(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074698
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】GNSSを用いた車両の測位に用いる擬似距離誤差の評価指標及び測位解の信頼性指標を求める方法及びサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法、及びGNSSを用いた車両の測位方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
G01S 19/22 20100101AFI20220511BHJP
G01S 19/43 20100101ALI20220511BHJP
【FI】
G01S19/22
G01S19/43
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020184967
(22)【出願日】2020-11-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和1年11月6日、一般社団法人日本航空宇宙学会発行の第63回宇宙科学技術連合講演会講演集、JSASS-2019-4467により発表 令和2年10月22日、https://branch.jsass.or.jp/ukaren64/で公開された一般社団法人日本航空宇宙学会主催の第64回宇宙科学技術連合講演会講演集、JSASS-2020-4161により発表
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100081042
【弁理士】
【氏名又は名称】功力 妙子
(72)【発明者】
【氏名】麻生 貴広
(72)【発明者】
【氏名】吉原 貴之
(72)【発明者】
【氏名】北村 光教
(72)【発明者】
【氏名】羽田野 裕史
(72)【発明者】
【氏名】国藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】北村 知
(72)【発明者】
【氏名】山本 春生
(72)【発明者】
【氏名】中曽根 隆太
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062BB01
5J062CC07
5J062DD24
5J062FF01
5J062FF04
(57)【要約】
【課題】 GNSSを用いた車両の測位における擬似距離誤差の評価指標及び測位解の信頼性指標を求める方法と、サイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法と、この擬似距離誤差の評価指標及び測位解の信頼性指標を求める方法と、サイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法を利用したGNSSを用いた車両の測位方法及びその装置を提供する。
【解決手段】 新しい擬似距離誤差の評価指標を用いてGNSS衛星の検定を行うとともに、ユーザ局の電波環境をリアルタイムに反映させた測位解の信頼性指標を求め、この擬似距離誤差の評価指標と、測位解の信頼性指標を求める方法と、サイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法を利用して、GNSS衛星を検定し、ユーザ局の測位計算やユーザ局の電波環境をリアルタイムに反映させた測位解の信頼性指標の計算を行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位に用いる擬似距離誤差の評価指標において、
擬似距離誤差の評価指標は、
擬似距離又はキャリアスムージング擬似距離の少なくとも一つと、
ユーザ局とユーザ局で受信したGNSS衛星との幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカと、
を組み合わせたCMCによる指標であること
を特徴とする擬似距離誤差の評価指標。
【請求項2】
ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位に用いる擬似距離誤差の評価指標において、
擬似距離誤差の評価指標は、複数の時定数により処理したキャリアスムージング擬似距離間の乖離量による指標であること
を特徴とする擬似距離誤差の評価指標。
【請求項3】
ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位に用いる擬似距離誤差の評価指標において、
擬似距離誤差の評価指標は、擬似距離の変化、キャリアスムージング擬似距離の変化、又は搬送波位相観測値の変化とユーザ局とユーザ局で受信したGNSS衛星との幾何学的距離の変化及び受信機時計ドリフトとの乖離量による指標であること
を特徴とする擬似距離誤差の評価指標。
【請求項4】
ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位に用いる擬似距離誤差の評価指標において、
擬似距離誤差の評価指標は、複数周波数を用いた擬似距離、キャリアスムージング擬似距離、搬送波位相観測値のマルチパス誤差の差を利用した指標であること
を特徴とする擬似距離誤差の評価指標。
【請求項5】
ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位に用いる擬似距離誤差の評価指標において、
擬似距離誤差の評価指標は、受信信号の自己相関結果の時間変動を利用した指標であること
を特徴とする擬似距離誤差の評価指標。
【請求項6】
前記擬似距離誤差の評価指標は、前記受信信号の自己相関結果及び搬送波位相観測値の時間変動を組み合わせた指標であること
を特徴とする請求項1~請求項5の何れかに記載の擬似距離誤差の評価指標。
【請求項7】
前記擬似距離誤差の評価指標は、コンステレーション毎の信号を使用した指標であること
を特徴とする請求項1~請求項6の何れかに記載の擬似距離誤差の評価指標。
【請求項8】
前記擬似距離誤差の評価指標は、異なるコンステレーションの信号を使用した指標であること
を特徴とする請求項1~請求項6の何れかに記載の擬似距離誤差の評価指標。
【請求項9】
前記擬似距離誤差の評価指標は、請求項1~請求項6に記載の擬似距離誤差の評価指標を同じコンステレーションの擬似距離誤差の評価指標同士で組み合わせた擬似距離誤差の評価指標であること
を特徴とする擬似距離誤差の評価指標。
【請求項10】
前記擬似距離誤差の評価指標は、請求項1~請求項6に記載の擬似距離誤差の評価指標を異なるコンステレーションの擬似距離誤差の評価指標も含めて組み合わせた擬似距離誤差の評価指標であること
を特徴とする擬似距離誤差の評価指標。
【請求項11】
前記搬送波位相観測値は、
(a)ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値と、
(b)ユーザ局とユーザ局で受信したGNSS衛星との幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカと
を比較して前記搬送波位相観測値を検証することにより、サイクルスリップを検出するとともに、サイクルスリップが生じたGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値の波数バイアスを修正した搬送波位相観測値であること
を特徴とする請求項1~請求項10の何れかに記載の擬似距離誤差の評価指標。
【請求項12】
前記搬送波位相観測値は、
(a)ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値と、
(b)請求項5に記載の擬似距離誤差の評価指標と
を組み合わせることにより、サイクルスリップを検出し、
(c)ユーザ局とユーザ局で受信したGNSS衛星との幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカを用いてサイクルスリップが生じたGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値の波数バイアスを修正した搬送波位相観測値であること
を特徴とする請求項1~請求項10の何れかに記載の擬似距離誤差の評価指標。
【請求項13】
ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位に用いる測位解の信頼性指標において、
ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データに含まれるユーザ局の電波環境に応じた擬似距離誤差の評価指標を前記衛星毎にリアルタイムに抽出し、
このリアルタイムに抽出した擬似距離誤差の評価指標から完全性を担保するのに必要十分なマルチパス誤差の限界値を前記衛星毎に求め、
これら前記衛星毎に求めたマルチパス誤差の限界値からユーザ局の電波環境をリアルタイムに反映させた測位解の信頼性指標を求めること
を特徴とする測位解の信頼性指標を求める方法。
【請求項14】
前記擬似距離誤差の評価指標は、請求項1~請求項12の何れかに記載の擬似距離誤差の評価指標であること
を特徴とする請求項13に記載の測位解の信頼性指標を求める方法。
【請求項15】
ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位に用いるサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法において、
(a)ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値と、
(b)ユーザ局とユーザ局で受信したGNSS衛星との幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカと
を比較して前記搬送波位相観測値を検証することにより、サイクルスリップを検出するとともに、サイクルスリップが生じたGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値の波数バイアスを修正すること
を特徴とするサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法。
【請求項16】
ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位に用いるサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法において、
(a)ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値と、
(b)請求項5に記載の擬似距離誤差の評価指標と
を組み合わせることにより、サイクルスリップを検出し、
(c)ユーザ局とユーザ局で受信したGNSS衛星との幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカを用いてサイクルスリップが生じたGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値の波数バイアスを修正すること
を特徴とするサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法。
【請求項17】
ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データを用いてGNSS衛星の検定を行うことによりユーザ局の測位計算に用いるGNSS衛星を選択し、選択したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算やその測位解の信頼性指標の計算を行うGNSSを用いた車両の測位方法において、
ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データに含まれるユーザ局の電波環境に応じた擬似距離誤差の評価指標を前記衛星毎にリアルタイムに抽出し、
このリアルタイムに抽出した擬似距離誤差の評価指標から完全性を担保するのに必要十分なマルチパス誤差の限界値を前記衛星毎に求め、
これら前記衛星毎に求めたマルチパス誤差の限界値を用いてGNSS衛星の検定を行うことによりユーザ局の測位計算に用いるGNSS衛星を選択し、選択したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うとともに、ユーザ局の電波環境をリアルタイムに反映させた測位解の信頼性指標の計算を行うこと
を特徴とするGNSSを用いた車両の測位方法。
【請求項18】
前記擬似距離誤差の評価指標は、請求項1~請求項12の何れかに記載の擬似距離誤差の評価指標であること
を特徴とする請求項17に記載のGNSSを用いた車両の測位方法。
【請求項19】
請求項15~請求項16の何れかに記載のサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法を用いて、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データからサイクルスリップを検出するとともに、この検出したサイクルスリップの波数バイアスを修正すること
を特徴とする請求項17~請求項18の何れかに記載のGNSSを用いた車両の測位方法。
【請求項20】
コンステレーション毎に個別に測位解の計算とその信頼性指標の計算を行い、コンステレーション毎の測位解の信頼性指標を比較することにより測位性能の悪いコンステレーションを判断するとともに、この測位性能の悪いコンステレーションのGNSS衛星の検定を行うことによりユーザ局の測位計算に用いるGNSS衛星を選択すること
を特徴とする請求項17~請求項19の何れかに記載のGNSSを用いた車両の測位方法。
【請求項21】
ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データを用いてGNSS衛星の検定を行うことによりユーザ局の測位計算に用いるGNSS衛星を選択する手段と、この選択したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算及びその測位解の信頼性指標の計算を行う手段とを有するGNSSを用いた車両の測位装置において、
ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データに含まれるユーザ局の電波環境に応じた擬似距離誤差の評価指標を前記衛星毎にリアルタイムに抽出する手段と、
このリアルタイムに抽出した擬似距離誤差の評価指標から完全性を担保するのに必要十分なマルチパス誤差の限界値を前記衛星毎に求める手段と、
これら前記衛星毎に求めたマルチパス誤差の限界値を用いてGNSS衛星の検定を行うことによりユーザ局の測位計算に用いるGNSS衛星を選択し、選択したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算やユーザ局の電波環境をリアルタイムに反映させた測位解の信頼性指標の計算を行う手段とからなること
を特徴とするGNSSを用いた車両の測位装置。
【請求項22】
前記擬似距離誤差の評価指標は、請求項1~請求項12の何れかに記載の擬似距離誤差の評価指標であること
を特徴とする請求項21に記載のGNSSを用いた車両の測位装置。
【請求項23】
請求項15~請求項16の何れかに記載のサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法を用いて、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データからサイクルスリップを検出するとともに、この検出したサイクルスリップの波数バイアスを修正する手段をさらに有すること
を特徴とする請求項21~請求項22の何れかに記載のGNSSを用いた車両の測位装置。
【請求項24】
コンステレーション毎に個別に測位解の計算とその信頼性指標の計算を行う手段と、コンステレーション毎の測位解の信頼性指標を比較することにより測位性能の結果が悪いコンステレーションを判断する手段と、この測位性能の悪いコンステレーションのGNSS衛星の検定を行うことによりユーザ局の測位計算に用いるGNSS衛星を選択する手段をさらに有すること
