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  • 特開-炭素含有耐火物 図1
  • 特開-炭素含有耐火物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074684
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】炭素含有耐火物
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/80 20060101AFI20220511BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C04B35/80
F27D1/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184939
(22)【出願日】2020-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】飯田 敦久
【テーマコード(参考)】
4K051
【Fターム(参考)】
4K051AA02
4K051AA05
4K051BB02
(57)【要約】
【課題】耐火原料と炭素繊維との結着度を従来技術に比べて向上した炭素含有耐火物を実現する。
【解決手段】本発明に係る炭素含有耐火物1は、耐火原料2と、らせん形状を有する炭素繊維束3と、を含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火原料と、らせん形状を有する炭素繊維束と、を含む炭素含有耐火物。
【請求項2】
前記炭素繊維束のらせんのピッチが、33mm/周以下である請求項1に記載の炭素含有耐火物。
【請求項3】
前記炭素繊維束は、一束あたり30000本以上100000本以下の炭素繊維を含む請求項1または2に記載の炭素含有耐火物。
【請求項4】
前記炭素繊維束は、コイル平均径が10mm以上50mm以下のらせん形状を有する請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素含有耐火物。
【請求項5】
前記炭素繊維束は、前記耐火原料に対して外掛けで0.05質量%以上15質量%以下含まれている請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素含有耐火物。
【請求項6】
前記炭素繊維束が長手方向に沿って配向している請求項1~5のいずれか一項に記載の炭素含有耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素含有耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
耐火物の破壊靭性などを向上する目的で、炭素繊維を含む耐火物が従来用いられている。たとえば、国際公開第2006/112485号(特許文献1)には、基材粒子間にカーボンボンドが形成された耐火物が開示されており、ここで、当該カーボンボンドは炭素繊維状組織を含みうる。また、特開2005-320196号公報(特許文献2)には、高強度繊維を固化した固化体を含む耐火物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/112485号
【特許文献2】特開2005-320196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐火原料に炭素繊維を配合した耐火物を形成する場合、黒鉛やカーボンブラックなどのより汎用的な炭素材料を配合する場合に比べて、耐火原料に対して炭素繊維が分散しにくいことが課題となる。そして、耐火原料に対する炭素繊維の分散性が比較的低いことに起因して、耐火物から炭素繊維が脱落する、耐火物の気孔率が上昇する、期待する補強効果が得られない、などの課題が生じうる。しかし、特許文献1および特許文献2に開示されている技術においては、上記の課題は考慮されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、耐火原料と炭素繊維との結着度を従来技術に比べて向上した炭素含有耐火物の実現が求められる。
【0006】
本発明に係る炭素含有耐火物は、耐火原料と、らせん形状を有する炭素繊維束と、を含むことを特徴とする。
【0007】
この構成では、らせん形状を有する炭素繊維束を用いていることによって、炭素繊維束を長手方向に移動させようとする力が働いたときに炭素繊維束のらせん形状が母材(耐火原料)に係止する作用が発現する。これによって、耐火物から炭素繊維束が脱落しにくくなる。すなわち、耐火原料と炭素繊維との結着度を従来技術に比べて向上しうる。
【0008】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0009】
本発明に係る炭素含有耐火物は、一態様として、前記炭素繊維束のらせんのピッチが、33mm/周以下であることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、炭素繊維束と耐火原料とが一層分離しにくい。
【0011】
本発明に係る炭素含有耐火物は、一態様として、前記炭素繊維束は、一束あたり30000本以上100000本以下の炭素繊維を含むことが好ましい。
【0012】
