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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074604
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】三相電力変換装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/02 20060101AFI20220511BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220511BHJP
【FI】
H02P21/02
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184765
(22)【出願日】2020-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100086807
【弁理士】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】郭 中為
(72)【発明者】
【氏名】石渡 洋志
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505BB01
5H505BB02
5H505CC04
5H505EE41
5H505EE60
5H505FF00
5H505GG04
5H505HA03
5H505HA05
5H505HA09
5H505HB01
5H505JJ26
5H505LL22
5H770AA02
5H770AA09
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA21
5H770EA27
5H770EA30
5H770HA02Y
5H770JA10X
(57)【要約】
【課題】二相変調方法における軽負荷時の損失上昇を抑制し、又、非対称型二相変調方法を採用し、コストの上昇を抑えて電力変換効率を向上する。
【解決手段】三相電力変換装置は、三相の電力変換を行うスイッチング回路10と、リアクトルを有し、スイッチング回路10の出力側に設けられたフィルタ20と、非対称型二相変調の駆動パルスS1~S6を出力してスイッチング回路10をオン/オフ動作させる制御部30と、を備えている。制御部30は、軽負荷条件判定部36により、出力電力の小さい軽負荷条件を検出すると、信号選択部42により、二相変調から、三相電圧の三相全てを変調する三相変調に切り替え、駆動パルス生成部43から、三相変調の駆動パルスS1~S6を出力して、スイッチング回路10をオン/オフ動作させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイッチをスイッチングして三相の電力変換を行うスイッチング回路と、
リアクトルを有し、前記スイッチング回路の出力側又は入力側に設けられたフィルタと、
を備える三相電力変換装置の制御方法において、
出力電力が大きい高負荷条件のときには、三相電圧の各相電圧を120°期間毎に順番に固定する二相変調の駆動パルスを出力して前記複数のスイッチをオン/オフ動作させ、
前記出力電力の小さい軽負荷条件を検出すると、前記二相変調から、前記三相電圧の三相全てを変調する三相変調に切り替え、前記三相変調の駆動パルスを出力して前記複数のスイッチをオン/オフ動作させることを特徴とする三相電力変換装置の制御方法。
【請求項2】
複数のスイッチをスイッチングして三相の電力変換を行うスイッチング回路と、
リアクトルを有し、前記スイッチング回路の出力側又は入力側に設けられたフィルタと、
三相電圧の各相電圧を120°期間毎に順番に固定する二相変調の駆動パルスを出力して前記複数のスイッチをオン/オフ動作させる制御部と、
を備える三相電力変換装置において、
前記制御部は、
出力電力の小さい軽負荷条件を検出すると、前記二相変調から、前記三相電圧の三相全てを変調する三相変調に切り替え、前記三相変調の駆動パルスを出力して、前記複数のスイッチをオン/オフ動作させることを特徴とする三相電力変換装置。
【請求項3】
