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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074626
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】映像処理方法
(51)【国際特許分類】
   G03B 21/14 20060101AFI20220511BHJP
   H04N 5/74 20060101ALI20220511BHJP
   G09G 5/00 20060101ALI20220511BHJP
   G09G 5/36 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G03B21/14 Z
H04N5/74 C
H04N5/74 Z
G09G5/00 510B
G09G5/36 520P
G09G5/00 510V
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184814
(22)【出願日】2020-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】520315431
【氏名又は名称】株式会社IMAGICA EEX
(71)【出願人】
【識別番号】516371195
【氏名又は名称】株式会社ライブ・ビューイング・ジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諸石 治之
(72)【発明者】
【氏名】藤木 紀彰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 禎展
(72)【発明者】
【氏名】山田 卓
【テーマコード(参考)】
2K203
5C058
5C182
【Fターム(参考)】
2K203FA64
2K203FA82
2K203FA93
2K203GB55
2K203GB62
2K203MA01
5C058AB07
5C058BA23
5C058BA35
5C058BB25
5C058EA03
5C058EA38
5C182AA04
5C182AA11
5C182AC43
5C182BA14
5C182BA75
5C182BB04
5C182BB12
5C182BC01
5C182CA02
5C182CA21
5C182CB12
5C182CB44
5C182CC02
5C182CC24
(57)【要約】
【課題】豊かな表現力をもつ高品質の映像を実現し得る映像処理方法を提供する。
【解決手段】高画素数にて収録された元映像から切り抜かれた低画素数の映像を用い、複数の映写面を備えたマルチスクリーンに映写する映像を作成する。映写面は横並びに配置し、高画素数の元映像から、横並びに配置された全映写面分の映像を一個の低画素数の映像として切り抜いた映像を用いて映像を作成する。複数の映写面同士は互いに鈍角をなし、且つ互いに隙間なく隣接するように配置する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高画素数にて収録された元映像から切り抜かれた低画素数の映像を用い、
複数の映写面を備えたマルチスクリーンに映写する映像を作成すること
を特徴とする映像処理方法。
【請求項2】
前記マルチスクリーンを構成する複数の映写面が横並びに配置され、
高画素数の元映像から、横並びに配置された全映写面分の映像を一個の低画素数の映像として切り抜いた映像を用いて映像を作成すること
を特徴とする請求項1に記載の映像処理方法。
【請求項3】
前記マルチスクリーンを構成する複数の映写面同士は互いに鈍角をなし、且つ互いに隙間なく隣接するように配置されること
を特徴とする請求項2に記載の映像処理方法。
【請求項4】
前記マルチスクリーンは3面の映写面を備えて構成されること
を特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の映像処理方法。
【請求項5】
各映写面に相当する映像を複数段に組んだ一個の映像データを作成すること
を特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の映像処理方法。
【請求項6】
上映時には、一個の映像データから、各映写面に相当する映像データを分割映像データとして抜き出すと共に、前記マルチスクリーンを構成する各映写面に対応する各映写装置に入力すること
