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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074502
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】建物の空調システムおよび空調方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 3/044 20060101AFI20220511BHJP
   F24F 3/16 20210101ALI20220511BHJP
   F24F 3/14 20060101ALI20220511BHJP
   F24F 5/00 20060101ALI20220511BHJP
   F24F 6/00 20060101ALI20220511BHJP
   F24F 7/013 20060101ALI20220511BHJP
   F24F 13/02 20060101ALI20220511BHJP
   F24F 7/06 20060101ALI20220511BHJP
   F24D 19/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
F24F3/044
F24F3/16
F24F3/14
F24F5/00 K
F24F6/00 Z
F24F7/013 101Z
F24F13/02 C
F24F7/06 Z
F24D19/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184593
(22)【出願日】2020-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】399069026
【氏名又は名称】株式会社イシカワ
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 幸夫
【テーマコード(参考)】
3L053
3L055
3L058
3L073
3L080
【Fターム(参考)】
3L053BB10
3L053BC01
3L053BC05
3L053BD10
3L055AA01
3L055AA10
3L058BD01
3L058BE08
3L073BB07
3L080AC03
(57)【要約】
【課題】建物内全体の空気を適温かつ適湿、さらには清浄な状態に管理制御することができる、建物の空調システムおよび空調方法を提供する。
【解決手段】建物2の空調システム1が、下階の居住空間に設置された第1空調機42と、上階のいずれかの空間に設置された第2空調機43と、下階の居住空間と、上階の第2空調機43が設置された空間とを流体的に連通させるために、下階の居住空間と、上階の第2空調機43が設置された空間との間に垂直に設けられた垂直ダクト44と、垂直ダクト44の垂直部分に設けられた軸流ファン51と、下階の居住空間、下階の共有空間および上階の共有空間と、下階のその他の仕切られた空間および上階のその他の仕切られた空間とを流体的に連通させるために、下階のその他の仕切られた空間の壁および上階のその他の仕切られた空間の壁に水平に設けられたエアパス用ファン52,53,54と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内の下階の居住空間、下階の共有空間、上階の共有空間、下階のその他の仕切られた空間および上階のその他の仕切られた空間のすべての空間を適温かつ適湿に維持する建物の空調システムであって、
前記下階の居住空間に設置された第1空調機と、
前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所に設置された第2空調機と、
前記下階の居住空間と、前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所とを流体的に連通させるために、前記下階の居住空間と、前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所との間に垂直に設けられた垂直ダクトと、
前記垂直ダクトの垂直部分に設けられた軸流ファンと、
前記下階の居住空間、前記下階の共有空間および前記上階の共有空間と、前記下階のその他の仕切られた空間および前記上階のその他の仕切られた空間とを流体的に連通させるために、前記下階のその他の仕切られた空間の壁および前記上階のその他の仕切られた空間の壁に水平に設けられたエアパス用ファンと、
を備える、建物の空調システム。
【請求項2】
前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所と、前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所のさらに上の階の仕切られた空間との間に垂直ダクトを設け、当該垂直ダクトの垂直部分に軸流ファンを設けた、請求項1に記載の建物の空調システム。