前記複数のスイッチの内、高レベル側のスイッチと低レベル側のスイッチとの特性を異ならせたことを特徴とする請求項2記載の三相電力変換装置。
【請求項4】
前記リアクトルを流れる三相リアクトル電流を検出する電流検出器を備え、
前記制御部は、
検出された前記三相リアクトル電流の三相/二相変換結果から前記軽負荷条件の判定を行うことを特徴とする請求項2又は3記載の三相電力変換装置。
【請求項5】
前記制御部は、
回転座標電流指令により、前記軽負荷条件の判定を行うことを特徴とする請求項2又は3記載の三相電力変換装置。
【請求項6】
前記制御部は、
変調信号を正側にシフトさせ、前記複数のスイッチの内、休止相の高レベル側のスイッチをオンさせることを特徴とする請求項2~5のいずれか1項記載の三相電力変換装置。
【請求項7】
前記制御部は、
変調信号を負側にシフトさせ、前記複数のスイッチの内、休止相の低レベル側のスイッチをオンさせることを特徴とする請求項2~5のいずれか1項記載の三相電力変換装置。
【請求項8】
前記三相電力変換装置は、三相インバータ、及び三相力率改善回路を含む電力変換装置であることを特徴とする請求項2~7のいずれか1項記載の三相電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流(DC)電力を三相交流(AC)電力に変換する三相インバータ装置、三相交流電力の力率を改善する三相力率改善回路(以下「三相PFC回路」という。)等を含む三相電力変換装置と、その制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、DC/AC変換を行うモータ駆動用の三相インバータ装置の効率改善のために、三相の1相分のスイッチング動作を休止させる二相変調方法が利用されている(例えば、二相変調モータ制御装置を記載した特許文献1、モータ駆動制御装置及びヒートポンプ機器を記載した特許文献2、及び三相電圧形変換器のための二相PWM法を記載した非特許文献1)。つまり、二相変調方法では、変調信号を遷移(シフト)させることにより、常に、三相スイッチング回路中の一相分のスイッチのオン/オフ動作を停止させている。
【0003】
二相変調方法は、休止する相の選び方の違いで、60°期間毎に休止相を切り替えるπ/3固定方法の二相変調と、120°期間毎に休止相を切り替える2π/3固定方法の二相変調(以下、「非対称型二相変調」という。)とがあり、モータの動作状態により変調方法を選択するものが提案されている(特許文献1)。更に、負荷条件によって二相変調方法と三相変調方法の切り替えを行い、動作の最適化を行う方法も提案されている。特に、特許文献2では、高負荷条件を検出し、制御精度を満足させるために三相変調方法への切り替えを行っている。三相変調方法では、三相スイッチング回路中のすべてのスイッチをオン/オフ動作させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-229676号公報
【特許文献2】特開2017-118755号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】電気学会論文誌(産業応用部門誌)(IEEJ Transactions on Industry Applications)138[2](2018)p.113-121
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図10は、従来の課題を説明するための二相変調方法によるリアクトル鉄損の上昇の測定結果例を示す図である。
なお、図10の補正説明をすれば、次の(a),(b)のことが言える。
(a) モータ駆動用インバータ装置にフィルタがないため、リアクトル損失が発生しない。
(b) 系統連系インバータ装置や正弦波電圧インバータ装置について、変調方法によるリアクトル鉄損への影響が検討された従来文献も見当たらない。
【0007】