を特徴とする請求項21~請求項23の何れかに記載のGNSSを用いた車両の測位装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、GNSSを用いた車両の測位に用いる擬似距離誤差の評価指標及び測位解の信頼性指標を求める方法と、この擬似距離誤差の評価指標及び測位解の信頼性指標を求める方法及びサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法を利用したGNSSを用いた車両の測位方法及びその装置に関し、特に、GNSSを用いた車両の測位において、受信データに含まれるユーザ局の電波環境に応じた擬似距離誤差をリアルタイムに抽出し、このリアルタイムに抽出したユーザ局の電波環境に応じた擬似距離誤差を測位解の信頼性に反映するための擬似距離誤差の評価指標と、この擬似距離誤差の評価指標により測位計算に用いるGNSS衛星を選択し、この選択したGNSS衛星の受信データにより測位計算を行って測位解を求めるとともに、その測位解の信頼性指標を求めることでユーザ局の電波環境をリアルタイムに反映させた測位解の信頼性指標を求める方法と、受信データに含まれる搬送波位相観測値と擬似距離誤差の評価指標に用いる搬送波位相観測値のレプリカとを比較して検証することによりサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法と、この擬似距離誤差の評価指標及び測位解の信頼性指標を求める方法及びサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法を利用したGNSSを用いた車両の測位方法及びその装置である。
【背景技術】
【0002】
航空航法で利用されているGNSS(Global Navigation Satellite System:全世界的航法衛星システム)を用いた測位における測位誤差を低減する方式として、衛星型衛星航法補強システム(Satellite Based Augmentation System:以下、SBASと記す。)がある。このSBASは、衛星故障、伝搬異常等の誤差要因を地上局で監視し、これらの誤差要因の補正情報と、この補正情報の信頼性の情報も併せて補強情報としてユーザ局に放送している。ユーザ局は、測位を行う際に、その補強情報を利用して、測位計算の結果である測位解(以下、単に測位解と記す。)とその信頼性指標(測位した結果にどの位の誤差が含まれているかという指標、SBASでは保護レベル(PL:Protection Level))を計算して評価することにより、誤差要因の影響を低減するとともに、信頼性が担保された測位を行うことが可能となっている。
【0003】
このSBASの様に測位解の信頼性を担保する方法として、特許文献1に記載の全地球航法衛星測定における誤差レベルを推定すると共に当該推定の信頼性を保証する方法、および当該方法を実装する全地球航法装置がある。特許文献1に記載の全地球航法衛星測定における誤差レベルを推定すると共に当該推定の信頼性を保証する方法は、
図5に示すように、全地球航法装置に実装された、全地球航法衛星測定用の完全性パラメータを推定する方法において、方法は、全地球航法装置によって局所誤差を検知することと、地上拠点によって、衛星群に付随する誤差を検知することを含み、局所誤差σ
loc,iを検知するステップは、熱雑音に起因する誤差を計算するステップEtp11と、マルチパス効果に起因する雑音を計算するステップEtp12とを含み、局所誤差は、熱雑音に起因する誤差とマルチパス効果に起因する雑音とを使用して計算され、方法はさらに、局所誤差と、衛星群に付随する誤差とを使用して、完全性パラメータを計算するステップを含む方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SBASにおける測位解の信頼性指標である保護レベルを計算する際には、様々な誤差要因をモデル化して取り扱う必要がある。航空航法におけるユーザ局である航空機の電波環境は、地上における車両等の電波環境と比較すると、理想的な環境であるので、様々な誤差要因をモデル化しやすい。そのため、現状の航空航法では、電波環境をリアルタイムに考慮せずとも良く、航空機がどこにいても空であれば衛星を見通しやすい場所にいるので、様々な誤差要因を別々の条件で取り扱って測位解の信頼性指標の計算を行っている。また、現在の測位解の信頼性指標では、ユーザ局の擬似距離誤差を定常モデルとして取り扱っており、ユーザ局ではそのモデルから逸脱するような電波環境(遮蔽、マルチパス、電波干渉)による擬似距離品質の劣化を監視して検定統計量が閾値以上の擬似距離を排除した測位を実施している。
【0006】
しかしながら、ある意味理想的な電波環境である航空機に対し、地上の車両は、山陰や周囲の建物、樹木等の遮蔽物により見通せない衛星の存在や、マルチパスの影響などによって、電波環境が理想的ではない。従って、誤差要因の影響を低減するとともに、信頼性が担保された測位を行うことが可能な航空航法で利用されているSBASを、そのまま車両の測位に用いたとしても、ユーザ局である車両の電波環境は理想的ではないために、実用には適さない。
【0007】
また、従来の擬似距離の品質監視による排除の方法では、電波環境が理想的ではないとともに、著しく変化するユーザ局の電波環境をリアルタイムで考慮せず一律の条件で取り扱っているため、条件に合わない擬似距離のGNSS衛星を排除する必要が生じて可視衛星が測位に必要な衛星数(4つ以上)があっても測位不能となる時間が増大する課題がある。この課題を回避するため、単に擬似距離を排除する閾値を緩和するのみでは、測位解の信頼性指標が常時大きな値となって実用には適さないものとなる。
【0008】
一方で、マルチパスの影響を低減する目的で、マルチパス誤差(マルチパス起源のレンジ誤差)を低減可能な効果を有するキャリアスムージング処理を利用した場合、地上を移動するユーザ局では、地上の遮蔽物により、搬送波位相観測値にサイクルスリップが発生しやすいという問題がある。ユーザ局走行時は周辺環境が変化し、地上の遮蔽物により容易に測位信号の遮蔽が発生する。この測位信号の遮蔽により、測位信号の瞬断が発生し、搬送波位相の追尾が外れるためである。一旦、搬送波位相の追尾が外れ、キャリアスムージング処理がリセットされた場合、再度衛星補足がされても、キャリアスムージング処理に用いられるスムージングフィルタが収束するまでの間(SBASの規格では100秒間)は測位計算にその衛星を利用することが出来ない。そのため、地上では、可視衛星が測位に必要な衛星数があっても、キャリアスムージング処理によりマルチパス誤差を低減した衛星が、測位に必要な衛星数に満たない可能性がある。したがって、キャリアスムージング処理を維持するため、サイクルスリップを検出し、サイクルスリップが発生した場合には、適切に波数バイアスを修正する必要がある。
【0009】
この発明は、このような課題を踏まえた上で、GNSSを用いた車両の測位における新しい擬似距離誤差の評価指標及び測位解の信頼性指標を求める方法と、サイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法と、この擬似距離誤差の評価指標及び測位解の信頼性指標を求める方法と、サイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法とを利用したGNSSを用いた車両の測位方法及びその装置を提供することを目的とする。さらに、GNSSを用いた車両の測位において、受信データに含まれるユーザ局の電波環境に応じた擬似距離誤差をリアルタイムに抽出し、このリアルタイムに抽出したユーザ局の電波環境に応じた擬似距離誤差を測位解の信頼性に反映するための擬似距離誤差の評価指標と、この擬似距離誤差の評価指標により測位計算に用いるGNSS衛星を選択し、この選択したGNSS衛星の受信データにより測位計算を行って測位解を求めるとともに、その測位解の信頼性指標を求めることでユーザ局の電波環境をリアルタイムに反映させた測位解の信頼性指標を求める方法と、受信データに含まれる搬送波位相観測値と擬似距離誤差の評価指標に用いる搬送波位相観測値のレプリカとを比較して検証することによりサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法と、この擬似距離誤差の評価指標及び測位解の信頼性指標を求める方法と、サイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法とを利用したGNSSを用いた車両の測位方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位に用いる擬似距離誤差の評価指標において、擬似距離誤差の評価指標は、擬似距離又はキャリアスムージング擬似距離の少なくとも一つと、ユーザ局とユーザ局で受信したGNSS衛星との幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカとを組み合わせたCMCによる指標であることを特徴とする擬似距離誤差の評価指標である。
【0011】
請求項2に係る発明は、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位に用いる擬似距離誤差の評価指標において、擬似距離誤差の評価指標は、複数の時定数により処理したキャリアスムージング擬似距離間の乖離量による指標であることを特徴とする擬似距離誤差の評価指標である。
