(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074675
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】無線通信装置及びフィルタ制御方法
(51)【国際特許分類】
H04L 27/26 20060101AFI20220511BHJP
H04B 3/10 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
H04L27/26 410
H04B3/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184921
(22)【出願日】2020-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大季
(72)【発明者】
【氏名】仲田 樹広
【テーマコード(参考)】
5K046
【Fターム(参考)】
5K046AA05
5K046BA06
5K046BB05
5K046EE42
5K046EE47
(57)【要約】
【課題】OFDM変調された信号に対するフィルタ処理を伝搬路特性の変動に追従させて適正化することが可能な無線通信装置を提供する。
【解決手段】受信信号から抽出されたパイロット信号をシンボル方向に平均するフィルタ処理を行うシンボル平均フィルタ部と、シンボル方向に平均されたパイロット信号に対して周波数内挿するフィルタ処理を行う周波数内挿フィルタ部と、シンボル平均フィルタ部及び周波数内挿フィルタ部によるフィルタ処理後の信号を用いて受信信号の等化処理を行う等化部とを備える。シンボル平均フィルタ部及び周波数内挿フィルタ部は、そのフィルタ部の通過域を選択可能に構成され、伝搬路特性に応じて選択された通過域でのフィルタ処理の結果を適用するように制御される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
OFDM変調された信号を受信する無線通信装置であって、
受信信号から抽出されたパイロット信号をシンボル方向に平均するフィルタ処理を行うシンボル平均フィルタ部と、シンボル方向に平均されたパイロット信号に対して周波数内挿するフィルタ処理を行う周波数内挿フィルタ部と、前記シンボル平均フィルタ部及び前記周波数内挿フィルタ部によるフィルタ処理後の信号を用いて受信信号の等化処理を行う等化部とを備え、
前記シンボル平均フィルタ部又は前記周波数内挿フィルタ部の少なくとも一方は、そのフィルタ部の通過域を選択可能に構成され、
前記シンボル平均フィルタ部又は前記周波数内挿フィルタ部の少なくとも一方を、伝搬路特性に応じて選択した通過域でのフィルタ処理の結果を適用するように制御することを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無線通信装置において、
前記シンボル平均フィルタ部は、通過域が異なる複数のシンボル平均フィルタを含み、前記等化部による等化処理の結果が最良となるシンボル平均フィルタを使用するように制御されることを特徴とする無線通信装置。
【請求項3】
請求項1に記載の無線通信装置において、
受信信号から抽出されたパイロット信号に基づいてシンボル方向の伝搬路変動を監視するシンボル方向伝搬路変動監視部を更に備え、
前記シンボル平均フィルタ部は、通過域を変更可能なシンボル平均可変フィルタを含み、前記シンボル方向伝搬路変動監視部によるシンボル方向の伝搬路変動の監視結果に応じてシンボル平均可変フィルタの通過域を変更するように制御されることを特徴とする無線通信装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の無線通信装置において、
前記周波数内挿フィルタ部は、通過域が異なる複数の周波数内挿フィルタを含み、前記等化部による等化処理の結果が最良となる周波数内挿フィルタを使用するように制御されることを特徴とする無線通信装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の無線通信装置において、
受信信号から抽出されたパイロット信号に基づいて周波数方向の伝搬路変動を監視する周波数方向伝搬路変動監視部を更に備え、
前記周波数内挿フィルタ部は、通過域を変更可能な周波数内挿可変フィルタを含み、前記周波数方向伝搬路変動監視部による周波数方向の伝搬路変動の監視結果に応じて周波数内挿可変フィルタの通過域を変更するように制御されることを特徴とする無線通信装置。
【請求項6】
OFDM変調された信号を受信する無線通信装置により実施されるフィルタ制御方法であって、
