(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074433
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】粉末冶金用銅系混合粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20220511BHJP
C22C 9/10 20060101ALI20220511BHJP
C22C 9/06 20060101ALI20220511BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20220511BHJP
C22C 1/04 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B22F1/00 L
C22C9/10
C22C9/06
B22F3/24 C
C22C1/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184467
(22)【出願日】2020-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000239426
【氏名又は名称】福田金属箔粉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173406
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 真貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100067301
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 順一
(72)【発明者】
【氏名】篠原 翔
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018BA02
4K018BB04
4K018BC12
4K018FA08
4K018KA33
(57)【要約】
【課題】
Siと、Ni及び/又はCoを含有するが不活性雰囲気中で高い焼結性を示し、一般的な焼結方法によってCu-(Ni,Co)-Si系合金焼結体を製造でき、また、焼結後の時効処理によって所望の強度や導電性に調整できる粉末冶金用銅系混合粉末に関する。
【解決手段】
Siを0.2重量%以上、かつ、6.0重量%以下含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる合金粉末(甲粉末)とNi及び/又はCoを総計で30.0重量%以上含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる合金粉末又は混合粉末又は単体粉末(乙粉末)とを混合してなり、Siの含有量が総計で0.2重量%以上、かつ、6.0重量%以下、Ni及び/又はCoの含有量が総計で0.8重量%以上、かつ、40.0重量%以下である粉末冶金用銅系混合粉末。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末冶金用銅系混合粉末であって、前記銅系混合粉末は下記の甲粉末と乙粉末とを混合してなり、前記銅系混合粉末におけるSiの含有量は総計で0.2重量%以上、かつ、6.0重量%以下であり、Ni及び/又はCoの含有量は総計で0.8重量%以上、かつ、40.0重量以下%である粉末冶金用銅系混合粉末。
甲粉末:Siを0.2重量%以上、かつ、6.0重量%以下含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる合金粉末。
乙粉末:Ni及び/又はCoを総計で30.0重量%以上含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる合金粉末又は混合粉末又は単体粉末。
【請求項2】
前記甲粉末及び/又は乙粉末がZn、Sn、Mg、Pの群から選択される1種以上を含有し、前記粉末冶金用銅系混合粉末が含有するZn、Sn、Mg、Pは総計で3.0重量%以下である請求項1記載の粉末冶金用銅系混合粉末。
【請求項3】
見掛密度が4.0g/cm3以下であり、粒度分布の70%以上が106μm以下の粒子径である請求項1又は2記載の粉末冶金用銅系混合粉末。
【請求項4】
潤滑剤を0.1重量%以上、かつ、1.0重量%以下含有する請求項1~3いずれか記載の粉末冶金用銅系混合粉末。
【請求項5】
請求項1~4いずれか記載の粉末冶金用銅系混合粉末の圧粉成形体を焼結してなる焼結体。
【請求項6】
請求項5記載の焼結体をさらに時効処理してなる焼結体。
【請求項7】
