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特開2022-74586粉体の流動性改善剤、粉体の流動性改善方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074586
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】粉体の流動性改善剤、粉体の流動性改善方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/02 20060101AFI20220511BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20220511BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220511BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220511BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20220511BHJP
【FI】
A61K47/02
A61K9/48
A61K9/20
A61K9/14
A23L5/00 D
A23L5/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184736
(22)【出願日】2020-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】上野 宏大
【テーマコード(参考)】
4B035
4C076
【Fターム(参考)】
4B035LC03
4B035LE01
4B035LE05
4B035LG02
4B035LK19
4B035LP21
4B035LP31
4C076AA29
4C076AA36
4C076AA54
4C076BB01
4C076CC40
4C076DD25
4C076DD25C
4C076DD38
4C076EE31
4C076FF09
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、二酸化ケイ素、ケイ酸、タルク等の従来の流動性改善剤と同等、又は以上の流動性改善効果を有し、栄養の改善効果も有する流動性改善剤を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、平均粒子径が0.4μm以下の炭酸カルシウムからなる、粉体の流動性改善剤を提供する。これによれば、従来の流動性改善剤と同等または以上の流動性促進効果を得ることができる。また、さらにカルシウムを含有するため、添加された粉体の栄養を改善することができる。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.4μm以下の炭酸カルシウムからなる、粉体の流動性改善剤。
【請求項2】
請求項1に記載の粉体の流動性改善剤を、0.5~10質量%含有することを特徴とする、粉末組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の流動性改善剤又は請求項2に記載の粉末組成物を含有することを特徴とする、ハードカプセル製剤。
【請求項4】
請求項1に記載の流動性改善剤又は請求項2に記載の粉末組成物を含有することを特徴とする、錠剤。
【請求項5】
粉体の全量に対して、平均粒子径が0.4μm以下の炭酸カルシウム0.5~10質量%を添加することを特徴とする、粉体の流動性改善方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体の流動性改善剤および粉体の流動性改善方法に関する。より詳しくは、医薬品、健康食品などの分野で用いる粉体の流動性改善剤、粉体の流動性の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流動性改善剤とは、粉体成分の付着力を低減して流動性を改善するために使用される添加物である。医薬品や粉末、顆粒状食品などの製造において、例えば凝集性の高い粉末状、顆粒状の原料を使用する場合には、原料の混合が不十分となりやすい。このため、製造された個々の製剤や製品において個々の原料の含有量のバラつきや質量のバラつきが発生することがあった。また、このような場合、製剤化の工程、即ち打錠やカプセル充填の際に製造トラブルが発生することもあった。
流動性改善剤はこのような場合に添加され、粉末、顆粒の流動性を改善することにより、上記問題を解決するために用いられてきた。このような流動性改善剤としては、従来は、特許文献1のように二酸化ケイ素やタルクなどが用いられてきた。
【0003】
また、特許文献2には、食品への使用のために、炭水化物を、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した際の平均粒子径として、0.1μm~20μmとなるように調製することにより得られる、粉末製品の流動性改善剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-81876号公報