前記無線通信装置は、受信信号から抽出されたパイロット信号をシンボル方向に平均するフィルタ処理を行うシンボル平均フィルタ部と、シンボル方向に平均されたパイロット信号に対して周波数内挿するフィルタ処理を行う周波数内挿フィルタ部と、前記シンボル平均フィルタ部及び前記周波数内挿フィルタ部によるフィルタ処理後の信号を用いて受信信号の等化処理を行う等化部とを備え、
前記シンボル平均フィルタ部又は前記周波数内挿フィルタ部の少なくとも一方は、そのフィルタ部の通過域を選択可能に構成され、
前記無線通信装置は、前記シンボル平均フィルタ部又は前記周波数内挿フィルタ部の少なくとも一方を、伝搬路特性に応じて選択した通過域でのフィルタ処理の結果を適用するように制御することを特徴とするフィルタ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OFDM変調された信号を受信する無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地上デジタル放送や放送番組素材の無線伝送装置(FPU:Field Pick-up Unit)では、無線通信方式としてOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing;直交周波数分割多重)が採用されている。OFDMを用いた無線伝送装置の全体構成及び受信復調処理の従来例について以下に説明する。
【0003】
図9には、従来例に係る無線伝送装置の全体構成を示してある。同図の無線伝送装置は、主に、伝送データの送信側にある送信側設備(第1の無線通信装置)と、伝送データの受信側にある受信側設備(第2の無線通信装置)とで構成される。送信側設備は、送信制御部901と、送信高周波部902と、送信アンテナ903とを備え、受信側設備は、受信アンテナ904と、受信高周波部905と、受信制御部906とを備える。
【0004】
送信側設備において、送信制御部901は、伝送対象のデータをOFDM変調し、中間周波数の信号を送信高周波部902に出力する。送信高周波部902は、送信制御部901から入力された信号をRF(Radio Frequency)周波数へアップコンバートし、送信アンテナ903に出力する。送信アンテナ903は、送信高周波部902から入力された信号を受信側設備に向けて送信する。
【0005】
受信側設備において、受信アンテナ904は、送信側設備から送信された信号を受信し、受信高周波部905に出力する。受信高周波部905は、受信アンテナ904から入力された信号を中間周波数へダウンコンバートし、受信制御部906に出力する。受信制御部906は、受信高周波部905から入力された信号に対して復調・復号処理を施す。
【0006】
受信制御部906による復調処理について、
図10を参照して説明する。受信制御部906は、ADC(Analog-to-Digital Converter;アナログデジタル変換器)1001と、FFT(Fast Fourier Transform高速フーリエ変換)部1002と、遅延部1003と、パイロット抽出部1004と、シンボル平均フィルタ1005と、周波数内挿フィルタ1006と、等化部1007とを有する。
【0007】
ADC1001は、受信アンテナ904で受信されたアナログ形式の信号をデジタル形式に変換し、FFT部1002に出力する。FFT部102は、入力された受信信号を周波数領域の信号に変換し、遅延部1003とパイロット抽出部1004に出力する。パイロット抽出部1004は、入力された周波数領域の受信信号から既知のパイロット信号(パイロットキャリア)を抽出し、シンボル平均フィルタ1005に出力する。
【0008】
シンボル平均フィルタ1005としては、シンボル方向にパイロット信号の平均を行うフィルタが使用される。このようなフィルタを使用することで、伝搬路特性のシンボル方向の変動が小さい場合は、雑音を抑圧することが可能となる。その一方で、伝搬路特性のシンボル方向の変動が大きい場合は、その変動に追従できずに伝搬路推定誤差が増加してしまう。そのため、無線伝送装置の運用に合わせて、適切なフィルタ特性のものを予め選択しておく必要がある。シンボル平均フィルタ1005による処理結果の信号は、周波数内挿フィルタ1006に出力される。
【0009】
周波数内挿フィルタ1006は、シンボル方向に平均されたパイロット信号を内挿FIR(Finite Impulse Response)フィルタに通して周波数内挿を行うことで、全キャリアの伝搬路特性の推定を行う。このフィルタの通過域を狭くすることで、通過域外の雑音を抑圧して伝搬路特性の推定精度を向上することが可能となる。しかしながら、マルチパス遅延波が混入して受信される場合には周波数選択性フェージングが生じ、伝搬路特性の周波数方向の変動が大きくなる。そのため、高精度に伝搬路特性の推定を行うためには、マルチパスの最大遅延時間と電力に応じてフィルタの通過域を決定する必要がある。したがって、長遅延時間のマルチパスに対応するためには、フィルタの通過域を予め広めにとっておく必要がある。周波数内挿フィルタ1006による処理結果の信号(すなわち、伝搬路特性の推定値)は、等化部1007に出力される。