従来の特許文献1,2及び非特許文献1に記載された二相変調方法の技術は、電力変換部に、リアクトル(L)とコンデンサ(C)のLC構成、又はLCL構成等の高調波成分除去用のフィルタを有しないモータ駆動用インバータ装置に特化した内容であり、出力フィルタを有するインバータ装置の検討が行われていない。二相変調方法を、出力フィルタを有するインバータ装置に適用した場合、図10に示すように、リアクトル鉄損損失(W)は、二相変調方法の場合には、三相変調方法に比べて大きくなる。つまり、軽負荷条件においては、スイッチング損失が少ないため、その損失改善効果が低下すると共に、フィルタにおけるリアクトル損失が上昇することにより、鉄損損失が悪化する問題がある。又、非対称型二相変調におけるデバイス損失であるスイッチの非対称特性を利用した効率改善が検討されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の三相電力変換装置の制御方法は、複数のスイッチをスイッチングして三相の電力変換を行うスイッチング回路と、リアクトルを有し、前記スイッチング回路の出力側又は入力側に設けられたフィルタと、を備える三相電力変換装置の制御方法である。そして、出力電力が大きい高負荷条件のときには、三相電圧の各相電圧を120°期間毎に順番に固定する非対称型二相変調の駆動パルスを出力して前記複数のスイッチをオン/オフ動作させ、前記出力電力の小さい軽負荷条件を検出すると、前記二相変調から、前記三相電圧の三相全てを変調する三相変調に切り替え、前記三相変調の駆動パルスを出力して前記複数のスイッチをオン/オフ動作させることを特徴とする。
【0009】
又、本発明の三相電力変換装置は、複数のスイッチをスイッチングして三相の電力変換を行うスイッチング回路と、リアクトルを有し、前記スイッチング回路の出力側又は入力側に設けられたフィルタと、三相電圧の各相電圧を120°期間毎に順番に固定する非対称型二相変調の駆動パルスを出力して前記複数のスイッチをオン/オフ動作させる制御部と、を備えている。そして、前記制御部は、出力電力の小さい軽負荷条件を検出すると、前記二相変調から、前記三相電圧の三相全てを変調する三相変調に切り替え、前記三相変調の駆動パルスを出力して、前記複数のスイッチをオン/オフ動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の三相電力変換装置及びその制御方法によれば、負荷条件により変調モードの切り替えを行っているので、二相変調方法における軽負荷時の損失上昇を抑制できる。又、例えば、非対称型二相変調方法を採用し、特性の違うスイッチを配置することにより(即ち、スイッチの非対称配置により)、コストの上昇を抑え、電力変換効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例1を示す三相電力変換装置(例えば、三相インバータ装置)を示す回路図
図2図1の三相インバータ装置の構成を示す機能ブロック図
図3図2の変調信号を正側にシフトさせる二相変調例を示す波形図
図4図2の変調信号を負側にシフトさせる二相変調例を示す波形図
図5図2の軽負荷条件判定処理を示すフローチャート
図6図1のL側スイッチの損失分析(スイッチ12がオフ状態)を示す回路図
図7図1のL側スイッチの損失分析(スイッチ12がオン状態)を示す回路図
図8】三相変調方法と非対称型二相変調方法との損失比較を示す分析図
図9】本発明の実施例2における三相電力変換装置(例えば、三相インバータ装置)の電力変換部を示す回路図
図10】従来の課題を説明するための二相変調方法によるリアクトル鉄損の上昇の測定結果例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例0013】
(実施例1の構成)
図1は、本発明の実施例1を示す三相電力変換装置(例えば、三相インバータ装置)を示す回路図である。
この三相インバータ装置は、直流電源1から出力される直流電力を三相交流電力に変換する電力変換部2と、この電力変換部2を制御する制御部30と、を有し、その電力変換部2から出力される三相交流電力を負荷3へ供給する装置である。
【0014】
