(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074791
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】生体微粒子収集装置及び生体微粒子収集方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
G01N33/48 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185145
(22)【出願日】2020-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100211052
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小椋 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 徹二
(72)【発明者】
【氏名】岡田 知子
(72)【発明者】
【氏名】湯川 博
(72)【発明者】
【氏名】京谷 隆
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045BA20
2G045BB03
2G045DA80
2G045FA34
2G045JA07
(57)【要約】
【課題】試料溶液に戻すことが可能な態様で生体微粒子を収集する。
【解決手段】一態様に係る生体微粒子収集装置は、生体微粒子を含む試料溶液が供給される支持面を提供する第1の試料台であり、支持面に開口する第1の凹部が形成された、該第1の試料台と、第1の試料台に対して試料溶液中の生体微粒子の帯電極性と同極性又は逆極性の直流電圧を選択的に印加する電源部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体微粒子を含む試料溶液が供給される支持面を提供する第1の試料台であり、前記支持面に開口する第1の凹部が形成された、該第1の試料台と、
前記第1の試料台に対して前記試料溶液中の前記生体微粒子の帯電極性と同極性又は逆極性の直流電圧を選択的に印加する電源部と、
を備える、生体微粒子収集装置。
【請求項2】
前記第1の試料台に対して電気的に絶縁され、且つ、前記第1の試料台と共に前記支持面を提供する第2の試料台であり、前記支持面に開口する第2の凹部が形成された、該第2の試料台を更に備え、
前記支持面に開口する前記第2の凹部の開口幅は、前記支持面に開口する前記第1の凹部の開口幅よりも大きい、請求項1に記載の生体微粒子収集装置。
【請求項3】
前記電源部は、前記第1の試料台及び前記第2の試料台に対して印加される前記直流電圧の極性を個別に切り替え可能である、請求項2に記載の生体微粒子収集装置。
【請求項4】
前記試料溶液を前記支持面上に供給する供給口と、
前記支持面と共に前記試料溶液が流れる流路を画成する壁部と、
前記流路から前記試料溶液を回収する回収口と、
を更に備える、請求項1~3の何れか一項に記載の生体微粒子収集装置。
【請求項5】
前記第1の試料台と共に前記支持面を提供する第3の試料台であり、前記支持面に開口する第3の凹部が形成された、該第3の試料台を更に備え、
前記第1の凹部を画成する壁面が親水性を有し、前記第3の凹部を画成する壁面が疎水性を有する、請求項1~4の何れか一項に記載の生体微粒子収集装置。
【請求項6】
前記第1の試料台が、陽極酸化アルミナによって構成された基部と、該基部の表面を被覆する導電性の被膜とを有する、請求項1~5の何れか一項に記載の生体微粒子収集装置。
【請求項7】
前記被膜が、カーボン膜、有機導電性薄膜又は金属薄膜である、請求項6に記載の生体微粒子収集装置。
【請求項8】
前記金属薄膜が、金、タングステン又はオスミウムによって構成されている、請求項7に記載の生体微粒子収集装置。
【請求項9】
支持面を提供し、且つ、前記支持面に開口する第1の凹部が形成された第1の試料台を備える生体微粒子収集装置を用いて生体微粒子を収集する生体微粒子収集方法であって、
前記支持面上に前記生体微粒子を含む試料溶液を供給する工程と、
前記生体微粒子の帯電極性と逆極性の直流電圧を前記第1の試料台に印加する工程と、
を含む、生体微粒子収集方法。
【請求項10】
前記生体微粒子収集装置は、前記第1の試料台と共に前記支持面を提供し、前記第1の試料台に対して電気的に絶縁され、且つ、前記支持面に開口する第2の凹部が形成された第2の試料台を更に備え、
前記第1の試料台に対する前記直流電圧の印加を停止した後に、前記生体微粒子の帯電極性と逆極性の直流電圧を前記第2の試料台に印加する工程を更に含む、請求項9に記載の生体微粒子収集方法。
【請求項11】
前記第1の試料台及び前記第2の試料台に対して前記生体微粒子の帯電極性と同極性の直流電圧を印加する工程を更に含む、請求項10に記載の生体微粒子収集方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体微粒子収集装置及び生体微粒子収集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体から採取された血液、尿及び便等の試料溶液には、エクソソーム、マイクロベシクル、ウイルスといった生体微粒子が含まれている。例えば、エクソソームは、50nm~200nmの径を有する微粒子であり、脂質二重膜、膜蛋白質、RNA等から構成されている。エクソソームの表面は、負電荷を帯びている。このエクソソームを分析することによって疾病の発見や予防等が可能であると考えられている。試料溶液中の生体微粒子を直接分析することは困難であるため、生体微粒子を分析するためには、試料溶液から生体微粒子を分離して収集することが必要となる。
【0003】