を特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の映像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映画館等にて上映される映像を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、演劇やコンサート等の模様を撮影し、その映像データを映画館等の別の場所へ転送して上映する、ライブビューイングと称される上映形態による興行が盛んに行われている。こうした興行では、大スクリーンでの映像提供により、観客は実際に舞台を観ている状態に近い体験を得ることができるようになっている。
【0003】
尚、映画館等での上映に用いられる映像技術一般に関連する先行技術文献としては、例えば、下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-28502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、映画館では、アスペクト比16:9程度のスクリーンが観客席の正面中央に設置されていることが通常である。無論これは、映画の分野における一般的な映像の規格に対応した設定であるが、一方で、演劇やコンサートでは、広い舞台を隅々まで活用した演出がなされることも多く、上記したような通常の映画館のスクリーンでは、必ずしもそれらを十全に表現できていなかった。
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑み、豊かな表現力をもつ高品質の映像を実現し得る映像処理方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、高画素数にて収録された元映像から切り抜かれた低画素数の映像を用い、複数の映写面を備えたマルチスクリーンに映写する映像を作成することを特徴とする映像処理方法にかかるものである。
【0008】
本発明の映像処理方法においては、前記マルチスクリーンを構成する複数の映写面を横並びに配置し、高画素数の元映像から、横並びに配置された全映写面分の映像を一個の低画素数の映像として切り抜いた映像を用いて映像を作成することができる。
【0009】
本発明の映像処理方法においては、前記マルチスクリーンを構成する複数の映写面同士は互いに鈍角をなし、且つ互いに隙間なく隣接するように配置することができる。
【0010】
本発明の映像処理方法において、前記マルチスクリーンは3面の映写面を備えて構成することができる。
【0011】
本発明の映像処理方法においては、各映写面に相当する映像を複数段に組んだ一個の映像データを作成することができる。
【0012】
本発明の映像処理方法において、上映時には、一個の映像データから、各映写面に相当する映像データを分割映像データとして抜き出すと共に、前記マルチスクリーンを構成する各映写面に対応する各映写装置に入力することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の映像処理方法によれば、豊かな表現力をもつ高品質の映像を実現するという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の映像処理方法を実施する手順の一例を説明するフローチャートである。
図2図1の工程における映像データの処理の流れを説明する概念図である。
図3図1の手順を実行可能なシステムの一例を示すブロック図である。
図4】撮像装置によって取得される映像の一例を概念的に示す図である。
図5】撮像装置によって取得される映像の別の一例を概念的に示す図である。
図6】編集後の映像の一例を概念的に示す図である。
図7】編集後の映像の別の一例を概念的に示す図である。
図8】マスタリング後の映像の一例を概念的に示す図である。
図9】スクリーンに映写される映像の一例を概念的に示す図である。
図10】スクリーンに映写される映像の別の一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0016】
図1は本発明の実施による映像処理方法の手順の一例を示すフローチャート、図2図1の工程における映像データの処理の流れを説明する概念図であり、図3図1の手順を実行可能なシステムの一例を示している。
【0017】