【請求項3】
前記軸流ファンおよび/または前記エアパス用ファンの回転方向を、手動または自動で正転と逆転に切り替え可能とする、請求項1または2に記載の建物の空調システム。
【請求項4】
前記すべての空間の少なくとも1つに加湿器および除湿器を設置した、請求項1~3のいずれか1項に記載の建物の空調システム。
【請求項5】
前記下階の居住空間に床暖房装置を設置した、請求項1~4のいずれか1項に記載の建物の空調システム。
【請求項6】
前記建物内の壁面が、二酸化チタンを吹付けた壁材、または、しっくいの塗り壁材である、請求項1~5のいずれか1項に記載の建物の空調システム。
【請求項7】
建物内の下階の居住空間、下階の共有空間、上階の共有空間、下階のその他の仕切られた空間および上階のその他の仕切られた空間のすべての空間を適温かつ適湿に維持する建物の空調方法であって、
前記下階の居住空間に設置された第1空調機で前記下階の居住空間の空気を調整し、
この調整された空気を、前記下階の居住空間と、前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所とを流体的に連通させるために、前記下階の居住空間と、前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所との間に垂直に設けられ、垂直部分に軸流ファンを設けた垂直ダクトを通じて、前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所に、ならびに、前記下階の居住空間および前記下階の共有空間と前記下階のその他の仕切られた空間とを流体的に連通させるために前記下階のその他の仕切られた空間の壁に水平に設けられたエアパス用ファンを通じて、前記下階のその他の仕切られた空間に、送り、
前記下階の居住空間から前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所に送られた空気、ならびに、前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所に設置された第2空調機で調整された空気を、前記上階の共有空間と前記上階のその他の仕切られた空間とを流体的に連通させるために前記上階のその他の仕切られた空間の壁に水平に設けられたエアパス用ファンを通じて、前記上階の共有空間または前記上階のその他の仕切られた空間に送ることで、前記建物内の空気を均一に循環させ、
一年を通して常時、前記第1空調機および前記第2空調機を稼働させることで、前記建物内の前記下階の居住空間、前記下階の共有空間、前記上階の共有空間、前記下階のその他の仕切られた空間および前記上階のその他の仕切られた空間のすべての空間を、一年を通して常時、適温かつ適湿に維持する、建物の空調方法。
【請求項8】
前記軸流ファンの回転方向を反転させて、前記垂直ダクトが連通する前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所の空気を、前記垂直ダクトを通じて、前記下階の居住空間に送る、請求項7に記載の建物の空調方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物内全体の空気を均一な状態に管理制御する、建物の空調システムおよび空調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の住宅の建物は、一般的に、欧米諸国の住宅の建物に比べて、外壁の厚さが薄く、素材や工法も断熱性に劣り、建物全体の断熱性が低いことが多い。部分的に見ても、欧州諸国の窓では三重サッシ、ダブルハングまたは押出し式窓等を使用しているのに対し、日本では引き違い窓を使用することで気密性が低くなり、その結果断熱性が低くなってしまったり、屋根の断熱性も低い場合がある。
【0003】
そのため、日本の住宅の建物は、部屋の壁側の温度および窓側の温度が低下することが多い。したがって、建物内の暖房をつけても、壁や窓面等の建物内周辺部で温度低下が起こり、建物内を均一に暖めることができない。
【0004】
欧米では、建物の断熱性が高いことから、建物内の暖冷房を一日中稼働し、熱を熱伝導により部屋中に伝達する暖冷房システムを採用することができる。
【0005】
当然ながら、日本でも、建物に欧米並みの断熱性を持たせれば、建物内の温度を均一に適温にすることができるとも考えられる。
【0006】
しかしながら、断熱性を高めるためには、建築時のコストが少なくとも30%は上昇してしまう。また、日本の建物の今までの歴史的背景として、亜熱帯の気候に適するように、夏は風通しがよく、冬は局部的に暖房するという設計思想が強く根付いている。
【0007】