このような生体微粒子の収集方法として、下記非特許文献1及び特許文献1に記載の方法が知られている。非特許文献1には、試料溶液を遠心分離機にかけることによって、試料溶液に含まれるエクソソームをサイズ毎に分離する方法が開示されている。特許文献1には、基板に形成された異なるサイズの凹部内に抗体を固定し、当該抗体にエクソソームの抗体を結合させることによって、エクソソームをサイズ毎に分離して収集する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ankit Rana, Yuqian Zhang and Leyla Esfandiari, "Advancements inmicrofluidic technologies for isolation and early detection of circulatingcancer-related biomarkers", Analyst, Vol. 143, No. 13, p.2971-2991, 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の方法では、エクソソームを分離する過程でエクソソームに強い遠心力が作用するので、エクソソームが破損することがある。一方、特許文献1に記載の方法では、一旦抗体に結合されたエクソソームを分離することができないので、分析済みのエクソソームを試料溶液に戻すことが困難となる。
【0007】
したがって、試料溶液に戻すことが可能な態様で生体微粒子を収集することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様に係る生体微粒子収集装置は、生体微粒子を含む試料溶液が供給される支持面を提供する第1の試料台であり、支持面に開口する第1の凹部が形成された、該第1の試料台と、第1の試料台に対して試料溶液中の生体微粒子の帯電極性と同極性又は逆極性の直流電圧を選択的に印加する電源部と、を備える。
【0009】
一般的に、生体微粒子は試料溶液中に帯電した状態で存在している。このため、生体微粒子の帯電極性と逆極性の電圧を第1の試料台に印加すると、第1の試料台と生体微粒子との間に引力が働き、第1の試料台の第1の凹部内に試料溶液中の生体微粒子が収集される。このとき、第1の凹部内に収集される生体微粒子のサイズは第1の凹部の開口幅に制限されるので、第1の凹部の開口幅に応じたサイズの生体微粒子を選択的に収集することができる。一方、第1の試料台に対して生体微粒子と同極性の電圧が印加されると、第1の試料台と生体微粒子との間に斥力が働き、第1の凹部内に収集された生体微粒子を試料液体中が戻される。したがって、上記態様に係る装置では、溶液中に戻すことが可能な態様で生体微粒子を収集することができる。
【0010】
一実施形態では、第1の試料台に対して電気的に絶縁され、且つ、第1の試料台と共に支持面を提供する第2の試料台であり、支持面に開口する第2の凹部が形成された、該第2の試料台を更に備え、支持面に開口する第2の凹部の開口幅は、支持面に開口する第1の凹部の開口幅よりも大きくてもよい。なお、電源部は、第1の試料台及び第2の試料台に対して印加される直流電圧の極性を個別に切り替え可能であってもよい。
【0011】
この実施形態では、第2の凹部の開口幅が第1の凹部の開口幅よりも大きいので、例えば第1の試料台及び第2の試料台に生体微粒子の帯電極性と逆極性の直流電圧を印加したときに、第1の凹部の開口幅に対応したサイズの生体微粒子を第1の凹部に収集し、第1の凹部に収集された生体微粒子よりも大きなサイズの生体微粒子を第2の凹部に収集することが可能となる。したがって、生体微粒子をサイズ毎に分離して収集することができる。
【0012】
一実施形態では、試料溶液を支持面上に供給する供給口と、支持面と共に試料溶液が流れる流路を画成する壁部と、流路から試料溶液を回収する回収口と、を更に備えていてもよい。この実施形態では、生体微粒子の帯電極性と逆極性の直流電圧を印加することで、流路を流れる試料溶液から生体微粒子を収集することが可能となる。
【0013】
一実施形態では、第1の試料台と共に支持面を提供する第3の試料台であり、支持面に開口する第3の凹部が形成された、該第3の試料台を更に備え、第1の凹部を画成する壁面が親水性を有し、第3の凹部を画成する壁面が疎水性を有していてもよい。親水性の壁面を有する第1の凹部内には水との親和性の高い生体微粒子が集まりやすくなり、疎水性の壁面を有する他の第1の凹部内には水との親和性の低い生体微粒子が集まりやすくなる。したがって、この実施形態では、親水性の異なる生体微粒子を分離して収集することができる。
【0014】
一実施形態では、第1の試料台が、陽極酸化アルミナによって構成された基部と、該基部の表面を被覆する導電性の被膜とを有していてもよい。
【0015】
一実施形態では、被膜が、カーボン膜、有機導電性薄膜又は金属薄膜であってもよい。なお、金属薄膜が、金、タングステン又はオスミウムによって構成されていてもよい。
【0016】
一態様では、支持面を提供し、且つ、支持面に開口する第1の凹部が形成された第1の試料台を備える生体微粒子収集装置を用いて生体微粒子を収集する生体微粒子収集方法が提供される。この生体微粒子収集方法は、支持面上に生体微粒子を含む試料溶液を供給する工程と、生体微粒子の帯電極性と逆極性の直流電圧を第1の試料台に印加する工程と、を含む。
【0017】
上記態様に係る方法では、生体微粒子の帯電極性と逆極性の電圧を第1の試料台に印加することによって、第1の試料台と生体微粒子との間に引力が働き、第1の試料台の第1の凹部内に試料溶液中の生体微粒子を収集することができる。このとき、第1の凹部内に収集される生体微粒子のサイズは、第1の凹部の開口幅に制限されるので、第1の凹部の開口幅に応じた生体微粒子を選択的に収集することができる。
【0018】
一実施形態では、生体微粒子収集装置は、第1の試料台と共に支持面を提供し、第1の試料台に対して電気的に絶縁され、且つ、支持面に開口する第2の凹部が形成された第2の試料台を更に備え、第1の試料台に対する直流電圧の印加を停止した後に、生体微粒子の帯電極性と逆極性の直流電圧を第2の試料台に印加する工程を更に含んでもよい。
