(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074464
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】抗菌性積層体、抗菌性包装袋、及び抗菌性積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20220511BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220511BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B32B27/18 F
B32B27/00 H
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184525
(22)【出願日】2020-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000162917
【氏名又は名称】興亜硝子株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591254958
【氏名又は名称】株式会社タイキ
(71)【出願人】
【識別番号】591230664
【氏名又は名称】丸東産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106404
【弁理士】
【氏名又は名称】江森 健二
(72)【発明者】
【氏名】小林 義直
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 宏冶
(72)【発明者】
【氏名】中村 興司
(72)【発明者】
【氏名】栗林 嘉光
(72)【発明者】
【氏名】山内 好史
(72)【発明者】
【氏名】牛島 清高
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA13
3E086BA14
3E086BA15
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3E086BB15
3E086BB41
3E086BB51
3E086BB71
3E086BB90
3E086CA01
3E086CA35
3E086CA40
4F100AB01B
4F100AB10B
4F100AB33B
4F100AD00B
4F100AG00A
4F100AK01A
4F100AK03A
4F100AK41B
4F100AK42B
4F100AK51C
4F100AK63A
4F100AT00B
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4F100BA03
4F100BA07
4F100CB00C
4F100DE01A
4F100DG10B
4F100GB16
4F100JB04
4F100JC00A
(57)【要約】 (修正有)
【課題】パラオキシ安息香酸エステル等の特定防腐剤等を配合しない場合であっても、所定の抗菌性を発揮する抗菌性積層体等を提供する。
【解決手段】少なくとも抗菌性樹脂層12及び基材16を、鉛直方向に沿って、下方から上方に向かって直接的又は間接的に積層されてなる抗菌性積層体10であって、抗菌性樹脂層12の厚さを1~500μmの範囲内の値とし、抗菌性樹脂層12が、樹脂中に、平均粒径が0.1~100μmの抗菌性ガラス粒子13を含有するとともに、抗菌性ガラス粒子13の界面周囲に、樹脂が存在しない空洞部13aを備える、抗菌性積層体10。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも抗菌性樹脂層及び基材を、鉛直方向に沿って、下方から上方に向かって直接的又は間接的に積層されてなる抗菌性積層体であって、
前記抗菌性樹脂層の厚さを1~500μmの範囲内の値とし、
当該抗菌性樹脂層が、樹脂中に、平均粒径が0.1~100μmの抗菌性ガラス粒子を含有するとともに、当該抗菌性ガラス粒子の界面周囲に、前記樹脂が存在しない空洞部を備えることを特徴とする抗菌性積層体。
【請求項2】
空洞部の大きさを0.1~10μmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性積層体。
【請求項3】
前記抗菌性樹脂層の前記樹脂が、オレフィン樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の抗菌性積層体。
【請求項4】
前記基材が、ポリエステル樹脂/金属積層体、ポリエステル樹脂/セラミック積層体、あるいは、ポリエステル樹脂/紙積層体の少なくとも一つの組み合わせであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の抗菌性積層体。
【請求項5】
前記抗菌性樹脂層と、前記基材との間に、前記抗菌性ガラス粒子を含有しない接着剤層、あるいは、前記抗菌性ガラス粒子の含有量が、前記抗菌性樹脂層の前記抗菌性ガラス粒子の含有量よりも少ない接着剤層を備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の抗菌性積層体。
【請求項6】
前記抗菌性樹脂層の表面における、JIS P 8147に準じて測定される滑り角を7~25°の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の抗菌性積層体。
【請求項7】
前記請求項1~6のいずれか一項に記載の抗菌性積層体の複数を積層、又は抗菌性積層体を折り曲げた状態で、それぞれ開口する周囲に沿って、前記抗菌性樹脂層を熱圧着することにより、内部に、所定収容部を有する、袋状に形成してあることを特徴とする抗菌性包装袋。
【請求項8】
少なくとも抗菌性樹脂層及び基材を、鉛直方向に沿って、下方から上方に向かって直接的又は間接的に積層されてなる抗菌性積層体の製造方法であって、
下記工程(a)~(c)を含むことを特徴とする抗菌性積層体の製造方法。
(a)樹脂中に、平均粒径が0.1~100μmの抗菌性ガラス粒子を混合し、かつ、インフレーション法において、引っ張り速度を1~30m/minとしてフィルム化することによって、前記抗菌性ガラス粒子の界面周囲に、前記樹脂が存在しない空洞部を備えた、厚さが1~500μmの範囲内の値である前記抗菌性樹脂層を形成する工程
(b)前記基材を準備する工程
(c)前記抗菌性樹脂層と、前記基材とを、直接的又は間接的に、積層し、抗菌性積層体とする工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、抗菌性積層体、抗菌性包装袋、及び抗菌性積層体の製造方法に関する。
特に、包装袋に収容する内容物に対する特定防腐剤等の使用を事実上排除した場合であっても、高い抗菌効果を発揮できる抗菌性積層体、それを用いた抗菌性包装袋、及び抗菌性積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧品やフェイスマスク、あるいは食品等の包装容器として、アルミニウム層を備えた樹脂フィルムの積層体からなる包装袋が広く普及している。
例えば、包装袋の内面に付着しやすく、外表面の形が崩れやすい被包装物であっても、包装前と同等の外観で袋外に取り出せる良好な包装袋を提供すべく、包装袋を構成するフィルムのこしに優れる包装袋が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
そして、それとともに、物品の包装に際し要求されるヒートシール性、耐ピンホール性、耐突き刺し性、酸素ガス、水蒸気等の透過を阻止するバリア性、流通保存性、耐熱性等が良好な包装袋が提案されている。
より具体的には、少なくとも基材フィルムの一方の面にヒートシール層を積層した積層材を製袋してなる袋状容器本体からなり、かつ、積層材全体のテーパー曲げこわさが、0.43g・cm~0.80g・cmである包装袋である。
【0003】
又、抗菌性が高く、且つ食品に対する安全性の高い抗菌フィルム及び包装袋が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
より具体的には、少なくとも、シーラント層と、シーラント層に接触して積層された支持層とを含み、シーラント層には、抗菌粒子が埋め込まれ、かつ、抗菌粒子の表面の一部が、シーラント層の、支持層と反対側の面から露出している坑菌フィルムであって、坑菌フィルムを、5cm×5cmに切り出し、50mLの純水に、25℃で24時間浸漬したときの、坑菌フィルムから、純水への、金属イオン抽出量が、0.05ppm/cm2以上、1.0ppm/cm2以下である坑菌フィルムである。
【0004】
又、ガスバリア性を有しつつ、透明性を維持することのできる抗菌性フィルムが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
より具体的には、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に無機物薄膜からなるガスバリア層を有し、かつ最外層に抗菌性樹脂層を備えることを特徴とするガスバリア性を有する抗菌性フィルムである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-143272号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2016-30406号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2001-26068号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された包装袋は、テーパー曲げこわさを制御して、内容物の出し入れを容易にするものであって、測定精度が極めて低く、再現性に乏しいという問題が見られた。
又、包装袋に収容する内容物に対する抗菌性については、何ら考慮しておらず、長期保存性が低く、細菌やカビが発生しやすいという問題が見られた。
【0007】
又、特許文献2に開示された多層フィルムは、抗菌粒子が埋め込まれたシーラント層を備えて、抗菌性を付与しているものの、ゼオライト系抗菌剤を使用しているため、金属イオン溶出量の調整が困難であり、長期的に抗菌性を付与できないという問題が見られた。
更に、かかる多層フィルムは、透明性の樹脂層により構成されるため、ガスバリア性や、防湿性が不十分なばかりか、包装袋とし、水分を含む内容物を収容した場合、水分が外部に飛散してしまい、長期間の保存ができなかった。
【0008】
又、特許文献3に記載された抗菌性フィルムは、無機物薄膜からなるガスバリア層を備えることでガスバリア性を付与しているが、有機系抗菌剤を用いているため、抗菌効果が限定的で、かつ、長期的に抗菌効果を発現できないという問題があった。
更に、抗菌性樹脂層が抗菌剤を埋め込まれたものであるため、被着体との間の接着力が乏しく、時間の経過とともに、剥離しやすいという問題も見られた。