【0012】
請求項3に係る発明は、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位に用いる擬似距離誤差の評価指標において、擬似距離誤差の評価指標は、擬似距離の変化、キャリアスムージング擬似距離の変化、又は搬送波位相観測値の変化とユーザ局とユーザ局で受信したGNSS衛星との幾何学的距離の変化及び受信機時計ドリフトとの乖離量による指標であることを特徴とする擬似距離誤差の評価指標である。
【0013】
請求項4に係る発明は、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位に用いる擬似距離誤差の評価指標において、擬似距離誤差の評価指標は、複数周波数を用いた擬似距離、キャリアスムージング擬似距離、搬送波位相観測値のマルチパス誤差の差を利用した指標であることを特徴とする擬似距離誤差の評価指標である。
【0014】
請求項5に係る発明は、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位に用いる擬似距離誤差の評価指標において、擬似距離誤差の評価指標は、受信信号の自己相関結果の時間変動を利用した指標であることを特徴とする擬似距離誤差の評価指標である。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項1~請求項5の何れかに係る発明において、擬似距離誤差の評価指標は、受信信号の自己相関結果及び搬送波位相観測値の時間変動を組み合わせた指標である。
【0016】
請求項7に係る発明は、請求項1~請求項6の何れかに係る発明において、擬似距離誤差の評価指標は、コンステレーション毎の信号を使用した指標である。
【0017】
請求項8に係る発明は、請求項1~請求項6の何れかに係る発明において、擬似距離誤差の評価指標は、異なるコンステレーションの信号を使用した指標である。
【0018】
請求項9に係る発明は、擬似距離誤差の評価指標は、請求項1~請求項6に記載の擬似距離誤差の評価指標を同じコンステレーションの擬似距離誤差の評価指標同士で組み合わせた擬似距離誤差の評価指標であることを特徴とする擬似距離誤差の評価指標である。
【0019】
請求項10に係る発明は、擬似距離誤差の評価指標は、請求項1~請求項6に記載の擬似距離誤差の評価指標を異なるコンステレーションの擬似距離誤差の評価指標も含めて組み合わせた擬似距離誤差の評価指標であることを特徴とする擬似距離誤差の評価指標である。
【0020】
請求項11に係る発明は、請求項1~請求項10の何れかに係る発明において、搬送波位相観測値は、(a)ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値と、(b)ユーザ局とユーザ局で受信したGNSS衛星との幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカとを比較して搬送波位相観測値を検証することにより、サイクルスリップを検出するとともに、サイクルスリップが生じたGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値の波数バイアスを修正した搬送波位相観測値である。
【0021】
請求項12に係る発明は、請求項1~請求項10の何れかに係る発明において、搬送波位相観測値は、(a)ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値と、(b)請求項5に記載の擬似距離誤差の評価指標とを組み合わせることにより、サイクルスリップを検出し、(c)ユーザ局とユーザ局で受信したGNSS衛星との幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカを用いてサイクルスリップが生じたGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値の波数バイアスを修正した搬送波位相観測値である。
【0022】
請求項13に係る発明は、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位に用いる測位解の信頼性指標において、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データに含まれるユーザ局の電波環境に応じた擬似距離誤差の評価指標を衛星毎にリアルタイムに抽出し、このリアルタイムに抽出した擬似距離誤差の評価指標から完全性を担保するのに必要十分なマルチパス誤差の限界値を衛星毎に求め、これら衛星毎に求めたマルチパス誤差の限界値からユーザ局の電波環境をリアルタイムに反映させた測位解の信頼性指標を求めることを特徴とする測位解の信頼性指標を求める方法である。
【0023】
請求項14に係る発明は、請求項13に係る発明において、擬似距離誤差の評価指標は、請求項1~請求項12の何れかに記載の擬似距離誤差の評価指標である。
【0024】
請求項15に係る発明は、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位に用いるサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法において、(a)ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値と、(b)ユーザ局とユーザ局で受信したGNSS衛星との幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカとを比較して搬送波位相観測値を検証することにより、サイクルスリップを検出するとともに、サイクルスリップが生じたGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値の波数バイアスを修正することを特徴とするサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法である。
【0025】
請求項16に係る発明は、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位に用いるサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法において、(a)ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値と、(b)請求項5に記載の擬似距離誤差の評価指標とを組み合わせることにより、サイクルスリップを検出し、(c)ユーザ局とユーザ局で受信したGNSS衛星との幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカを用いてサイクルスリップが生じたGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値の波数バイアスを修正することを特徴とするサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法である。
【0026】
請求項17に係る発明は、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データを用いてGNSS衛星の検定を行うことによりユーザ局の測位計算に用いるGNSS衛星を選択し、選択したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算やその測位解の信頼性指標の計算を行うGNSSを用いた車両の測位方法において、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データに含まれるユーザ局の電波環境に応じた擬似距離誤差の評価指標を衛星毎にリアルタイムに抽出し、このリアルタイムに抽出した擬似距離誤差の評価指標から完全性を担保するのに必要十分なマルチパス誤差の限界値を衛星毎に求め、これら衛星毎に求めたマルチパス誤差の限界値を用いてGNSS衛星の検定を行うことによりユーザ局の測位計算に用いるGNSS衛星を選択し、選択したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うとともに、ユーザ局の電波環境をリアルタイムに反映させた測位解の信頼性指標の計算を行うことを特徴とするGNSSを用いた車両の測位方法である。
【0027】