日本でも、大型ビルディングやホテル等は、理想的な温度および湿度の空気を作り、大型のダクトで部屋に吹き込むセントラルヒーティングシステムを有する。しかしながら、このようなシステムは、設置コストおよびランニングコストが大きい。
【0008】
以上のような日本の住宅の建物の断熱性についての背景がある中、従来、建物内の空気を各部屋に送る方法として、空気調和機を1階の部屋に設置し、同じ部屋の別の位置に送風装置を設置して、空気調和機が作り出した調和空気を清浄化した後に、各部屋に繋がる配管部に送出する方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【0009】
同様な方法として、暖房手段が下階床下の基礎内に設けられ、下階床下の空気を上階床下や上階の居室に送るファンを室内ダクトに設けることが提案されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010-101600号公報
【特許文献2】特開2006-125774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1および2に開示されるような従来の方式により、ダクトで建物全体に空気を回すことは、空気を大きく回すための風量を得ることが困難であるため、実現性に乏しい。
【0012】
また、昨今、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス等による感染症の予防対策の一つとして、建物内の消毒や除菌が行われている。例えば、物の表面に付着したウイルスの消毒や除菌方法として、例えば次亜塩素酸水を物の表面に吹き付けて、布や紙で拭き取る等の方法が行われている。
【0013】
建物内でのウイルス感染を予防するためには、物の表面に付着したウイルスによる接触感染を防ぐだけでなく、空気感染および飛沫感染を防ぐ必要もある。人の喉の粘膜の防御機能を正常に保ったり、ウイルスの飛沫距離を減少させるために、空気を適温適湿に調整することは一定の効果があるといわれている。しかしながら、建物内の空気を循環するシステムにおいては、空気中および飛沫中のウイルスに起因する人への感染を防ぐために、建物内の全体の空気を清浄化するための対策が必要である。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、建物内全体の空気を適温かつ適湿、さらには清浄な状態に管理制御することができる、建物の空調システムおよび空調方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明はかかる課題を解決するため、建物内の下階の居住空間、下階の共有空間、上階の共有空間、下階のその他の仕切られた空間および上階のその他の仕切られた空間のすべての空間を適温かつ適湿に維持する建物の空調システムであって、前記下階の居住空間に設置された第1空調機と、前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所に設置された第2空調機と、前記下階の居住空間と、前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所とを流体的に連通させるために、前記下階の居住空間と、前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所との間に垂直に設けられた垂直ダクトと、前記垂直ダクトの垂直部分に設けられた軸流ファンと、前記下階の居住空間、前記下階の共有空間および前記上階の共有空間と、前記下階のその他の仕切られた空間および前記上階のその他の仕切られた空間とを流体的に連通させるために、前記下階のその他の仕切られた空間の壁および前記上階のその他の仕切られた空間の壁に水平に設けられたエアパス用ファンと、を備える、建物の空調システムを提供する。
【0016】
前記建物の空調システムでは、前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所と、前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所のさらに上の階の仕切られた空間との間に垂直ダクトを設け、当該垂直ダクトの垂直部分に軸流ファンを設けることができる。
【0017】
前記建物の空調システムでは、前記軸流ファンおよび/または前記エアパス用ファンの回転方向を、手動または自動で正転と逆転に切り替え可能とすることができる。
【0018】
前記建物の空調システムでは、前記すべての空間の少なくとも1つに加湿器および除湿器を設置することができる。
【0019】
前記建物の空調システムでは、前記下階の居住空間に床暖房装置を設置することができる。
【0020】
前記建物の空調システムでは、前記建物内の壁面が、二酸化チタンを吹付けた壁材、または、しっくいの塗り壁材とすることができる。
【0021】