【0009】
そこで、本願発明の発明者らは、鋭意検討した結果、抗菌性樹脂層や無機物層を含む所定層構造の抗菌性積層体とし、かつ、抗菌性樹脂層の厚さや、それに配合する抗菌性ガラス粒子の平均粒径を所定範囲に制限するとともに、当該抗菌性ガラス粒子の界面周囲に、樹脂成分(単に、樹脂と称する場合がある。)が存在しない空洞部を備えることによって、高い抗菌効果を長期間にわたって発揮できることを見出し、本願発明を完成させたものである。
すなわち、本願発明は、抗菌性積層体を熱圧着して、包装袋とした場合に、その内容物に対して特定防腐剤(パラオキシ安息香酸エステルやフェノキシエタノール等)を実質的に使用することなく、高い抗菌効果を長期間にわたって発揮し、かつ、層間で好適な接着力を維持しつつ、良好なヒートシール性や防湿性(防水性も含む。)を発揮する抗菌性積層体、それを用いた抗菌性包装袋、及び抗菌性積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、少なくとも抗菌性樹脂層及び基材を、鉛直方向に沿って、下方から上方に向かって直接的又は間接的に積層されてなる抗菌性積層体であって、抗菌性樹脂層の厚さを1~500μmの範囲内の値とし、当該抗菌性樹脂層が、樹脂中に、平均粒径が0.1~100μmの抗菌性ガラス粒子を含有するとともに、当該抗菌性ガラス粒子の界面周囲に、樹脂が存在しない空洞部を備えることを特徴とする抗菌性積層体である。
すなわち、抗菌性樹脂層の厚さや、それに配合する抗菌性ガラス粒子の平均粒径を所定範囲に制限するとともに、所定空洞部を備えることによって、特定防腐剤を実質的に使用することなく、高い抗菌効果を長期間にわたって発揮し、かつ、層間で好適な接着力を維持しつつ、良好なヒートシール性や防湿性を発揮することができる。
【0011】
本願発明を構成するにあたり、空洞部の大きさを0.1~10μmの範囲内の値とすることが好ましい。
このように、抗菌性ガラス粒子の界面と、樹脂の界面との間の平均距離(最短距離)を空洞部の大きさと定義し、かつ、その値を所定範囲に制限することによって、高い抗菌効果を早期かつ安定的にわたって発揮し、更には、層間で好適な接着力を維持しつつ、より良好なヒートシール性を発揮する抗菌性積層体を得ることができる。
【0012】
本願発明を構成するにあたり、抗菌性樹脂層の樹脂が、オレフィン樹脂であることが好ましい。
このような透明かつ熱可塑性樹脂を用いることによって、高い抗菌効果を早期かつ長期間にわたって発揮することができる。そして、層間で好適な接着力を維持しつつ、更に低温接合によっても良好なヒートシール性を発揮する抗菌性積層体を得ることができる。
【0013】
本願発明を構成するにあたり、基材が、ポリエステル樹脂/金属積層体、ポリエステル樹脂/セラミック積層体、あるいは、ポリエステル樹脂/紙積層体の少なくとも一つの組み合わせであることが好ましい。
このような複合基材を用いることによって、層間で好適な接着力を維持しつつ、更に良好な防湿性等を発揮することができる。
【0014】
本願発明を構成するにあたり、抗菌性樹脂層と、基材との間に、抗菌性ガラス粒子を含有しない接着剤層、あるいは、抗菌性ガラス粒子の含有量が、抗菌性樹脂層の抗菌性ガラス粒子の含有量よりも少ない接着剤層(第1の接着剤層と称する場合がある。)を備えることが好ましい。
このような接着剤層を備えることによって、抗菌性ガラス粒子の配合の影響を排除し、層間で好適な接着力を維持しつつ、更に良好なヒートシール性を発揮する抗菌性積層体を得ることができる。
【0015】
本願発明を構成するにあたり、抗菌性樹脂層の表面における、JIS P 8147に準じて測定される滑り角を7~25°の範囲内の値とすることが好ましい。
このような抗菌性樹脂層の表面における滑り角を制御することによって、袋状物としたような場合であっても、内容物を更に容易に出し入れすることができる。
【0016】
又、本願発明の別の態様は、上述したいずれかの抗菌性積層体の複数を積層、又は抗菌性積層体を折り曲げた状態で、それぞれ開口する周囲に沿って、抗菌性樹脂層を熱圧着することにより、内部に、所定収容部を有する、袋状に形成してあることを特徴とする抗菌性包装袋である。
このように抗菌性包装袋を構成することによって、収容部に投入する内容物につき、特定防腐剤を実質的に使用しない場合であっても、高い抗菌性を長期間にわたって発揮することができる。
【0017】
更に又、本願発明の別の態様は、少なくとも抗菌性樹脂層及び基材を、鉛直方向に沿って、下方から上方に向かって直接的又は間接的に積層されてなる抗菌性積層体の製造方法であって、下記工程(a)~(c)を含むことを特徴とする抗菌性積層体の製造方法である。
(a)抗菌性樹脂層を、樹脂中に、平均粒径が0.1~100μmの抗菌性ガラス粒子を混合し、かつ、インフレーション法において、引っ張り速度を1~30m/minとしてフィルム化することによって、抗菌性ガラス粒子の周囲に、樹脂が存在しない空洞部を備えた、厚さが1~500μmの範囲内の値である抗菌性樹脂層を形成する工程
(b)基材を準備する工程
(c)抗菌性樹脂層と、基材とを、直接的又は間接的に、積層し、抗菌性積層体とする工程
すなわち、抗菌性積層体として、抗菌性ガラス粒子を含有する抗菌性樹脂層を有することで、優れた抗菌性を発揮することから、包装袋とした場合に、その内容物に対する特定防腐剤の使用を実質的に不要として、安全性や経済性を高めた抗菌性積層体を製造することができる。又、ヒートシール面で所定の接着力を維持し、良好なヒートシール性や防湿性等を発揮する抗菌性積層体を効果的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(a)~(d)は、それぞれ本願発明の抗菌性積層体を説明するために供する断面図である。
【
図2】
図2(a)~(c)は、本願発明の抗菌性積層体に由来した抗菌性包装袋の内容物に対する、各種細菌や黴(カビ、黄色ブドウ球菌、大腸菌)への抗菌性を説明するために供する図である。
【
図3】
図3(a)は、抗菌性ガラス粒子を含まない場合の抗菌性積層体の参考の断面写真(倍率:1000倍)であり、
図3(b)~(c)は、抗菌性ガラス粒子を含む場合の抗菌性積層体の断面写真(倍率:1000倍)であり、
図3(d)は、抗菌性ガラス粒子の界面周囲における空洞部の大きさを説明するために供する図である。
【
図4】
図4は、抗菌性ガラス粒子の界面周囲における空洞部の大きさ(μm)に対する、フィルムの引っ張り速度(m/min)の影響を説明するために供する図である。
【
図5】
図5は、本願発明の抗菌性積層体の滑り角(°)と、内容物の取出し性との関係を説明するために供する図である。
【
図6】
図6は、本願発明の抗菌性積層体のヒートシール温度(℃)と、剥離強度(N/15mm)との関係を説明するために供する図である。
【
図7】
図7(a)~(c)は、本願発明の第1の実施形態である抗菌性積層体の使用例を説明するために供する図であり、
図7(d)は、本願発明の第2の実施形態である抗菌性包装袋の使用例を説明するために供する図である。
【
図8】
図8は、本願発明の抗菌性積層体の製造方法を説明するために供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、
図1(a)に例示されるように、少なくとも抗菌性樹脂層12及び基材16を、鉛直方向に沿って、下方から上方に向かって直接的又は間接的に積層されてなる抗菌性積層体10である。又、抗菌性樹脂層12の厚さを1~500μmの範囲内の値とし、当該抗菌性樹脂層12が、樹脂12a中に、平均粒径が0.1~100μmの抗菌性ガラス粒子13を含有するとともに、当該抗菌性ガラス粒子13の周囲に、樹脂12aが存在しない空洞部13aを備えることを特徴とする抗菌性積層体10である。
すなわち、このような抗菌性積層体の構成をとることによって、
図2(a)~(c)等に例示するように、それに由来した抗菌性包装袋は、内容物となる所定液体物等に対して、特定防腐剤を添加しない場合であっても、各種細菌やカビの発生を有効に防止することができる。
以下、第1の実施形態としての抗菌性積層体について、適宜、図面を参照して具体的に説明する。
【0020】
1.抗菌性樹脂層
図1(a)に示すように、抗菌性樹脂層12は、樹脂に対して、平均粒径が0.1~100μmの抗菌性ガラス粒子13を配合し、所定の空洞部を備えるように、混合分散させたものであって、抗菌性積層体10(単に、抗菌フィルムと称する場合もある。)の主要構成要素である。
このような構成とすることにより、抗菌性積層体として、良好な抗菌効果やシール性を得ることができ、しかも、抗菌性包装袋とした場合に、その内容物に対して、特定防腐剤を添加しない場合であっても、各種細菌やカビの発生を長期間にわたって防止することができる。
【0021】
(1)樹脂
抗菌性樹脂層を構成する樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、LLDPE樹脂、LDPE樹脂、及び無延伸ポリプロピレン樹脂の少なくとも1種のオレフィン樹脂を含有することが好ましい。
この理由は、このような構成とすることで、ヒートシール性を向上させるうえ、比較的安価なであることから、製造コストを抑えることができるためである。
【0022】
又、
図1(a)等に示す抗菌性樹脂層12における樹脂12aの融点(非晶質で融点を有しない場合には、ガラス転移点とする。)を60~180℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる融点が60℃未満となると、大気圧下、室温使用していても、剥離するおそれが生じたり、更には、抗菌性積層体10における耐衝撃性や引裂強度等の機械的特性を十分に確保できなかったりする場合があるためである。
一方、かかる融点が180℃を超えると、ヒートシール性が著しくて低下したり、成形性が低下したりする場合があるためである。
したがって、樹脂の融点を70~140℃の範囲内の値とすることがより好ましく、80~120℃の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0023】
(2)抗菌性ガラス粒子
(2)-1 基本構成
図1(a)に示すように、抗菌性樹脂層12は、抗菌成分として、所定の抗菌性ガラス粒子13を含むことを特徴とする。
この理由は、このような抗菌性ガラス粒子であれば、安全性が高く、抗菌作用が長期間持続し、かつ、耐熱性も高いことから、抗菌性積層体に含有させる抗菌剤としての適性に優れるためである。
更に、抗菌性樹脂層から露出する抗菌性ガラス粒子が、当該抗菌性ガラス粒子の角部等を利用して、抗菌性積層体の表面に突起を形成することができ、ひいては、ブロッキング性を向上させ、フィルム同士の付着を抑制することができるためである。
【0024】
図1(a)に示すような、抗菌性ガラス粒子13の種類としては、リン酸系抗菌性ガラス及び硼ケイ酸系抗菌性ガラス、あるいはいずれか一方とすることが好ましい。