【特許文献2】特開平4-295425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、二酸化ケイ素、ケイ酸、タルク等の従来の流動性改善剤と同等、又はそれ以上の流動性改善効果を有し、さらに栄養の改善効果も有する流動性改善剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、特定の平均粒子径を有する炭酸カルシウムを添加することにより、粉体の流動性を改善することができるという知見に至り、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]を提供する。
[1]平均粒子径が0.4μm以下の炭酸カルシウムからなる、粉体の流動性改善剤。
これによれば、従来の流動性改善剤と同等またはそれ以上の流動性促進効果を得ることができる。また、さらにカルシウムを含有するため、添加された粉体の栄養を改善することができる。
[2][1]の粉体の流動性改善剤を、0.5~10質量%含有することを特徴とする、粉末組成物。
これによれば、より優れた粉体の流動性改善効果が発揮される粉末組成物とすることができる。
[3][1]の流動性改善剤又は[2]の粉末組成物を含有することを特徴とする、ハードカプセル製剤。
これによれば、ハードカプセル充填において、原料の充填量の均一性に優れたハードカプセル製剤を得ることができる。
[4][1]の流動性改善剤又は[2]の粉末組成物の粉末組成物を含有することを特徴とする、錠剤。
これによれば、錠剤の製造において、原料の臼への充填量の均一性に優れることから、粒重量の均一性に優れた錠剤を得ることができる。
[5]粉体の全量に対して、平均粒子径が0.4μm以下の炭酸カルシウム0.5~10質量%を添加することを特徴とする、粉体の流動性改善方法。
これによれば、従来の流動性改善剤と同等またはそれ以上の流動性促進効果を得ることができる。また、さらにカルシウムを添加するため、添加された粉末組成物の栄養を改善することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二酸化ケイ素、ケイ酸、タルク等の従来の流動性改善剤と同等、又はそれ以上の流動性改善効果を有し、さらに栄養改善効果も有する流動性改善剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】従来の流動性改善剤と炭酸カルシウムのパウダーフローテスターにより流動性改善効果を試験した結果を示す。
図2】炭酸カルシウム粒子の走査型電子顕微鏡による像を示す。
図3】炭酸カルシウム粒子の粉末X線回折装置によって測定されたスペクトルを示す。
図4】本発明の流動性改善剤の粉末組成物中の含有量による流動性改善効果を示す。
図5】本発明の流動性改善剤のマルチトール以外を含有する組成物への流動性改善効果を試験した結果を示す。
図6】微粒子化した炭酸カルシウムによる流動性改善効果を試験した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る粉末の流動性改善剤、粉末組成物、粉末の流動化改善方法、ハードカプセル製剤、錠剤の実施形態を詳細に説明する。
なお、実施形態に記載する流動性改善剤、粉末組成物、粉末の流動化改善方法、ハードカプセル製剤、錠剤については、本発明を説明するために例示したに過ぎず、これに制限されるものではない。
【0011】
[粉末の流動性改善剤]
本発明の粉末の流動性改善剤は、平均粒子径が0.4μm以下の炭酸カルシウムからなるものである。平均粒子径が0.4μm以下の炭酸カルシウムは、粉末に含有させた場合、粉末の流動性を改善するという優れた効果を発揮し、従来の流動性改善剤と同等又はそれ以上の流動性促進効果を得ることができる。これによれば、製造された個々の製剤や製品においての個々の原料の含有量のバラつきや製剤の質量のバラつきを抑制することができ、さらに製剤化の際の製造トラブルを抑制することができる。また、さらにカルシウムを含有するため、添加された粉体の栄養を改善することができる。また、一般的な化合物は微細状態では粒子の表面エネルギーが大きく、粉砕後経時的に凝集してしまうことが知られているが、炭酸カルシウムは0.4μm以下微粒子の粉末として安定に存在できる。
【0012】
本発明の流動性改善剤として使用される炭酸カルシウムの平均粒子径は0.4μm以下である。上限値としては、流動性改善剤としての効果の観点から、好ましくは0.2μm以下、より好ましくは0.1μm以下、さらに好ましくは0.05μm以下である。下限値としては、炭酸カルシウム粒子の製造の観点から、好ましくは0.005μm以上、より好ましくは0.01μm以上である。
なお、炭酸カルシウムの平均粒子径はレーザー回折装置にて測定することができる。レーザー回折装置としては、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所)等が挙げられる。また、特に、レーザー回折装置での測定が困難な平均粒子径が0.1μm以下の炭酸カルシウムの平均粒子径の測定については、動的光散乱装置(DLS)にて測定することが好ましい。動的光散乱装置としては、ゼータ電位・粒径測定装置 ELSZ-1000(大塚電子社製)等が挙げられる。
【0013】
