(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074480
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】スカンジウムの抽出剤及び分離抽出方法
(51)【国際特許分類】
C22B 59/00 20060101AFI20220511BHJP
C22B 9/10 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C22B59/00
C22B9/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184559
(22)【出願日】2020-11-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載日 令和2年11月4日,「第39回溶媒抽出討論会プログラム」 http://www.solventextraction.gr.jp/symposium/06program.html
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(71)【出願人】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構
(74)【代理人】
【識別番号】100189854
【弁理士】
【氏名又は名称】有馬 明美
(72)【発明者】
【氏名】馬場 由成
(72)【発明者】
【氏名】金丸 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】菅本 和寛
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA39
4K001BA19
4K001DB26
(57)【要約】
【課題】希土類金属又は鉄が含まれる溶液から、クラッドと呼ばれる介在物などの生成や不純物の抽出が行われることなく、簡便な処理工程にてスカンジウムを効率よく低コストで分離抽出することができる抽出剤及び分離抽出方法を提供すること。
【解決手段】希土類金属又は鉄が含まれる溶液からスカンジウムを選択的に分離抽出する抽出剤であって、前記抽出剤は、少なくともヒドロキシル基を有する化合物及びトリアルキルホスフィンオキシド化合物を混合して調製された深共晶溶媒である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類金属又は鉄が含まれる溶液からスカンジウムを選択的に分離抽出する抽出剤であって、
前記抽出剤は、少なくともヒドロキシル基を有する化合物及びトリアルキルホスフィンオキシド化合物(式I)を混合して調製された深共晶溶媒であることを特徴とするスカンジウムの抽出剤。
(式I)
【化1】
(式中、R
1,R
2,R
3は、C1~C20のアルキル基を示す。)
【請求項2】
前記抽出剤を高分子膜に包含させたこと特徴とする請求項1記載のスカンジウムの抽出剤。
【請求項3】
前記トリアルキルホスフィンオキシド化合物がトリ-n-オクチルホスフィンオキシド(式II)であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスカンジウムの抽出剤。
(式II)
【化2】
【請求項4】
前記ヒドロキシル基を有する化合物がN-ラウロイルサルコシン(式III)であることを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載のスカンジウムの抽出剤。
(式III)
【化3】
【請求項5】
前記希土類金属がイットリウムであることを特徴とする請求項1ないし請求項4に記載のスカンジウムの抽出剤。
【請求項6】
希土類金属又は鉄が含まれる溶液からスカンジウムを選択的に分離抽出する抽出方法であって、
少なくともヒドロキシル基を有する化合物及びトリアルキルホスフィンオキシド化合物を混合して調製した深共晶溶媒を用いることを特徴とするスカンジウムの分離抽出方法。
【請求項7】
前記分離抽出方法は、前記深共晶溶媒又は前記深共晶溶媒を高分子膜に包含させた抽出剤包含高分子膜を用い、前記溶液のpHを1.5以下とすること特徴とする請求項6に記載のスカンジウムの分離抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の抽出剤を混合して調製される深共晶溶媒を用いたスカンジウムの抽出剤及び分離抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素は、15のランタノイド、スカンジウム(Sc)及びイットリウム(Y)を含む17の元素で構成されており、これらを適用することが多くの分野で高い関心を集めている。その中でも、スカンジウムは、微量添加することによって金属材料や半導体材料の機能や物性を飛躍的に高めることができるため、構造材、電子材料、磁性材料及び機能性材料等に利用され、様々な工業製品において非常に重要な役割を果たしている。さらに、燃料電池、航空宇宙産業及び特殊合金等、今後新たな分野での需要増加が考えられる。