請求項1~6いずれか記載の焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉末冶金用銅系混合粉末に関する。詳しくは、該銅系混合粉末はSiと、Ni及び/又はCoを含有するが不活性雰囲気中で高い焼結性を示すため、一般的な焼結方法によってCu-(Ni,Co)-Si系合金焼結体を製造でき、また、製造されたCu-(Ni,Co)-Si系合金焼結体は、含有させるSiの量や、Ni及び/又はCoの量や、焼結後の時効処理によって高い強度や高い導電性(熱伝導性)に調整することができるので、強度や導電性、排熱性が要求される焼結部品の製造に好適に使用できる粉末冶金用銅系混合粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属部品の小型化が進み、銅系合金には、強度は勿論のこと排熱性の向上、即ち、熱伝導性も求められるようになった。
【0003】
Cu-(Ni,Co)-Si系合金は溶体化後に時効処理によって(Ni,Co)-Si化合物を微細析出させることにより、強度と導電性(熱伝導性)を両立できる合金系として広く利用されている。
【0004】
しかし、難焼結性元素であるSiを含むと共に、NiやCoはCuマトリクス中の拡散速度が非常に遅いため焼結し難く、焼結によってCu-(Ni,Co)-Si系合金を製造することは非常に困難であり実用化に至っていない。
【0005】
難焼結性の粉末を焼結させる方法としては、高い成形圧にて真密度に近い圧粉体を作製することで焼結を促進させて焼結体を製造するという方法がある。
【0006】
高い成形圧をかけて真密度に近い圧粉体を作製すれば、粉末同士の密着性が向上するので、焼結密度の高い焼結体を製造することができる。
【0007】
しかし、真密度に近い圧粉体を作製するには、一般的な成形に比べて極めて高い成形圧が要求されるという問題がある。
【0008】
また、前記の方法は、粉末粒子同士の密着性を向上させて高い焼結密度を得るという物理的な方法であり、粉末粒子自体の焼結性を本質的に向上させる方法ではない。
【0009】
そこで、粉末粒子同士の反応性を高めさせるような化学的な方法により、粉末粒子自体の焼結性を本質的に向上させ、一般的な焼結方法でCu-(Ni,Co)-Si系合金を製造できる銅系混合粉末の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10-158766
【特許文献2】特開2015-160960
【特許文献3】特開2018-135557
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1には、Cu-Ni-Si-Al-Fe-Mn(-B-Mo)系の粉末焼結体が開示されている。
【0012】
特許文献1に開示される焼結体はアトマイズ法で作製した合金粉末を原料としているため偏析は見られないが、水素還元雰囲気中で3時間の焼結を要しており、難焼結性であるという問題がある。
【0013】
また、多元系であるため、時効処理を施してもCuマトリクスに微量の添加元素が残り、導電性(熱伝導性)が低いという問題がある。
【0014】
特許文献2には、Cu-Ni-Si系合金の粉末焼結体が開示されている。
【0015】
特許文献2に開示される焼結体はCu、Ni、Siの単体粉末で構成される混合粉末が原料であるため偏析が起き易く、均一な組織になり難いという問題がある。
【0016】
また、2μm以上の粗大なNi2Siが面積率で2%以上存在するためCu-Ni-Si系合金の強度の向上が望めないという問題がある。
【0017】
特許文献3には、Cu-Ni-Si-S(-Fe-Sn)系合金にTiの単体粉末を焼結助剤として加えた粉末焼結体が開示されている。
【0018】
特許文献3に開示される焼結体は、焼結助剤を添加して焼結性を高めているものの、真空雰囲気下で2時間の焼結を要しており、難焼結性であるという問題がある。
【0019】
また、焼結助剤のTi単体粉末は高価であるという問題がある。
【0020】
本発明は、Cu-(Ni,Co)-Si粉末の粉末自体の焼結性を向上させるために化学的なアプローチによって多くの試作・実験を重ねた結果、Siを0.2重量%以上、かつ、6.0重量%以下含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる合金粉末(甲粉末)とNi及び/又はCoを総計で30.0重量%以上含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる合金粉末又は混合粉末又は単体粉末(乙粉末)とを混合してなり、Siの含有量が総計で0.2重量%以上、かつ、6.0重量%以下、Ni及び/又はCoの含有量が総計で0.8重量%以上、かつ、40.0重量%以下である銅系混合粉末であれば、主元素であるCu、Ni、Co、Si以外の元素を焼結助剤として添加しなくても不活性雰囲気中で高い焼結性を示すため、一般的な焼結方法でCu-(Ni,Co)-Si系合金焼結体を製造することができ、製造された焼結体は高強度・高導電性(高熱伝導性)を十分に備える焼結体であり、しかも、焼結後の時効処理によって、さらに高強度・高導電性(高熱伝導性)を備える焼結体に調整することができるという刮目すべき知見を得て、前記技術的課題を達成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記技術的課題は次のとおりの本発明によって解決できる。