また、本発明は、建物内の下階の居住空間、下階の共有空間、上階の共有空間、下階のその他の仕切られた空間および上階のその他の仕切られた空間のすべての空間を適温かつ適湿に維持する建物の空調方法であって、前記下階の居住空間に設置された第1空調機で前記下階の居住空間の空気を調整し、この調整された空気を、前記下階の居住空間と、前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所とを流体的に連通させるために、前記下階の居住空間と、前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所との間に垂直に設けられ、垂直部分に軸流ファンを設けた垂直ダクトを通じて、前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所に、ならびに、前記下階の居住空間および前記下階の共有空間と前記下階のその他の仕切られた空間とを流体的に連通させるために前記下階のその他の仕切られた空間の壁に水平に設けられたエアパス用ファンを通じて、前記下階のその他の仕切られた空間に、送り、前記下階の居住空間から前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所に送られた空気、ならびに、前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所に設置された第2空調機で調整された空気を、前記上階の共有空間と前記上階のその他の仕切られた空間とを流体的に連通させるために前記上階のその他の仕切られた空間の壁に水平に設けられたエアパス用ファンを通じて、前記上階の共有空間または前記上階のその他の仕切られた空間に送ることで、前記建物内の空気を均一に循環させ、一年を通して常時、前記第1空調機および前記第2空調機を稼働させることで、前記建物内の前記下階の居住空間、前記下階の共有空間、前記上階の共有空間、前記下階のその他の仕切られた空間および前記上階のその他の仕切られた空間のすべての空間を、一年を通して常時、適温かつ適湿に維持する、建物の空調方法を提供する。
【0022】
前記建物の空調方法では、前記軸流ファンの回転方向を反転させて、前記垂直ダクトが連通する前記上階の共有空間、および、前記上階のその他の仕切られた空間のいずれか1箇所の空気を、前記垂直ダクトを通じて、前記下階の居住空間に送ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の建物の空調システムおよび空調方法によれば、建物内の空気を適切に循環させることにより、建物内全体の空気を、一年を通して常時、適温かつ適湿、さらには清浄な状態に管理制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の建物の空調システムおよび空調方法の全体構成の好適な一実施形態を、概念的に示す建物の縦断面図である。
図2】本発明の建物の空調システムおよび空調方法の全体構成の好適な別の一実施形態を、概念的に示す建物の縦断面図である。
図3図1における1階の居住空間の天井に設置された吸排気口の一例を示す概略図である。
図4図1における2階の共有空間の壁面に設置された吸排気口の一例を示す概略図である。
図5図1における2階の共有空間の収納内に位置する軸流ファンの一例を示す概略図である。
図6図1における1階のWC(トイレ)の壁面に設置されたエアパス用ファンの吸排気口の一例を示す概略図である。
図7】本発明の建物の空調システムおよび空調方法のセンサおよび制御部の好適な一実施形態を示すブロック図である。
図8】本発明の建物の空調システムおよび空調方法を用いた建物に対する実証実験結果として、外気温度の変化と、建物内の各空間の温度の変化とを比較して示すグラフである。
図9】本発明の建物の空調システムおよび空調方法を用いた建物に対する実証実験結果として、外気湿度の変化と、建物内の各空間の湿度の変化とを比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の建物の空調システムおよび空調方法の好ましい実施形態について説明する。
【0026】
(設計思想)
本実施形態の空調システムおよび空調方法の設計思想は以下の通りである。まず、例えば、生活の中心であるLDK(リビングダイニングキッチン)の空気を適切な温度に調整する。この空気を建物内で大きく回すことで、各部屋の角領域や壁の温度変化がなくなり、建物内の全体の空気を均一な温度に管理制御することができる。この場合、LDKは、暖房室または冷房室として機能する。
【0027】
上述のように、従来のダクトで建物内の全体の空気を回すことは、風量の問題で不可能である。本発明の建物の空調システムおよび空調方法では、垂直ダクトの軸流ファンに加え、エアパス用ファンを各部屋に設置することで、空気を大きく回す。
【0028】