【0019】
この実施形態では、第1の試料台に生体微粒子の帯電極性と逆極性の直流電圧を印加して第1の凹部内に生体微粒子を収集した後に、第2の試料台に生体微粒子の帯電極性と逆極性の直流電圧を印加することで、第1の凹部に収集された生体微粒子よりも大きなサイズの生体微粒子を第2の凹部に収集することができる。したがって、生体微粒子をサイズ毎に分離して収集することができる。
【0020】
一実施形態では、第1の試料台及び第2の試料台に対して生体微粒子の帯電極性と同極性の直流電圧を印加する工程を更に含んでいてもよい。この実施形態では、試料台に対して生体微粒子と同極性の直流電圧を印加することによって、第1の試料台及び第2の試料台と生体微粒子との間に斥力が働き、第1の凹部内に収集された生体微粒子を試料溶液中に戻すことが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様及び種々の実施形態によれば、試料溶液に戻すことが可能な態様で生体微粒子を収集することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態に係る生体微粒子収集装置を概略的に示す斜視図である。
【
図4】一実施形態の生体微粒子収集方法を示すフローチャートである。
【
図10】第2実施形態に係る生体微粒子収集装置を概略的に示す斜視図である。
【
図12】第3実施形態に係る生体微粒子収集装置を概略的に示す斜視図である。
【
図13】密封容器に格納された試料台を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は繰り返さない。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0024】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る生体微粒子収集装置1を概略的に示す斜視図である。
図1に示す生体微粒子収集装置1は、試料溶液40から生体微粒子42を分離して収集するように構成されている。試料溶液40とは、血液、尿、便又はこれらの混濁物といった人間又は動物から採取された液状の試料、或いは、樹液や維管束液といった植物から採取された液状の試料である。生体微粒子42とは、試料溶液40中に含まれる生物由来の微小粒子であり、例えばエクソソーム、マイクロベシクル、ウイルスが挙げられる。生体微粒子42は、例えば1μm以下の直径を有している。
【0025】
図1に示すように、生体微粒子収集装置1は、試料台10及び電源部30を備えている。試料台10は、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13を含んでいる。第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13の各々は、略直方体形状を有し、例えば200nm以下の厚さを有している。後述するように、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13は、その上に供給された生体微粒子42を含む試料溶液40を支持する。
【0026】
図1に示すように、第1の試料台11は、上面11t及び下面11bを有している。第2の試料台12は、上面12t及び下面12bを有している。第3の試料台13は、上面13t及び下面13bを有している。第1の試料台11の上面11t、第2の試料台12の上面12t及び第3の試料台13の上面13tは、同一平面上に配置され、生体微粒子42を含む試料溶液40を支持する支持面10aを構成している。すなわち、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13は、支持面10aを提供している。
【0027】
第1の試料台11には、複数の第1の凹部11aが形成されている。なお、本明細書において、「複数」とは2つ以上であることを意味している。これら複数の第1の凹部11aは、第1の試料台11の厚さ方向に延在し、上面11t(支持面10a)に開口している。第2の試料台12には、複数の第2の凹部12aが形成されている。これら複数の第2の凹部12aは、第2の試料台12の厚さ方向に延在し、上面12t(支持面10a)に開口している。第3の試料台13には、複数の第3の凹部13aが形成されている。これら複数の第3の凹部13aは、第3の試料台13の厚さ方向に延在し、上面13t(支持面10a)に開口している。
【0028】
第1の凹部11a、第2の凹部12a及び第3の凹部13aは、円形状又は正多角形状の平面形状を有し、互いに異なる開口幅を有している。ここで、第1の凹部11a、第2の凹部12a及び第3の凹部13aの開口幅とは、各凹部によって支持面10aに形成された開口部の幅を表している。例えば、当該開口部が円形である場合には、その直径が各凹部の開口幅として定義され、当該開口部が正多角形状である場合には、正多角形状の開口部に内接する円の直径が、各凹部の開口幅として定義される。これら第1の凹部11a、第2の凹部12a及び第3の凹部13aは、延在方向において略一定の開口幅を有している。例えば、第1の凹部11a、第2の凹部12a及び第3の凹部13aの平面形状が円形である場合、各凹部によって支持面10aに形成された開口部の径は、各凹部の底部の径と略一致する。
【0029】
図2に示す例では、第1の凹部11a、第2の凹部12a及び第3の凹部13aは、直径r1、直径r2及び直径r3の開口幅をそれぞれ有している。直径r2は、直径r1よりも大きく、直径r3よりも小さい。すなわち、第2の凹部12aは、第1の凹部11aの開口幅よりも大きな開口幅を有しており、第3の凹部13aは、第2の凹部12aの開口幅よりも大きな開口幅を有している。直径r1,r2,r3は、収集対象の生体微粒子42のサイズに応じた大きさに設定される。収集対象の生体微粒子42がエクソソームである場合には、例えば、直径r1は50nmに設定され、直径r2は100nmに設定され、直径r3は150nmに設定される。