電力変換部2は、入力される直流電力を三相交流電力に変換するスイッチング回路10と、その変換された三相交流電力の高調波成分を除去するフィルタ20と、を有している。スイッチング回路10は、制御部30から供給される複数の駆動パルスS1~S6により、入力される直流電力をスイッチングして三相交流電力に変換する回路であり、U相の高レベル(以下「H」という。)側スイッチ11及び低レベル(以下「L」という。)側スイッチ12と、V相のH側スイッチ13及びL側スイッチ14と、W相のH側スイッチ15及びL側スイッチ1615と、を有し、それらがフルブリッジ接続されている。各スイッチ11~16には、回生(リカバリ)用のダイオード11a~16aが逆並列状態にそれぞれ接続されている。
【0015】
スイッチング回路10をオン/オフ動作させる変調方法には、U,V,W全相のスイッチ11~16をオン/オフ動作させる三相変調方法と、休止相のL側スイッチ12,14,16又はH側スイッチ11,13,15のいずれか一方をオンさせる非対称型二相変調方法と、がある。本実施例1では、後述の理由により、非対称型二相変調方法を採用し、L側スイッチをオンさせる非対称型二相変調方法の場合、H側スイッチ11,13,15としてスイッチング損失特性を重視した(即ち、スイッチング損失の小さい)スイッチ素子(例えば、電流定格の小さな小容量品)、L側スイッチ12,14,16としてオン抵抗を重視した(即ち、オン抵抗の小さい)スイッチ素子(例えば、電流定格の大きな大容量品)を配置することが望ましい。これに対して、H側スイッチをオンさせる非対称型二相変調方法の場合は、スイッチ特性を上記とは逆配置にすることが望ましい。小容量品又は大容量品のスイッチ11~16は、例えば、MOS型電界効果トランジスタ(MOSFET)、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)、SiC等の化合物半導体素子といったパワー半導体素子により構成されている。
【0016】
フィルタ20は、スイッチ11,12の接続点、スイッチ13,14の接続点、及びスイッチ15,16の接続点に分岐接続された三相のリアクトル21,22,23と、この三相のリアクトル21,22,23と負荷3との間に分岐接続された三相のコンデンサ24,25,26と、のLCフィルタにより構成されている。
【0017】
図2は、図1の三相インバータ装置の構成を示す機能ブロック図である。
出力電流Ioutを出力する電力変換部2内には、リアクトル(例えば、21)を流れる三相のインバータ電流Iinvを検出する電流検出器27が設けられている。
【0018】
制御部30内には、電流検出器27に接続された三相/二相変換部31が設けられている。三相/二相変換部31は、電流検出器27で検出された三相のインバータ電流Iinvの電流検出結果を二相の回転座標電流値であるd軸電流値id及びq軸電流値iqに変換するものであり、この出力側に、2つの減算器32,33及び電流値換算部34が接続されている。一方の減算器32は、入力される電流指令であるid指令値及びiq指令値の内、そのid指令値からd軸電流値idを減算して電流誤差を求めるものであり、この出力側に、電流制御部37が接続されている。他方の減算器33は、iq指令値からq軸電流値iqを減算して電流誤差を求めるものであり、この出力側に、電流制御部38が接続されている。
【0019】
電流値換算部34は、d軸電流値id及びq軸電流値iqを、皮相電力に対応した電流値iso(=√(id+iq))に変換するものであり、この出力側に、交流周期平均フィルタ処理部35が接続されている。交流周期平均フィルタ処理部35は、入力される電流値isoを安定させるための交流周期平均やフィルタ処理を行って出力電流値isを送出するものであり、この出力側に、軽負荷条件判定部36が接続されている。軽負荷条件判定部36は、所定閾値(例えば、第1閾値th1及び第2閾値th2、但し、th1>th2)を有し、入力される出力電流値isと第1閾値th1及び第2閾値th2との大小を比較し、出力電流値is>第1閾値th1のときには、重負荷と判定して二相変調の選択信号st2を出力し、出力電流値is<第2閾値th2のときには、軽負荷と判定して三相変調の選択信号st3を出力し、第1閾値th1>出力電流値is>第2閾値th2のときには、前回の判定結果を保持して前回判定結果の選択信号st2又はst3を出力するものであり、この出力側に、信号選択部42が接続されている。
【0020】