炭酸カルシウムの粒子形状としては、特に制限されないが、球形粒子、岩状粒子、針状粒子、又は多孔質粒子などが使用される。これらの中でも球状の粒子が好ましい。
炭酸カルシウムの種類としては、特に制限されないが、沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムが使用される。沈降性炭酸カルシウムとしては、軽微性炭酸カルシウム、半膠質炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウムが挙げられる。この中でも、平均粒子径をより小さくするという観点から、沈降性炭酸カルシウムが好ましく、半膠質炭酸カルシウム又は膠質炭酸カルシウムがより好ましく、膠質炭酸カルシウムがさらに好ましい。
【0014】
本発明の流動性改善剤の調製方法としては、特に制限されないが、炭酸カルシウムの粒子を、さらに粉砕などの物理的な方法により微粒子とする方法により得ることができる。このような粉砕にはビーズミル、ジェットミルなどの装置を用いることができる。このような装置としては、ダイノーミル MULTI LAB型(ウィリー・エ・バッコーフェン社製)などが挙げられる。また、本発明の流動性改善剤として、炭酸カルシウムの市販品を用いることができる。このような市販品としては、カルエッセン-P(白石カルシウム社製)などが挙げられる。
【0015】
本発明の流動性改善剤は、医薬品、食品、動物用薬品、飼料などの用途に用いられる粉末に対して使用される。本発明の流動性改善剤は、流動性の悪い粉末に対して用いられる場合に大きな流動性改善効果を発揮する。このような粉体としては、結晶セルロース、マルチトール、デンプンなどが挙げられる。本発明の流動性改善剤は、結晶セルロースの流動性の改善に特に適している。
【0016】
本発明の流動性改善剤の効果は、特に制限されないが、従来の粉体の流動性の指標により評価することができる。このような指標としては、フローファンクション(ffc)、Flow Index、安息角、崩壊角、差角などが挙げられる。フローファンクションは、パウダーフローテスター(BROOK FIELD社製)などの装置により測定された単軸崩壊応力に対する最大主応力の比率(最大主応力/単軸崩壊応力)から算出することができる。
【0017】
パウダーフローテスターにおける測定は以下のように行われる。
サンプルを測定セルに充填し装置へセットし、サンプルを設定された圧力(最大主応力)へ圧密する。測定セルを一定方向に回転(1回転/h)させた時のトルク(単軸崩壊応力)を測定する。単軸崩壊応力は値が小さい方が、流動性が高いことを示す。フローファンクションは最大主応力/単軸崩壊応力で定義され、値が大きいほど流動性が高いことを示す。
【0018】
[粉末組成物]
本発明の粉末組成物は、本発明の粉末の流動性改善剤を0.5~10質量%含有する粉末組成物である。本発明の粉末の流動性改善剤が、粉末組成物に0.5~10質量%されることにより、粉末組成物の流動性がより改善される。これによれば、製造された個々の製剤や製品における個々の原料の含有量のバラつきや製剤の質量のバラつきを抑制することができ、さらに製剤化の際、即ち打錠やカプセル充填などの際、の製造トラブルを抑制することができる。さらに、カルシウムを含有するため、栄養が改善されている。
上限値としては、流動性の改善効果の観点から、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。下限値としては、流動性の改善効果の観点から、0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。
【0019】
本請求項の粉末組成物中の流動性改善剤の量は、粉末組成物、錠剤、又はハードカプセル剤を水に分散させ、0.4umのフィルターを通した後の、ろ液中の炭酸カルシウム量を測定することにより求めることができる。上記した含有量は、ろ液中の混合末換算で、例えば、上記した範囲である0.5~10質量%、上限値としては、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、下限値としては、0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上として測定される。
【0020】
(流動性改善剤、粉末組成物の用途)
本発明の流動性改善剤又は粉末組成物は、医薬品、食品、動物用薬品、飼料などの用途に用いられる。用いられる形態としては、これらの用途で許容されるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠、チュアブル錠などの錠剤、丸剤、散剤、ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤、顆粒剤、トローチ剤、加工食品、健康食品(栄養補助食品、栄養機能食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示食品など)、サプリメント、病者向け食品(病院食、病人食、介護食など)、菓子、油脂類、乳製品、レトルト食品、レンジ食品、冷凍食品、調味料、健康補助食品、飲料、栄養ドリンクなどが挙げられる。本発明の流動性改善剤は、ハードカプセルや錠剤の製造における、製剤化の際、即ち打錠やカプセル充填などの際、の製造トラブルの発生の抑制に顕著な効果を発揮する。