この理由は、リン酸系抗菌性ガラスや硼ケイ酸系抗菌性ガラスであれば、周囲の水分を吸湿、吸水して溶解しながら抗菌成分を所定速度で放出するため、周辺の変色を防ぎつつ、銀イオン等の抗菌成分の溶出量や溶出速度を好適な範囲に調節することができるためである。
【0025】
(2)-2 ガラス組成1
又、抗菌性ガラス粒子をリン酸系抗菌性ガラスとする場合、ガラス組成としては、Ag2O、ZnO、CaO、B2O3及びP2O5を含み、かつ、全体量を100重量%としたときに、Ag2Oの配合量を0.2~5重量%の範囲内の値、ZnOの配合量を2~60重量%の範囲内の値、CaOの配合量を0.1~15重量%の範囲内の値、B2O3の配合量を0.1~15重量%の範囲内の値、及びP2O5の配合量を35~85重量%の範囲内の値とするとともに、ZnO/CaOの重量比率を1.1~15の範囲内の値とすることが好ましい。
【0026】
ここで、Ag2Oは、ガラス組成1における抗菌性イオン放出物質として必須構成成分であり、かかるAg2Oを含有することにより、ガラス成分が溶解した場合に、所定速度で銀イオンを徐々に溶出させることができ、優れた抗菌性を長期間発揮することができる。
【0027】
又、Ag2Oの配合量を0.2~5重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、Ag2Oの配合量が、0.2重量%以上の値であれば、十分な抗菌性を発揮することができるためである。
一方、Ag2Oの配合量が、5重量%以下であれば、抗菌性ガラス粒子が変色しにくくなり、又、コストが抑制できるため経済的に有利となるためである。
したがって、Ag2Oの配合量は0.5~4重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、0.8~3.5重量%の範囲内とすることが更に好ましい。
【0028】
又、P2O5は、ガラス組成1における必須構成成分であり、基本的に網目形成酸化物としての機能を果たすが、その他に、本願発明においては抗菌性ガラス粒子の透明性や銀イオンの均一な放出性にも関与する。
したがって、P2O5の配合量としては35~85重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるP2O5の配合量が35重量%以上であれば、抗菌性ガラス粒子の透明性が低下しにくく、かつ銀イオンの均一な放出性や物理的強度を確保しやすいためである。
一方、かかるP2O5の配合量が85重量%以下であれば、抗菌性ガラス粒子が黄変しにくく、又硬化性が良好となるため物理的強度を確保しやすいためである。
よって、P2O5の配合量は40~80重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、45~75重量%の範囲内とすることが更に好ましい。
【0029】
又、ZnOは、ガラス組成1における必須構成成分であり、抗菌性ガラス粒子における網目修飾酸化物としての機能を持ち、黄変を防止するとともに、抗菌性を向上させる機能をも有している。
したがって、ZnOの配合量としては、全体量に対して、2~60重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるZnOの配合量が2重量%以上の値であれば、黄変防止効果や、抗菌性の向上効果が発揮されやすいためであり、一方、かかるZnOの配合量が60重量%以下の値であれば、抗菌性ガラス粒子の透明性が低下しにくく、機械的強度を確保しやすいためである。
よって、ZnOの配合量を、5~50重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、10~40重量%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0030】
又、ZnOの配合量を、後述するCaOの配合量を考慮して定めることが好ましい。
具体的には、ZnO/CaOで表される重量比率を、1.1~15の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる重量比率が1.1以上の値であれば、抗菌性ガラス粒子の黄変を効率的に防止することができるためであり、一方、かかる重量比率が15以下であれば、抗菌性ガラス粒子が白濁又は黄変しにくいためである。
したがって、ZnO/CaOで表される重量比率を、2.0~12の範囲内の値とすることがより好ましく、3.0~10の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0031】
又、CaOは、ガラス組成1における必須構成成分であり、基本的に網目修飾酸化物としての機能を果たすとともに、抗菌性ガラス粒子を作成する際の、加熱温度を低下させたり、ZnOとともに、黄変防止機能を発揮したりすることができる。
したがって、CaOの配合量は、全体量に対して、0.1~15重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
より具体的には、かかるCaOの配合量が0.1重量%以上であれば黄変防止機能や溶融温度低下効果が発揮されやすいためであり、一方、かかるCaOの配合量が15重量%以下であれば、抗菌性ガラス粒子の透明性の低下を抑制しやすいためである。
よって、CaOの配合量を、1.0~12重量%の範囲内の値とすることが好ましく、3.0~10重量%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0032】
又、B2O3は、ガラス組成1における必須構成成分であり、基本的に網目形成酸化物としての機能を果たすが、その他に、本実施形態において、抗菌性ガラス粒子の透明性改善機能や銀イオンの均一な放出性にも関与する成分である。
したがって、B2O3の配合量としては、全体量に対して0.1~15重量%の範囲内の値とするのが好ましい。
より具体的には、かかるB2O3の配合量が0.1重量%以上であれば、抗菌性ガラス粒子の透明性が十分に確保でき、かつ銀イオンの均一な放出性や機械的強度を確保しやすいためである。
一方、かかるB2O3の配合量が15重量%以下であれば、抗菌性ガラス粒子の黄変を抑制しやすく、又硬化性が良好となり機械的強度を確保しやすいからである。
よって、B2O3の配合量としては、1~12重量%の範囲内の値とすることが好ましく、3~10重量%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
なお、ガラス組成1の任意構成成分として、CeO2、MgO、Na2O、Al2O3、K2O、SiO2、BaO等を、本願発明の目的の範囲内で、所定量添加することも好ましい。
【0033】
(2)-3 ガラス組成2
又、抗菌性ガラス粒子をリン酸系抗菌性ガラスとする場合、ガラス組成としては、ZnOを実質的に含まずに、Ag2O、CaO、B2O3及びP2O5を含み、かつ、全体量を100重量%としたときに、Ag2Oの配合量を0.2~5重量%の範囲内の値、CaOの配合量を15~50重量%の範囲内の値、B2O3の配合量を0.1~15重量%の範囲内の値、及びP2O5の配合量を30~85重量%の範囲内の値とするとともに、CaO/Ag2Oの重量比率を5~15の範囲内の値とすることが好ましい。
【0034】
ここで、Ag2Oに関しては、ガラス組成1と同様の内容とすることができる。
したがって、Ag2Oの配合量を、全体量に対して、0.2~5重量%の範囲内の値とすることが好ましく、0.5~4.0重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、0.8~3.5重量%の範囲内とすることが更に好ましい。
【0035】
又、抗菌性ガラス粒子にCaOを用いることにより、基本的に網目修飾酸化物としての機能を果たすとともに、抗菌性ガラス粒子を作成する際の、加熱温度を低下させたり、黄変防止機能を発揮させたりすることができる。
すなわち、CaOの配合量を全体量に対して、15~50重量%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるCaOの配合量が15重量%以上であれば、ZnOを実質的に含んでいなくても、黄変防止機能や溶融温度低下効果が発揮されるためであり、一方、かかるCaOの配合量が50重量%以下であれば、抗菌性ガラス粒子の透明性を十分に確保できるためである。
したがって、CaOの配合量を、18~40重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、20~30重量%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0036】
なお、CaOの配合量としては、Ag2Oの配合量を考慮して定めることが好ましく、具体的には、CaO/Ag2Oで表される重量比率を3~15の範囲内の値とすることが好ましい。
より具体的には、CaO/Ag2Oで表される重量比率を、5~12の範囲内の値とすることがより好ましく、6~10の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0037】
又、B2O3及びP2O5に関しては、ガラス組成1と同様の内容とすることができる。
更に、CeO2、MgO、Na2O、Al2O3、K2O、SiO2、BaO等の成分についても、ガラス組成1と同様に任意構成成分として、本願発明の目的の範囲内で所定量添加することも好ましい。
【0038】
(2)-4 ガラス組成3
又、抗菌性ガラス粒子を硼ケイ酸系ガラスとする場合、ガラス組成としては、B2O3、SiO2、Ag2O、アルカリ金属酸化物を含み、かつ、全体量を100重量%としたときに、B2O3の配合量を30~60重量%の範囲内の値、SiO2の配合量を30~60重量%の範囲内の値、Ag2Oの配合量を0.2~5重量%の範囲内の値、アルカリ金属酸化物の配合量を5~20重量%の範囲内の値、Al2O3の配合量を0.1~2重量%の範囲内の値及び、全体量が100重量%に満たない場合には、残余成分として、他のガラス成分(アルカリ土類金属酸化物、CeO2、CoO等)を0.1~33重量%の範囲内の値で含むことが好ましい。
【0039】
ここで、アルカリ性抗菌性ガラスの配合組成において、B2O3は、基本的に網目形成酸化物としての機能を果たすが、その他に、透明性改善機能や銀イオンの均一な放出性にも関与する。
又、SiO2は、ガラス組成3における網目形成酸化物としての機能を果たすとともに、黄変を防止する機能を有している。
更に、Ag2Oは、ガラス組成3における必須構成成分であり、ガラス成分が溶解して、銀イオンを溶出させることにより、優れた抗菌性を長期間発揮することができる。
【0040】
又、アルカリ金属酸化物、例えば、Na2OやK2Oは、基本的に網目修飾酸化物としての機能を果たす一方、抗菌性ガラス粒子の溶解特性の調整機能を発揮し、抗菌性ガラス粒子の耐水性を低減させて、抗菌性ガラス粒子からの銀イオン溶出量を調整することができる。