まず、システム構成について説明する。図3に示す例においては、収録地である本会場P1で元の映像を収録し、これに編集等の処理を適宜加えて完成した映像を、上映地である上映会場P2にて上映するようになっている。本会場P1としては劇場、コンサート会場、スポーツ競技場、その他各種の施設が想定でき、上映会場P2としては映画館等、映像を上映できる仕組みを備えた各種の施設が想定できる。
【0018】
本会場P1には、対象の映像を映像データとして取得する撮像装置1と、本会場P1内の音を音声データとして取得する録音装置2が備えられている。ここに示した例では、撮像装置1として、第一の撮像装置1a、第二の撮像装置1bおよび第三の撮像装置1cの計3台が設けられている。尚、ここに示したのはあくまで模式図であって、実際の撮像装置1や録音装置2の配置や設置台数は、対象となる収録地の規模や形状、音響等の各種条件に応じて適宜変更し得る(後述する、上映会場P2に設置されるスクリーン5やスピーカ6といった各種装置についても同様である)。
【0019】
撮像装置1と録音装置2で取得されたデータは、本データを処理するデータ処理装置(本データ処理装置)3に格納され(図3中に本データをDの符号にて示す)、該本データ処理装置3と、本データを複製した副データを処理するデータ処理装置(副データ処理装置)4による処理を経て(副データをD1の符号にて示す)、上映会場P2にて上映される。
【0020】
映像を収録したデータの処理手順については後述するが、ここで、以下の説明における「本データ」や「副データ」、「映像データ」、「音声データ」といった語について説明しておく。
【0021】
本データDは、撮像装置1と録音装置2によって収録され、その後、各種の編集・加工を経て完成に至る一連のデータを指す。つまり、収録工程(後述する)において撮像装置1と録音装置2によって収録された映像データと音声データ、これらにオンライン編集(後述する)を施した状態のデータ、さらにマスタリング(後述する)を施した完成データ、上映工程(後述する)に使用する上映用のデータは、いずれも本データDに該当する。本データDは、映像データと音声データを含み、映像データは、高解像度の撮像装置1によって収録される高画素数の映像データ(高解像度データ)や、低解像度の撮像装置1によって収録される低画素数の映像データ(低解像度データ)、高解像度データに含まれる高画素数の映像を切り抜いて作成される低画素数の映像データを含む(尚、ここでいう「高画素数」「低画素数」の定義については、後に説明する)。また、上映時には、本データDの映像データから、分割再生装置9(後述する)により分割映像データV1~V3が作成される。副データD1は、オフライン編集(後述する)に用いるために本データDから複製されるデータであり、映像データと音声データを含む。
【0022】
システム構成の説明に戻る。上映会場P2にはスクリーン5とスピーカ6が設置されており、映写装置7からスクリーン5に映像を映写しつつ、スピーカ6から音声を出力できるようになっている。
【0023】
スクリーン5は、複数の映写面をもつマルチスクリーンとして構成されており、ここに示した例の場合、左映写面5a、中央映写面5bおよび右映写面5cの3つの映写面を備えている。横並びに一列に配置された左映写面5a、中央映写面5b、右映写面5cは、各々が例えば16:9程度のアスペクト比を備えた矩形の平面をなしており、互いに鈍角をなしつつ鉛直な辺を接して隙間なく隣接している。隣接する映写面同士のなす角(左映写面5aと中央映写面5b、中央映写面5bと右映写面5cのなす角)は、140°以上160°以下とすると適当である。一方、映写装置7としては第一の映写装置7a、第二の映写装置7bおよび第三の映写装置7cが設けられており、左映写面5aには第一の映写装置7aから、中央映写面5bには第二の映写装置7bから、右映写面5cには第三の映写装置7cから、それぞれ映像が映写されるようになっている。
【0024】
スピーカ6と映写装置7による上映は、上映制御装置8により制御される。上映制御装置8は、本データDを再生し、その映像信号と音声信号を外部へ出力する装置である。
【0025】
ここで、第一~第三の各映写装置7a~7cに対しては、それぞれの映写すべき映像に相当するデータが上映制御装置8から分割再生装置9を介して別々に送信される。分割再生装置9は、後述するように、本データ処理装置3による処理を経た一個の本データDから、各映写装置7a~7cへ割り当てるデータを分割映像データV1~V3として取り出し、各映写装置7a~7cへ送信するようになっている。
【0026】
次に、上記したシステムによる映像の取得、処理および上映の手順について説明する。
【0027】