【0010】
遅延部1003は、入力された周波数領域の受信信号を所定時間遅延させて等化部1007に出力する。遅延部1003による遅延時間は、パイロット抽出部1004、シンボル平均フィルタ1005、周波数内挿フィルタ1006の各遅延を合計した時間と同一とする。等化部1007は、シンボル平均フィルタ1005及び周波数内挿フィルタ1006のフィルタ処理によって得られた伝搬路特性の推定値を用いて受信信号の等化処理を行い、その結果を後段の復号処理部(不図示)へ出力する。等化部1007での等化処理には任意の手法を使用することができ、例えば、周波数領域の受信信号を伝搬路特性の推定値で複素除算する手法が使用される。
【0011】
ここで、長距離伝送を行う場合には、一般的にアンテナ利得の大きいアンテナを用いることが多いが、アンテナ利得と相反して指向性が鋭くなってしまうため、広い角度範囲での伝送が困難になってしまう。そこで、例えば
図11に示すように、送信側設備に、鋭い指向性を持つ複数の送信アンテナ903-1,903-2を異なる指向方向に向けて設置しておき、受信側設備の方向(又はより近い方向)に指向性が向いている送信アンテナを選択する運用がなされる場合もある。これにより、長距離の伝送と広い角度範囲での伝送とを両立することが可能となる。しかしながら、
図11の構成では、送信アンテナを切り替えた際に伝搬路が急激に変化してしまう。その結果、時間方向の伝搬路特性の連続性が失われるため、シンボル平均フィルタ1005を用いて雑音を十分に抑圧することができない。
【0012】
このように、従来方式では、伝搬路推定を行うためのキャリア方向(周波数方向)とシンボル方向の各フィルタに対しても、装置の運用上考え得る最大変動を見越した設計をする必要があり、伝搬路条件によっては、より雑音を抑圧する余地があった。
【0013】
近年では、4×4MIMO(Multiple Input Multiple Output)を用いた固有モード伝送も検討されている(非特許文献1)。非特許文献1では、1シンボル全てがパイロットキャリアであるパイロットシンボルと、1シンボル全てがデータキャリアであるデータシンボルとでフレームを構成することが提案されている。非特許文献1の4×4MIMOシステムでは、受信側にて各送信アンテナからの伝搬路特性を全て正しく推定するために、4つの送信アンテナそれぞれに直交したパイロットを設ける必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】光山和彦、外3名,“移動中継用1.2GHz/2.3GHz帯スーパーハイビジョンFPUの実現に向けた無線伝送技術”,NHK技研 R&D,No.165,pp.54-67,2017年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述したように、OFDMの復調処理ではパイロット信号を用いて伝搬路推定を行う必要があるが、高精度な伝搬路推定を実現するためには周波数方向とシンボル方向のそれぞれで最適なフィルタ処理を行わなければならない。しかしながら、装置の運用形態(移動型/固定型)、マルチパスの遅延時間、電力や周波数安定度のばらつき等の要因により、各フィルタの最適な通過域が異なるので、フィルタ処理を予め最適化しておくことは困難である。したがって、様々な条件の下で大きな劣化が生じないように設計する場合には、各フィルタの通過域は広めに設定しておく必要があった。つまり、伝搬路条件によっては、各フィルタ若しくはどちらかのフィルタの通過域を狭めることでチャネル推定精度を向上できる余地があったとしても、通過域の広めなフィルタを使用せざるを得なかった。或いは、運用状況に応じて手動でフィルタを変更する必要があった。
【0016】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、OFDM変調された信号に対するフィルタ処理を伝搬路特性の変動に追従させて適正化することが可能な無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明では、無線通信装置を以下のように構成した。
すなわち、本発明に係る無線通信システムは、OFDM変調された信号を受信する無線通信装置であって、受信信号から抽出されたパイロット信号をシンボル方向に平均するフィルタ処理を行うシンボル平均フィルタ部と、シンボル方向に平均されたパイロット信号に対して周波数内挿するフィルタ処理を行う周波数内挿フィルタ部と、シンボル平均フィルタ部及び周波数内挿フィルタ部によるフィルタ処理後の信号を用いて受信信号の等化処理を行う等化部とを備え、シンボル平均フィルタ部又は周波数内挿フィルタ部の少なくとも一方は、そのフィルタ部の通過域を選択可能に構成され、シンボル平均フィルタ部又は周波数内挿フィルタ部の少なくとも一方を、伝搬路特性に応じて選択した通過域でのフィルタ処理の結果を適用するように制御することを特徴とする。