外壁の厚さが薄い日本の建物では、局所的に暖房を運転しても、壁、窓面、および、建物内周辺部で温度低下が起こるので、建物内全体を均一に暖めることができない。本発明の建物の空調システムおよび空調方法では、スペースの小さいトイレ室内を含む建物内のすべての空間に空気を大きく回すので、建物内全体を均一に暖めることができる。
【0029】
さらに、温度による湿度を考慮して、例えば冬は加湿器を、夏は除湿器を運転し、湿度を調整された空気を建物内で大きく回すことで、建物内の全体の湿度を、例えば理想的な40~60%に均一に管理制御することができる。上述の欧米諸国の高断熱住宅でも、建物内全体の湿度を均一に調整する機能は有していない。
【0030】
建物内全体の温度を均一にすることで、内壁面およびガラス面で温度が低下しにくくなる。したがって、結露が発生しにくくなり、カビ等も発生しにくい。体に優しい温度および湿度を実現することで、人の体の健康に優しい空間をつくることができる。
【0031】
(全体の基本構成)
図1は、本発明の建物の空調システムおよび空調方法の全体構成の好適な一実施形態を、概念的に示す建物の縦断面図である。
【0032】
本発明の実施形態の空調システム1および空調方法は、建物内の下階の居住空間、下階の共有空間、上階の共有空間、下階のその他の仕切られた空間および上階のその他の仕切られた空間のすべての空間を適温かつ適湿に維持するものである。上階と下階とを最小限のダクトで繋ぎ、ダクト内に送風装置を適切に配置する。大量の空気を各部屋および空間の隅々まで送り、空気を大きく回して循環させることにより、建物内全体の各部屋および空間を適温かつ適湿に管理制御する。
【0033】
本実施形態の建物2は、2階建て以上の建物とすることができ、図1において、下階が1階、上階が2階である。上述の下階の居住空間の例は、図1の1階のLDK11である。下階の共有空間の例は、図1の1階のホール12である。上階の共有空間の例は、図1の2階のホール21である。下階のその他の仕切られた空間の例は、図1の1階のWC(トイレ)13である。上階のその他の仕切られた空間の例は、図1の2階の洋室22および寝室23である。以下、図1の例に沿って説明する。
【0034】
まず、建物2は気密性および断熱性が高いことが好ましい。図1では、建物全体を囲むように断熱層41が形成されている。例えば、建物2全体を高気密性および高断熱性を有する断熱材で囲むことで、一つの断熱層41として形成することができる。建物2の気密性は、C値=1.0 cm2/m2以下、UA値=0.6 W/m2・K以下とすることが好ましい。
【0035】
1階のLDK11には、第1空調機としてのエアコン42が設置される。2階のホール21には、第2空調機としてのエアコン43が設置される。第1空調機および第2空調機は、少なくとも暖房機能および冷房機能を有するものであればよい。また、第1空調機および第2空調機は、暖房機能単体、および、冷房機能単体を有する別体のものであってもよい。エアコン42,43の取付位置は特に限定されないが、特に2階のホール21のエアコン43の取付位置は、気流の流れを考慮した位置であって、メンテナンスを行いやすい位置であることが好ましい。尚、エアコンをいずれの空間に設置するか、および、エアコンを設置する空間をいくつにするか、は特に限定されないが、1階のいずれかの空間に1台、2階のいずれかの空間に1台、のエアコンを設置することが好ましい。
【0036】
1階のLDK11と2階のホール21とを流体的に連通させるために、1階のLDK11と2階のホール21との間に垂直ダクト44が設けられる。垂直ダクト44の1階のLDK11側の吸排気口45は、1階のLDK11の天井61に設けられる。図3は、1階のLDK11の天井61に設置された吸排気口45の一例を示す概略図である。垂直ダクト44の2階のホール21側の吸排気口46は、2階のホール21の壁面62に設けられる。図4は、2階のホール21の壁面62に設置された吸排気口46の一例を示す概略図である。尚、垂直ダクト44でいずれの下階の空間といずれの上階の空間とを流体的に連通させるかは特に限定されないが、エアコン42が設置された1階のいずれかの空間と、エアコン43が設置された2階のいずれかの空間を繋げるように垂直ダクト44を設けることが好ましい。
【0037】
垂直ダクト44の垂直部分には、軸流ファン51が設けられる。軸流ファン51は、例えばカウンターアローファンを使用することができる。軸流ファン51は、1階のLDK11と2階のホール21が一直線上になる位置に取付ける。軸流ファン51の垂直ダクト44の垂直部分における取付位置は、特に限定されないが、取付工事およびメンテナンスのしやすさを考えて、例えば2階のホール21の収納内68に軸流ファン51が位置するようにすることができる。図5は2階のホール21の収納内に位置する軸流ファン51を示す概略図である。同図は、開口部69を塞ぐ蓋部68が外された状態を示す。開口部69から軸流ファン51の取付工事およびメンテナンスを行うことができる。垂直ダクト44および軸流ファン51は断熱材91で覆われている。