更に、アルカリ土類金属酸化物としては、例えば、MgOやCaOを添加することにより、網目修飾酸化物としての機能を果たせる一方、アルカリ金属酸化物と同様に、抗菌性ガラス粒子の透明性改善機能や、溶融温度の調整機能を発揮することができる。
その他、CeO2やAl2O3等を、別途添加することにより、電子線に対する変色性や透明性、あるいは機械的強度を向上させることもできる。
【0041】
(2)-5 含有量
又、抗菌性樹脂層における抗菌性ガラス粒子の含有量を、抗菌性樹脂層を100重量%とした場合に5重量%以下の値とすることが好ましい。
この理由は、抗菌性ガラス粒子の含有量をかかる範囲内の値とすることにより、樹脂の加水分解を効果的に抑制し、抗菌性ガラス粒子を樹脂中に均一に分散させ、優れた抗菌効果を得ることができるためである。
又、構成樹脂層の中心部に過剰な抗菌性ガラス粒子を含むことがなく、絶対量が十分であるため、抗菌性樹脂層に対し、十分な抗菌性を付与することができるためである。
したがって、より具体的には、抗菌性ガラス粒子の含有量を0.1~4.5重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、抗菌性ガラス粒子の含有量を0.5~4重量%の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0042】
ここで、
図2(a)~(c)を参照して、本願発明の抗菌性積層体で、試験片として、80mm×80mmの包装袋を作り、その中に、特定防腐剤(パラオキシ安息香酸エステルやフェノキシエタノール等)を配合していない5mmLの化粧水を充填して、抗菌性を評価した結果を説明する。
すなわち、横軸に、保存期間(日)を採って示してあり、縦軸に、クロコウジカビ(以降、単にカビと称する場合がある。)、黄色ブドウ球菌、大腸菌の各菌の数(cfu/g)を採って示してある。
又、特性曲線S1は、基材上に、厚さ30μmの接着剤層(LLDPE樹脂)と、厚さ30μmの抗菌性樹脂層(平均粒径1μmの抗菌性ガラスを1重量%添加したもの)を備えた試験片に対応している。
又、特性曲線S2は、基材上に、厚さ30μmの接着剤層(LLDPE樹脂)と、厚さ30μmの抗菌性樹脂層(平均粒径1μmの抗菌性ガラスを1.7重量%添加したもの)を備えた試験片に対応している。
更に、特性曲線S3は、基材上に、厚さ60μmの接着剤層(LLDPE樹脂)のみを備えた試験片に対応している。
【0043】
又、
図2(a)によれば、カビに対して、特性曲線S3の場合に、保存期間28日を経過しても、菌数が約5×10
4cfu/gであって、試験前の菌数である1×10
5cfu/gからほとんど減少していない。
一方、特性曲線S1の場合では、保存期間14日を経過したあたりで、菌数が徐々に減少し、保存期間28日経過時には、菌数が100cfu/g以下まで減少している。
又、特性曲線S2の場合では、保存試験開始直後から菌数が減少し、保存期間14日経過時には、菌数が10cfu/g以下まで減少している。
【0044】
又、
図2(b)によれば、黄色ブドウ球菌に対して、特性曲線S3の場合に、保存期間28日を経過しても、菌数が約9.5×10
4cfu/gであって、試験前の菌数である1×10
5cfu/gから、ほとんど減少していない。
一方、特性曲線S1、S2の場合では、保存試験開始から急激に菌数が減少しており、保存期間7日経過時には、菌数が10cfu/g以下まで減少し、更に保存期間28日経過時には、菌数が1cfu/gに満たない状態まで減少している。
【0045】
又、
図2(c)によれば、大腸菌に対して、特性曲線S3の場合に、保存期間28日を経過しても、菌数が約6×10
4cfu/gであって、試験前の菌数である1×10
5cfu/gから、ほとんど減少していない。
一方、特性曲線S1、S2の場合では、黄色ブドウ球菌と同様に、保存試験開始から急激に菌数が減少しており、保存期間28日経過時には、菌数が1cfu/gに満たない状態まで減少している。
【0046】
したがって、基材上に所定の抗菌性樹脂層を設けることにより、内容物に対して特定防腐剤等を実質的に使用しない場合であっても、良好な抗菌効果を、長期間にわたって発揮する抗菌性積層体を提供できることが理解できる。
又、抗菌性樹脂層における抗菌性ガラス粒子の含有量を、抗菌性樹脂層の全体量に対して、1重量%から、1.7重量%に増やすことにより、各種細菌やカビに対する抗菌性を、更に発揮できることが理解できる。
【0047】
(2)-6 溶出速度
又、抗菌性ガラス粒子からの抗菌性イオンの溶出速度を1×102~1×105mg/kg/24Hrの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる抗菌性イオンの溶出速度が1×102mg/kg/24Hr未満の値になると、抗菌性が著しく低下する場合があり、一方、かかる抗菌性イオンの溶出速度が1×105mg/kg/24Hrを超えると、長時間にわたって抗菌効果を発揮することが困難となる場合が生じるためである。
したがって、かかる抗菌性と透明性等とのバランスがより好ましい観点から、抗菌性ガラスからの抗菌性イオンの溶出速度を1×103~5×104mg/kg/24Hrの範囲内の値とすることがより好ましく、3×103~1×104mg/kg/24Hrの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0048】
なお、かかる抗菌性イオンの溶出速度は、下記測定条件にて測定することができる。
すなわち、抗菌性ガラス100gを、500mlの蒸留水(20℃)中に浸漬し、振とう機を用いて24時間振とうする。次いで、遠心分離器を用いてAgイオン溶出液を分離後、更に、ろ紙(5C)を用いてろ過し、測定試料とする。そして、測定試料中のAgイオンを、ICP発光分光分析法により測定し、それからAgイオン溶出量(mg/Kg/24Hr)を算出することができる。
【0049】
(2)-7 平均粒径
又、抗菌性ガラス粒子の平均粒径(体積平均粒径)を0.1~100μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、抗菌性ガラス粒子の平均粒径をかかる範囲内の値とすることにより、抗菌性ガラス粒子をより均一に分散させることができるためであり、抗菌性ガラス粒子を含んだ抗菌性樹脂層を、より安定的に形成できるためである。
【0050】
すなわち、抗菌性ガラス粒子の平均粒径が0.1μm以上であれば、樹脂中への混合分散が容易であり、抗菌性積層体全体に均等に抗菌性を発揮しやすいためである。
一方、抗菌性ガラス粒子の平均粒径が100μmを超えると、抗菌性樹脂層中に均一に分散されるため、抗菌性積層体の機械的強度を確保しやすいためである。
したがって、より具体的には、抗菌性ガラス粒子の体積平均粒径を0.5~50μmの範囲内の値とすることがより好ましく、1.0~20μmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
なお、抗菌性ガラス粒子の体積平均粒径(D50)は、レーザー方式のパーティクルカウンター(JIS Z 8852-1に準拠)や沈降式の粒度分布計を用いて得られる粒度分布や、あるいは、抗菌性ガラスのレーザー顕微鏡写真をもとに画像処理を実施して得られる粒度分布から算出することができる。
【0051】
(2)-8 空洞部
又、
図1(a)~(d)に示すように、抗菌性積層体(10、10´、10´´、10´´´)は、抗菌性ガラス粒子13の界面周囲に沿って、樹脂12aが存在しない空洞部13aが存在することを特徴とする。
具体的には、
図3(a)において、基材(厚さ12μmのPET/厚さ7μmのアルミニウム箔)に、厚さ60μmの接着剤層(LLDPE樹脂)のみを積層したフィルムのレーザー顕微鏡による断面写真(倍率:1000倍)を示す。
又、
図3(b)において、基材に、厚さ30μmの接着剤層(LLDPE樹脂100重量部)と、厚さ30μmの抗菌性樹脂層(LLDPE樹脂98.3重量部、抗菌性ガラス粒子1.7重量部)を積層したフィルムのレーザー顕微鏡による断面写真(倍率:1000倍)を示す。
更に、
図3(c)において、基材に、厚さ30μmの接着剤層(LLDPE樹脂100重量部)と、厚さ30μmの抗菌性樹脂層(LLDPE樹脂99重量部、抗菌性ガラス粒子1重量部)を積層したフィルムのレーザー顕微鏡による断面写真(倍率:1000倍)を示す。
したがって、
図3(a)~(c)及び
図3(d)の概略図によれば、抗菌性ガラス粒子13の界面周囲に沿って、樹脂12aが存在しない空洞部13aを形成できることが理解できる。
なお、
図3(c)において、抗菌性ガラス粒子の周囲の丸印は、抗菌性ガラス粒子の位置が明確になるように、一部付したものである。
【0052】
ここで、空洞部は、インフレーション法等により、抗菌性樹脂層のフィルムが成形される際に、樹脂が、抗菌性ガラス粒子と比較して、膨張してより引き延ばされるものの、抗菌性ガラス粒子はほとんど膨張しないために、抗菌性ガラス粒子と、樹脂との間の界面が離れて、そこに空洞部が形成されると考えられる。
又、抗菌性樹脂層にも、多数のナノレベル~マイクロレベルの気体透過孔があることが知られているが、かかる気体透過孔と、空洞部が相まって、内容物中の水分等が、空洞部を介して、迅速に拡散したり、透過したりすると考えられる。
よって、空洞部を介して、抗菌性ガラス粒子と、水分等の反応も迅速になって、逆に、所定量の抗菌成分をより早く溶出させると考えられる。
したがって、抗菌性樹脂層に空洞部が存在することによって、高い抗菌性を、迅速かつ、長期間にわたって発揮することができる。
【0053】
一方、抗菌性樹脂層において、ヒートシール効果を発揮させるためには、基材との接触面、特に、無機物層(アルミニウム層等)の表面を濡らして、親和させる必要がある。
そこで、抗菌性ガラス粒子の界面周囲に沿って、樹脂が存在しない空洞部が存在することによって、抗菌性ガラス粒子の周囲に存在する樹脂も容易に変形したり、融解したりして、基材との接触面、特に、無機物層の表面を濡らしやすくなると考えられる。
よって、抗菌性ガラス粒子の配合自体は、物理的に、ヒートシール効果を低下させる可能性もあるが、抗菌性ガラス粒子の界面周囲に沿って、空洞部が設けてあることにより、抗菌性樹脂層におけるヒートシール効果の更なる発現にも寄与していると考えられる。
なお、抗菌性ガラス粒子の含有量が多くなるほど、空洞部の数が多くなり、かつ、空洞部の大きさも大きくなる傾向があることから、肯定されるものと思料する。
【0054】
よって、空洞部の大きさを、抗菌性やヒートシール性を考慮して、0.1~10μmの範囲内の値とすることが好ましい。
すなわち、空洞部の大きさが、0.1μmよりも小さいと、空洞部の内部に水分が拡散侵入して、抗菌成分が十分に溶出しない場合があったり、ヒートシール性が著しく低下したりする場合がある。
一方、空洞部の大きさが10μmを超えると、逆に、ヒートシール性が著しく低下したり、あるいは、安定的に形成することが困難となったりする場合がある。