【0018】
ここで、シンボル平均フィルタ部は、通過域が異なる複数のシンボル平均フィルタを含み、等化部による等化処理の結果が最良となるシンボル平均フィルタを使用するように制御されてもよい。
【0019】
或いは、受信信号から抽出されたパイロット信号に基づいてシンボル方向の伝搬路変動を監視するシンボル方向伝搬路変動監視部を更に備え、シンボル平均フィルタ部は、通過域を変更可能なシンボル平均可変フィルタを含み、シンボル方向伝搬路変動監視部によるシンボル方向の伝搬路変動の監視結果に応じてシンボル平均可変フィルタの通過域を変更するように制御されてもよい。
【0020】
また、周波数内挿フィルタ部は、通過域が異なる複数の周波数内挿フィルタを含み、等化部による等化処理の結果が最良となる周波数内挿フィルタを使用するように制御されてもよい。
【0021】
或いは、受信信号から抽出されたパイロット信号に基づいて周波数方向の伝搬路変動を監視する周波数方向伝搬路変動監視部を更に備え、周波数内挿フィルタ部は、通過域を変更可能な周波数内挿可変フィルタを含み、周波数方向伝搬路変動監視部による周波数方向の伝搬路変動の監視結果に応じて周波数内挿可変フィルタの通過域を変更するように制御されてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、OFDM変調された信号に対するフィルタ処理を伝搬路特性の変動に追従させて適正化することが可能な無線通信装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施例に係る無線伝送装置における受信制御部の構成例を示す図である。
【
図2】シンボル平均フィルタの特性の一例を示す図である。
【
図3】周波数内挿フィルタの特性の一例を示す図である。
【
図4】第2実施例に係る無線伝送装置における受信制御部の構成例を示す図である。
【
図5】
図4におけるシンボル方向伝搬路変動監視部の構成例を示す図である。
【
図6】
図4におけるシンボル平均可変フィルタの構成例を示す図である。
【
図7】
図4における周波数方向伝搬路変動監視部の構成例を示す図である。
【
図8】
図4における周波数内挿可変フィルタの構成例を示す図である。
【
図9】従来例に係る無線伝送装置の構成例を示す図である。
【
図10】従来例に係る無線伝送装置における受信制御部の構成例を示す図である。
【
図11】従来例に係る無線伝送装置の別の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。本発明の一実施形態に係る無線伝送装置は、
図9に示した従来例と同様に、主に、伝送データの送信側にある送信側設備(第1の無線通信装置)と、伝送データの受信側にある受信側設備(第2の無線通信装置)とで構成される。本発明の主な特徴は、受信側設備が備える受信制御部において、シンボル平均フィルタ部又は周波数内挿フィルタ部の少なくとも一方の通過域を伝搬路特性に応じて選択可能に構成したことにある。以下、受信制御部の具体的な構成について実施例を挙げて説明する。
【0025】
(第1実施例)
図1には、第1実施例に係る無線伝送装置における受信制御部の構成例を示してある。第1実施例に係る受信制御部は、ADC101と、FFT部102と、遅延部103と、パイロット抽出部104と、N個のシンボル平均フィルタ105-1~105-Nと、N×M個の周波数内挿フィルタ106-1-1~106-N-Mと、N×M個の等化部107-1-1~107-N-Mと、N×M個のMER(Modulation Error Ratio;変調誤差比)算出部108-1-1~108-N-Mと、セレクタ109と、最大検索部110とを有する。
【0026】
ADC101から遅延部103及びパイロット抽出部104までの処理は、従来例のADC1001から遅延部1003及びパイロット抽出部1004までと同様である。パイロット抽出部104で抽出されたパイロット信号は、シンボル平均フィルタ105-1~105-Nに入力される。
【0027】
シンボル平均フィルタ105-1~105-Nは、通過域が異なるN種類のフィルタとして構成され、それぞれ、シンボル方向にパイロット信号を平均するフィルタ処理を行う。シンボル平均フィルタ105-n(ここで、n=1~N)によるフィルタ処理の結果は、周波数内挿フィルタ106-n-1~106-n-Mに出力される。周波数内挿フィルタ106-1-1~106-N-Mは、通過域が異なるM種類のフィルタとして構成され、それぞれ、シンボル方向に平均されたパイロット信号に対して周波数内挿するフィルタ処理を行って、伝搬路特性の推定を行う。つまり、シンボル平均フィルタの種類数(N種類)と周波数内挿フィルタの種類数(M種類)の全組み合わせ(N×Mパターン)について、伝搬路特性を推定する処理を行う。