本発明は、8K等で収録した比較的高画素数の元映像(例えば図4参照)から一部を切り抜いた映像を用いてマルチスクリーンに映写する映像(例えば図6参照)を作成し、それを図9に示すように上映することを趣旨としている。切り抜かれた映像や、それを用いて作成された映像は元映像より画素数が少ないものの、元映像の画素数が大きいので、大画面での上映に支障のない十分な画素数を確保することができる。
【0028】
尚、以下の説明では「高画素数」「低画素数」といった語を使用するが、これは切り抜かれる前の元映像と、切り抜かれた後の映像(処理後の映像)との比較における相対的な画素数の多さを示しているに過ぎず、一般的な「高画素数」「低画素数」の意味とは必ずしも合致しないことを断っておく。すなわち、本明細書では、図4に示すような広範囲を高解像度で映した元映像を「高画素数」、それより小さい画素数で収録された映像や、元映像から切り抜いて作成された映像を「低画素数」と便宜的に述べているのであって、例えば本明細書中に「低画素数の映像」という表現が登場した場合、その画素数は例えば長辺1920ピクセル(2K相当)や3840ピクセル(4K相当)であり、出願時現在の技術水準における一般的な「低画素数」には当てはまらないことに注意されたい。また逆に、今後の映像技術の発展の如何によっては、例えば8Kの画素数が「高画素数」と扱われなくなることも可能性として想定できるが、そういった状況下において、例えば8Kの元映像を切り抜いて4Kの映像を作成する場合、元映像は本明細書でいう「高画素数の映像」に、処理後の映像は本明細書でいう「低画素数の映像」に、それぞれ相当し得る。
【0029】
こうした映像処理の具体的な手順を、図1を参照して説明する。まず、本会場P1にて、撮像装置1により映像データを、録音装置2にて音声データを取得する(ステップS1、収録工程)。ここで取得される映像データは、例えば図4に示すように、収録対象(ここでは、舞台全体)を広範囲に映した全体像を少なくとも含む。この広範囲の映像データは、例えば8K相当の高画素数で、アスペクト比16:9の映像(画素数は、例えば7680×4320)として収録される。また、この他に、2Kや4Kといった比較的低画素数で、例えば図5に示すように、特定部分のアップショット等の映像を補助的に収録してもよい。図3に示した例の場合、3台の撮像装置1のうち、第一の撮像装置1aを8K仕様の撮像装置として舞台の全体像を定点から収録し、第二、第三の撮像装置2b,2cは2Kや4Kといった比較的低画素数の撮像装置として補助的に使用することを想定している。あわせて、録音装置2により、音声データを取得する。
【0030】
ステップS1で取得したデータは、本データDとして本データ処理装置3に格納する。また、本データDから複製した副データD1を、副データ処理装置4に格納する(ステップS2、データマネジメント工程)。副データ処理装置4に格納する副データD1は、本データDの解像度を落としたり、圧縮するなど、容量を小さくする加工を加えておくと、続くオフライン編集工程の際に参照しやすく、便利である。ただし、圧縮等の加工は、本データDの内容を把握するのに支障がない程度とすべきである。
【0031】
本データDの処理に先立ち、副データ処理装置4に格納した副データD1を参照し、本データDを最終的にどのような内容の映像として仕上げるかについて検討する(ステップS3、オフライン編集工程)。ここで検討されるのは、カット割り、各場面のカメラワーク、画面の色調やコントラスト、音質等である。
【0032】
ステップS3での検討内容に基づき、本データ処理装置3にて本データDの編集を行う(ステップS4、オンライン編集工程)。ここでは、高画素数の元映像(図4参照)に基づいて、3面のスクリーン5(図3参照)に合わせた映像を作成する。ここで作成する映像は、例えば図6に示すように、高画素数の元映像(図4参照)から横長の領域を切り抜いた映像とすることができる。7680×4320ピクセルの元映像を切り抜いて作成される映像は、例えば5760×1080ピクセルの映像(6K相当)であり、アスペクト比は16:3である。これは、1920×1080ピクセル、アスペクト比16:9の2K相当の映像を横に3枚並べた映像に相当する。すなわち、図6に示す映像は、3面のマルチスクリーンであるスクリーン5に合わせ、横並びに配置された全映写面5a~5c分の映像が一個の低画素数の映像として切り抜かれた映像である。
【0033】