【0030】
これら第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13は、は、導電性を有する材料によって構成されており、絶縁材によって互いに電気的に絶縁されている。一実施形態では、
図3に示すように、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13の各々は、基部18及び導電膜19を有していてもよい。
【0031】
基部18は、多孔性の酸化皮膜を有する陽極酸化アルミナである。基部18は、例えばアルミニウム製の基材を酸性電解溶液中で陽極酸化処理することによって形成される。アルミニウム製の基材に対して陽極酸化処理を行うと、酸及び電場の溶解作用によって基材の表面に複数の凹部(細穴)が規則的に形成される。基部18に形成される凹部は、例えば5nm~450nm程度の開口幅を有し得る。凹部の開口幅は、陽極酸化条件を調節することによって制御することが可能である。例えば、Hideki Masuda and Kenji Fukuda, “OrderedMetal Nanohole Arrays Made by a Two-Step Replication of Honeycomb Structures ofAnodic Alumina”, SCIENCE, Vol. 268, pp.1466-1468, 9JUNE 1995、及び、Hideki MASUDA, Kouichi YADA and AtsushiOSAKA, “Self-Ordering of Cell Configuration of AnodicPorous Alumina with Large-Size Pores in Phosphoric Acid Solution”, Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 37, 1340-1342, 1 November 1998には、金属表面に多孔質構造を有する陽極酸化アルミナを作製する方法が記載されている。当業者であれば、これらの公知技術に基づいて、例えば5nm~450nmの開口幅を有する凹部を基部18に形成することが可能である。
【0032】
導電膜19は、例えば導電性を有する被膜であり、基部18の表面を被覆している。導電膜19としては、例えばカーボン膜、有機導電性薄膜又は金属薄膜が用いられる。この金属薄膜の材料としては、金、タングステン又はオスミウムが例示される。導電膜19は、例えばCVD法を用いて処理ガスに由来する薄膜を基部18上に成膜することによって形成される。導電膜19としてカーボン膜を用いる場合には、例えば処理ガスとしてメタンが利用される。基部18の凹部に形成された導電膜19は、例えば1nm~3nmの膜厚を有し得る。このように形成された導電膜19は、第1の凹部11a、第2の凹部12a及び第3の凹部13aを画成する壁面を構成する。
【0033】
図1に示すように、生体微粒子収集装置1は、電極21,22,23を更に有している。電極21,22,23は、第1の試料台11の下面11b、第2の試料台12の下面12b及び第3の試料台13の下面13bにそれぞれ取り付けられている。電極21,22,23は、例えばアルミニウム製の金属板であり、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13の導電膜19に電気的に接続されている。
【0034】
電源部30は、電圧制御部20、直流電源31、直流電源32及び直流電源33を含んでいる。直流電源31,32,33は、出力電圧を調整可能な可変電源である。直流電源31,32,33は、電極21,22,23に対してそれぞれ電気的に接続されている。後述するように、直流電源31,32,33は、電圧制御部20からの制御信号に応じて、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13のそれぞれに対して生体微粒子42の帯電極性と同極性又は逆極性の直流電圧を選択的に印加する。
【0035】
電圧制御部20は、例えば、CPU、ROM、RAMを含むコンピュータを主体として構成されており、所定の機能を実現するためのコンピュータプログラムがROMなどに記憶されている。そして、CPUやRAM上に上記のコンピュータプログラムを読み込ませ、CPUの制御の下で動作させることで、各種機能が実現される。なお、一実施形態においては、電圧制御部20の各機能が集積回路によって実現されてもよい。電圧制御部20は、直流電源31,32,33に制御信号を送出することによって、電源部30から第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13に印加される直流電圧の極性を、生体微粒子42の帯電極性と同極性又は逆極性に個別に切り替え可能に構成されている。
【0036】
以下、
図4を参照して、電圧制御部20の機能について詳細に説明する共に、一実施形態の生体微粒子収集方法について説明する。
図4は、その表面が負に帯電した生体微粒子42を収集する生体微粒子収集方法MTを示すフローチャートである。
【0037】
方法MTでは、まず第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13に負の電圧が印加されるように、電圧制御部20が直流電源31,32,33を制御する(工程ST1)。
【0038】
次いで、
図5(a)に示すように、支持面10a上に試料溶液40が滴下される(工程ST2)。滴下される試料溶液40には、多数の生体微粒子42が含まれている。これらの生体微粒子42は、その特性に応じた極性に帯電した状態で試料溶液40中に分散されている。本実施形態では、生体微粒子42が、試料溶液40中で負に帯電しているものとして説明する。工程ST2では、生体微粒子42が負に帯電しているので、各試料台11,12,13と生体微粒子42との間には斥力が作用する。よって、試料溶液40の滴下時に試料溶液40中の生体微粒子42が第1の凹部11a、第2の凹部12a及び第3の凹部13aの内部に入り込むことが防止される。