【0028】
図2には、シンボル平均フィルタの特性の一例を示してある。同図では、複数のシンボル平均フィルタの特性を、横軸を正規化周波数、縦軸をゲイン(dB)としたグラフで表している。第1実施例では、
図2に示すように、フィルタの一つは全帯域を通過域(実線で示す)とすると共に、異なる通過域(鎖線又は点線で示す)のフィルタを複数用意する。これらフィルタの中から、パイロット信号のシンボル方向の変動周波数がフィルタの通過域内に収まるものを選択することで、シンボル方向の変動成分を通過させつつ、通過域外の雑音を抑圧することができる。
【0029】
図3には、周波数内挿フィルタの特性の一例を示してある。同図では、複数の周波数内挿フィルタの特性を、横軸を正規化周波数、縦軸をゲイン(dB)としたグラフで表している。第1実施例では、
図3に示すように、フィルタの一つは全帯域を通過域(実線で示す)とすると共に、異なる通過域(鎖線又は点線で示す)のフィルタを複数用意する。例えば遅延波がない場合は、通過域の最も少ないフィルタを選択することで、通過域外の雑音を抑圧することができる。一方、長遅延波が存在する場合には、最大の通過域を持つフィルタを選択することで、伝搬路特性の推定精度を向上させることができる。
【0030】
シンボル平均フィルタ及び周波数内挿フィルタの選択は、本例では以下のようにして実施される。
周波数内挿フィルタ106-1-1~106-N-Mの各出力は、それぞれ、対応する等化部107-1-1~107-N-Mに入力される。等化部107-1-1~107-N-Mには、遅延部103で遅延された受信信号も入力される。等化部107-1-1~107-N-Mは、それぞれ、フィルタ処理によって得られた伝搬路特性の推定値を用いて受信信号の等化処理を行い、その結果の信号を対応するMER算出部108-1-1~108-N-Mとセレクタ109に出力する。
【0031】
MER算出部108-1-1~108-N-Mは、それぞれ、等化結果の信号についてMERを算出する。MERは理想受信点と等化結果の信号の二乗誤差平均を示しており、下記(式1)で表される。MERの値が大きいほど等化処理の結果が良好であることを意味する。
【数1】
ここで、x
i は送信信号点(i=1~変調多値数点)、yは等化結果の信号、Pは平均送信電力である。
【0032】
MER算出部108-1-1~108-N-Mで算出された各MERは、最大値検索部110に入力される。最大値検索部110は、入力された各MERの中から最大値を検索し、そのインデックス番号をセレクタ109に出力する。セレクタ109は、等化部107-1-1~107-N-Mの各々による等化結果の信号の中から、最大値検索部110から入力されるインデックス番号に従って1つの信号を選択し、後段の復号処理へ出力する。以上の処理により、MERが最大となるシンボル平均フィルタ及び周波数内挿フィルタを通じて得られた結果が出力される。すなわち、等化処理の結果が最良となるシンボル平均フィルタ及び周波数内挿フィルタが選択されることになる。
【0033】
なお、上記ではMER最大規範でシンボル平均フィルタ及び周波数内挿フィルタを選択する方法を説明したが、下記(式2)で示すLLR(Log Likelihood Ratio;対数尤度比)を用いる方法や、下記(式3)で示すMI(Mutual Information;相互情報量)を用いる方法などの他の方法を採用してもよい。ここで、kは、送信ビットの番号(k=0~N-1)である。
【0034】
【0035】
【0036】
上記(式3)において、p
0(k)、p
1(k)は、それぞれ「0」になる確率と「1」になる確率を示しており、下記(式)で表される。
【数4】
【0037】
以上の第1実施例によれば、伝搬路変動が多い場合又は少ない場合のどちらであっても、最適な通過域のシンボル平均フィルタ及び周波数内挿フィルタを用いた復調処理をリアルタイムに行うことが可能となる。
【0038】
(第2実施例)
図4には、第2実施例に係る無線伝送装置における受信制御部の構成例を示してある。第2実施例は、周波数方向とシンボル方向の伝搬路特性の変動を監視して最適なシンボル平均フィルタ及び周波数内挿フィルタを選択することで、様々な運用方法や状況に応じて最適なフィルタを使用することができる構成となっている。
【0039】
第2実施例に係る受信制御部は、ADC101と、FFT部102と、遅延部103と、パイロット抽出部104と、シンボル平均可変フィルタ部401と、シンボル方向伝搬路変動監視部402と、周波数方向伝搬路変動監視部403と、周波数内挿可変フィルタ部404と、等化部107とを有する。