また、横長3面のスクリーン構成を利用し、例えば図7に示すように、中央と左右でそれぞれ別の画を映すようにするといったことも可能である。図7に示した映像では、中央の領域(中央映写面5bに相当。図3参照)には高画素数の元映像(図4参照)から切り抜いたロングショットの映像が配置され、左右には舞台の一部(人物の顔など)を拡大したアップショットの映像が配置されている。
【0034】
ここで、本実施例においては、少なくとも図4に示す如き広範囲を映した元映像を8K等の高解像度にて収録しており、これを素材として低画素数の映像を高い自由度で作成することができる。広範囲を映した元映像から切り抜く領域の位置や寸法を変更することで、図6に示す如き横長の映像を作ることも、図7に示すように各映写面毎に別々の映像を映すことも自在である。また、これらの映像を場面によって使い分けてもよいし、あるいは、特定の時間は複数の映写面のうち一部のみを使用するといったことも可能である。
元映像から切り抜く領域は、元映像に映り込んだ範囲から自由に選択することができ、元映像のうち決まった領域に固定してもよいし、場面や演出に合わせて上下左右に動かすこともできる。また、例えば切り抜く領域の位置をコマ毎に変更していくことでカメラの視点を擬似的に変更したり、切り抜く領域の大きさを変更することで拡大・縮小を表現すること(いわゆるデジタルパンニング)も可能である。またこのとき、元映像は8K等の高解像度で収録されているので、そこから切り抜いて作成した映像は、元映像よりは低画素数になるとはいえ、2K以上あるいはそれに準じた高精細の映像として仕上げることができる。
【0035】
またここで、低画素数の映像を仕上げるにあたり、一個の撮像装置で定点から収録された元映像のみを素材とする必要はなく、別の撮像装置により収録した映像も適宜使用することができる。本実施例では上述のように、8Kの高画素数で広範囲の映像を収録する撮像装置1aのほか、より少ない画素数でアップショット等を撮影する撮像装置1b,1cをも本会場P1に配置している(図3参照)。ステップS4のオフライン編集工程においては、高画素数の元映像のほかに、このようにして収録した補助的な映像も素材として使用し、適宜組み合わせることができる。
【0036】
さらに、本データDに対し、ノイズの除去や色調、コントラストの調整等を行い、本データDを完成させる(ステップS5、マスタリング工程)。このとき、さらに図8に示す如く、3面のスクリーン5(図3参照)に合わせて作成した横長の映像を、各映写面を構成する左映写面5a、中央映写面5b、右映写面5cにそれぞれ対応する領域ごとに分割し、複数段に再編成して一個の映像データとする。ここでは、3面分の映像を2段×2列の計4面にそれぞれ配置した例を図示している。尚、1面分の余剰スペース(図8では右下の領域)は、ここに示した例では空きスペースとしているが、文字情報等の追加的な視覚情報を適宜表示するようにしてもよい。
【0037】
このようにすると、作成した映像を上映前に確認する際などに、一般的なディスプレイでも視認しやすいので便利である。本実施例のように横長3面のスクリーン5での上映を前提とした横長の映像は、16:9前後の一般的なディスプレイにそのまま映そうとすると著しく縮小されてしまい、見にくくなってしまう。上述のオフライン編集工程やオンライン編集工程では、例えば3台のディスプレイに各映写面の映像を映して編集作業を行えばよいが、映像の内容を確認したい場所に、そのような環境が整っているとは限らない。そこで、マルチスクリーンを前提に製作された図6図7のような映像を映写面ごとに分割し、それぞれを複数段に組み直すことで、映像の内容を参照する際の利便性を高めている。
【0038】
こうして仕上がった本データDを、上映制御装置8に格納して再生し、上映を行う(ステップS6、上映工程)。スピーカ6には、上映制御装置8から音声信号が入力されて再生される。分割再生装置9は、上映制御装置8で再生される本データDに含まれる一個の映像データから、スクリーン5を構成する左映写面5a、中央映写面5b、右映写面5cのそれぞれに相当する映像データを分割映像データV1~V3として抜き出し、各映写装置7a~7cに映像信号として入力する。第一~第三の映写装置7a~7cは、分割映像データV1~V3にそれぞれ相当する映像を、スクリーン5の対応する映写面5a~5cにそれぞれ映写する。すなわち、例えば本データDに図8に示す如き映像が収録されている場合、左上の領域にあたる映像データが分割映像データV1として第一の映写装置7aに入力されて左映写面5aに映写され、右上の領域にあたる映像データが分割映像データV2として第二の映写装置7bに入力されて中央映写面5bに映写され、左下の領域にあたる映像データが分割映像データV3として第三の映写装置7cに入力されて右映写面5cに映写される。結果として、横長3面のマルチスクリーンとして構成されたスクリーン5に、図9に示すように横長の映像が映写される。また、例えば図7に示すような映像であれば、図10に示すようにスクリーン5に映写される。
