユニット13を備える。このような光ファイバグレーティング製造装置1は、照射ユニット13からのレーザ光を、位相マスク11及びファイバガイド12を介して光ファイバFBに照射することにより、光ファイバFBのコアC(
図3参照)にグレーティングGを形成するものである。
【0027】
図3は、本発明の第1実施形態で用いられる光ファイバの光軸に沿った断面図である。
図3に示す通り、光ファイバFBは、円柱状のコアC及びコアCの外側面を覆う円筒状のクラッドCLからなる素線と、素線の外側面を覆う円筒状の被覆CVとを有するシングルコアファイバである。この光ファイバFBは、例えば、LMA(Large Mode Area)ファイバである。
【0028】
コアCは、例えばゲルマニウム(Ge)を含む石英ガラスによって形成されており、クラッドCLは石英ガラスによって形成されている。被覆CVは、アクリル、紫外光透過シリコーン、ポリイミド等によって形成されている。尚、
図1に示す通り、位相マスク11、ファイバガイド12(光学補正部材)、及び照射ユニット13が配置される部位では、光ファイバFBの被覆CVが除去されて、クラッドCLの表面が露出されている。
【0029】
位相マスク11は、光ファイバFBのクラッドCLが露出された部位にて、光ファイバFBの側方(
図1に示す例では、光ファイバFBの上方)に配置される。位相マスク11は、光ファイバFBのコアCにグレーティングGを形成するためのものである。位相マスク11には格子パターン11aが設けられており、照射ユニット13から射出される紫外領域のレーザ光LBが照射される。これにより、+1次回折光及び-1次回折光が生じ、これら回折光の干渉光がファイバガイド12を介して光ファイバFBのコアCに照射されることで、光ファイバFBのコアCにグレーティングGが形成される。
【0030】
ファイバガイド12は、位相マスク11に対して照射ユニット13の反対側に配置されており、位相マスク11と光ファイバFBとの間に介挿されている。尚、位相マスク11は、ファイバガイド12と照射ユニット13との間に配置されているということもできる。このファイバガイド12は、光ファイバFBに照射されたレーザ光LBが光ファイバFBの内部において集光されないように、光ファイバFBに照射されるレーザ光LBの少なくとも一部のレーザ光LBの光路を補正する。つまり、ファイバガイド12は、光ファイバFBのコアCに照射されるレーザ光LBのエネルギー密度を均一化する。尚、ファイバガイド12の詳細については後述する。
【0031】
照射ユニット13は、位相マスク11の上方に配置されている。照射ユニット13は、不図示の制御装置の制御の下で、位相マスク11に照射されるレーザ光LBを射出する。この照射ユニット13から射出されるレーザ光LBとしては、例えばエキシマレーザから射出される波長240~360nm程度のレーザ光を用いることができる。尚、上述したエキシマレーザ等の光源装置は、照射ユニット13内に設けられていても良く、照射ユニット13とは別に設けられていても良い。
【0032】
〈ファイバガイド〉
図4は、本発明の第1実施形態による光ファイバグレーティング製造装置が備えるファイバガイドの三面図である。
図4において、(a)が正面図であり、(b)が平面図であり、(c)が右側面図である。ファイバガイド12は、光ファイバFBのクラッドCLと屈折率が同一或いは近い材料によって形成されており、本実施形態では石英ガラスによって全体が形成されている。
【0033】
ファイバガイド12は、
図4に示す通り、基部12aと補強部12bとを有している。尚、基部12aと補強部12bとは一体化されているが、
図4(a)においては基部12aと補強部12bとの境界面を仮想線で示している。
【0034】
基部12aは、位相マスク11側の面(本実施形態では
図2の上側の面)が位相マスク11との当接面12cとされている。この当接面12cは、平面とされている。ファイバガイド12は、当接面12cが位相マスク11に対して平行になるよう配置される。基部12aの光ファイバFB側には、光ファイバFBの中心軸Lに沿うように延伸された溝12dが設けられている。この溝12dには、光ファイバFBが設置される。つまり、本実施形態において、ファイバガイド12は、位相マスク11側が平面の当接面12cとされ、光ファイバFB側に光ファイバFBが設置される溝12dが設けられている。
【0035】
溝12dの延伸方向D1と直交する断面における溝12dの形状は、特に限定されるものではないが、本実施形態では、