この構成によれば、炭素含有耐火物の破壊靭性が向上しやすく、かつ、炭素繊維束と耐火原料とが一層分離しにくい。
【0013】
本発明に係る炭素含有耐火物は、一態様として、前記炭素繊維束は、コイル平均径が10mm以上50mm以下のらせん形状を有することが好ましい。
【0014】
この構成によれば、破壊靭性が高い炭素含有耐火物が得られやすい。
【0015】
本発明に係る炭素含有耐火物は、一態様として、前記炭素繊維束は、前記耐火原料に対して外掛けで0.05質量%以上15質量%以下含まれていることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、破壊靭性および耐食性が高い炭素含有耐火物が得られやすい。
【0017】
本発明に係る炭素含有耐火物は、一態様として、前記炭素繊維束が長手方向に沿って配向していることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、破壊靭性が高い炭素含有耐火物が得られやすい。
【0019】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る炭素含有耐火物を模式的に示す図である。
図2】実施形態に係る炭素繊維束を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る炭素含有耐火物の実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る炭素含有耐火物を、直方体状に形成された炭素含有耐火物1(図1)に適用した例について説明する。炭素含有耐火物1は、耐火原料2中に炭素繊維束3が配合されている耐火物である。ただし、直方体状の炭素含有耐火物1は説明のための例示であって、本発明に係る炭素含有耐火物の形状は限定されない。
【0022】
〔耐火原料の構成〕
耐火原料2としては、耐火物を形成する耐火原料として用いられる公知の物質を用いることができ、たとえば、酸化物を主成分とする耐火原料を用いることができる。ここで、主成分とは、耐火原料2に質量比で最も多く含まれる物質をいう。
【0023】
耐火原料2に含まれる酸化物としては、たとえば、アルミナ、シリカ、スピネル、マグネシア、ジルコニア、ジルコン、カルシウムジルコネートなどを用いることができる。当該酸化物は、一種類の物質であってもよいし、二種類以上の物質の混合物であってもよい。耐火原料2は、酸化物としてマグネシアおよびスピネルの少なくとも一つを含むことが好ましく、マグネシアを含むことがより好ましい。なお、耐火原料2に含まれる酸化物として用いる物質は、炭素含有耐火物1の用途に応じて適宜選択される。たとえば、炭素含有耐火物1が減圧を伴う二次精錬設備の用途に供される場合は、耐火原料2が酸化物としてスピネルを含むことが好ましい。
【0024】
〔炭素繊維束の構成〕
炭素繊維束3は、複数の炭素繊維の単繊維が束ねられた繊維束である。炭素繊維束3は、らせん形状を有する(図2)。ここで、炭素繊維束3のらせんのピッチPが33mm/周以下であると、炭素繊維束3のらせん形状が耐火原料2に係止する作用が特に働きやすいため、炭素繊維束3が耐火原料2と分離しにくい。ピッチPは、25mm/周以下であることがより好ましい。また、ピッチPが10mm/周以上であると、炭素繊維束3のらせん形状が耐火原料2に係止する作用が特に働きやすいため、炭素繊維束3が耐火原料2と分離しにくいので好ましい。ピッチPは、12.5mm/周以上であることがより好ましい。なお、炭素繊維束3のらせんのピッチは、たとえば、互いに隣り合う炭素繊維束3の最短中心間距離をノギスなどで測定する方法により特定される。また炭素繊維束3のらせん形状が耐火原料2に埋め込まれた状態にあっては、炭素含有耐火物1をX線で透視する方法や、切断面を電子顕微鏡で撮影する方法などによって特定される。また、ピッチPを含めて、炭素繊維束3の数値的特徴についての記載は、いずれも炭素含有耐火物1中に含まれる炭素繊維束3における平均値を問題としている。
【0025】
炭素繊維束3を形成するそれぞれの炭素繊維の単繊維の直径は、2μm以上であることが好ましい。これは、単繊維の直径が2μm以上であると、炭素繊維束3の引張強度が、炭素含有耐火物1の破壊靭性を向上させるために好適な水準に達しやすいためである。単繊維の直径は、2.2μm以上であることがより好ましい。また、単繊維の直径が5μm以下であると、炭素繊維束3の引張強度が、炭素含有耐火物1の破壊靭性を向上させるために好適となる。単繊維の直径は、2.5μm以上であることがより好ましい。なお、単繊維の直径は、たとえば、電子顕微鏡で炭素繊維束の断面を撮影する方法により特定される。
【0026】
炭素繊維束3は、炭素繊維の単繊維を、一束あたり30000本以上含むことが好ましい。これは、炭素繊維束3の引張強度が高くなり炭素含有耐火物1の破壊靭性を向上する点で好ましいためである。炭素繊維束3は、一束あたり50000本以上の単繊維を含むことがより好ましい。また、炭素繊維束3が、一束あたり100000本以下の単繊維を含むと、炭素繊維束3のらせん形状が耐火原料2に係止する作用が特に働きやすいため好ましい。炭素繊維束3は、一束あたり80000本以下の単繊維を含むことがより好ましい。なお、炭素繊維束3一束あたりの炭素繊維の単繊維の本数は、たとえば、電子顕微鏡で炭素繊維束の断面を撮影し、画像解析などの手法を用いることで特定される。
【0027】