【0003】
一方、スカンジウムは、濃縮された鉱物が存在せず、他の金属鉱石の副産物として産出されており、加えてその産出国が限られているため、供給が不安定な元素である。また、スカンジウムは、化学的性質がイットリウムなどその他の希土類元素やレアアースと非常に似ているため、これらの化合物からスカンジウムのみを分離することは極めて困難となっている。
【0004】
スカンジウムを分離回収する方法としては、商品名PC-88A(主成分:2-エチルヘキシルホスホン酸2-エチルヘキシル)等の酸性アルキルりん酸エステルを抽出剤とする溶媒抽出法がある(特許文献1参照)。また、アルキル鎖として、通常の2-エチルヘキシル基に代わり、アルキルシクロヘキシル基をもつ酸性りん酸エステルを抽出剤とする溶媒抽出法がある(特許文献2参照)。しかし、上記の方法では、有機溶媒中にスカンジウムだけでなく、不純物も無視できない程度に抽出されてしまう。
【0005】
また、酸性アルキルりん酸エステルを、溶媒抽出法ではなく、樹脂に担持した形態で吸着剤のように使用する方法もある(特許文献3,4参照)。しかしながら、酸性アルキルりん酸エステルを用いたこの方法では、樹脂からスカンジウムの溶離が困難であることに加え、樹脂表面でスカンジウムと抽出剤のポリマー形成により吸着阻害が生じるという問題があった。さらに樹脂に担持した抽出剤が抽出工程中に水溶液側へ微量であるが漏洩することが懸念される。
【0006】
また、現在の実用的な方法として、ニッケル酸化鉱石を酸浸出して得られた溶液等のように、不純物として鉄イオンを含有する溶液から、スカンジウムを選択的に抽出しようとする場合、溶液のpHを4~5程度まで上げて行う必要があるが、中和剤量がかさむだけでなく、鉄水酸化物の生成が促進されてスカンジウムや他の有価な元素が共沈し、ロスが生じてしまう。また、特にこのような鉄イオンを含有する溶液を、イオン交換や溶媒抽出に付してスカンジウムを分離しようとしても、抽出処理中にクラッドと呼ばれる介在物が生成し易くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9-291320号公報
【特許文献2】特開平4-36373号公報
【特許文献3】特開平1-108119号公報
【特許文献4】特開平1-246328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、希土類金属又は鉄が含まれる溶液から、クラッドと呼ばれる介在物などの生成や不純物の抽出が行われることなく、簡便な処理工程にてスカンジウムを効率よく低コストで分離抽出することができる抽出剤及び分離抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明のスカンジウムの抽出剤は以下の特徴を有する。
(1)希土類金属又は鉄が含まれる溶液からスカンジウムを選択的に分離抽出する抽出剤であって、
前記抽出剤は、少なくともヒドロキシル基を有する化合物及びトリアルキルホスフィンオキシド化合物(式I)を混合して調製された深共晶溶媒であることを特徴とする。
(式I)
【化1】
(式中、R
1,R
2,R
3は、C1~C20のアルキル基を示す。)
(2)前記抽出剤を高分子膜に包含させたこと特徴とする。
(3)前記トリアルキルホスフィンオキシド化合物がトリ-n-オクチルホスフィンオキシド(式II)であることを特徴とする。
(式II)
【化2】
(4)前記ヒドロキシル基を有する化合物がN-ラウロイルサルコシン(式III)であることを特徴とする。
(式III)
【化3】
(5)前記希土類金属がイットリウムであることを特徴とする。
(6)本発明のスカンジウムの分離抽出方法は、
希土類金属又は鉄が含まれる溶液からスカンジウムを選択的に分離抽出する抽出方法であって、
少なくともヒドロキシル基を有する化合物及びトリアルキルホスフィンオキシド化合物を混合して調製した深共晶溶媒を用いることを特徴とする。
(7)前記深共晶溶媒又は前記深共晶溶媒を高分子膜に包含させた抽出剤包含高分子膜を用い、前記溶液のpHを1.5以下とすること特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抽出剤及び分離抽出方法によれば、希土類金属又は鉄が含まれる溶液から、クラッドと呼ばれる介在物などの生成や不純物の抽出が行われることなく、簡便な処理工程にてスカンジウムのみを効率よく低コストで分離抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】深共晶溶媒を用いた溶媒抽出法による抽出結果(pH依存性)を示す図である。
【
図2】抽出剤包含高分子膜を用いた吸着法による吸着結果(pH依存性)を示す図である。
【