請求項18に係る発明は、請求項17に係る発明において、擬似距離誤差の評価指標は、請求項1~請求項12の何れかに記載の擬似距離誤差の評価指標である。
【0028】
請求項19に係る発明は、請求項17~請求項18の何れかに係る発明において、請求項15~請求項16の何れかに記載のサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法を用いて、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データからサイクルスリップを検出するとともに、この検出したサイクルスリップの波数バイアスを修正するものである。
【0029】
請求項20に係る発明は、請求項17~請求項19の何れかに係る発明において、コンステレーション毎に個別に測位解の計算とその信頼性指標の計算を行い、コンステレーション毎の測位解の信頼性指標を比較することにより測位性能の悪いコンステレーションを判断するとともに、この測位性能の悪いコンステレーションのGNSS衛星の検定を行うことによりユーザ局の測位計算に用いるGNSS衛星を選択するものである。
【0030】
請求項21に係る発明は、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データを用いてGNSS衛星の検定を行うことによりユーザ局の測位計算に用いるGNSS衛星を選択する手段と、この選択したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算及びその測位解の信頼性指標の計算を行う手段とを有するGNSSを用いた車両の測位装置において、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データに含まれるユーザ局の電波環境に応じた擬似距離誤差の評価指標を衛星毎にリアルタイムに抽出する手段と、このリアルタイムに抽出した擬似距離誤差の評価指標から完全性を担保するのに必要十分なマルチパス誤差の限界値を衛星毎に求める手段と、これら衛星毎に求めたマルチパス誤差の限界値を用いてGNSS衛星の検定を行うことによりユーザ局の測位計算に用いるGNSS衛星を選択し、選択したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算やユーザ局の電波環境をリアルタイムに反映させた測位解の信頼性指標の計算を行う手段とからなることを特徴とするGNSSを用いた車両の測位装置である。
【0031】
請求項22に係る発明は、請求項21に係る発明において、擬似距離誤差の評価指標は、請求項1~請求項12の何れかに記載の擬似距離誤差の評価指標である。
【0032】
請求項23に係る発明は、請求項21~請求項22の何れかに係る発明において、請求項15~請求項16の何れかに記載のサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法を用いて、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データからサイクルスリップを検出するとともに、この検出したサイクルスリップの波数バイアスを修正する手段をさらに有するものである。
【0033】
請求項24に係る発明は、請求項21~請求項23の何れかに係る発明において、コンステレーション毎に個別に測位解の計算とその信頼性指標の計算を行う手段と、コンステレーション毎の測位解の信頼性指標を比較することにより測位性能の結果が悪いコンステレーションを判断する手段と、この測位性能の悪いコンステレーションのGNSS衛星の検定を行うことによりユーザ局の測位計算に用いるGNSS衛星を選択する手段をさらに有するものである。
【発明の効果】
【0034】
請求項1~請求項10に係る発明は、上記のように構成したので、理想的な電波環境にある航空機と違って、電波環境が悪いとともに、著しく電波環境が変化するユーザ局(地上の車両)にも利用可能な新しい擬似距離誤差の評価指標を提供することが出来る。
【0035】
請求項13に係る発明は、上記のように構成したので、理想的な電波環境にある航空機と違って、電波環境が悪く、また著しく電波環境が変化するユーザ局(地上の車両)にも利用可能であるとともに、ユーザ局の電波環境をリアルタイムに反映させた測位解の信頼性指標を提供することが出来る。
【0036】
請求項11、請求項12、請求項15及び請求項16に係る発明は、上記のように構成したので、著しく電波環境が変化するユーザ局(地上の車両)にも利用可能な新しい擬似距離誤差の評価指標を利用してサイクルスリップを検出することが出来るともに、波数バイアスを修正することが出来る。
【0037】
請求項17及び請求項21に係る発明は、上記のように構成したので、理想的な電波環境にある航空機と違って、電波環境が悪く、また著しく電波環境が変化するユーザ局(地上の車両)にも利用可能なGNSSを用いた車両の測位方法及び装置を提供することが出来る。また、GNSS衛星の検定において、従来の方法では一律の条件で排除されていた(GNSS衛星の)擬似距離誤差であったとしても、そのGNSS衛星の擬似距離誤差をリアルタイムに厳密に評価することで、そのGNSS衛星を必ずしも排除せずに使えるようにして、ユーザ局の測位計算が可能である。さらに、ユーザ局の測位計算だけでなく、ユーザ局の電波環境をリアルタイムに反映させた測位解の信頼性指標を求めることが出来る。
【0038】
請求項20及び請求項24に係る発明は、上記のように構成したので、測位性能の悪いコンステレーションを判断して検定出来るので、ユーザ局の測位計算や信頼性指標を求める際に、ユーザの電波環境をリアルタイムに反映させた適切なコンステレーションのGNSS衛星を選択することが出来る。
【0039】
請求項14及び請求項18及び請求項22に係る発明は、上記のように構成したので、請求項1~請求項10と同様の効果がある。
【0040】
請求項19及び請求項23に係る発明は、上記のように構成したので、請求項11、請求項12、請求項15及び請求項16と同様の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】この発明の第1の実施例を示すもので、この発明のGNSSを用いた車両の測位装置を示す模式図である。
【
図2】この発明の第1の実施例を示すもので、この発明のGNSSを用いた車両の測位装置の演算部におけるGNSSを用いた車両の測位の際の処理を示すフローチャートである。
【
図3】この発明の第2の実施例を示すもので、この発明のGNSSを用いた車両の測位に用いる擬似距離誤差の評価指標と、マルチパス誤差及びその限界値との関係性を示す図であり、(a)は擬似距離誤差の評価指標と、マルチパス誤差及びその限界値との関係性を示す図、(b)は(a)における擬似距離誤差の評価指標C1に対応したマルチパス誤差の確率密度関数を示す図である。
【
図4】この発明の第2の実施例を示すもので、この発明のGNSSを用いた車両の測位に用いる擬似距離誤差の評価指標と、マルチパス誤差及びその限界値との関係性を示す図であり、(a)は擬似距離誤差の評価指標と、マルチパス誤差及びその限界値との関係性を示す図、(b)は(a)における擬似距離誤差の評価指標Cに対応したマルチパス誤差の確率密度関数を示す図である。
【
図5】従来例を示すもので、全地球航法衛星測定における誤差レベルを推定すると共に当該推定の信頼性を保証する方法、および当該方法を実装する全地球航法装置を示す例示的なブロックフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うGNSSを用いた車両の測位方法において、ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データに含まれるユーザ局の電波環境に応じた擬似距離誤差の評価指標を衛星毎にリアルタイムに抽出し、このリアルタイムに抽出した擬似距離誤差の評価指標から完全性を担保するのに必要十分なマルチパス誤差の限界値を衛星毎に求め、これら衛星毎に求めたマルチパス誤差の限界値からユーザ局の電波環境をリアルタイムに反映させた測位解の信頼性指標を求める。