炭素繊維束3は、コイル平均径D(図2)が10mm以上のらせん形状を有することが好ましい。これは、コイル平均径Dが10mm以上であると、炭素繊維束3の引張強度が、炭素含有耐火物1の破壊靭性を向上させるために好適な水準に達しやすいためである。コイル平均径Dは、15mm以上であることがより好ましい。また、コイル平均径Dが50mm以下であると、炭素含有耐火物1中に炭素繊維束3が均一に存在しやすくなる点で好ましい。コイル平均径Dは、35mm以下であることがより好ましい。なお、コイル平均径Dは、たとえば、らせん形状の外径をノギスなどで測定する方法により特定される。また、炭素繊維束3のらせん形状が耐火原料2に埋め込まれた状態にあっては、炭素含有耐火物1をX線で透視する方法や、切断面を電子顕微鏡で撮影する方法などにより特定される。
【0028】
炭素含有耐火物1において、炭素繊維束3の含有量が耐火原料2に対して外掛けで0.05%以上であると、炭素含有耐火物1の破壊靭性が向上しやすい。ここで、「外掛け」とは、母材(ここでは耐火原料2)の質量を100%としたときの添加剤(ここでは炭素繊維束3)の質量割合をいう。以下では、「外掛け」は、特記しない限り耐火原料2を基準とする外掛け質量割合を表すものとする。炭素繊維束3の含有量は、外掛けで0.1%以上であることがより好ましい。また、炭素繊維束3の含有量が外掛けで15%以下であると、炭素含有耐火物1の耐食性が向上するので好ましい。炭素繊維束3の含有量は、外掛けで10%以下であることがより好ましい。なお、炭素繊維束3の含有量は、たとえば、炭素含有耐火物1の結合剤が分解する温度(800℃前後)で加熱したのち解砕し、耐火原料と炭素繊維束とを分別してその含有量を測定する方法によって特定される。
【0029】
炭素含有耐火物1において、炭素繊維束3が、炭素含有耐火物1の長手方向に沿って配向していることが好ましい。この構成によれば、炭素含有耐火物1の破壊靭性が向上しやすい。なお、炭素繊維束3が炭素含有耐火物1の長手方向に沿って配向している状態とは、炭素含有耐火物1における炭素繊維束3の配向状態をたとえばX線で透視する方法によって特定したときに、炭素繊維束3の50%以上、好ましくは80%以上について、炭素繊維束3の長手方向と炭素含有耐火物1の長手方向とがなす角が15°以下であることをいう。
【0030】
炭素含有耐火物1において、炭素繊維束3は、らせん形状の長さLが、炭素含有耐火物1の長手方向の長さLの80%以上100%以下であることが好ましい。ここで、炭素繊維束3のらせん形状の長さLは、炭素含有耐火物1中における炭素繊維束3の状態に基づいて定義されるものであり、JIS B 0103:2012「ばね用語」においてコイルばねについて規定されている「自由長さ」に相当する。長さLおよび長さLの定義については、図1および図2を併せて参照されたい。なお、炭素繊維束3のらせん形状の長さLは、たとえば、X線で透視する方法によって特定される。
【0031】
〔その他の含有物〕
炭素含有耐火物1は、炭素繊維束3と別に、黒鉛、カーボンブラック、ピッチなどの、炭素繊維を含有しない炭素原料を含んでいてもよい。
【0032】
炭素含有耐火物1は、耐火原料2および炭素繊維束3と別に、非酸化物添加物を含みうる。かかる非酸化物添加物としては、炭化ケイ素、炭化ホウ素、ホウ化ジルコニウム、アルミニウム、窒化ケイ素などを用いることができる。非酸化物添加物の含有量は、一種類の物質であってもよいし、二種類以上の物質の混合物であってもよい。非酸化物添加物の含有量は、耐火原料2に対して外掛けで10%以下でありうる。
【0033】
〔炭素含有耐火物の製造方法〕
本実施形態に係る炭素含有耐火物1は、常法に従って製造することができる。具体的には、たとえば以下の手順により製造できる。
(1)上述の耐火原料2を一般的な炭素含有耐火物の配合率に従って準備する。
(2)フェノール樹脂などの結合剤を加えてミキサーで混練し、坏土(はいど)を得る。
(3)金型に坏土の充填と炭素繊維束の配置とを交互に繰り返す。このとき、炭素繊維束が耐火物の長手方向に配向するように配置する。
(4)所定量を充填した後に、高圧成形機(機械式プレス、油圧プレス、等方静水圧プレスなど)によって成形する。
(5)成形後は180~350℃で5~30時間程度保持して結合剤を硬化させ、余剰の水分などを取り除く。
【0034】
ここで用いる耐火原料2は、上記の構成のものが市販されている。また、炭素繊維束3についても、上記の構造的特徴を満たすものが炭素繊維メーカーから市販されている。
【0035】
〔炭素含有耐火物の使用〕
本実施形態に係る炭素含有耐火物1は、たとえば、底吹き羽口れんがに好適に用いることができる。炭素含有耐火物1はその高い破壊靭性により、底吹き羽口れんがのような温度変化が激しい環境においても、亀裂、剥離などの損傷を起こしにくいためである。炭素含有耐火物1は、その他にも、特に高い破壊靭性を求められる転炉や電気炉などの出鋼口れんが、直流電気炉の電極保護用スリーブれんが、などの用途に好適に用いることができる。
【0036】
〔その他の実施形態〕
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、たとえば、底吹き羽口れんが、転炉や電気炉などの出鋼口れんが、直流電気炉の電極保護用スリーブれんが、などの耐火物として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 :炭素含有耐火物
2 :耐火原料
3 :炭素繊維束
図1
図2