【0038】
空気を建物2内全体に循環させるために、エアパス用ファンが、例えば、各居室、洗面脱衣室およびトイレ等に取付けられる。図1に示す本実施形態では、1階のLDK11、1階のホール12および2階のホール21と、1階のWC(トイレ)13、2階の洋室22および2階の寝室23とを流体的に連通させるために、1階のWC(トイレ)13の壁63、2階の洋室22の壁64および2階の寝室23の壁65に、それぞれエアパス用ファン52,53,54が水平に設けられる。図6は、1階のWC(トイレ)13の壁面63に設置されたエアパス用ファン52の吸排気口71の一例を示す概略図である。エアパス用ファン52,53,54の取付ダクト(図示せず)は、省令準耐火仕様に対応するため、例えば鋼管を使用する。
【0039】
エアパス用ファン52は、通常、1階のLDK11および1階のホール12から1階のWC(トイレ)13に空気を送るように構成される。エアパス用ファン53は、通常、2階のホール21から2階の洋室22に空気を送るように構成される。エアパス用ファン54は、通常、2階のホール21から2階の寝室23に空気を送るように構成される。
【0040】
(建物内の空気の流れ)
1階のLDK11に設置されたエアコン42で1階のLDK11の空気が調整される(矢印D11)。この調整された空気が、軸流ファン51の作用により、垂直ダクト44を通じて2階のホール21に流れる(矢印D12,D13)。調整された空気はまた、1階のホール12を通り、エアパス用ファン52を通じて1階のWC(トイレ)13に流れる(矢印A11,A12)。1階のWC(トイレ)13に流れた空気は、1階のWC(トイレ)13の隅々まで行き渡る(矢印A13,A14)。
【0041】
1階のLDK11から2階のホール21に送られた空気、および、2階のホール21に設置されたエアコン43で調整された空気(矢印D14)は、エアパス用ファン53を通じて2階のホール21から2階の洋室22に流れ(矢印A15,A16)、エアパス用ファン54を通じて2階のホール21から2階の寝室23に流れる(矢印A19)。2階の洋室22および2階の寝室23に流れた空気は、2階の洋室22および2階の寝室23の隅々まで行き渡る(矢印A17,A18)。
【0042】
以上のようにして、1階のLDK11、1階のホール12、1階のWC(トイレ)13、2階のホール21、2階の洋室22、および、2階の寝室23の間で空気の流れが形成され、建物2内全体の空気を大きく回して均一に循環させることができる。
【0043】
(軸流ファンの逆転)
上述の空気の流れは、軸流ファン51の回転方向を、正転から逆転、または、逆転から正転に切り替えることで、変更することができる。正転と逆転の切り替えは、例えばコントロールスイッチ(図示せず)等により手動で行えるようにしてもよいし、例えば後述する制御部81を設けて、制御部81により自動で行えるようにしてもよい。
【0044】
図2は、本発明の建物の空調システム1および空調方法の全体構成の別の好適な一実施形態を、概念的に示す建物の縦断面図である。空調システム1を構成する基本構成は図1と同じであり、軸流ファン51により垂直ダクト44を通じて流れる空気の流れ方向のみが異なる。図2では、図1の場合と軸流ファン51の回転方向を反転させることで、2階のホール21の空気が、1階のLDK11に流れる(矢印D23,D22)。
【0045】
垂直ダクト44を通じて流れる空気の流れ方向は、特に限定されないが、例えば、エアコン42,43が冷房として稼働する場合には、図1に示すように、1階のLDK11から2階のホール21に空気が流れるように軸流ファン51を設定し、エアコン42,43が暖房として稼働する場合には、図2に示すように、2階のホール21から1階のLDK11に流れるように軸流ファン51を設定することができる。
【0046】
エアパス用ファン52,53,54を通じて流れる空気の流れ方向は、図1図2とで変わりはないが、エアパス用ファン52,53,54の回転方向も、軸流ファン51の場合と同様に、手動または自動で正転と逆転に切り替え可能としてもよい。
【0047】
エアコン42,43は、一年を通して常時、稼働させることが好ましい。このようにすることで、1階のLDK11、1階のホール12、1階のWC(トイレ)13、2階のホール21、2階の洋室22、および、2階の寝室23のすべての空間を、一年を通して常時、適温かつ適湿に維持することができる。
【0048】
(小屋裏収納)
2階の上に、2階のホール21のさらに上の階の仕切られた空間として、例えば小屋裏収納31がある場合、2階のホール21と、小屋裏収納31との間に垂直ダクト47を設け、当該垂直ダクト47の垂直部分に軸流ファン55を設けることができる。図1では、2階のホール21の天井66、および、小屋裏収納31の壁67に、垂直ダクト47の吸排気口72,73が設けられている。尚、垂直ダクト47は、エアコン43が設置された2階のいずれかの空間とその上の階の仕切られた空間とを繋げるように設けることが好ましい。