図3】抽出剤包含高分子膜を用いた吸着法による吸着結果(振盪時間の影響)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、本発明における「抽出剤」とは、抽出剤を高分子膜に包含させて吸着剤として使用する場合も含み、また液液抽出だけでなく固相抽出として使用するような場合も含まれる。
【0013】
1.抽出剤
本発明における抽出剤は、希土類金属又は鉄(Fe)が含まれる溶液からスカンジウム(Sc)を選択的に分離抽出するものであり、具体的には、スカンジウム(Sc)と15のランタノイドから選ばれる少なくとも1以上の金属、イットリウム(Y)又は鉄(Fe)を含む溶液中からスカンジウム(Sc)のみを選択的に分離抽出するものである。
【0014】
スカンジウム(Sc)は、原子番号21、原子量44.9の元素であり、イットリウム(Y)やランタノイドと共に希土類元素に分類される。そのためこれらの元素は化学的性質が酷似しており、相互分離が難しいとされている。また、ランタノイドと鉄(Fe)も化学的性質が酷似していることから、これらの希土類元素や鉄(Fe)を含む金属から目的のスカンジウム(Sc)のみを分離する際に抽出工程が複雑になりコストがかかるところ、本発明によればこれらの金属が共存する溶液中からスカンジウム(Sc)のみを簡便に低コストにて抽出することができる。
【0015】
本発明の抽出剤は、ヒドロキシル基を有する化合物及びトリアルキルホスフィンオキシド化合物を混合して調製された深共晶溶媒(DES:Deep Eutectic Solvent)である。深共晶溶媒とは、水素結合ドナー性の化合物(以下、「水素結合ドナー」という。)と水素結合アクセプター性化合物(以下、「水素結合アクセプター」という。)の組み合わせで創出される常温で液体の化合物である。常温とは、20℃±15℃、つまり5℃~35℃の範囲をいい、室温はこの温度帯に含まれる。
【0016】
水素結合ドナーと水素結合アクセプターは、それぞれが室温付近で固体、或いはいずれか一方が固体であっても、これらを混合することで共晶融点降下が起こり、室温付近において液体状態を創り出すことができる。深共晶溶媒は、イオン液体と類似の物理的性質を持ち、蒸気圧が低く難燃性であり、熱安定性及び電気化学的安定性が高く任意の物質を溶かし易いといった特徴を有する。深共晶溶媒は、イオン液体と比較して環境親和性が高く、有毒なものが少ないため環境にもやさしい溶媒であり、混ぜるだけで簡単に調製可能なため処理工程が簡便でありかつ低コストで処理を行うことができるという利点がある。
【0017】
水素結合ドナーと水素結合アクセプターの混合比率は、用いる水素結合ドナーと水素結合アクセプターの種類や共存する金属種類により適宜任意の割合で配合されるが、1つの化合物が少なくとも全体の1重量%以上含まれるように混合する。なお、それぞれの化合物の抽出効果を効率よく発揮させるために、例えば水素結合ドナーと水素結合アクセプターを1種類ずつ用いる場合は、これらの体積比が1:10~10:1の範囲であることが好ましく、1:5~5:1の範囲、より好ましくは1:3~3:1の範囲とする。
【0018】
水素結合ドナーと水素結合アクセプターとは、希土類元素や鉄などの相互分離が難しい金属に対して、これらの分離が行なわれ易いように働く役割を有する。例えば、単独の抽出剤を使用した場合に、スカンジウムと鉄が各pH領域において同じ抽出曲線を描くような場合であっても、スカンジウムに対して協同効果を発揮する抽出剤(水素結合アクセプター)と、鉄に対して拮抗作用を発揮する抽出剤(水素結合ドナー)とがそれぞれ働くよう組み合わせることで、スカンジウムは低いpH領域側へ、鉄は高いpH領域側へ移行した状態で抽出曲線が描かれ、結果として低いpH領域側ではスカンジウムのみの抽出が可能となり、高いpH領域側では鉄のみの抽出が可能となる。
【0019】
目的となる金属種類は少ないほど設計が行いやすいが、例えば金属イオンが数十種類で構成された廃棄物の浸出液からの分離では、抽出剤の数を増やしたり、抽出剤の組み合わせを適宜変更したりして処理することができる。このように、単独の抽出剤では分離回収に十分な力を発揮できないような場合であっても、本発明の様に少なくとも2種類以上の抽出剤を用いることで、それぞれの抽出特性の能力が発揮され、化学的性質が酷似する金属が共存する溶液から確実にスカンジウムのみを選択的に分離抽出することができる。
【0020】
水素結合ドナーとなる化合物はヒドロキシル基を有する化合物であり、例えばアルキル化サルコシン、アシル化サルコシン、アルキルカルボン酸、ジアルキルリン酸、アルキルフェノール又はアルキルチオールが挙げられる。好適なアルキルとしては、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、3,5,5-トリメチルヘキシル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル及びオクタデシル等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。具体的に示すとすれば、ヒドロキシル基を有する化合物が、例えばアシル化サルコシンの場合、アシル基がラウロイル基である、前述の式IIで表されるN-ラウロイルサルコシン(以下、「NLS」ともいう。)を使用することができる。