したがって、空洞部の大きさを0.5~5μmの範囲内の値とすることがより好ましく、1~3μmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0055】
なお、
図3(d)に示すように、空洞部の大きさは、厚さ方向に対する、抗菌性ガラス粒子の界面と、樹脂の界面との間の最短距離Lに対応するが、より具体的には、ランダムに選択した5つの抗菌性ガラス粒子における、かかる最短距離Lの平均値を空洞部の大きさと定義することができる。
したがって、かかる平均値を所定範囲内の値に制限することによって、高い抗菌性を迅速かつ長期にわたって発揮し、更には、層間で好適な接着力を維持しつつ、より良好なヒートシール性を発揮することができる。
【0056】
又、空洞部の大きさは、例えば、インフレーション装置における、フィルムの引っ張り速度、送り込む空気の圧力や温度、樹脂の温度や粘度を変えることで、適宜調整することができる。
この時、フィルムの引っ張り速度を速くする、送り込む空気の温度を高くする、送り込む空気の圧力を高くする、樹脂の温度を高くする、粘度を高くする、又は、これらの組み合わせによって、空洞部の大きさを大きくすることができる。
具体的には、フィルムの引っ張り速度を1~30m/minの範囲内で変えて、所定大きさの空洞部を有する抗菌性樹脂層を形成することが好ましい。
この理由は、フィルムの引っ張り速度を1m/min未満とすると、所定の大きさの空洞部が形成されず、高い抗菌性を、迅速かつ、長期間にわたって発揮することが困難になる場合があるためである。
一方、フィルムの引っ張り速度を、30m/minを超える値とすると、空洞部の大きさが過度に大きくなって、衝撃強度や引裂強度等の機械的特性を十分に確保することが、困難となったり、更にはガスバリア性等が著しく低下したりする場合があるためである。
すなわち、フィルムの引っ張り速度を3~25m/minの範囲内の値とすることがより好ましく、5~15m/minの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0057】
ここで、
図4に言及して、インフレーション装置における、フィルムの引っ張り速度(m/min)と、形成される空洞部の大きさ(μm)との関係を説明する。
すなわち、横軸に、インフレーション装置におけるフィルムの引っ張り速度(m/min)を採って示してあり、縦軸に形成された空洞部の大きさ(μm)を採って示してある。
又、
図4は、樹脂の温度を250℃、ダイスの径を300mm、送り込む空気の圧力を0.8MPa、送り込む空気の温度を23℃の条件で固定し、フィルムの引っ張り速度を変えた場合のグラフである。
かかる
図4中の特性曲線によれば、フィルムの引っ張り速度が高まるにつれて空洞部の大きさが大きくなっていることが理解できる。
したがって、同一の樹脂や抗菌性ガラス粒子を用いた場合であっても、例えば、インフレーション装置におけるフィルムの引っ張り速度(m/min)の調整によって、空洞部の大きさを所望範囲内の値とすることができる。
【0058】
又、送り込む空気の温度を5~50℃の範囲内で変えて、空洞部の大きさを調整することも好ましい。
この理由は、送り込む空気の温度を5℃未満とすると、フィルムが引き延ばされる前に硬化して所定の大きさの空洞部が形成されず、高い抗菌性を、迅速かつ、長期間にわたって発揮することが困難になる場合があるためである。
一方、送り込む空気の温度を、50℃を超える値とすると、フィルムの冷却が不十分となって、衝撃強度や引裂強度等の機械的特性を十分に確保することが、困難となったり、更にはガスバリア性等が著しく低下したりする場合があるためである。
すなわち、送り込む空気の温度を10~45℃の範囲内の値とすることがより好ましく、送り込む空気の温度を15~40℃の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0059】
(3)形態
(3)-1 厚さ
図1(a)等に示す抗菌性樹脂層12の厚さを、通常、1~500μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる厚さが1μm未満になると、抗菌性樹脂層における衝撃強度や引裂強度等の機械的特性を十分に確保することが、困難となったり、更にはガスバリア性等が著しく低下したりする場合があるためである。
一方、かかる厚さが500μmを超えると、抗菌性積層体全体としてのヒートシール性が低下したり、経時で剥離しやすくなったり、更には、内容物の出し入れが困難になったりする場合があるためである。
したがって、抗菌性樹脂層の厚さを、5~100μmの範囲内の値とすることがより好ましく、10~50μmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0060】
(3)-2 滑り角
又、
図1(a)等に示す、抗菌性樹脂層12の表面におけるJIS P 8147に準じて測定される滑り角を7~25°の範囲内の値とすることが好ましい。
これは、かかる抗菌性樹脂層の滑り角が7°未満になると、抗菌性積層体全体としてのヒートシール性が低下したり、経時で剥離しやすくなったりする場合があるためである。
一方、かかる抗菌性樹脂層の滑り角が25°を超える値になると、ブロッキング性が過度に高くなることで、包装袋とした際に、内容物の取り出し性が著しく低下する場合があるためである。
したがって、かかる抗菌性樹脂層の滑り角を8~20°の範囲内の値とすることがより好ましく、9~18°の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0061】
なお、JIS P 8147に準じて測定される、抗菌性積層体10の表面における滑り角は、下記測定条件にて測定することができる。
すなわち、抗菌性積層体を、幅80mm、長さ200mmにカットし、試験片とする。次いで、スリップテスター((株)安田精機製作所製)の傾斜角をゼロにした状態で、試験片をセットし、滑り角を計測することができる。
【0062】
ここで、
図5を参照して、抗菌性樹脂層の表面の滑り角(°)と、内容物の取出し性との関係を説明する。
すなわち、横軸に、抗菌性樹脂層の表面の滑り角(°)を採って示してあり、縦軸に、内容物の取出し性の評価の相対値(◎:5点、〇:3点、△:1点、×:0点)を採って示してある。
かかる
図5中の特性曲線によれば、滑り角が18°までは、非常に良好な取出し性を有している。又、滑り角が20°を過ぎたあたりで、緩やかに取出し性が低下するものの、滑り角が25°までは、過度に引っ掛かることなく、取り出すことができる。そして、滑り角が25°を超えると、急激に取出し性が悪化する傾向がある。
したがって、例えば、美容用フェイスマスク等の内容物の取り出し性を考慮した場合、抗菌性樹脂層の滑り角を7~25°の範囲内の値とすることがより好ましいと言える。
【0063】
2.接着剤層(第1の接着剤層)
図1(a)に示すように、本実施形態の抗菌性積層体10は、無機物層と、抗菌性樹脂層との間に、ヒートシール性を有する接着剤層(第1の接着剤層14)を備えることが好ましい。
すなわち、抗菌性樹脂層と、基材との間に、抗菌性ガラス粒子を含有しない接着剤層、あるいは、抗菌性ガラス粒子の含有量が、抗菌性樹脂層の抗菌性ガラス粒子の含有量よりも、相当少ない第1の接着剤層を備えることが好ましい。
この理由は、第1の接着剤層により、樹脂に対して、抗菌性ガラス粒子を含有することによる弊害を除去できるためである。又、第1の接着剤層により、フィルム全体におけるヒートシール性を向上させることができるためである。
一方、
図1(c)に示すように、抗菌性積層体10´´は、
図1(a)に示す抗菌性積層体10に対して、第1の接着剤層14を設けなかった場合の変形例であり、抗菌性樹脂層12と、基材16とを、直接、熱融着することで作成できる。
なお、第1の接着剤層を含めて、抗菌性積層体の抗菌性樹脂層と称する場合がある。すなわち、その場合、少なくとも抗菌性ガラス粒子を事実上含有しない接着剤層と、抗菌性ガラス粒子を所定量含有する抗菌性の接着剤層と、からなる複合層であっても、抗菌性積層体における抗菌性樹脂層と称する場合がある。
【0064】
(1)種類
第1の接着剤層の構成成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、LLDPE樹脂、LDPE樹脂、及び無延伸ポリプロピレン樹脂の少なくとも一種のオレフィン樹脂を含有することが好ましい。
この理由は、このような構成とすることで、耐衝撃性、耐熱性、ヒートシール性を向上させるうえ、比較的安価でかつ、融点が低いことから、製造コストを抑えることができるためである。
【0065】
(2)厚さ
第1の接着剤層の厚さを、通常、5~100μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる厚さが5μm未満になると、ヒートシール性が不十分となって、層間の接着性が低下し、剥離が発生したりする場合があるためである。
一方、かかる厚さが100μmを超えると、製造コストが肥大化し、経済性が低下したり、均一にヒートシールすることが困難となったりする場合があるためである。
したがって、第1の接着剤層の厚さを10~80μmの範囲内の値とすることがより好ましく、20~50μmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0066】
ここで、
図6に言及し、抗菌性積層体(基材としての厚さ12μmのPET/厚さ7μmのアルミニウム箔)におけるヒートシール温度(℃)と、剥離強度との関係を説明する。
すなわち、横軸に、ヒートシール温度(℃)を採り、縦軸に、JIS Z 0238:1998に準拠するヒートシール溶着剥離強度試験に基づいた剥離強度を採って示してある。
そして、特性曲線Aは、基材上に、厚さ30μmの接着剤層(LLDPE樹脂)と、厚さ30μmの抗菌性樹脂層(平均粒径1μmの抗菌性ガラスを1.7重量%添加したもの)を備えた態様に対応している。
又、特性曲線Bは、基材上に、厚さ60μmの接着剤層(LLDPE樹脂)のみを備えた態様に対応している。
かかる
図6の特性曲線A、Bの比較によれば、抗菌性樹脂層と基材との間に、第1の接着剤層を備えるとともに、150℃を超える温度でヒートシールを行うことで、接着剤層単体と変わらない剥離強度を発揮することが理解できる。
【0067】
3.基材
(1)基本構成
図1(a)に示すように、抗菌性積層体10は、基材16として、熱可塑性樹脂層16aと、無機物層16cと、を備え、鉛直方向における最上部に、熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂層16aを有することが好ましい。
このような構成とすることにより、抗菌性積層体としての、耐熱性、衝撃強度等の物性をより優れたものとできる。
【0068】
(2)熱可塑性樹脂層