【0022】
本発明は、粉末冶金用銅系混合粉末であって、前記銅系混合粉末はSiを0.2重量%以上、かつ、6.0重量%以下含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる合金粉末(甲粉末)とNi及び/又はCoを総計で30.0重量%以上含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる合金粉末又は混合粉末又は単体粉末(乙粉末)とを混合してなり、前記銅系混合粉末におけるSiの含有量は総計で0.2重量%以上、かつ、6.0重量%以下であり、Ni及び/又はCoの含有量は総計で0.8重量%以上、かつ、40.0重量%以下である粉末冶金用銅系混合粉末である。
【0023】
また本発明は、前記甲粉末及び/又は乙粉末がZn、Sn、Mg、Pの群から選択される1種以上を含有し、前記粉末冶金用銅系混合粉末が含有するZn、Sn、Mg、Pは総計で3.0重量%以下である前記の粉末冶金用銅系混合粉末である。
【0024】
また、本発明は、見掛密度が4.0g/cm3以下であり、粒度分布の70%以上が106μm以下の粒子径である前記の粉末冶金用銅系混合粉末である。
【0025】
また本発明は、潤滑剤を0.1重量%以上、かつ、1.0重量%以下含有する前記の粉末冶金用銅系混合粉末である。
【0026】
また本発明は、前記の粉末冶金用銅系混合粉末の圧粉成形体を焼結してなる焼結体である。
【0027】
また本発明は、前記の焼結体をさらに時効処理してなる焼結体である。
【0028】
また本発明は、前記の焼結体の製造方法である。
【発明の効果】
【0029】
本件明細書において、「導電性」なる語は熱伝導性の意味も含む語として使用し、また、「Ni及び/又はCo」を「X」として表すことがある。
また、「総計」とは、不可避不純物に含まれる元素も含んだ合計を表す。
【0030】
本発明は、Siを0.2重量%~6.0重量%含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる合金粉末(以下「甲粉末」と言う)と、Ni及び/又はCoを総計で30.0重量%以上含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる合金粉末または混合粉末又は単体粉末(以下「乙粉末」と言う)を混合して製造する銅系混合粉末であり、該銅系混合粉末におけるSiの含有量は総計で0.2重量%~6.0重量%、Ni及び/又はCoの含有量が総計で0.8重量%~40.0重量%であるから、800℃以上に加熱することで甲粉末と乙粉末間の元素拡散が開始し、合金粉末である甲粉末のCuマトリクスに含まれるSiによって乙粉末に含まれるNi及び/又はCoの活量が低下し、CuマトリクスにおけるNi及び/又はCoの拡散速度が著しく向上するため、速やかに焼結が進行する焼結性の高い銅系混合粉末である。
【0031】
また、焼結の進行とともにCu、X、Siが均一に拡散し、最終的にはX、Siは全てCuマトリクス中に固溶し、これを急冷することにより均質な過飽和固溶体となる。
【0032】
また、得られた均質な過飽和固溶体に時効処理を施すことでX2Siを主とする金属間化合物が微細に析出して時効硬化するため、高い強度を備えた焼結体になる。
【0033】
また、時効処理によりCuマトリクス中に固溶するX、Siが大幅に減少するため高い導電性を備えた焼結体になる。
【0034】
本発明における銅系混合粉末は、X、Siの含有量と時効処理によって強度や導電性、必要に応じて耐食性も調整することができる。
【0035】
本発明における銅系合金粉末は焼結性が非常に高いため、特別な焼結助剤を添加しなくても、一般的な純窒素雰囲気、又は、窒素水素混合雰囲気で焼結することができるため、焼結によってCu-X-Si系合金を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明はSiを0.2重量%~6.0重量%含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる合金粉末(甲粉末)と、Xを30.0重量%以上含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる合金粉末又は混合粉末又は単体粉末(乙粉末)を混合してなり、Siを総計で0.2重量%~6.0重量%、Ni及び/又はCoを総計で0.8重量%~40.0重量%含む粉末冶金用銅系混合粉末である。