【0021】
水素結合アクセプターとなる化合物は、下記トリアルキルホスフィンオキシド化合物(式I)であり、式中、R
1,R
2,R
3は、C1~C20のアルキル基を示す。
(式I)
【化1】
「アルキル基」とは、特定の数の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。例えば、「C1~C20アルキル基」とは、少なくとも1個から20個の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の飽和炭化水素鎖を意味する。なお、好適なアルキルとしては、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、3,5,5-トリメチルヘキシル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル及びオクタデシル等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。アルキル基は、分子構造の観点から、C3~C20アルキル基であることが好ましく、C5~C10アルキル基がより好ましい。具具体的に示すとすれば、R
1,R
2,R
3が全てC8の直鎖アルキル基であるトリ-n-オクチルホスフィンオキシド(以下、「TOPO」ともいう。)を用いることができる。
【0022】
これらの抽出剤を混合して深共晶溶媒とする方法は、例えば水素結合ドナーと水素結合アクセプターとなる抽出剤を少なくとも1種類ずつ任意の割合で容器に取り出し、温度又は超音波をかけて常温で液体にする。複数の抽出剤が偏りなく混合された液体となり、希釈剤を使用することなくそのまま使用することができる。また、固体から液体へと融解する際に各抽出剤の官能基を高密度に集合化させることができるため、目的金属に対する協同効果と拮抗作用を最大限に発揮させることが可能となる。また常温で液体の形態をとるため取り扱いが容易である。
【0023】
2.抽出剤包含高分子膜
先述の抽出剤を高分子膜に包含させる方法について説明する。使用する高分子素材は、例えばセルローストリアセテート(CTA)、ポリビニルクロライド(PVC)又はポリビニリデンフルオライド-co-ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)などを適用し、キャスティング法により作製することができる。具体的には、高分子素材、前述の深共晶溶媒及び可塑剤をテトラヒドロフラン(THF)に溶かして溶解させ、十分に撹拌する。得られた溶液をシャーレなどに流し入れ、数日間キャストしてTHFを蒸発させると抽出剤が包含された薄膜状の抽出剤包含高分子膜ができる。
【0024】
抽出剤包含高分子膜に成形することにより、抽出剤の特性だけでなく、該膜を透過する金属イオンの速度の違いなどの特性を利用し、より金属を効率よく分離抽出することができる。また、膜の両側で、例えば異なるpH領域の溶液に接するようにすることで正抽出(吸着)と逆抽出(脱着)を繰り返すことができるため、ワンステップで正抽出と逆抽出が可能となり、簡易な分離抽出工程とすることができる。
【0025】
3.スカンジウムの抽出方法
本発明における水相中の金属は、少なくとも1種類以上の希土類金属又は鉄が含まれる溶液であり、該溶液中からスカンジウムを選択的に分離抽出するものである。希土類金属とは、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムの17の元素である。
【0026】
本発明によるスカンジウムの回収方法は、金属イオンを含有する酸性水溶液のpHを適宜調製することにより、深共晶溶媒又は深共晶溶媒を包含させた高分子包含膜に接触させることにより、スカンジウムのみを選択的に分離抽出することができる。なお、水相中の金属の濃度は、それぞれ独立して、1×10-4~1Mであることが好ましく、より好ましくは1×10-3~0.1Mである。
【0027】
水相に含有される酸としては、例えば、塩酸、硝酸又は硫酸のような鉱酸、ギ酸、酢酸又はシュウ酸のような有機酸を挙げることができるが、好ましくは塩酸又は硝酸を使用する。かかる酸は、1種類のみであってもよく、2種類以上の酸からなる混合物であってもよい。なお、水溶液のpHが1.5以下であることが好ましい。pHを調製するために使用する酸としては、前述の酸と同様である。また、pHを調製するために使用する塩基としては、例えば、NaOH、KOH、LiOH及びNH3が挙げられる。
【0028】