図4(c)に示す通り、円弧とされている。つまり、溝12dの内壁面は、屈曲部位が設けられていない円滑な曲面とされている。このように、溝12dの延伸方向D1と直交する断面における溝12dの形状が円弧とされているため、溝12dの形状が多角形状である場合と比較して、溝12dを容易に形成することが可能となる。
【0036】
溝12dの最も深い位置Pでの基部12aの厚さd1は、例えば100~200μmとされている。厚さd1を100~200μmとすることで、位相マスク11を光ファイバFBに近づけ、グレーティングGの形成に十分な強度のレーザ光LBを光ファイバFBに照射することができる。
【0037】
また、溝12dは、
図4(a)に示す通り、延伸方向D1における基部12aの一方端から他方端に至る長さで直線状に設けられている。この溝12dは、当接面12cに対して平行となるように(つまり、最も深い位置Pでの基部12aの厚さd1が、延伸方向D1に亘って一定となるように)形成されている。溝12dは、両端が開放端12eとされている。このように、ファイバガイド12の溝12dは、延伸方向D1における端部が開放端12eとされているため、光ファイバFBを湾曲させることなく溝12dに配置することができる。これによって、光ファイバFBを湾曲させた際に生じる復元力によって光ファイバFBが意図せずに溝12dの内部で移動することを防止できる。尚、溝12dの形状の詳細については後述する。
【0038】
補強部12bは、基部12aの位相マスク11が当接される当接面12cから突出して設けられている。補強部12bは、溝12dの延伸方向D1における基部12aの2つの端部の各々に設けられている。つまり、本実施形態において、補強部12bは2箇所に設けられている。これらの補強部12bは、ファイバガイド12の端部の厚さを増加することによって、ファイバガイド12の強度を向上させる。尚、照射ユニット13から射出されたレーザ光LBは、ファイバガイド12の中央部を透過し、端部は透過しない。つまり、補強部12bは、基部12aのレーザ光LBが透過する領域R1の外にて基部12aから突出して設けられている。
【0039】
このように、ファイバガイド12は、位相マスク11側が平面とされるとともに光ファイバFB側に溝12dが設けられた基部12aと、基部12aのレーザ光LBが透過する領域R1の外にて基部から突出して設けられた補強部12bとを有している。このため、補強部12bを設けない場合と比較してファイバガイド12の強度を向上させることができ、ファイバガイド12の取り扱いを容易とすることが可能となる。
【0040】
図5は、本発明の第1実施形態におけるファイバガイドの溝の形状を説明するための図である。
図5に示す通り、光ファイバFBの中心軸Lを中心とするコアCを含む最小半径の円領域の半径(本実施形態ではコアCの半径に相当)をaとする。また、光ファイバFBの素線の半径(被覆CVが除去された部分の半径)をRとする。また、溝12dの曲率半径をrとする。また、空気の屈折率をn
0とし、ファイバガイド12の屈折率をn
1とする。
【0041】
ここで、以下の(1),(2)式が満たされる場合には、ファイバガイド12から射出されたレーザ光LBの集光の程度は抑えられる。このため、光ファイバFBのコアCに入射するレーザ光LBのエネルギー密度は、ファイバガイド12を設置しない場合と比較して均一化される。
【0042】
【0043】
【0044】
また、上記(2)式が満たされる場合には、光ファイバFBを、溝12dの最も深い位置Pで溝12dの内壁面に接触させることができる。この場合において、溝12dの延伸方向D1と直交する断面における溝12dの曲率半径rに理論上の制限はない。但し、溝12dの曲率半径rが大きくなるほど、不必要にファイバガイド12が大型化する。また、溝12dの曲率半径rが大きくなるほど、溝12dの最も深い位置Pの周囲が平坦化して光ファイバFBが水平方向(
図5中のX方向)に動きやすくなり、光ファイバFBの安定度が減少する。このため、溝12dの曲率半径rは光ファイバFBの素線の半径Rの1.5倍を上限とすることが好ましい。
【0045】
図6は、第1実施形態におけるファイバガイドの溝にマルチコアファイバを設置した様子を示す図である。
図6に示す通り、マルチコアファイバFBMの中心軸Lを中心とする全てのコアCを含む最小半径の円領域をコア領域RCとした場合に、コア領域RCの半径がaとなる。このようなマルチコアファイバFBMを溝12dに設置し、前述した(1),(2)式が満たされる場合にも、レーザ光LBは、コア領域RCで平行光とならないものの、集光の程度は抑えられる。このため、マルチコアファイバFBMのコアCに入射するレーザ光LBのエネルギー密度は、ファイバガイド12を設置しない場合と比較して均一化される。このため、複数のコアCにおけるグレーティングGの反射率が不均一となることを防止できる。