【0037】
合金粉末である甲粉末のCuマトリクスに含まれるSiが0.2重量%未満の場合はSi量が少なすぎるため、乙粉末が含有するXの活量を十分に低下させることができずにCuマトリクス中のXの拡散速度が遅くなって、焼結が進行しない虞がある。
【0038】
また、Siが6.0重量%を超えると甲粉末のCuマトリクスにSiが固溶しきれずに、甲粉末にCu-Si化合物相が発生するため、甲粉末と乙粉末の混合粉末の焼結性が低下する虞がある。
【0039】
また、Siの含有量が6.0重量%を超えると、Cu-Si粉末は空気中の水分と反応してH2ガスを発生し、保管容器の内圧上昇による破損や、焼結を阻害するSiO2酸化物が生成される虞もあり、粉末のハンドリング性が悪くなるため好ましくない。
【0040】
甲粉末の製造方法は特に限定されるものではないが、アトマイズ法によって製造した合金粉末が好ましく、より好ましくは、水アトマイズ法で製造した合金粉末である。
【0041】
水アトマイズ法で製造される金属粉末の形状は不規則形状となるため圧粉成形性に優れるからである。
【0042】
乙粉末は、Xを総計で30.0重量%以上含有し残部がCu及び不可避不純物からなる合金粉末又は混合粉末又は単体粉末である。
【0043】
乙粉末はXが総計で100重量%の合金粉末又は混合粉末又は単体粉末であって、Cuを含有しない粉末であってもよい。
【0044】
Xが総計で30.0重量%未満の場合は、甲粉末に対する乙粉末の配合比率が大きくなるため、甲粉末のCuマトリクス中に含まれるSi量が少なくなり、混合粉末におけるXの活量が十分に低下しないからCuマトリクス中のXの拡散速度が遅くなり、焼結が進行しない虞があるため好ましくない。
【0045】
乙粉末の製造方法は特に限定されないが、残部にCuを含む合金組成の場合は水アトマイズ法が好ましい。
【0046】
金属粉末の形状が不規則形状になるため、圧粉成形性に優れるからである。
【0047】
NiやCoの単体粉末や混合粉末の場合はいずれも工業的製法で大量生産される粉末を使用することが好ましい。
【0048】
純度が高く、また、安価であるからである。
【0049】
本発明における銅系混合粉末は、Siの含有量の総計が0.2重量%~6.0重量%、Xの含有量の総計が0.8重量%~40.0重量%になるように甲粉末と乙粉末を混合して製造することができる。
【0050】
銅系混合粉末が含有するSiが総計で0.2重量%未満であるとXの活量が十分に低下せず、Cuマトリクス中のXの拡散速度が遅くなり、焼結が進行しないため好ましくない。
【0051】
また、銅系混合粉末が含有するSiの上限値である6.0重量%は、甲粉末のSiの含有量の上限値が6.0重量%であり、甲粉末と乙粉末の混合粉末が甲粉末のSiの含有量の上限値を超えることはないからであるが、5.8重量%以下であってもよい。
【0052】
銅系混合粉末が含有するXの総計が0.8重量%未満であると、十分な強度や耐食性が得られない虞があるため好ましくない。
【0053】
また、40.0重量%を超えるとXに対するSiの割合が低下し、Xの活量が十分に低下せず、Xの拡散速度が遅くなり、焼結が進行しないため好ましくない。
【0054】
導電性と強度のバランスを特に重視するのであればXとSiの原子数比が2:1(以下「コルソン合金組成」と言う)になるように混合するのが好ましい。
【0055】
コルソン合金組成で混合する場合は、銅系混合粉末が含有するSiの総計が0.2重量%~3.0重量%が好ましく、また、Xの総計は0.8重量%~12.0重量%が好ましい。
【0056】
Siの総計が0.2重量%未満、Xの総計が0.8重量%未満であるとCuに固溶しているSi及びXが時効処理によって析出することができず、高導電性が得られない虞があるからである。
【0057】
また、Siの総計が3.0重量%、Xの総計が12.0重量%を超えるとCuへの固溶限を超えるため、粗大なX2Siが残存し、強度が著しく低下する虞があるからである。
【0058】
なお、本発明は、CuマトリクスにSiを導入することによりXの拡散速度を非常に向上させるというものであるため、導電性よりも強度や耐食性を重視する場合には、コルソン合金組成でなくてもよい。
【0059】
コルソン合金組成でない場合は、SiとXの原子数比は必ずしも2:1にする必要はなく焼結性を満足する範囲でXの比率を多くしてもよい。
【0060】
本発明における不可避不純物とは、意図的に添加しないが製造工程などで不可避的に混入する不純物のことである。
【0061】
本発明における不可避不純物の総計は0.1重量%以下である。
【0062】
甲粉末又は乙粉末にZn、Sn、Mg、Pを合金粉末又は混合粉末の形で含有させてもよい。