【0021】
(その他の成分)
本発明の粉末組成物は、本発明の流動性改善剤以外に、その用途に応じて有効成分、添加剤を含有してもよい。添加剤の具体例としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、着色剤などが挙げられ、粉末組成物の用途に応じて添加される。また、本発明の流動性改善剤以外の流動性改善剤を含有してもよい。
【0022】
有効成分は、効能、効果を発揮するものであり、医薬品、食品、動物用薬品、飼料などの用途に許容されるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、医薬品、医薬部外品、OTC医薬品、漢方薬、生薬、化粧品、化粧料、健康食品、サプリメント、動物用薬品、飼料などに用いられる医薬成分、機能性成分などが挙げられる。
医薬成分、機能性成分の具体例としては、例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、葉酸、ビオチン、ナイアシン、パントテン酸、鉄、銅、亜鉛、マンガン、セレン、クロム、モリブデン、ポリグルタミン酸、藤茶ポリフェノール、脂質調整剤、抗糖尿病剤、食欲抑制剤、降圧剤、血管拡張剤、βアドレナリン受容体遮断薬、強心イオンチャンネル剤、不整脈治療剤、抗凝血剤、中枢神経機能改善剤、交感神経刺激剤、副交感神経刺激剤、抗ムスカリン様作動剤、ドーパミン作動剤、精神安定剤、抗鬱剤、抗癲癇剤、抗不安剤、催眠剤、覚醒剤、動物由来物質、植物由来物質、ラピジン、ノビレチン、スルフォラファン、アンペロプシン、クルクミン類、レスベラトロール類、ゲラニオール、オサジン、イソリキリチゲニン、ヒドロキシチロソール、25-ヒドロキシコレカルシフェロール、S-アデノシルメチオニン、アントシアニン、アスコルビン酸2-グルコシド、プロテオグリカン、N-アセチルグルコサミン、コラーゲン、ビルベリーエキス、ニンジン末、ゴカヒ、カンゾウ、シャクヤク、ケイヒ、ウイキョウ、シュクシャ、ビフィズス菌、乳酸菌、酵母、ポリデキストロースなどの食物繊維などが挙げられる。また、これらの医薬成分、機能性成分は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0023】
賦形剤は、医薬品、食品、動物用薬品、飼料などの用途に許容されるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、糖類、リン酸塩、硫酸塩などが挙げられる。
賦形剤の具体例としては、例えば、結晶セルロース、乳糖、白糖、マンニトール、グルコース、デンプン、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムなどが挙げられる。また、これらの賦形剤は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0024】
結合剤は、粉体成分の結合力を高めるものであり、医薬品、食品、動物用薬品、飼料などの用途に許容されるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、セルロース誘導体、合成樹脂、糖類、ポリエーテル、ワックス類などが挙げられる。
結合剤の具体例としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、グルコース、白糖、乳糖、麦芽糖、デキストリン、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコール、パラフィン、アラビアゴム、ゼラチン、寒天、デンプン、プルランなどが挙げられる。また、これらの結合剤は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0025】
崩壊剤は、錠剤や顆粒を崩壊させ、有効成分の吸収性を高めるものであり、医薬品、食品、動物用薬品、飼料などの用途に許容されるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、糖類、セルロース誘導体、合成樹脂、アルギン酸塩などが挙げられる。
崩壊剤の具体例としては、例えば、トウモロコシデンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、これらの崩壊剤は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0026】
安定剤は、有効成分の化学的分解、物理的分解を抑制するものであり、医薬品、食品、動物用薬品、飼料などの用途に許容されるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、無機化合物、有機酸、有機酸塩、ビタミン類などが挙げられる。
安定剤の具体例としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、エデト酸ナトリウム、トコフェロールなどが挙げられる。また、これらの安定剤は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0027】