【0046】
このように、本実施形態の光ファイバグレーティング製造装置1においては、溝12dの延伸方向D1と直交する断面における光ファイバFBの中心軸Lを中心とする全てのコアCを含む最小半径の円領域の半径aを光ファイバFBの素線の半径Rで除して得られる値が、空気の屈折率n0をファイバガイド12の屈折率n1で除して得られる値以下となるようにされている。また、ファイバガイド12に設けられた溝12dの曲率半径rが、光ファイバFBの素線の半径R以上にされている。これにより、光ファイバFB(或いは、マルチコアファイバFBM)のコアCに入射するレーザ光LBのエネルギー密度は、ファイバガイド12を設置しない場合と比較して均一化されるため、品質の高いグレーティングGを形成することができる。
【0047】
〈光ファイバグレーティング製造方法〉
図7は、本発明の第1実施形態による光ファイバグレーティング製造方法の一例を示すフローチャートである。光ファイバグレーティングの製造が開始されると、まず、ファイバガイド12の当接面12cに位相マスク11を配置する工程が行われる(ステップS1:位相マスク配置ステップ)。つまり、一方側が平面にされて他方側に溝12dが設けられたファイバガイド12の平面(当接面12c)側に位相マスク11を配置する工程が行われる。これにより、位相マスク11は、ファイバガイド12の当接面12cに対して平行になるよう配置される。言い替えると、ファイバガイド12は、当接面12cが、位相マスク11に対して平行になるよう配置される。
【0048】
以上の配置が行われた位相マスク11及びファイバガイド12は、照射ユニット13の下方において、位相マスク11を照射ユニット13側に向けた状態で位置決めされる。言い換えると、位相マスク11及びファイバガイド12は、ファイバガイド12と照射ユニット13との間に位相マスク11が配置される状態で位置決めされる。尚、位相マスク11とファイバガイド12とは、レーザ光LBが透過する領域R1を避けて、不図示の接着剤や締結構造によって固定されても良い。
【0049】
次に、ファイバガイド12の溝12dに光ファイバFBを設置する工程が行われる(ステップS2:光ファイバ設置ステップ)。具体的には、光ファイバFBをファイバガイド12の下側から近接させ、光ファイバFBの素線(クラッドCL)が露出された部位の少なくとも一部が、ファイバガイド12の溝12dの内部に入り込むようにする。尚、光ファイバFBは、溝12dの内壁面に接触していても良く、溝12dの内壁面に対して僅かな隙間を空けて配置されていても良い。
【0050】
ここで、ファイバガイド12の溝12dの形状は、
図4(c)に示す通り、位相マスク11が配置される側とは逆側に向けて開放される形状である。このため、ファイバガイド12の下側から光ファイバFBを近づけることで、光ファイバFBの任意の箇所を溝12dの内部に容易に配置することができる。また、溝12dは、当接面12cに対して平行となるように形成されているため、光ファイバFBを溝12dに配置すれば、光ファイバFBを、当接面12c及び位相マスク11に対して平行となるように配置することができる。
【0051】
次に、位相マスク11及びファイバガイド12を介して、レーザ光LBを光ファイバFBに照射してグレーティングGを形成する工程が行われる(ステップS3:グレーティング形成ステップ)。この工程が開始されると、照射ユニット13からレーザ光が射出される。照射ユニット13から射出されたレーザ光LBは、位相マスク11の上面に照射される。
【0052】
位相マスク11の上面にレーザ光LBが照射されると回折光が生じ、回折光がファイバガイド12を介して溝12dの内壁面から射出されて光ファイバFBのクラッドCLに入射する。レーザ光LBの回折光は、ファイバガイド12が設置されていない場合と比較して、光ファイバFBの素線の内部にて集光されないようにファイバガイド12によって光路補正される。このため、光ファイバFBの素線の内部における回折光のエネルギー密度が均一化される。このような回折光の干渉光が光ファイバFBのコアCに照射されることで、光ファイバFBのコアCにはグレーティングGが形成される。
【0053】
尚、ここでは、照射ユニット13の下方に位相マスク11及びファイバガイド12を配置し、光ファイバFBをファイバガイド12の下側から近接させ、レーザ光LBを位相マスク11の上側から照射する例について説明した。しかしながら、照射ユニット13の上方に位相マスク11及びファイバガイド12を配置し、光ファイバFBをファイバガイド12の上側から近接させ、レーザ光LBを位相マスク11の下側から照射するようにしても良い。或いは、照射ユニット13の側方(例えば、右側方)に位相マスク11及びファイバガイド12を配置し、光ファイバFBをファイバガイド12の横側(例えば、右側)から近接させ、レーザ光LBを位相マスク11の横側(例えば、左側)から照射するようにしても良い。