擬似距離誤差の評価指標は、擬似距離又はキャリアスムージング擬似距離の少なくとも一つと、ユーザ局とユーザ局で受信したGNSS衛星との幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカとを組み合わせたCMCによる指標、複数の時定数により処理したキャリアスムージング擬似距離間の乖離量による指標、擬似距離の変化、キャリアスムージング擬似距離の変化、又は搬送波位相観測値の変化とユーザ局とユーザ局で受信したGNSS衛星との幾何学的距離の変化及び受信機時計ドリフトとの乖離量による指標、複数周波数を用いた擬似距離、キャリアスムージング擬似距離、搬送波位相観測値のマルチパス誤差の差を利用した指標、又は受信信号の自己相関結果の時間変動を利用した指標の何れかであり、または、これらの指標に受信信号の自己相関結果及び搬送波位相観測値の時間変動を組み合わせた指標であり、又はこれらの指標にさらにコンステレーション毎の信号を使用した指標であり、または、これらの指標にさらに異なるコンステレーションの信号を使用した指標、または、これらの指標を同じコンステレーションの指標同士で組み合わせた指標、または、これらの指標を異なるコンステレーションの指標も含めて組み合わせた指標、又はこれらの指標及びこれらの指標をコンステレーションも考慮して組み合わせた指標である。
サイクルスリップについては、(a)ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値と、(b)ユーザ局とユーザ局で受信したGNSS衛星との幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカとを比較して搬送波位相観測値を検証することにより、サイクルスリップを検出するとともに、サイクルスリップが生じたGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値の波数バイアスを修正する、または、(a)ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値と、(b)受信信号の自己相関結果の時間変動を利用した擬似距離誤差の評価指標とを組み合わせることにより、サイクルスリップを検出し、(c)ユーザ局とユーザ局で受信したGNSS衛星との幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカを用いてサイクルスリップが生じたGNSS衛星の受信データの搬送波位相観測値の波数バイアスを修正する。
サイクルスリップを検出し、波数バイアスの修正を行い、これらの擬似距離誤差の評価指標の何れかの評価指標を用いてGNSS衛星の検定を行うとともに、ユーザ局の電波環境をリアルタイムに反映させた測位解の信頼性指標を求め、コンステレーション毎の測位解の信頼性指標を比較することにより測位性能の悪いコンステレーションを判断して、この測位性能の悪いコンステレーションのGNSS衛星の検定を行うことにより、
ユーザ局で受信したGNSS衛星の受信データを用いてGNSS衛星の検定を行うことによりユーザ局の測位計算に用いるGNSS衛星を選択し、選択したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算やその測位解の信頼性指標の計算を行うGNSSを用いた車両の測位方法において、
ユーザ局の測位計算に用いるGNSS衛星を選択し、選択したGNSS衛星の受信データにより測位解の計算を行うとともに、ユーザ局の電波環境をリアルタイムに反映させた測位解の信頼性指標の計算を行うGNSSを用いた車両の測位方法である。
【実施例0043】
この発明の第1の実施例を、
図1~
図2に基づいて詳細に説明する。
図1~
図2は、この発明の第1の実施例を示すもので、
図1はこの発明のGNSSを用いた車両の測位装置を示す模式図である。
図2はこの発明のGNSSを用いた車両の測位装置の演算部におけるGNSSを用いた車両の測位の際の処理を示すフローチャートである。
【0044】
図1に示すように、この発明のGNSSを用いた車両の測位装置1は、GNSS衛星2(2a、2b・・・)からの測位信号、即ち、衛星信号を利用して、ユーザ局3である地上の車両の測位を行う装置である。車両の測位装置1は、ユーザ局3の上部等の衛星信号を受信しやすい位置に配置されたアンテナ4と、受信機5と、演算部6と、表示部7と、地理空間情報データベース8と、慣性計測装置(IMU)9と、カメラ10と、タコジェネレータ11とから構成されている。
【0045】
GNSS衛星2(2a、2b・・・)は、GPSをはじめとするGNSSで用いられる航法衛星である。GNSS衛星2(2a、2b・・・)は、この実施例では3つの周波数(L1:1.57542GHz/L2:1.22760GHz/L5:1.117645GHz)で運用されているGPS衛星であり、それぞれのGPS衛星は自身の軌道情報を含めて測位に必要な信号を送信している。このGNSS衛星2(2a、2b・・・)から送信される信号が、衛星信号である。衛星信号は、この実施例では、L1帯の信号、即ち、L1の信号を用いており、衛星信号の信号処理・解析に用いる衛星信号の受信データは、L1信号の搬送波位相観測値を用いているが、L1信号以外の周波数帯も利用可能である。なお、GNSS衛星2(2a、2b・・・)は、L1帯、L2帯及びL5帯の3つの周波数帯の信号を送信しているアメリカのGPS衛星以外にも、L1帯、L2帯のみを送信し、L5帯の信号を送信していないGPS衛星や、ロシアのGLONASS衛星、日本の準天頂衛星、欧州のGalileo、中国の北斗、インドのGAGANなど、航法に利用可能な信号を伝送している衛星が利用可能である。また、GNSS衛星2(2a、2b・・・)から送信される衛星信号だけでなく、位置が既知で発信位置が与えられている地上基準局等の地上の送信局から送信される電波信号も併せて利用可能である。
【0046】
ユーザ局3は、地上の車両、即ち、地上を移動する移動体であり、自動車などの陸上車両や鉄道の車両の他に、港湾内の船舶、空港面を移動する航空機などが含まれる。遮蔽物のない空中を飛行する航空機の理想的な電波環境と違い、ユーザ局3は、山陰や周囲の建物、樹木等の遮蔽物により見通せない衛星の存在や、マルチパスの影響などによって、電波環境が理想的ではないとともに、ユーザ局3の地上における移動により、その電波環境が著しく変化する。なお、この実施例では、ユーザ局3は鉄道の車両である。
【0047】
受信機5は、アンテナ4で受信した衛星信号のRF信号を受信処理可能な受信機であり、この受信信号、即ち、受信した衛星信号の受信データを演算部6に、有線、無線、オフラインの何れかの方法で送信している。また、受信機5は、主に航空航法で利用されているSBASの補強情報(衛星故障、伝搬異常等の誤差要因の補正情報と、この補正情報の信頼性の情報)を受信する機能を有している。
【0048】
演算部6は、入力された衛星信号の受信データの信号処理及び解析を行い、電波環境が著しく変化するユーザ局3の測位を行う機能を有しているとともに、GNSS衛星の受信データに含まれるユーザ局3の電波環境に応じた擬似距離誤差の評価指標をGNSS衛星2毎にリアルタイムに抽出する機能と、リアルタイムに抽出した擬似距離誤差の評価指標から完全性を担保するのに必要十分なマルチパス起源のレンジ誤差であるマルチパス誤差の限界値をGNSS衛星2毎に求める機能と、このGNSS衛星2毎に求めたマルチパス誤差の限界値を用いてGNSS衛星2の検定を行う機能と、GNSS衛星2の検定によりユーザ局3の測位計算に用いるGNSS衛星2を選択し、この選択したGNSS衛星2の受信データによりユーザ局3の測位計算の結果である測位解の計算を行うとともに、このGNSS衛星2毎に求めたマルチパス誤差の限界値を反映させた測位解の信頼性指標の計算を行う機能とを有している。
【0049】
表示部7は、演算部6で測位計算されたユーザ局3の位置と、このユーザ局3の測位解の信頼性指標を表示する機能を有している。
【0050】
地理空間情報データベース8は、空間上の特定の地点または区域の位置を示す位置情報と、この位置情報に関連付けられた様々な事象に関する情報のデータベースであり、地理情報システム(GIS:Geographic Information System)のデータベースや線路位置の測量データに関するデータベースを含むものである。慣性計測装置(IMU)9は、三次元の角速度と加速度を検出する装置であり、この実施例では地上の車両であるユーザ局3の並進運動と姿勢変化を検出するセンサである。カメラ10は、ユーザ局3の周囲を撮像するとともに、この撮像したデータを演算部6で画像解析することにより、地上の車両であるユーザ局3が移動した幾何学的距離の変化を求めることが出来る。タコジェネレータ11は、回転速度に比例した直流電圧を発生することにより回転速度を検出するとともに、ユーザ局3の車輪の回転数とその車輪径とから距離を求めることが出来るので、移動体であるユーザ局3が移動した幾何学的距離の変化を求めることが出来る。なお、地理空間情報データベース8、慣性計測装置(IMU)9、カメラ10及びタコジェネレータ11は、何れも地上の車両であるユーザ局3の位置変化を求めるための構成であり、これらの何れかまたはこれらを組み合わせた構成としても良い。これらの構成から求められるユーザ局3の位置変化は、ユーザ局3と、ユーザ局3で受信したGNSS衛星の幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカの生成に使用される。