又、一方の電流制御部37は、フィードバック制御等の制御演算により、減算器32から出力される電流誤差を零にするような二相のd軸変調信号mdを生成するものであり、この出力側に、二相/三相変換部39が接続されている。他方の電流制御部38は、フィードバック制御等の制御演算により、減算器33から出力される電流誤差を零にするような二相のq軸変調信号mqを生成するものであり、この出力側に、二相/三相変換部39が接続されている。二相/三相変換部39は、入力される二相のd軸変調信号md及びq軸変調信号mqをU,V,W三相の変調信号msU,msV,msWに変換するものであり、この出力側に、信号変換部40及び信号処理部41が接続されている。信号変換部40は、入力されるU,V,W三相の変調信号msU,msV,msWをU,V,Wの二相変調信号m2U,m2V,m2Wに変換するものであり、この出力側に、信号選択部42が接続されている。信号処理部41は、入力されるU,V,W三相の変調信号msU,msV,msWに対し、変調率中央シフト処理を行ってU,V,Wの三相変調信号m3U,m3V,m3Wを生成するものであり、この出力側に、信号選択部42が接続されている。
【0021】
信号選択部42は、出力電流値is>第1閾値th1の重負荷のときには、選択信号st2に基づき、二相変調信号m2U,m2V,m2Wを選択して変調信号mU,mV,mWを出力し、第2閾値th2>出力電流値isのときには、選択信号st3に基づき、三相変調信号m3U,m3V,m3Wを選択して変調信号mU,mV,mWを出力し、第1閾値th1>出力電流値is>第2閾値th2のときには、記憶している前回の判定結果を保持し、二相変調信号m2U,m2V,m2W又は三相変調信号m3U,m3V,m3Wを選択して変調信号mU,mV,mWを出力するものであり、この出力側に、駆動パルス生成部43が接続されている。駆動パルス生成部43は、入力される変調信号mU,mV,mWと搬送波(例えば、三角波)とを比較してパルス幅変調(以下「PWM」という。)を行い、複数の駆動パルスS1~S6を生成してスイッチ11~16をオン/オフ動作させるものである。
【0022】
図1の電力変換部2の動作)
図1において、直流電源1から、三相インバータ装置の電力変換部2に直流電力が供給されると、その直流電力が、電力変換部2内のスイッチング回路10に入力される。スイッチング回路10では、制御部30から供給される駆動パルスS1~S6により、H側スイッチ11,13,15とL側スイッチ12,14,16とが、デッドタイムをおいて相補的にオン/オフ動作し、入力された直流電力が三相交流電力に変換される。変換された三相交流電力は、フィルタ20によって高調波成分が除去され、負荷3へ供給される。
【0023】
図2の制御部30の制御方法)
図2の制御部30では、以下のようにして駆動パルスS1~S6を生成し、電力変換部2をスイッチング制御する。
【0024】
電力変換部2が動作してリアクトル21~23に三相のインバータ電流1invが流れると、これが電流検出器27で検出され、この電流検出結果が三相/二相変換部31に入力される。三相/二相変換部31は、入力された電流検出結果を二相の電流値に変換し、回転座標電流値であるd軸電流値id及びq軸電流値iqを生成する。生成されたd軸電流値idは、電流値換算部34及び減算器32へ入力される共に、生成されたq軸電流値iqも、電流値換算部34及び減算器33へ入力される。電流値換算部34は、入力されたd軸電流値id及びq軸電流値iqを、皮相電力に対応した電流値iso(=√(id+iq))に換算し、交流周期平均フィルタ処理部35へ与える。
【0025】
交流周期平均フィルタ処理部35は、与えられた電流値isoに対し、計算結果を安定させるための交流周期平均やフィルタ処理を行って出力電流値isを求め、その出力電流値isを軽負荷条件判定部36へ入力する。軽負荷条件判定部36は、入力された出力電流値isと所定閾値(例えば、第1閾値th1及び第2閾値th2、但し、th1>th2)との比較を行い、出力電流値is<第2閾値th2のときには、負荷3が軽負荷であると判定して三相変調の選択信号st3を出力し、出力電流値is>第1閾値th1のときには、負荷3が重負荷であると判定して二相変調の選択信号st2を出力し、第1閾値th1>出力電流値is>第2閾値th2のときには、記憶している前回の判定結果の選択信号st2又はst3を出力し、それらの選択信号st3又はst2を信号選択部42へ与える。