【0039】
以上のような映像処理の流れは、映像データの変遷に着目した場合、図2のように整理することができる。まず、8K仕様の撮像装置1aにて元映像としての高画素数の映像データ(高解像度データ)を収録すると共に、2K、4K仕様の撮像装置1b、1cにて補助的な低画素数の映像データ(低解像度データ)を収録する(ステップS1)。これらの映像データが、最初の本データD(図3参照)である。この本データDを複製して副データD1を作成し(ステップS2)、該副データD1を参照してオフライン編集を行い(ステップS3)、これに基づいて本データDに手を加えるオンライン編集を行う(ステップS4)。オンライン編集後の本データDを2段×2列に組み直し(ステップS5)、完成した本データDを上映する(ステップS6)。
【0040】
このように、本実施例の映像処理方法では、横長3面のマルチスクリーンとして構成されたスクリーン5による上映を前提とし、高画素数で広範囲を映した元映像を適宜切り抜いて映像を構成することにより、簡便な手順で様々な映像表現が可能である。特に、図9に示すように横長の一個の映像として構成された映像を横3面のスクリーン5に投影する場合、互いに鈍角(特に、140°以上160°以下の角度)をなして隣接配置された左映写面5a、中央映写面5b、右映写面5cに映写された一連の映像で観客を取り囲む形になり、しかも各映写面の間に映像の分断部分がないため、大画面で上映すれば、観客にとっては本物の舞台等と区別がつかないほどの臨場感を得ることができる。
【0041】
ところで、このようなマルチスクリーンによる上映形態においては、スクリーン5を構成する各映写面5a~5c間での映像の同期が重要である。特に図9に示すように、全面で一連の映像を映写する場合、左映写面5a、中央映写面5b、右映写面5c同士の間で僅かでもタイミングにずれがあれば、観客の臨場感や没入感は大きく損なわれてしまう。
【0042】
ここで、マルチスクリーンによる上映を考える場合、従来の技術常識に基づけば、例えば第一の映写面に映写する第一の映像データと、第二の映写面に映写する第二の映像データと、第三の映写面に映写する第三の映像データとをそれぞれ別個に用意しておき、上映地でこれらの映像データを別個に再生し、別々の映写装置から各映像データを各映写面に上映する、といった手順が想定される。しかしながら、こうした方法では、各映像データの再生タイミングを完全に同期させることは困難である。
【0043】
これに対し、本実施例においては、一個の映像として高画素数で収録された元画像を素材とし、該元画像を切り抜いた低画素数の映像を用いて図8に示すような映像データを作成しているので、上映制御装置8で前記映像データを再生する段階においては、各映写面5a~5cに上映する映像同士は完全に同期している。そして、そこから分割再生装置9を介して各映写装置7a~7cへ分割映像データV1~V3を送信するまでの間を同期させることは容易である。したがって、左映写面5a、中央映写面5b、右映写面5cのそれぞれで上映される映像は互いに完全に同期させることができ、臨場感や没入感を損なわない上映を容易に実現することができる。
【0044】
尚、上の説明における映像のアスペクト比や画素数等はあくまで一例であって、上映時の要求スペック等、各種の条件に応じて適宜変更することができることは勿論である。また、マルチスクリーンを構成する映写面の数や配置についても、上では3つの映写面が互いに鈍角をなして横並びに隣接する場合を例示したが、これに限定されない。すなわち、映写面の数は2つであってもよいし、4つ以上に設定することもできる。
【0045】
ただし、大画面での上映を前提とし、観客に高い臨場感を与えることを意図する場合には、複数の映写面5a~5cを横並びに一列に配置し、それらに図6に示す如く、一個の横長の映像を映写するのが効果的である。また、そうした効果を意図してマルチスクリーンを設置する場合、スクリーンの設置の手間や費用の観点から、映写面の数は3つとするのが最適である。マルチスクリーンに映像を映写する場合、各映写面毎に映写装置が必要となるので、映写装置の設置コストを考えれば映写面はなるべく少なくすることが望ましいが、2つ以上の映写面で観客を取り囲むようにすれば、高い臨場感のある映像を提供するには十分である。また、映画館等での上映を考えると、映写面が3個であれば、そのうち中央の映写面としては映画館にもともと設置されているスクリーンを利用し、その左右に2面の映写面を追加すれば済むので、スクリーンの設置にかかる手間や費用が低く抑えられる。