【0051】
次に、作用動作について、
図1~
図2に基づいて説明する。
まず、GNSS衛星2(2a、2b・・・)からの衛星信号を、ユーザ局3のアンテナ4で受信する。アンテナ4で受信した衛星信号のRF信号が受信機5に入力され、これらの受信データは演算部6に送信される。この演算部6に入力された衛星信号の受信データをもとに、遮蔽やマルチパスなどの影響を受ける電波環境下を移動することにより電波環境が著しく変化するユーザ局3の測位を行うとともに、この測位解の信頼性指標の計算を行う。また、地理空間情報データベース8、慣性計測装置(IMU)9、カメラ10及びタコジェネレータ11からのデータは、演算部6に送信され、演算部6は、これらのデータを用いて搬送波位相観測値のレプリカを生成し、この搬送波位相観測値のレプリカを用いて擬似距離誤差の評価指標を求めるとともに、サイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する。擬似距離誤差の評価指標及びサイクルスリップを検出した場合の波数バイアスの修正結果は、ユーザ局3の測位計算及び測位解の信頼性指標の計算に利用される。演算部6で計算されたユーザ局3の測位結果とその測位解の信頼性指標は、表示部7においてユーザ局3の位置とその測位解の信頼性指標として表示される。
【0052】
次に、演算部6で行うユーザ局3の測位計算及びこの測位解の信頼性指標の計算について、
図2に基づいて説明する。
まず、アンテナ4で受信したGNSS衛星2(2a、2b・・・)からの衛星信号の受信データを、SBASの補強情報とともに演算部6に入力する(ステップ50)。このSBASの補強情報により異常衛星(衛星故障などを起こしているGNSS衛星2(2a、2b・・・))がないか確認し(ステップ51)、異常衛星がある場合、当該GNSS衛星2(2a、2b・・・)をユーザ局3の測位計算に使用する衛星から排除する(ステップ52)。さらに、演算部6に入力された受信データから、NLOS(Non Line of Sight:不可視(衛星))のGNSS衛星2(2a、2b・・・)をユーザ局3の測位計算に使用する衛星から排除する(ステップ53)とともに、搬送波位相のサイクルスリップを検出(ステップ54)する。サイクルスリップが検出されたGNSS衛星2(2a、2b・・・)は、ユーザ局3の測位計算に使用する衛星から排除されるか、または波数バイアスの修正がされる。
【0053】
このようにして異常衛星や不可視衛星を排除するとともに、サイクルスリップが検出されたことによりユーザ局3の測位計算に使用する衛星から排除されるか、または波数バイアスの修正がされたことにより選別されたLOS(Line of Sight:可視(衛星))のGNSS衛星2(2a、2b・・・)の受信データに含まれるユーザ局3の電波環境に応じた擬似距離誤差の評価指標を計算し、GNSS衛星2毎にリアルタイムに抽出する(ステップ55)。このリアルタイムに抽出された擬似距離誤差の評価指標から所望の完全性を担保するのに必要十分なマルチパス誤差の限界値をGNSS衛星2毎に計算する(ステップ56)。このGNSS衛星2毎に求めたマルチパス誤差の限界値を用いてGNSS衛星2(2a、2b・・・)の検定を行い、ユーザ局3の測位計算に用いるGNSS衛星2(2a、2b・・・)を選定する。
【0054】
この選定されたGNSS衛星2(2a、2b・・・)のみを用いて、その受信データ、マルチパス誤差の限界値及びSBASの補強情報を使用して対象GNSS衛星2の補正を行い、ユーザ局3の測位計算を行う(ステップ57)とともに、このGNSS衛星2毎に求めたマルチパス誤差の限界値を反映させた測位解の信頼性指標の計算を行う(ステップ58)。
【0055】
このようにして計算されたユーザ局3の測位結果とその測位解の信頼性指標を表示部7へ出力し(ステップ59)、表示部7においてユーザ局3の位置とその保護レベル(測位解の信頼性指標)が表示される。
【0056】
なお、本発明のGNSSを用いた車両の測位装置においては、NLOSのGNSS衛星2の排除(ステップ53)は必須の工程ではない。NLOSのGNSS衛星2(2a、2b・・・)の受信データに含まれるユーザ局3の電波環境に応じた擬似距離誤差の評価指標から求めるマルチパス誤差の限界値が実用に適さない大きな値となって、結果的にユーザ局3の測位計算に用いるGNSS衛星2(2a、2b・・・)から排除されることになるからである。
【0057】
次に、演算部6で行うユーザ局3で受信したGNSS衛星2(2a、2b・・・)の受信データからサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法について説明する。この実施例では、地理空間情報データベース8とユーザ局3の速度計(図示せず)のデータを用いて、ユーザ局3で受信したGNSS衛星2(2a、2b・・・)の受信データからサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法について説明する。
【0058】
地理空間情報データベース8は、この実施例では地理情報システム(GIS)のデータベースを利用している。また、ユーザ局3は、上記したように、この実施例では鉄道の車両であるので、一般的に用いられているマップマッチングの技術も用いることにより、このGISのデータからユーザ局3の速度の単位ベクトルを求めることが出来る。このユーザ局3の速度の単位ベクトルに、速度計から得られる速度を乗じることによりユーザ局3の速度3成分(Vx,Vy,Vz)が求められる。この速度3成分によりユーザ局3の位置変化が求められ、ユーザ局3とユーザ局3で受信したGNSS衛星2(2a、2b・・・)との幾何学的変化が求められる。このユーザ局3とユーザ局3で受信したGNSS衛星2(2a、2b・・・)との幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカと、ユーザ局3で受信したGNSS衛星2(2a、2b・・・)の受信データの搬送波位相観測値とを比較し、ユーザ局3で受信したGNSS衛星2(2a、2b・・・)の受信データの搬送波位相観測値を検証することにより、サイクルスリップを検出するとともに、サイクルスリップが生じたGNSS衛星2(2a、2b・・・)の受信データの搬送波位相観測値の波数バイアスを修正することが出来る。この検証は、推定された受信機時計ドリフトを用いて、搬送波位相変化量を検定することにより行われ、GNSS衛星2(2a、2b・・・)毎に行われる。
【0059】
より詳細に説明すると、後述する数式2に示すように、搬送波位相観測値には、GNSS衛星2(2a、2b・・・)と受信機間の時計誤差、電離圏遅延、対流圏遅延が含まれており、このうち、GNSS衛星2(2a、2b・・・)の時計誤差、電離圏遅延、対流圏遅延については、SBASの補強情報により補正して除去出来る。残った受信機時計誤差については、全ての観測値に同じように含まれている性質を利用して推定する等により、もしくは外部クロックとして安定した原子時計を用いることにより受信機時計誤差の変動を小さくしている。搬送波位相観測値のレプリカは、ユーザ局3とユーザ局3で受信したGNSS衛星2(2a、2b・・・)との幾何学的変化に加えて、SBASの補強情報により補正可能なGNSS衛星2(2a、2b・・・)の時計誤差、電離圏遅延、対流圏遅延及び推定された受信機時計誤差(受信機時計ドリフト)を加味して生成される。このように生成された搬送波位相観測値のレプリカと搬送波位相観測値とを比較して、搬送波位相変化量を検定することにより、搬送波位相観測値の検証を行う。サイクルスリップが検出された場合には、サイクルスリップが生じた時刻に隣接する観測値の間に存在する整数波長分のジャンプ(不連続)を、送波位相観測値のレプリカによる真の変動幅を推定して、このジャンプした整数波長分の変動を修正する。
【0060】