熱可塑性樹脂層の構成成分としては、耐熱性、衝撃強度等の物性が好適であれば、特に限定されるものではなく、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、サーリン樹脂等の少なくとも一つが挙げられる。
【0069】
これらの中でも、ポリオレフィン樹脂に含まれる、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂や、ポリアミド樹脂に含まれるナイロン6、ナイロン66、あるいは、ポリエステル樹脂に含まれる、ポリエチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンナフタレート樹脂の少なくとも1種を構成成分とすることが好ましい。
この理由は、透明性に優れるため、
図1(d)に示す抗菌性積層体10´´´のように、熱可塑性樹脂層16aの内部表面側に印刷層18を設けた場合であっても、外部から印刷層18を視認することができるためである。又、耐熱性、実用強度にも優れるばかりか、経済的にも有利である。
【0070】
更に、ポリエチレンテレフタレート樹脂であれば、リサイクルが積極的に行われている現状からも明らかなように、他の樹脂材料と比較して再利用が容易であり、かつ、機械的強度、透明性、耐摩耗性、耐薬品性、製膜性、印刷性等が良好なことから好適である。
更に、ポリプロピレン樹脂であれば、相対的に安価であって、かつ、軽量性や透明性に優れていることから好適である。
【0071】
又、
図1(a)等に示す熱可塑性樹脂層16aを構成する樹脂の融点(非晶質で融点を有しない場合には、ガラス転移点とする。)を60~300℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、融点又はガラス転移点が60℃以上であれば、熱可塑性樹脂層における衝撃強度や引裂強度等の機械的特性を十分に確保できるためである。
又、融点又はガラス転移点が300℃以下の値であれば、樹脂自体の成形性を十分なものとすることができるだけでなく、2種以上の樹脂を用いる場合に、混合しやすくなるためである。
したがって、熱可塑性樹脂層を構成する樹脂の融点又はガラス転移点を65~280℃の範囲内の値とすることがより好ましく、70~250℃の範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0072】
又、かかる熱可塑性樹脂層の厚さを、通常、10~100μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、厚さが10μm未満になると、熱可塑性樹脂層における衝撃強度や引裂強度等の機械的特性を十分に確保することが、困難となったり、更にはガスバリア性等が著しく低下したりする場合があるためである。
一方、厚さが100μmを超えると、ヒートシール性が低下したり、経時で剥離しやすくなったり、更には、内容物の出し入れが困難になったりする場合があるためである。
したがって、熱可塑性樹脂層の厚さを、15~50μmの範囲内の値とすることがより好ましく、20~30μmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0073】
又、抗菌性積層体における、熱可塑性樹脂層の抗菌性樹脂層が積層される側の面に対して、コロナ処理やケイ酸火炎処理等を施すことにより、易接着層を形成することが好ましい。
この理由は、接着剤による、熱可塑性樹脂層と、無機物層との接着性を優れたものとし、抗菌性積層体全体としての接着性を向上させることができるためである。
【0074】
(3)接着剤層(第2の接着剤層)
図1(a)に示すように、抗菌性積層体10は、熱可塑性樹脂層16aと、無機物層16cとの間に、第2の接着剤層16bを基材の一部、又は基材とは別構成部材として設けることが好ましい。
この理由は、このような第2の接着剤層を設けることにより、抗菌性ガラスを含有することによって引き起こされる、ヒートシール性への弊害を低減できるためである。
すなわち、第2の接着剤層により、熱可塑性樹脂層と、無機物層との接着性を優れたものとし、抗菌性積層体全体としての接着性を向上させることができるためである。
又、第2の接着剤層により、抗菌性積層体としての全体構造が安定することで、好適な耐衝撃性、引き裂き強度等についても得ることができるためである。
【0075】
かかる第2の接着剤層を構成する樹脂については、特に制限されるものではないが、公知の熱硬化性のエポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、ゴム系樹脂等の少なくとも1種を用いることができる。
そして、これらの熱硬化性樹脂の接着剤の中でも、熱硬化性のエポキシ系樹脂及びウレタン系樹脂接着剤を用いるのがより好ましい。
この理由は、これらの熱硬化性の接着剤であれば、高い接着性、及び柔軟性を備えるため、ひいては、無機物層と、熱可塑性樹脂層と、の間の剥離を好適に抑制することができるためである。
【0076】
又、第2の接着剤層の厚さとしては、適度な接着性を保持できる範囲であれば特に限定されるものではないが、通常、0.5~30μmの範囲内の値であることが好ましい。
この理由は、かかる厚さが0.5μm未満になると、層間の接着性が低下し、剥離が発生する場合があるためである。
一方、かかる厚さが30μmを超えると、製造コストが肥大化し、経済性が低下したり、抗菌性積層体から抗菌性包装袋を形成した場合に、過度に厚くなったりする場合があるためである。
したがって、第2の接着剤層の厚さを1~20μmの範囲内の値とすることがより好ましく、3~10μmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0077】
(4)無機物層
図1(a)に示すように、基材16において、第2の接着剤層16bを介して、鉛直方向に沿って、熱可塑性樹脂層16aの上に、無機物層16cを設けることが好ましい。
この理由は、このような無機物層を設けることにより、優れた遮光性や水蒸気バリア性を発揮することができるためでる。
又、かかる無機物層が、金属等の導電性材料から構成されていれば、電磁波シールド、帯電防止部材、あるいは、導通可能な回路基板として構成できるためである。
【0078】
このような無機物層の構成成分としては、ガスバリア性や耐湿性、更には、用途に応じて導電性や非導電性等に優れたものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、金属、金属酸化物、及びセラミックなどが好ましい。
より具体的には、アルミニウム、銅、銀、ハンダ、タングステン、ニッケル、酸化アルミニウム、酸化タングステン、酸化ニッケル、窒化ケイ素、及び酸化ケイ素、からなる群から選択される少なくとも一種を含有することが好ましい。
この理由は、このような金属や金属酸化物、あるいはセラミック酸化物を用いることにより、包装袋とした場合に、特定防腐剤等を実質的に使用することなく、内容物の長期保存性を良好なものとすることができるためである。又、所定の抗菌性や電磁波シールド性、導電性等を発揮することができるためである。
【0079】
又、無機物層の構成成分として、用途によっては、上述した金属等に、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、チタン、ジルコニウム、ルテニウム、ハフニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム、カーボン等からなる金属や半導体材料を、微量配合してなる材料も好適である。
更に、ポリエチレンテレフタレートやナイロン等のプラスチックフィルムに対して、酸化アルミニウムや酸化ケイ素等の金属酸化物を、0.03~0.20μmの厚さで蒸着したものを無機物層とすることも好ましい。
この理由は、このような構成であれば、高い透明性を有するとともに、高いガスバリア性を発揮できるためである。
【0080】
したがって、これらの無機物の中でも、酸化アルミニウム、アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素のうち少なくとも1種を含有することがより好ましい。
この理由は、これらの無機物であれば、ガスバリア性や耐湿性に優れるうえ、比較的安価であるため、製造コストを抑えることができるためである。
この中でも、アルミニウムであれば、高い水蒸気バリア性を有する上、廃棄処理時に有毒ガス等を発生させず、良好な導電性や電磁波シールド性を発揮できる。
又、アルミニウムであれば、遮光性や耐ピンホール性についても好適であり、抗菌性積層体の物性をより良好なものとすることができる。
【0081】
又、無機物層の厚さを、通常、1~25μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる厚さが1μm未満となると、無機物層におけるガスバリア性や、耐湿性等の物性を十分に確保することが困難となったり、抗菌性積層体の機械的強度が過度に低下したりする場合があるためである。
一方、厚さが25μmを超えると、隣接する層との間で剥離しやすくなったり、取り扱い性が低下したり、製造コストが増大化したりする場合があるためである。
したがって、無機物層の厚さを、3~20μmの範囲内の値とすることがより好ましく、5~15μmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
【0082】
(5)接着剤層(第3の接着剤層)
又、
図1(b)に示す抗菌性積層体10´のように、第1の接着剤層14と、基材16との間に、第1の接着剤層14とは異なる接着剤成分から構成された第3の接着剤層15を設けることが好ましい。
この理由は、このような第3の接着剤層を設けることにより、第1の接着剤層と、基材との接着性をより優れたものとし、抗菌性積層体全体としての接着性を向上させることができるためである。
加えて、第3の接着剤層により、層間での密着性が向上して、ガスバリア性や耐湿性を向上させることができるためである。
なお、第3の接着剤層は、特に図示しないものの、第1の接着剤層が設けられない抗菌性積層体の場合に、抗菌性樹脂層と、基材との間に直接的に設けられることも好ましい。
【0083】
又、第3の接着剤層を構成する樹脂については、第2の接着剤層と同一、又は、異なる種類の樹脂を用いることができ、公知の熱硬化性のエポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、ゴム系樹脂等の少なくとも1種を用いることが好ましい。
そして、これらの熱硬化性樹脂の接着剤の中でも、熱硬化性のエポキシ系樹脂及びウレタン系樹脂接着剤を用いるのがより好ましい。
この理由は、これらの熱硬化性の接着剤であれば、高い接着性、及び柔軟性を備えるため、ひいては、無機物層と、熱可塑性樹脂層と、の間の剥離を好適に抑制することができるためである。
【0084】
更に、第3の接着剤層の厚さとしては、通常、0.5~30μmの範囲内の値であることが好ましい。