【0054】
以上説明した通り、本実施形態では、位相マスク11と光ファイバFBとの間に配置されたファイバガイド12に光ファイバFBを近づけて、光ファイバFBの素線をファイバガイド12の溝12dに設置している。そして、照射ユニット13から照射されるレーザ光を、位相マスク11及びファイバガイド12を介して光ファイバFBの素線に照射している。これにより、光ファイバFBのコアCに照射されるレーザ光LBのエネルギー密度を均一化することができるため、品質の高い光ファイバグレーティングを容易に製造することが可能である。
【0055】
〔第2実施形態〕
〈光ファイバグレーティング製造装置〉
図8は、本発明の第2実施形態による光ファイバグレーティング製造装置の概略構成を示す断面図である。尚、
図8においては、
図2に示す構成と同様の構成については同一の符号を付してある。本実施形態の光ファイバグレーティング製造装置2は、
図2に示す光ファイバグレーティング製造装置1とは、ファイバガイド12に設けられる溝の形状が異なる。尚、本実施形態における光ファイバグレーティング製造方法は第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0056】
〈ファイバガイド〉
ファイバガイド12に設けられる溝12fの断面形状は、第1直線部12g、第2直線部12h、及び底円弧部12iを有する形状とされている。第1直線部12gは、光ファイバFBの中心軸Lと溝12fの最も深い部分とを結んだ線に対して一方側(
図8における右側)にて光ファイバFBの周面と接する又は最も近接する直線状の部位である。この第1直線部12gは、上端が底円弧部12iの一端(
図8における右端)と屈曲することなく接続され、底円弧部12iから下方に向かうにつれて第2直線部12hから水平方向に離れるように傾斜されている。
【0057】
第2直線部12hは、光ファイバFBの中心軸Lに対して他方側(
図8における左側)にて光ファイバFBの周面と接する又は最も近接する直線状の部位である。この第2直線部12hは、上端が底円弧部12iの他端(
図8における左端)と屈曲することなく接続され、底円弧部12iから下方に向かうにつれて第1直線部12gから水平方向に離れるように傾斜されている。
【0058】
底円弧部12iは、溝12fの底部を形成しており、第1直線部12gの上端と第2直線部12hの上端とを接続する円弧形状の部位である。この底円弧部12iの曲率半径は一定とされている。尚、第1直線部12g及び第2直線部12hは、底円弧部12iとの接続点における底円弧部12iの接線と重なるように設けられている。
【0059】
図9は、本発明の第2実施形態におけるファイバガイドの溝の形状を説明するための図である。尚、
図9においては、
図5に示す構成と同様の構成については同一の符号を付してある。
図9に示す通り、溝12fの底円弧部12iの曲率半径をr
aとする。また、溝12fの深さをhとする。
【0060】
スネルの法則によると、ファイバガイド12の内部からファイバガイド12の外部(空気)に進む光の全反射の臨界角θcは、以下の(3)式で示される。
【0061】
【0062】
従って、底円弧部12iの中心角の半分の角度をθとすると、以下の(4)式のように表される。
【0063】
【0064】
ここで、前述した(1)式が成り立つ場合において、曲率半径raは以下の(5)式で示される範囲に制限される。
【0065】
【0066】
上記(5)式において、R
minは、光ファイバFBの素線の半径の下限値(半径下限値)である。
図10は、本発明の第2実施形態における光ファイバの素線の半径下限値を説明するための図である。
図10に示す通り、レーザ光LBがファイバガイド12の内部から溝12fの内壁面に至った場合に、光ファイバFBの素線の直径よりも狭い幅W
1で示す範囲のレーザ光LBのみが光ファイバFBに入射する。
【0067】
幅W1の範囲を通過するレーザ光LBは、溝12fの内壁面において屈折され、光ファイバFBの素線の内部にて幅W1よりも広い幅W2の範囲(コアCを含む範囲)を照射する。言い換えると、コアCを含む幅W2の範囲に照射されるレーザ光LBは、ファイバガイド12の内部において幅W2よりも狭い幅W1の範囲を通過するレーザ光LBのみである。
【0068】