【0046】
また、マスタリング工程(図1参照、ステップS5)で仕上げられる映像データの組み段数についても、映写面の数や、映像の寸法に応じて適宜変更することができる。すなわち、映写面が2面である場合には、例えば各映写面ごとの映像を2段×1列に配置することができるし、映写面が3面の場合、各映写面ごとのアスペクト比によっては、上に説明した2段×2列以外に、例えば3段×1列に配置してもよい。その他、映写面が4面の場合には2段×2列、5面の場合には2段×3列または3段×2列など、映写面の数や各映像の寸法に応じて適宜設定してよい。また、映写面の配置についても、表現したい内容によっては、映写面同士を離して配置したり、別々の高さに配置するといったことも、原理的には十分可能である。
【0047】
また、上に説明した手順についても、適宜一部を変更することができる。上では元映像に対し、ある程度時間をかけて編集作業を行う場合を想定して説明したが、例えば生中継(上述のライブビューイングは生中継の一種である)のように、編集作業に時間をかけない上映形態も考えられる。その場合、例えばオフライン編集やオンライン編集といった作業は省略するか最低限に留め、定点に設置した撮像装置の取得した映像から、決められた領域のみを切り抜いた映像のみを流し続けるといった形になる(勿論、この場合も、可能であれば適宜編集に相当する作業を行い、例えば場面によっては図7図10に示すように映写面ごとに別の映像を映したり、切り抜く領域を変更するなどしてもよい)。
【0048】
以上のように、本実施例においては、高画素数にて収録された元映像から切り抜かれた低画素数の映像を用い、複数の映写面5a~5cを備えたマルチスクリーン5に映写する映像を作成している。このようにすれば、マルチスクリーンとして構成されたスクリーン5に映写する映像を作成するにあたり、高解像度の元映像を素材として低画素数の映像を高い自由度で簡便に作成することができる。
【0049】
また、本実施例においては、マルチスクリーン5を構成する複数の映写面5a~5cを横並びに配置し、高画素数の元映像から、横並びに配置された全映写面5a~5c分の映像を一個の低画素数の映像として切り抜いた映像を用いて映像を作成している。このようにすれば、大画面での上映時に高い臨場感を実現する横長の映像を簡便に作成することができる。
【0050】
また、本実施例においては、マルチスクリーン5を構成する複数の映写面5a~5c同士は互いに鈍角をなし、且つ互いに隙間なく隣接するように配置されている。このようにすれば、横長の映像が観客を取り囲むことで、いっそう高い臨場感をもつ映像を作成することができる。
【0051】
また、本実施例において、マルチスクリーン5は3面の映写面5a~5cを備えて構成されている。このようにすれば、手間や費用を低く抑えつつ、上述の作用効果を奏することができる。
【0052】
また、本実施例においては、各映写面5a~5cに相当する映像を複数段に組んだ一個の映像データを作成している。このようにすれば、映像の内容を参照する際の利便性を高めることができる。
【0053】
また、本実施例において、上映時には、一個の映像データから、各映写面5a~5cに相当する映像データを分割映像データV1~V3として抜き出すと共に、マルチスクリーン5を構成する各映写面5a~5cに対応する各映写装置7a~7cに入力している。このようにすれば、映写面5a~5cに映写される映像を互いに容易に同期させることができる。
【0054】
したがって、上記本実施例によれば、豊かな表現力をもつ高品質の映像を実現し得る。
【0055】
尚、本発明の映像処理方法は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0056】
5 スクリーン(マルチスクリーン)
5a 映写面
5b 映写面
5c 映写面
7a 映写装置(第一の映写装置)
7b 映写装置(第二の映写装置)
7c 映写装置(第三の映写装置)
V1 分割映像データ
V2 分割映像データ
V3 分割映像データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10