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  • 特開-玉軸受用保持器及び玉軸受 図1
  • 特開-玉軸受用保持器及び玉軸受 図2
  • 特開-玉軸受用保持器及び玉軸受 図3
  • 特開-玉軸受用保持器及び玉軸受 図4
  • 特開-玉軸受用保持器及び玉軸受 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074470
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】玉軸受用保持器及び玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20220511BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184546
(22)【出願日】2020-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪口 雅
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701EA36
3J701EA37
3J701FA31
3J701GA24
(57)【要約】
【課題】高速回転時に発生する遠心力に起因する摩耗や発熱を抑制することが可能な樹脂製の玉軸受用保持器、及びこの保持器を用いた玉軸受を提供する。
【解決手段】円環状に形成された円環部51と、円環部51から軸方向に突出した複数の突部52とを有し、複数の突部52のうち円環部51の周方向に隣り合う一対の突部52の間の空間が球状の玉4を保持するポケット50とされた樹脂製の保持器5において、一対の突部52のうち一方の突部52と他方の突部52とが、円環部51の径方向における異なる位置で玉4を支持する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状に形成された円環部と、前記円環部から軸方向に突出した複数の突部とを有し、前記複数の突部のうち前記円環部の周方向に隣り合う一対の突部の間の空間が球状の玉を保持するポケットとされた樹脂製の玉軸受用保持器であって、
前記一対の突部のうち一方の突部と他方の突部とが、前記円環部の径方向における異なる位置で前記玉を支持する、
玉軸受用保持器。
【請求項2】
前記一方の突部は、複数の前記ポケットにそれぞれ保持される前記玉のピッチ円よりも径方向外側で前記玉を支持し、
前記他方の突部は、前記ピッチ円よりも径方向内側で前記玉を支持する、
請求項1に記載の玉軸受用保持器。
【請求項3】
前記複数の突部は、前記ピッチ円よりも径方向外側に配置された複数の外側突部と、前記ピッチ円よりも径方向内側に配置された複数の内側突部とからなり、前記複数の外側突部と前記複数の内側突部とが周方向に交互に配置されており、
前記複数の外側突部のそれぞれの周方向両端面ならびに前記複数の内側突部のそれぞれの周方向両端面が、前記ポケットの内面として形成されている、
請求項2に記載の玉軸受用保持器。
【請求項4】
内周に外側軌道面を有する外輪と、外周に前記外側軌道面と径方向に対向する内側軌道面を有する内輪と、前記外側軌道面と前記内側軌道面との間に配置された複数の玉と、前記複数の玉を保持する保持器とを備え、
前記保持器が請求項1乃至3の何れか1項に記載された玉軸受用保持器である、
玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受用保持器及び玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば電動自動車や所謂ハイブリッド車の駆動源として用いられる電動モータのモータシャフトを支持する軸受には、樹脂製の保持器に保持された複数の球状の玉が転動体として用いられた玉軸受が広く使用されている。近年では、自動車の駆動用の電動モータの回転速度が従来にも増して高速化する傾向にあり、高速回転時に発生する遠心力による保持器の変形によって保持器の一部が玉に押し付けられ、当該押し付けられる部分において摩耗や発熱が生じてしまうことが懸念されている。なお、この課題については、非特許文献1に詳述されている。特許文献1,2には、高速回転時に発生する遠心力を受けても保持器が大きく変形しないよう、金属製の補強部材によって保持器の強度を高めることが記載されている。
【0003】
特許文献1に記載された冠型保持器は、円環状の主部と、主部の周方向に沿って所定の間隔で軸方向に突出する複数の弾性片とが樹脂により一体成型され、主部の軸方向端面に金属板からなるリング状の補強部材が接着剤によって固着されている。
【0004】
特許文献2に記載された冠型保持器は、円環状の主部と、主部の周方向に沿って所定の間隔で軸方向に突出する複数の爪部とが樹脂により一体成型され、隣り合う一対の爪部の間の凹部が玉を保持するポケットとなっており、このポケットの内面に沿うように延びるC字形状の金属製補強部材が爪部内に埋設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-117609号公報