なお、ユーザ局3で受信したGNSS衛星2(2a、2b・・・)の受信データからサイクルスリップを検出し、波数バイアスを修正する方法は、ユーザ局3で受信したGNSS衛星2(2a、2b・・・)の受信データの搬送波位相観測値と、後述する擬似距離誤差の評価指標の一つである受信信号の自己相関結果の時間変動を利用した擬似距離誤差の評価指標とを組み合わせることにより、サイクルスリップを検出して、ユーザ局3とユーザ局3で受信したGNSS衛星2(2a、2b・・・)との幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカを用いてサイクルスリップが生じたGNSS衛星2(2a、2b・・・)の受信データの搬送波位相観測値の波数バイアスを修正するようにしても良い。
【0061】
次に、ユーザ局3の測位計算(ステップ57)とその測位解の信頼性指標の計算(ステップ58)に用いるGNSS衛星2(2a、2b・・・)の検定について説明する。このGNSS衛星の検定方法は、従来では上記したように、ユーザ局3の擬似距離誤差を定常モデルとして取り扱って、その定常モデルから逸脱するような電波環境(遮蔽、マルチパス、電波干渉)による擬似距離品質の劣化を監視して検定統計量が閾値以上の擬似距離(のGNSS衛星)を排除する方法や、受信強度が極端に低いGNSS衛星を排除する方法など様々な方法がある。電波環境が理想的な航空機の航法で用いられてきたこれらのGNSS衛星の検定方法では、上記したように、電波環境が理想的ではないとともに、著しく変化するユーザ局3の電波環境をリアルタイムで考慮せず一律の条件で取り扱っているため、条件に合わない擬似距離(のGNSS衛星)を排除する必要が生じて可視衛星が測位に必要な衛星数(4つ以上)あっても測位不能となる時間が増大する課題がある。この課題を回避するため、単に擬似距離を排除する閾値を緩和するために、理想的ではなく、また著しく変化する電波環境による品質劣化によってもたらされた擬似距離誤差を定常モデルに組み込むのみでは、測位解の信頼性指標として所望の完全性を担保するのに必要十分なマルチパス誤差の限界値が常時大きな値となって実用には適さないものとなる。
【0062】
そこで、本発明では、それぞれのGNSS衛星2(2a、2b・・・)の受信データに含まれるユーザ局3の電波環境に応じた擬似距離誤差を、GNSS衛星2(2a、2b・・・)毎にリアルタイムで抽出し、このリアルタイムに抽出したGNSS衛星2(2a、2b・・・)毎の擬似距離誤差を新たに提案する擬似距離誤差の評価指標を用いて評価することにより、従来の方法では一律の条件で排除されていた(GNSS衛星の)擬似距離誤差であったとしても、そのGNSS衛星の擬似距離誤差をリアルタイムに厳密に評価し、その擬似距離誤差がGNSS衛星2(2a、2b・・・)毎に決められた誤差の範囲内であれば、そのGNSS衛星を排除せずに使えるようにして、測位に必要な衛星数(4つ以上)を確保することにより上記の課題を解決する。さらに、擬似距離誤差の評価指標から、所望の完全性を担保するのに必要十分なマルチパス誤差の限界値を、電波環境を反映して算出することにより上記の課題を解決する。
【0063】
より詳細には、まず、それぞれのGNSS衛星2(2a、2b・・・)の受信データに含まれるユーザ局3の電波環境に応じた擬似距離誤差を、GNSS衛星2(2a、2b・・・)毎にリアルタイムで抽出する。このリアルタイムに抽出したGNSS衛星2(2a、2b・・・)毎の擬似距離誤差を、新たに提案する擬似距離誤差の評価指標を用いて評価する。
【0064】
新たに提案する擬似距離誤差の評価指標は、この実施例では、擬似距離またはキャリアスムージング擬似距離の少なくとも一つと、ユーザ局3とユーザ局3で受信したGNSS衛星2(2a、2b・・・)との幾何学的変化から生成された搬送波位相観測値のレプリカとを組み合わせたCMC(Code-Minus-Carrier)による指標である。
【0065】
また、新たに提案する擬似距離誤差の評価指標は、他にも、CMCによる指標、複数の時定数により処理したキャリアスムージング擬似距離間の乖離量による指標、擬似距離の変化、キャリアスムージング擬似距離の変化、または搬送波位相観測値の変化とユーザ局3とユーザ局3で受信したGNSS衛星2(2a、2b・・・)との幾何学的距離の変化及び受信機時計ドリフトとの乖離量による指標、複数周波数を用いた擬似距離、キャリアスムージング擬似距離、搬送波位相観測値のマルチパス誤差の差を利用した指標、受信信号の自己相関結果の時間変動を利用した指標、または、これらの指標に受信信号の自己相関結果及び搬送波位相観測値の時間変動を組み合わせた指標、または、これらの指標にさらにコンステレーション毎の信号を使用した指標、または、これらの指標にさらに異なるコンステレーションの信号を使用した指標、または、これらの指標を同じコンステレーションの指標同士で組み合わせた指標、または、これらの指標を異なるコンステレーションの指標も含めて組み合わせた指標、または、これらの指標及びこれらの指標をコンステレーションも考慮して組み合わせた指標が利用可能である。
【0066】
この擬似距離誤差の評価指標を用いて、所望の完全性を担保するのに必要十分なマルチパス誤差の限界値をGNSS衛星2(2a、2b・・・)毎に求める。
【0067】
このマルチパス誤差の限界値は、ユーザ局3の電波環境をリアルタイムに反映したマルチパス起源のレンジ誤差の誤差範囲の限界値であり、完全性を担保するのに必要十分な誤差範囲を示す値である。
また一方で、演算部6において、それぞれのGNSS衛星2(2a、2b・・・)は、それぞれの観測データからリアルタイムの測位において許容されるレンジ誤差の範囲が決められており、この誤差の範囲を規定する許容値と、GNSS衛星2(2a、2b・・・)毎に求めたマルチパス誤差の限界値とを一対一で対応させることで、GNSS衛星の検定、即ち、そのGNSS衛星2(2a、2b・・・)をユーザ局3の測位計算に用いても良いか否かが判断される。
【0068】
このようにGNSS衛星の検定を行うことにより、ユーザ局3の測位計算に用いるGNSS衛星2(2a、2b・・・)を選択し、ユーザ局3の測位計算を行うとともに、選択したGNSS衛星2(2a、2b・・・)の擬似距離誤差の評価指標から算出された所望の完全性を担保するのに必要十分なマルチパス誤差の限界値を使用してユーザ局3の電波環境をリアルタイムに反映させた測位解の信頼性指標を求める。
【0069】
なお、擬似距離誤差の評価指標を求める(ステップ55)際に用いるGNSS衛星2(2a、2b・・・)の衛星信号は、同じコンステレーションのGNSS衛星、この実施例ではGPS衛星の衛星信号を使用しているが、これに限定されるものではない。他のコンステレーションのGNSS衛星、例えば、ロシアのGLONASS衛星、日本の準天頂衛星、欧州のGalileo、中国の北斗、インドのGAGANなどのGNSS衛星の衛星信号を使用して、コンステレーション毎に擬似距離誤差の評価指標を求めても良い。また、コンステレーション毎に求めるだけでなく、異なるコンステレーションのGNSS衛星、例えばGPS衛星とGalileo衛星のように異なるコンステレーションの信号も組み合わせて擬似距離誤差の評価指標を求めても良い。
【0070】
また、ユーザ局3の測位計算を行う(ステップ57)際、選定されたGNSS衛星の内、同じコンステレーションのGNSS衛星のみの受信データ、マルチパス誤差の限界値及びSBASの補強情報を使用して、ユーザ局3の測位計算をコンステレーション毎に行い、コンステレーション毎に個別に測位解とその測位解の信頼性指標を求めるようにしても良い。この場合、コンステレーション別の測位解の信頼性指標をコンステレーション別に比較等を行うことによりコンステレーション別の測位性能を判断し、測位性能が悪い、即ち、測位解の信頼性指標の値が大きいコンステレーションを判断して検定を行うようにしても良い。この測位性能の悪いコンステレーションの検定結果は、今回のユーザ局3の測位計算に用いるGNSS衛星2の選定にフィードバックしても良いし、次回のユーザ局3の測位計算に用いるGNSS衛星2の選定に利用しても良い。
この発明の第2の実施例は、この発明の第1の実施例のGNSSを用いた車両の測位に用いるとともに、GNSS衛星2(2a、2b・・・)毎にリアルタイムに抽出した擬似距離誤差の評価指標から所望の完全性を担保するのに必要十分なマルチパス誤差の限界値をGNSS衛星毎に求める方法について説明する実施例である。
なお、第1の実施例と同じ部分については、同一名称、同一番号を用い、その説明を省略する。
まず、この実施例において、擬似距離誤差の評価指標として利用するCMCは、数式1及び数式2に示すように、コード擬似距離から搬送波位相を差し引いたものである。ここで、数式1はコード擬似距離を示す式、数式2は搬送波位相を示す式である。