【0049】
軸流ファン55は、例えばカウンターアローファンを使用することができる。軸流ファン55は、2階のホール21と小屋裏収納31が一直線上になる位置に取付ける。軸流ファン55の垂直ダクト47の垂直部分における取付位置は、特に限定されないが、取付工事およびメンテナンスのしやすさを考えて、例えば小屋裏収納31の収納内に軸流ファン55が位置するようにすることができる。
【0050】
小屋裏収納31へは、通常、軸流ファン55により、図1および図2に示すように、2階のホール21の空気が流れるように構成される(矢印D15,D16)。軸流ファン55の回転方向も、軸流ファン51の場合と同様に、手動または自動で正転と逆転に切り替え可能としてもよい。
【0051】
(床暖房装置)
少なくとも1階のLDK11に床暖房装置48を設置してもよい。エアコン42および床暖房装置48の少なくとも一方を使用して、1階のLDK11の空気を暖めて、温度を管理制御することができる。床暖房装置48は、温水式のものであっても、電気式のものであっても、従来一般のものを使用することができる。
【0052】
(湿度の調整)
建物内の空間の少なくとも1箇所に、湿度の調整のための加湿器および除湿器を設置することができる。加湿器および除湿器として、例えば、加湿空気清浄機49を使用することができる。図1および図2では、2階のホール21の床上に、加湿空気清浄機49が置かれている。2階のホール21で湿度を調整された空気を、上述した空調システム1および空調方法により建物2内全体に循環させることで、建物2内全体を一定の湿度で均一に管理制御することができる。加湿空気清浄機49を設置する空間および台数は特に限定されないが、例えば、エアコンを設置した空間に加湿空気清浄機49を設置すると効果的である。
【0053】
(建物内の風速)
建物2内の風速は、0.15~0.25 m/secの範囲であると、居住者が不快に感じることがない。したがって、建物2内の風速が0.15~0.25 m/secの範囲で、建物2内の空気を大きく循環させることが好ましい。本実施形態の空調システム1および空調方法により空気を循環させれば、建物2内の風速を0.15~0.25 m/secの範囲に制御することができる。
【0054】
(制御部)
建物2内の温度、湿度および風速等を自動で制御するために、本実施形態の空調システム1を構成する、軸流ファン51,55、エアパス用ファン52,53,54、エアコン42,43、および、加湿空気清浄機49を制御する制御部81を設けてもよい。図7は、センサおよび制御部81の好適な一実施形態を示すブロック図である。例えば、軸流ファン51,55およびエアパス用ファン52,53,54の場合、ファン制御手段84が、建物2内の空気の状況に応じて、軸流ファン51,55およびエアパス用ファン52,53,54のオン/オフ、回転方向、および、風量等を制御するように構成する。エアコン42,43の場合、温度制御手段85が、建物2内の温度に応じて、エアコン42,43のオン/オフ、暖冷房の切り替え、および、風量等を制御するように構成する。加湿空気清浄機49の場合、湿度制御手段86が、建物2内の湿度に応じて、加湿空気清浄機49のオン/オフ、加湿および除湿の切り替え、ならびに風量等を制御するように構成する。風量、温度および湿度の測定には、それぞれ、例えば風量センサ87、温度センサ88および湿度センサ89を使用することができる。各センサ87,88,89は、例えば測定の必要性や有効性を考慮して、所定の空間に設置すればよい。温度制御部81は、少なくともCPU82(中央演算処理装置)および記憶装置83を有することができ、各センサ87,88,89からの入力に基づいて、上記各制御手段84,85,86を実行させる。各制御手段84,85,86がそれぞれCPUおよび記憶装置を有するように構成してもよい。
【0055】
(空気清浄化)
上述のように、建物内の空気を循環するシステムにおいては、空気中および飛沫中のウイルスに起因する人への感染を防ぐために、建物内の全体の空気を清浄化するための対策が必要である。このような対策として、建物2内の壁面を、二酸化チタンを吹付けた壁材、または、しっくいの塗り壁材とすることが有効である。
【0056】
壁面に二酸化チタンを吹付ける場合、空気の動きにより、ウイルス、悪臭、菌、カビ、および、揮発性有機化合物(プロパン、メタン、アンモニア、ホルムアルデヒド、トルエン、および、エタノール等)を分解し、建物2内全体の空気を清浄化する。これは、建物2全体を空気清浄機のように機能させるものである。この空気清浄化により、建物2内でのウイルス感染を大幅に減少させることができるので、建物2内を最も安全な空間として、人々に快適、安全および安心を与えることができる。
【0057】