本発明の深共晶溶媒の濃度については、0.05~1Mであることが好ましく、これを高分子膜に含浸して包含させる場合は、1~5mmol/gの範囲で高分子に包含させることが好ましい。
【0029】
本工程において使用される水相は、上記の要件を満足するものであればその他の成分は特に限定されず、例えば水相中に希土類金属や鉄以外の金属を含有する場合であっても、本発明の方法により、スカンジウムを選択的に抽出することができる。
【実施例0030】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
まずは比較として、深共晶溶媒を用いた溶媒抽出法による抽出を行いpH依存性について実験を行った。実験条件は下記表のとおりである。
【表1】
【0032】
30cm3サンプル管に、水相(1mMの各金属イオン濃度を有する1M硝酸アンモニウム水溶液)を3mL、有機相となる深共晶溶媒を3mLずつ入れ、恒温槽を用いて30℃で24時間振盪させた。深共晶溶媒は、N-ラウロイルサルコシン(株式会社東京化成製造)20gとトリ-n-オクチルホスフィンオキシド(株式会社東京化成製造)10gを三角フラスコに取り出し、約40℃の高温にして溶解させ、常温で液体のものを希釈剤なしでそのまま使用した。次に、水相を採取し、pHメーターを用いてpHを測定するとともに、ICP発光分析装置及び原子吸光光度計を用いて初期金属イオン濃度及び平衡後の水相の金属イオン濃度を測定し、下記式により抽出率を求めた。
抽出率(%)=(初期金属イオン濃度[mmol dm-3]-平衡後の水相の金属イオン濃度[mmol dm-3])/初期金属イオン濃度[mmol dm-3]×100
【0033】
図1に、深共晶溶媒を用いた溶媒抽出法による各種金属イオン混合溶液からの抽出結果(pH依存性)を示す。
図1より、今回使用した抽出剤(NLSとTOPOを用いた深共晶溶媒)は、0.5以下の低pH側で鉄よりもスカンジウムに対して高い抽出選択性を持つことが明らかとなった。しかしながら、イットリウムについてはpH0.5付近でも60%程度抽出するため、これらの3元素の相互分離は厳しいと考えられる。ただし、鉄とスカンジウムの分離材としては大いに期待できる。
【0034】
次に、抽出剤包含高分子膜に前述の深共晶溶媒を包含させ、吸着法による吸着を行い同金属イオンのpH依存性について実験を行った。実験条件は下記表のとおりである。
【表2】
【0035】
水相(1mMの各金属イオン濃度を有する1M硝酸アンモニウム水溶液)5mLに、吸着材となる抽出剤包含高分子膜0.15gを入れ、恒温槽を用いて30℃で24時間振盪させた。抽出剤包含高分子膜は、ポリビニリデンフルオライド-co-ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)を高分子素材として適用し、該高分子素材40wt%に前述の方法で調製した深共晶溶媒(NLS/TOPO=2/1)60wt%を包含させた吸着剤とした。
【0036】
図2に、抽出剤包含高分子膜を用いた吸着法による各種金属イオン混合溶液からの吸着結果(pH依存性)を示す。
図2より、同じ深共晶溶媒を使用していても、高分子膜に包含させることにより溶媒抽出法と比較してイットリウムの選択性が大幅に下がったことで、pH1.5以下の低pH側でスカンジウムのみを選択的に吸着することが明らかとなった。さらに吸着法の場合、使用した深共晶溶媒の量は、
図1の溶媒抽出法と比較して、約1/30と吸着効率が非常に良いことが明らかとなった。このように、複数の抽出剤からなる深共晶溶媒を使用して高分子膜に包含させることにより、抽出剤の使用量を少量にしてコストをかけずに効率よくスカンジウムのみを選択的に抽出することができる。なお、深共晶溶媒の使用量は、高分子の種類と包含する比率によって変化するが、20~80%程度は包含可能なため、膜1gあたりでも最大0.8gと非常に少量で済む。
【0037】
次に、抽出剤包含高分子膜による各種金属イオン混合溶液からの吸着における振盪時間の影響について実験を行った。実験条件は下記表のとおりである。
【表3】
【0038】
水相(0.5mMの各金属イオン濃度を有する1M硝酸アンモニウム水溶液)30mLに、吸着材となる抽出剤包含高分子膜0.15gを入れ、恒温槽を用いて30℃で24時間振盪させた。抽出剤包含高分子膜は、セルローストリアセテート(CTA)を高分子素材として適用し、該高分子素材20wt%に前述の方法で調製した深共晶溶媒(NLS/TOPO=2/1)80wt%を包含させた吸着剤とした。
【0039】
図3に、抽出剤包含高分子膜を用いた吸着法による各種金属イオン混合溶液からの吸着結果(振盪時間の影響)を示す。
図3より、約2時間で吸着平衡に達し、溶媒抽出と比較しても遜色ない吸着速度であることが明らかとなった。
本発明の抽出剤は、希土類金属又は鉄が含まれる溶液から、スカンジウムを選択的に分離回収することが可能である。これにより、鉱石や電子工業などから排出される廃棄物に含まれる微量のスカンジウムを効率よく低コストで分離抽出することが可能となる。