この理由は、かかる厚さが0.5μm未満になると、層間の接着性が低下し、剥離が発生する場合があるためである。
一方、かかる厚さが30μmを超えると、製造コストが肥大化し、経済性が低下したり、抗菌性積層体から抗菌性包装袋を形成した場合に、過度に厚くなったりする場合があるためである。
したがって、第2の接着剤層の厚さを1~20μmの範囲内の値とすることがより好ましく、3~10μmの範囲内の値とすることが更に好ましい。
なお、抗菌性積層体10´において、第2の接着剤層と第3の接着剤層は、同じ構成で積層されていてもよく、異なる構成で積層されていてもよい。
【0085】
4.印刷層
本実施形態の抗菌性積層体に対し、文字、図形、絵柄等の所望の絵柄を印刷する場合、
図1(d)に示すように、熱可塑性樹脂層16aの、フィルム内部側表面に、印刷層18を成形することが好ましい。
このように構成することで、印刷された文字、図形、記号等の、剥離の発生を抑制することができる。
なお、印刷層の形成に際しては、スクリーン印刷法やグラビア印刷法と公知の印刷方法を採用することができる。
【0086】
5.用途
(1)主用途
本実施形態の抗菌性積層体の用途としては、特に限定されるものではないが、広く内容物の包装用途が挙げられるが、例えば、化粧品、衛生用具、食品、繊維、雑貨等の包装用途が好適である。
すなわち、洗顔布等の化粧品用包装袋、及びマスク等の衛生用具用包装袋としての用途が特に好ましい。
【0087】
(2)他の用途
又、本実施形態の抗菌性積層体を、段ボールやプラスチック容器と組み合わせて、所定の抗菌性や電磁波シールド性を発揮する包装容器として、電気製品用包装容器、半導体製品用包装容器、生鮮食料品用容器等にも適用可能である。
具体的には、使用例としては、
図7(a)に示すように、抗菌性積層体11aを、段ボール箱11bの底面に貼り付けて使用する場合である。かかる抗菌性積層体を貼り付けた段ボールであれば、内部に食材などを収容する際に、収容物を改めてビニール製の袋等で包まなくても、良好な保存状態で保持することができる。
又、別の使用例としては、
図7(b)に示すように、抗菌性積層体11cを、プラスチック製のボトル11dの側面に貼り付けて使用する場合である。かかる抗菌性積層体11cを貼り付けたボトル11dであれば、使用者が素手で握った場合であっても細菌が増殖することを効果的に防ぐことができる。
又、更に別の使用例としては、
図7(c)に示すように、抗菌性積層体11eを、金属、プラスチック、木製等の文房具11fの表面に貼り付けて使用する場合である。かかる抗菌性積層体であれば、後工程において抗菌性を付与することが容易にできる。
【0088】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態の抗菌性積層体の複数を積層、又は抗菌性積層体を折り曲げた状態で、それぞれ開口する周囲に沿って、抗菌性樹脂層を熱圧着することにより、内部に、所定収容部を有する、袋状に形成してあることを特徴とする抗菌性包装袋である。
【0089】
1.抗菌性積層体
第1の抗菌性積層体及び第2の抗菌性積層体としては、第1の実施形態で述べた内容と同様とすることできるため、再度の説明は省略するものとする。
【0090】
2.抗菌性包装袋の使用例
抗菌性積層体を用いてなる抗菌性包装袋の形態は特に制限されるものではないが、例えば、
図7(d)に示すように、3辺に、ヒートシール部分22aを有する抗菌性包装袋20である。かかる抗菌性包装袋20のヒートシールしていない1辺から、不織布マスク等の内容物24を収容し、その後、開口部をヒートシールする。そうすれば、特定防腐剤(パラオキシ安息香酸エステルやフェノキシエタノール)等を排除し、実質的に配合しなくとも、良好な保存状態を保持することができる。
又、特に図示しないものの、抗菌性積層体を二つ折りにして、折り目に連なる2辺をヒートシールした場合や、後述のインフレーション法において、チューブの一端を切り開かずに、片方の開口部をヒートシールしたような場合も、抗菌性包装袋を形成できる。
なお、本実施形態における、抗菌性積層体の製造方法は特に制限されるものではなく、例えば
図8に示すインフレーション法や、ドライラミネート法、共押出法等の従来公知の方法にて製造できる。
特に、
図8に示すインフレーション法であれば、フィルムの厚さや空洞部の大きさ等の制御が比較的容易であり、所定の抗菌性積層体を安定的に製造できる。
【0091】
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、少なくとも抗菌性樹脂層及び基材を、鉛直方向に沿って、下方から上方に向かって直接的又は間接的に積層されてなる抗菌性積層体の製造方法であって、下記工程(a)~(c)を含むことを特徴とする抗菌性積層体の製造方法である。
(a)抗菌性樹脂層を、樹脂中に、平均粒径が0.1~100μmの抗菌性ガラス粒子を混合し、かつ、インフレーション法において、引っ張り速度を1~30mとしてフィルム化することによって、抗菌性ガラス粒子の界面周囲に沿って、樹脂が存在しない空洞部を備えた、厚さが1~500μmの範囲内の値である抗菌性樹脂層を形成する工程
(b)基材を準備する工程
(c)抗菌性樹脂層と、基材とを、直接的又は間接的に、積層し、抗菌性積層体とする工程
すなわち、抗菌性積層体として、抗菌性ガラス粒子を含有する抗菌性樹脂層を有することにより、優れた抗菌性を発揮することから、特定防腐剤の使用を実質的に排除することができ、安全性を高めることができる。
又、抗菌性樹脂層及び基材を利用することにより、層間で好適な接着力を維持しつつ、良好なヒートシール性や防湿性等を発揮することができる。
【0092】
1.工程(a)
工程(a)は、所定平均粒径を有する抗菌性ガラス粒子を、樹脂と混合し、かつ、
図8に示すように、所定方法でフィルム化することによって、抗菌性ガラス粒子の界面周囲に、樹脂が存在しない空洞部を備えた、所定厚さの抗菌性樹脂層を形成する工程である。
ここで、抗菌性ガラス粒子としては、第1の実施形態と同様のガラス組成を用いることができ、リン酸系抗菌性ガラス及び硼ケイ酸系ガラス、あるいはいずれか一方とすることが好ましい。
又、樹脂としては、第1の実施形態と同様の樹脂を用いることができ、例えば、LLDPE樹脂、LDPE樹脂、及び無延伸ポリプロピレン樹脂の少なくとも1種のオレフィン樹脂を含有することが好ましい。
【0093】
又、インフレーション法の一例として、抗菌性樹脂層12と、第1の接着剤層14の2層の積層フィルムを成形する工程について、
図8を参照して具体的に説明する。
(1)インフレーション装置52の押し出し機53aにおいて、抗菌性ガラス粒子13と、加熱溶融させた樹脂12aとを混合し、混合した材料を、ホッパー54aから投入して、リングダイス55へと移送する。
又、同時に、押し出し機53bにおいて、加熱溶融させた樹脂のみを、ホッパー54bから投入して、リングダイス55へと移送する。
(2)リングダイス55に、同心円状に設けられた複数のリップ(55a、55b)から、それぞれの樹脂をチューブ状に押し出すとともに、リングダイス55の中央に設置された空気孔から圧搾空気を吹き込んで、膨張区間52aにおいて、チューブを2~3倍に膨張させる。
(3)膨張したチューブを、空冷や水冷等の方法により冷却するとともに、案内部材56bによってピンチロール56へ誘導し、チューブを平坦化させる。
(4)冷却したチューブ状のフィルムの端部を切り開くとともに、テンションローラー58を介して、巻取ロール62によって巻き取る。
この時、フィルムの引っ張り速度、送り込む空気の圧力や温度、樹脂の温度や粘度等を調整することで、空洞部の大きさを調整できる。
又、ダイスの径及び送り込む空気の圧力等を調整することでフィルムの幅を調整でき、樹脂の突出量と、巻取ロールによるフィルムの引っ張り速度等を調整することで、フィルムの厚みを調整できる。
【0094】
2.工程(b)
工程(b)は、所定基材を準備する工程である。
かかる所定基材としては、第1の実施形態で述べたように、PETフィルム等の樹脂フィルムが典型的であるが、そのほか、紙、セラミック(ガラス)、木材、複合紙等を用いることができる。
【0095】
3.工程(c)
工程(c)は、
図8(c)に示すように、抗菌性樹脂層と、所定基材とを、直接的又は間接的に、積層し、抗菌性積層体とする工程である。
又、積層方法としては、ウエットラミネート法、ドライラミネート法、ホットメルトラミネート法などの従来の一般的な積層方法を用いることができる。
【0096】
4.他の工程
(1)印刷工程
印刷工程を設けて、抗菌性積層体に対し、文字、図形、絵柄等の所望の絵柄を印刷する場合、熱可塑性樹脂層の、フィルム内部側表面に、印刷層(装飾層)を成形することが好ましい。
あるいは、所定基材の表面に対して、文字、図形、絵柄等の所望の絵柄を印刷し、情報性や装飾性を付与することも好ましい。
更には、印刷工程の一部として、所定基材の表面、あるいは、抗菌性樹脂層を含む各層の表面に、エンボス処理を施すことも好ましい。
【0097】
(2)検査工程
又、検査工程を設けて、得られる抗菌性積層体に対し、下記に例示する各種検査を実施し、所定基準を満足することを確認することが好ましい。
1)外観検査
2)抗菌性検査
3)水蒸気透過性検査
4)シール性検査(熱圧着によるシール強度測定も含む。)
5)導電性検査
6)電磁波シールド性検査
7)内容物の保存性検査(防腐性検査)
8)使用性評価(滑り角測定も含む。)
【実施例0098】
以下、本願発明につき、実施例を用いて、更に詳細に説明する。
ただし、本願発明の権利範囲は、特に理由なく、下記の実施例の記載に限定されるものではない。
【0099】
[実施例1]
1.抗菌性積層体の作製
(1)第1の積層体の形成工程
層構成として、熱可塑性樹脂層(PET)/第2の接着剤層/アルミニウム箔を含む第1の積層体を作成した。
より具体的には、熱可塑性樹脂層としてPETフィルム、第2の接着剤層を構成する樹脂としてウレタン系樹脂接着剤(イソシアネート硬化型、以下同様である)、無機物層としてのアルミニウム箔を準備し、それらを積層した。
すなわち、厚さ15μmのPETフィルムに対し、ウレタン系樹脂接着剤の厚さが5μmとなるように塗布し、ドライラミネート法を用いて、厚さ10μmのアルミニウム箔を積層し、第1の積層体とした。
なお、得られたアルミニウム箔の表面における、JIS P 8147に準じて測定される滑り角は18°であった。
【0100】
(2)第2の積層体の形成工程
抗菌性ガラスの全体量を100重量%としたときに、P2O5の含有量を70重量%、B2O3の含有量を5重量%、CaOの含有量を20重量%、MgOの含有量を2重量%、Ag2Oの含有量が3重量%とした所定のガラス原料を、アルミナ磁器らい潰機を用いて、ルツボ内で均一に混合した。
次いで、ガラス溶融炉を用いて、1100℃、1時間の条件でガラス原料を加熱し、溶融ガラスを作成した。その後、ガラス溶融炉から取り出した溶融ガラスを水中に流し込むことにより大まかに水砕した。