【0063】
Zn、Sn、Mg、Pを含有させることで焼結性と強度を向上させることができる。
【0064】
Zn、Sn、Mg、Pの含有量は総計で3.0重量%以下であることが好ましい。
【0065】
総計で3.0重量%を超えて含有するとCuマトリクス中への固溶量が増大し、導電性が低下する虞があるからである。
【0066】
また、ZnやMgは蒸気圧が高く、焼結時に蒸発して焼結炉を汚染する虞があるからである。
【0067】
本発明の銅系混合粉末の見掛密度は4.0g/cm3以下であり、粒度分布のうち70%以上が106μm以下であることが好ましい。
【0068】
焼結性及び圧粉成形性に資するからである。
【0069】
見掛密度が4.0g/cm3を超える、又は、106μm以下の粒子が70%未満の粒度分布であると焼結性が悪化し、圧粉成形が困難になる。
【0070】
見掛密度はJIS Z 2504規格の測定法で求めることができる。
【0071】
粒度分布は、JIS Z 2510規格に従い求めた粒度分布の値を元に、全体の中の106μm以下の粉末粒子の割合を算出することで求めることができる。
【0072】
本発明における銅系混合粉末は、圧粉密度6g/cm3~8g/cm3、抗折力8MPa以上の圧粉成形体を成形することができる。
【0073】
本発明における銅系混合粉末には潤滑剤を添加することができる。
【0074】
潤滑剤を添加すれば潤滑性が向上し、圧粉成形体を成形し易くなる。
【0075】
潤滑剤の添加量は0.1重量%~1.0重量%が好ましく、さらに好ましくは、0.2重量%~0.8重量%である。
【0076】
0.1重量%未満であると潤滑性の向上が不十分なため、圧粉成形時に金型からの抜出が困難になる虞があり、1.0重量%を超えて添加した場合は焼結性が低下するからである。
【0077】
また、1.0重量%を超えると焼結時に潤滑剤の蒸発量が多くなるので焼結炉を汚染する虞もある。
【0078】
本発明における潤滑剤は特に限定されるものではないが、ステアリン酸亜鉛等の金属セッケンやEBS系ワックスを好適に使用することができる。
【0079】
本発明の銅系混合粉末を焼結して製造したCu-X-Si系合金は、焼結後の降温速度を制御することで時効硬化が進み、強度と導電性を向上させることができる。
【0080】
さらに高い強度と導電性を求める場合は、時効処理によって調整することもできる。
【実施例0081】
本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0082】
各実施例及び比較例の銅系混合粉末の配合は表1及び表2で記載したとおりであるが、次に詳述する。
【0083】
実施例1、2の銅系混合粉末はコルソン合金組成(X:Si=2:1(原子数比))になるように甲粉末と乙粉末を混合した。
【0084】
甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-1.1Si、Cu-2.1Si(重量%)粉末と乙粉末としてNi単体粉末(ヴァーレ社製)を用いた。
【0085】
銅系混合粉末全体の組成としてCu-4.2Ni-1.1Si、Cu-7.6Ni-1.9Si(重量%)になるように混合し、焼結及び時効処理を行い、各焼結体を得た。
【0086】
実施例3の銅系混合粉末はコルソン合金組成になるように混合した。
【0087】
甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-0.6Si(重量%)粉末と乙粉末としてNi単体粉末を用いた。
【0088】
銅系混合粉末全体の組成としてCu-2.4Ni-0.6Si(重量%)になるように混合し、焼結及び時効処理を行い、焼結体を得た。
【0089】
実施例4は、甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-5.8Si(重量%)粉末と乙粉末としてNi単体粉末を用い、全体の組成としてCu-3.0Ni-5.6Si(重量%)になるように混合し、焼結を行い、焼結体を得た。
【0090】
実施例5の銅系混合粉末はコルソン合金組成になるように混合した。
【0091】
甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-2.1Si(重量%)粉末と乙粉末としてアトマイズ法により作製したCu-30.0Ni(重量%)粉末を用い、全体の組成としてCu-6.5Ni-1.6Si(重量%)になるように混合し、前記の焼結及び時効処理を行い、焼結体を得た。
【0092】
実施例6は、甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-0.6Si(重量%)粉末と乙粉末としてNi単体粉末を用い、全体の組成としてCu-10.0Ni-0.4Si(重量%)になるように混合し、焼結を行い、焼結体を得た。