このようにレーザ光LBは、光ファイバFBの素線の内部で広がることから、光ファイバFBの素線の内部においてレーザ光LBのエネルギー密度は減少する。つまり、光ファイバFBで受けるレーザ光LBのエネルギー密度(受光エネルギー密度)は、光ファイバFBに入射するレーザ光LBのエネルギー密度(入射エネルギー密度)よりも小さくなる。
【0069】
エネルギー密度の変化率βは、以下の(6)式で表すことができる。
【0070】
【0071】
上記(6)式に示す通り、変化率βは、光ファイバFBの素線の半径Rによって変化する。ここで、照射ユニット13から射出されるレーザ光LBの出力が一定である場合を考える。この場合において、グレーティングGを形成するために必要なエネルギー密度の最小値を確保できる変化率の下限値(下限変化率βmin)と、上述の光ファイバFBの素線の半径下限値Rminとの関係は、以下の(7)式で表される。
【0072】
【0073】
つまり、上記(5)式が満たされている場合には、底円弧部12iの曲率半径raが、光ファイバFBの半径Rに下限変化率βminを乗じて得られる値よりも大きくなる。これにより、光ファイバFBの素線を透過するレーザ光LBのエネルギー密度を、グレーティングGを形成するために最低限要するエネルギー密度よりも高くすることができる。
【0074】
図9に戻り、溝12fの深さhは、以下の(8)式に示す通り、底円弧部12iの中心角の半分の角度θの正弦値の二乗に対して、底円弧部12iの曲率半径r
aを乗じて得られる値よりも大きい。これにより、コアCの全体に対してレーザ光LBを確実に照射することが可能となる。
【0075】
【0076】
尚、以下の(9)式が満たされる場合には、光ファイバFBとファイバガイド12との間を充填する屈折整合材料を配置することが好ましい。屈折整合材料は流体或いは固体であり、屈折率が空気よりもファイバガイド12に近い材料によって形成される。これによって、より確実にコアCの全体に対してレーザ光LBを均一に照射することができる。
【0077】
【0078】
図11は、本発明の第2実施形態におけるファイバガイドの溝にマルチコアファイバを設置した様子を示す図である。また、
図12は、本発明の第2実施形態におけるファイバガイドの溝に設置されたマルチコアファイバにレーザ光を照射した様子を示す図である。
図11及び
図12に示す通り、マルチコアファイバFBMの中心軸Lを中心とする全てのコアCを含む最小半径の円領域をコア領域RCとした場合に、コア領域RCの半径がaとなる。
【0079】
このようなマルチコアファイバFBMを溝12fに設置し、前述した(1),(5)式が満たされる場合にも、光ファイバFBを透過するレーザ光LBを平行光とし、コアCに照射されるエネルギー密度をより均一化することができる。また、コアCに照射されるレーザ光LBのエネルギー密度をグレーティングGが確実に形成可能な強さとすることができる。
【0080】
〔第3実施形態〕
〈光ファイバグレーティング製造装置〉
図13は、本発明の第3実施形態による光ファイバグレーティング製造装置の概略構成を示す断面図である。尚、
図13においては、
図2に示す構成と同様の構成については同一の符号を付してある。本実施形態の光ファイバグレーティング製造装置3は、
図2に示す光ファイバグレーティング製造装置1とは、ファイバガイド12に設けられる溝の形状が異なる。尚、本実施形態における光ファイバグレーティング製造方法は、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0081】
〈ファイバガイド〉
本実施形態において、ファイバガイド12に設けられる溝12jの断面形状は、複数の直線部12kが互いに屈曲して接続された有角形状とされている。各々の直線部12kの長さは同一とされ、直線部12k同士が接続されてなる角度も同一とされている。
【0082】
このような本実施形態の溝12jによれば、多数の箇所において溝12jの内壁面と光ファイバFBとを当接させることができる。従って、光ファイバFBを溝12jの内壁面に当接配置する場合に、溝12jの内部において、光ファイバFBを安定的に位置決めすることが可能となる。
【0083】
〔第4実施形態〕
〈光ファイバグレーティング製造装置〉
図14は、本発明の第4実施形態による光ファイバグレーティング製造装置の概略構成を示す断面図である。尚、
図14においては、
図2に示す構成と同様の構成については同一の符号を付してある。本実施形態の光ファイバグレーティング製造装置4は、
図2に示す光ファイバグレーティング製造装置1とは、保護箔14を備える点が異なる。尚、本実施形態における光ファイバグレーティング製造方法は、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0084】