【0026】
一方、電流指令であるid指令値及びiq指令値が制御部30に入力されると、そのid指令値が減算器32に与えられると共に、そのiq指令値が減算器33に与えられる。減算器32では、id指令値からd軸電流値idを減算して電流誤差を求め、その電流誤差を電流制御部37へ入力する。同様に、減算器33では、iq指令値からq軸電流値iqを減算して電流誤差を求め、その電流誤差を電流制御部38へ入力する。電流制御部37は、入力された電流誤差に対してフィードバック制御等の制御演算を行い、その電流誤差を零にするような二相のd軸変調信号mdを出力して二相/三相変換部39へ入力する。同様に、電流制御部38は、入力された電流誤差に対してフィードバック制御等の制御演算を行い、その電流誤差を零にするような二相のq軸変調信号mqを出力して二相/三相変換部39へ入力する。
【0027】
二相/三相変換部39は、入力された二相のd軸変調信号md及びq軸変調信号mqを三相の変調信号msU,msV,msWに変換し、信号変換部40及び信号処理部41に与える。信号変換部40は、与えられた三相の変調信号msU,msV,msWを二相変調信号m2U,m2V,m2Wに変換し、信号選択部42へ入力する。信号処理部41は、与えられた三相の変調信号msU,msV,msWに対し、変調率の中央シフト処理を行って三相変調信号m3U,m3V,m3Wを生成し、信号選択部42へ入力する。
【0028】
信号選択部42は、軽負荷条件判定部36から与えられた選択信号が、三相変調の選択信号st3の場合には、入力された三相変調信号m3U,m3V,m3Wを選択してその変調信号mU,mV,mW(=m3U,m3V,m3W)を駆動パルス生成部43へ入力し、与えられた選択信号が、二相変調の選択信号st2の場合には、入力された二相変調信号m2U,m2V,m2Wを選択してその変調信号mU,mV,mW(=m2U,m2V,m2W)を駆動パルス生成部43へ入力する。駆動パルス生成部43は、入力された変調信号mU,mV,mW(=m3U,m3V,m3W又はm2U,m2V,m2W)と三角波とを比較してPWMを行い、三相変調又は二相変調の駆動パルスS1~S6を出力してスイッチ11~16をオン/オフ動作させる。
【0029】
(実施例1の制御方法の要点)
図3は、図2の変調信号を正側にシフトさせる二相変調例を示す波形図である。更に、図4は、図2の変調信号を負側にシフトさせる二相変調例を示す波形図である。図3及び図4の横軸は位相(°)、縦軸はデューティ比である。
【0030】
二相変調方法については、特許文献1に記載されているように、休止する相の選び方の違いで、60°期間毎に休止相を切り替えるπ/3固定方法の二相変調と、120°期間毎に休止相を切り替える非対称型二相変調とがある。本実施例1では、非対称型二相変調を採用し、図2の変調信号を正側にシフトさせる二相変調の例が図3に示され、図2の変調信号を負側にシフトさせる二相変調の例が図4に示されている。
【0031】
図2の信号変換部40に入力されるU,V,W三相の変調信号msU,msV,msWからなる変調信号を、図3に示すように、正側にシフトさせた場合、複数のスイッチ11~16の内、休止相のH側のスイッチ(11,13,15のいずれか1つ)がオンする。
これに対して、図4に示すように、変調信号を負側にシフトさせた場合、休止相のL側のスイッチ(12,14,16のいずれか1つ)がオンする。つまり、図4の場合は、変調信号をL側にシフトし、一相分のデューティ比を零までシフトさせることにより、スイッチング周期において、H側スイッチ(11,13,15のいずれか1つ)をオフし、L側スイッチ(12,14,16のいずれか1つ)をオンすることになるので、オン/オフのスイッチング動作が休止することになる。
【0032】