【0039】
次いで、第1の試料台11に正の電圧、すなわち生体微粒子42の帯電極性と逆極性の直流電圧が印加されるように、電圧制御部20が直流電源31を制御する(工程ST3)。
図5(b)に示すように、第1の試料台11に正の電圧が印加されることにより、第1の試料台11と試料溶液40中の生体微粒子42との間に静電引力が作用し、試料溶液40中の生体微粒子42が第1の試料台11に引き寄せられる。引き寄せられた生体微粒子42のうち直径r1よりも小さなサイズの生体微粒子42は第1の試料台11に形成された複数の第1の凹部11a内に入り込み、捕捉される。
【0040】
次いで、第1の試料台11への直流電圧の印加を停止し、第1の試料台11の電位が接地電位に設定されるように、電圧制御部20が直流電源31を制御する(工程ST4)。第1の凹部11aは非常に狭い空間であるため、第1の凹部11a内に捕捉された生体微粒子42はブラウン運動が抑制され、第1の凹部11a内で安定化する。したがって、第1の試料台11が接地電位に設定された場合であっても、生体微粒子42は第1の凹部11aの外部に移動せずに第1の凹部11a内に留められる。
【0041】
次いで、第2の試料台12に正の直流電圧が印加されるように電圧制御部20が直流電源32を制御する(工程ST5)。
図6(a)に示すように、第2の試料台12に正の電圧が印加されることにより、第2の試料台12と試料溶液40中の生体微粒子42との間に静電引力が作用し、試料溶液40中の生体微粒子42が第2の試料台12に引き寄せられる。引き寄せられた生体微粒子42のうち直径r1よりも大きく直径r2よりも小さなサイズの生体微粒子42は第2の試料台12に形成された複数の第2の凹部12a内に入り込み、捕捉される。
【0042】
次いで、第2の試料台12の電位が接地電位に設定されるように、電圧制御部20が直流電源32を制御する(工程ST6)。これにより、第2の凹部12a内に捕捉された生体微粒子42が第2の凹部12a内で安定化する。
【0043】
次いで、第3の試料台13に正の電位が印加されるように電圧制御部20が直流電源33を制御する(工程ST7)。
図6(b)に示すように、第3の試料台13に正の電圧が印加されることにより、第3の試料台13と試料溶液40中の生体微粒子42との間に静電引力が作用し、試料溶液40中の生体微粒子42が第3の試料台13に引き寄せられる。引き寄せられた生体微粒子42のうち直径r2よりも大きく直径r3よりも小さなサイズの生体微粒子42は第3の試料台13に形成された複数の第3の凹部13a内に入り込み、捕捉される。
【0044】
次いで、第3の試料台13の電位が接地電位に設定されるように電圧制御部20が直流電源33を制御する(工程ST8)。これにより、第3の凹部13a内に捕捉された生体微粒子42が第3の凹部13a内で安定化する。このようにして、試料溶液40中の生体微粒子42が、サイズ毎に分離して収集される。
【0045】
次いで、試料溶液40を交換するか否かが判定される(工程ST9)。例えば、複数の試料溶液を分析する場合には、生体微粒子42が収集された試料溶液40が支持面10aから除去された後に、支持面10a上に分析対象となる他の試料溶液が滴下され(工程ST2)、工程ST3~工程ST8の処理が再び行われる。これにより、他の試料溶液に含まれる生体微粒子が第1の凹部11a、第2の凹部12a及び第3の凹部13a内に収集される。一方、試料溶液40を交換しない場合には、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13に収集された生体微粒子42が分析される(工程ST10)。このとき、収集された生体微粒子42は、サイズ毎に分類して分析される。生体微粒子42の分析は、例えば、
図7に示す赤外線分析装置50を用いて行われてもよい。
図7に示す赤外線分析装置50は、赤外線の反射光強度に基づいて生体微粒子42を検出する装置である。赤外線分析装置50は、発光素子51a,51b,51c、検出器52a,52b,52c、赤外線コントローラ53、増幅器54、AD変換器55及びコンピュータ56を有している。
【0046】
発光素子51a,51b,51cは、赤外線コントローラ53からの制御信号に応じて作動して第1の凹部11a、第2の凹部12a及び第3の凹部13aに向けて赤外線をそれぞれ照射する。検出器52a,52b,52cは、第1の凹部11a、第2の凹部12a及び第3の凹部13aの生体微粒子42によって反射された赤外線を受光する。検出器52a,52b,52cで受光された赤外線の反射光強度を示す信号は、増幅器54によって増幅される。増幅された信号は、AD変換器55を介してコンピュータ56に出力される。コンピュータ56は、出力された反射光強度を示す信号に基づいて、第1の凹部11a、第2の凹部12a及び第3の凹部13a内の生体微粒子42の格納状況を取得する。
【0047】
また、一実施形態では、
図8に示す電子顕微鏡60を用いて、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13に収集された生体微粒子42を観察してもよい。この電子顕微鏡60は、電子線を照射して生体微粒子42の像を取得する顕微鏡である。
図8に示すように、電子顕微鏡60は、電子銃61、試料ホルダ62、測定端子63、増幅器64及びコネクタ65を有している。
【0048】