【0040】
ADC101から遅延部103及びパイロット抽出部104までの処理は、従来例のADC1001から遅延部1003及びパイロット抽出部1004までと同様である。パイロット抽出部104で抽出されたパイロット信号は、シンボル平均可変フィルタ部401、シンボル方向伝搬路変動監視部402、及び周波数方向伝搬路変動監視部403に入力される。
【0041】
詳細は後述するが、シンボル方向伝搬路変動監視部402及び周波数方向伝搬路変動監視部403は、それぞれ、伝搬路推定誤差が最小となるようにシンボル平均可変フィルタ部401及び周波数内挿可変フィルタ部404にインデックス番号を出力する。シンボル平均可変フィルタ部401及び周波数内挿可変フィルタ部404、それぞれ、インデックス番号に応じた通過域で動作するようにフィルタ特性を変化させる。
【0042】
シンボル平均可変フィルタ部401は、シンボル方向伝搬路変動監視部402から入力されるインデックス番号に応じた通過域で、パイロット抽出部104から入力されるパイロット信号をシンボル方向に平均するフィルタ処理を行い、その結果の信号を周波数内挿可変フィルタ部404へ出力する。周波数内挿可変フィルタ部404は、周波数方向伝搬路変動監視部403から入力されるインデックス番号に応じた通過域で、シンボル平均可変フィルタ部401から入力される平均処理されたパイロット信号に対して周波数内挿を行うフィルタ処理を行い、その結果の信号を等化部205へ出力する。
【0043】
以下、シンボル平均可変フィルタ部401、シンボル方向伝搬路変動監視部402、キャリア方向伝搬路変動監視部403、周波数内挿可変フィルタ部404のそれぞれの内部構成について説明する。
【0044】
まず、シンボル方向伝搬路変動監視部402の内部構成について、
図5を用いて説明する。シンボル方向伝搬路変動監視部402は、メモリ501と、FFT部502と、二乗部503と、全パイロットキャリア平均部504と、閾値比較部505とを有する。
【0045】
シンボル方向伝搬路変動監視部402に入力されたパイロット信号は、メモリ501に格納される。メモリ501には複数シンボルのパイロット信号が格納され、キャリア毎にシンボル方向に連続させてパイロット信号をFFT部502へ出力する。このような処理により、FFT部502では、各キャリアに対してシンボル方向にパイロット信号のFFTを演算することができ、シンボル方向の伝搬路変動を周波数領域の信号に変換することができる。このため、FFT部502の結果は、キャリア毎に算出されることになる。
【0046】
FFT部502は、キャリア毎のFFT結果を二乗部503に出力する。二乗部503は、キャリア毎のFFT結果の二乗を演算し、全パイロットキャリア平均部504に出力する。全パイロットキャリア平均部504は、キャリア毎のFFT結果の二乗の平均を行う。以上の処理によって得られる信号は、シンボル間の伝搬路変動が大きい場合には高周波成分が大きくなり、伝搬路変動が少ない場合には直流成分が大きくなる。
【0047】
全パイロットキャリア平均部504は、処理結果の信号を閾値比較部505に出力する。閾値比較部505は、全パイロットキャリア平均部504による処理結果の直流成分を除く信号に対して予め設定された閾値と比較することで、伝搬路の変動度合いを算出することができる。そのため、予めシミュレーション等で伝搬路の変動度合いと各シンボル平均フィルタ105-1~105-Nの伝搬路推定誤差を求めておき、それに従い伝搬路推定誤差が最小となるシンボル平均フィルタを示すインデックス番号をシンボル平均可変フィルタ部401に出力する。
【0048】
次に、シンボル平均可変フィルタ部401の内部構成について、
図6を用いて説明する。シンボル平均可変フィルタ部401は、N個のシンボル平均フィルタ105-1~105-Nと、フィルタ選択部601とを有する。
【0049】
シンボル平均可変フィルタ部401では、パイロット抽出部104からのパイロット信号がシンボル平均フィルタ105-1~105-Nに入力される。シンボル平均フィルタ105-1~105-Nは、通過域が異なるN種類のフィルタとして構成され、それぞれ、シンボル方向にパイロット信号を平均するフィルタ処理を行う。シンボル平均フィルタ105-1~105-Nによるフィルタ処理の結果は、フィルタ選択部601に出力される。フィルタ選択部601には、シンボル方向伝搬路変動監視部402からインデックス番号も入力され、そのインデックス番号に従ってシンボル平均フィルタ105-1~105-Nのいずれかの出力信号を選択し、周波数内挿可変フィルタ部404へ出力する。
【0050】
図5及び