【特許文献2】特開2019-168019号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“EV対応で怒涛の軸受高速化、発熱少ない保持器で大手が三者三様”、[online]、日経クロステック、[令和2年10月7日検索]、インターネット<URL:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/04505/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2に記載された冠型保持器では、金属製の補強部材を用いるため、保持器の重量が増大すると共に製造コストも増大してしまう。そこで、本発明は、金属製の補強部材を用いなくとも、高速回転時に発生する遠心力に起因する摩耗や発熱を抑制することが可能な樹脂製の玉軸受用保持器、及びこの保持器を用いた玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するため、円環状に形成された円環部と、前記円環部から軸方向に突出した複数の突部とを有し、前記複数の突部のうち前記円環部の周方向に隣り合う一対の突部の間の空間が球状の玉を保持するポケットとされた樹脂製の玉軸受用保持器であって、前記一対の突部のうち一方の突部と他方の突部とが、前記円環部の径方向における異なる位置で前記玉を支持する、玉軸受用保持器を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る玉軸受用保持器及び玉軸受によれば、高速回転時に発生する遠心力に起因する摩耗や発熱を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る玉軸受を示し、(a)は軸方向一方側から見た全体図であり、(b)は(a)のA-A線断面図である。
図2】実施の形態に係る保持器を示す斜視図である。
図3】実施の形態に係る保持器に保持された一つの玉の周辺部における玉軸受の径方向断面であり、(a)は内輪が非回転であるときの状態を、(b)は内輪が回転して保持器に遠心力が作用したときの状態を、それぞれ示す。
図4】比較例に係る保持器を示す斜視図である。
図5】比較例に係る保持器に保持された一つの玉の周辺部における玉軸受の径方向断面であり、(a)は内輪が非回転であるときの状態を、(b)は内輪が回転して保持器に遠心力が作用したときの状態を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図1乃至図3を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る玉軸受を示し、(a)は軸方向一方側から見た全体図であり、(b)は(a)のA-A線断面図である。この玉軸受1は、例えば電動自動車やハイブリッド車において駆動源として用いられる電動モータのモータシャフトを支持するために用いられる。
【0013】
玉軸受1は、内周に外側軌道面2aを有する外輪2と、外周に外側軌道面2aと径方向に対向する内側軌道面3aを有する内輪3と、外側軌道面2aと内側軌道面3aとの間に配置された転動体である複数の玉4と、複数の玉4を保持する樹脂製の保持器5とを備えている。外輪2と内輪3との間には、グリース等の潤滑材(不図示)が供給され、この潤滑材によって各部材間の摩耗や発熱が抑制される。
【0014】
外輪2、内輪3、及び玉4は、軸受鋼等の鋼材からなる。外輪2は、例えば電動モータのハウジングに固定され、内輪3には電動モータのモータシャフトが挿通される。玉4は球状であり、外輪2に対して内輪3が回転軸線Oを中心として回転すると、複数の玉4が外側軌道面2a及び内側軌道面3aを転動する。外側軌道面2a及び内側軌道面3aは、図1(b)に示す断面において円弧状に形成されている。以下、回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。
【0015】
保持器5は、その全体が合成樹脂材料からなり、射出成型により一体成型されている。この合成樹脂材料としては、例えば66ナイロンあるいは46ナイロン、もしくはポリアミド樹脂やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等を用いることができる。また、保持器5は、複数の玉4をそれぞれ転動可能に保持する複数のポケット50が形成され、外輪2と内輪3との間に配置されている。次に、図2及び図3を参照し、保持器5の構成について詳細に説明する。
【0016】
図2は、保持器5を示す斜視図である。図3は、複数の玉4のうち一つの玉4の周辺部における玉軸受1の径方向断面であり、(a)は内輪3が非回転であるときの状態を、(b)は内輪3が回転して保持器5に遠心力が作用したときの状態を、それぞれ示す。図3(a)及び(b)に示す断面は、複数の玉4の中心点Cを含んで軸方向に直交する断面である。また、図3(a)及び(b)では、複数の玉4のピッチ円PCを二点鎖線で示している。ピッチ円PCは、複数の玉4のそれぞれの中心点を連結してできる仮想円である。
【0017】
保持器5は、円環状に形成された円環部51と、円環部51から軸方向に突出した複数の突部52とを一体に有する樹脂製の冠型保持器であり、複数の突部52のうち円環部51の周方向に隣り合う一対の突部52の間の空間が玉4を保持するポケット50となっている。本実施の形態では、保持器5が10個の突部52を有しており、これらの突部52の間に10個のポケット50が周方向等間隔に設けられている。
【0018】
複数の突部52は、複数の外側突部53と複数の内側突部54とからなる。すなわち、突部52は、外側突部53及び内側突部54の総称である。本実施の形態では、5個の外側突部53と、同じく5個の内側突部54とが、円環部51の周方向に沿って交互に設けられている。複数の外側突部53は、ピッチ円PCよりも径方向外側に配置され、複数の内側突部54は、ピッチ円PCよりも径方向内側に配置されている。
【0019】
複数の外側突部53のそれぞれの周方向両端面53aならびに複数の内側突部54のそれぞれの周方向両端面54aは、ポケット50の内面として形成されている。複数の玉4は、それぞれ外側突部53の周方向端面53aと内側突部54の周方向端面54aとの間に配置されている。外側突部53の周方向端面53a及び内側突部54の周方向端面54aは、玉4の表面に沿うように湾曲した凹曲面である。