保存剤は、微生物の増殖を抑制するものであり、医薬品、食品、動物用薬品、飼料などの用途に許容されるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、安息香酸塩、パラオキシ安息香酸エステル類などが挙げられる。
保存剤の具体例としては、例えば、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、メチルパラベン、プロピルパラベンなどが挙げられる。また、これらの保存剤は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0028】
着色剤は、嗜好性や識別性を向上させるものであり、医薬品、食品、動物用薬品、飼料などの用途に許容されるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、天然色素、合成色素などが挙げられる。
着色剤の具体例としては、例えば、コチニール、カルミン、クルクミン、リボフラビン、アンナット、酸化チタン、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、タルク、焼成シリカ、炭酸マグネシウム、食用青色1号、食用青色2号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用緑色3号、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号などの食用合成着色料などが挙げられる。また、これらの着色剤は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0029】
その他の流動性改善剤としては、医薬品、食品、動物用薬品、飼料などの用途に許容されるものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、フィロケイ酸塩鉱物粉末、ケイ素酸化物、飽和脂肪酸、エステル類、ワックス類、硬化植物油、脂肪、ポリエーテルなどが挙げられる。
その他の流動性改善剤の具体例としては、例えば、タルク、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、パルミチン酸、ステアリルフマル酸ナトリウム、ミツロウ、ダイズ硬化油、カカオ脂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。また、これらは、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0030】
その他の添加剤としては、溶解補助剤、界面活性剤、乳化剤、抗酸化剤、光沢化剤、発泡剤、防湿剤、防腐剤、流動化剤、甘味剤、矯味剤、清涼化剤、着香剤、香料、芳香剤、崩壊補助剤などが挙げられる。また、これらの添加剤は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0031】
[ハードカプセル製剤]
本発明のハードカプセル製剤は、本発明の流動性改善剤又は粉末組成物を含有するハードカプセル製剤である。本発明の流動性改善剤を含む粉末又は本発明の粉末組成物をそのまま、あるいは、上記したその他の成分を添加して、ハードカプセルに充填することにより得ることができる。
これによれば、ハードカプセル充填において、原料の充填量の均一性に優れたハードカプセル製剤を得ることができる。さらに、カルシウムを含有するため、栄養が改善されている。また、製剤化、即ちカプセル充填などの際の製造トラブルが抑制されているため、安定して製造することができる。発明において流動性改善剤として使用される炭酸カルシウムは、カルシウムとして栄養補助効果を有するため、他の有効成分を含有しなくともよいが、他の有効成分を含有してもよい。本発明のハードカプセル剤の形状、大きさ、カプセルの材質は特定のものに限定されるものではない。
【0032】
[錠剤]
本発明の錠剤は、本発明の流動性改善剤又は粉末組成物を含有する錠剤である。錠剤は、本発明の流動性改善剤を含む粉末又は本発明の粉末組成物をそのまま、あるいは、上記したその他の成分を添加して、打錠することにより得ることができる。また、甘味剤、酸味剤、香料などを添加して、チュアブル錠としてもよい。
これによれば、錠剤の製造において、原料の臼への充填量の均一性に優れることから、粒重量の均一性に優れた錠剤を得ることができる。さらに、カルシウムを含有するため、栄養が改善されている。また、製剤化、即ち打錠などの際の製造トラブルが抑制されているため、安定して製造することができる。本発明において流動性改善剤として使用される炭酸カルシウムは、カルシウムとして栄養改善効果を有するため、他の有効成分を含有しなくともよいが、他の有効成分を含有していてもよい。
【0033】
[粉体の流動性改善方法]
本発明の粉末の流動性改善方法は、粉体の全量に対して、平均粒子径が0.4μm以下の炭酸カルシウムを0.5~10質量%を添加することを特徴とする。平均粒子径が0.4μm以下の炭酸カルシウムは、粉末に含有させた場合、粉体成分の付着力を低減して流動性を改善する優れた効果を発揮し、これをさらに0.5~10質量%添加することにより、粉末の流動性をさらに向上することにより、粉末の混合性が向上し、均一性の高い製剤を製造することができる。また、製剤化の際の製造トラブルを低減することができる。本発明の流動性改善方法は、ハードカプセルや錠剤の製造トラブルの発生の抑制に顕著な効果を発揮する。さらに、カルシウムをする添加するため、栄養を改善することができる。