保護箔14は、
図14に示す通り、位相マスク11とファイバガイド12との間に介挿されている。つまり、本実施形態において、位相マスク11は、保護箔14を介してファイバガイド12の当接面12cに当接されている。この保護箔14は、例えば、レーザ光LBの透過率が高く、ファイバガイド12と同程度の屈折率を有する材料によって形成されている。この保護箔14としては、例えば、厚さが10~20μm程度の溶融石英ガラス板を用いることができる。
【0085】
このような保護箔14を位相マスク11とファイバガイド12との間に介挿することによって、位相マスク11をファイバガイド12に向けて強く押し当てることができる。これにより、位相マスク11とファイバガイド12とが傷つくことを防止しつつ、位相マスク11とファイバガイド12とを近接させることが可能となる。また、位相マスク11とファイバガイド12との間に隙間が生じることを防止し、位相マスク11とファイバガイド12との間でレーザ光LBのエネルギーが損失すること等を抑止することが可能となる。
【0086】
〔第5実施形態〕
〈光ファイバグレーティング製造装置〉
図15は、本発明の第5実施形態による光ファイバグレーティング製造装置の概略構成を示す図である。また、
図16は、
図15中のB-B線に沿う断面矢視図である。尚、
図15及び
図16においては、
図1に示す構成と同様の構成については同一の符号を付してある。
【0087】
本実施形態の光ファイバグレーティング製造装置5は、
図1及び
図2に示す光ファイバグレーティング製造装置1とほぼ同様の構成である。但し、本実施形態の光ファイバグレーティング製造装置5は、全体に被覆CVが施されたマルチコアファイバFBMに対してレーザ光LBを照射してグレーティングGを形成する点が
図1及び
図2に示す光ファイバグレーティング製造装置1とは異なる。
【0088】
本実施形態において、被覆CVは、マルチコアファイバFBMの長さ方向の全体に切れ目なく設けられている。つまり、マルチコアファイバFBMの途中部位に、被覆CVが除去されて素線(クラッドCL)の外表面が露出された部位は設けられていない。尚、被覆CVは、アクリル、紫外光透過シリコーン、ポリイミド等の紫外線を透過可能な材料によって形成されている。
【0089】
〈光ファイバグレーティング製造方法〉
本実施形態による光ファイバグレーティング製造方法は、基本的には、第1実施形態による光ファイバグレーティング製造方法と同様であり、
図7に示すフローチャートに示す工程が行われる。但し、ステップS2では、光ファイバFBの任意の部位(被覆CVが設けられた任意の部位)をファイバガイド12の溝12dの内部に配置する点が第1実施形態とは異なる。また、ステップS3では、位相マスク11及びファイバガイド12を介したレーザ光LBを、被覆CVを透過させて光ファイバFBの芯線に照射する点が第1実施形態とは異なる。
【0090】
尚、本実施形態においては、マルチコアファイバFBMに対してレーザ光LBを照射してグレーティングGを形成する例について説明した。しかしながら、同様に、シングルコアの光ファイバFBに対してレーザ光LBを照射してグレーティングGを形成することも可能である。
【0091】
〔第6実施形態〕
〈光ファイバグレーティング製造装置〉
図17は、本発明の第6実施形態による光ファイバグレーティング製造装置の概略構成を示す断面図である。尚、
図17においては、
図16に示す構成と同様の構成については同一の符号を付してある。
【0092】
本実施形態の光ファイバグレーティング製造装置6は、
図16に示す光ファイバグレーティング製造装置5とほぼ同様の構成である。但し、本実施形態の光ファイバグレーティング製造装置6は、全体に被覆CVが施されたマルチコアファイバFBMとファイバガイド12との間に、マッチングオイル15(光学流体)が充填配置されている点が異なる。
【0093】
マルチコアファイバFBMとファイバガイド12の溝12dの内壁面とは僅かな隙間を空けて対向配置されている。この隙間の寸法は、毛細管現象によりマッチングオイル15がマルチコアファイバFBMとファイバガイド12との間に保持可能な寸法とされている。このように僅かな隙間にマッチングオイル15を充填して配置することによって、マッチングオイル15を保持する機構やファイバガイド12をマッチングオイル15に浸漬させる機構を別途設ける必要がない。また、マッチングオイル15の使用量を最小限に抑えることができる。また、隙間にパーティクルが侵入する可能性を低減することができる。
【0094】