試料ホルダ62は、導電性薄膜66、耐圧性薄膜67及び絶縁性薄膜68を含んでいる。耐圧性薄膜67及び絶縁性薄膜68は、絶縁性の材料から構成されており、互いに対向するように配置されている。耐圧性薄膜67と絶縁性薄膜68との間には、収集された生体微粒子42を含む第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13が保持されている。耐圧性薄膜67上には、金属製の導電性薄膜66が設けられている。これら導電性薄膜66、耐圧性薄膜67及び絶縁性薄膜68は、密封された状態で枠体69内に収容されている。なお、絶縁性薄膜68と枠体69との間には、Oリングが設けられていてもよい。
【0049】
この電子顕微鏡60では、電子銃61を水平方向に走査しながら導電性薄膜66の上方から電子線が照射される。照射された電子線は、拡散領域70において拡散して、拡散領域70が負に帯電する。この拡散領域70の影響により、観察対象である試料溶液40に誘電分極が発生し、この誘電分極によって生じた電位が絶縁性薄膜68の下方に支持された測定端子63によって測定される。測定端子63によって測定された測定信号は、増幅器64で増幅されると共に、コネクタ65から出力される。
【0050】
ここで、生体微粒子42の誘電率は、試料溶液40の誘電率よりも低いので、拡散領域70と測定端子63との間に生体微粒子42が存在する場合には、測定端子63によって検出される信号が小さくなる。電子顕微鏡60は、このような性質を利用して、試料溶液40の誘電率と生体微粒子42の誘電率との差異に基づいて、生体微粒子42の像を得る。
【0051】
生体微粒子42の分析が完了すると、直流電源31から第1の試料台11に負の直流電圧、すなわち生体微粒子42の帯電極性と同極性の直流電圧が印加される(工程ST11)。これにより、
図9に示すように、第1の試料台11と生体微粒子42との間に斥力が働き、第1の凹部11aから生体微粒子42が排出されて試料溶液40中に戻される。同様に、第2の試料台12及び第3の試料台13にも負の直流電圧が印加され、第2の凹部12a及び第3の凹部13a内の生体微粒子42が試料溶液40中に戻される。
【0052】
上述した実施形態に係る生体微粒子収集装置1においては、生体微粒子42の帯電極性と逆極性である正の直流電圧を第1の試料台11に印加することによって、第1の試料台11と生体微粒子42との間に引力を作用させ、第1の試料台11に形成された第1の凹部11a内に生体微粒子42を収集することができる。このとき、第1の凹部11a内に収集される生体微粒子42のサイズは、第1の凹部11aの直径r1に制限される。したがって、直径r1よりも小さな生体微粒子42を試料溶液40から選択的に分離して収集することができる。また、第1の試料台11に対して生体微粒子42の帯電極性と同極性である負の電圧を印加した場合には、第1の試料台11と生体微粒子42との間に斥力が作用するので、第1の凹部11a内の生体微粒子42を試料溶液40中に分散させることが可能となる。したがって、生体微粒子収集装置1では、試料溶液40中に戻すことが可能な態様で特定のサイズの生体微粒子42を収集することができる。
【0053】
また、この生体微粒子収集装置1では、生体微粒子42の帯電極性と逆極性である正の直流電圧を第1の試料台11及び第2の試料台12の順に印加することによって、第1の凹部11aの直径r1よりも小さなサイズの生体微粒子42を第1の凹部11aに選択的に収集することができると共に、直径r1よりも大きく第2の凹部の直径r2よりも小さなサイズの生体微粒子42を第2の凹部12a内に選択的に収集することができる。したがって、試料溶液40中の生体微粒子42をサイズ毎に分離して収集することができる。
【0054】
(第2実施形態)
次いで、第2実施形態に係る生体微粒子収集装置について説明する。試料溶液中の生体微粒子には、水に対する親和性の違いから親水性を有する生体微粒子と、疎水性を有する生体微粒子とが存在する。第2実施形態に係る生体微粒子収集装置は、親水性を有する生体微粒子と疎水性を有する生体微粒子とを分離して収集する。
【0055】
図10は、第2実施形態に係る生体微粒子収集装置1Aを概略的に示す斜視図である。
図10に示すように、生体微粒子収集装置1Aは、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13に加えて、第4の試料台14、第5の試料台15及び第6の試料台16を更に含んでいる点で生体微粒子収集装置1と相違している。以下では、第1実施形態に係る生体微粒子収集装置1との相違点について主に説明し、重複する説明は省略する。
【0056】
第4の試料台14、第5の試料台15及び第6の試料台16の各々は、略直方体形状を有し、例えば200nm以下の厚さを有している。第4の試料台14、第5の試料台15及び第6の試料台16は、互いに電気的に絶縁されている。また、第4の試料台14、第5の試料台15及び第6の試料台16は、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13にそれぞれ電気的に接続されている。
【0057】
第4の試料台14、第5の試料台15及び第6の試料台16は、上面14t、上面15t及び上面16tをそれぞれ有している。第4の試料台14の上面14t、第5の試料台15の上面15t及び第6の試料台16の上面16tは、第1の試料台11の上面11t、第2の試料台12の上面12t及び第3の試料台13の上面13tと同一平面上に配置され、上面11t,12t,13tと共に支持面10aを構成している。
【0058】
また、第4の試料台14には、複数の第4の凹部14aが形成されている。これら複数の第4の凹部14aは、第4の試料台14の厚さ方向に延在し、上面14t(支持面10a)に開口している。第5の試料台15には、複数の第5の凹部15aが形成されている。これら複数の第5の凹部15aは、第5の試料台15の厚さ方向に延在し、上面15t(支持面10a)に開口している。第6の試料台16には、複数の第6の凹部16aが形成されている。これら複数の第6の凹部16aは、第6の試料台16の厚さ方向に延在し、上面16t(支持面10a)に開口している。
【0059】