それから、更に乳鉢を用いて粗粉砕(平均粒径:約100μm)した後、顕微鏡で確認しながら振動ボールミルを用いて微粉砕し(平均粒径:約5μm)、抗菌性ガラス粒子(平均粒径:約1.7μm)とした。
更に、得られた抗菌性ガラス粒子1.7重量部と、LLDPE樹脂98.3重量部と、を混合して抗菌性ガラス粒子を含む樹脂を準備した。
又、LLDPE樹脂100重量部を別に準備し、抗菌性ガラス粒子を含まない樹脂を準備した。
そして、インフレーション法おいて、 樹脂の温度を250℃、ダイスの径を300mm、送り込む空気の圧力を0.8MPa、送り込む空気の温度を23℃、フィルムの引っ張り速度を10m/minの条件下で成形及び貼り合わせを行った。
それにより、厚さ20μmの抗菌性樹脂層と、厚さ20μmの第1の接着剤層を貼り合わせた、厚さ40μmの第2の積層体を形成した。
【0101】
(3)圧着工程
第1の積層体における、基材としての無機物層の面に対して、第3の接着剤層としてウレタン系樹脂接着剤(イソシアネート硬化型)を5μm塗布した。その後、第3の接着剤層と、第2の積層体における、第1の接着剤層とを対向させた状態とし、所定圧着条件、例えば、150℃、30秒、0.5MPaで熱圧着し、抗菌性積層体を得た。
【0102】
2.抗菌性包装袋の作成
抗菌性積層体としての第1抗菌性積層体と、第2の抗菌性積層体とを準備し、第1の抗菌性積層体と、第2の抗菌性積層体とを、対向する状態に重ね合わせ、周縁部に沿って、開口部を残すようヒートシールすることで抗菌性包装袋(縦120mm、横145mm)を得た。
【0103】
3.抗菌性包装袋の評価
(1)空隙性評価
得られた抗菌性包装袋につき、抗菌性樹脂層の厚さ方向の断面が視認できるように、10cm×10cmの正方形に切断した。
次いで、切断した断面をレーザー顕微鏡により写真観察し、抗菌性樹脂層における抗菌性ガラスの界面周囲に形成された空隙(樹脂が存在しない空洞部)のうち、ランダムに選んだ5箇所について、空洞部の大きさを測定した。
そして、5箇所の空洞部の大きさの平均値として、下記基準に沿って、空隙性を評価した。なお、実施例1において、測定された空洞部の大きさは、約1.5μmであった。
◎:空洞部の大きさが1~3μmの範囲内の値である。
〇:空洞部の大きさが0.5~5μmの範囲内の値である。
△:空洞部の大きさが0.1~10μmの範囲内の値である。
×:空洞部の大きさが0.1μm未満、又は、10μmを超える値である。
【0104】
(2)抗菌性評価
得られた抗菌性包装袋内に、試験用の不織布マスク(コットン製、目付:50g/m2)を挿入したのち、イオン交換水を充填させ、湿度95%、25℃の環境下で、恒温槽に28日間保存し、抗菌性1(防腐性)を評価した。
◎:28日以前、あるいは、それが経過しても、カビ発生が確認できなかった。
〇:21日以降に、カビ発生が確認された。
△:14日以降に、カビ発生が確認された。
×:14日以前に、カビ発生が確認された。
【0105】
(3)抗菌性(2、3)評価
抗菌性包装袋内に、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus IFO#12732)の懸濁液5ml及び大腸菌(Escherichia coli ATCC#8739)の懸濁液5mlをそれぞれ充填し、測定サンプルとした。
次いで、測定サンプルを、湿度95%、温度25℃の条件で、28日間、恒温槽に載置し、試験前の菌数(発育集落)と試験後の菌数(発育集落)とをそれぞれ測定し、以下の基準で抗菌性2(黄色ブドウ球菌)と、抗菌性3(大腸菌)とを評価した。
なお、試験前の菌数(発育集落)は、黄色ブドウ球菌が1.3×105(cfu/g)、大腸菌が1.4×105(cfu/g)であった。それぞれ得られた結果を表1に示す。
◎:試験後の菌数が、試験前の菌数の1/10000未満である。
〇:試験後の菌数が、試験前の菌数の1/10000以上~1/1000未満である。
△:試験後の菌数が、試験前の菌数の1/1000以上~1/100未満である。
×:試験後の菌数が、試験前の菌数の1/100以上である。
【0106】
(4)滑り角評価
得られた抗菌性包装袋の内面である、抗菌性樹脂層表面の滑り角を、JIS P 8147に準じて測定し、下記基準に沿って評価した。
◎:滑り角が18°以下の値である。
〇:滑り角が20°以下の値である。
△:滑り角が25°以下の値である。
×:滑り角が25°を超える値である。
【0107】
(5)使用性(取出し性)評価
抗菌性包装袋内に、試験用の不織布マスク(コットン製、目付:50g/m2)を、湿潤した状態で、内容物として挿入したのち、内容物の取り出しやすさを、使用性として評価した。得られた結果を表1に示す。
◎:非常にスムーズに内容物を取り出すことができた。
〇:ほぼ引っ掛かりなく、内容物を取り出すことができた。
△:やや引っ掛かりつつも、内容物を取り出すことができた。
×:引っ掛かりが強く、スムーズに内容物を取り出すことはできなかった。
【0108】
[実施例2]
実施例2では、実施例1の第2の積層体の形成工程で、抗菌性樹脂層を形成する際に、抗菌性ガラス粒子の平均粒径を3μmとするとともに、インフレーション法における、フィルムの引っ張り速度を25m/minとし、送り込む空気の圧力の条件を1MPaにして、空洞部の大きさを4μmとしたほかは、実施例1と同様に抗菌性包装袋を作製し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0109】
[実施例3]
実施例3では、実施例1の第2の積層体の形成工程で、抗菌性樹脂層を形成する際に、抗菌性ガラス粒子の平均粒径を5μmとするとともに、インフレーション法における、フィルムの引っ張り速度を20m/minとし、送り込む空気の温度を30℃にして、空洞部の大きさを3μmとしたほかは、実施例1と同様に抗菌性包装袋を作製し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0110】
[実施例4]
実施例4では、実施例1の第2の積層体の形成工程で、抗菌性樹脂層を形成する際に、抗菌性ガラス粒子の平均粒径を0.5μmとするとともに、インフレーション法における、フィルムの引っ張り速度を5m/minとし、送り込む空気の温度を10℃にして、空洞部の大きさを0.5μmとしたほかは、実施例1と同様に抗菌性包装袋を作製し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0111】
[実施例5]
実施例5では、実施例1の第2の積層体の形成工程で、抗菌性樹脂層を形成する際に、抗菌性ガラス粒子の配合量を1.0重量部とし、LLDPE樹脂の配合量を99.0重量部とし、抗菌性樹脂層の厚さを40μmとしたほかは、実施例1と同様に抗菌性包装袋を作製し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0112】
[実施例6]
実施例6では、実施例1の第2の積層体の形成工程で、抗菌性樹脂層を形成する際に、厚さを40μmとするとともに、インフレーション法における、フィルムの引っ張り速度を30m/minとし、送り込む空気の温度を30℃にして、空洞部の大きさを5μmとしたほかは、実施例1と同様に抗菌性包装袋を作製し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0113】
[実施例7]
実施例7では、実施例1の第2の積層体の形成工程で、抗菌性樹脂層を形成する際に、抗菌性ガラス粒子の平均粒径を3μmとし、圧着工程で、第3の接着剤層を設けなかったほかは、実施例1と同様に抗菌性包装袋を作製し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0114】
[実施例8]
実施例8では、実施例1の第2の積層体の形成工程で、抗菌性樹脂層を形成する際に、抗菌性ガラス粒子の配合量を3.0重量部とし、LLDPE樹脂の配合量を97.0重量部とし、圧着工程で、第3の接着剤層を設けなかったほかは、実施例1と同様に抗菌性包装袋を作製し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0115】
[比較例1]
比較例1では、実施例1の第2の積層体の形成工程で、抗菌性樹脂層を形成する際に、抗菌性ガラス粒子の配合量を0.5重量部とし、LLDPE樹脂の配合量を99.5重量部とし、抗菌性ガラス粒子の平均粒径を0.5μmとし、かつ、抗菌性樹脂層の厚さを5μmとするとともに、インフレーション法における、フィルムの引っ張り速度を0.5m/minとし、送り込む空気の圧力を0.4MPaにして、空洞部を形成しなかったほかは、実施例1と同様に抗菌性包装袋を作製し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0116】
[比較例2]
比較例2では、実施例1の第2の積層体の形成工程で、抗菌性樹脂層を形成する際に、厚さを150μmとし、抗菌性ガラス粒子の平均粒径を120μmとするとともに、インフレーション法における、フィルムの引っ張り速度を30m/minとし、送り込む空気の圧力を1.2MPaとし、送り込む空気の温度を40℃にして、空洞部の大きさを10μmとしたほかは、実施例1と同様に抗菌性包装袋を作製し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0117】
[比較例3]
比較例3では、実施例1の第2の積層体の形成工程で、抗菌性樹脂層を形成する際に、厚さを600μmとしたほかは、実施例1と同様に抗菌性包装袋を作製し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
*空隙性評価(所定大きさ)
*抗菌性評価1(防腐性)
*抗菌性評価2(黄色ブドウ球菌)
*抗菌性評価3(大腸菌)
*滑り角
*使用性評価(取り出し性)
本願発明の抗菌性積層体やそれを用いてなる抗菌性包装袋によれば、抗菌性ガラス粒子の界面周囲に、所定の大きさの空洞部を備えることによって、特定防腐剤等を実質的に使用しない場合であっても、所定の抗菌性を初期から長期間にわたって発揮し、しかも、良好なヒートシール性が得られるようになった。
又、本願発明の抗菌性積層体の製造方法によれば、インフレーション法等を含むことによって、所定の空洞部を安定的に形成することができ、抗菌性を初期から長期間にわたって発揮し、しかも、良好なヒートシール性を発揮する抗菌性積層体を効率的に製造できるようになった。
更に、本願発明の抗菌性樹脂層の一部として、所定位置に、第1の接着剤層を設けることによって、良好なヒートシール性が得られることはもちろん、抗菌性樹脂層における抗菌性ガラス粒子の含有量を比較的少なくしても、良好な抗菌性を有することから、生産コストが安くなり、経済的にも有利となった。
よって、本願発明の抗菌性積層体等は、各種用途に広く使用することができるが、特に、内容物の挿入や取り出しが頻繁に行われる化粧品用途、医療品用途、食料品用途、半導体用途、電子部品用途等において、好適に使用されることが期待できる。