【0034】
本発明の粉体の流動性改善方法は、特に制限されないが、医薬品、食品、動物用薬品、飼料などの用途に用いられる粉末に用いることができる。本発明の流動性改善剤又は粉末組成物以外の組成としては、例えば、必要に応じて、上記したような有効成分、添加剤を含有してもよい。添加剤の具体例としては、例えば、上記したような賦形剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、着色剤などが挙げられる。また、平均粒子径が0.4μm以下の炭酸カルシウム以外の流動性改善剤を含有してもよい。
【実施例0035】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【0036】
実験1.流動性改善剤のスクリーニング
炭酸カルシウムの流動性改善効果を評価するために、結晶セルロース(セオラスUF-711(旭化成社製))とマルチトール(アマルティMR-50(三菱商事フードテック社製))の等量混合物に表1に示す炭酸カルシウム4質量%添加し、パウダーフローテスター(BROOK FIELD社製)にて粉体の流動性を評価した。また、比較対象として、従来の流動化改善剤である、微粒二酸化ケイ素、タルク、ケイ酸カルシウムについても同様に実験を行った、(タルク、ケイ酸カルシウムは4質量%、微粒二酸化ケイ素は1質量%)。
【0037】
パウダーフローテスターの結果より破壊包絡線を算出し、破壊包絡線に接するモール応力からそれぞれ単軸崩壊応力と最大主応力を算出した。そして最大主応力が7kPaの際の単軸崩壊応力の値からフローファンクション(最大主応力/単軸崩壊応力)を算出した。
各添加剤添加による最大主応力の変化に対する単軸崩壊応力の変化のグラフを図1に示す。また、単軸崩壊応力に対する最大主応力の比率(最大主応力/単軸崩壊応力)を算出した。実験の結果のグラフを図1に、算出したフローファンクションの値を表1に示す。フローファンクションは値が大きいほど粉体の流動性が高いことを表す。
【0038】
【表1】
【0039】
実験の結果、炭酸カルシウムA~Dを添加した粉末組成物全てにおいて添加なしの粉末組成物と比較して流動性の向上が観察された。特に炭酸カルシウムAを添加した粉末組成物においては、従来の流動化改善剤で最も流動化改善効果が高い微粒二酸化ケイ素を添加した粉末組成物以上の顕著に高い流動性が観察された。
フローファンクションの値を比較したところ、炭酸カルシウムAを添加した粉末組成物においてフローファンクションの値の顕著な増加を認め、炭酸カルシウムAに特に高い流動性改善効果があることが示された。また、炭酸カルシウムAを添加した組成物の安息角の値は44°であり、微粒子酸化ケイ素は47°、添加なしは51°と比較して顕著な流動性の改善効果が観察された。
【0040】
実験2.炭酸カルシウムの平均粒子径の測定
実験1において流動性改善効果が認められた炭酸カルシウムA~Dについて平均粒子径、粒子形態、および結晶特性について測定し、流動性改善効果の要因について検討した。
【0041】
(平均粒子径の測定)
実験1で使用した炭酸カルシウムA~Dについてレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所)を用いて平均粒子径を測定した。炭酸カルシウムAについては平均粒子径が小さくレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置では測定できなかったためゼータ電位・粒径測定装置 ELSZ-1000(大塚電子社製)を用いて測定した。平均粒子径の測定結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
(粒子形態の観察)
粒子形態は、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー社製Scanning electron microscope S-3400N)にて観察した。測定した像を図2に示す。
【0044】
(結晶特性の評価)
粉末X線回折装置MiniFlex600(リガク社製)を用いて炭酸カルシウムA~Dの結晶特性を評価した。測定の結果を図3に示す。
【0045】
以上の実験の結果、以下のことが観察された。
粒子径を測定したところ炭酸カルシウムB~Dは平均粒子径がマイクロオーダーの粒子であり、炭酸カルシウムAは平均粒子径が0.04μmの微細粒子であり、平均粒子径が大きく異なることを確認した。なお、走査顕微鏡の像における大きな粒子は、1次粒子が凝集して形成された10μm程度の大きさの2次粒子である。
粒子形態を比較したところ炭酸カルシウムA、Cは球形の粒子、Bは岩状の粒子、Dは針状の粒子であることを確認した。
結晶特性を比較したところ炭酸カルシウムA~Dでは測定された結晶特性に差は認められなかった。
以上の結果より、流動性改善効果の異なる要因は炭酸カルシウムの粒子径であり、粒子形態、結晶特性が流動性改善効果に影響を与える影響は小さいと判断した。
【0046】
実験3.流動性改善剤の最適添加量