パワーエレクトロニクス分野(電力用半導体スイッチング素子を利用して電力の変換や制御とそれらの応用を取り扱う技術分野)において、リアクトル損失測定が共通課題であるが、従来、特に二相変調方法によるリアクトル損失への影響についての検討事例が確認されていない。そこで、本実施例1では、今回開発の計測手法を用いて変調方法によるリアクトル鉄損への影響を明らかにした上、図3及び図4に示す非対称型二相変調を採用し、スイッチ11~16の非対称配置を提案して三相インバータ装置の高効率化を図っている。更に、二相変調方法は、スイッチング損失を大幅に低減できる一方、リアクトル鉄損上昇の問題がある。スイッチング損失は出力電力に略比例しているが、リアクトル損失の出力電力への依存が少ない。軽負荷時に、三相変調方法に比べ、二相変調方法を採用した結果により損失上昇の問題があるため、本実施例1では、図2の軽負荷条件判定部36により、軽負荷条件を判定し、信号選択部42により、変調方法の切り替えを行い、軽負荷の損失低減を図っている。
【0033】
図5は、図2の軽負荷条件判定部36及び信号選択部42の軽負荷条件判定処理を示すフローチャートである。
この図5のフローチャートにおいて、軽負荷条件判定処理が開始されると、ステップST1において、軽負荷条件判定部36は、交流周期平均フィルタ処理部35から入力される出力電流値isが、第1閾値th1よりも大きいか否か(is>th1)を判定し、大きいときには(Yes)、重負荷と判定し、選択信号st2を信号選択部42へ出力してステップST2へ進み、小さいときには(No)、ステップST3へ進む。ステップST2において、信号選択部42は、信号変換部40から出力された二相変調信号m2U,m2V,m2Wを選択し、それを変調信号mU,mV,mWとして駆動パルス生成部43へ出力し、処理を終了する。
【0034】
ステップST3において、軽負荷条件判定部36は、入力される出力電流値isが第2閾値th2よりも小さいか否か(is<th2)を判定し、小さいときには(Yes)、軽負荷と判定し、選択信号st3を信号選択部42へ出力してステップST4へ進み、大きいときには(No)、ステップST5へ進む。ステップST4において、信号選択部42は、信号処理部41から出力された三相変調信号m3U,m3V,m3Wを選択し、それを変調信号mU,mV,mWとして駆動パルス生成部43へ出力し、処理を終了する。
ステップST5において、信号選択部42は、前回の判定結果を保持し、二相変調信号m2U,m2V,m2W又は三相変調信号m3U,m3V,m3Wを選択し、変調信号mU,mV,mWとして駆動パルス生成部43へ出力し、処理を終了する。
【0035】
この図5のフローチャートの軽負荷条件判定処理は、処理自体が非常にシンプル(単純)なものであり、インバータ電流Iinvから出力電流値isを検出し、第1閾値th1を超えたら重負荷と判定して二相変調方法を選択し、第2閾値th2を下回ったら、軽負荷と判定して三相変調方法を選択する。頻繁の切り替えを避けるため、第2閾値th2は、第1閾値th1にヒステリシスを減算した値である。
リアクトル損失の比較分析(検出を含む。)は難しい課題であり、このような課題を本実施例1では巧みに解決している。
【0036】
(実施例1の効果)
図6は、図1のL側スイッチの損失分析(スイッチ12がオフ状態)を示す回路図である。更に、図7は、図1のL側スイッチの損失分析(スイッチ12がオン状態)を示す回路図である。
【0037】
この図6及び図7には、U相電流が正であるときのL側スイッチ12の損失分析図が示されている。H側スイッチ11をオフした後に、L側スイッチ12がオンする(図6)。ドレイン-ソース間に殆ど電圧が掛からない状態で、スイッチ12をオンするため、このスイッチ12のターンオン損失は殆ど発生しない。又、図7の状態から、スイッチ12をオフするときに、ダイオード12aがオンするため、スイッチ12のターンオフ損失も殆ど発生しない。次に、スイッチ11をターンオンするときに、ダイオード12aにリカバリ電流が流れるが、スイッチ11として例えばSiCスイッチ素子等を使用した場合、リカバリ損が少ないので、その影響は非常に小さい。即ち、電流が正である間に、L側スイッチ12が同期整流の役割になって、スイッチング損失は殆ど発生しない。
電流が負である間に、スイッチ12のスイッチング損失が発生するが、電流の大きい120°期間において、スイッチ12がオン状態に保持されるため、導通損失は増えるが、スイッチング損失が大幅に低減される。
【0038】