【0020】
また、外側突部53は、円環部51に連続して設けられた外側胴部531と、外側胴部531の周方向両端部から軸方向に突出して設けられた一対の外側爪部532とを有している。一対の外側爪部532は、外側胴部531における円環部51とは反対側の軸方向端面531aから軸方向に突出している。同様に、内側突部54は、円環部51に連続して設けられた内側胴部541と、内側胴部541の周方向両端部から軸方向に突出して設けられた一対の内側爪部542とを有している。一対の内側爪部542は、内側胴部541における円環部51とは反対側の軸方向端面541aから軸方向に突出している。
【0021】
軸方向における外側胴部531の長さ(ポケット50の軸方向最奥部50aと軸方向端面531aとの間の軸方向の距離)は、玉4の半径よりも長く形成されている。また、軸方向における内側胴部541の長さ(ポケット50の軸方向最奥部50aと軸方向端面541aとの間の軸方向の距離)は、玉4の半径よりも長く形成されている。外側爪部532及び内側爪部542は、玉4の表面に沿うように突出し、ポケット50からの玉4の離脱を抑止している。
【0022】
図3(a)及び(b)に示すように、ポケット50を形成する一対の突部52である外側突部53及び内側突部54は、円環部51の径方向における異なる位置で玉4を支持する。より具体的には、外側突部53がピッチ円PCよりも径方向外側で玉4を支持し、内側突部54がピッチ円PCよりも径方向内側で玉4を支持する。また、外側突部53は、ピッチ円PCよりも径方向内側では玉4を支持せず、内側突部54は、ピッチ円PCよりも径方向外側では玉4を支持しない。
【0023】
図3(a)に示すように、保持器5に遠心力が作用せず、保持器5が外輪2及び内輪3と同軸上に配置され、かつ玉4の中心点Cがポケット50の中心位置と一致したとき、外側突部53の周方向端面53aと玉4との間、及び内側突部54の周方向端面54aと玉4との間には、それぞれ僅かな隙間が形成される。外側突部53の周方向端面53aは、ピッチ円PCよりも径方向外側で玉4の表面と向かい合い、内側突部534の周方向端面54aは、ピッチ円PCよりも径方向内側で玉4の表面と向かい合う。
【0024】
一方、内輪3が図3(b)に示す矢印D方向に回転し、保持器5に遠心力が作用して保持器5が拡径すると、内側突部54の周方向端面54aにおける径方向内側の角部54bが玉4に接触する。これにより、玉4が保持器5に対して相対的に外側突部53側に向かうように押されるが、外側突部53は遠心力を受けて径方向外方に変位するので、外側突部53と内側突部54との間に玉4が挟み込まれることなく、玉4が円滑に回転する。また、角部54bが玉4に接触しても、玉4が外側突部53側に逃げるので、角部54bが玉4に強く押し付けられることがなく、角部54bの摩耗や発熱が抑制される。
【0025】
[比較例]
次に、比較例に係る保持器6について、図4及び図5を参照して説明する。図4は、保持器6を示す斜視図である。図5は、保持器6に保持された玉4の一つを外輪2及び内輪3と共に示す断面図であり、(a)は内輪3が非回転であるときの状態を、(b)は内輪3が回転して保持器6に遠心力が作用したときの状態を、それぞれ示す。
【0026】
保持器6は、樹脂製の冠型保持器であり、円環状に形成された円環部61と、円環部61から軸方向に突出した複数の突部62とを一体に有している。それぞれの突部62は、円環部61に連続して設けられた胴部621と、胴部621の周方向両端部から軸方向に突出して設けられた一対の爪部622とを有している。一対の爪部622は、胴部621における軸方向端面621aから軸方向に突出している。
【0027】
複数の突部62のうち円環部61の周方向に隣り合う一対の突部62の間の空間は、複数の玉4をそれぞれ保持する複数のポケット60となっている。複数の突部62のそれぞれの周方向両端面62aは、ポケット60の内面であると共に、玉4の表面に沿うように湾曲した凹曲面である。図5(a)及び(b)に示す断面では、突部62の周方向端面62aが円弧状である。
【0028】
図5(a)に示すように、保持器6に遠心力が作用せず、保持器6が外輪2及び内輪3と同軸上に配置され、かつ玉4の中心点Cがポケット60の中心位置と一致したとき、突部62の周方向端面62aと玉4との間には僅かな隙間が形成される。一方、内輪3が図5(b)に示す矢印D方向に回転し、保持器6に遠心力が作用して拡径すると、ポケット60を挟む一対の突部62のそれぞれの周方向端面62aにおける径方向内側の角部62bが玉4に接触する。これにより、角部62bが遠心力によって玉4に押し付けられるので、玉4の回転によって角部62bに摩耗や発熱が生じてしまう。
【0029】
(実施の形態の効果)
実施の形態に係る保持器5を用いた玉軸受1では、比較例に係る保持器6を用いた場合に比較して、遠心力が作用したときに発生する玉4との間で発生する摩耗や発熱が抑制される。これにより、例えば玉軸受1が電動自動車やハイブリッド車の駆動源としての電動モータのモータシャフトを支持するために用いられ、内輪3がモータシャフトと共に外輪2に対して高速で回転した場合でも、保持器5の耐久性を確保できると共に、玉4を円滑に回転させることができるので、回転抵抗による動力損失を抑制することが可能となる。
【0030】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、この実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
1…玉軸受 2…外輪
3…内輪 4…玉
5…保持器 50…ポケット
51…円環部 52…突部
53…外側突部 53a…周方向端面
54…内側突部 54a…周方向端面
54b…角部 PC…ピッチ円
図1
図2
図3
図4
図5