図6を参照して説明した上記処理により、シンボル方向の伝搬路変動に応じて、パイロット信号のシンボル方向の平均に用いるフィルタの通過域を適応的に変更することができる。その結果、伝搬路変動が少ないときには通過域が狭いフィルタを選択して雑音を抑圧することができ、伝搬路変動が大きい場合には通過域が広いフィルタを選択して変動に追従させることができる。
【0051】
次に、周波数方向伝搬路変動監視部403の内部構成について、
図7を用いて説明する。周波数方向伝搬路変動監視部403は、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform;逆高速フーリエ変換)部701と、絶対値部702と、閾値比較部703とを有する。
【0052】
周波数方向伝搬路変動監視部403では、パイロット抽出部104からのパイロット信号がIFFT部701に入力される。IFFT部701は、パイロット信号を時間領域の信号に変換して絶対値部702に出力する。絶対値部702は、時間領域に変換された信号の絶対値演算を行うことで遅延プロファイルを算出し、閾値比較部703に出力する。周波数方向の伝搬路変動は、最も電力の大きい受信信号(以下「主波」と呼称する)に対して時間的に先行して受信される先行波や遅延して受信される遅延波によって生じる。そのため、遅延プロファイルの主波を除く信号のレベルを観測することで、周波数方向の変動の度合いを算出することができる。したがって、閾値比較部703は、絶対値部702から出力される遅延プロファイルの主波を除く信号を予め設定された閾値と比較することで、伝搬路の変動度合いを算出することができる。そのため、予めシミュレーション等で周波数方向の伝搬路の変動の度合いと各フィルタ係数の周波数内挿フィルタの伝搬路推定誤差を求めておき、それに従い伝搬路推定誤差が最小となるフィルタ係数を示すインデックス番号を周波数内挿可変フィルタ部404に出力する。
【0053】
次に、周波数内挿可変フィルタ部404の内部構成について、
図8を用いて説明する。周波数内挿可変フィルタ部404は、周波数内挿フィルタ801と、係数メモリ802とを有する。
【0054】
周波数内挿可変フィルタ部404では、シンボル平均可変フィルタ部401からの信号が周波数内挿フィルタ801に入力される。周波数内挿フィルタ801がフィルタ処理に使用する係数は、係数メモリ802から入力される。係数メモリ802には、通過域の異なる複数の係数が予め保存されており、周波数方向伝搬路変動監視部403から入力されるインデックス番号に対応する係数を周波数内挿フィルタ801に出力する。
【0055】
図7及び
図8を参照して説明した上記処理により、伝搬路の周波数変動が大きい場合には、周波数方向伝搬路変動監視部403からのインデックス番号に従って通過域を広くするための係数が周波数内挿フィルタ801に読み込まれ、マルチパスによる周波数変動を再現した伝搬路推定を行える。逆に、伝搬路の周波数変動が少ない場合には、周波数方向伝搬路変動監視部403からのインデックス番号に従って通過域を狭めるための係数が周波数内挿フィルタ801に読み込まれ、雑音を抑圧して伝搬路推定精度を向上することができる。
【0056】
以上の第2実施例によっても、伝搬路変動が多い場合又は少ない場合のどちらであっても、最適な通過域のシンボル平均フィルタ及び周波数内挿フィルタを用いた復調処理をリアルタイムに行うことが可能となる。また、第1実施例に比べて等化処理やMER算出、フィルタ等の処理リソースを削減することができる。
【0057】
以上のように、本例の受信側設備(本発明に係る無線通信装置の一例)は、受信信号から抽出されたパイロット信号をシンボル方向に平均するフィルタ処理を行うシンボル平均フィルタ部と、シンボル方向に平均されたパイロット信号に対して周波数内挿するフィルタ処理を行う周波数内挿フィルタ部と、シンボル平均フィルタ部及び周波数内挿フィルタ部によるフィルタ処理後の信号を用いて受信信号の等化処理を行う等化部とを備える。シンボル平均フィルタ部及び周波数内挿フィルタ部は、そのフィルタ部の通過域を選択可能に構成され、伝搬路特性に応じて選択された通過域でのフィルタ処理の結果を適用するように制御される。
【0058】
より具体的には、第1実施例では、シンボル平均フィルタ部は、通過域が異なる複数のシンボル平均フィルタ(105-1~105-N)を含み、等化部(107-1-1~107-N-M)による等化処理の結果が最良となるシンボル平均フィルタを使用するように制御される。また、周波数内挿フィルタ部は、通過域が異なる複数の周波数内挿フィルタ(106-1-1~106-N-M)を含み、等化部(107-1-1~107-N-M)による等化処理の結果が最良となる周波数内挿フィルタを使用するように制御される。すなわち、第1実施例では、それぞれ異なる通過域を有する複数のシンボル平均フィルタ及び周波数内挿フィルタを備え、フィルタ処理の結果が最適となる組み合わせを選択する。