【0093】
実施例7は、甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-2.1Si(重量%)粉末と乙粉末としてNi単体粉末を用い、全体の組成としてCu-35.0Ni-1.3Si(重量%)になるように混合し、焼結を行い、焼結体を得た。
【0094】
実施例8はコルソン合金組成になるように混合した。
【0095】
甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-0.6Si(重量%)粉末と乙粉末としてCo単体粉末(ユミコア社製)を用い、全体の組成としてCu-2.4Co-0.6Si(重量%)になるように混合し、焼結及び時効処理を行い、焼結体を得た。
【0096】
実施例9はコルソン合金組成になるように混合した。
【0097】
甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-1.1Si(重量%)粉末と乙粉末としてNi単体粉末とCo単体粉末からなる混合粉末を用い、全体の組成としてCu-3.2Ni-1.0Co-1.1Si(重量%)になるように混合し、焼結及び時効処理を行い、焼結体を得た。
【0098】
実施例10は、コルソン合金組成になるように混合した。
【0099】
甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-1.1Si(重量%)粉末と乙粉末としてアトマイズ法により作製したCu単体粉末とNi単体粉末からなる混合粉末を用い、全体の組成としてCu-4.0Ni-1.0Si(重量%)になるように混合し、焼結及び時効処理を行い、焼結体を得た。
【0100】
実施例11はコルソン合金組成になるように混合した。
【0101】
甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-0.6Si(重量%)粉末と乙粉末としてNi単体粉末を用い、さらにアトマイズ法により作製したSn単体粉末を3.0重量%添加して、全体の組成としてCu-2.3Ni-0.6Si-2.9Sn(重量%)になるように混合し、焼結及び時効処理を行い、焼結体を得た。
【0102】
実施例12はコルソン合金組成になるように混合した。
【0103】
甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-0.6Si(重量%)粉末と乙粉末としてNi単体粉末を用い、さらにアトマイズ法により作製したCu-8.0P(重量%)粉末を3.0重量%とZn単体粉末(東邦亜鉛社製)を1.0重量%添加して、全体の組成としてCu-2.3Ni-0.6Si-1.0Zn-0.2P(重量%)になるように混合し、焼結及び時効処理を行い、焼結体を得た。
【0104】
実施例13はコルソン合金組成になるように混合した。
【0105】
甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-0.6Si-0.2Mg(重量%)粉末と乙粉末としてNi単体粉末を用い、全体の組成としてCu-2.3Ni-0.6Si-0.2Mg(重量%)になるように混合し、焼結及び時効処理を行い、焼結体を得た。
【0106】
実施例14はコルソン合金組成になるように混合した。
【0107】
甲粉末としてアトマイズ法により作製した粗い粒度のCu-1.1Si(重量%)粉末と乙粉末としてNi単体粉末を用い、全体の組成としてCu-4.2Ni-1.1Si(重量%)になるように混合し、焼結及び時効処理を行い、焼結体を得た。
【0108】
比較例1は、コルソン合金組成になるように混合した。
【0109】
甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-0.1Si(重量%)粉末と乙粉末としてNi単体粉末を用い、全体の組成としてCu-0.4Ni-0.1Si(重量%)になるように混合し、焼結を行い、焼結体を得た。
【0110】
比較例2は、甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-10.0Si(重量%)粉末と乙粉末としてNi単体粉末を用い、全体の組成としてCu-10.0Ni-9.0Si(重量%)になるように混合し、焼結を行い、焼結体を得た。
【0111】
比較例3は、コルソン合金組成になるように混合した。
【0112】
甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-2.1Si(重量%)粉末と乙粉末としてアトマイズ法により作製したCu-20.0Ni(重量%)を用い、全体の組成としてCu-6.1Ni-1.5Si(重量%)になるように混合し、焼結を行い、焼結体を得た。
【0113】