マッチングオイル15は、空気よりも屈折率がファイバガイド12に近い液体である。このマッチングオイル15がマルチコアファイバFBMとファイバガイド12との間に充填されることよって、レーザ光LBが空気中を透過することを抑制し、より均一にレーザ光LBをコアCに照射することが可能となる。
【0095】
〈光ファイバグレーティング製造方法〉
本実施形態による光ファイバグレーティング製造方法は、基本的には、第5実施形態による光ファイバグレーティング製造方法と同様である。但し、ステップS2において、マルチコアファイバFBMを、ファイバガイド12の溝12dの内壁面に対して僅かな隙間を空けて対向配置させる点が第5実施形態とは異なる。
【0096】
また、ステップS2とステップS3との間に、マルチコアファイバFBMとファイバガイド12との隙間にマッチングオイル15を充填するステップが設けられる点が第5実施形態とは異なる。尚、マルチコアファイバFBMの下方にファイバガイド12が配置される場合には、溝12dにマルチコアファイバFBMを配置する前にマッチングオイル15を溝12dに配置しても良い。
【0097】
尚、本実施形態においては、マルチコアファイバFBMに対してレーザ光LBを照射してグレーティングGを形成する例について説明した。しかしながら、第5実施形態と同様に、シングルコアの光ファイバFBに対してレーザ光LBを照射してグレーティングGを形成することも可能である。
【0098】
〔第7実施形態〕
〈光ファイバグレーティング製造装置〉
図18は、本発明の第7実施形態による光ファイバグレーティング製造装置の概略構成を示す図である。尚、
図18においては、
図1に示す構成と同様の構成については同一の符号を付してある。本実施形態の光ファイバグレーティング製造装置7は、
図1及び
図2に示す光ファイバグレーティング製造装置1とは、送出スプール16及び巻取スプール17を備える点、全体に被覆CVが施されたマルチコアファイバFBMに対してレーザ光LBを照射してグレーティングGを形成する点が異なる。
【0099】
本実施形態において、被覆CVは、マルチコアファイバFBMの長さ方向の全体に切れ目なく設けられている。つまり、第6実施形態と同様に、マルチコアファイバFBMの途中部位に、被覆CVが除去されて素線(クラッドCL)の外表面が露出された部位は設けられていない。
【0100】
送出スプール16は、位相マスク11、ファイバガイド12、及び照射ユニット13の上流側(マルチコアファイバFBMの搬送方向D4における上流側)に配置されている。送出スプール16は、不図示の制御装置の制御の下で、グレーティングGが形成されていないマルチコアファイバFBMの搬送方向D4への送り出しを行う。例えば、送出スプール16は、不図示の制御装置によって指示された回転量だけ回転して、グレーティングGが形成されていないマルチコアファイバFBMを一定の長さだけ間欠的に送り出す。
【0101】
また、送出スプール16は、不図示の制御装置の制御の下で、位相マスク11、ファイバガイド12、及び照射ユニット13の上流側においてマルチコアファイバFBMに付与する張力を調整する。送出スプール16が、マルチコアファイバFBMに付与する張力を調整するのは、マルチコアファイバFBMに形成されるグレーティングGのブラッグ波長を調整するためである。
【0102】
巻取スプール17は、位相マスク11、ファイバガイド12、及び照射ユニット13の下流側(マルチコアファイバFBMの搬送方向D4における下流側)に配置されている。巻取スプール17は、不図示の制御装置の制御の下で、グレーティングGが形成されたマルチコアファイバFBMの巻き取りを行う。例えば、巻取スプール17は、不図示の制御装置によって指示された回転量だけ回転して、グレーティングGが形成されたマルチコアファイバFBMを一定の長さだけ間欠的に巻き取る。尚、巻取スプール17は、送出スプール16と連動して動作する。
【0103】
また、巻取スプール17は、不図示の制御装置の制御の下で、位相マスク11、ファイバガイド12、及び照射ユニット13の下流側においてマルチコアファイバFBMに付与する張力を調整する。巻取スプール17が、マルチコアファイバFBMに付与する張力を調整するのは、送出スプール16と同様に、マルチコアファイバFBMに形成されるグレーティングGのブラッグ波長を調整するためである。
【0104】
このように本実施形態の光ファイバグレーティング製造装置7は、マルチコアファイバFBMの一端側を送り出す送出スプール16と、マルチコアファイバFBMの他端側を巻き取る巻取スプール17とを有している。このため、マルチコアファイバFBMに作用する張力を調整することが可能となる。
【0105】