第4の凹部14a、第5の凹部15a及び第6の凹部16aは、第1の凹部11a、第2の凹部12a及び第3の凹部13aと同じ形状を有している。すなわち、第4の凹部14a、第5の凹部15a及び第6の凹部16aは、それぞれ直径r1、直径r2及び直径r3の開口幅を有している。
【0060】
生体微粒子収集装置1Aでは、第1の凹部11a、第2の凹部12a及び第3の凹部13aを画成する壁面が、親水性を有するように改質されている。例えば、第1の凹部11a、第2の凹部12a及び第3の凹部13aの側面及び底面を構成する導電膜19は、プラズマ処理又は化学的処理等の表面処理によって親水化される。例えば、入山裕,“プラズマ処理効果の持続性”,表面科学,Vol. 28,No. 8,pp.459-466,2007には、プラズマ処理を用いた親水化処理手法が記載されている。また、特許第6227872号公報には親水化処理剤を用いた親水化処理手法が記載されている。当業者であれば、これらの公知技術に基づいて導電膜19に親水化処理を施すことが可能である。
【0061】
一方、第4の凹部14a、第5の凹部15a及び第6の凹部16aを画成する壁面は、疎水性を有するように改質されている。例えば、第4の凹部14a、第5の凹部15a及び第6の凹部16aの側面及び底面を構成する導電膜19は、プラズマ処理又は化学的処理等の表面処理によって疎水化される。例えば、小駒益弘,“低温プラズマ処理による表面の疎水化”,表面技術,Vol. 47,No. 7,pp.566-570,1996には、CF4のプラズマを用いた疎水化処理手法が記載されている。当業者であれば、これらの公知技術に基づいて導電膜19に疎水化処理を施すことが可能である。上述した表面処理によって、第1の凹部11a、第2の凹部12a及び第3の凹部13aを画成する壁面は、第4の凹部14a、第5の凹部15a及び第6の凹部16aを画成する壁面よりも高い親水性(濡れ性)を有している。
【0062】
図11(a)及び(b)を参照して、生体微粒子収集装置1Aの作用について説明する。
図11(a)に示すように、本実施形態では、試料溶液40に親水性の生体微粒子42A及び疎水性の生体微粒子42Bが含まれている。親水性の生体微粒子42Aとしては、例えばポリオウイルス、ノロウイルスが挙げられる。疎水性の生体微粒子42Bとしては、例えばインフルエンザウイルス、コロナウイルス、アデノウイルスが挙げられる。以下の説明では、これら生体微粒子42A及び生体微粒子42Bは、試料溶液40中で負に帯電しているものとする。
【0063】
この生体微粒子収集装置1Aでは、第1の試料台11及び第4の試料台14に正の直流電圧、すなわち生体微粒子42の帯電極性と逆極性の直流電圧が印加されるように電圧制御部20によって直流電源31が制御される。
図11(b)に示すように、第1の試料台11及び第4の試料台14に正の電圧が印加されることにより、第1の試料台11及び第4の試料台14と生体微粒子42A,42Bとの間に静電引力が作用し、試料溶液40中の生体微粒子42A,42Bが第1の試料台11及び第4の試料台14に引き寄せられる。このとき、水との親和性が高い生体微粒子42Aは、親水化処理された第1の凹部11aの内部に集まりやすく、水との親和性が低い生体微粒子42Bは、疎水化処理された第4の凹部14aの内部に集まりやすい。したがって、生体微粒子42Aのうち直径r1よりも小さなサイズの生体微粒子42Aは複数の第1の凹部11a内に捕捉され、生体微粒子42Bのうち直径r1よりも小さなサイズの生体微粒子42Bは複数の第4の凹部14a内に捕捉される。すなわち、生体微粒子42A,42Bは、第1の凹部11a及び第4の凹部14a内に分離して収集される。
【0064】
さらに、生体微粒子収集装置1Aでは、第2の試料台12及び第5の試料台15に正の直流電圧が印加される。これにより、直径r1よりも大きく直径r2よりも小さなサイズを有する生体微粒子42Aが複数の第2の凹部12a内に捕捉され、直径r1よりも大きく直径r2よりも小さなサイズを有する生体微粒子42Bが第5の凹部15a内に捕捉される。その後、第3の試料台13及び第6の試料台16に正の直流電圧が印加される。これにより、直径r2よりも大きく直径r3よりも小さなサイズを有する生体微粒子42Aが複数の第3の凹部13a内に捕捉され、直径r2よりも大きく直径r3よりも小さなサイズを有する生体微粒子42Bが第6の凹部16a内に捕捉される。このように、生体微粒子収集装置1Aでは、親水性の異なる生体微粒子42A,42Bを分離して収集することができる。
【0065】
一般的に、親水性のウイルスはアルコール等の消毒剤に強く、疎水性のウイルスはアルコール等の消毒剤に弱い性質を有している。生体微粒子収集装置1Aでは、例えば親水性の異なるウイルスを分離して収集することが可能であるので、消毒方法の選定を容易に行うことができる。なお、生体微粒子42A,42Bは、エクソソーム又は小胞であってもよい。親水性の違いは、エクソソーム又は小胞の膜タンパク質の性質によって引き起こされるものである。親水性の異なるエクソソーム等を分離して収集することで、その性質に応じてエクソソーム等を分離することが可能である。
【0066】
(第3実施形態)
次いで、第3実施形態に係る生体微粒子収集装置について説明する。
図12は、第3実施形態に係る生体微粒子収集装置1Bを概略的に示す斜視図である。この生体微粒子収集装置1Bは、支持面10a上に試料溶液40を供給する供給機構80を備えている点で、第1実施形態に係る生体微粒子収集装置1と相違している。以下では、第1実施形態に係る生体微粒子収集装置1との相違点について主に説明し、重複する説明は省略する。
【0067】
図12に示すように、生体微粒子収集装置1Bの供給機構80は、供給口81、回収口82及び壁部83を有している。供給口81は、生体微粒子42を含む試料溶液40を支持面10a上に供給する。回収口82は、支持面10a上の試料溶液40を回収する。壁部83は、支持面10aの縁に沿って設けられており、供給口81から供給された試料溶液40を回収口82に導く流路86を支持面10aと共に形成している。第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13は、流路86の上流側からその順に配置されている。