【0059】
また、第2実施例では、受信信号から抽出されたパイロット信号に基づいてシンボル方向の伝搬路変動を監視するシンボル方向伝搬路変動監視部(402)と、受信信号から抽出されたパイロット信号に基づいて周波数方向の伝搬路変動を監視する周波数方向伝搬路変動監視部(403)を更に備える。シンボル平均フィルタ部は、通過域を変更可能なシンボル平均可変フィルタ(401)を含み、シンボル方向伝搬路変動監視部によるシンボル方向の伝搬路変動の監視結果に応じてシンボル平均可変フィルタの通過域を変更するように制御される。また、周波数内挿フィルタ部は、通過域を変更可能な周波数内挿可変フィルタ(404)を含み、周波数方向伝搬路変動監視部による周波数方向の伝搬路変動の監視結果に応じて周波数内挿可変フィルタの通過域を変更するように制御される。すなわち、第2実施例では、シンボル方向の伝搬路変動及び周波数方向の伝搬路変動を監視し、その結果に基づいてシンボル平均フィルタ及び周波数内挿フィルタのそれぞれの通過域を最適な設定に変更する。
【0060】
このような構成によれば、伝搬路変動が大きい場合、小さい場合、それぞれに応じて最適なシンボル平均フィルタと周波数内挿フィルタの通過域を自動的に選択することができる。したがって、伝搬路変動が小さい場合には、通過域を自動的に狭めることで雑音を抑圧し、伝搬路特性の推定精度を向上することにより受信性能の向上が可能である。一方、伝搬路変動が大きい場合には、通過域を自動的に広げることで伝搬路変動への追従性を向上させ、伝送エラーの発生を防ぐことができる。また、送信アンテナの切り替え(
図11)等により伝搬路変動が小さい状況から急激に大きくなるような場合であっても、リアルタイムに適切なフィルタ特性を選択できるため、伝送エラーの発生を防ぐことができる。
【0061】
ここで、上記の各実施例は、シンボル平均フィルタ部及び周波数内挿フィルタ部の両方が通過域を選択可能に構成されているが、シンボル平均フィルタ部又は周波数内挿フィルタ部の一方のみが通過域を選択可能に構成されてもよい。すなわち、一方のフィルタ部の通過域を固定とし、他方のフィルタ部の通過域を選択可能に構成されてもよい。このような構成でも、受信性能を従来方式よりも向上させることができる。
【0062】
また、第1実施例と第2実施例を組み合わせた構成としてもよい。すなわち、一例として、シンボル平均フィルタ部は第1実施例の構成により実現し、周波数内挿フィルタ部は第2実施例の構成により実現してもよい。別の例として、シンボル平均フィルタ部は第2実施例の構成により実現し、周波数内挿フィルタ部は第1実施例の構成により実現してもよい。
【0063】
以上、本発明について一実施形態に基づいて説明したが、本発明はここに記載された構成に限定されるものではなく、他の構成のシステムに広く適用することができることは言うまでもない。
【0064】
また、本発明は、例えば、上記の処理に関する技術的手順を含む方法や、上記の処理をプロセッサにより実行させるためのプログラム、そのようなプログラムをコンピュータ読み取り可能に記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【0065】
なお、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。更に、本発明の範囲は、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、OFDM変調された信号を受信する無線通信装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
101:ADC、 102:FFT部、 103:遅延部、 104:パイロット抽出部、 105:シンボル平均フィルタ、 106:周波数内挿フィルタ、 107:等化部、 108:MER算出部、 109:セレクタ、 110:最大値検索部、 401:シンボル平均可変フィルタ部、 402:シンボル方向伝搬路変動監視部、 403:周波数方向伝搬路変動監視部、 404:周波数内挿可変フィルタ部、 501:メモリ、 502:FFT部、 503:二乗部、 504:全パイロットキャリア平均部、 505:閾値比較部、 601:フィルタ選択部、 701:IFFT部、 702:絶対値部、 703:閾値比較部、 801:周波数内挿フィルタ、 802:係数メモリ、 901:送信制御部、 902:送信高周波部、 903:送信アンテナ、 904:受信アンテナ、 905:受信高周波部、 906:受信制御部、 1001:ADC、 1002:FFT部、 1003:遅延部、 1004:パイロット抽出部、 1005:シンボル平均フィルタ、 1006:周波数内挿フィルタ、 1007:等化部