実験1で流動性改善効果が認められた炭酸カルシウムAの最適添加量を明らかにするため、マルチトールと結晶セルロースとの等量混合物からなる粉末組成物(マルチトール:結晶セルロース=50:50)に炭酸カルシウムAを1~6質量%添加し、パウダーフローテスター(BROOK FIELD社製)にて粉体の流動特性を実験1と同様に評価した。実験の結果を図3に、結果より算出したフローファンクションを表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
実験の結果から、図4のグラフに示すように、炭酸カルシウムAを4質量%添加したところ最も粉体の流動性が大きく改善され、6質量%添加したところ4質量%添加よりも粉体の流動性が改善した。フローファンクションの値からも炭酸カルシウムAを4質量%添加したものが最も大きな値を示し、粉体の流動性改善効果が高いことが示唆された。
【0049】
実験4.他の組成の粉末組成物に対する流動性改善効果の確認
炭酸カルシウムAが実験1、実験3で使用したマルチトールを含む粉末組成物以外の粉末組成物に対しても流動性改善効果があることを確認するために、マルチトールと結晶セルロースとの等量混合物からなる粉末組成物(マルチトール:結晶セルロース=50:50)、マルチトールをアスコルビン酸(L-アスコルビン酸100M(Northeast Pharmaceutical Group社製))で置換した(アスコルビン酸:結晶セルロース=50:50)及びグルコン酸亜鉛(グルコン酸亜鉛(冨田製薬社製))で置換した(グルコン酸亜鉛:結晶セルロース=50:50)粉末組成物を作成し、炭酸カルシウムAを4質量%添加して流動性改善効果について試験した。実験及び流動性の測定は上記の実験1と同様の方法で行った。実験の結果を図3に、結果より算出したフローファンクションの値を表4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
結果として、マルチトール、アスコルビン酸を含む粉末組成物において炭酸カルシウムAの添加により粉体の流動性が大きく向上した。グルコン酸亜鉛を含む粉末組成物においても炭酸カルシウムA添加により流動性の向上が認められた。
【0052】
実験5.流動性改善効果が得られる平均粒子径の範囲の確認
どの程度の粒子径から炭酸カルシウムの流動性改善効果が発現するか確認するために実験を行った。炭酸カルシウムDをビーズミルで粉砕し、得られた粉砕物の平均粒子径を実験2と同様の方法で評価するとともに、マルチトールと結晶セルロースとの等量混合物からなる粉末組成物(マルチトール:結晶セルロース=50:50)に4質量%を添加した際の流動性改善効果をパウダーフローテスター(BROOK FIELD社製)にて粉体の流動性を評価した。
ビーズミル粉砕は炭酸カルシウムD10gを水100gに懸濁し、ビーズミル(ダイノーミル MULTI LAB型、ウィリー・エ・バッコーフェン社製)を用いてビーズ0.3mm、回転数8rpm、処理時間30分の粉砕条件で粉砕し、粉砕後懸濁液を凍結乾燥することで粉砕物を得た。
得られた炭酸カルシウムDの粉砕物の流動性試験の結果を図6に、算出されたフローファンクションの値と測定された平均粒子径を表5に示す。
【0053】
【表5】
【0054】
実験の結果として、炭酸カルシウムDをビーズミルにて粉砕した粉砕物の平均粒子径は0.15μmであった。粉砕物の流動性改善効果を試験した粉砕前と比較して粉体の流動性は大きく改善され、平均粒子径が2μm以下の炭酸カルシウムにも流動性改善効果があることが確認された。
【0055】
実験6.流動性改善剤の安定性
微細状態の炭酸カルシウムが安定に存在することができることを確認するために、炭酸カルシウム粉砕物の粉砕後の安定性をリン酸水素ナトリウム粉砕物と比較した。実験はビーズミル粉砕を用いて行い、炭酸カルシウムD又はリン酸水素ナトリウム(フジカリン(富士化学工業社製))10gを水100gに懸濁し、ビーズミル(ダイノーミル MULTI LAB型、ウィリー・エ・バッコーフェン社製)を用いてビーズ0.3mm、回転数8rpm、処理時間30分の粉砕条件で粉砕し、粉砕後懸濁液を凍結乾燥することで粉砕後の微粒子を得た。得られた微粒子の保存安定性を確認するために、常温で4週間保管後、平均粒子径を確認した。それぞれの粒子の、粉砕前、粉砕後、4週間保管後の平均粒子径を、動的光散乱装置(DLS)又はレーザー回折装置にて測定した結果を表6に示す。
【0056】
【表6】
【0057】
リン酸水素カルシウムは粉砕後4週間保管により粒子の凝集を確認した。一方で炭酸カルシウムは粉砕後常温で保管しても粒子の凝集を観察されず、微細状態で安定に存在できることが示唆された。高い流動性改善効果を有する平均粒形0.4μm以下の微細状態で安定に存在できることから、炭酸カルシウムは流動性改善剤として特に適した化合物であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によって、粉体の流動性を改善することができる。これにより、本発明は、均一性に優れた錠剤などの医薬品、医薬部外品、飲む化粧料、飲む化粧品、健康食品(栄養補助食品、栄養機能食品、病者用食品、特定保健用食品、機能性表示食品など)、サプリメント、飼料などを提供することができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6