【0068】
図12に示すように、供給口81から支持面10a上に供給された試料溶液40は、流路86に沿って第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13の上面を順に流れる。このとき、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13には、直流電源31、直流電源32及び直流電源33から正の直流電圧が印加されている。したがって、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13を試料溶液が通過する過程で、試料溶液40中の生体微粒子42のうち直径r1よりも小さなサイズの生体微粒子42が複数の第1の凹部11aに収集され、直径r1よりも大きく直径r2よりも小さなサイズの生体微粒子42が複数の第2の凹部12aに収集され、直径r2よりも大きく直径r3よりも小さなサイズの生体微粒子42が複数の第3の凹部13aに収集される。したがって、試料溶液40中の生体微粒子42がサイズ毎に分離して収集される。
【0069】
第3の試料台13に到達した試料溶液40は、回収口82によって回収され、生体微粒子収集装置1Bの外部に排出される。この生体微粒子収集装置1Bによれば、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13の電位を順に制御することなく、生体微粒子42をサイズ毎に分離して収集することができる。
【0070】
以上、種々の実施形態に係る生体微粒子収集装置について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形態様を構成可能である。
【0071】
例えば、
図4に示す生体微粒子収集方法MTでは、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13に負の電圧を印加して、収集した生体微粒子42を試料溶液40中に戻しているが、生体微粒子42を試料溶液40中に戻すことなく、収集された生体微粒子42を保存してもよい。生体微粒子42を保存する場合には、
図13に示すように、内部が減圧された密閉容器72内に生体微粒子42を第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13ごと格納することで、生体微粒子42を保存してもよい。
【0072】
また、
図4に示す生体微粒子収集方法MTでは、生体微粒子42が、試料溶液40中で負に帯電しているものとして説明したが、生体微粒子42が正に帯電している場合であっても上述の方法を適用可能である。すなわち、生体微粒子42に正に帯電している場合には、電圧制御部20によって第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13に順に負の直流電圧を印加することにより、第1の凹部11a、第2の凹部12a及び第3の凹部13a内に生体微粒子42をサイズ毎に収集することが可能である。また、収集した生体微粒子42を分析した後に、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13に正の直流電圧を印加することによって、収集された生体微粒子42を試料溶液40に戻すことが可能である。
【0073】
また、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13に形成される凹部の開口幅は、収集対象の生体微粒子42のサイズに応じて任意に設定することができる。例えば、収集する生体微粒子42がエクソソームである場合には、凹部の開口幅を10nm~500nmの範囲に設定することができる。さらに、上記実施形態では、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13が基部18及び導電膜19によって構成されているが、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13は導電性のある他の材料から構成されていてもよい。
【0074】
なお、試料台10は、少なくとも第1の試料台11を有していればよい。これにより、第1の試料台11に形成された第1の凹部11aの開口幅に応じたサイズの生体微粒子を選択的に収集することができる。上述した実施形態では、第1の試料台11、第2の試料台12、第3の試料台13、第4の試料台14、第5の試料台15及び第6の試料台16には、複数の凹部が形成されているが、少なくとも1つの凹部が形成されていればよい。
【0075】
図1に示す生体微粒子収集装置1は、第1の試料台11、第2の試料台12及び第3の試料台13を備えているが、一実施形態では、生体微粒子収集装置1が4つ以上の試料台を備えていてもよい。これら4つ以上の試料台には、互いに異なる開口幅を有する凹部がそれぞれ形成され、各試料台の凹部に互いに異なるサイズの生体微粒子が分離して収集されてもよい。なお、上述した種々の実施形態は、矛盾のない範囲で組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1,1A,1B…生体微粒子収集装置、10a…支持面、11…第1の試料台、12…第2の試料台、13…第3の試料台、14…第4の試料台、15…第5の試料台、16…第6の試料台、11a…第1の凹部、12a…第2の凹部、13a…第3の凹部、14a…第4の凹部、15a…第5の凹部、16a…第6の凹部、18…基部、19…導電膜、30…電源部、40…試料溶液、42,42A,42B…生体微粒子、81…供給口、82…回収口、83…壁部、86…流路。