しっくいの塗り壁材を使用する場合、しっくいの壁に付着したウイルスの膜を、しっくいの主成分である消石灰が分解し、ウイルスを死滅させることができる。壁面に二酸化チタンを吹付ける場合と同様に、建物2全体を空気清浄機のように機能させることができる。さらに、しっくいの優れた吸放湿度性により、建物2内の湿度を適切に調整することもできる。
【0058】
(一般的な住宅の例)
温度を調整するためのエアコン42,43、ならびに、湿度を調整するための加湿空気清浄機49は、市販のものを使用することができる。本実施形態の空調システム1は、垂直ダクト44,47、軸流ファン51,55およびエアパス用ファン52,53,54等の最小限の送風のための装置と、空気の温度および湿度を調整するための最小限のエアコン42,43および加湿空気清浄機49とで構成することができるので、経済性およびメンテナンス性に優れている。
【0059】
一般的な住宅(床面積:110 m2)において、本実施形態の空調システム1を導入する場合、設置コストは例えば30万円程度である。導入後のランニングコストは、主にエアコンの暖冷房費であり、例えば年間10万円程度である。導入コストおよびランニングコストともに低く抑えることができる。本実施形態の空調システム1は既存の住宅にも簡易な施工で導入することができる。
【0060】
空気の循環方法の一例としては、上記の一般的な住宅であれば、軸流ファンにより、例えば1時間に0.57回、すなわち約2時間に1回、建物内全体の空気を大きく回す。さらに、計画換気により、例えば2時間に1回、建物内全体空気を、外部の新鮮な空気と入れ替える。
【0061】
(実証実験)
本発明の空調システム1を実際の建物に設置し、実証実験を行った。設置した空調システム1の主な仕様、実証実験条件は以下の通りである。
<設置場所>
新潟県新潟市秋葉区柄目木
<建物の断熱材>
天井:HGW、イゾベールコンフォート 16K t=155 mm(マグ・イゾベール株式会社製)
壁:HGW、イゾベールコンフォート 16K t=105 mm(マグ・イゾベール株式会社製)
床:ミラフォームラムダ t=50 mm(株式会社JSP製)
<建物の気密工事>
天井および壁にスーパーポリシート(t=0.2 mm)を施行
<建物のサッシ>
トリプルガラスにオール樹脂サッシを採用
<気密性>
C値=1.0 cm2/m2;UA値=0.48 W/m2・K
<エアコン設置空間および設定温度>
1階のLDK:4.0 kW、23℃設定
2階の寝室 :2.5 kW、23℃設定
<計測期間>
2020年2月27日~3月2日
【0062】
図8は、実証実験結果として、外気温度の変化と、建物内の各空間の温度の変化とを比較して示すグラフである。外気温度が約1℃~約13℃まで大きく変化しているのに対し、建物内の各空間の温度は、外気温に影響されることなく、エアコンの設定温度の23℃付近の温度を維持した。建物内の各空間の温度の変化は、最大温度差が2.3℃、最小温度差が1.2℃、平均温度差が1.7℃と小さく、快適な空間を実現できることが分かった。
【0063】
図9は、実証実験結果として、外気湿度の変化と、建物内の各空間の湿度の変化とを比較して示すグラフである。外気湿度が約50%~約95%まで大きく変化しているのに対し、建物内の各空間の湿度は、外気温および湿度に影響されることなく、25%前後の湿度を維持した。建物内の各空間の湿度の変化は、最大湿度差が3.4%、最小湿度差が2.3%、平均湿度差が2.8%と小さく、快適な空間を実現できることが分かった。尚、建物内の各空間の湿度が低いが、加湿空気清浄器を用いることで、湿度の調整が可能である。
【0064】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は種々の変形実施をすることができる。例えば、建物の間取りは図1および図2のものに限定されない。空調システムを設置する建物の間取りに合わせて、垂直ダクトの数や、軸流ファンの数、エアコンの数等を適宜設定可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 空調システム
2 建物
11 1階のLDK(下階の居住空間)
12 1階のホール(下階の共有空間)
13 WC(トイレ)(下階のその他の仕切られた空間)
21 2階のホール(上階の共有空間)
22 2階の洋室(上階のその他の仕切られた空間)
23 2階の寝室(上階のその他の仕切られた空間)
31 小屋裏収納(さらに上の階の仕切られた空間)
41 断熱層
42 エアコン(第1空調機)
43 エアコン(第2空調機)
44,47 垂直ダクト
48 床暖房装置
49 加湿空気清浄機(加湿器および除湿器)
51,55 軸流ファン
52,53,54 エアパス用ファン
81 制御部
84 ファン制御手段
85 温度制御手段
86 湿度制御手段
87 風量センサ
88 温度センサ
89 湿度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9