比較例4は、甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-2.1Si(重量%)粉末と乙粉末としてNi単体粉末を用い、全体の組成としてCu-45.0Ni-1.2Si(重量%)になるように混合し、焼結を行い、焼結体を得た。
【0114】
比較例5は、コルソン合金組成になるように混合した。
【0115】
甲粉末としてアトマイズ法により作製したCu-0.6Si(重量%)粉末と乙粉末としてNi単体粉末を用い、さらにアトマイズ法により作製したSn単体粉末を3.0重量%とZn単体粉末を2.0重量%添加して、全体の組成としてCu-2.3Ni-0.6Si-2.9Sn-1.9Zn(重量%)になるように混合し、焼結及び時効処理を行い、焼結体を得た。
【0116】
比較例6、7は、コルソン合金組成になるように混合した。
【0117】
甲粉末としてアトマイズ法により作製した粗い粒度のCu-1.1Si(重量%)粉末と乙粉末としてNi単体粉末を用い、全体の組成としてCu-4.2Ni-1.1Si(重量%)になるように混合し、焼結を行い、焼結体を得た。
【0118】
(見掛密度)
各銅系混合粉末の見掛密度(AD)はJIS Z 2504規格の測定法に従い求めた。
【0119】
(粒度分布)
粒度分布はJIS Z 2510規格に従い求めた粒度分布の値を元に、全体のうちの106μm以下の粉末粒子の割合を算出して求めた。
【0120】
(焼結方法)
実施例及び比較例の各銅系混合粉末を内部がリング状の金型に充填し、圧粉密度が6.5g/cm3になるようにおおよそ外径14mm、内径7mm、高さ7mmからなる圧粉体を作製し、窒素雰囲気中、焼結温度1000℃・1時間で焼結を行った。
【0121】
時効処理を行う場合は水冷、時効処理を行わない場合は空冷することで各焼結体を得た。
【0122】
(焼結性)
焼結性は圧粉密度6.5g/cm3に対し、焼結密度7.2g/cm3以上(密度変化率10%以上)であれば良好と判断できる。
【0123】
良好な焼結性を示した焼結体の中で、X、Siの原子数比が2:1(コルソン合金組成)の焼結体に対し、電気伝導率と圧環強度を測定するために時効処理を行った。
【0124】
(時効処理)
時効処理は、窒素雰囲気中で2時間保持して熱処理を行い、空冷することで各焼結体を得た。
【0125】
時効温度はXがNiの場合は475℃、XがCoの場合は525℃に設定した。
【0126】
(導電率)
時効処理した焼結体の導電率(%IACS)はリング状と同等の圧粉密度になるようにおよそ30mm×12mm×5mmからなる圧粉体を作製し、リング状と同じ焼結条件、時効条件で得られた焼結体について渦流式導電率計SIGMA CHECK(ETHER NDE社製)で測定した値から真密度換算(=焼結体の密度/銅の密度)の導電率(%IACS)を求めた。
【0127】
(圧環強度)
時効処理した焼結体の強度の指標として圧環強度を求めた。圧環強度はJIS Z 2507規格に従って求めた。
【0128】
(結果)
実施例1の焼結体の時効処理前の導電性は21%IACSであり、圧環強度は300MPaであった。
【0129】
比較例3の時効処理前の導電性は13%IACSであり、圧環強度は150MPaであった。また、時効処理後の導電性は20%IACSであり、圧環強度は193MPaであった。
【0130】
その他の結果を表1及び表2に示す。
【0131】
【0132】
【0133】
表1に示した通り、本発明における銅系混合粉末によって製造した焼結体の焼結密度はいずれも7.2g/cm3以上となり、難焼結性を示すSiやNi及び/又はCoを含有する銅系混合粉末であっても、一般的な焼結方法によって十分な焼結性が得られることが証明された。
【0134】
また、焼結性が向上したことにより、コルソン合金組成で時効処理まで施した焼結体について、XがNiの場合は導電率は20.0%IACS~40.0%IACSの範囲であり、かつ、圧環強度も400MPa以上になり、一般的なコルソン合金の溶製材と同等の導電性と強度が得られることが証明された。
【0135】
また、XがCoの場合も同様に、溶製材と同等の導電性と強度が得られることが証明された。
本発明における銅系混合粉末は、難焼結性を示すSiやNi及び/又はCoを含有するが焼結性が高いため、従来の銅粉末や青銅粉末と同様に量産性の高い一般的な焼結方法で高い強度と高い導電性(熱伝導性)を備えたCu-X-Si系合金を製造することができる。
また、銅系混合粉末に含有させるSiやNi及び/又はCoの量や、焼結体を時効処理することによって、さらに高い強度や高い導電性(熱伝導性)を備えるCu-X-Si系合金に調整することができる。
よって、強度や排熱性が要求される軸受や摺動部品等の焼結部品に好適に使用できる粉末冶金用銅系混合粉末である。
したがって、本発明は産業上の利用可能性の高い発明である。