図8は、三相変調方法と休止相のL側スイッチをオンさせる非対称型二相変調方法との損失比較を示す分析図である。
図8において、符号*1は三相変調方法、符号*2は二相変調方法である。H側スイッチ11の導通期間の減少により導通損が減るが、スイッチング損失が殆ど変わらない。L側スイッチ12の導通損失が増える結果になるが、スイッチング損失が大幅に減少する。
【0039】
この分析結果に基づき、本実施例1では、非対称型二相変調方法を採用し、H側スイッチ11,13,15としてスイッチング損失特性を重視したスイッチ素子、L側スイッチ12,14,16にオン抵抗を重視したスイッチ素子を配置することにより、コスト上昇を抑え、効率の改善を行っている。H側スイッチ11,13,15に流れる電流が減少するため、例えば、H側スイッチ11,13,15に小容量品(電流定格)、L側スイッチ12,14,16に大容量品(電流定格)を配置することで、コストの上昇を抑え、効率改善が図れる。
【0040】
(実施例1の変形例)
本実施例1では、次の(1)~(3)のように変更(変形)しても良い。
(1) 実施例1では、休止モードの作り方としてL側スイッチ12,14,16をオンさせる図4の非対称型二相変調方法を例として説明したが、H側スイッチ11,13,15をオンさせる図3の非対称型二相変調方法についても、スイッチ特性を逆配置することにより、同様な改善効果が得られる。
(2) 実施例1では、軽負荷条件判定のために、インバータ電流Iinvの三相/二相変換結果を利用しているが、それに代えて、以下のような信号を利用しても良く、上記と略同様の効果が得られる。
・id電流指令値、iq電流指令値
・インバータ電流Iinvの実効値演算結果
・出力電流Ioutの三相/二相変換結果
・出力電流Ioutの実効値変換結果
・図示しないが、三相インバータ装置の出力電力演算結果
(3) 実施例1の三相インバータ装置では、負荷3に電力を供給しているがその負荷3に代えて、系統電源に電力を供給する構成にしても良い。
【実施例0041】
図9は、本発明の実施例2における三相電力変換装置(例えば、三相インバータ装置)の電力変換部を示す回路図である。この図9において、実施例1を示す図1中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0042】
本実施例2の三相インバータ装置では、実施例1のLC型のフィルタ20に代えて、LCL型のフィルタ20Aが設けられている。LCL型のフィルタ20Aは、直列に接続された三相のリアクトル21,22,23と新たに追加された三相のリアクトル51,52,53との間に、三相のコンデンサ24,25,26が分岐接続されている。その他の構成は、実施例1と同様である。
本実施例2では、LCL型のフィルタ20Aを設けているので、実施例1に比べて、高調波の除去精度が向上する。その他は、実施例1と略同様の作用効果を奏する。
【実施例0043】
本発明の三相電力変換装置は、三相インバータ装置の他に、三相PFC回路等にも適用できる。
例えば、実施例3として、図示しないが、ブリッジレス型の三相PFC回路の電力変換部は、交流電源と、リアクトルを有するフィルタ20又は20Aと、整流用のスイッチング回路10と、平滑回路と、負荷と、が直列に接続されている。このような電力変換部を、図2のような制御部30にて制御する場合、実施例1のように、軽負荷条件を判定し、二相変調又は三相変調を選択して駆動パルスS1~S6を生成する構成にしても、実施例1と略同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0044】
2 電力変換部
10 スイッチング回路
11~16 スイッチ
20,20A フィルタ
21~23,51~53 リアクトル
24~26 コンデンサ
27 電流検出器
30 制御部
31 三相/二相変換部
32,33 減算器
34 電流値換算部
35 交流周期平均フィルタ処理部
36 軽負荷条件判定部
37,38 電流制御部
39 二相/三相変換部
40 信号変換部
41 信号処理部
42 信号選択部
43 駆動パルス生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10