また、送出スプール16及び巻取スプール17は、マルチコアファイバFBMをファイバガイド12に対して近接させる或いは離間させる方向(
図18に示す例では、マルチコアファイバFBMの上下方向)に移動可能とされている。送出スプール16及び巻取スプール17は、不図示の制御装置の制御の下で、レーザ光LBをマルチコアファイバFBMに照射する際にマルチコアファイバFBMをファイバガイド12に対して近接させる。また、送出スプール16及び巻取スプール17は、不図示の制御装置の制御の下で、マルチコアファイバFBMを送り出す或いは巻き取る際にマルチコアファイバFBMをファイバガイド12から離間させる。
【0106】
送出スプール16及び巻取スプール17が、マルチコアファイバFBMをファイバガイド12に対して近接させる或いは離間させる方向に移動可能であることにより、マルチコアファイバFBMがファイバガイド12に対して摺動することを防止できる。従って、マルチコアファイバFBM及びファイバガイド12の表面が傷つくことや汚れることを防止できる。
【0107】
尚、本実施形態では、送出スプール16及び巻取スプール17が、マルチコアファイバFBMをファイバガイド12に対して近接させる或いは離間させる方向に移動させる例について説明した。しかしながら、送出スプール16及び巻取スプール17が、マルチコアファイバFBMを移動させることなく、マルチコアファイバFBMからファイバガイド12が離間するように、ファイバガイド12及び位相マスク11を移動させるようにしても良い。
【0108】
また、本実施形態においては、マルチコアファイバFBMに対してレーザ光LBを照射してグレーティングGを形成する例について説明した。しかしながら、第5,第6実施形態と同様に、シングルコアの光ファイバFBに対してレーザ光LBを照射してグレーティングGを形成することも可能である。
【0109】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、光ファイバFB及びマルチコアファイバFBMは、シングルクラッドファイバであっても良く、ダブルクラッドファイバであっても良い。シングルクラッドファイバは、コアの外側面を覆う円筒状のクラッドが1つである光ファイバであり、ダブルクラッドファイバは、コアの外側面を覆う円筒状のクラッド(インナークラッド)と、インナークラッドの外側面を覆う円筒状のクラッド(アウタークラッド)とを有する光ファイバである。
【0110】
また、上記第1実施形態では、ファイバガイド12の溝12dの断面形状が曲率半径一定の円弧とされていた。しかしながら、ファイバガイド12の溝は、
図19に示す通り、断面形状が楕円形の半分とされた形状の溝12mであっても良い。
図19は、ファイバガイドの溝の他の例を示す断面図である。尚、
図20に示す通り、溝12mに対しては、溝12mの底部との間に隙間が設けられるように大径の光ファイバFBを設置しても良い。
図20は、
図19に示す溝に大径の光ファイバを設置した様子を示す図である。
【0111】
また、本発明において、ファイバガイド12に設けられた溝の断面形状は、上述の例に限定されず、放物線形状や、レーストラック形状を半分にした形状、2つの直線が屈曲して接続された形状等、様々な形状とすることが可能である。また、ファイバガイド12の当接面12cは、上述の例のように平面に限定されることはなく、曲面であっても良い。例えば、
図2に示す上下方向に凸形状の曲面であっても良く、凹形状の曲面であっても良い。
【0112】
また、上記実施形態においては、紫外領域のレーザ光LBをコアCに照射することによってグレーティングGを形成する構成を採用した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、紫外領域のレーザ光ではない光をコアCに照射してグレーティングGを形成することを除外するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、センシング分野、加工分野、通信分野、その他の様々な分野で広く利用可能である。
【符号の説明】
【0114】
1~7…光ファイバグレーティング製造装置、11…位相マスク、11a…格子パターン、12…ファイバガイド(光学補正部材)、12a…基部、12b…補強部、12c…当接面、12d…溝、12e…開放端、12f…溝、12g…第1直線部、12h…第2直線部、12i…底円弧部、12j…溝、12k…直線部、12m…溝、13…照射ユニット、14…保護箔、15…マッチングオイル(光学流体)、16…送出スプール、17…巻取スプール、C…コア、CL…クラッド、CV…被覆、FB…光ファイバ、FBM…マルチコアファイバ、G…グレーティング、L…中心軸、LB…レーザ光